ブレイキン日本代表・Shigekixの素顔「人生の大切なことはすべてブレイキンから学んだ」。いよいよパリの大舞台へ!

ブレイキン日本代表・半井重幸(なからい しげゆき)選手から目が離せない!

7月26日よりパリ2024オリンピックが開幕! ということで、アツい夏をとことん楽しむために、スポーツ大好きモデル・菜波が、世界に挑戦する選手たちに直撃! 連載第1回は今大会より正式種目となったブレイキンの半井重幸選手。五輪開会式にて日本選手団の旗手を務め、ダンサーネーム「Shigekix」としても活躍する半井選手に、競技の見どころやパリへの想いをうかがいました。


Shigekixってこんな人!

小学生の頃から国内外の大会で次々と優勝し、日本を代表するB-boy・Shigekixとして世界に名を轟かせる。なんとこれまでに50回以上の国際大会での優勝経験を誇り、キレのあるダンスと強靱な肉体、チャーミングな笑顔で観客を虜に。2024年パリオリンピックでは金メダル獲得の期待が高まっている!

Career

  • 2009年
    姉・彩弥さんに影響を受けて7歳でブレイキンを始める
  • 2014年
    11歳で海外の大会に挑戦を始め、数多くの優勝を獲得
  • 2017年
    「Red Bull BC One World Final」に最年少出場を果たす
  • 2018年
    「ブエノスアイレスユースオリンピック」銅メダル
  • 2020年
    「Red Bull BC One World Final 2020」にて最年少優勝
  • 2023年
    「JDSF 全日本ブレイキン選手権」優勝。同大会3連覇

菜波的「Shigekixさんのココがスゴイ!!」

「動」の力強さはもちろん、絶品の「止め」があまりに美しすぎるんです!

連続して繰り出す技のフィニッシュを決める重要なムーブである「フリーズ」。計算されつくした屈強な筋肉で、音楽に合わせて全身の動きをピタッと止めるメリハリあるダンスに目を奪われます♪

お菓子「シゲキックス」のパッケージをデザインしているんです!

7歳の頃に先輩ダンサーにつけてもらったダンスネームはこの国民的お菓子が由来。得意のイラストで、本人がパッケージコラボ中♪

競技種目「ブレイキン」って?

音楽に乗せて身体のあらゆるところを使って、回ったり、跳ねたりとアクロバティックな動きを取り入れたダンスで、世界中で若者を中心に競技人口が増加中のアーバンスポーツ。選手の個性がまっすぐに届くので、観客の盛り上がりも凄まじい。世界各地でダンス大会が開催されており、人種差別や暴力の一切ない平和を目指すHIPHOP精神と、国の経済力に関係なく音楽さえあればできる平等な競技として今大会よりオリンピックの正式種目に!


7歳のときから、大人たちに交ざって難波駅前広場で猛特訓!
今でも忘れない「床の温度」の記憶。

6歳のときに、4歳上の姉と一緒に体操競技・トランポリンのクラブチームに通い始めました。偶然その教室にブレイキンダンサーのお兄さんがアクロバットの練習のために参加していたのですが、ある日「試しに一緒にブレイキンをしてみない?」と誘ってくれたんです。彼の誘いが、僕らのブレイキン人生のすべての始まりでした。興味本位でブレイキンの練習を見学することになった僕と姉。場所はザ・ストリートな駅の広場で、スタートはなんと夜の21時から。練習に参加している人たちは20代のサラリーマンが中心だったので、仕事終わりに集まって遅い時間からの練習だったんです。姉が早速練習に参加するかたわら、最初僕はブレイキンをするには幼すぎたので隅で絵を描きながら待っているという感じで。今でもそうですが、絵を描くのが当時から大好きだったんですよね。同世代のコはもちろんいなかったのですが、親ほど歳の離れたお兄さんたちがすごくかわいがってくれました。優しく「なんの絵を描いているの?」なんて声をかけてくれて。それでこのお兄ちゃんたちがやっていることってどんなだろう?って興味を持つようになっていき、気づいたら父のタオルを巻いて、頭を床につけて練習し始めるようになったんです。親が送り迎えしてくれていましたし、練習中も見守ってくれていたとはいえ、そんなに遅い時間に大人たちのなかに子供が交ざっているのは少し不思議な光景だったかもしれませんね(笑)。

