1: 2013/01/07(月) 03:02:57.15 ID:Z/CBOFaH0
貴音「わたくしの体重は、5kgなのです」の続きのつもり


 
P「……はぁ」

P「まさかあいつと喧嘩するなんて……」

P「帰りたくないなぁ、事務所に」

P「でも、帰らないとだめだし……どうしよ」

P「それに、社長にはアイドルをスカウトしてこいって言われたし……ますます帰られない……」





やよい「……」

4: 2013/01/07(月) 03:04:37.03
ζ*'ヮ')ζ<うっうー!

5: 2013/01/07(月) 03:07:01.30 ID:Z/CBOFaH0
 
P「おお? あの子……ティンときた!!」




P「あの、こんにちわ」

やよい「……?」

P「初めまして、えっと……俺、アイドルをプロデュースしてるんだけどね」

やよい「……」

P「あのさ、アイドルとかに興味ないかな?」

やよい「えっと」

P「べ、別に怪しいものじゃないよ? ほら、これ一応名詞なんだけど……」

やよい「765プロ、ですか?」

7: 2013/01/07(月) 03:09:30.95 ID:Z/CBOFaH0
P「そうそう」

やよい「……でも」

P「詳しい話しは」

やよい「話しかけないで欲しいかなーって」

P「え?」

やよい「ごめんなさい……でも」

P「いやいや。ごめんよ、突然過ぎたかな」

やよい「それは別にいいんですけど、今はちょっと困ってて……」

P「……ああ、なるほど。迷子なんだ」

やよい「そうなんです」

9: 2013/01/07(月) 03:12:58.30 ID:Z/CBOFaH0
P「うーん、仕方ない。俺、しばらくそこのベンチに座ってるからさ」

P「と言っても、君はすぐにどっか行っちゃうだろうけど」

P「興味があったら、そこの名詞の連絡先か俺に連絡して欲しい」

やよい「うーん、わかりましたー。では、失礼しますー!」

P「はい、ばいばい」




P「ですよねー……。普通なら怪しさ満載ですよねー」

P「凹むなぁ、かなり……」

10: 2013/01/07(月) 03:18:31.94 ID:Z/CBOFaH0
 
P「ああ、もう……」

P「こんなにいい天気なのに、もったいないなぁ」

貴音「こんにちはプロデューサー。何をしているのですか?」

P「うお!? たたた、貴音か! いつからそこに」

貴音「いえ、昼間だというのに公園のベンチでまるでりすとらされた中年男性のように黄昏る貴方がため息をつき」

貴音「あまつさえ道行く少女に声をかける変質者のような場面を見ていたなど、口が裂けても言えません」

P「ほぼ初っ端からかよ! って、少女?」

貴音「口説いていたのではないのですか?」

P「まさか! 俺はただスカウトをするために……」

貴音「まだアイドル候補生を増やすつもりなのですか」

P「社長命令だ、仕方ないさ」

12: 2013/01/07(月) 03:22:58.58 ID:Z/CBOFaH0
 
P「それで、お前はどうしてここにいるんだ?」

貴音「知りたいのですか? まさか、担当アイドルの私生活まで踏み込もうとは、この痴れ者が」

P「ただの世間話しだろうが! それに、この前と違ってすっごく冷たいなお前!?」

貴音「そうでしょうか。……ところで、お隣に失礼しても宜しいですか?」

P「ん、ああそうだな。立っているのもなんだし、ほら、座れよ」

貴音「感謝します」

P「それで話しの続きだ。どうしてこんな場所にいるんだ?」

貴音「プロデューサーはすとーかーの基質が」

P「ないよ! 話しを反らすのもそろそろ終われ」

貴音「致し方ありませんね」

P「お前は俺が嫌いなのか?」

貴音「嫌い? まさか、むしろわたくしは……」

P「ん?」

貴音「……何でもございません」

13: 2013/01/07(月) 03:26:32.09 ID:Z/CBOFaH0
 
P「今日は確かお前……レッスンじゃなかったか?」

貴音「それは午前中のみです」

P「そうだったか。んで、ここまで来た理由は?」

貴音「プロデューサーがここにいると聞いたもので」

P「誰から……って、あいつしかいないよなぁ」

貴音「その通りです。どうも、何かあればプロデューサーはここに来ると言っておられました」

P「お見通しかー。ま、付き合いも長いしそうだよな」

貴音「それでも来たのはわたくしです」

P「うん? 何が言いたいんだ?」

貴音「……鈍感なのですか」

P「……ま、まさか」

14: 2013/01/07(月) 03:29:54.79 ID:Z/CBOFaH0
 
P「ま、待て待て! いくらデビュー前でも俺とお前はアイドルとプロデューサーだし」

貴音「そのような壁、必要ございません」

P「必要だろう!」

貴音「それに、壁は壊すものです」

