648: 2014/01/24(金) 21:25:35 ID:6NmjOSSI
「シンデレラガールズですよ! シンデレラガールズ!」

 ありす達が出て行ってから僅か数分後、こちらもプロデューサーとアイドルがCGプロを見上げていた。

天海春香と並んで事務所を見上げるスーツ姿の男性は、その立派なビルを見て羨望の声を上げた。

「……大きいな」

「うちと比べたら凄い差ですね」

「言うな、惨めになる」

 様々な企業が入った雑居ビル、と言えば765と同じだがこちらはどう見てもオフィスビルの様な洒落た言葉が似合う。

アイドルの所属数に差があるとはいえ、彼も自社の在り方に疑問符を付けざるを得ない。

「新人さんが来たらきっと入りませんよ?」

「分かってる、分かってるんだが」

 引越し先の候補はいくつかあっても絞り込めないのは、新人教育による経費がどれだけ嵩むかまるで

予想が付かない事も原因の一つ。ここまで一気に増えることになるとは、彼とて全くの予想外だ。

「ここですね、広いなあ」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。

検索タグ:ありす「心に咲く花」

その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
649: 2014/01/24(金) 21:26:50 ID:6NmjOSSI
「200名弱のアイドルがいるんだ、これ位は必要なんだろう」

 ELVを降りればもうそこは彼女もよく知るアイドルの世界、ガラス越しに見える世界には765とは比較にならない数の

スタッフが慌しく動き回っている。

「知ってる子とかいますかね?」

「迷惑だけは掛けるなよ」

「分かってますって」

 躊躇いなくインターフォンを春香が押すと、間髪入れずに返事がくる。

「ご用件を宜しいでしょうか?」

「765プロダクションのPです、千川さんとのお約束なんですが」

「……少々、お待ち頂けますか」

「約束してるんですよね?」

「そのはずだが」

 相手のトーンは明らかに警戒するもの、彼女と電話で約束を取り付けている彼からすれば心当たりもないが、もしもという事もある。

650: 2014/01/24(金) 21:28:10 ID:6NmjOSSI
「春香がいるから、俺が嘘を付いてるって思われる心配がないのは救いだな」

「私も偽者扱いされたらどうしましょう?」

「もう少し自分の知名度を信じろ」

 この業界にいて春香を知らないスタッフがいるなら、それはもう相手が勉強不足だと言わざるを得ない。と彼は思う。

とはいえ、全くの専門外なら話は別だが。

「お待たせしました、どうぞ」

「おお、自動で開くのか」

 室内に踏み込むと、暖房のよく効いた空気がまずは彼らを出迎える。よくよく中を見回してみれば、アイドルらしき子も

ちらほらと見え、その数の多さに彼は息を巻いた。

「本当に凄いな」

「プロデューサーさん、あの人」

「ん? 確か」

 春香が多くのスタッフに囲まれて衣装のチェックをしているアイドルを見つけ、彼に耳打ちする。

一際目立つそのスタイルは、彼も充分に知るアイドルの一人だ。

651: 2014/01/24(金) 21:29:53 ID:6NmjOSSI
「新緑の歌姫、って呼ばれてますよね」

「いつか千早とぶつかる日が来るかもな」

 765の中で近いのは千早、あるいは貴音か。と彼の頭の中が目まぐるしく動く。これだけのアイドルがどういう仕事を得て、

どういう活動をしているかは、彼にしても非常に重要な情報源だ。

「お待たせしました、大変申し訳ありません。社長はただいま席を外しておりまして」

「ああ、なら待たせて頂けますか? 少し早過ぎたかもしれません」

 出てきたのはそれなりに若い女性だが、彼は何となくその地位を察した。

「ここのプロデューサーだろうな」

「え? あんな綺麗な人がですか?」

「何となく、あっちにいるのもそれっぽいな。何人いるのか知らないがうちよりはまともな勤務形態だ」

 彼が視線を送る先にもスタッフに何やら指示を送っている男性が一人、その向かいに空席の机が一つ。

「あそこが彼の席かもしれない」

「本当にプロデューサーしてるんでしょうか」

652: 2014/01/24(金) 21:31:48 ID:6NmjOSSI
「してるだろう、企画書に彼の名前はあったし」

 今回の企画、最初に提案してきたのは彼。それをCGプロと765プロの間で協議し、企画書は完成した。。

彼の提案とは違った形で。

「今頃、あっちで俺に対して盛大に悪口大会が始まってる気がする」

「悪いのは私達ですよ」

「美希と千早が乗ってきたらかな、まあ俺も多少の無理は通したが」

 今回、こうしてわざわざ彼が出向いたのもその無理を押した事に対する礼もあった。

もちろん本来の目的が第一であることに変わりはないが。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 独立した応接室に通され、その内装に彼は目を奪われる。

「うわあ……」

 春香も同様なのか、視線は彼と同じくその無数のトロフィーや写真に向けられる。

「今、お茶を持ってこさせますので。社長が到着次第、ご連絡いたします」

653: 2014/01/24(金) 21:32:50 ID:6NmjOSSI
「凄いですね、これ」

「流石に圧巻の一言だな」

 棚に所狭しと並べられたトロフィー、シンデレラガールズの投票結果。ついこの間まで行われていた記念イベントの概況、

先輩格である彼らをしても圧倒される。

「本当にこんな所で働いてるんだ」

「俺もここにするか」

「プロデューサーさん……」

 冗談とも本気ともつかない彼の態度に春香が呆れ顔になったかと思うと、すぐに表情は固くなった。

「彼も、こっちの方がいいんですよね」

「どうでしょうか?」

 扉の方から返ってきた声に春香が顔を上げる。いるのは、想像と遥かに違う優しげに微笑む女性。

「お待たせしました、少し別件の仕事は入ってしまいまして」

 黄緑色の独特なデザインのスーツを着こなした女性がここの社長と気付くまでに、春香が数瞬を要して理解する。

既に気付いていたのか隣では彼が立ち上がり名刺を差し出していた。

654: 2014/01/24(金) 21:34:05 ID:6NmjOSSI
「765プロの者です、本日は――」

「はいよく存じております、お掛けになって下さい。我々の方がこの世界では若輩者、どうぞお気楽になさって下さい」

 CGプロ社長、千川ちひろ。10代のプロデューサーが異例中の異例なら20代で芸能事務所の社長を立ち上げた彼女も十分に異例だ。

ある程度の下地はあったとはいえ、これだけの事務所に急成長させた手腕は業界内でも注目の的だ。

「ご用件は……一つしかありませんよね」

「ええ、この企画書の通りに話が進めばと考えておりますが」

 当初、彼から提案された企画は、765プロの楽曲をCGプロのアイドルがカバーするというもの。

大々的な企画ではなく、カバーアルバムを一枚でも出せたらという控えめなものだったがそこに両者の社長が食いついた。

これを一つの切っ掛けにしたいと。

「人員の交流はあるのに、アイドル間の共演は僅か。これでは寂しすぎますから」

「……大丈夫でしょうか」

 願っても無い話であることは確かだが、彼とて懸念材料はいくつもある。今回の企画に選ばれたアイドルはその半数が関係者だ、何も無い訳がない。

655: 2014/01/24(金) 21:37:09 ID:6NmjOSSI
「もう時間がありません」

 ちひろからの言葉に春香がぴくりと動く。無理もない、彼女のアイドルとしての姿を最後に見届けたのは彼女なのだから。

「私は大丈夫です、それよりも」

「彼も、それは変わりありません。ただ……」

「渋谷凜ですか」

「隠しても仕方がありませんか」

 懸念はそこだ。765のプロデューサーとして、アイドル間のトラブルは避けなければならない。

例え、彼女に時間があろうとなかろうと。

「白菊蛍のライブの件は聞いています、うちでも同様のトラブルはなかった訳じゃない。信じてはいますが、大丈夫でしょうか?」

 一年前、相対した時の彼女に早すぎると言った彼の思いは今も変わっていない。まして、そんな不安定な精神状態であるなら尚更だ。

何かあってからでは、今まで積み重ねてきたものが崩れ落ちかねない。

「これが、私が打てる最善の手です。もちろん、採取的な判断は現場の方にお任せしますが」

「それは私と彼にという事でよろしいでしょうか」

「はい、今回の件は彼に動いてもらうつもりですから」

656: 2014/01/24(金) 21:38:26 ID:6NmjOSSI
「今、彼女は?」

「別室に、場を設けましょうか?」

 彼が横にいる春香に回答を委ね、春香が首を縦に振った。会わなければ、来た意味がない。

「分かりました、少々お待ちください」

 ちひろが立ち上がり、一礼して部屋を出る。と同時に、プロデューサーが深く息を吸い込みゆっくりと吐き出した。

「何を話す気だ?」

「そんな、特別な話をするとかじゃないです。それに友達なら……私の事も知ってるでしょうから」

 春香とて良い感情を抱かれているとは思っていない、凜にとって春香は極めて微妙な立ち位置にいる。

彼女のアイドルとしての最期の姿を見届け、そして彼のプロデューサーとしての始まりを見届けた。

関係者でありながらその枠の外側から見つめる観察者、言ってしまえば関係がない。

「ただ、会わないでいるのも変かなって」

 あの日、凜が会いに来たのは彼に会う為。それを分かっていながら春香はただCDを受け取っただけで何も言わなかった。

事務所に帰って来てから千早の様子を見て、それは確信に変わった。そんな様子を見ていた彼もまた、何も言う事はなくあの日は過去になった。

657: 2014/01/24(金) 21:40:01 ID:6NmjOSSI
「失礼します」

 ふいに、馴染み深い声が彼女の耳に届く。今まで共演した事はなかった訳ではない。それでも互いにカメラの前以外で言葉を交わすことはなかった。

今まで交わらなかった線が、ようやく交わる。

「渋谷凜、知ってるよね?」

「うん、天海春香です」

 素っ気なく発せられてはいるが、その声は春香と同じ。緊張感を帯びた、そして不安を抱えた一人の女の子の声だ。

「席を外そう、終わったら読んでくれ」

 プロデューサーサーが席を立つ。少しの間、凜との間に沈黙を挟んで向かい合うが結局は何も言わず立ち去るのみ。

「来たんだ?」

「うん、来ちゃった」

658: 2014/01/24(金) 21:41:06 ID:6NmjOSSI
愛想はないものの、拒絶されている訳ではない。そう思った春香が笑みを作り手を差し伸べ――。

