1: ◆cgcCmk1QIM 23/01/11(水) 20:15:34 ID:f4KU

:~12月某日13時・プロダクション女子寮~

裕美「千鶴ちゃーん、窓拭き終わったー」

ほたる「玄関の拭き掃除も終わりです」

松尾千鶴「お疲れさま。それじゃこれで3人の部屋は大掃除終わりだね」

岡崎泰葉「よかった、結構余裕を持って終わったね」

千鶴「私たちあまり散らかすほうじゃないし、何より4人がかりだったものね」

ほたる「大きな家具とかも簡単に動かせるから、すごくはかどりました」

裕美「確かに確かに! ……それにしても」

泰葉「どしたの?」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(12) アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場 (電撃コミックスEX)
2: 23/01/11(水) 20:15:57 ID:f4KU

裕美「私たち、なんで12月25日からもう大掃除してるんだろう……」

泰葉「あはは」

裕美「25日だよ25日! 世間的には本番は昨日だけど暦の上では今日こそがクリスマス!」

ほたる「事務所のクリスマス会の後『明日大掃除しよう!!』って泰葉ちゃんが言い出したときはちょっとびっくりしました」

裕美「だよね? 25日の午前中って世間的には今朝のクリスマスプレゼントのことで盛り上がってる時間だと思うんだ」

ほたる「今年も雪美ちゃんの枕元には無事キノコの原木が届けられたそうです(ほっこり)」

千鶴「それは微笑ましいニュースなのかなあ」

3: 23/01/11(水) 20:21:56 ID:f4KU
裕美「それなのに私たちは午前中にプレゼントの梱包も飾り付けも全て分別を終えて大掃除モードに突入してしまった……ふつう大掃除ってもっと遅くにやるものじゃない?」

千鶴「まあ確かに」

ほたる「鳥取の実家では毎年大晦日にやってましたね」

裕美「だが泰葉ちゃんは是非今日やろうと言って譲らなかった……これは一体?」

泰葉「大掃除って、テンション高いときにすませとくべきなんだよ」

裕美「あっ泰葉ちゃんが疲れたプロデューサーさんみたいな顔になった」

4: 23/01/11(水) 20:24:20 ID:f4KU
泰葉「失敬な。まあ考えてみてよ今日から年始までの自分たちのスケジュールを」

千鶴「ありがたいことに結構ぱんぱんだね」

ほたる「20時までのお仕事もけっこうあります。大晦日は泰葉ちゃんと一緒ですよね」

裕美「私、今日お着物着て『あけましておめでとうございます!』って言うお仕事が2件あるよ!!」

千鶴「新年を裕美ちゃんの笑顔で迎えられる人は幸せだね」

ほたる「気分がとっても明るくなりますよね」

裕美「えへへー」

5: 23/01/11(水) 20:27:54 ID:f4KU
泰葉「そして私たちが4人で集まれるのは今日が最後。みんな忙しくて帰宅時間もバラバラになる」

千鶴「確かに」

泰葉「毎日疲れて帰って来て、1人で大掃除する気になれる?」

千鶴「あー」

ほたる「なれないです」

裕美「それは無理」

泰葉「力仕事も結構あるけどみんな疲れてるから手伝い頼むこともできないし、自分もヘトヘトで明日も仕事あるから早く休みたい」

ほたる「た、確かに……」

千鶴「ふつうの掃除する気力もないかもね」

6: 23/01/11(水) 20:31:40 ID:f4KU
泰葉「30日と大晦日。目が回るほど忙しいお仕事から帰ってきて部屋が散らかってると、めちゃめちゃテンションが下がるよ……」

