1: 2011/01/02(日) 17:30:00.60 ID:tlDmDG0f0
下級魔族「あ、あっしが……でやんすか?」

中級魔族「うむ。魔王様、直々の御指名だ」

下級魔族「あの……どういった御用なんでやしょう?」

中級魔族「知らぬ。私は貴様を連れて来いと命ぜられただけだ」

下級魔族「は、はあ……分かりやした」

中級魔族「では行くぞ」

2: 2011/01/02(日) 17:33:27.35 ID:tlDmDG0f0
下級魔族(名も無え下級魔族のあっしに、何の御用があるってんでしょう……?)

中級魔族「……」ザッザッ

下級魔族(うひゃあ、魔王城の中なんて、初めて入っちまった……)

中級魔族「……」ザッザッ

下級魔族(うう……まわりはみんな、中級以上の魔族ばかり)

中級魔族「この上に魔王様がおられる」

下級魔族(正直、胃が痛い……)

中級魔族「……おい、聞いているのか?」

下級魔族「へ、へいっ! 聞いておりやす! へへへ……」

中級魔族「ここからは貴様一人で来いとの御命令だ」

下級魔族「あ、あっし一人でですかい!?」

中級魔族「そうだ……くれぐれも失礼の無いようにな」

下級魔族「へ、へいっ!」
      (本当に、何の御用なんでしょうねえ……?)

4: 2011/01/02(日) 17:36:23.82 ID:tlDmDG0f0
―― 謁見の間

下級魔族(広い……。しかし誰もいやしないでやんす……?)

??『楽にするがいい……』

下級魔族「ひえっ!? どこから声が!?」

??『汝の目の前におるぞ……』

下級魔族(目の前って、誰も座っていない玉座しか……ああっ!?)

??『私が見えるか……?』

下級魔族(いた……! 「いる」事に、あっしが「気がつけなかった」だけだ!
       あまりにも強大過ぎる魔力……!
       それを恐れるあっしの心が、その存在を見る事を「拒否」した……!
       な、なんてえ事だ……流石、魔王様……!)

魔王『直答を許す……我と少しばかり話をしよう……』

下級魔族「へ、へへえぇぇぇっ!」

5: 2011/01/02(日) 17:39:45.95 ID:tlDmDG0f0
魔王『名は、何と申す……?』

下級魔族「うへっ! あ、あっしら下級魔族は、御存知のとおり、一人一人に名前などつけません!
       力が強い奴や頭がいい奴は、自分で名乗ったり他から付けられたりしやすが。
       あっしのような、なんの取り柄も無い奴は……へへへ」

魔王『ふむ……。では、汝はこれから「カマ」と名乗るが良い』

下級魔族(以下・カマ)「へへえぃっ! 魔王様から直々にお名前を賜るとは光栄の極み!」
               ありがたき幸せでさぁっ!

魔王『さて……話を始めよう……』

カマ「へ、へいっ!」

魔王『率直に言おう……汝の肉体を我に献上せよ……』

カマ「へ? あ、あのそれはどういう……?
   い、いいえ、何も断ろうなんて了見じゃ御座いやせんっ!
   ……けど、魔王様なら何もあっしに断りを入れなくとも宜しいのでは、と……」

