1: 2022/02/02(水) 22:02:09.359
魔王「揃ったか」

火の四天王「はいッ! 参上いたしましたァ!」

水の四天王「お呼びでしょうか、魔王様」

土の四天王「我らをまとめて呼び出すなど、よほどの事態のようですな」

風の四天王「フッ、穏やかではありませんね」

魔王「実はこの四天王の中に……人間のスパイがいる!」

四天王「!!!!」

魔王「今から四人で、そのスパイを見つけ出すのだ。よいな!」

5: 2022/02/02(水) 22:05:40.889
火の四天王「スパイなど本当にいるのか!?」

水の四天王「とても信じられませんね。よりによって四天王にスパイなど……」

土の四天王「だが、魔王様は聡明なお方……何らかの確証があると思われる」

風の四天王「ってことは、この中に人間が混じってるというわけかい。だったらいい方法がある」

火の四天王「言ってみろ」

風の四天王「この中に人間がいたら、正直に手を挙げよう」

シーン…

風の四天王「フッ。こんな方法で割り出せたら、苦労はないよね」

火の四天王「当たり前だ。ふざけている時か!」

8: 2022/02/02(水) 22:08:13.069
火の四天王「スパイなどいるわけないんだ……下らんッ!」

水の四天王「本当にそうでしょうかねえ?」

火の四天王「どういう意味だ」

水の四天王「あなたは少々疑わしいことがあったんですよ」

火の四天王「何を言うか!」

風の四天王「まあまあ。興奮するのはよくないよ。彼の言い分を聞こうじゃないか」

土の四天王「うむ」

火の四天王「ちっ……」

9: 2022/02/02(水) 22:11:46.743
水の四天王「あなた、以前ある町を火の海にするといって……」

水の四天王「凍り付いた町を解凍してしまったことがありましたよねえ?」

水の四天王「あれは完全なる人間への利敵行為ですよ」

風の四天王「たしかにそんなことがあったね。凍氏しかけてる人間をかえって助けてしまった」

土の四天王「説明してもらおうか」

火の四天王「下らんッ! ただの偶然だァ!」

火の四天王(……といいつつ、偶然じゃないんだよな)

11: 2022/02/02(水) 22:14:23.832
火の四天王(実は俺は炎魔法が得意な人間だ。魔王の動向を探るため、魔王軍に潜り込み、四天王にまでなった)

火の四天王(ここから本格的に人類を助けようとしてた矢先に……疑われるとは! なんという失態!)

火の四天王(まだバレるわけにはいかない。どうにかしないと……)

火の四天王「たかがちっぽけな町を誤って救ったぐらいでなんだというんだ!?」

火の四天王「俺の魔王様への忠誠心は絶対だ!(忠誠心でゴリ押しするしかない!)」

水の四天王「忠誠心……。でしたら示してもらいましょうか」

火の四天王「どうやってだ?」

水の四天王「あなたは火の魔族、なおかつ鋼鉄の忠誠心があるなら、どんな熱さにも耐えられるはず」

水の四天王「あなたが本当に火の魔族であれば、この熱々の鉄板に手を置けるはず!」

ジュゥゥゥゥ…

火の四天王「な……!」

14: 2022/02/02(水) 22:17:22.342
火の四天王「何秒ぐらい置けばいいんだ?」

水の四天王「一分といったところでしょうか」

火の四天王(くそっ、さりげなく秒といったのに分にしやがって!)

風の四天王「フッ、これは面白い試みだね」

土の四天王「どうした、早くやれ」

火の四天王(ただの人間である俺がこんなのに手を置いたら……うぐ)

火の四天王(だが、やるしかない! 世の中には焼けた鉄板の上で土下座した人間もいるという!)

火の四天王(俺だってぇぇぇ!)サッ

ジュゥゥゥゥ…

火の四天王(あっちぃぃぃぃぃぃ!!!!!)

17: 2022/02/02(水) 22:20:24.018
火の四天王(あっちぃ! あづいよぉぉぉぉぉ! 想像以上ォォォォォ! 火傷確定ィィィィィ!)

水の四天王「10秒経過」

火の四天王(10秒!? まだ10秒!?)

土の四天王「20秒経過だ」

火の四天王(こっちはもう10年ぐらいやってる感じだよ! カウント遅くしてんじゃねえだろうな!)

風の四天王「40秒経ったね」

火の四天王(あと20秒ォォォォォ!)

