1:2018/11/30(金) 22:22:29.614
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
水島若菜(29) 元エレベーターガール
【華のデパート物語】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
水島若菜(29) 元エレベーターガール
【華のデパート物語】
ホーッホッホッホ……。」
2:2018/11/30(金) 22:24:44.683
午前。東京、丸富士百貨店。きらびやかで高級そうな店内のフロア。おしゃれな服装に身を包んだ客たち。
1階。数人の客たちがエレベーター前にいる。自動ドアが開くとともに、エレベーターに入る客たち。
エレベーターの中には、店の制服を着た若いエレベーターガールがいる。
エレベーターのボタンを押し、品のある声で客を案内するエレベーターガール・水島若菜。
若菜「上へまいりまーす」
テロップ「水島若菜(29) 丸富士百貨店勤務・エレベーターガール」
若菜と客たちが乗ったエレベーターが、ゆっくりと上へ向かっていく。
午後。丸富士百貨店、7階。エレベーターに乗り込む客たち。客の中には喪黒福造もいる。エレベーターガールの仕事を行う若菜。
若菜「下へまいりまーす」
下へ向かうエレベーター。下の階で降りる喪黒ら客たちと、エレベーターの中に留まる若菜。
若菜(私のこの仕事も、今日で最後になる……)
1階。数人の客たちがエレベーター前にいる。自動ドアが開くとともに、エレベーターに入る客たち。
エレベーターの中には、店の制服を着た若いエレベーターガールがいる。
エレベーターのボタンを押し、品のある声で客を案内するエレベーターガール・水島若菜。
若菜「上へまいりまーす」
テロップ「水島若菜(29) 丸富士百貨店勤務・エレベーターガール」
若菜と客たちが乗ったエレベーターが、ゆっくりと上へ向かっていく。
午後。丸富士百貨店、7階。エレベーターに乗り込む客たち。客の中には喪黒福造もいる。エレベーターガールの仕事を行う若菜。
若菜「下へまいりまーす」
下へ向かうエレベーター。下の階で降りる喪黒ら客たちと、エレベーターの中に留まる若菜。
若菜(私のこの仕事も、今日で最後になる……)
3:2018/11/30(金) 22:26:19.889
回想する若菜。
丸富士百貨店、とある部署。若菜らエレベーターガールたちが、上司に呼び出されている。
上司「申し訳ない話だが、君たちは今月いっぱいでここを辞めて貰うことになった」
「うちも業績が思わしくないんでな……。経営を再建するために、リストラを進めざるを得ないんだよ」
休憩室。先輩のエレベーターガールたちと会話をする若菜。
エレベーターガールA「今の時代は、エレベーターガールの仕事自体がもう時代遅れだからねぇ。こうなることは覚悟していたよ」
若菜「え、ええ……。私たち、これからどうなるんでしょうか……」
エレベーターガールB「水島さんは若いから、まだいいよ。私なんかもう30代だから、これから先、大変だよ……」
若菜の回想が終わる。夕方。丸富士百貨店。いつも通り、エレベーターガールの仕事を行う若菜。
夜。とある歓楽街。若菜とエレベーターガールたちが、酒に酔っ払いながら道を歩いている。
エレベーターガールA「もう1軒行こうーーっ!!もう1軒ーーっ!!」
丸富士百貨店、とある部署。若菜らエレベーターガールたちが、上司に呼び出されている。
上司「申し訳ない話だが、君たちは今月いっぱいでここを辞めて貰うことになった」
「うちも業績が思わしくないんでな……。経営を再建するために、リストラを進めざるを得ないんだよ」
休憩室。先輩のエレベーターガールたちと会話をする若菜。
エレベーターガールA「今の時代は、エレベーターガールの仕事自体がもう時代遅れだからねぇ。こうなることは覚悟していたよ」
若菜「え、ええ……。私たち、これからどうなるんでしょうか……」
エレベーターガールB「水島さんは若いから、まだいいよ。私なんかもう30代だから、これから先、大変だよ……」
若菜の回想が終わる。夕方。丸富士百貨店。いつも通り、エレベーターガールの仕事を行う若菜。
夜。とある歓楽街。若菜とエレベーターガールたちが、酒に酔っ払いながら道を歩いている。
エレベーターガールA「もう1軒行こうーーっ!!もう1軒ーーっ!!」
