213: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:24:02.27 ID:Qn+cBsSx0



  ■ 第21話 裏切りの魔族 ■
 
 
 

魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」前編

勇者「魔王を捕まえたが殺さねぇ」
214: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:25:37.90 ID:Qn+cBsSx0

 魔伯爵は魔王の前に跪く。

 ザワザワ……ザワザワ……

魔族兵B「い、今“魔王”様って言ったのか?」


魔族兵E「あの子供が“魔王”様なのか?」

魔族兵A「魔伯爵様が跪くなんて」

魔族兵C「“魔王”様から魔力感じないぞ」

魔族兵F「勇者に捕まってしまうほど弱いのか?」

魔族兵L「おい、聞こえるぞ」

 ザワザワ……





魔族兵達「あんなのが“魔王”??」




魔王(……兵士達にボクの素性がバレてしまった……)




---外界  上空・飛空戦艦内---



魔伯爵「魔王サマ、よくぞご無事で」

魔王「魔伯爵さん、ありがとう……」



魔王(魔伯爵さんは……人間界で魔王軍の総指揮官。すごい優秀な側近って女側近さんが言ってたっけ)

 魔伯爵はすらっと背が高く、男の魔王が見ても惚れ惚れする知的な顔立ち。同じ側近の毒々しい魔執事とは正反対だ。


魔王「……」ジィ……


 魔伯爵は細い眼鏡を手の甲で掛け直すと、魔王の視線に答える。

魔伯爵「我のことは女側近から聞いていマスよね?」

魔王「う、うん。とても優秀って」

魔伯爵「クククッ……側近として最も優秀なのは彼女デスよ」


魔王(女側近さん達は……)

215: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:27:50.66 ID:Qn+cBsSx0

魔伯爵「彼女達は無事デスよ、ご心配には及びません。飛空船が落とされた後、女側近は魔王サマを探していましたが先に見つけたのが勇者だった」

魔伯爵「そのまま魔王サマだけ隠れ里に連れて来られたわけデス。女側近から連絡を受けた我々は、飛空戦艦で魔王サマの救出に向かったのデスよ」



魔王「ボク以外は誰も捕まってなかったんだ」

魔伯爵「彼女達は別部隊が回収し、“最果ての町”で待機していマス」


魔王「よかったぁ~……」

魔伯爵「ククク……彼女はそうそうやられませんよ」


魔王「彼女のことよく知ってるんだね……あ!」

魔王「あああああああ!!!!」

魔伯爵「?」

魔王(そそそそ……そういえば女側近さんの恋人って、魔伯爵さんじゃ……)

魔王「あの……魔伯爵さんは女側近さんと……ど、どういう関係??」



魔伯爵「? 同じ側近デスが?」

魔王「いや、ぷらいべーとなんだけど……」

魔伯爵「ああ……同じ一族で幼馴染デスよ。少しだけ我の方が年上ですが、昔からバトルだけは彼女に一度も勝てませんでしたね」

魔王「なんか噂では」オドオド

魔伯爵「ククク……魔王サマにまで、そんな噂が耳に入るんデスね。噂では恋人でしたっけ? そういうものではないデスよ」


魔王「え?!」

216: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:29:41.20 ID:Qn+cBsSx0

魔伯爵「我々側近の一族は幼い頃から側近になるべく自由はありません。それは恋愛も同じデス。つまり、子孫を残す為生まれた時から番が決められているのデス」

魔王「番<つがい>?」





魔伯爵「女側近は我の許嫁デスよ」


魔王「えーーーー!!!」

魔伯爵「まぁ幼い頃から兄妹のように生きてきましたので、彼女のことは何でもわかりマス」

魔王(…………恋人なんて緩いもんじゃないじゃんかぁぁ……)ガーン


魔伯爵「あ、仕事に支障はきたしません。お気になさらずに」


魔王(気にするでしょーーー!)

魔伯爵「今飛空戦艦は女側近のいる“最果ての町”へ向かっていマス」


魔王「はぃ……」




217: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:30:52.05 ID:Qn+cBsSx0

---外界 飛空戦艦・自室---



 魔王を乗せた飛空戦艦は最果ての町を目指し飛ぶ。
 自室で独り魔王は思いにふける。

魔王(よく生きてたな自分……)

魔王(みんな大丈夫かな?)


魔王(少年勇者はどうなったんだろう?)



魔王(お腹減ったな……メイドもいないし、食事どうすればいいんだろう)

魔王(この戦艦は同じ魔王軍なのに、なんか冥都と雰囲気が違う。兵士達も目つきが鋭いし、鎧や武器、戦艦内部も傷だらけ)


魔王(人間界の戦場で実際に戦ってる船なんだ……)


魔王(食事くらい自分でなんとかしないと。食堂探そう……)


218: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:31:56.83 ID:Qn+cBsSx0

---飛空戦艦・食堂---


魔王(あったーーー! 食堂っ! この船広すぎっ)


兵士1「……」ジロ……
兵士2「……へっ」ニヤ
兵士3「……」シラー
兵士4「zzz……」


魔王(な、なんか怖い兵士ばっかり……)


魔王「あ、あの食事いただけますか?」

食堂係「……」


 ドンッ

 魔王の前に食事が出された。

魔王「あ、ありがとうございます」

食堂係「金……取っちゃいけないんでしょうね。王様から」

魔王「すみません、後で払います」(女側近さんが……)


魔王(……うぅ……なんかアウェイ過ぎる)

 モグモグ……



 独りビクビクしながら食事を取っていると、食堂の外が騒がしくなる。
 何事かと皆が外を見ると……。

魔王「ど、どうしたんですか?」


兵士「……なんか、捕らえていた勇者を殺そうとした奴がいたみたいっスよ」


魔王「えーーーー!?」



……


219: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:33:50.59 ID:Qn+cBsSx0

---飛空戦艦・牢---


魔王「魔伯爵さん!」

魔伯爵「魔王サマ……」

魔王「少年勇者は?! 大丈夫なの?」

魔伯爵「なんとか一命を取り留めましたよ。今魔法で治療してマス」


少年勇者「はぁ……はぁ……クソォッ」

魔王「なんで?? 逃げ出そうとしたの?」

魔伯爵「いや。ただ殺したかったんでしょう」

魔王「えーーーー!?」

魔王(そんな……どうかしてる)


魔伯爵「魔王サマ、やはり少年勇者は殺した方がいいデス」

魔王「ダメなんだ、彼がいないと……」





魔伯爵「聖剣は勇者しか触れることが出来ない」

魔伯爵「聖剣と魔剣で、ゲートを閉じて戦争を終わらせる」

魔伯爵「そういうことデスか?」



魔王「う、うん。そうだよ」

魔伯爵「聖剣と魔剣を手に入れても、簡単にゲートは閉じられませんよ」



魔王「?」

魔伯爵「すでに人間界には人間から勝ち取った魔族の領土がありマス、多くの住民や兵士が生活している。彼らはどうするんデスか?」

魔王「……」

魔伯爵「全員を魔界へ連れて帰る? そんな大掛かりなこと、この戦争状態で出来るわけがない」


魔王「……」


220: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:35:17.62 ID:Qn+cBsSx0

魔伯爵「勇者を殺そうとした兵士は殺されました」

魔王「え!」


魔伯爵「我らは聖剣に触れることが出来ないので、勇者から取り上げることが出来ません。そんな勇者を生きたまま乗せているなど、爆発しそうな爆弾を乗せているようなものデス」

魔伯爵「この船には人間に恨みを持つ者ばかり、また殺そうとする兵士が現れても不思議じゃありませんよ」


魔伯爵「今からでも遅くはない。勇者を殺しましょう」




魔王「……」


魔王(……ダメだよ……。恨み辛みで戦争続けてたら、何も良くならない)

魔王(兵士達の気持ちも分かる……でも、ボクの考えも分かってほしい。でも、このまま命令したら、きっとわかってもらえない)


 いつかの女側近の言葉が魔王の頭によぎる。








 『魔王様の“意志”と“思い”をしっかり伝える』





魔王(よし)


魔王「魔伯爵さん、この戦艦の兵士達を甲板に集めてもらえる? ボクの気持ちを聞いてもらいたいんだ」



221: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:37:45.61 ID:Qn+cBsSx0

---飛空戦艦・甲板---



 ガヤガヤ……

 外界を低速で進む飛空戦艦の甲板には、乗組員や魔族兵が列を作る。
 魔伯爵に促されて、舞台に上がる魔王に不審の視線が突き刺さっていた。


魔伯爵「皆の者! 魔王サマよりお言葉を頂くっ! 静粛にっ」


 シーン……

魔伯爵「魔王サマ、どうぞ」

魔王「うん」


魔王(ボクの想いは、みんなを裏切るかもしれない)


魔王(でも)

魔王(分かってもらうには言わなきゃならない)

魔王(気持ちを動かすのは“誠意”だ。ハッタリじゃない)



魔王「みんな!」




魔王「ボクが…………“魔王”だ!」

魔王「父が亡くなって、王位を継承した。報告が遅くなってしまってしまい申し訳ない」



魔王「ボクみたいな子供が“魔王”で落胆しているでしょう」

魔王「父はとても強かったと聞く。この魔界の思想“弱肉強食”にふさわしい強さ。圧倒的なカリスマ性と統率力」


魔王「そんな父に比べると……ボクは“魔王”としての素質がない」


魔王「魔法が使えないし、チカラもない」







 ポツ……ポツと雨が降り出す。

魔王「ボクは戦うチカラがない」

222: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:41:01.22 ID:Qn+cBsSx0

魔王「ボクは……冥都の下位、それも最下層出身なんだ」

魔王「魔法が使えなかったから、基本労働にも参加出来ず図書館の整理の仕事をしていた。それも役に立てず、罵倒される毎日」

魔王「そんな時、父が死んで突然『貴方は魔王です』と言われたんだ。戸惑いもあったけど、魔王になれば金や地位が手に入るって思った」



魔王「つまりボクは」









魔王「私利私欲で“魔王”になったんだ」




 ザワザワ……


魔王「それが真実で、ボクは隠しも誤魔化しもしない」

魔王「みんなに信じてほしいから」




魔王「実際に“魔王”になって、色んなものを見た」

魔王「魔界の環境」

魔王「冥都の格差」

魔王「人間の脅威」



魔王「それらを実際に目の当たりにして……ボクは“魔王”としてやらなければならないことを知った」



魔王「戦いのない平和な魔界」

魔王「戦えないボクだからこそ……行き着いた結論だ」

魔王「戦争を終わらせる為……」







魔王「人間と和平を結ぶッ!」

223: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:42:18.30 ID:Qn+cBsSx0





 ザワザワ……

魔族兵「仲間達の仇はどうなるんだ?!」
魔族兵「もう戦わなくていいのか……?」
魔族兵「和平など……ありえん」
魔族兵「家族の元へ帰れるのか!」
魔族兵「そんなの不可能だ」

 多くの魔族兵達が驚いた。ある者は怒り、ある者は安堵し、ある者は絶望し、ある者は喜んだ。

 皆、戦争への考えはバラバラだった。

魔王「戦ってないボクの言葉は戯言に聞こえるかもしれない。でも」



魔王「みんな好きで戦っているの?!」

魔王「戦わない未来があるなら、そっちへ行きたくないの?!」

魔王「人間を恨む気持ちがあるのは分かるよ……でも! 殺された仲間達は残された者達の幸せを願ってるはずっ!」




魔王「みんな! 未熟なボクにチカラを貸してくれ……」


 ザアアァァ……
 強くなった雨のせいで、魔王の涙は見えなかった。


224: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:44:08.28 ID:Qn+cBsSx0




 次の日。



---飛空戦艦・牢---

少年勇者「和平交渉?」

魔王「うん、キミもボクもゲートを閉じたい。その利害は一致してるよね? そのためには人間と和平を結ばなければならないんだ」


少年勇者「……」


 少年勇者は牢の中で呪いのかかった拘束着で監禁されていた。魔王の言葉に俯き考えている。


少年勇者「……生き残った仲間、いや捕虜となっている人間全てを解放しろ」

魔王「それはキミが和平交渉を人間の王に掛け合って、魔族の捕虜と交換すればできるよ」

少年勇者「……」

魔王「……」

少年勇者「わかった……ただ」

魔王「うん」

少年勇者「俺っちと一緒に捕まった女の賢者がいたでしょ? 彼女はすぐに人間界へ帰してくれ」


魔王(彼の大切な人なのかな……)

魔王「わかったよ、彼女だけはすぐ解放する。人間界へ帰れるように手配するよ」

 少年勇者はホッとした様な表情をすると目線を合わせず言う。

少年勇者「感謝はしない……お前達は他の仲間を沢山殺した」


魔王「お互い様でしょ。冥都を攻められ多大な被害を受けたのはこっちも同じだよ」

少年勇者「あれは俺っちじゃない、“帝竜”だろ」

魔王「帝竜?」

少年勇者「うにゃ。俺っちは中央大陸“王都”の勇者なんだけど、彼は西大陸“帝都”の勇者……竜のように強い彼を人間界では“帝竜”という通り名で呼ばれていた」


魔王「……たしかに本当に強かった」

225: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 01:45:50.26 ID:Qn+cBsSx0


魔王(あの勇者が“帝竜”……まだ野放しのまま、またいつ攻めてくるかわからない)

魔王(一刻も早く和平を結ばないと)

少年勇者「人間の組織体制はバラバラだ。俺っちと同盟を組んだところで、他の勇者まで止めることはできないからな」

魔王「わかってるよ、でもキミには最大限協力してもらうよ」

少年勇者「俺っちは何をすればいい?」

魔王「ボクは今“魔剣”を取りに向かっている途中だったんだ。手に入れたらキミは人間界へ行く」

少年勇者「……持っていなかったのか」

魔王「キミは人間の王を説得し、和平を結ぶ。停戦したら人間界の魔族は、魔界へ全員帰る」

少年勇者「なるほど、その後“聖剣”と“魔剣”でゲートを閉じるってわけか」


魔王「うん。今度は信用してくれる?」

少年勇者「ふふん……信用はしない。ただ利害が一致してる間はお互い利用し合えばいい」

魔王「ボクはキミを信用するよ」



少年勇者「お前、そんなんだから部下に裏切られるんだよ。俺っちが魔王軍の情報を知っていたのを忘れたか?」

魔王「そうだ……だれ??!! 裏切り者は?!」

魔王(人間達を魔界へ招き入れ……ボクらの情報を流した者)











少年勇者「あの境界都市にいた、ゲートの管理者」




少年勇者「黒魔術師だ」



  ■ 第21話 裏切りの魔族 終 ■

228: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:33:27.71 ID:wTyjeIZKO



  ■ 第22話 再結成 ■
 
 
 

229: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:36:29.24 ID:wTyjeIZKO

魔伯爵「申し訳ありません……」

魔王「黒魔術師は??」

魔伯爵「捕らえられませんでした。すぐ部下に連絡して拘束するよう命じましたが、時すでに遅く少年勇者が捕まったのを知って逃げたようデス」

魔王「そうか~……」

魔伯爵「申し訳ありません」


魔王「あ、いや、魔伯爵さんのせいじゃないよ。それにしても何で裏切りなんか……」

魔伯爵「野心の強い男でしたので、魔王様を不審に思い、勇者達を魔界へ連れ込み混乱させようと考えたのかもしれません」

魔王「すぐ探し……」


魔伯爵「すでに浮遊島を隈なく捜索中デス。ゲートや飛空船で逃げた可能性も視野に入れ、徹底的に探してマス……ゼッタイに逃がさん」

魔王(魔伯爵さん……鬼のような目つきになってる)アセ



魔王「…………」

魔伯爵「まもなく“最果ての町”に到着致しマス」

魔王「ホッ……」

魔伯爵「女側近がいないと不安デスか? ククク……」

魔王「なんだかね、居心地悪くて」

魔伯爵「戦用の船デスから、乗り心地は致し方ありません」

魔王「まぁそーゆーことじゃないんだけどね」

魔伯爵「兵士達デスか。先代魔王様が亡くなったと聞いて落胆している者も多いデス。特に前線で戦っている兵士達は先代魔王様の強さは憧れでしたので」


魔王「父さんはそんなに強かったんだ」

魔伯爵「それはもう。戦う兵士にとってこれ以上ない上官デス。圧倒的なチカラとカリスマ性、ブレない芯の強さ」

魔王(迷ってばかりのボクとは比べられないな)


魔伯爵「貴方は先代魔王様のご子息デス。面識がないのでその凄さが分からないでしょうが、先代魔王様のチカラは必ず何処かに引き継いでいるはずデス。誇りに思ってください」


魔王「うん、父さんのように皆を引っ張れればいいんだけど」


魔伯爵「しかし、昨日の演説以降は魔王サマの見る目は変わった者も多いと感じマスね」


魔王「そうかな。分かってもらえたら嬉しいけど。魔伯爵さんはどう思った?」

魔伯爵「我は魔王サマに従うのが仕事でありマス。それが今の魔界にとって一番いいはず」


……

230: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:37:24.87 ID:wTyjeIZKO

---高地・最果ての町---

《最果ての町。冥都から最も離れた場所にあり、高地にある為、瘴気の影響を受けることがない。魔界で唯一植物が育ち、天然の雨も振る数少ない農業の町である》



魔少女「まっおーーーーっさま~~!!」ガバッ


魔王「うわっ……魔少女さん」

魔少女「よかったあぁぁ……無事でよかったよーーーーふえぇん……」


魔道化師「マオー! みんな生きてた!  うひゃ!」

魔王「ピエロっ! よかった!」

魔少女「ふえぇぇん……」

魔王「あれ?……女側近さんは? 無事なんでしょ?」

魔少女「グスンッ……それが……」




魔王「え?!!」



231: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:38:19.05 ID:wTyjeIZKO

---最果ての町・牢獄---



魔王「女側近さん……」



女側近「魔王様……大変申し訳ありませんでした」

魔王「自ら牢へ入ったって。どうして?」


女側近「私奴は魔王様をお守りする義務があります。この度、それを全うすることが出来ず側近失格です」

魔王「……」


女側近「当然の罰です」


魔王「そんな……」


女側近「魔界を人間の脅威にさらし、新しい魔王様も危険に……私は……」


女側近「私の権限を剥奪してください。どうか側近を別の者に」


魔王「……」

女側近「どうか……」

232: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:39:59.04 ID:wTyjeIZKO

 俯いた女側近の表情は魔王からは見えない。女側近が自ら懇願してくるのは初めてのこと。

魔王「それが……キミの意志なの?」

女側近「……それは……」



魔王(女側近さんが自分の意志で望むなら……ボクは強制出来ない)




魔王(……でも、他の人が側近なんて考えられない)

女側近「……私は……私の意志は」







女側近「“魔王様”にあります。私の処遇は魔王様がお決めください」


魔王「……」







 魔王は手を伸ばし女側近の頭を撫でる。
 かつて彼女が彼にしたように……

魔王「キミはちゃんと側近出来てるよ」



女側近「……」

魔王「自信を持って、今まで通り側近を全うしてほしい」

魔王「これは命令ではないよ。ボクの願いだ」


女側近「はい……」

魔王「キミの意志で側近を辞めたいと思ったら……その時は遠慮なく言ってよ」

女側近「……」

魔王「それまではボクを助けてほしい」

233: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:41:19.01 ID:wTyjeIZKO

女側近「……かしこまりました、申し訳ございませんでした」


魔王「うん」ニコッ

魔王「魔伯爵さんには人間界に戻ってもらい、今まで通り領土を守ってもらう」

魔王「ボクらはまた4人で魔剣のある世界樹を目指そう」


女側近「はい」

 ぴょこんっと魔少女と魔道化師が後ろから現れる。

魔道化師「飛空船の操縦なら任せてよーうひゃ」

魔少女「まだ旅は終わってないよ、お姐ぇ」

魔王「これで……」




魔少女「冥都のまおーパーティ再結成だね!」



魔王「うん!」
魔道化師「うひゃ」
女側近「はい」


魔少女「ピエロはパーティに入ってないけど」

魔道化師「な、ななななんでだよー!」

魔少女「飛空船なくなっちゃったし」

魔道化師「マオが新しいのくれるよー」

魔王「え、どうなのかな? 女側近さん」

女側近「あ………ここ“最果ての町”からは徒歩での移動になります」


魔道化師「えええええーーー!」

魔王「うそうそ、城に戻ったら、ちゃんと弁償するよ」アハハ




魔道化師「ホッ……」

魔少女「ていうか、あの船ってピエロの船じゃないじゃん」

魔王「あ、そうかサーカス団のか。じゃぁいっか」

魔道化師「団長に怒られるぅぅー」


 アハハハっと魔王達の笑い声が夜空に響いた。

234: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:43:02.68 ID:wTyjeIZKO

 次の日。





---最果ての町・宿---


魔王「ZZZzzz……」


 モソモソ……

魔王「zzz…………ん……」



 モソモソ……

魔王「ふぁわ……?」

魔少女「あ、まおー様おはよー」

魔王「ファァー!?! 魔少女さんなんでボクのベットに……」

魔少女「やっとまおー様と合流できたから離れたくないのー★」ムギュ

魔王「……」

魔少女「ギューしてください……」

魔王「うん」

魔王(本当に無事でよかった……)




……


魔王「さ、魔少女さん起きようー今日からは歩きだから大変だよ」

魔少女「はぁい」

魔王「なんか寝坊しちゃったなぁ」

魔王(いつもは女側近さんが起こしに来てくれるのに……どうしたんだろ?)


