コンテナガレージ

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 二日目にして散策を楽しむ。しかも東京で。願った状況といえばそれまでか、調月は軽く息を弾ませて歩行速度を弱めた。大胆に予測を立てた方角と看板の示す位置表示と距離数では、もう目的地周辺のアラームは鳴っているはずだ。建物が多く、それも旧型のビルが立ち並び、隙間にはクレーン車がわんさか。覆われた背の高い工事用のウォールが完成までのこの一体の外観の役目を担っているらしい。遠くが見えなく方向感覚が鈍る。

 現れた坂道に惹かれて上った先に下り坂が待ち構え、その下に低層のマンションが見えた。霞む石に刻まれた文字に接近、予感を確信に変える。あった。調月は同胞を見つけたように手を取り合うように、石の文字をぺしぺしと叩く。先ほどの早苗の住まいに比べて高さは一見してきわめて標準的な住まい。中に入ってみると、オートロックではあったが、調月は表の見学ルームという文字を目にして、それをエントランスとなりの管理人室に尋ねた。窓を叩き、顔をのぞかせる老人はあっけらかんとドアは開いているので見学して構わないという。なんともセキュリティの甘い建物、老人はオートロックのドアを開けてくれた。早坂の部屋を訪ねるが、留守のようだ。彼は一階下の見学ルームに降りた。

 室内は質素そのもの。部屋の間取りにそれほど変わりあるとは思えない、調月は室内をなんともなしに眺めて、エントランスに戻り、見学を終えたことを管理人に伝えた。階段を下りて、まぶしくもないのに額に手をあてがってマンションを振り仰いだ。彼女は何故あの土地を欲しがるのだろうか、現状に不満を抱いている。仕事はどうするのだろうか、フリーの仕事かもしれない。これまででもっとも気になる人物、面会でもほとんど話していないのは彼女だけだ。大勢での発言を苦手としているのかも。誰と住む?一人かもしれない。自然に調月の足は歩みを始める。空が曇りだした。独りか。寂しさに耐えられる人物であれば申し分ない、はじめから人を拒絶しているのではない、受け入れ、やっぱり独りが良いという再評価があの場所には最適。投機目的は論外。

 彼女について考えると、気分がゆっくり、足取りの緩慢さを体感できた。疲れているのかもしれない、だが、早坂という人物をもう少し知りたくなった。良い傾向である。調月はその足で最後の早見の自宅に向かった。疲れを取り戻すために道路の込み具合を見て、タクシーを捕まえた。二十分ほど揺られて目的地周辺に降り立つ。早見の名前を運転手に言うと、大きな家というワードでひっかかり、門の前に止めてもらったのだ。

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