757: 2014/02/01(土) 20:42:40 ID:8dB5TK.Y
連作短編28

忍「夢の跡の道しるべ」

社長「今の調子はこんなところですね、会っていかれますか?」

P「いえ、元気であれば。また来ます」

社長「いつでもお待ちしています」

P「すみません、わざわざ時間を取って頂いてありがとうございました」

社長「自分を責める必要はもう、ないと思いますよ」

P「少し、考えます。失礼します」

社長「……この二年、背負い続けてきたのかな。彼は……いや、今も背負い続けているのか」

P「これで残りは一人か、一週間の休みもあっという間だな……会ったり会わなかったりだけど」
ホテルマン「お部屋は720号室でございます、ご案内しましょうか?」

P「いえ、昨日も泊ってるので分かってますから。ありがとうございます」

ホテルマン「ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

P「そんなに高い金も出してないのにいい所だな、社長が少し出してくれたのかな。ああここ……」

少女「」

P「……誰? 倒れてる?」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。

検索タグ:ありす「心に咲く花」

その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
758: 2014/02/01(土) 20:44:38 ID:8dB5TK.Y
少女「」

P「大丈夫ですか? おーい! 聞こえてますか!?」

少女「ん……」

P「よかった生きてる」

少女「あ、え!?」

P「おあ!?」

少女「えっと、起こしてくれた?」

P「まあ、俺の部屋の前で倒れてるから」

少女「……」

P「待て待て待て待て、何で服を脱ごうとするんだよ!?」

少女「泊めて」

P「それはフロントに言った方が早いって」

少女「私の財布の中身、プライスレス」

P「警察」

759: 2014/02/01(土) 20:45:56 ID:8dB5TK.Y
少女「通報したらあんたにホテルまで連れ込まれた上に脱がされたって言うから」

P「人の善意を何だと思って」

少女「どうする? ここで犯罪者になる? おじさん」

P「悪いが俺をおじさん呼ばわりする奴に用はない」

少女「待って、本当に待ってお願い!」

P「家出か?」

少女「」

P「図星か、警察に居場所を知られたら困るのはそっちの方なんじゃないか?」

少女「分かった脱ぐから」

P「だからそれは止めろ!」

760: 2014/02/01(土) 20:46:45 ID:8dB5TK.Y
少女「へー、部屋の中はこうなってるんだ」

P「泊まれもしないホテルの中をうろついてたのは何でだ?」

少女「誰かに買ってもらおうかなって」

P「ほう」

少女「冗談、雨風凌げる場所が他に見当たらなかったってだけ」

P「駅でも公園でもいいだろ」

少女「こんな冬にそんな所いたら氏ぬって」

P「お金も持たずに家を出ておいて何を言ってるんだ」

少女「ああもう、アタシをここに置いておくだけでいいんだから」

P「お腹が盛大に鳴ったが」

少女「いいの、別に」

P「家を出た理由は?」

少女「……」

P「警察」

少女「……通報すればいいじゃない」

761: 2014/02/01(土) 20:48:32 ID:8dB5TK.Y
P「君の言い分が警察に信用される可能性はあんまり高くないと思うが?」

少女「言ったら馬鹿にするに決まってる」

P「喧嘩でもしたのか?」

少女「進路のこと」

P「学生か、年は?」

少女「16」

P「16? 何だ受験生でもないのにもう揉めたのか?」

少女「違う」

P「言わないと俺は最終的な判断を下せないんだが」

少女「……になりたいの」

P「何だって?」

少女「アタシ、アイドルになりたいの!!」

P「アイドルって」

少女「どうせ馬鹿にするんでしょ、アタシじゃ絶対に無理だって」

762: 2014/02/01(土) 20:49:27 ID:8dB5TK.Y
P「アイドルって、歌って踊るアイドル?」

少女「それ以外にある?」

P「まあ、ないが」

少女「それで新幹線に乗ってここまで来たの」

P「で、お金を使い果たしてこんな所で俺に捕まったと」

少女「文句ある?」

P「文句しかない」

少女「ほらやっぱり」

P「俺が言うのも何だが、家に帰ってもう一度きちんと話し合った方がいい」

少女「無駄だよ、話し合った挙句がこれなんだから」

P「だからって親の承諾もない子が入れるプロダクションなんてどこにもないぞ」

少女「そんなのやってみないと分からない」

P「同意書の提出もなしに受けるところがあればそこは碌な所じゃない」

少女「何でそんな事が分かるの?」

P「関係者だから」

763: 2014/02/01(土) 20:59:31 ID:8dB5TK.Y
少女「は?」

P「アイドルだったから、俺は」

少女「いや、うん。嘘でしょ?」

P「目の前の箱を使って調べようとは思わないのか?」

少女「名前は?」

P「ほれ、字も分からないと調べようがないだろ」

少女「変な名前」

P「芸名だよ、もうあんまり出てこないだろうけどな。事務所も潰れたし」

少女「……本当に出てきた」

P「納得したか?」

少女「何で元アイドルがこんな所にいるの?」

P「元アイドルだったらいちゃいけないのか?」

少女「そんな事ないけど」

P「それから一つ忠告」

764: 2014/02/01(土) 21:04:23 ID:8dB5TK.Y
少女「何?」

P「こんな簡単な嘘に騙されるならアイドル向いてない」

少女「は!?」

P「そう簡単にアイドルだったのがいると思ったか?」

少女「だってそっくり!」

P「だから嘘になるんだよ、似てなかったら最初から信じないだろ」

少女「最低!」

P「さっきまで人を脅してた子の台詞じゃないな」

少女「じゃあ名前は何?」

P「さあ何でしょうな」

少女「お兄ちゃんとでも呼ぶ?」

P「妹は間に合ってるからいい」

少女「流石に呼び方が決まってないと不便なんだけど」

P「家はどこだ?」

少女「……青森」

765: 2014/02/01(土) 21:05:31 ID:8dB5TK.Y
P「何だ、俺の目的地だ」

少女「青森に何の用?」

P「ちょっと人に会いに行こうかと思って」

少女「また珍しい」

P「じゃあそこに行くまでの付き合いだ、送るくらいはしてやる。そっから先は知らん」

少女「泊めてくれるの?」

P「ベッドは俺が使う、お前はソファ」

少女「お前……」

P「そう呼ばれるのが嫌なら名乗れ、ちなみに俺はお前でも貴様でも構わないから」

少女「工藤忍」

P「工藤さんね、じゃあとりあえず」

忍「……お腹」

P「何か買ってくる」

766: 2014/02/01(土) 21:11:44 ID:8dB5TK.Y
忍「東京って何か味気ないね」

P「ここは栃木だ、東京じゃない」

忍「一緒だって」

P「東京はもっと栄えてる。そのツナマヨは俺のだ、手を出すな」

忍「ケチ」

P「ケチでも何でも結構、食わせてやってるだけありがたく思え」

忍「この辺りに住んでるんじゃないよね? ホテルに泊ってるんだから」

P「住んでるのは東京」

忍「東京生まれ?」

P「そうだな」

忍「凄い」

P「日本人の10分の1は東京に住んでるんだ、ありきたりな連中の一人だよ」

忍「でもそこまで行かないと何にもない」

P「何にもねえ、そもそもアイドルになりたい理由は?」

忍「皆に認めてもらうため」

767: 2014/02/01(土) 21:13:43 ID:8dB5TK.Y
P「認めるって、自分の価値とか?」

忍「田舎に生まれた何の取り柄のない娘でも、輝ける場所があるって」

P「勉強でも運動でもいいと思うが」

忍「ならアイドルでもいいじゃん」

P「……それなりに賢いな」

忍「勉強も運動もアイドルだって、結局は努力次第でしょ?」

P「確かにそうだが、結果が出なかったらどうするんだ? その時に帰る場所がなかったら?」

忍「頑張る」

P「頑張るって」

忍「でもそれしかないでしょ、失敗したらその時に考える。やる前から失敗した時の事なんて考えないでしょ?」

P「それは周りの環境が整ってたらの場合で、工藤さんの場合その前提がないから言ってるんだ」

忍「結果を示せば認めてくれるはず」

P「認めてくれなかったら? いいか? その年でアイドルになろうとするのもはっきり言って遅い。
  今までダンスのレッスンを受けたことは? 何か子供の頃からしてたことは?」

忍「……ないけど」

768: 2014/02/01(土) 21:15:20 ID:8dB5TK.Y
P「なるなとは言わない、だが自分の親も説得できないでなるって言うならそれだけの覚悟が必要なんだよ」

忍「何でそんなことばっかり」

P「明日、もし時間があるなら俺についてくるといい」

忍「人に会うんじゃないの?」

P「会う、元アイドルに。今度は本当だ」

忍「現実を知れってこと?」

P「どう受け止めるかは君次第だ、どうする?」

忍「分かった、行く」

P「なら決まりだ、さてじゃあ大浴場でも。楽しみだ」

769: 2014/02/01(土) 21:16:37 ID:8dB5TK.Y
忍「アタシも入る」

P「宿泊者でもないのにどうやって入るんだ? 大人しく室内のシャワーで我慢しろ」

忍「そこは譲る優しさとかないの?」

P「今くつろげてる事実を忘れてないか?」

忍「着替えもない」

P「一日くらい諦めろ、自業自得だ」

忍「うー」

P「分かったか、大人しく待ってろ」

忍「じゃあ一つお願い」

P「何だよ?」

忍「何かアイドル雑誌買ってきて」

770: 2014/02/01(土) 21:19:26 ID:8dB5TK.Y
P「ほい」

忍「もしかしてアイドルオタク?」

P「まあ詳しい方だろうな」

忍「渋谷凛」

P「知ってる」

忍「前川みく」

P「猫」

忍「上条春菜」

P「眼鏡」

忍「水本ゆかり」

P「何でさっきから特定の事務所のアイドルばかりなんだ?」

忍「入るならここがいいかなって」

P「……またどうして」

忍「色んなアイドルがいるから、アタシも刺激になるかなって」

771: 2014/02/01(土) 21:20:48 ID:8dB5TK.Y
P「埋もれるかも知れないって事だぞ。この事務所、総選挙やってアイドルに順位つけてるんだから」

