1: 2015/02/02(月)14:28:42 ID:jgg

頃し屋「ちげえよハゲ!」

ジジイ「ならばババアというのか!?」

頃し屋「それもちげえ!」

ジジイ「なんじゃと!」

頃し屋「あるだろレオンっつー映画とかよ!」

ジジイ「ほほーう。そういう趣味か口リコンか」

頃し屋「い、いやそういうわけじゃねえけど」

ジジイ「この年で口リ服はつらいんじゃが仕方ないのう」

頃し屋「やめろ着替えるな気色悪い! つーかなんでんなもん持ってやがんだよ! 頃すぞ!」
江戸前エルフ(8) (少年マガジンエッジコミックス)
2: 2015/02/02(月)14:34:02 ID:jgg

……

路地裏


男「はぁっ、はぁっ……! 氏にたくない……!」

男「誰か、誰か……! 助けてくれ……」

頃し屋「お前が騙して氏なせた奴らも同じことを考えてたんだろうさ」

男「ひっ!」ズザ!

頃し屋「さんざ他人を踏みにじっておいて自分だけ無事でいられるわけがねえって、少し考えりゃわかんだろうが」

男「う……」

頃し屋「ま、俺も偉そうなこと言えた立場じゃねえけどな。いやマジで。それはいいか」

頃し屋「やっと追いついた。氏んでもらうぜ」

男「……誰に頼まれた?」

頃し屋「アホか、お前に氏んで欲しい奴にだよ。テメエで思い出せ」

3: 2015/02/02(月)14:36:33 ID:jgg

男「消耗品の頃し屋風情が……」

頃し屋「ああ、超高級な鉄砲玉さ」

男「く、来るな!」

頃し屋「行かなきゃ殺せねえだろ馬鹿」

男「うわ、うわああ!」


「なんじゃ騒々しい」


頃し屋「!?」

4: 2015/02/02(月)14:38:34 ID:jgg

ジジイ「人が気持ちよく寝ておる時にまったく」

頃し屋(しまった見られた!)

男(! 今だ!)ダッ!

頃し屋(チッ、クソが!)

ジジイ「なんじゃなんじゃ?」

頃し屋(早く追わなきゃなんねえけど……)

頃し屋「おいジジイ」

ジジイ「あん?」

頃し屋「今、何を見た?」

ジジイ「はあ? 何をって、何のことじゃ」

頃し屋「ならいい」

ジジイ「小僧が小僧のタマぁ取ったるなどと騒いどる現場しか見とらんぞ」

頃し屋「……よくねえな」

5: 2015/02/02(月)14:40:23 ID:jgg

頃し屋「いいかジジイ、てめえには二つ選択肢がある」

ジジイ「ふむ?」

頃し屋「今ここで氏んどくか、今ここで見たことを氏ぬまで黙っとくかだ」

ジジイ「基本的にしゃべくってはならんということじゃな」

頃し屋「そうだ」

ジジイ「老い先短いが殺されるのは嫌じゃ。しかししゃべくるなと言われるとつらいものがあるのう」

頃し屋「俺は頃し屋だ。もしてめえが話を広めれば俺は必ず見つけ出して始末する。はったりと思うんじゃねえぞ」

ジジイ「ふむ、努力はしてみよう」

頃し屋「そうしとけ。じゃあな」

6: 2015/02/02(月)14:42:45 ID:jgg

頃し屋「さて」

頃し屋(こっち……いやこっちだな)

頃し屋(そう遠くには逃げられねえだろ。お仲間のとこにでも潜られたら厄介だが)

頃し屋(まあ力づくで片付けることに変わりはねえし今考えるのも意味ねえか)