水の四天王「……一分」チッ

火の四天王「ふん、他愛もない(あっちぃ、あっちぃ、あっちィわ!)」

19: 2022/02/02(水) 22:23:36.895
火の四天王「これで俺への疑いは晴れたわけだな」

水の四天王「そうですね。疑って申し訳ありませんでした」

土の四天王「ふと思ったが、水の四天王よ。貴様にも怪しいところがあるぞ」

水の四天王「なんですって?」

土の四天王「ある町を水没させる作戦で、貴様は結果的にプールを作るだけにとどまったことがあっただろう」

火の四天王「あったあった!」

風の四天王「なるほどね、君がスパイだったというわけか」

水の四天王「バカいわないで下さい。私がスパイなどと……」

水の四天王(まあ、スパイなんですけどね……)

20: 2022/02/02(水) 22:26:39.191
水の四天王(魔族になりすまして、苦労の末四天王にまでなりましたが、ついにこの時が……)

水の四天王(火の四天王にスパイ疑惑を押し付けるという策も失敗しましたし、どうすれば……)

水の四天王(そうだ!)

水の四天王「なら私もやりますよ、鉄板の上に手を置きます」

火の四天王「なにっ!?」

水の四天王(鉄板と手の間に水の膜を張れば、楽々クリアできる……)

土の四天王「いや、同じじゃつまらんだろう。芸がなさすぎる」

水の四天王「へ?」

土の四天王「これを飲め」

水の四天王「なんですかこれは?」

土の四天王「水の四天王なら飲めるはず。この……汚染されまくった水も!」

水の四天王(なんですってぇ!?)

21: 2022/02/02(水) 22:29:26.964
土の四天王「ほら、飲め」

ドヨーン…

水の四天王(ううっ、濁ってる。なんか浮いてる。こんなの飲んだら絶対腹を壊す……)

火の四天王「イッキ、イッキ、イッキ!」

水の四天王(くそっ、火の四天王め! 自分の疑惑が晴れたからって!)

水の四天王「いいでしょう。私の体の中で浄化しますよ(できないけど)」グイッ

風の四天王「おっ、飲んだ!」

水の四天王(まっずぅぅぅぅぅぅぅ!)

水の四天王「ぷはぁっ! 飲みましたよぉ!」

土の四天王「くそっ、見事だ」

水の四天王(おええ……しばらくは水の便が出ることになりそうですね……)

22: 2022/02/02(水) 22:32:21.966
火の四天王「これで四天王のうち、二人はシロが確定したわけだが……」ニヤッ

水の四天王「あなた方はどうでしょうねえ?」ギュルル

土の四天王「ふん、下らん。我らは潔白――」

風の四天王「フッ、それはどうかな?」

土の四天王「なんだと?」

風の四天王「土砂崩れを起こし、ある都市を破壊する作戦のはずが……土砂が防壁のようになってしまったことがあったよね」

風の四天王「あれであの都市はかえって攻めにくくなってしまった。君こそ、人間だったんじゃないのかい?」

土の四天王「!」

火の四天王「む、そんなことが!」

水の四天王「あなたがスパイだったのですか!」

土の四天王「そんなわけがない!(その通りだよ!)」

24: 2022/02/02(水) 22:35:08.347
土の四天王(我はれっきとした人間……大地を操る術を得意とするゆえ、それを利用して土の四天王になった)

土の四天王(バレないようにやってきたつもりだったが、最大のピンチ……!)

火の四天王「さて、土の四天王にも忠誠心を示してもらわんとな」ニヤニヤ

水の四天王「何をしてもらいましょうかねえ?」ニヤニヤ

土の四天王「うぐ……」

風の四天王「これなんかどうだろう?」

ウゾウゾ…

土の四天王「なんだこれは……」

風の四天王「ミミズの塊だよ。土の四天王なんだから、これぐらい食えるだろ?」

土の四天王(食えるかボケェ! いつの間に用意したんだよ!)

27: 2022/02/02(水) 22:38:18.177
土の四天王「火の四天王よ」

火の四天王「ん?」

土の四天王「このままじゃさすがにあれだから、焼いて……」

火の四天王「焼く必要なんてあるか?」

土の四天王「え……」

水の四天王「ミミズぐらい生で食べれるでしょう? 大地を司る、土の四天王なんだから……」

風の四天王「食べられないなら君がスパイということになるけど……」

土の四天王(ダメだ……食わないと殺られる! 食うしかないッ!)

30: 2022/02/02(水) 22:41:13.721
土の四天王「いただきまぁす!」ガバッ

火の四天王「おおっ!」

水の四天王「一気にいきましたね!」

土の四天王(丸飲み……できない! 噛むしかない!)

グニュッ グニュッ グニュッ

土の四天王(うげええ……なんだこの未知の弾力は! おぞましい!)

ブチュッ

土の四天王(なんか液が出たァ! 口の中を想像しちゃいかん、我はマシン! ミミズを食うマシンだ!)

