1: 2012/03/25(日) 00:02:58.00 ID:2Wl29tQI0
ガガガ文庫 渡航 「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」のSS



2: 2012/03/25(日) 00:05:27.12
初秋。奉仕部の活動で、特別棟の端にある講堂を清掃中。

八幡「…美女と野獣って話があるよな?」フキフキ

雪乃「また唐突になにを語り始めたのかしらこの男は…どうせくだらないことしか言わないんだから、口は閉じて手のほうを動かしなさい」

八幡「ちゃんと手も動かしてるだろ…お前のほうこそさっきから息を切らしてるじゃねぇか」

雪乃「…きらしてないわよ。言いがかりはよしなさい」フラフラ

結衣「あ、ディズニーのアニメになったやつだっけ? 前に見たことある! 泣けるよねー。
   ヒッキー、ひょっとしてああいう話が好きなの? 意外ってゆーか…」パタパタ

八幡「いやキライ」

結衣「」

3: 2012/03/25(日) 00:08:19.63
八幡「中学の時、学園祭で演劇をやってな…そこで俺は いやそんなのはどうでもいい。ラストが気に入らねーんだよ」

雪乃「どうせまた、さぞかし痛々しい思い出なのでしょうね… 別にまったく興味はないけれど。
   それより、あのラストシーンにどんな文句があると?」ジロ

八幡「うるせぇよ。ないからな? 舞台装置が壊れてたのがなぜか俺のせいにされて、前日一人だけ居残りして直した思い出なんて」

結衣「うわぁ…」ドンビキ

八幡「しかも、発表当日はハブにされてクラスの打ち上げにも呼ばれなかったとか …いやそんなのはどうでもいいんだ。あのラストシーンさぁ、
   なんで、野獣からわざわざイケメンの王子の姿に戻しちゃうの? バカなの?」

4: 2012/03/25(日) 00:11:05.57
結衣「?」

雪乃「…何が言いたいのかしら?」

八幡「何で、野獣のままじゃいけねぇんだよ。ヒロインは、醜い野獣を、そのままの姿で愛したんだろ? じゃああのラストは、
   皆から疎まれる野獣の姿のままで幸福になってこそのハッピーエンドじゃねぇか」

結衣「えー…ヒッキー、ちょっと捻くれすぎだって! 感動的なシーンじゃん」

八幡「俺が作者なら逆にするね。美女がキスしたらイケメンが野獣に変わんの」

結衣「台無しじゃん!」

八幡「いろいろな意味でケダモノに…リアルだろ」

結衣「お子様にみせられないし!」

八幡「そして二人は末永く幸せに暮らしました…めでたしめでたし」

結衣「ちっともめでたくないよー!!」プンスカ

5: 2012/03/25(日) 00:12:42.58
雪乃「いかにも比企谷くんらしい、僻みに満ちた意見だけれど…容姿が不自由な点は同じでも、あの野獣とちがってあなたの場合は中身のほうが
   外見よりさらに不自由だから、どのみち、ハッピーエンドは未来永劫あり得ないと思うわよ?」ニッコリ

八幡「何で俺の人生の話になってんだよ! 物語のストーリーの話だろ! それに俺は顔のパーツは整ってるだろ!」ムカッ

結衣「でも目が腐ってるし。あと性根も」ジト

雪乃「あなたの場合、心根の醜さが目にあらわれてるのよ…鏡をみてごらんなさい」シレッ

八幡「ケッ、目が腐ってるのはお前らだっつーの。ちゃんと、曇りのない目で見れば、俺の真実の姿はわかるっつーの。なんなら、心の清らかな美女の
   くちづけで変身するまである」

雪乃「あなたに口づけするくらいなら、泥水で口を漱ぐほうを選ぶわね」サゲスミノメ

6: 2012/03/25(日) 00:14:10.42
八幡「普通の人間には言えないようなことを平然と言ってのける雪ノ下さん、そこにしびれてあこがれるわ。ウソだが。
   俺は『心の清らかな美女』って言ったんだぜ? お前容姿はともかく、内面的に美女ってより魔女だろ…」ペッ!

雪乃「…面白いことを言うわね比企谷くん。なんなら、二度と目が覚めないように呪ってあげましょうか?」ニッコリ

八幡「イ、イヤエンリョシマス」コエエヨ!

結衣「キ、キスなんて…そんな、あたしたちまだ…///」

八幡「あ、ビッチはおよびじゃねぇから」

7: 2012/03/25(日) 00:15:04.49
結衣「…ヒッキーの馬鹿! キモい! もう氏んじゃえ!!」ブン! コキン!

八幡「…いてぇ! ハタキを人に投げるなって小学校で習わなかったのかよ!」

雪乃「…やっぱり、人生をゼロからやり直しでもしない限り、あなたにハッピーエンドはむりね」フゥ

八幡「ほっとけよ。ゼロからやり直してもどうせまたぼっちになる自信があるぞ俺は…ま、掃除もそろそろこのくらいでいいだろ」

結衣「ふんっ!! …あたし、平塚先生を呼んでくるから」ヒッキーノバカ! アカンベーッ!! タタタ…

9: 2012/03/25(日) 00:18:14.62
雪乃「…今の会話でさらに疲れた気がするわ…」タメイキ

八幡「相変わらず体力ねぇな…おい、その手すり寄りかかるとあぶねぇぞ。相当古いし、さっき、材木座が上に乗って遊んでた時、変な音がしてた」

雪乃「…え?」パキッ グラッ…

10: 2012/03/25(日) 00:19:26.53
八幡「…雪ノ下っ!!!」ダッシュ!!


寄りかかった手すりが倒れ、仰向けに落ちかけた雪乃の手を、間一髪空中でつかんで強引にバルコニーに引きもどす。しかし、反動で自分が投げ出される八幡
自分の身を支えようとしたもう片方の手は無情にも空を切る。墜落…

八幡(うわ…やべぇ。打ちどころ悪けりゃ氏ぬんじゃねぇのこれ)

スローモーションで流れる時間

八幡(なんか、走馬灯が見え始めたし)


よみがえる小学生時代の黒歴史とトラウマ

よみがえる中学生時代の黒歴史とトラウマ

よみがえる高校生時代の黒歴史とトラウマ

八幡(…って、俺の人生、今際の際にみる走馬灯まで黒歴史とトラウマしかねぇのかよ?! かなしすぎるだろ!)

12: 2012/03/25(日) 00:23:33.70
雪乃「…比企谷くんっ!!」


見上げた目にうつるのは

八幡(はは、雪ノ下…柄でもない、なんて顔 してるんだよ)

いつも言い争いばかりしている彼女の


八幡(…お前に、その表情は似合わねーな。それもキレイなのは認めるが)フッ

まるで、いまにも泣きだしそうな


轟音。衝撃。暗転……… 

13: 2012/03/25(日) 00:25:24.62
おい、何の音だ!!!

手すりが崩れた!! 誰か落ちたぞ!! 

バタバタ

いやぁ、ヒッキー!! ヒッキー!!!

まて、頭を打ってる、うかつに動かすな!! 救急車をはやく!!  

雪乃「比企…谷くん…」ボウゼン

17: 2012/03/25(日) 00:38:39.85
2日後、とある救急病院の病室前

平塚「…比企谷は、まだ目覚めないのか」

雪乃「はい…MRIなどの検査では今のところ、生命に障るような外傷はないそうなのですが…」

平塚「…雪ノ下、あまり自分を責めるな。顔色が悪いが、あまり寝ていないんじゃないのか」

雪乃「いえ、大丈夫です…」

18: 2012/03/25(日) 00:39:23.06
小町「そうですよ、雪乃さん。病院の先生も、大丈夫だって言ってくれてますし、ちゃんと家で休んでください」

雪乃「…でも」

平塚「雪ノ下、今回の件では、君には何の落ち度もない。責任があるとすれば、設備の老朽化を放置していた学校側だ」

雪乃「先生…」

平塚「とりわけ、君たちに作業を命じた私の責任だ。…比企谷に万が一のことがあれば、私が責任を負う」

22: 2012/03/25(日) 00:47:25.92
小町「だ、大丈夫ですよ! お兄ちゃんのことだから、そろそろ何もなかったように目を覚ましますって!!」

雪乃「…小町さん」

小町「そ、それで、何ともないのに、精神的にダメージを負ったとか言って、めいいっぱい学校をサボろうとしたりして…」ウルウル

平塚「…小町くん」

小町「もう、本当にウチの兄は、面倒くさがりの引きこもりで、しょうがないんだから! やっぱり、お兄ちゃんには小町がついててあげなきゃ…」ヒック、グス…

24: 2012/03/25(日) 00:55:06.12
雪乃「小町さん…ごめんなさい、ごめんなさい…また、私のせいであなたの大切なお兄さんを傷つけてしまった…」ギュッ

小町「ううん、雪乃さんは悪くない、悪くないよ…でも…」グスングスン

雪乃「…それに、私、比企谷くんに、いろいろとひどいことを言ってしまった…こんなことになるってわかってたら…」

平塚「…病院内は禁煙だったな。私はしばらく外にでている。しばらく、たのむぞ」

目を赤くして顔をそむけ、少し急ぎ足で外へ出ていく静


26: 2012/03/25(日) 01:07:29.23
病室。ベッドでは頭に包帯を巻いた八幡が眠っており、その顔をじっと見つめながら付き添っている由比ヶ浜結衣の姿

結衣「ヒッキー…ねぇ、ヒッキー、聞こえる?」

八幡「……」

結衣「ゆきのんも小町ちゃんも、ヒッキーが目を覚ますのを待ってるよ…もちろん、あたしも」

八幡「……(静かな寝息)」



27: 2012/03/25(日) 01:14:46.79
結衣「…ヒッキーはさ、いつも、捻くれたことばかり言ってるけど、サブレのときも、今回だって、目の前で誰かが傷つきそうになってたら、自分を省みずに必氏で助けちゃうんだよね」

八幡「……」

結衣「…人からは誤解されてばっかりだけど、分かりにくいだけで、本当は、すごくやさしい…」

八幡「…(わずかな身じろぎ)」

結衣「…キモいなんて、言ってごめんね。氏んじゃえなんて、うそだからね」フルフル

28: 2012/03/25(日) 01:18:53.31
結衣「…はやく、目を覚まして。だいすきだよ、ヒッキー…」

(嗚咽しながら涙を拭く結衣。しばらくしてドアが開き、雪乃、小町、静がはいってくる)

30: 2012/03/25(日) 01:26:18.28
平塚「由比ヶ浜、比企谷の様子は?」

結衣「はい、変わりありません…」パチパチマバタキ

平塚「…そうか。あと少しで今日の面会時間も終わりだ。そろそろ、外に出ようか。私が車で家まで送っていこう」

結衣「…はい」

小町「…小町も、家に着替えなんかを取りに一度戻ります。雪乃さんはどうします?」

雪乃「…私は、もうしばらくここにいます。帰りは、ハイヤーを呼びますから」


31: 2012/03/25(日) 01:31:22.41
平塚「…そうか。さっきも言ったが、あまり気に病むんじゃないぞ」

雪乃「…はい、わかっています」ホホエミ

平塚「…そうだな、なんならキスでもしてみたら、すぐに目を覚ますんじゃないのか。もっとも、この場合キャスティングが逆だが」ニヤリ

雪乃・結衣「「先生!!」」

小町「あはは、それいいかも!! 雪乃さん、やっちゃってください!」キラリン

34: 2012/03/25(日) 01:44:10.87
雪乃「やりませんから! 教育者としてその発言はどうかと思います!」カァァ

結衣「…ゆきのん、ちょっと顔、あかいよ? まさか…」フアンゲ

雪乃「…に、西日のせいでそうみえるだけよ。私が、比企谷くんにそんなことするわけないでしょう?」ハヤクチ

結衣「…う、うん。信じてるからね?」ジー

小町「(wktk)」

35: 2012/03/25(日) 01:49:03.87
平塚「はは、冗談だよ。だが、ようやく少し元気になったようだな」ニコ

雪乃「もう…冗談が過ぎます!」

結衣「じゃ、じゃあ、あたしたち、行くから! ゆきのん、信じてるからね!」

平塚「せっかくだ、小町くんも行きはいっしょに送っていこう」

小町「あ、ありがとうございます! じゃあ、雪乃さん、小町はまたあとで来ますから!!」

雪乃「ええ、それではまた…」

キィ、パタン!

