1:2018/07/15(日) 00:09:16.099
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
筑王 武(31) 元三役力士
【美しき肉弾戦】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
筑王 武(31) 元三役力士
【美しき肉弾戦】
ホーッホッホッホ……。」
2:2018/07/15(日) 00:10:52.145
昼。東京都内のある競艇場。競艇場の中では、ボートレースが行われている。
水面では色とりどりの6艇のボートが走っており、黒色のユニフォームを着た選手のボートが先頭にいる。
観客席で、熱心に応援をする客たち。
はげ頭でしょぼくれた初老の男、茶髪にピアスの中年の男、帽子をかぶっていて前歯が抜けた顔の男、
金髪でホステス風の女性、半そでの下から刺青が見える丸刈りの髪形の男……などなど。
ここにいる客たちは、ガラの悪そうな人間ばかり。
その中で、特に目立つ男がいる。太った身体で背が高く、人並み外れた巨体の男だ。
彼は右手に缶ビールを、左手に今日のボートレースの出走表を持っている。
テロップ「元小結 筑王武(31) 本名は猪熊武」
筑王「オラーーッ!!!そこだーーっ!!いけーーーっ!!!」
黒色のユニフォームを着た選手のボートが、独走態勢にいる。
筑王「いいぞーーーーっ!!!」
水面では色とりどりの6艇のボートが走っており、黒色のユニフォームを着た選手のボートが先頭にいる。
観客席で、熱心に応援をする客たち。
はげ頭でしょぼくれた初老の男、茶髪にピアスの中年の男、帽子をかぶっていて前歯が抜けた顔の男、
金髪でホステス風の女性、半そでの下から刺青が見える丸刈りの髪形の男……などなど。
ここにいる客たちは、ガラの悪そうな人間ばかり。
その中で、特に目立つ男がいる。太った身体で背が高く、人並み外れた巨体の男だ。
彼は右手に缶ビールを、左手に今日のボートレースの出走表を持っている。
テロップ「元小結 筑王武(31) 本名は猪熊武」
筑王「オラーーッ!!!そこだーーっ!!いけーーーっ!!!」
黒色のユニフォームを着た選手のボートが、独走態勢にいる。
筑王「いいぞーーーーっ!!!」
4:2018/07/15(日) 00:12:23.127
レースの終盤。先頭にいる黒色のユニフォームを着た選手がコーナーを曲がろうとする。
しかし、彼のボートはカーブを曲がり切れないまま、勢いよくひっくり返る。
トップにいた選手に思わぬアクシデントが起こり、驚く観客たち。筑王「あああ!!!」
赤色のユニフォームを着た選手のボートが1着でゴールする。彼は右腕を高く掲げ、破顔一笑している。
それに続くのが、青色のユニフォームを着た選手のボートだ。
筑王「ううう……」 筑王は右手にある空の缶ビールを握り潰し、大声で叫ぶ。
筑王「チクショーーーーーッ!!!」 周りにいる客たちの視線が、悔しがる巨体の男・筑王に集まる。
ボートレース場を去ろうとする元力士・筑王武の後ろ姿を見ながら、観客たちはささやく。
観客A「まさかあいつ……!」
観客B「その『まさか』だよ!ほら、大相撲の元小結・筑王……!あいつだよ!!」
観客C「へえ、あの太った大男が……!あいつ、こんなところにいたのか……!」
観客D「それにしても、ずいぶん落ちぶれたな!!あいつ……!」
しかし、彼のボートはカーブを曲がり切れないまま、勢いよくひっくり返る。
トップにいた選手に思わぬアクシデントが起こり、驚く観客たち。筑王「あああ!!!」
赤色のユニフォームを着た選手のボートが1着でゴールする。彼は右腕を高く掲げ、破顔一笑している。
それに続くのが、青色のユニフォームを着た選手のボートだ。
筑王「ううう……」 筑王は右手にある空の缶ビールを握り潰し、大声で叫ぶ。