魔王『それが、そうもいかんのだ……』

カマ「はあ……?」

6: 2011/01/02(日) 17:43:31.86 ID:tlDmDG0f0
魔王『実は、我のこの肉体は随分と古いものでな……』

カマ「ま、まあ何万年も存在しておられる魔王様の御身体ですからねぇ……」

魔王『そこでだ……今の肉体に代わる、新しい肉体を探しておったのだ……』

カマ「へえ、そうだったんでやんすか……って、もしかして!?」

魔王『そう……汝の肉体が欲しいのだ……』

カマ「そ、そりゃあ本当ならとても誇らしい事でやんすけど!
   あっしは下級魔族ですよ?
   魔力も、力も弱い……」

魔王『分かっておる……。
    しかし、現在の所、我の魂と上手く同調する肉体は、汝のみなのだ……』

カマ「はあ……分かりました。
   早速、あっしの肉体をお取りになって下さいませ」

魔王『そう急くでない……。
    汝の肉体は、我の器としては適合しておる……。
    が、しかしまだ不完全であるのだ……』

カマ「へえ……」

魔王『よって汝はこれから修行の旅に出よ……。
    我の器として相応しい成長を遂げ、帰ってくるのだ……』

カマ「へえっ! しゅ、修行の旅、ですかい……!?」

7: 2011/01/02(日) 17:46:43.34 ID:tlDmDG0f0
魔王『うむ……より強く……より賢く……我の為に……』

カマ「あっしが、旅を……」

魔王『これを授けておこう……』

カマ「こりゃあ凄い! 黒いダイアモンドですかい!
   ……なんて大きな、そして強い魔力が渦巻いてるんだ!」

魔王『その宝玉を見せれば、中級以上の魔族は汝に力を貸すだろう……』

カマ「へ、へえっ」

魔王『もう一つ……我の肉体の事は口外してはならぬ……』

カマ「そうでしょうねえ。魔王様の御身体に関わる事ですから……。
   承知しました!」

魔王『では行けい……我は成長した汝の帰りを望んでおる……』

カマ「へ、へいっ! では、行って参ります!」



魔王『ふむ……奴は、この試練を果たせるだろうか……?
    もしも……果たせなければ……我ら魔族は……』

13: 2011/01/02(日) 18:01:37.07 ID:tlDmDG0f0
カマ「さてと……何から始めればいいのやら……」

中級魔族「おい。魔王様への謁見は済んだようだな」

カマ「へ、へい」

中級魔族「どんな御用だったのだ?」

カマ「ええと、あっしに修行の旅に出るようにとの仰せで、へい」

中級魔族「貴様のような下級魔族を旅に?
       どういう訳か話せ!」

カマ「へ、へい! いや、駄目でやんす! 言えねえんでさあ!」

中級魔族「貴様……私の質問に答えられないと言うのか?」

カマ「いえっ、あの……そうだ! この宝玉をご覧下さい!」

中級魔族「これは……!? 何故、貴様がこのようなものを!?」

カマ「魔王様から頂いたんでさあ。すいやせん、さっきの質問には答えられやせん!」

中級魔族「うむむ……この宝玉を持つ者には無理強いはできんな」

カマ「それはどういう事ですかい?」

15: 2011/01/02(日) 18:09:47.19 ID:tlDmDG0f0
中級魔族「それは魔王様の魔力の欠片。その宝玉を持つ者は、魔王様に認められた者とも言える」

カマ「ひえ! 滅相も無い! あっしはただの下級魔族でさあ!
   も、もしかして、この宝玉を狙って魔族仲間が襲ってきたりしやせんかい!?」

中級魔族「それはないだろう。
       その宝玉の意味を知る者にとっては、魔王様に歯向かう事と同じになるからな」

カマ「じゃ、安心って事ですかい」

中級魔族「しかし、意味を知らぬ者には奪いたくなる宝に見えるやも知れん」

カマ「へえっ!」

中級魔族「まあ、衣服に隠して肌身離さず持っておく事だな」

カマ「分かりやした……」

中級魔族「それで、貴様は旅に出るそうだな」

カマ「へえ」

中級魔族「魔族の支配する領域は意外と狭い。
       人間などに出くわすと厄介なことになろう」

カマ「奴ら、弱いから大勢でまとまってますからねえ」

中級魔族「そこでだ。私を連れて行かないか?」

カマ「へっ?」

20: 2011/01/02(日) 18:20:11.35 ID:tlDmDG0f0
中級魔族「私は剣の腕はかなりのものだ。旅の仲間には最適だと思うが」

カマ「仲間! 仲間ですって!
   恐れ多いでさあ! あっしは下級魔族! 子分としてなら分かりやすが、仲間だなんて!」

中級魔族「貴様は魔王様に認められた証である宝玉を持っている。
       そしてその意味を知る者は、持ち主に協力をしなければならない。
       私は私自身の意志で、貴様と旅に出たいのだ。
       無論、貴様を唯の下級魔族として扱うわけにはいかん。
       だから、対等な仲間としてついて行きたい」

カマ「ひーっ! ひーっ! 心臓が破れそうでさあ!
   後生ですから、子分や手下にしてくれませんかねえ!」

中級魔族「ならぬ。それどころか、貴様は旅の中心なのだから、リーダーとして振舞うべきだぞ?」

カマ「ひっ! ひっ! もう、御勘弁を! それだけはっ! ひっ!」

中級魔族「……今更ながらに思うが、下級魔族の卑屈さは呆れるものだな」

カマ「呆れられても結構です!」

中級魔族「まあ、よい。私自身が相応の振る舞いをすればいいのだからな」

カマ「へっ、へへいっ!」

中級魔族「まあ、宜しく頼む」

カマ「……ああ、結局、御同行される事になっちまいましたか」

24: 2011/01/02(日) 18:30:58.69 ID:tlDmDG0f0
中級魔族「では改めて自己紹介をしておこう。
       私の名はチューゾ。オーガ族が長の娘、粉砕のチューゾだ」

カマ「へえっ! あっしはゴブリン族の、ええと、カマ、カマと申しますです、へえっ!」

チューゾ「ほう……下級魔族だが名前持ちか。
      何か特技があるのか? それとも血筋か?」

カマ「いえ! いえ! 魔王様から賜れた名前でさあ!
   あっしは、ホントに碌な長所も無い、唯の下級魔族なんです、へえっ!」

チューゾ「ふむ……魔王様から、な」

カマ「へえ! へえ!」

チューゾ「……まあ、よい。早速だが、カマよ。旅立つ用意をするのだな」

カマ「へ、へえっ! 寝ぐらに行って、荷物をまとめてきやす!」



チューゾ(魔王様は何を考えておられるのだろう?
      あのような下級魔族に、お目をかけるなど、ついぞ聞いた事が無い。
      私が奴の傍にいる事で、何か分かるかもしれん……)

