298: 2013/12/18(水) 21:15:24 ID:Kse3ClHM
連作短編23 
杏「馬鹿であほで大嫌いな誰かさんのお話」

あの日、全てが無くなった。

声も出せず、ただ失われていく様を見届けるだけの。

哀れな人形だった。

杏「……ん」

P「よ、起きたか」

杏「起きたよ、馬鹿兄貴」

P「朝飯、食うか?」

杏「何?」

P「パンと牛乳」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。

検索タグ:ありす「心に咲く花」

その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
299: 2013/12/18(水) 21:15:57 ID:Kse3ClHM
杏「もう焼けてるんだ」

P「トーストだって偶に食べると美味いよな」

杏「焼くだけにしてはね」

P「さて、俺は出勤時間だ。行ってくる」

杏「行ってらっしゃい、帰りは?」

P「今日は早い、夕飯も一緒に食えそうだ。仕事は午後からだっけ?」

杏「だから寝る」

P「はいはい」

杏「……寝れないなあ」

300: 2013/12/18(水) 21:16:27 ID:Kse3ClHM
泉「プロデューサー」

P「おはよ、その後の調子はどう?」

泉「お陰様で、順調です」

P「そっか、それは何より」

泉「それで、その」

P「まだ何か?」

泉「ど、どうぞ」

P「……俺に? 女Pさんじゃなくて?」

泉「女Pに作ったら余ってしまいましたので」

P「なら遠慮なく頂くよ、昼ごはんどうしようかって思ってたから」

泉「ささやかなお礼です、それでは失礼します」

P「こういうの作るタイプだったのか、楽しみだな」

301: 2013/12/18(水) 21:17:01 ID:Kse3ClHM
先P「朝から妬けるねえ」

P「何を言ってるんですか」

先P「アイドルから弁当なんてファンが知ったら暴動が起きるぞ」

P「それを言ったら俺は命が何個あっても足りませんね」

先P「確かに。さて、今日は外回りだ」

P「こっちの分まで取ってきて下さいね」

先P「人の世話まで見る余裕はないね」

P「ですよね。さて、俺も出るか」

302: 2013/12/18(水) 21:17:37 ID:Kse3ClHM
莉嘉「次はこっちー!」

ありす「分かってますから引っ張らないで下さい!」

P「一緒に走ってきたら?」

桃華「私はここで一緒に眺めていた方が楽しいですわ」

P「次世代のトップアイドル特集か、ごめんなこんな仕事させちゃって」

桃華「そういった目で見られる事は仕方のないことですわ」

P「達観してるなあ」

桃華「焦りや不安もありますわ。ですが、ここの事務所には優秀な方が揃っていますので。
   次の時代とやらが来るのを待たずとも、上へ行けると信じていますわ」

P「お褒めの言葉どうも」

桃華「社交辞令ではありません」

P「その手は?」

桃華「あら、レディが手を出したらエスコートするのは紳士の役目でしてよ」

P「なるほど、では」

303: 2013/12/18(水) 21:18:09 ID:Kse3ClHM
ありす「何をさせているんですか」

桃華「その姿に嫉妬は似合いませんわ」

ありす「そんなんじゃありません!」

P「ほら」

ありす「……ちゃんと握って下さ――」

莉嘉「かっこいー! アタシもしてーっ!!」

P「って、ちょっと待った!」

ありす「……」

桃華「残念でしたわね」

ありす「……別に思ってない」

304: 2013/12/18(水) 21:18:55 ID:Kse3ClHM
P「やれやれ、ようやくお弁当だ」

千枝「Pさんご飯ですか?」

P「レッスン終わりか?」

