4: 2015/10/04(日) 23:52:15.852 ID:lt9pqyQt0.net
ーー部室ーー

 ガラッ
にこ「あ、来てたんだ」

部員A「どうだったんですか…?」

にこ「うん… ごめん、引き止めようとしたけど、やっぱりダメだったよ……」

部員B「…寂しくなりますね……」

にこ「落ちこんでる場合じゃないよ! この三人で頑張ろうね!」

部員A「え… あ、はい……」

部員B「そういう部長も辛いでしょう。今日は休んで、リフレッシュしましょうよ」
魔法少女まどか☆マギカ ~The different story~ (上) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
6: 2015/10/04(日) 23:53:18.077 ID:lt9pqyQt0.net



にこ(なんでだろう…… みんなあんなにスクールアイドルが好きだったのに)

にこ(一人また一人と減って行って、もう三人しか残ってない)

にこ(言われて気付いたけど、私もけっこうショック受けてるよね…)

絵里「これからどうするつもり? まだ続けるんでしょう」

にこ「この人数だと来年度は廃部ね。どうにかしないと」

絵里「廃部になるのって、やる気が無くて自然に解散していくクラブがほとんどなのよ」

絵里「やる気がありすぎてこうなるなんて珍しいから、力になってあげたいけど」

にこ「そこは気にしないで。ひいきするわけにもいかないでしょ」

にこ「だから自力で人を集めてみるわよ。でも、それも厳しそうだね…」

絵里「魔女騒ぎの後、しかも超人登録法で0048が逃げ回ってる今、風当たりは強いかもしれないわ」

にこ「今回やめてった子、それもあるみたい…… 崖っぷちだなぁもう」

絵里「似合わない顔しないの」

8: 2015/10/04(日) 23:54:15.795 ID:lt9pqyQt0.net
――別の日――

にこ(そう、ヘコんでる場合じゃない)

にこ(バッチリ目立って、新しい人に興味を持ってもらうんだから!)

 ガチャッ
にこ「あれ、二人とも早かったのね」

部員B「二人で話しておくことがあったんです」

部員A「ちょっと…」

にこ「え… 話すことって」

部員B「なんだ。心配しちゃいましたよ」

部員A「やめなよ、そういうの……」

部員B「もうわかってたんじゃないですか」

10: 2015/10/04(日) 23:54:49.570 ID:lt9pqyQt0.net
 ♪『人は生まれて 人は氏んでいく 肉体は滅びても』

 ♪『灰の中から蘇るものが情熱 次の世代へ』

にこ(……一人で練習してても乗れないや…)

声『氏んだ人は生き返らないよ』

にこ(そうだね。今聴くとイヤな歌だな…)

声『蘇る前に、みんないなくなっちゃったね』

にこ(まだなんとかなる、って思いたかったんだけどね)

声『ひとりぼっちで練習してても寂しいでしょう』

にこ(そうだね…… この部室もずいぶん広くなっちゃったよ)

声『それならさ、私が一緒にいてもいい?』

にこ(……あなた、誰なの? そうだ、いつから声が聞こえてたんだろう……)

11: 2015/10/04(日) 23:55:13.613 ID:lt9pqyQt0.net
声『ちょっと待ってね』

 グニャー
にこ「ここは? え、部室じゃないの!?」

声『ここは私の結界。こうすれば見えるよね』

にこ「誰!? 私に声を送ってた人なの…?」

声『人間じゃないよ。私は魔女… 魔女オクタヴィア…… 扉をあけて、こっちへおいで』

にこ「扉って、これ…?」

 ギイィ……

オクタヴィア「この結界に隠れながら、時々出かけるの。そしたら学校であなたの歌を聴いた」

オクタヴィア「また聴きに来てもいい? ここで練習してるんだよね?」

にこ「いいけど… あなた本当に魔女なの?」

オクタヴィア「ごめんね、私が怖い? でも大丈夫だよ」

オクタヴィア「にこの歌が好きなんだもの」

12: 2015/10/04(日) 23:59:30.328 ID:lt9pqyQt0.net
にこ(どういうわけだか魔女の友達ができた)