「ふざけないで」

「……ご、ごめんなさ」

 振り払われた手を見てから、笑みが固まる。彼女に向けられた感情は、春香もよく知るもの。

「どうして……どうして今更になって……」

 彼女自身、抑えきれない何かを吐露するかの様にもがく中で、振り絞る様にそれは発せられた。

「全て壊した癖に!!」

659: 2014/01/24(金) 21:42:51 ID:6NmjOSSI
「良かったんですか?」

 多少、ぶっきら棒な声が統括の声に届く。彼専用に用意された部屋の扉にもたれかかる様にして、一人の少女がだらしなく背中を預けている。

少し長めのポニーテールにジャージ姿の女っ気もまるでない格好だが、本人は気にした様子もない。

「何がだ?」

 対して、彼も声のトーンは似たようなもの。違うとすれば、そこに多少の気だるさが加わっているくらいか。

「凜もまゆも心の整理が付いていないのにこんな仕事をさせてる事についてです」

「他社のアイドルのカバーをこんな仕事呼ばわりとはうちも名を挙げたな」

「そういう意味じゃありません」

 ルキトレの軽い睨みに彼は軽い両手を挙げるのみ、会いたくもない顔を見に来た彼女としては戦果がそれだけでは面白くない。

「凛ちゃんと天海春香を会わせていいんですか?」

「止めろと言って止まるのか?」

「それを止めるのが貴方の役目です」

 ふいに扉がノックされ、ルキトレが慌てて立ち上がり開く。現れたのは、この企画3人目のアイドル。

660: 2014/01/24(金) 21:43:50 ID:6NmjOSSI
「お呼びでしょうか」

「まゆちゃん」

 ルキトレの呼びかけに反応もせず、まゆが統括の机の前に立つ。普段の柔らかな笑みも無く、ただ真っ直ぐに視線を彼に向ける。

「話は聞いたな?」

「はい」

「765プロとの合同企画だ、間違ってもミスはするな」

「一つ、お聞きしても宜しいですか」

 簡潔なやり取りを聞きながらルキトレが首を捻る。イメージとしてはもう少し互いに親密な印象だったが、

これではただの仕事のやり取り。常に傍についていると言われているにしては、淡々とし過ぎている。

「この企画の意図か?」

「凛さんはまだ家に?」

「今、天海春香と会っている」

「それは」

 正直、まゆにとって望む展開ではない。様々な可能性を考えても、これはリスクが大きすぎる。

661: 2014/01/24(金) 21:48:45 ID:6NmjOSSI
「千川の意向だ、俺でもあいつでもない。それは向こうの社長も同意したこと」

「何も起きない保障はありません」

「寧ろ、起きて欲しいんだろう」

 話がいまいち掴めないルキトレは先と違う理由でまた首を捻っていた。渋谷凛と天海春香なら双方の看板アイドル、

共演するのであればこれ以上ない美味しい話に思えるが。

「強引にでも前に進めるという事ですね」

「そう思う者もいる、嫌なら断ればいい」

「本当に終わらせるんですか? 今まで続けてきたものが無駄になります」

「俺の好きにできるなら好きにしている」

 返ってきたのは僅かながら感情を読み取れる程度の、淡々としたもの。これ以上の追求は無用とばかりに、彼は

そのまま言葉を紡ぐ。

「それなら尚のこと、進める人間だけでも進まなければ意味がない。そう千川は考えたんだろう」

662: 2014/01/24(金) 21:50:09 ID:6NmjOSSI
「貴方は……進めるんですか?」

「さあな」

 終われば進めるのか、それは彼にだけではない。まゆにも凛にも、更に言うなら彼や杏にも降りかかる問題。

誰もが答えを出せずとも、時間は過ぎていく。

「年明けにもレッスンは始まる、それからもう一つ知らせておくことがある」

「何でしょうか」

「今回の企画、LIVEバトルの形式になる」

「は!?」

 ルキトレが思わず立ち上がる、幾らなんでもそれは無理がありすぎる。

それはまゆも同様で、口を開けても言葉が見つからない。共演以上にメリットのない、暴走だ。

「希望を出したのは俺ではない」

「なら一体誰が?」

 ルキトレの問いに、統括はいつも通りの無表情なまま短く返した。

「凛だ」

663: 2014/01/24(金) 21:53:38 ID:6NmjOSSI
振り絞られた感情の後に残ったのは、沈黙ではなく嘆息だった。

 言葉が見つからない春香の前で、凛は焦点の合わない視線を当てもなく彷徨わせる。

「ずっと追いかけてた、追いかけ続けてきたんだ。デビューするまで頭の片隅に追いやっていた世界に飛び込んで、
 ここからだって思ったら追いかける先は後ろにしかいなくて」

 乾いた笑みと共に、彼女はその場にへたり込んだ。か細い指先が、当てもなく床の上を這い回る。

「それでも進めば何かあるって、そう信じてここまで来た。けど何も変わらなかった、あの子は目覚めない。
 彼はもうこの世界には戻れない、それだけだった」

 時計の針が時を刻む、残酷に狂おしく。

「あの日、顔を合わせたよね? 覚えてる?」

「覚えてる、拾ってくれたよね?」

 一瞬の邂逅、それでも忘れることはなかった一瞬。

664: 2014/01/24(金) 21:54:35 ID:6NmjOSSI
「私はあの日から一歩も前に進めてないのかな」

「そんなことないよ、頑張ってるの知ってる」

「頑張れば進めるなら、そんなに楽なこともないよね」

「アイドル……辛い?」

 春香の問いに、彼女は何も返さない。這わせていた指を止め、支えにして体を起こし向かい合う。

「確かめたい、どう足掻いても駄目ならやってみるしかないから」

 全ての感情を押し込めて凜が春香と向き合う。これは彼女から、未来への宣戦布告だ。

「勝負してよ、天海春香」

665: 2014/01/24(金) 21:55:42 ID:6NmjOSSI

「ああもういつもいつも勝手に決めるあの人は!」

「一言、たった一言でも相談してくれれば!」

 その頃、765では未だにプロデューサー二名による愚痴合戦が展開されていた。

見守るアイドル三名は、三者三様でその様をただ見守っているばかりだ。

「律子、今あの人どこにいるんだ?」

「駄目、連絡とろうとしても繋がらない」

「うちにいるんじゃないだろうな」

 彼が携帯を取り出し、アドレス帳の一覧を表示させる。

「凄い数」

「アイドルは全員登録してる、使うのはごく一部だが」

「多いの?」

 千早がその数を見て驚嘆の声を挙げるが、美希はその中身の方に興味津津だ。

「色んな人がいるね」

「ん? まあな、美希だってこんなもんだろ」

666: 2014/01/24(金) 21:59:15 ID:6NmjOSSI
最初に先輩プロデューサー二名の欄で止まるが、すぐに切り替える。業務の邪魔はしたくない、外回りの可能性も捨てきれない。

