1: 2012/07/02(月) 17:54:58.27 ID:HZmyunwM0
P「おらwwwwおらwwww」ビシィッビシィッ!

響「痛ぁ!痛いぞP!」

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2: 2012/07/02(月) 17:56:25.59 ID:HZmyunwM0
P「これくらいで音を上げてるようじゃトップアイドルなんて夢のまた夢だぞ」ビシィッビシィッ!

響「トップアイドルとこれはなんの繋がりもないと思うぞ!」

P「うるさい!」ビシィッビシィッ!

小鳥「プロデューサーさんその辺にしておいた方が……仕事に差し支えるかも知れませんし」

P「大丈夫です。衣装で隠れる部分ですから」

小鳥「ほ、程々にしておいてくださいね」

P「中途半端が一番悪いですからね。
 徹底的にやりますよ」

 そう言うとPはまた腕を振るい始めた。
 振り下ろされる掌が響の小柄な肉体に打ち据えられる。

響「あうっ!」

小鳥(誰か何とかしてあげて)

 事務員の音無小鳥はその光景を見ながら祈った。
 彼女はPを止めたかった。しかし、それが出来る気がしなかった。
 音無小鳥には、このPの暴挙を止めることが出来る誰かが現われるのを祈ることしか出来なかったのだ。

4: 2012/07/02(月) 17:59:12.88 ID:HZmyunwM0
春香「おはようございます!」

 そして、元気よく現われたのは765プロのアイドルの中でも一位二位を争う笑顔の持ち主である天海春香であった。
 その笑顔がPが繰り広げている惨状を見た瞬間に凍り付いた。

P「オラッ!」ビシィッ!

響「お、同じ所はやめるさー!」

P「少しくらい腫れても大丈夫だろ」

 Pはそう言うと腕を振り上げた。

春香「何やってるんですか!プロデューサーさん!!」

 振り下ろされようとしていたPの腕がその一喝でピタリと止まる。

P「……何って……響にお仕置きをだな……」

春香「何がお仕置きですか!
 やってることがおかしいと思わないんですか!?
 お、おし、おしりを叩くだなんてどうにかしてます!
 子供じゃないんですよ!?」

 膝の上に響を乗せ腕を振り上げているPを指さしながら春香は声を張り上げた。
 数秒の沈黙の後、Pは溜息と共に腕を響の背中へと下ろす。

P「……すまない。確かにどうかしてた」

5: 2012/07/02(月) 18:01:42.47 ID:HZmyunwM0
春香「詳しい説明を要求します!
 いったいなんでこんな事になったのか!」

響「春香! プロデューサーを責めないで欲しいぞ! 自分が全部悪いんだ!」

春香「一体どういう事ですかぁ!」

小鳥「お、落ち着いて春香ちゃん。
 はい、お茶でも飲んで」

春香「ヴァイ!」

 差し出された湯飲みを春香は払い落とした。
 湯飲みが砕け、お茶が床に広がる。

春香「小鳥さんは見てたんですよね? 当然。
 何で止めなかったんです?
 何で?」

小鳥「こ、怖ひぃ」

響「お、落ち着いてよ春香。
 目が放送禁止並に怖いぞ……」

P「春香は意外と多芸だな。ホラーもいけるか?」

春香「五月蠅いですよ!」

P「す、すまん」

 春香はこめかみを指で揉みほぐしながら深呼吸を繰り返した。

春香「ちょっと感情が高ぶってしまいました……」

P「ちょっと?」

7: 2012/07/02(月) 18:03:20.06 ID:HZmyunwM0
春香「小鳥さん、折角のお茶ごめんなさい。片付けは私がやりますから」

小鳥「怪我をしたらいけないから私に任せて。いえ、任せて下さい」

春香「ごめんなさい……小鳥さんも怪我とかありませんでしたか?」

小鳥「私は全然大丈夫」

春香「よかった。
 だったら片付けを頼めますか。ちょっとプロデューサーさんとお話をしたいので」

響「プロデューサーを責めるのはやめて欲しいぞ。
 全部自分のせいなんだ」

春香「……先もそう言ってたよね。どういうこと?」

響「実は……お尻を叩いて欲しいって言ったのは自分なんだ」

春香「…………ちょっと理解出来ない」

響「ま、また目が怖いぞ」

春香「詳しくお願い」

響「実は、今日撮影で失敗しちゃって少し落ち込んでたんだ。
 そしたらPが励ましてくれたんだけど、自分の中で納得がいかなくてお仕置きしてくれって頼んだんだぞ」

P「俺は乗り気じゃ無かったんだ」

響「その通りさー。
 プロデューサーが和ませてくれようとしてお尻ペンペン百回はどうだって言ってくれたのに対して、自分が頷いたのがいけなかったんだぞ」

P「全く、どうかしてる!」

響「うぅ……ごめんなさい」

春香「なんでプロデューサーさんは結果的に実行しちゃったんですか?
 響ちゃんが頷いたのに対しても冗談で済ませれば良かったじゃ無いですか」

9: 2012/07/02(月) 18:03:52.46 ID:HZmyunwM0
P「お、俺は悪くない! 悪くないんだ!」

春香「何を言い逃れようとしてるんですか! 最低ですよ!」

P「じ、冗談で済ませれるような雰囲気じゃ無かったんだ。
 本当に落ち込んでてなにかプロデューサーとして出来ることをやりたいって……そう思っただけなんだ」

春香「でも本音は?」

P「役得かなって思いました」

春香「プロデューサーさん! これ、今日焼いてきたクッキーです!」グシャァ!!

 春香はクッキーが入っている包みを、マッハで繰り出された掌ごとPの顔面に叩きつけた。
 Pは首を仰け反らせたまま動かなくなる。

響「プロデューサー? ……プロデューサー!!」

春香「大丈夫。気を失ってるだけです。
 ……でも、おかしぃですねぇ……ねぇ、小鳥さん」

小鳥「え!?」ビクゥッ!

 小鳥は拾い集めていた湯飲みの破片を再度床にぶちまけた。

10: 2012/07/02(月) 18:04:58.36 ID:HZmyunwM0
春香「小鳥さんはいつから事務所にいたんですか」

小鳥「いつも通りの時間には」

春香「ということはプロデューサーさんと響ちゃんが帰ってきたときには、すでに事務所にいたんですよね。」

小鳥「……はい。
 あ、トイレに行ってた……かも……?」

春香「でも、私が事務所に来たときにはいましたよね。事務所内に」

小鳥「……はい」

春香「どうして止めなかったんですか」

小鳥(か、考えるのよあたし!)

春香「どうしてです?」

 すっと春香の鞄からもう一袋……クッキーが取り出された。

小鳥(か、かかかか考えるのよ!あたし!)

春香「大人なら止めましょうよ……大人なら」

小鳥「はい。仰る通りです」

春香「何してたんですか。小鳥さん」

小鳥「何もしてませんでしたぁ! すいませんでしたぁ!」

春香「別に謝って欲しいわけじゃ無くて……ただ、なんでかなーって思って……」

11: 2012/07/02(月) 18:06:03.82 ID:HZmyunwM0
小鳥「言い訳して言いですかぁ!」

春香「言い訳って言っちゃうんですね」

小鳥「はい!私が悪かったのは確かですけど、そうしてしまったのには理由があるからです」

春香「いいですよ」

小鳥「ありがとうございます。
 私はいつも通り仕事をしていました。
 そしたら、いつも通りプロデューサーさんが帰って来て、響ちゃんも元気いっぱいで……そしたらいきなりだったんです。
 いつも通りの日常に変な雑音が紛れこんで来たのが。
 パンパンパンパンって。
 なにかなぁって思ってソファーの方を見ると……一心不乱にプロデューサーさんが響ちゃんのお尻を叩いてるんですよ。
 あのプロデューサーさんがですよ? 夢だと思いますよね普通。
 あんなことやるとは思えませんから。妄想が現実にまで介入してきたって普通なら思いますよね?
 でも、いつまで経ってもプロデューサーさんは響ちゃんのお尻を叩いてるんです。
 あーこれ夢じゃ無いなーって思った時には注意し辛くなってて……止めれませんでした」