にこ(あれから毎日のように練習場に来てる)

にこ(……わりと本気で、どういうわけなのよ!? とりあえず私を食べちゃう気はないみたいだけど)

にこ「あなたもアイドルが好きなの?」

オクタヴィア「よくわからない。魔女になって日が浅いもの」

にこ「…少し前までは違ったの?」

オクタヴィア「私はたぶん、魔法少女だったと思う。でもよく覚えてないの」

にこ(魔法少女が魔女になるって聞いたことある。噂だと思ってたけど……)

にこ「魔法少女だったら、0048ともよく一緒にいて、こういう歌に馴染みがあるのかもね」

オクタヴィア「そうかもしれないね… 温かくて、なんとなく懐かしい感じがするよ…」

13: 2015/10/05(月) 00:03:02.306 ID:570+CAk50.net



にこ「よ~し、今日はこのくらいにしておこうかな」

オクタヴィア「もう?」

にこ「他のクラブもそろそろ終わる時間だよ。校門閉められちゃう」

オクタヴィア「また、明日聞きに来てもいい?」

にこ「いいよ! 私の歌、そんなに気に入ってくれたんだ」

オクタヴィア「それもあるし……」

オクタヴィア「…帰りたくないな」

にこ「あんた、いつもどっから来てるの? というかどこかに住んでるの?」

オクタヴィア「嫌な所だよ…… でも迂闊に外にいたら、魔法少女に見つかっちゃう」

にこ「あんたは人を襲わないのに」

オクタヴィア「襲わないけど、人を怖がらせる仕事をしている……」

15: 2015/10/05(月) 00:04:20.351 ID:570+CAk50.net
にこ「そうなの? どんなことを?」

オクタヴィア「捕まえられた人たちが外に逃げ出さないように、私が結界に閉じ込めておくの」

にこ「その人たちは、なんで捕まえられたの? 悪い人なの?」

オクタヴィア「逃げ出したら困る、らしいの… でも、私に少しだけ残った人間の理性が、この仕事を止めさせようとする」

オクタヴィア「そうなると、もしかしたら悪いのは私なのかもしれない…」

にこ「そうとも限らないでしょ。まぁ、誰にでも嫌々やることくらいあるって」

オクタヴィア「だから希望が必要なのかな」

にこ「理性ってさ、人を怖がらせるのが嫌だな、とか思うんでしょ? それさえ持ってれば充分よ」

にこ「それに私の歌を好きだと言ってくれたでしょう。少なくとも私には、あんたがそこまで悪い子には見えないね」

オクタヴィア「…ありがとう」

17: 2015/10/05(月) 00:05:51.192 ID:570+CAk50.net
――それから数日――

「矢澤さん、まだ一人でアイドル部やってるんだって?」ヒソヒソ
「シッ 聞こえるよ」
「平気だって、ほら。今もなんだかぼ~っとしてる」
「ほんとだ…」

オクタヴィア『今日も行っていい?』

にこ『いいよ。どうせ誰もいないしね』

オクタヴィア『お湯はある? お土産にお茶持って行くね。おいしい紅茶があるの』

にこ『ありがとう。待ってるよ』

にこ(…テレパシーってやつ、なんで私にも使えるんだろう……?)

「このところよくあんな風になってるのよ」ヒソヒソ

18: 2015/10/05(月) 00:07:06.204 ID:570+CAk50.net
 ♪『好きならば 好きだと言おう』
 ♪『誤摩化さず 素直になろう』

