1: 2020/04/26(日) 18:51:35.79 ID:237PaD0I0
――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「……ホントにいいんだね? 受けるって返事して」

高森藍子「はい。モバP(以下「P」)さんも、多分そういう理由で加蓮ちゃんにメッセージを送ったのだと思いますから……」

藍子「だから、ひとおもいにお願いしますっ」

加蓮「ふふ。なんかそれは違うでしょー。じゃあ、送るね」ピッ




レンアイカフェテラスシリーズ


2: 2020/04/26(日) 18:52:17.20 ID:237PaD0I0

3: 2020/04/26(日) 18:52:45.56 ID:237PaD0I0
前回のあらすじ:藍子のもとに、いろいろなカフェの店員さんから依頼が来たみたいです。

※時間軸として、前回のそのまま続きとして読んで頂ければ嬉しいです


加蓮「送信完了っと。……さ。これで藍子、やっぱりできませんとは言えなくなったよ?」

藍子「……う。加蓮ちゃん。意地悪」

加蓮「だってさー。中身もまだ何も決まってないのにとりあえず受けるって藍子が言うし」

藍子「それはっ」

加蓮「度胸があるってことと、無鉄砲なことって違うと思うけど――」

藍子「……、」

加蓮「ふふ。ううん、分かってるよ。逃げたくないもんね。こーいうのって」

藍子「……」コクン

加蓮「色んな店員さんが藍子にお願いって言ってくれて、Pさんも乗り気だし? 逆に藍子が受けないって言ったら私が全力で説得してたところだもん」

藍子「……加蓮ちゃんなら、私がそう言わないって分かっていたんじゃないですか?」

加蓮「どうだか?」

4: 2020/04/26(日) 18:53:14.77 ID:237PaD0I0
加蓮「さてと。コラムかぁ……」

藍子「『私たちの時間』がテーマ……。お散歩でもなく、カフェでもなく。私たちの時間……」

加蓮「そして、それ以上の指定はなしっと。文章量とか、絶対に入れないといけないワードとかも何も。決まってないことが多すぎるんだよね」

藍子「後で、Pさんから指定される感じでしょうか」

加蓮「かもね。どうする? とりあえず何書くかとか決めてく?」

藍子「……そうですね。今日はまだ時間がありますし――あ、加蓮ちゃんはお時間大丈夫ですか?」

加蓮「もちろん?」

藍子「よかった」

5: 2020/04/26(日) 18:53:44.56 ID:237PaD0I0
加蓮「いくらでも付き合うよ。藍子のことだもん。しかもアイドルのこと」

加蓮「これが例えば藍子の愚痴とかお悩み相談だったら、1時間くらいで切り上げちゃうけどー?」

藍子「え~っ。そこはせめて、2時間くらいお願いしますっ」

加蓮「それ結局だらだら喋って1日潰れるヤツじゃん。藍子ごときが加蓮ちゃんの時間を奪おうなんて、何年か早いよっ」

藍子「……でも、そういう出来事って今までに何回かあったような?」

加蓮「うん?」グニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ」

6: 2020/04/26(日) 18:54:14.43 ID:237PaD0I0
……。

…………。

藍子「う~ん……」

加蓮「……手詰まりになるの早くない? まだアイディア出しの段階なのに」

藍子「う~ん…………」

加蓮「コラム書くの久しぶりだから書き方忘れちゃった? って言ってもそれは私もだけど」

加蓮「助っ人――はホントのホントに最終手段……いやでも藍子がマジで困ってるなら……」

加蓮「むー……」

藍子「う~ん……」

加蓮「……、」

藍子「……、」

7: 2020/04/26(日) 18:54:44.31 ID:237PaD0I0
加蓮「……ふふっ」

藍子「?」

加蓮「ううん。2人で辛気臭い顔しててもいいことなんてないよね、って思って。ほら、今までは藍子が前を向かせてくれたんだし、今回くらいは私がね?」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「これで借りもちょっとは減らせる?」