裕美「うわあ」

千鶴「実感こもってるなあ」

ほたる「せめてすっきりした気持ちでお正月を迎えたいです……!」

泰葉「疲れた身体で、せめてお正月は綺麗な部屋でと思っても、疲れてるからろくにお掃除できないし、そのくせ汚れたところがやけに目について」

裕美「リアルに想像できる」

泰葉「クリスマスにあちこちから届いたプレゼントの包装を解くこともできずに正月3日を迎えたことがあるよ、私」

ほたる「うわあんうっすら埃をかぶってそう」

泰葉「実際かぶってたね! ……まあそういうわけで、ちょっと早かろうが気力があるうちに年始までのぶん掃除しておいたほうがいいんだよ、絶対に」

7: 23/01/11(水) 20:35:48 ID:f4KU


裕美「確かに、そう考えると早くに済ませておいて正解だったかも」

千鶴「4人でやったからけっこう楽勝だったしね」

泰葉「それに、いちどこういう暮れらしいことをやってみたかったんだよね」

ほたる「大掃除、しなかったんですか?」

泰葉「晦日正月は収録が立て込んでて目が回るほど忙しかったし。普段はお掃除の業者が入ってたし」

千鶴「ふむふむ」

泰葉「ところが暮れから正月はそういう業者も休みになって掃除が滞るし、かといって子供1人であのマンションの掃除は荷が重いし……」

裕美「子役時代の泰葉ちゃんからは隙あらばわびしいエピソードが出てくる……」

泰葉「だから今回はみんなで大掃除できてよかった。友達のお部屋の掃除っておもしろいね、ふふふ」

千鶴「楽しかったなら何よりだけど」

ほたる「でも、どんなところが楽しかったんですか」

8: 23/01/11(水) 20:39:27 ID:f4KU




泰葉「まず4人でわいわい騒ぎながらお掃除するのが楽しかったし、あと、それぞれの部屋に個性があっておもしろかった」

千鶴「なるほど」

泰葉「裕美ちゃんの部屋を掃除してるとあらゆる隙間からビーズが出てくるし」

裕美「ううっ」

千鶴「あ、うちの部屋も時々出てくるよ」

ほたる「お部屋の隅からビーズが出てくると、ああ、裕美ちゃんが遊びにきてくれてたんだなあってあったかい気持ちになります(ほっこり)」

泰葉「わかる(ほっこり)」

9: 23/01/11(水) 20:44:55 ID:f4KU
裕美「まるで私がいつでもどこでもビーズこぼしてるみたいだあ」

泰葉「まあビーズなんて落ちてもなかなか気付かないものだろうし」

裕美「いつも気をつけてるんだけどなあ」

ほたる「わ、私が箱ごとぶちまけちゃったこともありますし」

千鶴「ほたるちゃんはほんと気をつけようね」

ほたる「はい……」

泰葉「で、ほたるちゃんのお部屋は物を動かすのが大変」

千鶴「ああ、大変だったね」

10: 23/01/11(水) 20:56:56 ID:f4KU
裕美「普段のお泊まりでは気付かなかったけど、固定できるものはなんでも固定してあるんだよね」

ほたる「だって何か起きたときに不幸にも倒れて来たら誰か怪我させちゃうかも」

泰葉「自分が怪我する可能性は度外視なのがほたるちゃんらしいと思った」

ほたる「ううう」

裕美「家具の固定具ってあんないろいろあるんだね。私、知らなかったよ」

千鶴「大きな地震っていつか来るものだし、私たちもほたるちゃんをお手本に少し安全対策を考えたほうがいいかもね」

泰葉「賛成」

裕美「さんせい」

泰葉「で、千鶴ちゃんの部屋は……(ミマワシ)」

(キラキラキラ)

泰葉「とにかく綺麗で掃除し甲斐がなかった……!

ほたる「それ!」

裕美「だよね!!」

11: 23/01/11(水) 21:00:05 ID:f4KU

千鶴「そ、そんなにかなあ」

泰葉「あんまり綺麗で箒かけるのがなんだか申し訳ないレベルだった」

裕美「とにかく何一つ散らかってないし」

ほたる「どこもかしこもぴかぴかだし」

泰葉「たんすの中までぴしーっとしてるし」

千鶴「ふ、普段からちょっとずつお掃除してるだけだよ。別に大したことは……」

泰葉「聞きましたかみなさん。出来る人はこういうことを言うんです」

ほたる「しかと聞きました」

裕美「GBNSいちのお嫁さんぢから!」

千鶴「もう、からかわないの。それより、早く泰葉ちゃんのマンションお掃除に行こう? お掃除の時間がなくなっちゃうよ」

裕美「あ、そうだね。日頃の感謝を込めて」

泰葉「日頃の感謝て」

12: 23/01/11(水) 21:06:27 ID:f4KU

ほたる「私たちしょっちゅう遊びに行ってますし」

裕美「隙あらばお泊まりするしね」

千鶴「おかげで荷物も増えちゃったし」

泰葉「それは確かに」

ほたる「いつお泊まりすることになってもいいように一式置かせてもらってます」

裕美「私も」

千鶴「それでも全然広いもんね。あのマンション、いつから住んでるんだっけ」

泰葉「小学校の……えーといつからだっけ」

裕美「小学生があのマンションに1人で!?」

千鶴「あー、だから業者に掃除お願いしてたんだ」

泰葉「子供が1人で掃除するのちょっと無理があるしね。そういうわけで、今日は本当にありがと。ちゃんと掃除はしてるけど、やっぱり細かいところがね」

裕美「まかせて!」

千鶴「じゃ、行こうか」

(ピロン♪)

