1:2018/09/25(火) 19:11:37.177
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    長谷川丸男(41) 新聞記者

    【報道最前線】

    ホーッホッホッホ……。」


2:2018/09/25(火) 19:13:57.321
東京、千代田区。大手町エリアにそびえ立つ巨大ビル。

テロップ「読朝新聞東京本社ビル、地上33階、地下3階建て」

眼鏡の奥から鋭い眼光を飛ばす老人の男。高値なスーツを身にまとい、杖をついている。

テロップ「鍋島弘道(92) 読朝新聞本社・代表取締役主筆」

長谷川のモノローグ「鍋島弘道主筆は、『ナベヒロ』の通称で知られる大物だ」

盟友である元首相と握手をする鍋島。さらに、読朝新聞社が保有する球団・巨神の監督と会う鍋島。

長谷川のモノローグ「鍋島主筆は、メディア界だけでなく、政界やスポーツ界にも強い影響力を持っている」

読朝新聞の朝刊紙面。「読朝新聞」の題字がアップで映る。リーグ優勝をし、選手たちに胴上げされる過去の巨神監督。

長谷川のモノローグ「世界一の発行部数・840万部を誇り、プロ野球の巨神こと読朝ギガンツでも知られる……。それが読朝新聞だ」


夜。読朝新聞東京本社。仮眠室の中で、一人の男が毛布にくるまって寝ている。

テロップ「長谷川丸男(41) 読朝新聞・社会部記者」
3:2018/09/25(火) 19:16:14.940
仮眠をとっている長谷川を叩き起こす同僚・高木。

高木「おい長谷川、起きろ。事件だぞ」

長谷川「ああ、高木……」

本社の廊下を急ぎ足で歩く長谷川と高木。

長谷川のモノローグ「俺は、この新聞社の社会部に所属する遊軍記者だ」

真夜中の街。車を運転する長谷川。助手席には高木がいる。

長谷川のモノローグ「遊軍記者は、記者クラブにも所属していないし、決まった担当も持っていない」


殺人現場で取材をする長谷川。地震で自宅が倒壊した街にいる長谷川。また、選挙運動中の候補者の取材をする長谷川。

長谷川のモノローグ「大きな事件、事故、災害があれば、取材テーマに応じて臨機応変に動く『何でも屋』が遊軍記者だ」

夕方。高速道路で、車を運転する長谷川。

長谷川のモノローグ「世間一般の認識では、社会部の記者は正義感が強くて熱血肌の人間が多いとされる」
4:2018/09/25(火) 19:18:39.720
夜。読朝新聞東京本社。デスクに向かい、原稿を執筆する長谷川。

長谷川のモノローグ「……それは、建前の話だ。世の中で起きた出来事で話題性が強い事件を記事にするので……」
             「社会部の報道は、大衆受けを狙った娯楽色が強いものになりがちだ」

主筆の執務室。かしこまった様子で、鍋島主筆に頭を下げる記者。記者を叱る鍋島。

長谷川のモノローグ「何よりも……。わが社は『ナベヒロ』こと鍋島主筆のおかげで、いろいろ報道に制約がある」

ソファーで横になり、考え事をする長谷川。

長谷川(果たして……。これが記者として、まっとうなあり方なのだろうか……)


夜。あるカラオケ喫茶。中高年の客たちが店の中に集まっている。客の中には、長谷川や喪黒福造がいる。

機械の前でマイクを取る長谷川。店内のテレビの画面には、「谷村新司 天狼」のタイトルが映し出される。

長谷川は渋い声で、谷村の「天狼」を歌う。サビの部分を熱唱する長谷川。拍手をする客の一同。

カラオケ喫茶を出る長谷川。長谷川の隣には、喪黒がいる。

喪黒「あなたの年齢で谷村新司を歌えるとは、意外と渋いですなぁ」
5:2018/09/25(火) 19:20:56.767
長谷川「まあ、何というか……。私は彼の歌を気にいっているので……。特に、『天狼』を……」