藍子「……もう。そういう考え方は、好きじゃないですっ」

加蓮「ふぅん? いいの? ここで貸しを作っておけば、今度加蓮ちゃんの写真をいっぱい撮れるかもよ?」

藍子「えっ」

8: 2020/04/26(日) 18:55:14.16 ID:237PaD0I0
加蓮「アイドルモードの時はもちろん、プライベートの写真まで」

藍子「う……」

加蓮「今ならなんと、加蓮ちゃんに許可を取らなくてもよしとする!」

藍子「なっ!」

加蓮「でも1日ずっと、ってなると私もちょっとアレだから……よし。じゃあ藍子、1時間の間だけ、どんな写真でも撮っていいよって言われたら? それを誰に見せても怒らないよって言ったら?」

藍子「うううぅ……!」

加蓮「ほら、それでも貸し借りは嫌だからいいですって言える? この提案、藍子ちゃんは断れるかなー??」

藍子「ううううううぅぅ……!」

加蓮「くくくっ」

藍子「……加蓮ちゃんのばかっ」

加蓮「あっはははははっ!」

9: 2020/04/26(日) 18:55:43.77 ID:237PaD0I0
加蓮「ま、今のは冗談。……いや別に今後一切写真を撮らせてあげないって意味じゃないから。そこまで表情凍らせて氏んだ目でこっち見なくても……」

加蓮「ずっと前に言ったもんね。そーいう貸し借りみたいなのはなしにしようって」

加蓮「奢って奢られてっていうのをやめた頃だったっけ?」

藍子「もぅ……。今のお話って、なんだったんですか」

加蓮「ちょっとくらい辛気臭いのをどうにかしようと思って?」

藍子「……あ」

加蓮「私はこーいう方が得意っていうか好きだもんね。変にシリアスコーナーをやるより?」

藍子「……くすっ。それを、加蓮ちゃんが言うんですか?」

加蓮「加蓮ちゃんだから言うんです」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃんだから言えること……」

加蓮「そーそー」

藍子「私だから言えることも、あるのかな……?」

加蓮「いっぱいあるよ。だから、それを探していくんでしょ?」

10: 2020/04/26(日) 18:56:14.38 ID:237PaD0I0
……。

…………。

藍子「時間、なんですよね。私たちの時間……」

加蓮「どう? 書くこと決まりそう?」

藍子「ううん。まだ、ぜんぜん」

加蓮「そっか」

藍子「……あの、ごめんなさい。加蓮ちゃん。付き合わせてもらっているのは、私の方ですけれど――」

加蓮「ん?」

藍子「できれば、あんまり急かさないでください。今はまだ、ゆっくり考えたいんです……」

藍子「あの、途中でじれったくなっちゃったら途中まででもいいですから。……その、」

加蓮「……、」

藍子「……」

加蓮「……」ナデナデ

藍子「ふぇ?」

11: 2020/04/26(日) 18:56:44.28 ID:237PaD0I0
加蓮「ううん。分かった。ごめんね? ちょっと焦っちゃってた」

藍子「いえ、私の方こそ……。やっぱり、加蓮ちゃんから見たらのろまに見えちゃいますよね」

加蓮「そう思ってたら付き合ってあげてないし、っていうかそもそも」(頭を撫でている手をチョップの形に変える)

加蓮「うりゃ」

藍子「きゃ」

加蓮「あのね、藍子。……確かに藍子はノロマで人より色々遅くて焦れったいなって思うこともあるけどさ」

藍子「そこまで言わなくてもっ」

加蓮「言わせてるのは藍子なの!」

藍子「どういうことですか!」

加蓮「人に散々散々自分のことを悪く言うなって言っておいて。自分がそれを言ってどーすんの?」

藍子「……!」

12: 2020/04/26(日) 18:57:14.33 ID:237PaD0I0
加蓮「あのね。……私だって、まぁ……自分が強いとまでは言わないけど、私はまだそういうことに慣れてるっていうか……」

