195: ◆EBFgUqOyPQ 2013/07/02(火) 22:33:31.04 ID:WkN5BQNwo



モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ




 ここ、ロシアは世界最大の面積を誇る連邦国家である。
広大な自然は見る者すべてを圧巻し、それに地球の神秘を感じる者もいるだろう。

しかしその暗部は深く、表だってはいないが世界に与えてきた影響も大きい。


場所はロシア内でも極東に位置する孤島。
あの日より世界中では超常現象不可思議なものが溢れるようになり、ロシア政府の限られていた人間しか知り得なかった能力者などの情報も世界の一般化してしまった。

その未知の力を利用して国家転覆を狙うような組織も台頭してきており、政府も秘匿してきた特殊能力部隊を投入しなければならないようになってきていた。

その国家転覆を組織がこの孤島の廃工場に根城を作っていることを知った政府は特殊能力部隊を派遣した。


しかし、相手は未知のテクノロジー、宇宙人の技術であろう装備を使用してきており、部隊は苦戦していた。

隊員A「くそ……手こずりすぎた」

隊員B「ああ、相手の戦力もあと少しだがこちらも犠牲が大きすぎる」

隊員A「これまでは力を使えばただの人間など問題はなかったが、敵にもそういった力が広まったせいで……」

その瞬間、隊員Aの頭が吹き飛ぶ。
どこからか狙撃されたのだろう。隊員Bはその場を急いで離れる。

隊員B「ちっ、しくじった。狙撃を許すとはな」

隊員Bが逃げ込んだ先には他の隊員たちがいた。

隊員C「油断するからああなるんだ。ビエーリコート、隊員Aを何とかできるか?」

隊員Cは近くにいたビエーリコートと呼ばれた少女に尋ねる。

少女「ビェスパリエーズナ……さすがに即氏では私の力は使えません。とりあえず私が囮で突入しますのでその隙に。攻撃的な能力の皆さんで殲滅してください」

そういって少女は身を隠していた遮蔽物から飛び出した。









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それは、なんでもないようなとある日のこと。


その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 
それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
突然超能力に目覚めた人々が現れました。
未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

それから、それから――
たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。



「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。

・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。





シリーズはここからご覧ください
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズ一覧
    





196: 2013/07/02(火) 22:34:41.39 ID:WkN5BQNwo



隊員B「あらかた片付いたな。ビエーリコートはどこだ?」

隊員C「突入した時に確認した逃げた敵を片付けに行ったんだろう」

隊員B「追い詰められた人間は何をしでかすかわかったものじゃない。あいつの能力なら氏なないだろうが探しに行くぞ」



少女は崖の先に逃走した敵の男を追い詰めていた。

少女「シャーフ エ マット……これで終わりです」

少女は追い詰めた男に拳銃を向けた。

男「は、はは……。この政府の犬め。せめて巻き添えだ」

男は懐から小さな白いボールのようなものを取り出した。

少女「爆弾っ……。させません」

そういって少女は発砲し男の頭を撃ち抜く。
しかしすでに男はスイッチを押していた。

爆弾はその大きさに似合わず大きな光を発し、薄暗い曇り空の下を照らす。
これも特殊な技術の爆弾なのだろう。かなり大きな爆風を上げ、せり出した崖を根こそぎ削り取った。

少女(やられましたね・・・・・)

少女は瓦礫と男に肉片の雨の中まっさかさまに崖から落ちていく。
そしてそのまま荒れ狂う海の中に落ちていった。

197: 2013/07/02(火) 22:36:07.19 ID:WkN5BQNwo
現在午前7時、ピィは海に来ていた。

ピィ「海はいい。心が安らぐ……」

ここは「プロダクション」から少し離れた港であり周りには倉庫が立ち並び人は彼以外にはいなかった。
本来彼はこんなとこに来て心の安寧を求めるような性格ではないのだが、ここ最近の自分の仕事である能力者のスカウトがうまくいかず、少し自信を失っていた。