それなら互いに時間の無駄だ。

「こっちも出るか分からないんだが」

 事務所にいるとはいえ仕事だ、都合よく時間が空いているかどうか彼にも、

「電話に出んわ」

「いや、出ながら言われましても」

 ワンコール、そんなにタイミングが良かったのだろうかと思いつつもこれ幸いにと彼が本題に入る。

「今日、事務所にお客さんとか来てません?」

「お客さんですか? 見てませんけど」

「何か変わった人とか、でも衣装合わせ中ですよね? すみません、仕事中に」

「探してみます」

「無理にしなく――」 

 念を押す暇もなく通話は一方的に切られ、彼は諦めて天を仰いだ。

667: 2014/01/24(金) 22:00:19 ID:6NmjOSSI
「誰かに繋がったんですか?」

「楓さん、でも知らないって。探してみるって言ってたけど」

「楓さんですか」

 ありすがその名を反芻する。ありすが彼女にどの様なイメージを抱いているかは不明だが、少なくとも周囲は好感触だった。

「楓さんってあの落ち着いた人ですよね?」

「律子、それはそうなんだがあの人の場合はちょっと違うんだよ」

「とっても面白い人なの?」

「美希好みか……いや千早好みかも」

「私ですか?」

「25歳児って言われてるくらいだから」
 
 あの独特の空気感は言葉で説明しようとしても難しい、歌姫と呼ばれる歌唱力は凄まじいがどこか子供っぽい。

「千早と似てるかも」

「私とですか?」

668: 2014/01/24(金) 22:03:02 ID:6NmjOSSI
「いや、本当に何となくな。しかし手詰まりだな、戻るか」

 打ち合わせをしようにも、双方が企画の全容を把握していないのでは話が進まない。

厄介払いされたのでは疑いたくなる手際のよさに、黙って引き下がるのも彼の性分ではない。

「来たのにもう帰るの?」

「何か起こる前にな、どうせ美希達とは年明けに会う。それに」

「Pさん?」

「この子は置いてく」

「置いて……」

 置いてく、の言葉に何故かありすの双眸が潤む。

「いや、捨ててく訳じゃないんだから。鍛えてやってくれ」

 そう言葉を足して、最後に頭をポンと叩いた。

669: 2014/01/24(金) 22:05:32 ID:6NmjOSSI
「完全に邪魔者って顔をされたな」

 765プロのプロデューサーとして早数年、これまでも様々なアイドルの顔を見てきた彼もあそこまで露骨に

邪魔者扱いされたのは初めてのこと。他社をふらふらとうろつく訳にもいかず、彼はこの寒い屋上で暇を持て余していた。

「こういう時に貴音とか美希とか恋しくなるな」

 アウェー特有の疎外感に苛まれつつ、煙草に火を付けようとしてすぐに消した。

「すみません、ちょっと暇を持て余してしまいまして」

 現れたアイドルに謝罪しつつ、彼は愛想笑いを作る。彼もプロ、アイドル相手なら緊張もない。

「いえ、探していましたから」

「私を?」

「はい、貴方を」

 意外な返答に彼が目を丸くする、この事務所に顔見知りは今のところ彼だけなのだが。

「高垣楓さんですよね?」

「ええ、他の方に見えますか?」

670: 2014/01/24(金) 22:06:23 ID:6NmjOSSI
「いえ」

 纏う雰囲気はどこか浮世離れしたもの。打ち解ける取っ掛かりも見出せない彼が言葉を選ぶ前に、彼女の表情がやや引き締められた。

「765プロダクション」

「ええ、その事務所でプロデューサーをしております」

 彼が手探り状態のまま言葉を返す、用件を探ろうにも困ったことに全く心当たりがない。

「先ほど、私の担当のプロデューサーから電話がありました。変わった人は来ていないかと」

「変わった人……それが私だと?」

「寒空の下でため息をついているなら、それは変わった人だと思います」

「確かに」

 言われてみれば返す言葉もない、まして他社だ。とはいえ、

「その担当のプロデューサーが私のことを変わった人だと?」

「はい」

「……そうですか」

 あんな風変わりな過去を生きてきた人間に変わった人扱いされるのか、と嘆きたくなる。

しかし少なくともこれで彼女の用件ははっきりした、言うなれば彼からの伝書鳩だ。

671: 2014/01/24(金) 22:07:15 ID:6NmjOSSI
「分かりました、連絡を取ってみます」

 今頃、律子と二人で愚痴合戦の最中である事は想像に難くない。戻ってくるのも時間の問題。

それまでに春香と凛の間で片がつくかどうか、あるいは彼を入れての問題となるのかまだ分からない。

「お知り合いですか?」

「仕事上の友人です」

 嘘ではない。元同僚、の言葉を置き換えればこうなるというだけの事。

「それだけではありませんよね」

「それだけです、恐らくスケジュールの――」

「私は鳩です」

「鳩?」

 何の話かだろうかと考える暇もなく、彼女の口は開いた。

「貴方は鍵ですか?」

「鍵?」

「鍵なら私は必要ありません、彼にも」

672: 2014/01/24(金) 22:08:20 ID:6NmjOSSI
「鍵とは……何の鍵です?」

「檻を開く鍵です」

 言われたところで彼の疑問符は増え続けていく。檻、鍵、二つの言葉とこの状況を考え整理する。

口振りからして檻は彼のこと、であるなら――。

「貴方は鳥ですか?」

「鳩です、ぽっぽっぽ」

「であるなら、私は鍵です」

 少しだけ和らいだ彼女の空気が引き締まった。当然、それを分かった上で彼は敢えて続ける。

「檻の中を入れ替えるのも、可能性としては考えています」

「今いる檻の中の鳥がどうなっても?」

673: 2014/01/24(金) 22:08:52 ID:6NmjOSSI
「どうなっても」

 まだ踏み込まないと決めていた領域に彼は踏み込まざるを得ないでいた。

というより、彼女に踏み込まされていた。ここで引けば、彼が持っていかれてしまう。

「我々によって必要な力ですから」

 このまま終わらせたくはなかった、それが彼の我侭としても。 

「今日のところは、これ位にしておきましょうか」

「助かります」

 これは彼の本心、25歳ともなればそれ相応の重みを持つ。彼のよく知るアイドルにはない重みを。

「最後に決めるのは、あの人ですから」

674: 2014/01/24(金) 22:10:26 ID:6NmjOSSI
階下に戻ると、すぐに彼に声が掛かった。

「どこに行ってたんですかプロデューサーさん」

「少し、話は終わったのか?」

「今日のところは、ですけど」

「そうか、やっぱり難しいな」

 今日、顔を合わせただけで問題が解決するような浅い問題ではない。

何より、彼の隣にいる少女はまだ問題を直視できてはいないのだから。

「どうする? このまま帰るか?」

「まだ用があるんですか?」

「会わないままでいいのかって聞いてるんだ」

 最早、時間は残されていない。それは単純に流れた時間の長さではなく、培ってきた絆が彼らとの絆を超えてしまうまでの猶予。

675: 2014/01/24(金) 22:15:33 ID:6NmjOSSI
「……大丈夫ですよ、年明けには会うんですから」

「屋上でここのアイドルと話したよ、彼が担当しているアイドルと」

「頑張ってるって言ってました?」

「彼をここから連れていくなって言われた、真剣な目で」

「そう、ですか」

 返答に困った春香が逃げ場を求める様に振り返り、そして見つけた。

「春香?」

 それは、一年ぶりの邂逅。

「やっぱり春香か、久しぶり」

676: 2014/01/24(金) 22:17:33 ID:6NmjOSSI
765P「車を持ってくる、待ってろ」

P「プロデューサーどこ行ったんだ?」

春香「車を持ってくるって」

P「そうか、俺もありすを置いてきてるから乗せてもらっていいか?」

春香「わざわざ戻ってきたの?」

P「LIVEバトル」

春香「あ……」

P「渋谷さんか?」

春香「うん、ごめんね。黙ってて」

P「謝るのは俺の方だ、言い出したのはこっちなんだから」

春香「本当に、プロデューサーなんだね」

P「正真正銘のプロデューサーだ、雑用とは呼ばせねーよ」

677: 2014/01/24(金) 22:20:41 ID:6NmjOSSI
春香「何か……大人になったね」

P「そうか?」

春香「うん、落ち着いたというか何て言うか」

P「大人ね、まだよく分からないな」

春香「私はこの一年で変われたかな?」

P「……綺麗になった」

春香「え」

P「ほら、早く来ないと助手席取っちまうぞ」

春香「ちょ、ちょっと待って!」

678: 2014/01/24(金) 22:24:56 ID:6NmjOSSI
美希「着いたの」

ありす「どこですかここ?」

美希「お堀だよ」

ありす「堀?」

美希「うん、堀」

ありす「……」

 と言われても、とありすが押し黙る。鍛えてあげるの! と意気揚揚に美希を先頭に出てきたかと思えば、

着いたのは堀。彼女でなくても反応に困る。

千早「まあ、反応に困るわよね」

 事情を知っている千早はありすに同情の面持ちだ。どんな凄い何かが待っているのかと期待する気持ちも分かるが、

そこは星井美希。一筋縄ではいかない、良くも悪くも。

679: 2014/01/24(金) 22:26:04 ID:6NmjOSSI
美希「あそこにいるよ、先生」

ありす「……鴨しかいませんが」

美希「だから鴨先生」

ありす「あの、私はもしかして冗談を言われているのでしょうか」

千早「残念だけど多分、本気だと思う」

 困ったありすが判断を千早に仰ぐも、そう答えられては納得するしかない。

美希「何が残念なの?」

ありす「頭が」

美希「先生は偉大なの!」

ありす「鳥は鳥です!」

美希「凄い鳥なの!」

千早「いつでも自然体でいられるって言い方をしてみたらどうかしら?」

680: 2014/01/24(金) 22:30:09 ID:6NmjOSSI
美希「さすが千早さん」

ありす「美希さんとは大違いです」

 千早の提案にすぐさま乗りかかるのは子供ゆえか尊敬からか。とはいえ、そんな二人の同調はすぐに終わり、喧騒はすぐに訪れる。

美希「連れてきたのは美希!」

ありす「連れてきただけです!」

美希「ぷんぷかぷんぷん!」

ありす「意味が分かりません!」

美希「ありすちゃんにはまだ分からないかな、千早さんなら分かるよね?」

千早「……そうね」

ありす「本当ですか?」

 懐疑的なありすの視線を受け、必氏に頭の中でぷんぷかぷんぷんを別の言葉に置き換えようと試みるが、そんな人生初の試みが咄嗟に上手くいく訳もなく。

681: 2014/01/24(金) 22:35:31 ID:6NmjOSSI
千早「アイドルとしてデビューした頃は、歌が全てだった。歌さえあればほかに何もいらないって」

ありす「……」

千早「今も私にとって歌は大きいけれど、でもそれだけじゃない。それはこんなのどかな時間だったり、仲間と過ごす時間だったり……ってごめんなさい。
   これだと答えになって――」

 出てきたのは千早自身も何を言っているのと自らに突っ込みを入れたくなる言葉の羅列、これで納得される訳が――。

ありす「分かります」

美希「何で千早さんだとそうなの!?」

ありす「私が納得したからいいんです」

美希「美希は納得いってない!」

千早「それにしても、まだ連絡ないわね……プロデューサーまだ帰ってこないのかしら」

 これ幸いにと千早が話題を変える、頭の中では未だにぷんぷかぷんぷんの解釈を巡って凄まじい議論が沸き起こっていたが。

美希「どうする? どこかで遊んじゃう?」

ありす「遊びだったんですか」

千早「そうね……」

 これ以上ここにいると、また二人の間で喧嘩が起こりかねない。ならば、と千早は考える。

自分のテリトリーに二人を引きずりこんでしまえばいい。

682: 2014/01/24(金) 22:38:17 ID:6NmjOSSI
ありす「カラオケ」

美希「なの?」

千早「三名、一時間で」

ありす「千早さんってカラオケ好きなんですか?」

美希「美希は聞いたことないけど、そういえば春香が行ったって言ってたような」

 慣れた様子で手続きを進める千早を美希が意外そうな面持ちで見つめていた。春香ならともかく、彼女が進んでこういう場所に来るイメージが彼女にはなかった。

千早「私から歌わせて」

 86点!!