P「無理無理無理! 壊せない超合金製!」

貴音「では乗り越えさせて頂きます」

P「ベルリンよりも遥かに高い超えられない壁だ!」

貴音「むむ、それでは回り込ませて」

P「万里の頂上よりも遥かに長いぞ!」

貴音「穴を掘って下からトンネルにて進入します」

P「ぐぐぐ……」

貴音「……貴方様」

P「くっ……ち、近いぞ、顔が」

15: 2013/01/07(月) 03:32:40.55 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「貴方様」

P「……っ」

貴音「わたくしは、以前の件で感謝しております」

P「……へ?」

貴音「ですので、お礼をさせて頂きたいなと思っているのですが」

P「な、なんだそんな程度かぁ……」

貴音「まさか、わたくしがプロデューサーなどに告白でもすると思われましたか?」

P「そそそ、そんな事はないぞ!?」

貴音「……」

P「やめろそんな目で俺を見ないでくれ!」

貴音「……はぁ」

P「ため息を付かれた!?」

17: 2013/01/07(月) 03:37:11.06 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「それで、どのような謝礼を求めますか?」

P「謝礼なんて要らないけどな」

貴音「なんと。それではわたくしの心が晴れません」

P「いやいや。あれは俺が助けたんじゃない、お前が助かっただけ、それも勝手に」

貴音「しかしプロデューサーがいなければ、わたくしの体重は5kgのままでした」

P「あくまでもそれはお前を取り巻く環境ってだけだ。そこにたまたま俺がいただけ」

貴音「なんと強情な。でしたら、わたくしも勝手に貴方にお礼をします」

P「それは困ったな……」

貴音「何が宜しいでしょうか。そうですね、毎日ラーメンを、美味しい場所へとご案内するなど」

P「毎日ラーメンはきつい!」

貴音「では食べ放題では如何でしょうか?」

P「食から離れて欲しいかなーって!?」

18: 2013/01/07(月) 03:41:21.75 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「むむ。では、毎夜の天体観察などは? 月を見るのも四季折々の風情が」

P「毎夜はきついって!」

貴音「では、毎朝の」

P「だから毎日っていうことから離れようよ! たまに、たまにがいいの!」

貴音「わたくしが満足できないのですが」

P「俺とすればその心遣いだけで幸せだからさ」

貴音「なんと……」

P「俺は別にさ、お前に何かをして欲しくて何かをした訳じゃない」

貴音「ではどうして助けてくださったのですか」

P「それはお前が俺のアイドルだから」

貴音「アイドルでなければ助けなかったと?」

P「そうだ。人間ってのは、利益がなければ働かないもんだよ」

貴音「……嘘つき」

P「ん、なんて言ったんだ?」

19: 2013/01/07(月) 03:45:01.71 ID:Z/CBOFaH0
 
P「……おや、またあの人だ」

貴音「あれは……、先ほど口説いていた少女ですね」

P「ああ。って口説いてないからな!?」

貴音「本当かどうかわかりませんが」

P「本当だよ! なんだか迷子らしいんだ」

貴音「ほほう。では助けて差し上げないと」

P「そうなんだけど、さっきのでむしろ困らせてしまってさ。それで、小さい子に怒られてしまったんだ」

貴音「目つきが危ない人だったのですね」

P「ぐっ、否定できない」

貴音「いいでしょう。わたくしも共に参るとしましょう」

P「ほ、本当か!? それは助かる!!」

貴音「あ、貴方様、手が……」

P「おおう、すまんな。興奮してつい」

貴音「……いえ」

21: 2013/01/07(月) 03:50:06.72 ID:Z/CBOFaH0
 
P「や、やっほ」

やよい「あ、こんにちわー!」

貴音「ごきげんよう」

やよい「……? そっちの綺麗な人は誰ですか?」

貴音「まぁ、なんとまぁ! わたくし、この子を連れて帰らせて頂きます!」

P「こらこら、離婚前の妻のような発言するな」

貴音「……つ、妻などと……」

やよい「なんだか楽しそうですねー!」

P「ああ、ごめんね。こいつは、俺の担当するアイドル候補なんだ」

やよい「も、もしかしてさっきの話しは本当だったんですかー!?」

P「そうなんだよ。……やっぱり疑われていたかー」

やよい「すいません……、だって」

P「いやいや。俺のほうが悪い事をしてしまったんで」

貴音「……?」

22: 2013/01/07(月) 03:57:59.04 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「でも、今はその、迷子で」

