1: 2013/05/06(月) 01:06:44.76 ID:Ochi6mpq0
(某所のパソコン、ボックス3)

ヨノワール「藪から棒にどうした」

ゲンガー「そして怪談と言えばゴースト!」

ヨノワール「まあ、そうだな」

ゲンガー「これからの季節、語り部の需要は高まり引っ張りだこ!得意のトークで女の子をキャーキャー言わせ、あわよくば仲良くなっちゃえる絶好の機会だぜ!」

ヨノワール「………」

ゲンガー「うおおおおおテンション上がってきた!夏本番が待ちきれねえ!」

ヨノワール「やめておけ」

ゲンガー「にべもねえなオイ!」
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2: 2013/05/06(月) 01:08:20.61 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「何でそんな水を差すような事言うんだよ!軽く涙目になっちまったよ!」

ヨノワール「じゃあ聞くが、お前、怪談の席でどんな話をしようと思ってるんだ?」

ゲンガー「そうだな、ミカルゲが復讐する話なんていいんじゃねえかな」

ヨノワール「やはりダメだな」

ゲンガー「何でだよ!あまり怖すぎないで、ライトな感じだしちょうどいいだろ!」

ヨノワール「実は以前、遠征のときにな、パーティを組んだ連中から怪談をせがまれた事がある」

ゲンガー「ほう」

ヨノワール「ちょうど季節は夏で、その日は野宿だった。マスターはもう休まれていて、深夜の森の中、俺たちポケモンだけが起きているという状況で、怪談をするにはこの上ない雰囲気だった」

ゲンガー「いいねいいね!」

ヨノワール「誰かが、リアルゴーストのリアル怖い話が聞きたいとか言い出してな。そこで俺は、お前と同じように考えて、怖すぎない話として、ミカルゲの復讐をやったんだ」

ゲンガー「何だよ!お前もやってるんじゃねえか!」

3: 2013/05/06(月) 01:09:46.28 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「話を始めてから3分、最初のヤマ場で、マリルリとサーナイトが失神した」

ゲンガー「弱っちいなオイ!」

ヨノワール「チャーレムとフライゴンはずっと抱き合って震えていた」

ゲンガー「男同士で何やってんだか…」

ヨノワール「最終的にクチートが錯乱して暴れ出し、マスターが起き出してくる騒ぎになって、怪談は途中で強制終了になった」

ゲンガー「マジかよ…」

ヨノワール「お前も知っている通り、あいつらは臆病じゃない。マスターが命令すれば、どんな化け物じみた相手にでも、ためらいなく突っ込んでいこうという連中だ」

ゲンガー「そうだな」

ヨノワール「そんなヤツらがこの有様だ。それを見て俺は、どうも恐怖に対する基準と言うか、感覚みたいなものが、俺たちゴーストは、他のポケモンとはかなり違うと悟った」

ゲンガー「う~ん。確かにそれはあるかも知れねえ」

ヨノワール「だから、うまくさじ加減をきかせる事ができない。どうしても怖がらせすぎてしまう。怪談とは言っても、基本的には楽しむためにやるわけだからな。そうなったらぶち壊しだ」

ゲンガー「ふむ…」

8: 2013/05/06(月) 01:15:22.79 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「よし分かった!ならば作戦変更だ!」

ヨノワール「あきらめてなかったのか」

ゲンガー「当然だろ!でな、怪談と言っても、何も必ず超常現象が絡まなきゃならねえわけじゃねえ。身の回りの、ちょっと怖い話みたいなのも、怪談に含めていいと思うんだ」

ヨノワール「まあ、広義の怪談と言えなくもないな」

ゲンガー「それでな、この間、ポリゴン2と話したときに聞いた話でな。この、今、俺たちがいる、パソコンボックスに関する怖い話なんだけどな」

ヨノワール「ほう」

ゲンガー「パソコンボックスと言うか、ポケモン預かりシステムはな、当然人間が作ったわけだが、その仕組みを理解してるヤツは、実はほとんどいないらしい」

ヨノワール「それは仕方がないだろう。身の回りの家電製品でも、仕組みまで理解して使いこなしている人間は、むしろ少数派のはずだ」

ゲンガー「それは、例え知らなくても、知ろうと思えばすぐに調べられる話だろ。そういうレベルじゃなくてな」

ヨノワール「うむ」

ゲンガー「ポケモン預かりシステムの仕組みだの、成り立ちだの、理屈だのをちゃんと分かってる人間が、この世にほとんどいないって事なんだよ。全部を把握してるのは、おそらくたった一人、システムを作ったヤツだけらしい」

