1:2018/12/05(水) 23:09:59.068 ID:zXSwh1TnD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    猫本聖羅(19) ファッションモデル

    【猫とインスタグラム】

    ホーッホッホッホ……。」
4:2018/12/05(水) 23:12:15.172 ID:zXSwh1TnD.net
とあるスタジオ。真っ白な壁を背景に、ファッションモデルの女性が立っている。

彼女に対し、カメラを向ける男性カメラマン。女性モデルとカメラマンを見守るスタッフたち。

カメラマン「それじゃあ、いきますよー」

聖羅「はい」

テロップ「猫本聖羅(19) ファッションモデル」

カメラマンが、聖羅をカメラで撮影する。カシャッ!!


とある大型書店。雑誌コーナーに置かれた女性ファッション雑誌『GLORIA(グ ア)』。

『GLORIA』の表紙には、聖羅の写真が写っている。この前、スタジオで撮影した例の写真が――。


夜。とある居酒屋。店の奥にある液晶テレビには、デジタルカメラのCMに出演する聖羅の姿が映っている。

カウンター席に座り、客たちとともにビールを飲む喪黒福造。喪黒は、テレビに映る聖羅の顔を見つめる。
5:2018/12/05(水) 23:14:16.289 ID:zXSwh1TnD.net
喪黒「…………」

どうやら、喪黒はまたしても何かの企みを思いついたようだ。


とあるカフェ。聖羅が、友人の女性モデルと一緒にパフェを食べている。

美央「ねぇ、聖羅。あんた、インスタグラム始めたんだってね?」

テロップ「玉川美央(20) ファッションモデル」

聖羅「そうだよ。まだ、やり始めたばかりだからさー……。試行錯誤っていうか……」

美央「最初は誰だってそうだよ。慣れてくれば、インスタも生活の一部になるよ」

聖羅「うん……。でも、できるなら、インスタ映えする題材をスマホで撮りたいよねぇ」

美央「インスタ映え……ね。じゃあ、例えばこのテーブルにあるパフェを撮影するのとか……どう?」

聖羅「あ、そっか!」

スマホでパフェを撮影する聖羅。
6:2018/12/05(水) 23:16:16.471 ID:zXSwh1TnD.net
とある水族館。水槽を泳ぐ魚を、スマホで撮影しようとする聖羅。

聖羅(この魚とか、インスタ映えしそう……。インスタ映え……。インスタ映え……)

次の瞬間、スマホの画面に喪黒の顔が大写しで映る。

喪黒「ばあ」

水槽のガラスに張り付く喪黒。喪黒の顔に、驚く聖羅。彼女は思わず、スマホで喪黒の顔を撮影してしまう。

聖羅「あーーーーっ!!!」

喪黒「どうです!?インスタ映えはバッチリでしょ!?」

聖羅「何てことしてくれたんですか!!おじさん!!」

喪黒「すみません。私は悪気はなかったのですよ。あなたの手助けをしようとしたまでで……」

聖羅「手助け!?わざわざ、私に何のつもりなんですか!?」

喪黒「猫本聖羅さん。あなたは、インスタグラムを始めたばかりでしょう」
   「だから、インスタ映えについて、私はあなたにアドバイスがしたいのですよ」
7:2018/12/05(水) 23:18:16.166 ID:zXSwh1TnD.net
聖羅「私が猫本聖羅だと知ってるなんて……。まさか、あなた業界の方なんですか!?」

喪黒「いいえ。私はこういう者です」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

聖羅「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」

聖羅「か、変わったお仕事ですね……」

喪黒「いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょうか」


BAR「魔の巣」。喪黒と聖羅が席に腰掛けている。

喪黒「最近、若い世代の間にインスタグラムを利用する人が増えていますねぇ」

聖羅「はい……。喪黒さんもご存じのように、私もインスタを始めたばかりなんですよ」

喪黒「芸能人には、インスタグラムを利用している人はかなりいますからねぇ」
8:2018/12/05(水) 23:20:24.089 ID:zXSwh1TnD.net
聖羅「ええ。有名な芸能人のインスタは、私と違ってファンの人気が高いからうらやましいですよ」