P「あのさ、道案内の手伝いをしてもいいかな?」

やよい「そ、そんなの悪いですー! 大丈夫なんで、心配しないで欲しいかなーって」

貴音「迷子ならば、わたくし達で協力し合うのもよいかと」

やよい「ううん、大丈夫ですよ! 私、こう見えても道には詳しいんです」

貴音「……ですが」

P「そんな、俺たちではだめですか?」

やよい「うーん……。だめみたいです」

P「そうかぁ……」

貴音「敬語で媚びるなどとは……そんな程度の者だったのですかプロデューサー……」

P「こ、媚びてなんかないぞ!?」

貴音「この痴れ者が……恥じを知りなさい!」

P「ほ、本当なんだけどなぁー」

24: 2013/01/07(月) 04:04:00.86 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「どうか。わたくし達は貴女を助けて差し上げたいのです」

やよい「うーん、わたしもそうしてくれると助かりますー」

P「じゃあさ、ここは思いっきり手助けしてもらっちゃいましょう!」

やよい「……」

P「……」

貴音「……」

P「いよっし、じゃあ任せてください!」

やよい「はーい、お願いします!」

貴音「……?」

P「じゃあ、どこに行きたいのか教えて貰っても」

やよい「うっうー! それはですね」

貴音「では、わたくしはこの辺りの地図を手に入れて参りましょう」

やよい「あ、いいんですかー?」

貴音「幸いにも765プロはこの近くなのです。すぐに戻って参りますので、しばしお待ちを」

25: 2013/01/07(月) 04:08:52.31 ID:Z/CBOFaH0
やよい「じゃあお願いしまーす!」

P「すまんな貴音」

貴音「いえ、これも人助けと思えばのこと」




やよい「あのー、聞きたいことがあるんですけど、いいですかー?」

P「ん、なんだ?」

やよい「どうしてこんな所に居るのかなーって。もしかしてお仕事とかですか?」

P「いいや、さぼりだ」

やよい「ええ!? 大人なのに、いいんですかー!?」

P「よくないよ? でも、ある人と喧嘩しちゃってて」

やよい「……私も、よく家族とだけど喧嘩します」

P「そうなんだ……」

やよい「はい。ちょっと前で、大喧嘩とかもしちゃってて」

26: 2013/01/07(月) 04:14:57.71 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「それで、気付いたら家の空気が悪くなっちゃったりして」

