448: 2014/01/06(月) 02:04:44 ID:nYGYdFWk
連作短編26
ほたる「泰らかな葉の下で蛍は静かに瞬く」

ほたる「あの、私はこの世界でやっていけるでしょうか?」

P「今までだってやって来たんだろう? 大丈夫だよ」

ほたる「でも、今までは……」

P「シンデレラだって元の意味は灰かぶり、初めから幸せだった訳じゃない」

泰葉「では私も灰かぶりですか?」

P「泰葉は虐めてる側だな」

泰葉「本当に虐めましょうか?」

P「待て! 冗談だ冗談!」

泰葉「せめて魔法使いとかあるでしょう!」

ほたる「ふふっ」

P「お、笑った」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。

検索タグ:ありす「心に咲く花」

その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
449: 2014/01/06(月) 02:05:35 ID:nYGYdFWk
泰葉「愛想笑いですよ、Pさんの駄目っぷりを嘆いてるんです」

P「え」

ほたる「いえそんな事ありません!」

P「って言ってるぞ!」

泰葉「何で真に受けるんですか、馬鹿ですか」

P「馬鹿って、馬鹿って言ったな!」

泰葉「はい、言いました」

P「この……」

ほたる「本当に、ここは不思議な場所です」

450: 2014/01/06(月) 02:06:11 ID:nYGYdFWk
千枝「とはいっても、これどこの事務所のお話なんでしょうね?」

春菜「ふーむ、この記事で分かるのは事務所が燃えて氏者が出たという事だけ」

千枝「でもPさんがこれを見て飛び出していったってことは」

春菜「何か関係があると見た方がいいね」

千枝「でも二年前って千枝はまだアイドルでもありません」

春菜「私もそうだし、この事務所でその頃アイドル事務所にいたとなると」

千枝「あ、心当たりがあります!」

春菜「誰?」

千枝「最近、事務所に入ってきた方ですよ。白菊ほたるさん」

春菜「ああ、そういえばPさんがそんな事を言ってたような」

千枝「もしかしたら何か知ってるかもしれません

春菜「でも、いいのかな」

451: 2014/01/06(月) 02:06:51 ID:nYGYdFWk
千枝「あんまり、昔の事とか聞かない方がいいでしょうか?」

春菜「うーん、こうそれとなく聞いてみるのはどう?」

千枝「それとなくですか?」

春菜「そうそう、二年前にこんな風に潰れた事務所があるって知ってる? みたいな」

千枝「あくまで世間話のような感じにするんですね?」

春菜「そうそう、それでほたるちゃんから言い出してきたら話を詳しく聞く」

千枝「言葉を濁されたら?」

春菜「即時撤退を」

千枝「了解しました!」

452: 2014/01/06(月) 02:07:22 ID:nYGYdFWk
春菜「でも事務所が潰れるって想像がつかない」

千枝「この事務所もいつか倒産しちゃうんでしょうか?」

春菜「うーん、どうでしょう」

千枝「そうなったら私どうしましょう?」

春菜「いや、その年ならいくらでもやり直しがきくから」

千枝「こんな暗い話しても仕方ありません、とりあえずお話を聞きましょう」

春菜「任せて大丈夫?」

千枝「はい、どーんと任せてください」

春菜「なら、もう少し細部を決めようか」

453: 2014/01/06(月) 02:07:57 ID:nYGYdFWk
ほたる「別の事務所のお話……ですか?」

千枝「実はこんな記事を偶然、事務所で見つけてしまいまして」

ほたる「芸能事務所で火災……氏者2名……」

千枝「何だか怖い話ですよね? 千枝、全然こういうの想像つかなくて」

ほたる「うん、そうだね」

千枝「ほたるさんはどんな事務所にいたんですか?」

ほたる「どんな……」

千枝「あ! その言いたくなかったら無理には」

ほたる「この事務所も、潰れてしまったんでしょうか」

千枝「も?」

ほたる「私の前の事務所……潰れちゃって」

千枝「」

ほたる「こっちこそごめんね、変な反応になっちゃって」

千枝「い、いえ! 千枝の方こそごめんなさい!」

454: 2014/01/06(月) 02:09:15 ID:nYGYdFWk
春菜「それで即時撤退と」

千枝「とんでもない話題を出してしまいました」

春菜「大人しく聖來さんかPさんに聞いた方がいいね」

千枝「後できちんと謝っておきます」

春菜「下手に他の人に聞いて変な事になるくらいなら……」

泰葉「何のお話ですか?」

春菜「」

千枝「」

泰葉「えっと、驚かせてしまったんでしょうか?」

千枝「い、いいいいいいえ!」

春菜「何でもないです、何でもないですから」

455: 2014/01/06(月) 02:09:49 ID:nYGYdFWk
泰葉「あ、何か落としましたよ? 雑誌の記事?」

春菜「」

千枝「」

泰葉「事務所で火災発生……氏者2名重傷1名軽傷1名、二年前の記事なんてどこから?」

春菜「作り物ですよ、よくできてるでしょう?」

泰葉「この事務所、聞いたことがあります」

千枝「あははは、よく似た名前かもしれませんね」

泰葉「潰れていたんですか? でもこんなニュースだったら当時の私に耳に入らない訳……」

ほたる「泰葉さん?」

泰葉「お疲れ様、一つ聞きたいんだけどいい?」

春菜「この展開は……」

千枝「大丈夫でしょうか」

春菜「もう流れに身を任せるしか」

456: 2014/01/06(月) 02:10:34 ID:nYGYdFWk
ほたる「さっきの記事ですか」

泰葉「見たの?」

ほたる「はい、千枝さんから」

泰葉「どうして私には隠したんですか?」

千枝「えーっと」

ほたる「それはその……私の前の事務所が潰れてしまったって話をしてしまいまして」

泰葉「ああ、それで」

春菜「決してわざとでは!」

泰葉「分かってますよ、苦労してきたんだもんね」

ほたる「いえ、そんな」

千枝「泰葉さんでも分からないんですか」

泰葉「そもそも、この記事はどこから出てきたの?」

457: 2014/01/06(月) 02:12:13 ID:nYGYdFWk
千枝「聖來さんの部屋からです……」

泰葉「入ったの?」

千枝「その、たまたま開いてて」

泰葉「個人で集めてるだけなのかもしれないし、別に問題が起きてないなら――」

千枝「それをみたPさんが血相を変えて飛び出していって」

泰葉「Pさん?」

春菜「だから私達もこうして気にしてて」

泰葉「ちょっと、軽く調べてみましょうか」

春菜「でも、取っ掛かりがこの記事だけでは」

泰葉「ネットで出てくるかな」

千枝「千枝の部屋に来ますか?」

ほたる「持ってるんですか?」

458: 2014/01/06(月) 02:12:43 ID:nYGYdFWk
千枝「色々と使い道があって」

春菜「ああ、Pさんとの写真の管理とか――」

千枝「早く行きましょう!」

ほたる「壁紙、プロデューサーさん……」

泰葉「隠す気もないんですね」

千枝「千枝の宝物です!」

春菜「まあ今は違う話がメインだから」

千枝「えっと事務所の名前……」

泰葉「出てきませんね」

春菜「事務所の名前自体が消えてる」

千枝「潰れちゃったら全て消えてしまうんですか?」

459: 2014/01/06(月) 02:14:17 ID:nYGYdFWk
泰葉「いえ、少なくとも何らかの記録が残っていてもおかしくない。その事務所に所属していた子のファンサイトとか
   引退してからも残ってることは多いから」

ほたる「私のいた事務所の名前で検索してみますか?」

泰葉「大丈夫?」

ほたる「大丈夫です、えっと」

春菜「出てきた」

千枝「こんな事務所もあったんだ」

ほたる「やっぱり出てきますね」

泰葉「この記事を書いた人に会えればいいんだけど」

千枝「どの雑誌かも分かりません」

春菜「記者の名前で検索してみる?」

千枝「うーんと、あれ?」

泰葉「出てこない」

460: 2014/01/06(月) 02:15:09 ID:nYGYdFWk
ほたる「この記事でしか使わなかった名前なんじゃないでしょうか」

千枝「本名じゃ駄目だったんですか?」

泰葉「本名で書くと身の危険が生じる可能性のある記事ということ」

春菜「この事務所、どんな事務所だったんですか?」

泰葉「奴隷商人、と言われてました」

千枝「どれい……」

泰葉「育てて売り飛ばす、そう言われていたのを聞いただけですから何とも言えませんけど」

春菜「あまり真っ当な事務所ではなかったかもしれない?」

泰葉「断定はできません」

千枝「聖來さんがわざわざ記事を取ったっていうことはPさんに関係あるんでしょうか」

泰葉「……一つ、皆さんに質問があります」

春菜「何ですか?」

泰葉「Pさん、プロデューサーになる前は何をしていたか知っている人はこの中にいますか?」

461: 2014/01/06(月) 02:16:17 ID:nYGYdFWk
ありす「はい」

千枝「ありすちゃん!?」

春菜「いつから……」

ありす「千枝の宝物です!」

ほたる「ほとんど最初からですね」

泰葉「それは本人から聞いたんですか?」

ありす「他に知る術を私は知りませんから、それで何の話ですか?」

千枝「えっと、じゃあ千枝が一から説明します」

ありす「なるほど、分かりました」

春菜「Pさんってプロデューサーになる前って何かしてたの?」

千枝「聞いたことありません」

泰葉「私も本人から聞いたというか自分で気づいた事なので」

462: 2014/01/06(月) 02:16:47 ID:nYGYdFWk
千枝「いつ聞いたの?」

ありす「一緒に出かけた時に、少し」

泰葉「では、この事務所に心当たりは?」

ありす「それは……ないです」

泰葉「あまり面と向かって聞かない方がいいかもしれません」

千枝「Pさんの過去……」

春菜「勝手に聞くのも気が引けますけど、ここまで聞いて何も聞くなというのも」

泰葉「アイドルだったんですよ、あの人」

春菜「アイドル!?」

千枝「だからかっこいいんだあ」

春菜「そんな呑気な話かな」

463: 2014/01/06(月) 02:17:54 ID:nYGYdFWk
ほたる「アイドル……」

ありす「この事務所に所属していたか、あるいは知っているか」

泰葉「関係者でしょう、聖來さんはこの事務所以外に所属していたことはないでしょうから」

千枝「じゃあ何で今更それを調べてるの?」

春菜「考えられる可能性は……」

千枝「ここにいた人たちがPさんに接触してきたのかも」

春菜「接触って」

泰葉「ここにいた事をばらされたくなかったら金を払え」

千枝「そんな!」

泰葉「私はともかく、そういう事をしていた事務所に所属していたことを知られたら、アイドルの中には嫌悪感を示す人もいるかもしれません」

千枝「千枝はPさんを信じます!」

ありす「それは言うまでもありませんが、他の人はそう受け止めないかもしれません」

464: 2014/01/06(月) 02:18:27 ID:nYGYdFWk
泰葉「事務所の評判が落ちかねないから、とか」

千枝「もしそうなったら」

泰葉「彼はこの事務所を去ることになります」

千枝「絶対に嫌!」

春菜「ですが、今になってばれるなんて事あります?」

泰葉「どこかの記者が嗅ぎ付ければ、あるいは。私も彼がどんな活動をしてたかまでは知りませんから」

ほたる「私のせいかもしれません」

泰葉「何かあったの?」

ほたる「私がこの事務所に来たからばれてしまったのかも」

千枝「それはないです」

春菜「いくらなんでも」

ほたる「でも! 私が所属する事務所はどこも」

465: 2014/01/06(月) 02:20:23 ID:nYGYdFWk
泰葉「過去がそうだとしても、ここは違いますよ。ここはそういう場所ですから」

ほたる「でも……」

千枝「どうしましょう?」

泰葉「あまりこちらから動くと却って逆効果かもしれません」

千枝「黙って待つんですか?」

春菜「噂が広まったら取り返しがつかなくなるよ」

ありす「誰か頼りになる人を……」

泰葉「ある程度、この世界に詳しくてなおかつPさんの味方になってくれそうな人」

先P「おいおいそれで俺の所に来たのか?」

泰葉「ええ」

先P「また地雷を自ら踏みに来るとはね、こんなおっさん頼りにしてどうにかなる気なのか?」

466: 2014/01/06(月) 02:21:50 ID:nYGYdFWk
泰葉「今、職を失いたくはないでしょう? もし仮説が正しければこの事務所は持たないかもしれません」