ヨノワール「それはまた…」

11: 2013/05/06(月) 01:19:25.85 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「そもそもな、このシステムは、そいつが勝手に、ほとんど一人で作ったようなもんらしいからな」

ヨノワール「独力でか。たいしたものだな」

ゲンガー「すげえ才能の持ち主なんだろうが、同時にかなりの変人みてえでな」

ヨノワール「何とかと紙一重、ってヤツか」

ゲンガー「そうかもな。もともとそいつは、ポケモンのコレクターみたいな事をやってた野郎で、自分が集めたポケモンを効率的に管理するために、システムを作り始めたらしい」

ヨノワール「もとは自分用だったわけだな」

ゲンガー「それに目を付けたポケモン関係のお偉いさんが、資金なんかの援助をして、規模もでっかくさせて、今の形になったわけだ」

ヨノワール「なるほど」

ゲンガー「そいつ以外で開発にかかわった人間はごく少数で、しかも雑用みたいな事だけだったようだ。言われた事をやってただけで、やらされてる事の意味なんかは分からなかっただろうよ」

ヨノワール「そうなるだろうな。理解するには、開発者に近い才能と知識が必要だ」

ゲンガー「そういう事情だからな、このシステムは、そいつ以外にとってみればブラックボックスだらけの代物でな、とても手に負えるようなもんじゃないって話だ」

12: 2013/05/06(月) 01:21:21.40 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「システムが軌道に乗った今では、日常的なメンテナンスや、簡単なトラブルに対処できる人間は、それなりにいるようだがな」

ヨノワール「そうでなければ、これだけのシステムを運用などできないだろう」

ゲンガー「だが、ある一定以上のレベルのトラブルになると、そいつがいなけりゃ完全にお手上げらしい」

ヨノワール「ならば、開発者にもしもの事があったとして、その後にシステムの根幹に関わるようなトラブルが起こったとしたら…」

ゲンガー「さてな」

ヨノワール「それはまた、剣呑な話だな」

ゲンガー「それ以外にも剣呑な話は色々あってな。例えばこのシステム、稼働が始まってまだ日が浅い事もあって、色んなデータがまだ足りないらしいんだわ」

ヨノワール「うむ」

ゲンガー「で、一番足りないデータがな、『預かりシステムを利用したポケモンの安全性に関するデータ』なんだとさ」

ヨノワール「それは一番大事なデータじゃないのか?」

ゲンガー「まあ、好意的に見りゃ、一番大事なデータだから、足りないと感じて欲しがってるんだろうがな」

15: 2013/05/06(月) 01:23:42.72 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「もちろんシステムの運用開始に先立って、テストを重ねて、一応の安全性は確認できたようなんだがな」

ヨノワール「一応か」

ゲンガー「さっきも言ったが、こいつはまだ歴史の浅いシステムだ。だから、長期にわたって利用を続けたポケモンに何か影響が出るとしたら、これから先の話になるってわけだ」

ヨノワール「つまり、俺たちが今、身をもってそういうデータを収集しているという事だな」

ゲンガー「言い方は悪いが、人柱ってヤツだな。そして将来、何か悪い影響が確認されたとしたら…」

ヨノワール「そのときには、俺たちはもう手遅れだろう」

ゲンガー「詰んでるよな。完全にアウトだ」

ヨノワール「しかし、言っては何だが、よくそんなわけの分からないものを導入する決断をしたもんだな」

ゲンガー「そいつはな、身も蓋もない話だが、便利だからっていう理由で押し切ったようだ」

ヨノワール「便利か。確かに大切な事ではあるが」

ゲンガー「例えばだ、うちのマスターみたいなお人がな、システムなしでポケモンを育成しようとしたら、どのくらいの数を管理できると思う?」

ヨノワール「少なくとも、今育てている数は無理だ。とてもじゃないがな」

16: 2013/05/06(月) 01:26:19.42 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「もしやろうとすれば、それなりの施設みたいなもんが必要だろう。つまりシステムがなければ、特殊な条件を満たしたヤツ以外は、色んなポケモンを育ててみてえと思っても、チャレンジ自体がまず難しい」