38: 2012/03/25(日) 02:02:49.82
雪乃「……」ジー

八幡「……」

雪乃「…思ったより睫毛が長いわ」

雪乃「…寝顔では、目が腐ってることなんてわからないものね」

八幡「……(スゥ…フゥ)」

雪乃「……………」

部屋時計の秒針の音と、八幡の寝息がやたらと耳に響く

雪乃「…か、花瓶の水でも替えようかしら//」

41: 2012/03/25(日) 02:17:15.62
雪乃「…病室に薔薇の花ってどうなのかしら」クビカシゲ

雪乃「…でも、由比ヶ浜さんらしいけれど。それに、キレイだわ」クス

雪乃「…そういえば、美女と野獣の話でも薔薇の花が出てきたわね」

雪乃「……………『この花びらが、散る前に』…」

雪乃「……」花瓶をもとの位置に戻す

42: 2012/03/25(日) 02:25:10.34
雪乃「…………あ…」

八幡「…………」スゥ…スゥ…

雪乃「額に傷が、できてる…」

雪乃「………痕になったりしないかしら」

ベッドサイドに腰掛けながら顔をそっと近づけ、八幡の前髪を上げるゆきのん

43: 2012/03/25(日) 02:35:49.31
雪乃「…………心根が外見にあらわれるって言ったけど」

八幡「…………」

雪乃「……今のこの無垢な寝顔が、本当のあなたなのかもしれないわね…」


回想:なんならキスでもしてみたら、すぐに目を覚ますんじゃ~

 雪乃さん、やっちゃってください!」キラリン


雪乃「…ま、まさか、そんなことできるわけないでしょう//」

44: 2012/03/25(日) 02:41:24.59
回想:ゆきのん、信じてるからね!! ね!!

雪乃「そうよ、だいたい、こんなのフェアじゃないし…」


カチ、コチ、カチ、コチ…

スゥ…スゥ………

ドクン…ドクン…ドクン、ドクン…


雪乃「……………………」

雪乃「…(あ、自分の心臓の音が……」

思わず目を閉じ、自分の鼓動に耳をすませる
無意識に下がっていく頭部…

45: 2012/03/25(日) 02:44:31.88
ガチャ

材木座「おお八幡よ、しんでしまうとはなさけない!! 魂の絆で結ばれた同朋たる我が、見舞いに来てやったぞ!!」

雪乃「」

47: 2012/03/25(日) 02:56:01.18
10分後

小町「雪乃さん、ただいまー!…中二さん、どうしたんですか? 外のソファで倒れて唸ってますけど」

雪乃「さっきお見舞いに来たんだけれど、勝手に廊下で足を滑らせて転んで気絶したのよ。気を付けてほしいわね」ニッコリ


八幡「…ん…あ…」

雪乃「え、比企谷くん?」

小町「お兄ちゃん?!」

49: 2012/03/25(日) 03:05:49.34
かけよる雪乃と小町

八幡「(咳と苦しげな瞬きののち、眩しそうに目を開ける)…こ、こは…」

雪乃「ここは、病院よ。あなたは丸2日以上、意識がなかったの。小町さん、すぐに看護師さんを!
   …比企谷くん、事故のときのことをおぼえてる?」

50: 2012/03/25(日) 03:11:55.12
小町「わかりました!!」パタパタ、バタン


八幡「比企…谷?」マジマジ

雪乃「ええ…比企谷くん? まだ気分がわるいの? 目がいつものように濁っていないわ…」

八幡「キミは…だれ?」

雪乃「」

八幡「ぼくは、一体…誰だ?」

雪乃「比企谷…くん?」ヨロ

雪乃「」

51: 2012/03/25(日) 03:25:06.62
雪乃「……」

小町「知らせてきました! …雪乃さん?」

八幡「……」ジ-

小町「お兄ちゃん、大丈夫なの? 小町、心配したんだからね?!」タタ、ギュ!!

八幡「…あ、ああ。心配かけてすまない。キミは、もしかしてぼくの妹なのか…」戸惑いつつ抱擁を返す

小町「…えっ、お兄…ちゃん? どうしたの…目が…腐ってない…」マジマジ


52: 2012/03/25(日) 03:30:20.09
看護婦の声「555号室の患者さんが目を覚ましました! すぐに先生を…はい、そうです。転落事故の」


八幡「…どうやら」

息を吐き、周りを見回す

雪乃・小町「「…………」」(緊張しながら見つめている)

八幡「ぼくには、記憶が欠けているらしい」

雪乃「」(息をのむ)

小町「」(息をのむ)


材木座「」(息してない)

62: 2012/03/25(日) 15:11:46.87
1週間後、病院前

八幡「…お世話になりました」

病院スタッフの はい、どうかおだいじにー という声をバックに車が一台停まる

ドアが開く音

平塚「…ふむ。退院おめでとう比企谷」スタッ

八幡「ありがとうございます、先生」ペコリ

63: 2012/03/25(日) 15:21:39.04
平塚「…その眼をみると、記憶はまだ戻っていないようだな」マジマジ

八幡「(…眼?)はい…解離性健忘、というそうです。身体的には、もうどこも問題はないんですが…」

平塚「何も、思い出せないのか? …まぁ、乗りたまえ。話は道々聞こう」

八幡「はい、失礼します。 …何も、というわけではなくて、どうやら、自分が直接経験した過去や、人間関係の記憶だけが欠落しているみたいで…」クノウノヒョウジョウ

64: 2012/03/25(日) 15:30:34.62
平塚「…そうか。治療は続けるんだな?」

八幡「はい。雪ノ下さんのお父さんの伝手で、精神科の専門の先生に御紹介していただきました。今後は1週間に1度ずつ通院して、カウンセリングを受けていきます。日常生活は、普通に送っていいそうです」

平塚「…学校にも、きみの事情は伝えてある。今回の件は、こちらの責任でもあるからな、リハビリには協力は惜しまないつもりだ」

八幡「…すみません」(頭を下げる)

65: 2012/03/25(日) 15:35:50.08
平塚「………」

八幡「………」

ブロロロロ…

八幡「…あの」チラ

平塚「何だね?」ホホエミ

八幡「すみません…記憶をなくす前のぼくは、一体どんな人間だったんですか?」

平塚「…ふむ。どう答えたものかな」シアン

八幡「…もしかして、何か目の病気でもあったんですか? 両親から同級生に至るまで、みんな目を気にしてる様なんですが」

66: 2012/03/25(日) 15:39:28.10
平塚「…ああ、まぁ、目のことはあまり気にしないほうがいい。今は、まったく問題ないから」クショウ

八幡「…そ、そうですか?」アセ

平塚「どんな人間、か。一言でいえばそうだな…面白いやつだったよ」

八幡「…面白い?」

67: 2012/03/25(日) 15:55:46.65
平塚「…人間関係にひどく不器用で捻くれてはいたが、とても繊細でやさしい心をもった人間だった」

八幡「……そうですか」

平塚「…まぁ、それを知っている者は、少なかったかもしれないがね」

八幡「…友達、少なかったんですね。つまり」

平塚「…おお、今日はいい天気だな(棒」

八幡「…おい、否定しないのかよ」

68: 2012/03/25(日) 16:08:49.02
総武高前

平塚「さて、久しぶりの学校だが、勝手はわかるかね?」

八幡「…何とかなると思います。まだ時間の余裕もあるしいざとなれば人に聞きますから」

平塚「…ふむ」

八幡「せっかくなので、ちょっと校舎内も見て回ろうかと」

平塚「…かつての比企谷とは思えない積極性だな。感心したぞ」

八幡「いや、どれだけ消極的だったんですか、以前のぼくは」アセ

71: 2012/03/25(日) 16:21:58.59
戸塚「八幡!」トテテテ

八幡「…あ、戸塚くん」ニコ

戸塚「もう、体は大丈夫なの?」ハァハァ

八幡「うん。入院中は、何度もお見舞いありがとう。ノートを持ってきてくれたり、ずいぶん助かった」キラキラ

戸塚「…記憶は、まだ戻っていないんだね」シュン

八幡「うん…」

73: 2012/03/25(日) 16:34:19.92
戸塚「…でも、学校に来られるようになったんだもん。きっと、すぐによくなるよね!」

八幡「…そうだね。ありがとう」ニコ

戸塚「ぼくにできることがあったら、なんでもするから」ニコニコ


はうっ! ズキュウウン! <周囲が萌え氏ぬ音



74: 2012/03/25(日) 16:43:23.11
教室

ざわ…ざわ…

誰? あれ…
あんなイケメンいたっけ?
ほら、こないだ事故で…
ああ、ええと、あの…
ヒキタニくん?
そうそう!
あんな恰好よかったっけ…?
いや…よく覚えてない…

八幡「……」
担任「…あー、静粛に」

75: 2012/03/25(日) 16:55:33.36
担任「昨日のHRで話したと思うが、先日の事故で入院していた比企谷が今日から戻ってくることになった」

担任「事故の後遺症で若干、記憶に混乱が見られるとのことだが、みんな、温かく迎えてやってくれ」

八幡「…比企谷です。お騒がせして申し訳ありません」

一歩前に出る

八幡「これからまた、何かとご迷惑をかけることもあるかもしれませんが…」

教室内を見回しながら

八幡「少しでも早く、またクラスに馴染めるように努力していきます。よろしくお願いします」

頭を下げる

76: 2012/03/25(日) 17:09:48.26
葉山「…結衣から事情は聞いたよ。大変だったね、比企谷くん」

結衣「ヒッキー…もう、体は何ともないの?」フアンゲ

八幡「ありがとう、大丈夫だよ、由比ヶ浜さん…と、葉山くん?」

葉山「うん、葉山隼人。…正直半信半疑だったけど、本当に記憶喪失ってあるんだな」(八幡の目を見て)