先P「ほう、プロデューサーを脅すとはいい度胸だ」

泰葉「脅しますよ、貴方であろうと千川ちひろであろうと」

先P「……岡崎、この世界でここまで生き残ってきたその器量は認める。だがな」

泰葉「私は聞きました、知っているか知らないか」

先P「知っていた」

泰葉「はい?」

先P「もう少し詳しく言おうか、その事について他言しない事を条件に俺はこの会社に入った」

泰葉「あの記事を書いたのは貴方ですか?」

先P「それは契約上、答えられないな」

泰葉「質問を変えます、なら最初に知らなかったと言えばよかったのでは?」

先P「嘘は嫌いでね。後、白菊の言った事はあながちでたらめでもない」

467: 2014/01/06(月) 02:22:22 ID:nYGYdFWk
泰葉「どういう事ですか?」

先P「一度目なら偶然、二度目なら奇跡、三度目ならそれは?」

泰葉「……必然」

先P「そう思えば、そういう記事を書きたい記者が寄ってきてもおかしくない」

泰葉「そこに彼がいて、過去を知っている誰かがいれば」

先P「そういう事をほじくり返そうとするのもいるかもな」

泰葉「もしそうなら」

先P「白菊ほたるとP、どちらの手を取る?」

泰葉「そんなの、考えたくありません」

先P「だがそんな日が来るかもしれん、頭に入れておけ」

468: 2014/01/06(月) 02:23:00 ID:nYGYdFWk
聖來「今なら誰もいないかな。うん、Pくんは気付いてくれたみたい」

ありす「何をでしょう?」

聖來「こんな時間まで起きてるなんて、肌に悪いよ?」

ありす「眠れなくなる原因を作ってくれた人に言われたくありません」

聖來「酷い言われ方。ま、仕方ないね」

ありす「あまり他人の過去をばらまくのは感心しません」

聖來「うん、今回だけ。もう何もしないよ」

ありす「問題ないんですね?」

聖來「私はいつもPくんの味方、って訳じゃないけど彼に害する事は絶対にしない」

469: 2014/01/06(月) 02:24:05 ID:nYGYdFWk
ありす「……あまりそういう事をしないで下さい」

聖來「はは、やっぱりまだ心配?」

ありす「聖來さんを本気で敵に回したくないです」

聖來「……気を付けるよ」

ありす「いえ、こちらこそ夜遅くに失礼しました。おやすみなさい」

聖來「おやすみ」

ありす「はい、これでようやく眠れます」

聖來「Pくん、君は本当に凄いね。凜がああなるのも分かるなあ……あーあ、まさか12歳に本気でびびる日が来るなんて」

470: 2014/01/06(月) 02:26:11 ID:nYGYdFWk
P「という訳で、いいかな?」

ほたる「……」

P「白菊さん?」

ほたる「はい!?」

P「ごめんね、こんな朝早くから。スケジュールの都合でどうしようもなくて」

ほたる「申し訳ありません、もう一度宜しいですか?」

P「もちろん、今日の仕事はCM撮影。サンタの格好は初めてかな?」

ほたる「いいんでしょうか、私がサンタなんて……」

P「サンタが自信なさげに立ってたらプレゼントを貰う子供が不安になっちゃうよ」

ほたる「途中で落としそうです」

P「ブリッツェンに拾ってもらえばいいさ」

ほたる「あの……プロデューサー」

471: 2014/01/06(月) 02:27:08 ID:nYGYdFWk
P「まだ聞きたい事ある?」

ほたる「いえ! 頑張ってきます」

P「今日は見れそうだから、頑張って」

ほたる「雪ですか?」

P「そう、いい感じに降ってきたから撮れるなら撮りたいって。さ、これ着て」

ほたる「わざわざ用意してくれたんですか?」

P「本番は衣装だから寒いけど、なるべく中にいるといい」

ほたる「何から何まですみません」

P「俺に対してすみませんは禁止、言う方も言われる方も暗くなっちゃう」

ほたる「では、何と言えば」

P「ありがとう、かな」

ほたる「……ありがとうございます」

472: 2014/01/06(月) 02:27:47 ID:nYGYdFWk
P「どういたしまして、じゃあ待ってて。外を見てくる」

ほたる「暖かい……きっとコートのせいだけじゃない」

スタッフ「白菊さん! 出番です、お願いします!」

ほたる「はい!」

白く清く甘く 

舞い散る粉雪

願いは絶対に叶う 靴下の魔法

ほたる「だからもっと、あなたを好きになる」

監督「はい、OK!」

P「不幸って言うけど、こんな風に雪が降ってくれたんだからラッキーだな」

ほたる「きっとプロデューサーのお蔭です」

P「そんな力は俺にはないって、ちょっと出来を見てくる。先に戻ってて」

473: 2014/01/06(月) 02:28:17 ID:nYGYdFWk
ほたる「ありがとうございました」

P「お、覚えたな。その調子、それじゃまた後で」

ほたる「よかった、上手くいった」

男「おっと」

ほたる「あ、すみませ――」

男「久しぶりだなほたる」

ほたる「あ……えっと……その」

男「何だ? もう忘れたのか? 薄情だな」

ほたる「失礼します!」

男「さあて、本命はどこかな?」

P「えーっと、この次は……白菊さんを送って会議か。寒いからラッキー」

474: 2014/01/06(月) 02:28:48 ID:nYGYdFWk
ほたる「あの……」

P「ああ、着替えた? 送ってくから乗って」

ほたる「プロデューサー!」

P「えっと、どうした? 何かあった?」

ほたる「あの最近、何か変な事とかありませんか?」

P「変な事? 例えば?」

ほたる「……誰かの視線を感じたりとか」

P「それはアイドルの君が気にする事だよ」

ほたる「でも」

P「俺は大丈夫、何を気にしてるのかと思ったら。白菊さんこそ、そういう事には気を付ける様に」

475: 2014/01/06(月) 02:29:37 ID:nYGYdFWk
ほたる「私なんかより」

P「これでもこの世界の事は分かってるつもりだ、ちゃんと対処はできるから。ね?」

ほたる「何かあったら、絶対に教えて下さいね」

P「分かった、約束」

男「ほーう、噂は本当だったか。さて」

記者「もしもし」

男「よう」

記者「何だお前か、昔の担当の様子はどうだ?」

476: 2014/01/06(月) 02:30:13 ID:nYGYdFWk
男「楽しそうにしてるぜ、相手がどんなのかも知らないで」

記者「事務所を潰した者同士、気が合うんじゃないか?」

男「いやいや楽しそうでいいね、若さが羨ましいよ」

記者「嫌だねえ、昔の事はもう忘れたのかな」

男「会っても挨拶もなかったよ、礼儀がなってないな」

記者「また、教えてやったらどうだ?」

男「言われなくても、そうするさ」

477: 2014/01/06(月) 02:30:47 ID:nYGYdFWk
女P「配置はここと、ここ?」

P「他にないですし、ここに時間をかけるよりは」

先P「じゃあ次のイベントは泰葉をメインにほたるって事でいいのか?」

P「それで構いません、統括はどうですか?」

統括「それでいい、当日はお前が指示を出せ」

P「分かりました」

統括「少し席を外す」

女P「相変わらずの忙しさね」

P「まあ、統括ですから」

先P「ああそうだ、P」

P「何です?」

先P「そのイベントについてだが、良からぬ噂がある」

P「もしかして、白菊さん絡みですか?」

478: 2014/01/06(月) 02:31:23 ID:nYGYdFWk
先P「何か言われたか?」

P「少し」

女P「何かって何よ?」

P「最近、変な事はありませんかって」

女P「変な事ってどんな?」

P「視線を感じるかとか」

女P「何? 熱狂的なファンとか?」

P「いえ、恐らく彼女が言いたいのはそうではなく」

先P「何らかの不幸がお前に訪れるんじゃないかって心配してるんだろう」

P「でしょうね、とはいえ俺は別に気にしてないんですけど」

先P「一応、気を付けておけ。何かあれば連絡しろ」

479: 2014/01/06(月) 02:31:58 ID:nYGYdFWk
P「白菊さんといい先輩といい心配性ですね」

女P「何かあれば遠慮なく言いなさい、あんたには少し借り過ぎてるからこの辺りで返しておかないと」

P「無利子ですから大丈夫ですよ」

女P「借りた物はすぐに返す主義なのよ」

P「じゃあこの前、貸したボールペン返して下さいよ」

女P「あ」

先P「先が思いやられるな」

女P「あんただけには言われたくない」

480: 2014/01/06(月) 02:33:03 ID:nYGYdFWk
ほたる「泰葉さん」

泰葉「ほたるちゃん、次のイベント一緒だってね」

ほたる「はい、宜しくお願いします」

泰葉「それで、どう?」

ほたる「あの、その事についてご相談が」

凛「相談?」

まゆ「……渋谷さん? そんな所に立ち止まって」

凛「静かに、何か話してる」

泰葉「前の事務所のプロデューサー?」

ほたる「はい、顔を合わせてしまって」

泰葉「早速、か」

ほたる「どうしましょう? やっぱりプロデューサーに伝えた方が」

泰葉「何かしてくるような人なの?」

481: 2014/01/06(月) 02:34:16 ID:nYGYdFWk
ほたる「分かりません、怒られてばかりでしたから」

泰葉「危害を加えてこないならいいんだけど」

ほたる「プロデューサーのあの記事と関係ないですよね?」

泰葉「答えを出すには早計、仕事中はなるべく一人にならない様に。できる限り私が傍にいるから、いない時はPさんの傍にいる様にして」

ほたる「分かりました」

凛「前の事務所?」

まゆ「白菊さんは他の事務所から移籍してきた人ですから、恐らくその事かと」

凛「話が見えてこないけど、あの記事って?」

まゆ「……憶測ですけど、Pさん絡みの記事だとすると」

凛「聖來さんに渡したって言ってたね」

まゆ「もし見たのだとしたら」

482: 2014/01/06(月) 02:35:11 ID:nYGYdFWk
凛「関連付けてるのかも」

杏「そうじゃない?」

凛「杏!」

杏「大きな声を出すとばれるよ」

凛「何の用?」

杏「まだ後ろ見ながら歩いてるのかと思って」

凛「……関係ない」

杏「行ってみたら? 気になるんでしょ?」

凛「指図される覚えもない、もう行くから」

杏「はあ、お互いに餓鬼だね」

まゆ「どうして気にするんですか?」

杏「そう見える?」

まゆ「私の事も、渋谷さんの事も」

杏「今日、舐めた飴が美味しかったからじゃない?」

483: 2014/01/06(月) 02:36:49 ID:nYGYdFWk
ありす「Pさん」

P「よう、世間はクリスマスまっしぐらだけどありすはどうだ?」

ありす「サンタを信じるような年ではありません」

P「信じてくれないとサンタも報われないだろ、世界を回ろうってのに」

ありす「サンタにお願いしたってプレゼントなんて貰えません」

P「何をお願いしたんだ?」

ありす「今日はお母さんが早く帰ってきますように」

P「……叶わなかったのか」

ありす「枕元にプレゼントはありました、それだけです」

P「そうか、悪かった。サンタも忙しいんだな」

ありす「Pさんは何をお願いしますか?」

484: 2014/01/06(月) 02:38:37 ID:nYGYdFWk
P「俺か? うーん」

ありす「アイドルとしての自分、ですか」

P「ありす、それだけはない。俺は納得してステージから降りた、それは本当だ」

ありす「望まない形だったとしても?」

P「ふさわしい形だったさ、少なくとも俺にとっては。それこそサンタからの贈り物だ」

ありす「人が氏んだのにですか」

P「……言ったろ、俺にとってはだ。あの記事だけで結びつけたか、勘がいいな」

ありす「Pさん、サンタは信じていますか?」

P「もちろん、心の底から信じてる」

ありす「どうしてですか?」

P「一度も俺の所には来なかったから」

ありす「来なかったものを信じるんですか?」

485: 2014/01/06(月) 02:39:20 ID:nYGYdFWk
P「普通の子はサンタが枕元に来て、ああ本当はお父さんなんだなって気付いて、それでも気付かないふりしてお父さんサンタが来たよって喜んで」

ありす「……」

P「俺は眠れなかったよ、怖くて。今年は来るだろうか、ああ来なかった。今年は来るだろうか、ああ来ない。それでも心のどこかで待ってるんだよな、
  諦めたと思ってもクリスマスの夜は眠れない。きっと今年もそうなんだろうな」

ありす「いつか来ますよ、Pさんの所にも」

P「なら、いい子にしておくよ」

どうしてこんな事をしたんだ!?

ああもう駄目だな、あんたのところとは仕事できないよ

お前のせいだ! お前のせいでこの事務所は!

