528: 2016/12/07(水) 04:34:31.17 ID:fMmaLUd7o
こんな時間なので触りだけですが、進められるところまで進めたいと思います

エリカ「入れ替わってる……!?」みほ「貴女の名は」【前編】

530: 2016/12/07(水) 04:44:41.38 ID:fMmaLUd7o

エリカ「ああ、雪」

エリカ「決戦の日にふさわしい、皮肉のきい たロマンチックさじゃない」 ハン

エリカ「あれから鍛え上げて生まれ変わったニュー逸見エリカを見せつけてやるわ」

エリカ「そう、この見違えるような新しい砲塔……」

エリカ「そして去年と変わらぬオドオドしたあの子の姿……」

エリカ「Ⅳ号になってるじゃないのよ!!!」

エリカ「ええ!?」

エリカ「このタイミングで!? ウッソでしょ!?」

エリカ「ちょ、継続相手に戦わせなさいよ!?」

エリカ「こーいう形でプラウダと闘うなんて想定してないんだけど!?」

ツチヤ「あれ、何かエンジン音がおかしいな」

麻子「ああ……試合の時はいつもそんなんだ……」

沙織「寒さでやられちゃったのかなあ」


ガールズ&パンツァー 最終章 第4話 (特装限定版) [Blu-ray]
531: 2016/12/07(水) 04:55:43.56 ID:fMmaLUd7o

エリカ「最悪だわ……本当に最悪……」

エリカ「あーーーーもお!」

エリカ「いくら黒森峰が副隊長不在でも戦えるチームづくりをしたとはいえ、所詮はやって一年の特訓」

エリカ「知波単レベルならともかく、継続相手には厳しい戦いになる……」

エリカ「どうする、さっさと気絶する……?」

エリカ「今までの法則性からいって、意識を手放せば戻れそうだけど……」

ビュオオオオオオオ

エリカ「……さ、寒い……」

エリカ「戦車なのに寒さを感じる……」

エリカ「眠る、っていうのは現実的じゃない寒さだわ……」

エリカ「眠ってられない寒さだし、やっぱり試合で早々に負けてもらうしかなさそうね……」

ボフッ

エリカ「わぷっ!?」

エリカ「……雪玉……?」

キャッキャキャイキャイ

エリカ「あ、遊んでるーーーーーっ」 ガビーン

エリカ「準決勝よ!? この子達自覚ないの!? ええ!?」

エリカ「いや、もう、この際いいわ……さっさと負けなさい!!」

532: 2016/12/07(水) 05:02:11.59 ID:fMmaLUd7o

ブロロロロロロ

優花里「あっ」

沙織「だれ?」

みほ「あれは……」

エリカ「げっ」

カチューシャ「……」 フフーン

みほ「プラウダ高校の、隊長と副隊長……」

優花里「“地吹雪”のカチューシャと、“ブリザード”のノンナですね」

華「地吹雪野カチューシャさん……代わった名字をされているんですね」

沙織「異名じゃないの?」

エリカ「この黒髪どか食いロングヘア、ダージリンとかも本名だと思ってたんじゃないでしょうね……」

533: 2016/12/07(水) 05:21:06.84 ID:fMmaLUd7o

華「異名ですか……」

華「と、いうことは――」

沙織「それに見合った強さってことなんだろうなあ」

梓「でも地吹雪って、どういうことなんだろう?」

あや「ブリザードはあれかな、冷酷の象徴とか」

エリカ「それはあながち間違っちゃいないわね」

優花里「プラウダの恐ろしいところは、異名が決して通称じゃないところにあるんです」

エルヴィン「と、いうと?」

優花里「聖グ口リアーナなんかだと、見た目とか語感の響きで身内が名付けますが……」

カエサル「ソウルネームみたいなものか」

エリカ「ハンドルネームみたいなものでしょ」

優花里「プラウダの異名は、むしろ外部の人達がその強さを恐れるままに名付けたものが浸透したとされています」

優花里「それほど恐ろしい相手なのです……!」

エリカ「……ま、うちは真摯に戦車道をしてるからあだ名なんて用いないし、黒森峰という集団で最強だから異名なんていらないんだけど」

エリカ「でもああ見えて、腕は一流」

エリカ「さすがにアンタも年貢の納め時じゃない?」

みほ「……」

534: 2016/12/07(水) 05:31:47.40 ID:fMmaLUd7o

カチューシャ「ぷっ……」

カチューシャ「クク……」

エリカ「?」

カチューシャ「あははははははははははは!!」

カチューシャ「このカチューシャを笑わせるためにそんな戦車を用意したのね!?」

あや「あのパンタローネ様ばりに心底楽しそうに人を煽る笑い方してる子供が……」

エリカ「ええそうよ」

エリカ「……といっても、傍受機もないみたいだし、私が解説しても伝わらないのだけれど」

杏「やあやあカチューシャ」

杏「よろしく、会長の角谷だ」

エリカ「まあ伝わらないと分かったうえで言うけど、そのお子ちゃまにその角度から握手求めたら――」

カチューシャ「……」

カチューシャ「ノンナ!」

エリカ「ほら、面倒くさいことになった」

535: 2016/12/07(水) 05:40:35.65 ID:fMmaLUd7o

カチューシャ「貴方達はね、全てカチューシャより下なの!」

カチューシャ「戦車も技術も身長もね!」

エリカ「まーたはじまった」

カチューシャ「聞こえたわよ!」

カチューシャ「人の話を遮るように突然エンジン音が大きくなるなんて、とんだポンコツね!」

エリカ「むっ……」 イラッ

カチューシャ「この中じゃマシな戦車みたいだけど、精々が中の上」

カチューシャ「弱い相手に活躍できても、一流相手には通用しないのよ!」

エリカ「……」

エリカ「Ⅳ号に向けて言ってるんだろうけど……」

カチューシャ「井の中の蛙にバイカル湖の凄さを教えてあげるわ!」

エリカ「私が一番言われてムカつくことを言ってくれるわね……」 ビキビキ

カチューシャ「所詮強者を気取った二流であることを教えてあげるわ!」

エリカ「西住流こそ一流、そして黒森峰こそが一流ッ」

エリカ「身長と違って本当に高い鼻っ柱、へし折ってやる……!」

536: 2016/12/07(水) 05:52:15.10 ID:fMmaLUd7o

桃「そもそも肩車してるじゃないか……」

カチューシャ「アンタも聞こえたわよ!」

カチューシャ「よくもカチューシャを侮辱したわね、粛清してやる!!」

カチューシャ「行くわよノンナ!!」

エリカ「フン、やれるものならやってみなさい」

エリカ「今年こそ、私達2人でアンタを――」

エリカ「……」

エリカ「……何言おうとしてるのよ、私」

エリカ「これじゃあまるで、私があの子と2人でリベンジしたかったみたいじゃない」 チッ

537: 2016/12/07(水) 05:58:39.79 ID:fMmaLUd7o

カチューシャ「あら、西住流の」

みほ「あ……」

カチューシャ「去年はありがとう」 ニタァ

カチューシャ「貴女のおかげで、去年は私達優勝できたわ!」

みほ「……っ」

エリカ「まったくね」

エリカ「この子が余計なことしてなければ、勝ってたのは私達だった……」

エリカ「余計なことをされただけで負けた自分の不甲斐なさも腹が立つけど、でも……」

エリカ「自分の行いに胸を張って、アンタみたいなやつの嫌味に反論できないこの子にも苛立つわ……」

エリカ「何とか言ってやりなさいよ……っ」

エリカ「アンタ、友達が出来て変わったんでしょう!?」

エリカ「黒森峰に居たときみたいに、ただ黙って困ったような顔をしている気!?」

カチューシャ「今年もよろしくね、家元さん」

エリカ「……はあ!?」

エリカ「西住流の後継者は隊長!!!!!!」

エリカ「この子じゃな――こら聞け! 聞きなさい豆粒ドチビ!!!」

カチューシャ「本当に何かあのⅣ号にむかっ腹立つんだけど、クラーラにでも破壊させようかしら」

ノンナ「さすがに破壊工作をするには試合直前すぎるかと」

沙織「直前じゃなきゃやるんだ!?」

538: 2016/12/07(水) 06:04:10.31 ID:fMmaLUd7o

カチューシャ「まあいいわ」