ありす「凄い……」

千早「そんな……また……」

美希「千早さんどうしたの? 上手だったよ?」

 採点結果を凝視したまま固まる千早を、美希が不思議そうに見上げる。平均点よりもかなり上、美希が聞いても心地のいい歌声だが当の本人の反応は優れない。

千早「いいわ、そっちがその気なら」

683: 2014/01/24(金) 22:40:40 ID:6NmjOSSI
92点!! 98点!! 72点!! 87点!!

ありす「高得点ばかり」

美希「でも千早さん満足してないの」

千早「足りない……あの時にあって今ここにないもの……そうよ!」

 自らが求める数字が現れない事に千早は苦悩していた。自身の歌はあの時と変わらない、いやそれ以上と自負している。あの時と違うのは、

千早「臨場感よ」

ありす「採点は機会ですよね?」

美希「美希もそう思うな」

千早「お願い、私に力を」

ありす「マラカス?」

美希「振るの?」

千早「さあ立ち上がって!」

店員「あの、そろそろお時間」

千早「延長で!」

 後にありすは語る。生涯において、決して忘れることはない1時間になったと。

684: 2014/01/24(金) 22:43:36 ID:6NmjOSSI
P「ありす曰く、ここらしいんですけど」

 Pがメール画面を片手に困惑の表情を浮かべていた、律子にありす達はと訪ねれば出かけたとの返事。

ならばとありすにメールを送れば、返ってきたのがこの場所だった。

765P「カラオケ? 誰の発想だ?」

春香「……千早ちゃんだと思います」

P「千早?」

春香「この前、一緒に行ったことがあって……」

P「何か意味深だな」

 Pが詳しく聞こうと思った矢先、店から出てくる人影が三つ。

千早「やっぱり正解だったわ」

美希「疲れたの……」

ありす「一曲も歌えないカラオケって意味あったんでしょうか」

 晴れ晴れとした顔で先頭を行く千早と、その後を歩くありすと美希。

これだけで、中で何があったか春香は悟った。あの時の完全再現だ。

685: 2014/01/24(金) 22:51:21 ID:6NmjOSSI
美希「千早さんの単独ライブと変わらないの」

P「何か、春香の心配が当たってそうだ」

春香「ううん、当たった」

美希「ハニー!」

765P「美希! 外でやめろって!」

美希「いいのいいの!」

 振りほどかれようとも美希には関係ない、地獄の1時間を耐え抜いた彼女には待望の清涼剤だ。

春香「千早ちゃんが言い出したの?」

千早「ええ、折角だから」

春香「大変だったでしょ?」
  
ありす「……はい」

春香「……だよね」

 同じ経験を共有した者にしか持てない、一種の連帯感が両者に生まれる。

ありすは今日、初めてまともな765のアイドルに出会えたと思った。

686: 2014/01/24(金) 22:52:20 ID:6NmjOSSI
千早「次に会うのは年明けね」

P「どうなる事やら」

美希「楽しみにしてるの」

P「こっちこそ」

春香「またね、Pくん」

 互いにエールを交わし、違う道を進む。企画がこうなった以上、次に会う時は完全にライバル。

それでも今は、と彼も素直に応えた。

P「ああ、また」

 帰り道、送っていこうかとの誘いを断って二人は駅までの道をのんびりと歩いていた。

寒風は厳しいが、先まで室内にいたありすにとってはいい気分転換だ。

P「少しは勉強になったか?」

ありす「一つ」

P「一つだけ?」

ありす「変人にならないとトップアイドルってなれないんですね」

687: 2014/01/24(金) 22:54:03 ID:6NmjOSSI
P「……いやそんなことはないだろ、きっと」

 違う、とは言えず彼は言葉を濁した。何を言ったところで、事務所に帰れば実例がもりだくさんだ。

ありす「それからPさん」

P「ん?」

ありす「どうして私を選んだかの答えをまだ聞いてません」

 痛いところを突かれ彼が足を止める。言うべきか否か迷った末、言えなかったのは自分の弱さ。

それでも、自分だけが逃げ続けるのはもう終わりだ。

P「本番までには決着をつけるから、それまで待ってくれないか?」

ありす「決着ですか?」

P「そう、決着。本当はもうとっくの昔に決まってた勝負なんだけどな。1年間ずっと逃げ回ってたけど、
  俺だけ逃げ回って他の奴には向き合えなんて言えないし」

ありす「それが終わったら教えてくれるんですね?」

P「……約束する」

 それだけを答えて、彼は再び歩き出した。新しい年は、もうすぐそこだ。

688: 2014/01/24(金) 22:56:22 ID:6NmjOSSI
P「明けたな」

杏「あけおめ」

P「未成年だから休めって言われたけど、いいんだろうか」

杏「これでいいんだよ、正月まで働きたくない」

P「紅白出たくないのか?」

杏「楓さんに任せとけばいいんだよ、似合うし」

P「着物姿は綺麗だった、統括が全体を仕切ってたけど」

杏「で、はい」

P「何だその手」

杏「くれるものがあるでしょ?」

P「くれるもの?」

杏「お年玉」

P「俺より稼いでるのに集るのか?」

689: 2014/01/24(金) 22:57:26 ID:6NmjOSSI
杏「こういうのは気持ちなんだよ」

P「はい気持ちあげた」

杏「この……」

P「貰う側にも態度ってのがある」

杏「あーんず! だーいすきなおにいちゃんからお年玉もらえたら、とってもはぴはぴ!」

P「なあ、真剣に聞く。何をどう考えたらその行動に結びつくんだ?」

杏「10万は固いと思ったのに」

P「ファンにやれよ」

杏「ファンにやっても同じ反応だよ、鍛えられてるから」

P「お前のファンと友達になれそう」

杏「嫌だよそんなの」

P「よし、着替えろ出るぞ」

杏「マジ?」

P「お年玉、欲しいんだろ?」

690: 2014/01/24(金) 22:58:33 ID:6NmjOSSI
杏「で、どこに行くのさ?」

P「お年玉の一言で外に出ようと決めたお前に驚きだよ」

杏「いいよ、どうせ車だし」

P「二人で外出ってのもなかったからな」

杏「休み、合わなかったし」

P「合わせてもな、たまに仕事先で顔は合わせてたけど」

杏「苗字、合わせないの?」

P「母さんの旧姓は嫌か?」

杏「嫌じゃないけど、何で別々にしたのかなって」

P「だって俺の苗字って業界内だと有名だから、あの事務所って勘繰られるぞ」

杏「いいよそれくらい」

P「俺が嫌なの」

杏「何それ」

691: 2014/01/24(金) 23:00:11 ID:6NmjOSSI
P「どこに行くか聞かないんだな」

杏「聞いて答えてくれるの?」

P「答える」

杏「……どこ?」

P「俺達が知ってる神社なんて一つしかない」

杏「あの神社、祈っても何にもならなかった」

P「なったろ、プロデューサーとアイドルだ。とんでもない力だ」

杏「それ神社のお陰?」

P「そりゃ色々と思うところはあるけどさ、神様に当り散らしてもなあ」

杏「案外、愚痴くらいなら聞いてくれるかも」

P「愚痴? 妹がアイドルになりました、俺より遥かに売れてます。嬉しいんですけど何か複雑です」

杏「兄がプロデューサーになったはいいけど、ハーレム作ろうとしてます」

P「ハーレム……」

杏「今年は何人増えるんだろうね」

P「増えねえよ!」

692: 2014/01/24(金) 23:01:21 ID:6NmjOSSI
杏「杏が言うのもなんだけど、地味な神社だよね」

P「そもそも何を祀ってんだろうな」

杏「知らない」

P「だからご利益なかったのか」

杏「自分の名前も知らない相手に願われたって、叶える気しないよね」

P「覚えるか?」

杏「めんどい」

P「今更だよなあ」

杏「何か肝試しみたい」

P「正月なのにこの静けさは不気味だ」

杏「だって目立ちたくないからってわざわざ外れの無名神社に来てたんじゃん、人なんていないよ」

P「昔は所属していたアイドル一緒に来てたから」

693: 2014/01/24(金) 23:02:10 ID:6NmjOSSI
杏「そんな時代もあったね」

P「あったあった、ほらお賽銭」

杏「くれないの?」

P「お前な」

杏「いいじゃん、杏の分も入れておいてよ」

P「お前の願いなんて知れてるけど」

杏「当ててみなよ」

P「楽したい」

杏「外れ」

P「嘘だろ!?」

杏「何その反応」

P「今年一番驚いた」

杏「面白くないから」

P「笑わせてねえよ、じゃあ何なんだよ?」

694: 2014/01/24(金) 23:04:23 ID:6NmjOSSI
杏「そっちは?」

P「俺? んなもん給料上がりますようにだ」

杏「嘘」

P「嘘じゃねえよ、これも本当」

杏「いいけどさ、言わない方が叶う気がする」

P「神様の力になんか頼ってたまるか」

杏「それはいいけど、人に頼ることは覚えてね」

P「頼りっぱなしだと思う、割と本気で」

杏「それは結果的に頼ってるってだけ」

P「お賽銭くれたら聞いてやる」

杏「あげる」

P「……冗談だぞ?」

杏「いいよ、別にこれくらい」

695: 2014/01/24(金) 23:04:56 ID:6NmjOSSI
P「それで気が済むなら」

杏「ん」

P「さて、御神籤でも……」

杏「考えることは同じ、だね」

P「みたいだな、上がってくるけど素直に待つか?」

杏「そんな言い方をするってことは何か考えてるんでしょ?」

P「ちょっとだけな」

まゆ「はあ……寒い……」

 汝の願いを答えよ

まゆ「え?」

 汝の願いを答えよ

まゆ「Pさん?」

696: 2014/01/24(金) 23:06:02 ID:6NmjOSSI
杏「下手」

P「声優の経験もあるのに……どうしてばれた」

杏「だから下手だって」

まゆ「あの」

P「あ、おめでと。まゆ、歩いてきたのか?」

まゆ「下までタクシーで、それで」

P「じゃあ帰りは乗ってけ、送ってやるから」

杏「そこまでして来る場所?」

P「去年も来たのか?」

まゆ「いえ……去年は」

P「仙台だっけ? 三人とも激動の二年だったよな」

まゆ「……怒らないんですか?」

P「何て怒ればいいんだ?」

697: 2014/01/24(金) 23:09:34 ID:6NmjOSSI
まゆ「私のせいって言えばいいじゃないですか!」

P「誰より自分を責めてる人間を怒っても何にもならないってもう知ってるから」

まゆ「それでも!!」

P「怒られてどうにかなるのか?」

まゆ「どう……」

P「目が覚めた時、動かないなって思った。声を出してみて、違うなって思った。
  やるせなさはあった、これで終わりかって。医師から話を聞いてもどこか他人事で、
  もしかしたら動くんじゃないかって思ったけどやっぱり動かなかった」