ほたる「ごめんなさい!! ……夢? そっか、夢」

486: 2014/01/06(月) 02:39:53 ID:nYGYdFWk
P「クリスマスライブならサンタクロースに望月さんといるんだが」

泰葉「その二人は大忙しみたいですね」

P「クリスマスと言えばこの二人だからな、本人達も分かってるようできつめのスケジュールでも
  何の文句もなくやってくれてる」

泰葉「お正月は茄子さんですね」

P「前日からスケジュールは埋まってるよ、まあ他のアイドルもあんまり変わらない」

泰葉「でも、いいですね」

P「何がだ?」

泰葉「ツリーがあって、リースがあって、色んな飾り付けを見るとやっぱり心が躍ります」

P「照明とか柱とかもクリスマス仕様だし、気分は盛り上がるな」

ほたる「お、お待たせしました」

泰葉「うん、かわいい」

P「俺の所にもこんなサンタが来ないかなあ」

487: 2014/01/06(月) 02:40:27 ID:nYGYdFWk
泰葉「クリスマスの晩に行きましょうか?」

P「何をくれるんだ?」

泰葉「靴下の中に入ってます」

P「はあ?」

泰葉「いいです! 言った私が馬鹿でした!」

P「白菊さんはもらえるなら何がいい?」

ほたる「もらうなんてとんでもないです!」

P「サンタ相手に恐縮する姿も見てみたいけど、例えばさ」

ほたる「じゃあ……鏡がいいです」

泰葉「鏡?」

ほたる「はい、きちんと笑える様に」

488: 2014/01/06(月) 02:41:25 ID:nYGYdFWk
P「もう既にアイドルの鏡だと思う」

泰葉「別に上手くないですからね」

P「言ってみただけだよ!」

男「いい場所じゃないか」

ほたる「あ……」

泰葉「Pさん」

P「白菊さんを下げて、どなたですか?」

男「私、こういったものです」

P「ああ、取材の方でしたか。失礼、私は」

男「知っていますよ、CGプロ最年少のプロデューサー」

P「取材でしたら後で必ず時間を作りますので、今は宜しいですか?」

489: 2014/01/06(月) 02:43:02 ID:nYGYdFWk
男「構いませんよ、でしたら少しステージの方を見せて頂いても?」

P「どうぞ、私どもは席を外しますが手を触れないようにお願いします。何かありましたらスタッフにお声掛けください」

男「どうも」

P「さて、聞こうかな」

泰葉「ほたるちゃん、知ってるの?」

ほたる「前の事務所の時の、プロデューサーです」

P「プロデューサーから記者にねえ、そういえば怒られてばかりだったとか言ってたっけ」

泰葉「ああいう反応にもなるのも無理はないですね」

P「取材、どうする? 断ってもいいけど、あるいは泰葉だけにするとか」

ほたる「いえ、そんな迷惑は掛けられません」

P「相手もそういう過去があるなら強くは出てこないだろうから」

ほたる「受けます! 受けさせて下さい」

490: 2014/01/06(月) 02:44:45 ID:nYGYdFWk
P「……分かった、取材には俺も立ち会う。泰葉」

泰葉「分かってます、何かあれば打ち切りましょう」

P「取材はライブ後にしよう、そうすれば疲れてるから短時間にできる。事前の打ち合わせもない突然の
  依頼だ、こっちのわがままを聞いてもらうさ。さ、リハーサルだ」

泰葉「この曲の合間のMCがこの話題で――」

ほたる「ここで着替えですね、それでその後に――」

泰葉「最後、ツリーの後ろの台に乗って天井部まで。高いけど大丈夫?」

ほたる「経験はありますから、大丈夫です」

泰葉「無理しないでね、途中でも言ってくれたら変わるから」

ほたる「お気づかいありがとうございます、でも大丈夫です。ここで逃げたら、泰葉さんにも
    プロデューサーさんにも申し訳ないですから」

泰葉「気にしなくていいから、自分のベストを尽くす事だけを考えて」

491: 2014/01/06(月) 02:45:50 ID:nYGYdFWk
凛「ここだよね」

まゆ「結局、来ちゃいましたね」

凛「お互い、クリスマスは似合わないからね」

まゆ「明日は引っ張りだことお聞きしてますけど」

凛「クリスマスとは関係ないよ、年始の番組の収録だから」

まゆ「会いに行きます?」

凛「見て帰る。それだけ、どうせ何もない」

P「……このツリー、本当に高いなあ」

スタッフ「今回のライブの目玉ですから」

P「高さはどれくらいです?」

スタッフ「8メートルです、作るのに苦労しましたよ」

P「そうでしょうね」

スタッフ「実は一つ仕掛けがありましてね」

492: 2014/01/06(月) 02:46:21 ID:nYGYdFWk
P「ああ、両側から引っ張るとってサンタが出てくるっていう」

スタッフ「はい、ちょっとした演出ですけどね。これは子供達に人気なので今年も変えてないんですよ」

P「力とかいります?」

スタッフ「少し、ですけど彼女たちでも問題ありません。タイミングを合わせて両側から引っ張ってもらえれば」

P「分かりました。それともう一つ質問なんですが、取材に来てる記者のリストあります?」

スタッフ「申請を出してる会社のでよろしければ、取ってきましょうか?」

P「場所さえ教えて頂ければ私が取りに行きます、どこでしょう?」

スタッフ「事務所にあります、鍵は開いてます。誰かいるでしょうから声を掛けてください」

P「ありがとうございます」

493: 2014/01/06(月) 02:46:53 ID:nYGYdFWk
泰葉「これを引っ張っればいいんだね」

ほたる「出てこなかったらどうしましょう?」

泰葉「そんな心配しなくても大丈夫」

ほたる「失敗したら何も変わってないって思われて……」

泰葉「見せてあげればいい、どれだけ成長したか。それを記事にしてもらえればきっと、貴方の成長を願ってる誰かに届くから」

ほたる「……はい」

泰葉「頑張ろうね」

P「急がないと開演時間だな、えーっとこれで……ない。無許可? だったら問答無用で断れるか。
  何だ悩む必要なかった、終わったらすぐに帰ろう」

男「それは悲しいなあ」

P「……何か?」

494: 2014/01/06(月) 02:47:39 ID:nYGYdFWk
凛「始まった」

まゆ「普通のファミリー向けですね」

凛「白菊ほたるの関係者が何かしてくると思う?」

まゆ「Pさん絡みでなければ何があろうと知りません」

凛「へえ、そうなんだ」

まゆ「はい、それは変わりません」

男「折角の再会なんです、もう少し友好的にいきましょうよ」

P「残念ながらあまり喜んでいるようには見えませんでしたが」

男「緊張でしょう、仕事ですから多少なりとも厳しく接します」

P「それで、私と話していてもつまらないでしょう? 取材でしたら後日、正式に申し込みをお願い
  します。無碍に断るようなことはしませんのでご心配なく」

男「一つ、交渉したい」

P「もう始まってるんです、後にして頂けますか」

男「プロダクションを新たに設立する予定でしてね」

495: 2014/01/06(月) 02:48:20 ID:nYGYdFWk
P「おめでとうございます、でしたらこれからはライバルですね」

男「白菊ほたるをこちらに返して頂きたい」

P「彼女はシンデレラールズのアイドルです、返すなんて言い方も不愉快だ」

男「これでもあの子とはそれなりに長く仕事をしたのでね、情もある。正直、貴方に預けておくのは
  心配なんですよ」

P「私に何か問題が?」

男「事務所を潰した、とお聞きしていますが。アイドルだった頃に」

P「……よくご存知だ」

男「そんな不運を背負った者が二人もいては事務所としても心配になるのではないかと、あくまで
  私は好意で申し出ているのですよ」

P「ご心配なく、経営は順調ですから」

男「これから何が起こるかも分からないのに」

P「貴方に心配される筋合いはありません」

496: 2014/01/06(月) 02:48:59 ID:nYGYdFWk
男「ほう……では貴方の過去が世に出たとしても構わないと?」

P「構いませんよ、今となってはさして意味もない」

男「ですが妹さんは大層、活躍されているそうじゃないですか」

P「……それが?」

男「まだ強気ですか」

P「それを受けてアイドルを続けるかどうかはあいつが決めること、私にどうこうする権利はない」

男「冷たいですねえ、家族なのに」

P「だからといって白菊ほたるを渡す訳にはいきません、彼女に限らずどのアイドルも宝ですから」

男「おやおや、誤解ですよ。私は白菊ほたる以外のアイドルを要求はしません」

P「ならばお断りだ、記事にしたいならすればいい。私は一向に構いません」

男「鷹富士茄子がその幸運を売りにしてアイドルとして成功したように、白菊ほたるの不幸もまた
  お金になる。違いますか?」

497: 2014/01/06(月) 02:49:35 ID:nYGYdFWk
P「そもそも前提がおかしいですよ、茄子さんは幸運だからこれだけのアイドルになったんじゃない」

男「失礼、では言い方を変えましょう。その境遇は本人が望む望まないに関わらず金になる。
  これは合っていますね?」

P「そういう売り方をしようと言うのなら、本人は絶対に首を縦に振りませんよ」

男「では、本人が首を縦に振れば貴方は構わないと?」

P「もちろん、それが本人の希望であれば」

男「お忘れなきように」

P「一応、報告しておくか。おっと、その前にステージだ」

498: 2014/01/06(月) 02:50:21 ID:nYGYdFWk
凛「もう何も起きないね、無駄な心配だったかな」

まゆ「どうしてそこまで心配するんですか?」

凛「関係ない」

まゆ「関係ないと思うなら私と一緒にいる意味もないと思いますよ」

凛「私が原因で何かあったら目覚めが悪いだけ」

泰葉「それでは、皆にクリスマスプレゼントです」

ほたる「今から――」

P「あーあ、もう下らないこと話してたらここまで進んじゃったか」

スタッフ「調べものは終わりました?」

P「お陰様で、助かりました」

スタッフ「目玉に間に合ってよかったですよ、結構凄いですよ」

499: 2014/01/06(月) 02:50:58 ID:nYGYdFWk
泰葉「用意はいい?」

ほたる「はい!」

泰葉「いくよ!」

スタッフ「ん? あれ? 紐が……」

凛「ちょっとおかしくない?」

まゆ「泰葉さんが戸惑ってますけど」

男「駄目だぞほたる、お前は」

P「泰葉の側が切れてる!? 白菊さん駄目だ引っ張るな!!」

ほたる「え?」

泰葉「ほたるちゃん避けて!!」

P「くそっ!!」

スタッフ「駄目だ今から行っても!!」

男「不幸にならないと意味がないんだよ」

500: 2014/01/06(月) 02:52:25 ID:nYGYdFWk
凛「ツリーが……」

まゆ「倒れる!!」

ほたる「……あ、あ」

泰葉「大丈夫!?」

スタッフ「幕を下ろして! すぐに!」

泰葉「ほたるちゃん! よかった、怪我はなさそうだね」

ほたる「違うんです……早く……早く……」

泰葉「ほたるちゃん?」

ほたる「ツリーが倒れてきて……どうしようもなくて……」

凛「大丈夫!?」

泰葉「渋谷さん?」

501: 2014/01/06(月) 02:53:28 ID:nYGYdFWk
凛「ちょっと気になって、それより誰も怪我はない?」

泰葉「私もほたるちゃんも大丈夫です」

まゆ「……Pさんは?」

泰葉「始まってからは見てませんけど」

まゆ「どこに」

ほたる「プロデューサーさん!!」

泰葉「待って! 今は冷静に」

ほたる「いるんです!!」

凛「いる?」

まゆ「まさか」

泰葉「……いるって」

ほたる「この下にプロデューサーさんが!!」

502: 2014/01/06(月) 02:54:38 ID:nYGYdFWk
千枝「ケーキ作り?」

ありす「どこかの誰かさんがプレゼントを貰ったことがないと言うので」

千枝「手作りなんだあ、Pさん喜ぶだろうなあ」

ありす「誰もあの人だなんて言ってないけど……」

千枝「けど?」

ありす「想像に任せます」

千枝「千枝もあげるんだ、まだ途中なんだけど」

ありす「マフラー?」

千枝「可愛いでしょ? 千枝のとお揃いにするんだ」

ありす「いいんです、形に残らなくても心には残りますから」

千枝「早く帰ってくるといいね」

ありす「……うん」

503: 2014/01/06(月) 02:55:14 ID:nYGYdFWk
「え!?」

「怪我!?」

「それで病院は?」

千枝「何だろう、騒がしいね」

ありす「何かあったのかも」

春菜「いた!」

千枝「どうかしたんですか?」

春菜「落ち着いて聞いて」

ありす「そういう春菜さんが焦ってますが」

春菜「ステージ上でツリーが倒れる事故があったみたいで」

504: 2014/01/06(月) 02:55:55 ID:nYGYdFWk
千枝「誰がいたんですか?」

春菜「泰葉ちゃんとほたるちゃん」

ありす「無事なんですか?」

春菜「その二人に怪我はないんだけど、その二人のどっちを庇ったかまでは聞いてないんだけど」

千枝「……その時、一緒に誰かいたんですか?」

春菜「Pさんが、いてね」

ありす「いて、どうしたんですか?」

春菜「ツリーの下敷きになったって電話が」

505: 2014/01/06(月) 02:56:34 ID:nYGYdFWk
医者「目立った外傷はありませんが、今日は念のため入院した方がよろしいかと」

先P「分かりました、よろしくお願いします」

女P「何だって?」

先P「とりあえず問題はなし、軽度の脳震盪だろうということだ。意識も助けられた時点ではあったし今も会話は可能だ。とはいえ、仕事は無理だ」

女P「借りを返すいい機会よ」

先P「ちょっと様子を見てくる、報告は任せていいか?」

女P「やっとく、あんたも無理しないように」

先P「あいつみたいに体は張れないさ」

P「先輩!?」

先P「寝てろ、英雄になった気分はどうだ?」

P「そんなんじゃありませんよ」

先P「警察に捜査を依頼した、人為的な何かがあるかもしれん」

506: 2014/01/06(月) 02:57:36 ID:nYGYdFWk
P「白菊さんは?」

先P「寮に帰した、ショックが大きくてな」

P「白菊さんのプロデューサーだったって名乗る男の話は?」

先P「岡崎から聞いた、そっちの方も調べてる。厄介な話になるかもしれん」

P「その人、俺の事も知ってたんですよ」

先P「お前の?」

P「はい、俺の過去です」

先P「お前の過去と白菊の過去は関係あるのか?」

P「事務所を潰してる、という点は一致します」

先P「……少なくともだからといって今回の件が許される訳でもない」

P「白菊さんに何かしてくる可能性があります」

先P「見ておく、お前は今は休め」

P「お願いしますね、こんなの頼めるの先輩くらいしかいませんから」

507: 2014/01/06(月) 02:58:21 ID:nYGYdFWk
先P「何を言ってんだ、馬鹿」

杏「病室、そこ?」

先P「そんな顔をするな、生きてるぞ」

杏「あのさ」

先P「何だ? 行かなくていいのか?」

杏「必要なら私は全て差し出すから、遠慮しないでいい」

先P「最初からする気もない」

杏「ん、任せる」

先P「さあて、やり過ぎたな……小僧」

508: 2014/01/06(月) 02:58:52 ID:nYGYdFWk
聖來「そっか、行ってたんだね」

凛「ちょっと、気になる話を聞いたから」

聖來「ごめん……色々と振り回してるね」

凛「何でだろう」

聖來「Pくんのこと?」

凛「あんな庇い方しなくたって、いくらでもやり方はあったはず。なのに」

聖來「うん、そういう子なんだよね」

凛「自分を傷つけてそれで……こんなの」

聖來「私さ、自分のやった事から逃げようとしてたんだ」

凛「聖來さんは悪くないよ」

聖來「自分からプロデュースさせてあげるなんて言っといて、何も知らなかったんだから。そんな罪悪感から逃げたいが為に振り回した。それがこんな結果」

凛「知ってても同じだったよ、少なくとも私は」

509: 2014/01/06(月) 02:59:33 ID:nYGYdFWk
聖來「Pくん体も思うようには動かないって、知ってた?」

凛「……」

聖來「アタシは凄く怖い、もし自分がそうなったらなんて思ったら震える。彼は一人で耐えたんだよね、どんなに怖くても笑ってて」

凛「分からない、何も」

あい「一応、話を総合すればこういう事らしい」

楓「そうですか」

あい「単純な事故ではない可能性があるようで、警察が動くそうだ」

楓「行っても、迷惑でしょうね」

あい「無理をするのが目に見える。そういう男だ、彼は」

510: 2014/01/06(月) 03:00:07 ID:nYGYdFWk
楓「待つのは慣れてますけど、痛いです」

あい「プロデューサーとしては美談だが、彼個人の立場を考えると私も誉められないよ。どれだけの人間が肝を冷やしたか」

楓「他の子達は?」

あい「ショックの大きい子達は寮で待機、誰とは言わないが体調を崩した子もいる。特に張本人はね」

楓「そうですね」

あい「周りに責めるような子はいないだろうが、それでも相応の感情が生まれても仕方がない。
子供にそんな整理が簡単につくはずがないんだ」

楓「早く帰ってくるといいんですけど」

あい「こればっかりは、誰にも分からないさ」

511: 2014/01/06(月) 03:00:45 ID:nYGYdFWk
春菜「一応、落ち着いてはいるみたい」

亜子「とんでもない事になってたんだね」

泉「事務所が騒然としたから何かあったんだとは思いましたけど」

さくら「怪我しちゃったの?」

春菜「外傷はないみたいだけど、念の為に」

沙紀「Pさんが怪我したってのは本当っすか!?」

春菜「まだまだ説明係は終わりそうにないかな」

512: 2014/01/06(月) 03:01:16 ID:nYGYdFWk
千枝「そ、その良かったですね! 怪我もなくて」

泰葉「いいよ、無理しなくて。何で止めなかったのって責めてくれたって構わない」

千枝「そんなこと言ったって、Pさん喜びませんから」

泰葉「何も考えずに引っ張った、警戒して当然の場面だったのに」

千枝「生きてますから、大丈夫です。誰も悪くありません、たまたまそうなっちゃっただけです」

泰葉「そうかもしれない、けど」

千枝「ほたるさんは?」

泰葉「部屋に入ったきり出てこない、今はまだそっとしておいて欲しい」

千枝「ショックですよね、千枝もそうなったら」

泰葉「問題は、明日も仕事だということ」

千枝「ほたるさんですか?」

泰葉「本来なら休ませるべきなんだけど、仕事の規模が大きくて」

513: 2014/01/06(月) 03:03:08 ID:nYGYdFWk
千枝「代役は?」

泰葉「いない、いないならいないで誰かを回せばいいんだけど……ほたるちゃんがどうするか」

千枝「出ようとするんでしょうか?」

泰葉「かもしれないし、こればっかりは話してみないと」

千枝「まだ、出てこないんですよね」

泰葉「これから事務所に行って相談してみる」

千枝「プロデューサーさんにですか?」

泰葉「何とかしないと」

女P「聞いてる、そっちの対応が後手になってたか」

泰葉「ほたるちゃんはどうします?」

女P「彼女単独のクリスマスライブとはいえ、今やれば相手にどうぞ狙って下さいというようなもの」

泰葉「では、中止ですか?」

514: 2014/01/06(月) 03:04:13 ID:nYGYdFWk
女P「ネットではファンも諦めムード、こちらも安全を考慮してって説明もしやすい。改めて時期を設定して
   それまでに問題を片づけられたらってところね」