魔王「ピエロおはよー! 女側近さんは?」


魔道化師「おはー! なんか朝早く細メガネのお偉いしゃんが来てどっか行ったよー」

魔王「魔伯爵さんが? ふーん」

魔道化師「マオ、ここの朝飯すっごい美味いぞ! 食べようよー」


魔王「先食べてて、ちょっと女側近さん探してくるっ」


 タタタタ……


魔少女「……」

魔道化師「いいんか?」

魔少女「なにがよ?」

魔道化師「あいつ、姐さんにベッタリじゃん。多分自分では気がついてないだろうけど、おそらく」

魔少女「……わかってるわ。何も言わないで」

235: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:44:07.25 ID:wTyjeIZKO

---最果ての町・飛空戦艦前---


魔王(女側近さん、何処だろう)


魔族兵「魔王様! おはようございます!」

魔王「おはよー。女側近さん見なかった?」

魔族兵「あちらの泉の方へ行きましたが……」


魔王「そか、ありがとー」



魔王(女側近さん朝ごはん食べちゃったかな)

魔王(それにしてもこの町は草木や植物がたくさん。最上層並みに綺麗な街だなぁ……魔界にもまだこんなところがあったなんて)

魔王(うお! すごい綺麗な泉……)




 魔界の朝日に照らされた泉はキラキラ光る。そのほとりに女側近はいた。
 名前を呼ぼうと魔王が息を吸い込んだ瞬間、隣に男性に気がつき言葉を飲み込んだ。



魔王(魔伯爵さん……)


 魔王は立ち止まり物陰から様子を伺う。美しい泉や木々に、麗しの2人。
 まるで絵画のような光景に息を飲む。


236: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/04(木) 23:45:10.05 ID:wTyjeIZKO

魔伯爵「無事でよかったよ。もっともキミがやられることはないだろうが」

女側近「そんなことない、何度も危ない目にあったわ。魔王様を助けてくれてありがとう」

魔伯爵「ふっ……キミらしくもない」

女側近「本当に感謝してる」

魔伯爵「仕事だ。気にすることはない。裏切り者の黒魔術師は我が必ず捕まえる」

女側近「うん、私は魔王様のサポートを」

魔伯爵「キミはもう少し自分で判断した方がいい。先代魔王様と今の魔王サマは根本的に違う」

女側近「うん。近くに貴方もいないしね」

魔伯爵「我を頼るな。キミがこの魔界のNo2なんだ」

女側近「ごめんなさい、しっかりするわ」


魔伯爵「……ああ、でも」




魔伯爵「我の前では強がらなくていい。甘えてくれ」


 ふっと微笑むと魔伯爵は女側近を抱き寄せた。


魔王「……!!」

 ザザッ
 
女側近「?」

 思いもよらない光景に魔王は走り出した。
 急いでその場を離れる。



魔王(……な、なに? このモヤモヤは)


魔王(苦しい。なんだよこれ。拷問されたときみたいだ)


魔王「なんなんだよ……」


  ■ 第22話 再結成? 終 ■

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/05(金) 23:45:22.27 ID:0N4eps/DO
勇者視点から来ました
面白いなあ

239: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:07:08.98 ID:UW311q800



  ■ 第23話 世界樹の森 ■
 
 
 

240: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:08:19.62 ID:UW311q800

---最果ての町・出口---


魔伯爵「それでは魔王サマ、お気をつけて」

魔王「……うん」


魔伯爵「ここから“魔剣”のある世界樹へは徒歩での移動になりマス。町を出てすぐ森があり、その奥が目的地デス」

魔道化師「なるほどーだから徒歩。森で飛空船が着陸できないからかーうひゃ」

魔少女「ピエロやることないじゃん」

魔道化師「に、荷物持ちがいるでしょー」

女側近「“魔剣”まではあと少しです。参りましょう」


魔王「……」

女側近「魔王様?」

魔王「……あ、ごめん。うん」

魔王(しっかりしなきゃ……)

魔王「魔伯爵さん、少年勇者をお願いね。魔剣が手に入ったら和平交渉を始めるから」

魔伯爵「お任せを」


魔少女「ではでは……世界樹目指して」


魔道化師・魔少女「レッツゴーっ!」


241: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:11:41.91 ID:UW311q800

……


 テクテク……

魔道化師「うひゃひゃひゃー草原だなー」

魔少女「お姐ぇ、なんでここは瘴気がないのー?」


女側近「ここは魔界でも標高が高い位置にあります。冥都でいえば第5層の高さです」

魔王「雨も降るしね、天然の雨なんて初めて見た」

女側近「世界樹のチカラにより樹の魔力が広がっております。魔界の大地に草木が育つのはその為です」

魔少女「あ! あれ森じゃない?」

魔道化師「うひゃー本当だ木がいっぱい」

魔王「あの奥に“魔剣”が……よし行くぞ!」


 魔王達は森の奥へと進んで行く……




---高地 世界樹の森---


魔王「あれ???」

魔少女「真っ直ぐ森の中を進んでたのに外に出ちゃったよ……??」

魔道化師「ひゃ?しかもここ、さっき入った所じゃ……正面に町が見えるー」


女側近「……」

魔王「え、え、もう一回森に入ろう」


 魔王達は再び森の奥へ。
 鬱蒼と草木が茂る道なき道をかき分けながら進んでいく。


 しかし……


魔王「えーーー?!」

魔少女「なんで??? また入り口にもどっちゃったよ???」


女側近「ここは世界樹の森……森自体が行く手を阻むと言われております」

魔王「むむむ……よし、じゃあ通った道に目印をつけながら進もう」


魔道化師「うひゃ、オイラが木にナイフで印付けてくよ」

242: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:13:37.72 ID:UW311q800


 1時間後……


魔王「あれ?? この木にも印あるよ……ここ通ったってことだよね」


魔少女「えー? ずーっと真っ直ぐ進んでたのになんで???」

魔道化師「ねぇさん、魔法で森を吹き飛ばしちゃえばいいんじゃない?」

女側近「出来ないことはありませんが……」


魔王「だめだめー! 魔界の植物は貴重なんだから!」

魔少女「でもどうするのよー?」

魔王「うーん。木に印がない方向が通ってない。そっちが正しい道だ!」


魔少女「うんうん! さっすがまおー様★」



 1時間後……


魔王「えーーー?!」

魔道化師「また入り口もどっちゃったよー」

魔少女「もうそこらじゅうの木に印が付いてて、訳わからないよ」

魔道化師「うひゃ、不思議なダンジョン」

魔王「どうしたら森の奥へ行けるんだ……?」

魔少女「お姐ぇなんかいい方法ない?」


女側近「……。森へ入ってしまうと知らぬ間に方向感覚がおかしくなってしまうんですよね。俯瞰で見ることができれば進みたい方向へ行けるのですが……」

魔少女「お姐ぇ、魔法で空飛べないの?!」

女側近「そんな魔法ありません」

魔王「うーん」


魔王(方角がわかればいいんだから……)

243: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:16:33.72 ID:UW311q800

魔王「女側近さんや魔少女さんは、離れていても魔力でお互いの位置がわかるよね?」

女側近「はい。魔力の持たない魔王様以外でしたら、わかります」

魔少女「あんまり離れすぎると分かりづらいけど」

魔王「じゃ、魔少女さんは入り口で待っててもらおうかな」


魔少女「えーーー!! なんで~? まおー様と離れたくないっ」

魔王「魔少女さんが入り口にいてくれれば、女側近さんは森の中へ入っても入り口の位置がわかるよね? 魔少女さんの魔力で」


女側近「なるほど……そうですね。それなら入り口に戻ってしまうことはありませんね」

魔道化師「うひゃひゃ、マオ頭いいな! よし行こう」


魔少女「えーーー。待ってるのはピエロでいいじゃん」

魔王「ピエロじゃ魔物が現れた時心配だしなぁ」

女側近「二手に別れましょう、魔少女とピエロが入り口で待機。私達が森へ入り、魔剣へたどり着いたら魔法で合図を送るので、魔少女とピエロは私の魔力を目指して合流して」

魔少女「うぅ……」


魔王「よし行こう!」



 魔王と女側近は再び森の奥へ。

 ザッザッ……

244: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:19:14.06 ID:UW311q800
……


魔王「ハッ!」


女側近「?」


魔王(女側近さんと2人きり……気まずい)

魔王(女側近さんの顔見ると、あの光景を思い出しちゃう)


魔王(しっかりしろ魔王! “魔王”なんだぞ!)

 魔王は邪念を振り払うように頭を叩く。

魔王「……」ポカポカッ

女側近「……ど、どうかいたしましたか?」

魔王「な、なんでもないよー」

女側近「何処か体調が悪いでしょうか?」



 女側近は魔王の額に手を当てる。
 魔王を覗き込むその瞳の近さに、カッーと体温が上がるのを感じた。

女側近「熱がありそうですね……」






魔王「そ、そそんなことななな、ないよ」


女側近「失礼致します」

 女側近は魔王の首の後ろとおでこに手を回すと、魔法で冷やす。
 彼女のなめらかな手の感触が余計に魔王をドキドキさせた。


魔王(甘えちゃダメだ……)


 もう大丈夫と言わんばかりか、やんわりと女側近の手を振りほどく。

魔王「ありがとう」

女側近「……はぃ」



魔王「行こう」

女側近「……待ってください」

魔王「え?」



女側近「魔少女達が移動しています」

魔王「え?!」

女側近「何かあったのでしょうか?」

魔王「モンスターかな? 戻ろう!」

245: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:20:36.67 ID:UW311q800


---世界樹の森 入り口---



 タタタタッ……

魔王「魔少女さん! ピエロ!」


魔少女「ありゃーやっぱり戻ってきちゃった……」

魔王「あれ?」

魔道化師「うひゃひゃ、どうしたマオ?」

魔王「2人が移動するからモンスターに遭遇したのかと思って……」



魔少女「え? ウチら動いてないけど」

女側近「確かに2人の魔力が移動していたんですが……」

魔王「……」

魔王(どういうことだろう? 何か不思議なダンジョンのカラクリがあるはず)



魔道化師「ほらほら、ここ森の入り口。モンスターも出てないし動いてないよー?」

魔少女「まおー様こそ、クネクネ進んじゃってアレじゃ迷っちゃうよ」

女側近「私達は真っ直ぐ進んで、真っ直ぐ戻ってきただけですけどね?」

魔王「……」

魔王(森に入るとおかしくなる訳で)

魔王「そうか、動いていたのは魔少女さん達じゃない。森の中のボクらだ!」

女側近「どういうことでしょう?」

魔王「森へ入ると、動かなくても勝手に移動しちゃうんだ。だから魔少女さん達が動いているように感じたんだ」

魔少女「……うーん?」

魔道化師「もっとわかりやすく説明してくれよー」


246: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:22:27.95 ID:UW311q800

女側近「なるほど。この間の“瘴嵐”の雲の中と同じです。瘴気の雲の中、飛空船に乗って真っ直ぐ前を見て進んでいたとしても、風や気流の影響で気がつかないうちに方向が変わってしまう」

魔王「そう! 森の中で真っ直ぐ前を見ていても、森の呪いせいで方向が変わっちゃうんだ」


魔少女「ふーん? じゃどうすん?」

魔王「また2人はここで待機してて!」



……




---高地 世界樹の森・内部---


女側近「魔王様、魔少女達の魔力が移動し始めました」


魔王「うん。じゃ、僕たちは止まろう」

魔王(この森のカラクリさえ分かってしまえば)


魔王「動いているのは彼らじゃない。ボクらだ。何も感じないけど」

女側近「2人の魔力が止まりました」

魔王「よし、じゃぁ魔少女さん達はどっちの方向にいる?」

女側近「あちらの方向です」

魔王「てことは……入り口が向こうだから、その逆が進行方向」

女側近「対角線上を2人の魔力から遠ざかるように歩いて行けばいいのですね」




 魔王が進行方向を先導し、行く手を阻むモンスターを女側近が蹴散らす。
 彼らは着々と森の奥へと進む。

247: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/06(土) 00:28:34.67 ID:UW311q800

……


 しばらく進むと、開けた場所に出る。
 正面にはまるで巨大な塔のような樹木がそそり立つ。






 世界樹である。




魔王「うおぉ……ついた」

女側近「魔少女達にこちらにくるよう連絡しました」

魔王「……すごいおっきな木だね。森を外から見たときは見えなかったのに」


女側近「魔王様、服に汚れが……」


 女側近は魔王の服についた葉っぱや汚れを払う。
 なんとなく後ずさりする魔王。


魔王「あ、ありがとう」

女側近「?」

魔王「……」アセ

女側近「なんでしょう……私を避けていらっしゃいますか?」

魔王「いやいやいやっ……そーゆー訳じゃないんだけど」

女側近「申し訳ございません。何か私に不備がありましたらお申し付けください」

魔王「不備なんてないよっ……ただあまり甘えないようにと思って」


女側近「何故でしょう?」

魔王「だって、女側近さん……あの、その」


 シュッ

女側近「魔王様あぶないっ!」

 突然飛んできた弓矢を女側近ははたき落す。
 驚き戸惑う魔王をよそに、臨戦態勢の女側近は弓矢を放った相手に殺気を向ける。

??「魔王軍め……」

 キラキラとなびく長い髪、長身で細くしなやかな身体。肌は人間のように白いが、耳が尖って長いのが亜人種の証。
 その美しい女性が、魔族とも人間とも距離を置く、独自のコミュニティを持つ“エルフ”である。

魔王「だ、だれ!?」


エルフ「女側近っ…おぬしを倒す!」

 
  ■ 第23話 世界樹の森 終 ■

251: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:42:58.10 ID:Rvthve7SO



  ■ 第24話 魔剣の真実 ■
 
 
 

252: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:45:59.19 ID:Rvthve7SO

---世界樹の森・魔剣の祭壇---


ガキンッ

 ガンッ  キンッ!




 世界樹。

 高さ150m、樹齢1万年、その巨大な樹木の麓に“魔剣”がある。

 女側近の連絡で魔少女と魔道化師も合流する。
 しかし、2人が到着したときには女魔族と女エルフの熾烈な戦いが始まっていた。


 キンッ! キンッ!



  シュッ


女側近「はあああああっ!」

エルフ「おおおおォッ!!」

 ギィィィインッ



魔少女「まおー様っ!」

魔王「よかった……無事合流出来たね」


魔道化師「それより姐さんは誰と戦ってだー?」



 ドゴォォォオンッ

女側近「ぐうっ!---っあああ!」ガキンッ

エルフ「ぐぅぅっ!」


253: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:48:02.27 ID:Rvthve7SO

魔道化師「うひゃ、つよい……姐さんと渡りあってるー」

魔王「あの女エルフは魔剣の守護者で、いきなり襲いかかってきたんだ。なんだか女側近さんのこと知ってるみたいで、話し合いに応じてくれない」


魔少女「たしかに強いわ……けど、魔界でお姐ぇに勝てる奴なんていない」




 バキィィィインッ!

エルフ「があああっ」

女側近「ふぅ……」

エルフ「はぁはぁ……強過ぎる。森の加護を受けても、これ程の差があろうとはな。恐ろしい魔族じゃ」


女側近「……」

魔王「エルフさん! 勝てないのはわかったでしょ?! 話し合おう!」


エルフ「話し合いじゃと?! わらわの一族にチカラずくで攻め込んできたお主らが言うことかっ」

魔王「……え?」


女側近「長年魔王軍は、エルフの森を侵略してきました」


魔王「父さんが……?」

女側近「はい。エルフ達は優れた魔法技術で森の場所を転々し、魔王軍から逃れています」


エルフ「お主……あの“魔王”の息子なのか?」

魔王「そうだよ。父は死んだ……新しい“魔王”はボクだ」

エルフ「無属性の小僧が“魔王”じゃと? 信じられん」

254: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:51:51.54 ID:Rvthve7SO


魔王「女側近さん、武器を消して」

女側近「はい」シャン


 魔王は女側近を手で制すと、エルフに近づく。
 その眼は真っ直ぐ前を見つめている。
 迷い、恐れ、不安、そのような負の感情は一切見えない。
 姿こそ子供であるが、その出で立ちは間違いなく……


女側近(本当に……本当に“魔王様”になられた)


魔王「新しい王として、父の行いにお詫びを」ザッ


 跪き頭を下げる。

エルフ「“魔王”が跪くじゃと……」

魔王「我らに争いの意思はありません。どうか歩み寄りを」

エルフ「……」

魔王「……」ジ……



エルフ「ふむ……お主は先代魔王とは違うようじゃな」

魔王「はい。魔剣を求めているという点は同じですが」

エルフ「……」

魔王「……」

255: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:53:11.05 ID:Rvthve7SO



エルフ「……よかろう」

魔王「えええ?! 信じてくれるの……?」

エルフ「ああ」

魔王「……」


エルフ「ふん……エルフの瞳は特別じゃ。眼を見れば嘘か本当か分かるのじゃ」

魔王「お、おお……」

エルフ「お主の澄んだ瞳は信用できる。女側近の濁った瞳よりはな」


女側近「……」

魔王「ホッ……」

エルフ「ついてきなさい」



256: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:56:32.10 ID:Rvthve7SO

 世界樹の根が入り乱れる麓に、少し高い祭壇がある。
 その中央に魔法陣が描かれ魔剣が刺さっていた。


魔王「これが魔剣……」




 キィィィン…………魔剣は黒く輝く。


魔少女「やーーっとたどり着いたね★」

魔道化師「黒い剣。かっちょいぃ!」

エルフ「わらわは魔剣を奪われないように守っていたわけではない」

魔王「?」

エルフ「むしろ解放したいのじゃ」



女側近「……」


魔王「……よく分からないけど、もらっていいってことだよね?」

エルフ「お、おい……」

魔王「え?」


エルフ「女側近、おぬし……新しい魔王に何も話しておらんのか??」

魔王「?」

女側近「魔王様」

女側近「魔剣は……持った者の精神を支配します」

魔王「え?」

エルフ「魔剣を手にした“魔王”は、強大なチカラを手に入れる代わりに、無秩序な破壊者へと変貌するのじゃ」

魔王「えーーー?!」

女側近「魔剣の暴走です」

257: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 00:59:06.98 ID:Rvthve7SO

魔少女「な、なにそれ! 武器として成り立ってないじゃん」

魔道化師「ここまで来て使えないとか、意味ない、うひゃ」

女側近「それゆえ、先代魔王様は魔剣を諦めました」


魔王「……」

女側近「……」

魔少女「え、え……何しに来たのウチら」

女側近「しかし、魔剣の暴走を止める方法はあります」


魔王「おお! なんだ、先に言ってよー」

魔道化師「うひゃ、そりゃそうだよねー」

魔少女「で、どうするの?」

女側近「魔剣に触れて……一旦身体を支配させます」

エルフ「そして、お主自身が精神世界で魔剣の支配に勝つのじゃ」


魔王「そんな………」

女側近「……」

魔王「ボクが夢の中で魔剣と戦うってことだよね……漠然としすぎて勝機が見えないよ」



女側近「支配されている間の身体は暴走状態、暴れまわると予想されます。その間、私が魔王様を拘束しますが……」

エルフ「長時間魔剣に支配されていると人格は消滅してしまう。もって1時間といったところかの」

女側近「魔剣に触れて……1時間。その間に正気に戻れなければなりません」



258: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 01:01:15.39 ID:Rvthve7SO

魔少女「危険過ぎるよ……」

魔道化師「マオが1人で戦わなきゃいけないのかー」

魔王「……」


魔王(ボクに出来るのか?)

魔王(魔剣が無ければゲートを閉じられない。戦争を終わらすことは出来ない)



魔王(死ぬかもしれない)

魔王(それでも……やるしかないよね? 魔界を統治するには必要なこと)



女側近「私に考えがあります」


魔王「うん」

女側近「魔少女はサキュバスです。夢の中、“精神世界”に入ることができます。彼女が魔王様を助け出す」

魔少女「お姐ぇ……」

女側近「できるわよね?」


魔少女「うん」コクリ


エルフ「なるほどのぉ、それなら格段に成功率を上げることができる」

女側近「魔王様が魔剣に触れ、正気を失ったら私が全力で拘束致します。その間に魔少女が精神世界から魔王様を助け出す」


エルフ「わらわも協力しよう」

魔王「……」

魔道化師(オイラやることない……)


女側近「これが最善策だと考えます。どうでしょうか?」


259: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 01:09:12.38 ID:Rvthve7SO

魔王「1つだけ質問があるんだけど」

女側近「はい」







魔王「父さんは……なぜ諦めたの?」


女側近「……」


魔王「絶対的なチカラを持ってて、誰より強かった父さんが魔剣を諦めたんだよね? この作戦をやらなかった理由は?」


女側近「……」

魔王「……」

女側近「先代魔王様が魔剣に触れ、精神世界で魔剣と戦う」

魔王「強い父さんがそれを恐れたの?」

女側近「いえ、そうではありません」

エルフ「そうか、精神世界で戦っている間は……身体は正気を失う」

女側近「はい、正気を失い魔剣で暴走している先代魔王様を誰が止められるのでしょう?」

魔王「父さんは魔界最強だった」

女側近「はい、先代魔王様は自分が暴走したら誰も止めれないと考えたのです」


女側近「貴方のお父様は自分のチカラしか信じてなかった」

女側近「部下の誰も信用せず、絶対的なチカラで従わせる。そのような、王でありました」


魔王「……父さんは部下のチカラを信じられなかった」

魔王(仲間を信じられなければ、この作戦は成り立たない)


魔王「ボクは……みんなを信頼してる!」




魔王「やろう、魔剣を手に入れる!」

260: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/07(日) 01:10:59.28 ID:Rvthve7SO


魔道化師「うひゃ、せっかくここまで来たんだしな」

魔少女「まおー様はウチが必ず連れて戻るよっ!」

エルフ「うむ、誰かが魔剣を解放せねばならぬのじゃ」

女側近「……魔王様を。……魔王様を、守ります」


魔王「よし」

魔王「……あ」

魔王「ごめん! みんな、魔剣を抜く前にちょっとだけ女側近さんと2人だけで時間もらっていい?」


女側近「はい?」

魔少女「……!」

魔道化師「ほぉ……うひゃ」

エルフ「ふむ」


魔王「伝えたいことがあって……」

魔王(死ぬかもしれない、最後に言っておかないと)




  ■ 第24話 魔剣の真実 終 ■

263: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:32:40.28 ID:oPdy1MEd0



  ■ 第25話 カラダ ■
 
 
 

264: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:34:03.61 ID:oPdy1MEd0

---世界樹・魔剣の祭壇---


魔少女「---!!」ガーン

魔少女「……ふ、2人きりで伝えたいこと?」ワナワナ

魔王「うん、ごめん、ちょっとだけ時間下さい」

魔道化師「うひゃー大胆っ! 魔少女しゃん、エルフしゃん。行きましょ」

魔少女「」ガーーーン



 トボトボ……魔王の元から女側近以外は離れる。



魔王「ごめんね、急に」

女側近「いえ」


魔王「えーーと……」ドギマギ

女側近「?」


魔王「あのね」

女側近「はい」


265: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:37:46.73 ID:oPdy1MEd0




魔王「ボクが魔剣に触れて1時間たったら……」






魔王「迷わずボクを殺して」

女側近「魔王……様」

魔王「ボクごと魔剣を倒すんだ」

魔王「そして、次の“魔王”は女側近さんがなるんだ。その後、魔剣を持って人間と和平交渉。ゲートを閉じるよう動いて欲しい」


魔王「これは、命令です」


女側近「……」


女側近「魔王様、縁起でもありません」

魔王「わ、わかってるけど、一応一応ね! 頼んだよ」

女側近「はい。魔王様の命令は絶対です……」


魔王「うん」ニコリ


女側近「……」


魔道化師「話おわったねーうひゃ。まったく」

魔少女「……」

エルフ「ふん」

魔王「みんな、待たせてごめん」

魔道化師「マオは何も気がついてないな」

魔王「なにが? 何の話?」

魔道化師「何でもないよー。尖った耳は伊達じゃないひゃ」


魔王「?」

266: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:39:04.43 ID:oPdy1MEd0


エルフ「では、始めるかの」



 魔剣は静かに刺さっている。
 その存在感はすぐ後ろにある世界樹にも匹敵する。


魔王「よし……」

女側近「ピエロは魔王様が魔剣に触れてからの時間を計りなさい」

魔少女「あ、ウチ夢に入ると寝ちゃうから身体支えてね」

魔道化師「あいさ! オイラの出番来た!」

エルフ「女側近、魔王を氷で拘束するんじゃろ? わらわはその上から結界で閉じ込めるわ」

女側近「私1人で十分よ」

魔王「いや、エルフさんも協力してほしい」


魔王(無属性のボクが暴れても大したことはないと思うけど、念には念を……)

魔王「みんな……よろしくね。いくよっ!」



 魔王は手を伸ばし……







 触れる。

267: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:40:45.51 ID:oPdy1MEd0

 黒い光が魔剣を包み込み、ビリビリと魔力で空気が震える。
 魔剣を掴むと一気に引き抜く。


魔王「あああああっやあああ!!!」





 キイイィィン……


……


魔王「ぬけた……」


 魔王は魔剣を手に入れた!!




