1: 2014/12/24(水) 15:16:51.49
東郷「友奈ちゃん! 勇者を続けても何にもならない……」

東郷「勇者になんかなる意味がない! それなのに、どうして!」

友奈「それでも私は……東郷さんを守りたいから!」

東郷「友奈ちゃん……」

友奈「だから私は……勇者になる!」

友奈「うおおおおおおおおお! 勇者パーンチ!」

風「友奈!」

樹「――!」

東郷「そんな……内側に入ってきたバーテックスを全部……これじゃあ友奈ちゃんを助けられない……」

友奈「はぁ……はぁ……」

東郷「壁ももう修復が始まって……」

友奈「東郷さん……一人で抱えこんじゃ駄目だよ……悩んだら相談――」

東郷「え……」

友奈「東郷さん?」

2: 2014/12/24(水) 15:19:22.81
風「なに……?」

東郷「声が……」

友奈「東郷さん、どうしたの!?」

東郷「穢れ……」

樹「――」

風「私たちは、失格……」

にぼし「なによ……なんなのよ!」

友奈「何の話をしてるの、東郷さん!」

東郷「友奈ちゃんには聞こえていない……?」

樹「――お姉ちゃん!」

風「樹、声が! うおっまぶし!」

東郷「二人の欠損が……元に戻っている……」

友奈「東郷さん!」

5: 2014/12/24(水) 15:22:34.47
にぼし「何が起こっているの! さっきの声は神樹様の……!」

風「神樹様が私たちは勇者失格って……」

友奈「え? え?」

樹「皆が供物として捧げたモノが戻ってきてる……」

東郷「私たちは穢れすぎたということ」

にぼし「穢れって……なんのことよ!」

東郷「おそらく、バーテックスによって穢れを貯め込められた私たちは神樹の供物足り得ないと判断された」

東郷「穢れを忌避した神樹が私たちから奪っていったものを吐き出した、ということだと思うわ」

樹「それじゃあもう戦わなくても良いってこと?」

東郷「正確には戦えない、だけれど」

にぼし「何でもいいわよ! バーテックスは倒したし、あたしたちも戦わなくてよくなったんでしょ」

風「一件落着って奴?」

友奈「みんな……何言ってるの、声って……何のこと?」

6: 2014/12/24(水) 15:26:11.14
東郷「友奈ちゃん……」

友奈「私だけ仲間はずれなんて酷いよー」

東郷「そのっちが言ってた通り、やっぱり友奈ちゃんは勇者適正が一番高い、つまりそういう……」

樹「いたっ!」

風「樹!? って私もいたい!」

にぼし「頭の中がチリチリして……!」

東郷「っ、この感じ……あの時、私が二回目の満開をした後と同じ……」

友奈「東郷さん! みんな、どうしたの!?」

東郷「そんな……勇者だった記憶を、全部……嫌!」

東郷「忘れたくない……忘れたくないよ! 友奈ちゃんやみんなと出会えたこの記憶を!」

友奈「東郷さん!」

東郷「嫌ああああああああ!」

7: 2014/12/24(水) 15:30:58.54
目が覚めると、病院のベッドの上だった
医師によると命に別条はないが、一部に記憶障害があるらしい
特にここ二年のことはまるで覚えていなかった
それ以前は、鷲尾の家に養子に行くことになったのはぼんやりと覚えているが
その理由はとんと思い出せない、母もはぐらかして教えてくれない

「よいしょ、リハビリはいいけど違和感があるのは足くらいね」

「どうしてかしら、まるで久しぶりに動かしたみたいに鈍いわ」

「普通に暮らしていたって、言っていたのに」

何か、隠し事をされている気がする
とても大切な何かを……

8: 2014/12/24(水) 15:34:14.89
目を覚ましてから一ヶ月
もう身体もずいぶんと調子が良くなった、にも関わらず検査のためといまだに入院していた