加蓮「ううん。もちろん、だから藍子の言うことなんて無視しようってことじゃなくて」

加蓮「私はまだダメージ少ないけど、藍子はそうじゃないでしょ? ってこと」

加蓮「いい? 自分がダメだと思いこんでも碌なことなんて無いんだからね」

藍子「……うん」

加蓮「よろしい。あと今日は何時間でも何十時間でも付き合う覚悟はしてるから。それ以上時間のことは気にしないでね」

藍子「はいっ」

加蓮「ま、カフェの都合はあると思うけど……。タイムキーパーくらいはやってあげる」

藍子「ありがとうございます、加蓮ちゃん」

13: 2020/04/26(日) 18:57:46.15 ID:237PaD0I0
藍子「……なんだか、今日の加蓮ちゃん、とても優しいですね♪」

加蓮「そう?」

藍子「うんっ」

加蓮「それを言うなら、今日の藍子は悩んでばっかりだね?」

藍子「う゛。もしかして、加蓮ちゃんが優しいのって、私が悩んでいるから……?」

加蓮「それ以外何があるんだか……」

藍子「そんな理由がなくても、普段から優しくしてくれてもいいのに」

加蓮「ヤダ」

14: 2020/04/26(日) 18:58:14.64 ID:237PaD0I0
……。

…………。

藍子「う~ん……」

加蓮「……。気になるのはさ、"私達の時間"って言い方だよね」

藍子「言い方?」

加蓮「だってさ、私達って明らかに藍子以外の人も入ってるじゃん」

加蓮「藍子の事を知りたいとか、ほら……前に話したような、藍子が見る世界とそれ以外の人が見る世界? の話とか、そういうことを話してほしいんだったら"達"とは言わないよね」

藍子「ふんふん」

加蓮「で、依頼主はカフェの店員さんが何人か、と」

藍子「……これって、"私たち"の……私以外の人って、加蓮ちゃんのことなんでしょうか?」

加蓮「多分。私達の行ったカフェの店員さんも依頼人に混じってるなら、その時私も一緒に行ってるもん。あと、私宛のファンレターとかでも、よく藍子の名前が入っちゃってるし?」

藍子「私のファンレターもそうですよ」

加蓮「ね。変な話だよねー」

藍子「そうですか?」

加蓮「変な話」

15: 2020/04/26(日) 18:58:47.42 ID:237PaD0I0
藍子「私は、もうずっと前から慣れちゃってるかもしれません」

加蓮「そう?」

藍子「週に1回、やらせてもらっている番組でも、よくスタッフさんから加蓮ちゃんのことを聞かれるんです」

藍子「いつも私が収録の前に、加蓮ちゃんのことをお話するようになって……」

藍子「最初は、加蓮ちゃんのことを知ってもらいたいな、とか、加蓮ちゃんのことをお話したいな、って思って、私の方からお話していたんですけれど」

藍子「いつの間にか、スタッフさんから話してくださいって言われるようになっちゃいました」

藍子「ふふ。スタッフさんみんな、加蓮ちゃんのファンなんですよ」

加蓮「へ、へぇー」

藍子「あっ。加蓮ちゃん、顔が赤くなってる♪」

加蓮「気のせい気のせい。それより今はコラムのこ――」

16: 2020/04/26(日) 18:59:14.38 ID:237PaD0I0
加蓮「……?」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「……うん。藍子。今の言葉撤回。気のせいじゃない」