女側近「ーッ」

魔少女「……ッ」

魔道化師「ぃぃ……ッ」

エルフ「---ッ」



魔王「……」


魔王「……あれ?」

魔少女「何も起きない?」

女側近「……魔王様?」

魔王「い、今のところ何ともないね」

魔道化師「1分経過っ!」

エルフ「何故じゃ?」


魔王「……」

魔少女「ひょっとして無属性は大丈夫とかかな??」

女側近「身体に異変はありませんか?」


魔王「うん、それもそうだし、この剣に凄い力があるようにも感じないなぁ」

268: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:41:45.93 ID:oPdy1MEd0

魔道化師「ふぁ……何もないのか~緊張して損した」


魔王「まだ油断は……」





  ドクンッ




魔王「まって……」



  ドクンッ



魔王「身体の奥が……」

女側近「魔王様!?」キッ




  ドクンッ


魔王「何か来る」




  ドクンッ


  ドクンッ


  ドクンッ  ドクンッ


  ドクンッドクンッドクンッドクンッ……

魔王「があああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁあああっ!!!」


269: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:43:36.92 ID:oPdy1MEd0


 うずくまり叫び声を上げる魔王の全身を、黒い光が包む。

魔王「がががががあああああっ!」

魔少女「まおーさまっ!!」

女側近「魔少女っ夢魔の準備をっ!」




魔王「ががが……」


魔王「が」

女側近「魔王様?」



 突然静かになった魔王は、何事もなかったように立ち上がる。
 その表情は笑っていた。


魔王「……カラダ……カラダ」ニヤ


女側近「はああああっ!」

 女側近は氷牢魔法を放った!

 ガァッキィィンッッ!!

 魔王の身体は氷に包まれ拘束する。


女側近「魔少女っ!」

魔少女「はいな! ピエロ、身体お願いね」スァ……

 魔少女はパタリと意識を無くす。



エルフ「ふんっ!」

 エルフは結界魔法を放った!

 パキパキッ…………バァリィンッ!!

 氷の牢と結界は弾き飛んだ。



女側近・エルフ「なっ!!」

270: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 00:45:17.81 ID:oPdy1MEd0

魔王「ウットウシイ」

 魔王はユラリと魔剣を振り下ろす。



魔王「カカカ……」



 ボトッ


女側近「?」

 女側近は音のした足元に視線を移すと、自分の腕が転がっていた。

女側近「----------ッッッあぁぁあ……」


エルフ「魔剣めぇぇ」シュッ


 エルフは弓矢を放つが標的の魔王は突然消える。


 ドスッ

 エルフは背後から魔剣を突かれ、血を吐き出す。

エルフ「ゴホッ……」


魔道化師「うひひひぃー……なんて速さ。ま、マオぉぉっ!」


魔王「ナ、ナンダコノカラダハ?」

魔王「マリョクガナイ……」



女側近「はぁはぁ……速すぎる」

エルフ「くそ……女側近、受け取れ超回復薬じゃ」


女側近「くっ……」

エルフ「魔王の身体を気遣って手加減してると、こちらが殺されるぞっ全力で行け!」

 女側近は超回復薬を使った!


女側近「魔王様……」


魔王「カカカ……コロス。ミンナコワス」


魔道化師「こ、殺さずに拘束?? むひゃ~」


  ■ 第25話 カラダ 終 ■

271: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:26:14.70 ID:75Kkc0pFO



  ■ 第26話 ボクに--なんて出来るわけねぇ ■
 
 
 

272: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:27:29.66 ID:75Kkc0pFO




静かだ……



暗闇。


何も見えない。何も聞こえない。
すっごい心地いい……

どんどん暗闇に落ちていく。

なんだっけ?
ボク寝てるんだっけ?
ねちゃっていいのかな……仕事終わってる?


女側近さん……

ボクらは世界樹を目指してて
魔剣を


魔剣。


そうだ、、魔剣を掴んだ。

それで?
どうなった?

思い出せない。



ボクは……魔剣に支配される?






だめだよ、帰らなきゃ




帰ろう


みんな待ってる。



ボクは--なんだ!

あれ?

ボクは……--


--。
口に出せない。


273: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:28:39.63 ID:75Kkc0pFO




ん?

何か前から来る。
あれは……魔族館長さん?

こっちを見て笑ってる。




「ハハハッ」

「クズのお前が--だって? 笑わせる」

「図書館の整理もろくに出来ないクズが」
え?

「何にも出来ねぇクズが粋がってんなよ」


粋がってなんかない……

ボクは……魔界の--なんだ

「じゃあお前がここに来るまで何したよ?」

「黒魔城を攻めてきた勇者と戦ったのは魔執事だ」

「冥都、下層で盗賊を倒したのは魔少女だ」

「母親を助けたのも、女側近」

「捕まったクズのお前を助けたのは魔伯爵だ」


……。

「守られて何もしてないのに--だと? 自惚れんな」

「お前は何もしてねぇ、何も出来ねぇ」 




……。


そうだ。

ボクにはチカラがない。

でも--なんだ。
父さんの後を継いで……立派な--になるんだ。



精一杯頑張れば

誠意を持って一生懸命やれば



みんな認めてくれる。

274: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:29:57.34 ID:75Kkc0pFO

「全員が認めてくれると思うか?」

「クズのお前が--なんてよ」

「お前、なんで裏切り者がいると思ってんだよ?」




「認められてねぇからだろがよっ」

魔族館長さん、ボクはあの頃とはちがうっ


何も言えず

何も考えず

何もしようとしなかったあの頃とは




もう違うんだ!

ボクは決めたんだ。
--になるって……


戦争を終わらす


それがボクのやるべき使命だ。
そう決めたんだ。




「無理に決まってんだろが……」

決めたんだ


「おめーに出来るわけねぇ」

出来る出来ないじゃない……


「クズが……」


やるか、やらないかなんだっ!





ボクは……









「 魔 王 」









ボクは……


魔王「やるんだぁぁああっ!!!!」

  ■ 第26話 ボクに魔王なんて出来るわけねぇ 終 ■

275: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:55:19.75 ID:75Kkc0pFO



  ■ 第27話 精霊薬 ■
 
 
 

276: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:56:38.84 ID:75Kkc0pFO

 ガッキィンッ

     キィンッ  キィンッ

   ドォゴッ


女側近「くっ……」

魔王「グア……グア……」


エルフ「はぁはぁ……動きが鈍くなっておるぞ」

魔道化師「あ……あ……」


女側近「魔王様が自我を取り戻し始めてるの……か?」

魔王「ウットウシイぃぃいっ!」


 魔王は魔剣で攻撃!


 空を切った魔剣から衝撃波が飛ぶ。
 女側近は距離を取っていたが、全身が切り裂かれる。だが、ダメージも御構い無しに魔王を拘束しようと魔法を放つ。


魔王「クラウカヨッ!!」


 魔王は女側近に肉薄し、直接斬りつけようと剣を振り上げる。
 あまりの早さに魔王の肉体はついてこれず、ブチブチと筋肉の切れる音が女側近に耳に入った。


女側近(魔王様……っ)


 ジャキィィィンッ


 魔剣が女側近の肩にめり込む。


女側近「ゴフッ……」

魔王「シネ」


277: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:57:47.25 ID:75Kkc0pFO


女側近「捕まえた……」


 肩口にめり込む魔剣を左手で掴み、氷魔法を放つ。
 メキメキッと傷口と魔剣が凍りついて固まる。


エルフ「女側近っ!!」


 エルフは女側近に向かって回復薬を投げる。女側近をもう片方の手を受け取り、すぐに使用する。
 ここまで長時間耐えられたのは、エルフの調合する回復薬があってのこと。
 しかし、魔剣もようやくそのことに気がつく。
 魔王は女側近を蹴り飛ばし距離を取る。

魔王「キサマカラサキニコロス」

 
魔道化師「マオっ!! 戻ってこいっ! マオぉぉ……」


女側近「ピエロッッ……死にたいのかっ! 離れろっ」

魔道化師「マオぉぉぉ……」

エルフ「ピエロ、時間は……」


魔道化師「い、1時間だ……よ。マオぉぉぉあああああああああああああっ!!」


女側近「……っ」

エルフ「……」


女側近「そんな……」

魔王「ハァアアアアッ……カカカ。モウコノカラダモラッタ」


 魔王はまだ笑っていた。

エルフ「女側近、予定通り魔王を殺すのじゃ。行けるか?」



女側近「……ェ」

エルフ「……なんじゃ?」


278: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:58:44.67 ID:75Kkc0pFO

女側近「ダメッ!」



魔王「ハァアアアアっ!」

 魔王は衝撃波を放った!



 ザアアアアァァッ


女側近・エルフ「うわああああっ!!」


女側近「魔王様は……きっと戻られる……」


 女側近は氷牢魔法を放った。


 ガッキィンッ

 女側近は氷牢魔法を放った!

 女側近は氷牢魔法を放った!

 女側近は氷牢魔法を放った!


 ガッガッガッガッキィンッ!!!


女側近「はぁはぁ……」



エルフ「もう無理じゃ……殺さないと、わらわ達が殺されるぞ。それだけじゃない。あやつは魔界全てを殺してしまう」

279: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/08(月) 23:59:43.60 ID:75Kkc0pFO

女側近「奴の動きは少しずつ鈍ってきている……あと少し」


エルフ「……」

魔道化師「マオ……」


女側近「エルフ……精霊薬は持っている? あなた達の一族に伝わる秘薬。私に」

エルフ「お主アレがどんな薬かわかっておるのか?」

女側近「わかってるわ、潜在魔力を引き出す薬。このままじゃ抑え込めないっ! はやくっ」


エルフ「精霊薬とは名ばかりで、生命を消費して魔力を強化する………お主の身体がどうなるかわからんぞ」

女側近「魔王様を拘束できるなら構わない」

エルフ「……」

女側近「はやくっ! 今の魔力ではもう保たないっ! どんな代償でも構わないっ!」

エルフ「……。ここへきて、何という澄んだ瞳じゃ」

魔王「グガガガ……」



 パギギィイッ!

 氷の牢は弾け飛んだ。


エルフ「よかろう……。お主の亡骸はわらわが拾ってやろう」

 女側近はエルフから精霊薬を受け取ると躊躇いなく飲み干す。



魔王「コワス……コロス……」


女側近「……」



 女側近の瞳が徐々に赤く染まっていく……


女側近「ああああああああああっ!!」



  ■ 第27話 精霊薬 終 ■

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/09(火) 01:52:04.86 ID:L0QjGNvxo
女側近ちゃん無理しないで

282: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 17:50:56.57 ID:agKML09K0



  ■ 第28話 失われる光 ■
 
 
 

283: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 17:53:55.85 ID:agKML09K0

 魔王が魔剣を引き抜いてから





 14日後。





---エルフの森---

《エルフの森。魔族とも人間とも違う亜人種、エルフ。優れた魔法技術と魔法学、なにより特化しているのが魔法薬の精製。そんな彼らが暮らす街。入り組んだ樹木と植物が共存し、街そのものが生命体のように生きている》





魔王「……ぅんん」


魔少女「あ! ああああああっ! まおー様っ」


魔王「魔少女……さん?」

魔少女「よかったぁぁうぇぇん……」グスン

魔王「……ここは??」

魔少女「ぇぐ……ぇぐ……ごごはぇぶぶのもじだじょ~」エーン

魔王「魔少女さん、落ち着いて……」

魔少女「みんなょぶでぐるぅ……グスン」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの魔少女は何言っているかよく分からないが、部屋を出て行った。
 周りを見渡すと、木のぬくもり漂うログハウスのような部屋。フカフカの白いベットに寝かされていたようだ。


 ガチャ


エルフ「ようやくお目覚めじゃな」

魔王「エルフさん……」

魔道化師「マオぉぉぉおおお……おぃおぃぃ…」エーン

魔王「ピエロ……」


魔少女・魔道化師「「ふぅぇぇぇん」」

エルフ「うるさいぞー2人とも。少し外に出とるんじゃ」ポイ


284: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 17:55:44.14 ID:agKML09K0

魔王「ここはどこですか? みんな無事ですか? どうなったんでしょう?」


エルフ「ここはエルフの森じゃ。わらわの街、一応皆無事じゃ」

魔王(一応?)


エルフ「魔剣を抜いてから14日たっておる。お主は一度は魔剣に支配されたが、女側近と魔少女のおかげで無事生還、魔剣を手に入れたというわけじゃ」


魔王「……」

魔王(魔剣に触れてからの記憶が……ない)

 ベットの傍を見ると無造作に魔剣が置かれていた。魔王以外は触れることが出来ない。自身で置いたのだろう。


魔王「女側近さんは?? 無事なんでしょ??」

エルフ「……」



魔王「え……?」


エルフ「ついてきなされ」



 

285: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 17:58:20.89 ID:agKML09K0

---隣の部屋---


 ガチャ


 隣の部屋には女側近がベットで寝ていた。
 小さく寝息を立てていて、生きていることは間違いなく魔王はホッとした。
 ただ……彼女の顔、目を覆い隠すように包帯が巻かれていた。



魔王「目は……どうしたの?」

エルフ「彼女はお主を抑え込むために精霊薬を飲んだのじゃ」

魔王「精霊薬を?!?」

エルフ「うむ、精霊薬とは魔族の生命そのものを消費して強化する魔法薬じゃ」


エルフ「一時的に潜在魔力を最大限発揮する」


エルフ「しかし、副作用がある」


エルフ「身体、魔力、生命は繋がってる。生命を消費するとは身体の何かが壊れるということじゃ」



エルフ「今回の場合は目じゃ」



魔王「え……」


魔王「え、で、でも魔法で回復すれば目は治るんでしょ??」

エルフ「魔法で治せるのは傷だけじゃ、消費した生命を回復させることはできん」


魔王「……」

エルフ「つまり、彼女の瞳に……」





エルフ「視力は二度と戻らない」


魔王「……」








魔王「う……うそ……だ……」

エルフ「本当じゃ、もうほとんど傷はふさがっている。もう2、3日で目を覚ますじゃろう。意識は戻っても、光を見ることは出来んがな」




魔王(ボクのせいで……)


魔王(ボクのせいで……)



魔王「うわあああああああああ……」
 

 その夜、魔王、魔道化師、魔少女達の泣き声がエルフの森に響いた。


286: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:01:11.27 ID:agKML09K0

 次の日。




 魔王はエルフの森の長、長老と席巻していた。
 魔王軍は長きに渡り、エルフ一族を侵略してきた。エルフは魔法技術に長け、森の場所を転々し逃れてきた。
 エルフ一族だけが魔界で魔王軍の支配下ではなかった。




長老「同盟?」


魔王「はい……エルフ一族と友好的な関係を築きたいのです」

長老「先の“魔王”が我一族にした罪はどうなる?」

魔王「私が現王として我父の罪を謝罪します。申し訳ありません」



 魔王は跪き頭を下げる。
 王らしからぬ行為なのは承知の上。ただ殺されたエルフもいたと言う、この程度では許されない……と思っていた。


エルフ「長老様、我々エルフの瞳には、この“魔王”に嘘や企みがないのはお分かりいただけるでしょう?」

長老「うむ、魔王よ何が望みじゃ? 魔法か? 薬か?」


魔王「何かを求めて友好関係を築きたい訳ではありません。強いて言えば、エルフ達あなた方が隠れずに我らの町や冥都に足を運んでいただければ幸いです」

長老「それでお主らに何の得がある?」


魔王「……ボクには友人があまりいませんが」





魔王「友達は多い方がいいでしょう?」


長老「ふっ……はははははは」

エルフ「フフフフッ」

魔王「あ、あはははは」




長老「面白い王じゃな……良かろう。お主を信じてみよう」

魔王「あ、ありがとうございます!!」

長老「魔剣を解放してくれた恩義も返さなければあるまい」

287: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:04:01.90 ID:agKML09K0

魔王「……この魔剣……」


 魔王は魔剣を鞘から抜くと、エルフの長老にずっと思っていた疑問をぶつけた。


魔王「この剣は何なのでしょうか?」


魔王「強力な武器であり、“魔王”しか触れることが出来ず、ゲートの鍵であって、触れたものを支配してしまう」


魔王「なぜこれをエルフさんは守っていたのですか?」


長老「うむ、そうじゃな……」

魔王「はい」

長老「人間界には聖剣というものがある。魔剣と対となる武器じゃ」

魔王「はい」


長老「魔剣と聖剣はもともとは1つの剣であった……“神剣”と呼ばれていたそうじゃ」


長老「約70年前、人間達はその神剣を使いゲートを作り魔界へ攻めてきた。突然異世界から攻めてきた人間達に魔族は苦戦した」

長老「その危機が冥都に迫るほどに苦戦を強いられた。神剣があまりに強過ぎたのじゃ」

魔王「戦争が始まったころの話ですね」

長老「しかし、戦況を変える若き騎士が現れたのじゃ。剣一本で人間兵を斬りまくり、ついには“神剣”をも破壊した」


長老「破壊された神剣は魔剣と聖剣に別れて……魔界と人間界に。神剣を失った人間達は魔界から退却を余儀なくされた」

長老「負の力を受け継いでしまった魔剣は触れた魔王を破壊者へと変貌させる剣となってしまった」


魔王「……」

長老「その魔力があまりに強いため、我らエルフはその若き騎士に頼まれ魔剣が暴走しないよう守っておったのじゃ」

長老「お主のおかげでようやく魔剣を解放することが叶ったのじゃ」

288: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:05:28.30 ID:agKML09K0

魔王「ゲートを作ったのが神剣。魔剣と聖剣が交わるとゲートが閉じる……」

長老「ゲートを閉じるつもりか。戦争を終わらすにはそれが良いかもしれんな」

魔王「その為なら自分は何でもやります」


長老「私等エルフ族も協力しよう。魔界の平和……あの若き騎士の願いでもあった」

魔王「その若き騎士さんはどうなったのですか?」

長老「戦争で亡くなったと聞く。彼にはとても助けられた。あやつは勇敢な若者で、魔王軍に所属してはいたが種族を超えた我が友だった」


魔王「友達……そうでしたか」

魔王(“勇”敢な若“者”……か)


長老「彼がいなければ魔界は人間に支配されていたじゃろう」


長老「そういえば彼も無属性であったな。何かを成し得るのに魔法や魔力は関係ない、お主を見て改めて思ったよ」

魔王「……」


魔王(ボクは……何かを成し得ることができるのだろうか?)






289: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:08:37.30 ID:agKML09K0

---エルフの森・広場---



魔少女「まおー様っ! どうだったのー? 長老さんに会えたの?」


魔王「うん、何とかいい返事もらえたよ」

魔少女「さっすがまおー様っ」



魔王「でもボク一人じゃ、この先の同盟に関する細かい話し合いはできない……」

魔少女「うん」

魔王「ボク、14日も寝てたんだよね?」

魔少女「そだよー心配したんだから」

魔王「執務ヤバイ……どうしよ」


魔少女「あれ? ピエロだ。何してんのー!?」

 広場の端の方で魔道化師が、木の周りを回りながら何かをしている。魔王達が近づくと気が付き手を振る。

魔道化師「マオっ! 魔少女っ!」

魔王「ピエロ……何してるの? 新しいサーカスの練習?」


魔道化師「うひゃ、オイラも強くなれるように修行ひゃっ」

魔少女「ププ……そんなんで戦うって、あははは」

魔道化師「お、オイラも弱いままだとマオの役にたてないからな」

魔王「む、無理に戦わなくていいよ。ボクだって戦えないし」

魔道化師「何言ってんだよー魔剣手に入れたんだから! もう凄いんだろ~?」


魔少女「あ、そっかーそうよね」

魔王「……いや……なんかこの剣にチカラなんてあるように思えないんだけど」


魔道化師「マオも魔少女しゃんも意識無かったから知らないだろうけど、その剣すげーのよ!!! 一振りしただけで、衝撃波が……ぶっびゃびゃひゃーどっばーっんって感じで」


魔王「本当に?」

魔道化師「ちょっと振ってみろ。うひゃ」


290: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:09:47.72 ID:agKML09K0

魔王「うん」


 魔王は木に向かって魔剣を振る。

 ブンッ

 すると衝撃波が……


魔王「……」


 シーン

 しかし、何も起こらなかった!


魔道化師「ありゃ??? なんでー?」


魔少女「直接斬ったらすごいとかじゃない?」

魔王「よし」


 魔王は木に攻撃っ!