八幡「…ごめん、思い出せなくて」

葉山「いや、いいんだ。きみには、何度か助けてもらった借りがある…俺たちも、全面的に協力するから、なんでも言ってくれ」ニコ

八幡「…本当にありがとう、葉山くん」ペコリ

78: 2012/03/25(日) 17:19:28.89
海老名「デュフフフ…眼福眼福☆」

三浦「ヒナ、涎ふけし …まー、あーしはヒキオのことなんてどうでもいいけど、隼人もこういってるし? ユイからも頼まれたから、できる範囲で助けてやるし」

戸部「おー、そうだな。みんな、助けてやろうぜ!」

大岡「ああ、いいんじゃないか」

大和「…(無言で頷く)」

79: 2012/03/25(日) 17:28:34.84
ざわざわ

そうだね…隼人くんたちが言うなら…
前どんなだったかよく覚えてないけど…転校生だと思えば
ちょっと、恰好いいよね…

担任「よーし、授業始めるぞ、みんな席に就け-」

結衣「ヒッキー、よかったね(ひそひそ)」ニコ

八幡「由比ヶ浜さんが根回ししてくれたんでしょ? …感謝してる」微笑んでポンと背中をたたく

結衣「べ、べべつに、大したことしてないし!//」

八幡「…本当に、ありがとう」ニッコリ

結衣「//////」

86: 2012/03/25(日) 22:17:14.11
数日後、奉仕部部室

雪ノ下「…そう、じゃあ、クラスではうまくやれてるのね?」

比企谷「うん。由比ヶ浜さんが、葉山くんや三浦さんたちにうまく根回ししてくれてね…」

雪ノ下「……そう」

比企谷「それに、勉強も入院中、今みたいに雪ノ下さんが教えてくれてたから」ニコ

雪ノ下「……そ、そこの計算式、間違ってるわよ。cosじゃなくて、tan」

比企谷「あ、そうか…数学はやっぱり、かなり苦手だったみたいだな」ゴシゴシ

雪ノ下「…せめて教科書の例題と練習問題だけでも完璧に解けるようにしておきなさい。そうすれば、定期試験であまりみっともない点数はとらなくてすむわ」

88: 2012/03/25(日) 22:26:38.10

八幡「わかった…頑張るよ。次の問題は、と…」シンケン

雪ノ下「…」横顔をジーッとみている

八幡「…雪ノ下さん?」目が合う

雪ノ下「…! な、何かしら」カァ

八幡「あ、いや、解けたからさ。見てもらおうと思って」ハニカミ

90: 2012/03/25(日) 22:33:52.43
雪ノ下→雪乃

雪乃「…今度は正解ね。比企谷くんは、もともと地頭は悪くないのだから数学もサボらずに勉強すれば克服できると思うわよ」ホホエミ

八幡「あ、うん、ありがとう」赤面して目をそらす

雪乃「……」

八幡「……」

雪乃・八幡「「あの…」」

91: 2012/03/25(日) 22:41:05.18
八幡「…あ、先にどうぞ」ハニカミ

雪乃「…え、ええ。その…記憶は、まだ?」

八幡「…うん。ごめん」

雪乃「…いえ、私のほうこそごめんなさい」

八幡・雪乃「…………」

92: 2012/03/25(日) 22:45:09.83
雪乃「…比企谷くんは、さっき何を言いかけたの?」

八幡「あ、ええとさ、その…記憶を失う前のぼくは、どんな奴だったの? 雪ノ下さんからみて」

雪乃「…えっ」

93: 2012/03/25(日) 22:50:57.29
雪乃「…………」

八幡「あ、いいよ答えにくいなら。その…ほかの人からも、いろいろ聞いてるし」クショウ

雪乃「いえ、そうではないの。私にとって、以前のあなたは…」

95: 2012/03/25(日) 23:02:31.52
八幡「……」

雪乃「…私は、あなたに甘えていたのかもしれない」

八幡「…甘える?」

雪乃「…自分のことを棚に上げて、いろいろひどい言葉を投げつけたわ」

八幡「……」

雪乃「…でも、心のどこかで、自分の同類っていう親近感と…甘えがあったのかもしれない」

96: 2012/03/25(日) 23:10:24.77
雪乃「…ごめんなさい」俯く

八幡「…雪ノ下さん」

雪乃「…言葉で謝ってすむものではないけれど、私のせいであなたは…」震える声

八幡「…雪ノ下さん、ちがう」

雪乃「ごめんなさい、本当にごめんなさい…」


97: 2012/03/25(日) 23:15:27.29
部室のドアをあけ、出ていく雪乃

結衣「あ、ゆきのん…」

八幡「………由比ヶ浜さん」

結衣「………ごめん。入りづらくて」シュン

98: 2012/03/25(日) 23:24:00.92
八幡「ぼくは…バカだ。気にしてるに決まってるじゃないか…」ギリ

結衣「ヒッキー……」

八幡「早く、記憶を取り戻さないと…」

結衣「ヒッキー…うん、そうだね。あたしも協力するからね!」

八幡「…由比ヶ浜さん、ありがとう…」





99: 2012/03/25(日) 23:34:03.85
ぎくしゃくしたまま、時間が過ぎる

戸塚「今日は球技大会だね…八幡は、出ないの?」クビカシゲ

八幡「うん、出たかったんだけどね…病み上がりだからってことで大事をとったほうがいいってことになって。戸塚くんはバスケだっけ?」

戸塚「うん、葉山くんたちと一緒なんだよ。できたら、八幡とも一緒にプレイしたかったな」シュン

八幡「はは。ぼくも、残念」

小町「お、お兄ちゃんがこんなことを言うなんて?! 記憶を失う前なら、あらゆる手段を使って学校行事への参加を回避しようとしてたのに!!」ガクブル

100: 2012/03/25(日) 23:44:33.98
八幡「……」アセ

戸塚「あはは、でも、八幡はスポーツは得意だったし、出ればきっと活躍したと思うよ」ニコ

小町「うーん、そうですねー、実は、バスケは結構、上手かったんですよ」

八幡「…そうなのか?」

小町「一時期、とある漫画に影響されてずいぶん練習してました。…まぁ、部活には入れなくて、シュート練習ばっかりでしたけどね」クシヨウ


103: 2012/03/25(日) 23:53:49.55
戸塚「へー、そうだったんだ」キラキラ

小町「…でも、気合を入れて臨んだ中学の球技大会で…」

八幡「…もうオチがわかった。どうせ、パスもらえなかったんだろ」

小町「…いえ、最初から試合にさえ出してもらえなくて、永遠に幻のままの6人目(シックスマン)に」

八幡「」

106: 2012/03/26(月) 00:03:32.91
回想
中学八幡「イグナイト(加速する)じゃなくてイグノアード(無視される)パス、存在ごとバニシングドライブ、ミスディレクションじゃなくてミッシング(行方不明)の俺、最強すぐる…」

小町「それ以後、お兄ちゃんはバスケをすっぱりやめました…」

結衣「…う、うわー」ドンビキ


108: 2012/03/26(月) 00:11:31.68
小町「あ、結衣さん、おはようございます!」パァ

結衣「小町ちゃん、さいちゃん、ヒッキー やっはろー」

戸塚「やっはろー」ニコ

八幡「やっはろー」ピッ

109: 2012/03/26(月) 00:22:44.70
戸塚「由比ヶ浜さんは、バレーだっけ」

結衣「うん、そうなの! もし時間があったら見に来てね」

戸塚「うん、こっちの試合が終わったら絶対いくよ」ニコ

結衣「そ、その…ヒッキーも」モゴモゴ

八幡「あ、うん。どうせ予定もないしね」サラリ

小町「記憶がなくなってもお兄ちゃんはお兄ちゃんだなぁ。もっと気の利いたこと言わなきゃ」モー

結衣「あはは、いいよ小町ちゃん、どうせヒッキーだし」ニガワライ

110: 2012/03/26(月) 00:31:27.98
八幡「そんなこと言われてもな…」アセ

小町「たとえば…『ジャンプでゆれるオッパイ、サイコー!』とか」

八幡「言えるか!!」

結衣「それじゃただのセクハラだっ?!」

小町「お兄ちゃん、実は言ってなかったけど、お兄ちゃんは女子高生の汗の臭いで興奮する性癖が…」シクシク

八幡「いや、ウソ泣きしながらねつ造するな。 ないから! …ないよね?
   由比ヶ浜さん、なんでそんなに距離をとるの?」

結衣「…あはは、いやー、別に他意はないよ?」

111: 2012/03/26(月) 00:38:51.67
小町「あはは、じゃあ、小町は中学こちらなので! みなさん、また」ピッ

戸塚「またね、小町ちゃん!」

八幡「おう、行け行け」シッシッ

結衣「またねー! …小町ちゃんも、ずいぶん元気になったみたい。よかった」

八幡「うん…でも、小町もやっぱり気にしてると思う。今のも、かなり気を使ってくれてた」

112: 2012/03/26(月) 00:45:17.95
結衣「…そっか」

八幡「やっぱり、早く記憶を取り戻さないとね…もう学校前か。参加選手は着替えて体育館だっけ?
   また後でね」

戸塚「うん、また後で」ニコ

結衣「ヒッキー、ほんとに応援にきてね!」

115: 2012/03/26(月) 01:51:20.82
結衣「…あーあ、せっかくヒッキーが応援にきてくれたのに結局2回戦負けかぁ」フゥ

八幡「うん、頑張ってるとこちゃんとみてた。惜しかったね、お疲れ様」コレサシイレノジュース

結衣「あ、あーあ、あのスパイクが決まってたらなぁ///」アリガト

八幡「男子は、バスケが決勝まで進んだみたいだ。せっかくだから、応援に行く?」

結衣「へー、隼人くんたちさすが! さいちゃんとの約束、逆になっちゃったな」ゴクゴク

116: 2012/03/26(月) 01:59:08.85
海老名「あ、いたいた! 比企谷くん、ちょっといい?」

結衣「…姫菜?」

八幡「海老名さん、どうしたの?」

海老名「男子バスケの決勝が大変なことになってるの…隼人くんが序盤に相手のラフプレーで負傷して」

結衣「ええっ?!」

八幡「…それで?」

海老名「隼人くんが、比企谷くんを呼んでくれって…急いできてくれない?」

八幡「…わかった、すぐいく」ダッシュ


海老名「うふふ…これはチャンスかも。追いかけなければ」コソ

結衣「…姫菜…なんにつかうの?そのカメラ」アセ

117: 2012/03/26(月) 02:05:58.09
八幡「葉山くん、大丈夫か?」

葉山「比企谷くんか…すまない。大したことはないんだけど、ちょっと額を切った」

八幡「……まだ血が止まらないんだね」

葉山「…ああ。しばらく、治療のために抜ける。代わりに入ってくれないか」

八幡「…ぼくでいいのか?」


118: 2012/03/26(月) 02:08:35.04
葉山「戸塚から聞いた。得意なんだろ? それに…」

八幡「…それに?」

葉山「キミなら、やってくれそうな気がする。任せていいか?」

ゼッケンを脱いで差し出す

八幡「葉山くん…」


シャッターチャンス、シャッターチャンス!! ヒナ、オチツケシ!

119: 2012/03/26(月) 02:14:01.44
八幡「…わかった。任せてくれ」

しっかりと受け取る。


キター!! ヒナ、ハナヂフケシ!!


戸部「おし、俺たちも気合いれんぞ!」

大岡「ああ、そうだな」

戸塚「うん!」

大和「…(無言で頷く)」

120: 2012/03/26(月) 02:28:05.76
アナウンス 「選手交代、F組 葉山選手にかわって比企谷選手がはいります」


材木座「フフフ…八幡よ、ついに決着をつけるときがきたようだな…」

結衣「どっから湧いたの中二…意味ありげに呟いてるけど、あんたただの観客だからね?」



八幡「…15点差か」ストレッチ

戸部「J組のやつら、帰国子女の経験者とか、ガタイのいい連中ばかり出ててさ…くそ、隼人くんが怪我しなけりゃ」

八幡「(J組…雪ノ下さんのクラスか。彼女もどこかで見てるのかな?)」

戸塚「八幡…大丈夫?」

八幡「…ああ。とにかく、一本ずつかえしていこう」

134: 2012/03/26(月) 19:28:52.94
試合再開の笛が鳴る。第二ピリオド4分、まずボールを取ったのはF組。

戸部から大岡、大和へと慎重にチェストパスを回し、チャンスをうかがうがJ組は自陣をしっかりとカバーし、隙がない。
大和から戸塚へのバウンズパスが通ると同時に比企谷が動きだし手を挙げた

八幡「戸塚くん!」

J組はつられることなく、2-3のゾーンディフェンスでインサイドを固めている。

戸塚からのショルダーパスを3ポイントラインの外側50㎝の位置で受けると同時、ボールを頭上にかかげ、真っ直ぐ体を沈み込ませる比企谷。膝のバネにより再び真っ直ぐ浮き上がったボールは、柔らかく、静かに放たれ、コート上に優美な曲線を描いた。

135: 2012/03/26(月) 19:35:05.64
J組の選手は慌てることなく、リバウンド、そしてカウンターに備える。

素人の3ポイントシュートなど、入るわけがない。窮してのヤケクソに相違ないと心中で嘲笑う彼らの頭上で


パスン


と呆気ない音を立ててボールがリングを通過した。


J組「」

戸部「」

大岡「」

大和「」

観客「」

136: 2012/03/26(月) 19:51:57.54
ざわ…ざわ

いや、さすがにまぐれだろ
でも、まぐれで3ポイントラインから届くか?
あのフォーム、なんか経験者っぽかったぞ。何者だあいつ

どよめきが残る体育館内。
比企谷は動揺しつつも逆襲を狙うJ組のボールを氏角からスティールし、戸部へ。再び3ポイントライン
右45度の位置で受けると、先ほどと全く同じフォームで同じ軌道を再現して見せた。

ピィィ!という得点を告げるホイッスルと同時に、両軍の点差は1ケタ、9点差にまで縮まった。


ドォォォォォ!!


1本目は戸惑っていた館内の観客も、ここにきて興奮に沸く

137: 2012/03/26(月) 20:01:50.59
結衣「ヒッキー、すごい! すごーーーい!!////」

材木座「…ぬぅ、あれこそはまさにぶべら?!」

何ごとか設定を解説しようとした材木座が、興奮で無意識に振り回される由比ヶ浜の右手で張り飛ばされた。

ここでJ組、タイムアウト。

138: 2012/03/26(月) 20:13:09.71
戸部「ぱねぇ、ヒキタニくんまじぱねぇわ! 今まで、なんで隠してたんだよ!」バンバン

八幡「いや。別に隠してないって…体が、自然に動いたんだ」イテテ

戸塚「ぼくは、八幡がすごいってわかってたよ! 中学時代の努力は無駄じゃなかったんだね」エヘヘ

大岡「でも、この勢いでこのまま逆転、いけるかもな」

大和「…だな」

八幡「…いや、正直2本連続ではいったのはさすがにまぐれだと思う」

戸部「マジ? じゃああと3連続はやっぱムリ?」

八幡「さすがに…でも、相手に3ポイントを刷り込むことはできたと思う。ここから相手を攪乱していこう」

139: 2012/03/26(月) 20:27:19.06
試合再開。J組は比企谷にマーカーを一人つけ、残り4人はそのままゾーンで守るボックスワンに戦術を変える。


J組A「くそ、こいつ…ちょろちょろと!」

J組B「視界から消える動きが異常にうまい?! なんなんだこいつ」


材木座「フ…素人が。あれこそは、選ばれしぼっちのみが持つ固有スキル、ステルス・フェイダウェイ!」

結衣「すてるすふぇー…? …なにそれ」

材木座「うむ、他者の視線に異常な敏感なぼっちが、居場所のない集まりから誰からも気づかれず消えるために身につけし技よ…」

結衣「…どこみてしゃべってるのよ」

140: 2012/03/26(月) 20:46:04.10
そんな悲しいぼっちのスキルか、それとも才能か。比企谷がかき乱すことでJ組の連携にも綻びが生じ、F組の攻撃が機能し始める。

2点返されるも戸部、次いで大岡がシュートを決め、7点差で第二ピリオドが終了した。


ざわ…ざわ

比企谷くんって、誰? あんなひとF組にいた?
秘密兵器ってやつかな…
なんか、クールで恰好いい///


口コミで情報が駆け巡り、体育館にさらに生徒が集まり始める。


三浦「おらー、オメーら、隼人が戻ってくる前に負けたらあーしがぶっころすかんな!」
結衣「ヒッキー、がんばれーーー!!」
海老名「フフフ…疼く、創作意欲が疼くわ…!」

女子の応援も飛び交い、ボルテージは最高潮に高まっていく。


群衆の人陰

雪乃「…」コソッ

141: 2012/03/26(月) 21:02:14.56
続く第三ピリオドは荒れる。J組は体力的に劣る戸塚をある程度放置し、比企谷に対するマークを基本2人つけた。
また、葉山を退場に追い込んだときのように、審判に見えにくい位置でラフプレーを織り交ぜ始めた。

J組A「オラ」ドン!
八幡「…!」

戸塚「八幡! くっ…審判さん!」

それでも更に3ポイントを1本、敵2人をかわしてのレイアップを1本決め、場内を沸かせる比企谷。
しかし主導権はJ組に再び取り返されつつあり、点差も再び10点まで開く。

145: 2012/03/26(月) 21:16:47.05
だがJ組のミス、ここにきて観客を敵にまわす

ざわざわ…

なんか、J組ちょっと狡いよな…さっきから、ファウルばっかじゃん
俺、F組応援するわ
あー俺もー
葉山くん、戸塚くん、比企谷くん…顔でいうと、F組の勝ちよね!