カチューシャ「じゃあね、ピロシキ~」

ノンナ「ダスビダーニャ」

あゆみ「ロシア語……?」

あや「うわ、どうしようロシア語わからないよ?」

梓「とりあえず、知ってるロシア語を返しておけばいいんだよ!」

桂里奈「ぼ、ボルシチー」

典子「ええと、キャービアー!」

おりょう「ザンギエフ」

華「アスタラビスタベイベー」

沙織「それ違うくない?」


539: 2016/12/07(水) 06:10:29.86 ID:fMmaLUd7o

エルヴィン「それにしても、あれが“地吹雪”と“ブリザード”か……」

カエサル「ブリザードにふさわしい、凍てつくような視線だったな……」

あや「地吹雪はやっぱりよくわからなかったけどね」

梓「確かに」

優花里「昔は小さな巨人ってフレーズもあったみたいですけど、本人が怒り狂うから地吹雪に落ち着いたらしいですよ」

左衛門佐「ほう」

沙織「そうなんだ」

優花里「ちなみに先程ちらっと出たクラーラ選手はロシアの人で、特殊部隊の親御さんに仕込まれた工作技術も有してるんですよ」

エルヴィン「詳しいな」

沙織「……もしかして、また?」

優花里「いや、今回は潜入まではできなかったので、ネットを駆使して調べました」

優花里「戦車道は好きなんですけど、主に戦車にばかり目が行っていて、選手の知識はそこまで膨大なわけでもないので」

沙織「それでも私達より全然詳しい気がするけど」

優花里「はは、光栄であります」

エルヴィン「ちなみに、どれがクラーラとやらなんだ?」

カエサル「あ、双眼鏡」

優花里「ええっと、あの金髪の方です」

優花里「通称・ロシアの核弾頭ですね」

エルヴィン「結構留学生が多いんだな」

優花里「国際色豊かなんですよね。クラーラさんの傍にいるのがクラーラさんの車輌の砲手ですね」

優花里「彼女の異名は、ロシアのプラスチック爆弾です」

沙織「あっという間に異名が被ってきた」

エルヴィン「その奥の少女は?」

優花里「操縦手で、通称・ロシアの爆竹ですね」

沙織「そんでどんどんショボくなってきた」

540: 2016/12/07(水) 06:14:53.44 ID:fMmaLUd7o

優花里「何だかんだで昨年度優勝校」

優花里「その前から四強の一角でしたからね」

優花里「異名がつく程度の実力差はゴロゴロしています」

カエサル「そうなのか」

桃「だからあんなに態度がデカイんだな」

エリカ「チームの強さを自分の強さと勘違いしてるフシがあるわね」

桃「まったく、無駄に威圧的で自分を偉いと勘違いしているやつはこれだから」

麻子「どの口が言うんだ……」

桃「あんな奴らに負けてられないぞ、西住!」

エリカ「そうね」

エリカ「いや私としてはさっさと気絶させられたいんだけど、でもあんなのに黙って負けるなんて御免だわ」

エリカ「ベストはカチューシャをさっさとボコボコにして、でもプラウダのフラッグ車は潰せないまま負けることね」

杏「んで、どーすんの」

541: 2016/12/07(水) 06:21:36.09 ID:fMmaLUd7o

みほ「とにかく、相手の車輌の数に飲まれないで、冷静に行動して下さい」

みほ「フラッグ車を守りながら、ゆっくりと前進して、まずは相手の動きを見ましょう」

カエサル「……ゆっくりもいいが、ここは一気に攻めてたらどうだろう?」

みほ「ええ!?」

エリカ「あーあー、見事な突撃希望の嵐ね」

エリカ「……もしかして、これをさせるために、わざわざ煽りにきたのかしら」

エリカ「まあだとしても、そのうえで叩き潰すのが強者なんだけど」

エリカ「……でもコレは、あまりにも素人集団特有のソレね」

エリカ「黒森峰なら、隊長の言葉は絶対だし、こんな時でも一喝で収めて自分達のスタイルを貫かせるけど――」

みほ「……」

みほ「わかりました」

みほ「一気に攻めます」

エリカ「……アンタは、隊長とは違って、やっぱりそうするのね」

548: 2016/12/09(金) 02:09:30.35 ID:AcGYyT7Co

エリカ「昔っから、アンタは隊長の考えをすぐに理解した」

エリカ「……でも、決して隊長と同じ考えではなかった」

エリカ「だから互いに高めあってたし、隊長を追いかけてるだけの私じゃ勝てなかった……」

エリカ「……」

エリカ「早く、負けちゃいなさいよ」

エリカ「アンタが負けて、そのプラウダに私達がリベンジすることで、ようやく私はアンタを越えられるんだかr」

エリカ「……」

エリカ「そのためには、まずは継続戦だけど……」

エリカ「……早急に戻れたとして、私の出る幕あるのかしら……」

エリカ「……」

エリカ「もしかすると……」

エリカ「病気で倒れてると思われてる私の席なんて、とっくに、補欠に――――」

549: 2016/12/09(金) 02:23:16.22 ID:AcGYyT7Co

まほ「…………」

小梅「今回も、例の病気みたいですね……」

まほ「前回でわかったんだが、こうなると、一人じゃ歩くのが困難らしい」

直下「まるでバイクですね」

小梅「スクーターかも」

まほ「まあ、概ねそんな感じだな……」

まほ「胸を揉めば移動するが――」

直下「以前、エクソシストブリッジしたまま学園中を走行してましたよね」

まほ「あれをやるのはさすがにまずい」

まほ「初戦敗退の数十倍は各方面から恥さらしとして怒られる」

小梅「慎重に肩を担ごうとしても、変な所を触ると……」

まほ「ああ、変なことになる可能性がある」

直下「うーん……」

550: 2016/12/09(金) 02:26:40.66 ID:AcGYyT7Co

まほ「試合会場までは運搬出来るし、戦車に乗せてしまえば後は何とかなるんだが……」

小梅「最悪、逸見さんの車輌は動きが鈍ってる前提で指揮を執ればいいですもんね」

まほ「問題は、試合前の挨拶だ」

まほ「エリカは副隊長」

まほ「出ないわけにはいかない」

まほ「黙っているとしても、立ち会わないわけにはいくまい」

まほ「……問題は、その顔合わせをどうするかなんだ」

小梅「うーん……」

直下「サラシでおっOいを固定して、自動で歩かせるとか……」

小梅「それだと止まれないから問題じゃ」

直下「あ、そうか」

まほ「それにドルンドルン言うしな」

552: 2016/12/09(金) 02:36:48.83 ID:AcGYyT7Co

直下「乳首を押さなければどこを触っても何も起こらない、なんてことは……」

まほ「あまり期待できないな」

まほ「自動車のエンジンを切っていても手動で窓が開くように」

まほ「また、戦車でもイグニッションを入れずとも稼働してしまう場所があるように」

まほ「全ての機能がオフになるとは言い切れない」

小梅「確かに……」

小梅「戦車の搭乗口がパカリと開く感覚で、いきなり大股開きされても困りますもんね……」

まほ「ああ」

まほ「一応黒森峰には報道カメラマンもたくさん来るから、本当にシャレにならないことになる」

直下「そっかー……」

直下「そういえばハンバーグ射出したりもあるもんなあ」

小梅「うーん……」

553: 2016/12/09(金) 02:39:19.48 ID:AcGYyT7Co

まほ「いっそのこと、全ての機能が停止するようなスイッチがあればいいのだが……」

小梅「まるでロボットですね」

まほ「……ああ」

まほ「実際は人間の奇病だし、期待は出来ないな……」

まほ「だが、現に乳首でイグニッションが入ったり、様々な動作が確認されている」

まほ「何か特定の動作をするツボのようなものがあるのかもしれない」

小梅「これまで判明した中にはありませんでしたけど……」

まほ「安静にさせておこうと、あまり触ってこなかったのが裏目に出たな……」

まほ「……」

まほ「一応――穏便に終わらせる方法が無いこともない」

小梅「え?」

まほ「エリカを、病欠させる」

まほ「実際に病気なんだ、問題はないだろう」

554: 2016/12/09(金) 02:43:49.70 ID:AcGYyT7Co