13: 23/01/11(水) 21:20:12 ID:f4KU

ほたる「(スマホ確認中)……ねえねえ、泰葉ちゃんちに行くの、寮の食堂に寄ってからにしませんか? 菜々さんがおぜんざい作ってくれてるって!」

泰葉「賛成」

千鶴「賛成」

裕美「賛成!」

14: 23/01/11(水) 21:20:25 ID:f4KU


~12月25日15時・移動中バス車内~

ほたる「はー」

泰葉「ふー」

裕美「はー……」

千鶴「菜々さんのおぜんざいってどうしてあんなに美味しいんだろうね」

ほたる「ね」

泰葉「なんだか、『ああ、これこれ』って味がするよね」

裕美「解る。私、お母さんが作ってくれるおぜんざい思い出しちゃった」

千鶴「17歳なのにけれん味のないしっかりしたお味で、凄いよねえ……」

泰葉「ソウダネスゴイネ」

裕美「なんで泰葉ちゃんはそこで目をそらすの?」

15: 23/01/11(水) 21:21:58 ID:f4KU


泰葉「気にしないで……それより、ちょっと出るの遅れちゃったね」

ほたる「おぜんざいと引き替えならしょうがないです」

千鶴「まあ今日はお泊まりさせてもらう予定だし、ちょっとぐらい問題ないよ」

ほたる「今年最後のお泊まりですね」

裕美「大掃除の成果を台無しにしないようにお泊まりしなくちゃ」

泰葉「……あーあ、ここから正月特番まで4人で会えないのかあ」

裕美「アイドルになって知ったけど、むしろ新年より大晦日までが忙しいよね……!!」

千鶴「大掃除と同じだよ。今年のうちに色々済ませて、ゆっくりお正月したいじゃない」

ほたる「私も明日の収録で茄子さんと『あけましておめでとうございます!』って言う予定です」

泰葉「あはは」

16: 23/01/11(水) 21:24:54 ID:f4KU
裕美「そういえば、みんなは新年帰省しないの?」

千鶴「今年は両親と祖母がこっちに出てくるから帰省は無し」

ほたる「私は三が日が終わってからの予定です」

千鶴「三が日はチケット取れないもんね」

泰葉「私も三が日が終わってからの予定。がっかりさせちゃ悪いからね」

裕美「そうだね。お父さんお母さんもきっと泰葉ちゃんに会いたいだろうし」

泰葉「や、それもあるんだけど」

裕美「?」

17: 23/01/11(水) 21:27:39 ID:f4KU
泰葉「親戚の子がお年玉楽しみにしてるからさ。毎年この時期になると殊勝なメールくれるんだこれが」

千鶴「泰葉ちゃん、お年玉あげてるの!?」

泰葉「そりゃまあ、あげてるよ。帰省の時に会えた子にはね」

ほたる「えー」

裕美「えー」

泰葉「二人は何をそんなに不満げなの」

裕美「だって……ねえ」

ほたる「うん」

泰葉「はっきり言いたまえよ」

18: 23/01/11(水) 21:27:52 ID:f4KU


千鶴「まあ並の大人より稼いでるんだから解らないでもないけど、ご両親や親戚の方はいやな顔しないものなの?」

泰葉「事前に相談して問題のない金額に調整してあるし、だいぶ長いこと岡崎一族の稼ぎ頭は私だからなあ。むしろ稼いでるのにお年玉あげないと陰で色々言われるかも」

千鶴「うわあ」

泰葉「まあ、あんまりやらしい親戚は両親が出禁にしてくれてるし。円滑な親戚づきあいには必要な出費ってあるもんだよ」

ほたる「泰葉ちゃん、十歳ぐらいサバ読んでませんか?」