 春香は小鳥の言葉を聞き終えると、閉じていた瞳を開いた。
 その瞳を響へと向ける。

春香「お わ か り い た だ け た で し ょ う か」

響「な、なにが?」

春香「小鳥さんの話に重要な情報が紛れ込んでいたことにです」

響「そ、そんなもの無かったと思うぞ」

春香「……小鳥さんはねぇ……見てたんですよ。いつも通りの光景をいつも通り響ちゃんが元気いっぱいに事務所に帰ってきたのを!」

響「あっ」

12: 2012/07/02(月) 18:06:38.53 ID:HZmyunwM0
春香「おかしいですねぇ。
 確か響ちゃんは撮影で失敗をして落ち込んでいたはず……元気いっぱいっていうのはおかしな話ですよ」

響「そ、それは――」

春香「プロデューサーさんが無理やり響ちゃんのお尻を叩いたのかな?」

響「うぐっ」

春香「プロデューサーさんは落ち込んでる響ちゃんに出来ることをしたかったって言ってたよね?
 元気いっぱいの響ちゃんのお尻を叩く意味って……あるのかな?」

響「う……」

春香「う?」

響「うがー!!なんでこんな尋問みたいなことされないといけないのか分からないぞ!
 別にプロデューサーと自分が何してようと春香には関係ないさー!」

春香「え? 何? 聞こえない」

響「サー、自分とプロデューサーが何やってようと春香には関係ないと思いますサー!
 サー、ごめんなさいサー!」

13: 2012/07/02(月) 18:07:12.28 ID:HZmyunwM0
春香「……別に良いよ。
 響ちゃんとプロデューサーさんが何やってようと私に関係ないのは事実だし」

響「だ、だよね」

春香「だったら私とプロデューサーさんが何やってようと、当然響ちゃんに関係ないよね?」

響「そ、それは……」

 難しい顔をして悩む響を見て春香が薄く微笑んだ。
 そして、響の耳元に囁いた。

春香「プロデューサーさんは人気ですよ。765プロで。
 好き勝手に行動することがこの事務所にどんな影響を与えることになるか……想像出来ますか?
 ましてやプロデューサーとアイドルですよ?
 考えて行動するならともかく、羽目を外しすぎるのは感心しませんよ」

 春香は身を引いて笑った。

春香「羽目を外しすぎなければ良いんですよ。羽目を外しすぎなければ」

響「春香……言いたいことは……何となく分かるぞ。でも――」

春香「まあ、そんなことより……

 春香は響の言葉を遮った。

春香「いつまでプロデューサーさんの膝の上に乗っかってるんですか!」


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14: 2012/07/02(月) 18:07:39.84 ID:HZmyunwM0
小鳥「――ってことが先日あってね。肩がこっちゃいましたよ」

貴音「面妖な」

小鳥「あんまり信じてないような顔つきね、貴音ちゃん」

貴音「にわかには信じ難い話ですので。
 嘘という感じでも無いですし……冗談ですか?」

小鳥「いやいや、これが事実なんですよ」

貴音「想像出来ませんね。プロデューサーは真面目な方ですしそのようなことをするとは思えません。
 が、小鳥嬢が嘘を吐くとも思えません。
 真に珍妙な話です」

P「ただいま戻りましたー」ガチャ

響「戻ったぞ!」

 小鳥と貴音が雑談をしているところに、話の話題となっていた二人が帰ってきた。
 いつもと変わらない様子で。

16: 2012/07/02(月) 18:09:00.18 ID:HZmyunwM0
響「はいさい!貴音!」

貴音「お疲れ様です、響。
 その様子だと仕事の方が随分と捗ったのでしょうか」

響「……いやー、そうでもないさー。
 昨日の今日で凡ミスを繰り返しちゃったし」

貴音「なんと。響が連続して失敗とは珍しいですね」

響「もう駆け出しでも無いのに恥ずかしいぞ。
 最近は得に不調で……」

貴音「何やら原因があるのやも知れませんね」

響「原因は分かってるんだけどね」

貴音「さすがは響です。対処が早いですね」

響「でもこれが分かってるってだけで、対処が難しいんだぞ。
 しばらくは保留さー。
 ってことでとりあえずお仕置きを受けてくるね」

貴音「はい。
 ……はい?」

17: 2012/07/02(月) 18:09:37.42 ID:HZmyunwM0
P「おーい。響ー、早くしろー。
 俺はこの後も予定が詰まってるんだ」

響「今すぐ行くぞ!」

 響はソファーに座るPの元に掛けていき、その膝の上に俯せに寝転がった。

P「よし! お仕置きのリズムに合わせて響の尻を叩くドン!」

響「ちゃんと手加減して欲しいぞ」

P「甘えるな、響!」ビシィッ!

 Pの掌がデニム生地のショートパンツを穿いている響の尻へと振り下ろされる。

響「あうっ! ご、ごめんなさい」

P「謝罪なんていらない。
 響、今お前は大事な時期なんだからくだらないミスをしている場合じゃないんだ。
 アイドルの頂に登るためには完璧が普通でないといけないんだ。
 全てを完璧にこなす奴なんてざらにいるんだぞ。
 全てを完璧に行ってようやく頂上を争う権利を得て、そこで鎬を削り合う。
 俺がその舞台と協力を全力でやるから響にも全力を出して欲しいんだ。
 響ならトップアイドルになる素質があると俺は確信してるからな。
 凡ミスの連続なんかで回り道なんて欲しくないんだよ」

響「ぷ、プロデューサー」ウルウル

P「うるさいドン!」ビシィッ!

響「痛ぁ! なんで!?」

18: 2012/07/02(月) 18:11:08.54 ID:HZmyunwM0
P「とりあえず50コンボはいくからな。
 覚悟しろよ」

響「50コンボ……3日前はお尻ペンペン百回と言いつつも計41回だったのに50コンボ……」ゴクリ

P「あの後腫れたりしなかったか?」

響「大丈夫だったぞ」

P「うるさいドン!」ビシィッ!

響「だからなんで!? 脈絡が無いぞ!」

P「響……お前、脈絡だなんて言葉知ってたんだな」

響「うがー! 馬鹿にしすぎだぞ! それくらい普通に知ってるさー!」

P「すまんすまん。まあ、今回も50回くらいを目標に叩くけど腫らしたりはしないから安心しろ。
 今日は炎症を抑えるクリームも買ってきてあるからな。対策はばっちりだ」

響「さすがは自分のプロデューサー!」

P「うるさいドン!」ビシィッ!

響「にっ!?
 ……タイミングが分かってきたぞ」

19: 2012/07/02(月) 18:12:16.65 ID:HZmyunwM0
P「そんなもの無いけどな。
 気分で叩いてるだけだし」

響「そのプロデューサーのタイミングが分かってきたんだぁ」

P「本当か?」

響「本当だぞ。 自分、完璧だからな」ドキドキ

P「……あぁ」

響「……あれ?
 絶対に来ると思ったのに」

P「何を期待してるんだ!」ビシィッ!