筑王「チクショーーーーーッ!!!」 周りにいる客たちの視線が、悔しがる巨体の男・筑王に集まる。
ボートレース場を去ろうとする元力士・筑王武の後ろ姿を見ながら、観客たちはささやく。
観客A「まさかあいつ……!」
観客B「その『まさか』だよ!ほら、大相撲の元小結・筑王……!あいつだよ!!」
観客C「へえ、あの太った大男が……!あいつ、こんなところにいたのか……!」
観客D「それにしても、ずいぶん落ちぶれたな!!あいつ……!」
5:2018/07/15(日) 00:14:03.626
夕方。パチンコ屋。パチンコ台の前に座り、一生懸命にハンドルを握る筑王。
彼が打っているパチンコの機種は「CR新人魚物語」のようだ。
パチンコ屋に入り、筑王の隣の席に座る喪黒福造。
喪黒はパチンコをしようとせず、隣にいる筑王の様子を横目で見ている。
筑王がいるパチンコ台の下皿の出玉が遂に空になる。
パチンコ台の液晶の笑顔のアニメキャラとは対照的に、筑王の表情は険しくなる。
筑王「くそお!!!何で玉が出ねえんだ!!!」
思わず右腕の拳を振り上げ、パチンコ台を殴ろうとする筑王。 喪黒「待ちなさい!!」
喪黒は筑王の右腕を押さえつけ、ものに当たろうとする彼を制止しようとする。
喪黒「まあまあ……!!少しは落ち着いたらどうです!!」
筑王「こら……!!離せよ、おっさん!!」
喪黒「台を壊して弁償することになったら、あなたの懐がさらに痛みますよ!!」
筑王「くっ……」 ひるんだ様子になる筑王。筑王を見つめる喪黒。
彼が打っているパチンコの機種は「CR新人魚物語」のようだ。
パチンコ屋に入り、筑王の隣の席に座る喪黒福造。
喪黒はパチンコをしようとせず、隣にいる筑王の様子を横目で見ている。
筑王がいるパチンコ台の下皿の出玉が遂に空になる。
パチンコ台の液晶の笑顔のアニメキャラとは対照的に、筑王の表情は険しくなる。
筑王「くそお!!!何で玉が出ねえんだ!!!」
思わず右腕の拳を振り上げ、パチンコ台を殴ろうとする筑王。 喪黒「待ちなさい!!」
喪黒は筑王の右腕を押さえつけ、ものに当たろうとする彼を制止しようとする。
喪黒「まあまあ……!!少しは落ち着いたらどうです!!」
筑王「こら……!!離せよ、おっさん!!」
喪黒「台を壊して弁償することになったら、あなたの懐がさらに痛みますよ!!」
筑王「くっ……」 ひるんだ様子になる筑王。筑王を見つめる喪黒。
7:2018/07/15(日) 00:15:56.918
夜。居酒屋で食事をする筑王と喪黒。
筑王「それにしてもおっさん、あんたには感謝するよ」
「あのまま止めてくれなかったら、俺はパチンコ台を壊して弁償する羽目になったろうな」
喪黒「分かってくれて何よりです」
筑王「しかも、飯までおごって貰うなんて……。本当にすまねぇ。」
喪黒「今日のあなたはギャンブルで負け続けて、お金に困っているようでしたからね……」
「さっきのパチンコだけでなく、昼間のボートレース……」
筑王「ど、どうしてそれを!?」
喪黒「相撲を引退した後のあなたの評判は、至るところで耳にしていますよ」
筑王「そうか……。角界を追放された後も、俺の悪評はまだ残っていたんだな」
喪黒「良かったら、私が相談に乗りましょうか?」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
筑王「それにしてもおっさん、あんたには感謝するよ」
「あのまま止めてくれなかったら、俺はパチンコ台を壊して弁償する羽目になったろうな」
喪黒「分かってくれて何よりです」
筑王「しかも、飯までおごって貰うなんて……。本当にすまねぇ。」
喪黒「今日のあなたはギャンブルで負け続けて、お金に困っているようでしたからね……」
「さっきのパチンコだけでなく、昼間のボートレース……」
筑王「ど、どうしてそれを!?」