喪黒「あなた、谷村新司の『天狼』がお好きなのですか?」

長谷川「はい……。年老いた白き狼が、誇りを捨ててねぐらへ帰るっていう世界観が……」
    「私の胸を打つんですよ……。中年になった人間の悲哀や挫折感というものもあって……」

喪黒「若いころは誰もが理想や使命感に燃えているものですよ」
   「しかし……。様々な形で壁にぶつかることにより、現実の厳しさを味わうわけです」

長谷川「おっしゃる通りです」

喪黒「見たところ、あなたにも心にスキマがおありのように見えますなぁ……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

長谷川「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

長谷川「人生相談か、何かですか?」

喪黒「どちらかというと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
8:2018/09/25(火) 19:23:21.799
BAR「魔の巣」。喪黒と長谷川が席に腰掛けている。

喪黒「ほう……。長谷川さんは社会部の遊軍記者なのですか。なかなかのエリートですなぁ……」

長谷川「とんでもありません。私は、うだつが上がらないヒラの記者ですし……。本社では末端兵に過ぎませんよ」

喪黒「そんなことはないでしょう。新聞記者は、ペンで社会の不正をただすことを使命としているのですから……」

長谷川「それは表向きの話ですよ。我が読朝新聞社は、鍋島主筆の意向に逆らった報道などできませんから……」

喪黒「しかしながら……。記者である以上、何かしらのスクープを報道する人もいるはずですよねぇ?」

長谷川「あのぅ、実はですね……。読朝新聞社では、スクープを連発する記者には『禁止令』が出されているんです」
     「他紙よりも突出せず、無難な報道に徹しろというのが鍋島主筆の方針ですから……」

喪黒「なるほど……。今の読朝新聞社は、そんなことになっていたんですか……」
   「それじゃあ、あなたにとっては面白くないでしょうねぇ」

長谷川「もちろんですよ。ペンの力によって社会の不正を追及し、真実に迫るのは記者の使命ですよ……」
     「それだけでなく……。一級品のスクープを手にすることは、記者としての夢なのですから……」
     「会社に飼い殺され、当たり障りのない報道に徹するなんて……。記者として、たまったもんじゃありません!」

喪黒「長谷川さん。あなたも記者ならば、一級品のスクープを手にしてみたいでしょう?」
9:2018/09/25(火) 19:25:29.302
長谷川「そうに決まってますよ!!」

喪黒「そのお言葉、待っていました……。私があなたの潜在願望をかなえてあげますよ!」

長谷川「なっ……」

喪黒は、長谷川に右手の人差し指を向ける。

喪黒「あなたは、近いうちに大スクープを必ず見つけます!!そして、それを記事にして全国へ報道します!!」
   「ドーーーーーーーーーーーーン!!!」

長谷川「ギャアアアアアアアアア!!!」


テロップ「北関東、鰐船山――」

夜。森の中でテントを張り、一人で焚き火を見つめる長谷川。

長谷川(久々の休日だ……。たまには、ソロキャンプもいいな……)

突然、夜空一体に閃光が走る。ピカアッ!!!

長谷川「ま、眩しいっ……!!」

空気を切り裂くような音がしばらく続いた末、轟音が響きわたる。キイイイイイイン……、ドゴオオオオオ!!!
10:2018/09/25(火) 19:27:56.470
長谷川「な……、何が起きたんだ!?」

轟音がした方角へ足を運ぶ長谷川。彼は、手で鼻を押さえる。

長谷川「それにしても、焦げ臭いにおいがする……」

向かった先で、長谷川が目にしたものは……。

長谷川「こ、これは……!!!」

大破し、炎上する黒焦げの自衛隊機。辺りには金属の破片がいくつも見える。事故現場を見て、長谷川は驚愕する。

急いで自らのテントへと戻り、カメラを手にする長谷川。彼はカメラを持ち、事故現場に再び向かう。

一心不乱で、墜落した自衛隊機をカメラで撮影する長谷川。カシャッ!!カシャッ!!