泰葉「犯人の検討はついてるんですか?」

女P「その言葉は控えなさい、まだそうだと決定した訳じゃない。事故かもしれないんだから」

泰葉「ですが」

女P「分かってる、前の事務所の代表だった人間と連絡は取った。確かにそういう名前の社員がいたみたいだけど
   あちらもそれ以降の事は知らないみたいだった」

泰葉「名刺は本物ですか?」

女P「そういう会社もある、けど私は知らないのよ。この業界に入ってそれなりに経つけど、無名か……あるいは新しく作ったか」

泰葉「そちらに連絡は?」

女P「先Pが行った」

泰葉「あの人が?」

女P「何故かやる気なのよ、まあ可愛い後輩が怪我したんだもの。気持ちは分かるけど」

515: 2014/01/06(月) 03:05:35 ID:nYGYdFWk
泰葉「一人で行くなんて」

女P「不味いならそれはそれで何とかするでしょ、私達は私達にできることをするしかない。とりあえず、泰葉はほたるについてあげなさい。
   参ってるでしょうから、心のケアは必要よ」

先P「俺の車の傍で女の子が待ってる、プライベートなら嬉しいシチュエーションなんだが」

凛「悪かったね、私で」

先P「いーや、別に。現地にいたそうだな」

凛「少し、気になって」

先P「乗れ、どうせ帰る気も無いんだろう?」

凛「話が早くて助かるよ」

先P「さて、何の用かなお嬢さん。しかしツアーが終わって番組収録の貴重な合間だろうに、何でついてこようと思った?」

凛「どこに行くの?」

先P「質問に質問で返すか」

516: 2014/01/06(月) 03:06:06 ID:nYGYdFWk
凛「礼儀がなってないからね」

先P「白菊に接触してきた男がいる会社」

凛「警察とか興信所を使えばいいのに」

先P「下手に使うとそこから情報が漏れかねないんでね、念には念を入れとくまで」

凛「ふうん」

先P「そんなにPが気になるか?」

凛「別に」

先P「嘘を付くときは多少なりとも感情を入れた方がいい、ぶっきらぼうにすると逆効果だ」

凛「……参考にしとく」

先P「一つ、矛盾点があってな。そこが気になってる」

凛「矛盾?」

517: 2014/01/06(月) 03:08:02 ID:nYGYdFWk
先P「その男は白菊を自分の立ち上げる会社に入れたがってる、おかしいだろ?」

凛「何で? あれだけ人気がある子なら入れようとしてもおかしくない」

先P「だがその子は前の事務所もその前の事務所も倒産してる曰くつきの物件だ、縁起が悪い事は確かだろう?」

凛「偶然でしょ?」

先P「確かにプロダクションの倒産は珍しい事じゃない、大手だって経営には頭を悩ませてる状況だ。ただあの子の場合、期間が短すぎてな」

凛「何を疑ってるの?」

先P「あの子は何かのスケープゴートにされてるんじゃないかと疑ってる」

凛「生贄?」

先P「そう、俺は人の不幸も幸運も信じちゃいないんでね。そういった要素を排除して考えれば、一つ見えてくるものがある」

凛「白菊ほたるが入った事務所が潰れたのは他に何か理由があったってこと?」

先P「今はそこまでしか言えん、それから先は話を聞いてからだ」

518: 2014/01/06(月) 03:09:16 ID:nYGYdFWk
凛「ここ?」

先P「名刺に記載されてる住所はここだな、まあいきなり命を狙われることも無いだろう」

凛「いきなり行って話してくれるの?」

先P「相応の報酬は払う、で」

凛「行くから」

先P「仰せの通りに、だが口は挟むなよ」

社長「どうも、シンデレラガールズのプロデューサー直々とは」

先P「互いに社交辞令は省きましょう、要件はお分かりですね?」

社長「ええ、一応は」

先P「単刀直入に、あれを庇う意思はありますでしょうか?」

社長「あれ呼ばわりは心外ですが、もし彼がやったという証拠が出ればどうこうする気はありません」

先P「つまり証拠が出なければ?」

519: 2014/01/06(月) 03:10:20 ID:nYGYdFWk
社長「処分する理由がない、そんな事をすれば私が訴えられてしまう」

先P「お言葉ごもっとも、ですがこちらもはいそうですかとは引き下がれない。大切な社員が怪我をしているもので」

社長「もちろん、正式に依頼があれば協力は惜しみません。ですが、色々と知られたくない情報もあります。
   こう言っては何ですが我々はアイドルの情報を売って生計を立てている身」

