1: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/04(土) 02:11:26.88 ID:xAiuGzRi0
2: 2013/05/04(土) 02:14:19.33 ID:xAiuGzRi0
私の誕生日が「こどもの日」なのは、嫌味かしら。
……まぁ、そんなことを言ってもどうしようもないんだけど。
「こどもの日」だし、誕生日はパーティーに参加していたので全然くつろぐことも出来なかった。
私にとって、ただの慌ただしい一日だったのだ。
正直、765プロのみんなに祝ってもらうまでは、私は誕生日が大嫌いだった。
4: 2013/05/04(土) 02:19:58.00 ID:xAiuGzRi0
……美希とこうして住み始めて、パーティーが開催されなくなって。
「誕生日ぐらいは実家に顔を出せ」とお兄様には言われるけれど、みんな忙しくて家には居ない。
だから、今日もこうやって美希との家で過ごしている。
竜宮小町は、スケジュール管理が上手い律子が毎週休日を入れてくれているために、今日は休み。
毎週毎週、ちゃんと休ませてくれることには感謝している。それに、誕生日は生っすかだ。
これで、家に帰れない口実ができた。
伊織「……ね、美希」
美希「…………」
…………その休日は、同居人のダウンによって『看病』へとシフトしているけれどね。
5: 2013/05/04(土) 02:24:57.18 ID:xAiuGzRi0
伊織「ぐっすりねぇ……ったく、元気でいなさいよ」
昨日の夜に「なんだかカラダが重いから、ミキ寝るね」って布団にもぐって。
朝、「冷えペタと氷まくら、頂戴」って対発熱セットを私に要求して。
すぐ後に「熱、あるかも」って体温計で熱を測り、買ってあった市販の薬を飲んでそのまま眠ってしまった。
これが美希のハイライト。
伊織「……?」
ふとソファの方に目をやると、ソファの下から半分、紙がはみ出ているのが見えた。
ピッ、と取り出す。
伊織「……これ…………」
6: 2013/05/04(土) 02:28:26.73 ID:xAiuGzRi0
『星井美希はゴールデンウィークにアイスを30種類完食出来るのか!?』
伊織「……そりゃあ、風邪もひくわね」
おそらく、美希がレギュラーで出演しているバラエティの企画書のようなもの。
中に赤い字でいろいろ書き込んであるから、仕事で使ったんでしょうね。
伊織「誰よ、こんな仕事取ってきたの」
1人しか居ないのよね。
美希のプロデューサーはアイツだけだから。
7: 2013/05/04(土) 02:34:34.40 ID:xAiuGzRi0
伊織「文句の一つぐらいなら、言ってもいいわよね」
この後、プロデューサーが我が家にやってくる。
真面目で優しいアイツのことだから、きっとこの仕事も美希を信じて引き受けたんだろうけど。
結果、完食出来たのかしら。出来ても出来てなくても、風邪をひいちゃ台無しよね。
伊織「…………全然起きない」
すっかり掛け布団は横に追いやられている。毛布はおヘソ辺りまでしかかかっておらず、上半身は多少はだけている。
パジャマはしっとり濡れているようにも見えた。
8: 2013/05/04(土) 02:37:39.84 ID:xAiuGzRi0
襟の部分を掴むと、まるで水をかぶった後のように濡れていた。
伊織「みき、みーき、起きて」
美希「…………ん」
伊織「着替えた方がいいわ、自分で脱げる?」
美希「……でこちゃんが脱がせて?」
伊織「…………もう」
仕方ないわね。でもまあ……病気なんだから、多少のわがままは可愛いもんか。
美希の上半身をおこすと、ボタンを外していった。
9: 2013/05/04(土) 02:43:29.18 ID:xAiuGzRi0
美希にタオルを渡して、身体の汗を拭かせる。本当は入浴が一番いいんだろうけど、風邪っぴきがお風呂だなんてとんでもない。
美希「よい……しょ」
伊織「下着は?」
美希「ん、着替える」
美希がフラフラっと立ち上がって、下着に手をかけた。
……ところで、インターホンの音。
伊織「ちょ、ちょっと待ってて、美希。……はーい」
「よう、見舞いに来たぞ」
伊織「ちょっ、プロデューサー!? そこで3分待ってなさい!」
プロデューサーだ。一方、美希はほぼ裸。
伊織「これ、新しい下着……だから、早く着替えちゃって。脱いだのはその辺に置いといて」
美希「はーい……なの」