ヨノワール「なるほどな。それではトレーナーが、一部の人間の、道楽のようになってしまう」

ゲンガー「そんなんじゃ発展はねえと思ったんだろうな。実際、このシステムを利用できるようになってから、トレーナー人口は激増したようだ」

ヨノワール「だろうな」

ゲンガー「トレーナーが増え、多くのポケモンを管理できるようになって、それによるトラブルも増えてるようだが、一方で、とんでもねえ才能を持ったトレーナーも現れた」

ヨノワール「10代前半のチャンピオンなど、昔では考えられなかっただろうな」

ゲンガー「まあ、先の事は分からねえが、今のところ、システムを採用した目論見は当たってるんじゃねえかな」

ヨノワール「そうかも知れんな」

ゲンガー「で、だ!」

ヨノワール「?」

ゲンガー「こういう話を怪談の席でやろうと思うんだが、どう思う?ねえ、どう思う?」

17: 2013/05/06(月) 01:30:47.25 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「やめておけ」

ゲンガー「即答かよオイ!今度は涙目どころか半泣きだけどいいのかこの野郎!」

ヨノワール「お前、最初にこの話をポリゴン2から聞いた時、どう思った?」

ゲンガー「そうだな。おっかねえと言えばおっかねえが、先の事を、今からグダグダと考えてもしょうがねえし。システムトラブルも、悪影響だって、必ず来るとは限らねえしな」

ヨノワール「ふむ」

ゲンガー「それに預かりシステムがなけりゃ、うちのマスターとお会いする事もなかったかも、なんて思うとな。そんなに悪いもんでもねえんじゃねえか、と」

ヨノワール「俺も大体、似たような感想だ。だが、皆がそういうふうに割り切れるものでもないだろう」

ゲンガー「そうかね…」

ヨノワール「仮にお前の話を聞いて、ボックスにいる事に不安を覚えた者がいるとしよう。そいつが恐ろしくなって、ここにはもういたくないと思ったとして、それを回避する手段があるのか?」

ゲンガー「………」

ヨノワール「脱走でもして、野生に帰るしかないだろう。そこまで思い切れれば、ある意味いいのかも知れないが、そうでなければ、ずっと不安と恐怖を抱えたまま、暮らしていく事になるのではないか?」

ゲンガー「………」

18: 2013/05/06(月) 01:36:18.18 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「いや、確かにその通りだ。やっぱりゴーストってのは、お前の言うように、恐怖とかにはちっとばかし鈍感なのかも知れねえ」

ヨノワール「うむ」

ゲンガー「それにだ、俺の話がもとで脱走者なんぞを出しちまった日には、マスターに申し訳が立たねえ」

ヨノワール「そうだな」

ゲンガー「ちょっと惜しいが、この話は封印だな。ポリゴン2にも、むやみやたらと話をしねえよう、釘をさしておくかな」

ヨノワール「それがいいかもな」

ゲンガー「で、だ!」

ヨノワール「?」

ゲンガー「俺の方のネタはこれで尽きちゃったわけだが、お前、何かちょっと怖い系の話知らない?新ネタにしたいからさ」

ヨノワール「まだあきらめてなかったとはな」

ゲンガー「当然だ当然!怪談!黄色い悲鳴!思わず抱きつく!近まる距離!そして芽生える愛!」

ヨノワール「お前は少し落ち着け」

20: 2013/05/06(月) 01:44:58.00 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「実はな、今の話を聞いていて、思い出した事がある。怖いと言うよりは、不思議と言うか、奇妙な話なんだが」

ゲンガー「キタキターーーーッ!」

ヨノワール「俺の実体験だから、終わり方もモヤモヤとするばかりで、明快なオチもないんだがな」

ゲンガー「いいよいいよ!なかなかいい前振りじゃねえか!」

ヨノワール「前振り?何の事だ?」

ゲンガー「まあいいよ!とっとと聞かせて聞かせて!」

ヨノワール「俺がヨノワールに進化したときの事は覚えているか?」

ゲンガー「俺がゲンガーになった数ヶ月後だったな」

ヨノワール「知っての通り、俺もお前と同じで、最終進化に通信を必要とする。色々な準備が整って進化するにあたり、マスターの知人と通信交換を行なう事になった」

ゲンガー「うむ」

ヨノワール「交換と言っても形式上の事で、その後さらに通信をして、お互いもとのトレーナーのところに戻るんだがな」

ゲンガー「俺のときもそうだったな。もっとも、通信相手のトレーナーは別のヤツだったが」

21: 2013/05/06(月) 01:53:54.68 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「でな、その日は何かの都合で、一度通信を行った後、またこちらに引き取るまでに時間が空くと、あらかじめマスターに説明されていた」