「まだ退院できないのね……」

「早く家に帰りたい」

とは言え、帰る家は知らぬ間に引っ越していたらしい
門を潜った時はただいまと言うべきだろうか

「でも知らない家でも病院よりはマシね、きっと」

消毒液の臭いは人を病ますには十分過ぎる
思考が後ろ向きになるのを抑えるので日々精一杯だ

「身体のどこにも悪いところなんてないのに」

退院したのはそれから一週間後のこと

9: 2014/12/24(水) 15:38:31.67
「……ただいま」

違和感はあるけれど、ここは確かに私の家だ
表札にも東郷と書いてある

「変な家……」

内装のいたるところがバリアフリーだ
門の所から見ただけでもわかるほどに徹底したバリアフリー
家族に身体の不自由な者なんていないのに

「こんにちわー!」

「わっ、え、えっとこんにちは」

「あなたがこの家に住むの?」

「ええ、そう……だったみたい」

「じゃあ新しいお隣さんだ、私は結城友奈よろしくね」

表札を一瞥する、最近掛けられたわけではない少し古ぼけ始めた表札

「美森……」

「美森……ちゃん」

そう言って少し俯いた彼女は、不慣れな様子で車椅子を操り、少し後ろへ下がった

10: 2014/12/24(水) 15:43:42.85
私が怪訝な顔をしていると思ったのか、結城さんは慌てたように取り繕う

「あっ、ご、ごめん馴れ馴れしかったかな?」

「ううん、美森でいいわ」

「あ……うん……美森ちゃん」

失敗しちゃったと結城さんがポツリと漏らしたのを聞き逃さなかった
失敗なものか、ファーストインプレッションとしてはこの上ない程に好印象だ
満開の山桜を思わせるような、朗らかで優しい笑顔に私はすっかり絆されてしまっている、まるで太陽のような人だな
などと思いながらも失敗なんかじゃないよ、と言ってしまえるほど親しいわけではなく
それどころか今しがた出会ったばかりの私にそんな資格があるのだろうか、などと逡巡していると彼女は慌てたように言った

「ねえ! この辺のこととかよくわからないでしょ! 私が案内してあげる」

「え、ええ……」

結城さんは門を出て、おいでおいでと手で招く
その様子がなんだか可愛くて、ふらりと後を追ってしまう

「いい町だよ!」

「ええ、きっとそうね」

季節は秋、色付いた木の葉が落葉となって、私たちの大地を彩っている

11: 2014/12/24(水) 15:47:02.49
「この辺りはね、春になると桜がぱぁーっと満開になって綺麗なんだあ!」

結城さんの道案内に、私は車椅子を押しながら付いていく
自然と、こうするべきだと思った

「そうなんだ」

桜並木で出来た道はただただ壮観だった、見渡すかぎりの桜の木
これが一斉に咲き誇るとなれば、さぞ美しいことだろう

「春になったら見に来ようね、美森ちゃん」

「ええ、今から満開が楽しみだわ」

私がそう言うと、結城さんは一瞬だけ悲しげな表情を見せた
本当に一瞬で、私の勘違いと思ってしまうほどだけれど、結城さんは確かに目を伏せていた

「よかった、気に入ってくれたみたいで」

「気に入らないわけ無いわ……素敵な町」

後ろ向きだった思考が嘘のようだ、これもきっと結城さんのおかげ

12: 2014/12/24(水) 15:52:07.54
学校に通えるようになってからは、結城さんとの交流が更に増えた
家が隣なこともあってか、毎日一緒に登校してる
彼女は朝が弱いようで、何度か遅刻しそうになってからは私が朝、起こしに行くようになった

「結城さん、朝よ」

珍しくうつ伏せで眠っている結城さんに声をかけるがなかなか起きない

「う、うーんぼた餅……」

「ぼた餅?」

寝ぼけているのか、食べる夢を見ているのか、面白い寝言だ

「それも食べていいよね……」

寝相が悪いな可愛い、と思った瞬間結城さんの手が私の懐にグイと伸びる

「んひゃぁ!」

「ぼた餅……柔らかい」

「ちょ、ちょっと結城さん……だめっ」

「美味しいよ、とう――あ、あれ? 美森ちゃん……?」

「はっ……はぁ……はぁ……」

14: 2014/12/24(水) 15:57:13.35
「今朝はごめんね……美森ちゃん」

「ううん、気にしてないわ」

「……それなら、いいけど」

揉みしだかれたことよりも気になることがあった

「結城さん、ぼた餅好きなの?」

「うん好きだよ! すっごく好き!」

「そっか……うーん、私料理はよく作るけど、お菓子はそうでもないし……」

結城さんの悲しげな表情が、私を不安にさせる
それを振り払おうと、私は結城さんに提案した

「でも結城さんが食べたいなら、挑戦してみるわ」

「ほんとに!? やったー!」

結城さんの笑顔が私を勇気づけてくれる、生き甲斐とも言い換えられた

15: 2014/12/24(水) 16:02:33.67
和菓子の文献を漁る
ぼた餅の歴史は古く、旧世紀から培われているお菓子だ
おはぎとの違いには諸説あるようだが、基本的には同じもののようだ

