244: 2011/02/05(土) 13:58:04 ID:IjgcFIzY0
SS投下します。
お題『お弁当』
タイトル『# 何時までも、ずっと #』

245: 2011/02/05(土) 14:03:35 ID:IjgcFIzY0
それは、昨夜の事だった。

「唯、ちょっと来てこれ見てもらえる?」

晩御飯を食べ終えてのんびりテレビを見ていた私は、洗い物をしていた梓に呼ばれて台所へと向かった。

「ほいほい、な~に?」
「これ……もうダメだねぇ」
「ん?……ありゃりゃ~確かに」

見ると、愛用しているお弁当箱の蓋に着いている留め具が外れかけていた。

「はぁ……まだそんなに使ってないのになぁ~」
「大学入ってちょっとしてから……だっけ?」
「うん……まだ六年くらいかなぁ」
「六年か……ちょっと早いねぇ」
「……お気に入りだったんだけどな……」

私が少し落ち込んだ様子を見せると、梓がこんな事を提案してきた。

「えっと、明日オフでしょ?さっき『何しようかなぁ~』って言ってたじゃない?」
「え?あぁ、うん」
「じゃぁさ、新しいお弁当箱を買いに行かない?今度はもっと永く使えるのを買おうよ」
「……うん、そうだね。今までのお弁当箱さんとサヨナラするのは寂しいけど……、あんまり無理させてもマズイよね」
「それじゃ、明日は」
「新しいお弁当箱さんを買いにレッツゴー!」

 # 何時までも、ずっと #

ふんふんふ~ん♪

「どうしたの?ご機嫌だけど」
「そりゃぁそうだよ~。だって梓と食材以外のお買い物なんて久しぶりだも~ん」

空は晴れてるし、風も心地好いし、なにより梓と一緒だからね~

「そっか……そういえばずっとオフが合わなかったよね」
「うん。だからとっても嬉しいんだ~」
「……私も、嬉しいよ……」

……そんな事言いながら頬を赤く染めるなんて、反則だよ~
抱き着きたくなっちゃうじゃん……
ん、でも今は取り敢えず自重しておこう、うん

「えへへ~、ありがと~」
「ふふっ、どういたしまして……かな?」
「かな?……可愛いお弁当箱あるかな~」
「良いのがあるといいね♪」
「ね~♪」



「ふぅ……久しぶりの電車は流石に疲れるね……」
「まぁ、変装も何もしてないから仕方がないんだろうけどね……」

電車に揺られること数駅、乗り換えて更に数駅。
長時間同じ場所に留まっていると見つかりやすい、とはいうけど……。

「まさか最初の電車に乗った時から気付かれてたとはねぇ……」
「ね……はぁ……」
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)

246: 2011/02/05(土) 14:06:44 ID:IjgcFIzY0

乗り換えた車内でファンの子達に囲まれ、まさかのラッシュ状態に陥り、サインと写メと質問攻めにされた私達は電車を降りると思わずベンチに座り込んでしまった。
……電車ってこんなに疲れる乗り物だったっけ?

「……唯、こんな所で疲れててもしょうがないよ。さ、行こう」
「そだね、……ふんす!」

気合いを入れて立ち上がり、私達は改札へと歩きだす。

「気持ちを入れ替えて……買い物するぞー!」
「ふふっ。じゃぁ、改めてレッツゴー!」
「レッツゴー!」



「ふわぁ~、いっぱいだぁ~」

目の前には色んなお弁当箱がずらりと並んでいる。
キャラクターが書かれている小さい物、無骨な金属製の大きな物、漆で塗られた高そうな物……。
どうやらここ最近のお弁当ブームのおかげで、品揃えを多くしているみたい。

「ねぇ、今度はどんなのにする?」
「うーん……取り敢えず第一条件は『壊れにくい物』だよね~」
「……そうだね、すぐ壊れちゃ悲しいもんね」
「うん……」

壊れにくい物……
金属製なら確かに壊れにくいけど……あんまり可愛くないしな~
かといって今までと同じのだと……数年でまた壊れちゃう可能性があるし……

「うーん……悩むねぇ……」
「だねぇ……」

どれが良いかなぁ~?
色々と手に取って大きさや重さ、壊れにくいかどうかを確かめる。
だけど……どれもイマイチしっくりとこないなぁ……
ん?……あれは……

「どうしたの?唯」
「ん~。懐かしいな~って思ってさ」
「あぁ、これって……」
「うん。高校の時に使ってたのと同じやつだよ~」
「ねぇ、この形なら壊れにくいんじゃない?」
「……それもそうだね、実際三年間壊れなかったし」
「じゃぁ、形はこれで……あんまり小さいとダメだよねぇ……」
「そうだね~」