28: 2011/01/02(日) 18:40:00.11 ID:tlDmDG0f0
――

カマ「へえ! 遅れましてすいやせん!」

チューゾ「……その格好は何だ?」

カマ「へえ? 旅の支度ですが……」

チューゾ「ボロの袋を一つ持っただけか?
      その服……というより腰に布を巻きつけただけで旅をする気か?」

カマ「へえ。時々、人間の村を襲う時など、これで充分でしたが。へえ」

チューゾ「……今回は襲撃ではなく、修行の旅だ。
      人間と無駄に戦いに行くわけではないのだろう?
      仕方が無い、私の屋敷から適当なものを見繕って持ってゆくがいい」

カマ「ひーっ! お、恐れ多い事で! そんな、貴方様の持ち物を、あっしなんぞに、ひっ!」

チューゾ「……何だか適当なゴブリンの頭を叩き壊したくなってきたなあ」

カマ「ひえっ! 分かりました、分かりました! お世話になります、へい!」

チューゾ「全く……」

カマ「すいやせん! すいやせん!」

30: 2011/01/02(日) 18:48:37.67 ID:tlDmDG0f0
――

チューザ「ふむ。何とか人間の子供に見えん事も無い」

カマ「こんな上等な布切れ、触った事ありやせん!」

チューザ「布切れではない、衣服だ」

カマ「へい! すいやせん!」

チューザ「後は……武器だな」

カマ「へえ。あっしは爪と噛み付きしかできやせんが?」

チューザ「なに、使えなくともよいのだ。持っているだけでハッタリにはなる。
      ……これが良いか」

カマ「へへ? こりゃ綺麗な短剣でやんすね!
   ……いいんですか、あっしにこんな良いものを?」

チューザ「別段、良い武器ではない。私たちはあまり使わない物だしな」

カマ「では、少しの間、お借りします、へい!」

チューザ「やるよ。というか旅がそんなに早く終わるとは限らんだろう?」

カマ「あ、ありがとうございやす、へえ!
   ……やっぱり、旅は長くなりやすかねえ?」

31: 2011/01/02(日) 18:59:42.54 ID:tlDmDG0f0
チューザ「修行の旅、という事なら貴様が強くならねばならん」

カマ「へい! ……自信ありやせん!」

チューザ「自信が無い事を自信たっぷりに言うな。
      ……しかし、貴様の言う事も最もだ。
      強きゴブリンなど聞いた事が無い」

カマ「でやんしょ? どうしたら強くなれるんでしょうかねえ?」

チューザ「ふむ。ここから東に十日歩いた所に、人間の小さな集落がある。
      そこの奴らを相手に戦えば、少しは鍛錬になるだろう」

カマ「ひえっ! あっしとチューザ様の二人だけで人間の集落を襲うんでやんすか! ひっ!」

チューザ「歩いて十日間ある。
      私が貴様に、戦い方を教えてやる。
      言っておくが、あの集落程度なら、私一人で全滅させるのは簡単なんだ」

カマ「流石、中級魔族! オーガ族の長の娘様でさあ! あっし、安心しやした!」

チューザ「お前の修行なんだから、半分くらいは貴様が殺せ。いいな?」

カマ「ひっ! 集落の人間の数はどのくらいで?」

チューザ「三十人、といったところか」

カマ「三十人! ひっ! 半分で十人! ひーっ!」

チューザ「……十五人だからな?」

32: 2011/01/02(日) 19:17:25.20 ID:tlDmDG0f0
――

カマ「ひーっ! 死んじまいますって! チューザ様!」

チューザ「このくらいの攻撃で死ぬか! 訓練だぞ!」

カマ「当たったら死んじまいます! ひーっ!」

――

チューザ「こら! 逃げるな!」

カマ「そのでかい斧を振り回されて、逃げるなって言うほうが無茶でやんすっ!」

チューザ「これをかいくぐって私に攻撃してみろ!」

カマ「無理でやんす! ひっ! ひっ!」

――

カマ「……」

チューザ「その、済まん。生きてるか?」

カマ「危うく首と胴体がさよならするところだったでやんす……」

チューザ「まあ、寸止めできたから良しとしよう」

カマ「あっし、集落に着く前に死ぬんじゃないでしょうか……」

35: 2011/01/02(日) 19:24:23.64 ID:tlDmDG0f0
――

チューザ「着いたな」

カマ「ここが例の人間の集落でやんすね」

チューザ「丁度、いい具合に夜中だ。奴らは寝静まっているだろう」

カマ「じゃ、鶏でもかっぱらってきます。へい」

チューザ「何でだ。奇襲をかけるんだ」

カマ「う、ううん」

チューザ「行くぞ! ついて来い!」

カマ「へ、へい!」

――

村人「何? 魔族だと!」

チューザ「私の戦斧の錆になりな!」

カマ「ひっ! 人間が左右真っ二つに!」

チューザ「さあ、派手に暴れようじゃないか! くはははははっ!」

カマ「チューザ様……大声出したら奇襲じゃないでやんす……」

39: 2011/01/02(日) 19:35:45.53 ID:tlDmDG0f0
チューゾ「ほらほらほぉら! 私に勝てる奴はいないのかい!」

人間「ぎゃああああ!」

人間「ぐっ……強すぎる!」

――

カマ「ええと……」

人間の子供「きゃっ!」

カマ「子供かあ! こいつなら、あっしにも!」

人間の子供「いやああっ!」

カマ「糞っ、なかなか死なないでやんす! えいっ! えいっ!」

人間の子供「お……母……ちゃ……」