頃し屋「さっさと見つけて終わらせるに限るな」

ジジイ「うむ、そうじゃな」

頃し屋「!?」

7: 2015/02/02(月)14:43:44 ID:jgg

ジジイ「なぜ殴った! ジジイは殴るなと教わらんかったのか!?」

頃し屋「うるせえどっから湧きやがった!」

ジジイ「普通についてきただけじゃ! お主頃し屋のくせに気づいとらんかったのか!」

頃し屋「ぐ!」

ジジイ「失格じゃ失格じゃ頃し屋失格じゃ! おっかさんの子袋からやり直せい!」

頃し屋「こ、の、言わせておけば!」

ジジイ「お、頃すのか? 頃すんじゃな?」

頃し屋「ったりめえだ! ここで始末してやる!」

ジジイ「悲しいのう恐ろしいのう、ここで始末されれば氏体が残って周りに迷惑が掛かってしまうしのう」

頃し屋「……」ピク

ジジイ「きっと人目につくのう厄介ごとになるのうそうならないための工作は時間がかかって本来の標的には逃げられてしまうのう」

頃し屋「うぐ……」

9: 2015/02/02(月)14:44:43 ID:jgg

頃し屋「チッ……!」

ジジイ「おや殺さんのか?」

頃し屋「……」

ジジイ「ふむ」

頃し屋「……なんでついてくるんだよ」

ジジイ「目撃者は手元に置いといた方が都合がよかろ?」

頃し屋「なんで俺目線なんだ」

ジジイ「いやなんつーかわし、やっぱさっきのを言いふらさない自信がないし」

頃し屋「はあ?」

ジジイ「お主の姿が見えなくなれば緊張が薄れてうーっかり誰かに話してしまうかもしれん。だがついていけばノープロブレム。オーケー?」

頃し屋「むちゃくちゃだろおい」

ジジイ「いいからいいから、急がんと逃げられるぞ」

頃し屋「お、おう」

10: 2015/02/02(月)14:46:01 ID:jgg

川岸


ジジイ「ここか? 間違いないか?」

頃し屋「ああ」

ジジイ「誰もおらんぞ」

頃し屋「逃げられたんだ」

ジジイ「ふむ、船かなんかでも使われたか」

頃し屋「くそ!」

ジジイ「己の未熟を悔やみ、頃し屋は足元の石を蹴り飛ばすのであった」

頃し屋「お前が邪魔してこなけりゃ全部うまくいってたんだ!」

ジジイ「不測の事態に対応できずに頃し屋稼業はできんぞ」

頃し屋「ああその通りだよ不測のジジイがあああ!」

ジジイ「これこれそんなに絞めてはぽっくり逝ってしまうじゃろうが」

頃し屋「うるせえそのまま逝っちまえええええ!」

11: 2015/02/02(月)14:48:04 ID:jgg

街中 昼


頃し屋「……」

ジジイ「どうしたブスーっとした顔をして」

頃し屋「自覚がないなら本当に頃す。もう後先考えずに頃す」

ジジイ「自覚? あるに決まっとろうが馬鹿かお主は」

頃し屋「やべえうっかり頃すとこだった。いや殺せばよかった。なんでだよ俺の理性……」

ジジイ「理性は人類の宝じゃ落ち込むな」

頃し屋「ボスにどやされた。何としてでも見つけて殺せと」

ジジイ「手伝おう。元はと言えばわしのせいじゃ」

頃し屋「……」

ジジイ「なんじゃ? 遠慮はいらんぞ」

頃し屋「はあ……」

12: 2015/02/02(月)14:51:08 ID:jgg

港 倉庫の一つ


頃し屋「この中だ」

ジジイ「特定がクソ早いのう」

頃し屋「匂いだ。分かる」

ジジイ「ふむ?」

頃し屋「俺は頃ししかできねんだよ。代わりに頃しのことならなんでもできる」

ジジイ「……」

頃し屋「入るぞ」

13: 2015/02/02(月)14:52:48 ID:jgg

 ドグシャアアアンッ!


男「な、なんだ?」

頃し屋「よう、しばらくぶりだな」

男「な、なぜここが!? こんなに早く!」

頃し屋「説明するのは実は好きだけどよ、別に聞きたくねえだろ」

男「く!」ジャキ!