千枝「はい、一緒に食べましょう」

P「相変わらず美味しそうな弁当だな」

千枝「食べますか?」

P「いや、今日はあるんだ」

千枝「お弁当……」

P「さーて中身は」

千枝「お好み焼き?」

P「ああ、何となく誰の発想かは読めた」

千枝「Pさん、誰かから貰ったんですか?」

P「朝にちょっとね」

305: 2013/12/18(水) 21:19:33 ID:Kse3ClHM
千枝「ニューウェーブさん!」

P「当たり、でもユニット名にさんを付ける必要はないからな」

千枝「夜の特別レッスンで色々と教え込んだって聞きました」

P「何だろう、俺の心が澱んでるのかな」

千枝「千枝にも夜のレッスンして下さい!」

P「普通のレッスンだからな!」

千枝「はい!」

P「いい返事だよ本当に」

千枝「聖來さんもあんまり放っておくと怒っちゃいますからね」

P「放っておいてる訳じゃないが、何で返事もくれないんだろう」

千枝「行きましょう」

P「どこに?」

千枝「聖來さんの部屋です」

P「いやいや、いるとは限らないだろ」

千枝「います、朝に確認しました」

306: 2013/12/18(水) 21:20:29 ID:Kse3ClHM
P「今は?」

千枝「……います!」

P「その間は何だよ」

千枝「時間ありますか?」

P「そうだな、行ってみるか。それでいなくても姿勢だけは見せておかないと」

千枝「でも、どうしたんでしょうね?」

P「実は原因に心当たりはある」

千枝「そうなんですか?」

P「ちょっと」

千枝「なら、やっぱり話すべきです」

P「だからいるといいんだけどな」

千枝「えっと、この部屋です」

P「聖來さん! Pですいますか!」

千枝「音もしませんね」

307: 2013/12/18(水) 21:22:06 ID:Kse3ClHM
P「うーん、もういないかな」

春菜「Pさん?」

P「ごめん、立ち入っていい場所じゃないってのは理解してるんだけど」

春菜「いえ、聖來さんですよね?」

P「そういうこと、時間作ってきたけど出直しかな」

春菜「入りますか?」

P「流石にそれは不味い、緊急でもないし仕事をさぼってる訳でもないんだから」

千枝「でも不安です」

春菜「難しいですね、どうしてしまったのか」

P「悪かったな休みのところ、今日は……開いたな」

千枝「鍵、掛かってなかったんですね」

春菜「寮ですからあんまり気にしない人もいますからね」

P「聖來さんもこういうところあるんだな、開けてても悪いしさっさと閉めよう」

千枝「何か飛んできましたよ?」

308: 2013/12/18(水) 21:22:42 ID:Kse3ClHM
P「新聞記事か、何か集めてるのかな」

春菜「えっと、2年前ですね。芸能事務所で火災発生、氏者2名重傷1名軽傷1名」

千枝「火事ですか?」

P「……ああ、まあ調べるよな」

千枝「Pさん?」

春菜「あの、大丈夫ですか?」

P「とりあえず戻しておこう、俺はちょっと用ができた」

千枝「Pさん!?」

春菜「何だか急いで行ってしまいましたけど」

千枝「入っちゃいましょう」

春菜「部屋の中に?」

千枝「謝るのは後でもできますけど、入れるチャンスは今日だけかもしれません」

春菜「……共犯ですか」

千枝「ここで入らなかったら、後でずっと後悔すると思いますから」

309: 2013/12/18(水) 21:23:12 ID:Kse3ClHM
P「聖來さん、出てくれないかな」

聖來「ごめんねPくん、この電話は出れないよ。やっとここまで来たから、聞いてみないとね」

P「駄目か。多分、行くとすれば」

聖來「真実ってやつをさ」

杏「……ん、客? いいや、居留守で」

「すいませーん、いませんか?」