先P「それはこちらも理解しています、ですから一つお話を」

社長「何でしょう?」

先P「白菊ほたるのライブが明日、中止になります」

凛「……」

社長「それは……ショックが大きかったのでしょう。残念です」

先P「ですが、だからといってイベントを中止にしてしまうのは我々としても得策ではない」

社長「何か代わりのイベントでも?」

先P「元々は白菊ほたるのライブ、誰が行っても代わりにはなりません。ですが、それ相応のアイドルは用意します」

社長「例えば?」

520: 2014/01/06(月) 03:11:34 ID:nYGYdFWk
先P「さあ? もしかしたら案外、近くにいるかもしれませんが」

社長「ふむ、それが事実なら確かに美味しい情報ではありますが。おいそれと動かせますか?」

先P「ニューウェーブのライブの件、ご存知ではありませんか?」

社長「ああ、なるほど。確かに信用性は高そうですね」

先P「それにしても誰もいませんね、社員は彼だけですか?」

社長「まさか、もう少しおりますが……そうですね今日はそうかもしれません」

先P「では、業務の邪魔でしょうから私どもはこれで」

社長「折角いらしたのに、まだいて下さっても構いませんよ?」

先P「いえ、仕事もありますので」

社長「それは残念、またお時間のある時にゆっくりとお話ししましょう」

先P「ええ、ぜひ。ああ、もし何か忘れ物をするかもしれませんがその時は――」

社長「お預かりしておきますよ、必要な時に取りに来てください」

521: 2014/01/06(月) 03:12:26 ID:nYGYdFWk
凛「あの白々しい会話は何?」

先P「いくつか情報は貰えただろう?」

凛「あんまりアイドルに詳しくないのかな?」

先P「いや逆だ」

凛「そんな風には見えなかったけど?」

先P「ニューウェーブのライブにニュージェネレーションが出たって話を知ってただろう?」

凛「私も知ってるし、噂は広まってると思うけど」

先P「噂は広まってるが見た人間は少ない、そんな情報を耳にしたからと言って信じるならそれは三流だ」

凛「適当に話を合わせたって事?」

先P「違う、あれはそれが事実だときちんと確証を得ているからこその反応だ。それなりには働いてるんだろう」

凛「あの人も何かしてると思う?」

先P「どちらでもいい、今回のターゲットは彼じゃない」

522: 2014/01/06(月) 03:13:19 ID:nYGYdFWk
凛「どうするの? 戻ってくるまでここで待つ?」

先P「そんな無駄な事はしない、後で忘れ物は取りに来るが」

凛「忘れ物って、何を置いてきたの?」

先P「とっておきのクリスマスプレゼントだ」

泰葉「ほたるちゃん、あの……泰葉です。いる?」

千枝「ほたるさん!」

泰葉「いないのかな?」

千枝「でも、行く所なんて」

泰葉「……まさか」

523: 2014/01/06(月) 03:14:57 ID:nYGYdFWk
男「やっと来たか、そんな暗い顔されるとショックだな」

ほたる「早く行きましょう」

男「素っ気ないねえ、まあいい」

ほたる「私をどうしたいんですか?」

男「どうしたいも何も、君の望むとおりにしよう。あそこにはいられないだろう?」

ほたる「……また同じような事が起こるんですか?」

男「ほたるがいたら、そうかもしれません」

ほたる「もしそうなら、もう離れます。これ以上、迷惑は掛けられませんから」

男「いい子だ、大丈夫。君の居場所は俺が用意しよう」

ほたる「いえ、もう辞めますから」

男「……何だって?」

ほたる「アイドルを……辞めます」

524: 2014/01/06(月) 03:15:43 ID:nYGYdFWk
男「何を言ってる?」

ほたる「だって、また移籍してもこんな事が起こるんですよね?」

男「次もそうだとは限らない」

ほたる「嫌です、もう私以外の誰かが不孝になるのは見たくありません」

男「アイドルを辞めたら、誰も不幸にはならないのか?」

ほたる「分かりません、けどこのまま続けるよりは」

男「ならそれを報告してくるといい、あのプロデューサーに」

ほたる「もう関係ありません」

男「関係ないんだな?」

ほたる「……はい、関係ありません」

男「そうか、残念だ。なかなか未来ある若者だったが」

ほたる「私さえいなければ何も起きません」

男「本当にそうかな?」

525: 2014/01/06(月) 03:16:29 ID:nYGYdFWk
ほたる「……え?」

男「ここで終わらせてしまうのはもったいない。それに不運には立ち向かわねば、これからも起きてしまうかもしれないよ……不運が」

ほたる「貴方は……もしかして……」

男「続けてくれるかな? 君はアイドルなんだから」

社長「ああ、戻ったのかい?」

男「ええ、僅かな時間でしたがありがとうございました」

社長「その口ぶりからして目途が……ああ、その子が君が言っていた」

男「ええ、どうです? いい子でしょう?」

社長「確かシンデレラガールズの子だろう? いいのかい?」

男「ええ、正式な移籍はまだですが」

社長「君が独立したら真っ先に記事にさせてもらうよ」

男「ぜひ」

社長「そうか、それはおめでたい話だ。ああ、少し留守番を頼んでもいいかな?」

526: 2014/01/06(月) 03:18:10 ID:nYGYdFWk
男「お出かけですか?」

社長「少し仕事だ、30分ほどで戻る」

男「どうぞ、最後くらいお役に立ちますよ」

社長「ありがとう、君がほたるさんかな?」

ほたる「……」

社長「移籍するのであれば、しっかりとこれからの話を彼とする事だ。私は席を外す、だからしっかりと話すんだ」

ほたる「しっかりと……」

社長「自棄にならない様に、道を誤らなければ未来はきっと明るいはずだ」

男「その通り、さすが社長。いい事を仰る」

社長「では、失礼するよ」

男「社長の言う通り、未来の話だ」

527: 2014/01/06(月) 03:19:37 ID:nYGYdFWk
ほたる「移籍って、会社を作るんですか?」

男「いや、独立とは言ったが実際はある会社に入る」

ほたる「どういう事ですか?」

男「君の不運は金になる、所属した事務所が潰れる噂はとうに広まってる」

ほたる「……それが、どうしたんですか」

男「つまり、移籍した先で何が起きてもおかしくないって事さ」

ほたる「何が起きてもって」

男「例えばツリーに少し細工をしたりしても、ね」

ほたる「は、犯罪です」

男「震えた声で言われても怖くないな、それに証拠はもうない。ツリーは撤去されたし、実行したのは俺じゃない」

ほたる「そんな事をしてもシンデレラガールズは潰れません」

男「潰すつもりなんてないさ、君を一時的にでも拾ってもらった事は感謝しているが」

528: 2014/01/06(月) 03:23:50 ID:nYGYdFWk
ほたる「前の事務所も……」

男「もしかして本当にトップアイドルになれるとまだ思ってるのか? 鏡を見てみろ、誰がそんな不器用な笑顔に魅力を感じるんだ?」

ほたる「あの人達は――」

男「お前に期待なんかしてない、物珍しさで入れただけだ。今までだってそうだったろう?」

ほたる「私は……」

凛「……盗聴だなんていい趣味してるね」

先P「録音機能付きの優れもんだ、意外と早く帰ってきてくれたな」

凛「でもこれだけで証拠になる?」

先P「昨日の舞台の監視カメラと、スタッフへの聞き込み。金銭の流れでもあれば完璧なんだが」

凛「警察にこれそのまま教えたらいいのに」

先P「盗聴で捕まるぞ」

凛「そこはほら、ここの社長が勝手にやったってことにして」

529: 2014/01/06(月) 03:24:49 ID:nYGYdFWk
先P「……知恵が回るのはいい事だが」

凛「駄目かな?」

先P「それは最終手段だ、そんな事に使われてましたなんて広まったら白菊もやりにくくなる」

凛「そっか……どうする? 本当にライブやろうか?」

先P「使えるセットは白菊用だ、望ましいのは本人に出てもらうことなんだが」

凛「でもそうするとあの社長さんに嘘ついたってことになる」

先P「相手も分かっての反応だ、気にするな」

凛「別にいいよ、一人でもやれる」

先P「元々は無関係の問題だ、あいつも関係ないってことがこれではっきりした。
   必要以上に首を突っ込む必要はない」

凛「やりたいようにやるって言った」

先P「最終手段だと思っておけ、統括の許可がない限りはやらせん」

凛「許可さえあればいいんだね」

先P「それまでは大人しくしておけ、明日までに片を付ける必要もない」

530: 2014/01/06(月) 03:25:22 ID:nYGYdFWk
女P「分かった、報告が早くて助かるわ」

先P「とりあえず目処はついた、後は追い詰め方だが」

女P「何か当てでもあるの?」

先P「使い道をなくすのが手っ取り早い」

女P「そんなの一朝一夕にできることじゃないでしょ」

先P「白菊の価値を落とすようなことはしないさ、やるならあの男の方だ」

女P「事務所が潰れても生き残ってるんでしょ? しぶといと思うけど」

ちひろ「そうでしょうか?」

女P「……社長、いきなり出てくるのは辞めてください」

先P「これはこれは、おはようございます」

ちひろ「おはようございます、楽しそうなお話ですね」

531: 2014/01/06(月) 03:26:08 ID:nYGYdFWk
先P「楽しいですよ、お仕事ですから」

ちひろ「あんまりやりすぎたらいけませんよ」

先P「胸に留めておきます」

女P「あんたの場合、留めるだけでしょうけど」

ちひろ「代替ライブの件、了解しました。準備だけは進めましょう」

女P「凛にやらせるんですか?」

ちひろ「凛ちゃんだけではありませんから、大丈夫ですよ」

女P「まだ私に何か隠してます?」

先P「今から言うから怒るな、作戦会議といこうか」

ちひろ「はい!」

先P「いや、社長はする事ありませんからね」

ちひろ「はい!」

先P「お願いですから何もしない様に!」

532: 2014/01/06(月) 03:27:16 ID:nYGYdFWk
まゆ「……」

統括「心配なら止めはしない」

まゆ「行く資格なんて、ありませんから」

統括「佐久間、一つ聞こう。どうして俺に好意がある演技など続ける?」

まゆ「……」

統括「これまで否定も肯定もしないままいたが、そこだけは不可解だ」

まゆ「不可解だなんて、統括に言われたくありません」

統括「確かにそうだが、別問題だ」

まゆ「いいじゃないですか、それで」

トレ「失礼します。あ、お話し中でした?」

まゆ「いえ、もう行きますから」

トレ「何かあったの?」

統括「行ってやれ」

533: 2014/01/06(月) 03:28:14 ID:nYGYdFWk
トレ「だからいつも言葉が足りないんですよ」

統括「分かるだろう?」

トレ「これとそれとは話が別」

統括「誰もかれも」

トレ「頑固なのは皆、同じですよ」

統括「そういえば、妹は大人しくしているのか?」

トレ「今はね、騒いでもどうにもならないって分かってるみたい」

統括「物わかりがよくていいことだ」

トレ「私は分かりますよ、まゆちゃんの気持ち」

統括「さっぱりだ」

トレ「でも、そう言いながら付き合ってあげたんですよね?」

統括「流していただけだ」

トレ「そうやって中途半端に構うから、愛梨ちゃんも戸惑っちゃうんですよ」

534: 2014/01/06(月) 03:28:45 ID:nYGYdFWk
統括「あいつはおかしいだけだ」

トレ「そうなると、私もおかしいって事ですか?」

統括「……放っておいていいのか?」

トレ「まゆちゃんなら大丈夫ですよ、貴方が頑張ることはないんです」

統括「統括とは名ばかりだな」

トレ「気を使われているのよ、先Pさんからは特に」

統括「食えない男だ」

トレ「似た者同士ってことです」

凛「全くだね」

トレ「お帰りなさい」

統括「報告は受けた、随分と大冒険だな」

凛「いい経験させてもらってる」

535: 2014/01/06(月) 03:30:02 ID:nYGYdFWk
トレ「ほたるちゃんの?」

凛「そう、実際に入ってから何かあったの?」

統括「いくつか、とだけは答えておく。いい目印ではあるらしい、ここが潰れると得をする
   事務所もいくつかある」

凛「それでも潰れないんだ?」

統括「当たり前だ、今までの事務所とここを同じにするな」

凛「じゃあ、白菊ほたるは?」

統括「辞めさせたいのか?」

凛「なら私が関わっても問題ないよね?」

統括「好きにしろ、どうせ凛の思う通りにはならん」

凛「言ってくれるね。今の言葉、忘れないから」

統括「好きにしろ」

トレ「いいの? 行かせてしまって」

統括「佐久間と違ってあれは読みやすい」

トレ「単純?」

統括「あいつに似てるからな」

536: 2014/01/06(月) 03:31:29 ID:nYGYdFWk
泰葉「はあっ……はあっ、早く探さないと」

「きゃっ!」

泰葉「すみません!」

「泰葉ちゃん?」

泰葉「美優さん!?」

美優「また、だね」

泰葉「はい?」

美優「辛そうな顔」

泰葉「あ……」

美優「事故、大丈夫だったって聞いたけど。そうよね、プロデューサーさんがあんな事になったら」

泰葉「違うんです」

537: 2014/01/06(月) 03:32:11 ID:nYGYdFWk
美優「そんな風には見えないけど」

泰葉「違う訳じゃないんですけど、でも何ていうかその」

美優「落ち着いて、深呼吸できる?」

泰葉「すみません、いつもこんな情けない姿ばかり」

美優「しっかりしすぎてる位だから、たまにはいいんじゃない?」

泰葉「いつも、こうして慌ててばかりです」

美優「ほたるちゃん?」

泰葉「分かっちゃいますか」

美優「そう……」

泰葉「私が引いたんです、ツリーの紐」

美優「知ってる、だから必氏なの?」

泰葉「そうなんでしょうね。Pさんに対しても、ほたるちゃんに対してもこのままだと」

538: 2014/01/06(月) 03:32:45 ID:nYGYdFWk
美優「私はここしか知らないけれど、泰葉ちゃんにとってここはどう?」

泰葉「凄く暖かい所です、色々な意味で。こうして他のアイドルに相談する事もありませんでしたから」

美優「ほたるちゃんにとってもそうだったのかな」

泰葉「きっと、あんまりいい思い出がある様には見えなくて。だから私は……」

美優「大丈夫、泰葉ちゃんがいるんだから」

泰葉「私は何も」

美優「今、どこにいるか分かる?」

泰葉「いえ」

美優「絶対に大丈夫。まずは泰葉ちゃんがそう信じないと、ね?」

泰葉「……はい」

539: 2014/01/06(月) 03:33:22 ID:nYGYdFWk
まゆ「どうして、か」

肇「はい?」

まゆ「あ……」

肇「えっと、すみません。つい反応してしまいまして」

まゆ「誰か待っているんですか?」

肇「待っていれば、帰ってくる気がして」

まゆ「……どんなに待っても帰ってきませんよ」

肇「でも待ちたくなっちゃったんです。星があんなにあったのに、この願いだけは叶えてくれそうにありませんね」

まゆ「意味のない事です」

肇「待っている間って、色々な事を考えますよね?」

まゆ「そうでしょうか?」

肇「私は待つことが多いんです、土を寝かしている時も釣竿を持っている時も。だから待つ間、いつも考え事ばかりしてます」

まゆ「堂々巡りするだけです」

540: 2014/01/06(月) 03:36:08 ID:nYGYdFWk
肇「そうかもしれません、でも私はまゆちゃんは凄いと思います」

まゆ「私が?」

肇「はい、だって私は好きだと思ったら自分から行ってしまいますから」

まゆ「何の事ですか?」

肇「Pさんの事ですよ?」

まゆ「それこそ、何の事でしょうか?」

肇「きっと、この事務所で気付いてるのは私だけでしょうけど」

まゆ「戯言です」

肇「私が誰より見てきたあの人ですから、視線が重なれば嫌でも気付きます。まゆちゃんは可愛いですから、本当は言わないつもりでした。
  けれど、やっぱりそれは違いますから」

まゆ「私はそんな――」

肇「陶器の出来の良し悪しも、今日は釣れるかなとか考える事はたくさんあります。それは全て自分次第、ですがこればっかりは
  私だけの力ではどうにもなりません」

まゆ「何のお話でしょうか」

肇「まゆちゃんにとって、統括さんは壁に見えます」

541: 2014/01/06(月) 03:36:38 ID:nYGYdFWk
「だから何度も言っているだろう!? どうして分からない!!」

「あーあこう壊れちゃったよ、誰かさんがいるせいかな」

「あの、貴方と一緒に仕事したくないの。分かって?」

「向いてないよ、アイドル」

ほたる「違う!!」

社長「うなされていたが、大丈夫かい?」

ほたる「あ、す、すみません」

社長「落ち着いて、彼ならいない。夜まで戻らないだろう」

ほたる「夜まで、じゃあそれまでは」

社長「ここにいてくれて構わない、帰りたいなら助けもしよう。望んできた訳ではないんだろう?」

ほたる「帰る場所なんて、私には」

社長「先ほど、君の事務所のプロデューサーとアイドルが来たよ」

ほたる「プロデューサー!?」

542: 2014/01/06(月) 03:38:30 ID:nYGYdFWk
社長「アイドルの方は渋谷凛だったね、あんな大物が会いに来てくれるとは驚いたよ」

ほたる「それで、その」

社長「どうやらもう一人の方が気になるみたいだね、名刺をくれたよ。この人だ」

ほたる「……二人、ですか?」

社長「そう、どうやらお望みの人物とは違ったみたいだね」

ほたる「酷いことをしてしまったんです」

社長「酷いこと?」

ほたる「だから、もう」

社長「迷惑は掛けられない?」

ほたる「……はい」

社長「それは、その人から酷いことをされたって言われたのかな?」

ほたる「違います! そんな事を言う人じゃありません!」

社長「そんな事を言う人ではないのに、君は行ってしまうのかい?」

543: 2014/01/06(月) 03:39:36 ID:nYGYdFWk
ほたる「だって、でも」

社長「会ってみようとは思わないのかな?」

ほたる「会って、きっとまた私は……いらないって……」

社長「君の人生は君だけのものだ、何も全てに答えを出さなくてもいい。今、君がすべき事だけを
   すればいい」

ほたる「すべきこと……」

社長「実は先ほど来た彼らなんだが、どうやら慌てていたようで忘れ物をしてしまったようなんだ。
   しかし私はここを離れる訳にはいかなくてね、ああ困った困った。誰かこの事務所に詳しい人が
   どこかにいればいいんだが」

ほたる「忘れ物ですか?」

社長「ああ、ここに置いておいたら彼が困るかもしれない。君も最後まで迷惑は掛けたくないだろう?」

ほたる「私の為に来たんですか?」

544: 2014/01/06(月) 03:40:25 ID:nYGYdFWk
社長「それは彼に聞くといい、聞かなければ分からないだろう?」

ほたる「これは、プロデューサーさんの為」

社長「そう、それでいい。ちゃんと届けるんだよ」

ほたる「あの、渡したら」

社長「ここに戻ってきてもいいし、どこへ行ってもいい。それは君次第だ」

ほたる「ちゃんと、戻ってきます」

社長「ほら、今の内に」

ほたる「行ってきます」

社長「全く、いい事務所を作ったじゃないか。ちひろ」

545: 2014/01/06(月) 03:42:09 ID:nYGYdFWk
ほたる「プロデューサーさんの為、忘れ物を届けに来ただけだから。それだけ、それだけ」

肇「思わぬ来客、でしょうか」

まゆ「待ち人ではありませんでしたね」

肇「これもまた一興です」

ほたる「忘れ物を届けに来たんです」

肇「忘れ物?」

まゆ「どなたのですか?」

ほたる「プロデューサーさんのです」

肇「クイズですね」

まゆ「先Pさんですか?」

ほたる「はい、今はどこにいるか知ってますか?」

肇「戻ってくるまで一緒に待ちましょうか」

546: 2014/01/06(月) 03:43:39 ID:nYGYdFWk
ほたる「いえ、もう私は」

凛「いた!」

ほたる「凛さん!」

まゆ「いきなり近くで大声……」

凛「ごめん、ちょっと意外だったから」

肇「そんなに意外なんですか?」

凛「まあ、ちょっとね。よかった、ちょっといい?」

ほたる「置いていきますから!」

凛「あ……」

まゆ「早急過ぎます」

凛「言わないで、確かに焦ったけど」

肇「何か用事でも?」

泰葉「ほたるちゃんが来たんですか!?」

547: 2014/01/06(月) 03:45:01 ID:nYGYdFWk
凛「来たけど、走って――」

泰葉「追いかけます!」

肇「あの、一体」

まゆ「もしかして、知らないんでしょうか?」

凛「肇、昨日と今日のスケジュールは?」

肇「昨日からライブでしたから、今日はそれが終って午後からレッスンだけです」

まゆ「その状態でPさんを待ってたんですか?」

肇「はい、きっと今も外回り中なんでしょうね」

凛「まゆ、話題を向けた責任とってね」

まゆ「……元はと言えば凛さんが見に行こうなんて言い出したから」

凛「ついてきたのはまゆでしょ!?」

まゆ「その前にあんな騙し討ちみたいなお迎えする人が何を言ってるんですか!」

548: 2014/01/06(月) 03:46:14 ID:nYGYdFWk
凛「私がしなかったら自分から会いに行く勇気もなかったくせに!」

まゆ「そんなの凛さんには関係ありません!」

凛「そもそも統括に対してあんな態度とって今さらPさんPさんって!」

肇「あの」

まゆ「今さらじゃありませんし統括に対しては完全に凛さんの想像です!」

凛「誰が見てもそうだって思うから噂が流れるんでしょ!」

まゆ「私はただ――」

肇「あんだーごらぁ!!」

凛「」

まゆ「」

肇「やっと静かになってくれました」

549: 2014/01/06(月) 03:46:44 ID:nYGYdFWk
まゆ「あんだーごらあ?」

肇「大丈夫です、皆さん静かにしてくれないと困ってしまいますって岡山弁で言っただけですから」

凛「そうなんだ、勉強になったよ。迫力あったから驚いちゃった」

肇「あ、でもその事についてもお話していたんですよ」

凛「その事?」

肇「統括さんについてです」

凛「ああ……」

肇「でも、今は優先して聞かないといけないお話があるみたいですね」

凛「実は、さ」
――

肇「そうですか、入院ですか」

まゆ「恐らく、今日中には出てくると思いますけど」

肇「いない時に起こらなくてもいいのに」

550: 2014/01/06(月) 03:47:30 ID:nYGYdFWk
凛「いたらいたでパニックだったけどね」

肇「それでほたるちゃんも泰葉ちゃんも」

凛「多分、あのプロデューサーが責めるようなことを言うとは思えないけど」

肇「言いません」

まゆ「分かるんですか?」

肇「いえ、そう信じてるだけです」

凛「明日のライブ、私が代わりにするから」

まゆ「本気ですか?」

凛「彼女が戻ってこなければね」

肇「必要ないと思いますよ」

凛「まあ、こればっかりは肇と同じかな。いいチャンスだと思ったんだけど」

まゆ「戻ってくると思いますか?」

551: 2014/01/06(月) 03:48:25 ID:nYGYdFWk
肇「あんな顔した泰葉ちゃんが追いかけていったんですから、私は逃げ切れる自信がありません」