喪黒「相撲を引退した後のあなたの評判は、至るところで耳にしていますよ」
筑王「そうか……。角界を追放された後も、俺の悪評はまだ残っていたんだな」
喪黒「良かったら、私が相談に乗りましょうか?」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
8:2018/07/15(日) 00:17:38.116
BAR「魔の巣」。喪黒と筑王が席に腰掛けている。
筑王「今日は俺のみっともねぇ姿をあんたに見せてしまったな」
喪黒「力士を引退して1年……、あなたもいろいろ心に鬱憤が貯まっているのでしょう」
筑王「たぶんなぁ……」
喪黒「現役のころのあなたは小結まで出世し、将来は横綱を狙えるとも期待されていましたねぇ」
筑王「力士の頃は、今と違って俺も輝いていたなぁ」
喪黒「確か、あなたの四股名の『筑王』は、『筑豊の王』という意味がありますね」
筑王「そうだよ。福岡県北九州市生まれの俺にあやかって、親方が名付けてくれたんだ」
喪黒「あなたは少年時代、地元では結構ヤンチャでしたよね」
筑王「ああ。あの頃の俺は手のつけられない不良だったよ」
「でも、ガキの頃から相撲を習っていたおかげで、高校を卒業した後は山籠部屋に弟子入りすることができた」
筑王「今日は俺のみっともねぇ姿をあんたに見せてしまったな」
喪黒「力士を引退して1年……、あなたもいろいろ心に鬱憤が貯まっているのでしょう」
筑王「たぶんなぁ……」
喪黒「現役のころのあなたは小結まで出世し、将来は横綱を狙えるとも期待されていましたねぇ」
筑王「力士の頃は、今と違って俺も輝いていたなぁ」
喪黒「確か、あなたの四股名の『筑王』は、『筑豊の王』という意味がありますね」
筑王「そうだよ。福岡県北九州市生まれの俺にあやかって、親方が名付けてくれたんだ」
喪黒「あなたは少年時代、地元では結構ヤンチャでしたよね」
筑王「ああ。あの頃の俺は手のつけられない不良だったよ」
「でも、ガキの頃から相撲を習っていたおかげで、高校を卒業した後は山籠部屋に弟子入りすることができた」
9:2018/07/15(日) 00:20:13.722
喪黒「あなたも相撲取りを続けていれば、よかったでしょうに……」
筑王「まったくだ。でも、『あの事件』のせいで俺は力士を引退することになった」
喪黒「六本木のクラブで、お酒に酔ったあなたは客に暴力をふるったんですよね?」
筑王「ああ、そうだよ。でも、これだけは聞いてくれ!」
「あの客は、マスコミで報道されていたような『一般男性』なんかではない!!」
「あいつが先に俺に因縁を吹っ掛けてきたんだ!!全身に刺青を入れたあの男がなぁ!!」
喪黒「つまり、その客は暴力団の関係者だったというわけですね?」
筑王「その通りだ!!俺は嵌められたんだ!!」
喪黒「あなたは素行不良でマスコミに叩かれていましたけど……。八百長とは無縁のガチンコ力士でしたからね」
筑王「だから……、こうなったんだよ!!!」
「俺はな……!!八百長をやっている力士たちや、そのケツ持ちの暴力団から目の敵にされちまったんだよ……!!」
喪黒「そこで、例の事件が仕組まれた……というわけですか」
筑王「……そういうことだよ!!!」
喪黒「なるほど。あなたも、気の毒な事情があったものですなぁ……」
筑王「まったくだ。でも、『あの事件』のせいで俺は力士を引退することになった」
喪黒「六本木のクラブで、お酒に酔ったあなたは客に暴力をふるったんですよね?」
筑王「ああ、そうだよ。でも、これだけは聞いてくれ!」
「あの客は、マスコミで報道されていたような『一般男性』なんかではない!!」
「あいつが先に俺に因縁を吹っ掛けてきたんだ!!全身に刺青を入れたあの男がなぁ!!」
喪黒「つまり、その客は暴力団の関係者だったというわけですね?」
筑王「その通りだ!!俺は嵌められたんだ!!」