 カツッ


魔王「あた! 手首が……」

 魔王は1のダメージ受けた!

魔道化師「……」
魔少女「……」
魔王「……」


魔王(これ……ボクには使えないのかな? いや、でもボクしか持てないし)


 ドクンッ



魔王「?」

魔道化師「マオ?」

魔王「ん、なに? 何か特別な使い方があるのかな」

魔少女「剣からは何も感じないわね」

魔王(いや、いま……なんか……)










エルフ「魔王、いたいた! 女側近の意識が戻ったぞ!」

魔王「!!」

291: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:11:35.26 ID:agKML09K0


---エルフの森・女側近の部屋---


 部屋に入ると女側近はベットに腰掛けていた。
 その表情は穏やかだが、目は閉じられたまま……


魔王(……ッ)

魔王(本当に……視力が……)


魔少女「お姐ぇぇぇえええ……」エーン

 魔少女は女側近に抱きつく。

女側近「魔少女……ピエロ……」

魔道化師「うひゃひゃひゃ……みんな生きてて良かった~」

魔王「女側近さん……」


女側近「!……魔王様?」

魔王「ボクのせいで視力が……」

女側近「魔王様、お気になさらずに。魔剣を手に入れ、皆無事ですので最高の結果でございます」

魔少女「ふぇぇええん」

魔王「……」

魔道化師「魔少女しゃん、ちょっと二人にしてあげよーうひゃ」


魔少女「……ぅん」


 二人が出て行くと、部屋は静粛に包まれる。

魔王「……」


女側近「……」

 女側近は誰もいない方向を向いている。本当に目が見えない……魔王はそれを実感し胸が締め付けられた。

魔王「女側近さん……ごめん……ぅぅ……」

女側近「魔王様、自分を責めないでください。これは命令では無く、私の判断で精霊薬を飲みました。魔王様が心を病む必要はありません」

魔王「命令とか、判断とか……そんなんじゃないよ」


女側近「……」

 魔王は自分の居場所を知らせるように、女側近の手を握る。そして、目を閉じる。
 暗闇。


 エルフの森の美しい木々や動物、目の前の女側近の表情も見えない。
 手からは女側近のぬくもりを感じるが、何も見えない。


魔王「女側近さんが光を失ってしまったことが悲しい……」

292: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:13:00.61 ID:agKML09K0

女側近「……魔王様は」


魔王「……」

女側近「魔力の流れをご存知でしょうか?」

女側近「魔力というのは至る所に存在し、空気のように空間に漂っています」


魔王「え?……?」

女側近「強い魔力は瘴気のように視覚化します。しかし、見えなくとも何処にでも存在し漂い、流れています」


魔王「……」

女側近「私はその魔力の流れを感じることが出来ます。例えば……」


女側近「部屋の扉の向こうで、魔少女とピエロが聞き耳を立てているですとか」


 ガタッ……扉の向こうで慌てふためく二人の気配がした。

女側近「そこの窓際でしょうか? 小鳥が二羽とまっていることですとか」



 チュンチュン……

魔王「……っ!」

女側近「そんなに生活に困ることはありません」ニッコリ

女側近「慣れれば戦うこともできるでしょう。だから……」






女側近「大丈夫ですよ」






 女側近はニッコリ微笑んでもう一度「大丈夫ですよ」と言った。


……

293: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:14:24.71 ID:agKML09K0

女側近「魔剣は手に入りました。後は人間と和平を結べばゲートを閉じることが出来ます。ここまで来れたのは魔王様のチカラです」

魔王「うん……」


女側近「あと少しです。城へ帰りましょう」



魔王「そうだね……迎えは魔伯爵さんに頼もうか??」

女側近「?……なぜでしょう?」

魔王「……いや、だって……危険な目に遭ったし、目のことも言わなきゃだし」

女側近「魔王様……何かを勘違いされているような……」


魔王「あ、魔伯爵さんから直接聞いたんだ! 幼馴染で許嫁なんでしょ! もー言ってくれれば、遠距離恋愛にならないように……」

女側近「あ、あの!」


魔王「……はぃ」

女側近「ご、誤解でございます。魔伯爵は確かに幼馴染で兄のように慕ってはおりますが……恋人ではありません」

魔王「……いや、だって最果ての町の泉のほとりで見たよ」

女側近「アレは……魔伯爵が一方的にしてきたこと。私は彼と番になるつもりはありません」

魔王「そ、そうなの……? なんで??」



女側近「魔伯爵には許嫁が何人もおりますので、私である必要がありません」


魔王「えーーーー?!?」

294: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/09(火) 18:15:46.66 ID:agKML09K0

魔王「何人もいるって……そんなハーレムみたいな」

女側近「これが側近一族なのです……」

魔王「……」

女側近「私は魔伯爵より強かったので拒否権がありました。この私は魔王様に尽くすのみでございます」



魔王「な、なーんだ。ボクの勘違いだったのかぁ」

女側近「はい」


魔王「なんだか……わからないけど」


魔王「嬉しい……なんでだろ。はは」

女側近「私も……」

女側近「嬉しいです。誤解が解けたからでしょうか? 分かりませんが」



 微笑む二人の間には今まで以上の絆が出来ているように見える。
 覗いていた魔少女と魔道化師はホッとため息をつく。


魔道化師「うひゃ……鈍感同士、もどかしいひゃ」

魔少女「うん。でも、よかった……」

魔道化師「よかったのか?」


魔少女「愛する者の幸せを願うのは当たり前でしょ」

魔道化師「魔少女しゃん切ないな。オイラが慰めてやるよー」チュー


 ドガッ

魔道化師「いてっ!」



 目的を達成し、穏やかな空気が流れる魔王達。ようやく旅も終わろうとしていた。

 城を離れ約一月ちょっと。
 冥都が人間に襲撃されたことを魔王達はまだ知らない。



  ■ 第28話 失われる光 終 ■

298: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:45:22.66 ID:6ZYIrOVGO



  ■ 第29話 選べない選択 ■
 
 
 

299: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:48:06.59 ID:6ZYIrOVGO

ーーー高地・最果ての町ーーー


魔王「えーーーー?!?」

魔王「め、冥都が襲撃された?!」

 エルフの森を出て、最果ての町まで戻ってきた魔王一向。
 町で待っていた迎えの魔族兵から衝撃の事実を知らされたのだった。

魔族兵「はい、すぐに城にお戻りいただくよう魔執事様から迎えを命じられました」

女側近「襲撃はいつ? 城は大丈夫なの?!」

魔族兵「襲撃は7日前です。城に被害はありません。詳しいことは城に戻ってからお伝えします。転移魔法陣は魔界全土、再起動させてあります」

魔少女「じゃすぐ戻れるのね!」

魔道化師「うひゃ、急ぐぞ!」



300: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:51:55.64 ID:6ZYIrOVGO

---冥都 最上層・黒魔城---



 転移魔法陣であっという間に帰ってくる……。
 久しぶりの我が家、感傷に浸る間もなく魔執事のいる玉座の間へ。


魔執事「魔王様、ご無事でなにより。やっとお戻りっー訳っすね、おかえりなさいませ」


魔王「魔執事さんっ……状況は?!」

魔執事「いや、やばかったっす。城に被害はねぇっすけど……スラム、第1、第2層はほぼ壊滅状態、第5層にも被害があるっす」


魔少女「下位層が……」

魔王(か、母さん)

女側近「詳しく」



 魔執事の話によると
 人間達は3パーティ、計17人で襲撃。現在は全員撃破済。
 魔執事の元に人間襲撃の報告があった時点で最下層はすでに壊滅。

 人間達は別れて別々に攻めてきた為、手薄の冥都は大きな被害を受けた。



魔執事「っーわけです。人間達を引き連れていたのは、以前黒魔城まで攻めてきた“あの時の勇者”」

勇者「あの……転移魔法陣で飛ばした人間?!」


魔王(あの少年勇者が言っていた“帝竜”という勇者……今回の襲撃は少年勇者は知ってたのだろうか?)

魔王「今度は城じゃなくて街を襲った……? なんで?」

魔執事「魔王様をおびき寄せる為っ……すかね?」

魔王「やはりボクがいないのを知っていたのか?」

女側近「よく勝てたわね……」

魔執事「倒したのは俺じゃなくて」


 後ろからコツコツと革靴の音が聞こえてくる。魔王が振り向くと、その男はゆっくり口を開く。

魔伯爵「倒したのは我デスよ」

女側近「伯?!」


魔王「魔伯爵さん! どうして冥都に……人間界へ戻ったんじゃ?」

魔伯爵「人間達の不穏な情報を耳にしましてね、冥都へ戻ってみたのデス。結果、勇者達を迎え撃つことができました」

魔王「そうかぁ……ありがとう。しかし、下位が……」


魔執事「魔王サマのお母様は無事っすよ。護衛をつけていたので」


魔道化師「く、黒のサーカス団は?!」


魔執事「残念だが………」


魔道化師「---っ!!」

 言葉を失った魔道化師は走り出す。慌てて魔王も後を追う。

魔王「ピエロっ!」




301: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:54:31.28 ID:6ZYIrOVGO

---冥都 最下層---


 見渡す限りの瓦礫の山。
 瘴気が漂っていて視界は悪いが壊滅しているのはわかる。
 スラム、最下層は文字通り壊滅していた。

 大声を上げて泣き叫ぶ魔道化師。


魔王(なんで……こんなことに)

魔伯爵「魔王サマ、こちらへ」


 魔伯爵の後をついて行くと、魔王軍の拠点キャンプへとつく。多くの兵士が怪我人や死体の処理をしていた。

魔伯爵「こちらをご覧ください。ご存知デスよね?」


魔王「……!」

 魔伯爵の示す場所には一体の死骸。たしかに見覚えがあった……以前、黒魔城に攻めてきて転移魔法陣で遠くに飛ばした勇者。
 全身に何本も剣が刺さって串刺し状態だ。

魔伯爵「“帝竜”の勇者に間違いないデスか?」

魔王「うん……」


魔伯爵「そうデスか。後は、裏切り者の黒魔術師さえ捕まえれば、魔界の脅威は無くなりマスね」

魔王「下位の被害は?」

魔伯爵「かなり大きいデス。はっきり把握出来てはおりませんが、恐らくは最下層、2層は80%ほどは破壊されたかと」

魔王「--ッ」

魔伯爵「第5層の被害は大したことありません。ご安心を」



魔王(ボクが……)




魔王(ボクが……冥都の守りを手薄にしたせいだ……)

魔伯爵「今魔王軍を総動員して復興作業にあたっていマス。一番奥の部屋にお母様がおられマスよ」


魔王「うん……」

302: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:55:40.30 ID:6ZYIrOVGO

 トボトボと歩き出す……
 大声で泣いている魔道化師が見えた。周りの怪我人、兵士達からは人間達への憎しみと、魔王軍への不満が聞こえる。

 「人間めっ……!」

 「おかあさぁぁん……」

 「わしの家がぁぁ」

 「痛い痛い痛い痛い……」

 「人間が攻めてきたのに上位魔族の対応が遅すぎる」

 「魔王様は何やってたんだ」

 「魔王様、最近変わったらしいよ。だからこんなことに……」


 一言一言が魔王の胸を締め付ける。扉を開けると、魔王の母“女魔賢者”が怪我人の治療をしていた。





魔王「母さん……」

 女魔賢者は魔王に気が付かない。
 引っ切り無しに入ってくる怪我人を魔法で治療する。

 魔王は黙ってその場を離れた……。


303: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:57:41.44 ID:6ZYIrOVGO


 次の日。



---冥都 黒魔城・玉座の間---



魔執事「被害が下位だけだったのか幸いっすね」

魔王「……」


魔伯爵「復興自体はそれほど問題ないでしょう。ただ問題が」

魔王「問題?」


魔伯爵「今回の件で民の人間達への憎しみが非常に強くなっておりマス。この状況では和平はかなり難しいかと」

魔執事「それと部下幹部達の魔王様への不満もかなり深刻っすね……和平に反対の声が」


魔王「……ボクがチカラのない“魔王”というのも知れ渡ってしまったから、余計に」

魔伯爵「魔剣はどんな具合デスか?」


魔王「使い方の問題なのか? わからないけど、ボクには使いこなせないみたい……」

魔伯爵「そうデスか……」

魔王「“帝竜”の脅威がなくなったから良かったけど」

魔執事「帝竜?」

魔王「あ、魔伯爵さんが倒してくれた勇者のこと」


魔王(あ……)


魔王「そういえば女側近さんは??」



魔執事「失った視力を戻せないか、医者に診てもらってますよ。まぁきびしーっつうのは分かってますがね」

魔王「そうだよね……」


魔王(前に女側近さんが言ってたっけ)


 『どんな王でも支持しない者達が増えた場合、反乱が起こるでしょう』


魔王(せっかく魔剣を手に入れたのに)


魔王(危険な状況だよ。こんな状況で人間と和平するなんて言えない。いったいどうしたら?)





304: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/10(水) 08:59:30.19 ID:6ZYIrOVGO




---最上層 墓地---



 城の裏手、外界の雲海が見渡せる丘に王家の墓地がある。
 先代魔王の墓も立派に佇んでいる。
 その前で魔王は考える。


魔王(ボクは魔王だ)



魔王(父さん、何でボクに“魔王”を継ぐように遺言を残したの?)


魔王(ボクに魔力が無いのは知っていたんでしょ?)

魔王(何で?)




魔王(ボクはこの仕事を全うしたい)

魔王(戦争を終わらせる。沢山の犠牲があったけど……やはり人間との和平が正しい選択だと思う)

魔王(その為には……)



 魔王は拳を握りしめ、歯をくいしばる。
 一つの考えがあった。しかし、それには“覚悟”が必要。


魔王(成し遂げるには必要なんだ)


魔王(ボクの役目なんだ……)







 魔王は考える。どうすることがベストなのか。どうしたら戦争を終わらすことができるのか?


 魔王は最後の決断をする。





……



 三日後。



魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」


  ■ 第29話 選べない選択 終 ■

306: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 01:57:57.10 ID:8XAxIGdJ0












---魔界 冥都・黒魔城 玉座の間---




魔王「キミに“魔王”の座を譲ろうと思う」


魔伯爵「魔王サマ……」


 魔伯爵は驚き息を飲む。

魔王「頭のいい魔伯爵さんなら、ボクが何故この結論に至ったか分かるよね?」

魔伯爵「………戦争を終わらす為。ゲートを閉じる為デスね」

魔王「そうだよ。冥都でのボクの支持はかなり低い。人間の襲撃を防げなかったこと。ボクにチカラがないことが原因だ」


魔伯爵「……」


魔王「魔伯爵さんはチカラもあるし、今回の人間達を倒したことで冥都の救世主として、民や部下達から絶大な信頼を得たと思う」



魔伯爵「滑稽な思考デスよ。何かあるとすぐに誰かの責任にしたがる。悪を決めると、その反対の正義を祭り上げる。集団心理とは愚鈍の極みデス」

魔王「ボクが和平や停戦を命令しても、魔界情勢は悪くなってしまう。最悪、反乱が起こるかもしれない」

魔王「ボクは責任を取って生前退位する」

魔王「魔伯爵さんなら戦争を終わりにすることができる……」




魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」



 魔王の力強い言葉に、魔伯爵は天井を見上げ目を瞑る。

魔伯爵(……我が“魔王”に……)



307: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 01:58:41.53 ID:8XAxIGdJ0



  ■ 第30話 本当の意味 ■
 
 
 

308: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 01:59:54.54 ID:8XAxIGdJ0

……








ようやく……ここまで来た。

これで我は本当の自由を手にする。




今まで自由を感じなかった。

生まれてから一度も。
一度もだ。

一度も感じなかった。






我の一族は皆例外なく
魔王の側近となるべく育てられる。


10歳になるとその教育は始まる。
剣術、体術、魔法、戦術、学問、礼儀作法、あらゆる技術や知識を叩き込まれる。
その訓練は過酷を極める。

309: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:03:13.01 ID:8XAxIGdJ0


戦闘訓練では命懸けでモンスターと戦わされる。
何年も地底に閉じ込められサバイバル生活をさせられたり、眠ることを許さずひたすら知識を頭に叩き込まれたり、ただただ苦痛を与えられたり。

物心ついたころ、すでに自由はなかった。
起床する時間、食事の時間、訓練の時間、勉強の時間、就寝の時間。すべて管理されていた。

魔界の根本理念「弱肉強食」「絶対的上下関係」
自分より強い教官の命令は絶対。

その生活は100年続いた。

我の代では30数名が訓練を受けていたが、その途中で半分はいなくなった。死亡した者、精神を壊した者、逃亡した者。



自分が側近候補者であり、他の一族とは違うと授業で習った。
訓練施設の外では冥都があり、魔王様がいて、魔王軍があって、民や兵士がいる。側近一族の自分とは根本的に生き方が違う。
その者達には自由があることを知った。

しかし、その時はそれを疑問に思わなかった。




側近候補者達の中に歳の近い女の子がいた。
なんでも自分の番<つがい>らしい。

我らには恋愛の自由もない。
決められた相手に子種を提供する。
ただそれだけの相手。

何人も番がいたが、彼女には目を奪われた。


美しい容姿に、底知れぬ魔力、ストイックで勤勉な彼女は候補者達の群を抜いていた。

会話は禁止されていたが、我々候補者達は互いを目を合わせるだけで声を出さずとも会話ができた。
訓練中、ふとした瞬間に彼女と目を合わせ、教官に気付かれないよう会話する。

互いに励まし合い訓練を乗り切った。

成績は

当然彼女がトップ。二番目だった我は、第二側近になった。


310: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:05:52.23 ID:8XAxIGdJ0

訓練を卒業し、魔王様の側近を引き継いだ。
我は人間界の最前線が配属先となる。

訓練施設を出て、生まれて初めて外の冥都を歩き平和な世界を見た。
当たり前に自由に暮らす民をいた。


我は思った。




何故自分より弱い魔族がのうのうと自由に暮らしているのだろう?





何故我らだけが辛い生活を強いられていたのだろう?


我は第一側近になった彼女に聞いてみた。

「それは魔王様が望んだこと。魔王様の命令は絶対です」




彼女は感情を無くしていた。自分の存在は魔王様の為だけにあると。





実際に先代魔王様に会って我は思った。


次元の違う強さ。
統率力、先導力、カリスマ性、指導力、判断力、予測速度。

圧倒的だった。
王としての資質をすべて兼ね備えているように見えた。
素晴らしい王だった。



そうか、自分が先代魔王様より弱いからいけないんだ。

だから自由がなかったのだと。




311: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:08:11.79 ID:8XAxIGdJ0



そんな先代魔王様が突然病で亡くなった。



我が側近になって40年足らず。

異例の事態に戸惑った。何が1番戸惑ったかというと、遺言で次の王が息子である“下級魔族”だと知ったことだ。


まだ70歳足らずの子ども。

魔法も使えず。

チカラや技術も皆無。




「弱肉強食」のこの魔界で、そんな王など遅かれ早かれ陰謀や内乱、反逆、クーデター……崩壊するのは目に見えている。



何故、先代魔王様はそんな子どもに“魔王”の座を譲ると遺言を残したのか……?

女側近は亡くなった先代魔王様の遺言に従って、新しい魔王様を支えるを言っている。

それがご意志だと。


違う!



息子に情があった?

否!



そんな方ではない。






先代魔王様は
戦いを望んだのだ。



無力な息子が王を継げば、魔王軍内部で争いが起こることなどわかっていたはず





遺言の本当の意味は

312: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:09:27.82 ID:8XAxIGdJ0




“自ら戦い魔王の座を奪い取れ”だ
 
 
 
 
 

313: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:11:28.49 ID:8XAxIGdJ0


先代魔王様の息子が新しい“魔王”になって数日。我はすぐに動いた。


ゲートの管理者であった黒魔術師を使い、裏切ったと見せかけ“帝竜の勇者”に協力させる。


人間達は必要物資と仲間を連れて魔界へ。
黒魔術師にサポートさせ、冥都・黒魔城を襲撃させる。警備の手薄なルートを教えるとその通り行動してくれた。
女側近のいない間を狙ったにも関わらず退かれてしまう。


次に少年勇者に情報を流し飛空船を襲撃。頭の切れる勇者ではあったが、それゆえか魔王を捉えてゲートを閉じようとしていた。


このまま少年勇者と魔王が結託してしまうと、面倒なことになる為、我自らの救出へ。


勇者の仕業に見せかけて魔王を殺しても良かったが、そうなると次に王位を継承するのはNo2の女側近となってしまう。

彼女とは戦っても勝てない。

そこで魔王を生かしておいて、兵士や民に現在の魔王が下級魔族であるとバラすことにした。

そして今回の帝竜の勇者の再襲撃だ。
魔王が魔剣を取りに行ってる間に、再び黒魔術師を使い帝竜の勇者をサポートする。今度は街を襲わせ、我が倒す。

民や部下達は皆我を支持するだろう。
魔王自身すらも我が王であるべきと感じるだろう。


314: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 02:12:38.45 ID:8XAxIGdJ0



その通りになった。


たとえ魔剣を手に入れ強くなっていたとしても、民や部下の信頼を得るのには遅すぎた。

女側近が視力を失うという予想していない事態もあったが、これで魔界で1番強い魔族が我となった。これではチカラずくでも王位を奪い取れる。



ようやく……ここまで来た。



全ては狙い通り。




魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」


魔伯爵「……かしこまりました」ニヤリ


  ■ 第30話 本当の意味 終 ■

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 02:21:49.27 ID:VYVyjR+Oo
おつおつ
やっぱり魔伯爵が裏で糸を引いてたか

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 02:28:52.91 ID:jbLNiTpTo
魔伯爵にその剣を使えるかな

319: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 15:30:29.01 ID:OWBPr/esO



  ■ 第31話 重過ぎた彼のもの ■
 
 
 

320: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 15:32:15.78 ID:OWBPr/esO

魔伯爵「魔王サマのご意志を持って新たな王となりマス」


魔王「うん……」


 魔王は物悲しげな表情で見つめる。
 腰にさした剣を手に取り、魔伯爵の前へ出す。

魔王「魔剣だよ。これは“魔王”しか触れることが出来ない。解放したから、もう暴走することもないよ」



魔伯爵「……」

魔王「こんな剣を持てても王として……ボクは何も変えられない。民の気持ちや兵士達の信頼、そっちの方がよっぽど重い」



魔王「キミこそ王として相応しい」

魔王「この魔剣と共に王位を託します」




魔王「受け取ってください……」

魔伯爵「……はい」

 魔伯爵は差し出された剣に手を伸ばし……



 受け取る。


魔伯爵(魔剣……これで我が)


魔伯爵「“魔王”だ……」ニヤリ

魔王「……」








魔王「……残念だよ。魔伯爵さん」


321: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 15:35:44.83 ID:OWBPr/esO

魔伯爵「?」


 魔剣は……いや、魔王が渡した剣は黒い泥のように溶ける。




 魔伯爵は魔法封の呪いにかかった!