忍「アイドルやってたら当然でしょ?」

P「入ってくる、あるのは好きに読んでていい」

忍「はーい」
――

P「なかなか良かったな……大人しくしてたか?」

忍「ねえ」

P「今度は何だ?」

忍「アイドルだったら誰が好き?」

P「誰が、か」

忍「これだけ詳しいなら誰かのファンなんじゃないの?」

P「敢えて言うなら」

忍「うん」

P「橘ありす」

772: 2014/02/01(土) 21:21:43 ID:8dB5TK.Y
忍「誰?」

P「まあその程度だよな、まだまだって事が分かっただけでも収穫」

忍「あ、何ださっき話に出た事務所の子だ。へー12歳」

P「その年代では有望株の一人だと思う」

忍「本当だ、順位も高い」

P「続くかどうか分からないけどな、まあそれも目安でしかないよ」

忍「何そのプロデューサーみたいな言い方」

P「……寝よう」

忍「あれ、ベッドじゃないの?」

P「これで本当にソファに寝かせたら後で何を言われるか分かったもんじゃない」

忍「何も言わないって」

P「もう寝た」

忍「……借りは絶対に返すから」

P「はいはい、お休み」

773: 2014/02/01(土) 21:24:47 ID:8dB5TK.Y
忍「ふぁ……ってもう朝! あれ? あいつ……」

P「よう、起きたか」

忍「どこ行ってたの?」

P「朝飯」

忍「ありがとうございます」

P「何だ気持ち悪い」

忍「アタシだってお礼くらい言う」

P「しかしこんなのばっかり食ってるとちゃんとしたのが恋しくなるな」

忍「あ、これ貰っていい?」

P「何だ、好きなのか?」

忍「ううん」

P「じゃあ何で欲しがったんだ?」

忍「おまけって得した気分にならない?」

P「ペットボトルにストラップ付いてるからって買う理由にはならないけどな」

忍「でも買ったんでしょ?」

774: 2014/02/01(土) 21:25:45 ID:8dB5TK.Y
P「何となくだよ、何となく」

忍「いいの、こういうの好きだから」

P「さて、もういいか? チェックアウトするから先に外に出てろ。同時に出て見つかったらめんどくさい」

忍「りょーかい」

P「うわっさっむ!」

忍「慣れてないんだね、これくらいでも駄目?」

P「悪かったな貧弱で」

忍「じゃあさっさと移動しようよ、駅も目の前だし」

P「朝っぱらから元気だな」

忍「アタシまで暗かったら何か誤解されそうだし」

P「後ろめたいのはそっちだけだけどな」

忍「こんな平日からうろちょろしてるあんたに言われたくない」

P「言っておくが俺は社会人だ」

忍「……またまた」

P「給料ももらってる、今は有給消化中だ」

775: 2014/02/01(土) 21:26:55 ID:8dB5TK.Y
忍「世の中、絶対におかしい」

P「失礼にも程があるぞ」

忍「しかも指定席って」

P「自由席でもいいんだけど、まあ確実に」

忍「金持ち? どっかの社長の息子とか」

P「……ソンナワケナイダロウ」

忍「あーあ、やっぱりいる所にはいるんだ」

P「俺がそうとは言わないが、そんなのいくらでもいると思うが。日本に会社がいくつあると思ってん  だ」

忍「アタシはそういうのとは無縁だから」

P「最初から途中までの切符買ったのか?」

忍「だってそこまでしか持ってなかった」

P「どうなるか考えなかったところが恐れ入る」

忍「いいの、何とかなったんだから。でも混んでるね」

P「何かイベントでもあるのかな」

776: 2014/02/01(土) 21:29:07 ID:8dB5TK.Y
ゆかり「すみません、失礼します」

P「ああはい、どうぞ」

ゆかり「」

P「」

忍「え? 水本ゆかり?」

ゆかり「は、はいそうです」

忍「うわ本物だ、凄いなあ。ねえ?」

P「ソウダナ」

忍「何その反応」

ゆかり「ちょっと、席を外しますね」

忍「行っちゃった、でも青森までもしかしたらずっと一緒かも」

P「すまん、俺も席を外す」

忍「もしかして我慢してたの?」

P「まあ」

忍「無理しなくていいのに、早く行ったら?」

777: 2014/02/01(土) 21:29:40 ID:8dB5TK.Y
P「悪い、ちょっと時間かかる」

忍「気にしなくていいって」

P「また奇遇にも程がある」

ゆかり「やっぱりプロデューサーさんですよね?」

P「互いにそっくりさんではないか、里帰りか?」

ゆかり「お仕事も兼ねて、ちょっとした凱旋気分です。といっても、明日には東京に戻ってリハーサルなのでゆっくりはできないんですけど」

P「一人で移動してるのか?」

ゆかり「いえ、ただこの混雑ですから席がまとまって取れなくて」

P「何でこんなに混んでるんだろうな?」

ゆかり「プロデューサーさんご存知ないんですか?」

P「何かあるんだっけ?」

ゆかり「雪祭です」

P「青森にもあるのか?」

778: 2014/02/01(土) 21:30:39 ID:8dB5TK.Y
ゆかり「はい、でも札幌ほど有名でもありません。でも本当に奇麗なんですよ」

P「なるほどとんでもない時に合わせちゃったか」

ゆかり「それで、その」

P「ん?」

ゆかり「隣にいた方は?」

P「ああ、あの子か」

ゆかり「お休みを取っているとは聞いていましたけど、妹さんですか?」

P「いや、あのさ」

ゆかり「はい」

P「できれば他人の振りをして欲しいんだ」

ゆかり「何か事情が?」

P「まあ、大した事じゃないんだけど」

ゆかり「どこまで行くんですか?」

P「青森」

ゆかり「同じですね、それまでずっと初対面の振りをしてればいいんですね?」