杏「……」

P「誰のせいにする気も起きなかったよ、負けた俺が悪い」

杏「天海春香のせいとは思わなかったの?」

P「話が通ってて俺が受かる前提だったのに負けたんだ。もうそんなの納得するしかない」

杏「できるの?」

P「あいつは太陽なんだよ。絶対に手の届かない太陽、伸ばしたところで俺みたいなのは落っこちる。
  で、実際に落っこちた」

698: 2014/01/24(金) 23:13:18 ID:6NmjOSSI
杏「まだ落ちてない」

P「落ちちゃった、ごめんな」

杏「車、戻ってる。忘れないでね」

P「忘れてないって、ちゃんとやるから」

まゆ「杏さん、来たんですね」

P「お年玉に釣られてな、家族は?」

まゆ「家に」

P「そっか……最後に会ったのはもうずっと前だな」

まゆ「どうしてここに来ようと思ったんですか?」

P「まゆが来るかなって思って」

まゆ「……嘘が上手になりましたね」

P「LIVEバトル、聞いたか?」

まゆ「凛さんの希望と聞いてます」

P「曲がりなりにも決着をつけたいんだろうな、形にしないと納得できないから」

699: 2014/01/24(金) 23:14:55 ID:6NmjOSSI
まゆ「Pさんは勝てると思いますか?」

P「いや、勝てなくていいと思う。まだ」

まゆ「まだ?」

P「それはありすも同じ、慌てなくていいんだ。時間はあるんだから」

まゆ「どうして――」

P「何でアイドルしようと思った?」

まゆ「……」

P「モデルやってたんだよな? そっちを続けようとは思わなかったのか?」

まゆ「いるんです」

P「何が?」

まゆ「Pさんが、ずっと私の中に」

P「迷わなかったのか?」

まゆ「迷いました、迷いましたけど」

700: 2014/01/24(金) 23:17:11 ID:6NmjOSSI
P「何か決め手でもあったのか?」

まゆ「迷うならやれと言われまして」

P「……統括?」

まゆ「はい」

P「あの人も分からないな」

まゆ「この前、言ってましたよね。壁だと」

P「まゆにとっての統括って話か?」

まゆ「そう見えますか?」

P「見えるって言うか……んーと、まずまゆは一途で可愛い」

まゆ「かわっ!?」

P「驚くなよ、そんで不器用」

まゆ「料理とかもできます」

P「そういう事じゃないよ」

まゆ「……何が言いたいんですか?」

P「だから、俺に何かあったところでそう簡単に好きな人を変えられない。そいつがどんな馬鹿でも」

701: 2014/01/24(金) 23:24:28 ID:6NmjOSSI
まゆ「馬鹿じゃありません」

P「ほら」

まゆ「そうやって……すぐにからかうんですから」

P「だから統括に目移りしたって聞いてもあんまり信じてなかった、でも事実でもいいと思ってた。
  そこまで変ったんなら、それもいいかなって。でも、そのまんまだった。何にも変わってない、いたのは俺がよく知ってる佐久間まゆだった」

まゆ「変わりましたよ」

P「でもそれは佐久間まゆとしてだ」

まゆ「どうして、ここに来る気になったんですか? 抱えなくてもいい問題に自ら飛び込んで苦しんで……それで答えが出るんですか?」

P「違う、逃げたんだ」

まゆ「逃げた?」

P「見たくなかった、だから逃げた。ここは俺にとってただの逃げ場だったんだよ、だから杏やまゆがいた事も知らなくて驚いて……顔を合わせずらかった」

まゆ「そうは見えません、入って立派に」

P「がむしゃらに進んだ、でもそれはあそこにいるよりマシだって自分に言い聞かせたからってだけだ」

まゆ「どうしてそんなに自分を卑下するんですか、そんなの聞きたくありません」

P「お前は壁越しでも俺を見続けただろう、俺はそれもできなかったんだよ」

702: 2014/01/24(金) 23:28:32 ID:6NmjOSSI
まゆ「Pさん、あの……もしかして」

P「ありすに俺の歌を聞かせた」

まゆ「それはっ」

P「託す訳じゃない、代わりになってくれとも思ってない。けど、そうでもしないときっと春香は進もうとは思わないから」

まゆ「……私が示します」

P「まゆ?」

まゆ「言って下さい、彼女に」

P「いいのか?」

まゆ「Pさんはやっぱり意地悪ですね」

P「はは、治らないかな」

まゆ「Pさんはプロデューサーですから、もっと世界を広げて下さい。たくさんのアイドルを見て、たくさんの人と出会って、たくさんの夢を知って」

P「知って……どうするんだ?」

まゆ「そして最後に、まゆを見てくれたらそれでいいですから」

703: 2014/01/24(金) 23:31:26 ID:6NmjOSSI
杏「お帰り」

P「ほい、約束の。まゆもやるよ」

杏「ありがと」

まゆ「まゆにもですか?」

杏「……ふーんって!」

P「何だ?」

杏「これ仕事場への地図じゃん!」

P「あ、間違えた」

704: 2014/01/24(金) 23:38:59 ID:6NmjOSSI
マストレ「さて、また年始から凄い仕事だな」

P「千早がarcadia、美希がedeNってもう本気ですよね、こっちがカバーなんだからあっちもカバーするのかと思ってたんですが。
  何でよりによって200万も売った曲を持ってくるのかと」

マストレ「天海春香はまだ未定か?」

P「特に何も、別に教えてくれてもくれなくてもいいんです。あっちが好きに知らせてきただけですから」

マストレ「勝つ気も無いのだろう?」

P「勝たせてくれるんですか?」」

マストレ「少なくとも、あの三人はそう思っているようだ」

P「……らしいと言えばらしいですね」

マストレ「別にこちらを応援しろとは言わないが」

P「しますよ、プロデューサーなんですから」

ルキトレ「あ、いた!」

P「いたって何だよ、レッスンの邪魔はしないから安心しろ」

705: 2014/01/24(金) 23:42:02 ID:6NmjOSSI
ルキトレ「身体は?」

P「復帰してから正月休みまで貰ったんだ、働ける」

ルキトレ「無理しちゃ、駄目だよ」

P「あんなのがそんな簡単に起こってたまるか、大丈夫だ。レッスン頼むな」

ルキトレ「あ……」

マストレ「追いかけたいか?」

ルキトレ「今はまだ、追いつけないから。レッスン手伝ってくるね」

マストレ「……どいつもこいつも」

706: 2014/01/24(金) 23:50:12 ID:6NmjOSSI
凛「好調みたいだね」

まゆ「負ける訳にはいきませんから」

凛「あんまり拘るタイプには見えないけど、違うんだ。意外」

まゆ「連敗は許されません」

凛「連敗? 一度は負けたの?」

まゆ「ええ、ですから二度目は許されないんです」

凛「それは誰との勝負?」

まゆ「春香さんですよ」

凛「私は違うんだ?」

まゆ「違います」

凛「言いきられちゃった、今の私は眼中にないってこと?」

まゆ「目的が違いますから」

トレ「確かに変わった、少しだけど。でも確かな一歩」

凛「トレーナーさん」

707: 2014/01/24(金) 23:54:19 ID:6NmjOSSI
トレ「凜ちゃんはどう? 歌ってみて、レッスンで何度か歌った事はあるけど。ステージ上はやっぱり違うでしょう?」