魔伯爵「これは……魔剣ではない?!!」

魔王「キミが黒幕だったんだね」




 魔伯爵の足元に魔法陣が浮かび上がり、部屋全体が結界に封じ込められる。
 魔王は泣き出しそうな表情を浮かべ魔伯爵を見つめる。
 背後から女側近、魔執事、エルフが現れ魔伯爵を取り囲んだ。

魔王「それは魔剣ではなく、エルフさんに作ってもらった呪いの剣」

エルフ「おぬしの魔法は封じ込めた。この結界も特別仕様じゃ」

魔執事「……オメェを尊敬していたのにょ」

女側近「……伯」

魔伯爵「……」


魔王「キミの策略は終わりだっ!」

魔伯爵「最初から……我に“魔王”の座を譲る気など無かった」


魔王「うん……ごめん、ハッタリだよ」

魔伯爵「我が裏切り者ということデスか? なぜ?」



魔王「ずっと分からなかったよ……側近が裏切るとは考えもしなかった」

322: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 15:38:15.75 ID:OWBPr/esO


魔王「最初に違和感を感じたのは……『帝竜』の勇者」

魔王「『帝竜』とは、あの勇者の人間界の通称だ」

魔伯爵「……それが?」

魔王「ボクは少年勇者から聞いていたから知っていたんだけど、魔伯爵さんは彼を倒した時、自分で『帝竜』と口に出した」

魔伯爵「……」


魔王「それは前から彼を知っていたということ」

魔王「そう考えると辻褄があうことが沢山あったんだ」

魔王「少年勇者が知っていた情報だ」

魔王「ゲートのある浮遊島を出た後、襲撃する計画。女側近さんの氷属性を打ち破る装備。そして、ボクが下級魔族であることを想定した作戦」



魔王「少年勇者はもう一人の裏切り者である黒魔術師から情報を得ていた。黒魔術師は当然ボクらの位置や女側近の氷属性を知っていただろう」


魔王「でもね」


魔王「ボクがチカラのない下級魔族というのを知っているのは、一緒に旅した魔少女、ピエロと側近の3人だけだ」

魔伯爵「……魔執事にも同じことが出来たと思いマスが?」


魔王「いや、魔執事さんは帝竜の勇者に殺されかけた。それに『帝竜』という意味を知らなかった」


魔伯爵「女側近では?」


魔王「彼女はずっとボクと一緒にいた。そもそも、魔王の座を狙っているならボクを殺して部下全員を従わせればいい。先代魔王様がいなくなって彼女が魔界最強。こんな策略する必要がない」

魔伯爵「……なるほど」


魔王「だからキミが裏切り者だ」

魔伯爵「……魔王サマ」

魔王「……」





魔伯爵「我は裏切っていません。何かの間違いデス、信じて下さい」

エルフ「嘘じゃ。エルフには嘘は通じん。観念しなされ」

323: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/11(木) 15:40:19.59 ID:OWBPr/esO





魔伯爵「ククク……ハハハッ」




 魔伯爵は観念したのか高笑いを上げ、魔王の顔を覗き込む。そこに側近という身分の表情はない。

魔伯爵「ではどうするのだ? 戦いの嫌いな坊ちゃん魔王が我を殺すことが出来るのか?」ハハハッ

魔王「覚悟したよ」


 全員が武器を構える。魔王も本物の魔剣を手に取り魔伯爵に向ける。

魔王「キミを殺すよ。戦いは嫌いだけど、秩序は必要だ」



魔王「キミの罪は重過ぎる」


魔伯爵「ククク……下級魔族が偉そうに」


魔王「みんなっ! 行くよっ!」

  ■ 第31話 重過ぎた彼のもの 終 ■

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 17:31:26.28 ID:+4gqLP/ro
魔王さまイケメン

326: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/12(金) 08:51:47.24 ID:Mi0bRHkaO



  ■ 第32話 ラストバトル ■
 
 
 

327: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/12(金) 08:53:42.27 ID:Mi0bRHkaO

 最初に動いたのは女側近。
 魔力で造った氷の剣を振り上げ魔伯爵を襲う。ジャリンッと剣の交わる音が結界に包まれた玉座の間に響く。
 魔伯爵はマントの奥に無数の剣を隠し持っていた。あの『帝竜』の勇者に突き刺さっていた剣だ。


 キンッ

  キンッ


 魔界1.2の強さの二人の剣技が交わる。女側近の剣筋は視力の無さなどまったく感じさせない。
 魔伯爵は魔法を封じられている。だが、女側近も魔法は使わない。それは……魔伯爵も氷属性である為、ほとんどダメージは期待出来ないからである。
 幼い頃から共に訓練をした2人。
 互いの戦い方は知っている。

 魔伯爵は剣を交えながらニヤリと笑う。

魔伯爵(あの訓練を思い出す。なぁ女側近)


女側近(なぜっ?! なぜ裏切ったの?!)

魔伯爵(キミには分からないよ。考えるのを放棄したキミにはね)

女側近(先代魔王様を尊敬していたんじゃないの?! その意志を……)

魔伯爵(尊敬していたさ)


女側近「はあぁぁぁっ」


 ガキッィイイ!

魔伯爵「ほぅ……よし、2本目」

 魔伯爵はもう一本剣を取り出し、二刀流。彼女もその剣技も知っていた。怯むことなく迎え撃つ。

328: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/12(金) 08:55:25.20 ID:Mi0bRHkaO

 ジャキィィィンッ!


魔伯爵(尊敬していたからこそだ。先代魔王様の『弱肉強食』という教えを、我は体現したまで)

女側近(魔王様が弱いから裏切ったと?)

魔伯爵(そうだ。キミも『弱肉強食』こそが魔界の在り方だと思っていたはずだ。強さ……強さが全てだ!)

   キンッ

 キンッ


女側近(強さ……とは、戦闘力だけではない。そう教えてくれたのは貴方よ)

魔伯爵(その通りだ。だからこそ、我が王に相応しい)

女側近(魔王様の強さを、貴方は知らないだけよ)


魔伯爵(弱いさ。キミも弱い……視力を失ったせいか? 動きが鈍いぞ)



女側近「では止めてみせろっ! はあぁぁぁっ!」


 女側近は大氷冷魔法を放った!


 強力なダイヤモンドダストが魔伯爵を襲う。しかし、魔伯爵も氷属性を宿しているため効果は薄い。

魔伯爵(ふん、こちらの視界も奪い奇襲するつもりか。次、姿を見せたら仕留めてやる)ニヤリ

 魔伯爵は二刀流の剣を構え直す。
 氷魔法が晴れる……目の前から現れたのは彼女ではなかった。


329: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/12(金) 08:56:44.24 ID:Mi0bRHkaO



魔執事「うらあああああっ!!」


 魔執事は大爆炎魔法を放った!


魔伯爵「なっ!!」


 ゴオオオオオオオォォォッ!!!


 
 激しい爆音と共にまばゆい炎が捲き上る。
 氷属性には火属性の魔法だ。それも魔伯爵は魔法を封じられているために、直撃も直撃だ。



魔王「やった」


魔王(作戦通りだ。女側近さんの視力が無くなったせいで、魔界で1番強いのは魔伯爵になってしまった)

魔王(そこで、エルフさんが造った呪い剣で魔法を封じ、女側近さんが剣技で時間を稼ぎ、その間に魔執事さんが弱点の火属性魔法を詠唱する)



女側近「まだです……まだ仕留めていません」



エルフ「ほれ」


 エルフは支援魔法を放った。

 魔王達の攻撃力が上がった。
 魔王達の防御力が上がった。
 魔王達の素早さが上がった。
 魔王達の魔力が上がった。


魔執事「次は仕留めるぜ」


330: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/12(金) 08:58:18.32 ID:Mi0bRHkaO

女側近「伯……」

魔伯爵「く……我を殺すのか?」

女側近「魔王様の命令は絶対です」

魔伯爵「そうか……」





 


魔伯爵「では……3本目」

 ジャキィィィンッ


魔執事「ぐあああ……」

魔伯爵「4本目」



 ジャキィィィンッ


エルフ「が……あああああっ」


魔伯爵「5本目」


 ジャキィィィンッ



女側近「きゃあああっ……」


魔王「え??」

 魔王は理解できなかった。魔伯爵は2本の剣を持ったまま一歩も動いていない。
 なぜ皆次々倒れていく?
 なぜ皆に剣が刺さっている?
 どんな魔法を使ったんだ?
 いや、魔法は使えないはず。



魔伯爵「さぁ1対1だ。ラストバトルを始めようか」
 

  ■ 第32話 ラストバトル 終 ■


333: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:29:35.33 ID:D5l3WST1O



  ■ 第33話 初めての実戦 ■
 
 
 

334: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:32:44.10 ID:D5l3WST1O

魔伯爵「ククク……」

魔王「……」

魔伯爵「なぜ? と言った顔だな」


 魔伯爵は倒れている3人を見て笑う。女側近、魔執事、エルフの3人は背中に剣が刺さり倒れている。
 突然劣勢に立たされた魔王は、状況を理解しようと頭をフル回転させるが答えは出ない。

 刺さった剣が独りでに動き出す。


 ズボッと抜けると、宙を漂い魔伯爵の元へ……。
 空中に浮かぶ3本の剣はクルクルと主人の周りを回る。

魔王「剣が……??」

魔伯爵「これは魔法ではない」

魔伯爵「“念道力”」



魔伯爵「触れずに物を動かす能力だ。優れた戦士や武道家は、攻撃の際に衝撃波や波動を放つことが出来る。我はそれを研究し、自ら応用し使用することが出来る」


魔王「な、なんだよそれ……」



魔伯爵「弱肉強食……魔界の根本理念であり、全ての在り方だ。その強さとは“魔力”」

魔伯爵「お前自身よくわかってるだろうが、魔力が強いか弱いかによって、その人生は順位付けられ、勝者と敗者、上か下か、全てが決まる」

魔伯爵「その圧倒的頂点にいたのが、お前の父……先代魔王様だ」

魔王「父さん……」


魔伯爵「先代魔王様のあまりに強過ぎる魔力は、何千年かかっても超えられるものではなかった。そこで我は考えた」








魔伯爵「『魔力以外のチカラで対抗できないだろうか?』」
 
 

335: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:34:51.08 ID:D5l3WST1O

魔伯爵「考えたよ。どうすれば先代魔王様に勝てるか……そこで目をつけたチカラが“念動力”だ」



魔伯爵「この念動力は魔法魔力によるものではない」



魔伯爵「魔法を封じられても、魔力を使い果たしても使える」

魔伯爵「優れた魔族は周りに漂う空気中の魔力を感じ取り、相手の行動を把握、先読みし戦う。女側近が戦えるのはその為だ」

魔伯爵「しかし、念動力は魔力を使っていないので先読みが難しい。何より視力のない女側近には“念動力”の攻撃はまったく認識することができん」

魔伯爵「今はまだ剣3本を動かせる程度だが、奇襲や不意をつけばこの通り。魔法を封じられても女側近に勝てる」


魔王(女側近さん……)






魔王「……」


魔伯爵「我が“魔王”となる!」

 ジャキィィィンッ



 浮遊する剣は一直線に飛んで行き、魔王の腹部に突き刺さる。

魔王「くあああぁぁ……」

336: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:36:27.38 ID:D5l3WST1O

魔伯爵「貴様に敬語を使うのがずっと苦痛だった」


魔王「はぁはぁ……」

魔伯爵「甘ったれた王政にもウンザリしたよ。だから、上手いこと勇者を使って最下層とスラムも掃除してやったんだ……一石二鳥だったろ」





魔王「それがキミの本音か……はぁはぁ」ジロッ


魔伯爵「なんだ? その目は? 下級魔族め身の丈を脇わえろ」

 ドガッ


魔王「ぐはぁ」

 見えない力で吹き飛んだ魔王は、ゆっくりと起き上がり魔剣を構える。



魔王「はぁはぁ……」


魔伯爵「ククク……なんだ? その剣で戦うのか?」

魔王「そうだ」

魔伯爵「ククク……ハッハハハハ! 笑わせる」


魔王「言ったはずだっ! 覚悟は出来ていると」

魔伯爵「ふん」

魔王「ボクが……









  キミを殺す覚悟だっ!」

 

337: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:37:31.33 ID:D5l3WST1O


 ドクンッ


魔王「が……が……」


魔伯爵「?」


 ドクンッドクンッ


魔王「ががが……来い……魔剣」



 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ


魔王「ががががががががががががががががががががががががががががあぁぁぁ」

魔伯爵「な、なんだ?!」



 魔剣から黒い魔力が吹き出し、魔王の身体を包む。

魔伯爵「まさか……魔剣を使えるというのか?」

魔王「がががが……ぢがゔ。魔げんがボグをづがゔんだ」




魔王「ががあぁぁぁっ!!!!」


 魔王はパタリと倒れると何事も無かったように起き上がる。


魔伯爵「?」


魔王「カラダ……カラダ……」ニヤ

338: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 00:39:29.85 ID:D5l3WST1O

 魔伯爵は浮遊剣で攻撃!


 ビュッッンッ

魔王(魔剣っ! 避けてっ)

 魔王の身体は消える。
 魔伯爵の背後にフワッと風が吹くと魔王は現れる。
 ヘラヘラと薄笑いを浮かべ魔剣を握り直す。

魔伯爵「?!」

魔王(あいつを殺すんだ)


魔伯爵「速過ぎる……これが魔剣のチカラだと言うのか?」

魔王(いけっ! 魔剣っ)

魔王「グアアあぁ」

 魔王は魔剣で攻撃!


 ジャァァッキィン!

魔伯爵「くっ」

 三本の浮遊剣でガードした魔伯爵だったが、魔剣は衝撃波を放ち、防御をすり抜け身体を切り裂く。


魔伯爵「ぐああああっ」

魔王「カカカ……タタカウタタカウ」


 キンッッ

   ガッ

  ドドドッッ  ガッキィッッ


 魔王の攻撃は防御に徹する魔伯爵を追い詰める。

魔伯爵「く……」


魔王「カカカカ……イイゾ、コロス、コロス」

魔伯爵(なんて攻撃だ、5本の剣でも防ぐので精一杯)

魔王「モットタノシマセロ……カラダカラダ……ラダ」


 キンッ


魔伯爵「くそっ!」


魔王「カカカカァッ」

魔王(いけるっ!)


魔伯爵「強い……認識し直そう。貴様を甘く見ていたようだ」

魔王「ア?」


魔伯爵(自由は目の前にある。我こそが“魔王”だ)

魔王(戦争を終わらす!それが“魔王”として為すべきことだ)


魔王(ボクは負けるわけにはいかないっ!)

 冥都最上層・黒魔城。

 その最上階、玉座の間にて結界に包まれた2人の思いが激突する。

  ■ 第33話 初めての実戦 終 ■

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/13(土) 00:41:17.56 ID:z+dBCcW2o
ちゃんと魔王できてるよがんばれ

343: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:03:56.05 ID:xwdSW1XfO



  ■ 第34話 望んだ世界 ■
 
 
 

344: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:04:57.36 ID:xwdSW1XfO

 キンッッ

   ガッ

  ドドドッッ  ガッキィッッ


魔王「カカカ」


魔伯爵「はあああっ」


 魔伯爵の攻撃を魔王はことごとく躱す。


魔王(魔剣っ攻撃だ)

魔王「カカカ……タノシイ」


魔伯爵「ハッ」

 シュッ


魔王(魔剣っ! なんで攻撃しないんだ?!)

魔王「ウルサイッウルサイッ」


魔伯爵「?」

魔王「ジャマスルナ、モットタノシマセロ」

魔王(言うこと聞いてくれない)

魔王「ガアアアアアアッ」


魔伯爵「くらえっ」ジャキィン


 魔伯爵の放った浮遊剣は、魔王の足に突き刺さる。たしかな手応えを感じたものの魔王の表情は笑っていた。

魔王「……カカカカ」




魔伯爵「効かないのか、ならば」








魔伯爵(これならどうだ……)


345: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:06:36.58 ID:xwdSW1XfO

 魔伯爵は自ら持つ剣を、倒れている女側近の首元に当てる。

魔王(っ!!)

魔伯爵「女側近の命が惜しければ魔剣を捨ててもらおうか」

魔王「カカカ……シラン」

 魔王は衝撃波を放った。



 ドォォォッッ!!


魔伯爵「ぐああああああっ」

 魔伯爵は女側近諸共吹き飛んだ。

魔王(やめろっ魔剣!)


魔王「ウルサイ、ダマレ」


 魔王は魔剣を振り回すと四方八方に斬撃の衝撃が飛ぶ。

魔王(やめろっ魔剣! 女側近さん達に当たっちゃうっ)

魔王「カカカカッ」



魔伯爵「くそぉぉおおっ」


 魔伯爵は浮遊剣で攻撃!
 ドスッっと鈍い音が聞こえると魔王の肩に剣が刺さる。
 しかし、魔王は笑いながら剣を引き抜き叩き折る。


 バッキィィイ……


 

346: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:08:37.64 ID:xwdSW1XfO

魔王「カカカカッシネェ」

魔王「グアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」


 暴走する魔王の表情は笑っていた。身体の傷など御構い無しで魔伯爵を滅多刺しにする。
 剣を折られ、腕も切り落とされ、魔法も封じられ、瀕死の魔伯爵は崩れ落ちる…。


魔伯爵「ぐぁ……ぁ……」

魔王「カカカカカカカカッ!!!」

 高笑いする魔王の視界は返り血で真っ黒に染まる。


魔王(地獄だ……戦いなんて真っ平だ)

魔王(魔剣、とどめをっ)



魔王「ウットウシイナ……オマエ」

魔王(魔剣……言うことを聞かないなら身体は返してもらうぞっ)

魔王「イヤダ」

魔王(ボクの許可なしでは身体は使えないっ! 言うことを聞かないなら二度と外には出れないぞ)

魔王「……カラダカラダ」

魔王(わかったらトドメをさせ!)


魔王「ジャマスルナアアアアッッ」


 魔王は衝撃波を放った!
 無数の衝撃波は倒れている女側近やエルフ、魔執事を巻き込み結界内を掻き乱す。


魔王「ココカラダセェェッ」


347: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:10:21.29 ID:xwdSW1XfO

魔王(ダメだ……封じこめよう)



 魔王は魔剣を封印する。
 パタリと倒れると身体の意識が魔王に戻って行く。
 しかし、それと同時に暴走していた時間のダメージが一気に押し寄せてくる。




魔王「ぐああああああああぁぁっっ!!!」

 腹部と太ももからは血が吹き出し、肋骨は砕ける。左腕の筋肉は断裂。
 暴走は魔王の身体に大きな代償をもたらす。


魔王「はぁはぁ……」

魔王(痛い……痛い痛い……でも)

魔王(トドメを刺さなきゃ)


 血塗れの魔伯爵を見ると、起き上がろうともがいている。今なら、魔王でもトドメをさせる。
 時間が経てば封じた魔法が戻って回復されてしまう。


魔伯爵「ぐぞぉぉ……」

魔王「ぐぅ」

348: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/13(土) 13:11:47.84 ID:xwdSW1XfO

 全身の痛みは麻痺してきた。力の入らない右手で魔剣を握り、なんとか立ち上がる。
 ズルズルと足を引きずりながら魔王はかつての側近に近づく。


魔王「はぁ……はぁ……戦いは……これで終わりだ」


魔伯爵「ぐ……」

魔王「平和な魔界を……造るんだ……はぁ……はぁ……」


 瀕死の魔伯爵の前に、魔剣を持った魔王が見下ろす。


魔伯爵「弱肉強食の世界……貴様が我を殺すのか」

魔王「……ボクが世界を変える」

魔伯爵「変わら……ないさ……先代魔王様の言った通りだ。強き者が頂点に立つ」


魔王「……」

魔伯爵「戦いはなくならない」

魔王「……」

魔伯爵「それが先代魔王様の望んだ世界だ」

魔王「ちがう」

魔王「父さんは……先代魔王様は魔法の使えない、戦えないボクを“魔王”にした」


魔伯爵「……」







魔王「確かめることはできないけど……きっと」







魔王「戦いのない世界を望んだんだ」


 ザンっと魔王の振った魔剣は魔伯爵の首を捉える。




 魔王は魔伯爵を倒した!