 ズキュウゥゥンッ!

15: 2015/02/02(月)14:54:53 ID:jgg

男「……」

頃し屋「ふん」

男「が……っ」ドサ……

ジジイ「ほほう、先を取られてなお余裕で撃ち殺せるとはのう」

頃し屋「言ったろ。頃しのことなら何でもできる」

ジジイ「若いもんの虚言妄言ではなかったっつーことか」

頃し屋「いやつーか動じねえなジジイ」

ジジイ「浮浪者なんぞをやっとるとな、荒事や氏人は見飽きるほど見ることになるんじゃよ」

頃し屋「ふうん。そんなもんか? まあいいや、任務完了だ」

16: 2015/02/02(月)15:09:47 ID:jgg

夕方 ファミレス


頃し屋(氏体の始末はつけてボスへの報告は済んだ。さて……)

ジジイ「うひひひ、こんな分厚い肉は何年ぶりじゃろか! とんまな頃し屋様様じゃー」

頃し屋(こいつはどうすっかねえ……)

ジジイ「ハフッハフッ! うんまいのう! そこの姉ちゃんフライドポテト追加しとくれい!」

頃し屋「なあ」

ジジイ「お、姉ちゃんよく見たらすんごいべっぴんさんじゃのう。わしと一夜を誤ってみんか?」

頃し屋「なあおい」

ジジイ「駄目? いいじゃろ少しぐらい。ちょっと出し入れさせてもらうだけでいいから。何をとは言わん」

頃し屋「聞けや色ボケジジイ」

17: 2015/02/02(月)15:14:20 ID:jgg

ジジイ「うるさいぞ小僧っ子! わしのパイルバンカーが久しぶりに仕事したいとわめいとるんじゃから黙っちょれ!」

頃し屋「うっわ引く。いいから聞けよジジイ」

ジジイ「ったく、なんじゃ?」

頃し屋「単刀直入に言うぞ。俺はてめえの扱いに困ってる」

ジジイ「わしってじゃじゃ馬?」

頃し屋「ちげ……くもないか?」

ジジイ「問題ないじゃろ、おなごはそれぐらいでないと」

頃し屋「女じゃねえのが問題だろ」

ジジイ「わしは男でも問題ないが」

頃し屋「え。うわ。寄るなどっか行け」

ジジイ「……」ジリ

頃し屋「それ以上近づいたら今度こそマジで余裕なく頃す」

18: 2015/02/02(月)15:17:25 ID:jgg

ジジイ「つれないのう。わしの扱いに困るじゃと?」

頃し屋「てめえには見られたもんが多すぎんだよ。あー……どうしたもんかなあ」

ジジイ「殺せばよかろ。つーかなんで殺さんかった」

頃し屋「ひょうひょうと言いやがるな。いやちょうどいいタイミングがなかったんだって」

ジジイ「あったじゃろ。あの港の倉庫でターゲットと一緒に始末すりゃよかった」

頃し屋「……」

ジジイ「あれか? 頃し屋のくせに頃しは嫌いか? それとも無駄頃しはしないっつー無駄プライドか?」

頃し屋「頃し屋じゃねえ奴には分かんねえよ」

ジジイ「『頃し屋じゃねえ奴には分かんねえよ』」

ジジイ「聞いとりましたかそこの奥さん! こいつ患っとりますよ重篤ですよ!」

頃し屋「うるせえ!」

19: 2015/02/02(月)15:20:47 ID:jgg

頃し屋「いいか、頃しってのは需要がある割にリスクがでけえんだよ。おいそれとできるもんじゃねえしするもんでもねえ」

頃し屋「だから無駄な頃しはボスが怒る。うちの会社つぶす気かって」

ジジイ「会社?」

頃し屋「頃しを請け負う裏会社」

ジジイ「はー、最近はそんなもんがあるんじゃのう」

頃し屋「世も末だろ」

ジジイ「いやむしろ始まっとるのかもしれん」

頃し屋「頃しを商売にするなら大勢で協力分担したほうが効率がいい。だが小さなミスで全員終わることもある」

頃し屋「だからミスの元になりやすい無駄な頃しはするなってことさ」

ジジイ「くそうわしは無駄か」

頃し屋「なんでそこで悔しがる」

20: 2015/02/02(月)15:21:36 ID:jgg

ジジイ「話は分かった。しかしわしを生かしておいても厄介には違いあるまい」

頃し屋「正直すげえ際どい天秤具合なんだよな……頃すのもアレだけど生かしておくのもアレ」

ジジイ「だったらこうしよう。わしがお前の相棒になる」

頃し屋「……は?」

ジジイ「要はわしが見たことを口外することが不安要素なわけじゃ。ならば味方に引き入れればいい」

頃し屋「入社したいってことか? 無理だろ」

ジジイ「別に入社する必要はない。外注と思え。バイトでもいい。何なら下僕でも奴隷でも性欲処理道具でも」

頃し屋「最後は超絶いらねえが……何を企んでる?」

ジジイ「なんじゃとお・も・う?」

頃し屋「うわうっぜ」

ジジイ「別に何でもありゃせんよ。暇なんじゃ。老人の道楽の種になれい」

頃し屋「道楽で殺人幇助ってのはどうかと思うけどな……」

21: 2015/02/02(月)16:02:03 ID:jgg

……


富豪「私を誰だと思ってる! 殺せばただでは済まんぞ!」

頃し屋「殺さねえほうが害なんじゃねえの? 知らねえけど」

ジジイ「世の中には氏んだ方が都合のいい人間のなんと多いことよ」

頃し屋「てめえが言うか」


 ……ズキュウゥゥン!