結局着替えには5分以上かかり、まだまだ冷たい風のふくこの季節に、プロデューサーはずっとマンションの廊下で待っていた。
10: 2013/05/04(土) 02:49:44.39 ID:xAiuGzRi0
美希「いらっしゃい、ハニー」
P「ハニーやめい」
美希の「ハニー」に元気が無い。プロデューサーは「さっさと寝ろ」と美希を布団に戻した。
2分ぐらいして、美希の寝息が聞こえてくる。
伊織「……こんなに、本当に良かったの?」
P「いいんだよ、早く治してもらわなきゃ」
プロデューサーが持っていたスーパーの袋の中には、大量のスポーツドリンクと10秒メシゼリー。
冷えペタシート。あと、いちごババロアが入っていた。
伊織「それに、病人がいちごババロアは食べないと思うけど」
P「完治記念、でいいだろ」
アイツは笑う。床に座り、眠る美希を眺めながら。
11: 2013/05/04(土) 02:55:03.53 ID:xAiuGzRi0
P「美希、ハニーって呼んでたな。俺のこと」
伊織「そうね」
P「やっぱり、弱ってる時にはそういうのも戻っちゃうんかな」
伊織「……家ではずっと『ハニー』だけどね」
P「えっ、そうなのか?」
伊織「ええ」
美希が『ハニー』を『プロデューサー』と呼び始めたのなんて、つい最近だ。高校に入学してからだから、1ヶ月弱。
伊織「アンタ、『ハニー』じゃないとやっぱり嫌だったりするの?」
P「そういうわけじゃないけど……」
12: 2013/05/04(土) 02:57:54.31 ID:xAiuGzRi0
P「他のみんなは、美希が高校に入って心機一転、なんだと思ってる」
伊織「え、違うの?」
美希は最近「髪の毛切ろうかなぁ」だったり、とにかく去年と違う自分になろうとしている。
その度に私が「別に変わんなくても、今のままの美希で充分よ」と言うんだけれど。
P「直接言われたよ、美希に」
伊織「何て言われたの?」
P「『ミキのハニーは、でこちゃんになっちゃったから』って」
伊織「へっ……?」
13: 2013/05/04(土) 03:03:21.43 ID:xAiuGzRi0
P「俺は、伊織と美希がそういう関係だ、ってこと知ってたからすぐに納得できたよ」
伊織「でも……美希、私の前ではアンタのことを『ハニー』って」
P「プロデューサーって呼ぶより分かりやすい、って思ったんじゃないか?」
伊織「そう……」
美希のハニーが、プロデューサーから私になった。
どういう言葉の意味かなんて、言わなくても分かる。美希は美希で、自分の想いをこうやって宣言していたのね。
私が美希のお姉さん……菜緒さんに宣言したように。
P「なあ、伊織」
伊織「……なに?」
14: 2013/05/04(土) 03:05:55.82 ID:xAiuGzRi0
P「そろそろ、事務所のみんなに言ってもいいんじゃないかな」
伊織「……こういうことを?」
P「アイツらがどれだけ優しくて、なんでも理解してくれるか……伊織なら分かるんじゃないか?」
伊織「…………そうね」
765プロのみんなは優しい。みんなに美希との関係を言ったとして、
きっと否定的な言葉は出ないだろう。みんなの優しさは、私がよく知っているから。
……だから、
伊織「……私と美希が、それを言える状態にあるのか、よね」
15: 2013/05/04(土) 03:12:26.15 ID:xAiuGzRi0
P「状態?」
伊織「今は美希も私も、他のみんなも仕事が詰まってて、正直そういう話を出来るようなときは少ない」
P「確かに、全員集まるのは難しいだろうな」
伊織「それに、いつか伝えることだとは思うけれど、今急いで言わなくてもいいんじゃないか、って」
P「ん……そうか」
伊織「美希がどう考えてるかは知らないわよ? でも、私はこう思ってる」
16: 2013/05/04(土) 03:18:05.96 ID:xAiuGzRi0
パサッ、という音。その方向を見ると、また美希が毛布と布団を追いやっていた。
伊織「もう……」
毛布をかけ直そうと立ち上がって、美希の方へ向かう。
P「なあ、伊織」
伊織「ん?」
毛布を掴んで、肩より少し下のところまでかけ直した。
P「美希との関係って、どう始まったんだ?」
伊織「…………」
17: 2013/05/04(土) 03:23:22.97 ID:xAiuGzRi0
それは、どこを始点とするのだろう。
この同居生活なのか、菜緒さんに話したところなのか、それとももっと前?