凛「準備だけはしとく、まあ大人しく引き下がるつもりもないけど」

まゆ「そこは引き下がりましょう」

凛「じゃあ続きといこうよ」

まゆ「何のです?」

肇「統括さんのお話ですか?」

まゆ「……少し用事が」

凛「一緒に行ってあげる、ね?」

まゆ「……一度しか、言いませんから」

552: 2014/01/06(月) 03:50:17 ID:nYGYdFWk
泰葉「ほたるちゃん!!」

ほたる「来ないで下さい!」

泰葉「駄目! このままじゃ絶対に――」

ほたる「また、傷つけてしまいますから。こんなの嫌なのに、でもどうしようもなくて!」

泰葉「傷付いてる」

ほたる「なら――」

泰葉「いなくなったら、もっと傷つく」

ほたる「どうして……私なんか」

泰葉「わがままだけど、でも私は誰にもいなくなって欲しくない」

ほたる「初めからいなかったって思って下さい、それでいいんです。泰葉さんと会えただけで私は充分です」

泰葉「私と会えて、よかったって思ってくれてる?」

ほたる「当然です、だってずっと……ずっと」

553: 2014/01/06(月) 03:51:05 ID:nYGYdFWk
泰葉「私もほたるちゃんと会えてよかった、今まで進んできた道が認められたような気がして。嬉しかった」

ほたる「頑張って下さい、離れても応援してますから」

泰葉「幸せなんだよ。仲間がいるって、一緒に同じ星を見て前へ進める。今まで知らなかった幸せがここにある。
   それはほたるちゃんも同じ、まだ私達は前に進める」

ほたる「……行けません」

泰葉「ほたるちゃん、きっと今からでも」

ほたる「だって、まだ傷つけてしまったら耐えられませんから。きっと泰葉さんもプロデューサーさんも私を助けようとして」

泰葉「助けるよ、だってそれが当たり前だから。Pさんはほたるちゃんだから助けたんじゃない、仲間だから」

ほたる「……」

泰葉「もう一度だけ手を伸ばして欲しいの、せめて明日まで」

ほたる「明日」

泰葉「何も言わずに移籍なんて駄目だよ、皆が心配するから」

ほたる「明日が、最後です」

554: 2014/01/06(月) 03:51:45 ID:nYGYdFWk
凛「話はまとまったみたいだね」

泰葉「凜さん!?」

凛「ごめん、聞いちゃった。あんまり遠くに行ってなくてよかった」

ほたる「あの、さっき来たって」

凛「ああ聞いた? 本当、ちょっとこの忘れ物を一緒に聞いて欲しくってさ」

泰葉「忘れ物?」

凛「そう、誰かさんが忘れていったとっておきの物」

泰葉「……?」

男「ふう、思ったより時間が掛かったか」

ほたる「お疲れ様です」

男「ああ、遅くなって悪かった」

ほたる「明日、ライブに出ます」

男「ライブ?」

社長「前の事務所に残っていた最後の仕事だよ」

555: 2014/01/06(月) 03:53:05 ID:nYGYdFWk
男「ああ、そういえば……」

社長「違約金、君に払える金額ではないと思うが?」

男「分かってますよ、終わり次第すぐに――」

ほたる「それでお願いなんですけど」

男「珍しいな、最後くらい聞いてやってもいいが」

ほたる「見に来てくれませんか?」

男「ライブをか? 悪いが――」

ほたる「見に来て欲しいんです!」

男「何を必氏になっている?」

社長「この子の使い道に彼らも気付き始めたという事さ」

男「まさか」

社長「あれだけのアイドルを抱えている事務所だ、情報網もまた大きい」

556: 2014/01/06(月) 03:54:06 ID:nYGYdFWk
男「なるほど、さすが侮れない」

社長「終わり次第、すぐに手続きを終わらせないと」

男「どんな手を使ってくるか分からないと」

社長「そういう事だ、さすが理解が早い」

男「それほどでも、分かった。時間は?」

ほたる「13時です」

男「楽しむといい、最後のライブだ」

先P「よし、引っかかった」

女P「何でこんな簡単に引っかかるのよ」

統括「白菊ほたるの有用性がそれだけ高いのだろう」

女P「だからって私ならまず疑うけど? 丸腰で相手の陣地に入ってどうすんのよ」

557: 2014/01/06(月) 03:54:47 ID:nYGYdFWk
統括「白菊の所属していた事務所のリストだ」

女P「これがどうしたの?」

統括「前年の決算報告を見てみろ」

女P「……何でこれで潰れたのよ」

統括「前に言ったろう白菊は目印だ」

女P「ここを潰すって誰かが決めてたとか?」

先P「どっかの誰かだ、彼女が選ばれたのは不運としか言いようがない。そこは事実だ」

女P「何それ、黒幕は誰よ?」

統括「今のところは不明だ、一つ言えるのは簡単に尻尾を出す様な馬鹿ではないという事だ」

先P「分かってるのは、この子が入った事務所はなぜか集中攻撃を受けて潰れるって事だけだ。まあ、表に出せない理由は色々とあるんだろうさ」

女P「よく入れたわね?」

558: 2014/01/06(月) 03:55:51 ID:nYGYdFWk
統括「そんなもの千川に聞け」

女P「よくやるわねあの社長……」

先P「作戦は予定通り、いやいいねえ。勝てる戦いってのはやる前からわくわくする」

女P「ここも色々とやられたの?」

統括「やられはしたが、問題はない。些細な事だ」

女P「そこを追えば辿り着きそうなものだけど」

統括「黒かもしれん」

女P「黒……あのおっさん!?」

先P「何だ知ってんのか」

女P「何度かやりあったから……なら手は出さない方がよさそうね」

統括「そういう事だ、今は目の前の問題だけを片づける」

先P「言われなくとも、決行しますよ」

559: 2014/01/06(月) 03:57:22 ID:nYGYdFWk
P「さて、体は動くな」

加蓮「そうだね」

P「……よ、よう」

加蓮「やっほ」

P「事務所には病院の場所まで教えてなかったんだけどなあ」

加蓮「私、この病院でも診てもらってた事あるから。友達の看護婦さんが教えてくれた」

P「そうか、友達多いんだな」

加蓮「うん」

P「それじゃまた明日――」

加蓮「待って」

P「……悪かったよ、軽率だった」

加蓮「別に謝って欲しいんじゃないよ、本当に元気かなって思っただけ」

560: 2014/01/06(月) 03:58:20 ID:nYGYdFWk
P「冷えるな、さっさと事務所に行かないと」

加蓮「近いし、歩こうよ。リハビリにもなるでしょ?」

P「リハビリってそこまでじゃないよ」

加蓮「いいからいいから」

P「その服を見せたいから出てきたんじゃないだろうな」

加蓮「冬だね」

P「12月だからな」

加蓮「さっき凜からメールがきた」

P「何て?」

加蓮「明日、ほたるちゃんの代わりにライブに出るって」

P「無理もないな、話す機会を設けないと」

加蓮「Pさんは、私が同じような事になっても助けてくれる?」

561: 2014/01/06(月) 03:58:53 ID:nYGYdFWk
P「そうならない様な状況を作らない事から考える」

加蓮「もう、そういう答えが欲しいんじゃないよ」

P「俺は王子様じゃないから」

加蓮「私だってお姫様じゃないよ」

P「まだシンデレラだろ?」

加蓮「魔法はいつまでも続かないよ、誰にも。Pさんだってそうでしょ?」

P「俺は今も魔法に掛かったままだよ」

加蓮「まだ続いてるの?」

P「まだ。それでもいつか終わるんだろうが、きっとまだ当分は続くんだろう」

562: 2014/01/06(月) 04:00:49 ID:nYGYdFWk
子供の頃から、私は自分の不幸を意識してばかりだった。

今日はトラックに轢かれかけたとか、植木鉢が倒れてきたとか。

くじを引けば全て外れで、おみくじも大吉で。

そんな私が生まれて人を幸せにできた時がある、それは――

凛「私がまず最初に出ればいいんだよね」

先P「本当にやれるのか? リハもなしにソロだぞ?」

凛「問題ないよ、私の心配する暇があるならほたるの心配して」

先P「そこまで言うなら何も言わんが」

凛「……あそこまで言われて、黙っていられるほど私はクールじゃない」

563: 2014/01/06(月) 04:01:38 ID:nYGYdFWk
女P「準備は?」

統括「順調だ」

先P「しっかし、四人揃って同じ現場ってのも初めてだな」

女P「何、あいつ来るの?」

先P「昨日、事務所に顔を出したらしい。いきなり復帰はさせんが、話を聞いて見に来ると言ったそうで」

女P「仕事熱心ね」

P「そうでもないですよ、今日は仕事する気ありません」

女P「させないわよ、何の為に三人も来てると思ってんの」

P「壮観ですよね、事務所のプロデューサー勢ぞろい」

統括「あまり意味はないが」

P「牽制的な意味合いですか?」

564: 2014/01/06(月) 04:03:28 ID:nYGYdFWk
統括「いざという時、動ける人数は多い方がいい」

P「白菊さんは?」

先P「控室、それから言ってなかったが」

P「はい」

先P「移籍問題が起こってる」

P「でしょうね」

先P「動じないな」

P「予想してましたから、あの男がちょっかい掛けてきたんでしょう?」

女P「実はあれも故意だって証拠あるのよ」

P「被害届出して警察……ああそうか、根本的な解決にはならないか」

女P「やっぱりそういう話になるのね」

P「それで渋谷さんがライブやる理由は? 別に最初から白菊さん出しても」

565: 2014/01/06(月) 04:04:41 ID:nYGYdFWk
先P「本人の強い希望だ、前座扱いでいいと。白菊への風当たりを和らげるクッション的な役割だと言っていたが」