22: 2015/02/02(月)16:03:45 ID:jgg

……


美女「み、見逃してちょうだい! 何でも言うこと聞くからお願い!」

ジジイ「なんでも……?」

頃し屋「あいにく氏んでくれ以外の頼みはねえ」

ジジイ「ちっ」


 ……ズブシュッ

23: 2015/02/02(月)16:05:35 ID:jgg

……


青年「ぼ、ぼくがなんで殺されるんでしょうか」

頃し屋「……」

青年「ぼくをそんなに恨んでる人間がいる? ぼくは氏ななきゃならないようなことをした……?」

頃し屋「わりぃが俺にはわかんねえよ」

青年「……ですね。ごめんなさい」

頃し屋「チッ」

青年「一足先にあちら側に行ってます」

頃し屋「なんだそりゃ」

青年「あなたももうすぐ氏にますよ」

頃し屋「予定にはねえな」

青年「さようなら」

頃し屋「じゃあな」

ジジイ「ふわぁあ……ねむ」

24: 2015/02/02(月)16:11:29 ID:jgg

ファミレス


ジジイ「かーっ、一仕事終えた後の一杯はうめえのう」

頃し屋「てめえはなんもやってねえ」

ジジイ「なんかやった方が良かったかの?」

頃し屋「……確かにそれはそれで迷惑そうだな」

ジジイ「じゃろじゃろ。とにかくお主も飲むがよい」

頃し屋「未成年だ」

ジジイ「未成年でも頃し屋じゃろ」

頃し屋「頃し屋でも未成年だ」

ジジイ「かぁってえのう! そこは柔軟にいかんか!」

頃し屋「やわやわに脳みそ溶かしててめえみたいになるのはぜってえ嫌だ」

25: 2015/02/02(月)16:16:49 ID:jgg

ジジイ「ちっ……小僧のくせに生意気じゃわい」

頃し屋「舐められるジジイが悪い」

ジジイ「なぜ頃し屋なんぞになった?」

頃し屋「んだよいきなり……」

ジジイ「小僧っ子がする仕事じゃないじゃろ。大人がするかっつーとまた別の話じゃが」

頃し屋「小僧っ子だからじゃねえの?」

ジジイ「ふむ?」

頃し屋「大人は無駄に考えすぎる。子供は考えない。単に頃す。そんなもんだろ」

ジジイ「ふうむ……」

26: 2015/02/02(月)16:21:09 ID:jgg

頃し屋「察しはつくだろうが俺は実の親に面倒見てもらったことがない。氏んだか捨てられたかで似たような奴らが集められるとこにいた」

ジジイ「孤児院的なあれじゃな」

頃し屋「なじめなくて逃げ出した。優しくするっつーか機嫌取るっつーか、なんかうまくやるのが苦手だった」

頃し屋「その後は浮浪者みたいな生活。だが腹が減って盗みに入ったとこで店の主を半頃し。逃げて、でも捕まった」

ジジイ「少年院行きか」

頃し屋「俺を捕まえた男は言ったよ。俺の作る会社に来いってな」

ジジイ「む?」

頃し屋「それがボスとの出会いだ」

27: 2015/02/02(月)16:25:44 ID:jgg

ジジイ「なるほど。それからずっとこの稼業か」

頃し屋「そうだ」

ジジイ「つらくはないのか?」