響「痛ぁ!」

P「オラぁ!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「ひ!? うっ! ひゃう!」

 Pの腕が連続して振り下ろされる。
 その光景を声も発さず……いや、発せず見守る姿が二つ。
 音無小鳥は口を真一文字に結びその光景を固唾を呑んでいた。
 四条貴音は先程音無小鳥に聞いた冗談とも嘘ともつかない話が、現実に目の前で繰り広げられていることのショックで呆然としていた。
 貴音はしばらくその状態であったが、やがて表情を引き締め、大きく息を吸った。

貴音「あなた様! これは一体どういう事ですか!?」

20: 2012/07/02(月) 18:12:56.77 ID:HZmyunwM0
P「貴音? どうしたんだ、そんな怖い顔して」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

貴音「とりあえず響の臀部を叩くのを止めなさい!」

P「え……だって50コンボ宣言しちゃったし」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

貴音「この恥知らず!」

P「……すまん」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

貴音「小鳥嬢、一体これは現実なのでしょうか。
 私の目の前で繰り広げられている光景、信じたくはありません」

小鳥「現実……圧倒的現実よ」

 その言葉に貴音の足元が揺らいだ。

貴音「現実? これが現実……。
 私の親友が最も信頼に値する人物に臀部を叩かれているのが現実?」

小鳥「えぇ、現実よ」

貴音「……そうですか」

小鳥「さすが貴音ちゃん。平静を取り戻すのが早いわね」

貴音「恐らくラーメン分が足りてなかった所為で幻覚を見ているのでしょう。
 はて……どこからが幻覚だったのやら。
 朝目覚めた所からでしょうか?」

小鳥「……貴音ちゃん?」

21: 2012/07/02(月) 18:13:32.55 ID:HZmyunwM0
貴音「何奴!?」

小鳥「お、音無小鳥です!」

 いきなり声を張り上げた貴音の目は、小鳥では無く事務所の入り口を捕らえていた。

貴音「そこでこそこそしている者! 出てきなさい!」

やよい「こ、こんにちはぁ~」ガチャ

貴音「……やよい」

小鳥「や、やよいちゃん。今、事務所に入ったら駄目!」

やよい「大丈夫ですっ!世の中には色んな人がいるって分かってますからー」チラ

P「オラァオラァ!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「うわぁああ!」

やよい「分かってますからっ!」

小鳥「やよいちゃん」ホロリ

貴音「……私も現実逃避している場合ではありませんでしたね。
 あなた様!
 いい加減にして下さい! やよいも見ているのですよ」

P「え!? やよい?」ピタッ

22: 2012/07/02(月) 18:14:33.52 ID:HZmyunwM0
やよい「ううー」ジー

P「……やよい……」スパーン

 Pの瞳はやよいを捕らえていたが、腕だけは鞭のように響の尻へと振り下ろされた。

響「つっう!」

貴音「あなた様!」

P「す、すまん。これでラストだったんだ」

やよい「プロデューサー」ジー

P「やめろやよい、そんな目で俺を見るな!」

貴音「そんな目で見られるようなことをしていたのですから至極当然かと」

P「違う! 俺は何もしてない! 俺は何も悪いことはしてない!」

貴音「見苦しいですよ、あなた様」

P「俺は悪くない! 全部響の責任なんだ!」

貴音「……これ以上、見損なわせないで下さい」

23: 2012/07/02(月) 18:15:14.16 ID:HZmyunwM0
やよい「……」ジー

P「や、やめろ。見るな。俺をそんな目で見るなぁ!」

やよい「あ、大丈夫ですっ。分かってますから。プロデューサーさんみたいな人が世の中にはいるってー」

P「その哀れなものを見るような瞳をこっちに向けるな!
 俺はやよいが思っているような人種じゃ無い!
 響が、響が全部悪いんだ!」

貴音「それ以上不快なことを言うようでしたら、実力行使に出ざるを得ませんよ?
 響も黙ってないで何か言ったらどうですか」

響「……お尻が痛いぞ」

P「あ、これクリームな。塗っとけよ」

貴音「響!」

響「わっ! びっくりするぞ、そんな大声を出したら」

貴音「私に大声を出させないで下さい。
 頭が少し混乱しているのです」

P「大丈夫か?」

貴音「黙りなさい!」

25: 2012/07/02(月) 18:15:51.79 ID:HZmyunwM0
P「落ち着け貴音。カルシウムが足りてないぞ。塩分ばっかり取ってるからだよ。
 ラーメンばかりじゃなくてたまには別の――」

貴音「らぁめんには罪は無いでしょうがぁ!!」スパーン

 貴音は一瞬でPの元にまで駆け寄ると鋭い平手を炸裂させた。
 Pの首が嫌な方向に曲がり、ぴくりとも動かなくなる。

響「ぷ、プロデューサーぁあぁぁ!」

貴音「さて、響。なぜこのような事になったのか説明をお願いします」

響「うぅ……説明も何も始めに言った通りだぞ。
 自分はミスをしたからお仕置きを受けてたんだ」

貴音「先日と同じ流れですか。
 何故ミスをしたら仕置きを受けることに?
 わたくしも仕事でミスをする事が時折ありますが、いままでお仕置きという流れになったことは一度も無いのですが」

響「自分が提案したんだ。だからプロデューサーに非は無いぞ」

やよい「……」ジー

響「うぅ……そんな目で見て欲しくないぞ、やよい」

やよい「……」ジー

26: 2012/07/02(月) 18:16:36.91 ID:HZmyunwM0
貴音「……大体の事情は分かりました。小鳥嬢の言っていた通りなのですね。
 これは対策が必要ですね。小鳥嬢」

小鳥「え? そうですね」

 小鳥は机に座って限りなく存在感をなくしていた所だった。
 自分の無力を痛感した者が行う現実逃避の一つの形である。

小鳥「やりますよ。対策。いつかやります」

やよい「大丈夫ですかー?」

小鳥「やよいちゃんは優しいのね。
 こっちにおいで」

やよい「ううー?」

小鳥「……」ギュッ

 小鳥はやよいを抱きしめると心底いやされた笑顔のまま固まった。

貴音「……小鳥嬢!
 わたくしにもやよいを!」

小鳥「止めて下さい!」

 この時、現実から逃避した人間が二人生まれた。

響「……このクリーム。どこで塗れば良いんだ?」


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27: 2012/07/02(月) 18:17:09.85 ID:HZmyunwM0

 765プロから二人の現実逃避者が生まれた日から2週間が経っていた。
 四条貴音、音無小鳥両名の様子がおかしいことは765プロの皆が知るところとなったが、その理由まで知っている者はごく少数であった。

番組スタッフ「いやー。我那覇さん最近調子が良いですねー」

P「ありがとうございます。彼女はまだ余力を残してますし、これからどんどん伸びますよ。
 この番組のおかげで動物関連の仕事が増えましたし感謝してもし足りませんよ」

番組スタッフ「そういえば監督が我那覇さんを使ってもう一仕事したいって言ってましたから、また忙しくなるはずですよ」

P「実はもう聞いてるんです、その話。
 まだ構想段階ですけど、その構想を実行に移すときは是非ともうちのアイドルを使ってやりたいと言ってもらえました。
 響と相性が良い貴音も使って――」

響「プロデューサー!」

P「あ、響。よく頑張ったな。ほら、飲み物だ」

番組スタッフ「あ、呼ばれてる。じゃあこの話はまた」

 響はスタッフが離れていくのを見送ると口を開いた。

響「なんの話してたんだ?」

P「仕事の話。
 ぬか喜びさせたくないからまだ詳しくは話さないけどな」

響「あやしいぞ……プロデューサーデレデレしてたし」

P「な、なんの話だ?」

28: 2012/07/02(月) 18:17:37.13 ID:HZmyunwM0
響「綺麗なスタッフさんだったからな。分からなくもないぞ」

P「別にデレデレなんてしてないけどなぁ。
 それにあの人、お偉いさんの娘で味方に付けておくと何かと便利なんだ。
 将軍の首を取るためには、まず外堀から埋めていかないとな」

響「……悪い顔してるぞ」

P「響がトップアイドルになる日が楽しみだな」

響「……なれるかな? 自分」

P「どうした響。いつになく自信が無いな」

響「プロデューサー見てなかったのか? 自分、ミスしたんだぞ」

P「そうは見えなかったが?」

響「全然見てくれてないんだね。プロデューサー。
 少し前のプロデューサーなら反省会だぞ。
 スタッフのみんなが目を瞑ってくれる程度の失敗だけど、完璧じゃないとトップアイドルには成れないんだよね?」

29: 2012/07/02(月) 18:18:33.85 ID:HZmyunwM0
P「……響、確かに完璧を目指せと言ったが、完璧に捕らわれすぎるとトップアイドルになる前に壊れてしまう。
 たまに失敗するくらいわけないさ」

響「いや、自分お仕置きが必要だと思うぞ」

P「いやいや。今日はハム蔵もいぬ美もいるし。
 ほら、無茶苦茶こっち見てるぞ」

響「大丈夫。二人は空気読めるから。
 いままでだってハム蔵は空気読んでくれてたし。
 ……プロデューサーは自分にお仕置きするのが嫌なのか?
 ……困らせてるんならもう頼まないぞ……」

P「俺は……俺は――ッ!」


----------------------------------------



30: 2012/07/02(月) 18:19:30.45 ID:HZmyunwM0
 765プロ事務所

P「お仕置きのリズムに合わせて響の尻を叩くドン!」

響「よろしく頼むぞ!」

P「頼んでどうする。響はお仕置きされる側なんだぞ!」ビシィッ!

