アイドルの必死なセールス・トークがファンを失う | 外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス

2014/06/29

アイドルの必死なセールス・トークがファンを失う



みなさん こんにちは
CuteStrategyです。

最近、気がかりな点が目に付くことが多くなったので共有したいと思います。

薄々気付いている人も、そんな論調の話を聞いたりすることもあると思いますが、
現在、日本の女性アイドル市場は成熟期から衰退期に入っていると私は考えています。
(この詳細な内容とその対応策については、2,3ヶ月後ぐらいにどこかのメディアで執筆予定です。)

製品ライフサイクル
縦軸は(A)販売数と(B)利益 横軸は時間
1.導入期 2.成長期 3.成熟期 4.衰退期

それはある程度実績や歴史のある中堅グループ以下ほど深刻で、
CD、DVDセールスやライブ動員数が徐々に減少しているアイドルは多く、
マネジメントの方々もそれを数値で実感し焦っていると聞きます。



そうすると各グループは落ち込む売上、利益をカバーするために必死になって、
「XXを買ってください。」
「もうXXをGETして頂けましたよね?」
「ライブDVDはもう見て頂けましたよね?」
という言葉がマイクやSNSを通して何回も何回も強くファンに伝えられることになります。
(買うという言葉を使っていなくても、
顧客の消費行動に圧力を及ぼす言葉はセールス・トークとして認識されます)

そして、ライブの回を重ねるごとに減っていくファンを目の当たりにしたり、
売上が良くないからもっと頑張れとマネジメント側からプレッシャーを与えれば与えるほど、
彼女達は必死になって熱を帯びて繰り返しセールス・トークを伝えることになってしまうでしょう。

しかも、最近のアイドルはファンとの距離が近いように設計されている都合上、
逆にアイドルからファンへのセールス・トークなどのメッセージの質や量のコントロールすることはマネジメント側からは困難になりがちです。

そして、その必死の言葉が伝わるのは、新規ファンになる潜在顧客や見込顧客ではなく、
既存顧客であるファンの人達に繰り返し伝えられるだけなのです。

実はこのことがビジネスとして逆効果であることはご存知でしょうか。
経営学における研究事例を示すまでもなく、冷静に考えてみれば当たり前の話です。

仲の良い友達や恋人、隣人もしくは家族でも誰でも良いですが、
会うたびに化粧品や、浄水器、絵画、壺を買って下さいとお願いされたらどうでしょう?
会うたびにセミナーや興味のない劇に誘われたらどうでしょう?
どんどんと会うのが億劫になったり疎遠になることは間違いありません。
(買わされるモノの例えがとても極端ではあるけれど(笑))

しかも皮肉なことに、ビジネスとしてアイドルのファンを利益率の高く、
アイドルがお願いすれば喜んで買ってくれるチョロい優良顧客だと思っている、
マネジメントであればあるほどその傾向が強く、
上記の理由で急速にファンの減少を招いているようにみえます。
(具体名は出しませんが、アイドルのサービス設計、利益構造、価格設定や
関係者の話からマネジメントがファンの人をどう見てるかはある程度透けて見えます。)

これらのことは私が一人のファンとして何か恨みがあって言ってるのではありません。
もし疑っているのであれば、ビジネス論文としては最も権威のある
Harvard Business Review(HBR)の以下の記事を読んでみると良いでしょう。

Three Myths about What Customers Want
(この記事中には顧客がアイドルに何を求めているか大切なことについても示唆しています)

しかも、その行為によって失っているのは既存顧客であり、
当ブログでも何回か紹介していますが、
既存顧客は利益の維持に多大なインパクトをもたらしていることは経営学上の常識です。

◎顧客の財務的インパクト
・新規顧客の獲得には、既存顧客を満足させ維持する場合の5倍~10倍のコストが必要
・平均的な企業は年間に10%から20%の顧客を失っており、
 顧客離反率を5%低下させることで、利益が25%から85%改善する
・顧客1人当りの利益率は、維持された顧客の生涯を通じて増加する傾向がある
(From コトラーのマーケティングコンセプト)

アイドルブームと呼ばれる以前の様な成長中の市場であれば、
失う既存顧客より新規顧客の数のほうが大きいため、
熱心なセールス・トークによって成長できたかもしれません。

しかし、衰退していくだろう市場においては
既存顧客の逸失は重大な意味を持つことになるのです。

つまり、アイドルグループやマネジメントが落ち込んでいくセールスを埋めるべく
必死にセールス・トークをすればするほど、
減益減収の悪循環を招いて自分たちで首を絞めている状態になっているのです。

それでは、どうすればその悪循環を断ち切れるのでしょうか?