ゲンガー「へえ」

ヨノワール「別のトレーナーのボックスを訪れるなど、滅多にない事だし、あちらの連中と、世間話でもしていればいいと思った」

ゲンガー「だな」

ヨノワール「通信が始まって、俺は意識が遠退くのを感じた。どのくらいの時間が経ったのか分からないが、気が付くと俺は見知らぬボックスの中にいて、サマヨールからヨノワールへと進化していた」

ゲンガー「うむ」

ヨノワール「あたりを見回すと、ユンゲラーがこちらを見ているのに気付いた。そいつは、色違いだった」

ゲンガー「色違いとは珍しいな」

ヨノワール「ユンゲラーは俺と目が合うと、近付いて来て言った。『進化成功、おめでとうございます。オリジナルかコピーかは分からないが、とにかくあなたが、この世界に生きる権利を手に入れられたわけだ』と」

ゲンガー「オリジナルだコピーだ、一体何のこった?」

ヨノワール「俺も当然、意味が分からず訊き返した。そいつは言った。『ポケモンの進化には色々な形があるが、あなたや私は少し特殊だ。進化に、通信という手順を必要とする』」

ゲンガー「ふむ」

23: 2013/05/06(月) 02:01:26.17 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「『昔、サマヨールやユンゲラー、ゴースト、ゴーリキーなどは、それより先には進化しないと思われていました。それがこの、電脳空間という場を得て、新たな進化が発見される事になったわけです』」

ゲンガー「確かにな」

ヨノワール「『疑問に思った事はありませんか?なぜ私たちは、進化を、人間の作り上げたシステムに依存しているのか?』とな。言われてみれば、その通りだ」

ゲンガー「う~ん」

ヨノワール「そいつは続けた。『私は所謂、ベンチウォーマーというヤツでしてね。暇にあかしてそんな事ばかり考えているうちに、自分なりの仮説のようなものにたどり着いた。もし興味がおありなら、聞いていかれませんか?』とな」

ゲンガー「ほうほう」

ヨノワール「もとよりやる事もないし、俺は、ユンゲラーの話を聞かせてもらう事にした」

ゲンガー「おうおう!盛り上がって来たね!」

26: 2013/05/06(月) 02:06:52.17 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「まず、通信進化のポケモンが、レベルアップのような、野生として普通に生きていても起こりうる条件では、進化しない事についての説明だがな」

ゲンガー「うむ」

ヨノワール「ユンゲラーは、その進化に多大なリスクが伴うので、封印された状態になっているのではないか、と考えた」

ゲンガー「よく分からねえが、俺たちの進化には何か、危なっかしい部分があるって事か」

ヨノワール「ユンゲラーは進化を、『乱暴な成長』と言っていたよ」

ゲンガー「乱暴、ねえ」

ヨノワール「一瞬で姿形を変え、大きさや質量を変え、能力を底上げし、時には持って生まれた特性や、タイプさえ上書きしてしまう。生物は成長していくものだが、ポケモンの進化は、成長の一形態ではあるが、明らかに異質だ、と」

ゲンガー「そういうもんかね…」

ヨノワール「『人間は、長い時間をかけて成長を重ねて、高い知性や優れた技術、強靭な肉体や発達した身体能力を得る。その迂遠を嗤うポケモンもいますが、生物として自然なのは、実は人間の方だという解釈も可能だ。そして私は、その見解をとりたい』と言っていた」

ゲンガー「………」

ヨノワール「進化は実に乱暴に、強引に、一足飛びに爆発的な成長を促すものだとユンゲラーは言う。そして、そんな進化にリスクが伴わないはずがない、というのがヤツの考えだ」

28: 2013/05/06(月) 02:10:44.13 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「とは言え、一口にポケモンと言っても、実に多くの種類がいる。進化そのものにリスクは付き物だとしても、それぞれの種族によって、事情は様々だ」

ゲンガー「だろうな」

ヨノワール「最も一般的なレベルアップや、アイテムの力を借りて起こる進化は、その種族にとってリスクが少ない、安定した進化なのだろう、と」

ゲンガー「うむ」

ヨノワール「だが、通信で起こる進化は違う。お前を例にあげて言えば、ゴースからゴーストへの進化はローリスクだが、ゴーストからゲンガーへの進化はハイリスクである、と」

ゲンガー「………」

ヨノワール「だから、自らを守る意味で、通常の状態ではゲンガーへの進化は行われないよう、リミッターのようなものが働いているのではないか、と言うのがユンゲラーの仮説だ」