779: 2014/02/01(土) 21:31:15 ID:8dB5TK.Y
P「頼めるか?」

ゆかり「分かりました、何とお呼びしましょうか?」

P「アイドルが初対面の男に積極的に話しかけてちゃ駄目だって」

ゆかり「そうですね……分かりました」

P「何で妙に嬉しそうなんだ?」

ゆかり「いえ、しっかりと演じてみせますから」

忍「やっぱり忙しいのかな、座ったらすぐに寝ちゃった」

P「こうなるのかよ」

忍「動いたら駄目だよ、水本ゆかりの枕なんて凄い名誉なんだから」

P「へいへい、分かってますよ」

忍「でもこれも誰かに撮られたらスキャンダル?」

P「上着でも掛けとくか」

忍「でも何か、こうやって見ると普通の女の子だ」

780: 2014/02/01(土) 21:32:56 ID:8dB5TK.Y
P「アイドルになった瞬間、オーラが出るとでも思ってるのか?」

忍「そうじゃないけど、こうもっと」

P「ステージに立ってるのを見れば分かるんじゃないか? 24時間気を張ってても疲れるだろ」

忍「そんなものなのかな」

P「そんなものだろ」

忍「ねえ、ちょっと変な人がいる」

P「変って?」

忍「何かおかしい」

P「おかしいって、変に熱狂的なファンがいたら厄介だな」

忍「あそこ」

P「どれどれ」

愛海「あー至福だわ」

781: 2014/02/01(土) 21:33:58 ID:8dB5TK.Y
忍「さっきから隣の人の胸を揉んでる、何か触られてる方は苦笑してるけど」

P「隣の席、くじか何かで決めたんだろうなあ……後で何か奢っておこう」

忍「言いたくないけど、棟方愛海だよね?」

P「……まあそうだな」

忍「あれ、ただのキャラだと思ってた」

P「……うん」

忍「アイドルって、色々なんだね」

P「色々だ、うん」

忍「ああ、着いちゃう」

P「喜ばしいことだ」

忍「何の為に乗ったんだろ……」

P「この世の終わりみたいな顔をするな、これからだろ」

782: 2014/02/01(土) 21:36:11 ID:8dB5TK.Y
忍「そういえばアイドルやってた人に会わせてくれるんだっけ?」

P「そう」

忍「最初に聞いとくけど、その人は何でアイドル辞めたの?」

P「事務所が潰れたんだよ」

忍「ああ、それはどうしようもないね。移籍とかできなかったのかな」

P「その辺りも聞いてみればいいんじゃないか」

忍「そもそもその人とはどんな関係なの?」

P「友人だよ」

忍「やっぱり社長の息子だと交友関係も派手だね」

P「その辺りはノーコメント、水本さん着くよ」

ゆかり「ん……ふぁ」

P「スタッフとは合流できる?」

ゆかり「はい、大丈夫です」

783: 2014/02/01(土) 21:36:46 ID:8dB5TK.Y
忍「頑張って下さい」

ゆかり「ありがとうございます。一応、渡しておきますね。時間があったら来て下さい」

忍「わわ、本人から雪まつりのパンフレット貰っちゃった」

P「家宝にしとけ」

忍「必ず行きます」

ゆかり「はい、お待ちしています」

忍「凄くいい人!」

P「物をくれるかどうかでいい人か決まるのか」

忍「もちろん、貴方もいい人だと思ってるよ」

P「はいはい、次はバス」

忍「どこ行くの?」

P「劇場」

忍「劇団とかってこと?」

784: 2014/02/01(土) 21:37:58 ID:8dB5TK.Y
P「らしい」

忍「らしい? 友達なんでしょ?」

P「伝聞なんだよ、アイドル辞めてからの情報がなくて」

忍「今日、来ること相手は知ってるの?」

P「……一応、家族の方には連絡した」

忍「本当に友達? 年は?」

P「今年で23かなあ」

忍「え、大人?」

P「何だと思ってたんだ?」

忍「そういえば年も聞いてなかったね」

P「俺か? 俺は19」

忍「ああ、うんそんな感じに見える」

P「どうも、まあ世話になった人ではある」

785: 2014/02/01(土) 21:39:16 ID:8dB5TK.Y
忍「ここ?」

P「そう、会ってやってくれないかって強く言われてさ」

忍「何かあったの?」

P「……入ってみよう」

団員「ああごめん、ここは練習中だから入れないんだけど」

P「おあ、人に会う約束をしていまして」

団員「名前は?」

P「はい、こういう――」

団長「大丈夫、ごめん練習に戻ってくれるかな」

団員「ああ団長の、失礼しました」

P「団長?」

団長「不思議かい?」

P「いえ、確かに似合ってるかもしれません」

団長「女連れで会いに来るとは君もやるようになったようだね」

786: 2014/02/01(土) 21:42:08 ID:8dB5TK.Y
P「この子ですか? 違いますよ、ちょっとした事情で同行してるだけです」

忍「工藤忍です。あの、私アイドルになりたいんです」

団長「アイドル?」

P「みたいです」

団長「あはは、あはははははははは!!」

忍「やっぱり笑うんですか……」

団長「違う違う、なるほど君はまだその世界にいるのか」

P「……劇団をやってるなら似たようなものでしょう」

団長「雲泥の差だよ、立ち話もなんだね。場所を移そうか」

P「青森に来た感じがしません」

団長「青森に何を求めてるんだい?」

P「りんごとか?」

団長「疑問形で終わるような発想じゃあまだまだだね」

787: 2014/02/01(土) 21:43:55 ID:8dB5TK.Y
P「元気でしたか?」

団長「君よりは遥かに、体は大丈夫かい?」

P「見ての通り元気ですよ」