響「ひゃう!」

P「ん? 響、微妙に太ったんじゃないか?」

響「……失礼すぎるさー」

P「微妙になんだが叩きごこちが……」

響「ダンスの練習をもっと増やした方が良いのか?」

P「適切だと思うんだけどなー。オーバーワークになるといけないし」

響「もしかして下着の感触かも知れないぞ。
 今日は少し厚手の生地なんだー」

P「うるさいドン!」ビシィッ!

響「またぁ!?
 脈絡の無い攻撃はやめて欲しいぞ」

31: 2012/07/02(月) 18:20:16.64 ID:HZmyunwM0
P「攻撃じゃ無い! お仕置きだ!
 今日は100コンボいくから覚悟しろよ!」

響「大丈夫なのか!? 自分のお尻的な意味でもPの掌的な意味でも」

P「大丈夫だ。俺を信じろ。俺はプロだ。
 覚悟は良いな!」

響「良いぞ!」

P「前に渡したクリームは持ってるか!」

響「持ってるぞ!」

P「一応、予備も持って来てるんだ!」

響「用意周到だな!」

P「うるさいドン!」ビシィッ!

響「いつっう!?」

P「アイドル根性を刻んでやるドン!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「ひゃうううぅぅ!!」

千早「何してるんですか!」バン!

 事務所内に飛び込んで来たのは765プロの歌姫、如月千早だった。
 彼女は扉の前にまで漏れ出した音と声に驚き飛び込んできたのだ。

32: 2012/07/02(月) 18:21:13.70 ID:HZmyunwM0
千早「本当に何してるんですか!?」

 彼女は目の前で繰り広げられている斜め上をいく光景に度肝を抜かれた。

P「お、千早と直接顔を合わせるのは久しぶりだな! といっても2日ぶり程度だが」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「はいさいっ!千早!」

小鳥「うーむ。激しい」ジジー

千早「って、音無さんはもっと何をやってるんですか!?」

小鳥「え? 撮影」

 小鳥はハンディカメラを構え、Pと響を撮影していた。

千早「え? なんなんですかこれ。何かの企画ですか?」

小鳥「いえ、趣味です。色々な人の」

千早「ちょっと理解が追いつきません。
 なんでプロデューサーがあんなにノリノリで我那覇さんのお尻を叩いてるんです?」

小鳥「それは尻ません」キリッ

千早「……」

小鳥「……」

千早「……んっふwwww」

33: 2012/07/02(月) 18:21:47.11 ID:HZmyunwM0
小鳥「……こうやって記録を残してたら、いつの日か過去を懐かしむ良い思い出になる。そう思わない?」

千早「コホン……思いません。
 一体どうしたんです?
 プロデューサーも音無さんも仕事のしすぎたのでは?」

小鳥「いいえ。至って正常よ」

千早「音無さんは最近様子がおかしかったですし、少し休んだ方が良いのだと思います。
 プロデューサーもいつもとかなり様子が違うようですし、何かあったとしか思えないのですが」

小鳥「それは尻ません」キリッ

千早「……二度目は笑いませんよ。使い方も微妙におかしいですし」

小鳥「それは尻」キリッ

千早「……」

小鳥「……」

千早「……んっふふwwww」

34: 2012/07/02(月) 18:22:18.50 ID:HZmyunwM0
小鳥「知らなくて良いのよ。だれも理解する必要なんて無いの。
 ただ、受け入れて嵐が過ぎるのを待つの」

千早「……そうですか」

 千早はCDプレイーヤーと雑誌を取り出すと開いているソファに腰を下ろした。
 丁度、プロデューサーと響の対面の席である。
 彼女は何事も起こってないようにイヤホンを耳に当て、雑誌のページをめくっていった。
 そして、この魔窟に飛び込んで来た人間がもう一人。

美希「あふぅ……おはようなの」

P「もう昼だぞ」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

美希「あ、ハニー。ミキは先起きたばかりなの」

P「ハハ、この眠り姫め!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

美希「ミキはハニーが目を覚まさしてくれるのを期待してるの。
 ところで……」

 美希は千早の隣に腰を下ろすと猫のように伸びをした。
 そして欠伸のような深呼吸を一つ。

美希「なにしてるのーー!!!???」

 叫び超えが事務所内に響き渡った。

P「うわっ!? なんだ美希。いきなり大声なんか出して」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

美希「なんだじゃないの。それはこっちの台詞なの!
 なんでハニーが響のお尻をノリノリで叩いてるのか意味が分からないの!
 小鳥がハンディカメラでそれを撮影してるの意味が分からないの!
 千早さんがスルーして雑誌を読んでる意味が分からないの!
 響が満更でも無さそうな顔をしてるのがむかつくの!」

35: 2012/07/02(月) 18:22:49.24 ID:HZmyunwM0
P「あまり叫ぶと喉に悪いぞ。アイドルなんだから気を付けないと」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

美希「こ、怖いの。目の前で繰り広げられてる現実が怖い!
 異次元なの!」

P「大丈夫か?」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

美希「ハニーのせいなの!」

千早「落ち着いて美希。それ以上は本当に喉に悪いわ」

美希「千早さんは落ち着き過ぎなの!
 なんで、こんなあり得ない光景が繰り広げられている目と鼻の先で――はっ!
 千早さん……雑誌が逆なの! しかも、CDプレイヤーが再生されてないの!」

千早「落ち着いて美希。それ以上は本当に喉に悪いわ」

美希「壊れてるの!」

千早「落ち着いて美希。それ以上は本当に喉に悪いわ」

美希「どうしちゃったのみんな!
 ミキなにか悪いことしたの?
 謝るから! 謝るからいつものみんなに戻って!」

響「大丈夫だぞ! あと30回!」

P「なに勝手に喋ってるんだ!プラス30回な!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「はうっ! ごめんなさい!」

美希「……これは夢。夢なの。だから寝るの。
 寝たら……きっと目が覚めていつもの事務所で……」

小鳥「いやー、いい絵が撮れてますよー」

ハム蔵&いぬ美(まったく……ここは地獄の一丁目だぜ(ね)!)


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36: 2012/07/02(月) 18:23:16.37 ID:HZmyunwM0
P「……最近、エスカレートしてないか?」

響「なにが?」

P「お仕置きの内容がだ」

響「エスカレートさせてるのはプロデューサーだぞ」

P「俺は前回と同じお仕置きだと効果が薄いと思って……」

響「自分もそうおもうさー。
 だから、失敗するごとにちょっとずつ厳しいお仕置きにしていくのに対して文句はないぞ」

P「そもそもお仕置きと言っても、響はお仕置きをされるようなことをしてないと思うが?
仕事も増えてるし実績は伸び続けてる」

響「仕事が増えてるとかそう言うのはあまり関係ないと思うぞ。
 目標はトップアイドルだからね。
 それまでは全力を尽くすだけさー。
 ってことで今日もお仕置きをお願いするぞ」

37: 2012/07/02(月) 18:24:35.48 ID:HZmyunwM0
P「といってもなぁ……加減してるとはいえ、こうも頻繁に叩いてるとそろそろ本気で腫れるぞ」