  ■ 第34話 望んだ世界 終 ■

353: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 11:50:15.79 ID:SKNB4Z/s0



  ■ 第35話 裏物語の終わり ■
 
 
 

354: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 11:53:10.54 ID:SKNB4Z/s0

 決着。

 決戦の後、結界の外で待機していた魔少女率いる医療班がすぐに治療にあたり、魔王、女側近、魔執事、エルフ共に誰も欠けることはなく作戦は無事終焉した。
 魔伯爵の直属部隊も拘束。魔王軍全体を掌握した。

 しかし……黒魔術師の行方だけはわからなかった。
 



女側近「魔伯爵にとっては用済みでしたので、すでに殺されてしまったと考えるのが妥当かと」

魔王「そうかな」


女側近「少年勇者ですが……1人で人間界に帰してしまって大丈夫だったでしょうか?」

魔王「うん。彼は人間の王に和平を受け入れるよう説得すると約束してくれた。それを信じるよ」


女側近「我らに捕まった状態ではそう言うしかないでしょうから……再び仲間を引き連れて攻めてくるかもしれません」

魔王「和平とはお互いの信頼がないと成立しないもん。まず、こちらの信用を見せないと」

女側近「……」

魔王「?……変?」

女側近「そこが、先代魔王様と最も違うところですね」ニコッ


魔王「正しい選択だといいんだけどなぁ」

女側近「魔王軍の兵は人間界の魔大陸へ派遣しました。前線から引いておりますが、何かあれば、すぐ侵略出来ます」



魔王(人間達にしてみれば……物凄い兵力が睨みを効かせられた状態で“和平”を持ちかけられる。信用っていっても結局脅しに違い……)


魔王(それでも、お互いにとって戦争を終わらすことが最善。きっと人間達もわかってくれる)

355: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 11:56:45.24 ID:SKNB4Z/s0





 魔王は魔界全土に人間との和平政策を発表した。
 人間達の襲撃は魔伯爵の陰謀によるクーデターであり、全ての危機は去ったと伝えた。
 最下層、第2層の復興には多くの兵士が投入され、被災した下級魔族も上層階への移住が認められた。



 魔界情勢は落ち着きを取り戻し始めた。





 数日後。



女側近「魔王様、少年勇者が人間界より戻りました」


魔王「うん、いよいよだ……通して」

女側近「かしこまりました」


 ガチャ



少年勇者「よう、魔王。ちゃんと俺っち1人で戻ってきたぜ」

魔王「待ってたよ、どうだった?」

少年勇者「うにゃ、あせんなって。人間界は王が沢山いるから揉めまくったよ、でもちゃんと決まった」


 少年勇者は薄笑いを浮かべながら懐から何かを取り出す。
 一瞬配下達が警戒するが、少年勇者は表情を崩さず言った。


少年勇者「手紙を預かってきた。これが人間の王達の結論だ」



 魔王は手紙を受け取る。










 『長きに渡る戦火の犠牲を讃え、新時代の子供達の為
  我ら人間は和平を受け入れる』



 その知らせは70年に渡る戦争の終結を意味していた。




356: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 11:59:54.40 ID:SKNB4Z/s0

---冥都 黒魔城・自室---

魔少女「まっおおおおーーさまぁぁっ!」ドタドタ

魔王「ふぁっ! ちょ、ちょっと着替え中だよ」アセ

魔少女「まおー様1人で着替えてるんだ。あは★ タキシード可愛い」

魔王「うわ、魔少女さんもドレス……」ポッ

魔少女「うふっかわいいでしょーー。さ、晩餐会行きましょ」

魔王「うん、もうみんな集まってるのかな?」


魔少女「まだだけど、もう始まっちゃうよっ」

魔王「ピエロは……来るかな?」


魔少女「どうだろ、見かけなかったけど」

魔王「まだ元気でないか」

魔少女「落ち込んでてもしょうがないのになぁ」

魔王(スラムは壊滅。黒のサーカス団で助かった者はいない。落ち込むのも無理はない)


魔王「ボク、ちょっと呼んでくるよ」

魔少女「そうね、まおー命令で引っ張ってきて」


魔王「魔少女さんは先に行ってて……あ、そうだ」


魔少女「はいな?」

魔王「えっと……明日出発するんだけど、人間界に行って和平の調印式をするんだ」

魔少女「ちょーいんしき……」

魔王「正式に戦争が終わる」

魔少女「うん! まおー様の念願だもんね」

魔王「魔少女さん達の協力があって成し得たこと。だから、最後までチームで達成したいんだ」




魔王「ボクと一緒に人間界へ行ってくれないかな?」

魔少女「ふふ」

魔王「?」

魔少女「まおー様が何も言わなくてもついて行っちゃうよ」アハ

魔王「ありがとう……」



魔少女「まおー様、ぎゅーしてください」

魔王「い、今?!」

魔少女「……」コクリ


 ぎゅ

魔少女「ウチはまおー様が“魔王”様だったから頑張れたの。サキュバスである前に、一人の魔族としての生き方が出来た」


魔少女「ありがとう……」



357: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:01:12.13 ID:SKNB4Z/s0

---黒魔城・客間---


魔王「ピエロ……」


魔道化師「マオ……チンチクリンなタキシードだひゃ」

魔王「人間との晩餐会は出たくない?」

魔道化師「……」


魔王「無理にとは言わないよ」

魔道化師「黒のサーカス団は……団長達は……」


魔王「……」

魔道化師「スラムのみんなを守るため、いっぱい戦ったって。みんな凄かったって」

魔王「うん。魔王軍の誇りだよ」

魔道化師「人間は憎いよ……でも、マオは立派な“魔王”だ。オイラはバカだけどそれだけはわかる」


魔王「……」

魔道化師「マオが決めた事は正しい。マオは魔界を……スラムを良くしてくれた」

魔王「戦争を終わらせて、みんなが笑って暮らせる世界を創る……ピエロにも笑っていてほしい」

魔道化師「オイラは道化師。笑うのが仕事ひゃ」

魔王「明日、人間界へ行くんだ。ボクの最後の仕事、手伝ってくれる?」




魔道化師「……なんで聞く?」

魔王「え……? ピエロは部下じゃないもん、友達。命令はしないよ」

魔道化師「うひゃひゃ……友達なんだから! 遠慮いらない! ついていくに決まってるだろっ」バンッ


魔王「いてっ」

魔道化師「うひゃ……ありがと、マオ」




358: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:04:10.48 ID:SKNB4Z/s0

---黒魔城・大回廊---


魔王(早くしないと晩餐会始まっちゃう)


魔執事「魔王様っ」

魔王「あれ? 魔執事さんっ何してるの? 晩餐会始まっちゃうよ」

魔執事「それが姐御が見当たらなくて探してるっつーわけです」

魔王「ええ?? どうしたんだろ……たぶん執務室にいると思うけど」

魔執事「魔王様が席に着いたら始まっちゃうと思うんで、進行諸々よろしくっす」


魔王「えーーーー!?」


魔王「むりむり……女側近さんも魔執事さんもいないで仕切ることなんて出来ないって」

魔執事「……そー言われても」

魔王「ボク、女側近さん連れてくるから魔執事さん時間繋いどいて」

魔執事「りょーかいっす」


魔王「あ、後、明日のことなんだけど、いつものチームで人間界へ行くことにしたから、お城の方よろしくね」

魔執事「留守番は得意分野っすよ、任せてください」

魔王「いつもゴメンね、魔執事さんがいるからボクはやりたいことが出来た」

魔執事「なんすか、改まって。魔王様が“魔王”になって……“側近”達、俺も姐御も魔伯爵だって待遇は変わった」

魔執事「魔族として扱ってくれる魔王様は、尊敬すべき上官」

魔執事「ありがとうごさいますっーわけです」


359: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:06:01.72 ID:SKNB4Z/s0

---黒魔城・エントランス---


エルフ「魔王、何しとる……晩餐会じゃなかったのか?」

魔王「エルフさんこそ始まっちゃうよ、早く早く」

エルフ「わらわは遠慮しとく。かしこまった席は苦手じゃ」

魔王「そんなこといわないでよー魔族と人間、エルフの三種族が同じテーブルで食事するなんて凄いことだと思わない?」

エルフ「確かにの、先代魔王の時には考えられんことじゃな……おぬしが“魔王”になったことはエルフ族にとっては歴史的に大きなことじゃ」

魔王「そんな大げさな」

エルフ「エルフ族は嘘が分かる。おぬしの純粋過ぎるその瞳は誰もが信用してしまう。素晴らしいチカラじゃ」

魔王「チカラ……」


エルフ「エルフ族の未来は明るい……礼を言わせてくれ。ありがとう」


魔王「いやいや、助けられたのはボクの方だよ」

エルフ「不思議な魔族じゃ」フフフ

魔王「それより、急いでドレスに着替えて来てね!」

エルフ「仕方ないのー」

魔王「エルフさんのドレス楽しみ」ニコッ

エルフ「………なんと純粋な瞳で……///」

魔王「そうだ、女側近さん見てない?」

エルフ「中庭におったぞ、これを渡そうと思ったが断られてしまったわい」

魔王「それは……精霊薬? なんでそんな危ない薬を」

エルフ「これはおぬし用じゃ。先代魔王の子供であるおぬしにはとてつもない魔力が眠ってるはず。引き出す為には精霊薬が効果的じゃろう」

魔王「……でも後遺症が……」

エルフ「たしかにな。しかし、魔剣を暴走させるのはエルフ族として認められん」

魔王「……」

エルフ「いざという時の為には持っておきなさい」

魔王「いや、いらないよ。もう戦争は終わるんだ。戦う必要がない」


エルフ「そうか……いらぬ心配をしてしまったの」



360: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:07:04.36 ID:SKNB4Z/s0

---黒魔城・渡り廊下---


少年勇者「うわっ」

魔王「わっ!」

少年勇者「ビビったーなんだよ。そんな焦ってどうした?」

魔王「少年勇者、なにしてるの? 晩餐会……キミが主役なんだから早く会場へ行ってよー」

少年勇者「ちょっとね、冥都がどんな感じかウロウロしてた……ふふん」

魔王「?……別に人間界と変わらないでしょ?」


少年勇者「全然変わるわっ」

魔王「そうなの?」

少年勇者「まず魔力で地位が決まるってのが凄いな」

魔王「人間界は違うの?」

少年勇者「うにゃ。魔力が強かろうと弱かろうと地位には影響しないな」

魔王「そうなんだ……でも魔界もこれからは魔力での格差を減らそうと思ってるんだよね。ボクも魔法使えないし」


少年勇者「……」

魔王「人間達みたいにチカラを合わせる世界にしたい。みんなが平等で、みんなが同じように平和に暮らせる魔界」


少年勇者「……人間界を美化し過ぎだ。こっちは魔力や戦闘力での格差はあまりないが、金のチカラが強いね。金持ちの地位が高い」


魔王「お金……」

少年勇者「スラムもあるし、差別もある。チカラを合わせるったって、魔界ほど一つになっていないからな。争いは絶えない」

魔王「……」

少年勇者「平等なんて無理な話なんだよ」

魔王「そうなのかな」

少年勇者「しかし、魔力が全ての世界で魔法の使えないお前がこれだけのことを成し得たのは、矛盾極まるな。“王”という地位はチカラなのか」

魔王「ボクだけのチカラじゃないよ」

少年勇者「それでも動かしたのはお前だ。何かを変えるのは“王”になるのが近道なのかもな」


361: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:08:47.73 ID:SKNB4Z/s0

---黒魔城・中庭---

 中庭には魔界では珍しい植物が多数植えてあり、小さな池がある。
 そのほとりに女側近はいた。
 晩餐会の為、真っ赤なドレスに身を包み佇んでいる。
 魔王はその美しさに息を飲む。閉じられた瞳は穏やかな表情を引き立たせ、佇まいは戦う女性にはとても見えない。


魔王「女側近……さん?」

女側近「!……魔王様?」

魔王「うん、晩餐会始まるよ」

女側近「はい、参りましょう」

魔王「……」

女側近「……魔王様?」

魔王「あ、ごめん。見とれちゃって。ドレス姿綺麗だよ」


女側近「ありがとうございます」

魔王「さ、行こう」


 女側近の手を取り歩く。

女側近「私がサポートされる側になってしまいましたね」

魔王「初めて会った時のこと覚えてる? 今よりさ、すっごい無表情でさ、如何にも側近です!って感じだった」アハハ


女側近「魔王様もだいぶ変わりました」

魔王「そう?」

女側近「立派になりました」


魔王「色々あったよね……」

魔王「いっぱいミスしたし、喜んだり、泣いたり、ずっと女側近さんに助けられた……」

女側近「それは私も同じです」

魔王「でも、みんなのチカラがあって戦争を終わらすことが出来る」



女側近「……」


魔王「ボクらはチカラを合わせれば何だって出来る」


女側近「……」


魔王「人間界での調印式は魔少女、ピエロにもついてきてもらうんだ。最後までチームで成し得たいんだ」

魔王「女側近さんもよろしくね!」ニコッ

362: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:10:09.65 ID:SKNB4Z/s0



女側近「魔王様……私は」








女側近「貴方にはついていけません」




魔王「え?!」


女側近「私は側近を辞めます。申し訳ありません」

魔王「な、なんで?!」

女側近「私は……目が見えません」

魔王「魔力を……感じ取れるから大丈夫なんでしょ?」

女側近「日常生活や普通の戦いなら問題ありません……しかし」

魔王「……」

女側近「魔力を持たない魔王様だけは」



女側近「見えないのです」


魔王「……っ」


魔王「ボク……だけが見えない?」

363: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/14(日) 12:11:42.36 ID:SKNB4Z/s0

女側近「その結果、最も重要な護衛としての役割を務めることが出来ません」

女側近「魔伯爵との戦いでは魔王様に守られる始末。側近失格です」


魔王「いや……ダメだよ。女側近さんがいないとボクはっ」


女側近「決めました。申し訳ありません」

魔王「魔王の命令は……っ」


女側近「これが私の“意志”です」



魔王「---ッ」

魔王(意志……)

 女側近が自分の意思を明確にしたのは初めてのこと。魔王はかつての自分の発言を思い出す。
 『キミの意志で側近を辞めたいと思ったら……その時は遠慮なく言ってよ』


 あの時は本当にそんな日が来るなんて思ってもいなかった。



 

魔王「いやだ……いやだ……」

女側近「……代わりの護衛はエルフにお願いしました」

魔王「ボクは……自信がない」




女側近「魔王様……貴方はもう独りで大丈夫です」



 女側近は初めて会った時のような無表情で無機質に言葉を放つ。


女側近「貴方は“魔王”です。弱音は許されません。凛とした態度を」


魔王「う、う……うああああああああっ!!!!」



  ■ 第35話 裏物語の終わり 続 ■

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/14(日) 13:29:35.72 ID:hVUIrdqSo
そんな

367: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 08:49:54.12 ID:OntvnvjrO



  ■ 第36話 終着点 ■
 
 
 

368: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 08:53:38.69 ID:OntvnvjrO

---人間界 魔大陸・境界都市---



魔王「ここが……人間界……」

魔少女「うわぁー空が青いよ!」

魔道化師「瘴気もないし、草がいっぱい……うひゃ」

エルフ「樹の魔力がすごいのぉ。エルフには適した気候じゃ」


 魔王達は和平調印式の為、人間界に入った。そのパーティに女側近はいない。
 魔王の気持ちは沈んだままだが、目の前の大きな仕事を前に動かざる負えない。この調印式さえ終われば一休みできる。
 先のことはそれから考えればいい。


 人間界側ゲートのある境界都市。着陸すると一人の騎士が魔王達を迎える。
 人間界の魔王軍兵士長・黒騎士だ。


黒騎士「魔王様、ようこそ人間界へ」


魔王「うん、出迎えありがとう。魔伯爵さんがいなくなって兵達は大丈夫?」

黒騎士「はい、混乱し除隊した者もおりますが現在は統制が取れております」


魔王「……魔伯爵さんの支持率はすごかったもんね、辞めちゃう兵士もいるとは思ってたよ。すごく残念だけど」

黒騎士「しかし、その魔伯爵様に勝ったのが魔王様であります。皆、魔王様の為に命を賭ける所存です」


魔王(これが弱肉強食か……強き者に従う。皆んな、魔伯爵さんの想いもボクの想いも関係はない)

黒騎士「魔王様は……」

魔王「?」

黒騎士「先代魔王様のご子息」

魔王「うん」

黒騎士「人間界の前線で戦っている兵士達にとって“先代魔王様”は特別な存在」

黒騎士「病で亡くなられた時は、私を含め兵達皆悲痛な思いでありました」

魔王「……」


黒騎士「今回、魔伯爵様の失脚の件で、ご子息である魔王様の活躍は……先代魔王様の再来と言えます」



黒騎士「絶対的“魔王様”の復活に兵士達は歓喜に沸いております。除隊した兵士達も戻る事でしょう」

魔王(ボクは父さんとは違う……)


魔王(きっと真逆だ)


魔王(死してなおこれだけのカリスマ)

魔王(ボクや魔伯爵さんでは足元にも及ばなかったんだろうな)


魔王(戦争が終わったら母さんに父さんの凄さを語ろう……ボクの旅のことも、全部話そう。明日全て終わるんだ)


369: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 08:54:12.18 ID:OntvnvjrO

黒騎士「中央大陸、王都まで我が戦艦でお連れします」

魔王「いや、少年勇者の案内で転移魔法で王都まで行ける」

黒騎士「……分かっておりますが、危険です。和平調印式が終わるまでは人間は敵です。転移魔法陣では少ない護衛で敵の本拠地に乗り込むことになります」


魔王「和平をスムーズに終わらせるには、巨大な戦艦で人間達を威圧するような事があってはならないよ」

黒騎士「しかし……」

魔王「大丈夫。戦艦は魔界へ戻してよ、もう戦争は終わるんだ……」

黒騎士「かしこまりました」

魔王(大丈夫……きっと大丈夫だよ)


少年勇者「魔王ー! 何してんだ? 行くぞ」


370: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 08:57:10.40 ID:OntvnvjrO


---中央大陸・王都---


《人間界の中央に位置する巨大都市“王都”。富裕区画からスラムまで冥都の3倍以上の広大な街。魔法学は進んでいないが、労働、保障、秩序、インフラ、物流、と豊かな安定した国。中世的なアーティスティックな建造物は冥都最上層にも引けを取らない》



 魔王一行は少年勇者の後を歩き、王宮を進む。
 王宮内部には至る所に人間兵士が警備をし、魔王達を睨んでいる。

魔王(人間兵達の視線が気になる……)


魔王(魔界でも和平には賛否あったんだ。人間界でも反対の声は当然あっただろうな)


魔道化師「うひゃ! 綺麗なお城~」

魔少女「ピエロっちょっと空気読んでよ……兵士にめっちゃ睨まれてるぅ」

魔道化師「うひゃひゃっなんだー? 人間っ! やんのかー?」グイグイ

魔王「わー! やめろっピエロ!」

人間兵「……」ジロッ

魔道化師「ヒッ」


少年勇者「この先に皇帝陛下が待ってるよ 。お互いの意志を確認しあい……問題ないようだったら明日和平調印式を行う。それで戦争終了だ」


魔王「うん」

少年勇者「それまではお互い敵同士。ピリピリするのは堪忍してよ。ここは人間界の本拠地、本来魔族を招き入れていい場所じゃない」


魔王「分かってるよ」

魔王(こちらだって今襲われたら袋の鼠)


魔王(大丈夫だ……人間を信用するんだ)




魔王(きっとうまくいく……)



371: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 08:59:11.49 ID:OntvnvjrO

---王都王宮・皇帝の間---




皇帝「ようこそ! 王都へ! 魔王殿っ」


 意外にも人間の王は笑顔で魔王を迎え入れた。デップリと太った身体を揺らしながら握手を求める。
 白い髭を蓄えた中年の男の手は、とても綺麗で赤児の手の様だった。

魔王(一度も剣を握ったことのない手だ)

皇帝「いや~悪いね、わざわざ来てもらっちゃって」


魔王「……」



魔王「丁重なご対応感謝致します。一度人間界には来てみたいと思っておりました……聞いた通り美しい世界ですね」

皇帝「特に王都の街並みは一段と綺麗だったでしょ? 食べ物は食べましたかな?」


魔王「いえ。あの……本題に入ってもよろしいでしょうか?」

皇帝「ああ……和平の件ね」

魔王「はい」




皇帝「和平調印後、魔大陸の魔族は魔界へ帰る。その後ゲートを閉じる。間違いないかね?」

魔王「はい。時間がかかるとは思いますが、随時進めます」

皇帝「そうかそうか、ならば何も問題あるまい」




皇帝「明日予定通り和平調印式を行おう」

魔王「……」ホッ

372: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 09:00:53.90 ID:OntvnvjrO


魔王「人間界には“王”が一人ではないと聞きました。他の王は和平に納得しているのでしょうか?」

皇帝「うむ、少年勇者が各国説得して回ってな。承諾を得ている。魔族が去った後の魔大陸は我が中央大陸の“領土”となる。その条件で私が代表者として選ばれた。全ての決定権は私にある、心配するでない」

魔王(領土?)


皇帝「何処の国の王も臆病でな。魔族との接見に怖気づきよってのファッファッファ……多くの“資金”をつぎ込んで来た戦争は終わり、私の“名声”も上がる」

魔王(資金? 名声?)

魔王「互いの捕虜の交換方法は……」

皇帝「おお、忘れとったわ。すぐ解放するように手配しよう」

魔王「交換ではなく……解放?」

皇帝「戦争は終わるんだ。“兵力”を奪い合う必要もない」

魔王(兵士達の命は……兵力?)


皇帝「人間と魔族、お互い望ましい形で終着点につきそうだな」


魔王「……」


皇帝「ファッファッファッ」


魔王(この王は……何を言っているんだよ?)




魔王(王の金? 名声? 人間達はそんなものの為に命をかけて来たの?)


魔王(なんて意味のない戦争なんだ……)








皇帝「では明日、予定通り和平調印の儀を行う。最高級の部屋を用意した。今日はゆっくり休んでくれたまえ」



373: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 09:03:49.44 ID:OntvnvjrO

---王都 王宮・客室---



エルフ「ロクでもない王じゃったな。だか、嘘は言っていなかった。エルフの眼にそう映ったのじゃ間違いない」

魔王「うん。ボクにもそう感じた」

エルフ「人間とはなぜあの様な弱い王に従うのか? 理解に苦しむのぉ」

魔王「少年勇者が前に言ってた『平等な世界なんて無理』」

魔王「形は違うけど……人間界も弱肉強食なのかもしれない」

エルフ「そうじゃの、魔族と人間は互いを反転させたような存在。しかし、根本は同じじや」

魔王「……。難しい事言うなぁよくわからないよ」


エルフ「そうじゃ、先ほど魔執事より連絡があってな。裏切り者じゃった黒魔術師を見つけたそうじゃ」

魔王「え?!?」

エルフ「正確には黒魔術師の遺体を発見した。やはり魔伯爵に殺されていたようじゃ」

魔王「そうか……よかった」

エルフ「これで不安要素はなくなったのぉ」


魔王「明日戦争は終わる」

魔王(順調……)


魔王(なのに何でこんなに不安なんだ)



 次の日。











魔少女「まおー様っおきて……」


魔王「う、うん?……」

魔少女「なんかおかしいの」

魔王「どうしたの?」ムニャ


魔少女「人間達が……いなくなってる」

魔王「え?!」


374: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 09:05:28.27 ID:OntvnvjrO


 魔王達は急いで起き上がり客室の外に出ると、城全体が静まり返っている。
 昨晩までは部屋の前に多数の人間兵が警備をしていた。
 今は人の気配が全くない。


魔王(……どういうこと?)

