850:クワズイモ ◆mwvVwApsXE   04/06/29 14:20 ID:LkrRqeP6
「あなたの後ろに・・・」

 大学に入学して最初に友人になったのはYというやつだった。
容貌は口は悪いがお世辞にもいけてるというわけではなくて、むしろ
没個性的と言うか目立たない感じだった。
始めの頃は同じ講義を聴き、ノートの貸し借りもしていたが5月頃から
彼は大学へは顔を見せず仕方が無いので俺が気を回して代返をする毎日だった。

 三か月が過ぎて本気で心配になった俺はとりあえずメールで最近どうしたのか?ノートをコピーしてあるので届けようか?と聞いてみた。
その日の夕方、メールボックスに彼からの返信が届いていた。
メールには勉強よりも面白いことがある。ナントカってやつと知り合いになった。
変わってて面白いやつらだからうちへ遊びにこいよ。
と言う内容だった。
まぁ、遊びに来い。って言うぐらいだから元気なのは間違い無さそうだ。と思った
俺は彼の住まいであるアパートへノートのコピーと途中で買った缶ビールを手に向かった。
時間は夜の11時を回っていた。
 
アンテン様の腹の中 5 (ジャンプコミックスDIGITAL)

853: 04/06/29 14:31 ID:LkrRqeP6
「あなたの後ろに・・・」続き

 彼の住むアパートに到着したのはいいが玄関の明かりは消えていて、音も
聞こえなかった。
「あの野郎!人を呼びつけておいて寝たのか!?ふざけやがって!」
俺は呼び鈴を押した。
壊れているらしく、何の音もしない。
仕方が無いのでドアを数回叩くと彼の声で入って来い。と言う声がした。
おじゃま・・・ゥプ!!
ドアを開けたとたん凄まじい異臭が鼻を突き刺す。
狭いアパートの台所はごみで埋め尽くされ、流しや冷蔵庫までごみが浸食していた。
「おい!なんだよこのざまは!!人を呼ぶぐらいなら片付けておけよ!」
俺は悪態をつきながら明かりの無い台所を通って彼の部屋に向かった。
明かりらしい明かりはついていなかった。
ただ、パソコンのモニターの明かりが照明のようなものだった。
一心不乱にモニターを睨みつけている彼。
時折、「生意気なやつだ。逝ってヨシ!なんなんだよ同じ名前で俺を煽りやがって!」
とぶつぶつつぶやく彼が正直怖かった。
「おい、Y来たぞ。これがノートのコピーで、ビール買ってきたから飲もうぜ。」
「あんまり暗い部屋でパソコンいじってると目に悪いぞ、おい!聞いてんのかよ!」
あまりの悪臭と空気のよどみ具合に俺もイライラして彼の方を揺すぶった。

854: 04/06/29 14:46 ID:LkrRqeP6
「あなたの後ろに・・・」最終章

 「うるせぇな!いま大事な所なんだよ。こいつらを黙らせなきゃ俺の気がすまねぇんだよ。」
と彼は取り付くしまもなくモニターに目を移す。
「ちくしょう、このDQNどもが!逝ってヨシ!ひひひ、釣れた釣れた」
彼はどうやら掲示板への書き込みに夢中な様子だった。
俺は後ろであっけにとられてしばらく彼を観察することにした。
買ってきたビールは結露してテーブルらしきものの上でその天板を濡らしていた。
彼は何かを書き込むとすぐに多分TAかルーターのスイッチを切る。
そしてまたスイッチを入れて何事かを書き込んでいた。
「ちきしょう、またジサクジエンかよ。うぜ~!しかもみんな同じコテハン使いやがって!」
ぶつぶつと儀式のようにスッチを切ったりいれたりしている彼の髪の毛はつやを失い
肌の色もモニターの照明効果も手伝っていっそう白くくすんで見えた。
「どいつもこいつもなにが『あなたの後ろに名無しさんが・・・』だよ。センスねーコテハン使いやがって!」
「なんだよ、このナントカイモって言うコテハンは。むかつく・・・・」
時折歯ぎしりをしながら俺のことは眼中に無いかのように彼はモニターを睨みつける。