直下「……それしかない、ですよね……」

まほ「……」

まほ「だが――」

まほ「何があろうと前に進むのが西住流」

まほ「例えどんな病気であろうと、戦えるのなら当然戦車前進だ」

直下「ええ……?」

小梅「……」

小梅「それ、本気で言ってるんですか……?」

まほ「……ああ」

まほ「西住流後継者として、一度決めたベストメンバーを気軽に変えるようなバタついた采配は許されない」

まほ「何があっても動じず、己を貫き、前進するのが西住流だ」

まほ「責められるべきは、自己管理が出来ないエリカだ」

まほ「それで無様に敵前逃亡を行ったり、足を引っ張るようならば、容赦なく見限らなくてはならない」

小梅「……」

まほ「……それが、西住流後継者としての、口にしなくてはならない意見だ」

まほ「西住流の後を継ぐ以上、ここをブらすわけにはいかない」

555: 2016/12/09(金) 02:46:36.09 ID:AcGYyT7Co

まほ「それに――」

まほ「エリカ車の皆に、罪はない」

まほ「彼女達は暴走しがちなエリカの指示についていけるだけの鍛錬を積んできた」

まほ「エリカとは決して理解し合える友人ではないようだが、それでもチームワークは黒森峰でも指折りだ」

まほ「エリカを欠いたら大きく戦力が落ちると分かって、それでもなおエリカの不在をカバーするとも言っている」

まほ「……そんな彼女達を、試合前挨拶で恥をかくのを避けたいからと、下げることなんて、したくはない」

小梅「隊長……」

まほ「それに、黒森峰の副隊長は、エリカなんだ」

まほ「……ワガママかも知れないが、このメンバーで戦い、勝利する時は、エリカに隣に居て欲しい」

まほ「そうして何かを感じ取ってほしいから、私はあの子を、副隊長にしたんだから」

まほ「……」

まほ「それが、西住まほとしての、ワガママ極まりない意見だ」

556: 2016/12/09(金) 02:52:33.94 ID:AcGYyT7Co

直下「……まあ、確かに」

小梅「大洗の一件から、明らかに気迫が違ったもんね」

直下「……負けたくないんだろうなあって、逸見の森でも皆で言ってたし……」

小梅「誰より一回戦で奮闘してたのも逸見さんだった……」

直下「……」

小梅「……」

直下「しょうがないかあ」

小梅「やっぱり逸見さんが居ないと、しまらないもんね」

まほ「……すまないな、私のワガママに巻き込んで」

小梅「ううん、いいんです」

小梅「私も逸見さんと一緒に試合、出たいですから!」

557: 2016/12/09(金) 03:02:21.34 ID:AcGYyT7Co

直下「そうなると、どうやって穏便に挨拶させるかですけど……」

まほ「……」

まほ「考えながら、電源OFFのような、全ての機能を止めるスイッチを探すのが、やはり一番だと思う」

小梅「……ですよね」

直下「隊長でもパッと対策思い浮かばない時点で、既存のものだけじゃ厳しい、ですもんね」

まほ「かといって、闇蜘蛛には試せない」

まほ「下手なのを引いて大惨事になったら困るからな」

まほ「試合まで時間もないし、試せても1つか2つ」

小梅「……」

まほ「……どうを、どうするのがいいと思う?」

直下「えーっと……」

まほ「……正直、異例のことすぎて、私には検討も付かない」

まほ「だが――幸か不幸か、これは戦車道ではない」

まほ「普段の上下関係などなく、フラットに、意見を出し合いたいと思う」

小梅「隊長……」

558: 2016/12/09(金) 03:05:23.65 ID:AcGYyT7Co

直下「……」

直下「電源ボタンのようなもの、か……」

直下「……」

小梅「?」

まほ「どうかしたのか」

直下「ああ、いえ……」

まほ「……言ってみてくれ」

直下「いや、でも、その……」

まほ「……私は、黒森峰の伝統は尊重していきたいと思っている」

まほ「全てを変えてしまうようなら、最初から他校に入っているしな」

まほ「だが、同時に伝統を重んじながら改善の余地があれば改善したいと思っている」

まほ「そのうちの一つが、厳しい年功序列の排除だ」

まほ「私は、下からの意見には、上から見ただけでは分からない意見があると思っている」

まほ「だから――何の気兼ねもなく、話して欲しい」

まほ「私と、エリカと、そして黒森峰のためにも」

直下「……」

直下「はい、分かりました……」

まほ「すまないな……ありがとう」

直下「いえ……」

直下「……」

直下「……」

直下「あの……」

まほ「ん?」

直下「ちょびっツって――知ってますか?」

559: 2016/12/09(金) 03:14:33.63 ID:AcGYyT7Co

まほ「いや……知らないな……」

まほ「何かの機械の名前か……?」

直下「惜しいけど、違います」

小梅「漫画じゃなかったっけ、カードキャプターさくらの人の」

直下「そう」

直下「人形パソコンの漫画です」

直下「ある意味今の逸見さんにそっくりですし、参考になるかもしれません」

まほ「パソコン……」

小梅「ってことは、電源スイッチも?!」

直下「……あります」

まほ「なるほど……」

まほ「確かに闇蜘蛛にやるより、『人が機械になったらこうなる』という想定をされているであろう箇所から探る方がいいだろう」

まほ「それで、その漫画で電源スイッチはどこに?」

直下「……」

直下「いきなり言うと驚かれると思うんで、手順を段階踏んで説明しますね」

まほ「驚く……?」

まほ「まあいい、続けてくれ」

直下「はい」

直下「まずパンティーを脱がします」

まほ「ちょっと待て」

560: 2016/12/09(金) 03:18:52.53 ID:AcGYyT7Co

まほ「いきなりおかしくないか?」

小梅「そうだよ……」

小梅「花の女子高生がパンティーなんて言い方するなんてどうかと思うよ?」

まほ「いやそこではなく」

小梅「え?」

まほ「ゆっくり段階を踏むはずが、一段目からキノコ食べてるマリオも即氏出来るレベルの高さがあったが」

まほ「もはや段階というより、氏まっしぐらの断崖絶壁じゃないか?」

直下「まあ、確かに、まずはベルトを外すところからでしたよね」

まほ「そういうことが言いたいんじゃない」

直下「まあでも実際、確かに断崖絶壁に突き落とすレベルのファイナル感はありますけど、この先がありますからね」

まほ「まさか……」

直下「そうです、子宮の奥まで指を突っ込んでもらいます」

まほ「せめてオブラートを……」

小梅「電源ボタンじゃなくて電源コカンだったってこと?」

まほ「オブラートになってない」

561: 2016/12/09(金) 03:22:45.34 ID:AcGYyT7Co

まほ「いや、さすがにダメだろ……」

まほ「病人の、その、股間に、指……って……///」 カァァ

小梅(可愛い……)

直下(シコれる……)

まほ「だ、大体、そういうのは愛し合う2人が、告白やキスを経て合意の上でだな……」

小梅「逸見さんなら大丈夫ですよ、多分」

小梅「おそらく問題なく完璧にことが運びますよ」

直下「そうですよ、75%パーフェクトです」

まほ「それ完璧って言わないだろ」

小梅「それに逸見さん、陵辱されて堕ちそうな顔してますから」

まほ「とんでもないこと言ってるうえに堕ちたらダメだしそもそも陵辱したらダメだろ」

562: 2016/12/09(金) 03:24:32.04 ID:AcGYyT7Co

まほ「だ、大体なんで私が挿れる前提に……」

直下「いやいや、それは隊長しか居ませんって」

小梅「そうですよ!」

小梅「それに、隊長が相手なら、逸見さんは拒みませんって!」

小梅「っていうか多分むしろウェルカムですから!」

直下「ソースは逸見の森の第四回アンケート結果です」

まほ「何を言ってるんだお前ら」

まほ「そんなの拒むに決まっているだろ」

まほ「……」

まほ「ウェルカムされたら、それはそれで少し引くし……」

小梅(あ、隊長マジトーンで困ってそう……不憫な逸見さん……)