頃し屋「頃しがつらいって? ずいぶんありきたりな考えだな」

ジジイ「患っとる。患っとるぞこいつ」

頃し屋「うるせえ。まあ確かに頃すのがつらい奴のが多いんだろうよ」

ジジイ「でもお主はそうじゃない」

頃し屋「かもしれない。よくわかんねんだ。頃すときにいちいち何かを考えたことなんて、ねえから」

ジジイ「ふうむ」

頃し屋「集団の中で仲良く上手くやっていくことはできない。代わりにこの能力がある。俺は頃しのことなら何でもできる」

ジジイ「だから楽しそうなんじゃな」

頃し屋「あ?」

ジジイ「頃すときのお前は楽しそうじゃ。頃すことそのものがではなかろ。きっと自分にも何かできると感じられる、つまり自己表現の場なんじゃよ、お前の頃しは」

頃し屋「……」

28: 2015/02/02(月)16:32:06 ID:jgg

ジジイ「姉ちゃんもう一杯!」

頃し屋「……。なあ」

ジジイ「おう?」

頃し屋「あ……いや。なんだろう。よくわかんねえや」

ジジイ「そうか?」

頃し屋「俺も……一杯やってみようかな」

ジジイ「お。よしきた姉ちゃんも一つ追加じゃ!」

頃し屋「……?」

ジジイ「? どうした」

頃し屋「妙なのが入ってきた」

ジジイ「あの三人組か?」

29: 2015/02/02(月)16:35:34 ID:jgg

黒服「少しよろしいでしょうか」

頃し屋「……なんだ」

黒服「いえ大したことではありません。あなたの会社と仕事について伺いたいのです」

頃し屋「てめえらは何だ? 警察か?」

黒服「そう見えますか?」

頃し屋「いや」

黒服「あなたの会社にお世話になっている者ですよ。いえ正確にはその使い走りです」

頃し屋「へえ」

30: 2015/02/02(月)16:42:24 ID:jgg

黒服「ここではなんなので場所を移しませんか?」

頃し屋「いいじゃねえかここで」

黒服「お店や他のお客様の迷惑になるので」

頃し屋「へーへーわかりやしたよ」

ジジイ「ふむ」

31: 2015/02/02(月)16:45:51 ID:jgg




頃し屋「……で? どこ行くんだ?」

黒服「あちらの車へどうぞ」

頃し屋「気が進まねえな」

黒服「部下は二人とも拳銃を忍ばせています」

頃し屋「……」

ジジイ「この挟まれ方では逃げるにも抵抗するにも不利、つーか無謀じゃな」

黒服「おまけにあなた方には武器はない。我々としても手荒なことはしたくありません。後ろの席にどうぞ」

頃し屋「……」

黒服「さあ」

32: 2015/02/02(月)16:51:22 ID:jgg

頃し屋「自己表現か」

黒服「え?」

頃し屋「いや、俺は頃ししかできねえんだ。それだけが取り柄なんだよ」

黒服「何を言って……」

頃し屋「敵を追うための痕跡は見落とさない、人の急所は生まれたときから知っている、遊び道具よりも頃し道具の方が手になじんだ」

ジジイ「はあやれやれ患い小僧が」

黒服「!」

頃し屋「考えるのはめんどくせえ。頃すから氏ね」ジャッ!

