705: 2013/08/28(水) 15:36:42 ID:QW4Caal6
ゆきちあ その1
ゆきちあ!その2「七夕」
ゆきちあ!その3「初めて名前を呼んだ日」
茹だる様な、と最初に表した人物に私は最大限の賛辞を送りたい。
四季の素晴らしさは目で楽しむもので、決して体感するべきものではない。
とはいえ、どこの国に生まれても似たような事を思うのだろう。
私は、捻くれ者なのだから。
「おはよう」
事務所に入って私に声を掛けてくるのは決まってこの少女、佐々木千枝。
「今日も暑いね。あ、雪美ちゃんとアイスクリーム買ってきたんだ。食べようよ」
既にその小さな手には、冷たそうな麦茶が用意されている。
窓から見えていたのだろうか。素直に受け取るのが恥ずかしく、私は手に持つ本に視線を逃がした。
「とりあえずどうぞ。ちょっと待っててね、すぐに戻ってくるから」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。
検索タグ:ありす「心に咲く花」
その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。
検索タグ:ありす「心に咲く花」
その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
706: 2013/08/28(水) 15:37:35 ID:QW4Caal6
そんな私の態度を気にも留めず、彼女は振り返り小走りで事務所の中を駆け出す。
まるでその軌跡に立ち寄れば、この暑さすら消えてしまうと錯覚するまでに颯爽と。
「……おはよう」
いつもの席に腰を下ろすと、いつもの様に挨拶が向けられる。
「…千枝……アイス…言ってた……?」
その声、過ごす間に確固とした世界を持つ少女に、人は皆、平等に時間は流れているのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。
何も、それは彼女に限った事ではないが。
「言ったよ、ほら雪美ちゃんの分。はい、ありすちゃんも。カップだけど美味しいよ」
橘ありす。それが私に与えられた、この世界でのたった一つの名前。
彼女は何気なくその名を呼ぶ、信愛の証として。
まるでその軌跡に立ち寄れば、この暑さすら消えてしまうと錯覚するまでに颯爽と。
「……おはよう」
いつもの席に腰を下ろすと、いつもの様に挨拶が向けられる。
「…千枝……アイス…言ってた……?」
その声、過ごす間に確固とした世界を持つ少女に、人は皆、平等に時間は流れているのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。
何も、それは彼女に限った事ではないが。
「言ったよ、ほら雪美ちゃんの分。はい、ありすちゃんも。カップだけど美味しいよ」
橘ありす。それが私に与えられた、この世界でのたった一つの名前。
彼女は何気なくその名を呼ぶ、信愛の証として。
707: 2013/08/28(水) 15:39:06 ID:QW4Caal6
「…千枝……スプーン…」
「あ、取ってくるね!」
この事務所に入って半年以上を経て、情けない事に私は彼女らへの呼び方を決めかねていた。
苗字で呼ぶと悲しそうな眼を向けられるが、名前で呼ぶ事に強い抵抗があるのだから仕方がない。
「アイス食べるのに、こんなに走っちゃったら意味ないよね」
そもそも、後から事務所に入ってきた立場でありながら、名前で呼ばないで下さいと宣言した自分はよく虐められなかったものだと思う。
最初こそ距離を取られはしたが、その壁は二人の人間にあっさりと破られた。一人は目の前で固いアイスに苦戦する少女。
そして、もう一人。
「何だよ! 三人だけ狡いぞ!」
「……P…大丈夫……私……食べさせて…あげる……」
「いやそれは不味い。色々と、ほら絵的に。ああそんな落ち込むな……一度だけだ」
「あーん」
「何か、負けた気がする」
「あ、取ってくるね!」
この事務所に入って半年以上を経て、情けない事に私は彼女らへの呼び方を決めかねていた。
苗字で呼ぶと悲しそうな眼を向けられるが、名前で呼ぶ事に強い抵抗があるのだから仕方がない。
「アイス食べるのに、こんなに走っちゃったら意味ないよね」
そもそも、後から事務所に入ってきた立場でありながら、名前で呼ばないで下さいと宣言した自分はよく虐められなかったものだと思う。
最初こそ距離を取られはしたが、その壁は二人の人間にあっさりと破られた。一人は目の前で固いアイスに苦戦する少女。
そして、もう一人。
「何だよ! 三人だけ狡いぞ!」
「……P…大丈夫……私……食べさせて…あげる……」
「いやそれは不味い。色々と、ほら絵的に。ああそんな落ち込むな……一度だけだ」
「あーん」
「何か、負けた気がする」
708: 2013/08/28(水) 15:39:55 ID:QW4Caal6
私のプロデューサー。押しに弱く、時に熱くなるかと思えば、時に彼は空を見上げ目を閉じる。
「何をしているんですか?」
過去の私が尋ねる、けれど私はまだその答えを知らない。
「祈ってるんだよ」
過去の彼が答える、けれど彼はまだその続きを言わない。
「バニラか、久しぶりに食べた」
「こっちは苺ですよ、はいどうぞ」
「……千枝と雪美にあーんされる社会人って、どうなんだろう」
「とってもかっこいいですよ」
「いや、それはないだろ。分かってる、だからそんな冷めた目で見るなありす」
羨ましい、と喉までやってきた声を私は急いで心の内へ追い返す。
渋々と帰られては呼び戻したく……絶対にならない!