駅前広場の石の床は、冬は低温やけどしそうなほど冷たいし、夏は自分の汗で滑ってうまくパフォーマンスができないほど灼熱。ブレイキンは地面に手をついて身体を持ち上げたり、回転させたりするので、今でもその床の温度に苦労したことをよく覚えています。それでもうまくなりたくて、高校卒業まで約10年間、同じ場所で必死で踊り続けました。最初に僕たちを誘ってくれた方とは、今でもたまに会っていて、もう15年くらいの関係。大きな国際大会には応援に来てくれたりもするんですよ!

楽しいことも、悔しいことも、努力することも、すべてのことをブレイキンから学んできました!

小学生のときは1日に5~6時間くらいはブレイキンの練習。毎日本当にダンス漬けでした。身体も軽いですし、筋肉もうまく使えなかったので今と違って身体への負荷を考えてセーブするという考えもあまりなく、何回も何十回も繰り返してちょっとでもうまくできるように、身体に覚えさせるように鍛錬していました。そのぶん、放課後仲いい友達との野球やサッカーを最後まで一緒にプレーできなかったのは少しさみしかったです。毎回、練習のために途中で帰っちゃうので、結局どっちが勝ったのか知らないんですよ(笑)。でも友達たちも「シゲはダンスの練習あるからな、がんばれよ!」って応援してくれていました。高学年になると年の半分近くは遠征で海外に行っていたので、今思うと周りに馴染めなくなっていてもおかしくなかったなって考えます。にもかかわらず、みんないつも温かく迎え入れて、応援してくれたので友達に恵まれていましたね。そうそう、初めての海外遠征はラスベガスだったんです。もう見渡す限りキラキラな街並みに「ここは夢の世界か!」って思ったんです。空港にあるおもちゃのカジノのスロットに座ってテンションアガったなぁ! 大人になってからはまだ行けてないのでいつか行けたらいいですね。

もちろんそんな楽しい思い出ばかりではなくて、大会で負けた悔しい想いも「どんだけやねん」ってほどたくさん経験してきました。でも、悔しい経験をいかにいい経験だったと思えるようにマインドチェンジするかが大切だと気づいたんです。こうやってブレイキンをやっていなければ見えなかった景色や巡り合わせ、経験や考え方、すべてが僕にとって大切な宝物です。7歳で始めたブレイキン。15年目になりますが、人生の大切なことはどれもブレイキンが教えてくれました。


菜波がみんなの気になるコトをShigekixさんに聞いてみた!

Q.ズバリ、自分はどんな性格だと思いますか?

こだわりが強いなとは思います(笑)。よく言えば何事も突き詰めるタイプだけど、悪く言うとあまり柔軟にできない部分があるというか。ブレイキンに関してであれば、こだわって細部まで仕上げるのはよいことですが、凝り性なので趣味の範疇でも細かくこだわりすぎるところがあるかもしれません(汗)。

Q.海外遠征で必ず持っていくものはありますか?

普段慣れ親しんでいる日本食を食べて安心したい気持ちがあるので、フリーズドライの味噌汁やパックのごはん、缶詰やふりかけをよく持っていきますね。身体作りのために気をつけてはいるんですが、本当は脂っこいものが大好きなんです(笑)。でも一番はウナギが好き! 食べ物の話になっちゃいましたね。

Q.マイルームのこだわりを教えてください!

インテリアも好きなので自分の部屋は少しこだわっています。ミッドセンチュリーって言うんですかね? シックな統一感のなかにちょっとオレンジとかカラーを入れてアクセントにしています。和紙を使った間接照明とか、ヴィンテージのレザーソファ、ファブリックなら北欧のアイテムとか、ぬくもりを感じるものに愛着が湧くことに最近気づきました。インテリアを通して、気づいていなかった自分の好みに出会うとワクワクします。

Q.身だしなみでこだわっていることはありますか?