黒服「うぐッ!」

頃し屋「シッ――!」

     ・
     ・
     ・

33: 2015/02/02(月)16:53:31 ID:jgg

ジジイ「よかったのか?」

頃し屋「何がだ?」

ジジイ「無駄な頃しは上司に叱られるんじゃろ」

頃し屋「殺せるところに殺せる奴がいたのが悪い」

ジジイ「殺せるっつっても素手で殺せるか普通」

頃し屋「いいんだよ。言いたい奴には言わせときゃいい。俺は会社の稼ぎ頭なんだ。どうもできはしねえさ」

ジジイ「ふうむ……まあ痛い目にあうのは嫌じゃったからいいが」

頃し屋「だろ。分かったらもう黙れ」

ジジイ「へいへい」

34: 2015/02/02(月)17:13:31 ID:jgg

……

頃し屋「今回の仕事場はここだ」

ジジイ「ほえーでっけえビルじゃのう」

頃し屋「なんとかいう大企業らしい」

ジジイ「わしらとは遠い世界じゃのう。ここの人間を頃すのか?」

頃し屋「らしいな」

ジジイ「? なんじゃ曖昧な」

頃し屋「仕方ねえだろ。極秘情報がどうとかでまずは行ってこいみたいな感じだったし」

ジジイ「大丈夫かそれ」

頃し屋「とりあえず会社の方で手筈は整えられてるんだ。バックアップは完璧とか。俺は行って頃してくればいい」

ジジイ「氏体は?」

頃し屋「さあ。なんとかするんじゃねえか?」

ジジイ「なんつーか、なんつーかじゃのう……」

35: 2015/02/02(月)17:16:25 ID:jgg

エントランス


受付「ようこそ。どのようなご用向きでしょうか」

頃し屋「このカードを見せればいいって言われてるんだけど」

受付「!」

頃し屋「?」

受付「承っております。案内の者が参りますのでお待ちください」

頃し屋「ああ分かった」

36: 2015/02/02(月)17:21:14 ID:jgg

頃し屋「おいジジイ」

ジジイ「なんじゃ小僧。わしはこっちの受付嬢を口説くのに忙しいんじゃが」

頃し屋「いや、ならいいや。俺の用事が済むまで適当に待っててくれ」

ジジイ「どっちが先に済むか勝負じゃよー」

頃し屋「はいはい」

37: 2015/02/02(月)17:24:24 ID:jgg

ジジイ「さて行ったか」

ジジイ「ならばわしも動くとするかのう。なまっちょって自信はないが」

ジジイ「ああいや何でもないよお嬢ちゃん。それよりちょっとトイレの場所を聞きたいんじゃが」

38: 2015/02/02(月)17:28:07 ID:jgg

……


頃し屋「……」

頃し屋(なんだここは……やけに広いし誰もいねえ)

「ようこそわが社へ」

頃し屋「……!」

中年「私はここの裏部門の長だ。見ての通り何もないところでね、ろくなもてなしもできないことを許してほしい」

頃し屋(こいつがターゲット?)