喪黒「あなたは素行不良でマスコミに叩かれていましたけど……。八百長とは無縁のガチンコ力士でしたからね」
筑王「だから……、こうなったんだよ!!!」
「俺はな……!!八百長をやっている力士たちや、そのケツ持ちの暴力団から目の敵にされちまったんだよ……!!」
喪黒「そこで、例の事件が仕組まれた……というわけですか」
筑王「……そういうことだよ!!!」
喪黒「なるほど。あなたも、気の毒な事情があったものですなぁ……」
10:2018/07/15(日) 00:22:29.904
筑王「俺は大好きだった相撲への道を奪われた上に、名誉も地位も失った!!」
「だけどな……、五体満足でピンピンした肉体だけは残ってやがるんだ!!」
「それにな……、この肉体が叫んでるんだよ!!!もっと喧嘩がしたい!!もっと闘いたい!!……とな」
喪黒「勝負に対する欲求が、ギャンブルに向かっているのでしょうな……」
筑王「おそらく……。言われて見ればそうだよな……」
喪黒「ですが……、ギャンブルでは欲求不満は解消されないでしょう」
筑王「その通りだよ。なぜなら、ちっとも勝てないからな……」
喪黒「それだけではありません。ギャンブルは、あなたの身体を動かした勝負じゃありませんからね」
「あなたが望んでいるのは、ズバリ……肉弾戦でしょう!!自分の身体を使った、肉体と肉体のぶつかり合いの……!!」
筑王「そうだ!!あんたが言う肉弾戦って奴を望んでいるんだよ……!!俺は……!!」
喪黒「もう一度、肉弾戦の世界で活躍したいでしょう!?」
筑王「もちろんだ……!!」
喪黒「よかったら、私があなたのお望みをかなえてあげましょうか?」
筑王「本当にそんなことができるのか!?」
喪黒「できますよ」
「だけどな……、五体満足でピンピンした肉体だけは残ってやがるんだ!!」
「それにな……、この肉体が叫んでるんだよ!!!もっと喧嘩がしたい!!もっと闘いたい!!……とな」
喪黒「勝負に対する欲求が、ギャンブルに向かっているのでしょうな……」
筑王「おそらく……。言われて見ればそうだよな……」
喪黒「ですが……、ギャンブルでは欲求不満は解消されないでしょう」
筑王「その通りだよ。なぜなら、ちっとも勝てないからな……」
喪黒「それだけではありません。ギャンブルは、あなたの身体を動かした勝負じゃありませんからね」
「あなたが望んでいるのは、ズバリ……肉弾戦でしょう!!自分の身体を使った、肉体と肉体のぶつかり合いの……!!」
筑王「そうだ!!あんたが言う肉弾戦って奴を望んでいるんだよ……!!俺は……!!」
喪黒「もう一度、肉弾戦の世界で活躍したいでしょう!?」
筑王「もちろんだ……!!」
喪黒「よかったら、私があなたのお望みをかなえてあげましょうか?」
筑王「本当にそんなことができるのか!?」
喪黒「できますよ」
11:2018/07/15(日) 00:24:14.758
筑王「だがな……。俺は不祥事を起こして相撲界を追放された身でもあるしな……。今さら力士の道には戻れねぇんだよな」
喪黒「相撲以外の世界でも、肉弾戦はできますよ」
「例えば、プロレスや格闘技……。あなたの巨体と強さを生かすことができる世界であり、まさに打ってつけでしょう」
筑王「プロレスや格闘技……。そうか、その方面が残っていたのか!!」
数日後。JR目黒駅近くのビル。エレベーターの中に喪黒と筑王がいる。
エレベーターが16階に着く。喪黒「ここですよ」
喪黒と筑王が向かった先の事務所の看板には、こう書かれている。「超大和プロレス本部」。
事務所の中に入り、ソファに座っている喪黒と筑王。彼らを一人の男が出迎える。
その男は、がっちりとした身体にスーツをまとい、スキンヘッドにひげという風変わりな姿だ。
男「君が、元筑王こと……猪熊武くんか」
筑王「はい」
喪黒「相撲以外の世界でも、肉弾戦はできますよ」