翌日。読朝新聞朝刊。自衛隊機の墜落事故が、一面トップで報道されている。事故現場の写真は、長谷川が撮影したものだ。

読朝新聞東京本社、社会部。読朝新聞の朝刊を手に取り、記者たちが会話をしている。

記者A「それにしても、長谷川がこんなスクープを手にするとは……。意外だな」

記者B「ああ……。平凡で目立たない男だったはずの長谷川にしては、大金星だ」
11:2018/09/25(火) 19:30:15.432
記者C「ライバルの新聞社の連中は、今ごろ悔しがっているだろうなぁ……」

社会部部長「…………」

記者たちを眺める社会部の部長。自社の新聞記者がスクープを掴んだ快挙に対し、面白くなさそうな表情だ。


BAR「魔の巣」。喪黒と長谷川が席に腰掛けている。机の上には、読朝新聞の朝刊が置かれている。

喪黒「長谷川さん。あなたもとうとう、一級品のスクープを掴むことができたようですねぇ」

長谷川「い、いえ……。私はあの日、たまたま墜落現場に居合わせただけですから……。あれはマグレですよ」

喪黒「……とはいえ、あなたが大がかりなスクープを手にしたことは紛れもない事実です。それは誇ってもいいですよ」

長谷川「まあ……。私は、新聞記者としてやるべきことをやれたわけですから……」

喪黒「そこでです……。私は長谷川さんに、どうしても忠告しておきたいことがあるのですよ」

長谷川「は、はい……」

喪黒「今回のような大掛かりなスクープは、そう滅多にあるものではありません」
   「しかも……。あなたの新聞社は、スクープを連発する記者には『禁止令』を出していますからねぇ」
12:2018/09/25(火) 19:32:19.043
長谷川「え、ええ……。要するに、喪黒さん。『出る杭は打たれる』ってことですよね?」
     「しばらく私は、おとなしくしてろってことでしょ……」

喪黒「そうですよ。さすがは新聞記者だけあって、頭の良さと勘の鋭さを持ち合わせていますねぇ……」

長谷川「いやぁ……」

喪黒「長谷川さん、私と約束してください。墜落事故の取材を行うのもいいですが、あまり深入りはしないでくださいよ」

長谷川「それは、私も承知していますよ……」

喪黒「特に……。取材のために、あの事故現場へ再び足を運ぶようなことをしてはいけません。いいですね、約束ですよ!?」

長谷川「分かりました……。喪黒さんがそこまでおっしゃるのなら……」


テロップ「埼玉県、防衛医科大学校病院――」

全身を包帯に包まれた状態で、ベッドで横たわる自衛隊員・佐久間。彼の側にいる長谷川記者。

佐久間「俺は見たんですよ……!!あれを……!!あいつを……!!」

長谷川「佐久間さん……。あの墜落が起きる前、一瞬、夜空がパッと光り輝きましたよね……」
13:2018/09/25(火) 19:34:14.200
とある喫茶店。机に向かってコーヒーを飲む長谷川の姿を、一人の男が見つける。

斎藤「よぉ、長谷川」

テロップ「斎藤寿男(41) 写真週刊誌『サースデー』記者」

長谷川のモノローグ「こいつは、俺の大学時代の同期で今も親友の一人だ」

斎藤「それにしても、お前もすごいスクープを掴んだものだな。写真週刊誌の記者として実にうらやましい」

長谷川「俺こそ、お前がうらやましいよ。組織にがんじがらめの俺とは違い、自由気ままに報道をしているのだから……」

斎藤「なぁ……。ところで、来週の『サースデー』には面白い写真が載るぞ」
   「あの日、鰐船山の上空で撮影されたとっておきの奴がな……。楽しみにしてくれよ」


数日後。防衛医科大学校病院。病室で、入院中の佐久間と会話する長谷川。

佐久間「お……、教えてくれ……!!俺は一体誰なんだ……!?」

長谷川「あなたは佐久間という名前でしょう……!航空自衛隊のパイロットで……」

佐久間「お、思い出せない!!何もかも忘れてしまった!!」
14:2018/09/25(火) 19:36:23.235
街を歩く長谷川。彼はスマホを手にし、社会部の同僚と通話をしている。