杏「いないよ、さっさと諦めて帰るんだね」

「双葉さんいませんか?」

杏「だからいないって」

「双葉杏さんいませんか?」

杏「名前まで? 事務所の人?」

「水木聖來だけど、いない?」

杏「……何でまた、仕方ないなあ」

310: 2013/12/18(水) 21:24:53 ID:Kse3ClHM
聖來「やっと出てくれた」

杏「何の用?」

聖來「入ってもいいかな、お話がしたいんだ」

杏「まあ、いいけど」

聖來「思ったよりあっさり入れてくれたね」

杏「渋谷凛が動いたのは知ってるから」

聖來「Pくんに聞いたの?」

杏「よく調べたね」

聖來「色々と事情を知ってる人が多くて、この事務所」

杏「まゆかな」

聖來「何だ、分かってるんだ」

杏「統括だったら態度は変えたけどね」

311: 2013/12/18(水) 21:26:48 ID:Kse3ClHM
聖來「アタシは凛とまゆちゃんからしか情報を得てない」

杏「その二人から聞いてるなら充分だよ、私から言うことなんて何もない」

聖來「その二人の間で矛盾があったとしても?」

杏「食い違ってるの?」

聖來「Pくん絡みでね」

杏「あいつの事なんて気にしたって無駄だよ」

聖來「そうも言ってられないから、こうしてここに来たの」

杏「どこが食い違ったの?」

聖來「Pくんってさ」

杏「うん」

聖來「もうアイドルには戻れない体なの?」

杏「そっか、凛は知らないんだ」

聖來「じゃあやっぱり」

杏「無理だよ、動けてるだけで奇跡」

312: 2013/12/18(水) 21:27:26 ID:Kse3ClHM
聖來「踊るのも?」

杏「奈緒たちを見てる時、あいつ家に帰ってからずっと痛みに耐えてたよ」

聖來「そっか……無理させちゃったか」

杏「本人が好きでやったんだから気にしなくていいって」

聖來「歌も?」

杏「何か一から話すのもめんどくさいね、ちょっと長くなるけどいい?」

聖來「うん、話せる範囲で構わないから」

杏「あの日さ、普通に学校に行って授業受けて教室でだらーんとしてたんだ」

聖來「普通の学生だったの?」

杏「その頃はね。それで下校間際になって放送で呼び出されて、職員室に行って知った」

聖來「巻き込まれたとかじゃなかったんだ、よかった」

杏「事務所が燃えて、両親とお兄さんが病院に運び込まれてるからって。それだけ聞かされて車に乗せられて病院に行ってさ」

聖來「うん」

313: 2013/12/18(水) 21:28:32 ID:Kse3ClHM
杏「まあ、察しの通り。呆然としてるまゆと意識不明の馬鹿がいた」

聖來「……そっか」

杏「親は歯型だけが判別の材料だった、何も残らなかったら火葬する手間は省けたけど」

聖來「一人で手続きしたの?」

杏「親戚とか、後はまあ関係者。追い詰めた罪悪感とかあったんじゃない?」

聖來「まゆちゃん、私のせいですって言ってたけど」

杏「それはあれだよ、事務所内にまゆがいてそれを助けるためにってあの馬鹿は突っ込んだみたい」

聖來「それって」

杏「そうだね、いなかったらあいつはアイドル続けてたかもね」

聖來「凛は、できれば戻って欲しいって言ってた。アイドルに戻らないのは罪の意識があるからなんじゃないかって」

杏「それもあるかもね、でも無理だよ。医者が不可能と言ったし、させたくない」

聖來「統括が何を望んでるとかも知ってるんだよね?」

杏「妹でしょ、はっきり言うけど私には関係ないよ。あいつはそう思ってないみたいだけど」

聖來「恨んでる?」

314: 2013/12/18(水) 21:30:20 ID:Kse3ClHM
杏「別に、遅かれ早かれああなったんだと思うし。努力とか全て意味ないって分かっただけでも収穫だよ」