P「そっか」

やよい「あ、初対面なのにこんな話ししちゃって、ごめんなさい……」

P「いやいや、いいよ? その年齢で、家族の問題って辛いよな」

やよい「……はい。それに、弟たちもすっごく不安がってて」

P「弟がいるのか」

やよい「はい! すっごくいい子なんですよー! でも、やっぱりたまに喧嘩したいます、えへへ」

P「喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?」

やよい「そう言ってもらえると嬉しいかもー……」

P「そうか? それなら良かったよ」

やよい「……長介」

P「……ん、あれは?」

27: 2013/01/07(月) 04:21:10.98 ID:Z/CBOFaH0
 
P「よぉ!」
 
春香「あ、プロデューサーさん!」

美希「プロデューサーだぁ……あふぅ」

やよい「……」

P「今日はやたらとうちのアイドルに出会う日だなー」

春香「こんにちわー! あれ、その子は誰ですかー?」

P「ああ、えっと……」

やよい「自己紹介を忘れてましたー! 私、高槻やよいって言います!」

春香「やよいちゃんかー! プロデューサーさんと何をしてたのかな?」

やよい「お話しをしてました!」

春香「へ、へー」

P「そんな目で俺を見るな! 何もしてないからな、本当だから!」

春香「……」

P「どうしてうちのアイドルは俺を犯罪者にしたがるんだよ!?」

28: 2013/01/07(月) 04:26:42.84 ID:Z/CBOFaH0
春香「私たち、さっきまでレッスンだったんですよ!」

P「お前たちもだったのか」

春香「私たちもって?」

P「貴音も午前中はレッスンだったんだよ」

春香「あ、あれ? 貴音さんは今日、オフだったはずじゃ……」

P「え?」

春香「そんなことより、やよいちゃんとどうしていっしょにいるんですか? もしかして、新しいアイドル候補!?」

P「あー、それはな……」

やよい「そ、そんなことないですー!」

P「すまん」

やよい「い、いえ」

春香「じゃあどうしてですか?」

美希「……あふぅ。春香ー、眠いたいの」

30: 2013/01/07(月) 04:30:15.83 ID:Z/CBOFaH0
 
P「人助けだよ。どうもさ、迷子みたいなんだよ」

春香「そうだったんですか! 流石プロデューサーさんは優しいですね!」

P「いやいや、そんなことないよ」

美希「事務所帰りたいの春香ー!」

春香「もう美希ってば」

P「そういえば、どうだ美希? 961プロからうちに来て、初めてのレッスンだったけど」

美希「あんなの楽勝なの」

春香「美希ってば凄いんですよ! 何でもできちゃう!」

美希「何でもはできないの、できる事だけなの」

P「これは有能株だな! アイドル候補の先輩として、気が緩めないな春香」

春香「うええ!? も、もうそんなプレッシャーかけないで下さいよー!」

やよい「大変なんですねー」

春香「うん……。でも、楽しいんだよ?」

やよい「そうなんですかー!」

31: 2013/01/07(月) 04:35:12.74 ID:Z/CBOFaH0
春香「だってね、皆とステージに立って、歌って踊れたらすっごく楽しいって思うんだ!」

やよい「そっかー……」

春香「目指せ、トップアイドル! なんちゃって、てへ!」

やよい「頑張ってください! 応援してますー!」

春香「ありがとう、頑張るね!」

P「いい話しだなー」

美希「……あふぅ。それで、その人は誰なの?」

春香「もう美希!? だからこの子は高槻やよいちゃんだって!」

美希「えーっと……あふぅ、めんどくさいの。春香、帰ろう? ミキ、とっても眠いから……」

春香「あーもう!? 仕方ないなー。失礼しますね、プロデューサーさん!」

P「ああ。じゃあ、気をつけてな!」

やよい「さようならです」

春香「ばいばい!」

美希「ばいばいなのー」

32: 2013/01/07(月) 04:41:53.12 ID:Z/CBOFaH0
 
………


貴音「ただいま戻りました」

P「おかえり」

やよい「おかえりなさい」

貴音「それでは参りましょう」

P「おっと、その前に目的地の場所なんだけどな」

貴音「そうでしたね。わたくしとした事がお聞きする前に行ってしまったもので」

P「ああ。えっと、――――だ」

貴音「えっと、もう一度よろしいでしょうか?」

P「ん? 聞き漏らしたのか? だから――――だよ」

やよい「実は私も、その辺りは詳しいはずなんですけど……。どうしてか迷子になっちゃって」

貴音「大丈夫ですよ。では参りましょう」

P「ああ」

やよい「うっうー!」

34: 2013/01/07(月) 04:44:46.47 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「ええと。次はこちら、ですね」

P「……」

やよい「……」

P「なぁ、もうタメ口でもいいかな?」

やよい「……」

P「ありがとう。あのさ、どうして迷子になったんだ?」

やよい「……どうしてだろ」

P「そっか」

貴音「プロデューサー、次はこちらです」

P「ああ」

やよい「はい」

P「……」

やよい「……あぅ」

35: 2013/01/07(月) 04:50:25.71 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「ええと……」
 