P「統括、何か知ってます?」

統括「今回は知らん」

P「なるほど」

女P「少し力みすぎてる気がするのよね、あんた何か言ったんじゃないの?」

P「あ……」

女P「あ、って何よ」

P「いえ、少し心当たりがあるなーって」

女P「うちの看板に何を言ったのよ!?」

P「言ったの俺じゃなくて杏なんですよね」

女P「アイドル同士で何をやってるのよ……」

P「あはは、本当に仰る通り」

566: 2014/01/06(月) 04:05:27 ID:nYGYdFWk
統括「お前は控室に行ってこい、他にも何人か様子を見に来てるのがいる」

泰葉「Pさん!」

P「久し振り、でもないな。元気か」

泰葉「私は大丈夫です、Pさんこそ」

P「平気じゃなかったら来てないよ、他に誰か来てる? 渋谷さんは知ってるけど」

泰葉「さっき、佐久間さんを見ました」

P「現場にいたから気になったか、あるいは気になってるのはまた別の事か」

泰葉「スケジュールは知ってますか?」

P「大体は、渋谷さんが前座とは」

泰葉「それから、ほたるちゃんが出るんですけど」

P「移籍問題が起こってるんだろ?」

泰葉「私だけじゃ……何もできなくて」

P「泰葉じゃなかったら今日、出る気になってたかも怪しいよ」

泰葉「ですが、今日だって大丈夫かどうか」

P「行ってくるよ。何とかなるから、心配するな」

567: 2014/01/06(月) 04:06:11 ID:nYGYdFWk
まゆ「来たんですね」

P「早速か」

まゆ「少し、気になりまして」

P「渋谷さんか?」

まゆ「ほたるちゃんと言わないのは冷たすぎますか?」

P「いや、今は彼女より渋谷さんの方が問題だろう。まあ、彼女も自分で見つけてもらうしかないんだけど。杏も言葉が足りないんだよなあ」

まゆ「昨日、少し聞かれたんです……統括さんについて」

P「壁か?」

まゆ「肇さんと同じ事を言うんですね」

P「何となく、かな。想像通りでよかったよ、それじゃ」

まゆ「想像通り、ですか」

568: 2014/01/06(月) 04:07:14 ID:nYGYdFWk
ほたる「もうすぐ……でも……私は」

P「入るよ」

ほたる「プロデューサー!?」

P「それだけ大声が出せるなら問題なさそうだね。昨日、退院したんだ。退院って言っても一日ベッドで寝てただけだけどね」

ほたる「申し訳ありませんでした」

P「深刻に受け止めなくていいから、結果として何も無かった訳で」

ほたる「私がそこにいなければ起きなかった事ですから」

P「そんな事ないし大丈夫、白菊さん程じゃないけど不幸なら俺もそれなりに耐性があるから」

ほたる「事務所のこと、ですか?」

P「それもあるし、まあ色々と。19年も生きてると色々あるから」

ほたる「皆さん、強い人ばかりですね」

569: 2014/01/06(月) 04:09:16 ID:nYGYdFWk
P「そう?」

ほたる「泰葉さんもプロデューサーも、それに凛さんも」

P「渋谷さん?」

ほたる「事件を目の前で見てるのに冷静で、今日も一人じゃ危ないだろうからってライブまでしてくれる事になって」

P「そう見える?」

ほたる「本当に、強いなって」

P「それは違うと思う、渋谷さんは白菊さんが思うより強くない。そう見せるのは確かに上手いけど」

ほたる「だって今日も現に」

P「俺からすれば、白菊さんの方が遙かに強いと思う」

ほたる「私はそんな」

P「アイドルから離れた俺だから思うのかもしれない、今まで幾つも事務所が潰れてきたんだろう? この世界の暗い部分も誰よりも見てきたはずだ」

ほたる「それは、そうですけど」

570: 2014/01/06(月) 04:09:56 ID:nYGYdFWk
P「それでもこの世界にいる、それは君だけが持つ強さだと思う」

ほたる「私が……私がこの世界にいるのは」

P「っと、始まるな。ステージ、見に行かないか?」

ほたる「凛さんのですか?」

P「理由はどうあれ君のためである事は確かだし、客の入りも見ておいた方がいい」

まゆ「満員ですね」

凛「当然」

まゆ「今日は凛さんのファンばかりではありません」

凛「それも当り前、分かってて立つんだから」

まゆ「どうしてですか?」

凛「証明したいから、杏の言葉は見当違いだって」

まゆ「気負いはありませんか?」

凛「無いよ、一人だって問題ない」

571: 2014/01/06(月) 04:11:33 ID:nYGYdFWk
先P「Never Say Never、すっかり定番曲になったな」

女P「ソロライブって久しぶりよね?」

統括「久しぶり? 違うな」

先P「最近やったなんて話は聞いてませんが」

統括「当たり前だ、初めてだからな」

ほたる「わあ……」

P「確かに硬さはないか、声も伸びてるけど」

まゆ「いえ、これでは」

P「そうなんだろうな、統括があんまりいい顔してない。これでも本調子じゃないのか?」

いける 大丈夫 いつもと変わらない私だ

真っすぐ前だけを見ていればいい それでいい

572: 2014/01/06(月) 04:12:45 ID:nYGYdFWk
まゆ「ソロで歌う凛さんを初めて見ましたから、偉そうなことは言えませんけど」

先P「あー、分かってきた」

女P「これを見越して出したの?」

統括「いつか、越えなければならない壁だ」

女P「だからってこんな時にやらなくたって」

よし ここからサビに入って

あれ? いない

いない?

いないって

誰が?

P「何か探してる?」

まゆ「いつも当たり前の様にいるのに、今はいないんですから」

573: 2014/01/06(月) 04:13:16 ID:nYGYdFWk
P「なぞなぞか?」

まゆ「Pさん、一歩前に出てもらえませんか?」

P「一歩? これでいいか?」

まゆ「充分です」

誰がいないんだっけ?

今は一人で

誰も――

女P「動きが!?」

先P「止めますか?」

統括「続けさせろ」

先P「あいあいさー」

何でそんな顔をして私を見るの?

どうしていつもそこで立ち止まったまま

私はここにいるのに

574: 2014/01/06(月) 04:13:49 ID:nYGYdFWk
P「終わらせる覚悟はあっても、か。なるほど言い得て妙だ」

まゆ「Pさん?」

P「終わらせるのって簡単なんだよ」

まゆ「そうでしょうか?」

P「簡単だ、アイドルだろうが何だろうが。そこで歩みを止めればいい、けど続けるとなると話は別」

まゆ「渋谷さんは終わらせる気なんですか?」

P「杏にはそう見えてるんだろうな」

まゆ「Pさんと彼女がアイドルを辞めたから、でしょうか」

P「そこは何とも言えないけど、」

ほたる「凛さん……」

575: 2014/01/06(月) 04:15:19 ID:nYGYdFWk
「終わらせる為に歌うの?」

どうしてそんな事を聞かれなくてはいけないのか

アイドルとして目指すと決めた

彼を超え、その姿をいつか見てもらえたらって

だけど、その夢はもうすぐ終わる

そうなればもう私は

アイドルを続ける意味も、歌う意味も

女P「ちょっと、間奏も終わるのに!?」

先P「止まってないか?」

統括「……」

凛「……あ」

P「不味い、完全に意識がステージから離れてる」

576: 2014/01/06(月) 04:16:54 ID:nYGYdFWk
まゆ「止めます?」

P「統括の判断次第、俺は何も――」

目を開けば すぐそばにある
見つけ出した希望を信じているから

P「って」

先P「おお」

女P「は?」

統括「……まあ、いいだろう」

泰葉「ほたるちゃん!?」

凛「な」

ほたる「ごめんなさい、巻き込んで」

凛「あ、うん」

577: 2014/01/06(月) 04:18:24 ID:nYGYdFWk
P「本来、彼女のライブだからか盛り上がってはいるな。戸惑いも混ざってるけど」

まゆ「行かせてよかったんですか?」

P「完全に予想外だけど、結果オーライ。こんな事するタイプには見えなかったけど」

女P「歌い切っちゃった」

先P「これが狙いだったんです?」

統括「俺は超能力者じゃない」

女P「まさかPがけしかけたんじゃ」

先P「違うだろ、あの顔は」

統括「面喰ってるな」

まゆ「自分が巻き込んだから、と本気で思っているんでしょうか」

P「多分、そうなんだろうな」

578: 2014/01/06(月) 04:20:14 ID:nYGYdFWk
凛「……」

P「お疲れ、少し――」

凛「少し、休んでる」

まゆ「このままライブする気ですね」

P「何も起きなければいいんだが」

ほたる「あの、皆さん心配掛けてごめんなさい。大丈夫です、怪我もありません」

男「さあて、最後の挨拶だ。ほたる」

「それは絶対に違う」

男「ん?」

ほたる「私は今日――」

P「停電!?」

まゆ「真っ暗で何も――」

P「とにかく安全を確保しないと!」

「大丈夫ですよ」

P「ふぁい?」

579: 2014/01/06(月) 04:20:53 ID:nYGYdFWk
「予備電源の場所は……ここですね、ああなるほどこのトラブルかあ」

P「ちょっと、あのここ関係者以外」

「分かってます、分かってますから」

P「いや、あの――」

まゆ「……つきました」

「ね? 大丈夫でしょ?」

P「あの、貴方は」

「名もなき者、とでも」

P「はあ?」

「いいんです、私はそれで」

580: 2014/01/06(月) 04:22:00 ID:nYGYdFWk
先P「消えたり点いたり忙しい」

女P「で、どうしてほたるはステージ脇を見て固まってるのよ」

先P「俺に聞くな、どうします?」

統括「残念な報告が一つある」

先P「はいなんでしょう」

統括「千川が勝手に動いたらしい」

先P「あの社長……何をやったんです?」

統括「何も言わん、ただ指示が一つ降りてきただけだ」

女P「何て?」

統括「何もしないように、だそうだ」

581: 2014/01/06(月) 04:23:12 ID:nYGYdFWk
ほたる「……っ、どうして……?」

「白菊ほたるちゃんかい? 来てくれてありがとう、まだ小さな事務所だけどきっと君はいいアイドルになる。
 僕も協力するから、二人で頑張ろう」

「私でも……人を、人を幸せになれるでしょうか?」

「もうできてるよ」

「え?」

「君がアイドルになるって決めてくれて僕は今、とっても幸せだから」

P「どうする、完全に止まってる。統括は……」

まゆ「手でバッテン作ってます」

P「はあ? 放置!?」

「ほたる。君の好きな様に、好きな所で、思うままに」

「音源、流しますね」

P「はい? いや勝手に」

582: 2014/01/06(月) 04:24:38 ID:nYGYdFWk
「大丈夫、あの子なら」

P「大丈夫って何を根拠に――」

ほたる「あの、今日で……今日で私は」

泰葉「頑張れ……頑張れ……」

「頑張れほたる!!」

泰葉「え?」

ほたる「あ……」

P「いい声援ですね」

「実は、ちょっと声を掛けてみたんです。最初のファンクラブに入ってくれた人たちへ」

P「最初の? って、まさか貴方」

まゆ「凄い、こんな」

「ほら、言ったでしょ? 大丈夫だって」

583: 2014/01/06(月) 04:25:19 ID:nYGYdFWk
P「本当に……その通りですね」

ほたる「今日で私は、下を向くのを止めようと思います」

たくさんの人が応援してくれてる

それは分かってた ずっと分かってた

目を背けたのは私 目の前の不幸に目を奪われて

私はその先にある光から目を逸らした

自分の幸せの為に 誰かを不幸にしなくちゃいけないなら

そんな幸せいらないって そう思って

いつでも振り向けばそこには 私に差しのべられた手がいくつもあった

「後悔した事もあったんです、アイドルになることが彼女にとってよかったのかどうか。アイドルにしてしまった自分は彼女に酷い事をしてしまったんじゃないかと」

P「最初のプロデューサー、って理解でいいんでしょうか?」

「そんな大層なものではありません、小間使いみたいなものです。それでも上に無理を言って
 スカウトしてサポートしたんですが……僕にプロデューサーとしての才能はなかった」

584: 2014/01/06(月) 04:26:45 ID:nYGYdFWk
P「プロデュースなんて時の運もあります、私とてこの先どうなるか」

「失礼を承知で申し上げます、実は貴方を調査させて頂きました」

P「彼女をプロデュースするにふさわしい人物か? って事ですか」

「ええ、その……次の事務所もその次の事務所も酷かった様でして。偶に見かけても、どこか暗くて。そんな顔を見ていても何もできない自分がいて」

P「それなら私も信用できませんよね」

「そういう訳じゃないんです」

P「違うんですか?」

「見苦しいですが、ある時からあの子の表情が変わったことに気付きました。どこか暗かった顔が明るくなって、
 はっきりと前を見るようになった。花火を背景に撮影した写真が……ああこれだ」

P「ああ、それですか。反響もそれなりに大きかったんですよ」

「嫉妬しました」

P「へ?」

585: 2014/01/06(月) 04:30:04 ID:nYGYdFWk
「情けない話、嫉妬したんですよ。そんな表情を直に見たであろう誰かに」

P「それで誰か調べたんですか?」

「こんなんですが、まだこの世界の端っこの方にぶら下がってますから。カメラマンには簡単に連絡が取れました。
 それから貴方を見つけて、失礼ですがまずその素性を調べました」

P「結果、過去に事務所を潰した極悪人だったと」

「本当の極悪人を何人か知ってますが、彼らは貴方の様にそんな顔で自嘲はしませんでしたよ」

P「自嘲する以外に過去を振り返る術を知りませんので」

「だから悔しかった、その若さで彼女の魅力を引き出せる貴方が。だから彼を唆して、何が起こるか分かっていながら情報を与えました」

P「……」

「元アイドルで、アイドル達からの信頼も厚い。業界内の評判も上々、ほたるを任せるには最適な相手。そんな事は分かってた、
 分かっていたのに……止められなかった」

P「もし、証言をしかるべき場所で求められた場合――」

「お話します、私の知る限り全て」

586: 2014/01/06(月) 04:30:53 ID:nYGYdFWk
P「お願いします、その代わりと言ってはなんですが」

「できることなら何でも」

P「これが今日のセットリスト、既に予定は狂ってますがどうするかはお任せします」

「お任せ?」

まゆ「Pさん?」

P「衣装は予備で何着か用意してますし、実は裏にまだあります。何かされるのが怖かったので独断で発注しちゃいました」

「いや、それを私に伝えて――」

P「嫉妬するくらいなら対抗してきた方が私としても面白いです、それで彼女が更に輝けるなら担当を変えたっていいんです」

「……本気ですか?」

P「嘘と思ってるなら怒りますよ、音源はそちらに。現場の指揮はお任せします、と言っても完全に一人も難しいでしょうから待ってて下さい。今、補助の人間を呼びますから」

女P「P? どうしたのよ、ライブの途中でしょ?」

P「ニューウェーブの時の貸しを返してもらおうかと思いまして」

女P「……変なことじゃないでしょうね」

P「あははは」

女P「何か呼ばれたから行ってくる」

587: 2014/01/06(月) 04:32:00 ID:nYGYdFWk
先P「骨は拾う」

統括「どこに撒けばいい?」

女P「後で覚えておきなさい!」

P「今から来ます、ちょっときつい人ですけど優秀な人ですから」

「どうして私の為に――」

P「貴方の為じゃない、白菊さんの為だ。意味が分からないなら帰ってもらって結構ですよ」

「……責任は取れませんよ」

P「私だって取れません、いいんです。今から来る人間に押しつけちゃえばいい」

「この曲が終わったら、少し時間が欲しい」

P「まゆ、いいか?」

まゆ「はい」

P「俺は席を外す、何かあったら連絡くれ」

まゆ「本当にこれでいいんですか? 過去まで調べられて」

P「いい。あの時、何があろうと全て受け止めると決めた」

まゆ「……分かりました」

588: 2014/01/06(月) 04:32:39 ID:nYGYdFWk
女P「いきなり来いって言ってどうすればいいのよ?」

P「思ってたより早かったですね」

女P「何事かと思って、それで何をすればいいの?」

P「彼のサポートを」

女P「誰よ?」

P「まあ、ちょっとした関係者です。今日のライブは全て彼にお任せしましたので」

女P「後で聞かせてくれるんでしょうね」

P「彼の口から聞けるんじゃないでしょうか、責任は全て統括にぶん投げましょう」

女P「それならいいけど、分かった。どこか行くの?」

P「する事がありますから、お願いします」

女P「休みなのに頑張るんだから」

589: 2014/01/06(月) 04:33:34 ID:nYGYdFWk
まゆ「私の事もご存知ですか?」

「詳しいことまでは知りませんが、一応は」

まゆ「もし彼にまた何かするのであれば、私は何の遠慮もしませんから」

「……覚えておくよ」

まゆ「5分、Pさんの頼みでも貴方に与える時間はそれだけです」

「充分です」

ほたる「その、お久しぶりで――」

「後ですべて話す、すまない。俺が全て悪い」

ほたる「いえ、私が駄目だったから」

女P「何だか知らないけど、とりあえず話を進めた方がいいんじゃないの?」

「今日、ライブの指示は俺が出すことになった」

ほたる「プロデューサーさんは?」

590: 2014/01/06(月) 04:34:09 ID:nYGYdFWk
女P「どこかに行った、まあ今の会話で何となく正体は察したけど。できるの?」

「やらなければ、彼にも彼女にも怒られてしまいますから」

女P「ならやりなさい、構成はどうするの?」

「考えてました。この3年間。僕ならどうしようかって思って温めていたものが」

ほたる「分かりました、選んで下さい。私が選ぶよりその方がいいと思いますから」

「ありがとう」

統括「凛」

凛「何? 笑いに来たの?」

統括「生憎、俺にそんな趣味はない」

凛「何でだろう? 歌えなかったよ」

統括「……」

凛「終わらせる覚悟以外に必要なものって、何? どうしよう? このままじゃ私、あの子を送り出せない」

統括「俺は、一度として終わらせろと言った覚えはない」

591: 2014/01/06(月) 04:35:21 ID:nYGYdFWk
凛「でもそうするしかない、待っても待っても何も変わらなかった。何もだよ!?」

統括「本当にそうなら、俺はプロデューサーとして無能という事だな」

凛「何が言いたいの? そんな目で見ないで」

統括「あいつが変わらなければならないのは同意見だが、その前に出来る事もある。何の為に千川がこの事務所に
   Pを入れたか、何の為にニュージェネレーションを作ったか、もう少し考えろ」