4:2018/11/30(金) 22:28:37.101
1週間後。とあるコーヒーチェーン店。スーツ姿で、鞄を持った若菜が店に入る。
テロップ「水島若菜(29) 無職・元エレベーターガール」
窓側のテーブルに座り、バッグからノートパソコンを取り出す若菜。彼女はそのまま仕事を……始めたのではない。
ノートパソコンの画面に映っているのは、正社員の仕事先やアルバイト先に関する求人情報ばかりだ。
若菜(あーあ……。やっぱり、ろくな再就職先がないな……)
コーヒーチェーン店に入り、若菜の隣に座る喪黒。彼は、若菜の様子をチラリと一瞥する。
ネットサーフィンを行う若菜。コーヒーを飲み、パフェを食べる喪黒。
コーヒーチェーン店を出る若菜。彼女の側に、喪黒が近寄る。
喪黒「あなたも大変ですねぇ。失業中なのに、仕事をしている人間のふりをして……」
若菜「私が失業中ですって?そんなことはありません……」
喪黒「嘘をつくのはおやめなさい。あなたはカフェでノートパソコンを操作していましたけど……」
「お仕事をやっていたのではなく、再就職先をお探しだったようですねぇ」
テロップ「水島若菜(29) 無職・元エレベーターガール」
窓側のテーブルに座り、バッグからノートパソコンを取り出す若菜。彼女はそのまま仕事を……始めたのではない。
ノートパソコンの画面に映っているのは、正社員の仕事先やアルバイト先に関する求人情報ばかりだ。
若菜(あーあ……。やっぱり、ろくな再就職先がないな……)
コーヒーチェーン店に入り、若菜の隣に座る喪黒。彼は、若菜の様子をチラリと一瞥する。
ネットサーフィンを行う若菜。コーヒーを飲み、パフェを食べる喪黒。
コーヒーチェーン店を出る若菜。彼女の側に、喪黒が近寄る。
喪黒「あなたも大変ですねぇ。失業中なのに、仕事をしている人間のふりをして……」
若菜「私が失業中ですって?そんなことはありません……」
喪黒「嘘をつくのはおやめなさい。あなたはカフェでノートパソコンを操作していましたけど……」
「お仕事をやっていたのではなく、再就職先をお探しだったようですねぇ」
5:2018/11/30(金) 22:30:55.278
若菜「人のノートパソコンを覗いていたんですか!?プライバシーの侵害ですよ!!」
喪黒「ところで、話は変わりますが……。私はこの間、丸富士百貨店のエレベーターの中であなたに会いましたよ」
「あなたはエレベーターガールでしたけど、おそらくリストラされたのでしょう」
若菜「あ、あなたは何者なんです!?そこまで私のことを知ってるなんて……!!」
喪黒「おやおや、あなたを怖がらせてしまったようですねぇ。私は怪しい者ではありませんよ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
若菜「……ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
若菜「め、珍しいお仕事ですね……」
喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。何なら、相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒と若菜が席に腰掛けている。
若菜「私は、小さいころからデパートが好きでした」
「休日に親に連れられてデパートに入った時なんかは、本当にわくわくしましたよ……」
喪黒「ところで、話は変わりますが……。私はこの間、丸富士百貨店のエレベーターの中であなたに会いましたよ」
「あなたはエレベーターガールでしたけど、おそらくリストラされたのでしょう」
若菜「あ、あなたは何者なんです!?そこまで私のことを知ってるなんて……!!」
喪黒「おやおや、あなたを怖がらせてしまったようですねぇ。私は怪しい者ではありませんよ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
若菜「……ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
若菜「め、珍しいお仕事ですね……」
喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。何なら、相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒と若菜が席に腰掛けている。