にこ「…案外うまいのね」

オクタヴィア「ちょっと練習したから」

にこ「それにこの結界っていうの? いい音響するよね」

オクタヴィア「ありがとう。見よう見まねだけど、にこみたいな真面目に練習してる人に褒められると、嬉しいよ」

にこ「……」

オクタヴィア「魔女になる前、この歌をよく聴いていたように思うの。私にできないことを感じていた…」

にこ「その頃のことを引きずってるのかな」

オクタヴィア「うん。この歌だけじゃない。私が魔法少女になったことと、魔女になったこと」

オクタヴィア「音楽がきっかけの一つにあったと思うよ…… だからホールの結界ができるんだね」

にこ「好きな人とか、いたの?」

オクタヴィア「どうかな…… にこにはいるの?」

にこ「アイドルは恋愛禁止なの。0048だって同じでしょ」

オクタヴィア「そうだったっけ…?」

20: 2015/10/05(月) 00:09:44.896 ID:570+CAk50.net
――秋葉原 街頭ディスプレイ――

レポーター『AKB0048がライブを行うと予告した会場近くに来ております』

レポーター『付近で上空をLAS、0048の保有するロボットが通過したという目撃情報も入っています』

にこ「もう何日も、こんなのばっかり」

絵里「どちらになるにせよ、早く解決してほしいわね」

穂乃果「あの… これ、何やってるんですか?」

にこ「え、私たちに? ていうかあんたニュース見てないの? 内戦だよ!」

あおい『投降しないなら、いくよ!』
わかば『ネイキッド・ブレード!』
マミ『近づかせないわ…!』
杏子『マミ! まだ寝てなきゃダメだろ!』

穂乃果「あんまりよく知らなくて…… なんで味方同士で戦ってるのかとか」

絵里「エリア11の超人を登録制にしようとしてるの。AKB0048や魔法少女の何人かが反対してるのよ」

穂乃果「へぇ~ じゃ0048って悪者になっちゃったんですか」

にこ「そんなわけないでしょ!」

穂乃果「えっ あの、すいません… でも、どうして登録制になったんですか?」

21: 2015/10/05(月) 00:11:48.525 ID:570+CAk50.net
絵里「魔女は知ってる? あれの発生原因の一つが、魔法少女だとわかったのよ」

穂乃果「魔女って確か、落ち込んだ人をそそのかして食べちゃったりするヤツですよね」

にこ「……」

穂乃果「魔女と戦ってた魔法少女が魔女になっちゃうんですか? それじゃなんだか…」

絵里「そうね。スーパーヒーローに対する疑念が増えてきたから、身元をハッキリさせる必要ができてきたのよ」

絵里「魔法少女や大島のビビットチームの子たちって、今までニュースでも名前出てなかったでしょう」

穂乃果「そうでしたっけ……? 言われてみれば、そうだったかも」

にこ「ゼロは登録法賛成派なのに本名出てないわね」

絵里「ゼロは黒の騎士団の象徴で、特定の人格ではない、と主張しているわね」

穂乃果「中の人はいないことになってるんですね」

にこ「それが認められるってひいきじゃない……?」

22: 2015/10/05(月) 00:13:51.589 ID:570+CAk50.net
にこ(わかっていることはいくつかある)

にこ(登録法に賛成して、名前が公開された魔法少女は、鹿目まどかと暁美ほむら)

にこ(『魔法少女が何かのきっかけで魔女になる』とわかったことから、この内戦が始まった)

にこ(もう一つ、オクタヴィアはまだ魔女になって日が浅いと言ってた)

にこ(私は、内戦のきっかけになった魔女と一緒にいるのかもしれない……)

オクタヴィア「ねぇにこ、また歌を聴かせてよ」

にこ「うん… その前に、ちょっと気になることがあるんだけど、訊いてもいいかな」

オクタヴィア「なに?」

にこ「この間言ってたよね。あの歌が好きだった頃、魔女になったきっかけがあったって」

にこ「魔法少女は、どうしたら魔女になるの?」

24: 2015/10/05(月) 00:15:47.419 ID:570+CAk50.net
オクタヴィア「私は魔女。絶望を振りまいて、人の魂を食い破る魔女……」

