1:2019/11/11(月) 22:01:26.074 ID:JO1VxSK70.net
TV『今日午後、傷害事件が発生しました』

TV『目撃者によると、道を歩いていた男性が40代ぐらいの男に突然バールのようなもので殴られ……』

TV『犯人はその場で取り押さえられましたが、動機についてはまだ分かっておりません……』



男「……」

男(これで……“バールのようなもの”による傷害事件は10件目……)

男(これ以上犯行を繰り返させてはならない……)

男(終わらせる……この悲劇を!)
2:2019/11/11(月) 22:05:07.881 ID:JO1VxSK70.net
<警察署>

職員「なんのご用でしょう?」

男「“バールのようなもの”事件についてご存じの刑事さんに会いたいのですが」

職員「しかし……」

男「お願いします! 大事なことなんです!」

職員「分かりました……少々お待ち下さい」
3:2019/11/11(月) 22:08:15.536 ID:JO1VxSK70.net
刑事「どういったご用件で?」

男「“バールのようなもの”事件について話があるのです」

刑事「話って、いずれの事件も犯人はもう捕まってるんですよ。それとも犯人のお知り合いで?」

男「いえ、知らないんですけど……」

男「たとえば凶器はどうなったとか、犯人はどうやって凶器を手に入れたとか、色々知りたいんです」

刑事「あのねえ、部外者に捜査情報は教えられないんですよ」

男「それでも教えてもらいたいんです」

刑事「帰りなさい」

男「そこを何とか!」

刑事「帰れ!」
4:2019/11/11(月) 22:10:07.343 ID:JO1VxSK70.net
男(やはり追い返されてしまったか……)

男(警察関係者の力を借りるのは、やはり難しいだろうな)

男(仕方ない、自分の力で何とかするとしよう)

男(まずは……事件現場へ!)
5:2019/11/11(月) 22:13:28.485 ID:JO1VxSK70.net
<事件現場>

ワイワイ…

男(事件からまもないし、まだ捜査してる人がいるな……)

男「あのー」

捜査員「はい?」

男「凶器は見つかりましたか?」

捜査員「それがまだなんだよねえ」

男(やはり……)
6:2019/11/11(月) 22:15:34.274 ID:JO1VxSK70.net
男「俺も捜査に参加させてもらえませんか?」

捜査員「さすがにそりゃダメだ! こっちが怒られちまう!」

男(食い下がっても無駄だろうな……)

男「分かりました。だったら迷惑のかからないように、現場の外でやります」

捜査員「?」
7:2019/11/11(月) 22:19:29.559 ID:JO1VxSK70.net
男「……」クンクン

男「……」クンクン

捜査員「!?」ギョッ

捜査員「あんた、なにやってんだ!?」

男「……」ピクッ

男(この鉄の匂い……間違いない!)

男(これをたどっていけば……!)クンクン

捜査員「なんなんだ、あの人……」
8:2019/11/11(月) 22:20:46.674 ID:Iqz/eoBSr.net
犬かよ
9:2019/11/11(月) 22:23:01.959 ID:JO1VxSK70.net
男「……」クンクン

男(とはいえ、俺の鼻だけであいつの行方を追うのは難しい)

男(匂いもここで途切れてしまった……)

男(仕方ない、ここからは人に聞いていくしかない)

男「あのー」

通行人「なにか?」

男「このあたりでバールのようなものを見ませんでしたか?」

通行人「いや、見てないけど」
10:2019/11/11(月) 22:23:38.155 ID:9LUVsGZCa.net
なんでバールのようなものなんだろう
棒状のものでいいじゃん
13:2019/11/11(月) 22:26:08.826 ID:JO1VxSK70.net
青年「バールのようなもの? さあ……」


JK「見てませーん!」


リーマン「下見ながら歩かないからなぁ……分からないよ」





男(やはり目撃情報はない……。しかし、根気よく続けるしかない)
14:2019/11/11(月) 22:29:18.478 ID:JO1VxSK70.net
幼女「みたよ!」

男「本当かい!?」

幼女「うん、さっきあそこにおちてた」

男「どれどれ……」クンクン

男(匂いがあった! これで追跡できる!)