メイクだと、眉毛の端のほうが薄いので取材の前に自分で描き足すことはありますが、そのくらいかな。ヘアセットは好きで、毎日ヘアアイロンを使って、メゾンコーセーのワックスやジェル、バームを気分に合わせて使い分けています。趣味になりつつありますね(笑)。血液型がA型なのでスタイリング剤はキチッと洗面台に並べてます。

Q.よく自炊をするとのことですが、得意料理は?

肉体強化のために基本的には低脂質&高たんぱくな食事を意識していますが、「ささみをどれだけパサつかせずにアレンジできるか」を極めた結果、低温調理器にたどり着きました! ちょっと時間はかかるんですが、ほろほろでマジでおすすめです。SNSで美味しそうだなって思ったレシピはよく試してみます。

Q.普段よく聴く、お気に入りの音楽は何ですか?

HIPHOPやR&Bも当然好きですが、邦楽だとケツメイシさんの『さくら』ですね。小さい頃から家族で旅行だったり、僕や姉の大会遠征でドライブすることが多くて。そのときによく車内で流れていた曲なんです。今、マイカーで自分が運転しながら聴いていると「大人になったな」って感慨深い気持ちになる、大切な曲です。

Q.好きなタイプと理想のデートを教えてください!

僕は本っ当に食べることが大好きなんです。だから、相手も食に興味があったりとか、めちゃくちゃ美味しそうにごはんを食べる人が素敵だなって思います。理想のデートは美味しいごはんをふたりで食べて、その帰りにレコードショップに行ったりとか。音楽の好みを知れますし、日常っぽい感じがしっくりきますね。

フットワークという動きをするときに〝突き手〟といって床に手をつけて体重を支えるので、常に手のひらにマメがあります


「瞬発力のある肉食性」も手に入れたい!

【菜波】撮影お疲れさまでした! モデル撮影はいかがでしたか?

【半井】そうですね、笑顔で写ることが多いのでキメ顔はちょっと恥ずかしかったです。でも貴重な経験をさせていただきました! ありがとうございます。

【菜波】さすが魅せ方がお上手でどのカットもバシッと決まってかっこよかったです! さて、7月26日から始まるパリオリンピックに向けて、どのようなことを強化していきたいと考えているか、うかがってもよいですか?

【半井】そうですねぇ。昨年はとにかくオリンピックの選考レースで連戦をこなしながら世界ランキングをよい位置に調整して…ということに必死でした。なのでこの春は昨年思うようにできていなかった、肉体改造に力を入れていますかね。

【菜波】特にどこの筋肉強化に力を入れているんですか?

【半井】ブレイキンって、対戦相手のプレースタイルによって勝敗が全然変わってくるんですよ。火に対して水が強いみたいな。理想はどんな相手が来ても圧倒的に勝てることですが、例えば実力では優勝を目指せるような安定感が強みの選手に対して、爆発力のある選手が時には勝ってしまったりするんです。なので僕は今そんな瞬発力を出したいと思っていますね。数秒で「おっ!」と思わせるようなダイナミックな技を打ち出せるような筋力強化を目指しています。

【菜波】Shigekixさんのキレを見ると瞬発力があるように思われますが、ご自身ではどんなスタイルの選手だとお考えですか?

【半井】それこそ自分的には持久力や安定感はあるけど瞬発力が足りないと思っているんです。しっかり身体作りをすることで同じ動きをしてもキレが出るんで。今は頭を使える持久性のある草食動物的なダンサーだけど、時にガッと力技で瞬発力のある肉食動物のような強さが出せるといいなと感じています。もっと成長できるよう、がんばります!

ブレイキンはゼロ→イチを繰り返して生み出すスポーツ。毎日手探りで難しいぶん、むちゃくちゃ楽しいです!

【菜波】ブレイキンの「バトル」を見るとB-boy(ブレイクダンサー)の方々が思いっ切り自由に楽しんでいる印象です。ステージには音楽を流すDJとその場を進行するMC、そしてジャッジする審判員の方々。こんなに新しい形式の競技がオリンピック種目になることにワクワクします。Shigekixさんが感じる、他のスポーツとブレイキンの違いはどんなところにあると思いますか?