若菜「私は、小さいころからデパートが好きでした」
「休日に親に連れられてデパートに入った時なんかは、本当にわくわくしましたよ……」
7:2018/11/30(金) 22:33:10.083
喪黒「あなたのお気持ち、よーく分かりますよ。かつてのデパートは、日本人にとっては憧れの場所でしたからねぇ」
若菜「はい。おしゃれをして出かけ、親におもちゃを買って貰い、レストランで食事をする……」
「私にとってデパートは、そういう特別な場所でした」
喪黒「あなたのデパートに対する憧れが、後の就職先につながったのでしょうねぇ」
若菜「ええ。かっこいい制服を着て、客を案内するデパートガールへの憧れもありましたからね……」
喪黒「でも……。デパートのエレベーターガールは、一部を除いて見かけなくなりましたからねぇ」
若菜「そうですよ……。そのおかげで、私はエレベーターガールの仕事をクビになりましたから……」
喪黒「水島さん。デパートのお仕事だけが人生の全てではありません」
「あなたはまだ若いですから、再就職も含めて人生これからですよ」
若菜「ですが……。大好きだったデパートの仕事を失ったのは、精神的にショックですね……」
「私としては、まだ心の整理がついていません」
喪黒「……分かりました。あなたの心の整理をつけるため、私が何とかしましょう」
若菜「えっ!?」
若菜「はい。おしゃれをして出かけ、親におもちゃを買って貰い、レストランで食事をする……」
「私にとってデパートは、そういう特別な場所でした」
喪黒「あなたのデパートに対する憧れが、後の就職先につながったのでしょうねぇ」
若菜「ええ。かっこいい制服を着て、客を案内するデパートガールへの憧れもありましたからね……」
喪黒「でも……。デパートのエレベーターガールは、一部を除いて見かけなくなりましたからねぇ」
若菜「そうですよ……。そのおかげで、私はエレベーターガールの仕事をクビになりましたから……」
喪黒「水島さん。デパートのお仕事だけが人生の全てではありません」
「あなたはまだ若いですから、再就職も含めて人生これからですよ」
若菜「ですが……。大好きだったデパートの仕事を失ったのは、精神的にショックですね……」
「私としては、まだ心の整理がついていません」
喪黒「……分かりました。あなたの心の整理をつけるため、私が何とかしましょう」
若菜「えっ!?」
8:2018/11/30(金) 22:35:06.892
喪黒「明日、駅の西口で会いましょう」
翌日、早朝。とある駅の西口に、スーツ姿の若菜がいる。彼女の前に喪黒が現れる。
若菜「喪黒さん。こんなところに私を呼び出して、一体何のつもりですか?」
喪黒「これから、とっておきの場所へ案内しますよ。私に着いて来てください」
タクシー乗り場。
喪黒「さあ、私と一緒にタクシーに乗ってください。タクシー代は私が負担します」
タクシーに乗る喪黒と若菜。タクシーは街の中を走り続け、とあるトンネルの中に入る。
トンネルを出て、ビル街を走るタクシー。街の中は、一見現代的に見えたものの……。
若菜(え!?山藤証券!?確か、この証券会社は約20年前に倒産したはず……)
さらに、街の中にあるビルの看板をいくつか目にすると……。
若菜(倒産や合併で消滅した会社の看板が、たくさんある……。どういうこと!?)
東京。ほんごう百貨店・東都店。喪黒と若菜の乗ったタクシーが、店の前に到着する。タクシーを降りる2人。
翌日、早朝。とある駅の西口に、スーツ姿の若菜がいる。彼女の前に喪黒が現れる。
若菜「喪黒さん。こんなところに私を呼び出して、一体何のつもりですか?」
喪黒「これから、とっておきの場所へ案内しますよ。私に着いて来てください」
タクシー乗り場。
喪黒「さあ、私と一緒にタクシーに乗ってください。タクシー代は私が負担します」
タクシーに乗る喪黒と若菜。タクシーは街の中を走り続け、とあるトンネルの中に入る。
トンネルを出て、ビル街を走るタクシー。街の中は、一見現代的に見えたものの……。
若菜(え!?山藤証券!?確か、この証券会社は約20年前に倒産したはず……)
さらに、街の中にあるビルの看板をいくつか目にすると……。
若菜(倒産や合併で消滅した会社の看板が、たくさんある……。どういうこと!?)