ピィ「でもやはりこういった場所で自身を見つめなおすのも悪くない。柄には合わないがこの海を見ていれば自分の悩みのちっぽけさがわかるよ……」

そんな誰かに聞かれたら黒歴史になるであろう独白をするがあいにく彼の周囲には人の気配はなかった。

ピィ「全くいい天気だよ。青い空に青い海、さんさんと輝く太陽に寂れた倉庫群、海を漂う水氏体と……」




ピィ「水氏体ぃ!?」

穏やかな海に場違いなようにそこにはきれいなどざえもん、つまるところ水氏体だろう人影がのんきにぷかぷかと漂っていた。

ピィ「こんなときどうすればいい!?救急車?警察?」

そんな落ち着いた心から一変、パニックに陥ったピィはさらに深みにはまっていく。

ピィ(はっ!まさかこのままいくと

第一発見者→容疑者→ブタ箱

→くぅ~疲れました。これにて人生終了ですw )

ピィ「やだー!!あっ」

パニックにより頭を抱えたまま体を横たえコンクリをごろごろ転がっているとそのまま転がりすぎでピィは海に落ちてしまった。

198: 2013/07/02(火) 22:38:09.23 ID:WkN5BQNwo
ピィ「ブクブクブク……ぷはぁ。ってそうだ、とりあえず引き上げないと」

海に落ちたことにより頭を冷やされたのかピィは冷静な思考に戻る。
そのままピィは水氏体の腕をつかみ引き上げられそうな場所まで引っ張っていった。

何とかピィはその水氏体を引き上げ息をついた。
彼はそのまま氏体を確認する。

ピィ「まさか……氏んでない?」

その水氏体は水を含んで膨れ上がってないどころか血色がよく今にも起き上がりそうな少女だった。
ピィは少女の首に指をあてる。

ピィ(脈は……ある。でも水を飲んでるだろうし
ハッ!

これはやっちゃっていいんじゃないですかァー!?

人 工 呼 吸!)

ピィ「そうだ、彼女を助けられるのは俺しかいないんだ」

そういってちょっと凛々しい顔つきになったピィは少女に顔を近づけていく。
しかし近づいていくたびにピィの顔がいやらしいものになっていくが。

このまま少女のその唇は下心丸出しの男にズキュウウウンと奪われてしまうかと思われた。

しかしピィの唇が彼女に到達しようとする瞬間、彼女の口から飲み込んだであろう海水が噴き出した!
その水はピィの顔面に直撃する!

ピィ「ぐぁあああ!目が……目がァーー!」

海水にさらされたピィの目は激痛を訴えた。
ピィの視界が奪われている間に少女はむくりと起き上がる。

少女『……少し寝過ごしてしまいました。どこまで流されたのでしょう?』

少女はロシア語で呟く。
少女は近くにいたのたうち回るピィに視線を向ける。
そのまま腰にある拳銃を手に取った。

少女『海水に浸されてる。使い物になりませんね』

そのまま拳銃を海に投げ捨てた。
彼女はのたうち回るピィに手をかざす。

ピィ「ぐぁあ、あ……あれ?痛みが引いてきた」

少女「ドーブラエ ウートラ。いや、日本語ですか……。どうやらここは日本のようですし、こうですか。おはようございます?」

少女は首をかしげながらそうやって挨拶した。


199: 2013/07/02(火) 22:39:27.18 ID:WkN5BQNwo


ピィはそのまま少女とともに港から移動し始めた。

ピィ「なるほど、散歩中に足を滑らして海に落ちてしまったのか」

少女「ダー、助けてもらって感謝します」

少女はとりあえずこのようにピィに事情を説明した。
当然本当このことなど話せるわけがない。
実際少女自身の存在でさえ国家機密、トップシークレットなのだ。
ロシアの孤島から流されてきたことも話せるわけがない。