にこ「それでも、歌を聴きに来てくれるじゃない」

オクタヴィア「私はにこが好き。一人になっても、くじけないで歌ったにこが」

オクタヴィア「どうしようもなく好きになるのは、私がもう失くしたから……」

にこ「それが無いと、魔女になるの?」

オクタヴィア「魔法少女が持っていたもの。魔女の絶望が生まれた場所」

オクタヴィア「にこ、アイドルは人を笑顔にするものって教えてくれたでしょう」

にこ「それがアイドル研究部のスローガンだったのよ」

オクタヴィア「魔法少女と一緒だよ。私にもあったもの」

オクタヴィア「『誰かを幸せにできるかもしれない』という希望が」

25: 2015/10/05(月) 00:16:48.089 ID:570+CAk50.net
にこ「……私は歌で絶望なんて生み出さない」

オクタヴィア「だから好きになった。希望と絶望。二つで一つのパワーが、あなたには片方しかない」

にこ「希望のパワー、か…」

にこ(私に希望なんてあるとしたら、今更言っても遅いし、後悔しても仕方ないけど……)

にこ(オクタヴィアに『褒められて嬉しい』って言われた時、ちょっとドキッと来た)

にこ(あの子たちにも、もうちょっと優しくしてたら、少しは私のことを好きになってもらえたかもしれない)

にこ(私のこと、じゃないな。私と一緒にアイドル研究部を続けていくことが)

にこ「私の歌に『希望』を感じたならさ、オクタヴィア……」

にこ「希望を取り戻して行けば、魔法少女に戻れるの?」

にこ(魔法少女に戻っても、友達でいてくれるの……?)

36: 2015/10/05(月) 00:29:35.492 ID:570+CAk50.net
――見滝原市 高速バスターミナル――

にこ「う~ん…! やっぱバスで二時間は遠いな」

オクタヴィア『いつもこんなに出かけないもんね』

にこ『あんたこそよくついて来られたね。こんな遠くに来てていいの?』

オクタヴィア『平気だよ。今日はみんな大仕事の準備で忙しいみたいだから、抜けてきちゃった』

にこ『魔法少女に遭わないといいね』

オクタヴィア『もしいたら結界に隠れるから、その間に説得しておいてね』

にこ『難しそうね… それにしても、本当に魔法少女の街なんだ。売店がグッズだらけだわ』

「新商品のスパローケーキいかがですか~」

オクタヴィア『私がいた頃はこんなにお土産とか売ってなかったような……』

にこ『登録法であの二人については堂々と使えるようになったからかしら』

「スパローケーキのご試食いかがですか?」

にこ「いただきます」

にこ「…あ、おいしい」

37: 2015/10/05(月) 00:30:09.363 ID:570+CAk50.net
にこ(魔女がどうやったら人間に戻れるかは本人も知らないらしいから、二人で頭抱えてて)

にこ(きっかけのあった場所を訪れれば手がかりを掴めるかも、というわけで来てみたはいいけど)

にこ(きっかけって、希望が絶望に変わる瞬間っていうくらいだから、聞きづらい事情がありそうだし)

にこ(実はオクタヴィア本人が戻りたいのかどうかさえも、ハッキリとはわからない)

にこ(……友達ってどのくらい踏み込んでいいんだろう…… 案外、距離感が掴みづらいのよね)

オクタヴィア『こっちにはどのくらいいられるの?』

にこ『バスは夜まであるけど、夕方くらいにはこっちを出たいわね。半日あればいいかな』

にこ『それで、まずはどこに行けばいいの?』

オクタヴィア『どうしようかな』

にこ『…あんたまさか、勢いで行くって言っちゃったけど、細かいこと覚えてないとか?』

オクタヴィア『……あんまり』

38: 2015/10/05(月) 00:31:17.248 ID:570+CAk50.net
にこ『まぁいいわ。時間あるんだし、ブラブラしてるうちに思い出すでしょ』

オクタヴィア『ごめんね』

にこ『音楽ホール探してみる? 歌がきっかけの一つって言ってたよね』



にこ「今日の公演は無しか。入っていいのかな」

オクタヴィア『でもあんまり関係なさそうだよ』

にこ『わかるの?』

オクタヴィア『この場所に来た記憶はいくつかあるみたいだけど』

オクタヴィア『魔女として感じるものはあまりないね……』

にこ『簡単には見つからないものね』

オクタヴィア『ごめんね』

39: 2015/10/05(月) 00:32:51.934 ID:570+CAk50.net
にこ『まだ時間あるし、いろいろまわってみようよ。女の子の行きそうな所はある?』