東京。ほんごう百貨店・東都店。喪黒と若菜の乗ったタクシーが、店の前に到着する。タクシーを降りる2人。
9:2018/11/30(金) 22:37:15.465
喪黒「着きましたよ、水島さん……」
若菜「ここは、ほんごう百貨店……。確か、平成不況で倒産したデパートですよね……」
喪黒「そうです。ここは、ほんごう百貨店の東都店なのですよ」
「本来の時間の流れでは、この店はすでに消滅しています。ですが、ここの空間は別なのです」
若菜「そういえば、街にあった会社も昔のものばかり。ま、まさか……。ここは……!!」
喪黒「そうです。私たちが乗ったタクシーは、あのトンネルをくぐってタイムスリップしたのですよ。1980年代後半の東京に……」
若菜「そ、そんな……!!」
喪黒「さあ、店の中に入りましょう」
ほんごう東都店に入り、裏口の廊下を歩く喪黒と若菜。喪黒は、若菜に何かの紙を渡す。
喪黒「水島さん、これを渡しておきますよ。これはタイムカードです」
タイムレコーダーに、タイムカードを入れる若菜。
若菜「ほ、本当にタイムカードが使えた……」
若菜「ここは、ほんごう百貨店……。確か、平成不況で倒産したデパートですよね……」
喪黒「そうです。ここは、ほんごう百貨店の東都店なのですよ」
「本来の時間の流れでは、この店はすでに消滅しています。ですが、ここの空間は別なのです」
若菜「そういえば、街にあった会社も昔のものばかり。ま、まさか……。ここは……!!」
喪黒「そうです。私たちが乗ったタクシーは、あのトンネルをくぐってタイムスリップしたのですよ。1980年代後半の東京に……」
若菜「そ、そんな……!!」
喪黒「さあ、店の中に入りましょう」
ほんごう東都店に入り、裏口の廊下を歩く喪黒と若菜。喪黒は、若菜に何かの紙を渡す。
喪黒「水島さん、これを渡しておきますよ。これはタイムカードです」
タイムレコーダーに、タイムカードを入れる若菜。
若菜「ほ、本当にタイムカードが使えた……」
10:2018/11/30(金) 22:39:34.488
喪黒「水島さん。これであなたは、ほんごう東都店の従業員になりました」
若菜「わ、私がこの店の従業員ですって!?そんなこと聞いていません!!」
喪黒「今日だけは特別なのですよ」
「なぜならこれは、デパートが大好きなあなたへのサービスなのですから……」
若菜「どういうことですか?」
喪黒「これからあなたは、1980年代後半のデパートで働くのですよ。この店のエレベーターガールとなって……」
若菜「私が……ですか!?」
喪黒「そうです。日本経済の黄金時代だった1980年代後半は、デパートもまた輝いていました」
「繁栄していたころのデパートのお仕事を、水島さんは経験できるというわけです」
若菜「ま、まるで夢のような体験ですね……」
喪黒「そろそろ着替えを済ませてください。あなたのお仕事は重要ですからねぇ」
更衣室。若菜がロッカーを開けると、中には、この店のエレベーターガールの制服が入っている。
若菜(これが私の制服……)
若菜「わ、私がこの店の従業員ですって!?そんなこと聞いていません!!」
喪黒「今日だけは特別なのですよ」
「なぜならこれは、デパートが大好きなあなたへのサービスなのですから……」
若菜「どういうことですか?」
喪黒「これからあなたは、1980年代後半のデパートで働くのですよ。この店のエレベーターガールとなって……」
若菜「私が……ですか!?」