凛「どうなんだろう、他人の歌は初めてだから」

トレ「やるからには勝てるように」

凛「天海春香は前を見て進み続けてきた。それが正しいのか、違うのか。私が見てるのは本当に過去なのか、それは間違ってるのか。
  これが一番はっきりするから」

トレ「……正解なんて、一つじゃないよ」

凛「でも、きっと何かの答えはあると思う」

ありす「凜さん」

凛「おはよ」

トレ「おはよう、ありすちゃんもう少し遅くてもよかったんだよ?」

ありす「いえ、一つお願いがあるんです」

トレ「レッスンは今日はSTARTよね?」

ありす「参考資料があるんです」

708: 2014/01/25(土) 00:00:27 ID:u3tAqZLc
トレ「参考資料?」

ありす「はい、これです」

トレ「CD……STARTなら事務所で用意したよ?」

ありす「天海春香のではありません、それはカバーです」

凛「他の人がカバーしたのを聞いて参考にしようって思ったの?」

トレ「カバーなんて……」

まゆ「どなたのですか?」

ありす「それは……秘密です」

凛「アマチュア?」

ありす「言ってしまえばそうです、ですが私と似ていますので」

トレ「それなら参考になるかも、聞いてみましょうか」

ありす「お願いします」

トレ「一曲しか入ってないけど、これでいいの?」

ありす「はい」

709: 2014/01/25(土) 00:02:02 ID:u3tAqZLc
凛「何か」

まゆ「元の曲とまるで別物」

ありす「ここからです」

トレ「男性?」

凛「これっ!?」

まゆ「嘘……」

トレ「二人ともどうしたの?」

凛「いえ……まゆ」

まゆ「間違いありません、ありすちゃんこれをどこで?」

ありす「Pさんからです、参考にしろと」

トレ「彼から?」

凛「どういうこと?」

710: 2014/01/25(土) 00:04:37 ID:u3tAqZLc
まゆ「まゆに聞かれても、何て言えばいいのか」

凛「でもこれ間違いないよ」

まゆ「……託す相手は、まゆではなかったということですね」

凛「悔しい?」

まゆ「いえ、言いましたから。最後に見てくれたらそれでいいと。それでも、あの子にも負ける訳にはいかなくなりました」

凛「気付かなかった、今まであの子の歌を聞いた事がなかったから。でも丁度いい、託すって言うのならこれで二人まとめて相手にできる」

ありす「知っているんですか?」

凛「知ってたら何?」

ありす「いえ」

凛「いいな、純粋に目指せるんだ」

ありす「目指している訳ではありません」

凛「参考にしたいから持ってきたんでしょ?」

ありす「はい」

711: 2014/01/25(土) 00:05:17 ID:u3tAqZLc
凛「ありがと」

ありす「どうして凜さんがお礼を言うんですか?」

凛「ちょっとね、これはプロデューサーがいつ歌った曲なの?」

ありす「……知ってるんですか」

凛「まあね」

ありす「最後だと言っていました、アイドルとして最後だと」

まゆ「あの時」

凛「心当たりあるんだ」

まゆ「恐らく、最後のオーディションの時かと」

凛「本当に最後だ、残ってたんだ」

まゆ「貴方が紡ぐんですか? 過去と未来を」

ありす「私は私の歌しか歌えません、これはあくまで参考です。比べられない為に」

トレ「とりあえず、一通り歌って見ましょうか」

ありす「宜しくお願いします」

712: 2014/01/25(土) 00:07:13 ID:u3tAqZLc
美希「春香」

春香「美希、珍しいね。屋上に来るなんて」

美希「曲、決めてないの?」

春香「……どうしよかなって」

美希「何でもいいんじゃないの? それとも本番まで黙っとく?」

春香「STARTは、元々は私の曲じゃない」

美希「だから?」

春香「私が歌ってもいいのかなって、本当はありすちゃんに歌って欲しいのかもしれない」

美希「本気で思ってる? だったら失礼だね、Pくんにもありすちゃんにも」

春香「だって! 私がいるからPくんは」

美希「逃げたね」

春香「っ!」

713: 2014/01/25(土) 00:08:03 ID:u3tAqZLc
美希「今更なの、1年って変わるには充分だよ。春香も美希も変わった、Pくんも変わった」

春香「それは、そうだけど」

美希「春香に勝ちたいのは美希も同じ」

春香「何を言って……IA大賞は」

美希「出なかったよね」

春香「出ても同じだったよ」

美希「勝ったら、ハニーに言うから」

春香「言うって、美希」

美希「そんな所にいる春香はどう思われるんだろうね、笑われちゃうかもね。あはっ!」

春香「私は……」

美希「明日、待ってるから。楽しみにしてる」

千早「美希」

美希「千早さん、隠れてなくてもよかったのに」

千早「負けないから」

美希「そうこなくっちゃ、なの」

714: 2014/01/25(土) 00:10:07 ID:u3tAqZLc
千枝「ありすちゃんおは……起きてたんだ」

ありす「うん」

千枝「緊張してる?」

ありす「してるけど、歌う事じゃなくて」

千枝「じゃなくて?」

ありす「何だろう、よく分からない」

千枝「見てるよ、ちゃんとありすちゃんに入れるね」

ありす「頑張るから」

715: 2014/01/25(土) 00:13:48 ID:u3tAqZLc
凛「行ってくるね、どんな結果になっても報告に来るから」

統括「凛」

凛「統括、来てたんだ」

統括「行け」

凛「言われなくても行くって」

統括「……すまない」

凛「……何それ」

統括「プロデューサーが俺でなければ、ここまでお前は」

凛「だから、ここまで来れた」

統括「俺もだ」

凛「そう、なら少しはお似合いなのかもね」

統括「寝言は寝て言え」

凛「いってきます」

716: 2014/01/25(土) 00:15:44 ID:u3tAqZLc
杏「何か決めたって顔をしてるね」

P「分かるか?」

杏「まあ、まゆはこっちに来るの?」

P「現地に一緒に行く事になってる」

杏「生放送なんて凄い企画になったね」

P「765の力だな」

杏「投票は視聴者を対象に投票形式、ここまで母数を大きくしたらとんでもない差になりそうだね」

P「操作」

杏「できるの?」

P「誰がするか、おっと来たな」

杏「出る」

まゆ「おはよ――」

杏「おはよ、またお洒落だね」

717: 2014/01/25(土) 00:16:47 ID:u3tAqZLc
まゆ「……」

杏「何?」

まゆ「雨でしょうか」

杏「言う様になったね、着替え中。だから仕方なく」

まゆ「でしたら」

杏「入れると思う?」

まゆ「はい!」

杏「今日のあれ、まゆには絶対に入れない」

まゆ「当てにしてません」

杏「この……ちょっと近づけたからって」

P「そこ、二年前に戻ってるぞ」

杏「千枝なら妥協するけどあれとか嫌」

P「何の話だよ!!」

718: 2014/01/25(土) 00:18:19 ID:u3tAqZLc
まゆ「行ってきます」

杏「はいはい、とっとと行って」

P「昼飯は冷蔵庫」

杏「分かってる」

まゆ「夕飯はまゆが作りますね」

杏「え」

P「作るか?」

杏「無理」

P「だとさ」

まゆ「楽しみにしてて下さいね」

杏「ある意味」

P「じゃあな」

杏「すっかり元気になって……まあ、悪くない。悪くないよね?」

719: 2014/01/25(土) 00:19:42 ID:u3tAqZLc
765P「曲順は番組の冒頭でくじで決める」

P「セットは統一、どこまでも公平にですか」

765P「それと春香だが、すまない。直前まで公表しない事になった」

P「それならそれで、別に対策とかありませんから」

765P「というか、本人が決めあぐねてる」

P「順番、遅らせますか? 別に最初から決めても構いませんよ」

千早「いえ、予定通りさせて下さい」

P「千早」

千早「でないと意味がありませんから」

P「いいのか?」

千早「一番手でも最後でも同じです」

P「あくまで真剣勝負か?」

千早「歌に妥協はしたくありません」

720: 2014/01/25(土) 00:21:41 ID:u3tAqZLc
P「それで春香がどうなったとしても?」

千早「勝つ為に来ましたから」

P「……分かった」

千早「私は春香の様にはできませんから、できるのは歌う事だけです」

P「……何だかんだで、春香の為だったりするあたりは千早か」

スタッフ「すいません!」

765P「はい!」

凛「投票は全員の歌が終わってから10分間、賞品も無いあくまで真剣勝負」

ありす「……」

凛「集中? 緊張?」

ありす「順番も決まってません」

721: 2014/01/25(土) 00:23:10 ID:u3tAqZLc
凛「そう、まゆはどうしたのかな」

まゆ「いますよ」

凛「どこ行ってたの?」

まゆ「挨拶に、まゆだけ面識がありませんでしたから」

凛「会ったの?」

ありす「少しですが、よく知ってますね」

まゆ「先ほどお聞きしましたから」

凛「……ちょっと行ってくる」

美希「凜ちゃんだっけ? あふぅ」

凛「一人?」

美希「みーんなどこかに行っちゃったよ、美希はここでお昼寝」

722: 2014/01/25(土) 00:25:36 ID:u3tAqZLc
凛「ひ、昼寝?」

美希「本番までまだ少しあるよ?」

凛「よくこんな状況で」

美希「春香なら屋上なんじゃないかな」

凛「屋上?」

美希「最近、よく行くから」

凛「ありがと」

美希「ううん、春香をお願いします。なの」

凛「は?」

美希「凜ちゃんみたいなタイプが一番かなって、美希じゃ駄目みたいだから」

凛「駄目って、私は別に」

美希「負けないよ」

凛「私も、負ける気ありません」

723: 2014/01/25(土) 00:26:42 ID:u3tAqZLc
765P「少し時間が余ったな」

P「煙草でも行きます? 時間になったら連絡しますから」

765P「なあ」

P「何です?」

765P「戻ってくる気はないか」

P「また何を」

765P「俺のせいか?」

P「それこそ見当外れもいいところです」

765P「本当にそうか?」

P「ちょっと、外の空気を吸ってきます」

765P「……逃げられたか、そればっかりだな俺は」

P「やれやれ、あの人も全く」

724: 2014/01/25(土) 00:29:15 ID:u3tAqZLc
春香「あ……」

P「よう、気が合うな。気分転換か?」

春香「Pくんは?」

P「気分転換、かな。でも丁度よかった」

春香「曲……決められないよ」

P「直前までに決めればいいさ、何を歌ったってファンは喜ぶ」

春香「どうしてSTARTなの?」

P「俺の終わりで、春香の始まりの歌。それじゃ駄目か?」

春香「私が奪った歌」

凛「……天海春香とプロデューサー?」

P「それはもう1年前に通り過ぎた道だ、忘れたのか?」

春香「忘れてない! 忘れてないけど」

725: 2014/01/25(土) 00:30:33 ID:u3tAqZLc
P「ごめん、逃げて。本当は迷ってたんだ、このままCGプロに行ってしまっていいのかって、ここにいる未来もあるんじゃないかって。
  それでも俺は逃げた、見たくないって思っちゃったから」

春香「私のせいだよね」

P「眩しくなったんだ、それは春香だけじゃない。千早が、美希が、皆が眩しかった。成り行きで入った場所が、いつしか眩しすぎて」

春香「それはプロデューサーや律子さんや小鳥さんや社長や……Pくんがいたから、頑張れたんだよ」

P「ありがとう、そう思ってくれてるなら嬉しい」

春香「戻ってくるつもりは……ないの?」

P「上手くいくわけないと思ってた」

春香「シンデレラガールズが?」

P「100名以上のアイドル、社長はほとんど素人。手探りなまま何とか1年持っただけ、そんな印象だった。だから逃げ場には丁度いいなって思った。
  だけど入ってみたら、凄い輝いてた。笑っちゃうよ、眩しくて逃げてきたのに逃げた先も眩しくて……眩しすぎて、慣れちゃったよ」