泰葉「突然失礼だなあ、菜々さんじゃあるまいしそんなことするわけ」

裕美「?(なんでそこで菜々さんがでてくるか解ってない顔)」

ほたる「?(なんでそこで菜々さんがでてくるか解ってない顔)」

19: 23/01/11(水) 21:32:14 ID:f4KU

泰葉「えーあーとにかく正真正銘の16歳ですサバ読んでませーん」

千鶴「時々何歳かわかんなくなるけどね」

泰葉「千鶴ちゃんまで!?」

千鶴「だって年末が近づいてくると泰葉ちゃんの出演作品がかかる機会が増えるじゃない」

ほたる「あ、たしかに」

裕美「映画にドラマに、いろいろテレビにかかるよね」

千鶴「十歳の泰葉ちゃん、女子高生役の泰葉ちゃん、年齢不詳のお姫様の泰葉ちゃん、二十歳設定の泰葉ちゃん。いろいろ見てると、あれ、本当は何歳だっけって思ったりする」

泰葉「まあ確かにいろんな年齢の役やったからなあ」
裕美「うんうん」

泰葉「どんな年代の人でも研究すればしっかり演じられる自信はあるけど、今の自分が自分らしいかはともかく、16歳らしいかって言われたら……どうなのかな。わかんないや」

千鶴「めちゃくちゃ年上好みでプロデューサーさんにぞっこんだしね」

泰葉「今それ言う!?(///)」

20: 23/01/11(水) 21:34:20 ID:f4KU
~12月25日16時・泰葉マンション前~

泰葉「はー、やっとついたー」

裕美「ひどい渋滞だったねえ」

ほたる「もしかして私のふこ」

千鶴「はいほたるちゃんそこまで。早く入って、しっかり大掃除済ませちゃおう」

ほたる「はーい……あれっ」

泰葉「どしたの」

ほたる「泰葉ちゃんの部屋の前に荷物が置いてあります」

千鶴「あ、ほんとだ。すごく立方体」

泰葉「あ、よかった、間に合ったんだ」

裕美「泰葉ちゃんが頼んでた荷物なの?」

泰葉「うん。年賀状」

21: 23/01/11(水) 21:36:23 ID:f4KU
千鶴「年賀状? こんなに!?」

泰葉「子役時代やアイドルになってからのお世話になった人、スタジオや業者さん、いろいろあるからね。千鶴ちゃんたちの分もちゃんとあるよ」

千鶴「それはうれしいけど」

泰葉「今年は印刷所さんにお願いするのが遅れちゃって、今日届くかどうかギリギリだったんだよね。間に合ってよかったあ……ね、ごめん、暗くなる前に投函しちゃいたいから、悪いけど先に印刷のチェックさせてもらっていい?」

千鶴「いいけど ……」

ほたる「……」

裕美「……」

22: 23/01/11(水) 21:38:33 ID:f4KU


~12月31日18時・某音楽番組収録スタジオ~

ほたる「泰葉ちゃん、こっちこっち」

泰葉「あ、ほたるちゃんおはよう。ちゃんと元気してた?」

ほたる「もちろんです。毎日しっかり食べて早寝してます」

泰葉「うんうんそれでこそだよ」

ほたる「まあ正直目が回るほど忙しいですが!!」

泰葉「あはは、何よりじゃない」

ほたる「ミスフォーチュン・テリングが年末年始に引き合いがあって、毎日あちこちの大きな神社仏閣でロケしてます」

泰葉「そういう『ここ』って色を持ってるユニットはこの時期強いよねえ」

23: 23/01/11(水) 21:41:36 ID:f4KU
ほたる「GBNSのお仕事もどんどん増えるといいなあ……あ、それより、泰葉ちゃんも元気でしたか? 忙しさなら私よりずっと」