喪黒「そうです。日本経済の黄金時代だった1980年代後半は、デパートもまた輝いていました」
「繁栄していたころのデパートのお仕事を、水島さんは経験できるというわけです」
若菜「ま、まるで夢のような体験ですね……」
喪黒「そろそろ着替えを済ませてください。あなたのお仕事は重要ですからねぇ」
更衣室。若菜がロッカーを開けると、中には、この店のエレベーターガールの制服が入っている。
若菜(これが私の制服……)
11:2018/11/30(金) 22:41:29.075
エレベーターの中にいる喪黒と若菜。若菜は、エレベーターガールの制服に身を包んでいる。
喪黒「ホーッホッホッホ……。よく似合っていますよ。水島さん」
若菜「何だか緊張してきましたよ……」
喪黒「大丈夫です。あなたなら、今日のお仕事をやり遂げることができますよ」
午前。開店するほんごう東都店。店の中に入る大勢の客たち。80年代後半のファッションをした女性客。
エレベーター前の自動ドアが開く。エレベーターに入る客たち。エレベーターの中には、制服姿の若菜がいる。
若菜「上へまいりまーす」
エレベーターのボタンを押す若菜。エレベーターは、次第にへ上へ向かっていく。
若菜(私は、この店のエレベーターガールなんだ……)
とある上の階。エレベーターに乗り込む客たち。若菜がエレベーターのボタンを押す。
若菜「下へまいりまーす」
喪黒「ホーッホッホッホ……。よく似合っていますよ。水島さん」
若菜「何だか緊張してきましたよ……」
喪黒「大丈夫です。あなたなら、今日のお仕事をやり遂げることができますよ」
午前。開店するほんごう東都店。店の中に入る大勢の客たち。80年代後半のファッションをした女性客。
エレベーター前の自動ドアが開く。エレベーターに入る客たち。エレベーターの中には、制服姿の若菜がいる。
若菜「上へまいりまーす」
エレベーターのボタンを押す若菜。エレベーターは、次第にへ上へ向かっていく。
若菜(私は、この店のエレベーターガールなんだ……)
とある上の階。エレベーターに乗り込む客たち。若菜がエレベーターのボタンを押す。
若菜「下へまいりまーす」
13:2018/11/30(金) 22:43:33.733
社員食堂。食事をする若菜。彼女の側に、エレベーターガールの先輩・藤谷桃子が寄ってくる。
桃子「あら、あなた新人?名前何て言うの?」
若菜「わ、私ですか……。私は水島若菜と言います……」
桃子「ふぅん、あなた水島さんなんだ……。私は藤谷桃子。よろしく」
午後。エレベーターの中にいる客たちと若菜。若菜は、やる気に満ちた顔をしている。
若菜(私の今の仕事が、多くの人たちのために役に立っている……。ようし、頑張らなくっちゃ!)
夜。エレベーターガールの仕事を終え、廊下を歩く若菜。若菜は、この店の男性従業員とすれ違う。
男性従業員「君が水島さんか……。君、お客様からの評判がよかったそうだぞ」
若菜「ほ、本当ですか……。あ、ありがとうございます……」
更衣室。ロッカー前で制服を脱ぎ、スーツに着替える若菜。
桃子「あら、あなた新人?名前何て言うの?」
若菜「わ、私ですか……。私は水島若菜と言います……」
桃子「ふぅん、あなた水島さんなんだ……。私は藤谷桃子。よろしく」
午後。エレベーターの中にいる客たちと若菜。若菜は、やる気に満ちた顔をしている。
若菜(私の今の仕事が、多くの人たちのために役に立っている……。ようし、頑張らなくっちゃ!)