聖來「ねえ、どうすればいいのかな?」

杏「なるようにしかならないでしょ。そのライブで都合よく妹が目覚めたって、あいつの体が元に戻る訳じゃない」

聖來「そうだね」

杏「勝手に巻き込んできてるだけだよ、それに付き合ってあげてるあいつは馬鹿。それだけ」

聖來「ねえ」

杏「んー?」

聖來「何でアイドルになろうと思ったの?」

杏「……さあ、思い出すのもめんどくさい」

聖來「アタシをプロデュースするのもきついのかなあ」

315: 2013/12/18(水) 21:30:57 ID:Kse3ClHM
杏「そうでもないんじゃない、教える事ないって言ってたし」

聖來「はは、そう言ってもらえると助かる」

杏「他に何かある?」

聖來「ううん、いやな話させちゃってごめんね」

杏「いいよ、必要なんでしょ?」

聖來「そうだね、長居しても邪魔だろうから失礼するよ」

杏「どうするのさ」

聖來「やるだけやってみるよ、凛をあのままにもしておけないから」

杏「ふうん、まあ頑張って」

聖來「ありがと、本当に。それじゃまたね」

杏「……頑張るなあ」

316: 2013/12/18(水) 21:34:02 ID:Kse3ClHM
P「メール? 聖來さんか……駅まで来て? 何でまた」

凛「えっと、聖來さんは……どうしたんだろう、急に用なんて」

P「ここか、さてどこに……」

凛「……」

P「お、お疲れ様」

凛「う、うん」

P「あー、仕事?」

凛「それはもう終わって、人を待ってるんだけど」

P「そっか、俺も人を待っててさ」

凛「……」

P「……」

凛「……」

P「……」

凛「えっと、未央と卯月が首を突っ込んだって聞いたけど」

317: 2013/12/18(水) 21:34:35 ID:Kse3ClHM
P「ニューウェーブの時の?」

凛「そう、ごめん。邪魔しちゃったかな」

P「いや、助かったから。俺がお礼を言う立場だよ」

凛「ならいいんだ、よかった」

P「ああ、気にしなくていいから」

凛「……」

P「……」

凛 P「聖來さんまだかな」

凛「え?」

P「そういう事かよあの人!」

聖來「頑張れ、凛。さーて、どこで時間潰そうかなあ」

318: 2013/12/18(水) 21:36:36 ID:Kse3ClHM
P「あー、ちょっとメール見せてもらえる?」

凛「これだけど、一緒?」

P「一字一句同じだな。仲いいんだね、一緒に散歩してるとは聞いてたけど」

凛「犬、飼ってるんだ。ハナコっていうんだけど、聖來さんも可愛がってくれて」

P「やっぱり名前付けるよね?」

凛「聖來さんの犬?」

P「そう」

凛「わんこだもんね、わんこ」

P「俺は人って名づけられたら自分の命の在り方を考える」

凛「花屋がハナコって名づけるのは?」

P「え、そっから?」

凛「何か思いつかなくて」

319: 2013/12/18(水) 21:39:35 ID:Kse3ClHM
P「まあ、珍しすぎても苦労するから」

凛「そうなのかな」

P「俺もそんなに珍しくもないから考えたことなかったんだけど、苦労する子もいるみたいで」

凛「時間、大丈夫?」

P「まあ、この為に作ってきたから拍子抜けしてるというか。渋谷さんは?」

凛「似たようなものかな」

P「ここにいても仕方ないよな、どうするかな」

凛「じゃあ、ちょっとついてきくれない?」

P「ああ、構わないが」

凛「すぐそこだから」

P「アイドルの実家、パートスリー」

凛「噂どおりプレイボーイなんだ?」

P「プレイボーイって……」

320: 2013/12/18(水) 21:40:26 ID:Kse3ClHM
凛「冗談、連れてくるからちょっと待ってて」

P「何で上機嫌なんだろうあの子……」

凛「お待たせ」

P「その子がハナコ?」

凛「うん、折角だし」

P「付き合う、聞きたい事もあるし」

凛「聖來さんに話したかって?」

P「そう」

凛「話したよ、プロデューサーに話す前の日に」

P「忙しい割にそういう暇はあるんだな」

凛「毎日アイドルやってる訳じゃないから、そういう日もあるってだけ」

321: 2013/12/18(水) 21:41:08 ID:Kse3ClHM
P「渋谷さんが奈緒たちに会ったって聖來さん知らないの?」

凛「知ってるんじゃないかな、話すって伝えたし」

P「しかし、あんな記事まで手に入れてるとはね。焦ったよ、調べたの?」

凛「記事?」

P「ほら、二年前の事務所の火災の記事。聖來さんの部屋から出てきたんだ、あ、別にわざと見ようとした訳じゃないからな」

凛「何の事?」