中年「こいつが標的か」

頃し屋「!」

中年「と、まあそんなことでも考えているのではないかね頃し屋君」

頃し屋「な……」

39: 2015/02/02(月)17:30:52 ID:jgg

頃し屋「なんで知っている!」

中年「そりゃあ知っているさ。私の部下を頃した人間だもの」

頃し屋「部下? ……あの黒服たちか」

中年「覚えててくれたかね。彼らも喜ぶよ」

頃し屋「だがなんで……」

中年「分からないだろうね、なぜこんな状況になっているのか」

頃し屋「いや、何でもいい。てめえを頃してさっさとここを出る」

中年「しかし帰る場所などないよ。君は切り捨てられたのだから」

頃し屋「なに?」

40: 2015/02/02(月)17:32:02 ID:jgg

中年「君の会社は君を切り離すことに決めた。競合相手のわが社へ差し出すことにしたのだよ」

中年「今回の君の殺害対象は、君自身だ」

頃し屋「俺が……? 俺がなんで切り捨てられる」

中年「……自覚がないのかね? 君は頃すことしかできないじゃないか」

頃し屋「それがどうした。頃し屋にはそれだけでいい」

中年「よくない。危険すぎるんだよ。現に私の部下頃しの件で君の会社は相当不安定な状態になった」

中年「警察に嗅ぎまわられわが社に恨まれる事態にね」

頃し屋「……」

41: 2015/02/02(月)17:35:20 ID:jgg

中年「さて。おそらく君はまだまだ聞きたいことがあると思うが時間切れだ」

頃し屋「……?」

中年「私がなぜわざわざ説明してやったと思っている? もちろん注意をひくためだよ」

頃し屋「……!」

中年「包囲は終わった。殺れ」


 ……ズブシャ!

42: 2015/02/02(月)17:39:15 ID:jgg

ジジイ「そろそろか」

ジジイ「では始めるとしようか」

ジジイ「……もう小僧が氏んどったら無駄骨じゃがの」

44: 2015/02/02(月)17:41:23 ID:jgg

中年「氏んだか?」

「おそらくは」

中年「おそらくは? 確認しろ馬鹿が!」

「……まだ息があるようです」

中年「ならば殺せ! もたもたするな!」

「は!」


 ――ズン! ミシリ……


中年「な、なんだ!?」

45: 2015/02/02(月)17:44:36 ID:jgg

 ジリリリリリ!


「火災のようです」

中年「そんなことは分かってる! 火元はどこだ! さっきの音は何だ!」

「それは……うぶッ!」

中年「!?」

頃し屋「はぁ……はぁ……」

中年「なぜ、動ける……?」

頃し屋「……俺だからだ」

中年「こ、殺せ! こいつを殺せええぇ!」

46: 2015/02/02(月)17:47:45 ID:jgg

ジジイ「~♪」

ジジイ「お」

中年「あ、あの化け物めぇ……!」タッタッタ

中年「誰か! 誰かいないか!」

ジジイ「オッスオラジジイ。よろしくな」

中年「なんだ貴様は! ……ぐっ」

ジジイ「老人は敬えと教わらんかったか小僧」

中年(首が……折れる!)

47: 2015/02/02(月)17:50:46 ID:jgg

ジジイ「お前がここの裏ボスじゃな」

中年「ぐ……まさかこの騒ぎは貴様が」

ジジイ「その通りじゃ。おかげで少しはホットな会社になったじゃろう? ちと火薬の量が多すぎたが」

中年「何者だ……?」

ジジイ「慌てるな、まずはこれを受け取れ」ブス!

中年「がっ」

中年(注射器っ……一体何を……)