直下(隊長こういう話ダメなのか……)

563: 2016/12/09(金) 03:28:11.79 ID:AcGYyT7Co

直下「いやでも意外ですね、隊長こういうのダメなタイプなんですね」

まほ「当たり前だろ……」

まほ「そういうのは、オトナになるまでやったらダメなんだぞ」 マッタク

小梅(処Oなんだ……)

直下(最悪彼氏もいないぞこれ……)

まほ「そもそも、こういうのが得意なわけがないだろう」

小梅「え、そーですか?」

小梅「何か隊長、みほさんでそういうの慣れてそうというか……」

直下「家族の日課で毎晩お風呂で子宮の中まで洗いっ子してそうというか……」

小梅「みほさんが初潮を迎えてから毎回タンポン挿入してそうというか……」

まほ「待ってくれ、お前達の中の私のイメージどうなってるんだ?」

まほ「そりゃ一時期怖い扱いされて改善したいとは思っていたが、何か別の意味で怖すぎることになってないか、おい」

564: 2016/12/09(金) 03:32:31.41 ID:AcGYyT7Co

小梅「まあ、確かに、隊長が本当にウブなら、怖がるのも無理はありません」

まほ「いや、怖いとかじゃなくてだな……」

小梅「でもそんな深く考えずに、タンポンとか、徹甲弾とか、そういうのを挿れる感覚で気軽にやれば大丈夫です」

まほ「え、ちょ、徹甲だ……え?」

まほ「おかしくないか?」

小梅「?」

直下「?」

まほ「え、それとも私がちょっとおかしいのか?」

まほ「確かにお母様は厳しくてそういう知識は……」

まほ「いや、でも……えええ……?」

565: 2016/12/09(金) 03:40:01.53 ID:AcGYyT7Co

小梅「撃てば必中」

まほ「……?」

小梅「守りは固く」

小梅「進む姿は乱れなし」

小梅「……西住流を表す言葉です」

小梅「なのに、今の隊長はどうですか?」

まほ「……っ!」

小梅「乱れっぱしの心で、そもそも撃とうともしていないじゃないですか!」

まほ「だ、だが、ここで撃つのは、心にも風紀にも乱れが……」

小梅「そうやって、変なところだけ固いのは、隊長が脱却しようとしていた部分なんじゃないですか!?」

まほ「……っ!」

小梅「去年の隊長、元祖である西住流を受け継ぐご自身と、柔軟なみほさんとをかけ合わせて、新たな黒森峰を作ろうとしていたじゃないですか!」

小梅「年功序列に逆らって、敵を作ってでも、みほさんやエリカさんを重要視して……」

小梅「そんな隊長が、こんなことで日和るんですか!?」

566: 2016/12/09(金) 03:44:16.47 ID:AcGYyT7Co

小梅「隊長にとって、鉄の掟って、なんですか……?」

小梅「……」

小梅「逸見さんにとって、守るべき掟とは、隊長のお言葉なんだと思います」

小梅「私も逸見さんと同じで、自分の戦車道と呼べるほど立派な信念を持てていないから分かります」

小梅「今はまだ、誰かの道をなぞるだけかもしれないけど……」

小梅「それでも、誰より真摯に道をなぞってきたのは、他ならぬ逸見さんです!」

小梅「逸見さんは、隊長の鋼の心に惹かれて、その道をなぞろうとしたんですよ!」

小梅「なのに……なのに隊長が、弱い心で逃げてどうするんですか!」

小梅「逸見さんのためにも……」

小梅「逸見さんが憧れた姿で、堂々と、前に進んでください……!」

小梅「逃げないで、どうか……」

小梅「真っ直ぐに、逸見さんの膣実さんにパンツァー・フォーしてあげてください……!」

まほ「赤星……」

まほ(……)

まほ(どうしよう……何言ってるのか全然理解できない……)

567: 2016/12/09(金) 03:46:53.62 ID:AcGYyT7Co

小梅「……っ」 ハッ

小梅「すみません……出過ぎた真似を……」

まほ「……いや、いい」

まほ「気持ちが、十分伝わった

まほ(内容はいまいちわからなかったが……)

まほ「……嬉しいよ」

まほ「エリカのことを、そこまで見てくれていたんだな」

小梅「……はい」

小梅「私と一緒で、逸見さんも、去年に縛られている人ですから……」

まほ「……」

まほ(縛られている、か……)

まほ(私も、その一人なのかもしれないな……)

まほ「……わかった。やろう」

小梅「!」

まほ「指を清めてくる。準備を、進めておいてくれ」

568: 2016/12/09(金) 03:52:35.19 ID:AcGYyT7Co

まほ(……あの日……) 

まほ(みほのため、西住流に全てを捧げると決めた日、誓ったじゃないか)

まほ(私は私の大切な人のため、西住流に生命を捧げると)

まほ(そして、全身全霊で、西住流を体現し、そしてその根底を覆さぬままより良いものに変えていこうと……)

まほ(その結果、例え周りから、嫌われることになったとしても――)

まほ「……準備完了だ」

小梅「こっちも、しっかり脱がしておきました」

直下「時間も大分使っちゃいましたし、あまり長くは時間をかけられません」

直下「ローション、使いますか?」

まほ「……いや、大丈夫だ」

まほ「戦車は火砕流の中だって突き進むんだ」

まほ「ひたすら前へと向かう西住流の体現者たる私も、同様だ」

まほ(エリカ……)

まほ(許してくれとは言わない)

まほ(私は、お前と共にこの大会を制するためなら、鬼にだってなれる)

まほ(恨んでくれてもいい)

まほ(だから――)

まほ(私の隣で、私の西住流を見届けてくれ)

まほ(そして、縛られた私では見い出せないであろう新たな西住流のあり方を、お前が――――)

まほ「パンツァー・フォー!!」

ズップゥ!!