ゴクリ…

土の四天王「食べたぞぉっ! ほら! 口の中見ろ!」パカッ

風の四天王「くっ……」

31: 2022/02/02(水) 22:44:40.184
土の四天王「これで残りは貴様一人……」

風の四天王「うぐ……」

水の四天王「そういえばあなたも、竜巻で難民の人間どもを吹き飛ばすだとかいって」

水の四天王「結果的に難民を大都市に送り届けたことがありましたよね」

火の四天王「つまり、お前がスパイか!」

風の四天王「違う! 信じてくれ!」

風の四天王(実はそうなんだよなぁ……僕はれっきとした人間なんだ。他の三人と違って……)

土の四天王「といっても、もう貴様しかおらんだろうが!」

風の四天王「鉄板でも、汚染水でも、ミミズでもやるから!」

火の四天王「いや、そんなんじゃつまらない」

風の四天王「え?」

32: 2022/02/02(水) 22:47:26.830
火の四天王「この魔界一の扇風機に耐えてみせろ」ゴトッ

風の四天王「……!」

土の四天王「それはいい!」

水の四天王「面白いですね!」

風の四天王「やめてくれ! それだけは! 他のにしてくれ!」

火の四天王「スパイじゃないというなら、耐えてみせろ!」ポチッ

ビュゴォォォォォォォッ!!!

風の四天王「ぐわあああああああっ!!!」

土の四天王「悲鳴を上げている。どうやら、風の四天王がスパイで確定……」

水の四天王「いや、ちょっと待って下さい!?」

33: 2022/02/02(水) 22:51:27.117
ベリベリ…

ベリィッ!

風の四天王「……」ツルーン

火の四天王「えええええ!?」

水の四天王「なんですって!?」

土の四天王「風の四天王……お前……ズラだったのか」

風の四天王「そうだよォォォォォ!!!」

風の四天王「いつもクールを気取ってたけど、頭までクールだったんだよォォォォォ!!!」

35: 2022/02/02(水) 22:54:24.262
風の四天王「お前たちには知られたくなかった……。だから、やめろっていったのに……」

火の四天王「すまん……!」

水の四天王「申し訳ありません……」

土の四天王「謝罪する……」

風の四天王「もういいよ……いずれバレることだったし」

風の四天王(スパイ疑惑は晴れたようだけど……氏にたい)

火の四天王「とにかくこれで、四人ともスパイではないことが分かった!」

水の四天王「どうします?」

土の四天王「これだけやって結果が出なかったのだ。ありのままを報告するしかあるまいな」

風の四天王(氏にたい……)

36: 2022/02/02(水) 22:57:44.947
火の四天王「魔王様ァ!」

魔王「おお、会議が終わったか。誰がスパイだった?」

水の四天王「我々の中に……スパイはいませんでした!」ギュルル

魔王「なんだと? そんなはずはない! ちゃんと探したのか!?」

土の四天王「本当ですとも! みんな体を張ったんです!」

風の四天王「信じて下さい!」ベリッ

魔王「うわっ!?(こいつカツラだったのか!)」

火の四天王「それでも信じられぬというのなら、魔王様の手で四人を葬って下さい!」

火の四天王「さあ、どうぞ!」

魔王「む……分かった。信じることにしよう。四天王の中にスパイはおらん!」

四天王「ありがとうございます!!!!」

37: 2022/02/02(水) 22:58:41.198
ハゲでなにがあかんのですか

38: 2022/02/02(水) 22:58:50.140
魔王ちょろくて草

40: 2022/02/02(水) 23:00:21.033
魔王「……」

魔王(マジかよ……いないのか)

魔王(実はワシは人間だ。ワシは長年、人が魔族に狙われないようにするにはどうすべきか考えていた)

魔王(やがて、魔族を抑えるならいっそ魔王になればいいと、持ち前の戦闘力で魔族の王になったのだ)

魔王(もし四天王の中に人間がいたら、そいつを処刑するふりをして)

魔王(ワシの手元に置き、一緒に人間への手助けをやっていこうと思ったのだが……)

魔王(今後もワシ一人でやっていかねばならんのか。辛いなぁ……)

…………

……

41: 2022/02/02(水) 23:03:19.092
一方、その頃――

国王「では勇者よ、必ずや魔王を倒してくれ!」

勇者「ははっ、お任せください!」

勇者(ククク、実は俺は魔族の剣豪よ)

勇者(人間のふりをして人間界で活躍し、ついに勇者に選ばれた)

勇者(あとは勇者のふりをしつつ、魔王様の人間界征服の手伝いをしなければな)







― 完 ―

42: 2022/02/02(水) 23:05:04.793
これが少女漫画でよく見るすれ違いってやつか

43: 2022/02/02(水) 23:05:25.237
面白かった

44: 2022/02/02(水) 23:07:46.599
風の四天王に親近感が沸きました

引用元: 魔王「四天王の中に……人間のスパイがいる!」