カマ「やった! 殺したでやんす! お次は……」

人間の赤ん坊「ほんぎゃー! ほんぎゃー!」

カマ「二人目、ざっくりといくでやんす!」

人間の赤ん坊「ほん……」

カマ「赤子の手をひねるより簡単でやんす! へっへっ!」

40: 2011/01/02(日) 19:43:02.06 ID:tlDmDG0f0
――

チューゾ「あらかた片付いたようだね……」

カマ「チューゾ様! チューゾ様!」

チューゾ「カマ。貴様は何人殺した?」

カマ「九人でやんす! なぁに、軽いもんでした!」

チューゾ「どれどれ……貴様、子供ばかりじゃないか!」

カマ「殺しやすかったでやんすよ」

チューゾ「……剣持ってる相手とは言わんが、せめて大人を殺してほしかった」

カマ「人間は人間でしょう? 違いがあるんでやんすか?」

チューゾ「大有りだ。抵抗できない相手を殺しても、強くはなれない。
      自分を殺しにかかってくる奴と戦って、殺してこそ強くなれる。
      貴様は、腑抜けか?」

カマ「……ゴブリン族は、こういった戦いしかできねえんでやんすよ」

チューゾ「貴様は、その考え方を直す事から始めなければならない。
      自分より強い相手に向かっていく度胸を身につけるんだ。
      でないと魔王様の言う修行にはならない。
      よく覚えておけ」

カマ「はあ……」

41: 2011/01/02(日) 19:53:53.97 ID:tlDmDG0f0
カマ「まあ、それはともかくとして……腹が減ったでやんすね」

チューゾ「あっちに食料庫らしい小屋があったな」

カマ「へっへっ! 食い物はここにありまさ! へっ!」

チューゾ「それもそうか」

カマ「んじゃ、あっしが料理をしますんで、へい」

チューゾ「貴様、料理なんてできたのか?」

カマ「ゴブリン族は大概、料理はできまさ。チューゾ様のお口に合うか分かりませんがね、へっ!」

――

チューゾ「……食った食った。腹一杯だ」

カマ「御気に召されたようで何よりでさ」

チューゾ「私たちオーガ族は、生で食べるのが普通だが……焼いたり煮たりも、いいものだな」

カマ「へっ! お褒めに預かり光栄です! へへっ!」

チューゾ「それは?」

カマ「これからの旅に備えての保存食でさ。ここに来る時みたいに、獣が狩れるとは限らねえですからね」
   (もし獣が狩れなかったら……あっしがチューザ様に食われちまうかもしれねえし)

44: 2011/01/02(日) 20:02:44.42 ID:tlDmDG0f0
――

チューゾ「ここからは本当に魔族の領域を離れる。人間に気をつけねばな」

カマ「チューゾ様がいれば、鬼に金棒でさ! へへっ!」

チューゾ「そうもいかん。貴様がちゃんと戦えるようにならないといかんし、それに……」

カマ「それに?」

チューゾ「冒険者どもが出てきたら、私でも厄介だ」

カマ「冒険者……あっしたち魔族を、殺しまくる人間連中でやんすね?」

チュ-ゾ「ああ。奴らは普通の人間より強い。
      武器の扱い、鎧、そして魔術も使う」

カマ「あっしはまだ出会った事がないんでよく分かりやせんが、チューゾ様でも手こずるほどのもんですかい?」

チューゾ「私の父は、冒険者にやられたんだ」

カマ「え……」

チューゾ「父はオーガ族の長として、一人で戦った。
      しかし、数人の冒険者に、その命を奪われたのだ……」

カマ「泣ける話じゃありませんか。御父上はさぞ御立派だったんでやしょうなあ……。
   そんな御方を殺した冒険者どもめ! あっしが成敗してくれる!」

チューゾ「……今のお前には無理だ」

46: 2011/01/02(日) 20:15:00.24 ID:tlDmDG0f0
―― 人間の街

チューゾ「そんなにびくびくしなくとも大丈夫だ」

カマ「しかし、しかしですよ? 魔族が人間の街に入ってただで済むはずがないじゃありやせんか!」

チューゾ「声が大きい! ……私はフードとマントで角を隠してるし、
      貴様も人間が着る様な衣服をまとっている。そうそうバレはしない」

カマ「……正直、生きた心地がしないでやんすよ」

チューゾ「ん? あの看板は……」

 【仮装武術大会開催! 我こそはと思わんものは出場せよ!】

チューゾ「ふうん……」

カマ「あっしには字なんて読めねえですよ、ねえ、何て書いてあるんでやすか?」

チューゾ「良い事が書いてあるんだよ、良い事が」

カマ「?」

チューゾ「ちょっとそこの。この看板の、どんな仮装でもいいのか?」

街の人「ああ。魔物や魔族でもいいし、吟遊詩人の歌に出てくる英雄の格好でもいい」

チューゾ「ふむふむ。ありがとう」

カマ「???」

49: 2011/01/02(日) 20:26:33.30 ID:tlDmDG0f0
―― 仮装武術大会・一回戦

カマ「聞いてないでやんす! 武術大会なんて!」

チューゾ「良い機会なんだよ。相手は殺す気ではないけどそれなりに本気だし、
      貴様の腑抜けた根性を叩き直すには、実際に格上の相手と戦り合うのが一番だ」

カマ「魔族だバレたら殺されちまいやすよ!」

チューゾ「だからこその仮装だ。私はセコンドとしてついてるから、貴様の肌や牙、爪は仮装だと主張し続ける。
      貴様はその短剣……刃にはカバーがかけてあるけど、それで相手を叩きのめせばいいんだ」