 俺はこっそりと部屋を出た。
一応ノートのコピーは置いてきたが無駄だろう。
外の空気は新鮮だった。
夜風が気持ちいい。
俺は急いで自分の家へ足を速めた。
ここにはもういられない。今日はもう寝てしまおう。

数ヶ月後、彼の退学通知が学籍番号とともに大学の掲示板に貼られた。

922: 04/06/29 22:31 ID:LkrRqeP6

今度は父方の実家での昔の話。

「レンゲ畑」

-1-

 俺がまだ5歳の時のことでその頃はなんでそういうことが起きたか
わからなかったが、いま考えるとその訳が分かるような気がする話。
 父方の郷里は和歌山県。
内陸の方で海は無かったが周囲は田んぼが多く春になるとレンゲの花が
咲き乱れる素晴らしい所だった。
父の夏休みを利用して、父も久方ぶりに帰郷したのだと思う。
息子に故郷を見せてあげたかったんだろう。
折しも季節は春でレンゲ草が田んぼ一面に広がっていた。
写真もあるがここでの記憶はいまでもありありと心に再現出来るぐらい
幼心にとって天国のような記憶だった。
ただ、一つだけ当時は納得いかなかったことを除いては。

925: 04/06/29 22:43 ID:LkrRqeP6
-2-
 
 一面のレンゲ畑で父方の伯父と叔母、従姉妹と4人で夢中で花を摘んだ。
従姉妹は手先が器用だったので花輪を作ってくれたり腕輪を作ってくれたり
と2人で大はしゃぎだった。
その内、俺は広いレンゲ畑を真ん中の方まで花を摘み摘み歩き回っていた。
レンゲの花の蜜は甘いことも知った。
遠くに伯父叔母、従姉妹が見える場所まで来て流石にちょっと遠くまで来て
しまった。と思った俺は戻ろうと両手一杯のレンゲ草を抱えて元来た道を
引き返していこうとした。
ふと、背後に目をやるとそこにさっきまでは居なかった筈の人が居た。
詳細までは覚えていないが青のワンピースを着た女性だった。
「僕?その花お姉さんにくれるかな?」
そう問いかけられた。

927: 04/06/29 22:45 ID:LkrRqeP6
-3-

 俺は両手一杯のレンゲのうち半分だけその女性にあげたと記憶している。
やはりこれだけ摘んだのだから全部は惜しかったのだろう。
女性は、
「ありがとう。僕は一人かな?」
と俺に尋ねた。
首を縦に振って一人だということをアピール。
正直な話、お姉さんが奇麗だったのでませガキの俺はその頃からこんな調子だった。
お姉さんは俺がどこから来たのか、とかいくつだ、とかいろいろな事を質問した。
お姉さんも手先が器用で花輪とかネックレスだとかを作ってくれた。
少し奇妙だったのは、お姉さんの匂いが土のような湿った匂いがしていたことが
子供心に変だと思った。
「あっちへ行こうか?」
お姉さんは田んぼの真ん中にあるちょっとした木立を指差して俺を促した。

928: 04/06/29 22:46 ID:LkrRqeP6
-4-
 
 もちろん、俺はウェルカムだった。
お姉さんは俺の手をぐいと掴んでさっきとは違う力を込めた感じで俺の手を引いて行った。
お姉さんの豹変ぶりに俺は驚いたんだろう。
その手を振りほどこうと手を上下に振った。
しかし、俺を引っ張る力はますます強くなり、ずんずんと田んぼの木立に向かってお姉さん
は進もうとする。
「おじさんにきいてからにするからはなして」
と俺はお願いをした。
お姉さんは最初は聞いてくれなかったが、何回か訴えるとしぶしぶ手を離し俺を解放してくれた。
俺は伯父さんのいる土手へと走って行った。
レンゲを蹴散らし少し怖かったので急いで走って行った。