団長「そうか、ならいい。久しぶりだ、また会えて嬉しいよ」

忍「アイドルだったんですよね?」

団長「そうだね、アイドルとはいっても売れなかったが」

P「それは謙遜だと思いますけど、9位に入った事もありましたし」

団長「君ほどじゃなかったからね」

忍「結局アイドルだったの?」

団長「何だ聞いてないのかい? それなりに有名だったと思うが」

忍「って、やっぱりアイドル!?」

P「いや、何か反応が面白かったから押し通した」

忍「元アイドルで社長の息子ってどういうこと?」

788: 2014/02/01(土) 21:46:59 ID:8dB5TK.Y
団長「親が芸能事務所の社長なら、その子供がアイドルになるのも自然な流れだと思うよ」

忍「は?」

P「そこまで言うつもりはなかったんですが」

団長「連れてきておいて何を言ってるんだ、それでアイドルになりたいんだったね」

忍「はい!」

団長「ふーん、なら彼に会えたのは幸運かもね」

忍「そうですか?」

団長「今は何をしてるんだい?」

P「知ってて聞いてません?」

団長「さあ、知らない事は知らないね。だから聞いてる」

P「何というか、普通に話してて拍子抜けなんですが」

団長「何か言って欲しい言葉でもあるのかい?」

P「そういう訳ではありませんけど」

789: 2014/02/01(土) 21:48:56 ID:8dB5TK.Y
団長「ないよ、何も」

P「……」

団長「私に夢を追わせるだけの魅力がこの世界にはある、君がこの世界に惹かれるのも分かる」

忍「はい」

団長「力になれないのかい?」

P「問題が一つありまして」

団長「問題?」

P「親が反対してるそうで」

団長「親か、私も随分と迷惑を掛けたな」

P「まあ、そうなっちゃいますよね」

団長「結果を示すことも努力を見せる事もできないからな」

忍「う……」

団長「まあ、それを示すのは君なんだろうが」

790: 2014/02/01(土) 21:50:06 ID:8dB5TK.Y
P「俺ですか?」

団長「何の見込みもないならそのまま家まで送り届けて終わりの話だ、そうしなかったのは」

P「……」

団長「君がこの子に可能性を見出したからだ」

P「そう……なんでしょうか?」

団長「伊達に長く一緒にいた訳ではないよ」

忍「アタシを? それは嬉しいけど」

団長「君が何をしているか分からないが、彼女の願いを叶えられるだけの力はあるんだろう?」

791: 2014/02/01(土) 21:50:53 ID:8dB5TK.Y
P「それはまあ」

忍「事務所はもう潰れたって言ってなかった?」

P「まあ、そこは色々と」

団長「背中は押さないよ、葛藤があるのならそれは君が乗り越えるべきものだ」

P「何か、いつもこんなんですね。俺達」

団長「いい事さ、さて私は練習だ。君もすべき事はあるんだろう?」

P「はい」

団長「またいつか、一緒に仕事をしよう」

792: 2014/02/01(土) 21:52:28 ID:8dB5TK.Y
忍「アタシに可能性って」

P「プロデューサーなんだ、これが俺の名刺」

忍「シンデレラ……ガールズ!?」

P「これでもプロデューサー」

忍「ただの雑用とかじゃなくて?」

P「そもそも、見ず知らずの男の隣で水本さんが寝る訳ないだろ」

忍「もう嘘ばっかり!」

P「あそこで身分を晒すとそのまま事務所に連れて行けと言われかねないし」

忍「そのチャンスが潰れた」

P「本当になりたいなら反対はしないさ、だけど親の許可は絶対だ」

忍「その為に一緒にいてくれてるんだ?」

P「どうだろう、まだ悩んでる」

793: 2014/02/01(土) 21:54:09 ID:8dB5TK.Y
忍「アタシじゃ駄目ってこと?」

P「俺がプロデュースしてるアイドルはいるんだけど、スカウトした事ないんだ」

忍「じゃあアタシを第一号にすればいいんだよ」

P「家族がアイドルを反対してるって珍しい事じゃないし、俺もそういう場にいた事もある。
  だけど説得の仕方って便利なマニュアルがどこかにある訳じゃない」


忍「難しいよね」

P「俺が夢を語って納得してくれるのかなって」

忍「何でアタシに可能性なんて見出したの? 自分で言うのも何だけど、取り柄とかないよ?」

P「一度、俺はこの世界に背を向けようとしたから。真っ直ぐ向き合おうとする子はそれだけで眩しく見える」

忍「苦労したんだ?」

P「それはまた別のお話」

忍「それで、どうしよう? 家に来る?」

794: 2014/02/01(土) 21:55:42 ID:8dB5TK.Y
P「いや、それだとそのまま俺だけ追い出され場合に打つ手がなくなる」

忍「どこか場所を用意するの?」

P「家族と連絡は取れるか?」

忍「うん、実際に何度か掛かってきてるし」

P「なら話は早い」

忍「どうするの?」

P「アイドルがどんなものか見せるしかないだろ」

忍「あのイベント?」

P「多分、世界が遠すぎて分からないんだと思う。アイドルに限らず自分が無知の世界に娘を送り込める親がいたらそっちの方が問題だし」

忍「分かってくれるのかな」

P「分からないなら分かるまで、かな。強硬に反対されるならまたその時に考える。実際に仕事を見てもらうのもいいし、
  必要ならアイドルにも協力してもらって仕事を見せるのもいい」

忍「そんなことできるの?」

795: 2014/02/01(土) 21:56:57 ID:8dB5TK.Y
P「ここにそれを可能にできるのがいるんだから使えばいい。娘を使って金儲けするのか、と言われたらその通りの世界であることは確かだし遠慮はいい」