ここにいたり、空気が変わり始めた。


えーふくみ…えーふくみ、えーふくみ!

ひーきがや…ひーきがや、ひーきがや!


えーふくみ! ひーきがや! えーふくみ! ひーきがや!

147: 2012/03/26(月) 21:27:34.51
八幡「…記憶はないけど、たぶん、生まれて初めてだよなこんなの」ハハ…

戸塚「八幡、大丈夫? …ごめんね、僕が弱いせいで、負担をかけて…」ウル

頭をぽんと叩き、微笑む

八幡「何言ってるんだよ、何本もいいパスくれただろ(ニコ
   この先もこの調子で頼む…絶対に勝とうぜ」

戸部「おお!! テンションあがってきたわ~ …そうだ、あれやんべ、あれw」

八幡「…アレ?」

大岡「…あれか」

大和「…そうだな」

八幡「…なに?」

148: 2012/03/26(月) 21:33:58.88
コショコショ

八幡「…マジか。なんか恥ずかしいな」アセ

戸部「いーじゃん、やろーぜ!」

??「…俺もいれてくれないか」

全員振り向く。額に包帯を巻いた葉山隼人が手を挙げてウインクしている。

大岡「隼人くん!」

戸部「おおマジ?! マジ?!」

八幡「…葉山くん、傷はもういいのか?」

葉山「…ああ、とりあえず応急処置はしてきた。また直接、傷口を攻撃でもされなきゃ大丈夫のはずだ」

149: 2012/03/26(月) 21:40:13.22
葉山「比企谷くん…ありがとうな。想像以上に頑張ってくれたみたいだな」ニコ

八幡「…いや。ありがとう、いろいろ」

葉山「…うん。じゃあ、やるか」ニッ


全員で肩を抱き合い、円陣をくむF組


葉山「…比企谷くんが音頭をとれよ」

比企谷「えぇぇ?! それはさすがにちょっと…」アセ

戸部「いいじゃん、やれよ、やっちゃえよwww」

戸塚「八幡、やろうよ」ニコ

大岡、大和うんうんと頷く

150: 2012/03/26(月) 21:44:32.76
八幡「…マジか。じゃあ…」咳払い

八幡「F組ー、 ファイッ!!」

葉山・戸部・大岡・大和・戸塚「「「「ファイッ!!!」」」」


観衆:ウオオオオオオオオオオオオ!!!


結衣「姫菜~?! 鼻血が、鼻血がえらいことに?!」
海老名「う~ふ~ふ~ふ~☆」ダラダラ

151: 2012/03/26(月) 21:58:26.12
戸塚OUT、葉山IN

会場を完全に味方にしたF組はJ組の動揺に乗じ、ジリジリと点差を詰め始める。
総合的な地力ではJ組が上回るも、葉山が内から、八幡が外から翻弄。第3ピリオド終了間際には4点差まで迫っていた。

観衆:はーちまん! はーちまん! はーやーと! はーやーと!


材木座「ぬぅぅ、なんだ、なんなのだこの流れは! まるで彼奴がイケメンの人気者であるかのようではないか!!
    みとめぬ、みとめぇぬぅぞぉ!! 彼奴は我と同じぼっち族のエリートのはず! あれは偽物だ!! パチ幡だ!!」

結衣「中二、うるさい!! 応援の邪魔!!」イラ

材木座「違いはどこだ、耳か、つま先か! それともマフラーか?! …は、そういえば、一目瞭然であった! 目が、目がちがう!」

結衣「いい加減にしろ!!」メツブシ!

材木座「ばるす!! 目がぁー?! 目がぁー!!!」

会場の陰
雪乃「………」コソコソ
??「…雪ノ下、何やってんのこんなとこで」

152: 2012/03/26(月) 22:05:56.73
雪乃「?!」ビクゥ

川崎「…応援したいなら、もっと前に行ったらどう?」

雪乃「川崎…さん」

160: 2012/03/27(火) 00:08:28.52
川崎「…クラスメートの応援、てキャラじゃなかった気がするけど」

雪乃「…あなたには、関係ないでしょう」顔を背ける

川崎「…まぁ、確かに関係はないけどね。…あんたでもあんな顔、するんだ」

雪乃「…あんな顔?」

川崎「…親に置いてかれた迷子みたいな顔してた」


一瞬、蒼白になり、ついで紅潮した顔で川崎をにらむ雪乃


川崎「…そんな睨まないでよ。あたしは、見たままの印象を言っただけ。
   …あんたにとって比企谷が何なのかは知らないけど」(肩を竦める

163: 2012/03/27(火) 00:28:19.42
雪乃「…うるさい」ギリ(顔を伏せて震えながら)

川崎「…昔、大志がよくそんな顔してた。比企谷に何かあるんだったら、そのまま素直に伝えてみたら? 
   あいつも家じゃいいお兄ちゃんらしいし、その顔でお願いしたらきっとなんだって聞いてくれるわよ」

雪乃「…うるさいって言ってるでしょう! 私にはそんな資格…」キッ!

川崎「…そうね。確かに余計なお節介だったわ。ごめ…」(肩を竦め


会場:ワァァァァァァァ!!!


雪乃「」



167: 2012/03/27(火) 00:43:01.19
…それは、第3ピリオドの終了とほぼ同時に起こった事故だった。

ピリオド終了間際の一瞬の意識の空白。ずっと心に引っかかっていた少女の声を捉えた気がして、
八幡の視線は無意識にそちらへ向かう。…幻聴ではない。確かに雪ノ下雪乃と視線が合ったその瞬間、八幡は棒立ちになっていた。

八幡「…雪ノ下さん?」

戸塚「八幡、危ない!!」


試合の流れに焦り、動きが雑になったJ組選手Aの振り回した肘が、八幡の側頭部を捉える。八幡は無言で倒れた。

183: 2012/03/27(火) 20:20:39.74
                            自分は夢を見ている、と自覚していた。


八幡「…雪ノ下っ!!!」ダッシュ!!


                            ああこれは…


雪乃「…比企谷くんっ!!」


見上げた目にうつる


                            自分が記憶を失った事故の


八幡(はは、雪ノ下…柄でもない、なんて顔 してるんだよ)


いつも言い争いばかりしている彼女の

                            覚えてはいない

八幡(…お前に、その表情は似合わねーな)


まるで、いまにも泣きだしそうな

                            でも、たしかに憶えている



八幡「雪ノ下っ!!」

??「…目が覚めたみたいね」

184: 2012/03/27(火) 20:24:18.76
目を開けて、最初に目に映った景色は


八幡「……黒のレース、か」

川崎「……バカじゃないの?」


床に横たえられている自分を見下ろしているクラスメートのスカートの中だった。

185: 2012/03/27(火) 20:44:01.73
八幡「…試合は?!」慌てて起き上がろうとしたところを、押し戻される。

平塚「まて、慌てて動くな比企谷。…吐き気や手足の痺れはないか? 視覚に問題は?」

ペンライトで目を覗き込み、反応を確かめている恩師。この態勢は…膝枕か。なんか頭が柔気持ちいいとおもった。

とりあえず、緊急的な問題はなさそうだと頭上で息を吐く静に対し、八幡は状況を問う。

八幡「今、何分です?!」

平塚「…第4ピリオド開始5分が経とうとしている。葉山たちも頑張っているが、点差は6点差まで開けられた」

その言葉が終わると同時に、J組のゴールを告げる笛がなる。これで8点差…

八幡「…先生、ぼ」

平塚「ダメだ比企谷。キミは頭部に打撃を受けて気絶していたんだ。まして、前のこともある。絶対に認められない」

八幡「…でも!」

起き上がると、ひじ打ちを喰らった箇所に鈍い痛みを自覚する。そこから何かが落ちて、初めて冷やされていたことに気付いた。

八幡「…これは?」

頭から落ちたものを拾い上げる。どうやら、誰かのハンカチを濡らして絞ったものらしいが…この刺繍は確かパンダのパンさんだ。

なんとも可愛らしい趣味だが、まさか…? 平塚のほうを見る

平塚「…私のじゃないぞ。いま、何を考えた? うん?」ニコ

八幡「イイエナニモ」カクカク

186: 2012/03/27(火) 20:50:14.16
では、川崎のものだろうか? クラスメートのほうを見る

川崎「…あたしのでもないよ。それは預かりもの。匿名希望の迷子の子猫さんからの」

八幡「…迷 …!!」ハッ!

自分が気絶する寸前に見ていた景色と、その言葉がどこかで繋がる。

川崎「その子猫さんから、伝言も預かってるわ。『ごめんなさい、合わせる顔がない』って」

187: 2012/03/27(火) 21:03:13.58
八幡「……………」

あの一瞬みた雪乃の表情は、夢で見た事故のときと同じ顔だった。いや、だからこそ事故の記憶を夢に見たのだろう。

彼女はあの事故以来、ずっと自分を責め続けている。決して、彼女のせいなどではないのに。今度も、自分を責めるのだろうか。

ハンカチを開き、自分の手首に巻いて結ぶ。会場のどこにいても、見えるようにと。


八幡「…先生、お願いがあります」

平塚「ダメだ。…比企谷!!」

静の声音には、駄々っ子に辛抱強く教え諭そうとする響きがあった。
…いい先生だ。だが、ここは自分も譲れない。「押してダメならあきらめろ」? 誰のセリフだそれは


八幡「…先生、本当に、掛け値なしの一生のお願いです。どうしても出なきゃいけないんです。そして勝って、
   自分は何ともないんだって証明しなきゃ。…でないと、きっとまた、『彼女』は自分を責める。
   単に、ぼくがマヌケだっただけで彼女は何も悪くないのに」キッ

188: 2012/03/27(火) 21:10:49.90
平塚「…比企谷」目を見開く

八幡「…この試合が終わり次第、検査でもなんでも受けます。どうか…」

あとは黙って頭を下げる。

平塚「………………やれやれ」

数秒の沈黙の後、なぜか少し頬を赤らめて視線をそらし頭を掻く静

平塚「…まさか君からそんな言葉が、そんな表情が出てくるとはな」

苦笑しつつ呟く


189: 2012/03/27(火) 21:16:53.33
八幡「…先生、じゃあ!」パァ

平塚「…少しでも、ふらついたり動きがおかしければすぐに止めるぞ。審判、F組タイムアウトだ!」


ここで、観客席にもざわめきがはしる

…え、おい、比企谷、気が付いたらしいぞ。出るとか言ってるらしい
…マジかよ!!

ざわざわ… どよどよ…


そこで、観客席から比企谷たちのほうへ歩みよってくる人影があった。

190: 2012/03/27(火) 21:21:18.12
その人影は、身を起こそうとしている八幡のそばに立ち、視線を向けられるとこういった

r ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
|: あ も 試|
|: き う 合.|
|: ら さ 終.|
|: め   .了|   _
|: な .  .だ|  谷w)
|: よ .   よ> t.__ノ
ヽ     _/  // ヽ
  ̄ ̄ ̄   / .i⌒/...i
    r'ニ   材-.' ..ノ ...|
   |/=j  .(` ̄   ....|
  ..r".┘   i;:;::::;:;;:;;;;:;;/
  /4 ( i    {:;::;;::;:;;;;/
 /__彡{ |    `i;:;;;:;;::;}
(  ミ i l、     i:;;:::ノ
じ二ニLっ)    ど_j

195: 2012/03/27(火) 21:46:12.85
…そんな、不朽のバスケ漫画を愚弄する偽安西先生こと自称剣豪将軍を脇に突き飛ばし、結衣が八幡の横にすがりついた。

結衣「ヒッキー、大丈夫なの?」ウルウル

八幡「…大丈夫だ。なんか、すごく漲ってる」ニッ


静が、八幡の頭を片腕でハグし、にやりと笑って囁く


平塚「…あとは君次第だ。しっかりやってこい」ニッ

八幡「せ、せんせぇ、む、むねが///」

結衣「わ、わわわ! じゃあ私も、えい!」

結衣も何やら対抗心を燃やし背中から抱きつく。あててんですか? あててんのよ!

