320: 2011/02/16(水) 23:31:28 ID:kFMxEY.60
『あなたへの唯一つのチョコ』


今日は2月14日。バレンタインデー。女の子が想い人にチョコを渡す、そんな日のはずなんだけど、
友チョコとか世話チョコとかあらゆるチョコの出現で、ここ女子高でもチョコは飛び交っている。
かく言う私、中野梓もお世話になった先輩たちへのお礼も兼ねて、チョコケーキを渡すつもり。
純と一緒に憂に教えてもらいながら作ったんだけど、実はもう一つ、お父さんに、なんて言って、二人をなんとかごまかして作ったチョコがある。それは…私の想い人への、たった一つの本命チョコ。
もうすぐ卒業してしまうあの人へ、ずっとずっと気になっていたあの人へ、素直になれなかった私の想いを告げるためのチョコ。
叶わなくても構わない。覚悟は決めている。でも、会えなくなる前に、どうしても伝えたかった。
私の人生で初めての恋だから。
でもやっぱり、とてつもなく緊張してしまう。

「私は先輩たちに渡してきたよ。梓は?」
「ううん。まだだけど…」
「あ、あそこにいるの、お姉ちゃんたちじゃない?」
「えっ?」

見るとそこには、下級生からチョコを貰う先輩たちの姿があった。

「うーんやっぱり軽音部の人気はすごいね」
「ここにもいるんだけどねー、梓」
「わ、私は別にいいもん」
「そんな事言っちゃって。しかしこれじゃあなかなか渡しに行けないね」
「部活の時に渡せばいいんじゃない?」
「甘いよ憂。あれだけ貰ってるんだから放課後にはチョコに飽きちゃうかもしれないよ」
「そうかな…」
「そうだよ、私も澪先輩に渡すから、一緒に行こう」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ」
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)

321: 2011/02/16(水) 23:33:23 ID:kFMxEY.60
私たち放課後ティータイムは、文化祭でのライブが大成功に終わり、校内でも結構人気者になってたりして、
中でも先輩たちに憧れる下級生はライブ以来ぐっと増えたようで、あちこちでそんな話を耳にする。
大人気の澪先輩はすでにファンクラブの人たちに囲まれていて、両手いっぱいにチョコを貰っているようだった。
律先輩やムギ先輩もチョコを貰って照れくさそうにしている。そして、

「平沢先輩、これ食べてくださいっ」
「えへへ、ありがと」
「私のも受け取ってください」
「わあい、ありがとー」
下級生からチョコを貰う、想い人の姿がそこにあった。

「…!」
「あ、梓!?」
「梓ちゃん!」

私は気がついたら駆け出していた。その場から逃げるように。
私は唯先輩が好きだった。なのに、あの人はチョコ貰って、あんなに嬉しそうにしてて…。
馬鹿な私。貰ったら嬉しいに決まってるじゃん。あのやわらかい笑顔が、優しさが、あったかさが、何よりもあの人の魅力なのに。
下級生が憧れるのだってあたりまえだよ。ボーカルだし、ライブであんなに輝いてたんだもん。
でも、あんなに貰って、私なんかよりずっと可愛い子から、ずっと美味しいチョコを貰ったりしていたら。告白、されていたら。
今日けじめを付けようと決めたのに。これじゃ、渡せないよ。


朝から思いつめてたまま、集中できない授業はあっという間に過ぎ、すでにお昼休みになっていた。

「あーずさ。なにしょんぼりしてんの。チョコ渡せなかったのがそんなにショック?それともHTTなのに貰えなかったのがショック?」
「そんなんじゃ…ないよ」
「うーん、重症だね」
(憂、どう?)
(うん、今送ったよ)ポチポチ
「おっけ」
「あ、あずさちゃーん?」
「ふぇ?」
「さっき梓ちゃんにお昼休みに会いたいって人がいてね?中庭で待ってるって言ってたよ」
「よかったじゃん梓ぁ。ファンの子かもよ?」
「そ、そうかな」
「そうだよ、早く行ってあげなっ」
「うん、がんばれー」
(ちょ憂!頑張れって)
(あっ、間違えちゃった)
「うん、行って来るよ」
(ホッ)