忍「でもそれだけならこんなにたくさんの子がいようとは思わないでしょ?」

P「その辺りは水本さんとか棟方さんに聞いてみればいいんじゃないか、少しなら話せるかもしれないから」

忍「分かった、呼んでみる」

P「やれやれ、休み中でもこうなるんだから完全に仕事中毒だな」

忍「うん……そう」

P「どうだ?」

忍「とりあえず本当にその事務所のプロデューサーか確認したいから名前と連絡先を教えてって」

P「はい、これは本物の名刺」

忍「終わった。けど、徹底してるなあ」

P「これはちょっとした口裏合わせだけど」

忍「何?」

P「工藤さんは昨日、東京まで来た」

796: 2014/02/01(土) 21:58:23 ID:8dB5TK.Y
忍「うん?」

P「そこで夜、歩いてるところを俺にスカウトされた。考えた結果、翌朝に俺に連絡してきた。もちろん、夜は普通にホテルに泊まった」

忍「何でそんな嘘がいるの?」

P「ホテルに忍び込んでぶっ倒れた挙句、たまたまそこに泊まりに来てた男に部屋に入れろと脅したって言えばいいんだな」

忍「場所は渋谷ってことにしておこう! 時間は夜の8時とかで」

P「いかに自分がやけくそになってたか自覚したか?」

忍「はい」

P「はいPです、はい。はい、ええそれでお願いします。まだ決定ではないんですが、一人スカウトしようと思ってる子がいるので。その関係です、はい。
  また改めて連絡は入れますので」

忍「本当に入れてくれるの?」

P「大変なのは入ってからなんだぞ」

忍「分かってるって」

P「うちの事務所じゃなくてもアイドルにはなれるんだからな」

797: 2014/02/01(土) 22:00:01 ID:8dB5TK.Y
忍「どういう意味?」

P「工藤さんも知ってのとおり、うちはアイドルしかいない事務所だ。歌も踊りもやるし、時には身体を張った仕事だってする事になる。
  おまけにこれだけアイドルがいるにも関わらずプロデューサーは四人。新人だからって仕事についてくれるとは限らない」

忍「自主性が大切ってこと?」

P「事務所内の競争に勝ちたいなら、それは前提だな。仮に誰かと仲良くなったって、仕事の取り合いは避けられない。
  二人でオーディションに受けて片方だけ落ちたなんて日常茶飯事だ」

忍「それは、うん。総選挙とかやってる事務所だし」

P「別にアイドル事務所はうちだけじゃない。あの765プロだって新人を入れるって話も噂に聞く。
  今まで以上に競争が激しくなるなるんだ、もっと力のあるプロダクションを探すのも一つの手」