八幡「……な、なんか、本当に漲ってきた!!///」


196: 2012/03/27(火) 21:58:17.24
結衣「…ヒ、ヒッキー、がんばってね!!///」

八幡「…あ、ああ!//」

そんな茶番に対しては「バカじゃないの」といわんばかりの冷めた視線を注いでいた沙希であったが、去り際

川崎「…彼女はまだ、会場のどこかにいるはず。最後までみるよう、引き留めておくわ」と背中越しに告げた


八幡「…ありがとう、川崎さん」

振り返らず、ひらひら振った右手が返事。


八幡「…よし、いくぞ」


選手交代、戸塚→八幡 残り3分強



材木座「…ねぇ、なんなのこの格差。神さまっているの?」

198: 2012/03/27(火) 22:17:51.05
八幡がコートにあらわれると同時に、会場内が文字通り揺れる。
観客たちは歓声に加え足を踏み鳴らし、なかには写メを撮っているものもいた。

J組の選手たちは、もはや悪役扱いされることには開き直ったようだが、さすがにこの復活には目を剥いている。

仲間たちも集まってくる。
葉山が1ゴールきめ、点差は再び6点まで縮まっている。とはいえ全員かなり消耗しており、
ことにここまでフル出場している戸部、大岡、大和らの体力は限界に近かった。

葉山「…本当に大丈夫なのか?」

八幡「…任せてくれ。というより、正直にいって」

堂々と言い切った

八幡「いま、負ける気がしない」


201: 2012/03/27(火) 22:30:44.23
試合再開の笛がなる。少ない残り時間で、F組はディフェンスから。仲間たちはまだあきらめてはいないものの顔には焦りの色がみえる。

J組は時間つぶしに入りつつも、隙あらばトドメをさそうとほころびを伺っている。ことに、復帰したばかりの八幡の様子を探る。

八幡は、一見、うつろな視線で、ぼぅっと脱力しているようだ。やはり、あのダメージでまともにプレイできるわけはないのだ…

八幡を穴と判断したJ組は、ドリブルで切り込みをはかる。八幡は、ほとんど無反応。

J組Aが脇をすり抜けたと見えたとき、すでにボールは彼の手の中になかった。数秒して え? とその事実に気づき振り返る。目に映ったのは、

八幡がゴール下でシュートを放っているシーンだった。

スティールから遅滞なく、氏角から氏角を縫うようにゾーンを切り裂き、ゴールの笛が鳴るまで20秒弱。

202: 2012/03/27(火) 22:38:39.12
ゾーンに入る、という言葉がある。

気絶中の臨氏の追体験、会場の雰囲気、明確なモチベーション、記憶喪失によるマイナスイメージの欠如
同級生のパンチラ、同級生のあててんのよ、巨乳女教師の膝枕&ハグ、作者の贔屓…

さまざまな要素があいまって、八幡の集中力は最高に高まり、もはや入神の域にあった。

203: 2012/03/27(火) 23:13:36.51
残り2分を切る。

八幡の再度のスティールからのノールックパスを葉山がゴールにつなげ、4点差。だが、直後にまた決められ6点差。

J組の時間稼ぎが露骨になる。敵味方とも、体力は限界に近い中、八幡が一人気を吐く。

八幡の思考、動きに辛うじてついていけるのはF組でも葉山のみ。

戸部らも懸命にディフェンスでボールを奪おうとする。上背のある大岡がリバウンドをとり、八幡へパス。

葉山が一人ディレイかけ、ゴール前に3人。3ポイント狙いを看破し、2人がかりでブロックしようとする。残り一人はリバウンドに備える。3ポイントライン手前から、後ろ向きにジャンプしシュートを放つ。かつて練習で成功率3割もなかったフェイダウェイの3ポイントシュートは当たり前のようにリングを通る。3点差。

葉山がパスコースを看破しスティール。速攻でゴール下に走りこんでいる。ブロックの手をよけ片手でひょいっと放ったボールはリング上でじらすようにくるくる回った後、ころんとはいり込んだ。残り1点差、1分を切る。

館内の盛り上がりは最高潮だ

204: 2012/03/27(火) 23:28:04.44
館内の音はほとんど耳に入らない。ただ、試合に没入している。おそらく、ここまで何かに集中するのは初めての経験だった。
観客の数は、もはや200人は超えているだろう。…彼女は、ちゃんとみてくれているだろうか。八幡は、そうであることを願った。

205: 2012/03/27(火) 23:30:26.64
彼女は、みていた。

206: 2012/03/27(火) 23:36:30.14
雪乃「…………」両目を閉じ、ぎゅっと目の前で手を組んで、祈るような仕草

川崎「………なんつーか、青春してるね。そういうキャラじゃないと思ってたけど。あんたも、あいつも」

雪乃「…そんなのじゃ、ないわ」

207: 2012/03/27(火) 23:49:38.12
川崎「…少なくとも、あいつはそうだと思うけどね。今だって、あんたのために一世一代の意地を張ってる。正直、みててちょっとだけ妬けたわ」

雪乃「…えっ?」ハッと振り向く

川崎「…ちょっと、そういう意味じゃない。比企谷には借りはあるけど、タイプじゃないわ」クショウ

雪乃「あ…」赤面

川崎「…あんたのほうも、語るに落ちてるみたいね。どうみても『そんなの』でしょ」(肩を竦める

208: 2012/03/28(水) 00:05:29.39
川崎「…さっき言ってた『資格』ってどういう意味?」

雪乃「……………………」(ぎゅっと俯いて唇をかむ)

川崎「…ごめん、立ち入りすぎた。あたしはもう行くけど…あんたは最後まで見てあげて。結果がどうあれ、見届ける義務があると思う。…じゃあね」くるりと踵を返す


215: 2012/03/28(水) 21:32:55.97
残り20秒、J組が意地で突き放すゴール。3点差となる。ガッツポーズを取るJ組B。館内は失望のどよめき。
葉山と八幡のアイコンタクト。走る八幡にたいして、一人かわして葉山のロングパス。通るが、ゴール前にはなお3人。
残りは10秒。地を這うように低いドリブルで二人かわす。身体がぶつかりバランスをくずしかけるがなんとかこらえる。
上を見る。ゴールはブロックの隙間からわずかにみえる。跳ぶ。身体をぶつけられながらもシュートを放つ。

216: 2012/03/28(水) 21:39:02.25
八幡はそのまま吹き飛ばされ地に落ちる。ボールはゆっくりと宙を舞う。

「比企谷くん!!」

雪乃が思わず叫んだその声は館内の大歓声にかき消される。だが、八幡の耳には届いた。
ボールは高く、高く放物線を描き…電光掲示板の表示が残り一秒となったところでゴールに吸い込まれた。

笛が鳴る。3ポイントの得点に加えバスケット・カウントワンスロー…つまり、フリースローの権利がシューターに認められる。

体育館が熱狂で爆発した。

217: 2012/03/28(水) 21:44:32.21
八幡はすぐに起き上がり、無事をアピールしながら館内を見渡し、先ほどの声の主を探す。
目があった。安堵、羞恥、その他。さまざまな感情をその目に浮かべながらこちらを見ている。
八幡は、ただ素直に「美しい」と思った。

葉山が微笑み、八幡にボールを渡す。八幡はうなずき、フリースローラインに立つ。場内は静まり返っている。
J組の選手たちは、あるいは苦笑いを浮かべ、あるいはため息をついている。
八幡は、一度深呼吸すると、慎重にボールを放った。

218: 2012/03/28(水) 21:51:06.44
ゴールのホイッスルと同時に、八幡は右手を突き上げた。手首に結びつけたハンカチがよく見えるように。

場内の鳴り止まない大歓声と、自分の名を繰り返すコール。仲間たちが笑顔で駆け寄ってくる。

手荒い祝福でもみくちゃにされながら、先ほど、雪乃がいたあたりを目で探す。いた。

雪乃は、たしかに微笑んでくれていた。だが、なぜだろう。その美しく、透明な笑顔が、まるで泣き顔のように

219: 2012/03/28(水) 21:52:46.07
気がつくと、雪乃は館内から姿を消していた。

224: 2012/03/28(水) 23:21:06.40
数日後

平塚「ふむ。ヒーローになった気分はどうだね比企谷くん」ニヤニヤ

八幡「…からかうのは勘弁してください、マジで」タメイキ

比企谷八幡の周囲の世界はまさに一変していた。

226: 2012/03/28(水) 23:35:14.13
ほぼ全校の生徒が見守る中での、余りに劇的な活躍、勝利。
いまや八幡は、静のいうように校内の新たなヒ-ローと言って良かった。
瞬間最大風速では、葉山隼人の人気さえ凌いでいる。

校内を歩けばそれだけで当人の意思に関わらず注目を集めてしまう。

228: 2012/03/28(水) 23:44:00.85
平塚「…かつての君が、今の君をみたらどういう感想をもつか興味深いところだな。多分、「爆発しろ」 というあたりだと思うが。…重ねて問うが、感想はどうだね」

今度はやや真面目に問う。


八幡「…それは正直、晴れがましいし悪い気はしません」

229: 2012/03/28(水) 23:51:21.80
平塚「…ふむ、それだけかね?」
頷きつつ続きを促す。

八幡「…でもなんというか、現実感がないんです。嬉しい反面、心のどこかに何かがずっとチクチクと引っかかっている」

230: 2012/03/28(水) 23:57:14.63
平塚「…なるほどな。その引っかかりの一部は、もしかして彼女のことか?」

八幡「…ええ」

球技大会以降、雪ノ下雪野は奉仕部部室に顔を出していなかった。

231: 2012/03/29(木) 00:15:07.59
避けられているのだろう、とは見当がつく。だが、何故なのか…今の八幡にはわからない。

平塚「…因果なものだな」

八幡「…え?」

平塚「いや、何でもない(苦笑

…それより、君に来てもらったのは、その雪ノ下の代理としてだ」

八幡「奉仕部の活動の件ですか?」

平塚「うむ、文化祭まで一ヶ月をきったからな。奉仕部として、何かやりたいことがないか
意見を出して貰おうと思ってな」

八幡「そうですか…でもそういわれても」ウ-ン

部長の雪乃は雲隠れしているし、後の正式な部員と言えば八幡と結衣だけだ。

平塚「なに、べつに今すぐとはいわんよ。一週間ほどの猶予は与えよう
…その間になんとかしたまえ」
雪ノ下のことも含めてな…と言外に含ませる

八幡「…わかりました」

232: 2012/03/29(木) 00:23:38.14
平塚「…ああ、そういえば、あの球技大会の後、複数の女子生徒から入部希望が来ているのだがどうしたものかな?
…それも現部員同士で相談しておいてくれ」ニヤリ

八幡「…」アセ


233: 2012/03/29(木) 00:29:57.66
夕日の差し込む渡り廊下を歩き、教室へ戻る。
校庭からは、運動部員の掛け声が聞こえてくる。
八幡の願い通り、教室まで誰にも会うことはなかった。ドアを開ける。

234: 2012/03/29(木) 00:42:03.73
海老名「や-、比企谷くん」ピッ

八幡「や-、海老名さん(ピッ
…由比ヶ浜さん見なかった?」

教室内には、海老名姫菜以外の姿はない。


235: 2012/03/29(木) 00:56:38.30
海老名「ん-ん? 確か部活へ行くって言ってた気がするけど…」クビカシゲ

八幡「マジか。じゃあ、入れ違ったっぽいな… ところで、その机の上の、ナニ?(アセ

海老名「ん-? フッフ-…聞いてくれる? 今度の文化祭でさぁ(キラリン」

八幡「いやごめん、やっぱ 聞きたくない」(アセ


姫菜の机の上では、男同士が絡み合うイラストが描画途中となっていた。

その片方が自分に似ているのは気のせいだと思いたい。

そして何故教室で作業するのか

239: 2012/03/29(木) 01:26:34.78
海老名「そう?残念。 ああ、そういえばこの間は、いろいろとご馳走さま…」フフフ

八幡「いえいえ、こちらこそどうも… え? ご馳走さま?」アセ

海老名「儲けさせてもらったわ…」

八幡「何を売った」

242: 2012/03/29(木) 07:33:45.45
更新遅くてすみません。プロットは完成してるんで、次の週末にはなんとか完結にもってきます。

あと千葉ネタについては、北陸生まれの京都在住に期待すんな(笑)

努力はしてみるけど!!

245: 2012/03/29(木) 08:13:07.03
海老名「安心して、いまのところ普通の写真だけだから」

八幡「そっか、それなら安心…いや安心か?」アセ

いろいろツッコミどころがあった気がするが。

海老名「女子を中心にそれはもう、飛ぶように売れたわ。どう、嬉しい?」ニヤリン

八幡「…ノ-コメント」

246: 2012/03/29(木) 08:21:10.26
海老名「そういえば、ラブレター貰ったんだって? それも何枚も」

八幡「それもノ-コメント…ってどっから情報が?」アセ

海老名「まぁまぁ…それでどうするの?」

八幡「…まぁ、気持ちはありがたいんだけど、さ」
海老名「…そっか、わかるよ。比企谷くんには本命がいるもんね」

八幡「…え?」

海老名「やっぱり、隼人くんのことが…」

八幡「いやちがうし。恍惚の表情やめろし」

247: 2012/03/29(木) 08:27:53.48
海老名「まぁまぁ、冗談だって…ユイが気を揉んでたからちょっと探りをいれてみたの」クス

八幡「…海老名さんは、なんていうかすごいよなぁ」フゥ

海老名「ん-?」カキカキ

257: 2012/03/29(木) 19:26:16.31
おお…みなさんありがとう! 今夜も行けるところまで行くぜ!