凛「考えて、答えは出るの?」

統括「戻れ、事務所のイベントだ。やると言った以上、途中退出は認めん」

凛「戻っても、もう終わってるでしょ」

統括「凛にとってはそうかもしれんが、そうではない者もいる」

凛「統括にとっても終わりでしょ?」

統括「それが凛と何の関係がある?」

凛「……戻るよ」

592: 2014/01/06(月) 04:35:52 ID:nYGYdFWk
統括「さて、訳の分からない指示を寄越してきた理由を聞こうか」

ちひろ「そうして欲しかったかと思いまして」

統括「千川」

ちひろ「ちひろ、ですよ。お姉ちゃんでもいいのに」

統括「阿呆」

ちひろ「無理やり社長を押し付けといそんなこと言うんだ」

統括「凛の背中を押すには一苦労、か」

ちひろ「そう、担当のプロデューサーもだけど」

統括「結局、俺は何一つ変われなかったな」

ちひろ「変わったよ、前ならそんな事も言わなかった」

統括「……そうだな、そうなんだろうな」

593: 2014/01/06(月) 04:36:22 ID:nYGYdFWk
ちひろ「それに、私たちが変われなくてもあの子達が変えてくれる。私達も、ひょっとしたら世界を」

統括「夢物語だ」

ちひろ「うん、でもまだ夢を見られる。それってとっても素敵な事だよ」

ほたる「次は――」

女P「はいこれ! 全く、人をこき使うのは上手いわね」

「後悔したくありませんから、きっとこれが最後でしょうし」

女P「何があったかは後で聞くけど、支える側がそんな顔してどうするの」

ほたる「最後の曲、クリスマスにふさわしい曲を用意しました。今日だけは、私も本当に魔法をかけられる気がするんです。
    もっと私を好きになってくれるように、もっと貴方を好きになれるように」

「メリークリスマス、ほたる」

トィンクル メリークリスマス メリークリスマス

始まるウィンターランド 歩いていこう

トゥインクル メリークリスマス メリークリスマス
 
めぐりめぐる 愛のメリーゴーラウンド

594: 2014/01/06(月) 04:36:56 ID:nYGYdFWk
「終わった、か」

女P「お疲れ様、もういいわね?」

「本当に、ありがとうございました」

女P「あの子にも言っておきなさい」

まゆ「いえ、Pさんに言われたからしたんです。彼の為ではありません」

女P「五分って言われたのに、二曲続けて歌った子の台詞じゃないわね」

まゆ「今日はクリスマスです」

女P「それが?」

まゆ「だからいいんです、教えてもらいましたから」

女P「……あの子も分かんないわね」

ほたる「プロデューサー!」

「もう俺はプロデューサーじゃないよ」

ほたる「まだ、今日は終わってません。だから……まだプロデューサーです」

「魔法の時間は終わったんだよ、全て終わりだ」

595: 2014/01/06(月) 04:38:48 ID:nYGYdFWk
ほたる「私はシンデレラガールズのアイドルです」

「そうだな、立派になった」

ほたる「アイドルになって。それでも不運は続いて……だけどここまで続けてきて、またこんな事が起きて。でも、楽しいんです。
    終わらせようと思って来たのに、終わらせられなかった。私にもこんな景色が見られるって、教えてくれた人が……見ていてくれるから」

「頑張れ。もうそれしか言えないが、活躍を祈ってるよ」

女P「それでさよならでいいの?」

「はい、満足です」

先P「よう」

P「どーも」

先P「で、例の男は?」

P「あの人が警察に引き渡したそうです、証言も全てしてくれるという事なので」

先P「そうかい、解決して何よりだ。こっちの策は無駄になったが、まあそれもいい」

P「被害届け、実は彼の分は出さないでおこうかと」

596: 2014/01/06(月) 04:39:24 ID:nYGYdFWk
先P「お前の怪我の?」

P「ええ、どうしようかなと」

先P「まあ、したいようにすればいい」

P「だからちょっと提案があるんですよ。どうせ起訴されたって彼に実刑なんかつく訳ありませんから」

「ああ、ここにいましたか」

P「お疲れ様です、ここで見てましたがよかったですよ。感動しました」

「それは彼女の力です、僕の力じゃありません」

P「アイドルの力を引き出せる事も、プロデューサーには大切な力です」

「いい思い出になりました、ありがとうございます」

P「一つお知らせ、というか提案ですが」

「何でしょう」

P「私から貴方に対して被害届けを出す気はありません」

597: 2014/01/06(月) 04:40:27 ID:nYGYdFWk
「情けですか?」

P「いえ、それから警察には貴方に対して私は罰する気は全くない事を伝えます。あれはあくまで、彼の単独犯だと。そう白菊さんにも説明するつもりです」

先P「おいおい、いいのか?」

「どういうおつもりですか?」

P「うちで働きません?」

先P「これだよこのおぼちゃんは」

「……失礼ながら、それはどういう意味でしょうか」

P「そのまんまです。最初は雑務でしょうけど、評価次第では私と同じ位置に、もしかしたら上に行くこともあるかもしれません」

先P「社長に話は通してんのか?」

P「これから、ですけど大丈夫だと思いますよ。経験者ですし、今の見れば運営もできそうです」

先P「その為にやらせたのか?」

P「はい、何の意味もなく思い出作りさせるほど俺は優しくありません」

先P「いやそれにしたって」

598: 2014/01/06(月) 04:41:06 ID:nYGYdFWk
P「どうします? もし断れば被害届け出してそれ相応の損害賠償を請求しますけど。白菊さんもそのまま移籍させちゃうかもしれませんね」

先P「それ、選択肢になってないぞ」

P「言いましたよ、そこまで優しくないですって」

「君は――」

P「もしよければ、社長に話を通しますよ」

「……本当にいいんですか?」

P「その代わり、一つ約束して下さい」

「もちろん、全てをアイドルに捧げる覚悟です」

P「違います、貴方が幸せになることです」

「幸せ?」

P「彼女は疫病神なんかじゃないって、貴方が証明するんです。彼女にこの世界を教えた貴方にしかできない、仕事以上に重要なことです」

「それはまた、重大な仕事ですね」

P「破ったら、本気で怒りますからね」

599: 2014/01/06(月) 04:41:52 ID:nYGYdFWk
「とはいえ、大丈夫ですよ。彼女が前を見ているのに、私一人だけ後ろを見ている訳にはいきませんから」

P「それまでは、私が預かります。奪ってください、早くしないと本当に全て奪ってしまいますよ」

先P「ったく本当に――」

泰葉「Pさんはそういう人ですから」

先P「全て聞いてたって顔してるな」

泰葉「こうなるだろうな、と思っただけです」

P「そんなに分かりやすいかな」

泰葉「私は個人的には反対です」

P「まあ、そう考えるのも無理はないな」

泰葉「だから、最初アイドルの仕事に同行する場合は私の仕事を優先して下さい」

P「いいのか?」

泰葉「終わった後にPさんに全て報告しますから、ちゃんと私と話す時間を作ってくれたらの話です」

先P「これはこれは、ほうほう」

泰葉「それでもいいなら、私は賛成に転じます」

600: 2014/01/06(月) 04:42:40 ID:nYGYdFWk
P「作る作る、それくらいでいいなら」

泰葉「あんまり事務所の人に聞かれたくない話ですよね?」

P「まあ、大っぴらにする必要はないか」

泰葉「なら事務所で話しするのも不味いですね」

P「ああ、でもそうなると」

泰葉「私の部屋に来ればいいんです、誰にも聞かれる心配はありません」

P「なる……いやちょっと待――」

泰葉「いいですよね?」

P「お、おお」

泰葉「なら決まりです」

P「先輩」

先P「知らん」

601: 2014/01/06(月) 04:43:22 ID:nYGYdFWk
面白い事務所だ、アイドル自ら部屋に招くとは」

泰葉「ええ、ですから期待を裏切らないで下さい。Pさんが信じる限り、私も貴方を信じますから」

先P「怒らせると本当に怖い」

泰葉「何でしょう?」

先P「いや何でも」

P「……雪か」

泰葉「ホワイトクリスマスですね」

P「そろそろサンタも、出発する頃かな」

まゆ「助けるつもりが、助けられてしまいましたね」

凛「分かってる」

まゆ「白菊さん、言ってました。終わらせようと思っても終わらせられなかったと」

凛「私は……」

まゆ「立ち止まっているのは、私達だけかもしれません」

602: 2014/01/06(月) 04:44:10 ID:nYGYdFWk
ちひろ「二人とも、こんな所にいた」

凛「ちひろさん……申し訳ありませんでした」

ちひろ「いえ、結果的に成功しましたから。私は気にしてませんよ」

まゆ「来ていたんですか」

ちひろ「二人にお仕事です」

まゆ「私と凛さんの二人に?」

ちひろ「いえ、三人です。もう一人は――」」

603: 2014/01/06(月) 04:44:49 ID:nYGYdFWk
ありす「サンタを待たせるとはいい度胸です」

P「わざわざ待ってるサンタなんて世界に一人しかいないと思うが、ってかこのケーキ……」

ありす「今度こそ、この一皿で黙らせます」

P「前の収録の料理の改良か、あの西園寺さんが絶句した伝説の回」

ありす「美味しいよって言ってくれました」

P「完全に一呼吸おいてからな」

ありす「大丈夫です、今回はアドバイスも貰いました」

P「誰からだよ、トマトでキャッチボールしようしたのなら何の参考にもならないからな」

ありす「葵さんからです、私だって聞く相手は選びます」

P「よし食べる」

ありす「クリスマスなので、オーソドックスに攻めました」

P「普通が一番だって……よかった食える」

ありす「素直に美味しいと言えばいいんです」

P「美味しい美味しい」

604: 2014/01/06(月) 04:45:36 ID:nYGYdFWk
ありす「先ほど泰葉さんから今日のPさんはいい子だったと聞きましたから」

P「泰葉から俺はどういう風に見られてるのか気になってきたんだけど、何か掌で踊らされてるような」

ありす「プレゼントですよ、気が向いたから作りました」

P「至れり尽くせりだな、ありがとう」

ありす「だから私にも何かプレゼントするべきです」

P「プレゼントを要求するサンタって前代未聞だが」

ありす「いいんです、所詮サンタなんてプレゼントを渡す口実に過ぎません」

P「イヴが傷つくぞ」

ありす「イヴさんだってプレゼントを渡せば喜ぶはずです」

P「はいはい、用意してるよ」

ありす「最初から素直に出せばいいんです」

P「はい、これ」

ありす「……CDですか? でもカバーも何もありません」

605: 2014/01/06(月) 04:47:02 ID:nYGYdFWk
P「これは、俺がアイドルとして最後に歌った曲だ」

ありす「アイドルとして?」

P「記事は見たんだろう? 千枝と春菜が見たんだ、ありすにも話はいったと思うが」

ありす「それは私が知ってもいい事なんですか?」

P「知りたい、とは言わないのか?」

ありす「私は今のPさんしか知りません、それが全てです」

P「そうか、それは火災の起きた日のオーディションで歌った曲だ。後にそれはあるアイドルの曲として
  世に出る事になった」

ありす「という事は販売されてるんですか?」

P「されてる。それなりのヒットになって、そのアイドルは今の地位を築いた。
  興味があるなら聞いてみるといい、手に入れるのは簡単だから」

606: 2014/01/06(月) 04:48:00 ID:nYGYdFWk
ありす「そんな言い方をするという事は、この歌に意味があるんですね」

P「ある、何故ならそのアイドルとありすが共演する事になったからだ。他にも渋谷さんとまゆも出る」

ありす「これを歌うんですか?」

P「アイドルが他のアイドルの曲を歌う企画があって、それにありすが選ばれた」

ありす「妙な仕事ですね」

P「相手方の希望でもあるし、俺の希望でもある」

ありす「分かりました、ちなみにタイトルは何ですか?」

607: 2014/01/06(月) 04:49:28 ID:nYGYdFWk
765P「START」

律子「もう、聞いてないで手を動かして頂けますか?」

765P「悪い悪い、ちょっと振り返ってた」

律子「振り返るにはまだ道半ばですよ」

765P「合格者が決まっているオーディションだから、気兼ねなく俺は春香を送り出した。規模も大きかったし、場馴れするにはいい機会だろうと」

律子「春香が合格したと聞いた時、社長とプロデューサーの顔色が変わった瞬間を私は忘れません」

765P「噂だけは聞いていた。だからその後、火災のニュースを聞いてすぐに結びつけた」

律子「社長が彼を連れてきて、本当に色々ありましたよね。特に春香は……」

765P「CGプロに移った彼が、今どうなっているかは分からない。立ち直ったようには見えたけど」

律子「頑張っているって、そう信じているからこそ春香もこの仕事をOKしたんですよ。信じましょう、私は信じてます」

765P「そうだな……信じよう」

次回は16日
765とのクロス回です、苦手な方はご注意下さい。

608: 2014/01/06(月) 14:29:38 ID:MXov/hp.

次回も楽しみにしてる

引用元: ありす「心に咲いた花」