もしアイドルとファンとのコミュニケーション改善にのみにフォーカスするのであれば、
営業のアプローチに関する書籍や、高級クラブのホステスのノウハウなど
いくらでも表面的な改善方法は知識化されていますが、
それをやったところで残念ながら大きな改善は見込めないでしょう。

それ以上に重要なのは、2つあると思います。

1.コミュニケーション・チャネルの整理・効果測定・目的の再確認

アイドルは現在、グループを立ち上げてから様々なコミュニケーション・チャネルを利用していると思います。(例えば、twitter,やHP,特設ページ,ブログなどのSNSやWebページ、ライブ中や握手会などのコミュニケーションなど)

まず、ファンと接点のあるコミュニケーション・チャネルが何個存在し、
そのチャンネルを利用して何のメッセージを伝えているか、メッセージを消費するターゲット層は誰なのか、効果はどの程度あるか、明確に理解していますか?

悪い例としては、
例えば20人グループのアイドルに毎日1回7日間CDやグッズ購買のアナウンスを繰り返したりすると全てのメンバーをフォローしているファンは1週間で140回ものメッセージを受け取ることになります。1日1回更新するブログ上にも書かれていれば合計280回も受け取ることになります。
購買をすでに行ったファンや購買を行わないと意思決定したファンにとってそのメッセージはどのように映るでしょうか。それを回避するためにコミュニケーションチャネルをどのように再構築すれば良いのでしょうか。

その他にもHP上に特に重要でもない広告、広告効果が薄れたメッセージをいつまでも掲示しているところも多いですが、広告が多いと閲覧者であるファンは何が重要なマネジメントからのメッセージなのか混乱してしまいます。つまり逆にマネジメント側が伝えたいメッセージすらスルーしてしまうようになります。あなたが最も伝えたいメッセージを効果的に伝えるために逆に無駄なメッセージを削ぎ落としましょう。

以上のように、顧客と接点のあるチャネルを整理し、そして、もう一度顧客の視点からチャネルを再構築し、マネジメント側が伝えたいメッセージが何か、それを効果的に伝える方法は何かを再考する必要があります。


2.エンターテイメントとしてのアイドルの再定義

そして最も大事なことは、
マネジメント側はエンターテイメントとは何か、
アイドルとは何かということをもう一度問い直しては如何でしょうか?

不況下にあって6年連続増収増益を果たしたディズニーリゾートのショップでは、
なぜSaleと大々的に打つことをせず、購買を促すセールス・トークもせず、
値札も小さく見えづらいのでしょうか。

また、夢の国であることにあれほどまでに多大なコストを掛けているのでしょうか。
そして、その中で働くキャストはあれだけ夢をもって働くことができ、
ゲストは喜んで足を運び多くのお金を使うという好循環を生んでいるのでしょうか。

衰退期に差し掛かっている現在のアイドル市場だからこそ、
エンターテイメントとは何かを問い直し、アイドル、ファンとそれを共有することが、
衰退市場の中にあっても長くファンに愛される存在になることができるのではないでしょうか。
(つまりビジネス的には安定した収益を上げることができる)


最後となりますが、
結構サクッと終わらせた対応策の2点ですが、本当はもっと掘り下げて、
・アイドルのコミュニケーション・チャネル構築のベストプラクティス
・アイドルとマネジメント、ファンそしてキャッシュ・フローの理想的な関係
・ファンのアイドルの成長ストーリーに対するコミットメントの変化
・売るということをエンターテイメント化するポストモダンマーケティング
などについて話をしたいと思ったのですが、
このレベルまで話をすると、当ブログやBLOGOSのターゲット層と異なる上に、
ROI低そうなので、気が向いたら文章化したいと思います。
(現時点で全く予定はありません)

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