259: 2012/03/29(木) 19:43:51.62

八幡「…趣味のこととかさ、他人からどう思われようと堂々として自然体でいられる。それで、友達のことも気遣える余裕がある」

海老名「おや」クスリ

八幡「それって、実はなかなかできないことだと思うぜ。ちょっと尊敬する」

海老名「あらら、まさか比企谷くんがそんなことをいうとはね」ケラケラ

260: 2012/03/29(木) 19:50:28.28
八幡「ん?」

海老名「もしかして、あたしをハーレムに勧誘してるのかしら」

八幡「なぜそうなる。ツッコミどころ多すぎるぞ今のセリフ」

海老名「比企谷くんってば男も女も見境なしなのね…」

八幡「はなしきけよ」

海老名「でも、ごめん、結衣と隼人くんに悪いから…」

八幡「OK、君とは理解しあえないことを理解した」

261: 2012/03/29(木) 19:54:10.09
海老名「…ま、冗談抜きで答えるとね、ちょっと驚いた。だって、さっきの評価に相応しいのって、本当はあたしじゃない。記憶を失う前の比企谷くんそのものだよ」

八幡「…え?」

262: 2012/03/29(木) 20:00:22.53
海老名「…あたしもさ、昔は悩んだの。この趣味のこととか、絶対自分は異常だって思ってたから」

八幡「……」

海老名「でもね、ネットの交流やイベントに参加して、自分が孤独じゃないってわかった。そしたら、ずいぶん楽になったの」

263: 2012/03/29(木) 20:04:40.84
八幡「…なるほど」

海老名「でもね、以前の比企谷くんはそうじゃなかった。本当に、一人だった。誰からも理解されていなかった…あ、ごめんね?」

八幡「いや、いいんだ。続けてくれ」ウン

海老名「それでいながら、自然体だった。孤独であることを、受け入れていた」

264: 2012/03/29(木) 20:10:47.46
八幡「…覚えてないけど、たぶん買いかぶりだと思うぜ」

海老名「そうかな? そんな比企谷くんに救われていた人だっていたはずだよ。たとえば…雪ノ下さんとか」

八幡「…えっ」

海老名「比企谷くんと雪ノ下さんの会話、傍目にはひどい言葉を投げつけあってたけど、雪ノ下さん、比企谷くんにはすごく心を許して甘えてるのがわかったもの」

265: 2012/03/29(木) 20:14:49.06
八幡「……」

海老名「…雪ノ下さんも、きっと孤独だったんだよね。でも、だからこそ同じ属性の比企谷くんには甘えられたんじゃないかな」

八幡「……そうか」

回想:
雪乃「…私は、あなたに甘えていたのかもしれない」

266: 2012/03/29(木) 20:16:42.62
海老名「…あたしのほうこそ、比企谷くんのことちょっと尊敬してた。あと、ヘタレ受け萌えって思ってた」

八幡「…海老名さん………ありがとう。        後 半 は い ら な い」

267: 2012/03/29(木) 20:22:23.22
ケラケラ笑う海老名に別れを告げ、教室を出る。
部室へ向かった。彼女は、いるだろうか。いや、おそらく…

コンコン、ハイリマス/ドウゾー 

八幡「やー」ガラガラ

結衣「あ、ヒッキー。どこいってたの?」パァ

268: 2012/03/29(木) 20:29:02.21
八幡「平塚先生のところに呼ばれたあと教室に由比ヶ浜さんのことを探しに行ったんだけど、ちょうど入れ違いだったみたいだ」

結衣「そうなんだー。メールくれればよかったのに」

八幡「んー、メールか…あまり慣れてなくて」ポリポリ

結衣「そんなところは前と変わってないんだねー。あと、いい加減結衣って呼んでってば」モー

八幡「…や、その、なんか恥ずかしいし。記憶が戻ったら戸惑いそうだし」(汗

269: 2012/03/29(木) 20:31:44.98
結衣「記憶…か。まだ、ぜんぜん?」

気遣うような表情をみせる結衣

八幡「…うん。今日はまた、カウンセリングの日なんだ。あまり、長くはいられない」

結衣「…あ、そういえば今日は木曜日だったね。忘れてた。…早く戻るといいね」ウン

274: 2012/03/29(木) 20:46:44.43
静から提示された、文化祭で何を行うかという案件について、二人で話すも結論は出ず。結局、部長の雪乃が来るのを待つしかないということになった。
雪乃は、今日も部室に来ない。結衣からのメールには今回も「ごめんなさい、体調が悪いので休みます」とのみ返信があった。

八幡は、結衣と部室前で別れ、電車で2駅離れたかかりつけの医院に向かう。

275: 2012/03/29(木) 20:53:00.89
…定期のカウンセリングを終え、医院の外に出ると、すっかり月が出ていた。しばし、ぼうっと見上げながらこの日のカウンセリングの内容、それに、ある少女のことを思う。

??「…比企谷くん」

突然呼びかけられ、視線を下した。

276: 2012/03/29(木) 20:56:36.93
雪ノ下雪乃がそこにいた。久しぶりに見る彼女の姿は都会の雑踏の中にありながら、月明かりを浴びて幻想のように美しかった。

八幡「…雪ノ下さん、久しぶり。いま、ちょうどきみのことを考えてた」

277: 2012/03/29(木) 21:00:56.86
なぜここにいるのか、とは問わなかった。

雪乃「…今日は、お詫びを言いにきたの。それから、お別れを」ニコリ

八幡「……なぜ?」

281: 2012/03/29(木) 21:42:21.70
雪乃「…部長権限で、あなたに奉仕部からの退部を申し渡します」

八幡「……なぜ?」

雪乃「…あなたが奉仕部に来たのは、孤独体質の矯正のためだった。でも、もう、それはあなたには必要ないわ」

八幡「…………」

雪乃「いいえ、むしろ…あなた自身のために、奉仕部に縛られているべきじゃない」

282: 2012/03/29(木) 21:48:19.56
雪乃「…聞いているわ。いくつかの部活から、勧誘されているのでしょう? それを奉仕部の活動があるからと断っているとか」

八幡「…今更、ほかの部に入ってもしょうがないだろ。ぼくの自由じゃないか」

雪乃「…今のあなたなら、どこに行っても歓迎される。必要とされて、立派にやっていけるわ。リハビリは終わったのよ」

八幡「…由比ヶ浜さんは?」

雪乃「…彼女の選択に任せるわ。でも、あなたがいなくなれば、彼女も自然と足が遠のくでしょうね」

283: 2012/03/29(木) 21:51:39.19
八幡「…それで君はどうなるんだ」

雪乃「…またひとりに戻るだけよ。ずっとそうだったみたいに」

八幡「…雪ノ下さん、君は」

雪乃「…あなたに謝らなくてはいけない。…あなたにはずっと、ひどいことばかり言ってきたわ」

284: 2012/03/29(木) 21:59:03.09
雪乃「…そもそも最初にクラスに溶け込めなかった原因の事故も、今回の記憶喪失にも、私がかかわっていた。しかも最後に、こんなにひどい形で追い出そうとしている。恨まれて当然ね」

八幡「…でも、それは」

雪乃「…あなたはこれ以上、私に関わるべきではないわ。きっとまた、私はあなたを傷つける。ひどい目に合わせてしまう」

285: 2012/03/29(木) 22:05:36.88
雪乃「だから」

二人の間を隔てる車道の信号が、青く変わった。車が、いっせいにアクセルを踏む

八幡「雪…」

雪乃「さよなら」

大型トラックが通り過ぎた後、彼女の姿はそこになかった。

八幡「…雪ノ下さん!!!」

答える声はない。通行人が、けげんな表情で視線を向けてくるだけ。

八幡「…泣きながらさよならなんて、ありかよ畜生!」

286: 2012/03/29(木) 22:10:32.69
講堂に、夕日が差し込んでいる。

雪ノ下雪乃はぼんやりと、修復工事が終わったバルコニーに立っていた。

壊れた手すりは、ピカピカに修復されており、事故の痕跡は残っていない。

否、その建物の古さに比して綺麗すぎる手すりこそが痕跡といえるかもしれない。


雪乃「…モノなら、壊れてもまた治せるのにね」

自嘲的に呟いた。


??「…よく会うわね」

288: 2012/03/29(木) 22:29:00.61
川崎「…あまり人が来ない、静かで落ち着ける場所を探してるだけなんだけど。あんたもそうなの?」

雪乃「川崎…さん」

3mほど離れて、手すりによりかかる。夕日が講堂に影を落とした。


川崎「…比企谷をクビにしたんだって?」

雪乃「…もう立ち入らないんじゃなかったの?」

川崎「…そのつもりだったけどね。夏の時はそっちが立ち入ってきたんだからおあいこでしょ」

雪乃「……………」

川崎「……比企谷のこと、好きなんでしょ?」

289: 2012/03/29(木) 22:32:20.89
少し離れて二つの影が講堂に並んでいる。


雪乃「………いいえ、キライよ」

川崎「………なぜ?」

さまざまな意味を込めた「なぜ」

風が、窓を揺らした


雪乃「比企谷くんは、私をこんなに弱くした。だから、嫌い」

雪乃「」

292: 2012/03/29(木) 23:25:15.32
雪乃「…私ね、昔いろいろとあって…他人から理解なんてされなくていい、ずっと一人でいいと思っていたの」

川崎「………」

雪乃「下心、嫉妬、偽善…いろんなものが面倒くさくなって周囲の世界を見限って、全部切り捨てることにした。自分の意志で孤独を選んで、誰にも自分のことなんて分かるわけないって不貞腐れてた」

293: 2012/03/29(木) 23:29:34.50
雪乃「比企谷くんと会ったときも、最初から見下してずいぶんひどい態度をとっていたと思うわ…」

風が強くなってきた

雪乃「…でもだんだんわかってきた。彼も、私と同じ孤独を知っているんだって」

川崎「………」

294: 2012/03/29(木) 23:35:37.02
雪乃「…誰にも、分かってもらえないと思ってた。誰かに分かってもらえることが、こんなに嬉しいなんて想像していなかった」

雪乃「いつの間にか、彼と話すことが楽しくなってた。彼に褒められると、憎まれ口をきいてても本当はうれしかった」

296: 2012/03/29(木) 23:41:45.42
雪乃「私の人生で初めて、孤独の痛みをわかってくれる人だった。孤立の覚悟をくみとってくれる人だった。稚い諦観をバカだなって笑ってくれる人だった」

   でも、彼を失うまで気付かなかった。気づこうとしなかったッ!」

297: 2012/03/29(木) 23:47:35.19
雪乃「…ここでね、事故の直前、彼と話をしたの。『美女と野獣』のストーリー…」

川崎「…なんて言ってたの? アイツ」

298: 2012/03/29(木) 23:51:45.94
雪乃「野獣が、美しく変身するのが蛇足だと。醜いままで幸福になってこそ本当のハッピーエンドだって言ってた」クスリ

川崎「…アイツらしいわね」(肩を竦め笑う

雪乃「そこでまた憎まれ口をきいて…私は美女じゃなくて魔女だろだなんて言われたけど。半分だけ正解だったのかも」

川崎「半分?」

299: 2012/03/29(木) 23:56:36.44
雪乃「…あのストーリーはね、優しい心を持たない王子が、その傲慢さのために魔女の呪いを受けて醜い獣の姿に変えられるの」

川崎「……」

雪乃「私はね、魔女と野獣の1人2役。優しい心を持たず、傲慢さのために自分で自分に呪いをかけたの」

300: 2012/03/30(金) 00:01:45.44
雪乃「初めに与えられた薔薇の花が散るまでに真実の愛を見つけなければ、呪いが解けることはない…原作では、王子は真実の愛を見つけられたわ。でも、私の薔薇の花はもう散ってしまった…私は、ずっと醜い獣のまま」

川崎「………………」

301: 2012/03/30(金) 00:11:12.35
雪乃「比企谷くんは、私にいろいろな喜びを与えてくれたわ。でも…私が比企谷くんに与えたのは傷と痛みしかなかった。

   ……比企谷くんはもう、孤独じゃない。今の彼の周りには、いろいろな人が惹きつけられて集まってくるもの。

   奉仕部という暗い城に閉じ込めておくのは、野獣のような私のエゴでしかない」

川崎「雪ノ下…」

302: 2012/03/30(金) 00:13:36.14
雪乃「…ずっと、孤独でいればよかった。あんな喜びなんて、知らなければよかった。もしそうならきっと耐えられた」」