569: 2016/12/09(金) 03:55:36.25 ID:AcGYyT7Co

エリカ「~~~~~~~っ」 ビビクン

エリカ「な、なにこの感覚ぅ!?」

沙織「う~、寒い寒い……」

みほ「こうやって足踏みをすると、少しは温まりますよ」 トントン

優花里「短期決戦予定ですから、すぐにそれどころじゃなくなるかもしれませんけどね」 フミフミ

沙織「うう、でもちょっとでもやる!」 パタパタ

エリカ「ちょっ、らめっ、どこリズミカルに踏みつけてるのよっ……ひゃうん!」

エリカ「ううううう」

エリカ「久々に自分の全神経が戦車にあることを痛感――ひゃあんっ!」

エリカ「ああああああもう!」

エリカ「こんな疑似みたいなことで感じるわけないし、こんなのノーカンよノーカン!」

エリカ「私の初めては夜景の見えるホテルのスイートで、心地よい痛みと相手の愛を感じながら散らすってもう決まってるんだから!」

エリカ「こんなギャグみたいな疑似的なのはノーカ……ちょっ、ほんとそこはっ……」 ビクンビクン

579: 2016/12/14(水) 00:51:25.23 ID:d6PCKhywo
今日は早寝予定なので少しだけですが、投下します

580: 2016/12/14(水) 01:12:02.42 ID:d6PCKhywo

アキ「遅いね、黒森峰の人達」

ミッコ「巌流島ってか」

ミカ「開始時間……」

ミカ「それは本当に大切なことなのかな?」

アキ「大切すぎて超過しすぎると負けになるんだよ」

アキ「……そりゃあ、黒森峰には勝ちたいけど……」

アキ「こんな勝ち方で勝っても嬉しくないよ」

ミカ「過程や方法……」

ミカ「それは勝利に本当に必要なものなのかな?」 ポロロン

アキ「必要だよ!」

アキ「そこはせめて『勝つことだけが全てなのかな?』とかにしてよ!」

アキ「一瞬にしてゲス系の敵みたいになっちゃってるよ!?」

581: 2016/12/14(水) 01:29:57.70 ID:d6PCKhywo

ブロロロロロロ

まほ「お、遅れてすまない……」

ミッコ「お、間に合っ――」

エリカ「ブロロロロロロ」

アキ「な、なんかオンブでやってきてるーーーーーーっ」 ガビーン

ミッコ「しかも何か変な音出してる……」

まほ「何とか間に合ったようでよかったよ」 モミモミ

アキ「何か揉んでる……」

まほ「少し、トラブルがあってな……」 キュッ

アキ「服に手を突っ込んでるぅぅ!?」

ミッコ「い、今、つまんだよな……!?」 ゴクリ

ミカ「ふっ……」

ミカ「人の目――それはそんなに」

アキ「大切だよ!!!」


582: 2016/12/14(水) 02:27:59.09 ID:d6PCKhywo

小梅「結局駄目でしたね……」

直下「子宮は電源スイッチじゃないということか……」

小梅「よく考えたらそれだと色々不便ですもんね」

まほ「冷静に考えるべきだったな……」

直下「あ、でも、子宮の右がオンのスイッチで左がオフとかいう分かれ方なのかも……」

小梅「隊長、左右両方に指を」

まほ「していないしもうやらんぞ!」

まほ「さすがに中をほじくるのは人としてだな……!」

直下「……と、なると、もう諦めるしかありませんよね……」

小梅「もういっそ堂々と乗っていけばいいのでは?」

まほ「え」

小梅「ほら、さも当然のように堂々としていれば意外と皆そういうものと思い込むって、よくありますし……」

直下「確かに、堂々されれば違和感ないかもしれない……」

まほ「なるほど」

まほ「確かに、堂々たる態度は立派なブラフになるな」

まほ「あまり黒森峰のやり口ではないが――そうも言ってられまい」

まほ「黒森峰におけるブラフの歴史をここから刻もう」

まほ「行くぞ、エリカ!」 キュッ

エリカ「ブロロロロロロン!!」










まほ(――なんて勢いで出てきたが……)

アキ「……」 ウワァ

ミッコ「……」 ウヘェ

まほ「……」

まほ(やはり付け焼き刃のブラフなんてするものではなかったか……)

583: 2016/12/14(水) 02:36:35.24 ID:d6PCKhywo

ミカ「ふふ……」

ミカ「どうやら伝統に縛られた王者かと思っていたけど……認識を改めた方がいいかもしれないね」 ポロロン

アキ「なんでそんなに嬉しそうなの」

ミカ「去年まではありえなかった行い」

ミカ「それが、敗戦から学んだことなのかな?」

まほ「……」

まほ(全然違うけど、どう反論したらいいか分からないし、とりあえず真顔でいよう)

ミカ「戦車道には人生の大切なものが詰まっている」

ミカ「……何が大切なものなのか、果たして定義が出来るものなのかな?」

まほ「……」

ミカ「まるでバイクかのように乗ってきたけど、言うならば君の副官は戦車というところかな」

ミカ「自分自身を戦車にしている、か――」

ミカ「果たしてどんな戦車道の末にその形に行き着いたのか、楽しみにしているよ」 フフ

まほ「…………ああ」

まほ(勝手に納得してくれそう……)

590: 2016/12/18(日) 00:28:48.05 ID:5GJuDjM0o

沙織「冷える……」 カタカタ

エリカ「しっかり防寒しないからでしょ」

エリカ「雪原エリアでの戦いは毛糸のパンツに何重もヒートテックのタイツを履いておくべきよ」

エリカ「どうせ戦車の中にはカメラは入らないんだから、暑くなったら脱げばいいんだから」

華「一気に決着をつけるのは、正解かもしれませんね」

優花里「黒森峰では、どうやって対策してたんですか?」

優花里「プラウダは雪上戦を得意としてますし、対策、取ってなかったわけじゃないんですよね」

みほ「うん、演習とか、様々な条件でやったから……」

みほ「黒森峰では、カイロたくさん貼ったり、重ね着をしたりが主流だったけど……」

みほ「基本は、各々の裁量に任せる、って感じだったかな」

華「意外ですね」

沙織「てっきりそういうのにも、何かしら決まりがあるのかと思ったよー」

みほ「うん……昔は、黒森峰も西住流も、重ね着で対策してたんだけど……」

みほ「当時はホッカイロみたいに気軽に手に入る道具がなかったってこともあるし、自由になったの」

みほ「それに、激しい戦闘で暑くなったら脱げばいいのはメリットだけど……」

みほ「外に捨てるのは問題になるし、中に捨てると、その……」

みほ「汗まみれの服がたくさん打ち捨てられて臭いの問題とかが……」

優花里「あー……」

沙織「いくら華の女子高生の汗の臭いっていっても、女子高生にはクサいだけだもんねー」

華「確かに、前戦車喫茶でお会いした方、腋臭臭そうなお顔をされてましたしね……」

エリカ「はァァァ~~~~~~~~!?」

エリカ「隊長の体臭は臭くありませんーーーーーーーー!!」

エリカ「むしろちょっぴりフローラルな香りですぅーーーーーーーーーーーーー!!!!」

591: 2016/12/18(日) 01:00:13.23 ID:5GJuDjM0o

みほ「あと、重ね着は他にも問題があって……」

みほ「車内が集団ストリップショーみたいになって、絵面がちょっと酷いっていう……」

華「ああ……」

優花里「戦車によっては、普通にしていても車長のスカートの中が見えそうになりますもんねえ……」

麻子「……見ているんだな」

優花里「べ、別に私は西住殿の下着を見てなんて……///!!」 アワワワワ

みほ「とにかく、セクハラやパワハラになりかねないから、やめようってなったの」

みほ「……」

みほ「あくまで噂話なんだけど、脱ぎ散らかしたタイツを寒くなってもう一回履こうとして、他の人のを履いちゃうって事件があって」

沙織「確かに、適当に置いたらそうなるかも」

華「そこまでは広くないですもんね」

みほ「敢えて他人のタイツを履いて欲情する生徒が出たり、その、おまたの病気を移される生徒が出たんだって」

優花里「うわあ……どうりで西住殿は雪上戦の経験があるのに生足なわけですね……」

優花里「パンツもいつもと変わらない綿のやつですし……」

みほ「え?」

優花里「あー! まあ、あれです、そういうの、確かにあるかもしれませんからねっ!」

沙織「あ、あはは……そうだねえ」

華「確かに、以前戦車喫茶でお会いした黒森峰の方なんか、他人のタイツに欲情したり病気持ったりしてそうですもんね……」

エリカ「ちょっとアンタ達いい加減にしなさいよ!」

エリカ「隊長は欲情なんてしないの!」

エリカ「ユニコーンだってキツツキ走法し始めるくらい清らかさの塊なんだから!」

優花里「確かに、あれは想い人のタイツを履いたら我慢出来ずに指とか挿れて発情するタイプと見ましたね」

みほ「ええ……///」

沙織「もー、みぽりん困ってるじゃーん、シモネタはよくないってー」

華「そういう割には楽しそうですね」

沙織「わかる?」

沙織「女の子だって、そーいう話したいもーん」

エリカ「もーん、じゃないわよ脳味噌ゆるふわ女!」

エリカ「隊長はそんなことしないったらしないの!!」

エリカ「隊長の指は綺麗だし、その指はどんな穴にも挿れられたことのない神聖なものなんだから!」

エリカ「勝手なイメージで隊長を語るんじゃないわよ!!」

麻子「……」

沙織「どうしたの?」

麻子「いや、なんだろうな……何だか無性にツッコミたい気持ちに……」

沙織「???」

麻子「すまない、忘れてくれ……自分でもよくわからないんだ」

麻子(お前のことじゃないのか、なんて言葉、咄嗟に呟きたくなるものじゃないのにな……)