「炊いたお米を半頃しにして……」

牡丹の花に見立てているらしいそれに疑問符が浮かんでしまうのは、アンコの色によるものだろうか

「塩をひとつまみ入れるのが美味しくするコツ……」

「牡丹の花を意識して……」

なかなか難しそうだと思ったけれど、まるで作り慣れているように手が動く

「完璧だわ……王者の風格ね」

これなら結城さんに食べさせても恥ずかしくない
きっと喜んでくれる
そう思うと自然と頬が緩んだ

「結城さんの口にも合うといいな」

16: 2014/12/24(水) 16:06:38.35
「おおおぅいすいぃいいいぃぃ!」

結城さんのオーバーリアクションに驚嘆してしまう
けれどそれも結城さんらしい反応で、心が和んだ

「よかった……結城さんが気に入ってくれて」

ホッとしていると、結城さんが車椅子から立ち上がりそうな勢いで寄せてきた

「美森ちゃん! もしよければ毎日食べたい! 美森ちゃんのお菓子!」

「えっ」

結城さんはその言葉の意味を正しく理解しているのだろうか
顔が熱くなる、頬が赤らむのを感じる
結城さんの顔を見るのが恥ずかしくて、つい目を逸らしてしまう

「あ、うん……わかった」

結城さんの喜ぶ顔がもっと見たい、美味しいって微笑む顔がもっと見たい

「毎日作るね」

18: 2014/12/24(水) 16:10:41.75
車椅子を押していると、結城さんが不意に振り向くことがある

「どうしたの、結城さん」

というと決まって、困った顔をして言う

「美森ちゃん居るかなって思って」

「ええ? なあにそれ」

「ううん、ただ私の方から触れられないから、ちょっと不安になっちゃって」

前から気になっていた、結城さんはいつから車椅子生活なのか
いつも車椅子の扱いに慣れていないようで心配は絶えない
思い切って聞いてみることにした

「結城さんは……いつから車椅子なの?」

「え……」

「あ、聞かれたくないことだったら、ごめん」

悲しい気持ちにさせてしまい激しく後悔したが、結城さんはどちらかと言うと驚いた表情で私を見上げている

「えっと、そんなことないよ、一ヶ月くらい前からかな」

20: 2014/12/24(水) 16:15:01.18
「一ヶ月、前……」

その頃はちょうど私が入院していたころ

「何か……あったの?」

結城さんのことは何でも知りたかった
何も知らないことが悔しかった

「ちょっと転んじゃって、えへへ」

嘘つくの下手だな
嘘だとすぐにわかったけれど、これ以上の追求は彼女を傷付けることになる
結城さんのことは知りたい、でも傷つくのは許せない

「ねえ! それよりさ、私新しい部活を作ったんだ!」

「部活?」

「そう、部活!」

「もしかして、押し花部?」

「違うよ、それもいいと思うけど勇者部っていうんだ」

21: 2014/12/24(水) 16:19:53.25
「勇者部?」

「そう、世のため人のためになるようなことをする部活、他の部活の助っ人とか、ボランティア活動をするの」

なぜ勇者、という疑問を投げかける前に結城さんが答えた

「神樹様の教えだけど、私たちの年頃だとちょっぴり恥ずかしいところあるでしょ? そういうのを勇んでやるから勇者」

「あ、その勇者なんだ、魔王と戦うのかと思ったわ」

「あはは、皆に悪いやつと戦わせるなんて、出来ないよ」

どこか引っかかる言い方だったけれど、話を続ける

「部活を作るなら人を集めないといけないわね」

「ふっふっふ、実はもう集めてるんだあ」

「そうなの? いつの間に……」

「何週間か前に声かけておいたんだよ」

その頃は確か、私が検査だと言われて入院していた時期だ
私と出会う前、結城さんが部活に誘いたいと思う人がいた事実に心が揺さぶられる
なんでも、結城さんの初めてになりたかったと強く思った

22: 2014/12/24(水) 16:23:29.31
今日は結城さんと紅葉を見に行くことになっている
朝早く起きて、昨日から仕込みをしておいたお弁当作りに勤しむ
ピクニックだし、サンドイッチがいいかなと思ったけれど
色々詰め込もうと趣向を凝らしているうちに重箱になってしまった
こうなってはサンドイッチに収まるはずもなく、気分はお正月だ