春香「本当に?」

P「色んな思いがある、前向きだったり後ろ向きだったり。でもそれでいいんだって思えた、いつも前を向いていなくていい。いつも笑ってなくてもいい。
  それでも最後には皆が笑って、明日へ向かって進んでいける。ずっと前から分かってた、分からないふりして逃げて、でも思い知った」

726: 2014/01/25(土) 00:33:11 ID:u3tAqZLc
凛「……」

P「俺はアイドルが大好きなんだ。ステージ上で輝いて、失敗して落ち込んで、レッスンで汗を流して、懸命に夢を届けようとするその姿が」

春香「Pくん、私は――」

P「歌ってくれたのが春香でよかった、春香だから俺は受け止められた。太陽みたいで、泣き虫で、転んだり跳ねた。そんな春香だから俺は……」
アイドルをまた好きになれた」

凛「……!!」

P「好きに歌えって、春香が泣いてたらあいつだって心配する。起きた時に笑って迎えよう、それが俺達が進んできた道の証になる」

春香「Pくん、あの、あのね」

P「泣くなよ、アイドルなんだから歌ってこい」

春香「……頑張るから」

P「へいへい」

凛「青春をありがとう」

P「……扉に隠れてたのか」

凛「いいもの見せてもらった」

727: 2014/01/25(土) 00:34:34 ID:u3tAqZLc
P「本当にいい性格してるな」

凛「何あの半端な告白」

P「別にそういう告白をする気なんてないっての」

凛「付き合える見込みがないからこっちに逃げて女探ししてたの?」

P「何とも悪意のある言い方だなおい、統括に言うぞ」

凛「いいよ」

P「この事務所のアイドルは本当に……」

凛「まあいいや、お互い頑張ろうね」

P「もう時間だろ、さっさと行け」

728: 2014/01/25(土) 00:35:18 ID:u3tAqZLc
凛「勝ったら一つ言う事を聞いてよ」

P「勝ったらな」

凛「そうだね、プロデュースして欲しいな」

P「俺に?」

凛「アイドルはいいよ、何か可哀想だし」

P「可哀想……」

凛「だから代わりに歌うよ。二人合わせればもっと届く、それにさっきの言葉は私も共感したから」

P「さっきって?」

凛「私もアイドルは大好きだから、じゃあ下で待ってる」

P「……白菊さんの時は泣きそうな顔してたくせに」

729: 2014/01/25(土) 00:36:50 ID:u3tAqZLc
765P「戻ってきたか」

P「今からですよね?」

765P「何か顔が赤いぞ、どうした?」

P「いえ、ちょっと色々と」

765P「まあいいが、抽選だ」

美希「1番!」

P「げ!」

765P「一番手だからって委縮するタイプじゃないぞ」

P「よく知ってますよ」

千早「2番です」

P「固まってくれたのはラッキーか……次は渋谷さん引いてしまえ」

ありす「3番です」

P「何でお前は妙な所で」

765P「……変な念を送るからだ」

730: 2014/01/25(土) 00:38:52 ID:u3tAqZLc
まゆ「4番」

凛「5番」

P「うわ、3連発」

765P「自動的に春香は最後か」

P「ちょっと、確認してきますね」

美希「1番だよハニー!」

765P「それは順番であって順位じゃないからな」

美希「決まった様なものなの」

春香「美希、それだと私がドベって事になっちゃうんだけど」

美希「違うの?」

春香「逆にしてあげる!」

731: 2014/01/25(土) 00:39:54 ID:u3tAqZLc
千早「私は5位ってこと?」

春香「千早ちゃん……意地悪」

美希「そういえば春香、凜ちゃんに会った?」

春香「会ってないけど、私に会いに来たとか?」

美希「屋上にいるって案内したの、行き違いになっちゃったのかなあ」

春香「……あ」

765P「そういえば……Pも外の空気を吸ってくるとかなんとか」

美希「美希、もしかして酷い事しちゃった?」

凛「そうだね、なかなかいい青春だった」

732: 2014/01/25(土) 00:40:45 ID:u3tAqZLc
春香「あれはそんなのじゃないから!」

凛「プロデューサーもただの男だって分かっただけ収穫かな、ありがとう。ちょっと吹っ切れた」

春香「あ、あははははは」

まゆ「ただの男ではありません、凄い人なんです」

千早「そうね、だから私達も応えないと」

765P「もう一人の子はどうしたんだ?」

凛「さっきまでいたのに、どこだろ?」

733: 2014/01/25(土) 00:42:07 ID:u3tAqZLc
ありす「Pさん」

P「ありす」

ありす「直前まで担当アイドルに一声も掛けないなんていい度胸です」

P「忙しかったんだよ、3番手だな」

ありす「凛さんとまゆさん、Pさんの事を知っているようですが」

P「聞かせたのか?」

ありす「唖然としてました」

P「唖然ね、あの二人は直に聞いたことがあるってのに」

ありす「直にですか」

P「まあ、一人はもう古い付き合いだから」

ありす「だからこの三人なんですか?」

P「俺の意向はありすだけ」

734: 2014/01/25(土) 00:42:49 ID:u3tAqZLc
ありす「……それで、教えてくれるんですか?」

P「もう俺は歌えないって話はしたよな?」

ありす「しました」

P「で、実はありす以外の5人は知ってたりする。とっくの昔に」

ありす「一人だけ仲間外れですか」

P「俺が自分からアイドルだったって言ったのもありすだけだよ」

ありす「そういう言い方は、狡いです」

P「俺の性格なんてもう知り尽くしてるだろ?」

ありす「1年で全てが知れる程度の人にここまでついていこうなんて思いません」

P「765からこっちに来て……実はあんまりやる気なかった、来た理由も来た理由だったから」

ありす「何ですか、誰かに振られて逃げてきたんですか?」

P「……ゲームの主役にそういう奴がいるのか?」

ありす「凛さんが言ってました、プロデューサーもただの男だったって」

735: 2014/01/25(土) 00:43:26 ID:u3tAqZLc
P「俺は最初からただの情けない男だよ」

ありす「それは知ってます」

P「泣かされそう」

ありす「泣くのは結果が出てからです」

P「だからプロデューサーとしてやれるかどうかなんて未知数だったし、通用するとは思ってなかった」

ありす「してますよ」

P「加蓮がいて奈緒がいて、幸子がいて楓さんがいて、そんな奇跡の積み重ねで何とか綱渡りしてた。
  綱渡りしながら何とかこらえてたらある日、隣に綱渡りしてるのを見つけた」

ありす「……私ですか?」

P「他にいるか?」

ありす「そんな馬鹿みたいなことする趣味はありません」

P「名前で呼ぶな、馴れ馴れしくするな。空き時間はミステリーかゲームに没頭、音楽の勉強の為であってアイドルそのものに
  さして興味はないと公言。この上ない綱渡りだったと思うが」

ありす「……」

P「こいつ落ちたら俺も落ちようかなって思って、あの日に誘ったんだ。運命を他人任せにした記念すべき瞬間」

736: 2014/01/25(土) 00:44:12 ID:u3tAqZLc
ありす「どんな記念ですか!」

P「だから話してみた、どんな反応するかなって思って」

ありす「あの無駄にシリアスな語りは嘘だったんですか?」

P「あれもあれで本当、ありすが落ちたら落ちようって決めて吹っ切れてたから言えた。
  諦めきれないけど、でも一人で進むにも限界だったから。道連れにしてやろうかと」