592: 2016/12/18(日) 01:21:08.90 ID:5GJuDjM0o

チョロチョロチョロ

麻子「何の音だ……」

麻子「誰か寒さのあまりに失禁でもしたのか」

沙織「ええ!?」

優花里「ちがっ……違います!」

優花里「ポットにココアを入れてきました!」

優花里「よかったら、どうぞ」

みほ「ありがとう……」

華「じゃあ私もアイスココアを……」

優花里「ありませんよ!?」

優花里「この状況でホットじゃないものを持ってくる人間なんていませんからね!?」

みほ「……」

みほ「前の学校で、エリ……逸見さんが、温めるの忘れて冷たいお茶を持ってきてたことがあったなあ」

エリカ「なっ!?」

沙織「それって、あの戦車喫茶の感じ悪い子?」

みほ「うん……」

エリカ「ちょっと! 肯定してないでフォローしなさいよ!」

みほ「寒いだろうから、私が持ってきたホットレモネードをあげようとしたら……」

みほ「ふん! アンタの施しなんてウケないわよ! それに私は自分が飲みたくて冷たくしてきたの!」

みほ「なんて言って、ガチガチ震えながら冷たいお茶を……」

優花里「いやー。見栄っ張りなんですねぇ」

エリカ「だあああああ! もう! なんでそんなどうでもいいことを覚えているのよアンタは!」

593: 2016/12/18(日) 02:02:40.67 ID:5GJuDjM0o

優花里「でも、覚えているものなんですねえ、そんな細かいことまで」

みほ「え?」

優花里「何だかんだで、黒森峰の日々も思い出深いものなんですねえ」

みほ「……!」

エリカ「……!」

沙織「ちょ、ゆかりん!」

優花里「あっ、もしかして失言でしたか!?」

優花里「す、すみません西住殿ぉ!」

みほ「……ううん、いいの」

みほ「確かに……こっちに来てすぐの時は、思い出したくもなかったけど……」

みほ「今でも、思い出したくないことはいっぱいあるけど……」

エリカ「……」

みほ「でも……」

みほ「楽しかった時間も、少しだけど、あったことは事実だから」

優花里「西住殿……」

エリカ「……」

みほ「っと、カモさんチームが……」

みほ「カモさんチーム、一旦交代して下さい!」

エリカ「……」

エリカ(私だって……ムカつくことは多かったけど、楽しくなかったわけじゃ……)

594: 2016/12/18(日) 02:31:04.11 ID:5GJuDjM0o

エリカ「……」

エリカ「素人丸出しの新戦車の面々……」

エリカ「本ッ当に層が薄いのね……」

エリカ「榴弾で雪なんて撃たなくても黒森峰の精鋭なら」 ブツブツ

エリカ「っていうか、呑気にリスなんて愛でてるし、不吉な言葉もインカムで配信されてるし」

エリカ「本当に、なんなのよこの子達は……」

エリカ「……」

エリカ「慣れてきて、そこまで激しく叫ばなくなったのが悲しいわね……」

みほ「11時に敵戦車、各車警戒!」

エリカ「ほら、おでましよ」

みほ「三輌だけ……外郭防衛戦かな?」

ドーン

みほ「気付かれた……!」

みほ「長砲身になったのを活かすのは今かも……」

エリカ「さ、私のこのニューボディのお披露目みたいね」

エリカ「……」

エリカ「私の、って自然に口にしてしまうのが頭痛の種ね」

みほ「砲撃翌用意して下さい! カバさんチーム、射撃!」

ズドーン

みほ「あんこうチームも砲撃します!」

エリカ「ふん!」

エリカ「さっさと終わらせるわよ!」

ズドーン

優花里「命中しました!」

沙織「すごーい、一気に二輌も!」

エリカ「このくらい普通よ」 フン

599: 2016/12/29(木) 05:25:26.91 ID:3Pv/xXoIo
世間ではコミケらしいので人いなさそうですが、コミケ行けなくて腹立たしいので久々に投下します

600: 2016/12/29(木) 05:29:38.40 ID:3Pv/xXoIo

みほ「……」

沙織「どうしたの?」

みほ「上手く行き過ぎる……」

エリカ「出たわね、アンタの心配性……」

エリカ「隊長の慎重さと比べても、アンタは過剰すぎるのよ」

エリカ「まあ、黒森峰と違って、上手くいくわけなんてない戦力だから仕方ないと言えば仕方がないけど」

エリカ「戦車道ってのは、射撃の腕や操縦の腕だけでなく、戦略が大きく影響するのよ」

エリカ「だからこそ隊長や車長が大事なわけ」

エリカ「……アンタは腐っても元黒森峰の副隊長」

エリカ「策がカチッとハマって、あとは他の連中が無能晒さなきゃ、上手くいくことくらいあるわよ」

エリカ「アンツィオなんて、何かこう、何が起きたか分からないくらい瞬殺だったじゃない」

みほ「……」

601: 2016/12/29(木) 05:34:52.81 ID:3Pv/xXoIo

ズドン

みほ「……!」

エリカ「ちょっと、無駄にネガティブになってる間に逃げるわよ!」

みほ「全車輌前進、追撃します!」

沙織「何で逃げてるの?」

優花里「こっちが全車輌で追いかけてるからじゃないですか?」

エリカ「基本的に数は正義なのよ」

エリカ「この物量差で足を止めて撃つ阿呆はいないわ」

沙織「そうだよねえ」

沙織「何故か追うと逃げるよねえ、男って」

エリカ「!?」

エリカ「何この脳味噌ゆるふわ女……まだそんな股緩そうなこと言って……」

エリカ「そーやって色濃いに現を抜かしておいて準決勝まで来てるのは腹立たしいわ……」

エリカ「私達なんてクリスマスもバレンタインも時間外練習だったのに……」 ギリ

エリカ「……」

エリカ「まあ、隊長達と過ごすのは、悪くはなかったけれど……」

602: 2016/12/29(木) 06:04:11.54 ID:3Pv/xXoIo

梓『フラッグ車、発見しました!』

エリカ「ホントはさっさと負けてもらうつもりだったけど、どうやらさっさと勝って終わりそうね」

桃「千載一遇のチャンス……よし、突撃!」

エリカ「何でアンタが指示してんのよ!」

イケエエエエエエ

アターーーーック!

エリカ「ほら、下にナメられてるからこーなるのよ」

エリカ「隊長だって最初は上級生に歯向かわれたけど、実力を見せてきっちり統率できるようにしたっていうのに」

エリカ「……その過程で辞めた人もいるけど、でもおかげで統率の取れた強いチームになった」

エリカ「アンタにはそれが足りてないのよ」

エリカ「少なくとのあの頭の中にカニ味噌しか入ってなさそうな片眼鏡は何喋っても否定して口きけなくするくらいじゃないと駄目よ」

エリカ「余計なことを喋る指揮したがりの無能なんて生かしておくメリット0なんだから」

麻子「……」

ガン!

沙織「ちょ、いきなりどうしたの!? キックなんかして……」

麻子「いや、なんとなく」

沙織「もー! 麻子は上手いからそういう余裕あるのかもしれないけど、今すっごく大事なとこなんだからね!」

603: 2016/12/29(木) 06:42:58.16 ID:3Pv/xXoIo

イケー!

ブッコロセー!

ストレートガチシテヤル!

みほ「ちょっと待って下さい……!」

エリカ「アンタが悠長にしすぎなんでしょ」

エリカ「置いていかれるわよ」

みほ「……追ってください」

麻子「……ああ」

ズドンズドン

桃「フラッグ車さえ倒せば……」

左衛門佐「勝てるっ……!」

みほ「……っ!」

エリカ「ちっ、ここまで追い込んだならしっかりと当てなs――――」

エリカ「!?」

みほ「東に移動してください、急いで!」

エリカ「囲まれている――ッ!?」

エリカ(チームのレベルの低さを侮ったッ)

エリカ(これが黒森峰ならば、こんなズルズル誘き出されずに撃墜していたっていうのに……!)