ピィ「外国人なのか?」

少女「ニェート。半分正解です。ハーフなのです。ママが日本人、パパがロシア人」

少女は当たり前のように偽の家族構成を言う。

ピィ「そうなのか。よし、壊れてないか。親には連絡した方がいいんじゃないか?」

そういってピィは少し濡れた携帯電話を確認しながらを差し出した。

少女「バリショーエ スパシーバ。言葉に甘えます」

少女はピィの携帯を手に取る。
ここで断るのは不自然であるうえ、たとえ履歴が残ったとしてもピィ自体を処理してしまえば問題ない。

少女はそのまま日本にある特殊能力部隊とつながりのある組織の日本の支部に連絡を入れた。

少女『現在日本の○○に流れ着いた。私が証拠を処理したのちに回収を頼みます』

少女は電話を切ってピィに返した。

少女「迎えを呼びました。近くのコンビニに迎えに来てくれるそうです」

ピィ「家ではロシア語なのか」

少女「ダー、ロシアで暮らしていたことも長いので。当然両親も日本語はしゃべれますよ」

内心少女はすきを窺っていた。
近くに海はあるし能力を使えば証拠隠滅も造作もない。
武器はなくとも少女にはピィをすぐに殺せる戦闘力を持っていた。

しかし……

塩見周子「ピィ。ようやく見つけた」

200: 2013/07/02(火) 22:41:11.58 ID:WkN5BQNwo
倉庫の屋根の上に一人の少女が座っていた。
彼女は塩見周子。千年生きた大妖狐である。

少女「ショールト ヴェイズ ミ(しまった)……」

少女は小さくつぶやく。
人が一人増えるだけで手間が二倍になる。
しかもそれ以上に少女が厄介だと思ったのは

少女(この人……ただの人間じゃない)

裏の世界に身を置いてきた少女は塩見周子の纏う気配に容易に気付いた。
ただの人間に毛の生えた能力を持つ程度ならともかくこれはやばいと少女の心が警鐘を鳴らす。

塩見周子が圧倒的格上であることに少女は気づいたのだ。

後悔した。早めにこの男、ピィを頃しておけばと。
しかし安堵もした。頃さなくてよかったと。もし頃していたら自身が殺されかねないからだ。

少女(ここはしらを切り続ける。チャンスを伺うしかない)

ピィ「周子か。どうしてここに?」

周子「どうしてって時計見なよ」

ピィ「時計って……あ」

ピィは腕時計を確認すると文字盤に刻まれていたのは9時をとっくに過ぎていた。

周子「まったく珍しくピィが遅刻するから心配だから探してきてくれって社長に頼まれてさ。暇だったから承諾したけどよくよく考えれば電話すればよかったのに……」

周子はそのまま屋根から飛び降り、ピィたちの前に着地した。

周子「しかもまさか女の子と一緒に海にいるなんて」

ピィ「これは……そう、この子が海で溺れていたから助けたんだ!」

周子「じゃあピィは一人で海に来てたんだ。一人で海で何してたのかなー?」

ピィ「それは……自分探し?」

周子「ぷっ、ははははは!自分探しとは傑作だね。しかも自分を見つけるんじゃなくて女の子を見つけるなんて」

周子は笑いながらそうピィに返す。

内心少女は戦々恐々としていた。
表面では普通にふるまっているが気が気ではなかった。

201: 2013/07/02(火) 22:42:21.22 ID:WkN5BQNwo
少女(大丈夫。平常心を保つ)

周子「ところであなた、名前は?」

そこに周子に話を振られる。

ピィ「そういえば名前聞いてなかったな」

少女「私は……○○です」

とりあえず適当な偽名を応えておく。

少女(そういえば私の名前は何なのだろう?考えたこともない)

少女は幼いころから特殊部隊で育てられてきた。
物心ついた時には自身のコードネームで呼ばれていて、そのコードネーム自体も定期的に変更されていた。
つまり自身を識別する記号、名前を彼女は持ち合わしていなかったのである。

