不登校や少子化…トラウデン直美が「子供が直面する危機」について考える|【SDGs連載】

トラウデン直美×渡辺 由美子さんが「子供が直面する危機」を語る

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回は、〝子供が直面する危機〟について、貧困家庭への教育支援を行う渡辺 由美子さんに学びます。経済、教育、ジェンダーなど様々な要素がからむ問題であり、私たちにも大きく関わるテーマなんです!

渡辺 由美子さん/NPO法人キッズドア・理事⻑。大手百貨店、出版社勤務などを経て、2007年よりキッズドアを設立、経済的に困難な子供の支援活動に従事。教育・食料支援の他、政府への提言も行う。
トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる勉強や発信、取材に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍。2022年3月、慶應義塾大学法学部卒業。
ニット¥37,400(S&T<バウム・ウンド・ヘルガーテン>)、Tシャツ¥9,790(ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 渋谷公園通り店)、パンツ¥15,898(ビームス ジャパン<ビームス クチュール>)、ピアス¥16,500(NOJESS)

知っておきたい! 今、日本の子供たちにこんな危機が…

■不登校

2020年度に全国の小中学校で不登校になった児童や生徒は、19万6127人で過去最多。同質性を求める学校教育や長期化するコロナ禍に左右される学校生活が、子供の心に大きな影響を与えています。

■自殺

2020年に自殺した小中高校生は479人で、前年より140人増えて過去最多。特に高校生女子は前年の倍以上の138人と急増。若い世代で「死因のトップが自殺」なのは、先進国G7では日本だけ…。

■ブラック校則

髪の色や長さだけでなく、中には下着の色を指定されて教師がチェックする学校も存在する衝撃…! 時代遅れでセクハラとも感じられる校則が見直されない現状に、全国的に批判の声が高まっています。

■いじめ

全国の小中高校などが2020年度に認知したいじめは51万7163件。コロナ禍で子供同士の接触機会が減って前年度より15.6%減少した一方、ネット上の誹謗中傷は1万8870件と過去最多を更新。

■虐待

児童相談所が対応する虐待件数は20万5029件(令和2年度)で、前年度より5.8%増加、過去最多を更新。また、虐待による死亡事例は年間78人、1週間に1~2人の子どもが命を落としています。

■貧困

2019年厚労省国民生活基礎調査によれば、日本の子供の貧困率は13.5%。先進国の中でも高い水準で、17歳以下の子供たちの7人に1人が、中間的な所得の半分に満たない家庭で生活しています。

■教育格差

日本では教育にお金がかかるため、「保護者が裕福だと子供の学力が高く、保護者の収入が低いと子供の学力も低い」という調査結果に。出身家庭によって教育の機会が充分に得られないことも。

■少子化

第1次ベビーブームの1949年には約270万人の子供が生まれていましたが、2020年の出生数は84万832人。このままでは、働き手が減少し社会保障制度が維持できないなど、将来の大きな課題に。

女性と子供にかかる大きな負荷が少子化の要因に

トラ 私は子供が大好きで教育にも興味があるのですが、実は今、子供の成長環境が脅かされているとか。

渡辺 はい。見た目ではわかりづらく、大人の方々にも「本当ですか?」と未だに驚かれるのですが、7人に1人の子供は貧困状態なんです。特にひとり親世帯の貧困率は約48%。多くは、母子家庭ですね。日本のシングルマザーの就労率は世界でダントツトップなのに、世界一働いているワーキングプアーになってしまっている。子供がいても適切な環境で働けることが当たり前になるように社会の仕組みを変えていかなくてはと感じています。

トラ コロナ禍はどんな影響があったのでしょう?

渡辺 ギリギリで生活をしてきたのに、働いていたお店が休業。あるいは子供が保育園で濃厚接触者になると3週間仕事に行けなくなることも。来月は収入が数万円しかない…というような状況のお母さんもいます。そうなると肉や魚が買えない、お米はお粥にしてかさ増しし、朝は抜いてなんとか2食…という生活に。私たちに寄せられる声も、教育支援以前の「食べものを送ってください」という要望が増えています。子供の大学進学のために貯めていたお金を使わざるを得なくて、「入学金が用意できない」という相談もありますね。

トラ 大人が働く環境のしわ寄せが子供に…!