604: 2016/12/29(木) 08:04:25.20 ID:3Pv/xXoIo

みほ「南南西に方向転換ッ」

キュラキュラキュラ

みほ「っ!」

エリカ「くっ……!」

みほ「囲まれてる……」

沙織「周り全部敵だよ!?」

桃「罠だったのか……」

梓「ええ!?」

エリカ「くっ……」

エリカ(速攻すると決めてたのにそれに失敗、そしてプラウダ得意の形……)

エリカ(雪上戦だし、これは、もう――)

606: 2016/12/31(土) 03:19:01.65 ID:RbrxHnUpo

みほ「全車、南西の大きな建物に移動してください!」

みほ「あそこに立てこもります!」

エリカ「あそこに行くのも想定内だろうけど、他に手はなし、か……」

エリカ「投了するのが潔いのか、最後まで抵抗するのがいいのか、難しいところだけど……」

エリカ「ま、いずれにせよ、これまでのようね」

『履帯と前輪をやられました!』

『砲塔故障!!』

エリカ「見事なまでの集中砲火ね……」

エリカ「……」

エリカ(そういえば、そのわりに全然痛くないわね……)

麻子「……」

エリカ(こいつ……もしかして相当の操縦技術なんじゃあ……)

エリカ「……」

エリカ「はっ、そんなわけないわよね」

エリカ「私が無意識に避けようとしてるからってことかしら」

エリカ「無意識にコイツらに力を貸しているかと思うと腹立たしいわ~」

607: 2016/12/31(土) 05:12:26.39 ID:RbrxHnUpo

エリカ「……ん?」

みほ「砲撃が止んだ……?」

ザッザッザッ

沙織「見て、あれ……!」

優花里「あの制服、プラウダの……」

華「脱走兵、でしょうか……?」

エリカ「んなわけないでしょ」

華「撃った方がよろしいでしょうか?」

みほ「よろしくないです落ち着いてください」

エリカ「相当テンパってるわね……ったく……」

プラウダ大使「カチューシャ隊長の伝令を持って参りました」

プラウダ大使「降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる」

プラウダ大使「……だそうです」

みほ「え……」

桃「なんだと」

エリカ「ちっ……ナメきってるわね……」

エリカ「格下相手にしかイキれないあたり小者なのに、自覚ないのかしら」

麻子「……」

沙織「麻子?」

麻子「……いや、なんでもない」

608: 2016/12/31(土) 05:14:22.84 ID:RbrxHnUpo

プラウダ大使「隊長は心が広いので3時間は待ってやる、とおっしゃっています」

プラウダ大使「……では」

エリカ「……はぁぁぁぁぁぁ!?」

エリカ「3時間!?」

エリカ「そんなの待ってたら黒森峰の試合が終わっちゃうじゃない!」

エリカ「冗談じゃないわよ、さっさとトドメをさしにきなさい!」

エリカ「あ、こら、行くな! ちょっと聞いてるの!?」

エリカ「……あ、聞こえてないのか」

エリカ「ほら誰かあのナメまくった連中を止めなさい!」

エリカ「そんで宣戦布告の一発でもカマしてさっさと負けなさい!」

609: 2016/12/31(土) 05:55:24.39 ID:RbrxHnUpo

まほ「くっ……」

まほ「戦力の差のおかげで、なんとか競ってはいるが……」

まほ「やはり貴重な戦力の一角が機能していないのは辛いな……」

小梅『本来なら軽くはねのけられる奇策が、全部逸見さんの穴を突かれて成功させられちゃってますもんね……』

まほ「見た目にはこちらが圧勝しているし、戦力差を考えればそれは事実だろうが――」

まほ「内容としては後手に回らされているし、決して良いとは言い難いな」

まほ(一人欠けても問題ないチームづくりをしていたはずだが……)

まほ(やはり一朝一夕でどうにかなるものではなかったか……)

小梅『大変です隊長!』

小梅『逸見さんの不在を気取られないようにいつもどおり上半身だけ戦車から出させていた逸見さんですけど……』

小梅『木に引っかかって車外に転落したそうです!』

小梅『大幅に遅れてます!』

直下『戦車に押し込めるのも操縦苦労したし、復帰かなりかかるんじゃ……』

まほ「……やむをえまい」

まほ「一旦別行動という形を取る」

まほ「逸見車は後から追ってきて、後に履帯損傷で戦列を離れた者の補佐などを頼む」

逸見車通信手『で、ですが……』

逸見車通信手『逸見さんを乗せたあとだと、出入り口を逸見さんが塞ぐから、後方支援は難しいかと』

まほ「…………」

まほ(こういう場面、欠片も想定していなかったもんな……)

まほ(やはり応用力が課題か……)

610: 2016/12/31(土) 06:45:54.49 ID:RbrxHnUpo

典子「誰が土下座なんか!」

桃「全員自分より身長低くしたいんだな」

エリカ「嫉妬で無駄なことするなんて、まったく戦車道を何だと思ってるのかしら」

エルヴィン「徹底抗戦だ!」

梓「戦い抜きましょう!」

エリカ「ま、そうね」

エリカ「ただでさえこんな弱小校で大会に出て暗黙のルールをぶち壊したっていうのに」

エリカ「案の定一方的にやられた挙句土下座してリタイアしました、なんてしてみなさい」

エリカ「戦車道大会そのものに傷がつくし、 西住流の名だって地に落ちる恐れがあるわ」

エリカ「せめて少ない希望に縋った顔をして突撃してパーッと氏になさい!」

エリカ「出場してここまで来られた以上、知波単レベルにはなってもらっておかないと周りにも迷惑がかかるのよ!」

みほ「でも……」

エリカ「デモもストもない!」

みほ「こんなに囲まれていては……」

エリカ「勝ち目なんて当然ないわよ」

エリカ「ならさっさと実力で負けるしかないしょうが!」

エリカ「そもそも降伏したところでフラッグ車は落とされるのよ!?」

エリカ「土下座して一体何を許されようって言うのよ!」

611: 2016/12/31(土) 07:28:32.97 ID:RbrxHnUpo

みほ「怪我人が出るかも……」

エリカ「はァ!?」

エリカ「そんなの当然じゃない」

エリカ「カーボンで守られてるとは言え、戦車に乗って実弾撃ち合っているのよ!?」

エリカ「大体アンタだって、怪我する可能性を理解して戦車に乗って、上半身を車外に出したりしてるじゃない」

エリカ「何今更そんな――」

華「みほさんの指示に従います」

エリカ「なっ……!」

沙織「私もっ……」

沙織「土下座くらいしたっていいよ!?」

優花里「私もですっ」

エリカ「ちょっ……本気で言ってるの!?」

エリカ「腐っても準決勝で、かなりの人が見ているのよ!?」

エリカ「戦車道大会の歴史でも見かけないとんでもない行為なのよ!?」

エリカ「アンタ達が思ってるより、ずっと無様でみっともないのよ!?」

麻子「準決勝まで来ただけでも上出来だ、無理はするな」

エリカ「そりゃアンタら程度で準決勝まで来たら上出来よ」

エリカ「だからって、無様に土下座することないじゃない」

エリカ「……怪我するかも、なんてリスク気にしないで、さっさとやられればいいだけなのに」

エリカ「たかが、その子の感情的な理由に、どうしてそこまで従えるのよ……」

612: 2016/12/31(土) 07:35:10.27 ID:RbrxHnUpo

桃「駄目だ!」

桃「絶対に……」

桃「絶対に負けるわけにはいかん!」

桃「徹底抗戦だ!」

エリカ「今回ばかりは賛同だけど……」

エリカ「相変わらず偉そうなのが癪に障るわね」

エリカ「黒森峰なら――」 ハッ

エリカ「……」

エリカ「黒森峰なら、隊長の意見に逆らうような子はいない……」

エリカ「隊長を、信じているから」

エリカ「……隊長の言葉には間違いがないから……」

エリカ「……」

エリカ(隊長の考えは正しいと思っているし、共感もしていた……)