P「その、最初はスカウトって気楽な感じがいいかなーってあえて敬語をせずにいったんだけどね」

やよい「……」

P「それで、一応人助けになるなら、それなりの大人な対応がいいと思って敬語にしたけど」

やよい「……」

P「結局、ぐちゃぐちゃになった。だからさ、その、突っ込まないでくれると嬉しい」

やよい「……大人ってそういうのもあるんですね」

P「いや、これは俺のミスかな? よけいに不安感を煽っちゃったみたいだしね」

貴音「あの、わたくしだけが頑張っているような」

P「あとでゴージャスプリンだ」

貴音「お任せくださいまし」

やよい「え、えと?」

P「問題ない、ないったらない!」

やよい「いいのかなーって……」

36: 2013/01/07(月) 04:59:23.09 ID:Z/CBOFaH0
 
P「そうだ。君もアイドルになってみないか?」

やよい「えっと……。私じゃちょっと無理かも」

P「そんなことないよ、ね」

やよい「……て、照れちゃいますー」

P「でも、君ならきっと素晴らしいアイドルになれるさ!」

やよい「え、えへへ」

P「君もどうかな?」

やよい「……うーん」

貴音「……プロデューサー。斯様ないたいけな少女を口説くなど、言語両断です!」

P「だからスカウトだってば!」

貴音「左様ですか……くれぐれも、変な気を起こさぬよう」

P「起こすか! ええい、貴音は道案内を頼んだからな!」

37: 2013/01/07(月) 05:00:45.88 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「悩んじゃいますー……」

P「お、お試しでもいいから!」

やよい「……でもでも、子供っぽいし」

P「子供っぽいなんて……むしろそれなら俺の方が」

やよい「あ、それってさっき言ってた喧嘩のことですか?」

P「そうだよ。やよいちゃんは賢いな」

やよい「やよいでいいですよー!」

P「そうか、じゃあやよい」

やよい「はい!」

P「うん、いい返事だね」

やよい「えへへ、ありがとうございます!」

39: 2013/01/07(月) 05:08:57.83 ID:Z/CBOFaH0
 
P「そのな、実は事務所の同僚と喧嘩してしまってて」

やよい「はい」

P「まぁ俺が悪いんだけどさ。どうしても、認められないっていうか」

やよい「何があったんですかー?」

P「つまらない意地の張り合いだよ。その子の夢を優先してあげられれば良かったのに」

やよい「どういうことですか?」

P「俺のしたい事とその人のしたい事が真逆だったんだよ」

やよい「……」

P「彼女には彼女のしたい事がある。でも、俺にだってしたい事はある。それで大喧嘩さ」

やよい「難しいです」

P「俺が一歩引くべきだったって分かってるんだけどね。ただ、どうしても……」

やよい「……えへへ、なんだか私も似てるかもー」

P「やよいが?」

やよい「私も、そういう感じでお父さんとお母さんと喧嘩中なんです……」

40: 2013/01/07(月) 05:12:59.93 ID:Z/CBOFaH0
 
P「上手くいかないもんだよなー」

やよい「……はい」

貴音「あの、プロデューサー」

P「ん、どうした?」

貴音「申し訳ございません。もう一度先ほどの住所を教えて頂けませんか?」

P「えっと確か」

やよい「……」

P「……だそうだ」

貴音「申し訳ありません、もう一度。あと、めもも取らせて頂きます」

P「おいおい。だから――――だぞ」

貴音「……了解しました。あと、もう一つ謝ります。目的地から行き過ぎてしまいました」

P「え?」

貴音「地図を見ながらでしたのに、どうしてやら……」

やよい「うぅ、やっぱり……」

41: 2013/01/07(月) 05:15:14.49 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「次はこのような事、無きように注意致します」

やよい「……」

P「……」

貴音「何か言ってくださると嬉しいのですが」

やよい「え?」

P「ええっと。大丈夫だから、行こう」

貴音「……はい」

やよい「どうしてでしょう?」

P「うーん、よくわからないな」

貴音「本当に何故……」

43: 2013/01/07(月) 05:18:19.59 ID:Z/CBOFaH0
 
………



貴音「またです」

P「まさか」

貴音「また、道を間違えてしまいました」

P「おいおい。これで4回目だぞ? やっぱり俺が地図を見ようか?」

貴音「いえ、それがおかしいのです。目的地辺りになると、何故か体と意思が同じ方向に向かないというか」

貴音「地図は見えているはずなのに、見えなくなってしまうというか」

やよい「あう、困っちゃいました」

P「そうだな。どうする?」

やよい「……どうしますか?」

P「いやいや、ここで諦めたくはない」

やよい「そうですよー!」

貴音「……?」

44: 2013/01/07(月) 05:22:49.28 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音「……その、申し訳ありませんが少し離れても宜しいでしょうか」

