ラインクラフトとは、日本の競走馬である。2002年4月4日、ノーザンファーム(早来町)で生を受けた。卓越した先行力と圧倒的なスピードを武器に、2005年の桜花賞(G1)とNHKマイルカップ(G1)を勝利した快速牝馬である。主戦を務めたのは福永祐一元騎手。すべてのレースで手綱を執った。
NHKマイルカップにクラシックウィナーが出走するのは史上初の出来事であり、また桜花賞・NHKマイルカップの変則二冠を達成した競走馬は2024年4月現在もラインクラフトただ一頭のみである。通算成績は13戦6勝。獲得賞金は5億563万0000円。
父はエンドスウィープ。サウスヴィグラスやアドマイヤムーンをはじめ、スウェプトオーヴァーボード・スイープトウショウなど、圧倒的なスピード能力を産駒に伝えた名種牡馬である。
数々の活躍馬を送り出すファンシミン牝系の出身で、半弟にはダート路線で活躍したアドマイヤロイヤル、叔父には2005年の高松宮記念(G1)覇者アドマイヤマックスがいる。
ルヴァンスレーヴ・チュウワウィザード・ソングオブウインド・トウケイヘイロー・サマーサスピション・ローゼンカバリー・ホクトスルタン・ドリームシグナル・トーコーヴィーナス・アークヴィグラスなどが同じ一族にあたる。
2004年秋のデビュー戦を5馬身差で圧勝したラインクラフトは、続くファンタジーステークス(G3)でも好位追走から一瞬の切れを発揮し、4馬身差の完勝で重賞初制覇を飾った。
圧倒的なパフォーマンスを見せていたラインクラフトは、世代初のG1である阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)でも単勝1.5倍の断然人気に支持された。
しかし最終コーナーで大きく外に振られるかたちとなり、そこから鋭い脚で追い込むも、内をすくったショウナンパントル・アンブロワーズにわずかに届かず3着に敗れる。
ただし、3頭の着差はアタマ+ハナの僅差。そのレース内容から、この時点で世代トップの評価を下す競馬ファンも多数存在していた。
明け3歳となったラインクラフトは、桜花賞トライアルであるフィリーズレビューで始動。デアリングハート・エアメサイア・ディアデラノビアと4頭が横一線となる接戦の末に2度目の重賞制覇を達成。
こうした背景もあり、阪神ジュベナイルフィリーズと同様に桜花賞では断然人気を獲得するものと思われたが、2歳時のクリスマスにデビューを迎えたシーザリオがデビューから無傷の3連勝でフラワーカップを達成。こちらが1番人気となった。
なお、ラインクラフトとシーザリオの主戦騎手はいずれも福永祐一騎手(当時)であり、桜花賞では先約を優先してラインクラフトに騎乗。シーザリオには吉田稔騎手が騎乗することとなった。
当時の阪神芝1600mは1コーナーポケットにスタート地点が設けられており、現在の外回りコースとは異なる形状だった。そのため外枠不利の傾向があり、ラインクラフトは外の17番枠を引いてしまう。
しかし、2コーナーの手前で好位を確保すると、直線残り1ハロンの位置からスパート。粘り込みを図るデアリングハートを捉え、外から追い上げるエアメサイアを完封。ゴール前では馬群を割って異次元の末脚を見せたシーザリオの猛攻をアタマ差凌ぎきり、見事に「桜花賞馬」となったのだった。
桜花賞を勝利した後、ラインクラフト陣営はNHKマイルカップに照準を合わせた。もともとはクラシックに出走できない外国産馬の受け皿としての側面が強く「マル外ダービー」とも呼ばれていた同レース。クラシックウィナーがNHKマイルカップに出走するのは史上初のことだった。
前例のないローテーションを不安視されてか、桜花賞馬にもかかわらず単勝2番人気。単勝1番人気はペールギュントに譲った。
しかしレース本番、馬群の4番手を楽に追走したラインクラフトは、最終直線で内ラチ沿いを一瞬で抜け出し、ぐんぐんと後続を突き放した。最後は追い縋るデアリングハートに1.3/4馬身差をつける完勝で、「世代最速」の称号を得ると同時に、史上初となる「3歳マイル二冠」を達成したのだった。
3歳秋には秋華賞(G1)で2着、マイルチャンピオンシップ(G1)で古馬を相手に3着と、世代屈指のスピードを見せていたラインクラフトは、古馬入り後もまったく衰えず高松宮記念(G1)で2着に好走。能力の高さを見せていた。
しかし2006年の夏、放牧先での調教中に心不全を発症し、わずか4歳でこの世を去った。
同世代の牝馬たちは母・祖母として活躍馬を輩出。シーザリオはエピファネイア・リオンディーズ・サートゥルナーリアと3頭のG1馬を送り出し、娘のロザリンドからはオーソリティが出ている。
エアメサイアは芝・ダートのマイル路線の最前線で長く戦い続けたエアスピネルや、体質に課題を抱えながらも勢いのままに重賞制覇を飾ったエアウィンザーを送り出した。
デアリングハートは二代母として、史上初となる無敗牝馬三冠を達成したデアリングタクトのファミリーラインにその名前を刻んでいる。
ラインクラフトの叔父にあたるアドマイヤマックスや、同じくファンシミン牝系出身であるルヴァンスレーヴやチュウワウィザードなどが名を残している。一方で、現役時代にこの世を去ったラインクラフトからは血統は直接繋がっていない。
しかし、ラインクラフト自身が開拓者として切りひらいた桜花賞からNHKマイルカップへの道筋は、後の牝馬のローテーションに多大な影響を与えた。
ピンクカメオ・アエロリット・メジャーエンブレムは桜花賞に出走後にNHKマイルカップを勝利しており、また桜花賞を勝利したグランアレグリアはオークスではなくNHKマイルに出走している。ラインクラフトの血は残らずとも、刻んだ蹄跡と、その記憶は競馬ファンの中に残り続けている。
馬名 | 性 | 生年 | 主な成績 |
---|---|---|---|
シーザリオ | 牝 | 2002年 | 05’オークス(G1)1着 05’アメリカンオークス(G1)1着 |
デアリングハート | 牝 | 2002年 | 04’阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)5着 05’桜花賞(G1)3着 05’NHKマイルカップ(G1)2着 |
エアメサイア | 牝 | 2002年 | 05’桜花賞(G1)4着 05’オークス(G1)2着 05’秋華賞(G1)1着 |
ショウナンパントル | 牝 | 2002年 | 04’阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)1着 |
ペールギュント | 牡 | 2002年 | 04’デイリー杯2歳ステークス(G2)1着 04’朝日杯FS(G1)3着 05’シンザン記念(G3)1着 05’NHKマイルカップ(G1)4着 |
アンブロワーズ | 牝 | 2002年 | 04’阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)2着 04’函館2歳ステークス(G3)1着 |
ライラプス | 牝 | 2002年 | 05’クイーンカップ(G3)1着 |
ディアデラノビア | 牝 | 2002年 | 05’フローラステークス(G2)1着 05’フィリーズレビュー(G2)4着 |
エイシンテンダー | 牝 | 2002年 | 05’チューリップ賞(G3)1着 |
直接対決の機会が無かったものの、同世代には日本競馬史上2頭目となる無敗でのクラシック三冠制覇を達成したディープインパクトがいる。
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