藍子「???」

加蓮「何? 収録の前に私のことを喋ってたって? スタッフさん相手に?」

藍子「……あっ」

加蓮「何してんの??」

藍子「え、え~っと、だから、最近はスタッフさんからお話を求められるようになって、」

加蓮「そこじゃなくて! なんで収録前にシークレットみたいな扱いで私の名前出してんの!? しかも藍子の番組の現場でしょ? 藍子の話をしなさいよ!」

藍子「だってっ。それってもうずっと前のことで、その時は加蓮ちゃんがもっと色んな人と仲良くなれたらいいなって思ってた頃だから――」

加蓮「それでなんでスタッフさん相手にべらべら喋ってんのよ!」

藍子「べ、べらべらは喋っていませんっ。本当にちょっとしたことで――」

17: 2020/04/26(日) 18:59:44.52 ID:237PaD0I0
加蓮「もう。これじゃ藍子のとこのゲストに行きにくいじゃん……」

藍子「え~。そう言わずに、来てくださいよ。この前新コーナーも始めたんですよ。加蓮ちゃんと一緒にやりたいな~」

加蓮「……今の話聞いてハードル上がりまくってるけど?」

藍子「加蓮ちゃんなら、きっと飛び越えられますっ」

加蓮「原因のアンタが言うな!」

藍子「きゃ~っ」

18: 2020/04/26(日) 19:00:14.18 ID:237PaD0I0

□ ■ □ ■ □


藍子「う~ん……」

加蓮「……すみませーん。コーヒーをお願――あ、お願いします。えっと、オリジナルブレンドので……」

藍子「ん~……」

藍子「……?」チラ

加蓮「あーびっくりした……」

藍子「どうしたんですか?」

加蓮「注文しようと思ったら店員さんじゃなくて店長さんが来たから」

藍子「あ~」

加蓮「びっくりしたぁ……」

19: 2020/04/26(日) 19:00:44.25 ID:237PaD0I0
……。

…………。

加蓮「ずず……」

藍子「……ふうっ」コト

加蓮「そっか。藍子に依頼した店員さんの1人――」ブツブツ

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「なんでもない。で、相変わらず全然捗ってないみたいだけど?」

藍子「う……」

加蓮「聞くよ?」

20: 2020/04/26(日) 19:01:14.97 ID:237PaD0I0
藍子「……分からないことが、たくさんあるんです」

加蓮「分からないこと」

藍子「だから、どうしたらいいのか、きっかけもつかめなくて……」

加蓮「……分からないことっていうのは、私のこと? それとも藍子のことかな?」

藍子「ううん」フルフル

加蓮「じゃあ――」ズズ

藍子「……」

加蓮「ふうっ。コラムの書き方を忘れちゃった、とか!」

藍子「ううん」フルフル

加蓮「そっか。これも違うんだね」

藍子「…………」ズズ

21: 2020/04/26(日) 19:01:45.61 ID:237PaD0I0
加蓮「んー? うーん……」

藍子「ふう……」コトン

加蓮「依頼人の気持ち?」

藍子「!」

加蓮「あ、これが正解っぽいね」

藍子「たぶんそうだと思いますっ。って、自分のことなのに、たぶん、って言うのもおかしいですよね……」アハハ

加蓮「そういうものだよ」

藍子「そうでしょうか?」

加蓮「私だって、私のことって私より藍子の方が詳しいんじゃ? って思ったりするもん。たまにじゃなくて、何回も」

加蓮「で、じゃあ藍子には負けてられるかーってなるよね」

藍子「それって、どっちが加蓮ちゃんのことにより詳しいか、ってこと?」

加蓮「そうそうそう」

藍子「それを勝負するのが……加蓮ちゃんと、私? ふふっ。何ですか、それ~」

22: 2020/04/26(日) 19:02:15.65 ID:237PaD0I0
加蓮「自分のことは自分が一番よく知ってる! って意地張って、じゃあ自分って何だろうとか思って色々分析してみるの」