P「どうしてだ?」

貴音「忍野メメに会いに行って参ります」

P「な!? どうしてここで忍野さんが出てくるんだ!?」

貴音「……いえ、気になることがありまして」

P「まさか怪異なんて言うんじゃないだろうな」

やよい「かいい?」

貴音「それを確認するためにも、忍野メメに会う必要があります」

P「じゃあ俺が行こう」

貴音「いえ。わたくしが行きたいのです」

P「……どうして」

貴音「……お願い致します」

46: 2013/01/07(月) 05:26:07.11 ID:Z/CBOFaH0
 
P「……わかった。俺はお前を信じている。でも、気を付けてな」

貴音「はい」



やよい「えっと、あの人はどこに行ったんですか?」

P「ちょっとした知り合いのところだよ」

やよい「そうなんですか……」

P「大丈夫。ここからは俺が案内しよう」

やよい「うっうー! ありがとうございます!」

P「なに、これでも社会人だ! 道案内くらいできるさ!」

やよい「それなら良かったですね!」

P「だろ!」

47: 2013/01/07(月) 05:32:32.00 ID:Z/CBOFaH0
 
P「確か目的地は」

やよい「――――です!」

P「そうそう」

やよい「あの……行く途中、私の話しを聞いて欲しいかなーって」

P「ん、いいよ。言ってごらん」

やよい「……はい。実は、喧嘩の理由が……お父さん、お仕事をクビになっちゃったのが理由なんです」

P「それは大変だな」

やよい「そうなんです……。それに、うちは家族が多くて……」

P「それだとご飯もちゃんと食べられないな」

やよい「今はまだ大丈夫なんですけど、いつお金が無くなるか……弟たちのことも心配で」

P「うん」

やよい「それで、私、働こうって思って……でも、お父さんには無理だって言われちゃって」

P「……」

49: 2013/01/07(月) 05:36:49.05 ID:Z/CBOFaH0
 
P「それはどうして?」

やよい「中学生がアルバイトできるはずないだろうって」

P「新聞配達も?」

やよい「お前には無理だって。体力が無さ過ぎるらしいです……」

P「そうだったんだ」

やよい「でも、家族のためにお金を稼がなくちゃって思っちゃうんです!」

P「優しいな」

やよい「そんなことないです……。お父さんたちと上手くいかないせいで、弟たちにも当たっちゃってます……」

P「それは仕方ないよ」

やよい「……」

P「俺もそう思う」

やよい「はい……」

50: 2013/01/07(月) 05:40:40.17 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「それで、うわーってなって、家を飛び出したんです」

P「家出したのか?」

やよい「はい……。そっちの方が、弟たちも食べられるご飯の量が増えるかなーって」

P「……そっか。家出してどれくらいなんだ?」

やよい「2日目です」

P「……」

やよい「……」

P「そうだな。お腹とか空いてないのか?」

やよい「えへへ、実はちょこっとお菓子とか持って出たんです」

P「そっか」

やよい「お水ならスーパーで飲めましたー!」

P「……それならよかった、のか?」

52: 2013/01/07(月) 05:45:30.03 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「でも、家に帰ったほうがいいって言わないですかー?」

P「言わないよ。俺も家出くらいしたことあるしね」

やよい「それって本当ですか!?」

P「本当だよ。おいおい、笑わないでくれよ」

やよい「すごいですー!」

P「確か、1週間くらい家出したなぁ……」

やよい「いつぐらいのときですか?」

P「んーっと、高校二年生だったかな。それも、俺はミュージシャンになる、とか言って」

やよい「え、えーっと。やっぱりすごくないかなーって……」

P「だよな。俺も今ならそう思える。家族にはすごく心配されたし」

やよい「……」

P「うん。だからって、俺はそんなこと言わないよ」

やよい「はい」

53: 2013/01/07(月) 05:49:08.39 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「やっぱり、心配はかけちゃいますか?」