高校の時はこれでも問題は無かった。
だけど、仕事をしている今となっては流石にこの大きさでは小さすぎる。
かといって無骨な金属製ってのもねぇ……

「あ!ねぇ、これなんか良いんじゃない?」
「おぉ!これなら良いかも!!」

梓が見つけたのは、直径が十七~八センチでやや楕円形のお弁当箱。
二段になっているから容量も申し分なさそうだし、何よりも桜の花が上品に描かれていて……この上なく可愛らしい。

247: 2011/02/05(土) 14:08:25 ID:IjgcFIzY0

「これなら大丈夫じゃない?」
「うん!量も今までのと同じくらい入りそうだし……桜の絵も可愛いね~」
「じゃぁ、これで」
「……でもさぁ、これだと持ち運びに不便じゃない?横になっちゃったら……」
「そっか……。あ!じゃぁ私がお弁当袋作ってあげるよ」
「ホント!?ありがと~」
「どういたしまして。……それじゃ」
「お買い上げけってーい!」

えへへ~、近場で済ませないで良かった~
って……あれ?

「梓、何してるの?レジ行こうよ」
「ん~?ちょっと待ってて」
「ん?何を探してるの?」
「お弁当箱」
「……見つけたじゃん、丁度良いの」
「あ、ごめん……。それとは別のやつを……」

別の?
……梓のは壊れていなかったはずだけど……

「別のって?」
「……あのさ、この前……秋にお弁当持って紅葉狩り行ったじゃない?」
「行ったね~、綺麗だったなぁ~」
「だよね~。それでさ、その時に言った言葉……覚えてる?」
「言った言葉……?」



「流石にお弁当箱二つはかさ張るねぇ」
「仕方がないじゃない……大きいの無いんだから」
「……今度大きいの買おうか?」
「……そうだね」



「そういや『大きいの買おう』って言ってたね~、すっかり忘れてたよ~」
「もぉ……。ま、そうじゃないかとは思っていたんだけどねぇ」
「呆れられた!?」
「でさ、どんなのが良いかなぁ?」
「しかもスルー!?」
「はいはい……。ねぇ、唯もちゃんと見て選んでよ。それとも私が独断と偏見で選んでも良い?」
「そ、それは困るのでしっかりと選ばせていただきますっ!」

私は慌てて梓の隣に立ち、良さそうな物を探しはじめる。

「大きさはどんな感じが良いかなぁ?」
「うーん……私達二人で丁度良い大きさ……よりは少し小さめの方が良いよね」
「なんで?」
「だって……美味しそうな物売ってたら食べたいじゃん」
「……それもそうだね。じゃぁ……これくらい?」
「梓さん……私はそれ一段分で良いんじゃないかと思うんですけど……」
「あぁ、これって一段でも使えるみたいだからさ。『私達』だけじゃなく『みんな』で何処か行く時にも使えるでしょ?」
「一段で『私達』、二段で『みんな』か……うん、それ良いね!」
「でしょ?」

そっか~、梓はそこまで考えているんだね~
凄いなぁ~

248: 2011/02/05(土) 14:09:55 ID:IjgcFIzY0

「ところでさ、梓」
「何?」
「えっと……お客様、こちらの商品はこの三種類の柄がございますが……どれにいたしますか?」
「クスッ……なんで店員の真似するの~?」
「えへへ~、たまにはこーゆーのも良いでしょ?」
「もぉ……。ふふっ、じゃぁ……このネコが色々なポーズをしているのをお願いしま~す」
「かしこまりました~!では、レジに行って」
「お会計しましょ~」



「ふぅ……」
「お疲れ様」
「梓もお疲れ様。……でも、今日は良かったね~」
「丁度良いもの買えたしね~」

時刻は丁度午後六時半。
晩御飯が炊けるまでのくつろぎタイム。

「さて……と」
「ん?どうしたの?」
「お弁当箱洗わなくちゃ、今日買ってきたのと……今まで使ってたのを」
「そっか……そうだね」

買ってきたお弁当箱持ち、台所へと向かう。
そこには昨日まで使っていた……愛用のお弁当箱が置いてある。

「じゃぁ……キレイキレイしようか?」

私はスポンジを手に取り、二つのお弁当箱を丁寧に洗いはじめる。
今まで使っていた物には、ありがとうの気持ちを込めて。
新しい物には、これからよろしくの気持ちを込めて。
底の隅っこから蓋の隙間まで、気持ちをタップリと込めて……。

