山でサーモンを育てる!?トラウデン直美と考える、持続可能な食の未来|【SDGs連載】

海と漁業を守る、陸上養殖ってなに?

今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!

今回は安全でおいしい魚をずっと食べられる世界を目指し、海に依存しない陸上養殖に取り組む『FRDジャパン』のチーフマーケター、宮川さんに漁業が抱える課題と次世代型の閉鎖循環式陸上養殖の仕組みを学びました。

宮川千裕さん/大学で水産科学を学んだ後、分析計メーカーへの就職を経て現職。広報、マーケティングの他、加工場の設計や事業開発、販売戦略など幅広く担当。魚を〝商品〟として売るだけでなく、〝生き物〟として愛情を込めて育てる。FRDジャパン チーフマーケター。
トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。『SDGs』にまつわる取材や発信に力を入れ、情報番組コメンテーターとしても活躍する。2023年4月から『めざまし8』(CX系)で金曜MC担当。

排水や抗生物質も不要!「いつでもどこでも」養殖可能に

トラ 今回は陸上養殖生サーモン『おかそだち』の生産企業、FRDジャパンさんの木更津プラントを見学させていただきました! 食卓でも身近なサーモンですが、スーパーで見かけるのはほとんどが輸入ものですよね。

宮川 サーモン養殖における課題は、やはり生産地が限られていること。水温が低く複雑なフィヨルド地形で海が穏やかなノルウェーとチリが2大拠点となっていて、世界の需要の9割以上を担っています。そのため、養殖場の密度が高すぎて、大量のエサの残骸や排泄物の堆積による海洋汚染が問題に。また、海で育てていると、どこから病原になるウイルスが入るかわからないので、エサに抗生物質を混ぜることもあって。

トラ 食べきれないものもあると思うので、海水に溶け出してしまう心配もありますね。

宮川 抗生物質はバクテリアも殺してしまうので、海の汚れが分解されずヘドロが海底に沈殿する環境問題につながっています。さらに自然界で育てる際には、夏場に水を冷却する電気代がかかる。こういった海面養殖の課題がある中で今後人口が増えていくと、サーモンの生産地が足りないという現状があります。

トラ 魚の需要自体も伸びているのでしょうか?

宮川 はい。たんぱく質をお肉でとるには環境負荷が高く、魚でとろうという流れが加速していますね。ただ、世界的に天然漁獲量は頭打ち。環境保全しながら生産量を増やすため、陸上養殖の必要性が高まっています。

トラ 魚種としてはなぜサーモンを?

宮川 設備投資が必要なので、日本の海で海面養殖できるタイやブリではなく、輸入に頼ってコストがかかっている魚種のほうが採算に合うんですね。

トラ 国内で育てられれば、空輸や船便で運んでくる必要がなくCO2も削減できますね! しかも、こちらの閉鎖循環式陸上養殖で水槽に使用しているのは水道水だとか。川や海が近くにない場所でもいいんですね。

宮川 創業者が元々は排水処理場のシステムを開発していて、その技術を養殖に応用して生まれました。1日に、99%は排水せずにろ過システムで循環させて使い続けることができるのが強み。塩分や酸素濃度など、サーモンにとってどんな環境がいちばんいいのか何パターンも試して最適バランスを見つけ、水質は常時モニターでチェックしています。

トラ 陸上養殖自体は以前にもあったんですか?

宮川 川や海の近くで水を引き込んでかけ流す(川や海に排水)仕組みは国内外でもありましたが、閉鎖空間で排水せずに養殖する仕組みは世界で珍しく、まだ商業化の成功事例はありません。FRDも実証実験中です。

トラ 実証実験の成果はいかがでしょう?

宮川 2018年から5年かけて、事業ベースにのる成長スピードを再現できるようになってきました。1年で2.5㎏くらい、海に比べると1.8倍の成長スピードです。

トラ すごい! 成長速度を上げた秘訣は?

宮川 屋内プラントでは自然環境に影響されることなく水温が15℃に保たれていて、サーモンに最適な環境を維持しているので体調が安定。毎日エサをしっかり食べてくれるのが大きな理由ですね。

トラ 2023年中には商業プラントも着工されるとのこと。今後、日本での広がりに期待されていることは?