当然彼女はこれまでにそんなことを考えたこともなかった。
こんな状況に陥ったのですら初めてなのである。
誰も名を尋ねてくることもなかったのだ。

周子「へぇ……。アタシは塩見周子。よろしく」

周子の瞳はまるですべてを見透かしたかのような瞳、少女からはそんな風に見えていた。

少女「オーチン プリヤートナ。よろしく」

ピィ「ああ、そういえば俺の自己紹介も忘れていたな。まぁ……ピィとよんでくれ」


202: 2013/07/02(火) 22:43:54.18 ID:WkN5BQNwo


周子「じゃあアタシは先に戻るから。ピィさんに○○ちゃんは任せたよ♪」

そう言って周子は煙を上げて姿をけしてしまった。

ピィ「そういえばあんまり驚かないな。周子を見ても」

少女「あ……ニェート、驚いてます。でも一度にいろんなことが起こりすぎていて混乱してます」



少し離れたところで周子は二人のことを見張っていた。
ピィのような素人にはわからないように、それでいてわかる者にはわかるように。

事実、少女は見張られていることに気づいていた。故にピィに手出しができないことも分かっていた。

正体を感づかれている。そのことに気が付いた少女は考えを巡らせる。

少女(とりあえず証拠隠滅はあきらめて、ロシアに戻ろう。
もしかしたら敵に回られることも秘密を洩らされることもないかもしれない。

厳罰ものだが殺されはしないだろう。
私の能力は貴重だろうし、多分私を頃すこともできないでしょうから)





周子はスマートフォンを手に取ってどこかに連絡を取ろうとしていた。
千年も生きた大妖狐が現代の技術であるスマホを持っているとはまた奇妙な話である。

周子「もしもし、志乃さん?周子だけど」

203: 2013/07/02(火) 22:45:17.65 ID:WkN5BQNwo
柊志乃『あら、珍しい。あなたの方から連絡してくるなんて。どうしたの?』

電話に出た女性、柊志乃は機嫌のよさそうな声で周子に尋ねた。

周子「ちょっと頼み事したいんだけど、いい?」

志乃『もちろん。かまわないわよ。私と周子さんの仲じゃない。遠慮なんていらないわ』

周子「なら別に『さん』付けしなくていいのに」

志乃『こればっかりはね。あなたのほうが年上なんだから』

周子「それってほんとに?いつ生まれか教えてくれたことないじゃん」

志乃『何?私が老けてるってこと?』

周子「そうはいってないでしょ。つまり秘密が多すぎるの」

志乃『いい女には秘密はつきものって言うでしょ』

ふたりはそんな他愛もない会話を続けながらも周子は港から出る方向に向かうピィたちから目を離さず、一定の距離を保ちながら追っていた。

周子「ともかくある人のことを調べてほしくてね。○○っていうんだけど」

志乃『なるほど、知らないわね』

周子「やっぱり?まぁ結構ありふれた名前だから多分偽名だろうしね」

志乃『でも私ではわからないけど、全く知らないことでも知ることのできる人を私は知っているわよ』

周子「さすが志乃さん。相変わらずいろんな人と友達だ」

志乃『持つべきものは友人ね。わかったら折り返して連絡するから。ちなみにこれは貸しひとつよ』

周子「えっ!?ちょっと待って志乃さん?」

志乃『じゃあ一旦切るわね。どうしても呼び捨てがいいなら周子さんも私を呼び捨てにしてみたらどう?』

スマホのスピーカーからプツリと音が鳴る。
それからはスマホは沈黙した。

周子「まったく志乃さんは……あっ」

そこで周子は二人から目を離していたことに気づく。
周りを見渡したが完全に見失っていた。

周子「やばっ、あの二人どこ行った?」


204: 2013/07/02(火) 22:46:37.79 ID:WkN5BQNwo


少女は監視の目が緩んでいることになんとなく感じ取っていた。

少女(ここで勝負をかける?でもその後どうする?)