「泡流すよ~」

蛇口から流れる水で、泡を丁寧に流す。
流し残しの無いように、丁寧に、しっかりと。

「ふふっ……二人ともピカピカだね~」

水切りかごに並んだ二つのお弁当箱。
台所の明かりでキラキラと輝いている。

「さてと……それじゃぁ拭きますよ~」

食器拭きでそれぞれをしっかりと拭く。
隙間の水も、残さぬようにしっかりと。

「……綺麗になったね……」

僅かの水も残さぬように拭かれた二つのお弁当箱は、とても美しかった。
私は新しいお弁当箱を取り、食器棚に置く。

「これから、よろしくね」

そして……今まで使っていたお弁当箱を手に取り……用意しておいたビニール袋にそれを入れる。

「今まで……ありがとうね」

249: 2011/02/05(土) 14:11:25 ID:IjgcFIzY0

感謝の言葉を述べ、袋の口を縛り、ごみ箱の中に優しく置く。

「……ふぅ……」

一連の『儀式』を終えると、急に脱力感が私を襲い、その場に立ち尽くしてしまった。
やっぱ……『お別れ』は……辛いな……

「……唯……」
「……な~に?」

いつの間にか来ていた梓が、背中越しに私を優しく抱きしめる。

「……辛くない?」
「……ちょっと……ね」
「そっか……でもね」
「?」
「どんなに強くて丈夫な物でも……何時かは必ず別れなくちゃいけない時がくる……だから……」
「……だから?」
「だから……それまで精一杯それを大事にしていこうよ……ね」
「うん……そうだね」

……精一杯……か……

「私も……」
「ん?」
「私もね……精一杯、大事にしてるよ……」
「……何を?」
「唯との時間を……だよ」
「……私も、大事にしてるよ……」

私は梓の腕の中でゆっくりと振り返り、梓を優しく抱きしめ返す。

「……何時かわからないけど、いずれ私達はこの世から去って行ってしまう。だから、何時そうなっても良いように私は今を大切に生きる……。前に梓がそう言ったよね」
「……うん」
「その言葉を聞いた時に初めて『あぁ、そうか。残された時間ってのは誰にもわからないんだ』って気付いたんだ……」
「そっか……そうだよね……誰にも、わからないんだよね……」
「だからね……」

こつん……
額を額に軽く当てて、こう告げた。

「私は、『その時』がくるまで……ううん、そのあとも、何時までも、ずっと、梓を愛し続けます。……良いよね?」
「……うん。私も……何時までも、ずっと、唯を愛し続けます……」

そう言うと、僅かに顔を離し、私を見つめ、目をつむる。私はゆっくりと顔を近付け……。

PiPi!! PiPi!! PiPi!!

唇が触れる寸前、電子音が鳴った。

「んもぉ……なんでこのタイミングなのかなぁ~」
「ふふっ……なんか狙ってたみたいだよね」

折角良いムードだったのに……

「たまにはこんな時もあるって。さ、晩御飯の支度、始めよ?」
「はぁ……そだね……」
「な~に?その、いかにも『残念』って感じの口調は」
「だってさぁ……」

250: 2011/02/05(土) 14:12:55 ID:IjgcFIzY0

私が不満げな表情を見せていると、梓が何やら意味深な笑みを浮かべながら顔を近づけてきた。

「もぉ……しょうがないなぁ……」

その言葉と同時に、柔らかな物が唇に触れる……。

「……梓さ~ん、いくらなんでもこれは無いんじゃない?」
「え?そう?」

唇に触れたのは梓の唇……ではなく、晩御飯のおかずでもある煮物の『玉こんにゃく』。

「ぶー」
「ほらほら、そんなに腐らないの……」
「でもさぁ……あ!」

梓に文句を言おうとしたその時、私のお腹が小さく鳴った。

「ほら……お腹空いているんでしょ?まぁ……私もだけどさ。だから早く食べよっ、ね」
「……そだね……」

はぁ……
でも……まぁいっか~、今日は楽しかったし。これ以上を求めちゃ、神様に怒られちゃうよね

「唯?どうしたの?」
「ん?あぁ、今日は楽しかったな~、って思ってさ」

「……そうだね。私も、楽しかったよ……唯と久しぶりに出掛けられたし……お弁当箱も良いのが見つかったし」
「あ!お弁当箱!……大きいの洗い忘れちゃったよ……」
「それは二人で洗おうよ。これから先、『私達』が使うんだし。ちゃんと『二人』で綺麗にしてあげよ?」
「……そうだね、『私達』が使うんだもんね」
「だから……」
「晩御飯の支度を始めようよ。でしょ?じゃぁ私、エプロン着けてくるね」
「じゃぁ先にお料理始めてるよ」
「うん!」

普段と変わらない我が家の風景。
でも……何時かはわからないけど、これが無くなる日が必ず訪れる。
だから私は、その日までずっと、これを大事にしていこうと思う。

「ねぇ、梓……」
「ん?」
「ずっと……一緒にいようねっ!」
「……うんっ!」

おしまい!!

251: 2011/02/05(土) 14:14:26 ID:IjgcFIzY0
以上です

ではでは ノシ

252: 2011/02/05(土) 17:21:55 ID:fqwitPKk0
>>251
GJ!!
何時かは別れのときが来るから、それまでの時間を大切にしようという部分にとても共感しました

253: 2011/02/06(日) 08:00:55 ID:3Gp0CMOg0
ぐっじょぶ

引用: 【けいおん!!】唯×梓スレ3【避難所】