322: 2011/02/16(水) 23:36:03 ID:kFMxEY.60
なんだかんだで、心が晴れている自分がいた。今は純粋に、嬉しいと感じている。きっと唯先輩もこんな気持ちだったんだろうな。
あ、でもまさかと思うけど、こ、告白とかされないよね。ないない。うん、もう考えるのはやめよう。
自分に素直になろう。だからこれが終わったら、私もあの人に渡しに行こう。
程なくして私は、人気のない中庭に付いた。呼び出した人がどこにいるのか分からないまま、少し歩きまわる。すると、

「来てくれたんだね」
「え…」

不意に後ろから声をかけられた。その声はやわらかくて、ほっとする、私の良く知っている…

「待ってたよ、あずにゃん」
「唯…先輩」

振りむいた先に立っていたのは、唯先輩だった。

「…先輩も呼び出されたんですか?」
「ん~ちがうよぉ。私があずにゃんの事呼んだの」
「それって、どういう…」
「えへへ、ちょっと待ってね。後ろ向いてて?」
「は、はぁ」
「えと、これでよし。すーはーすーはー、かんばれ、わたし」ゴソゴソ
「先輩?何を」
「あずにゃん、いいよ」
「唯せんぱ…」
「あずにゃん、いや、梓ちゃん。これは私の気持ちです。よかったら受け取ってください」

大きなハートマーク型のチョコを差し出す、頬を赤く染めた唯先輩。
そして、今確かに聞いた。これが、唯先輩の気持ち…?
頭が真っ白になる。これって、本当に?私に?あまりに突然過ぎて、信じられない。けど、

「あなたが好きです。あずにゃん」

次の言葉を確かに聞いた瞬間、私の思いは涙とともに、一気に溢れ出た。
「ふええぇぇぇん」
「あ、あずにゃん!?」
「私も…わたしも…好きです…ぐすっ…唯先輩が…ひくっ…好きです…」
「あずにゃん…」ギュッ
「ずるいです…ぐすっ…私も、渡そうとしてたのに…私も言おうと思ってたのに…」
「えへへ、ごめんね?でも、私凄く嬉しい。これね、一生懸命作ったんだよ。思い通じたかな」
「はい…本当に、本当に唯先輩の事、好きでいいですか。えぐっ…私で…あんなにチョコ貰ってたのに…」
「あずにゃん、好き、大好き。あずにゃんの為に作ったんだよ。チョコ渡すの、あずにゃんだけなんだよ」
「うぅっ…唯先輩、大好き、私も、大好きですっ。私のチョコも、愛を込めたんですから、受け取ってください」ギューッ
「ふぉぉ!?…えへへ、楽しみにしてるよ、あずにゃん♪」

今日は2月14日。バレンタインデー。女の子が想い人にチョコを渡す、そんな日。そんな日は、私にとって忘れられない素敵な日になった。これからは毎年、渡し合えたらいいな。

323: 2011/02/16(水) 23:38:00 ID:kFMxEY.60
ガサッ
「梓、上手くいったみたいだね」
「うん、両想いだったのに上手くいかないはずはないよ!」
「お父さんに、とか言ってたけど、ばればれだったね。あのチョコ」
「ねー。どんなチョコにするのか聞いたら
『えと、甘いのと可愛いのが大好きだから、ハート型のミルクチョコにしようかな』
とか言っちゃったし」
「『もっとしっかりしてください!…でも』とかいうメッセージカード付いてたし」
「もう純ちゃん。見ちゃだめだよ~」
「しかしあの後唯先輩ともチョコ作ってたとはね~。どうりで憂が買った材料多いはずだよ」
「えへへ。お姉ちゃんの分、には変わりないでしょ?」
「ごもっとも。ってあれ?向こうの木の陰にいるの、澪先輩たちじゃない?」
「ほんとだ、紬さんが倒れて大変なことになってる」


おしまい!

324: 2011/02/16(水) 23:41:44 ID:HB0D8s.20
>>323
GJ! 寝る前にいいもの読ませてもらった
ピンナップの表情を合わせて想像してらキュンときた

引用: 【けいおん!!】唯×梓スレ3【避難所】