響「加減してたのか?
 通りでミスが減らないと思ったぞ……プロデューサー、真面目にやってほしいぞ」

P「とってもなぁ、アイドルを本気で叩くわけにもいかないし」

響「そろそろそんなことを言い始めるだろうと思って、今回はこんな物を持ってきたぞ!」

P「首輪とリード?」

響「うん!」

P「どん引きだよ!」

響「これを見て一瞬で何するのか理解したプロデューサーにもどん引きだぞ」

P「うぐっ」

響「これなら傷付けずに躾が出来るよね?」


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38: 2012/07/02(月) 18:25:42.83 ID:HZmyunwM0
 萩原雪歩。
 苦手な物は男性と犬。臆病であり自分に自信を持つことが出来ない少女である。
 そんな彼女がアイドルなどという適正など顔しかない仕事をやっているのは、自分で自分を変えたいという意思があったからに他ならない。
 そしてその意思は彼女のアイドルとしての道を切り開き始めていた。
 大器晩成型。
 彼女はまさにその典型であったのだ。

雪歩「真ちゃん、おはよ~」

真「おはよう、雪歩。今日も一緒に仕事頑張ろう!!」

雪歩「うん。事務所でプロデューサーが待ってくれてると思うから早く行かないと。待たせちゃうと悪いし」

真「へへっ、そうだね」

 菊地真は萩原雪歩の親友であり共にアイドルの頂点を目指すライバルでもあった。
 アイドルを目指すと決めたその日から今日の日まで自分に及ぼされた様々な影響を鑑みて、萩原雪歩は自分の選択は間違いでは無かったと確信している。
 犬はまだ苦手であるが、男性恐怖症は改善の兆しを見せていた。
 それには765プロの真面目で気さくなプロデューサーが、一役買っていたことは言うまでもない。

雪歩「……プロデューサーさん」

真「ん? なに雪歩」

39: 2012/07/02(月) 18:26:51.10 ID:HZmyunwM0
雪歩「な、なんでもないですぅ」

 雪歩は顔を左右に振ると階段を駆け上がった。

真「変な雪歩だなぁ」

雪歩「ほ、本当に何もないですぅ」

 事務所の入り口の前に立つ。
 扉を開いて元気よく挨拶をしてからが彼女の1日の始まりだった。

雪歩「お、おはようございま――」ガチャ

P「響、これ犬用の首輪だ。
 犬用はノミ取りの効果があるから人の肌には悪影響なのを知ってるか」

響「知らなかった……知ってたなら付ける前に言って欲しかったぞ」

P「誰が人様の言葉を喋っていいって言った!
 返事の仕方は教えただろう!」

響「わ、わふっ!」

P「まったく……この程度が簡単にこなせないようじゃトップアイドルは難しいぞ」

響「わふ! わふ!」

P「よし、やる気だけはあるみたいだな。
 どんな才能がある犬でも躾が出来て無いと駄犬になる。
 徹底的に躾けてやるから覚悟しろよ!」

響「わふぅ!」

 萩原雪歩はそっと扉を閉めた。

40: 2012/07/02(月) 18:27:44.98 ID:HZmyunwM0
真「どうして入らないの?」

雪歩「ちょっと事務所を間違えちゃいましたぁ」

 萩原雪歩は自分の失敗を恥ずかしがっているような照れ笑いを浮かべた。

真「いや、場所は間違ってないよ」

雪歩「ここのはずないんです」

真「いや、ここだよ」

 そう言って菊地真は扉を開いた。

P「よーしよしよしよし。よーしよしよしよし」

響「わ、わふわふぅ!」

 同じ事務所のアイドルがプロデューサーに腹部をなで回されている光景が飛び込んでくる。
 菊地真は扉を素早く閉じた。

真「何 が 起 こ っ た の か 分 か ら な い」

雪歩「……同感ですぅ」

41: 2012/07/02(月) 18:28:25.96 ID:HZmyunwM0
真「……大丈夫。大丈夫だよ。
 ただ、プロデューサーが響に首輪をしてリードも付けてお腹をなで回してただけじゃ無いか。
 遊びの範疇だよ。
 ちょっと予想出来なかったけど別に驚くようなことじゃない」

 菊地真は深呼吸をした。

真「……よし!」

 そして扉を開く。

P「オラオラオラオラ!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「結局叩くのかぁ!?」

真「あ、駄目だ」バタン

42: 2012/07/02(月) 18:29:09.42 ID:HZmyunwM0
雪歩「ま、真ちゃん……一体何が起こって……」

真「分からない。
 ただ言えることは、ボクたちが知ってるプロデューサーはこの中にいないって事だけだよ」

雪歩「う、うぅ……うわああああああああああああ!」バタン!

真「雪歩!?」

雪歩「お、おはようございますプロデューサー!」

P「おはよう雪歩! スケジュールの確認は出来てるな」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

雪歩「ばっちりですぅ」

P「よし、もう少し時間があるからくつろいでてくれ」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

雪歩「はい。
 プロデューサー喉は渇いてませんか?」

P「カラカラだ」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

雪歩「お茶持って来ますね」

P「ありがとな、雪歩」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

43: 2012/07/02(月) 18:30:03.01 ID:HZmyunwM0
雪歩「お、お礼を言われるような事なんて何もしてないですぅ」

真「分かった。ドッキリだ。
 カメラはどこ?」

小鳥「ここにありますよ」

真「ハンディじゃなくて隠しカメラがあるんでしょ。
 やだなー。こういう悪ふざけは悪趣味ですよ」

小鳥「悪ふざけでもドッキリでも無いわよ」

真「……嘘だ!こんなのが悪ふざけ出なかったらなんなんだよ!
 プロデューサーを止めてください、小鳥さん!」

小鳥「……あっ、何やってるんですかプロデューサーさん!」

 小鳥はいきなり驚愕の表情となるとハンディカメラを放り投げてPに詰め寄った。

小鳥「はい、犬耳! 忘れてますよ!」

P「ありがとうございます、音無さん」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

44: 2012/07/02(月) 18:32:21.63 ID:HZmyunwM0
小鳥「ちなみにネコミミもあるんですよ。似合いますか」ニャン

P「うーん、音無さんもどちらかと言えば犬耳かなぁ」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

小鳥「だったら私にも響ちゃんと同じような――」

響「わふっ!わふっ!」

P「こら、威嚇するな!」ビシィッ!

響「にぁ!!」

P「にぁ?……いつから猫になったんだ!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

響「わ、わふぅぅ!」

真「さーて、隠しカメラ探すぞお!」


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45: 2012/07/02(月) 18:33:21.35 ID:HZmyunwM0
真美「むむ? なにやら事務所が騒がしいですなぁ」

 双海真美がやって来たのは雪歩、真の両名が事務所に到着してから10分ほど後のことだった。

真美「許せませんな→。真美を除けものにして騒ぐだなんて」

 双海真美はそう言うと蹴破るような勢いで扉を開いた。

真美「こら→! 何を騒いでるか→! 真美も混ぜ――」

P「やめろ雪歩! スコップは洒落にならない!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

雪歩「でも……でも……私犬が苦手でぇ……」

P「犬じゃない! 響だ! 響もいつまでもふざけてないで何かいってやれ!」ビシィッ!

響「わふ!」

雪歩「ひいいいいいいん!」

P「うおおおおおおおお!」ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!

46: 2012/07/02(月) 18:33:57.04 ID:HZmyunwM0
真「へへっ、参ったなあ。全然わからないや。
 降参です。カメラはどこです?」ガシャァン!