藍子「ふんふん」

加蓮「……そしたら過去のこととか捻くれてた頃のこととか、藍子と出会う前の自分とかばっかり浮かんできて……あー、ってなるよね」

藍子「え~……」

藍子「あっ、そういう時には、何か具体的に思い出せるものを用意するといいですよ」

加蓮「思い出せるもの?」

藍子「はい。例えば、加蓮ちゃんがLIVEしている時の映像や、前に着た衣装や――あっ、そうだ!」

藍子「加蓮ちゃんが前向きなことを思い出せるように、今度加蓮ちゃんの写真を入れたアルバムをあげますっ」

藍子「落ち込んでしまった時にも、これを開いたらすぐに立ち上がれますよ♪」

加蓮「そっか。写真……。写真を見たら、その時のこととか思い出せるもんね」

藍子「うんうんっ♪」

加蓮「じゃあ今度――ちなみに聞くけど、それって写真何枚分、っていうかアルバム何冊分になりそう?」

藍子「え~っと、ぜんぶ入れるのなら、にじゅう――」

加蓮「うんやっぱいい。ごめん」

藍子「?」

23: 2020/04/26(日) 19:02:44.28 ID:237PaD0I0
加蓮「これだ、って思うオススメのヤツを1冊にしてもらってもいい?」

藍子「分かりましたっ」

加蓮「お礼は――」

藍子「!」ガタッ

加蓮「……え、何。なんでそんな興奮してんの」

藍子「あ。……ご、ごめんなさい」スワル

藍子「えっと、お礼ですよね。お礼……。お、お礼は別に、いらないですよ? 加蓮ちゃんが元気になってもらうために私がやりたいっていうだけのことで――」ゴニョゴニョ

加蓮「……えーとさ。何? そんなに加蓮ちゃんの写真を撮りたいの?」

藍子「いいんですか!?」ガタッ

加蓮「私、そんなに藍子に写真を撮るなってキツく言ってたっけ……」

24: 2020/04/26(日) 19:03:14.00 ID:237PaD0I0
加蓮「って、もう。今は藍子のことでしょ? 依頼人の気持ちの――あーはいはい、加蓮ちゃんの写真のことはまた今度ね」

加蓮「依頼人の気持ちが分からない、か。依頼人……。ここのカフェの店員さんもいるっぽいよね?」

藍子「そうですね……」

加蓮「……あんなに何回も話してるのに?」

藍子「だからこそ、かもしれません。……今回のPさん越しに届いた依頼って、コラムを書いてほしいってことと、テーマのことしか分かっていませんよね」

加蓮「そうだね」

藍子「それ以上が分からなくて。たとえば、どんなことを書いてほしいのかな、とか、何を求められてるのかな、とか――」

加蓮「ん……」

藍子「いつもは……例えばさっきお話したラジオの収録の時は、それがなんとなく分かるんです」

藍子「リスナーのみなさんからのお便りを読んだり、スタッフさんとお話したり……ううん、顔を見るだけで、今日はこういうことをすればいいのかな? って」

藍子「もちろん、全部が全部見抜けるって訳ではないんですけれど、でも、分かる時にはうまくいくことが多いから、できるだけ考えるようにしていて」

25: 2020/04/26(日) 19:03:44.58 ID:237PaD0I0
藍子「……今回のことは、それが全然分からないんです」

藍子「私のお話をすればいいのか、加蓮ちゃんのお話をすればいいのか」

藍子「カフェの店員のみなさんから、ってことは、カフェのお話をすればいいのかもしれませんけれど――」

藍子「そうなのかな? って、ずっと自信を持てないんです……」

加蓮「…………、」

藍子「……こんなことを言ったら、加蓮ちゃんに怒られてしまうかもしれないけれど」

藍子「私、前に進み続けられる加蓮ちゃんのこと……ちょっとだけ、うらやましい」

藍子「アイドルのみなさんを呼んで新しいことをやる企画番組も、誰を呼んで、何をして、どうすれば盛り上がるのか、ファンの皆さんに喜んでもらえるか、いつもすぐ分かって、決められていて――」

藍子「迷ったり、悩んだり、落ち込んだりしても、どうすればいいのか自分で正解を見つけられて……自分で見つけたことに自信を持てる加蓮ちゃんのことが、ちょっとだけ、うらやましい……」

26: 2020/04/26(日) 19:04:15.23 ID:237PaD0I0
藍子「……」

藍子「……ごめんなさい。こんなお話をして。加蓮ちゃんだって、いろいろ考えたり悩んだりしているってこと、知ってるのに……」

加蓮「……話、ってことなら、別に謝らなくてもいいけど――」

加蓮「そっか。……そうなんだね」

藍子「…………」コクン

加蓮「……、」チラ

加蓮「……」

加蓮「藍子」

藍子「はい」

加蓮「あのさ。こういうのって、手段も方法も、たいてい1つだけじゃないと思うの」

藍子「1つではない……?」

27: 2020/04/26(日) 19:04:44.24 ID:237PaD0I0
加蓮「最終的な答えはだいたい決まってるよね。今回なら、コラムを書くこと。でも、その途中式は何通りも、ううん、何十通りもある。学校の数学の計算とは違うの」