少女はここで動くことはできるがその後に周子から逃げられるとは思えない。
周子の監視が完全に止んだのならともかく、ほんの一時的なもの。動くことは得策ではない。

少女(やっぱり……耐えるしかないか)

ピィ「ところで○○ちゃんは、家族とは仲いいのか?」

唐突にピィはそんなことを訪ねる。
少女は突然投げかけられたその問いに少し驚くが、表情に出すことはなかった。

少女「ダー、パパもママも……大好きですよ。どうして突然?」

ピィ「他人の家の事情に首突っ込むのはよくないかなとも思ったけど、さっきの電話の時にあまり家族と話すような感じじゃなかったみたいだからな

もしかしたら何かあるのかと思ってね。だから安心したよ」

ピィはそういって笑った。
少女は笑顔というものを知らない。感情は頃すように訓練されてきたからだ。
他の隊員たちもほとんどは感情を見せず機械のように任務をこなしていた。

だからこそまともな感情というものに触れることもなかったので、おのずと心は麻痺した。停止していた。
仲間が氏のうと、自信が傷つこうと、何も感じなかった。

だが麻痺していただけなのだ。凍り付いているだけなのだ。
部隊の人間の中には人間らしい感情を捨てたものも多い。
ただ彼女は人の感情を知らなかったのである。

ピィの他人を思いやるという当たり前の感情、そしてその感情をそのまま表した笑顔には彼女にとっては未知のものであると同時に

少女(うらやましい)

他人が持っていて自分が持ってないものを欲する感情、それでいてはるか遠くにあるものである憧れという感情を少女は幽かだが、初めて抱いた。
その感情は、無自覚にも凍えきった心に熱を与えた。

その未知の感覚に浸っていて彼女はほんの少しだけ油断したのだ。

205: 2013/07/02(火) 22:48:02.89 ID:WkN5BQNwo
ピィ「危ない!」

少女はピィに抱かれ、その場からピィとともに飛び退く。
先ほどまでいた場所は黒く細長い何かが飛んできて大きく振るわれる。
その瞬間、アスファルトはひび割れながら砕かれた。

その場にとどまっていればただの人間ならいともたやすく引き裂かれていただろう。
それほどにまで鋭利で暴力的な何かが過ぎ去ったことは明らかだった。

ピィ「くそっ、こんな時にカースか」

少女はピィの声によって我に返る。彼女は攻撃を受けたのだと自覚したのだ。

少女(カース、資料では見たことがある)

その姿は黒い泥のようなもので核の色によって対応する七つの大罪の性質を持つ人類の脅威。
少女にとって写真でしか見たことのなかった異形がそこにはいた。

少女「……初めて見ました」

ピィ「とりあえず逃げよう」

ピィはその場から立ち上がり少女の手を引く。少女自身戦ったことのないの未知の相手、正体がばれるとか関係なしでもここは撤退を考えた。

少女「ナーディエヌィ……あ、わかりました」

少女も立ち上がりカースに背を向けて走り出す。
しかしカースも当然見逃してくれるわけもない。

『ウォオオオオオオオオオオ!』

カースはどこから出ているのかわからないが雄たけびを上げる。

206: 2013/07/02(火) 22:50:11.40 ID:WkN5BQNwo
『許サン!許サンゾォオオオオオ!』

カースは叫びながら先ほどの鋭利な触手を飛ばしてくる。
その矛先は一直線にピィたちに向かっていった。

少女(この状況では仕方ない)

少女は正体がばれるよりもこの状況を打破するのが先決と考え触手と対峙しようとした。

少女(私でもこの触手の矛先を逸らすことくらいはできる)

そう考えカースの方向をむこうとした瞬間、少女は突然横から力がかかり、転倒する。

少女は驚きに目を見開いた。

少女(私は、この人に、庇われた?)