「例えば、プロレスや格闘技……。あなたの巨体と強さを生かすことができる世界であり、まさに打ってつけでしょう」
筑王「プロレスや格闘技……。そうか、その方面が残っていたのか!!」
数日後。JR目黒駅近くのビル。エレベーターの中に喪黒と筑王がいる。
エレベーターが16階に着く。喪黒「ここですよ」
喪黒と筑王が向かった先の事務所の看板には、こう書かれている。「超大和プロレス本部」。
事務所の中に入り、ソファに座っている喪黒と筑王。彼らを一人の男が出迎える。
その男は、がっちりとした身体にスーツをまとい、スキンヘッドにひげという風変わりな姿だ。
男「君が、元筑王こと……猪熊武くんか」
筑王「はい」
12:2018/07/15(日) 00:26:07.874
超大和プロレスに入門した筑王が、練習に明け暮れる。
ジョギングをする筑王。腕立て伏せや、腹筋をする筑王。バーベルを持ち上げる筑王。
サンドバッグに蹴りを入れる筑王。
プロレスデビューに向け、記者会見をする筑王。
スポーツ紙「元小結筑王 リングデビューへ」「筑王 プロレス界に転身」
そして、プロレスデビュー当日。
日本武道館の中では、観客たちがリングに向けて声援を送っている。
赤コーナーには紫色の覆面をかぶったレスラーがおり、青コーナーには筑王がいる。
実況「青コーナー、筑王武!!」
ゴングの響きとともに、相手に向かっていく筑王。筑王「ウオオオッ!!!」
観客席の中にいる喪黒が筑王の試合を見守る。
筑王によるチョップが相手のレスラーの腹に決まる。
ジョギングをする筑王。腕立て伏せや、腹筋をする筑王。バーベルを持ち上げる筑王。
サンドバッグに蹴りを入れる筑王。
プロレスデビューに向け、記者会見をする筑王。
スポーツ紙「元小結筑王 リングデビューへ」「筑王 プロレス界に転身」
そして、プロレスデビュー当日。
日本武道館の中では、観客たちがリングに向けて声援を送っている。
赤コーナーには紫色の覆面をかぶったレスラーがおり、青コーナーには筑王がいる。
実況「青コーナー、筑王武!!」
ゴングの響きとともに、相手に向かっていく筑王。筑王「ウオオオッ!!!」
観客席の中にいる喪黒が筑王の試合を見守る。
筑王によるチョップが相手のレスラーの腹に決まる。
13:2018/07/15(日) 00:28:12.800
BAR「魔の巣」。喪黒と筑王が席に腰掛けている。
喪黒「それにしても……。新人ながらこの数試合で、あなたは鮮烈なレビューを飾りましたなぁ」
筑王「いやぁ……。これも喪黒さんが俺にプロレスの世界を紹介したおかげだよ」
喪黒と筑王がいる席の机には、プロレス系週刊誌やスポーツ紙が並べられている。
雑誌やスポーツ紙には、筑王の活躍を伝える記事がいくつも掲載されている。
筑王「もう一度、肉弾戦の世界で活躍することができて……。毎日が夢のようだ!」
喪黒「あなたのお役に立てて実に何より……。ですがね……。ちょっと忠告をしておきたいことがあるのですよ」
「あなたの欠点は、怒りっぽくて向こう見ずなところです。力士だった頃は、その性格も災いしましたね」
筑王「言われて見れば……な。あの時、ヤクザの男の挑発に乗っていなければ、俺は暴力沙汰を起こさずに済んだ……」
喪黒「土俵の上やリングの上だからこそ……。血気にはやる性格も……。並はずれた巨体も……。腕力も……」
「いい意味で生かされているということを忘れないでください」
筑王「ああ」
喪黒「約束です。リングの外で、カッとなって暴力沙汰を起こすような真似をしてはいけませんよ」
筑王「わ、分かったよ……。喪黒さん」
喪黒「それにしても……。新人ながらこの数試合で、あなたは鮮烈なレビューを飾りましたなぁ」
筑王「いやぁ……。これも喪黒さんが俺にプロレスの世界を紹介したおかげだよ」
喪黒と筑王がいる席の机には、プロレス系週刊誌やスポーツ紙が並べられている。