夜。エレベーターガールの仕事を終え、廊下を歩く若菜。若菜は、この店の男性従業員とすれ違う。
男性従業員「君が水島さんか……。君、お客様からの評判がよかったそうだぞ」
若菜「ほ、本当ですか……。あ、ありがとうございます……」
更衣室。ロッカー前で制服を脱ぎ、スーツに着替える若菜。
14:2018/11/30(金) 22:45:21.759
夜の街を走るタクシー。タクシーの後部座席には、喪黒と若菜が座っている。
若菜「ありがとうございます、喪黒さん……。今日は、本当に貴重な経験ができました」
喪黒「どういたしまして、水島さん……」
若菜「私の仕事が、みんなのために役に立っていると実感できましたし……。それに、周りも私のことを認めてくれて……」
「こんなにうれしいことはないです」
喪黒「これはこれは……。あなたが喜んでいただいて、実に何より……」
「ですが、水島さん……。あなたには、私と約束していただきたいことがあります」
若菜「約束!?」
喪黒「そうです。あなたが80年代のほんごう東都店で働くのは、今回のたった1度きりにしておいてください」
若菜「は、はい……」
喪黒「私が水島さんに今回のお仕事を紹介したのは、失業したあなたの心に整理をつけるためです」
「だから、約束はしっかり守ってくださいよ」
若菜「わ、分かりました……。喪黒さん」
若菜「ありがとうございます、喪黒さん……。今日は、本当に貴重な経験ができました」
喪黒「どういたしまして、水島さん……」
若菜「私の仕事が、みんなのために役に立っていると実感できましたし……。それに、周りも私のことを認めてくれて……」
「こんなにうれしいことはないです」
喪黒「これはこれは……。あなたが喜んでいただいて、実に何より……」
「ですが、水島さん……。あなたには、私と約束していただきたいことがあります」
若菜「約束!?」
喪黒「そうです。あなたが80年代のほんごう東都店で働くのは、今回のたった1度きりにしておいてください」
若菜「は、はい……」
喪黒「私が水島さんに今回のお仕事を紹介したのは、失業したあなたの心に整理をつけるためです」
「だから、約束はしっかり守ってくださいよ」
若菜「わ、分かりました……。喪黒さん」
15:2018/11/30(金) 22:47:26.857
会社A。スーツ姿の若菜が、数人の社員たちを前に面接に臨んでいる。会社Bでも就職面接を行う若菜。
さらに、会社C、会社D、会社E……と若菜の就職面接は続く。暗い表情で街の中を歩く若菜。
若菜(あーーあ……。これで30社以上も不採用か……。せっかく、正社員になろうと思ったのに……)
とある会社。正面入口の受付にいる若菜。彼女は来客の応対をしている。
若菜(私は受付嬢をしているけど……。今の私は派遣社員だから、正社員より給料が安いんだよね……)
休憩室で弁当を食べる若菜。一方、社員食堂では、正社員たちが日替わり定食を食べている。
若菜(私は派遣社員だから、社員食堂を利用することもできない……)
廊下を歩く若菜。彼女が正社員とすれ違う。
若菜「お疲れ様でーす」
正社員「派遣君、お疲れさん」
若菜(今の私は『派遣君』か……。これが、現在の私の待遇なんだ……)
さらに、会社C、会社D、会社E……と若菜の就職面接は続く。暗い表情で街の中を歩く若菜。
若菜(あーーあ……。これで30社以上も不採用か……。せっかく、正社員になろうと思ったのに……)
とある会社。正面入口の受付にいる若菜。彼女は来客の応対をしている。
若菜(私は受付嬢をしているけど……。今の私は派遣社員だから、正社員より給料が安いんだよね……)
休憩室で弁当を食べる若菜。一方、社員食堂では、正社員たちが日替わり定食を食べている。
若菜(私は派遣社員だから、社員食堂を利用することもできない……)
廊下を歩く若菜。彼女が正社員とすれ違う。
若菜「お疲れ様でーす」
正社員「派遣君、お疲れさん」
若菜(今の私は『派遣君』か……。これが、現在の私の待遇なんだ……)
16:2018/11/30(金) 22:49:28.864
夜の街を歩く若菜。彼女の頭の中に、ほんごう東都店での光景が思い浮かぶ。
エレベーターガールとして生き生きしていた自分……。自分の仕事ぶりを認めてくれた従業員たち……。
次に、彼女の頭の中に喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「あなたが80年代のほんごう東都店で働くのは、今回のたった1度きりにしておいてください」)
若菜(……ううん!私はどうしても、あの店でもう1度働きたい!今の生活は、さすがに耐えられない……!)