小鳥「ニャンニャン!」

真美「――なくて良いです」バタン

 真美は額に浮かんだ珠のような汗をぬぐった。

真美「……あれが兄(C)たちの真の実力……合わせてくれてたんだ。
 いままでは合わせてくれてたんだ。真美のレベルに。
 兄(C)に悪戯しても笑って許してくれる理由が分かったYO。
 兄(C)にとってはレベルが低すぎたんだね。
 頑張らなくちゃ……真美も頑張らなくちゃ……」ブツブツ


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47: 2012/07/02(月) 18:35:33.77 ID:HZmyunwM0

 数日後。

貴音「だからわたくしはその店員に言ってやったのです。
 いいからましましにしやがれ、コーンにも劣るゴミ粒め……と」

千早「ンフフフwwwwwwww」

小鳥「やよいちゃんやよいちゃんうわあああああああああん!」

やよい「はいはい、今行きますよぉ」

美希「いかないで! 寂しいの! 寂しいの!」

やよい「うっうー! 春香さんお願いしますー」

春香「ごめん。クッキー食べるのに忙しいから」サクサクサクサクサクサクサクサク

雪歩「掘って掘って掘り続けてたら、キラキラの衣装を着た人たちがいっぱい踊ってたんんですぅ」

真「それはドッキリ」

真美「すごいYO! 765プロのレベル高すぎだYO!」

 この光景を事務所の隅で見守る影が四つ。
 竜宮小町の面々、水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜実。と、これをプロデュースする秋月律子の四人だ。

伊織「何これ。こんなか感じだったかしら事務所の雰囲気って」

48: 2012/07/02(月) 18:36:13.35 ID:HZmyunwM0
あずさ「あらあら~。しばらく見ないうちにみんな雰囲気が変わったわね~。
 垢抜けたというか、吹っ切れたというか」

亜実「真美の様子もおかしいNE。家での会話もレベルがどうとかって話にならないし→」

律子「最近はみんな忙しくなったからストレスが溜まってるのかもねぇ」

伊織「一区切りがついたらみんなで旅行でも行きたいわね」

律子「遠征に格好づけて海なんか面白そうね」

伊織「ニヒヒ、律子も遊びたいのね」

律子「そ、そう言うわけじゃ……行くなら海が良いっていっただけで……」

亜実「良いじゃん良いじゃん、亜実もストレス発散したいし。
 みんなもそう思ってるはずだYO!
 兄(C)に頼んで企画して貰お→!」

律子「あんたねぇ……何から何までプロデューサーに任せ過ぎよ。
 私もそこら辺は考えてあるし、福利厚生は小鳥さんがやってくれるから良いの」

亜実「え→? ピヨちゃんがぁ?」チラ

小鳥「やよいちゃんやよいちゃんうわああああ!
 うわああああああああああああん!!」

亜実「……大丈夫かなぁ」

律子「大丈夫なはず。……多分」

49: 2012/07/02(月) 18:37:05.90 ID:HZmyunwM0
伊織「とりあえずプロデューサーにも相談しないとね。
 どちらにしろここまでなるまで放って置いたプロデューサーの罪は大きいわ」

P「ただいま戻りましたー」ガチャ

あずさ「あら~、噂をすれば帰って来ましたよ、プロデューサーさん」

伊織「ちょっとあんた! この事務所の雰囲気をどうにかしなさいよ!」

亜美「ストレスだYO! 慰安旅行だYO!」

P「ほら、キリキリ歩け」

響「わふ」

伊織「………………は?」

 困惑に襲われたのは声を上げた伊織だけでは無い。
 その後ろに控える三人も生唾を飲み込んで状況を理解しようと必氏につとめていた。
 しかし、そんな四人を尻目に他の事務所の面々は、Pが響に首輪を付けてリードを引いていることなど眼中に無い様子だ。

P「みんな喜べ!
 仕事をいっぱい持って帰ったぞ!」

やよい「いぇい!」

美希「さすがハニー! もっとお仕事頂戴! 仕事の忙しさだけが全てを忘れさせてくれるの!」

真美「すごいYO! やっぱ兄(C)すごいYO!」

50: 2012/07/02(月) 18:37:45.98 ID:HZmyunwM0
P「よいしょっと」

真美「あ→! 兄(C)おやじ臭→い!」

P「よいSHOT」

真美「ヒュー!」

千早「ブふぉwwwwwwwwww」

P「響も座れよ」

響「わふ」

 響はPの膝の上に腰を下ろした。
 そのことに対して誰も何も言わない。

P「みんな集まってくれ。新しい仕事の確認だ。
 一応、みんなのやりたい仕事がとって来れたと思うけど……真以外は」

真「ドッキリじゃ無いなら構いませんよお!」

P「そうか、よかった。
 いつか女の子らしい一面も出せる仕事も取ってくるからな」

真「へへっ、気長に待ってますよ」

P「よし、確認するぞ。
 春香は――」

伊織「まてやこらああああああ!!」

51: 2012/07/02(月) 18:38:52.20 ID:HZmyunwM0
P「え?」

 事務所内に一部を除き静寂が訪れた。
 一部とは腰を左右に振りながらニャンニャン言っている小鳥のことである。

伊織「あんたなにやってんの!?」

P「……え?」

伊織「え? じゃなーい!!」

 伊織はPに駆け寄ると前蹴りを顔面に放った。
 ヒールの部分がPの眉間にめり込む。

P「がああああああああああ!!」

 Pは後ろに吹き飛ぶと地面を転がった。

貴音「伊織! 乱心しましたか!」

伊織「乱心してるのはそっちでしょ!?」

亜美「アームロックだYO! 兄(C)」

P「がああああああああああ!!」

 追い打ちを掛けるように亜実が見事なアームロックを決める。

52: 2012/07/02(月) 18:39:45.39 ID:HZmyunwM0
真美「ゃめて亜実!」

亜実「……ちぇ」ドサ

P「うぅ……」

 地面にひれ伏しているPに人影が覆い被さった。
 影を作り出している人物はPに手を差し伸べるでもなく、ただただ冷たい目を向けている。

あずさ「……」

P「がああああああああああ!!」ビクンビクン

律子「プロデューサー殿ぉ!?」


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53: 2012/07/02(月) 18:40:38.74 ID:HZmyunwM0
律子「……私たちがいないうちにこんな状況になっていただなんて」

 大体の事情をPから聞きだした律子は溜息を吐いた。
 床に正座をさせられているPは沈み込んだ様子である。

伊織「あんた何やってんのよ」

P「ち、ちが……そうだ! 俺は悪くない! 俺は悪くない!
 響が全部悪いんだ! 全部響の提案なんだ!」

伊織「このクズ! ゴミ! 芋虫!」ゲシゲシゲシ!

P「ああっぁあぁぁ、ありがとうございます!」

伊織「この変態ド変態Da変態ィ!」ゲシゲシゲイ!

響「やめるさー! 伊織!
 Pのいう通り自分が悪いんだぞ!」

伊織「黙りなさい!
 それを認めるとあんたの所為にしてこの変態はやりたい放題じゃ無い!」

54: 2012/07/02(月) 18:41:31.33 ID:HZmyunwM0
P「おっ……俺は悪くない! 俺は悪くないんだぁ!!」ダッ

律子「ちょ!? プロデューサー! プロデューサー殿!」

 Pはバネでも仕掛けてあったかのように跳び上がると、そのまま事務所の外へと逃亡した。

響「プロデューサー!」ダッ

やよい「いってらっしゃーいっ!」

美希「寂しいの! 寂しいの!」

春香「……」サクサクサクサクサクサクサクサク

伊織「……そうだ京都に行こう」

貴音「案内しますよ?」


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55: 2012/07/02(月) 18:42:14.45 ID:HZmyunwM0

P「はぁ……眉間が痛い……肩も肘も痛い……心も痛い」

 Pは公園のベンチに座って溜息を吐いた。

響「プロデューサー!」

P「……響。追って来たのか」

響「当然だぞ」

P「大分走ったと思ったけど……よく居場所が分かったな。
 見失わなかったのか?」

響「ハム蔵が教えてくれたんだ!」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「ハムスターってすごい。本当にそう思った」

響「……ごめんプロデューサー、自分のせいで」

P「…………全くだ。今日は事務所に戻る勇気が無いよ。
 早急の仕事は終わらせてあったから別に困らないけど」

響「このまま帰るのか?」

P「夕方も近いしなぁ。
 すこし辺りを散策して夕飯でも食べて帰るか。
 響も付き合えよ」

響「うん!」

 二人は街を散策し始めたが、洋服屋に入ってからは意図せずにそこで時間を潰すこととなってしまった。

P「こっちの方が響のイメージに合ってると思うんだが」

響「プロデューサーは仕事目線ばっかりだな」

P「仕事目線とは言うけどな。響のイメージにぴったりの物を選び出すのには最適の目線なんだ」

響「無難って感じがするさー」

56: 2012/07/02(月) 18:42:56.67 ID:HZmyunwM0
P「冒険がした見たいのか。失敗するだけだと思うけどなぁ」

響「そんなことない……と思うぞ」

P「想像してみろ。絶対に失敗するから。
 いままでのイメージに無いことを無理やりやろうとするんだ。
 例えば、雪の降る中でロシア帽を被ってロングコートを羽織ってるのを想像してみろ。
 …………無茶苦茶可愛いじゃないか!」