泰葉「まあ、例年のことだから自己管理は完璧ですよ」

ほたる「さすが泰葉ちゃんです……あ、忘れないうちに、これ千鶴ちゃんから差し入れの混ぜご飯とお酢の物」

泰葉「やったー! 酢の物のタッパーが大きいー!!」

ほたる「胃に優しい感じにしてあるからって言ってました」

泰葉「ケータリングばっかりで実際ちょっと胃が弱ってたの。ありがたいなあ。千鶴ちゃんは絶対いいお嫁さんになるよね」

ほたる「いい旦那さんと巡り会って幸せになってほしいです」

泰葉「ね。悪い虫が近づかないように……あっ(起立)」

24: 23/01/11(水) 21:50:46 ID:f4KU
ほたる「?」

泰葉「ほたるちゃんも立って(小声)」

ほたる「? は、はい」

大物演歌歌手「きゃー、泰葉ちゃん、お久しぶりー!」

泰葉「お久しぶりです。なかなかご挨拶に伺えず不義理をしてしまって」

大物演歌歌手「いいのよ。方向転換で今大変なんでしょ。大事な時期なんだからしっかり取り組まないと」

泰葉「はい。ありがとうございます」

大物演歌歌手「必要なときは力になるから、頼りにしてね」

泰葉「はい。その時は必ずご相談にあがります」

大物演歌歌手「そう言ってなかなか頼りに来てくれないんだから、もー」

ほたる(すごい。紅白でトリを歌うような人とお話してる……)

25: 23/01/11(水) 21:55:54 ID:f4KU
大物演歌歌手「……隣の子は、アイドルの同僚?」

泰葉「はい。同じプロダクションでユニットを組ませてもらっている、白菊さんです」

ほたる「し、白菊ほたるです。初めまして(カチコチ)」

大物演歌歌手「そんなに固くならないで……泰葉ちゃんをお願いね」

ほたる「は、はい!!」

大物演歌歌手「それじゃあ打ち合わせがあるから私はこれで行くけど……泰葉ちゃん。今年も受け取ってくれないの?」

泰葉「はい。すみません。やっぱりこれだけは」

大物演歌歌手「変わらないのねえ、そういう潔癖なところ。それじゃ、来年は一度ウチを訪ねてきてね」

泰葉「はい、折を見て必ず」

大物演歌歌手「それじゃね(歩いていく)」

26: 23/01/11(水) 21:59:04 ID:f4KU
ほたる「……はー、びっくりしました……!!」

泰葉「こういうの大事な世界だから、ほたるちゃんも素早く気づけるようになろうね」

ほたる「はい。でも凄いなあ。やっぱり、オーラがありましたねオーラ」

泰葉「それは確かに。長年この世界でやって来た人は、演技でも歌でも他と違った風格があるよね」

ほたる「泰葉ちゃんのオーラを十倍ぐらいにしたかんじでした」

泰葉「なにおう」

ほたる「ほめてるのにい……ところで」

泰葉「?」

ほたる「あの方、何のことを仰ってたんですか? 今年もとかなんとか」

泰葉「ああ、それはね……」

27: 23/01/11(水) 22:02:12 ID:f4KU
~1月1日11時・某芸能プロダクション事務所~

ふりそで泰葉「明けましておめでとうございます、プロデューサーさん♪」

P「うん、明けましておめでとう……あれ、今日は現場のほうに直行の予定じゃなかったっけ」

泰葉「はい。だけどプロデューサーさんに振り袖見せたくて顔を出しちゃいました(クルーリ)」

P「うん、似合ってる似合ってる……よかった、スケジュール失念してるのかと思って一瞬焦っちゃったよ」

泰葉「あはは……ちょっとお疲れみたいですね」

P「年末で仕事がえらいことだったというのもあるけど、疲れが取れなくてなあ」

泰葉「忘年会ですか」

P「忘年会だよ。つき合いも広いし、今年は4回やった」

泰葉「うわあ」

P「ガス抜きにはなるんだが胃腸は弱るし帰るのが深夜になるから掃除する暇もなくてなあ」

泰葉「あー……」

P「毎年のことだけどだんだん掃除が行き届かなくて汚れてく部屋に帰って寝るのって気が……なに笑ってるの」

泰葉「いえ、つい先日ほたるちゃんたちに同じような話をしたと思って」

28: 23/01/11(水) 22:05:16 ID:f4KU

P「さすが岡崎先輩、経験済みだったか」

泰葉「ぐちゃぐちゃの部屋で目を覚ますと、それだけで半日分ぐらい疲れる気がするんですよね」

P「解る。来年は俺も早めに掃除を……おっと、そうだった(ごそごそ)」

泰葉「?」

P「明けましておめでとう。はい、泰葉にお年玉だ」

泰葉「えっ」

29: 23/01/11(水) 22:05:30 ID:f4KU
P「たいした額でもないけど、まあ一応……なんだ鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