P「えーっと、まさかとは思うが」

凛「そういう事があったのはニュースとかで調べたけど、記事なんて知らないし渡してない」

P「島村さんや本田さんの可能性は?」

凛「あの二人は私以上の情報は知らないはず」

P「なーるほど、つまり他に教えたのがいるってことか」

凛「他に知ってる人いるの?」

322: 2013/12/18(水) 21:42:29 ID:Kse3ClHM
P「いる、少なくとも二人」

凛「二人もいるんだ」

P「当事者だからな、その時の状況に限るなら俺以上に詳しい」

凛「関係者?」

P「そういう事だが、二人ともそろそろ仕事だな。一人はすぐに終わるが、もう一人はちょっと長丁場か」

凛「仕事してるんだ」

P「渋谷さんと同じ仕事をね」

凛「まさか、アイドル?」

P「ご名答」

凛「その二人の内のどちらかが聖來さんに何らかの情報を教えてるって理解でいい?」

P「可能性は高い、統括がするとは思えないし」

凛「何の為に?」

P「教えて何らかのメリットが得られると判断したからだろう」

323: 2013/12/18(水) 21:44:01 ID:Kse3ClHM
凛「その人達も彼女のことは知ってるんだよね」

P「どうだろう、俺の知らなかった事を知ってるとは思えないけど。もしかしたらという可能性もあるんだよなあ」

凛「会える?」

P「可能性の高い方は、終りまでまだ掛かる。待てるか?」

凛「低い方は?」

P「低い方は焦らなくてもなあ、ってかあんまり行きたくない」

凛「遠いの?」

P「遠いっていうか」

凛「うん」

P「俺の家に来るか?」

凛「え? いや駄目だよ……まだ早いし」

P「そういう意味じゃねえよ!!」

324: 2013/12/18(水) 21:45:31 ID:Kse3ClHM
凛「お、お邪魔します」

P「アイドルを家に上げるのって初めてなんだが」

凛「でも誰かにばれても説明楽だよ、友達の家ってことにすればいいんだし」

P「杏と事務所で会話したことは?」

凛「少しだけ」

P「だろうね、お茶でも出すよ。座ってて」

凛「何か、思ったより綺麗」

P「掃除しないとあっという間に汚れてくから、気は使ってる」

凛「掃除するんだ」

P「家事は昔からしてたから、何かこれだとサボってるだけだな。仕事させてもらっていいか?」

凛「帰ってくるのはいつごろ?」

325: 2013/12/18(水) 21:47:09 ID:Kse3ClHM
P「後、二時間くらいか。一つ気づいた」

凛「何?」

P「誰かが来客用のカップ出してる」

凛「誰か来たんじゃないの?」

P「杏が誰かにお茶を出したって?」

凛「あり得ないね」

P「聖來さんじゃないだろうな」

凛「家とか教えたの?」

P「いや、でも知ろうと思えば方法はある」

凛「ちょっと情報を整理しない?」

P「そうだな、情報を共有しようか。お互いにまだ話してないこともあるだろ」

326: 2013/12/18(水) 21:48:20 ID:Kse3ClHM
凛「双葉杏が妹って本当?」

P「本当、もし嘘ならスキャンダルだ」

凛「二人でここに住んでるの?」

P「その通り」

凛「よく一緒の事務所にいるね」

P「先にあいつの方がいて、俺は知らずに入った。その頃は別々に住んでたから気付かなかったんだが、初めて見た時は心臓が止まるかと思った」

凛「それって、統括のこと知ってるってこと?」

P「分からない、けど聖來さんが来たと仮定するなら知っててもおかしくないな」

凛「もう一人っていうのも家族とか親戚?」

P「佐久間まゆっているだろ?」

凛「ああ、あの」

P「あんまり印象が良くなさそうだね」

327: 2013/12/18(水) 21:50:54 ID:Kse3ClHM
凛「そういうわけじゃない、ただ何というか」

P「俺がいた事務所に所属していた子なんだ」

凛「……統括それ知っててプロデュースしてるの?」

P「情けない話だけど、分からない。まゆが統括に入れ込んでるってのは聞いてるけど、実際はどうなんだ?」

凛「繰り返しになっちゃうけど、さっぱり。統括にはあからさまに態度を変えるから分かりやすいんだけど、統括はほら」

P「トレーナーさん?」

凛「うん、だから何というか」

P「気味が悪いと」

凛「そこまでは言わないけど」

P「顔に出てる」

凛「報われない恋なのになあって」

328: 2013/12/18(水) 21:51:51 ID:Kse3ClHM
P「ただ情報を流してるのはまゆの公算が高い。まゆが怪しいってよりは杏が自ら行動に出る可能性が低いってだけだけど」