ある朝。例の駅。タクシー乗り場にいるスーツ姿の若菜。タクシーの自動ドアが開く。
若菜「あの、すみません……。ほんごう百貨店の東都店まで行きたいんですけど……。行くことができますか?」
運転手「ほんごう百貨店の東都店ですか……。うーーん……。一応、行くことはできますけど……」
タクシーに乗り込む若菜。道路を走り続け、あのトンネルの中をくぐり抜けるタクシー。
若菜(見えてきた、この街並みだ……。今の私は1980年代後半の東京にいる。これで、もう1度あそこへ行けるんだ……)
エレベーターガールとして生き生きしていた自分……。自分の仕事ぶりを認めてくれた従業員たち……。
次に、彼女の頭の中に喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「あなたが80年代のほんごう東都店で働くのは、今回のたった1度きりにしておいてください」)
若菜(……ううん!私はどうしても、あの店でもう1度働きたい!今の生活は、さすがに耐えられない……!)
ある朝。例の駅。タクシー乗り場にいるスーツ姿の若菜。タクシーの自動ドアが開く。
若菜「あの、すみません……。ほんごう百貨店の東都店まで行きたいんですけど……。行くことができますか?」
運転手「ほんごう百貨店の東都店ですか……。うーーん……。一応、行くことはできますけど……」
タクシーに乗り込む若菜。道路を走り続け、あのトンネルの中をくぐり抜けるタクシー。
若菜(見えてきた、この街並みだ……。今の私は1980年代後半の東京にいる。これで、もう1度あそこへ行けるんだ……)
17:2018/11/30(金) 22:51:42.485
ほんごう東都店。若菜はタイムレコーダーの中に、タイムカードを入れる。
若菜(よし……。このタイムカードはまだ使える……)
開店中のほんごう東都店。エレベーターガールの制服を着た若菜が、客たちとともにエレベーターに乗っている。
若菜「上へまいりまーす」
とある上の階。エレベーターの自動ドアから出てくる客たち。彼らと入れ替わりに、エレベーターの中へ喪黒が入る。
喪黒と若菜の2人だけになったエレベーター内。
喪黒「水島若菜さん……。あなた約束を破りましたね」
若菜「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに忠告しました。水島さんがこの店で働くのは、たった1度だけにしておけ……と」
「にも関わらず……。あなたは今、再びここでエレベーターガールをしていますねぇ」
若菜「だ、だって喪黒さん……!この店での私は、仕事でみんなのために役に立つことができましたし……」
「周りの人たちも、私の仕事ぶりを認めてくれたんですよ!だから、もう1度この仕事をしてもいいでしょう!!」
若菜(よし……。このタイムカードはまだ使える……)
開店中のほんごう東都店。エレベーターガールの制服を着た若菜が、客たちとともにエレベーターに乗っている。
若菜「上へまいりまーす」
とある上の階。エレベーターの自動ドアから出てくる客たち。彼らと入れ替わりに、エレベーターの中へ喪黒が入る。
喪黒と若菜の2人だけになったエレベーター内。
喪黒「水島若菜さん……。あなた約束を破りましたね」
若菜「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに忠告しました。水島さんがこの店で働くのは、たった1度だけにしておけ……と」
「にも関わらず……。あなたは今、再びここでエレベーターガールをしていますねぇ」
若菜「だ、だって喪黒さん……!この店での私は、仕事でみんなのために役に立つことができましたし……」
「周りの人たちも、私の仕事ぶりを認めてくれたんですよ!だから、もう1度この仕事をしてもいいでしょう!!」
18:2018/11/30(金) 22:54:17.734
喪黒「……私はこう言ったはずですよ」
「私が水島さんにこの仕事を紹介したのは、失業したあなたの心に整理をつけるためだ……と」
若菜「喪黒さん、私にだって言い分があります!現実の私は、正社員になろうと就職活動をしたものの……、どこも不採用でした」
「やっと手に入れた派遣の仕事は……、待遇が低くて周りから認めて貰えず、使い捨ての身分……。私だって辛いんですよ!」
喪黒「そうですか……。あなたはどうしても、この店にいたいのですね!?」
若菜「はい!!できることなら、これからもずっとこの店で働き続けたいくらいですよ!!」
喪黒「分かりました……。水島さんの望みをかなえてあげましょう!!ただし、あなたの妄想の中で……ね」
喪黒は若菜に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