男「ありがとう!」クンクンクン

幼女「じゃーねー!」
15:2019/11/11(月) 22:30:48.845 ID:Iqz/eoBSr.net
完全に事案
16:2019/11/11(月) 22:32:30.454 ID:JO1VxSK70.net
<工場>

男「……」クンクン

男「……」クンクンクン

男(匂いはこの小さな工場に続いている……この中にいる!)

男(今こそあいつを止めなくては!)

男(それができるのは俺だけだ!)ダッ
17:2019/11/11(月) 22:35:18.882 ID:JO1VxSK70.net
工場長「まーたこんな下らないミスしやがって!」

作業員「すみません……」

工場長「一体いつになったらまともに仕事ができるようになるんだ、このボケェ! カスゥ!」

作業員「……」

工場長「おい聞いてんのか! 頭に続いて、耳まで故障しちまったか! スクラップにすんぞ!」

作業員(もう我慢の限界だ……)
18:2019/11/11(月) 22:39:24.724 ID:JO1VxSK70.net
作業員(ちょうどいいところにこんなものが……)ガシッ

工場長「?」

作業員「この野郎ォォォォォ!!!」ブオンッ

工場長「うっ、うわ――」

男「やめろーっ!!!」ガシッ

作業員「うっ!?」

ドザァッ…
20:2019/11/11(月) 22:42:18.069 ID:JO1VxSK70.net
作業員「なんだあんた!? 放せ!」

男「やめろ! もうやめるんだ!」

作業員「放せよ!」

男「やめるんだぁっ!」

作業員「もうやめてるよ! なんなんだいったい……」

男「やめろぉぉぉぉぉっ!」

作業員(この人、俺にいってるわけじゃない! じゃあ誰に……?)
21:2019/11/11(月) 22:44:37.231 ID:JO1VxSK70.net
男「もうやめろ……!」

バールのようなもの「……」



作業員「この人が押さえつけてるのは……バールのようなものだ!」

工場長「人じゃなく、道具押さえつけてどうするんだ!?」
22:2019/11/11(月) 22:47:26.590 ID:JO1VxSK70.net
バールのようなもの「邪魔しやがって……」

作業員「うわっ!?」

工場長「しゃべった!?」

バールのようなもの「なぜ止めた……」

バールのようなもの「せっかくまた事件を起こせるところだったのに」

男「……」

作業員「事件を……?」

工場長「どういうことだ?」
24:2019/11/11(月) 22:48:32.490 ID:Iqz/eoBSr.net
マジかよ
25:2019/11/11(月) 22:53:16.620 ID:JO1VxSK70.net
バールのようなもの「なぜ俺がしゃべれるようになったか教えてやろう」

バールのようなもの「俺はかつて、とあるバール工場で生産された……」

バールのようなもの「ただし、生産工程でひん曲がってしまい、製品としては不適格になった」

バールのようなもの「当然処分される運命にある。そのこと自体は仕方ないと受け入れていた」

バールのようなもの「だが、俺の品質チェックをしたあの人間は――」



『ダメだなこりゃ、ちょっと曲がっちまってる』

『こいつはバールなんかじゃないな。バールのようなもの、だ』
26:2019/11/11(月) 22:56:30.934 ID:JO1VxSK70.net
バールのようなもの「あいつは失敗作である俺を、バールとすら認めなかったんだ!」

バールのようなもの「その後、処理業者の運搬時のトラブルで処分を免れた俺は――」

バールのようなもの「あの時の人間を……いや人間そのものを恨んだ」

バールのようなもの「そしていつしかある程度自在に動けるようになり……」

バールのようなもの「なおかつ恨みで宿った妖力で、近くにいる人間の憎悪や暴力衝動を増幅させたり」

バールのようなもの「俺を握った者を暴力に駆り立てるといった能力を手に入れたんだ」

バールのようなもの「そう、まるで“妖刀”のようにな」

作業員「じゃあ、さっき俺がイライラして殴りかかったのも……」

工場長「このバールのようなものの仕業だったのか!」
27:2019/11/11(月) 22:59:23.951 ID:JO1VxSK70.net
男「すまなかった……」