エルフ「皆警戒するのじゃ。罠かもしれん」

魔少女「えーーー?!」

魔道化師「やっぱり人間っ! 和平を受け入れるなんで嘘っぱちだったのか!」

魔王「まってよ、まだボクらは何も危害を加えられていないよ」

エルフ「油断するでない。調印式が終わるまでは敵……奇襲されてもおかしくはない」


魔王「王の所へいこう……」



 人気のない王宮を魔王達は進む。

 きっと大丈夫。魔王は自分に言い聞かせながら皇帝の間の扉を開く。



魔王「皇帝さんっ!」


 玉座に皇帝は座っている。しかし……


375: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/15(月) 09:07:25.55 ID:OntvnvjrO


魔王「---ッ」
魔少女「う……」
魔道化師「うひゃああっ」

エルフ「な、なんと」



 人間の王は死んでいた。


 首から下は血塗れで、目は空いていたが光はない。誰がどう見ても絶命している。

魔王「な、なんで……」


魔王「どうして……」


魔王「誰が……」





??「フハハ……」

 玉座の後ろから聞きなれない笑い声がした。
 視線を向けると、笑い声の主は姿を現わす。


??「面白かったよ。実に素晴らしかった……」


エルフ「お、おぬしは!」

魔王「え……」











エルフ「先代魔王!!」


先代魔王「これがお前の“魔王”としての終着点か」


  ■ 第36話 終着点 終 ■

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/15(月) 12:02:09.19 ID:jqLEMUI6o
なん…だと

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/15(月) 12:30:25.11 ID:HNOtEVE0O
馬鹿な!?死んだはずでは…

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/15(月) 19:50:40.90 ID:E7/Yo2y0O
残念だったな、TЯICKだよ

382: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:30:39.03 ID:rq0kirqDO



  ■ 第37話 なぜボクを魔王にした?! ■
 
 
 

384: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:32:45.72 ID:rq0kirqDO

 魔王達の前に現れた初老の魔族はゆらりゆらりと歩き、絶命した人間の王を見て薄ら笑いを浮かべる。


先代魔王「これで和平は破断じゃな」
 

先代魔王「弱肉強食の世界。弱き者は死に、強き者の糧となる」






エルフ「生きていたのか!?」

魔王「と、父さんなの?」

先代魔王「フハハッ余は死んでなどいない。死とは弱さの象徴」

魔王「なんで生きてるの?! 何がどうなってるのっ! 説明してよっ!」



魔王「今まで何処にいたの?!」

魔王「父さんっ!!!」

先代魔王「フハハッ笑いが止まらん。“魔王”たる者取り乱しては部下に示しがつかんぞ」

魔王「全然わかんないよ、生きているなら……」

魔王「なぜボクを“魔王”にしたの?!」





先代魔王「“魔剣”じゃ」

385: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:37:44.78 ID:rq0kirqDO


先代魔王「魔剣は“魔王”しか触れられない」

先代魔王「触れた“魔王”は魔剣に乗っ取られる」

先代魔王「手に入れるには暴走した魔剣を殺すしかない」





先代魔王「余が暴走すれば誰に求めることは出来ん。世界を破壊してしまうであろう」

先代魔王「そこで余は考えたのじゃ、チカラのない下級魔族を“魔王”にして魔剣を持たす」

先代魔王「暴走した“魔王”を殺せば……魔剣は余の物となる」ニヤ




魔王「魔剣……父さんはボクを殺す為だけに“魔王”に?」


先代魔王「フンッ……父さんじゃと?」


先代魔王「お前は魔剣を手に入れるために、ただ選ばれただけの下級魔族」









先代魔王「お前は息子ではない」


386: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:39:23.15 ID:rq0kirqDO


魔王「---ッ!!!!」

先代魔王「予想外なこともあった」

先代魔王「魔伯爵が裏切ったこと。お前が自力で魔剣を封じ込めたこと。和平などと考えたことじゃ」



魔王「……」


先代魔王「……予想というのは上手くいかないものじゃ」

先代魔王「じゃがな、どんな事が起きても対応できる枠組みを構えておくことが大事なのだ」


魔王「……」

先代魔王「彼女がついていれば何も問題はないと思っておった」


魔王「彼女?」

先代魔王「なんじゃ、お前自分のチカラですべて成し遂げたと思っておるのか?」

魔王「え??」

先代魔王「フハハ、下級魔族が本当に笑わせてくれる。彼女が何も知らなかったと思うのか?」

魔王「……まさか……うそだ……」


先代魔王「彼女は、すべて知った上でお前を操っておったのじゃ」



先代魔王「女側近は余の下僕」ニヤ


387: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:41:13.30 ID:rq0kirqDO


 ふわっと冷たい風が立ち込めると女側近は現れる。
 その表情は無機質で冷たい。


魔王「女側近さんっ!!」


女側近「……」

魔少女「お姐ぇ……嘘でしょ??」

魔道化師「うひゃ…わけわからん……姐さんがアイツの仲間?」


先代魔王「女側近は余の命令ならなんでも聞く。女側近、お前の任務を説明しろ」

女側近「はい。先代魔王様を死んだと思わせ、下級魔族を“魔王”に仕立て上げる。そして、魔剣を手に入れ殺害することです」







魔王「う、うそだああああああああああっ!」

 魔王は魔剣を抜き、先代魔王を無視するように叫ぶ。


魔王「女側近さん! 嘘だ!!……嘘だと言って! 命令だっ!」


女側近「……」

先代魔王「フハハッ……彼女はお前の部下ではない。部下のふりをしていただけ」



魔王「“魔王”はボクだっ! 認めないっ!」



388: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:42:52.49 ID:rq0kirqDO

先代魔王「この世は弱肉強食。認めて欲しければ余を倒せ」

先代魔王「魔剣を暴走させるのじゃ、お前に残された道は余を殺し勝つこと以外ない」


エルフ「魔王っ! ダメじゃ挑発になるなっ……魔剣を手に入れるのが奴の目的」



魔少女「う……う……」

魔道化師「あわわわわ」

魔王「く……」

先代魔王「魔剣を使わずして余に勝てるのか?」


魔王(みんなを守らなきゃ)


魔王「エルフさん……ボクが暴走したら魔少女さんとピエロを守って」

エルフ「待て……精霊薬を」

魔王「いらない。無属性のボクには意味がない」


エルフ「……くっ」

魔王「来いっ魔剣っ!!!」




 ドクンッ



魔王「ぐ……」


 ドクンッ……ドクンッ……


先代魔王「フハハハハ……弱肉強食。やはりこれこそが世界の摂理」



魔王「がががががががああああああああっ!!」

389: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 00:45:00.99 ID:rq0kirqDO

 魔剣から魔力が噴き出す。城全体がビリビリと痺れ、その魔力が魔王の身体に集中する。


先代魔王「女側近よ、無属性のあやつは見えないじゃろうが、魔剣の魔力は感じるであろう?」

女側近「はい」

先代魔王「任務を果たすのじゃ。殺せ」

女側近「……はい」







女側近「“魔王”様の命令は絶対です」






 女側近は絶対零度魔法を放った!





 眩ゆい光はすべてを包む。
 魔剣のチカラを引き出そうとする魔王。
 泣きながら杖を構える魔少女。
 慌てふためく魔道化師。
 目を閉じて魔法を詠唱するエルフ。
 痛みも、悲しみも、怒りも、絶望さえも凍りつかす。

 魔王達は一瞬で輝く氷像と化した。




 魔王パーティは全滅した。



先代魔王「フハハハハッ」


 先代魔王は凍りついた魔王に近づき、魔剣を手に取る。

先代魔王「ふむ。女側近よ。任務完了じゃ、ご苦労だったな」


女側近「……はい」


先代魔王「これを期に人間界に総攻撃をしかける。準備を始めよ」



  ■ 第37話 なぜボクを魔王にした?! 終 ■

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/16(火) 00:49:28.73 ID:GZuCKwPfo
まじかよ……

396: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 17:55:54.85 ID:HZQLNUHs0



  ■ 第38話 意志 ■
 
 
 

397: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 17:59:33.28 ID:HZQLNUHs0


 魔王達が全滅してから3日後。


---人間界 魔大陸・境界都市---


先代魔王「女側近、首尾はどうじゃ?」


女側近「はい。魔大陸南部に帝都軍が上陸。魔王軍との大規模戦闘が開始しました。数は多いですが、地は我らにあります、問題ありません」

先代魔王「よしよし、飛空船艦隊の方はどうじゃ?」

女側近「数時間後にはゲートを通り人間界へ入る予定です」



先代魔王「ふむ……あっさり終わってしまいそうで面白くないのぉ」


魔族兵「失礼致します! 城に侵入者ですっ! 単独で……ぐああああっ!」


 全て言い終わる前に魔族兵は背中から剣を刺され血を吐く。



先代魔王「!」

女側近「……」



少年勇者「てめーが真の“魔王”か……」

先代魔王「たった一人でよく来てくれた……歓迎しよう、“勇者”よ」

少年勇者「シナリオ通りにはいかなかったけど……てめーさえ倒せばすべて終わるっ!」


先代魔王「フハハッ……読みが甘いのじゃ」

少年勇者「うにゃ、そうだね。自分の間違いを受け入れることも大事だった。自惚れていた」

先代魔王「お前は自分の考えた“筋書き”に捉われすぎたのじゃ。大切なのは“枠組み”、臨機応変に対応出来るかどうかじゃ」

少年勇者「返す言葉もない……」

先代魔王「その若さで聞き分けが良いのぉ」


少年勇者「さあ剣を抜け“魔王”っ!!」





 先代魔王の前に美しき側近が立ちはだかる。 


女側近「相手は私だ」


少年勇者「行くぞっ!」

 ガッキィィイインッ!




 少年は勇者として最後の戦いに挑む……



398: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:05:54.72 ID:HZQLNUHs0




---人間界 王都王宮・皇帝の間---



 キィンッ

   シュッシュッ

 ドォォォンッ!


魔王「う……う……ん」

魔少女「あ! まおー様っ! よ、よかった」

魔道化師「マオー!」

 目を覚ました魔王の目の前では、エルフと人間兵達が激しい戦闘を繰り広げていた。

 ゴオオオオッ

人間兵「うわあああああっ!」

エルフ「ふう……はぁはぁ……」



魔王「……え……なにが起こったの?」


魔少女「目を覚ましてよかった……ウチら生きてるよ」

魔王「……い、生きてる?」

魔道化師「うひゃ、先代魔王様が現れて、戦いが始まって……オイラ達は姐さんに……」

魔王「女側近さん……!」

魔少女「……」

エルフ「あの女のせいで、わらわ達は敵陣のど真ん中で孤立状態じゃ」


魔王(殺されなかった??)

魔王「魔剣がない……」

エルフ「とにかくここから脱出する方法を……」

 ダダダダッ

人間兵A「魔族だっ!」

人間兵B「陛下の仇だ!」

魔道化師「うひゃーまた敵っ!」


 魔少女は火炎魔法を放った!

 ゴオオオッ



人間兵達「うわあああああっ!」



 人間兵達を倒した!

399: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:07:27.74 ID:HZQLNUHs0

魔少女「もう……次から次と敵が」


エルフ「……人間の王を殺してしまったのじゃ、和平は白紙。戦うしかないぞ」

魔王「くぅ……あと、あと少しだったのに」

 魔王は悔しそうに奥歯をギジリと噛む。だが、後悔しても結果は変わらない。次取るべき行動は……?


魔王(まずは王都から逃げないと……)


魔王(でも、その先は?)

魔王(先代魔王が戻って……ボクは??)

魔王「……」


魔道化師「マオ……」

魔少女「まおー様」

エルフ「“魔王”、どうするのじゃ?」


魔王(そうだ)



魔王(ボクは“魔王”なんだ)


魔王(やるって決めたんだ)

魔王「よし、ここから脱出して……先代魔王のところへ行こう」

魔王「女側近さんを助けるんだ」

400: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:08:47.02 ID:HZQLNUHs0

魔道化師「はぁ!? 姐さんが敵だったんじゃないの~?」

エルフ「そうじゃ、最初から仕組まれていたのじゃ、今更助けるなど……」


魔王「ちがうよ。女側近さんは敵なんかじゃない」



魔王「だって」

魔王「ボクら生きてるじゃん!」


エルフ「……」
魔道化師「……」
魔少女「……」



魔王「確かに今まで女側近さんは先代魔王の命令通り動いていたのかもしれない」


魔王「でも」


魔王「ボクや魔少女さん、エルフさん、ピエロ……一緒のチームのボクらを……殺したくなかったんだ」








魔王「だから、生きてる」

魔王「それが女側近さんの意志。あとで息を吹き返すよう魔法を使ったんだよ」

エルフ「……そうか。世界樹で魔王を助けたのは彼女の意志」


魔少女「お姐ぇは何度も側近を辞めようとしていた……自分の本当の任務から逃げたいとう“意志”だったのかな?」

魔道化師「うひゃ、やっぱり姐さんは味方っうひゃー!」


魔王「女側近さんを助けて……魔剣を取り返して、先代魔王を倒す。これしか道はない」


401: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:09:52.11 ID:HZQLNUHs0

 ダダダダッ

人間兵「魔族だ、いたぞっ!」


 無数の人間兵が現れた!
 エルフを中心に人間達と戦う。

エルフ「おおおおおおっ!」


 エルフは弓矢を乱れ打ち!

人間兵1「ぐあっ」
人間兵2「ぎゃあ」
人間兵3「うわあ」


人間兵4「魔族どもめ……くらえっ」


 人間兵4は風撃魔法を放った!

 ブォンッブォンッブォンッ!


魔少女「みんな下がってっ」


 魔少女は杖を両手で持ち、魔法障壁で受け止める。それと同時に魔道化師が飛び上がり投げナイフで人間兵を仕留める。


魔王「エルフさんっ! 左に敵多数!」

エルフ「大地よ……」

 エルフは土碧魔法を放った!


 ドゴゴゴゴッ!


 圧倒的に魔王達の方が強いが、人間兵は数が多い。倒しても倒しても敵が溢れてくる。
 魔王達がいるのは、人間の本拠地王都の玉座の間。




魔王(女側近さんを助けるもなにも、ここから生きて出るのは至難の技。どうする? 敵が多すぎる)

402: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:11:45.01 ID:HZQLNUHs0

エルフ「はぁ……はぁ……」

魔少女「みんな回復っ」キィィィン

魔道化師「うひゃ……ありがと」


魔王「魔少女さん………」

魔少女「う、うん?」


魔王「えっと……魔力を辿って女側近さんのところまで行ける?」



魔少女「うん、お姐ぇの魔力なら離れてもわかる」

エルフ「わらわがここの敵を引きつける。おぬしらは屋上から脱出を」

魔王「え?! ダメだよっ一緒に行こう」

エルフ「それではこの場を切り抜けられん……おぬしを守りながらではな」

魔王「……でも」


エルフ「この場を切り抜けられなければ何も変えられん。魔王、おぬしなら女側近を命令の呪縛から助け出せる」

魔王「……」

エルフ「彼女を意志のまま生きる道に。頼んだぞ」

魔王「く……必ず助けに戻る。絶対死なないで、お願いだよ」

エルフ「わかったわい。エルフは嘘はつかん……魔少女、魔王を頼んだぞ」


魔少女「うん……」


 魔王達は屋上へ向かって走り去った。
 エルフの前には再び無数の人間兵が現れる。

エルフ「やれやれ……嘘をついてしまった」

エルフ「あやつが王でなければエルフ族に未来はない。ここで死なせるわけにはいかんのじゃ……」


403: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:13:51.08 ID:HZQLNUHs0

---魔大陸 境界都市・ゲート---

 キンッ
       キンッキンッ!

   キンッ

 氷の剣と炎の剣が交わる。
 頭上には大きな光の球体。ゲートが輝く。砦の屋上にて少年勇者と女側近のバトルが激しさを増していた。その光景を見下ろしていた先代魔王が呟く。

先代魔王「美しいのぉ……」

先代魔王「命を懸けた戦い。これこそ最も美しい光景じゃ」


 ガッキィィイインッ

少年勇者「うらああああっ!」

女側近「はああああぁぁっ!」



 キィィィンッッ!

少年勇者「くっ」

女側近「また対氷属性装備とは相変わらず準備のいいこと」

少年勇者「ふふん、眼の見えない側近くらいは倒せると思ったんだけどな~」

女側近「甘く見ないでもらおうか。その程度では先代魔王様の足元にも及ばん」

少年勇者「うにゃ、そうかもしれんけどさ。そいつはさ……やってみなけりゃわからねぇだろっ」

 ニヤリと笑うと少年勇者は先代魔王に飛びかかる。剣を振り上げ全身全霊の力で振り下ろす。

少年勇者「うらああああっ!」

先代魔王「ふん……」


 奇襲のつもりだったのか、先代魔王にとってはあまりにも遅い攻撃。驚きもせず、自らの剣で受け止める。


 ガッキィィイインッ!!

404: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:14:59.64 ID:HZQLNUHs0

 勇者の剣と先代魔王の剣が交わる。

先代魔王「なんのつもりじゃ……つまらんの。破れかぶれの攻撃で余を倒せると思うたのか?」


勇者「ふふん……魔剣を抜いたな」

先代魔王「?!」

 突然頭上に輝く光の球体、ゲートがビリビリと空気を揺らす。

先代魔王「その剣は……聖剣!」

 少年勇者が切りかかった剣は炎の剣ではなく、いつの間にか聖剣に持ち変えられていた。
 聖剣と魔剣が交わる時、ゲートが閉じる。

先代魔王「貴様の目的は最初から……」


少年勇者「うにゃ、俺っちの目的は最初からゲートを閉じること!ふふんっ……」


 少年勇者は先代魔王に向けて中指を立てて叫ぶ。






少年勇者「シナリオ通りだ!」



 それだけ叫ぶと少年勇者は逃げ出した。
 頭上のゲートはバリバリと光を放ち、少しずつ小さくなって行く……。


先代魔王「……してやられたが、苦肉の策と言ったところか。女側近、追うのじゃ」

女側近「はい」

先代魔王「ゲートはまた開けば良い。聖剣は勇者しか持てん。生きたまま連れてくるのじゃ」

女側近「かしこまりました」


405: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:16:26.20 ID:HZQLNUHs0

---王都 王宮---


人間兵1「いたぞっ! 魔族だっ」

人間兵2「殺せっ」

人間兵3「くらえっ」



 人間兵3は爆裂魔法を放った!


 ドゴオオオオオッ!

 魔少女は結界を展開!


魔少女「くぅ……!」

魔道化師「うひゃっひゃああああっ!」

 魔道化師は投げナイフで攻撃!

 ザシュッ


 人間兵1を倒した!

魔王(このままじゃまた囲まれる……もう少しで屋上なのに)

魔少女「はいやあああっ」


 次々現れる人間兵を倒しまくるが切りがない。

魔道化師「よーし、マオ! ここの敵はオイラが食い止めるからよー先に行ってくれい」

魔少女「はぁ?! 何言ってんのよ、無理に決まってるでしょ」

魔王「そうだよ! ピエロ一人じゃくいとめられないでしょ!」

魔道化師「大丈夫大丈夫~。オイラ、エルフしゃんからこれ持たされてるから」

魔王「それは……精霊薬」

406: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:17:38.42 ID:HZQLNUHs0

魔道化師「最後の手段だったけど、ここを切り抜けなきゃ。うひゃ」


魔少女「でもピエロ……後遺症があるよ。お姐ぇみたいに目が見えなくなるかも」

魔道化師「構わない」


魔王「ピエロ……」

魔道化師「ここでマオを……友達を死なせるくらいだったら、目も耳も口もいらないよ! 頭おかしくなったって構わない!」

魔王「ダメだっ! 一緒に切り抜けるんだ!」

魔道化師「オイラは部下じゃなくて友達だから命令は聞かない。うひゃひゃ」

魔王「ピエロっ!」

魔道化師「マオ……オイラはバカだけど分かるよ。このままじゃ皆んな死んじゃう。マオは……魔剣を取り返して助けに来てよ。それはマオしか出来ない」


魔少女「ピエロ……」

魔王「……ッ」

魔王(この状況を皆んなで切り抜ける方法が見つからない……)

魔道化師「先代魔王を倒す方法は思いついてるんでしょー?」

魔道化師「だからマオは先に行って。王様だろっ! うひゃひゃひゃっ!」


 バンッ

 横から背中を叩かれ魔王は魔道化師に背を向ける。

魔王「ピエロ……絶対死なないで。必ず戻る」

魔道化師「マオ……笑え。オイラは道化師。いつも笑ってるよ」


 魔王は振り返らず走り出した。魔少女もそれに続く。


魔道化師「……オイラは団長達の仇をとる。人間を殺す」

 精霊薬を一気に飲み干す。

魔道化師「マズっ!」


 いつの間にか無数の人間兵に取り囲まれている。
 魔道化師は自分の頭がジリジリと熱くなっていくのを感じる……。


人間兵「殺せぇぇっ!」

魔道化師「うひゃ……うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


407: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/16(火) 18:18:43.99 ID:HZQLNUHs0

---王都 王宮・屋上---



魔王「はぁはぁ……」

魔少女「外に出た! よし……」


 高い広い青い空……。魔少女は残った僅かな魔力を詠唱して膨らます。

魔少女「召喚……はああああぁぁっ! いでよ! ドラゴンっ!」


 キィィィンッ!