泰葉「いえ、あの……その」

P「うん」

泰葉「貰えるとは、思って、いなかったから」

P「そうだってな」

泰葉「……あっ、ほたるちゃんですね。ほたるちゃんから密告があったんですね!?」

P「いや、3人からだよ。ほたると裕美と千鶴が昨日どなりこんで来てな。泰葉にお年玉をあげてくれって」

泰葉「ええええ」

30: 23/01/11(水) 22:12:20 ID:f4KU

:~回想始め・12月31日21時~

ほたる「プロデューサーさん、泰葉ちゃんにお年玉をあげてください!」

裕美「さい!!」

P「なんだなんだ急にまだ仕事残ってるのに」

千鶴「ごめんなさい、緊急の用件だったので」

P「お年玉が?」

裕美「お年玉がです」

千鶴「さっきほたるちゃんから通報があって、これは一刻も早くプロデューサーさんにお願いすべきだと」

ほたる「そういうわけなんです」

P「だけど泰葉だぞ? 俺の何十倍も稼いでる子にお年玉って言うのもちょっと」

ほたる「お金の問題じゃないんですよ、プロデューサーさん」

P「いや、お金の問題だろうお年玉は」

31: 23/01/11(水) 22:12:37 ID:f4KU


裕美「みんながそんな事言ってるから、泰葉ちゃんはこの十年ぐらい誰からもお年玉をもらってないんだよ!」

P「えっ」

千鶴「どうも色々聞くと、そうらしいんです。実家ではむしろ泰葉ちゃんは配る立場だし」

P「いやでも、もらってるだろう。泰葉は大御所さんから可愛がられてるし、そういうとこからたぶんごっそりと」

ほたる「断ってます」

P「えっ」

ほたる「全部断ってます」

32: 23/01/11(水) 22:16:25 ID:f4KU

千鶴「大御所さんからのお年玉は、全部断るようにしてるらしんいです。ギョッとするよう額をポンとくれちゃうから、こういうのが当たり前になるのは良くないって」

P「ああ、泰葉ならそうか……」

ほたる「みんなが大御所さんから貰ってるだろうからって、たくさん稼いでるだろうからって考えて、その結果泰葉ちゃんはこの十年誰からもお年玉を貰っていないんです」

P「oh……」

33: 23/01/11(水) 22:18:47 ID:f4KU

裕美「そういうわけだからプロデューサーさん、泰葉ちゃんにお年玉をあげて!」

ほたる「多すぎず少なすぎず負担にならずちょうど喜びやすいかんじの金額で、是非!」

P「地味にハードル高いなそれ! ……しかしなあ」

千鶴「なんですか」

P「ぶっちゃけ、喜ぶのかな、泰葉に年玉あげて……特別な収入があって、いつも手が届かない物が買える。お年玉のうれしさってそういうものだろう? 泰葉がお金を貰って喜ぶだろうか」

裕美「だから、お金の問題じゃないんだってば」

P「だからお金だろう、お年玉は」

ほたる「お金じゃないですよお年玉は」

P「えっ」

:~回想終わり~

34: 23/01/11(水) 22:24:14 ID:f4KU


泰葉「……お金じゃなかったら、お年玉は何だって言うんですか」

P「お年玉は『体験』だろう、って言うんだよ」

泰葉「……」

P「お年玉をくれた、貰った。それで何を買うか考えた。泰葉がそういう体験する機会を奪われてるのはなんかやだ、ってな」

泰葉「……」

P「凄くたくさんの人に年賀状を出して、親戚の子にお年玉をあげる用意をして、現場では大御所さんが近づいてくるにの誰より早く気がついて。16歳ですって言いながら、暮れの泰葉は当たり前のように大人だったって」

泰葉「でも、それは」

35: 23/01/11(水) 22:24:29 ID:f4KU
P「うん。それは、泰葉が今まで積み上げてきたものだ。それが可哀想だ、なんて言うのは侮辱だと思う」