渡辺 大学や専門学校を休学・退学してしまう学生も増えています。中退すると、奨学金をすぐ返済しなきゃいけない。あまりにも理不尽だなと。

トラ 今や2人に1人が利用している奨学金。響きはいいけど実際は借金で、返済が負担になって結婚が遅れる一因だとか。少子化を助長させる制度だなと、もっと給付型が増えたら教育の機会も増えるのにと思います。

渡辺 そのとおり!「子供が生まれたら」という条件付きでもいいから貸与型奨学金を返済免除できれば若い世代の希望になるはずなのですが、意思決定権をもつのはバブルを経験した大人たち。「月々2~3万円なら残業すればすぐ返せるでしょ?」とおっしゃる。働き方改革で残業できず、一方で社会保障費が増えて手取りが減っている若者の実情を見ていないんですね。

大人たちが前時代の常識を捨て、子供を大事にすることが必要

トラ 日本は精神的幸福度が先進国でワースト2位。子どもたちの自己肯定感も低くなっていると聞きます。

渡辺 推薦入試の自己表現シートも、ひとりでは書けない子が多くて。自分の弱みはスラスラ山ほど出てくるのに、「強みは?」と聞くと「ないです」と。学校や塾では「弱点補強」を熱心にしますが、「あなたはこれができないから直していきましょう」と言われるばかりでは、なかなか前向きになれないと思います。

トラ 日本では謙遜が美徳とされますが、人前でもっと我が子をほめることができたら、子供たちも自分のいいところを知って自信をもてる気がします。

渡辺 子連れのお母さんを電車や街中で「邪魔だ」「うるさい」と平気で怒鳴りつけることも、委縮させてしまう弊害。海外では逮捕されるぐらいのことで、法律を整備してでも社会常識を変えていきたい部分。その延長線上にあるのが、子供にお金を出さないという風潮です。高齢者が年金をお酒やパチンコに使っても文句言われないのに、子供に現金を給付すると途端に世間の目が厳しくなるんですよね。

トラ たしかに。同じ税金が使われているのに…!

渡辺 コロナ禍でも充分な公的補助が導入されずに、本来なら看護師になったはずの子が学費を払えなくなっている現状。これでは病院の働き手が減ってしまう。

トラ 年金を払ってくれる人もいなくなってしまうし、結局、自分たちが苦しむことになるんですね。

渡辺 子供に厳しいと言えば、ブラック校則もその典型。不登校を研究している方に聞くと、やはり同質性を求める学校空間がストレスの要因だそうです。

トラ 私の高校は「上履きを履く」くらいしか校則らしい校則がなく、みんな生き生きと学校が楽しそうでした。不登校も他校に比べて格段に少なくて。

渡辺 それは理想ですね! 多くの学校では「人と違ってはいけません」とずっと言われてきて、会社に入ったら急に「若手らしい創造性を発揮せよ」と求められる。できなくても無理もない話です。

トラ 課題は山積みですが、子供たちのために私たち世代ができることは何かありますか?

渡辺 キャリアも子育ても、自分の生き方に正直になることを諦めないでいただきたいですね。子供の貧困が女性の問題になっている。それをもう一度社会に戻すためにも、ガマンして押し黙ることはやめていい。

トラ もっと変化を求めて、声を上げてもいいのかなと思いますね。将来の私たちに関わることだから。

渡辺 ぜひ! ひとりひとりがちょっと強くなろうと思う気持ちが社会を変えていく力になりますから。

国力にもつながる子供の教育、のびのび育てる社会の空気が大切!

子供を取り巻く環境ってお金はもちろん、社会の雰囲気がすごく大事なんだと痛感。自己肯定感が低いと新しいことに挑戦しなくなってしまうし、いざというとき「NO」も言えない! もはや国の安全保障上の問題で、大人たちが他人事でいてはいけないと感じました。

目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩

洗濯には、環境と肌に優しいエコベール♡

環境への取り組みが本当に素晴らしく、世界の厳しい認証を受けるトップクラスのエコ洗剤ブランド! 植物由来の原料でつくられた洗剤で99%以上が自然に還る生分解性、ボトルは100%再生プラスチックなんです♪

今月の1冊は…『わたしは無敵の女の子』

「女の子はこうじゃなきゃいけない」というしがらみをふっ飛ばすような、好きなことを一生懸命やっている自由な姿に、美しさは内面からくるものだと実感。

著:ケイト T.パーカー、訳:栗木 さつき/¥1,760/海と月社

今月のSDGsブランド「BAUM UND PFERDGARTEN」

SDGsの目標達成度2019年1位のデンマーク。その首都コペンハーゲンで、Rikke BaumgartenとHelle Hestehave、ふたりの女性によって1999年に設立された。環境負荷や化学物質の少ない素材にこだわり、「女性が自分の物語を語るのを助ける服を」との思いでスタイルを提案。

2022年CanCam1月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」より」 撮影/花村克彦 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/久保フユミ(ROI) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/佐藤久美子 WEB構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。