ゲンガー「俺の頭じゃ判断はつかねえが、筋は通ってる気はするな」

ヨノワール「で、ここからが本題だ。そのリミッターが、通信と言う段階を踏む事で、解除されるようになった。その理由は何か」

ゲーム「おう」

ヨノワール「ユンゲラーは、通信という手順に、何か進化のリスクを軽減させる作用があるのではないかと考えた。ハイリスクだった進化を、ローリスクで行える環境が整った事で、封印が解かれる結果になったのだと」

30: 2013/05/06(月) 02:14:07.56 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「そもそも通信とは何か。それは一時的ににデジタルデータに変換されたポケモンを、電脳空間でやり取りするという事だ」

ゲンガー「………」

ヨノワール「そう考えるならば、自ずと答えは見えてくる、とユンゲラーは言う。通信で整った条件とは、ポケモンのバックアップデータを作成しやすい環境だ、とな」

ゲンガー「バックアップだと?」

ヨノワール「コピーと言ってもいい」

ゲンガー「ちょっと待てや!んな事が本当に可能だってのか!」

ヨノワール「ヤツは言ったよ。『通信中のポケモンは、電脳空間内のデジタルデータという意味では、パソコンにインストールされたアプリやファイルと変わりはない。現在の人間の技術でコピーは不可能だとしても、理論上は可能だと考えるべきだ』と」

ゲンガー「う~ん…」

ヨノワール「『電脳空間でのコピーが至難である事を認めたとしても、現実世界で、血肉を備えたクローンを作成するよりは容易だとは思いませんか?』と言われるとな」

ゲンガー「そりゃまあ、そうかも知れねえが…」

32: 2013/05/06(月) 02:18:40.18 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「ユンゲラーの考える、通信進化の手順はこうだ。まずデジタルデータに変換されたポケモンの、バックアップデータが作成される」

ゲンガー「………」

ヨノワール「その上でアップデート開始。エラーが発生しなければ、そこで終了。問題が生じた場合、さらにバックアップを作成した上で、再試行。その繰り返しだ」

ゲンガー「………」

ヨノワール「アップデートに失敗したデータと、成功時に残されたバックアップデータは、削除される」

ゲンガー「削除ね…。サラリと言ってくれるぜ…」

ヨノワール「残酷なようではあるが、種を守ろうという本能は、個の思いを越えて遥かに強力だとヤツは言っていたよ。種族を、この弱肉強食の世界で生き残らせるためには、能力が優れていればいるほど、確率は高まるだろう」

ゲンガー「まあ、な…」

ヨノワール「だからと言って、リスクの高い進化を強行して自滅するのは論外だし、本末転倒でもある。しかし、リスクを減らす方法があるのなら、個人の意志など関係なく、どんな手段であれ即座に実行する。それが種族の血、遺伝子というものだと」

ゲンガー「………」

34: 2013/05/06(月) 02:20:29.93 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「しかしまあ、何だな、面白え話ではあったがな、その仮説とやらはそいつの空想、もっと言っちまえば妄想みてえなもんだろ」

ヨノワール「ところがな、話はこれでは終わらない」

ゲンガー「何?」

ヨノワール「俺も、今のお前と同じような事を言ったよ。興味深い話ではあったが、何か裏付けとなるようなものはあるのか、とな」

ゲンガー「まあ、当然そう思うわな」

ヨノワール「ユンゲラーは率直に、誰もを納得させるような証拠がない事を認めた。その上でこう言った。『ただ、私の仮説に、ほんの少しだけ信憑性を加える事実なら、お話しできるかも知れません』」

ゲンガー「ほう」

ヨノワール「ユンゲラーは続けて言った。『あなたは、色違いのフーディンを知っていますか?』」

ゲンガー「色違いのフーディン?もしかしてあいつか?最近ジムリーダー戦なんかで活躍してるっていう…」

ヨノワール「ああ。色違いのポケモンは希少だが、色違いの上に優秀な素質を持ったポケモンは、さらに珍しい」

ゲンガー「なかなか強いらしいな。ちょっとした有名人ってヤツだ。で、そのフーディンがどうした?」

ヨノワール「『おそらく私は、そのフーディンと記憶のかなりの部分を共有しています。具体的には、この世に生まれてから、ユンゲラーからフーディンへの進化のため、通信で送り出されるところまでですが』」