長谷川「ああ、もしもし……。長谷川です……。えっ!?斎藤が自動車の中で練炭自殺!?」


とある病院。ベッドに横たわる斎藤の遺体に向かい、彼の妻が泣き崩れる。長谷川も涙を流している。

斎藤の妻「ウッ……、ウウウ……。あなたぁーーーっ!!」

長谷川「どうして死んだんだ……!俺と会った時は、あんなに元気そうだったのに……」


斎藤の葬儀。参列者の中に、喪服を着た長谷川が加わっている。悲しげな表情で斎藤の遺影を見つめる長谷川。


読朝新聞東京本社、社会部。社会部部長に呼ばれる長谷川。

社会部部長「長谷川……。鍋島主筆がお前をお呼びだ」

長谷川「えっ!?主筆が!?」

執務室。鍋島主筆と長谷川が会話をする。かしこまった様子の長谷川。

鍋島「長谷川君。今回のスクープ、でかしたものだな」
15:2018/09/25(火) 19:38:37.173
長谷川「は、はい……」

鍋島「だから、しばらくの間……。君は、例の墜落事故の報道から外れたらどうかね?たまには休養も必要だろう……」

本社の廊下を歩きながら、考え事をする長谷川。

長谷川(あの墜落事故の核心に触れようとした人間に対し、次々と不可解な出来事が起きている……)
     (どうも、事故の裏側で何かとんでもない動きがあるようだな……)


とある休日、夕方。鰐船山。山道を一人で歩く長谷川。彼はソロキャンプの服装だが、思いつめたような顔をしている。

長谷川(もう一度、あの墜落現場に行けば……。必ず何かの証拠が見つかるはずだ……)

喪黒「お待ちなさい!!」

長谷川の行く手を阻む例の男の姿……。その男は、そう……喪黒福造だ。

喪黒「長谷川丸男さん……。あなた約束を破りましたね」

長谷川「も、喪黒さん!!」

喪黒「私はあなたに忠告しました。例の墜落事故の取材を行うのもいいが、あまり深入りはするべきではない……と」

長谷川「で、ですが……。私は……」
16:2018/09/25(火) 19:41:05.202 ID:upsKp5Ho0.net
おもしろい
17:2018/09/25(火) 19:41:07.544
喪黒「取材のために、あの事故現場へ再び足を運ぶようなことはしない……。それが、長谷川さんと私との約束でした」
   「にも関わらず……。あなたは約束を破り、ここへ……」

長谷川「私は本当のことが知りたいんです!!なぜなら、あの墜落事故の後で、不気味な出来事が何度も起きたからです!!」
     「墜落した自衛隊機のパイロットは突然、不自然な形で記憶喪失になり……」
     「その上、私の友人の写真週刊誌記者は、自殺を装って何者かに殺されました!!」
     「おまけに、例のスクープを掴んだ私は……。鍋島主筆に呼び出されて、直接圧力をかけられたんです!!」
     「『墜落事故の報道から外れてくれ』……と」

喪黒「だったら……。これ以上、あの墜落事故に深入りするのはやめたらどうです?あなたの身の安全のために……」

長谷川「そんなわけにはいきません!!記者である以上、真実が何かを私は知りたいんです!!」
     「それに、私の友人のことを思うと……。真実を知ることで、死んだ友人の無念を晴らしたいんです!!」

喪黒「長谷川さん。どうしても、墜落事故の現場へもう1度行くのですね?」

長谷川「もちろんですよ!!」

喪黒「分かりました……。そこまで言うのなら、私はあなたを止めません」
   「ですが……、どのようなことになっても私は知りませんよ!!」

喪黒は長谷川に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

長谷川「ギャアアアアアアアアア!!!」
18:2018/09/25(火) 19:43:18.032
自衛隊機の墜落現場に立つ長谷川。周囲には今も自衛隊機の破片が残り、あちこちの草に焦げ跡が残る。

