先日、女性用脱毛サロン「銀座カラー」が破産したというニュースが流れていた。
数十万円の前払い契約をしていた人は、本当に悲惨だ。
脱毛サロン、パーソナルジム、塾、語学教室など、この手の業界は一括前払いで契約すると、かなり割安になったりする。でも、もし倒産したら取り返すことはできない。
私は15年近く前、似たような業界で働いていたことがある。
そこのシステムも基本は前払いだった。コースによって50万円以上にもなる。
契約を取って売り上げたお金は、本部に送金する。当時はまだ現金で支払う人も多かったから、高額を売り上げた翌日には札束をもってATMに送金に行った。100万円近く送金した時には、売り上げた達成感と高額を持ち歩く緊張感がすごかったのを覚えている。
そして、いま思い出せば、”予兆”はこの送金から始まっていた。
店舗に多額の現金を置いておくのは良くない。盗難の危険があるから当然だ。
私が入社したころは週に1度売り上げを送金しろと指導されていた。
ところが、倒産する1年ちょっと前からは「毎日送金しろ」に変わった。どこかの店舗で紛失があったとの理由だった。私はその時は特に疑問は抱かなかった。ただ、こまめに送金すると手数料が勿体ない、くらいに感じていた。
しばらくすると、「キャッシュキャンペーン」が始まった。これは、支払い方法をカードでなく現金にすると、5%割引になるというものだった。やがて割引率は10%→25%と上がっていった。割引できるのは営業マンとしては武器が増える。この時も不信には思わなかった。ただ、この辺りから「本部の連中は常に会議」という様子になっていた。そして、不採算店舗はどんどん閉鎖していた。
次に来たのは、経費の削減だった。
もともと経費は厳しく言われていたが、出張は制限され、店舗の維持管理費用や宣伝費も削られるようになり、絶対に必要な物品の購入にも制限が出るようになった。
会議では「会社の売り上げが厳しい状況だ」とさんざん聞かされる。もっと売り上げを上げろとハッパをかけられる。
「この会社に未来は無いね」
そういう風に同僚たちと愚痴を言い合っていた。
だが、わりと大きな会社だったので、この時点でもまさか近い将来潰れるとは本気で思ってはいなかった。売り上げが厳しいというのは、本部が営業マンを追い込む時の決まり文句でもあったからだ。
倒産する9か月くらい前に、「給料日に給料が振り込まれていない」という事案が起こった。会社の説明では「給与の振り込みシステムを変更したが、トラブルが発生した」というものだった。システム復旧の見込みが立たないという理由でその後も振り込まれない。1週間以上経って、ようやく給料が振り込まれた。私は「潰れるかもしれない」とようやく本気で思い始めた。
その後も給料の遅配は何度か続き、そのたびに嘘くさい説明がなされた。私は潰れることを確信した。辞表を出して退職したが、最後の給料の振り込み日を迎える前に会社は潰れてしまい、最後の給料をもらい損ねた。会社に現金は残っていなかったのだ。お客さんへ返す金などもちろんない。
潰れてから一年近く経過したある日、会社の清算が終わったとの連絡が、破産管財人からあった。未払いだった最後の給料のうち数万円だけ振り込まれた。残りは清算しても捻出できなかったようだ。
潰れて清算するとき、従業員への支払いが優先される。もし金が余れば、ようやくお客さんに回る。潰れるような会社だから、当然お客さんに回せるほどの資産は残っていないと思った方がいい。
会社はつぶれそうなとき、決して本当のことは教えてくれない。もしヤバいと経営陣が認めてしまえば従業員の士気はダダ下がりで、ヤバさに拍車がかかる。それこそ倒産まっしぐらだ。自分で察するしかない。
もし貴方が勤めている会社が現金にこだわりだしたら、運転資金が不足している可能性を頭に入れてほしい。絶対に必要な経費にまで細かく制限が入りだすのも要注意だ。そして、もし給料の遅配が起これば、会社を見限った方がいい(ちなみに給料の遅配は失業保険の特定受給資格を得る理由になるので、自分から辞めても失業保険がすぐに出ます)。すぐ潰れないとしても、未来のある会社ではないことは明らかだ。
私はお世話になった人たちへの恩義からなかなか辞表を出せず、結果的に損をした。だが、給料の遅配と言うのは会社からの裏切り行為なので、何のためらいもなくすぐ辞めるべきだった。
そして、もし貴方が客の立場なら、通っているサロンや教室が現金払いでキャンペーンを打ったり、一括前払いでの割引率を拡大させるようなことがあったときは、ちょっと経営状況を気にするようにしてほしい。
以上、参考になればうれしいです。