雑誌やスポーツ紙には、筑王の活躍を伝える記事がいくつも掲載されている。
筑王「もう一度、肉弾戦の世界で活躍することができて……。毎日が夢のようだ!」
喪黒「あなたのお役に立てて実に何より……。ですがね……。ちょっと忠告をしておきたいことがあるのですよ」
「あなたの欠点は、怒りっぽくて向こう見ずなところです。力士だった頃は、その性格も災いしましたね」
筑王「言われて見れば……な。あの時、ヤクザの男の挑発に乗っていなければ、俺は暴力沙汰を起こさずに済んだ……」
喪黒「土俵の上やリングの上だからこそ……。血気にはやる性格も……。並はずれた巨体も……。腕力も……」
「いい意味で生かされているということを忘れないでください」
筑王「ああ」
喪黒「約束です。リングの外で、カッとなって暴力沙汰を起こすような真似をしてはいけませんよ」
筑王「わ、分かったよ……。喪黒さん」
14:2018/07/15(日) 00:29:44.809 ID:jtgVZcXLd.net
不思議アイテム出てこないのかよ
15:2018/07/15(日) 00:30:21.652
さらに日々が過ぎていく。
プロレスの試合で、相手のレスラーにチョークスリーパーを決める筑王。
他の試合。2人のペア同士のタッグマッチ戦。リングの上には筑王を含め4人のレスラーがいる。
ある夜。新宿・歌舞伎町。
キャバクラで、筑王はキャバ嬢に囲まれながら酒を飲んでいる。
キャバ嬢A「うわあ~!!実物をこうやって見ると、筑王さんって本当に身体も腕も大きいよねぇ!!」
筑王「ガハハハ!!」
キャバ嬢B「私、相撲取りの頃の筑王さんのファンだったんだよぉ!!」
筑王「相撲取りの俺と、プロレスラーの俺……、どっちがいいかい!?」
キャバ嬢B「どっちも好き!!」
筑王「こりゃあ、いい!!」
プロレスの試合で、相手のレスラーにチョークスリーパーを決める筑王。
他の試合。2人のペア同士のタッグマッチ戦。リングの上には筑王を含め4人のレスラーがいる。
ある夜。新宿・歌舞伎町。
キャバクラで、筑王はキャバ嬢に囲まれながら酒を飲んでいる。
キャバ嬢A「うわあ~!!実物をこうやって見ると、筑王さんって本当に身体も腕も大きいよねぇ!!」
筑王「ガハハハ!!」
キャバ嬢B「私、相撲取りの頃の筑王さんのファンだったんだよぉ!!」
筑王「相撲取りの俺と、プロレスラーの俺……、どっちがいいかい!?」
キャバ嬢B「どっちも好き!!」
筑王「こりゃあ、いい!!」
16:2018/07/15(日) 00:32:18.099
筑王が店内でふと目をやると、他の席で、素行の悪い客がキャバ嬢に絡んでいるのを見つける。
キャバ嬢に向かってコップの水をぶっかけ、ドレスの胸ぐらを掴みかかる客の男。
その男は、オールバックの髪形で額に傷跡がある。
年齢は40代くらいで、ずんぐりした体形であり、グレーのスーツに黒のシャツでノーネクタイだ。
筑王(あいつは……!!)
筑王の頭の中に、例の事件の光景が思い浮かぶ。
1年前。クラブの中で、力士だった筑王とあの男がにらみ合っている。
光景は、新宿・歌舞伎町のキャバクラに戻る。
筑王(俺を罠に嵌めて角界追放へ追いやったあの男が……!!こんな所にいるなんて……!!)
筑王は身体と拳をふるわせる。彼の顔は、みるみる憤怒の形相に変わっていく。
キャバ嬢に向かってコップの水をぶっかけ、ドレスの胸ぐらを掴みかかる客の男。
その男は、オールバックの髪形で額に傷跡がある。
年齢は40代くらいで、ずんぐりした体形であり、グレーのスーツに黒のシャツでノーネクタイだ。
筑王(あいつは……!!)
筑王の頭の中に、例の事件の光景が思い浮かぶ。
1年前。クラブの中で、力士だった筑王とあの男がにらみ合っている。
光景は、新宿・歌舞伎町のキャバクラに戻る。
筑王(俺を罠に嵌めて角界追放へ追いやったあの男が……!!こんな所にいるなんて……!!)