オクタヴィア『たくさんあると思うな』

にこ『広い街だからね。せっかく来るんだったら、ガイドブックでも買ってくればよかった』

にこ『ほら、向こうの高層ビルとか、展望台あったら眺め良さそ…… ん?』

オクタヴィア『ああ、行ったことあるかも』

にこ『そっちじゃなくて、手前のビル… 屋上に誰かいるよ』

オクタヴィア『魔女の気配だ! 急ごう!』

40: 2015/10/05(月) 00:34:10.424 ID:570+CAk50.net
――ビルの中――

オクタヴィア『やっぱり結界がある。私以外の魔女って初めて見たけど』

にこ『戦える?』

オクタヴィア『たぶん。なんだかヒーローみたいだね!』

にこ『じゃあお願い。その間に私はこっちを!』

 バンッ
にこ「いた! ちょっと待ったぁ!」

女「……あなたは」

にこ「早まらないで! ここに住んでる魔女にそそのかされてるのよ!」

女「そうだと思ったわ」

にこ「わかっていたんですか」

女「人間より、魔女の方がまだ優しいもの」

41: 2015/10/05(月) 00:36:07.740 ID:570+CAk50.net
にこ「確かにそういう魔女もいるけど… いや、とにかくダメですよ! 今助けますから!」

女「来ないで! …私ね、そろそろラクになりたくてここへ来たの。好きにさせて」

にこ(マジだよこれ…… どう言えば)

女「この辛さから解き放たれるためだもの。魔女の言うことくらい喜んで聞くわ」

女「だって、あの日からずっと耐えてきたのよ」

にこ「…とりあえず、歌でも聴いてからにしませんか」

女「……?」

 ♪『うぶ毛の小鳥たちも いつか空に羽ばたく』

女「あなた、一体何を……」

 ♪『大きな強い翼で 飛ぶ』

42: 2015/10/05(月) 00:37:19.132 ID:570+CAk50.net
――ビルの中――

オクタヴィア「このっ!」

魔女『!!!』

オクタヴィア「意外と当たらないな…」

 ♪『諦めちゃダメなんだ その日は絶対来る』

オクタヴィア(にこの歌…? 学校で聴かせてもらったことある)

 ♪『君も感じてるよね 始まりの鼓動』

オクタヴィア(いいぞ… 力が湧いてくる……!)

オクタヴィア(『希望』のパワーで戦う魔女なんて、魔法少女みたいだけどね)

43: 2015/10/05(月) 00:38:07.309 ID:570+CAk50.net
――屋上――

 ♪『明日よ変われ! 希望に変われ!』

女「変わってくれたら、ここへなんて来ることなかった……」

 ♪『まぶしい光に 照らされて変われ START!!』

女「光がさすことも、もうないのに…」

 ♪『悲しみに閉ざされて 泣くだけの君じゃない』

女「娘もきっと、あの子にそう言ったの……」

 ♪『熱い胸 きっと未来を 切り拓くはずさ!』

女「だから魔法少女になんてなったのよ!」

にこ「……あの、今なんて?」

 バタンッ

オクタヴィア『あ、にこ。たぶんその人』

オクタヴィア『お母さんだ』

44: 2015/10/05(月) 00:40:59.217 ID:570+CAk50.net
『魔女の棲家』
『街から出ていけ』
『さやカス』

にこ(酷い落書き…… と、その向こうに)

 シャッコシャッコシャッコシャッコ
少年「一時期よりおとなしくなりましたね」

男「こういうのはほっとくと増えるんだ。一度全部消しちまえば、やりづらくなるもんよ」

少年「ショウさん慣れてますね」

男「昔はよくこういうの消したからなぁ…… おや、奥さん。お客さんですか」

美樹母「いつもありがとうね」

美樹母「東京から来てくださったのよ。さやかの話をきかせてもらうの」

にこ「あ、どうも…」

47: 2015/10/05(月) 00:43:43.072 ID:570+CAk50.net
美樹母「どうぞ。何も無いけど、ゆっくりしてね。今お茶を淹れるわ」

にこ「あ、おかまいなく。それとさっきの人たちは……?」

美樹母「男の子は娘の… さやかの友達。もう片方の人はね、見ているのよ」

美樹母「魔女になる前の、さやかの最後の姿を」

にこ(美樹さやか… それがオクタヴィアの本名……)