喪黒「それだけじゃあ、ないでしょう」
   「芸能人でも実力がある人は、インスタ映えする題材を選ぶテクニックも持ってるんです」

聖羅「……ですよね」

喪黒「ごく自然でありながら、個性的である題材……。インスタ映えする写真には、これが欠かせません」

聖羅「……はい」

喪黒「色の美しさや、おしゃれさもインスタ映えには大事です。あと、写真を撮るために、小物を利用するのもいいでしょう」

聖羅「……なるほど」

喪黒「インスタ映えする題材として、非常に打ってつけのものがごく身近にあります」

聖羅「何ですか、それ?」

喪黒「猫ですよ。2017年に日本で最も人気があったインスタグラムのハッシュタグは、『#猫 / #ねこ』だったんです」

聖羅「猫?」
9:2018/12/05(水) 23:22:14.752 ID:zXSwh1TnD.net
喪黒「はい。猫は、インスタ映えのいい題材になってくれますよ」
   「猫は人々に人気のある動物ですし、その可愛らしい姿は見る人に癒しを与えてくれます」

聖羅「確かに……」

喪黒「猫本さん。インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」

聖羅「私が猫を飼うんですか!?」

喪黒「そうです。あなたが飼い猫の写真をインスタグラムに投稿すれば、労せずして『いいね』がたくさん付きます」
   「それにより、猫本さんのインスタグラムは、フォロワーと投稿への『いいね』が増えていく……というわけです」

聖羅「そうですか……」

喪黒「その上……。インスタグラムでフォロワーと『いいね』が増えるおかげで、あなたのファンもさらに増えます」
   「まさに、いいことづくめですよ」

聖羅「……分かりました。私、思い切って猫を飼ってみようと思います」

喪黒「そうです!その調子!」
10:2018/12/05(水) 23:24:26.250 ID:zXSwh1TnD.net
夜。とある住宅街の中にある広めの住宅。ここが聖羅の実家だ。台所で、両親と一緒に食事をする聖羅。

聖羅の母「猫を飼う!?どうしてまた、急にそんなことを……!?」

聖羅「インスタ映えのためだよ。実はさ……」

一連の事情を両親に話す聖羅。

聖羅の母「猫を飼うなんて、反対よ。不衛生だし、扱いに困るじゃん」

聖羅「そんな!!母さん……!!」

聖羅の父「父さんは賛成だね。聖羅が飼いたいと言ってるんだからな」

聖羅「ほら!父さんもそう言ってるんだから、猫を飼おうよ!」


とあるペットショップ。店内にいる聖羅と両親。3人は、ガラスケースの中にいる猫を見つめる。

この猫は耳が立っていて、ふっくらした肉体をしており、足は短めだ。

聖羅「これ、可愛い……」
11:2018/12/05(水) 23:26:19.205 ID:zXSwh1TnD.net
店員「この猫の種類は、マンチカンです。マンチカンは、飼い猫として人気がある種類の一つなんです」
   「愛らしい姿もさることながら、人懐っこくて社交的な子が多いんです」

聖羅の父「そうなんですか……」

店員「大人のマンチカンは賢い性格なので、留守番が得意な猫とも言われてるんですよ」

聖羅「じゃあ、これに決めたっ」


猫本家、聖羅の部屋。スマホで喪黒と通話する聖羅。

聖羅「もしもし、喪黒さん?私、遂に猫を飼いましたよ」

喪黒「ほう……。それにしても、素早く決断してくれましたねぇ」

聖羅「はい。ペットショップに行って、猫を購入してきたんです。これもインスタ映えのためですから……」

喪黒「あなたの飼い猫で、いい写真が撮れるといいですねぇ」

聖羅「ええ。必ず、あの猫でインスタ映えした写真を投稿して見せますよ!」
12:2018/12/05(水) 23:28:17.006 ID:zXSwh1TnD.net
そして――。聖羅のインスタグラムには、飼い猫モモの写真が次々と投稿されていく。

マットの上に寝転ぶモモ。キャットフードを食べるモモ。聖羅に頭をなでられるモモ。椅子の上にいるモモ。

座布団の上に座るモモ。身体を伸ばしたまま寝そべるモモ。2本足で立った状態のモモ。顔が大写しのモモ。

聖羅(やった!今日も、モモの写真に『いいね』が多く付いている!)