303: 2012/03/30(金) 00:16:53.03
雪乃「…キライ。比企谷くんなんてキライ。私をこんなに弱くしてしまったから。私を置いていってしまうから。だから、キライ…」

川崎「あんた…バカじゃないの…ッ」(きゅっと抱きしめる)

雪乃「比企谷くん…比企谷くんっ! 比企谷くん… 比企谷くん…」(嗚咽)

318: 2012/03/30(金) 21:17:43.24
平塚「…なるほど、事情は理解した。 …比企谷、君自身の意思はどうなんだ?」

八幡「ぼくは奉仕部を辞めるつもりはありません。

…今のぼくに資格がないというのなら、過去の記憶とともに取り戻します」

平塚「……そうか」フゥ

八幡「…………」

平塚「…………」

319: 2012/03/30(金) 21:22:41.94
しばし、両者無言のまま時間が流れる。

先に口を開いたのは静だった。

平塚「……なぁ比企谷、冷静に聞いてくれ。
……君は本当に、そこまでして記憶を取り戻したいのか?」

八幡「……どういう意味ですか?」

320: 2012/03/30(金) 21:30:18.80
平塚「…言いにくいが、雪ノ下の言葉にも一理はある、ということだ。私は思う…あるいは君は、記憶を取り戻さず、今のままで生きていった方が、幸せになれるのではないか、と」

八幡「先生…」

322: 2012/03/30(金) 22:07:14.95
その声には葛藤が滲んでいたが、目には生徒を想う真情が溢れていた。

平塚「…私も正直、どう言っていいのかわからない。 …かつて君を奉仕部に連れてきたのは私だった。君が円満に世を渡っていけるよう、人格的成長を願ってのことではあったが、一方で、君の個性を貴重なものと思っていたのも事実だ」

323: 2012/03/30(金) 22:11:34.28
平塚「『…人間関係にひどく不器用で捻くれてはいたが、とても繊細でやさしい心をもった人間だった』 私は以前、かつての君のことをそういったな。だが、繊細でやさしい人間ほど、生きにくいのがこの世の中だ。人より、多くの痛みを集めてしまうからな」

324: 2012/03/30(金) 22:18:57.15
平塚「…今になって思うよ。以前の君はいったい、どれほどの痛みを集めていたのかと。どれほど、生きにくかったことかと」

325: 2012/03/30(金) 22:30:59.15
平塚「その集めた痛みの重さが、君を雁字搦めにして歪めていたのだとしたら。孤独を強いていたのだとしたら。今目の前にいる君の姿が、本来の比企谷八幡なのだとしたら…」

八幡「…………」

平塚「記憶をなくしてしまったこと自体は、不幸な事故だったかもしれない。だが、もしかするとこれは、チャンスなのではないか…痛みをリセットすることで、改めて人生をやり直せという、日の当たる道を歩めという、天の配剤なのではないか」

326: 2012/03/30(金) 22:38:58.35
平塚「…確かに雪ノ下のいうとおり、今の君ならどこへ行っても受け入れられるだろう。男にも女にも好かれて、まるでちょっとした青春ラブコメの主人公のような有様だ。

   私ももはや、君が望むなら奉仕部に縛り付けることはできない。
   
   …だが皮肉なものだな。かつての君は奉仕部から全力で逃げたがっていたが、今になって奉仕部に残りたいという言葉をきくことになるとは」クショウ

327: 2012/03/30(金) 22:42:08.27
八幡「……最近、よく同じ夢をみるんです」

328: 2012/03/30(金) 22:47:16.73
平塚「…夢?」

八幡「…ええ。あれはたぶん、ぼくが記憶を失ったときの光景なのだと思います。雪ノ下さんが泣きそうな顔でぼくの名前を叫んでいて、ぼくはそれを見て何かを伝えたいともどかしく思っている…でも目覚めると、何を伝えたかったのか忘れてしまうんです」

平塚「………」

329: 2012/03/30(金) 22:54:48.94
八幡「…主治医の先生に、カウンセリングで聞きました。解離性健忘というのは、痛みの記憶から心を守るために起きるのだと」

平塚「…ふむ」

八幡「…だから多分、平塚先生のいうことは当たっている。きっとぼくの記憶は、痛みに満ちていた」

330: 2012/03/30(金) 22:57:48.59
八幡「…その夢を見るたびに、早く記憶を思い出さなきゃって身を焼かれるように思う。でも一方で、思い出すことが怖くて仕方がない」

338: 2012/03/30(金) 23:16:10.87
八幡「…もし、今の状態が本当にイヤだといえば、ウソになります。もし、誰か第三者が、以前のぼくか、今のぼくかどちらかの立場を選べるとしたら…」

平塚「…それはおそらく、誰でも確実に今の君の立場を選ぶだろうな。天国と地獄のどちらかを選べというようなものだ」

八幡「…はい、ぼくもそう思います。でも…それでも…」グッ

339: 2012/03/30(金) 23:18:12.88
八幡「それでも…やはりまちがっている」

340: 2012/03/30(金) 23:21:09.06
平塚「…まちがっている?」

八幡「はい。『心のどこかに何かがずっとチクチクと引っかかっている』と以前言いました。 …その何かが、やっとわかったような気がする」

341: 2012/03/30(金) 23:28:30.31
平塚「…それは?」

八幡「…ぼくは、納得できていないんです。過去の痛みの記憶をなかったことにして、全部リセットして、みんなで明るく、いまを楽しく…そんなのは、ただの欺瞞だ」

342: 2012/03/30(金) 23:32:08.93
平塚「比企谷…」

静が目を見開く

八幡「天国と地獄…さっき先生はそう言いました。確かにそうだと思います。でも…それを地獄というのなら、彼女はまだ『そこ』にいるんだ…」

八幡は唇をかんだ

343: 2012/03/30(金) 23:37:25.91
平塚「…………」

八幡「大事な友達を置き去りにして、過去をなかったことにすることでしか明るい人生を享受できないのなら、そんなものはいらない!

   …そんな青春ラブコメはまちがっている。」

344: 2012/03/30(金) 23:47:00.65
八幡「…過去のぼくは孤独だったかもしれない。記憶は痛みにみちていたかもしれない…それでも、もしそれで誰かを救うことができていたのだとしたら」

平塚「…………」

345: 2012/03/30(金) 23:52:45.72
八幡「…ぼくはそれを、誇りたい。過去の自分を肯定したい。痛みは無駄ではなかったのだと。孤独ではあったが、無意味ではなかったのだと。

   だからぼくは、痛みを取り戻す。孤独を、取り返す。…そして、彼女に伝えたかった言葉を思い出す」

350: 2012/03/31(土) 02:21:18.95
はいおまたせ。2時半くらいからもうちょっとかくよ

351: 2012/03/31(土) 02:37:17.27
静はしばらく黙っていたが、やがてくすくすと笑いだす。

その笑顔は、困ったようでもあり…嬉しそうでもあり…誇らしそうでもあり…また悲しみも確かに含まれていた。


平塚「…まったく君は…記憶を失っていても、変わらないな」

352: 2012/03/31(土) 02:48:19.92
八幡「…褒め言葉だと思っておきます」

平塚「ああ、褒め言葉だとも。不器用で、捻くれていて、でもとてもバカだ」

八幡「…何一つ褒めてないような」

平塚「気のせいだ。ところで、具体的に何か、方策はあるのか?」

八幡「…いや、それがまったく。先生、何かありませんか? 年の功でひとつ」

平塚「…そうだな、とりあえず、殴ってみるか。もう一度衝撃を与えれば思い出すかもしれん」

八幡「やめてください しんでしまいます」

353: 2012/03/31(土) 02:54:42.66
二人して、うーんと頭を捻る

八幡「…いや、まてよ…もう一度、か」

平塚「何か思いついたのか?」

八幡「はい。…ちょっといくつか、ご相談したいことが」

平塚「うむ、きこう」

354: 2012/03/31(土) 03:04:30.40
…気が付くと、ここに来てしまう。雪ノ下雪乃は放課後、また講堂に足を向けていた。

入口で、足が止まる。先客の姿に気付いたのだ。


一人の男子生徒が新調されたバルコニーの手すりに腰掛け、夕日にシルエットを浮かべている。顔は、見えない。

その影が口を開いた。


??「やあ、雪ノ下さん…きれいな、夕日だな」

355: 2012/03/31(土) 03:11:20.63
姿を見た瞬間に、気づいていた。

雪乃「比企谷…くん。そんなところで、何をしているの…」

八幡「…君を、待ってたんだ」

357: 2012/03/31(土) 08:12:22.60
今日は職場の飲み会があってちょっと遅くなるかもです。

でも、週末中に完結させる予定。

みなさんの一言一言が完成の原動力。感想plz plz


358: 2012/03/31(土) 11:11:14.18
雪乃「……もう、私に関わるのはやめなさいって言ったでしょう…どうして…」ウツムク

八幡「…了承した覚えはないよ。 君に、伝えたいことがあるんだ」

雪乃「…何?」

八幡「実は、それがわからない」

360: 2012/03/31(土) 11:17:49.12
雪乃「…何よ、それ。からかっているの」

八幡「正確には、思い出せない。事故のときに、ほかの記憶と一緒に無くしてしまった」

雪乃「………っ」

ハッとしたあとまた俯く。

雪乃「…ごめんなさい、何て謝ったらいいか…」
声が震える。

八幡「…謝らなくていい。それを、今から取り戻す」

手すりの上で立ち上がった。

361: 2012/03/31(土) 12:22:46.74
雪乃「…比企谷くん、あなた…何をするつもりなの…」ソウハク

八幡「ここから飛び降りて、事故を再現する。よく聞くだろ、同じ状況を経験して記憶がよみがえるって」

雪乃「…っ、バカな真似はやめなさい! 今度こそ、氏んでしまうかもしれないのよ?!」

362: 2012/03/31(土) 12:27:40.95
八幡「…大丈夫、約束する。今度こそ、君の負い目を全部無くしてやる。ぼくは記憶を取り戻す。君のせいで傷ついたりはしないって証明する。…そして、伝えられなかった言葉を君に今度こそ伝える」

雪乃「お願いだからやめて、比企谷くん!!」

363: 2012/03/31(土) 12:38:13.05
八幡「…そこで待ってて。すぐに戻るから」

雪乃「…やめなさい! …なんでよ、そんなことする必要なんてないでしょう!! 今のあなたは、もう孤独じゃない。そのまま生きれば、幸せになれるじゃない!! 痛みにみちた人生をやり直すチャンスでしょう?! そのままいけばハッピーエンドなのにどうして!!」

364: 2012/03/31(土) 12:46:41.33
八幡「ヒロインが泣いてるハッピーエンドがあるわけないだろ!!」

雪乃「……っ!!」ハッ

369: 2012/03/31(土) 14:24:32.93
雪乃「…私のことは構わないでって言ってるでしょう。私は、自分で孤独を選んだのよ。もしそれで苦しむとしても、自業自得じゃない…」

八幡「……」

雪乃「あなたは、同じ孤独でいたときだって私とは違った。自分となんの関わりもない小犬でも、自分に憎まれ口ばかり言う女の子でも、泥を被って助けられるような人なのよ…今があなたの、きっと本当の姿なのだと思う。 …あなたは私などに関わらず幸せになるべきよ。 そうなる資格があるわ…」

370: 2012/03/31(土) 14:39:29.78
雪乃「…私はあなたとは違う。あなたと話すときだって、刺々しい態度ばかり。嬉しくても、それを表に出せない。人に優しくなんてできない。孤独になって当然だって本当はわかってた! でも、いまさら違う生き方なんてできないもの! 愛してほしいなんて言えない。そんな資格、ない……」シクシク

371: 2012/03/31(土) 14:55:58.71
八幡「雪ノ下さん、違う…でも、今のぼくにはきっとその涙を止めてあげられない。だから…」ニコ

八幡が苦しげに微笑んでみせた。


雪乃「……比企谷くん!!」

悟った雪乃が蒼白になって駆け寄る。

372: 2012/03/31(土) 14:58:17.67
八幡「バイバイ、また、後で」ニコ

透明な笑顔が、手摺りの向こうへ消えた

373: 2012/03/31(土) 15:04:16.15
雪乃「比企谷くん!!!」

間に合わなかった雪乃が、地面にへたりこむ。

一瞬後、ドサッと落下音が響いた。

374: 2012/03/31(土) 15:12:20.27
頭が真っ白になって立ち上がれない。今、八幡は安全も受け身も何も考えない姿勢で落ちていった。あれでは、絶対無事にはすまない。怖い。恐怖で手足が痺れる。自分が駆け寄ろうとしたことが、後押ししてしまった。もしかしたら自分は彼を頃してしまったかもしれない。そもそも自分が彼をここまで追い込んだのだ。いや自分がいなければそもそも最初の事故もなかった。際限ない自責の念が雪乃を苛む。