 大きな光とともに飛竜が現れる。

飛竜「ギャアアアァァッ」バッサバッサ

魔少女「まおー様っ! 乗って!」

魔王「うん!」


 飛竜に乗り飛び立った魔王達は王都を離れる。
 向かう先は最後の敵、先代魔王。


魔王(みんなの意志を無駄にはしないっ)

  ■ 第38話 意志 終 ■

416: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:50:21.24 ID:/NKe+S22O



  ■ 第39話 魔王はボクだ ■
 
 
 

417: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:51:15.28 ID:/NKe+S22O

---人間界・魔大陸上空---



 飛竜に乗る魔王と魔少女。果てしなく続く空。その目前には光る球体、ゲートがビリビリと輝きを放つ。


魔王「ゲートが……少しずつ小さくなっている? 閉じようとしてる?」

魔少女「え? なんで?……魔界へ帰れなくなっちゃうよ」


魔王「……。女側近さんの魔力は感じる?」

魔少女「うん、もう近くまで来てる」



 バッサバッサッ

 
魔少女「いたっあそこ! お姐ぇ!」

魔王(女側近さんっ)


418: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:52:49.12 ID:/NKe+S22O

 境界都市から少しだけ離れた草原。夕日で魔界のように赤くなり始めた空に縮みゆくゲートが浮かんでいる。
 女側近は瀕死の少年勇者を引きずりながら歩いている。

少年勇者「ぐ……ぅ……離しやがれ……」

女側近「黙れ」


 バッサバッサッ



飛竜「ギャアッギャア……」

魔王「女側近さぁぁん!」

魔少女「お姐ぇ!」


 地上に降り立ち駆け寄った魔王達に、女側近は驚きを隠せない。

女側近「ま、魔王様?!?!」

魔王「迎えにきたよ……」

女側近「な、何故……ここに……」

魔王「当然。ボクらはチームだよ」

魔王「女側近さんを自由にしにきたんだよ」

女側近「------ッ」

魔少女「お姐ぇ、ウチらと一緒に戦おうよ」





女側近「魔王様……お逃げください」


魔王「え?!」

419: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:55:05.96 ID:/NKe+S22O

女側近「今なら貴方は死んだことになっています。身を隠せば見つかることはありません」

魔王「……」

女側近「先代魔王様には……誰も逆らえません。誰も敵いません」

魔王「ボクは逃げないよ」


女側近「魔王様っ」

魔王「このまま先代魔王が王に戻ったら……ボクらが変えてきた魔界は、また元に戻ってしまう! それでもいいの?!」

女側近「“魔王”様の命令は……絶対……です……」


魔王「絶対じゃない」

魔王「絶対じゃないよっ! だって、女側近さんボクらを殺さなかったじゃないか」

女側近「……」

魔王「それはキミの意志だよ」

女側近「わ、私は……側近。その為に生まれ……その為に生きてきた……」

魔王「女側近さんだって一人の魔族だ。笑ったり、怒ったり、悲しんだり、喜んだり、一緒に旅したんだ。みんな知ってるっ」

女側近「『弱肉強食』……弱き者は強き者に従う。魔界の摂理です」


魔王「ちがう!」


魔王「誰もが……平等に暮らせる世界を創る。戦うチカラの必要のない世界」

女側近「先代魔王様が……」



魔王「“魔王”は……」








魔王「ボクだっ!!」



 

420: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:56:22.39 ID:/NKe+S22O

魔王「キミの意志は?!……思うままに言うんだっ」


女側近「私は……私は……」


魔王「女側近さん!」

魔少女「お姐ぇっ!」



女側近「……」



女側近「私は」




 女側近の視力のない瞳からボロボロと涙が落ちる。

女側近「魔王様と共に生きたい……」






魔少女「お姐ぇ……」

魔王「女側近さん……」ニコッ



421: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:58:03.67 ID:/NKe+S22O


 女側近の表情には感情が宿る。
 そこには只々普通の魔族の女性。そんな姿に魔王も魔少女も微笑む。
 



女側近「魔王様、私は……」グサッ


 言いかけた女側近の言葉は突然遮られた。
 口から血を吐く女側近の胸には魔剣が刺さっていた。

女側近「ぐぅ……」

魔王「女側近さん!!!!」


 スローモーションのようにゆっくり倒れる女側近から魔剣が引き抜かれ、背後から先代魔王が現れる。

魔王「先代魔王!!!」

魔少女「お姐ぇっ!」


少年勇者「く……」



先代魔王「驚きはしないぞ。余は元々誰も信用しておらん」


魔王「魔少女さん……回復を」

魔少女「うん」

先代魔王「側近はまた新しい物へ変えれば良いだけじゃ」

魔王「女側近さんは物じゃない!」


422: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 08:59:56.01 ID:/NKe+S22O

先代魔王「お前らに意志は必要ない。余の言うことを聞いていればいいのじゃ」

先代魔王「弱肉強食……余の言葉は絶対。逆らえば死ぬだけじゃ」

先代魔王「何故そんなこともわからん。お主がどんな理想を願おうと余に勝てなければ叶わん。つまり強くなければ何もできんのじゃ」


魔王「……」

先代魔王「弱く、チカラもなく、魔法も使えない。それでどうしようと言うのだ?」

魔王「……」

先代魔王「余の強さが分からん訳ではあるまい」


魔王「……たしかに、ボクは弱い。戦えないけど」


先代魔王「……」



魔王「お前にボクは殺せない」

先代魔王「……」


先代魔王「得意のハッタリか?……イライラしてくるわ」


魔王「なんでも思い通りになると思うなよ」

先代魔王「下級魔族が……。“魔王”の余が命令する。跪け。許しを請え。命乞いをしろ」


魔王「“魔王”はボクだ」


423: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 09:01:28.85 ID:/NKe+S22O

先代魔王「クズが……」


 先代魔王は一瞬で魔王に肉薄すると魔剣を胸に突き刺す。あっさりと貫通し、魔王の口から血が噴き出す。

魔王「があっ……あああ……」

先代魔王「脆い身体じゃ」


魔王「ぐ……ああ……」

 魔王は胸に突き刺さった魔剣を掴む。

魔王「はぁはぁ……掴んだ……ぞ」

先代魔王「あ?」

魔王「はぁ……はぁ……」








魔王「こ、来い……魔剣! まだ…生きてん……だろっ!」

先代魔王「なに?!」




 ドクンッ






 突然魔剣が黒く光り出す。魔王は刃が食い込むほど刀身を握りしめる。

魔王「がががががががががああああアアアアっっ!!!!」

 ギィィィインッ!

 魔剣の魔力に弾かれた先代魔王は、剣から手を離し吹き飛ぶ。
 予測できなかった衝撃に目を見開て驚いた。

魔王「」

 胸に魔剣が突き刺さったままの魔王は自分の身体から引き抜く。

魔王「……決着を……ツケヨウ」

424: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 09:03:05.38 ID:/NKe+S22O



魔王「魔オうはボクダっ!!!」




先代魔王「……」

魔王「オマエを……倒ス」



魔少女「魔剣を奪い返した!」

魔王「魔ショウジョさん……みんナをマモッテ」

魔少女「う、、うん」

女側近「自我があるの……?」




先代魔王「なんと……」

先代魔王「面白い。これこそ弱肉強食っフハハハハハッ」


魔王「ガアあああアあっ!!!」



  ■ 第39話 魔オうはボクダ 終 ■


425: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/17(水) 09:04:33.17 ID:/NKe+S22O
次が最終話になります。
読んでくれてる方、ありがとうございます。

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/17(水) 11:44:56.15 ID:QRprdd8Do
生き残るのは誰か

429: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:48:05.98 ID:1IdDD/GU0



  ■ 最終話 勇者と魔王 ■
 
 
 

430: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:49:43.77 ID:1IdDD/GU0

 ガアギィィィイッ!

    ギイイィィっ!
  ドォォォンッ


少年勇者「な、なんて戦いだ……」



 日が沈みゆく。
 王と王の戦い。
 魔剣の魔力を纏った魔王は、下級魔族では目で追えないほどのスピードで先代魔王に斬りかかる。
 先代魔王もまた闇の魔法で創り出した剣で迎え撃つ。

 ギイイィィンッ!!



先代魔王「フハハハハハッ楽しいぞ。これほど充実した戦いは久しぶりじゃ」

魔王「ガアああっ!」

先代魔王「ほれっ」


 先代魔王は大火焔魔法を放った!

 先代魔王は大氷冷魔法を放った!

 先代魔王は大風撃魔法を放った!


 ゴオオオオオオオオオォォォォォッッッッ!!!!


魔王「うっとうシイッ!」

 魔王は衝撃波を放った!


 激しくぶつかる二つのチカラに、周りの女側近達はただ呆然と見つめていた。

女側近「魔王様……」

魔少女「まおー様……頑張って」

少年勇者「アイツなんなんだよ……」



431: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:51:50.20 ID:1IdDD/GU0


  ギイイィィッ!

 キンッ!  キンッ!


先代魔王「結局のところ戦うしかない。それでも弱肉強食を否定するのか?」

魔王「ボクらは魔物ジャナイ……知セイがあるンダヨ。タタカワナイ選択肢もアル」

  ギイイィ!

先代魔王「甘ったれだ。その様な考えでは誰もついてはこまい」

魔王「魔ゾクだっテ……ニンゲンダッテ……戦いをモトメていないっ!」

先代魔王「何もわかっていない。全ては戦いじゃ。学問だろうと仕事だろうと、全ての理は争いで満ちている」

 キンッ

  ドガッ


先代魔王「生まれた時から皆不平等なのだ。魔力、金、地位、チカラ。ならば戦って競い合うことが、この不平等な世界を生きるすべではないのか」

魔王「違うっ! みンナ不平等だからこソ、手を取り合ウベキナンダっ」

先代魔王「燃えろっ」


 先代魔王は大爆炎魔法を放った×10


 ゴオオオッッッッッッッ!!!!!
 ゴオオオッッッッッッッ!!!!!
 ゴオオオッッッッッッッ!!!!!

魔少女「きゃああああっ」

 すべてを焼き尽くす烈火の炎。魔王は魔少女、女側近、少年勇者をかばう。
 しかし、魔王はダメージを受け付けない。


432: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:52:56.05 ID:1IdDD/GU0

先代魔王「フハハハッ……足手まといをかばってどうする」

魔王「オマエノ考え方でハ悲しむ者が増エル……ガアああアアアっ」

 魔王は魔剣で攻撃っ!

 ガキィンッ!

先代魔王「ぐっ……」

魔王「ガアアアアアああああっ!」


 魔王は衝撃波を放った!

 ドォォォンッッッ!


魔少女「やったぁ!」

少年勇者「やったか……」


女側近「魔王様……」

魔王「ハァはぁ……ガァハァ……ボクハ負けナい」




 衝撃波で巻き上がった砂埃の奥から、先代魔王は姿を現わす。身体に傷があるものの、みるみる治っていく……



先代魔王「まさか傷を負うとは思っておらんかった。魔剣のチカラとは素晴らしい」

魔王「ガアアアアアっ!!」


433: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:54:41.29 ID:1IdDD/GU0

 魔王が斬りかかると先代魔王は闇の魔法を放つ。現れた闇は魔王の動きを封じる。

魔王「があ……アアアアアああ……」

先代魔王「これで動けまい」


魔王「クソォぉ……」

先代魔王「弱ければ、何も変えられない。何も動かせない」

魔王「ガアアアアア……」

先代魔王「余が正しい。証明しよう」

 先代魔王はニヤリと笑い、魔王の魔剣を持った右手を切り落とす。

 ズタンッ!!!

 ぼとりと魔剣ごと右手は魔王の足元に落ちた。魔剣の魔力を失った魔王にダメージが戻る。

魔王「あ、……あ、……」


魔王「ぎゃあああああああああああっ!!!」


先代魔王「ククク……フハハハハハッ」

女側近「魔王様ぁぁぁっ!!!」


 女側近は大氷冷魔法を放った!


 しかし、先代魔王は搔き消した。



先代魔王「なんじゃ余に勝てないというのは、おぬしが一番わかっとるじゃろうが」

 先代魔王は氷撃魔法を放った×100


 ドドドドォドドドドォドドドドォドドドドッッッ!!!!
 ドドドドォドドドドォドドドドォドドドドッ!!!!


女側近「ぐぐぐ……きゃあああああああっ」


先代魔王「フハハハッ氷魔法で上回れてしまう気分はどうじゃ?」


434: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:56:08.96 ID:1IdDD/GU0

少年勇者「つああああぁっ!」


 少年勇者は先代魔王の背後から聖剣で奇襲攻撃!


 ジャキイイィィィッ!!



少年勇者「く……はぁ……」

 しかし、傷を負ったのは少年勇者の方だった。
 攻撃が届く前に少年勇者の腹部に魔剣が刺さる。



先代魔王「おぬしは奇襲してくると思っておったわ」



魔少女「あ……あ……」

 魔王、女側近、少年勇者は呻き声を上げて蹲る。そんな光景に魔少女は後ずさりする。
 先代魔王は落ちていた魔剣を拾い上げて、魔少女に見てニタリと笑う。


先代魔王「回復せんでいいのか? ほっといたら皆死んでしまうぞ?」

魔少女「う、う……」

先代魔王「もう魔力が残っておらんのか。つまらん」

魔王「うあぁ……うぁ……」

435: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:58:25.65 ID:1IdDD/GU0

先代魔王「この魔剣の魔力は素晴らしいの。貴様のようなクズが支配できたのじゃ……余に扱えん訳はあるまい」


 先代魔王は魔剣を高く掲げ問いかける。

先代魔王「魔剣よ……あとは貴様だけじゃ。余にチカラを示せ」

 ドクンッ……


 ドクンッ……



先代魔王「来るのじゃ……魔剣よ。貴様も支配してやる」


 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ……


先代魔王「ガアアアアアアアアアアッッッ!!」


 魔剣から吹き出す魔力が先代魔王を包む。





 虚ろな意識の中で魔王は思う。

魔王(ボクは間違っていたのかな?)


魔王(何も変えられないのか?)


 目の前が少しずつ黒に染まる。
 視界は無くなるが脳裏には仲間の顔がよぎる。
 女側近、魔少女、ピエロ、エルフ、魔執事、母、少年勇者。


 

魔王(みんなを死なせたくない)


魔王(ボクはどうなってもいい)


魔王(負けないチカラが欲しい)








魔王(これが弱肉強食?)


魔王(あいつの言った通りだ)

魔王(弱いから結局何も出来ないんだ)



魔王(ボクは戦えないんだ)


魔王(そりゃ何も出来ないよ……)


魔王(…………)

魔王(……)


436: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 01:59:31.08 ID:1IdDD/GU0



魔王(出来ない?)


魔王(違う!)





魔王(出来る出来ないじゃないっ)

魔王(“やる”っていう意志だ!)



魔王(忘れちゃダメだ……戦えなくたってここまできたじゃないか)

魔王(やる……)




魔王(戦うんだ)


 真っ黒な視界に一筋の光が差し込む……。
 魔王は引き寄せられるように手を伸ばす。




437: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:00:14.20 ID:1IdDD/GU0







 

438: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:01:40.99 ID:1IdDD/GU0





先代魔王「ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 先代魔王を包む魔剣の魔力は徐々に身体に吸収されていく……。



先代魔王「ふ……ふ、フハハハハッ!」

先代魔王「勝ったぞ、やはり余は最強じゃっ!」



先代魔王「これが魔剣のチカラ! 素晴らしいっ!」



先代魔王「フハハハハッ……はは……は?」


 先代魔王が高笑いが止まったのは、あるものが視界に入ったからである。
 先ほどまで倒れていた魔王。
 いつの間にか立って俯いている。

 切り落としたはずの腕が戻っている。その右手には見慣れぬ剣。
 ただならぬ気配を感じ先代魔王は身構える。


先代魔王(あの剣は……)


 魔王の持つ剣は眩ゆい光を放ち身体を纏う。
 そう、魔王が持っている剣は少年勇者が持っていた剣。







女側近「聖剣……」

439: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:02:59.89 ID:1IdDD/GU0


先代魔王「バカな?! 聖剣を持てるじゃと?!」




魔王「戦う……」



 ピカッと光ると魔王は光を纏ったまま先代魔王に斬りかかる。


 ガキイィィンッ!

 先代魔王も魔剣で受け止める。




 聖剣の魔力と魔剣の魔力がぶつかり混じり合う。

 ゲートの鍵。
 聖剣と魔剣が交わる時、ゲート開閉する。


 ガキイィィンッ

      ギイィィィッン!

  ガギィィンッッッ!


 頭上に浮かぶ光の球体ゲートは剣が交わるたびに膨張と縮小を繰り返す。
 次第にゲートは巨大化し、境界都市を飲み込み……魔王達も吸い込まれていった……。



ーーー人間界と魔界のはざまーーー




先代魔王「おおおおおぉぉっっ!」


魔王「はあぁぁぁぁっっ!!!!!」



  ■ 最終話 勇者と魔王 終 ■

440: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:03:46.68 ID:1IdDD/GU0



  ■ エピローグ ■
 
 
 

441: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:06:25.62 ID:1IdDD/GU0


/////////


××××.××.××


覚えているのは……上も下もわからない次元の狭間で
まおー様が光を纏いながら戦っていたこと。

ウチは頑張れって応援することしかできなくて
涙が止まらなかったよ……



いつの間にか気絶しちゃって、気が付いたら魔界の赤い空が見えたの。
何が起こったかわからなかったけど……思ったのは魔界に帰ってきたんだって!
辺りを見渡したら、まおー様とお姐ぇが倒れてて必死で回復した。

二人とも無事だったし、先代魔王もいなくなっててホッとした。

少年勇者もいなかった。




でも、目を覚ましたまおー様は泣きじゃくった。



それで気が付いたの……ゲートがないってこと。
聖剣も魔剣もなくなってた。
魔界と人間界は切り離されちゃって……ピエロやエルフは置き去りに。
人間界にいた民や兵士、ものすごい数の魔族が取り残されちゃった。



でも、ゲートか閉じたってことは







戦争が終わったってこと。

<魔少女いつかの日記より>

442: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:07:57.55 ID:1IdDD/GU0




---魔界 冥都・最上層 黒魔城---


魔王「先代魔王は倒してないんだ」

女側近「おそらく人間界に……」


魔王「うん、ハッキリ覚えてないけど、多分魔剣も聖剣も向こうの世界に行ってしまったと思う」

女側近「つまり再びゲートを開けて攻めてくる可能性がある……ということですね」

魔王「必ず……ピエロとエルフさんを助けに行く……」


女側近「はい……」


魔王「必ずだ」





女側近「かしこまりました」

443: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:09:27.24 ID:1IdDD/GU0

魔王「……」

女側近「?」

魔王「女側近さんは……いや、側近一族みんなだけど」

女側近「はい」

魔王「一度解散してもらおうと思うんだ。自由になってほしい」

女側近「はい」


魔王「女側近さんも……普通の魔族として生きてほしい」




女側近「魔王様、私は自由を知りません」


女側近「どうしていいのか分かりませんが……」

魔王「うん」

女側近「魔王様の側近を続けさせて頂きたいです」

魔王「……」

女側近「いかがでしょうか?」

魔王「それが……キミの意志なの?」

女側近「え……?」

魔王「側近としてではなく、女側近さん自身の意志なの?」

女側近「…………。」




女側近「はい。私が決めました、私の意志で」


女側近「魔王様の元で……生きていかせてください」

444: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:11:06.33 ID:1IdDD/GU0

魔王「うん!」

魔王「……ありがとう」



女側近「魔王様一つだけお伝えしておきたいことがあります」

魔王「……うん?」

女側近「本当のお父様のことです」

魔王「知ってるの?!」

女側近「はい、以前調べましたので」

魔王「確か母さんは魔王軍の騎士だったって……」


女側近「そうですね。正確には魔王軍の兵士です」

女側近「人間との戦争開戦時、異世界からの未知なる敵に魔王軍は大変苦戦し、多くの兵を失いました」

魔王「うん……人間から攻めてきたんだよね」

女側近「人間の強さは凄まじく、その軍隊は冥都にも迫る勢いでした」


女側近「そんな中、志願兵として前線へ出たのが貴方のお父様です」

魔王「志願……」


445: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:11:59.64 ID:1IdDD/GU0

女側近「記録では……その後、前線にて戦死。となっております」

魔王「……」

女側近「どのような形で亡くなられたかは分かりませんが、お父様の部隊は大変戦果を上げ、人間部隊を魔界から追い出すことに成功致しました」

女側近「お父様は冥都を守るために戦った」

女側近「愛する妻と息子の為に戦ったのだと……思います」


魔王「女側近さん……」


女側近「それだけは覚えておいてください」




魔王「うん」


446: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:13:53.37 ID:1IdDD/GU0

 母親の『父親は勇敢な騎士だった』という言葉を思い出す。
 なんだか心のモヤモヤが晴れてく気がした。ずっと否定してきた父は……先代魔王は親ではなかった。
 それだけで少し救われた気がした。
 何が正しいかなんて分からない。
 先代魔王は『弱肉強食』という考えで魔界を何百年も安定させてきた。それは、ある意味では正しいのかもしれない。
 
 ボクの考えのせいで悪い方へといってしまうかもしれない。
 ボクに“魔王”なんて出来るわけねぇって思う魔族は沢山いるだろう。


 そうかもしれない。

 でも




 ボクを支持してくれる仲間もいる。

 女側近さん……
 魔少女さん、ピエロ、魔執事、エルフさん。

 だからボクは僕を信じられる。







 自分を信じて進むしかないんだ。


 そう“決めた”から。








女側近「魔王様、お座りください」


魔王「うん」


 魔王は魔界の頂点、玉座に座る。









……そして、魔界に争いのない時が過ぎていく。








  ■ THE END ■

[魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」]END

最後まで読んで頂きありがとうございました!

447: ◆Ks1JsTemxeE/ 2017/05/18(木) 02:20:07.14 ID:1IdDD/GU0

今作は裏物語、実は表の物語があります。

女騎士「こんな勇者についてけねぇ」

 こちらが今作の約30年後の人間界の話です。“表”なので今作はこの話がベースになってます。人間界に取り残されたピエロや少年勇者の30年後が少し見れます。


兵士「勇者の為に死にたくねぇ」

 ①の勇者の最終決戦の話です。初めて書いたSSです…


勇者「魔王倒したらやることねぇ」

 ②のその後です。ここに出てくる勇者とは“西の勇者”のことです。誰が犯人?!っていうミステリー物を一度描いてみたくてやりました。


勇者「魔王を捕まえたが殺さねぇ」

 同じ舞台での駆け引きを、違う視点で同時にスレ立てたら面白いかな?と思ってやってみました。


どれも単体で読んでも大丈夫なように書いているつもりです。(つもりです)でも舞台は繋がりがあります。なのでどれも終わり方が…
未熟な作品ばかりですが読んで頂けたら幸いです。
以上過去作の宣伝でした。

本当に最後まで読んで頂きありがとうございました!!!

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/18(木) 02:49:41.43 ID:coY8dM4Go

楽しかったよ

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/18(木) 03:28:38.75 ID:0TmvMmI5o
おーシリーズになってんのかすげー
おつ

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引用元: 魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」