プログラミングは男性のもの!?「IT教育」からジェンダーギャップを解消するには?【SDGs連載】

トラウデン直美×田中 沙弥果さんが語る「IT教育」のジェンダーギャップ

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回のテーマは、「ジェンダーギャップ」について。IT教育からジェンダーギャップの解消に取り組んでいる田中 沙弥果さんに、IT分野での女性の教育とエンパワーメントを教えていただきました。

NPO法人Waffle代表 田中 沙弥果さん/NPO法人「みんなのコード」で、全国20都市以上の教育委員会と連携しプログラミング授業を推進。2017年から女子とジェンダーマイノリティの中高生向けIT教育の機会提供を開始し、2019年に一般社団法人Waffle設立。(2022年にNPO法人化)
トラウデン直美/環境省サステナビリティ広報大使。高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる勉強や発信に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍。初のフォトブック『のらりとらり。』(小学館刊)が好評発売中。

about 〝Waffle〟/女子中高生へのオンライン講座のほか、女子大学生・大学院生には文理不問でプログラミング研修とキャリアサポートを無料提供。内閣府や経産省主催の有識者会議で次世代育成に関する政策提案も行う。女子中高生に、ITスキルを提供しキャリアも支援!

プログラミングは男性のもの!? 大人の無意識の偏見がハードル


トラ 田中さんは、女子やジェンダーマイノリティの中高生に向けてIT教育の機会を提供されていますが、どんなきっかけで始められたんですか?

田中 元々は、2020年からの小学校でのプログラミング教育必修化に向けて、学校の先生の授業サポートに携わっていたんです。でも、小学校では男の子も女の子も夢中でプログラミングに取り組んでいたのに、中高生のコンテストの場に行くと、20:1くらいで女子が圧倒的に少ないという状況を目の当たりにして。女子がもっと気兼ねなくITやプログラミングを学べる環境があったらいいなと思い、エンジニアの仲間と一緒にオンライン講座のカリキュラムをつくっています。

トラ 興味があるのに離れてしまう理由は?

田中 背景には親世代のジェンダーバイアスや固定観念があると感じています。「理系やプログラミングは男性の分野」というような。でも、実は世界初のプログラマーも、世界初の英語に近い表記のプログラミング言語を開発したのも女性なんですね。近年の国際的な学力調査でも、日本の女子の点数は数学が世界7位、科学は世界6位と、諸外国の男子学生よりも高いくらい。

トラ イメージが変わりますね! 海外では政府のデジタル領域やIT企業の要職に女性は珍しくなくなってきているけれど、日本ではまだまだという印象です。エンジニアになったとしても女性の絶対数が少ないと、せっかく技術があっても肩身が狭くなってしまいそう。

田中 実際、マイノリティでセクハラを受けて生きづらくなっている方もいます。私たちも人材を送る立場として、企業と共に変えていかなくてはと。

トラ 本来はライフステージによって場所を選ばず柔軟に働ける、女性にとってはありがたい職種ですよね。

田中 まさに、令和の「手に職」。高収入で男女の賃金格差もあまりないのでおすすめなのですが、親に「医療系じゃないと学費は出さない」と言われて悩む中高生も。大人たちの無意識の偏見がハードルになっています。地方では職業として認知度もまだ低い状況ですね。

自分を知ってリーダーシップを培う!コミュニティを支えに社会変革


トラ 講座ではどんなことを大事にされているんですか?

田中 プログラミングもひとつのツールなので、何を解決したいのか、なぜそれをあなたがするのかという根本を深掘りするところからスタートするようにしています。SDGsの課題をプログラミングで解決する講座もありますね。

トラ 手段が目的になってはいけないということですね。実際にどんなアイディアがあるのでしょう?

田中 LGBTQの方がセーフティネットのある状態で発信できるSNSや、パラアスリートの方の収入を支える広告の仕組み、ヴィーガンの外国人の方が日本に来たときに画像認識で食べられるものかわかる…といったように、生徒が今感じる問題をアプリで解決していく。身近な課題の解決として、生徒主体で校則を改善できるアプリを開発したチームもいます。学校生活に関して先生に意見が言いにくいことを気軽に書き込めるアプリです。生徒が理不尽だと思うルールを変えていく流れもどんどん加速してほしいですね。

トラ めちゃくちゃかっこいい! 柔軟な発想ですね。

田中 この子たちの可能性を潰したくないなと。自分の好きと嫌いが何か、どんな原体験があって何を変えたいのか、他の生徒と本気で話し合うと「こんなに自己表現していいんだ」と自信になるし仲間ができる。コミュニティがあることによって「一緒に世の中を前に進めていこう! 」と連携できたら、将来道が拓けるんじゃないかなと考えています。

トラ IT教育にとどまらず、人間力が鍛えられそう!