「何をしているんですか?」
過去の私が尋ねる、けれど私はまだその答えを知らない。
「祈ってるんだよ」
過去の彼が答える、けれど彼はまだその続きを言わない。
「バニラか、久しぶりに食べた」
「こっちは苺ですよ、はいどうぞ」
「……千枝と雪美にあーんされる社会人って、どうなんだろう」
「とってもかっこいいですよ」
「いや、それはないだろ。分かってる、だからそんな冷めた目で見るなありす」
羨ましい、と喉までやってきた声を私は急いで心の内へ追い返す。
渋々と帰られては呼び戻したく……絶対にならない!
709: 2013/08/28(水) 15:40:58 ID:QW4Caal6
「百面相してるよ?」
「アイス、口に合わなかったか?」
いえ、と短く返して強引にアイスを放り込む。
それを見て、夏と対照的な名を持つ少女はふふっと微笑む。
「……次は…ありすの……番…」
「いやいいって、もう満足したから」
「Pさん」
「……千枝、あのな」
これはあれだ、そうあれなのだ。いつまでもこんな拘りを持ち続けてしまった私からのお礼だ。
暑い日にわざわざお茶とアイスクリームを恵んでくれたのだから、期待に応えなければ失礼だ。
そうたっぷりと言い聞かせて、私はスプーンに想いを乗せた。
「アイス、口に合わなかったか?」
いえ、と短く返して強引にアイスを放り込む。
それを見て、夏と対照的な名を持つ少女はふふっと微笑む。
「……次は…ありすの……番…」
「いやいいって、もう満足したから」
「Pさん」
「……千枝、あのな」
これはあれだ、そうあれなのだ。いつまでもこんな拘りを持ち続けてしまった私からのお礼だ。
暑い日にわざわざお茶とアイスクリームを恵んでくれたのだから、期待に応えなければ失礼だ。
そうたっぷりと言い聞かせて、私はスプーンに想いを乗せた。
710: 2013/08/28(水) 15:43:55 ID:QW4Caal6
「千枝ちゃんと雪美ちゃんだけで、私は仲間外れですか? Pさん」
「ありすちゃん、今!」
「……ふふっ」
顔から火が出そうとはこの事だろうか、もう何も見えていない私の手の先に力が加わる。
「ありがとな、貰ったよ」
少しの勇気で踏み出した、茹だるような日の1ページ。
私は初めて、彼女らの名前を呼んだ。
以上、今月中にもう一度は投下できそうです。
P担当のアイドルについては、気力の問題ですね。書けたらいいなあ、という感じでゆっくりと構想を練っています。
次回は黒川千秋の回です。
「ありすちゃん、今!」
「……ふふっ」
顔から火が出そうとはこの事だろうか、もう何も見えていない私の手の先に力が加わる。
「ありがとな、貰ったよ」
少しの勇気で踏み出した、茹だるような日の1ページ。
私は初めて、彼女らの名前を呼んだ。
以上、今月中にもう一度は投下できそうです。
P担当のアイドルについては、気力の問題ですね。書けたらいいなあ、という感じでゆっくりと構想を練っています。
次回は黒川千秋の回です。
引用元: ありす「心に咲く花」
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