そこには触手に串刺しになったピィがいた。
伸びた触手はカースの元に戻っていくと同時にピィの体から引き抜かれ、体にトンネルが貫通する。
そのままピィはその場に倒れこんだ。

少女「どうして……私を……」

ピィ「早く、逃げろ……。そして通報するんだ。警察でも、GDFでも……いい。早く、逃げるんだ!」

息も絶え絶えながらにピィは力を振り絞って叫ぶ。
確実に致命傷だろう。血はあふれ出し、穴からは欠損した内臓まで伺える。

少女には理解ができなかった。
部隊の中でも誰かを庇ったことなんてない。氏ぬのは自己責任だ。
それなのにこの男は出会って間もない少女を身を挺して守ろうとしたのだ。

少女(こんなもの、理解できるわけがない)

少女はその場から立ち上がる。
その間にもカースは先ほどよりも多くの触手を飛ばしてきた。
とどめを刺すつもりなのだろう。

少女「全く……柄じゃないです」

少女(だれかのために戦うなんて)

207: 2013/07/02(火) 22:52:09.63 ID:WkN5BQNwo
凶器と化した触手は一直線に少女の方に向かっていく。
しかし少女はそれを素手と脚を使って、すべてを逸らすか、掴んだ。
そしてそのまま靴底に仕込まれていたナイフを足元に押さえつけた触手に突き刺す。

しかし泥のような体をするカースには効果がなかった。
それでも少女はカースの触手を離さない。
チリチリと焼けるような軽い痛みが手に走っているが大したことはなく触手を掴んで離さなかった
カースは逸らされた触手を戻し、再び打ち込んできた。

少女「同じ攻撃を、もう一度とは……芸がないです」

少女は掴んだ触手を利用して体を上に跳ね上げ、逆立ちのようになり飛んできた触手を回避した。
そしてそのままつかんでいた触手を離して着地する。

そのまま少女は近くにいたピィに手をかざすとピィの体に開いた穴は塞がっていき、失血により悪くなっていた顔色は血色を取り戻していった。

少女「貸した覚えは、ありませんが……とりあえず、貸しは返しましたよ」

『アアアアーーー!憎イ憎イ憎イィイイイイ!』

雄たけびをあげてカースはさらなる数の触手を生み出す。

少女「カースと言っても、話に聞いていたほどでは、ないですね」

少女はカースに向かって走り出す。
それに対してカースは触手を飛ばして対抗してくるが少女は紙一重でそれを避けながらカースに接近していく。

そしてカースのすぐ近くまで行くと少女は手刀を構えてカースに向かって突き刺そうとした。

しかしカースはその直前でまるで針山のような触手を少女に向けて生成する。

少女は驚いたように目を見開くが最小限の動きで針山の間を縫うように回避しようとした。
しかしこの攻撃で手刀を構えた腕は吹き飛ばされ、わき腹に針が突き刺さる。

少女「ぐ……あ……」

208: 2013/07/02(火) 22:54:11.87 ID:WkN5BQNwo
カースは針山を自身の体に収めると、少女は地面に膝をつく。
勝利を確信したのだろう。
そのままカースは少女をとり込もうと動き出した。

しかしその動きは止まった。
すでに少女は立ち上がり先ほど吹き飛ばされたはずの腕がカースに突き刺さっていたのだ。

その手はカースの核を握りしめている。


少女「シャーフ エ マット(チェックメイト)」


そのまま核を握りつぶした。

『アアアアアアアアアアーーー!』

カースは断末魔の叫びをあげながら黒い泥は潮風に流されていくかのように消えていった。

少女は手のひらを開くと赤い砂のようなものが零れ落ちていく。

少女「なるほど……憤怒のカースですか」

周子「そうみたいだね」

209: 2013/07/02(火) 22:55:57.36 ID:WkN5BQNwo
突如と聞こえてきた声に少女は身構えた。
そこにはやはり塩見周子が、倉庫の屋根の上に座っていた。
周子の近くにはピィが倒れている。
きっと巻き添えを食らわないように周子が移動させたのだろう。