長谷川「俺は、再びここへ戻ってきたんだ……。ここへ来れば、何かの手がかりがつかめるはずなんだ……」

突然、辺りに閃光が走る。右手で顔を覆う長谷川。夜空に浮かぶ楕円形の光。目を丸くし、息をのむ長谷川。

光は次第に大きくなり、長谷川の方へ向かう。長谷川が目にしたものは――。


1週間後。街の人ごみの中を歩く長谷川。彼の後ろを、怪しい2人組が付きまとう。

長谷川が一人になったその時……。後ろにいる2人組が、彼を力づくで抑え込む。

長谷川「ムウッ……!!」

2人組によってクロロホルムの布を顔に当てられ、意識を失う長谷川。黒塗りの車が、眠り込む長谷川をどこかへ運ぶ。


テロップ「横田基地、在日米軍司令部――」

長谷川は、会議室のような部屋の中にいる。米軍幹部たちや自衛隊幹部たちに囲まれ、萎縮した様子となる長谷川。
19:2018/09/25(火) 19:46:44.428
長谷川の席の机の上には、複数の写真がある。とある1枚の写真には、大型の円盤と、墜落前の自衛隊機が写っている。

もう1枚の写真には……。円盤から光線が発射され、攻撃を受ける自衛隊機が写っている。

自衛隊幹部A「あなたは、これに見覚えがあるはずですよね?」

自衛隊幹部がさらにもう1枚、写真を机の上に置く。写真に写っているのは、灰色の肌に黒い眼をした、得体の知れぬ人型の生物だ。

長谷川「こ、こいつは……!!」

自衛隊幹部B「長谷川さん。2度目にあの墜落現場へ向かった際、あなたはあるものを目にしたはずです」
         「そう……。円盤型飛行物体と、乗物から降りた謎の生命体を……」

長谷川「知ってたんですか!?てっきり、あれは幻覚だと思っていました……。私の頭がおかしくなったのかと……」

米軍幹部「幻覚デハアリマセン。アナタハ正常デス。長谷川サンハ、コノ世界ノタブーニ触レテシマッタンデスヨ」
      「ロズウェル事件以来、世界各地デ起キテイル怪現象ノ一部デアリ……」
      「各国ノ政府ヤ軍ガ隠シ続ケテイル、トップシークレットノ情報デモアリマス」

長谷川「じゃあ、私が目にしたものは……」

米軍幹部「ソウデス。地球外生命体ノ存在ガ知ラレテシマッタラ、世界中ノ人タチガパニックヲ起コスデショウ。デスカラ……」
20:2018/09/25(火) 19:49:54.484
黒塗りの車が横田基地を出る。後部座席にいる長谷川は、すっかり神妙そうな表情になっている。

長谷川のモノローグ「俺は、自衛隊幹部たちや米軍幹部たちと密約を結んだ。あの例のタブーは絶対に口外しない……と」
             「あのタブーについて黙ってさえいれば、手厚い支援のもとで俺を出世させる……と彼らは言った」
             「一連の真相を隠蔽した上で、墜落事故に関する書籍を俺名義で発表する……」
             「その後、俺は御用ジャーナリストとして独立し、ゆくゆくは大学教授のポストに収まる……」
             「それが、彼らが俺に与えた余生だ。もしもあのタブーを口外したら、当然俺は殺されるだろう……」


夕方。覇気のない虚ろな表情で、街の中を歩く長谷川。

長谷川(新聞記者としての俺は……。会社に縛られてはいたものの、まだ生き生きと活動できた……)
     (しかし、これからの俺は……。巨大な権力の監視下で、仕事のやりがいも自由も全くない人生が待っている……)
     (これじゃあ、透明な牢屋に入れられた囚人と変わらない……。一体何のための人生なんだ……)

道を歩く長谷川の後ろ姿を見つめる喪黒。

喪黒「世の中には様々な謎がありますが……。一方で、人間は何かしらの形で探究心を持ち合わせているものです」
   「『真実を知りたい』というのは、人間にとって当たり前の欲求であり……。文明の発展はそのおかげとも言えましょう」
   「しかしながら……。社会が複雑化したことに伴い、世の中や人々は何かしらの形でタブーを抱えることとなりました」
   「なぜなら……。人間は一方で、『真実を知りたくない』『物事を秘密にしておきたい』という気持ちも同時に持っているからです」
   「真実を知ってしまい、タブーに触れてしまった重みに……。果たして人間は耐えられるのでしょうか?ねぇ、長谷川さん」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―