田中 リーダーシップ、アントレプレナーシップを育てるというか。技術だけある人はいくらでもいるんですが、それを使って社会をどうよくしていくかを考えるには、自分という人間がわからないといけない。社会に実装するとなるとさらに倫理観も必要になるので、一緒に学んでもらえるように取り入れています。

トラ テクノロジーは悪いことにも使えてしまうからこそ扱う側のリテラシーが問われる、大事な教育ですね。

あらゆる業種でITスキルは必須!意思決定層にもっと女性を


トラ 20代で理系の職業でなくても、働きながらプログラミングを学ぶ効果はありますか?

田中 どの業種でも生産性が上がることでしょうか。昨今はマーケティングでもプログラミングの知識が求められるようになってきています。

トラ 外部に委託しないで、社内に任せられる人材がいると業務のスピードも上がりそうですね。

田中 まさに先日参加した、アメリカの女性技術者2万人が集まるカンファレンスでは、GoogleやAppleだけでなくホテルやアパレルなどでもエンジニアの採用活動をしていて、内製化が進んでいると実感しました。

トラ 今後、IT教育によるジェンダーギャップ解消がどのようにつながっていくと見ていらっしゃいますか?

田中 プログラミングやデータサイエンスなど、現在、世界中で推進されているSTEM教育の根底には、AIが台頭する中で人間に必要とされる自発性、創造性、判断力、問題解決力を養う意図があります。次の時代のスキルを埋め込んでおくことで、意思決定する側に回れる女性を増やしていけると思っています。

トラ 大きな権力や構造にあまり左右されずに、生きていけるかもしれませんね。

田中 はい、むしろ上に行けるんじゃないかと。性別にかかわらず、今後は企業で上のポジションに行こうと思うとITスキルがないと難しい。自分で起業するときにも欠かせない技術になっていくと思います。

トラ 「使うだけでなくつくる側にもなれる」という発想を知ると世の中を悲観せずにいられる気がします。私自身、今までは社会の問題に対して「これをやっても意味あるのかな?」と不安が先に立ってしまって。Waffleで学ぶ中高生のように、身近なところからまず動いてみることで自分も社会も変えていきたいです!

TORA’S MESSAGE

「プログラミング的思考を知ると、解決できることがあると希望がもてる」

プログラミングって自分には縁遠いと思っていたのですが、仕組みや応用方法に発想を広げる思考のプロセスを学んだ感覚です。現状の幸せを感じとることも大切だけど、自分にできることは何か、どうしていきたいかを考えられる人生でありたいな!(トラウデン直美)

日本におけるITとジェンダーギャップ

■日本のジェンダーギャップ指数は世界で116位

世界経済フォーラムが発表し、経済・教育・健康・政治の4分野のデータから作成されるジェンダーギャップ指数。2022年現在、日本は146か国中116位で先進国の中で最低レベル、アジア諸国では韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果に。

■2030年に不足するIT人材は最大79万人

経済産業省の試算によって想定されている日本のIT人材不足。女性のIT人材が増えればこの問題の解決にもつながり、女性にとっては高収入での就労機会が増える。社会に女性の活躍が広がることで、様々な経済効果も期待できる!

■工学部に進学する女子学生は約15%

世界各国では来るAI社会に向けて、科学・技術・工学・数学を横断的に学ぶ「STEM教育」に注力する中、日本は2021年度入学大学生の進路状況で経済協力開発機構(OECD)加盟各国の平均を大きく下回る。理系の人材育成が課題となっている。

目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩

長坂真護展に行ってきました!

長坂さんはガーナのスラム街再生プロジェクトを進めるアーティスト。電子機器廃棄場に溜まっているゴミを使ったアートから、「先進国の豊かな生活」に隠れた背景が伝わります。著書もたくさんの方に見てほしい!

■今月の1冊は…『サステナブル・キャピタリズム 資本主義の「先」を見る』

ガーナでのゴミとスラムの問題。日本製の廃品も多く、決して私たちに無関係ではありません。アートにすることでお金を生み出して還元するという考え方が広まればいいなと思います。

著:長坂 真護/¥1,870/日経BP

今月のSDGsブランド「D-VEC」

長年自然と対峙してきたフィッシングブランド『ダイワ』から派生した、機能性と感性を融合したアーバンウェア。学生に海洋問題を教えながら、使われなくなった漁網をアパレルにアップサイクルして商品化するプロジェクトも注目される。

シャツ¥29,700・ベスト¥25,300・スカート¥154,000(グローブライド<ディーベック>)、ピアス¥3,850・チャーム¥3,850(SAWAKO KATAOKA)
2023年CanCam1月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」より」 影/花村克彦 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/後藤若菜(ROI) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/佐藤久美子 web構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。