【半井】ブレイキンって明確にコレをやれば上手くなる、強くなるというのがなくて、あくまでも自分でゼロ→イチで構築していく作業の連続なんですよね。例えばこういうことをやってみようかな。じゃあ昨日思いついたことを今日は完成させてみようかな、とか。作品作りというとわかりやすいかもしれませんが、自分も正解がわからないなかで試行錯誤するんです。多くのスポーツは、ある程度のレベルになったら完成度を上げる作業が多いと思うんですが、ブレイキンは本当に毎日毎日生み出していかないといけないスポーツだと思います。それが難しくもあり、楽しいところです。

【菜波】なるほど。思っている以上に、クリエイティブなスポーツなんですね。それこそ、私もルールを少し勉強してからバトルを拝見しましたが、パフォーマンス自体に圧倒されるものの、なんで今こっちの選手が勝ったんだろう?というのがよくわからないことが多くて。初心者に向けて、ブレイキンの見方を教えていただけますか?

【半井】採点や勝ち負けへの理解を深めるという点で言うと、ブレイキンは色んな要素で成り立っているので確かに難しいかもしれませんね。技の難易度やスピードなどの技術面はもちろん、表現方法についても多角的に評価されます。たとえば、どれだけ唯一無二の動きやスタイルを生み出しているのかという「オリジナリティ」に、同じ動きを
したときにどれだけレベルが高いかという「パフォーマティビティ」を求められたり。あとはDJがその場でかける音楽にアドリブで僕らが踊るので、音楽とどれだけマッチしているかという「ミュージカリティ」があるかどうか、も重要なポイントです。

【菜波】わぁ! やっぱり複雑な採点方法なんですね。でも、どんな曲が流れるかがバトルが始まるまで知らされていないなんて信じられないです! Shigekixさんのダンスはいつも音にバチッとハマッていて見ていて気持ちいいです!

【半井】ありがとうございます。踊り慣れていると、そろそろ音が盛り上がるなとかがわかってくるようになるんですよね。自分で踊っていても気持ちいいですよ(笑)。みんなそれぞれ踊りに個性があるので、「なんかこの人の踊りや空気感好きだな」っていう推しを見つけてもらえたら競技をさらに楽しく観ていただけると思います。

オリンピックの大舞台で、思いっ切り自分らしく楽しむ!そうじゃなきゃもったいないと思うんです。

【菜波】最後に、パリオリンピックに向けて今どのようなお気持ちですか?

【半井】出場内定が出る前の、ブレイキンが正式種目に決まった瞬間から「自分が内定を勝ち取って出場する!」っていうのを決めていたので、満を持してステージに立たせてもらう。そんな気持ちです。勝ち負けを考えると必要以上に自分に負荷をかけてしまいそうな状況ではありますが、何よりもまず、これは楽しむしかない!って思っています。またとないチャンスを、変に色々と考えすぎて自分らしく挑めないのはもったいないので。

【菜波】記念すべき正式種目として初のオリンピック、応援しています!

【半井】ありがとうございます!その一方で、自分がブレイキンに出合って人生がガラッといい方向に変わったので、「ブレイキンに自分が恩返しできること」としては、自分と同じような少年や少女を世界中にひとりでも多く増やせたらいいなと思います。もちろんそれがブレイキンじゃなくてもなんでもいいと思うんですが、毎日が輝くようなことを見つけるきっかけにしてもらえたらうれしいです。勝ち負けも大事ですが、自分的にはすでにオリンピックは始まっている感覚なので、このパリへの道のりから、その先続く未来までをみなさんと一緒に楽しんで、胸をアツくしていただけたらって思います。

【菜波】本日は素敵なお話をありがとうございました!

CanCam2024年6月号「Go for it! Road to Paris」より
撮影/神藤剛 スタイリスト/藤長祥平(半井選手分)、川瀬英里奈(菜波分) ヘア&メイク/桑野泰成(ilumini.) 構成/山下 樹 WEB構成/久保 葵