1: 2014/08/29(金) 16:44:35.19 ID:c5oFkuDq.net
読まれませんように

3: 2014/08/29(金) 16:46:02.34 ID:c5oFkuDq.net
園田の手記、その一】

○月×日 くもり

ことほのうみ
ことほのうみ
ことほのうみ

5: 2014/08/29(金) 16:46:40.54 ID:c5oFkuDq.net
甘美である。
口に出すのもよいが、手で書くのもよい。
私は、日記にとりたてて書くことがない日は、これでページを埋めることにしている。
書いてるうちに感情が昂ってしまったときには、プリントの裏などにつづきを書く。
することがない日曜の午後などは、それで時間をつぶすこともしばしばである。
ああ、今もこの精妙なる文字列を書きながら、私は熱い吐息を抑えることができぬ。

6: 2014/08/29(金) 16:47:32.51 ID:c5oFkuDq.net
ことほのうみ
ことほのうみ
ことほのうみ

7: 2014/08/29(金) 16:48:07.66 ID:c5oFkuDq.net
ああ、私の幼なじみはどうしてこんなにも美しいのか。
私は、二人に挟まれて登校するとき、怖くなることがある。
究極の美は、私の想像を絶するがゆえに、同時に畏怖の対象でもある。
道すがら「うみちゃああん」という二人の甘い声が両耳に響く。
そんなとき、私の心には、至高の美を享受する幸福と恐怖がともにある。
私はおののく。
オノノキ坂学院である。

8: 2014/08/29(金) 16:48:41.31 ID:c5oFkuDq.net
ことほのうみ
ことほのうみ
ことほうのみ

10: 2014/08/29(金) 16:49:41.93 ID:c5oFkuDq.net
おっと、手が震えたせいで書き損じてしまった。
穂乃果と私の名前が混ざってしまった。
とはいえ、文字の上であっても、混淆とはなんとも官能的ではないか。
興奮のあまり朦朧とする目でこの文字列を眺めると、私は一つの秘密に気がついた。

13: 2014/08/29(金) 16:51:02.59 ID:c5oFkuDq.net
ことほうのみ
こと、法のみ。
法とはサンスクリット語における「ダルマ」である。
ダルマとは、最高の真理として「思考されたもの」を指すと同時に、この世界に「存在するもの」を指す言葉である。
そう、私の幼なじみたちは、最高の美を顕現するにあきたらず、最高の真理をも表現していたのである。

14: 2014/08/29(金) 16:52:59.49 ID:c5oFkuDq.net
世界は、私にとって思考されたものであり、それがそのまま存在するものなのだ。
浮き世は幻であり、幻がそのまま浮き世なのだ。
私は、授業中に穂乃果の後ろ姿を見ながら、彼女のスカートの中に思いを馳せることがある。
あえて何とは言わないが、スカートに隠されたレース織の甘美なる布をも、ありありと想像する。

15: 2014/08/29(金) 16:53:59.13 ID:c5oFkuDq.net
人は私の想像を嗤うだろうか。
しかし、想像された純白の布と、現実の純白の布との間に、いったいどれほどの違いがあるというのか。
色即是空。空即是色。
私の思い描いた偶像(注:ぱんつ)が、そのまま私にとっての世界なのだ。

18: 2014/08/29(金) 16:57:07.00 ID:c5oFkuDq.net
だから、それでよいのだ。
私は穂乃果を悲しませることはしたくない。
だから、私は、無理をしなければ見えないところ(注:スカートの中)にまで、顔を突っ込む必要はないのだ。
見えないところは想像で補いながら、私たちは平和に暮らしてゆくべきなのだ。
あさきゆめみし、ゑひもせす。
昔の人は、よく言ったものである。

19: 2014/08/29(金) 16:57:48.33 ID:c5oFkuDq.net
ここまで考えて、ふと一抹の寂しさを感じた。
頭ではそんなふうに理解できても、私は、心の奥底に眠る黒い衝動を抑えることができぬ。

20: 2014/08/29(金) 16:59:59.70 ID:c5oFkuDq.net
私がありありと想像したモノは、本当に穂乃果が履いているモノと同じくらい「ありありとしている」のだろうか。
二つが同じであるか否かは、実際にホンモノを見なければ確かめられないのではないか。
しかしそれが人としてあるまじき行為であることは分かっている。
私はどうすればよいのだ、どうすればーーー

(手記は、ここで途切れている)

21: 2014/08/29(金) 17:02:34.03 ID:c5oFkuDq.net
【翌日、穂乃果の家の前】
穂乃果 「うみちゃん、ことりちゃん、おはよう!」
ことり 「おはよう、ほのかちゃん!」
海未  「…」
穂乃果 「あれ、うみちゃん、もしかしてほのかが待たせちゃったせいで怒ってる?
     ごめんね!次からもっと早起きするから…キャア!」
海未  (無言でうずくまり、穂乃果のスカートの中に顔をつっこむ)

22: 2014/08/29(金) 17:03:35.83 ID:c5oFkuDq.net
【園田の手記、その二】

○月×日 あめ

まだ顔が痛む。
結局今朝は、あのあと動転した穂乃果に鼻面を膝蹴りされ、驚愕したことりに頬を張られた。

23: 2014/08/29(金) 17:05:29.15 ID:c5oFkuDq.net
穂乃果のスカートの中は、やはり私の想像より遥かにステキだった。
とはいえ、好奇心を満たした代償はあまりにも大きかった。
頬を赤らめ(興奮していたからではない、横っ面を張られたからだ)、鼻血を流す(興奮していたからではない、鼻を蹴られたからだ)私の前で、ことりと穂乃果は、泣いていた。
自分がボコボコにされたことよりも、かけがえのない二人の幼なじみを傷つけたことがつらく、私の心は今も痛んでいる。
現実の現実たるゆえんを、私は消えない痛みによって知ったのである。