凛「統括がまゆを動かしてるかもしれない」

P「想像の域を出ないな、最近は動きないのか?」

凛「私が見る限りは普通に仕事してる」

P「何が動いてるんだかさっぱりだな」

凛「……それ、アイドルだった頃の?」

P「あ、見つけられたか」

凛「あのさ、アイドルに戻りたいとか思わないの?」

P「いーや、全く」

凛「理由は?」

P「それより楽しい世界を知ったから」

凛「アイドルより?」

P「アイドルよりも」

329: 2013/12/18(水) 21:54:43 ID:Kse3ClHM
凛「一緒にステージに立ちたいって望んでも?」

P「その要望には沿えないな、残念ながら」

凛「私をこの世界に引きずり込んだ癖に身勝手」

P「デビューが二年遅かったな」

凛「この前、何でこのタイミングだったって聞いてきたよね?」

P「あの分かりやすい嘘な」

凛「ばれてた?」

P「奈緒達だって気づいてる、ばればれだ」

凛「本当は最後まで距離を置こうかなって思ってた、彼女がああなってるのに自分だけ近づくのも後ろめたいから」

P「それが変わったのか?」

凛「怖くなった、だから加蓮達に近づいて何となく様子を聞いたりして」

P「怖い? 俺が?」

330: 2013/12/18(水) 21:56:26 ID:Kse3ClHM
凛「どんどん周りを変えていくから、焦っちゃうよ。何だか置いてかれそうで」

P「先頭をひた走るアイドルが何を言ってんだか」

凛「プロデューサーになったって聞いて最初は失望したんだ、逃げたのかなって」

P「間違ってはないよ」

凛「それが加蓮達をあのレベルまで押し上げて、千枝や千秋さんを変えて」

P「過大評価だ」

凛「加蓮達を陰ながらサポートして、楓さんまで」

P「あの時、楓さんは気負いだって言ってたけど」

凛「対抗意識があったんだ、逃げたあいつには絶対に負けたくないって」

P「俺が見てるアイドルにも?」

凛「うん、それが何か圧倒されて情けなかった。二年もたって差が埋まってないんだよ?」

331: 2013/12/18(水) 21:57:56 ID:Kse3ClHM
P「いや、勝手に勝負されて勝手に負けたって思われてもな」

凛「このままだと今度のライブも同じ結果になるんじゃないかって、怖くなって確かめようと思った」

P「俺がプロデューサーとしてどうかって?」

凛「今でもこの人は私の目指すべき人なんだろうかって」

P「……あのなあ」

凛「たくさんのステージに立って、たくさんの観客の前で歌った。緊張もない、自然体でいられる様になって色んな仕事を経験して」

P「……」

凛「だから大丈夫だって思った。楓さん達が凄いんだ、あの人はもう過去だってそう言い聞かせて」

P「もう全て過去だよ」

凛「あの頃のままだよ、ずっと。私にはそう見える」

P「あの頃のままじゃない、気付かないかそう思いたがってるだけだ」

凛「できるなら、戻って欲しい」

P「……俺は」

332: 2013/12/18(水) 21:59:46 ID:Kse3ClHM
杏「ただいま」

凛「お帰り、ごめんねお邪魔しちゃって」

P「もうこんな時間か。なあ、今日もしかして」

杏「来たよ、多分想像通り」

P「じゃあやっぱり情報源は」

杏「まゆだね、何で今になってこんな事してるか知らないけどいい迷惑」

凛「迷惑?」

杏「杏にとってはの話、そこいい?」

凛「どうなろうと知ったことじゃないって言いたいの?」

P「杏、そこまでだ」

杏「そうだよ悪い?」

凛「……そうなんだ」

333: 2013/12/18(水) 22:00:47 ID:Kse3ClHM
杏「仕事、終わったの?」

P「いや、まだ」

杏「そう、会いに行くんだ」

P「まあな、知りたいから」

杏「行けばいいよ、後悔しないようにね」

P「何したって後悔はするさ」

杏「好きにすれば、ゲームでもして待ってる」

凛「行くよ、後悔しない為に。先に出てるね」

334: 2013/12/18(水) 22:03:33 ID:Kse3ClHM
P「……杏、さっきのは」

杏「全て知っても後悔しかないから。後で責められるのも嫌だしね、忠告だけはする」

P「それはもう、渋谷さんがどう受け止めるかだ」

杏「兄貴もだよ」

P「大丈夫、とっくの昔に受け止めたから」

杏「知ってたの?」

P「行ってくる」

杏「……しーらない」

335: 2013/12/18(水) 22:05:45 ID:Kse3ClHM
凛「出ちゃったね、まだ時間あるのに」

P「渋谷さん、あのさ」

凛「いいよ、返事なんて。ちょっと場の空気に押されちゃっただけ、おかしなこと言ってごめん」

P「……事務所まで歩くか」

凛「ハナコおいで。ごめんね、外で待たせちゃって。ふふ、よしよし」

P「そうやって見ると普通の女の子だな」

凛「普通の女の子じゃないアイドルなんているの?」

P「ニュージェネレーションは少し違って見えるよ」

凛「……ニュージェネレーションって何だろうって、思う時がある」

P「どういう意味?」

凛「アイドル増えたよね、ここ数年で一気に。765に始まって色んなプロダクションがアイドルを輩出してる中で、次の世代に求められるものって何だろう」

P「過去のアイドルを超える為に必要な何か、だろうな」

336: 2013/12/18(水) 22:06:55 ID:Kse3ClHM
凛「今のトップアイドル達と私は年も変わらない。ダンスも歌も頑張ってるけど、上には上がいる」