ゲンガー「何だって?」

35: 2013/05/06(月) 02:22:58.46 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「『私がここに来た経緯を、事実のみ簡潔に言うとこうなります。私は進化のため、マスターに通信で送り出された。意識を失い、気が付くとこのボックスにいたが、ユンゲラーのままだった』」

ゲンガー「………」

ヨノワール「『その後、ここのポケモンに、色違いのフーディンが問題なく進化に成功して、すでにトレーナーのもとに帰った事を知らされた』」

ゲンガー「………」

ヨノワール「『ここから先は、あなたの言うところの空想になりますが、私は、あのフーディンの進化の際に起こった、何がしかのイレギュラー、あるいはエラーの産物ではないかと考えています』」

ゲンガー「………」

ヨノワール「『私はコピーなのか?それともオリジナルなのか?アップデート前のデータなのか?それともアップデートに失敗したデータなのか?それらを判断するには、まだ情報も時間も足りず、仮説にすら達していませんが』」

ゲンガー「………」

ヨノワール「『いきなりこのような話をしても、信じて頂けないのは当然です。ですが、なかなか良い暇つぶしにはなったのでは?』」

ゲンガー「………」

ヨノワール「『ベンチウォーマーの戯言とお笑いください』最後にそう言うと、ユンゲラーは去って行った」

ゲンガー「う~ん…」

37: 2013/05/06(月) 02:27:04.55 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「その後、俺は他のポケモンとも話した。例の色違いのフーディンが、進化の際にそこのボックスを経由したのは事実だった」

ゲンガー「そうか…」

ヨノワール「ユンゲラーに関しては、分からない事が多かった。と言うのもな、そこはかなりの大所帯で、おそらくうちの3倍くらいのポケモンがいる」

ゲンガー「うむ」

ヨノワール「そこのトレーナーは良く言えばおおらか、悪く言えばアバウトな感じでポケモンを管理していて、交換などでの出入りも激しい。そのせいかポケモン同士の繋がりや付き合いも、薄いようでな」

ゲンガー「ふむ」

ヨノワール「ユンゲラーと親しく付き合っていたり、事情をよく知っているポケモンには会えなかった。皆、仲がいいヤツはいないんじゃないか、くらいの口ぶりだったよ」

ゲンガー「一匹狼か。そういう変わり者にはありがちだがな」

ヨノワール「複数のポケモンから話を聞いて、分かったのはこういう事だ。まず、ユンゲラーの捕獲や孵化の現場に居合わせり、居合わせたという話を聞いたりした者はいない。ユンゲラーがケーシィだった時代を知る者もいない」

ゲンガー「でもよ、色違いだろ。来たときにはちっとは話題になりそうなもんだが」

ヨノワール「普通はな。彼らのユンゲラーに関する一番古い記憶は、いずれも、例のフーディンがボックスを訪れた時期と同じ頃か、後の話だった。そのくらいの時期から、『いつの間にかいた』ような感じだったらしい」

38: 2013/05/06(月) 02:31:53.68 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「だから皆、トレーナーが交換で、どこからか連れて来たものと思っていたようだ。だが、通信交換で来たのだとしたら、ヤツがユンゲラーのままで、フーディンに進化していないのはおかしいという事になる」

ゲンガー「確かにな…」

ヨノワール「ユンゲラーは自分をベンチウォーマーと呼んでいたが、事実だった。それどころか、話を聞くと、そういうレベルではなくてな」

ゲンガー「?」

ヨノワール「ユンゲラーとパーティを組んだときの事や、戦いぶりなどの話は一切聞けなかったし、評判すら聞こえてこない。と言うか、ヤツがトレーナーからお呼びがかかって、ボックスから連れ出されるのを見た事がある者がいない」

ゲンガー「ボックスの肥やしかよ。何度も言うが、色違いだろ?そいつが例え、試合で使うのはちょっと、っていうような能力だとしても、連れ出して自慢くれえはしたくなるもんじゃねえか?」

ヨノワール「話を聞いたポケモンは笑いながら、『うちのマスターはちょっとアレなお人だからな。あいつの事、忘れてるんじゃねえかな』とか言っていたが」

ゲンガー「何だよ。ひでえ話だな」

ヨノワール「だが、忘れているのではなく、認識していないのだとしたらどうだ?」

ゲンガー「認識?」

ヨノワール「つまりトレーナーにとって、ユンゲラーは、仲間にした覚えのない、本来いるはずのポケモンだとしたら? そう考えれば、希少な色違いに対する無関心ぶりも、説明がつくのではないか?」