若菜「キャアアアアアアアアアアア!!!」
2010年代末の東京。立ち並ぶビル群と、道を歩く通行人たち。
ビルはどれも何かの形で利用されており、建物の中は活気に満ちている。ただ、1つを除いて――。
「私が水島さんにこの仕事を紹介したのは、失業したあなたの心に整理をつけるためだ……と」
若菜「喪黒さん、私にだって言い分があります!現実の私は、正社員になろうと就職活動をしたものの……、どこも不採用でした」
「やっと手に入れた派遣の仕事は……、待遇が低くて周りから認めて貰えず、使い捨ての身分……。私だって辛いんですよ!」
喪黒「そうですか……。あなたはどうしても、この店にいたいのですね!?」
若菜「はい!!できることなら、これからもずっとこの店で働き続けたいくらいですよ!!」
喪黒「分かりました……。水島さんの望みをかなえてあげましょう!!ただし、あなたの妄想の中で……ね」
喪黒は若菜に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
若菜「キャアアアアアアアアアアア!!!」
2010年代末の東京。立ち並ぶビル群と、道を歩く通行人たち。
ビルはどれも何かの形で利用されており、建物の中は活気に満ちている。ただ、1つを除いて――。
20:2018/11/30(金) 22:57:45.437
とある廃墟。ここはかつて、ほんごう東都店が入居していた建物だ。入り口の自動ドアは、完全に閉じられている。
明かりがついておらず、暗いままの建物の中。売り物が全て撤去され、ケースだけが残った室内。
そして、動かなくなったエレベーターでは……。真っ暗闇の中、エレベーターガールの制服を着た若菜が一人で座り込んでいる。
食事をしない状態が続き、痩せ衰えた若菜。彼女は衰弱した状態のまま、独り言を言い続けている。
若菜「上でございます……。上へまいります……。下でございます……。下へまいります……」
狂気の宿った目つきで、妖しい笑みを浮かべる若菜。廃人化した若菜は、妄想の中でエレベーターガールとして働いているようだ。
とある百貨店の前にいる喪黒。
喪黒「近現代の日本は、全国各地の都市部にデパートが進出していき……。経済の成長とともに、店舗も発展していきました」
「かつてのデパートは、流行文化の発信地としての役割を果たしましたし……。多くの日本人の憧れの場所でもありました」
「しかし、隆盛を極めたデパート産業も、今は衰退のただ中にありますし……。日本各地では店舗の閉鎖が相次いでいます」
「そもそも、いかなる産業であっても繁栄の後は必ず衰退が訪れますし……。デパート産業もその例外ではないわけです」
「衰退し続けるデパート産業と、デパート文化に憧れ続けた水島若菜さん……。どちらも仲良く滅びつつあるようですねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
明かりがついておらず、暗いままの建物の中。売り物が全て撤去され、ケースだけが残った室内。
そして、動かなくなったエレベーターでは……。真っ暗闇の中、エレベーターガールの制服を着た若菜が一人で座り込んでいる。
食事をしない状態が続き、痩せ衰えた若菜。彼女は衰弱した状態のまま、独り言を言い続けている。
若菜「上でございます……。上へまいります……。下でございます……。下へまいります……」
狂気の宿った目つきで、妖しい笑みを浮かべる若菜。廃人化した若菜は、妄想の中でエレベーターガールとして働いているようだ。
とある百貨店の前にいる喪黒。
喪黒「近現代の日本は、全国各地の都市部にデパートが進出していき……。経済の成長とともに、店舗も発展していきました」
「かつてのデパートは、流行文化の発信地としての役割を果たしましたし……。多くの日本人の憧れの場所でもありました」
「しかし、隆盛を極めたデパート産業も、今は衰退のただ中にありますし……。日本各地では店舗の閉鎖が相次いでいます」
「そもそも、いかなる産業であっても繁栄の後は必ず衰退が訪れますし……。デパート産業もその例外ではないわけです」
「衰退し続けるデパート産業と、デパート文化に憧れ続けた水島若菜さん……。どちらも仲良く滅びつつあるようですねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
21:2018/11/30(金) 22:58:58.841 ID:Qq9S7mNC0.net
可哀想だけど妄想のなかでは幸せなんだろうな
乙
乙
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