宮川 まだまだ輸入が国産に置き換わるまでには遠いので、ひとつつくって終わりではなく、アジアも見据えながら展開していきたいですね。設備さえつくれたら、水質の管理や給餌も自動化できる部分が多いんです。

トラ 少人数でも運営できる点は、人手不足の日本で漁業を守る上でもメリットですね。

■FRDジャパンの木更津プラント。

人工的に水流をつくり、流れに逆らって泳ぐサーモンの性質に合った環境に。大小16個の水槽があり、成長に合わせて大きな水槽へ移す。

FRDジャパンのサステナブルな陸上養殖

硝酸をバクテリアの力で除去する「脱窒装置」を開発し、水替えをほとんど必要としない閉鎖循環によるサーモンの陸上養殖を可能に。水道水からつくった人工海水を循環させ、海や川への排水はなし。消費地近郊の陸地で養殖でき、輸送コストを抑えつつ新鮮な魚を届けられる。現在は、年間生産量30トン規模の実証実験プラントを運用。台風や津波、病原菌の蔓延にも左右されない未来の養殖システムとして注目されている。

■陸上養殖の核となる、独自のろ過システム。複数のろ過水槽を通し、バクテリアが有害物質を分解することできれいな水を維持する。

■多様な種から、生で食べられるトラウトサーモンを育てる。

■関東圏に冷凍せずに出荷可能、鮮度抜群のサーモン「おかそだち」 臭みがなくて、プリプリおいしい♡

山の中でサーモンを養殖!

■環境と社会への影響を最小限にした責任ある養殖の水産物である証、ASC認証を取得。国内で取得しているサーモン類養殖場は4か所。

おいしくて安心安全な魚を選ぶことが環境保全に

トラ 今日いただいたサーモン「おかそだち」は、脂控えめで臭みがなく、弾力があってすごく新鮮に感じました。

宮川 まさに前日に活き締めしたばかり。輸入だと冷凍出荷され流通まで1週間前後かかるので食感が変わりますね。臭みは水質に起因するのですが、臭みの成分含む約50項目の水質を毎日分析し、最適な水質に維持しています。

トラ 日本ではまだ珍しいASC認証を取得。消費者としてサステナブルシーフードを選ぶことで、環境保全に貢献したいですね。いずれ他の魚種にも展開できるのでしょうか?

宮川 魚によって最適な環境が異なるのでテストは必要ですが、技術的には可能。研究者の方と探っていきたいです。

■水質をデータ化して常時管理

■安定した環境で生育が速く、出荷まで短期化

■水槽で使用した人工海水をろ過システムへ流す水路。回収したエサの残りやフンは、肥料に再利用されている。

天然資源の乱獲や養殖場の海洋汚染は、私たちの食生活とつながっている

養殖には大量の水が必要なイメージがあったので、排水をせずにムダなく資源を守る発想に驚き! 未来の漁業を支える技術を知ると共に、動物性たんぱく質を必要以上に求める私たちの食生活が海に負荷をかけてしまっていると痛感しました。byトラウデン直美

目指せ「SDGs」! トラちゃんの今月の一歩

■避難リュックは中身を定期的にチェック!

最近また、地震が多いなぁという気がします。我が家は災害時に備えて、避難リュックを1年ほど前に買いました。保存食や水は時々入れ替えています。考えたくないことだけど、もしものときに備えるのは大事ですね!

■今月の1冊は…『Urban Farming Life』

屋上や駐車場を畑に変えるなど、都市で「農」を楽しむ人が増加中。畑を通してコミュニティをつくり、仲間たちと過ごす農ライフ…憧れます! 

監修:近藤ヒデノリ+Tokyo Urban Farming/トゥーヴァージンズ/¥3,080

今月のSDGsブランド「G-Star RAW」

アムステルダム発のデニムブランド。今回着用した〝Dyed by Minerals〟コレクションの染色には、天然鉱物由来の色素を使用。染色過程において、従来のエネルギー使用量の多い温水ではなく冷水を使用することを可能とし、環境負荷を軽減した。

シャツ¥30,800・ベスト¥22,000・Tシャツ¥6,600・パンツ¥18,700(ジースターインターナショナル<ジースター ロゥ>)、イヤカフ¥2,750・リング¥4,400(KUTITTAA)、靴・靴下/スタイリスト私物
2023年CanCam9月号「トラウデン直美と考える 私たちと「SDGs」」より 撮影/角田明子 スタイリスト/鈴木千春 ヘア&メイク/後藤若菜(ROI) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/佐藤久美子 web構成/坂元美月 ◆この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。