少女「ピィさんは、大丈夫?」

周子「うん、ぐっすり眠ってるよ。それにしても意外だね。隠してきた秘密とかはもういいの?」

少女「ニェート、なんかどうでもよくなった気がします」

少女も自身の心境の変化に驚いてはいたが、もはやそれさえもどうでもよくなってきていた。

周子「全くたいしたもんだよ。攻撃性がより高い自然発生のカース、しかも凶暴な憤怒のカースを一人で倒しちゃうなんてさ」

少女「褒められるとは……スパシーバ?」

周子「うん。さて、これからどうするの?」

少女にとっての当面の問題はそれである。
周子に知られても黙ってもらえば問題なかったものの、これだけ派手に暴れてしまった後だ。
必ず足はつくだろう。

少女「……とりあえず、逃亡生活でしょう」

周子「そんなあなたにお知らせがありまーす」

周子は急に立ち上がり、傍らに倒れているピィを物色する。
そして何かを取り出したかと思うと少女に向かって投げた。
それを少女はキャッチする。

少女「これは……ピィさんの携帯電話?」

周子「そそ、しばらく待ってれば非通知でかかってくると思うからそれに出てみればわかるよ」

少女は怪訝な顔をするがおとなしく待つことにする。
そして1分くらいたった時に携帯電話は鳴り始めた。

少女はその非通知からの着信に出る

『祖国の部隊の隊員にビエーリコートという者は存在しない。以上』

210: 2013/07/02(火) 22:58:27.32 ID:WkN5BQNwo
それだけを伝えられると電話は切れてしまった。

周子「わかったかな?ビエーリコート、つまるところ白猫さんの帰る家はなくなっちゃったわけなの」

少女「これは……どういうことですか?」

少女は困惑する。
自分が知らぬ間に仕事をクビになっていたのだ。
当然であろう。

周子「あたしの友達にあなたのことを調べるのを頼んだら、勝手にこうなっててね。

おせっかい焼きなんだよ。あの人は」

そういって周子はため息をついた。

少女「ヴィー……いったいどこまで知っているのですか?」

周子「そうだね、まずはロシアの特殊能力部隊の隊員で、能力は超回復能力。見事なものだよ。まさか吹き飛ばされた腕が一瞬で回復、いや再生するなんてね。
あとはロシアの極東の●●島で任務中のところ失踪ってところかな」

少女「すべてお見通し、というわけですか……」

周子はそのまま屋根から飛び降りてきた。

周子「この先、行く当てもないでしょ。せっかくだし日本に住むのを手伝ってあげるよ」

少女「どうしてそこまでするのですか?きっとあなたには、わかっていたでしょう。
私が、ピィさんを殺そうとしていたことを」

211: 2013/07/02(火) 22:59:54.59 ID:WkN5BQNwo
周子「だって頃してないし、それどころ治療までくれたじゃん。お礼を言いたいくらいだよ。ありがとう、ピィを守ってくれて」

心からの感謝の言葉。
これまで憎まれはしても、感謝されることはなかった。
そういう世界に身を置いていたので当然だが、少女にとってはこの感覚でさえも初めてなのである。
凍り付いていた心はさらに熱を持っていく。

周子「それに、これも教えてもらったことだけど、あなたでも知ってないことも、あたしは知ってる」

少女「私の……知らないこと?」

周子「そう、それはあなたの名前。親からもらったあなただけのもの」

少女「私……だけの」

周子「そう、親の願いが込められた絶対の財産さ」

しかし少女は困惑する。

少女「ノァ……私は、頃しすぎた。今更、その名を、名乗る資格なんて、ない。今更、日の光の当たるところでなど、生きてはいけない」

少女は今、とても弱々しかった。
むき出しになりかけた心はあまりにデリケートだ。
先ほどまでカースを素手で倒したとは思えないほどに。
触れれば、壊れつぃまいそうなほどに。

しかし周子は少女を抱き寄せ言う。

212: 2013/07/02(火) 23:01:37.60 ID:WkN5BQNwo
周子「ならあなたは生まれ変わればいいんだよ。
これまでのような血にまみれた白猫じゃない。
新しいあなたに。