加蓮「それに、だからPさんもかなり曖昧な指定で依頼を受けて、それを藍子に――実際送ってきたのは何故か私なんだけど、とにかくそれを藍子に出したんじゃないの?」

藍子「…………」

加蓮「途中でどの道を通るかは藍子の自由。そして、道を選ぶ時間だってあると思うの」

加蓮「……その上で、1つ。藍子に質問するね」

藍子「え? ……はい、分かりました。何ですか? 加蓮ちゃん」

加蓮「藍子はさ――優しい女の子と、1つの確立された偶像。どっちになりたい?」

藍子「え――」

加蓮「どっちの藍子で、このコラムを完成させたい?」

28: 2020/04/26(日) 19:05:14.21 ID:237PaD0I0
藍子「…………」

加蓮「これは藍子が決めることだから。……答えを出すまではずっと側にいてあげる。道を間違えてそうなら私が正しい方向に連れてってあげる。でも、最後に決めるのは藍子だから」

藍子「……………………」

加蓮「……私、ちょっと店員さんとお話して――してきていい? それとも、もうちょっとここにいた方がいい?」

藍子「……」フルフル

加蓮「うん。何かあったら呼んでね。いつでもすぐに話を聞いてあげる」

……。

…………。

29: 2020/04/26(日) 19:05:45.26 ID:237PaD0I0
……。

…………。

加蓮(……いつでも優しくしてほしい、かぁ)

加蓮(それこそ……今の藍子に何の言葉をかけたらいいか分かるから、こーいう態度が取れるだけなんだけどなぁ)

加蓮(やっぱり、どこか自分への評価が低くて――)


加蓮「……ん、店員さん。今いい?」


加蓮(当たり前だけどこのカフェにはカウンター席がある。1回も座ったことないけど)

加蓮(カウンター席につくと、すぐに店員さんが厨房の方からやってきた)

加蓮(多分……私達の会話が聞こえてたんだと思う)

加蓮(目が合って、それで私達は……なんていうんだろう。前提の共有のようなものが、既に片付いていることをお互いに把握した)

30: 2020/04/26(日) 19:06:14.73 ID:237PaD0I0
加蓮(それから私は、店員さんに色んなことを聞いた)

加蓮(具体的に依頼した人が誰なのか。その経緯。藍子に期待していること。どのルートで事務所へ依頼を出したのか)

加蓮(そのついでに、取り留めのない話もした)

加蓮(……どうやら店員さんは、この件が終わるまで藍子とはできる限り話さないと決めてるみたい)

加蓮(それはルール違反みたいなものだから、って。……すっっっっっごく泣きそうな顔を超頑張って堪えて決意表明してて、なんだろ。ちょっとだけ応援したくなっちゃった……)

加蓮(それならしばらくここ来ない方がいいのかも、って思ったけど……なんかそれはトドメになりそうだから言うのはやめておいた)

加蓮(その辺緩くても、ま、藍子ならいいでしょ)

加蓮(店員さんから話を聞いてる時に、ときどき藍子の方へと視線を向ける)

加蓮(藍子は、ずっと窓の外を見ながら悩み続けていた)

加蓮(何かを思い出すような顔と、考えている顔。まだ晴れない空を、じっと見つめたままで)

31: 2020/04/26(日) 19:06:44.23 ID:237PaD0I0
加蓮(――やがて、藍子が大きく頷いたのが見えたので、藍子の元へ戻ることに)

加蓮(……店員さんがものすっっっっごく寂しそうな顔をしてたので、また今度話そうよと言っておいた)

加蓮(いや、私はいいんかいっ)


加蓮「ただいま。どう? 決まった?」

藍子「……私なりに、決めたつもりです。聞いてくれますか?」

加蓮「ふふっ。どーぞ?」

32: 2020/04/26(日) 19:07:14.75 ID:237PaD0I0
藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんの言った、優しい女の子、っていう言葉って――周りの望みが分かったり、それを叶えたりする、ってことなんですよね?」

加蓮「うん。その通りだよ」

藍子「偶像は、自分の気持ちや自分の魅せたいことを――」

加蓮「そういうこと。藍子にはどっちになれる権利もあるんだよ。自分の言いたいことを言いまくってもいいんだし、店員さんが欲しがってるものを提供してもいい。でも、そこははっきりさせておくべきだと思ったの」