ゲンガー「………」

39: 2013/05/06(月) 02:36:14.22 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「結局、そこで聞いた話は、間接的にではあるが、ユンゲラーの語ったボックスに来た経緯を、裏付けるような形になった」

ゲンガー「………」

ヨノワール「それ以上突っ込む事はできないままタイムリミットが来て、俺はここへ帰って来た」

ゲンガー「…それで、お前はそのユンゲラーの話、どう思う?」

ヨノワール「そうだな。全てを信じる事は、やはりできんな。例のフーディンとの関係は、不思議ではあるが、あり得ないとまでは言えない」

ゲンガー「ふむ…」

ヨノワール「例えば、ユンゲラーが通信交換で来たとして、進化していない理由は、変わらずの石の存在などで一応説明がつく。いささか偶然が多いのは確かだが、ユンゲラーの主張には、反駁不可能なほどの絶対性はないと思う」

ゲンガー「なるほど」

ヨノワール「俺は逆に、色違いのユンゲラーとフーディンが、同じ時期に同じ場所にいたという偶然から、ユンゲラーが妄想を膨らませて、今回のストーリーや仮説を構築したのだと考えている」

ゲンガー「逆に?」

ヨノワール「同じ色違いではあっても、一方は実力も兼ね備えたエース、一方はベンチウォーマーだ。嫉妬や怒り、無力感や絶望を感じるのはやむを得ないだろう。そういう心理が、実は二人は同一の存在であったという、妄想を生む結果になったのではないかと思う」

ゲンガー「つまりあいつの仮説とやらは、妄想と言うか、願望を肉付けするためにでっち上げたって事か」

ヨノワール「言い方は悪いが、そうなるな。だが厄介なのは、スタートは妄想だったとしても、なかなかの説得力があるって事だ。ユンゲラーは高い知性を持つと言うが、そこは曇ってはいないらしい」

40: 2013/05/06(月) 02:41:10.96 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「そのユンゲラーの仮説が正しいとするとな」

ヨノワール「うむ」

ゲンガー「俺には、ゴースやゴーストだった頃の記憶がある。ちゃんとした実感も伴ったヤツがな。だが、実際にその記憶の中の出来事を体験したのは、今、ここにいる俺ではない可能性があると」

ヨノワール「肉体的、精神的に全く同じデータを備えた別人といったところか」

ゲンガー「俺の今まで生きてきた記憶の中で、確実に俺自身が体験したと言い切れるのは、ゲンガーになった後のものだけで、それ以前の記憶はコピぺかも知れねえってわけだ」

ヨノワール「そうなるな。そして、今ここにいる自分が、ユンゲラー言うところのオリジナルか、コピーかは知りようがない」

ゲンガー「進化を何回やり直して、いくつ不要なデータを削除したかなんて、分かりっこねえわな」

ヨノワール「進化の細かい手順も不明だからな。アップデートをまずオリジナルから開始する手順になっているとして、その上で一度で成功すればオリジナルが残るのだろうが」

ゲンガー「まずコピーからアップデートを行なう仕様だったとしたら…」

ヨノワール「オリジナルは、進化が成功するまでコピーを生み出し続けて、最終的には削除される。消滅は不可避というわけだ」

42: 2013/05/06(月) 02:47:08.45 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「しかしな、そのバックアップとやらが完璧だとしたらな、周りのヤツらにしてみれば、オリジナルだろうがそうじゃなかろうが、関係ねえんだろうな。体の方はもちろん、性格や記憶、長所短所から女の好みに至るまで同じなら、正直どっちでもいいだろう」

ヨノワール「たった一つの事実は、サマヨールが一匹、通信で送り出されて、全く同一のデータをもとにしたヨノワールが一匹誕生した、という事だ。マスターにとっても、仲間にとっても、そしてこの世界にとっても、オリジナルだろうがコピーだろうが、意味は全く同じだ」

ゲンガー「だが俺らにとっては大問題だ。俺らにとってだけ、はな」

ヨノワール「ああ。いくら完璧なコピーでも、そのコピーは俺じゃない。俺がいなくなった後、そいつが、俺がそうするであるように暮らしていき、役目を果たして行くとしても、慰めにはならない」

ゲンガー「今、ここにいて考えている俺自身は、消えてしまってもう二度と考える事はない、という事実に変わりはないからな」

ヨノワール「端的に言えば、氏ぬわけだからな」

44: 2013/05/06(月) 02:53:23.25 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「で、だ!」