筑王は身体と拳をふるわせる。彼の顔は、みるみる憤怒の形相に変わっていく。
17:2018/07/15(日) 00:35:02.372
筑王は、あのヤクザの男がいる席へ急いで向かう。
筑王「てめえ……!!さっさとお嬢さんから手を離せ!!」
ヤクザ「おう、お前か……!!1年ぶりだな……!!」
筑王「聞こえなかったのか、てめえ!!手を離せっつってんだよ!!」
ヤクザ「何だよぉ、やるのかコラァ!!」
ヤクザの男は、机の上にあるブランデーの瓶の底を割り、右手で振り回す。
キャバ嬢「キャア!!」
ヤクザは、キャバ嬢や筑王に割れた瓶を突き付ける。
ヤクザ「やれるならやってみろよォ!!俺には組の代紋があるんだ!!」
筑王「その代紋がなんだァ!!!」
筑王はヤクザの男を袋叩きにし、これでもかと拳で殴りつける。
ヤクザの男は顔が真っ赤に腫れて血だらけになり、口元はいくつも歯が折れた状態になる。
ヤクザ「ひ、ひい!!ゆ、許ひてくれえ!!」
筑王「何がヤクザだ!!」 筑王は床に倒れているヤクザの顔に向かって唾を吐く。
筑王「てめえ……!!さっさとお嬢さんから手を離せ!!」
ヤクザ「おう、お前か……!!1年ぶりだな……!!」
筑王「聞こえなかったのか、てめえ!!手を離せっつってんだよ!!」
ヤクザ「何だよぉ、やるのかコラァ!!」
ヤクザの男は、机の上にあるブランデーの瓶の底を割り、右手で振り回す。
キャバ嬢「キャア!!」
ヤクザは、キャバ嬢や筑王に割れた瓶を突き付ける。
ヤクザ「やれるならやってみろよォ!!俺には組の代紋があるんだ!!」
筑王「その代紋がなんだァ!!!」
筑王はヤクザの男を袋叩きにし、これでもかと拳で殴りつける。
ヤクザの男は顔が真っ赤に腫れて血だらけになり、口元はいくつも歯が折れた状態になる。
ヤクザ「ひ、ひい!!ゆ、許ひてくれえ!!」
筑王「何がヤクザだ!!」 筑王は床に倒れているヤクザの顔に向かって唾を吐く。
19:2018/07/15(日) 00:38:14.178
キャバクラを出て、繁華街の裏通りを行く筑王。彼の前に、喪黒福造が現れる。
喪黒「筑王武さん……。どうやらあなた……、私との約束を破ったようですね!」
筑王「も、喪黒さん……」
喪黒「私はあなたと約束したはずです」
「リングの外で、カッとなって暴力沙汰を起こすような真似をしてはいけない……と」
「それなのに、あなたはキャバクラの中で客に暴力をふるい、大怪我をさせてしまった……」
筑王「仕方ねぇだろ!!そいつが酒に酔ってキャバ嬢の女の子に絡んでいたから……」
「女の子を助けるために、そうするしかなかったんだよ!!」
喪黒「それだけじゃあ……ないでしょう。その客が、あなたを角界追放へ追いやったヤクザだったから……」
「どうしてもあなたは怒りを抑えることができなくなった……。違いますか……!?」
筑王「あああ……!!!」
喪黒「図星のようですねぇ……」
「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません……!!」
喪黒は、筑王に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーーン!!!」
筑王「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
喪黒「筑王武さん……。どうやらあなた……、私との約束を破ったようですね!」
筑王「も、喪黒さん……」
喪黒「私はあなたと約束したはずです」
「リングの外で、カッとなって暴力沙汰を起こすような真似をしてはいけない……と」
「それなのに、あなたはキャバクラの中で客に暴力をふるい、大怪我をさせてしまった……」
筑王「仕方ねぇだろ!!そいつが酒に酔ってキャバ嬢の女の子に絡んでいたから……」
「女の子を助けるために、そうするしかなかったんだよ!!」
喪黒「それだけじゃあ……ないでしょう。その客が、あなたを角界追放へ追いやったヤクザだったから……」
「どうしてもあなたは怒りを抑えることができなくなった……。違いますか……!?」
筑王「あああ……!!!」
喪黒「図星のようですねぇ……」
「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません……!!」
喪黒は、筑王に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーーン!!!」
筑王「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
20:2018/07/15(日) 00:41:15.299