P「分かりやすい目標ではあるな、そういう存在は」

凛「でも、超えたとしてもそれは世代の移り変わりなのかただ単に人気が逆転しただけなのか分からない」

P「誰がどんなタイミングで起こすか分からない、日高舞や765に続く波を起こすのは誰なのか。誰にもね」、

凛「私達がその世代に取り残されてたら笑い話だよね」

P「取り残されないよ、渋谷さんが時代に背を向けても時代が君を離さない」

凛「何それ」

P「プロデューサーとしての勘だけどね」

凛「まゆと話したとするでしょ?」

P「ああ」

凛「それでまゆが聖來さんに話したって分かったとする」

P「それで?」

337: 2013/12/18(水) 22:08:43 ID:Kse3ClHM
凛「話す理由に心当たりある?」

P「仮に統括の指示でないなら、まゆ個人の意思がそこにあるんだろう」

凛「まゆってどんな子だったの?」

P「何をしても可愛いって言葉がよく当てはまる子だった、俺に対しても杏に対しても」

凛「仲が良かったんだ」

P「良い方だったと思うんだが、ここでは会話した事もないのが引っ掛かる」

凛「避けてた訳じゃないの?」

P「避けられてるんだろうとは思う」

凛「何かされたの?」

P「これは先に言っておくが、冷静に聞いてくれるか」

凛「何?」

338: 2013/12/18(水) 22:10:11 ID:Kse3ClHM
P「事務所で火災があったあの日、まゆは事務所にいたんだ」

凛「そうなんだ」

P「そこに戻ってきた俺は事務所に飛び込んで、まゆを助けて親を見つけてその場で意識失った」

凛「飛び込んだの?」

P「結果、全身に火傷を負って喉もやられた」

凛「それって」

P「先に言っておくが、俺がアイドルを辞めたのとこれは無関係だからな。身体が無事でも俺は
  アイドルを辞めてた、これは言っておく」

凛「そんなの分からない!!」

P「もう一つ、この件でまゆを責める様なら俺からの協力はないと思ってくれ」

凛「恨まないの?」

P「何でだよ、あの子も事務所を失ったんだ。それに多分、責任は充分過ぎるほど感じてる」

凛「統括に熱を上げてるのに」

P「そこから俺は疑ってるけどな」

339: 2013/12/18(水) 22:11:26 ID:Kse3ClHM
凛「そんな事をして何になるの?」

P「それを今から聞くんだよ」

凛「事務所に戻ったのって車を取るため?」

P「それと一応、今からまゆ迎えに行ってきますって報告。まゆには俺から伝えておきますって
  言ったから、逃げるとかはない」

凛「信頼してるわけじゃないんだ」

P「二年も話してないんだ、今がどうかは分からないよ」

凛「二年でプロデューサーは変わったの?」

P「変わったよ、変わりすぎて元の形に戻れなくなったくらいには」

凛「そんな風には見えない」

P「人間、変わるのはいつだって見えないところだよ」

340: 2013/12/18(水) 22:13:04 ID:Kse3ClHM
凛「まゆって今日は何をしてるの?」

P「ドラマらしい」

凛「ドラマか、あんまり好きじゃないな」

P「そう? いい演技してるけど」

凛「見たの?」

P「見たよ」

凛「よくそんな時間あるね」

P「全ては見てないけど、見ないと怒るアイドルもいるから」

凛「私は別に気にしないかな」

P「それに、営業先でそういう話をされた時に担当じゃないから知りませんとは言えないから」

凛「大変だね、今さらだけど」

341: 2013/12/18(水) 22:14:21 ID:Kse3ClHM
P「そうでもないよ、好きでやってる事だ」

凛「ここ?」

P「そう、少し待つかな。現場に行って動揺させたら悪い」

凛「私は行ってもいいよね?」

P「もちろん、俺はここにいるから」

凛「分かった、連れてくるから」