P「ああ。それはかなりな。俺なんて、母さんが泣いたとか初めて見たくらいだ」

やよい「……そうなんだ」

P「それからは流石にまっとうに生きてきたつもりだよ」

やよい「やっぱりプロデューサーはすごいです!」

P「すごくないさ、当たり前のことだよ」

やよい「……じゃあ、私はその当たり前ができてないんでしょうか?」

P「そんなことはない、なんて言えない。でも、間違えているとも俺には言えないな」

やよい「どうしてですかー?」

P「俺はそこまで凄い人間じゃないからだよ」

やよい「そんなこと、ないと思います!」

P「あはは、ありがとう」

54: 2013/01/07(月) 05:54:56.93 ID:Z/CBOFaH0
 
………



P「それでそう俺は言ってやったんだ」

やよい「そうなんですかー!? まさか、プロデューサーの友人さんが悪に堕ちちゃうなんて」

P「ああ。でもあいつは」



prrrrr




P「っと、電話だ。えっと、あいつからだ……」

やよい「あの人ですかー?」

P「ああ。ちょっとごめんな」

やよい「はい、大丈夫ですー!」

55: 2013/01/07(月) 05:57:59.23 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音『もしもしプロデューサーですか』


P「もしもし。ああ、俺だよ」


貴音『よかったです。初めて貴方の携帯電話にお電話します』


P「そうかもしれないな。……それで、忍野さんには会ったのか?」


貴音『はい。幸いして、住所を聞いていたのが僥倖でした』


P「そうか、それで、何か分かったのか?」


貴音『……その、わたくしは再三謝罪しなくてはならないことがあります』


P「ん、どういうことだ?」

57: 2013/01/07(月) 06:04:56.03 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音『わたくしはつい此間まで、怪異にされされていました』


P「ああ。でもそれはもう解決したじゃないか」


貴音『ですが、それでもわたくしは心配でした。本当に怪異は、おもし蟹は解決したのかと』


P「そうだったのか」


貴音『はい。そのため、いくつか可笑しな事柄があっても、わたくしの方が間違っていると考えてしまいました』


P「そんなはずないだろう」


貴音『その通りなのです』


貴音『お一つお聞きします。貴方は、いえ……貴方たちは何人で行動されていますか?』


P「ん? お前を抜いてたとしても、3人だ。最初から何も変わらないぞ?」

60: 2013/01/07(月) 06:09:01.50 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音『可笑しいですね。わたくしには最初から、プロデューサーと少女しか目には映っていませんでした』


P「まさか……。いや、だって可笑しいだろ!? もう一人、成人女性がいっしょに……」


貴音『時折、貴方たちは空虚に目をやり、声をかけ、笑いかけていた。それがわたくしには判らなかった』


貴音『判らないから怖かったのです。本当に怪異は去ったのか、実のところはまだ解決せず、わたくしの目が可笑しいのではないのかと』


P「そんな、まさか……」


貴音『いいですかプロデューサー。貴方たちが出会っている怪異は、迷い牛。人を迷わせる怪異です』


P「嘘だろ!? こんなにおっとりした女性が怪異なはずが……」

61: 2013/01/07(月) 06:11:59.54 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音『貴方たちは、わたくしの目に映らぬ三人目と会話をされていた。だから、会話に可笑しな点が多々あったのです』