忍「大丈夫だよ」

P「あのなあ」

忍「アタシをアイドルにしたいって思ってくれたんでしょ?」

P「それはそうだが」

忍「それで充分だよ、頑張れる」

P「知らない番号だな……はい、CGプロです」

798: 2014/02/01(土) 22:01:15 ID:8dB5TK.Y
母「工藤と申しますが」

P「はい、申し訳ありません。こんな突然、急なお話を」

母「いえ、ご迷惑をおかけしたのはこちらですので」

P「とんでもございません、それで――」

母「ですが結構です」

P「あの、失礼を承知で申し上げますが」

母「事務所の方からイベントに招待したいと連絡が入りました。折角の御好意ですから伺わせて頂きますが、それで終わりということで」

P「そうお考えであるのでしたら、詳細につきましてはまた事務所の方から連絡させますので」

忍「どう?」

P「来てくれるだけありがたい、とりあえず門前払いはされなかった」

忍「アタシ次第か」

P「できることはするけど、工藤さんの頑張りに掛かってるかな。それにしても、吹雪いてるな」

799: 2014/02/01(土) 22:03:25 ID:8dB5TK.Y
忍「イベント大丈夫かな」

P「雪像とかは外だけど、イベント自体は屋内だから心配はいらないと思う。交通の乱れを考慮してこんな朝早くから移動してたんだろうから」

忍「行かなくていいの?」

P「何も知らない俺が行っても……ああそうか、工藤さんの勉強にはなるか」

忍「アタシも入れる?」

P「入れる……と思う」

忍「思う?」

P「全ての仕事の把握なんて不可能、ほとんど話したこともないアイドルだっている始末」

忍「プロデューサーなのに?」

P「担当してないとそんなもんだ。担当してたって、一か月くらい会ってないのもいる」

忍「それ、ちょっと可哀想」

P「と言われても体は一つしかない」

忍「アイドルって大変だ」

800: 2014/02/01(土) 22:05:01 ID:8dB5TK.Y
P「積もって足止め食らう前に行こう、雪と風が凌げるだけでも行く意味はある」

忍「ここ、小学校の頃に合唱コンクールした場所だ」

P「何を歌ったんだ?」

忍「Tomorrow」

P「ときのなーがーれー」

忍「いつーでもー」

P「かけぬけてー」

忍「ゆくからー」

P「やさしさーだけー」

忍「わすれーずにー」

P「だきしめてー」

忍「いよー」

P「おおぞらをー」

ゆかり「自由に鳥たちが」

P「あ、聞かれてた」

801: 2014/02/01(土) 22:06:35 ID:8dB5TK.Y
ゆかり「二人とも上手ですね」

忍「アイドルに褒められた」

P「リハは?」

ゆかり「今は愛海ちゃんが」

P「水本さんも合唱で歌ったりしたの?」

ゆかり「その時に歌ったのは違う曲なんですけど、今日ここでその曲を歌うので」

P「ここで?」

ゆかり「さきほどお渡ししたパンフレットに書いてありますよ」

忍「本当だ、地元も小学生や中学生に……ねえこの人」

P「演出に、青森で活動する若手演出家抜擢。さっきいつか一緒に仕事をしようって言ってたのこういう意味なのか」

ゆかり「お知り合いですか?」

P「はは、ちょっとね」

ゆかり「この方が提案してくれたんです、いい歌だからと」

802: 2014/02/01(土) 22:07:57 ID:8dB5TK.Y
忍「ねえ」

P「何だ?」

忍「多分、他人の振りする必要はもうないと思う」

P「あ、そっか。みずも――」

忍「やっぱりなし」

P「何でだよ?」

忍「何となく」

P「何となくって」

忍「いいの」

ゆかり「あの」

忍「ああうん、何でもない。後で必ず行きますから」

ゆかり「……はい、待ってますね」

803: 2014/02/01(土) 22:08:51 ID:8dB5TK.Y
忍「ふう」

P「ふう、じゃない」

忍「何でデコピン!?」

P「身分明かさずどうやってここから先に入る気なんだ? 関係者以外立ち入り禁止の札が見えないとは言わせない」

忍「忍びこめばいいんだよ、忍だけに」

P「悪いが忍者はもう間に合ってる」

愛海「プロデューサー何してるの?」

P「ほらめんどくさいのが来た」

愛海「もしかしてスカウト?」

P「その予定」

愛海「ねえ、柔らかいものっていいよね」

忍「は?」

P「初対面から何を聞いてんだよ」

804: 2014/02/01(土) 22:10:11 ID:8dB5TK.Y
愛海「アイドルっていいよ! 女の子が一杯で、暖かくて柔らかくて」

忍「あ、はい」

P「安心しろ、工藤さんには当分の間は近づかせないから」

愛海「でもプロデューサー何でいるの?」

P「偶然だよ」

愛海「あたしの為に女の子を増やしてくれてるの?」

P「増えても棟方には会わせないから安心してくれ」

愛海「お願いっ! ワンタッチでいいから!」

805: 2014/02/01(土) 22:11:04 ID:8dB5TK.Y
P「ない」

愛海「」

P「世界の終りみたいな顔をするな!」

愛海「こうなったら力ずくで」

P「真奈美さんと清良さん呼ぶぞ」

愛海「プロデューサーはあたしの味方だって言ってくれたよね!?」

P「誰がいつどこでそんな事を言ったんだ」

愛海「じゃあプロデューサーで我慢する」

P「馬鹿っ! お前ここでそんな!」

806: 2014/02/01(土) 22:13:16 ID:8dB5TK.Y
忍「本当に凄いね」

P「あの変態め、覚えてろよ」

忍「でも入れてくれた」

P「水本さんだけに秘密って、可哀想になってきたんだが」

忍「まあ、そこは後で謝るということで」

P「そうだな、謝っとけ」

忍「いや、プロデューサーが」

P「何で俺なんだよ!?」

忍「あ、ここがステージだ」

P「リハーサル中か、ってかこのステージ……」

忍「今、あそこで歌ってるのが子供たちだよね?」

P「そうだな、って事は」

団長「ここに私もいるという事さ」

807: 2014/02/01(土) 22:15:20 ID:8dB5TK.Y
P「だと思ってましたよ」

団長「あれが暫くの別れなら、あんなあっさりしたものにはしないよ」

忍「今日の構成って全て団長さんが考えたんですか?」

団長「大体ね」

忍「そんな才能もあるんですね」

団長「まあ、今回に限ってはパクったんだが」

忍「パクった?」

P「まあそうですよね、これは」

忍「そうなの?」

P「知ってる人から見ればそのまんま」

団長「君なら分かるだろうね」

P「知ってますよ、これ杏の初ライブの時に似てる」

808: 2014/02/01(土) 22:16:31 ID:8dB5TK.Y
忍「あんず?」

P「双葉杏って知ってるか?」

忍「あのニートアイドルでしょ?」

P「そのニートアイドルが今の事務所でデビューする前、ちょっとしたライブをした事があって」

忍「デビュー前に?」

P「まあ、身内しか呼ばないちょっとした出し物だったんだけど」

団長「いや、あれは傑作だった」

忍「その時は誰が考えたんですか?」

団長「今、君の隣で苦い顔してる男さ」

忍「そういえば苗字……」

P「そこから先は踏み込まれても困る」

忍「事務所の人達は気付いてるんでしょ?」

P「名乗ってる名字が違うから」

809: 2014/02/01(土) 22:17:22 ID:8dB5TK.Y
団長「似ていないからね」

忍「へー」

P「何でそれを今更ここでやろうと思ったんですか?」

団長「もちろん、君の事務所との仕事だからさ。まさか当人が来るとは思ってなかったが」

P「それだけですか?」

団長「さあね」

P「まあ、いいですよ。今回は関わってませんし、そこに口を挟むのも失礼だ」

忍「でも綺麗、雪祭りにぴったり」

団長「だろう?」

P「何で俺に視線を向けるんですか」

団長「少し案内しようか?」

忍「いいんですか?」

団長「構わないよ、大切な友人のアイドルだからね」

忍「やった」

810: 2014/02/01(土) 22:18:28 ID:8dB5TK.Y
P「まあ、時間もあるし」

団長「君は駄目だ」

P「……何でまた」

団長「君が考えたステージ構成を君に案内しても意味がない」

P「分かりました、なら適当に時間を潰してますよ」

団長「そうするといい」

P「あー、あの笑みは何か考えてるな」

ゆかり「そうなんですか?」

P「もしかして一人になるタイミングを待ってた?」

ゆかり「今は普通に話せますよね?」

P「ごめん、変な茶番に付き合わせて」

ゆかり「いえ、お役に立ててますか?」

P「もう凄く」

ゆかり「よかった」

811: 2014/02/01(土) 22:19:29 ID:8dB5TK.Y
P「ちょっと他の用事があるから満足に見られるか分らないんだけど、できるだけ時間を作ろうとは思うから」

ゆかり「無理しないで下さい、帰ったらまた忙しいですよ」

P「はは、どうしてるのかな」

ゆかり「頑張ってますよ、プロデューサーさんに恥ずかしいところを見せないようにって」

P「怠けてるところなんて想像もできないな」

ゆかり「あの子、スカウトするんですか?」

P「棟方から聞いたのか?」

ゆかり「はい、何だか嬉しそうでした」

P「その嬉しさは単純に仲間が増える嬉しさだけじゃないろうけど」

ゆかり「でも、羨ましいな」

P「工藤さんが?」

ゆかり「プロデューサーさんがアイドルにしたいって思わせるだけの才能があるんですから」

P「才能とかはこれから分かることだよ」

812: 2014/02/01(土) 22:22:38 ID:8dB5TK.Y
ゆかり「人を惹きつけるってそれだけで才能だと思います、プロデューサーさんに1番最初にスカウトされたんですから。きっと、凄いアイドルになりますよ」