スマホを見つめながら、喜ぶ聖羅。


とある海岸。海を背景に、砂浜の上に立つ聖羅。彼女にカメラを向けるカメラマン。聖羅とカメラマンを見守るスタッフたち。

様々なポーズを決める聖羅。そんな彼女を、カメラマンが数回ほど撮影する。カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ……!!

カメラマン「オッケー!ばっちりだよ!」

撮影を終え、ほっとした表情になる聖羅。

移動中のワンボックスカー。後部座席でスマホを眺める聖羅。

聖羅(私のインスタ、順調にフォロワーが増えてる……。もしかしたら、モモの写真のおかげかもしれない……)
13:2018/12/05(水) 23:30:16.029 ID:zXSwh1TnD.net
夜。猫本家、聖羅の部屋。クッションの上に座るモモ。モモにスマホを向ける聖羅。

聖羅(よーーし。今日はこういう感じで写真を撮ろう)

スマホでモモを撮影する聖羅。


BAR「魔の巣」。喪黒と聖羅が席に腰掛けている。

喪黒「猫本さん。あなたのインスタグラムに投稿されたモモちゃんの写真、なかなか可愛いですよ」

聖羅「喪黒さんもそう思いますか?モモの写真を投稿すると、いつも『いいね』がいっぱい付くんです!」

喪黒「よかったですねぇ。猫本さん」

聖羅「喪黒さんのおかげですよ。喪黒さんが私に、猫を飼うよう勧めてくださったからです」

喪黒「どういたしまして……。ですがねぇ、私としてはあなたに忠告しておきたいことがあるんですよ」

聖羅「どういうことですか?」

喪黒「これは、私がモモちゃんの写真を見た感想ですが……。今のところ、モモちゃんは大切に飼育されているようです」
14:2018/12/05(水) 23:32:20.532 ID:zXSwh1TnD.net
聖羅「当然ですよ。モモは、インスタ映えの大切な題材だから……」

喪黒「自分の手で大切に飼育していれば、ペットを心から愛することができるはずです」
   「あくまでも、自分の手で世話をした場合の話ですよ」

聖羅「ええ、まあ……」

喪黒「そこでです。猫本さんには、私と約束していただきたいことがあります」

聖羅「約束!?」

喪黒「そうです。あなたが飼育する猫は、モモちゃんの1匹だけにしておいてください」
   「それ以外の猫は、絶対に飼ってはいけませんよ。いいですね!?」

聖羅「わ、分かりました……。喪黒さん」


ある夜。猫本家。帰宅した聖羅。彼女を出迎える家政婦の女性。

聖羅「ただいまーー」

家政婦「おかえりなさいませ、お嬢様」

聖羅「ところで、モモの世話はちゃんとやってる?」
15:2018/12/05(水) 23:34:17.790 ID:zXSwh1TnD.net
家政婦「ええ。もちろんです」

聖羅「うん、それならいいよ」

聖羅の部屋。ベッドの上で、モモを抱える聖羅。

聖羅「お前は可愛いねぇ。モモ」

モモ「ニャーーン」

ベッドに寝そべりながら、スマホを操作する聖羅。彼女の側にいるモモ。

聖羅(えーーーと……。私以外の、インスタユーザーによる猫の写真はどうなってるんだろう?)

聖羅のスマホの画面に、猫の写真が次々と映し出される。豊富な猫の種類と、独特な構図の写真ばかりが――。

聖羅(うわぁ~~。みんなの写真、私よりもインスタ映えが抜群じゃん……。しかも、どの猫も個性的だね……)

聖羅の側にいるモモが鳴く。

モモ「ニャーーン」

聖羅(確かに、モモは可愛い……。でも、この子1匹だけではインスタ映えする題材に限度がある)
   (だから、私は他の猫も欲しい。それに、他の猫も見ていると可愛さを感じてしまう……)
   (そうだ……。私の家は金持ちだし、お父さんは私に甘いから、きっと何とかなるはず……)
16:2018/12/05(水) 23:36:19.537 ID:zXSwh1TnD.net
ある日。猫本家。台所で、両親と食事をする聖羅。