美樹母「荒んでいたようよ。でもさやかを見てから心を入れ替えて、うちの面倒を見に来てくれるの」

にこ(この辺に住んでる人は大体事情を知ってる。となると、落書きだけじゃ済まなかったのね…)

美樹母「にこちゃんは魔女になってからのさやかを見た、と言っていたわね」

にこ「はい。魔女としての名前はオクタヴィアっていいいます。本名は今日初めて知りました」

美樹母「……どうやって助かったの?」

にこ「助かったも何も…」

美樹母「魔女になったら人間を食べてしまうんでしょう。そんなの、あの子が耐えられるわけないわ」

美樹母「助かる方法があるなら、それをみんなに知らせないと」

48: 2015/10/05(月) 00:44:44.038 ID:570+CAk50.net
にこ「オクタヴィアは悪い魔女じゃありません! …いつも私の歌を聴きに来てくれるんです」

美樹母「歌が好きなの…? そう… 貴方の歌、うまかったものね」

にこ「オクタヴィアは今でも希望を求めているんです。だから私のところへ来たと言っていました」

にこ「魔女が希望を求めているなら、絶望に打ち克って魔法少女に戻れるかもしれない」

美樹母「そんなこと、できるの……?」

にこ「可能性は未知数… というより、私が勝手にできると思ってるだけですから、今の段階ではただの気休めです」

にこ「でも、戻れると思ったから、手がかりを探してこの街に来ました」

美樹母「さやかは… オクタヴィアはどこに…?」

にこ「実は…」

オクタヴィア『待って、にこ! この人がお母さんなのは確かみたい』

オクタヴィア『私が見えないのに近くにいるって知ったら、悲しくなるでしょう』

にこ『そうだね。めどが立たないうちに話すのも良くないね』

にこ「…すみません、魔女になった姿を、知ってる人に見られるのは気が引けるって」

美樹母「そう……」

49: 2015/10/05(月) 00:46:54.798 ID:570+CAk50.net
美樹母「もう少し聞かせてもらえませんか。オクタヴィアのことを」

にこ「いいですよ。と言っても、私が練習しているのを見に来てるだけなんですけどね」

美樹母「あの… 魔女になった時のことについては」

にこ「すみません。その辺りのことは私もちょっと聞きづらくて」

オクタヴィア『にこ、遠慮してたの?』

にこ『そりゃするよ!』

美樹母「ブリタニア軍からは、黒の騎士団とエヴァンゲリオンが対処したと聞いています」

美樹母「どっちもあの子が好きだったものですから……」

にこ「一緒に戦ったこともあるんでしょうね…」

美樹母「前に、あの子がエヴァンゲリオンのプラモデルを買ってきたことがあるんです」

美樹母「お父さん、作り方教えてって。あの時は楽しそうだったのに…… もう魔法少女になっていたのよ」

50: 2015/10/05(月) 00:49:49.229 ID:570+CAk50.net
にこ「さやかさんが、どうして魔法少女になったかはご存知ですか? 願いは叶ったんでしょうか」

美樹母「オクタヴィアから聞いたことは?」

にこ「それが…」

オクタヴィア『魔女に残されたのは絶望に堕ちたという事実だけ』

オクタヴィア『希望があった頃の記憶なんて、砂のようにこぼれ落ちていくもの……』

にこ「やっぱりその辺りのことも、よく覚えてないみたいなんです」

オクタヴィア『身もフタもない言い方だなぁ…』

にこ『いや実際そうでしょ』

美樹母「さやかと小さい頃から仲の良かった友達がいるんです。親同士が良かったから、子供たちも」

にこ「幼馴染みってやつですね」

51: 2015/10/05(月) 00:50:57.419 ID:570+CAk50.net



にこ(オクタヴィアは魔女といっても、そんな悪いヤツには見えない)