カマ「へっへっ……降参があるだけ、マシと思えばいいんでやしょうか……」

チューゾ「降参したら殺す」

カマ「へっ? で、でも……」

チューゾ「貴様が試合場から降りる時は、相手に気絶させられた時のみだ。
      できれば優勝しろ」

カマ「そんな殺生な!」

チューゾ「魔王様が修行の旅だと仰ったのだろう?
      これくらいでビビってて強くなれるか!」

カマ「う、ううう……」

大会委員「カマ選手、出番です」

57: 2011/01/02(日) 21:42:46.62 ID:tlDmDG0f0
―― 試合場

カマ「に、人間がいっぱいでやんす……」


審判「カマ選手、仮装は、ゴブリンー!」

観客「ゴブリンて! メイク気合入れ過ぎだろ!」

観客「うわっ、気持ち悪ー」

観客「以外に素顔だったりしてな! ガハハ!」


審判「対するキーザ選手、仮装は、英雄メシアン!」

観客「……格好良い!」

観客「キャー! キーザ選手、素敵ー!」

観客「物腰も素人じゃないな。かなりの達人だぞ!」


キーザ「ふ……カマ選手。正々堂々、良い試合をしようじゃないか!」

カマ「あ、へい! 宜しく頼んます!」


審判「では……第一回戦、始めっ!」

58: 2011/01/02(日) 21:48:33.11 ID:tlDmDG0f0
キーザ「はあああっ!」

カマ「ひいいいっ!」

キーザ「せいっ!」

カマ「あひぃっ!」


観客「逃げてばかりでどうするんだよー!」

観客「本物のゴブリンみたいじゃねーか!」

観客「キーザ選手、抱いてー! きゃー!」

カマ(こ、こりゃあ駄目でやんす! 絶対に負けるでやんす! 怪我したくないし、もう降参を……!)


チューゾ「……」


カマ(それも無理でやんす! チューゾ様に殺されるでやんす!)

キーザ「ほらほら、避けてばかりじゃ勝てないよ!」

カマ「避けなくても勝てないでやんすよ!」

キーザ「ハハッ! セイッ!」

カマ「ぐふっ……!」

60: 2011/01/02(日) 21:56:25.28 ID:tlDmDG0f0
カマ(刃を潰した剣で、この威力……うん、もう駄目。駄目でやんすよ)

キーザ「おやおや? 逃げるのを止めたね? 攻撃する気になったかな?」

カマ「……逃げないし、降参もしないでやんす。やるんならさっさとお願いするでやんす」

キーザ「はあ?」


審判「おおっと! カマ選手、滅多打ちだーっ!」


キーザ「このっ! このっ! どうだっ! せいやっ!」

カマ「ぐおっ! げぉっ! がふっ! ぼるんっ!」


観客「馬鹿だあいつー!」

観客「勝てないなら降参すればいいのによ!」

観客「ホントにゴブリン退治してるみたーい!」


チューゾ(……やはり、駄目、か)


審判「……カマ選手、ダウン! 気絶の為、キーザ選手の勝利でーす!」

観客「わーわーわー! カマ弱えー! 何しに出てきたんだよー!」

63: 2011/01/02(日) 22:04:41.58 ID:tlDmDG0f0
―― 控え室

カマ「……すんませんでした、チューゾ様」

チューゾ「別に優勝は期待してなかった。一回戦で負けるのも予想は出来ていた。
      だけどな……」

カマ「へえ?」

チューゾ「何故、攻撃しなかった? 何故、打たれるままになっていた?」

カマ「あっしが、あの人間に一撃でも与えられると御思いですかい?」

チューゾ「いいや。今の貴様では、千回攻撃しても、奴に怪我をさせる事はできなかいね」

カマ「……なら、いいじゃないでやんすか。負けるのが、決まってるなら、何もしないほうが」

チューゾ「貴様……! 魔王様の御命令で修行の旅に出たんだろう?
      何故、諦める!? 何故、足掻こうとしない!?」

カマ「……」

チューゾ「……貴様に出来るのは、抵抗しない餓鬼をいたぶることだけか!」

カマ「……」

チューゾ「答えろ!」

カマ「……その、とおりでやんす」

65: 2011/01/02(日) 22:16:46.14 ID:tlDmDG0f0
チューゾ「……」

カマ「あっしは、下級魔族ゴブリンでやんす。
   お偉いさんに命令されたら何でもやるしかない、ゴブリン族……。
   その中でも、更に気が弱いのが、あっしなんでやんす……」