929: 04/06/29 22:47 ID:LkrRqeP6
-5-

 伯父さん叔母さんにいまあった事の顛末を子供言葉で話すと伯父叔母は家に戻ろう。
と言った。
俺と従姉妹は遊び足りないので最初はぐずったが伯父叔母の様子が真剣なので仕方なく
家へ戻った。
伯父は従姉妹にプリンを与え、俺の手を引いてまた外に出た。
叔父と一緒に田んぼのあぜ道を歩いた。
そういえばお姉さんは見当たらなかった。どこにいったんだろう?
そう思いながら伯父に手を引かれるままにあぜ道を歩いた。
向かう先はさっきの木立だった。
木立の正体は墓地だった。
田舎によくある二~三の墓地が固まっているようなそんな感じの墓地だった。
伯父はどこから出したのか線香に火をつけ墓に供えて手を合わせた。
俺も一緒になって手を合わせた。
見ると、墓の周りはレンゲで一杯だった。

930: 04/06/29 22:48 ID:LkrRqeP6
-6-

 ひときわ大きなレンゲの塊と花輪が地面に半分埋まっていた
「K、あのお姉さんは人じゃねんだ。お化けだ。お前連れてかれるとこだったんだぞ」
伯父はそう俺に話すとレンゲ遊びはもう今日はやめだ。家でおいしいご飯を食べよう。
とまた元来たあぜ道を俺の手を引いて家へ帰って行った。
「お化けだったの?あのお姉さん?」
と道すがら伯父に聞いたが伯父は煙草を呑みながら何も答えてくれなかった。
その日の晩ご飯は父も驚くぐらい御馳走だった。
夢中でたくさん食べて腹一杯で寝た。
多分いま思うに御馳走でその日の事を忘れさせようとしたんだと思う。
夢の中にはあのお姉さんが出てきた。
ひどく残念そうな顔のお姉さんは「またね」と夢の中で俺に話しかけてきた。
次の日はレンゲ遊びはしなかった。
代わりに伯父が海へ連れて行ってくれた。

氏ぬほど洒落恐じゃないかもしれないけど不思議でいま思うとちょっと物悲しい子供の時の
思い出話でした。
結局それ以降、レンゲ畑で遊んだ事は無かったです。
いまではマンションが建って、レンゲ畑は見る影も無いそうですがお墓はまだあるという事です。

-了-

932: 04/06/29 22:50 ID:LkrRqeP6
残念だったね、伯父さん。
俺まだ覚えてるよw。
お姉さんの顔も覚えてるよ。

っていうか、書いてて少し悲しくなってきた。


935: 04/06/29 22:53 ID:PMBh6bAZ
オモシロカタヨー。しかしこの手の話を読むと結構田舎の人ってなんつうか・・・共存してるよね。

945: 04/06/29 23:46 ID:lu7X+bJ5
>>930
ちょっと物悲しいどころか、怖いよ・・・
その女の人の素性は分からずじまいなの?

946: 04/06/29 23:57 ID:LkrRqeP6
>>945
うん。
わからないままだ。
伯父も答えてくれなかったし、聞き出そうといまでも酒飲ませたり接待w
してるんだけど未だに答えは無い。

ただ、
・この世の人ではない。
ってのは確かだし確信してる。
寂しかったんだろうねぇ。
俺と遊んでくれたし。
俺なりの答えは多分、無縁仏か供養に来てくれなくなった墓の主なんだろうと思う。
いまでもあの寂しそうな顔が忘れられないのよ。まじで。


947: 04/06/30 00:00 ID:pT7Bv0RZ
創作じゃなくて本当の話?なの?

948: 04/06/30 00:04 ID:8OGJoUuI
>>947
さらっと書くけどマジだよ。
嘘ついてもしゃーないよ。

いまでも、法事の席とか祝い事の席で話題になるよ。
お姉さんの正体についてはいまだ教えてくれないけどね。

引用元: 死ぬ程洒落にならない怖い話