ジジイ「もちろん毒薬じゃよ」

中年「ひ……」

ジジイ「安心せい、遅効性じゃからの」

48: 2015/02/02(月)17:53:02 ID:jgg

ジジイ「そして解毒剤もある」

中年「!」

ジジイ「欲しいか?」

中年「……」コクコク

ジジイ「ならば約束しろ。あの小僧を見逃すとな」

中年「小僧……? 頃し屋のことか?」

ジジイ「今後一切関わるな」

中年「しかし……」

ジジイ「まあお主がそんなに氏にたいんなら構わんが」

中年「わ、わかった!」

49: 2015/02/02(月)17:56:17 ID:jgg

ジジイ「では解毒剤はビルの外、右へ行って三番目の公衆電話の中じゃ」

中年「……なぜあの小童に肩入れする?」

ジジイ「さあて。まあ似とるからじゃないかの。頃すしか能のなかったころのわしとな」

中年「まさか……貴様『毒蛙』」

ジジイ「うっへえまだその名前知っとる奴がいるんかい。黒歴史って怖いのう」

中年「生きていたのか」

ジジイ「おうその通りじゃ。お主が約束を違えることでもあればその時は……」

中年「くっ」

ジジイ「では失せろクソガキが」

50: 2015/02/02(月)17:59:28 ID:jgg

……


頃し屋「――う」

頃し屋「あれ、俺……」

ジジイ「お、目が覚めたか」

頃し屋「俺背負って……重くねえか……?」

ジジイ「生還後最初の言葉がそれか。なんだからしいようならしくないような」

頃し屋「生還……生きてる……」

ジジイ「実際期待はしとらんかったがの、それでも生き残るもんじゃから若さって素晴らしい」

頃し屋「頃すことしかできねえからな……」

51: 2015/02/02(月)18:02:53 ID:jgg

ジジイ「まあ言うなや。今はとりあえず医者へ行こう」

頃し屋「その、後は……?」

ジジイ「……」

頃し屋「その、後は……」

ジジイ「まあ何とかなるじゃろって。たとえ見捨てられても裏切られても、人はそれなりに生きていける」

頃し屋「でも」

ジジイ「経験談じゃ黙って頷いとけ」

頃し屋「でもよ……」

ジジイ「うるさい、世の中って結構適当じゃぞ! なんたって頃し屋たちがファミレスで堂々と仕事の話をしててもスルーなんじゃからのう!」

頃し屋「なんだそれ……」

53: 2015/02/02(月)18:06:28 ID:jgg

ジジイ「とにかく医者じゃ。全てはそれからじゃ」

頃し屋「分かった……分かったよ……」

ジジイ「ふん、また気を失いおったかヤワな奴め」

ジジイ「さて、うう、そろそろ腰がつらいのう……」

     ・
     ・
     ・

55: 2015/02/02(月)18:08:43 ID:jgg

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56: 2015/02/02(月)18:11:39 ID:jgg

……

元頃し屋「ご注文どうぞ」

元頃し屋「ハンバーグ定食ひとつに照り焼きチキンAセット一つ、それからドリンクバーですね」

元頃し屋「ありがとうございます少々お待ちください」

57: 2015/02/02(月)18:19:58 ID:jgg

元頃し屋「――だはぁ……!」

元頃し屋「やっぱ向いてねえ超絶向いてねえ違和感しかねえ」

元頃し屋「頃し屋やってたころの方が絶対よかったって」

ジジイ「こらあせっせと働かんか小僧! オーダーの呼び出しかかっとるぞ!」

元頃し屋「へいへーい。ってジジイつまみ食いしてんじゃねーよ!」

ジジイ「調理係の特権じゃ。まったくこのファミレスに入ってから一年、何を学んできたんだか」

元頃し屋「少なくともそういうセコい役得の取り方じゃえねえよ!」

ジジイ「ほれほれ客が待っとるぞ」

元頃し屋「あーちくしょう!」ダッ!

ジジイ「はは、なかなかどうしてああいうのも似合ってるではないか」

ジジイ「そうやって適当になじんでいけばいい。お前は真面目すぎるんじゃ」

ジジイ「少しはわしを見習えっつー話じゃな」

58: 2015/02/02(月)18:23:39 ID:jgg

「あの新入りとお爺さんいいわよねー」

  「でもなんつーか祖父と孫って感じとは違うんだよな」

「うーんなんだろ。良コンビ、みたいな?」

  「あー。かもなー」

59: 2015/02/02(月)18:24:10 ID:jgg
おわり

60: 2015/02/02(月)18:46:49 ID:O45
乙ー

引用元: 殺し屋「殺し屋との良コンビっつったら」ジジイ「ジジイじゃな」