チューゾ「……」

カマ「何で、魔王様は、あっしを選んだんでやんすかねえ……?
   ゴブリン族の中にも、少なくともあっしよりは勇敢な奴はいるでやんすよ?」

チューゾ「……」

カマ「正直、弱い物虐めは楽しいでやんす。
   あっしを見て怯えた人間の子供を殺す時は、とても楽しかった……。
   でも、あっしより強い、例えばさっきの人間も、
   あの時のあっしと同じ思いで剣を振りかぶっていたんじゃないですかねえ……」

チューゾ「……貴様の考え方は、負け犬の考え方だ。
      誇り高き魔族の考え方ではない」

カマ「そう言えるのは、チューゾ様が中級魔族、オーガ族だからでやんす。
   おぎゃあと産まれた、その時から、強さを保障された種族……。
   失礼な言いかたですいやせんが、あっしの気持ちはチューゾ様には絶対に分かりっこないでやんすよ……」

チューゾ「……何もかもが不愉快だ。貴様は落ちこぼれの、屑だ」

カマ「ええ、ええ。本当にそうなんでやんす。
   だから……チューゾ様が、あっしの旅に、わざわざ付き合う事はないんでやんすよ?」

67: 2011/01/02(日) 22:27:41.55 ID:tlDmDG0f0
チューゾ「貴様を放って、魔族の支配する領域に帰れ、と言うのか」

カマ「そうでやんす。チューゾ様なら、魔王様の下でその御力を充分に使うほうが、いいでやんす。
   そのほうが、魔王様にとっても、チューゾ様にとっても、良い事だと思うのでやんすが……」

チューゾ「確かにそうだな」

カマ「で、やんしょ? ……短い間でしたが、あっしは楽しかったでやんす。どうかお元気で」

チューゾ「何を言っている? 私は貴様との旅を止める気は無いぞ?」

カマ「へっ? し、しかしでやんす……」

チューゾ「それとも、私に『帰れ』と命令するのか?
      それは筋違いだ。
      貴様の持っている宝玉は、その持ち主に協力をさせる為の証だが、
      命令を聞くなどという権限を持たせるものではない」

カマ「……しかし、あっしは!」

チューゾ「私は貴様と旅を続ける。
      貴様を強く鍛える方法は幾らでもある。
      私自身が訓練相手になる。
      小さな村や集落を襲う。
      続けていけば、幾ら軟弱な貴様でも、変わらざるを得なくなる」

カマ「チューゾ、様……!」

チューゾ「……私は、お前の、旅の仲間だ」

69: 2011/01/02(日) 22:37:36.93 ID:tlDmDG0f0
――

カマ「へっへっ! 逃げても無駄でやんす!」

人間の子供「こ、怖くなんかないぞ!」

カマ「へっ! これでも怖くないでやんすかねえ!」

人間の子供「そ、それ、お、お父ちゃんの首……」

カマ「あの怖い怖ーい、オーガ様がちょん切っちゃったでやんす。
   ほら、返すから受け取るでやんす」

人間の子供「お、お父ちゃん……! ぎゃあっ!」

カマ「敵に背中を見せると、首を切られるでやんす! へっへっ!」

チューゾ「また貴様は子供ばかりを殺しているのか!
      たまには大人、武器を持った大人と戦ってみろ!」

カマ「無茶を言わないでほしいでやんす。
   あっしが死んじまったら、魔王様の御命令が果たせなくなるでやんす」

チューゾ「戦わなければ強くはなれないだろうが!」

カマ「まあまあ……今日はこの柔らかい肉でシチューを作りやすんで、ね?」

チューゾ「うっ……腹が減っては戦はできんからな。早く作れ」

カマ「はいでやんす!」

70: 2011/01/02(日) 22:39:54.28 ID:Hs7zD4AyO
チューゾ様かっこいいでやんす支援

73: 2011/01/02(日) 22:51:33.74 ID:tlDmDG0f0
――
―――― そして、数年が過ぎた。

チューゾ「ふむ。この村も手応えの無い奴らばかりだったな」

カマ「おや? コウモリがこっちへ飛んできたでやんすよ」

チューゾ「これは……私の友人の使い魔だ」

カマ「手紙、でやんすか」

チューゾ「ああ。コウモリは食っていいぞ」

カマ「いいんでやすか?」

チューゾ「たかが使い魔だ。代わりは幾らでもいる」

カマ「それでは遠慮なく……うん、旨いでやんす!」

チューゾ「ヴァンパイアの使い魔だからな。どれ、手紙を読むか……」

カマ「もぐもぐくちゃくちゃ、ぱりぱりぺきぺき」

チューゾ「……何だと」

カマ「? どうかしたんでやんすか?」

チューゾ「……いや、何でもない」

カマ「……?」

74: 2011/01/02(日) 23:00:46.35 ID:1HY1IrSxO
使い魔食べちゃったよ

76: 2011/01/02(日) 23:07:57.44 ID:tlDmDG0f0
 『親愛ならぬチューゾへ

  最近、貴殿の醜い面を見ぬようですが、何よりです。
  しかし教えておいた方が良ろしいと思われる事があるので、使い魔を飛ばせました。

  近頃、人間の中に、勇者と呼ばれる強力な個体が発生したらしいのです。
  その個体の戦闘力もさることながら、仲間を増やし、
  更には戦いを嫌う傾向にあった人間どもまでもが、我ら魔族に牙を剥くようになってきています。