375: 2012/03/31(土) 15:20:51.23
八幡の無事を確かめなければ、怪我なら人を呼ばなければと理性が命じるが、雪乃は立ち上がれない。

こわい。怖い。恐い。

八幡を喪っていたらと考えると、ただひたすらに恐ろしかった。自分は本当に独りぼっちになってしまった。結衣も自分を赦してくれないだろう。心が寒かった。暗闇のなかにいるようだった。

雪乃は床に手をついたまま、童女のように泣いた。

小学生の頃、涙は捨てたつもりだった。絶望はそのとき以上かもしれない。

376: 2012/03/31(土) 15:25:38.82
…その涙を、ハンカチが拭った。

??「…柄でもない、なんて顔してるんだよ」

雪乃「…えっ」
思わず、顔を上げる。

八幡「…お前に、その表情は似合わねーな。それもキレイなのは認めるが」

378: 2012/03/31(土) 15:29:15.85
雪乃「…比企谷、くん?」

八幡「…ああ。久しぶり。んで、「ただいま」」

ヒロインを助けにきたはずのヒ-ローの目は、残念な感じに腐っていた。

382: 2012/03/31(土) 16:44:20.72
雪乃「…」ボウゼン

八幡「…まぁ、あれだ。似合わないからとりあえず、立ち上がっていつもみたいに偉そうに胸そらして見下しとけよ」ポリポリ

雪乃「…無理よ」

八幡「じゃあせめて、笑っとけ」

八幡が、先程 雪乃の涙を拭ったハンカチを自分の左手に被せた。

383: 2012/03/31(土) 16:47:53.25
八幡「…種も仕掛けもアリマセ-ン。3 2 1 はい」

ハンカチを再びどけると、薔薇の花が一輪。

雪乃「………」

八幡「……笑えよ。恥ずかしいだろ-が」アセ

384: 2012/03/31(土) 16:54:55.66
雪乃「…どうしたのよ、これ」

八幡「買ってきた。でも薔薇って高いのな。俺の財布じゃ今はこれで精一杯…」アセ

ちなみに、手品は親父の宴会芸の本からな。役立つ日が来るとは思わなかった。

385: 2012/03/31(土) 17:26:50.22
薔薇を、受け取った。

雪乃「……記憶が、戻ったのね?」

八幡「…ああ。まさに『計算通り』ニヤリ
   
   …いや本当は、かなり一か八かだったんですけどね。怖かったです正直」アセ


立ち上がり、手すりの下を見下ろした

雪乃「…いつの間にクッションを」

八幡「平塚先生に手伝ってもらった。…さすがに何の対策もなしにあんなスタントやるわけねーだろ」


386: 2012/03/31(土) 17:34:36.69
ほぼ自殺じゃねぇか。俺の生き汚さナメんな。

雪乃「…記憶をなくしていた間のことも、覚えているのね」

八幡「………………………」

へんじがない

387: 2012/03/31(土) 17:38:57.81
雪乃「…?」

八幡のほうをみる。

八幡「…ぐ、ぐふ、ぐぎぎぎ…」
奇声を吐きながら悶絶していた

388: 2012/03/31(土) 17:42:09.96
八幡「…お、俺は何を口にしたぁぁぁぁぁ?!」

全身から体液を噴出して氏なんばかりの苦しみようだ。たぶん、アクア・ウィ○エじゃなくてMAXコーヒー

392: 2012/03/31(土) 18:15:19.92
雪乃「…比企谷くん、落ちつきなさい」

八幡「…あ、ああ」ハァハァ

ひとしきりの奇行の後、なんとか立ち直る八幡。
いつのまにか雪乃の涙は乾いていた。

八幡「…あの、黒歴史が唐突にフラッシュバックしてうあああぁ!! ってなる現象、何て呼ぶんだろうな…久しぶりに強烈だったぜ。危うくもっぺん、飛び降りるとこだった」

雪乃「…知らないわよ。飛び降りるのは勝手だけど、自分で片付けなさいね」

冷たい目でヒいていた

399: 2012/03/31(土) 21:10:27.88
八幡「…ま、まぁ。当時、彼は心神耗弱状態にあった訳だから、情状酌量の余地があってしかるべきだよな」

雪乃「何か、刑事罰に相当するようなことをしでかしたのね」ニコ

400: 2012/03/31(土) 21:22:31.73
八幡「冤罪だ!!」

雪乃「犯人はみんなそういうのよ…」

八幡「記憶にございません!!」

雪乃「さっき覚えてるって言ったじゃない」

八幡「忘れる。もう忘れる。忘れた!!」

401: 2012/03/31(土) 21:25:41.59
雪乃「…私に、伝えたい言葉があるのではなくって? 確かそういってたわ」ニッコリ

八幡「ぶーーーっ!?」

402: 2012/03/31(土) 21:32:07.08
雪乃「…………………」ニコニコ

八幡「…………………」(深呼吸)

403: 2012/03/31(土) 21:43:38.30
八幡「…雪ノ下」

雪乃「…何かしら」

八幡「…今、使っちゃったけどこれ、返しとく。ありがとうな」

先ほど、雪乃の涙を拭ったハンカチを差し出す。球技大会で沙希を通じて八幡が預かっていた、パンさんの柄の入った物だ。

雪乃「…そう」ムゥ

雪乃は受け取るが、何か期待を透かされたような表情。


雪乃「…それだけ?」

八幡「…いや、違うけどよ。なんかそう期待されるとやりにくいんだが。何その食いつきよう」アセ

雪乃「…てっきり私のこと好きだっていう告白かと思ったわ」ニッコリ

八幡「んなっ?! 何言ってんのお前どうしてそうなんだよ!」

404: 2012/03/31(土) 21:53:06.74
真っ赤になって目を剥く八幡

雪乃「…ただの経験則よ。夕日の差し込む、校舎内のあまり利用されていない建物、挙動不審の男子の待ち伏せ。
   
   過去の経験に照らし合わせると、100%それで間違いないという結論が出たわ」

八幡「…お前、これまで何人に告白されてきたの」

雪乃「さぁ、100人から先は覚えていないわね」サラリ

八幡「どこの羅将だお前?!」

修羅の国って、どこの土地なんでしょうね。あと、ファルコをボコった土蜘蛛の強さは異常だと思います。

405: 2012/03/31(土) 22:01:50.96
雪乃「もちろん、全員断ってきたのだけれど」

八幡「…ソウデスカ」

雪乃「あら、ごめんなさい。これまでモテたことのない比企谷くんを無駄に委縮させてしまったわね。遠慮はしなくていいのよ」ニコ

八幡「さっきまでと別人すぎるだろ…」

雪乃「…何mくらいの高さから突き落したら、不要の記憶だけ消せるかしら」

八幡「オイ、冗談にしては目が本気すぎるぞ…」

406: 2012/03/31(土) 22:15:21.11
八幡「…言っておくが、俺だってこの数日は、モテモテ王国の住人だったんだからな。あまりナメんなよ」

雪乃「…人生には3度のモテ期があるというけれど、その若さで全部終わってしまったのね、可哀そうに…」アワレミ

八幡「オイ、あと2回はどこいったんだよ。 これまでの人生、一度だってモテたことなかったからね言っとくけど」

雪乃「私と由比ヶ浜さんと出会えたんだから十分でしょう?」

八幡「どこにもモテ要素がねぇだろうが!」

雪乃「…そんなこともわからないからモテなかったのよ!」



409: 2012/03/31(土) 22:30:30.26
二人の言い合いは夕日が沈み、月明かりが差し込むようになるまで続いた。

まるで子供が泥遊びをするように。離れていた時間を埋めるように。

とても楽しそうに、延々とじゃれ合い続ける二人を、沈む太陽が苦笑するように見送っていた。

411: 2012/03/31(土) 22:55:55.05
月明かりの下、互いに背中合わせに寄り添い、静かに立っている二人。片手の指同士が絡み合っている

雪乃「…ふふ、私たち、バカみたいね」目を閉じ

八幡「…雪ノ下」

雪乃「…何?」

412: 2012/03/31(土) 22:57:56.56
八幡「お前は、それでいいよ」

413: 2012/03/31(土) 23:13:15.18
雪乃「比企谷…くん…」

八幡「暴言も失言も吐くが、虚言は吐かない。障害があれば、真正面から叩き伏せ粉砕する。他人にも身内にも自分自身にも分け隔てなく容赦ない…それがお前だろ雪ノ下。

   …しかしお前、こうやって並べると外見は蝶だが中身は猪だな。マジ野獣。どこに後退のネジを置き忘れてきたの」
 
雪乃「うるさいこの馬 鹿」     

414: 2012/03/31(土) 23:27:22.61
八幡「でも、お前はそれでいい。刺々しい態度しかとれなくても。嬉しさを素直に出せなくても。器用に人と関われなくても。

   …お前は『本物』だろ雪ノ下。孤独に苛まれても、人から敬遠されても、自分が正しいと信じた生き方を貫いてきたなら、自分を肯定してやれよ。

   違う生き方なんてできなくていい。自分が醜いなんて泣かなくていい。そのままのお前で、愛されたいと願っていいんだ」

415: 2012/03/31(土) 23:35:57.43
雪乃「………………」

背中合わせの表情はわからない。

そっと絡み合った雪乃の指が、心なしか熱を帯び、きゅっと八幡の指を締め付けてきた。

八幡「…ま、それで実際愛されるかどうかは別問題だけどな」プークスクス

…絡み合った指がさらに熱と力を帯び、ギリギリと指の関節を締め上げてきた

八幡「いででででででででで?!」

416: 2012/03/31(土) 23:42:20.13
雪乃「…あきれた。そんな、言わでものことを言うために、わざわざあんなことをしたの? 大きなお世話よ」

涙目で片手をぷるぷると振って痛みを散らす八幡を見下ろし、雪乃が冷然と言い放った。

雪乃「…せっかく、人生をゼロからやり直すチャンスだったのに。それでうまくいきかけていたっていうのに、本当にバカね…」フゥ

八幡「…ふん、言っただろ。ゼロからやり直しても、またぼっちになる自信があるって」

417: 2012/03/31(土) 23:47:38.94
雪乃「…せっかく綺麗になった心根が、また腐っちゃったわね。目を見ればわかるわ」

八幡「断言したな?! こんなに暗くてそこまでわかるわけねぇだろ」

雪乃「…じゃあ、ちゃんと見てあげる」

418: 2012/03/31(土) 23:52:23.16
雪乃は八幡の顔に両手で触れると、そのままそっと自分の顔に引き寄せた。目と目が至近距離に近づき、雪乃は目を閉じる。
唇同士が触れあう。

月明かりの中、二つのシルエットが一つに重なった。

419: 2012/03/31(土) 23:54:49.86
八幡「……………」

雪乃「……………」

やがて、固まっている八幡から雪乃がそっと離れた。

雪乃「…あまりに腐っていたもので、直視できなかったわ、ごめんなさい」ニコ

八幡「お、お前、い、今の………////」

420: 2012/03/31(土) 23:59:45.21
雪乃「自分で変身するって言ってたから、試してみようと思って」

八幡「ケダモノに変身しちゃうだろうが!! 泥水で口を漱いだほうがマシなんじゃなかったのか」真っ赤

雪乃「…そうね、じゃあ、あなたがいつも飲んでる缶入りのを分けて貰おうかしら」

八幡「M●Xコーヒーか?! M●Xコーヒーのこと言ってんのか!! いろんな人に謝れ!!」

雪乃「…なんなら口移しでね」ウインク

八幡「」

421: 2012/04/01(日) 00:02:27.73
??「やれやれ、まったく」クショウ

少し離れたところから、彼らを見守っていた影が息を吐いた。

422: 2012/04/01(日) 00:05:05.56
平塚「これ以上は目の毒だな。私も退場するとしよう」

講堂の放送室からそっと出ていく。最後に…一枚のCDを、そっと館内に流した

424: 2012/04/01(日) 00:10:16.18


雪乃「…これは…『Beauty & Beast』? いったい誰が…」

八幡「…さぁ。どっかにお節介な女教師でもいたんじゃないか」

雪乃「…せっかくだから、踊りましょうか?」クス

八幡「…マジかよ。俺、あんまりうまく踊れないぞ」アセ

426: 2012/04/01(日) 00:19:10.85
雪乃「大丈夫よ、私がリードするから」ニコ

月明かりの下、講堂のバルコニーをステージにして、ぎこちなく、二つの影が一つになって回り始める。

八幡「…なぁ」

雪乃「…なに?」

八幡「奉仕部の、文化祭のことだけどさ。『美女と野獣』の劇をやるのはどうだ?」

雪乃「…キライなんじゃなかったの?」クス

八幡「…ラストだけな。全体のストーリーはホントのこというと、大好きだった」

雪乃「…あら、じゃあ、私たちの発表のラストはどういう風にするの?」

八幡「…そりゃもちろん…」

月の光を浴びて、二つの影がくるくる回る。最初はぎこちなく、不器用に。だがだんだん軽やかに、上手くなっていく。



ガガガ文庫 渡航 「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」SS

八幡「ぼくはきれいな八幡」雪乃「」 Fin

引用元: 八幡「ぼくはきれいな八幡」雪乃「」