藍子「……私は」

藍子「私は……たぶん、加蓮ちゃんほど堂々としたアイドルには、なれないと思います」

加蓮「……、」

藍子「でもそれは、諦めるとか、憧れのまま終わらせるってことではなくて……」

藍子「私のことを応援してくれる人たち。私のことを見てくれる人たち。みなさんの気持ちや、思っていることや、願っていること――みなさんが見たいと思っている、私、高森藍子っていうアイドル」

藍子「それは、大事にしたいなって思っています」

藍子「もしそれで、みなさんが笑ってくれるのなら。幸せな気分になってくれるのなら」

藍子「私は、加蓮ちゃんの言う"優しい女の子"でいたいな……って」

33: 2020/04/26(日) 19:07:45.11 ID:237PaD0I0
藍子「――でも」

藍子「私、加蓮ちゃんの、自分から魅せていくアイドルとしての姿が、大好きなんです」

藍子「大好きで、うらやましいんです」

藍子「加蓮ちゃんみたいに、幸せを作る人や、笑顔を作るアイドルになりたくて――」

藍子「……どっちも、っていうのは、駄目でしょうか……?」

藍子「みなさんの気持ちを、受け止められるだけ受け止めて、それから、加蓮ちゃんのように、自分を魅せられるアイドルに……」

藍子「ただ望まれるがまま応えるだけではないアイドルになる、っていう目標では、駄目でしょうか?」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

34: 2020/04/26(日) 19:08:15.37 ID:237PaD0I0
加蓮「……了解。うん、分かった」

藍子「え……?」

加蓮「ま、いいんじゃない? っていうか、たぶんそれがトップアイドルの条件みたいなものだと思うし」

藍子「条件――」

加蓮「言われる通りだけに動くのなんて誰にでもできるじゃん。優しいっていうより都合のいいだけだと思うし……そんなの藍子じゃなくていいよ、って言われるだけ」

加蓮「でも自分を魅せてるだけじゃ、んー、まぁ、そういう人がいてもいいのかもしれないけど……。それも違うでしょ?」

藍子「……、」

加蓮「私だって――」

加蓮「理想の相手がほしくて、藍子と一緒にいる訳じゃないし。何でも言うことを聞いてくれて何でも思う通りになってくれる相手が、欲しい訳じゃないから」

35: 2020/04/26(日) 19:08:46.58 ID:237PaD0I0
加蓮「……まぁ、私はどっちかっていったら、藍子がやりたいことをやり放題してる方が見たいくらいだし?」

藍子「もうっ。やっぱりそっちじゃないですか」

加蓮「あはは……まぁね」

藍子「前にも言ってくれましたよね。理想の相手がほしくている訳ではない、ってお話」

加蓮「……ん、そうだっけ」

藍子「はい♪」

加蓮「私の話、覚えてるのに活かしてくれないんだー?」

藍子「う」

加蓮「ふふっ。じゃ、その為には情報がいるよね。例えば、店員さんの気持ちのこととか」

藍子「……もしかして、加蓮ちゃん、そのためにさっき店員さんと?」

加蓮「当たり前でしょ。何だと思ったの?」

藍子「私が1人で考えた方がいいから、ってことだと思っていました……」

加蓮「藍子がいてほしいっていう限り、藍子を独りにしないって言ったでしょ?」

36: 2020/04/26(日) 19:09:15.58 ID:237PaD0I0
藍子「加蓮ちゃんは、私が見つけるべき道、最初から分かっていたんですね」

加蓮「私なりにそうした方がいいのかな? って思ってたくらい。藍子の道は藍子に見つけてほしかったし、それが私の知らない道かもしれないし」

加蓮「答えが藍子と一緒になったのは、ただの偶然だよ」

藍子「……ただの偶然、ですねっ」

加蓮「ふふっ。ただの偶然。……じゃ、そういう方針で行こっか」

藍子「はいっ。加蓮ちゃん。まずは、店員さんから聞いたお話を聞かせて?」

加蓮「オッケー。依頼してきた店員のことだけど――」


【つづく】

引用元: 北条加蓮「藍子と」高森藍子「アイドルのいるカフェで」