にこ(さやかもきっとその幼馴染みの子に、もう一度希望を与えたかっただけなんだ……)

にこ(他の魔女も同じようなものだったのかもね)

美樹母「その子だって辛いでしょうに、今もよく来てくれるのよ」

にこ「バイオリンの練習と両立してるなんて偉い子じゃないですか」

 ピンポーン
少年「おばさん、掃除終わりましたよ~」

美樹母「ありがとう。上がっていって、お茶でもどうぞ」

美樹母「出てくるわね。頂いたケーキがあるの。にこさんも一緒に食べましょう」

にこ「え、はい…… でもその幼馴染みの子って」

上条「こんにちは。もしかして、さやかのお友達ですか?」

にこ「男の子だったの?」

オクタヴィア『…見覚えあると思ったよ……』

52: 2015/10/05(月) 00:53:58.184 ID:570+CAk50.net
上条「今日、東京へ帰るんですか?」

にこ「そうよ。帰りのバスの時間も調べてあるわ」

上条「バス出てるのかな… ニュース見ました?」

にこ「こっちに来てから、ずっと歩き回ってたからね。何かあったの?」

美樹母「テレビでもつけましょうか」

『超人登録法反対派の撤退が完了し、現在は警戒態勢へ移行しています』
『エヴァンゲリオン初号機は制御下にあるとの報告が入りました』

にこ「どういうことよ、制御って……」

上条「さっきラジオでニュース聞いた時は暴走状態で、AKB0048のロボットがやられたって」

にこ「LASが!? 誰の?」

上条「そこまではわかりません。でも、今はもうビビットチームとタイタスがおさえたみたいですね」

美樹母「まどかちゃんが……」

にこ「さやかさんの友達だったんですか」

上条「僕とさやかと、小学校からずっと一緒だったんです。もうずいぶん遠くに行ってしまった……」

53: 2015/10/05(月) 00:55:38.035 ID:570+CAk50.net
美樹母「にこさん、今日は泊まって行ったらどうかしら。こんな日の夜じゃ帰り道も怖いでしょう」

にこ「でも…」『どうする?』

美樹母「さやかの部屋を使っていいわ」

上条「警戒態勢って言ってましたよ。また戦闘が再開したら、巻き込まれるかも」

オクタヴィア『ここは甘えちゃっていいんじゃないのかな』

にこ「それなら、お礼に晩ご飯は私が作りますよ! 上条くん、あなたもどう?」

上条「いいんですか? なら手伝いますよ」

美樹母「今日のお夕飯は楽しくなるわね」

上条「じゃあ買い出しに行ってきます。何作るんですか?」

にこ「私も行くよ。替えの靴下とか歯ブラシとかも買いたいからね」

にこ(美樹さやかの願いを受けて『希望』を取り戻した子)

にこ(オクタヴィアも気になるかもしれないし、正直なところ、私も少し……)

にこ(…いや、そんな変な意味じゃなくてね)