33: 2014/08/30(土) 06:34:35.25 ID:/H1vkJK7.net
※ こっそり続きを書きますが、できれば誰にも読まれませんように。

【園田の手記、その三】

○月×日 あめ

ことりと穂乃果は、おもてむきは何事もなかったかのように私に接してくれる。
しかし私には気がかりがある。
あなたたちは、心の奥底では、あんなこと(注:スカートの中に顔をつっこんだ)をした私を蔑んでいるのではないか、と。
それを思うたびに、私の胸は痛む。

34: 2014/08/30(土) 06:37:46.38 ID:/H1vkJK7.net
しかし親友たちよ、汚れた私は、さらにあなたたちに謝らねばならぬ。
あなたたちに蔑まれていると想像するたびに、私の胸には、爛れた悦びが沸きおこってしまうのだ。
後悔しながらも、顔がニヤけてくるのを抑えることができないのだ。
「ぐふふ」とか「うひひ」とか、女子高生にあるまじき笑いが零れそうになるのだ。

35: 2014/08/30(土) 06:40:11.82 ID:/H1vkJK7.net
言うに言われぬこの悲しみに、なんと名前をつけたらよかろうか?
ボオドレエルふうに言うと、アンニュイである。
もう少し現代ふうに言うと、ムッツリスケベだ。

汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
  (中原中也「山羊の歌」より)

ああ友よ、濁った私の目には、もうスノー・ハレーションは見えない。
そんなわけで、次に私が作る歌詞には、「スノー・ハレーション」ではなく「ムッツリ・スケベ」というフレーズを入れようと思う。
(注:この園田の試みは、作曲者の西木野氏の懸命な説得により阻止された)

36: 2014/08/30(土) 06:41:12.52 ID:/H1vkJK7.net
【園田の手記、その四】

○月×日 あめ

きのう私は、自分のことをムッツリスケベであると認めるに至った。
しかし私は女性である。
ことりと穂乃果も女性である。

37: 2014/08/30(土) 06:41:49.29 ID:/H1vkJK7.net
すると私は、悩まざるをえない。
女性が女性にそういうを気もちを抱くというのは、おかしなことなのだろうか。
彼女らの「うみちゃああん」という声を聞くたびに感じる胸の昂りは、抑えるべきものなのだろうか。
それとも、「はあい、うみちゃんですよう、うひひ」と言って、彼女らに応えるべきなのだろうか。

38: 2014/08/30(土) 06:42:37.18 ID:/H1vkJK7.net
ここで私は、リルケの詩的散文『マルテの手記』を思いを致す。
倦み疲れた精神を抱えたマルテくんは、パリの一角で、ある女性に出会う。
マルテくんは、彼女の心のなかにある「つよい、はげしい音楽」に心惹かれる。
しかし彼は同時に、その音楽が男性的な性格をもっていることにも気づく。
では彼は、男性でありながら男性的なものに心惹かれたことになるのだろうか?
それは正しいことなのだろうか?
そんな問いを、マルテくんは一笑に付す。
「天使を男か女かって問うのは滑稽なことかもしれぬ」と。

39: 2014/08/30(土) 06:43:32.72 ID:/H1vkJK7.net
なるほど。
ことりと穂乃果が天使の声をもっているとすれば、彼女らの生物学的な性別がいったい何だというのだ。
そう、彼女らの肉体は確かに美しいが、重要なのはそこではない。
(注:ここで園田は、ぱんつの件を棚に上げている)
私ははじめから、彼女らの天使のような精神を愛していたのだ。
もう私は、彼女らの嫌がることをして密かに悦ぶなどという、ひどいことはしない。
触れなくてもよい。応えられなくてもよい。
彼女らの「うみちゃああん」という天使の声さえ聞ければ、それだけで私は満足なのだ。

40: 2014/08/30(土) 06:44:21.62 ID:/H1vkJK7.net
工口ースとは、そもそものはじまりにおいては、プラトニックなものだったではないか。
ギリシア神話における工口ースとは、ローマ神話におけるクピードー、いわゆるキューピーちゃんである。
キューピーちゃんの放つ愛の矢は、肉体ではなく精神をめざして飛ぶのだ。
だから私は、二人の幼なじみに対して抱くプラトニックな憧れに、名前をつけようと思う。
ラブアロー・シュート、と。
(注:このあたり、園田は深夜にありがちなハイテンションに陥っていると思われる)

41: 2014/08/30(土) 06:45:55.88 ID:/H1vkJK7.net
私は窓のほうに目を向ける。
きれいな星空が見える。
ここ数日降りつづいていた雨は、止んだようだ。
幼なじみに対する思いをこの手記に綴るのは、ひとまず今日でおわりにしようと思う。
この手記は、「ラブアロー・シュートができるまで」という題名をつけて、机の奥に封印しよう。

(手記は、ここで終わっている)

42: 2014/08/30(土) 06:47:13.67 ID:/H1vkJK7.net
【数日後、園田の部屋にて】
海未  「お茶を淹れてきますから、すこし待っててくださいね」
ことり 「あいかわらずキレイに片づいてるね」
穂乃果 「ん?でも机のわきから、へんなノートがはみ出してるよ!
     ねえことりちゃん、これ新しい海未ちゃんの詩集かもよ。
     ちょっとこっそり見てみようよ」
ことり 「えー、いいのかな?
     えーと、『ラブアロー・シュートができるまで』…?」
海未  「お待たせしまし…
     アアアアアアアアアアアアア!」

おわり

引用元: 園田の手記