バールのようなもの「?」

男「お前がそうなってしまったのは……俺の責任だ」

バールのようなもの「なに!? 貴様、まさか……」

男「そうだ。俺はお前が生産されたバール工場の工員……」

男「お前を“バールのようなもの”呼ばわりした男だ!!!」

バールのようなもの「な……!」
28:2019/11/11(月) 23:03:22.081 ID:JO1VxSK70.net
バールのようなもの「お前かっ!」ギュオッ

ガンッ!

男「ぐっ!」

バールのようなもの「お前かっ! お前かっ!」ギュオオッ

ガッ! ゴッ!

作業員「やめろっ!」

工場長「危ないっ!」

男「止めないでくれっ!」

工場長「しかし、氏んでしまうぞ!」

男「いいんだ……これでいいんだ」

男「もし俺が死んだら、おかしな男が工場に乱入して、自殺騒ぎを起こしたと通報して下さい!」
30:2019/11/11(月) 23:06:06.338 ID:JO1VxSK70.net
男「どうした、こんなものか?」

バールのようなもの「ぐ……!」

男「こんなんじゃ、到底俺は殺せないぞっ!」

バールのようなもの「ぐ、ぐぐぐ……ぐぐ……」

作業員「……?」

工場長「バールのようなものの動きが止まった……?」
33:2019/11/11(月) 23:09:41.269 ID:JO1VxSK70.net
バールのようなもの「う、うう……」

男「やはりな……お前はバールであることの誇りを捨て切れていない」

男「元々バールの用途は釘抜きなどで、決して凶器なんかじゃない」

男「だから今までの事件、全て被害者は氏んでいないんだ! 傷害事件で済んでるんだ!」

バールのようなもの「!」

男「そう、俺はお前に殺されに来たわけじゃない」

男「お前を……バールだと認めに来たんだ!」

バールのようなもの「俺を……!」
34:2019/11/11(月) 23:13:00.115 ID:JO1VxSK70.net
男「すまなかった……」

バールのようなもの「うう……」

男「お前は……バールのようなものなんかじゃない」

男「お前は……バールだ!!!」

バール「う、ううっ……」

バール(やっと……認めてもらえた……)パァァァ…

作業員「バールのようなもの、いや、バールが――」

工場長「光り輝いて――」
35:2019/11/11(月) 23:14:07.391 ID:eEhMEjc50.net
なんだこの展開www
36:2019/11/11(月) 23:16:27.338 ID:JO1VxSK70.net
バシュゥゥゥゥゥ…

ヒュンヒュンヒュンッ ヒュヒュヒュンッ

作業員「光になって飛び散った!」

工場長「これは一体……!?」

男「きっと……これまでに傷つけた被害者のもとにあの光が届き、傷を癒やすのでしょう」

男「バール最期の力で……」

男(俺のせいで凶行に走らせてしまって……すまないバール……!)
37:2019/11/11(月) 23:19:17.637 ID:JO1VxSK70.net
<バール工場>

ウイーン… ガガガガ…

後輩「なんだこりゃ」

男「どうした?」

後輩「変なバールができちゃったんすよ」

後輩「こんなのバールとはいえねえや。さっさと処分しないと」

男「……」
38:2019/11/11(月) 23:22:24.137 ID:JO1VxSK70.net
男「いや……これはバールだよ」

後輩「え……」

男「たとえ処分するにしても、これはバールなんだ。最後までバールとして扱うように」

後輩「す、すみません! 気をつけます!」



これ以降、“バールのようなもの”による事件は二度と起こらなくなったという――








おわり
39:2019/11/11(月) 23:23:08.157 ID:eEhMEjc50.net
おつ
途中まではワクワクしたよ途中までは
40:2019/11/11(月) 23:24:31.970 ID:s4TLuZDu0.net
以外と面白い
41:2019/11/11(月) 23:28:36.956 ID:WFKm2Stfr.net

これは全国のバール工場に配布すべき
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1573477286