罪は消えないかもしれないけど、やり直せるから」

周子は少女の目を笑顔で見つめて少女に、失っていた名を告げた。

周子「あなたは

アナスタシア

あなたのお母さんがつけてくれた名前」

アーニャ「ミニャー ザヴート アナスタシア

ミニャー ザヴート アーニャ!」

幼いころ、まだ自我さえなかった確立していなかった頃、母親の腕に抱かれていた記憶をアーニャは思い出す。
愛称であるアーニャと母が呼んでいてくれたことを。

アーニャ「まったく、今まで涙など……流したことすら、なかったのに
涙が、なぜか止まりません」

周子「泣いていいよ。きっとその涙は大切なものだから」

アーニャ「ううう……
うわあああああああああああああああああん!」

周子は泣きじゃくるアーニャを腕に抱きながらその頭をなでている。



周子「まったくこの子、かわいいわ」



少女の心は完全に溶けきった。
まだ心の歪みは治ってはいないがそれでも
彼女、アナスタシアは再びこの世に誕生することができたのだ。






ピィ「なんだか出て行き辛いんですけどこの雰囲気」



213: 2013/07/02(火) 23:03:39.00 ID:WkN5BQNwo
アナスタシア(15)

職業 元ロシア特殊能力部隊隊員
属性 能力者
能力 超回復能力・ロシア式CQC

言葉もしゃべれないほど幼いころからロシアの超能力者機関に拉致にされて育てられ、10歳より特殊能力部隊に入隊し、様々な任務をこなしてきた。
ロシアの孤島の任務の失敗で遠路はるばる日本まで漂流してくる。
いろいろあって特殊能力部隊をクビになったので、現在日本での生活のための準備中。
あらゆる国の言葉をマスターしているが特に覚えが早かったのは日本語である。
しかしそれでもたまにロシア語は出てきてしまう。

超回復能力
細胞を活性化させることにより傷を治癒させることができる。
世界中に治癒能力者は少なからず存在するが、アーニャの回復力はもはや再生と言ってもいいほど強力なものである。
自身が傷ついた時には自動で発動し、特に生命を脅かすレベルとなると痛覚が伝わるよりも早く回復することもある。
他人にも当然使うことができるが少し集中が必要になる。
カースに侵食されそうになると浸食された細胞は自動で氏滅して新たな細胞が次から次へと生まれてくるのでカースに侵食されることもなくカースに触れることができる。
しかし無限に回復し続けるわけでもなく、徐々に疲労がたまっていくので多用は禁物。

ロシア式CQC
ロシアで生み出された超次元格闘術。これを編み出したのはアーニャの所属していた特殊能力部隊の隊長。
ジャッキーチェンをも超えるアクション、セガールを超える征圧力、ターミネーターを超える破壊力もモットーに編み出された……らしい。
その強さはアーニャが回復は能力に頼ったもののカースを人間の力のみで倒すほど強力なものである。
おそロシア。

自然発生型カース
人の強い感情が核となり自然に生み出されたカース。
故にほとんど生み出されることのない憤怒などのカースはこれにあたることも多い。
しかし実例は少なく、レアキャラである。
人の感情の純度が高いので、悪魔製やカースドヒューマン製のものより人間に対してより攻撃的で強力な場合が多い。


214: 2013/07/02(火) 23:04:53.37 ID:WkN5BQNwo
以上です
自分の書きたい事書いてたらなんか話が臭くなってしまった気がします。
ファブリーズ代わりに最後にピィを置いときました。
台無しとか言わないで。

初めてのSSだったんで助言とかもらえるとうれしいです。

215: 2013/07/02(火) 23:06:19.57 ID:6dhZ/t2Vo
おっつおっつ

ねぇ、奥様聞きました?これで初めてですって
いいSS書きやがりますわよね




【次回に続く・・・】



: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part3