P「1番って、最初ってだけだよ」

ゆかり「女の子は1番になりたいものなんです、それが何であっても」

P「俺の1番なんて名誉もなんもないって」

ゆかり「そんなことありません、絶対に」

P「水本さんの家もこの辺りなの?」

ゆかり「少し離れてるんです。でもいつか……必ず案内します」

P「いつかは行ってたいな」

ゆかり「大丈夫です、必ずです」

P「そこまで気負わなくていいって、軽い口約束なんだから」

ゆかり「いえ、必ず……です」

813: 2014/02/01(土) 22:24:10 ID:8dB5TK.Y
団長「さて、一通りの説明は終わったと思うが」

忍「これ、雪像ですか?」

団長「そう、中に入れていては溶けてしまうから。とはいえこの程度の冷え込みではもって数日だ」

忍「すごーい」

団長「望みは叶いそうかい?」

忍「それは……これから次第です」

団長「未来があるというのは羨ましい、厭味でも何でもなく」

忍「団長さんもですよ」

団長「ありがとう」

忍「その、何であの人のを?」

団長「私はアイドルそのものに未練はないんだ、それなりに楽しかったが裏方の方が合っているなと思っていたし今もその考えは変わらない。けれど、彼は違う」

忍「どんなアイドルだったんですか?」

814: 2014/02/01(土) 22:26:26 ID:8dB5TK.Y
団長「輝いて見えた。今、活躍している杏よりもね」

忍「でもそんな凄くは見えない……」

団長「いつか彼のステージを私が演出できたらと思っていたし、それが一つの夢だった」

忍「……」

団長「CGプロから話を受けた時、これはチャンスかもしれないと思った。彼がいるというのは杏から聞いていたし、全身全霊を込めたものにしようとそう決意したのに」

忍「思い浮かばなかったんですか?」

団長「いや、これより出来のいいステージは頭の中にある。だけどどれもしっくりこなかった、気づいたら決定稿として提出していたよ」

忍「まだ、夢を追っているんですか?」

団長「今の彼に後悔なんてものは感じられない、彼も探しているんだろうと思う」

忍「何を?」

団長「かつての自分を超えてくれる誰かを」

815: 2014/02/01(土) 22:28:01 ID:8dB5TK.Y
P「さて、いつやってくるのやら」

ちひろ「誰がでしょう?」

P「……何をやってるんですか、社長」

ちひろ「ちひろさんですよ」

P「呼べませんよ、そんなフレンドリーな」

ちひろ「つまらない大人に育ってはいけませんよ」

P「今、イベントの準備の真っ只中ですよね?」

ちひろ「優秀なプロデューサーが四人もいるので大丈夫です」

P「帰ったら本気で謝らないと」

ちひろ「どういった心境の変化があったのかと思いまして」

P「別に変わりありませんよ」

ちひろ「自分がスカウトしても父と同じように不幸にしてしまうかもしれないから、スカウトはしない。そう面接の時に聞きました」

P「親の責任は子にもありますよ、知らなかったからなんて言えません」

816: 2014/02/01(土) 22:29:04 ID:8dB5TK.Y
ちひろ「でもあの子はスカウトした」

P「ただ、それを盾にしてあの子の夢を塞いでしまうのも……わがままなんだろうかって」

ちひろ「引け目を感じたから、スカウトする事にしたんですか?」

P「違います! あの子には才能がある、きっとちゃんとしたプロデューサーがつけば成功するだけの力はある」

ちひろ「であるなら、貴方が担当するべきです」

P「また先読みしましたね」

ちひろ「言い方で分かりますよ」

P「不安なんですよ、あの子の親を目の前にして夢を語れるのか」

ちひろ「肇ちゃんから聞きましたよ、お爺さんを説得したそうじゃないですか」

P「それは肇の意思が通じた結果です」

ちひろ「通じさせたのは、貴方の力ですよ」

817: 2014/02/01(土) 22:30:20 ID:8dB5TK.Y
P「それは買い被りすぎですよ」

ちひろ「夢を語る人間は、必ずしも光の中にいる必要はないと思います」

P「そうですか?」

ちひろ「そうですよ、だって誰よりもその場所を夢見ているんですから」

P「……」

ちひろ「アイドルの世界から弾き出されて、それでも貴方がこの世界にいようと決めた理由はなんですか?」

P「ただの未練ですよ」

ちひろ「未練だけなら、貴方はここまで真っ直ぐ進めなかった思いますよ」

P「曲がりくねってますよ」

ちひろ「貴方が一番よく分かっているはずです、だから私は貴方を採用したんですから」

P「そういえば聞いてませんでしたね、採用理由」

ちひろ「何だと思います?」

818: 2014/02/01(土) 22:31:17 ID:8dB5TK.Y
P「若いから」

ちひろ「若いだけなら他にもいます」

P「表舞台を知っているから」

ちひろ「その経験はプロデュースに役立ちましたか?」

P「正直、あまり」

ちひろ「それはそうですよ、そんな事を期待してなんかいません」

P「じゃあ、何ですか?」

ちひろ「誰よりも、アイドルに救われた人だから」

P「」

ちひろ「何でそんな驚いた顔をするんですか?」

P「いえ、考えたこともなかったですから」

ちひろ「珍しいんですよ、普通は関係のない道に進むんですから」

P「そう、なんでしょうか」

ちひろ「765プロのプロデューサーさんに聞きましたよ、最初は荒れてたって」

819: 2014/02/01(土) 22:32:06 ID:8dB5TK.Y
P「そこをほじくり返すんですか」

ちひろ「でも、救われたんでしょう? 彼女たちに」

P「この世界に……絶望せずに済んだ事は確かです。彼女たちは強い、もちろんうちのシンデレラ達も負けていませんが」

ちひろ「分かっているなら、大丈夫です。信じてますから」

P「大丈夫、か」

忍「どこにいるのかと思ったら、お母さん来たよ」

ちひろ「頑張って下さい、もしここを乗り越えられたなら」

P「なら?」

ちひろ「彼もまた、貴方を認めてくれるはずですから」

820: 2014/02/01(土) 22:32:49 ID:8dB5TK.Y
忍「こっちこっち」

P「分かってる、そう急かすなって」

母「貴方が……プロデューサー?」

P「はいそうです、Pと申します。すみません、突然お呼び立てする事になってしまいまして」

母「いえ。思ったより若くて、その」

P「意外ですよね、よく言われます。どうぞ、お掛けになって下さい」

母「あの、本当にこの子をスカウトしたんですか?」

P「はい、私がスカウトしました。この子なら、必ず人に夢を与えられるアイドルになると思いましたから」

母「夢、ですか」

P「確かに抽象的で、頼りない言葉です。夢を見るだけでは生きられません、それは確かです」

母「そうでしょう。一応アイドルというものを調べてみましたけれど、この子がその子達の様になれるとはとても」

忍「やってみないと分からない」

821: 2014/02/01(土) 22:34:41 ID:8dB5TK.Y
母「静かにしていなさい、貴方の事を思って」

忍「本当に思ってるの!?」

P「……私は表舞台で輝くアイドルを知っています、反対に消えていったアイドル達も」

母「消えてしまったら、惨めです。そんな姿を私は見たくありません」

P「それでも私はステージの上に立った日を忘れた事はありません、後悔もしていません」

忍「プロデューサー……」

母「それは……確かに貴方はそうかもしれません。ですが」

P「アイドル達は皆、希望と不安の狭間にいます。明日、仕事があるかも分からない。軌道に乗っても、いつ何が起こるか分からない。
  現実を知れば知るほど、語れば語るほどこの世界は醜く見えてしまう。それも皆、分かってこの世界にいます」