P「了解」

まゆ「はい、分かりました。失礼します、お疲れ様でした」

凛「今、終わったところ?」

まゆ「渋谷さん?」

凛「来ちゃったよ、迷惑だった?」

まゆ「いえ、アイドルに迎えに来てもらったのは初めてだなって思いまして」

342: 2013/12/18(水) 22:16:12 ID:Kse3ClHM
凛「いつも統括だもんね、たまにはこういうのもいいでしょ?」

まゆ「はい、でもどうやってここまで?」

凛「実は車に乗せてもらってきたんだ、誰だか分かる?」

まゆ「スタッフさんですか?」

凛「ううん、違う」

まゆ「では、どなたが?」

凛「どんな反応してくれるのかなってちょっとわくわくしてる」

まゆ「そんなに凄い方なんですか?」

343: 2013/12/18(水) 22:17:01 ID:Kse3ClHM
凛「凄いよ、もう見える」

まゆ「あの車ですね」

凛「そう、ほら見えた」

まゆ「ふふふ、どんな方でしょ……」

凛「驚いてくれた?」

まゆ「……はい、とても」

凛「そういう事だから、乗ってもらえるかな」

P「久し振り、でもないか。顔は合わせてたんだから」

まゆ「……はい」

P「積もる話は色々とあるけど、聖來さんに話したのか?」

344: 2013/12/18(水) 22:19:17 ID:Kse3ClHM
まゆ「水木さんがそう言っていたんですか?」

P「可能性の話、杏がすると思うか?」

まゆ「そうですね、杏さんはそういう人ですから」

P「全くな」

まゆ「理由ですか?」

P「そう、意味もなくしないだろ? まゆにとってもあまりいい記憶ではないだろうし」

まゆ「……どうしてPさんはいつもそうなんですか」

P「まゆ?」

まゆ「どうしていつもいつもそうやって!!」

P「落ち着け、どうした?」

まゆ「何でそうやって……何も言ってくれないんですか?」

凛「分かった」

345: 2013/12/18(水) 22:20:16 ID:Kse3ClHM
P「渋谷さん?」

凛「何だ簡単だった、そっかそういう事か。だから私、まゆの事あんまり好きじゃなかったんだ」

まゆ「だから渋谷さんとは一緒にいたくありませんでした」

P「待った、二人だけで納得されても困る」

凛「まゆが聖來さんに話した理由、プロデューサーに構って欲しくなったからだよ」

P「は?」

凛「何か私と考え方が似てるね、似た者同士なのかな」

P「構うって、こんな遠回りな事しなくても」

凛「プロデューサーの身体を傷つけて平気な訳ない、けど素直に謝る事もできない」

P「渋谷さん、そこまでだ」

まゆ「続けて下さい」

凛「ご要望にお応えして続けるよ、だから――」

P「電話? まゆ、出てくれるか? 営業先の誰かなら折り返すと伝えてくれ」

346: 2013/12/18(水) 22:21:02 ID:Kse3ClHM
まゆ「はい、すみませんこの電話は――」

杏「私」

まゆ「杏さん?」

凛「杏?」

P「なるほど、まゆが出るって分かってたか」

杏「この通話、ハンズフリーにしてくれる?」

P「そこに繋いでくれ」

凛「私にも用があるってこと?」

杏「本命だよ、前にいる二人に用はないから」

P「言ってくれるな」

杏「全て知ってるのに黙ってる方がよく言うよ」

347: 2013/12/18(水) 22:24:27 ID:Kse3ClHM
まゆ「Pさん?」

P「……さて、何を話すんだ?」

杏「いい加減、時間もないから。隠し事は無しにしようよ」

P「話すのか?」

杏「夢が終わった日、何があったか。凜、教えてあげるよ」

終わり 次回は23日、Pの過去話です

348: 2013/12/18(水) 22:49:10 ID:hTVW1lQw
乙です
次回が気になる終わり方だなー
楽しみにしてる

引用元: ありす「心に咲いた花」