「ここの所、結城さんのことしか考えてない気がするわ」

結城さんの為に料理して、結城さんの為にお菓子を作って
学校に行くにも結城さんと一緒、放課後も、お休みもずっと結城さんと一緒

「でも……こんなに充実したことなんて初めて……幸せだわ」

「この料理も、美味しく食べて貰えるといいな」

塩の容器に手を伸ばす、しかし
想いを巡らせながら容器を手に取ろうとしたせいで、落としてしまった

「ああっ、あずった」

時間もあまりないというのに困った
迅速に掃除を済ませ時計を見ると、もう結城さんを起こす時間が迫っていた
慌てて味付けを済ませ、彼女の部屋へと急ぐ
彼女は一人でベッドから車椅子に移るのにも難儀するから、私が支えてあげないと

23: 2014/12/24(水) 16:28:02.55
「結城さん起きてる?」

「すーすー」

「寝てる……可愛い寝顔」

静かな部屋に可愛い寝息が響く
このままずっと見ていたいけどそうもいかない

「起きて、結城さん」

結城さんの身体を揺すり、目覚めを促すがそれでも起きないようなら、一段階起こし方を上げることになる
口を耳元に近づけて、擽るような息遣いでふっ、と

「おきて……ゆうきさん」

「んんっ……くすぐったいよ……ふあぁ」

「おはよう、結城さん」

「おはよー」

まだ眠そうな結城さんを車椅子に誘導する、けれど本調子ではないようでベッドの上でくすぶっている
そんな時は、前から結城さんを抱き上げて車椅子に座らせて上げるのだ

24: 2014/12/24(水) 16:32:47.77
「する?」

「んー……お願い」

私にとってご褒美のようなものだ、毎日お菓子を作って、たまに料理もごちそうして
これくらいの見返りを求めても許されるに違いない

「よいしょっ」

脇の下に腕を伸ばしバランスを崩さないように優しく持ち上げる
そうすると、ふんわりと柔らかくて温かい結城さんが私の腕の中に収まる
結城さんの匂いが鼻孔に広がり、幸せに包まれたように感じる
それだけでなく、結城さんはその腕を私の首に絡ませて抱きしめてくるのだ
首を包む腕の感覚と、首筋に当たる吐息の感触が、この短い時間を更に短く感じさせる

「はい」

もっと長くこうしていたい

「着替えは朝ごはんの後でね」

「はーい」

25: 2014/12/24(水) 16:37:05.98
「食欲の秋だねー」

「もうお腹すいて来ちゃった?」

「こんな重箱用意されたら、もう涎が止まらないよ」

車椅子の結城さんにお弁当を預けると、愛おしそうにお腹に抱えて頬ずりまでしている

「ちょっと作りすぎたわ」

「そんなことないよ! 美森ちゃんのお弁当ならいくらでも入っちゃう!」

結城さんが振り向いて手を伸ばしてくる、私はそれをギュッと握った
秋の気候に、結城さんの温かさが身に沁みる
心が直接温められているようにも感じるほど、身体の芯から熱を帯びて頬が染まるのを感じた

「そこまで言われると照れちゃうわ」

「まあまあ、そうご謙遜なさらずに」

「……そうね、否定すると結城さんに失礼だわ、いくらでも食べてね結城さん」

「もちろんだよ!」

28: 2014/12/24(水) 16:41:27.37
地面の柔らかいところに結城さんを下ろし、一緒に座る

「いい眺めだね」

真っ赤に染まる秋の山に、隣には結城さん
大切な人と見るにはうってつけにロマンチックで、つい身体を寄せてしまう

「素敵……」

「だよねー、美森ちゃんと見られてよかったよー!」

「そうね、もっとこういう時間を増やしていきたいわね」

結城さんの肩に頭を預けると、結城さんは腕を伸ばして私を抱いてくれた
上目遣いに彼女を見ると、どうしたの? と何食わぬといった様子
あぁ、これが自然なんだと、私と結城さんの関係はこれが在るべき形なんだと
そう言ってくれているようで嬉しい

「ねえ結城さん、そろそろご飯にしましょう」

「やったー! 待ってましたあ!」

「もう、そんなに喜んじゃって……照れてちゃうわ」

29: 2014/12/24(水) 16:45:42.11
「この人参最高だよ、美森ちゃん!」

「結城さんは美味しそうに食べてくれるから、本当に作りがいがあるわ」

人参を頬張りながら、結城さんは思い出したようにハッとして顔を上げた

「そういえばこの前近所のおばあちゃんに、友奈ちゃんこんまいのにようがんばっじょるきんって」

「立派な金時人参貰ったんだー!」

「あら、そうなの? じゃあ今度それを使ってグラッセ作ってあげるわね」

「やったー!」

喜びながら次の料理に箸をつける、迷いなく掴むその箸捌きは心地いい

「うん、このポテトサラダも最高だよ!」

結城さんが口に運んだそれは、最後に慌てて作った料理だった
上手く味付けできていたようで安心する
結城さんには笑顔が似合う、私の料理で笑顔になってくれるなら、こんなに嬉しいことはない