響「ほら! 少しくらいの冒険なら良いって事だぞ」

P「うーん。でも仕事にはイメージが大切なときもあるしなぁ……脱線するとイメージ通りだった仕事が少なくなるリスクもあるし……」

響「仕事目線も程々にして欲しいぞ。
 ……あっ、見てプロデューサー! あのネックレス可愛いぞ!」

P「こんなのも売ってあるんだな。
 ブレスレットに指輪まである」

響「わぁ……可愛い……って高ぁ!?」

P「馬鹿! 響! 声がデカイ」

響「うぅ……ごめん。
 思ってたよりゼロが多かったから吃驚して」

P「どれだ? これか?」

響「また仕事目線の選択を……その隣」

P「大人しすぎないか?」

響「こういうのが結構好きなんだ。
 似合うか似合わないかは置いておいて」

57: 2012/07/02(月) 18:43:34.06 ID:HZmyunwM0
P「へぇ……確かに高いな。高すぎるってことは無いけど気軽に買える値段じゃ無い。
 たいして高そうに見えたいのに微妙に値段が張るのがいらつくな」

響「うぐぐ……もう少し安かったら買ってたのに」

P「残念だったなぁ!」

響「うがー! なんだその満面の笑み!」

P「何でかな。いまみたいな響を見てるとワクワクする!」

響「変態だぞ!」

P「おっ、そろそろいい時間だな。
 近くの店で良いか? ユッケが最高の店なんだが」

響「やめるさー!」

P「いやか?」

響「嫌とか言う以前の問題だぞ」

P「我が儘だな、響は。
 だったらどこか行きたい場所はあるのか?
 無いならユッケな」

響「……家。
 自分の家」


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58: 2012/07/02(月) 18:44:25.57 ID:HZmyunwM0

P「って事で響のアパートまできたんだが、大丈夫だろうな」

響「任せて! 沖縄料理が得意なのはプロデューサーも知ってるよね?」

P「そっちは心配してないんだが……ワニとか飼ってただろ。本当に大丈夫だろうな」

ハム蔵「ヂュイ!」

響「……行くさー」

P「ちょっと待て!本当に大丈夫だろうな!」

ハム蔵「ヂュイ!」

響「ハム蔵は黙って!」

P「待て響! ハム蔵はなんって言ってるんだ?」

響「……ちょっとした冗談さー」

59: 2012/07/02(月) 18:46:05.65 ID:HZmyunwM0
P「教えてくれ」

響「……ワニ子に噛まれた場合はその挙動に注意して奴の回転に合わせて自分も回れ、そうすれば最悪の事態は免れる……って言ってるぞ」

P「ハムスター語って凄い。本当にそう思った」

響「まあ、冗談だぞ。
 ワニ子は大人しいし噛みついたりしないから安心してよね」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「……ハム蔵はなんって?」

響「……口の中に触れたら腕一本は覚悟しろよ……って言ってるぞ」

P「犬が可愛く思えてきたよ」

響「犬は最初から可愛いぞ」


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60: 2012/07/02(月) 18:46:55.94 ID:HZmyunwM0

P「いやー食った食った。
 思えば久々にまともな食事だったかもな。
 基本的にカップ麺か外食だったし」

響「そんな生活を送ってると体をこわすぞ。
 塩分とコレステロールの管理くらいはしないと」

P「俺もアイドルだったら食生活にも気を付けるんだけどなぁ」

響「やめるさー! 変なものが脳裏に浮かんだぞ!」

P「自炊は面倒臭いからな。どうしても外で済ませてしまう。
 自分で作った飯は不味いし」

響「だったら……自分がプロデューサーの分も作ってあげるぞ。
 今更一人分作るのが増えようと負担にならないし」

P「……遠慮しとくよ。
 響の負担をプロデューサーの俺が増やすわけにはいかないし」

響「そ、そうか?」

61: 2012/07/02(月) 18:47:43.81 ID:HZmyunwM0
P「今日はありがとな。おいしかったよ」

響「帰るのか?」

P「明日も早いからな」

響「自分は早くないぞ」

P「響は明日は休みだからだろ」

響「事務所に顔を出すかも知れないぞ」

P「そんなことせずに体を休めとけよ。
 久々の休みなんだし」

響「別に疲れてなんて無いけどなぁー」

P「疲れは気がつかない部分で溜まってるんだよ。
 じゃあ、お休み。響」

 そう言って立ち上がったPであったが、響に背中を見せた瞬間腰に強い衝撃を受けて床に倒れ込んだ。

62: 2012/07/02(月) 18:49:16.42 ID:HZmyunwM0
P「また眉間!? 眉間ぶつけた!」

響「だ、大丈夫かプロデューサー」

P「なにやってるんだ響!?
 フットボール選手ばりのタックルかましやがって!」

響「自分、悪いことしたよね。
 お仕置きして欲しいぞ」

P「意味が分からん。先のは絶対にわざとだろ」

響「わざとだぞ」

P「なっ」

響「だから――」

響はPに組み付いたまま器用にショートパンツを脱ぎ始めた。

響「わざとでも二度とこんな馬鹿なことをしないように、お仕置きをして欲しいんだ。
 今度は直接……」

 響の臀部は引き締まっていながらも、ほどよい脂肪をうっすらと纏っていた。
 小柄にもかかわらず女性的なヒップとバストは、それを肌で感じているPの心拍数を容易に上昇させた。

63: 2012/07/02(月) 18:50:02.10 ID:HZmyunwM0
響「自分が頼んでるだけなんだからPには何も責任はないんだぞ」

P「俺は……俺は――ッ!」

 Pの腕がゆっくりと釣り上がる。

響「……プロデューサー」

 Pの腕は響の予想に反してゆっくりと振り下ろされた。
 それも響の頭に。

P「早く寝ろよ」

響「……え?」

 響の気が緩んだ瞬間、Pは拘束を抜け出して彼女のアパートから飛び出した。


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64: 2012/07/02(月) 18:51:59.78 ID:HZmyunwM0

 翌日。

P「やめろぉ!
 こんな不当な扱いがあるかぁ!」

律子「これでも穏便に済ませようとしてるんですよ。こっちは」

 午前中の仕事を済ませて事務所に戻ってきたPは、律子率いる竜宮小町の襲撃を受け、逃亡を防ぐために縛り上げられていた。

P「何が穏便だ。ロープで人に縛り上げられるなんてありそうでなかなか無いぞ!」

春香「プロデューサーさん。クッキーですよ。クッキー」

P「ありがとう」サクサク

美希「ハニー」スリスリ

律子「この通りいま事務所は混沌とした状態にあるのは分かってますね」

P「正直すまないと思ってる」

律子「原因は分かってますね?」

P「何となくは」

65: 2012/07/02(月) 18:52:41.45 ID:HZmyunwM0
律子「以外と簡単に話が進みますね。
 だったら話は簡単です。一つ約束してくれませんか」

P「内容によるな」

伊織「あんたいまの自分の状況分かってるの?」

あずさ「……」

P「がああああああああああ!!」ビクンビクン

やよい「プロデューサー……こんどはそっち側なんですねっ」

P「ち、違う。誤解してるぞやよい!」

伊織「何が誤解よ、この変態!」

千早「落ち着いて伊織。それ以上は本当に喉に悪いわ」

貴音「乱心しましたか? 伊織!」

伊織「あんた達二人も黙ってて! 面倒臭くなるのよ!」

律子「とにかく、今この事務所で正常な判断が下せるのは私たちだけです。
 元の事務所に戻すためにも私たちの条件を呑んで貰いますよ」

P「言ってみろ」

律子「今後、一切事務所内で響と過剰なスキンシップを取らないで下さい」

P「別に良いが」

律子「もし断るというのなら――えっ?」

66: 2012/07/02(月) 18:53:45.36 ID:HZmyunwM0
亜美「なん……だと。
 兄(C)は度し難い変態じゃない?」

真「これはドッキリ」

P「悪かったと思ってる反省もしている」

律子「口先だけの約束じゃないんですよね?」

P「まさかこんなことになるとは思わなかった」

律子「信じますよ……プロデューサー殿のことを。
 これ以上この事務所を魔窟にしないで下さいね」

P「約束する」

律子「……なんだか信用出来ないなぁ」

P「何でだよ!」

美希「ペロ……これは嘘を吐いている味なの」

P「話がややこしくなるから止めような」

67: 2012/07/02(月) 18:55:01.33 ID:HZmyunwM0
律子「やけにあっさりと引き下がるので拍子抜けしました。
 プロデューサー殿のことを響のことが大好きな変態だと思っていたので。
 響とはその……特殊な関係じゃなかったんですか?」