  貴殿の心配など微塵もしておらず、どうせなら勇者とやらに殺されてほしいのですが、
  流石にそうはいかなくなってきました。

  実は、未確認の噂ですが、魔王様の御力が急激に衰えているらしいのです。
  噂、と言っても、魔王城内でも囁かれているほどのものです。
  案外、本当なのかも知れません。

  もしも魔王様が、勇者とやらの手によって、あるいは多数集まった人間の手によって、
  その御命を奪われるような事があれば(ある訳がない話を書くのもアレですが)、
  我ら魔族は、滅びてしまうでしょう。

  その可能性が、僅かばかりでもあるのであれば、
  貴殿も魔王城に帰還し、魔王様をお守りする任に着くか、
  勇者とやらを殺す為に動く事を考えるべきではないか、と聡明なわたくしは考える次第であります。

  貴方には何も指図は致しませんし、期待もしません。

            魔族で魔王様を除き、一番、聡明で美しく強いヴァンパイア公爵、ケッケ・キューツ より』


チューゾ「……まさか、そんな事態になっていたとは、な」

77: 2011/01/02(日) 23:13:09.87 ID:Hs7zD4AyO
何ちゅう素敵な文面

78: 2011/01/02(日) 23:16:17.88 ID:tlDmDG0f0
カマ「チューゾ様、どうしたんでやんすか? 何だか最近、顔色がおかしいでやんす」

チューゾ「何でもない。それより貴様は、いつ強くなるのだ」

カマ「さあて……なれないと思うでやんすよ、いつまでも」

チューゾ「ゴブリンだからか」

カマ「それと、あっし自身の不甲斐なさ、でやんすね」

チューゾ「全く、貴様は……」

カマ「さて、次はどこの村を襲うんでやんす?
   最近、変に強気な人間が増えてるんで、弱い奴らがいる所がいいでやんす」

チューゾ「ふむ。それは……。むっ!」

カマ「ど、どうしたでやんす、怖い顔して!」

チューゾ「……敵、だ」

カマ「敵、敵って、どこに……」


??「やれやれ。気配を絶っても気づかれちまうとはな。
    ……やっぱり、かなり強そうだ」

チューゾ「……出て来い」

カマ「へっ? へっ? へっ?」

80: 2011/01/02(日) 23:27:46.14 ID:tlDmDG0f0
チューゾ「私の名はチューゾ。オーガ族が長の娘、粉砕のチューゾだ」

??「名を名乗る、か。いいね、武人だ。俺は……」

カマ(なんなんでやんすか、こいつの、鋭い気配は……!)

勇者「俺は、勇者。魔王を倒す者だ」

盗賊「名乗りなんて格好つけもいいとこだ。どうせ殺しあうのにな」

僧侶「相手が誇りを持つのなら、それに対するのも勇者の務めです」

魔術師「正面からの戦闘は、戦術的にどうかと思いますが」

カマ「な、なんで!? ぞろぞろと人間が出てくるんでやんすか!?」

勇者「ここ数年、辺境の集落を襲って人々を皆殺しにしているオーガとゴブリンの二人組は、お前たちだな?」

盗賊「こんな目立つ組み合わせ、こいつらしかいないっての」

僧侶「何という野蛮で残虐な振る舞い……神は貴方がたを御許しにはならないでしょう」

魔術師「魔王の命令か、それ以外の何かがあるのか分かりませんが……」

勇者「……こうして出会っちまった以上、見過ごしてはいけないな」

チューゾ「……ちっ!」

カマ「ま、魔王様を倒す? なんなんでやんすか、この人間たち!?」

81: 2011/01/02(日) 23:34:21.32 ID:tlDmDG0f0
チューゾ「りぃぃぃぃぃやああああああああっっっ!」

勇者「おおおおおおおおおおうぅぅぅぅぅぅっっっっ!」

カマ「チューゾ様の戦斧を、受け止めたでやんす!?」

チューゾ「カマ! 逃げろ!」

カマ「へっ!?」

チューゾ「こいつらは、私でも殺せない、倒せない! だから、貴様は逃げろ!」

カマ「あっ……あっ……」

勇者「余所見している場合かよっ!」

チューゾ「ぐわっ! 何の、これしき……!」

盗賊「……勇者一人で倒せそうだな」

魔術師「それでも、少しは強化呪文をかけておきましょう」

勇者「ちっ、余計な真似を……一騎打ちだぜ?」

チューゾ「くっ……強い! カマっ! 逃げろっ、逃げるんだっ!」

カマ「しかし、しかし!」

チューゾ「いつか……強くなって、魔王様の元へ帰るのだろう! 逃げろーーーっ!」

83: 2011/01/02(日) 23:41:48.44 ID:tlDmDG0f0
勇者「お前、気をとられ過ぎだぜ!」

チューゾ「うぅがああああああああああっっっ!」

カマ「う、腕が……!」

勇者「片手じゃ、もう戦斧は持てないよ、っなあ!?」

チューゾ「ぐぁあああああああああああっっっ!」

カマ「チューゾ様! チューゾ様ぁっ!」

チューゾ「逃げ……ろ……カ、マ」

勇者「トドメ、刺すぜ」

チューゾ「ぐ……ふ、ぅ……」


僧侶「悪しき行いには、それなりの罰が下るものです」

魔術師「このゴブリンはどうするんですか?」

盗賊「今更、こいつ殺してもなあ?」

勇者「オーガの子分だろう。無理に殺さなくとも、もう人に危害は加えようがない」

僧侶「今は、多くの人たちが魔族との戦いに積極的になってますからね」

勇者「そういうことだ。人里離れた場所で、ひっそり生きろ。ゴブリンよ」

87: 2011/01/02(日) 23:51:03.24 ID:tlDmDG0f0
カマ(どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする?)