「じゃあ私もポテトサラダ食べるわね」

30: 2014/12/24(水) 16:52:24.60
口に含んだ瞬間、眉間にしわが寄る

「あま……ごめんなさい、味付け失敗してしまったみたい」

それなのに、結城さんは私に気を遣って美味しいと言ってくれた
その優しさが嬉しい半面、申し訳なくなってしまう

「え……」

お茶で口内をゆすいで結城さんを見ると、瞳が泳ぐほどに動揺していた
絶望したような表情で戦慄いている

「結城さん……?」

「ち、ちがっ……違うの! ちゃんとわかってる、知ってるから! 美森ちゃんの料理!」

「どうしたのっ!? 結城さん?」

「わ、私美味しいこと知ってるから!」

動揺する結城さんの、知っている、という言い回しが私に疑問を浮かばせた

「どういうこと……まるで、味がわからないような言い方にも聞こえる……」

「っ……」

31: 2014/12/24(水) 16:56:40.17
「え、えへへ……実は……私、味覚がないんだ」

「え……」

嘘……

「そんなことって……」

「ごめんなさい……」

「いつから……?」

くしゃくしゃになった顔がいじらしくて、気を抜くと抱きしめてしまいそう
結城さんが泣きそうになっているのがわかる、涙が溢れないように抱きしめてあげたい

「だいぶ前から……」

「じゃ、じゃあ……ぼた餅……ぼた餅は?」

「味は……わからなかった」

「ぁ……」

「でもね……」

「覚えてるよ、東郷さん」

「忘れないよ……大好きな東郷さんの作ったぼた餅の味……忘れるわけない」

32: 2014/12/24(水) 17:00:21.77
「友奈ちゃん……」

「え……、東郷さん……思い出したの……?」

「私、友奈ちゃんと一緒にいたのね」

「……」

「思い出せない……けど、きっとその時も友奈ちゃんのことが大好きだった」

「東郷さん……」

「それだけは間違いない」

「……うん」

「私のことは東郷さんって呼んでくれて、私は友奈ちゃんって……」

「……うん」

「ああ、どうしてかしら……こんなにしっくり来るのに、どうして今まで……」

「それだけでも十分救われたよ、東郷さん」

「友奈ちゃん……」

34: 2014/12/24(水) 17:04:31.27
「足が動かなくなって、東郷さんと同じになってちょっと嬉しいって思ったんだ
でも、この姿を見せるのは勇気が要って……ごめんね、入院長引いたでしょ? 
私が大赦の人に言って、そうして貰ったんだ
勇者部のみんなも勧誘して、また新しい私の、私たちの場所を作りなおして
これからはもう二度となくしてしまわないように、ずっと大切にしようって、私が守ろうって
心配なんてしなかったよ、だって皆の記憶がなくなっても皆は皆だもん
東郷さんだって、全然変わらずに私と一緒に居てくれてる、大丈夫
本当はね、味覚だけじゃなくて片耳しか聞こえないんだ……
東郷さんの声が半分しか聞こえないなんてショックだったけど、これくらいなんてこと無い
だって、東郷さんが近くに居てくれるから、私の自由が少なくなった分
東郷さんから触ってくれることも多くなって、幸せをわけてくれてるみたいで
なんだか東郷さんも私と同じ気持ちだったのかなって、また東郷さんと近づけたみたいで嬉しくなったよ
立場が逆になっちゃったけど、本当の所は何も変わってない
私と東郷さんの関係、なくしたものがあっても絶対に取り戻せるんだ
こんな身体になっても、それがわかってよかった」

35: 2014/12/24(水) 17:08:44.43
「前と変わらない、東郷さんとの何でもない生活を味わえてよかった」

「まるで……どこかに行ってしまうみたいな言い方……」

「私はいなくなったりしないよ、東郷さん」

「友奈ちゃん……?」

「突然消えたりしても、すぐに飛んで帰ってくるから!」

「と、飛んで?」

「東郷さんは私が守る、今までもこれからも……だって、私は勇者だから」


36: 2014/12/24(水) 17:10:38.44
おつ!感動した

38: 2014/12/24(水) 17:18:03.52
折角のうどん県アニメだからさぬき弁マシマシにしようかとも思ったけど誰だよってなるからやめた

引用元: 友奈「覚えてるよ、東郷さん」