ありす「色々な意味を込めて言います、大概な人ですね」

P「どうも」

ありす「それでよくここまで続きましたね」

P「だってそんなイメージ持ってたのを連れ回したら全てついてきて、ついには待てますかときた」

ありす「どんな気持ちで聞いてました?」

P「いつ落ちるのかなって」

ありす「今すぐ落ちて下さい」

P「ありすより先に落ちるのは嫌だな」

ありす「それだけで続けられたんですか? そこまで追い詰められてた人が」

737: 2014/01/25(土) 00:45:41 ID:u3tAqZLc
P「落ちないから」

ありす「落ちましょうか?」

P「俺より先には落ちるのは無理だろ?」

ありす「足を引っ張りますから」

P「お前な」

ありす「嘘ですよ。多分、そんな事をしたところで千枝が邪魔してくるだけです」

P「千枝を何だと思ってんだよ」

ありす「仲間です」

P「……だから落ちないか」

ありす「私が綱渡りをしていたのは認めます、ですがPさんは違います」

P「俺の方が先に綱の上にいたと思うが」

ありす「私がいるのを見つけて、わざわざ隣の綱の上に乗ってきただけです」

P「そんなの変人にも程がある」

738: 2014/01/25(土) 00:46:17 ID:u3tAqZLc
ありす「自覚してなかったんですか?」

P「そんな悲しい自覚はしたくない」

ありす「本当に情けない人は綱渡りしながら人の問題に頭から突っ込んでいきません。綱から綱へと飛び移りながら落ちたい落ちたい言ってる人がいて誰が本気にするんですか」

P「落ちたいからやってるだけかも」

ありす「その人は誰かの前で落ちるような真似はしません、落ちるなら誰もいない所で落ちていく人です」

P「買い被りすぎだ」

ありす「Pさんのこれまでなんて知りません、知ってるのはこの一年だけです。でも、この一年は誰よりも見てきました。見てきたから言えます」

P「ありす、時間だ」

ありす「Pさんが誰よりもこの世界に夢を見ているから、私も隣で夢を見ていられるんです」

P「……そんな必氏になるな、今からステージに立つんだぞ?」

ありす「心配しないでください、仕事はきちんとします」

P「大きくなったな、たった一年なのに」

ありす「当然です、誰が育てたと思ってるんですか」

P「本当に言う様になったな。いってこい、ありす」

ありす「いってきます、Pさん」

739: 2014/01/25(土) 00:47:34 ID:u3tAqZLc
美希「美希の聞いてた?」

P「聞こえてた、千早もかっこいいな」

美希「Pくん」

P「言った」

美希「……そっか」

P「そうだよ」

美希「男の子だもんね」

P「そうだよ優しい男の子だ」

美希「優しいだけじゃ駄目なの」

P「駄目でいいんだよ」

美希「美希は諦めないから」

P「俺は諦めた訳じゃないよ、気づいただけだ」

740: 2014/01/25(土) 00:48:36 ID:u3tAqZLc
美希「強がり」

P「ここで強がれるほど大人じゃないよ」

美希「どうめいも今日で終わりだね」

P「同盟? ああ、あったなそんなの」

美希「美希が勝つのをそこで黙って見てればいいの!」

P「ふられたら言えよ、おにぎり作ってやるから」

美希「あっかんべー!」

千早「何を話してたの?」

P「春香はあっちだぞ?」

千早「感想を」

P「いつもどおり、いつもどおり過ぎて笑ったよ」

千早「……ごめんなさい」

P「それは前も聞いた、誰も気にしてない、伊織や貴音が何か言ったのか?」

741: 2014/01/25(土) 00:50:13 ID:u3tAqZLc
千早「いえ……」

P「春香は強くもないが千早の思うほど弱くもなかった、辛かっただろうけどさ」

千早「辛かったのは、プロデューサーも同じはずです」

P「最初に俺を事務所で見た時の春香の反応を見れば誰だって思う。現にすぐに問い詰められて事情が発覚して、大変だったよなあ」

千早「私は邪魔だと言いました」

P「実際、邪魔だったよ」

千早「あの時の私は――」

P「妹がいるって話を前にしたよな?」

千早「え、ええ」

P「アイドルになってたよ」

千早「アイドル……?」

P「そう、嬉しいやら寂しいやら。何か変わってないけど、変わってた」

千早「もしかして事務所も」

P「同じ、苗字が違うからばれてないけど。いや、気づいているのが一人いたな」

千早「今は?」

742: 2014/01/25(土) 00:51:45 ID:u3tAqZLc
P「一緒に住んでるよ、兄妹だから」

千早「……そう」

P「悪かった、過去にこだわるななんて偉そうに。やっぱり家族っていいもんだな」

千早「何か、喧嘩してばかりだったわね」

P「言ってなかったけど、最初に春香に会った時に言われたんだ。千早に歌が似てるって」

千早「春香から見れば似たもの同士ってこと?」

P「かもな、違うと思うんだけどなあ」

千早「準備、できたようね」

P「ここからが俺達の――」

ありす「STARTです」

743: 2014/01/25(土) 00:52:56 ID:u3tAqZLc
765P「この曲調」

まゆ「Pさんの……」

凛「へえ」

美希「こんな曲だっけ?」

千早「歌うの春香のSTARTよね? 予定変更?」

春香「……この子」

P「最初からそのつもりだった、か」

美希「何か、千早さん……ううん違う、でも」

凛「まゆ」

まゆ「……Pさんです」

凛「本番でいきなり変えてくるなんてね、流れを変えてくれたのは感謝だけど」

まゆ「負けられない理由が増えました」

凛「なら、踏ん張りどころだね」

744: 2014/01/25(土) 00:54:44 ID:u3tAqZLc
スタッフ「あの」

P「はい?」

スタッフ「視聴者からのメールが番組にきているんですが、その中に貴方の名前が入ったものが」

P「私の?」

スタッフ「懐かしいとか、また聞けて嬉しいとか」

P「……見せてもらえますか?」

スタッフ「こちらです」

千早「本当にたくさん……懐かしくて涙が出てきました、また歌ってくれる日を待ってます。大好きなアイドルが頭に浮かびました、どこで何してるんだろうなあ。
   彼がいたから私は頑張れました。まだ応援してます、どこにいるか探してもらえませんか?」

P「どうして……この曲はあそこにいた人しか知らないはず」

千早「分かるのよ、本当に応援していたからこそ」

P「……何だよもう……本当に……」

 その一歩がこの今へあの未来になる

P「俺の一歩も無駄じゃなかったのかもな」

745: 2014/01/25(土) 00:57:39 ID:u3tAqZLc
ありす「ふう……」

まゆ「どうしてその曲にしようと思ったんですか?」

ありす「Pさんが渡ってきた綱ですから」

まゆ「つな?」

ありす「一緒に歩きたいと思いました、それだけです」

P「ありす」

ありす「歌いましたよ」

P「ああ、聞いてた」

ありす「それだけで――」

美希「わ」

凛「抱きしめた……」

P「ここに来てよかった、ありすでよかった。ありがとう、いい歌だった」

746: 2014/01/25(土) 00:58:20 ID:u3tAqZLc
ありす「え、えっとP,Pさん、ここでそんなあの」

P「ん? あ、悪い」

ありす「別に悪くありませんけど! もっと流れととタイミングと時間を考えてですね」

美希「ほとんど同じなの」

765P「美希、そこは突っ込んでやるな」

凛「へえ、今度は年下にするんだ?」

P「待て、何だその目は」

まゆ「年下でも小学生はいけませんよぉ、Pさぁん?」

P「そんな意味は込めてない! ほら出番だろ、行ってこいって」

まゆ「見てますから、見ていて下さいね」

凛「壁越しに?」

747: 2014/01/25(土) 00:59:06 ID:u3tAqZLc
まゆ「結果は一緒に報告に行きましょうね、渋谷さん」

凛「望むところ、私がまゆより上だったって横断幕掲げてもらうから」

P「嫌だそんな事務所」

美希「楽しそうだね」

765P「戻ってこないなんて、本当にもう余計なお世話でしかないんだろうな」

美希「寂しい?」

765P「ま、少しはな」

美希「ハニーには美希がいるから大丈夫!」

P「ほら! いい歳したおっさんが中学生をたぶらかしてるぞ!」

765P「こっちを巻き込もうとするな!!」

748: 2014/01/25(土) 00:59:55 ID:u3tAqZLc
凛「歌えたよ」

P「難しい歌だったな」

凛「……魔法使いだと思ってたのかもしれない」

P「誰が?」

凛「プロデューサーが」

P「何の魔法だよ」

凛「何でも知ってて、何でもできるのに何もしない。だから苛立ってたのかも」

P「違うってばれたか」

凛「ただの男だった、何か一生懸命でどこか抜けててどっかの誰かに似てるただのプロデューサー」

749: 2014/01/25(土) 01:00:29 ID:u3tAqZLc
P「統括のこと言ってるのか?」

凛「聞いてたかな」

P「絶対に聞いてる」

凛「うん、私もそう思う」

P「……まあ結局、憧れは憧れなんだよな」

凛「歌うよ、彼女にも届くように」

P「届くさ、叩き起こしてやる」

750: 2014/01/25(土) 01:01:15 ID:u3tAqZLc
春香「聞いてて懐かしかったよ」

ありす「……春香さん」

春香「なあに?」

ありす「この歌を歌えたのは春香さんのお陰です、ありがとうございました」

春香「私のお陰じゃないよ、これは――」

ありす「歌い続けてくれましたから、こういう企画ができたんです。だから春香さんのお陰でいいんです」

春香「頑張って歌ってくるね! ありすちゃんに負けないように」

ありす「……必ず、いつか超えて見せますから」

751: 2014/01/25(土) 01:02:07 ID:u3tAqZLc
765P「で、結果だが」

美希「何なの! 何なのなの! ぷんぷかぷんぷんなの!」

P「惜しかったな」

美希「千早さんの壁は大きかったの……」

千早「本当にいいのかしら……」

765P「文句なしだ、おめでとう千早」

凛「い、一票差?」

まゆ「報告に行きましょうね、凛ちゃん!」

凛「この……」

ありす「千早さんと美希さん以外、順番がそのまま順位になったんですね」

P「あっちの隅で座り込んでるのどうします?」

765P「暫くそっとしておこう。春香の敗因は、まあ君だろうな」

752: 2014/01/25(土) 01:02:43 ID:u3tAqZLc
ありす「私ですか?」

765P「話題性は抜群だった、春香はちょっと二番煎じになっちゃったか」

P「上位なんて凄いぞありす、快挙だ」

ありす「次はもっと上を目指します」

P「そうか、にしても渋谷さんとまゆは一票差か……まさかな」

ありす「何か?」

P「いや。よし、帰るか」

ありす「一緒に、ですよ」

P「ああ、一緒にだ」

753: 2014/01/25(土) 01:03:23 ID:u3tAqZLc
ちひろ「見てましたよ、お疲れ様でした」

P「まあ何とか下に三人が固まるのは回避できました」

ちひろ「そんなPくんにご褒美です」

P「ボーナスですか?」

ちひろ「どうぞ」

P「何ですかこれ……あ、見つかったんですか」

ちひろ「頼まれてましたから、Pくんの事務所にいた子達が何をしているかのリストです」

P「ありがとうございます、元気にしてるなら一安心です」

ちひろ「本当に安心ですか?」

P「ええ、本当に」

ちひろ「ご褒美はそれだけじゃありませんよ」

P「スタドリでもくれるんですか?」

754: 2014/01/25(土) 01:05:09 ID:u3tAqZLc
ちひろ「そんなのじゃありません、休暇です」

P「休暇? だってイベントも迫ってきてるんですよ?」

ちひろ「それは私達に任せて下さい、怪我が治ったとはいえまだ本調子でもないんですから」

P「しかし」

ちひろ「社長命令です、会いに行ってあげてください。きっと待ってます」

P「……本当に待ってるんでしょうか?」

ちひろ「今のPくんなら、大丈夫」

P「行くだけ、行ってみます」

終わり 次回は2月1日
残り3話 確かに分かりにくいので残りは台本形式でいきます
それにしてもクロスは難しい

755: 2014/01/25(土) 01:47:43 ID:To.uMMZo
乙です
後3話かぁ…
楽しみにしてる

引用元: ありす「心に咲いた花」