P「尻を叩くくらいは特殊な関係だったな」

律子「真面目に聞いてるんですよ」

P「響とは……プロデューサーとアイドルの関係だ……それ以上でもそれ以下でも――」

貴音「何奴ッ!!!!!!!」

P「うるさっ!」

 貴音の声に呼応して事務所の入り口から物音がした。
 しかし、誰かが入ってくる様子は無く、逆に去って行く気配がしただけであった。
 春香が扉を開けて外を確認する。

春香「……ハム蔵?」

P「ハム蔵? ってことは響だったのか!
 くそっ、解け!」

68: 2012/07/02(月) 18:56:33.07 ID:HZmyunwM0
 スコップを携えた雪歩がPの目の前にゆらりと現われた。

雪歩「動いたら嫌ですよぉ」

 振り下ろされたスコップはPの鼻先を霞め、ロープを切断する。

真美「すごいYO! やっぱ765プロすごいYO!」

春香「早く追って下さい! プロデューサーさん!」

P「すまん!」

 Pは飛ぶような勢いで事務所を後にした。

美希「うぅ、寂しいの」

律子「……どういうつもり? あなた達が何をしたいのかが理解出来ないのだけれど」

春香「私はただ……765プロを居心地の良い場所のままにしておきたかったんです。
 勝負は決したんです。敗北ですよ。敗北」

あずさ「……ふぅ」

69: 2012/07/02(月) 18:57:09.35 ID:HZmyunwM0
春香「プロデューサーさんが響ちゃんと馬鹿をやっていたとき、吃驚しましたよ。
 いつの間にか勝敗が決していたんですから。
 プロデューサーさんの響ちゃんを見る目を見たら分かります。
 慈しんでいるのが、真剣であるのが。
 それについて文句は無いんです。
 勝負ですから。
 でも、それを受け入れながら今までと同じ生活が送れるかと言えば……。
 私は765プロが崩壊させたくなかったんです。内部での醜い争いなんて見たくないんです。
 どんなに歪でもみんなが揃っている765プロのままでいたかったんですよ」

律子「だから見てみぬフリをしてたって言うの?
 こんな歪な状態になってまで。
 ……それで良いの? みんなそれで良いの!?」

千早「私には歌があれば……プロデューサーは世界へ私を連れて行ってくれるって信じてますし。
 それだけしてもらえれば私に不満はなにも」

美希「美希もキラキラさせてくれれば良いの。ハニーはハニーなの。
 響がトップアイドルに昇って来られないくらいキラキラしてやるの」

律子「こんな馬鹿な終わり方って……」

美希「律子…さん。終わったって言う表現は間違いかも。
 もしかして、始まってすらなかったのかもしれないの」

律子「…………仕方が無いわね。美希が納得してるのに私がいつまでも駄々をこねてるのは格好悪いし」

美希「律子の悪あがき格好悪かったの」

律子「ぶっ[ピーーー]!」


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72: 2012/07/02(月) 19:12:32.63 ID:HZmyunwM0
P「響ー!! どこ行ったんだ!」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「うわっ! ハム蔵!? いつの間に」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「響の居場所が分かるのか?」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「そうか!」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「なに言ってんのかわかんね」

ハム蔵「…………」ペッ

P「うわ!? きたねぇ!」

ハム蔵「ヂュイ!」

P「まあ、心配すんな。
 響はすぐに見つけられるはずだ。あいつは単純だからな」


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73: 2012/07/02(月) 19:13:40.03 ID:HZmyunwM0

響「うぅ……ひっく」

 公園のベンチで泣いている少女が一人。
 その少女にゆっくりと近づく男が一人。

P「落とし物ですよ」

響「なっ!? プロデューサー!」

 Pはハム蔵を響の頭にのせた。
 ハム蔵はPのハンカチで響の涙を拭い始める。

響「……プロデューサー。奇遇だな。こんな所で会うなんて」

P「奇遇でも何でも無い。事務所の前から逃げた響を追って来ただけだからな。
 昨日俺が逃げ込んだ公園まで。」

響「知らないぞ。そんなこと」

P「ハム蔵を置いていったのにその言い訳は苦しいだろ」

響「……ハム蔵どこへ行ってたんだ?
 心配したぞ。いきなり消えるから」

P「なるほど。しらを切るつもりか」

74: 2012/07/02(月) 19:14:16.82 ID:HZmyunwM0
響「なんのことか分からないぞ。
 自分は偶々この辺りを散歩してて、偶々プロデューサーに出会っただけだからな」

P「なるほど。
 なら迷子になったハム蔵を拾って偶々響にあった俺は言おうとしていたことを言わないといけないんだろうな」

 響の肩がビクリと震えた。

P「運命がそうさせたんだろうな。
 いもしなかった響の後を追いかけたら、偶然にも響に出会ったんだから」

響「や、やめ――っ」

 Pは逃げだそうとした響の肩を押さえた。

P「響。俺はプロデューサーでお前はアイドルだ」

響「うっ……うわぁぁ……」

 響の瞳に涙が滲んだ。

75: 2012/07/02(月) 19:15:46.35 ID:HZmyunwM0
P「……何か勘違いしてないか? 響。
 プロデューサーとアイドルの関係を。
 俺はプロデューサーとアイドルの関係ほど理想的なものは無いと思ってるんだが。
 得に、夢を追いかけるときは」

響「…………へ?」

P「俺は響をトップアイドルにしたいんだ。
 俺だけがそれを出来る!
 ファンでも恋人でも家族でも無いプロデューサーの俺なら!」

 Pは響と始めて出会った日からいままでのことを思い返していた。
 響は才能もあり、努力を怠ることもなく、信念があった。
 父親を亡くして家計を支えるために上京したと話してくれたとき、この先彼女が折れ曲がる事はないと思った。
 ……しかし、そんな人材、アイドル候補生にはいくらでもいるのが事実だ。
 才能があり努力を怠らず信念がある。これらを支える背景もある。この程度の素材はいくらでも転がっている。
 トップアイドルになるのに必要なのは千の才能に千の努力、千の意思。
 これに更に千の幸運と千の経験が必要なのだ。

P「俺は……響の千の幸運と千の経験になりたいんだ。
 プロデューサーという立場じゃないと出来ない仕事だと思ってる。
 響のプロデューサーである俺だけが響の夢を叶える権利を持ってるんだ」

響「……プロデューサー」

76: 2012/07/02(月) 19:16:31.06 ID:HZmyunwM0
P「響がどんな関係を望んでいるのか知らない。と、俺は一応言ってくぞ。
 一緒にトップアイドルを目指そうな、響。
 二人でトップに昇って……そしたら何時の日か俺が響のプロデューサーじゃなくなるかも知れないけど許してくれるか?」

響「……うんっ」

 響は大粒の涙をぼろぼろと零していた。

P「いまはこんな事しか出来ないけど、今後に期待しといてくれ」

 そう言うとPはネックレスを響の首に掛けた。

響「こ、これ……昨日の」

P「あの後、買った」

響「プロデューサー」ウルウル

P「と、これも。
 特製の首輪だ」

響「ぷ、プロデューサーの馬鹿ぁ!!
 でも好きだぞっ!!」


fin

引用元: P「やっぱ響はイジメがいがあるな」響「うぅ……やめて欲しいぞ」