泰葉「……はい」

P「だけどそれは、『体験』がなくてもいい理由にはならないだろう?」

泰葉「……16歳ですよ。高校生ですよ。お年玉貰うには、もう大きいんじゃないかなあ、私」

P「そう思うのもまた、体験なんじゃないかな。貰うの嫌か?」

泰葉「……いいえ、いいえ」

P「じゃ、改めて貰ってくれるか、お年玉。まあ大した額じゃないんだが」

泰葉「……ふふ。お金じゃないですよ、お年玉は」

P「ははは、そうだな」

36: 23/01/11(水) 22:28:12 ID:f4KU
~1月4日夜・泰葉マンション~

パジャマ泰葉「もー! みんなのお節介ー!!」

パジャマ裕美「ごめんなさい」

パジャマほたる「ごめんなさい」

パジャマ千鶴「ついカッとしてやりました。後悔はしていません」

泰葉「言ってないこといろいろ知られててめっちゃくちゃ恥ずかしかったよ」

裕美「……怒った?」

泰葉「……怒ってるわけないじゃない」

37: 23/01/11(水) 22:28:30 ID:f4KU
ほたる「……なんだかね、嫌だったんです」

泰葉「うん」

ほたる「お正月の泰葉ちゃんは、当たり前のように『大人の側』で。子供の、私たちのお正月は関係ないって顔をしてる。それがなんだか、嫌だったんです。私たちの側で、私たちと一緒に、お正月をしてほしかったんです……わがまま、だけど」

泰葉「……ありがと」

38: 23/01/11(水) 22:31:58 ID:f4KU

裕美「まあ結局お仕事お仕事で、集まってゆっくりお正月できたのもようやく今日になってからだけどね」

千鶴「仕方ないよ。私たちアイドルだもの」

ほたる「……みんな、そうなって行くんでしょうか。お正月は仕事が当たり前で、あつまったり、喜んだりなんて考えなくなる。いつかそれが当たり前になるんでしょうか」

泰葉「なるかもね」

裕美「……」

39: 23/01/11(水) 22:34:47 ID:f4KU
泰葉「芸能界は年末年始関係なく動き続ける大きなシステムだ。その中にいる限り、私たちは世間の人に『明けましておめでとうございます!』って笑いながら忙しく走り回るのが当たり前の暮らしをする。いつか忙しさが
情緒を追い越したら、お正月なんてカレンダーの上の赤い数字でしかなくなっちゃうかもね」

ほたる「泰葉ちゃん……」

泰葉「でも今は、みんなとお正月したいと思うよ。いろんなものを体験して、感じていきたいと思うよ」

裕美「うん」

泰葉「今はそれで、きっといいよね」

千鶴「……うん」

40: 23/01/11(水) 22:35:01 ID:f4KU


泰葉「だから、みんな、ありがと……このお年玉は記念に額に入れて取っておこうかな!」

ほたる「お年玉ですよ、使いましょうよ!」

裕美「せっかくの臨時収入なのにい」

泰葉「お金じゃないんだよ、ふふふ」

千鶴「お金は財布に入れて、ポチ袋だけとっておけば良いのでは」

泰葉「それだ!!」

41: 23/01/11(水) 22:42:31 ID:f4KU

泰葉(私たちは、笑いあった。一晩中他愛もない話をして、喜び合った)

泰葉(それは、感傷でしかなかったのかもしれない。忙しい日々、残酷な業界。その中で当たり前に消えてゆくものを、私は惜しんでいただけなのかもしれない)

泰葉(だけど私は、私たちは、そんなものを大事にしたいと思っていた。忙しいから。いつか気にしなくなるものだから。そんな理由でいろんな体験、いろんな気持ちを惜しまないのは、寂しいとおもった)

泰葉(一年の計は元旦にあり、なんて言う。もうその日は四日ほど過ぎてしまったけど、アイドルの私たちにとって今日が初めての正月休み。だから、今日を一年の計の日にしようと思う)

泰葉(だってみんなが私に思ってくれたことを、プロデューサーさんがお年玉をくれたときの気持ちを、今日私が感じたことを。たくさん抱えて今年を始めたいと思ったから……)

(おしまい)

42: 23/01/11(水) 22:42:42 ID:f4KU


~おまけ~

ほたる「きゃああああああ!?」

裕美「洗面所に行ってるほたるちゃんがすごい悲鳴を!?」

千鶴「どうしたのほたるちゃん!」

ほたる「せ、洗面所に、洗面所に、すごいでかい蟹が……!!」

すごいデカい蟹(ガサガサ)

泰葉「あー。大御所さんが贈ってくれた柳瀬水産の活き蟹が保冷ボックスから逃げ出したんだね」

裕美「ほたるちゃんをおどかすとはふとい蟹だ」

千鶴「これは明日のお昼ご飯は決まったね……」

(こんどこそおしまい)


引用元: 【モバマス】ほたる「プロデューサーさん、泰葉ちゃんにお年玉をあげてください!」裕美「さい!!」