ある日の夜。東京、後楽園ホール。
リングの上でプロレスの試合が行われている。
筑王の対戦相手は、アフロヘアーにひげを生やしたプロレスラーだ。
アフロヘアーのレスラーが、筑王にバックドロップをかける。
ドゴォ!!!筑王がマットの上に倒れる瞬間、轟音とともに何かが砕け散る鈍い音が同時に響く。
ゴキリ……!!どうやら、筑王の首の骨が折れたようだ。彼はそのまま意識を失う。
実況「おや、何があったのでしょうか!?一体何があったのでしょうか!?」
リングの上で倒れている筑王の元へ、レスラーたちが次々と向かう。
実況「大変です!!筑王選手が……!!」
翌朝。病院。
ベッドの上に横たわる筑王を見守る医者、看護師、2人のレスラー。
筑王の首にはギブスが付いている。
リングの上でプロレスの試合が行われている。
筑王の対戦相手は、アフロヘアーにひげを生やしたプロレスラーだ。
アフロヘアーのレスラーが、筑王にバックドロップをかける。
ドゴォ!!!筑王がマットの上に倒れる瞬間、轟音とともに何かが砕け散る鈍い音が同時に響く。
ゴキリ……!!どうやら、筑王の首の骨が折れたようだ。彼はそのまま意識を失う。
実況「おや、何があったのでしょうか!?一体何があったのでしょうか!?」
リングの上で倒れている筑王の元へ、レスラーたちが次々と向かう。
実況「大変です!!筑王選手が……!!」
翌朝。病院。
ベッドの上に横たわる筑王を見守る医者、看護師、2人のレスラー。
筑王の首にはギブスが付いている。
21:2018/07/15(日) 00:44:30.158
ベッドの上で目を覚まし、意識を取り戻す筑王。筑王「ここは……」
看護師「気がつきましたか……」
医者「命が無事で本当に良かった……。しかしながら……あなたは……。あなたは、もう……」
筑王を見守る医者、看護師、レスラーたちの表情は険しい。
医者から詳しい事情を知らされ、驚愕した表情になる筑王。
筑王「そんな……!!俺は……!!俺はもう……!!手を動かすことも……、歩くこともできないのか……!!」
「嘘だ……!!嫌だ……!!ううう……!!!」
病室の中で、筑王は泣きながら大声で叫ぶ。
筑王「うおおおおおおっ!!!動いてくれえええええっ!!!俺のからだああああああああっ!!!」
筑王が入院する病院の前にいる喪黒。
喪黒「肉体と肉体がぶつかり合う勝負の世界……。有史以来、それは様々な形で多くのドラマを生み出してきました」
「人間もまた生き物であり、動物的な本能が残っているからこそ、肉弾戦への憧れが無意識の中にあるのでしょう」
「ですが、力と力のぶつかり合いは時に悲劇をもたらしますし……。暴力はより強い暴力に負け、強いものも最後は滅ぶのです」
「だから、結局のところ……。肉弾戦に耐え得る鋼のような肉体を持つことよりも……」
「むしろ、裸一貫でも普段通りの生活を送れることの方が、私たちにとっては重要なのではないでしょうか」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
看護師「気がつきましたか……」
医者「命が無事で本当に良かった……。しかしながら……あなたは……。あなたは、もう……」
筑王を見守る医者、看護師、レスラーたちの表情は険しい。
医者から詳しい事情を知らされ、驚愕した表情になる筑王。
筑王「そんな……!!俺は……!!俺はもう……!!手を動かすことも……、歩くこともできないのか……!!」
「嘘だ……!!嫌だ……!!ううう……!!!」
病室の中で、筑王は泣きながら大声で叫ぶ。
筑王「うおおおおおおっ!!!動いてくれえええええっ!!!俺のからだああああああああっ!!!」
筑王が入院する病院の前にいる喪黒。
喪黒「肉体と肉体がぶつかり合う勝負の世界……。有史以来、それは様々な形で多くのドラマを生み出してきました」
「人間もまた生き物であり、動物的な本能が残っているからこそ、肉弾戦への憧れが無意識の中にあるのでしょう」
「ですが、力と力のぶつかり合いは時に悲劇をもたらしますし……。暴力はより強い暴力に負け、強いものも最後は滅ぶのです」
「だから、結局のところ……。肉弾戦に耐え得る鋼のような肉体を持つことよりも……」
「むしろ、裸一貫でも普段通りの生活を送れることの方が、私たちにとっては重要なのではないでしょうか」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
22:2018/07/15(日) 00:49:21.791 ID:StUeauaG0.net
おつ
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