カマ(チューゾ様が簡単に殺されたあっしでは到底かなう訳がない)

カマ(逃げる逃げる逃げる逃げられる命だけは助かる助けてくれる)

カマ(あっしは弱い弱いから情けをかけてもらえる命は取られない)

カマ(絶対に勝てない敵わない相手は強くてチューゾ様が死んだ)


盗賊「……こいつ、動かないぜ?」

魔術師「放っておきましょう。わたしたちには目標があるのですから」

僧侶「もう、人を襲わないでくださいね」


カマ(助かる助かる動くな動かないでいれば殺されずに済むんでやんす)

カマ(生きていればそれだけでいいんでやんすだからあっしは動かない)

カマ「あっ、あっ、あっ、ああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」


勇者「……何で襲いかかってきたのかね。そのままでいれば死なずに済んだのに」

盗賊「ゴブリンだから、馬鹿だったんだろ」

魔術師「おや? この宝玉……」

88: 2011/01/02(日) 23:56:02.51 ID:tlDmDG0f0
盗賊「もしかして値打ち物か!? って砕けてるじゃねーか」

僧侶「このゴブリンの宝物だったのでしょうか?」

魔術師「魔力も無いようですし、子供がガラス玉を集める感覚だったのでしょうね」

勇者「ま、忘れろ。魔王城まで、まだまだあるんだ」


――
――――

カマ『あっしは……あっしは……』

カマ『……死んだ、死んだんでやんすね』

カマ『……』

カマ『魔王様の命令、果たせなかったでやんす……』

カマ『……』

カマ『……でも』

カマ『あっしは……』


??『カマよ……』

90: 2011/01/03(月) 00:04:30.20 ID:N1XskWYh0
カマ『……? 誰、でやんすか……』

??『カマよ……我は、汝の名を授けたもの……』

カマ『名を……魔王、様、でやんすか……?』

魔王『我は汝に、一つ嘘をついていた……』

カマ『嘘……?』

魔王『我は肉体が古くなっていたのではない……。 古くなっていたのは、魂なのだ……』

カマ『魔王様の魂……でやんすか?』

魔王『汝は何故、あの時、勇者に襲いかかった……?』

カマ『それは……チューゾ様が殺されたから……』

魔王『本当にそれが理由か……?』

カマ『……強い者に、一撃でも喰らわしてやりたかったから……』

魔王『本当にそれが理由なのか……?』

カマ『……それは』

魔王『……』

96: 2011/01/03(月) 00:12:39.53 ID:N1XskWYh0
カマ『……違う、でやんす』

魔王『では、何だ……何が理由だ……』

カマ『……理由……理由』

魔王『……』

カマ『……理由なんて、無かったでやんす』

カマ『ただ、やりたかった……短剣で、爪で、牙で……』

カマ『ただ、引き裂きたかった……』

カマ『そんだけで、やんす……』

魔王『それで良いのだ……』

カマ『へっ……?』

魔王『魔族とは、魔とは、シンプルなもの……自分がしたい事をするだけの存在……』

カマ『……したい事を、するだけの……存在』

魔王『汝は……真の魔族であった……眠れ……我の中に……』

カマ『ああ……何という暖かい闇の中でやすか……気持ち……良い……で……やん……す……』

――――
――

97: 2011/01/03(月) 00:21:59.26 ID:N1XskWYh0
――

勇者「魔王よ……とうとう来たぜ……!」

盗賊「へん、流石にとてつもねえ魔力だぜ……!」

僧侶「神の御加護がある限り、正義は決して負けません……!」

魔術師「この戦いで、全てが決まります……!」


魔王『よくぞここまで辿り着いた……勇者とその仲間たちよ……!

    矮小なる人の身で魔族の王たる我を倒そうとは思い上がったものよ……。

    しかし我は称えよう。その決意と行動を……!

    そして我は打ち砕こう。その自信と肉体を……!

    さあ、今から地獄の恐怖を、魔王の我が見せてやろう……!

    そして我が腕の中で、眠るがいいでやんす……!』


勇者「……やんす?」


 【End】

98: 2011/01/03(月) 00:22:42.95 ID:N1XskWYh0
 多分二次創作外のは、初めて書きやした。(これも二次かしら?)
 支援して下さった方々、読んで下さった方々、ありがとうございやした。へっ!
 ではでやんす。

100: 2011/01/03(月) 00:23:57.52 ID:eNTo8dj5O

111: 2011/01/03(月) 00:50:31.46 ID:bwu+hELO0
面白かった!
乙です

引用元: 下級魔族「魔王様に謁見するんでやんすか?」