822: 2014/02/01(土) 22:35:43 ID:8dB5TK.Y
母「外で見ているだけで充分です、憧れは憧れのままでいいんです」

P「人に夢を与えられる人はそう多くない、どんな分野でも。ただ……一つ胸を張って言える事があります」

母「何でしょう?」

P「歌が世界を救うとか、そんな大きな事は言えません。それでも確かに」

忍「確かに?」

P「アイドルは、人の夢にも救いにもなれる」

823: 2014/02/01(土) 22:37:05 ID:8dB5TK.Y
愛海「さあみんな胸張ってー!! うんうん! 凄くいい眺め!」

ゆかり「皆さんの心に届くように、雪のように静かにしっとりと」

団長「次の曲の開始で合わせる!」

愛海 ゆかり「ライブスタート!!」

忍「始まった」

母「あの子達も、知っているのでしょう?」

P「そうですね、全てとは言いませんが」

母「それでも笑わなくてはいけない」

P「失礼ですが、彼女らをそんな風に言われるのは心外です」

忍「うわあ……綺麗……」

P「ステージの上の彼女達に、嘘偽りは一つもありません」

824: 2014/02/01(土) 22:39:02 ID:8dB5TK.Y
ゆかり「ねえ夢を叶えるって大変だけど」

愛海「止めるのって何か嫌じゃん」

ゆかり「一歩進みだそうって時には!!」

P「どんな世界か分かったら、人はそこで立ち止まります。光なんて表だけだって分かってる世界に踏み込むなんて簡単にはできません」

ゆかり「ススメ☆オトメ壁の向こう」

愛海「まだ知らない世界待っている」

P「それでもなお真っ直ぐその世界に希望を持って進めるからこそ、彼女らは人の心を打つのではないかと……そう思います」

ゆかり 愛海「さあパレードしよう」

母「例え彼女達がそうでも、あの子は違います」

ゆかり「次が、最後の曲です」

愛海「最後はみんなと一緒に合唱だよ、用意はいい!?」

P「さっき言ってたのかな」

ゆかり「地元の子供たちと一緒に歌います、曲はTOMMOROW」

825: 2014/02/01(土) 22:39:57 ID:8dB5TK.Y
母「あの子!」

P「……団長、やっぱり」

母「こんなの聞いてません」

P「言い訳に聞こえるかと思いますが、いくら私でも契約前の子をステージに立たせたりしません」

母「ならあの子が勝手に?」

P「恐らく、周りの暴走も相まってこうなったかと」

母「早く降ろさないと、恥をかくだけ!」

P「とはいっても、ここまでくるともう――」

母「伴奏が」

P「始まった。何かあったら後で問い詰めますよ、団長」

826: 2014/02/01(土) 22:40:57 ID:8dB5TK.Y
時の流れ いつでも駆け抜けてゆくから

やさしさだけ忘れずに抱きしめていよう

大空を自由に鳥たちが 光の中飛び交うように

夜空からこぼれた星屑が 波の上をすべるだろう

母「確かに堂々とはしていますが、けれどやっぱり――」

P「……」

母「あの、どうされました?」

P「え?」

母「気付いていらっしゃらないの?」

P「気付いてって、何をでしょう?」

母「……いえ」

P「はい?」

827: 2014/02/01(土) 22:42:17 ID:8dB5TK.Y
司会「本日のイベントは終了いたしました。皆さん、お忘れ物のないようお気をつけてお帰りください。繰り返します――」

愛海「終わった、けどすぐに寝ないと明日に響くんだよねー」

ゆかり「もう少し余裕があったらよかったんだけどね」

愛海「こればっかりは仕方ないかあ」

忍「えっと」

団長「彼なら二階席だ、まだいるだろう」

忍「ありがとうございます!」

団長「しかし、こうもあっさりとやってのけるとは」

団員「団長! これどこに持って行きましょう?」

団長「それはまだいい、先にあっちを」

団員「分かりました」

団長「先が楽しみだ」

828: 2014/02/01(土) 22:45:08 ID:8dB5TK.Y
忍「プロデューサー!」

P「ああ、もう上がってきたのか。早いな」

忍「お母さんは?」

P「ロビーにいるんじゃないか、多分そっちに連絡いくだろ。それよりも工藤さん何で勝手に」

忍「プロデューサーお母さんに何か言われたの!?」

P「いや何も、何でいきなり」

忍「だって泣いてる!」

P「……は?」

忍「気付いてないの? はい鏡」

P「本当だ……いつの間に」

忍「いつの間にって、何かあったんじゃないの?」

P「いや、そうか。だから途中で」

忍「ちょっとこんな所で泣かないでよ、人も見てるから」

P「ごめん……ありがとう」

829: 2014/02/01(土) 22:45:52 ID:8dB5TK.Y
忍「何、いきなり礼なんて言われても」

P「自分が思ったよりも嬉しかったみたいだ」

忍「アタシ何かした?」

P「……アイドルになりたいって、言ってくれた」

忍「それはアタシから言い出したことだから」

P「いいのかな、スカウトしても」

忍「アタシは万々歳だって」

P「もう一度、話すよ。夢も現実も伝えたけど、まだ伝えてないものがあった」

忍「伝えてないものって?」

母「終わったの?」

忍「うん、それでね。さっきのプロデューサーが」

P「あの!」

母「お仕事はよろしいの?」

830: 2014/02/01(土) 22:47:22 ID:8dB5TK.Y
P「スタッフに任せていますから、それより……工藤忍さんを私に預けてもらえませんか」

忍「預けって、何か違う意味みたいな」

P「荒削りですけど、まだまだアイドルとしては未完成で才能があるかどうかも分かりません。
  それでも、私はこの子をアイドルにしたい。それは彼女の願いでもありますけど、何より誰より私  がそう思って、最後までああえっと何ていうか」

母「はい、宜しくお願いします」

P「はい?」

忍「お母さん!?」

母「嫌なの?」

忍「嫌じゃないけど、何であっさり」

母「ここで我慢させたらあんたまた飛び出しちゃいそうだし」

831: 2014/02/01(土) 22:48:03 ID:8dB5TK.Y
忍「う……」

母「それに」

P「はい」

母「今ここで貴方を信じなかったら後悔しそうで」

P「あの、改めてお聞きしますが」

母「いいですよ、鍛えてやって下さい。放っておくと怠けることばかり考える子ですから」

P「分かりました、精一杯プロデュースさせて頂きます」

832: 2014/02/01(土) 22:49:12 ID:8dB5TK.Y
忍「何だか、不思議な気分」

P「東京にはきちんと準備ができたらでいいから。寮は用意しておくし、学校への編入も手続きの用意はしておく。
  必要なものがあれば事前に連絡してくれ、できる限りの用意はする」

忍「大丈夫だよ、明日には行くから」

P「明日? そんな急でなくても」

忍「大きなイベントがあるんでしょ?」

P「ああ、あれか」

忍「見ておきたいなって思うから」

P「多分、迎えにはいけないと思うけど会場では会えると思う」

忍「何か、本当にドタバタしちゃったけどありがとう。期待に応えられるように頑張るから」

P「そうだ、最後に言っておこう。これを言うのも初めてだな、何か緊張してきた」

忍「何?」

P「ようこそ、シンデレラガールズへ」

終わり 次回は12日

833: 2014/02/02(日) 10:00:57 ID:SVH3UDaw
おつおつ!

引用元: ありす「心に咲いた花」