聖羅「私、他にも猫を飼いたくなったんだけど……」

聖羅の父「分かったよ。聖羅が猫を飼いたいなら、好きにすればいいさ」


数日後。猫本家。フローリングの上には、モモも含め5匹の猫が寝そべっている。猫たちを見守る聖羅と家政婦。

聖羅「この子たちの世話、しっかりやっておくんだよ」

家政婦「はい」

家の階段を上る聖羅。

聖羅「やったーー!これでインスタ映えする題材にいくらでも恵まれる!」

彼女が自分の部屋に入ると……。室内にあるベッドに、喪黒が座っている。

聖羅「も、喪黒さん!!いつの間に、私の部屋に入り込んでいたんですか!?」

喪黒「やぁ、猫本さん……。あなた約束を破りましたね」

聖羅「なっ……」
17:2018/12/05(水) 23:38:18.597 ID:zXSwh1TnD.net
喪黒「私は言ったはずですよ。猫本さんが飼育する猫は、モモちゃんの1匹だけにしておけ……と」
   「それにも関わらず、あなたはモモちゃん以外にも4匹の猫を飼いましたねぇ」

聖羅「だ、だって……。私にも欲がありますよ!他の種類の猫も使って、インスタ映えした写真を撮りたくなったんです!」

喪黒「インスタ映えを求めるのは結構……。しかし、ペットは飼い主のおもちゃではなく、大切な家族の一員なのですよ」
   「まずは、かけがえのない1匹に愛情を注ぐべきではないですか?」

聖羅「え、ええ……。私は猫を大切に飼育していますし……」

喪黒「猫本さん。猫を飼育しているのは、あなたではなくこの家の家政婦さんでしょう」
   「自分の手で飼育していないから、たった1匹のモモちゃんを愛せなかったということなのですよ!」

聖羅「そ、そんな……!!」

喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」

喪黒は聖羅に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

聖羅「キャアアアアアアアアアアア!!!」
18:2018/12/05(水) 23:40:16.272 ID:zXSwh1TnD.net
喪黒のドーンを受け、聖羅は全身が光り輝く。光に包まれながら、身体がみるみる縮む聖羅。

光はやがて、はっきりした姿となる。そう……、聖羅が飼っている猫のモモの姿だ。

喪黒「猫本さん。私はそろそろ失礼します」

聖羅の部屋を出る喪黒。部屋のドアが閉まる。バタンッ!!


聖羅「ニャーーン……(え、何これ……)。ニャーーン(何が起きたの?)」

喪黒がいなくなり、部屋にたった1人……いや、たった1匹残された聖羅。

必死に言葉を話そうとする聖羅。しかし……、彼女の口から出てきたのは、どれも猫の鳴き声ばかりだ。

聖羅(何か、部屋がとっても巨大になってる……。まさか、私……)

聖羅の目から見た部屋の光景は、猫の目で見た光景になっている。その時、彼女の部屋のドアが開く。ガチャッ……。


聖羅の部屋に、誰かが入る。そう、聖羅と生き写しのもう1人の自分だ。

聖羅「ニャーーン……(わ、私がもう1人いる……)。ニャーーーン(どういうこと!?)」
19:2018/12/05(水) 23:43:18.216 ID:zXSwh1TnD.net
飼い猫モモとなった聖羅に、もう1人の聖羅――モモが話しかける。

モモ「こんにちは、ご主人様。私は、あなたの飼い猫だったモモだよ」

聖羅「ニャーーーン……(な、何だって……)」

モモ「これから私が、人間・猫本聖羅としての人生を謳歌するからね。よろしく」

聖羅「ニャーーーーン(そ、そんなぁ)!!」


猫本邸の前にいる喪黒。

喪黒「昔から、猫は人々の間に根強い人気を持っており……。犬と並んで、人間のペットとして長らく飼われてきました」
   「猫の魅力とは、見た目の愛らしさがそうですし……。その鳴き声の心地よさは、人々の心を癒す力を持っています」
   「それだけでなく、頭がよくて、飼い主に懐きやすいことも……。猫が持っている魅力の一つと言えるのかもしれません」
   「ところで、飼い猫の写真をインスタグラムに投稿するのは結構ですが……。忘れてはならないことがあります。それは……」
   「飼い猫はおもちゃではなく、大切な家族だということです。猫の気持ちにもなって考えてみるべきですよ。ねぇ、猫本聖羅さん……」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
喪黒福造「インスタグラムで撮影するために、猫を飼ってみたらどうですか?」 ファッションモデル「私が猫を飼うんですか!?」
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1544018999