貴音『思えば、最初にスカウトした人も、敬語を使っていた相手も、全て怪異だったのですか?』


P「ち、違う……。俺は、この人は人間だと思って……」


貴音『いいえ、怪異です』


P「……」


貴音『どうされますか、プロデューサー』


P「俺は、彼女を助けたい」


貴音『ですが、その方は既に死んでしまっております』

64: 2013/01/07(月) 06:16:48.37 ID:Z/CBOFaH0
 
貴音『怪異と離れる方法はただ一つです。怪異から離れてくださいまし』


P「そんなこと、できるはずない」


貴音『それでは永久にプロデューサーは迷い人のままです』


P「で、でもな!? 彼女は、こいつの助けを、本当に優しいこいつのすらずっと困り顔で受け入れて」


P「それに……こいつはずっと一人で……一人?」


貴音『どうされましたか?』


P「ああ、すまん。ちょっと待ってくれ」





P「なぁやよい。お前、実はこの人が人間じゃないって知ってたんじゃないのか?」

やよい「……はい、そうです」

65: 2013/01/07(月) 06:23:09.96 ID:Z/CBOFaH0
 
P「そうだよな。可笑しいはずだ。女の子が、しかも中学生がだ」

P「ずっとたどり着かない目的地に対して、何も疑問を感じるはずがない」

やよい「……」

P「それに、積極的に俺たちからも離れようとしてた」

やよい「それは……」

P「普通なら大人の手が差し伸べられたら、迷わずに受け取るのが子供だ」

P「やよい、君はもしかして知っていた上でずっといっしょに居たのか?」

やよい「……。だって、幽霊さんずっと一人ぼっちで可哀想かなーって」

P「……」

やよい「一人ぼっちの寂しさは、知ってます。でも、今、どんなに考えても家に帰られないんです!」

やよい「だからって、一人ぼっちの人を置いていけません!!」

P「……ああ。……実はな、この人は怪異なんだ。幽霊なんかじゃない。もっと恐ろしい、人に害を成すもの、化け物なんだ」

66: 2013/01/07(月) 06:28:25.84 ID:Z/CBOFaH0
 
P「でもまぁ、やっぱりそこはやよいが子供で助かった。一言でも助けを求めてくれたおかげで、俺たちはこうしていっしょに居られた」

やよい「……この人を助けてあげて下さい」





P「もしもし貴音」


貴音『はい、プロデューサー』


P「やっぱり俺、彼女を助けることにしたよ」


貴音『……ふふ。貴方様ならそう言うと思いました』


P「そうか」


貴音『……成功するかどうか、賭けになりますが』

68: 2013/01/07(月) 06:32:46.75 ID:Z/CBOFaH0
 
………



P「次はこっちで、そして……ここだ」

やよい「もしかしてここって……」

P「ああ、目的地はこの坂の上になる」

やよい「本当ですか!? うっうー!」

P「……迷い牛に出逢ったとき、迷い牛を惑わせればいい。道無き道を歩み、迷い牛自身に道を悟らせなければいい」

やよい「……?」

P「さぁ、逝ってください。この坂道を登れば、貴女の大切な人が……」

やよい「……」

P「……はい。保障はできませんが……いえ。お礼など」

やよい「……え? 私なんて何もしてないかなーって……そうですか? えへへ」

69: 2013/01/07(月) 06:35:47.79 ID:Z/CBOFaH0
 
迷い牛

それは人を迷わす怪異
帰ることができる場所に帰りたくないと思ったとき、その怪異と出逢う


俺は、事務所に帰りたくなかった
やよいは、家に帰りたくなかった

だから俺たちは出会った、迷い牛に



やよい「じゃあ、さようなら!」

P「さようなら」




そして、迷い牛の彼女は逝ってしまった
惑い、迷った末に、坂の上の桜の木のもとへと

70: 2013/01/07(月) 06:39:08.25 ID:Z/CBOFaH0
 
やよい「……プロデューサー。私、家に帰ります」

P「ああ、そうか」

やよい「ところで、アイドルってお金を稼げますか?」

P「いきなりだな。ああ、稼げるぞ? トップになれば、それこそ云十万とな」

やよい「じゃあ私、アイドルします!」

P「なんと」

やよい「これからプロデュース、お願いしますー!」

P「いや、ちょっと待って。流石に急には決められないっていうか、あのね!?」

やよい「プロデューサー、手を出してください!」

P「え、なに!? はい、これでいいかな?」

やよい「じゃあいきますねー! はいたーっち! えへへ!」

P「……よっしゃ、俺に任せろ、必ずトップアイドルにしてやるからな!」

71: 2013/01/07(月) 06:45:26.02 ID:Z/CBOFaH0
こうして今回の怪異は解決した

怪異とは、どこにでもいる存在だ
そして、それは認識次第で正しくも間違いにもなる


毎回、呆気ない最後になるが
怪異なんていうものは、そういう存在なのだ

できれば二度と会いたくないと思う

しかし、願っても出逢うのが怪異なのである


事務所に帰宅した俺は、喧嘩中の律子にかなり叱られた
もう少し迷子でも良かったんじゃないかなと後悔した

後日、やよいが765プロの戸を叩きに来たのは別の御話である

72: 2013/01/07(月) 06:45:55.89 ID:Z/CBOFaH0
………


貴音「お帰りなさい、プロデューサー」

P「ああ。なんとか事務所に帰ってこれたよ」

貴音「はい」

P「ああ」

貴音「……もうすっかり夜ですね」

P「そうだな」

貴音「貴方様、……今夜は月が綺麗ですね」

P「そうかー?」

貴音「……この鈍感!! 痴れ者!!」

P「ん、なんだ!?」

貴音「なんでもありません!!」



終わり

76: 2013/01/07(月) 06:58:31.69
ζ*'ヮ')ζ<うっうー!乙です!

引用元: やよい「話しかけないで欲しいかなーって」