54: 2015/10/05(月) 00:57:46.238 ID:570+CAk50.net
――夜 さやかの部屋――

オクタヴィア『ただいま。もう寝るの?』

にこ『あんまり夜更かししてもおばさんに気を遣わせそうだからね。あんたこそ、もういいの?』

オクタヴィア『うん。結局家まで見送って来ちゃったよ』

にこ『何か感じた? 魔女として』

オクタヴィア『美樹さやかの願いは届いたんだね…… それがわかったよ』

にこ『……上条くんは、希望を取り戻せたのかな』

オクタヴィア『代わりにお父さんとお母さんから娘を奪い、上条くんからは大事な友達を奪い』

オクタヴィア『全部私がやったこと…… 一つの希望のために、あまりにも大事なものを壊しすぎた……』

55: 2015/10/05(月) 00:58:34.627 ID:570+CAk50.net
オクタヴィア『私なんかじゃ、にこみたいにはいかないんだね』

にこ『どうしてそこで私が出るのよ』

オクタヴィア『今日は歌でお母さんを助けたし、私も魔女と戦ってる時に助かったんだから』

オクタヴィア『私は魔法少女になったせいで、いろんな人に傷を負わせているのに……』

にこ『私だって、偉そうに『歌で希望を』とか言ってるけど、結果は散々よ』

にこ『誰もついてきてくれなかった…… 最初はみんなで楽しくやってた… と思うんだけど』

オクタヴィア『孤独はいけないね……』

オクタヴィア『何もかもを失っていって、にこに会うまで私はひとりぼっちだった気がするよ』

にこ『あなたが来てくれたから、どうにか私はひとりぼっちにならずに済んだよ』

オクタヴィア『ねぇにこ。私たち、友達にならない?』

にこ『…もうなってるでしょうが』

56: 2015/10/05(月) 01:00:11.259 ID:570+CAk50.net
オクタヴィア『違うな。仲間とか、そういうやつ』

にこ『どう違うのよ』

オクタヴィア『私、戦いたい。他の魔女と』

オクタヴィア『いろんなものを失って残った力だもの。人の役に立つことに使いたいよ』

にこ『人間に戻れなくてもいいの?』

オクタヴィア『そっちはそっちでできたらいいけど、今は戦いたいな』

にこ『魔法少女も登録法の戦いがおさまるまで忙しそうだもんね。けっこう需要あるかも』

オクタヴィア『にこ、応援してくれる? 今日みたいに』

にこ『いいわよ。あんな歌で良ければ、いくらだって』

57: 2015/10/05(月) 01:01:02.330 ID:570+CAk50.net
美樹父「ただいま。誰か泊まりに来てるの? 玄関に知らない靴があったよ」

美樹母「ええ、東京から。帰りが心配で、泊まってもらったの」

美樹父「今日は無事に帰れないかもしれないからなぁ」

美樹母「矢澤にこさんっていうの。とっても可愛くて、元気な女の子よ」

美樹母「さやかのパジャマを貸してあげたの。よく似合ってたわ」

美樹父「そうかい…… いい子なんだね」

美樹母「晩ご飯食べる? その子が作ってくれたの」

美樹母「私と恭介くんが手伝ってね。楽しかったわ… 本当にねぇ……」

美樹父「そうかい」

美樹父「それならもう、泣くのはよしなさいよ」

美樹母「いけないね…… いつまで経ってもこんなことじゃ、いけないねぇ……」

58: 2015/10/05(月) 01:03:18.357 ID:570+CAk50.net
にこ(……)

にこ『ごめん、ちょっと電話してもいい?』

オクタヴィア『また散歩してくるよ。今日は魔法少女もいなくて平和だもんね』

にこ『ありがとう』

 ポチポチ

 トゥルルルル トゥルルルル……

 ガチャ

にこ「」フゥ

にこ「もしもし? まだ起きてた?」

にこ「……お姉ちゃんだよ」

59: 2015/10/05(月) 01:04:04.323 ID:570+CAk50.net
にこ「お父さんと仲良くしてる? うん、なら良かったよ」

にこ「今日ね、見滝原から来た友達… そう、魔法少女の街ね。家に遊びに来てるの」

にこ「そのつもりなかったんだけど、泊めてもらっちゃった」

にこ「うん、平気だよ。お姉ちゃんもう高校生だからね」

にこ「……」

にこ「…楽しいよ。高校入ってから、たくさん友達もできたんだから!」

にこ「……そう、頑張ったじゃない! お姉ちゃんだって負けてないからね」

にこ「じゃあもう遅いから切るよ。夜更かししちゃうもんね」

にこ「うん… ちょっと声聞きたくてさ」

にこ「今度また会いに行くからね。じゃあまたね。おやすみ」

60: 2015/10/05(月) 01:08:13.844 ID:570+CAk50.net
SS書いてた人たちが戻ってきたらいいのになあ
おやすみ

61: 2015/10/05(月) 01:17:55.620 ID:Fy7DpoPnd.net
ありがとう
おやすみ

引用元: 承太郎「オラァ!」さやか「おっと危ない」