ヨノワール「?」

ゲンガー「この話を怪談に…」

ヨノワール「…使えると思うのか?自分で話しておいて何だが」

ゲンガー「………」

ヨノワール「ついに泣いたか」

ゲンガー「分かってんだよ!うちには進化前のヤツもいるし、これから進化方法が見つかるヤツだっているかも知れねえ!だからこんな話、聞かせない方がいいだろうってな!」

ヨノワール「賢明な判断だな」

ゲンガー「だが俺のこの気持ちはどうすりゃいいんだよ!せっかくカラダを夏にして過激にさあ行こうって思ってたのに!」

ヨノワール「まあ気を落とすな。そもそもゴーストにこういう事を相談するのが間違いだ」

ゲンガー「じゃあどうすりゃいいんだよ!」

ヨノワール「ゴースト以外に相談すればいいだろう。探せば、怪談が得意なポケモンがいるかも知れない」

ゲンガー「!」

ヨノワール「師匠を探すのなら俺も手伝おう」

ゲンガー「ありがとよ!やっぱり持つべきものは友達だぜ!」

46: 2013/05/06(月) 03:00:00.28 ID:Ochi6mpq0
ヨノワール「だがな、一つ言っておきたい事がある」

ゲンガー「?」

ヨノワール「俺は数回、怪談の場に居合わせた事があるのだがな」

ゲンガー「おう」

ヨノワール「いくら怖くなったからと言って、怪談をしている本人に抱きつく参加者はいないぞ」

ゲンガー「…は?」

ヨノワール「普通は、隣にいるヤツなどに抱きつくな。だから、抱きつかれたいのなら、自分で怪談をやるのはおすすめしない」

ゲンガー「…えっ?えっ?………えっ?」

ヨノワール「それでもよければな、俺も協力は惜しまない」

ゲンガー「じゃ、じゃあ、作戦変更だ!怪談の一参加者として…」

ヨノワール「それもおすすめしない」

ゲンガー「何で…」

ヨノワール「ゴーストが参加者にいるとな、普通に怪談が盛り上がらない。玄人の前で素人が、生半可な知識を披露してるように感じるようで、尻込みしてしまう者が多いな」

ゲンガー「………」

48: 2013/05/06(月) 03:02:38.40 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「………」

ヨノワール「で、どうする?」

ゲンガー「…怪談とかどうでもいい」

ヨノワール「ほう」

ゲンガー「怪談は今この瞬間、浪漫を失い、俺の人生にとって、取るに足りないものになった…」

ヨノワール「見事な手のひら返しだな」

ゲンガー「俺にとっての怪談はもはや、食い物に例えればスコーン並の意味しかない…」

ヨノワール「わけが分からん」

ゲンガー「ほら、スコーンってさ、そんなにうまそうに見えねえし、一生食べなくても別に困らねえな、的な感じがしねえ?」

ヨノワール「ポケモンの俺にそんな例を出されてもな」

51: 2013/05/06(月) 03:08:43.51 ID:Ochi6mpq0
ゲンガー「しかしな、怪談はどうでもよくなったが、ちょっとした好奇心はあるな」

ヨノワール「好奇心?」

ゲンガー「ゴースト以外のヤツらはさ、ミカルゲの復讐ごときで怯えまくりなんだろ?」

ヨノワール「俺が話したときにはそうだったな」

ゲンガー「じゃあさ、一番怖い話を聞かせたらどうなるか…」

ヨノワール「………」

ゲンガー「分かってるよ。冗談だって」

ヨノワール「ならいい」

ゲンガー「さすがに俺でも分かる。これは、知る必要のない事、いや、知らない方がいい事だからな」

ヨノワール「その通りだ」

ゲンガー「そして、あいつらのうちの何人かは、将来、イヤでも知る事になるかも知れねえ」

ヨノワール「そんな事にならない事を祈るがな」

ゲンガー「ああ。縁あって同じ釜の飯を食う仲間だからな。そんな運命には、なって欲しくねえもんだな…」



おわり

52: 2013/05/06(月) 03:15:09.59 ID:Ochi6mpq0
お付き合いありがとうございました
勝手な妄想設定を書きましたが、もちろん公式のものではありません
おやすみなさい

53: 2013/05/06(月) 03:16:30.49 ID:JZz1Mb6RO
乙!面白かった
メノコちゃんに怪談してほしいお

引用元: ゲンガー「怪談の季節が来る!」