伊織「……」
P「ほら、美希との関係が始まった時と同じ雰囲気でみんなに……って、伊織?」
気づけば、美希と一緒にアイドルをしていた。
気づけば、美希の隣で笑っていた。
……気づけば、美希を『特別なスキ』になっていた。
伊織「……明確な始まりはないのかもね」
P「気がついたら始まってた、みたいな?」
伊織「ええ」
18: 2013/05/04(土) 03:31:27.87 ID:xAiuGzRi0
伊織「あいまいでいいのよね」
P「あいまい?」
伊織「美希との関係は、世間的には”おかしい”ものでしょう?」
P「……」
伊織「同性に恋愛感情を持っちゃいけないから」
そんなの承知の上だ。
伊織「だから、このままあいまいでいいのかもしれない。聞かれたら言う、ぐらいで」
P「……うん、なんか伊織っぽいな」
19: 2013/05/04(土) 03:34:14.59 ID:xAiuGzRi0
伊織「え?」
P「伊織らしい、良い結論だと思うよ」
伊織「……当たり前よ、私を誰だと思ってんの」
P「明日16歳になるスーパーアイドルの伊織ちゃん、だろ?」
伊織「……」
明日はついに誕生日。
かつての、一年で一番嫌いな日。
P「今日中に美希には風邪を治してもらわないとな」
伊織「え?」
P「もちろん、事務所でお祝いするぞ。でもその後は2人っきりがいいだろ」
プロデューサーは美希を見ながらニヤリと笑った。
20: 2013/05/04(土) 03:38:58.42 ID:xAiuGzRi0
P「連休の最後の日は、せっかくだから元気な美希と過ごせよ」
伊織「…………」
P「……じゃあ、看病に邪魔な第三者は帰りますかね」
プロデューサーがカバンを持った。
伊織「あ、あの……ありがとね」
P「ん、差し入れか? 美希にちゃんとやるんだぞ」
靴を履きながらアイツが言った言葉は、少しズレていた。
伊織「そ、そうじゃなくて」
P「へ?」
伊織「話……聞いてくれて」
P「あぁ……こっちこそ、楽しかったよ」
鍵が開く音。アイツが扉を開けて、家を出た。
一気に静かになる。
23: 2013/05/04(土) 03:46:26.67 ID:xAiuGzRi0
……美希の寝顔を見る。
美希に、私にとっての明日のイメージを塗り替えて欲しい。
パーティーに出るだけで、面白くない5月5日から、大好きな人と一緒に過ごせる素敵な誕生日に。
ゴールデンウィークも残り少ない。
私はスポーツドリンクのペットボトルを冷蔵庫に入れながら、未知の『恋人と過ごすバースデー』に思いを馳せていた。
24: 2013/05/04(土) 03:49:04.94 ID:xAiuGzRi0
いおみきを書きたいのにそこに辿り着くまでが長いです。
pixivにト市さんという素敵ないおみきを描かれる方がおり、その方の絵で妄想して書いています。ぜひどうぞ。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
25: 2013/05/04(土) 03:56:16.48 ID:WlSS2Iueo
乙!
引用元: 伊織「終わる連休と風邪っぴき」
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