エリカ(だから、それとは違う意見を持ってるアンタのことが信じられなかった……)

エリカ(才能があるだけに、隊長みたいに考えを改めて、西住流後継者にして黒森峰の将来の隊長に相応しくなってほしかったのに……)

エリカ「……とうとうムカつくくらいに甘っちょろいまま、アンタは“隊長”になったのよね……」

エリカ「見なさいよ、みんな、片眼鏡じゃなくてアンタの味方って顔してるわよ」

エリカ「……私には、アンタを信じるなんて信じがたいけど……」

エリカ「……隊長みたいに、チームから、信用されてるのね……」

エリカ「……」

エリカ(私は……)

エリカ(隊長やこの子みたいに、信じてもらえるような選手に、なれてるのかしら……)

エリカ「…………」

613: 2016/12/31(土) 07:46:55.98 ID:RbrxHnUpo

逸見車砲手「あった、逸見さんの体!」

逸見車装填手「うわっ、血が出てる……」

逸見車通信手「え、大丈夫?」

逸見車通信手「どうしよう……」

逸見車通信手「このままじゃどうせ役に立てないし、リタイアした方がいいのかな……」

逸見車砲手「なんだかんだで、逸見さんの指示が正確だから、上手くやれてたんだもんね……」

逸見車装填手「逸見さん抜きで統率取れずに動いて、フレンドリーファイアーなんてことになったら不味いもんね」

逸見車操縦手「……」

逸見車操縦手「ちょっと怖いけど、やっぱり、逸見さんがいないと、私達は成り立たないのよね」

逸見車通信手「……だね」

逸見車砲手「この戦いが終わったら、もう少し逸見さんと、いろいろな話をして、もうちょっと仲良くなってみようかな……」

逸見車砲手「私達、逸見さんがこうなったのも、よく分からない病気としか教えてもらえてないし」

逸見車操縦手「うん、そうだね。そうしよう!」

逸見車装填手「あ、私逸見さんについて語らうライングループ知ってるよ、入る?」

逸見車砲手「あ、うん。最近スマホにしたし、折角だし招待してよ」

逸見車装填手「そうだ、どうせ私達リタイアするんだろうし、逸見の森で何かこういう時の対策載ってないか見てみよっと」

逸見車砲手「逸見の森?」

逸見車装填手「そうそう、ライングループの名前で――」

逸見車通信手「わっ、危ない!」

614: 2016/12/31(土) 07:54:06.27 ID:RbrxHnUpo

ガシッ

逸見車通信手「セーフ……!」

逸見車装填手「ご、ごめん、大丈夫だった!?」

逸見車操縦手「もう、気をつけてよ! 逸見さん、この体格で結構重いんだから!」

逸見車装填手「そういえばボクササイズで痩せたはいいけど本格的なトレーニングしたら筋肉ついて重たくなっちゃったんだっけ……」

逸見車砲手「え、そうなの」

逸見車装填手「逸見の森情報だから、本人が教えてくれたわけじゃないんだけどね」

逸見車操縦手「……あっ、ちょ!」

逸見車通信手「え?」

フヨン

逸見車通信手「わわ、ごめん逸見さん!」

逸見車砲手「なるほどこれがラッキースケベ……」

逸見車通信手「と、とりあえず支え続けなきゃいけないけど、手は胸から離さないとだし……」

逸見車通信手「このまま手をゆっくりスライドさせて、胸から腰のあたりに……」 ススス

逸見車砲手(私達が支えたらなんとかなると思うけど、面白いから黙っていよう)

ポチ

逸見車通信手「あ、やば、変なとこ触っちゃった」

逸見車装填手「もう、お硬い副隊長様だし、あんま変なことすると怒られるよ?」

エリカ「ドゥルン」

逸見車通信手「!?」

エリカ「ドゥルルルルルルルル」

615: 2016/12/31(土) 08:21:56.62 ID:RbrxHnUpo

逸見車通信手「ど、どうしたの逸見さん!?」

エリカ「ドゥルルルルルルルル」

逸見車砲手「突然どうかしたの!?」

逸見車装填手「も、もしかして、打ちどころが悪かったんじゃあ……」

逸見車通信手「ええ!?」

逸見車砲手「ど、どどどうしよう、とりあえず試合を中断して貰って――」

逸見車操縦手「……待って!」

逸見車操縦手「あの逸見さんが、そんなことを望むとは思えない」

逸見車通信手「そ、そりゃあそうだけど……」

逸見車操縦手「それに――」

逸見車操縦手「あの戦車道に対しては面倒なくらいこだわりを持ってた逸見さんが、こんな場面でふざけると思う?」

逸見車砲手「た、確かに……」

逸見車通信手「言われてみれば、病気で意識がないとかはともかく、病気でドゥルンドゥルン言い出すわけないもんね……」

逸見車操縦手「うん……」

逸見車操縦手「きっとこの言動にも、何か意味があるんだよ……!」

616: 2016/12/31(土) 08:27:48.20 ID:RbrxHnUpo

逸見車砲手「そうだよね……」

逸見車砲手「昔から逸見さん、言葉足らずだし、嫌な奴って思うくらい口も悪かったけど……」

逸見車砲手「でも、いつだってそこには意味があった」

逸見車装填手「素直になればこじれないのに、なんて思うこともあったけど……」

逸見車装填手「逸見さんなりの戦車道愛が、いつだって根底にはあったんだよね……」

逸見車操縦手「逸見さんは、こんな私達を、ずっと同じ戦車の仲間に選んでくれた」

逸見車操縦手「このままだと、私達が、来年は隊長車を支えるメンバーになる」

逸見車操縦手「今、逸見さんを信じられなくてどうするの!」

逸見車通信手「そうだよね……」

逸見車通信手「気持ちと意図を組んであげるのが、仲間である私達の役目……」

逸見車砲手「昔は、あまりに嫌な子だからって筆記具全部チョークにすり替えたりしたこともあったけど……」

逸見車砲手「でも、色々あって、今は逸見さんを信じてる……」

逸見車装填手「逸見さんの意図を理解し、私達の車長が望むことを、私達で成し遂げよう!」

逸見車メンバー「「「おおーーーっ!!」」」

エリカ「ドゥルン」

617: 2016/12/31(土) 08:57:43.91 ID:RbrxHnUpo

エリカ「……」

エリカ(やっぱり、私なんかじゃ誰もついてきてないわよね……)

エリカ(余裕がないことが多いってくらい、自分でも分かってる)

エリカ(隊長になってから、最低限の人望を得るしかないと思ってた)

エリカ(……隊長がいる以上、隊長以上に人望を得られるわけがないもの)

エリカ「……」

エリカ(隊長には、実力も人望も遠く及ばないのは分かってる)

エリカ(でも……)

エリカ「アンタにだけは……」 ギリッ

618: 2016/12/31(土) 09:01:08.22 ID:RbrxHnUpo

桃「勝つんだ、絶対勝つんだ!」

桃「勝たないと駄目なんだ!」

エリカ「……」

エリカ「勝たないと駄目、か……」

エリカ「そこに関してだけは同意だわ」

エリカ「……」

エリカ「実力も策もなく喚くだけだとこうなる、って例ね……」

エリカ「……」

エリカ「私も、明日は我が身にならないようにしないと……」

みほ「どうしてそんなに……」

みほ「初めて出場してここまで来ただけでも凄いと思います」

みほ「戦車道は戦争じゃありません」

沙織(あ、サンダースの人が言ってたやつだ)

華(しれっとパクりましたね)

優花里(影響を受けたんですねえ……)

みほ「勝ち負けより大事なものがあるはずです」

エリカ「……フン」

エリカ「勝つ以外の――」

桃「勝つ以外の何が大事なんだ!!」

エリカ「……」

619: 2016/12/31(土) 09:18:38.50 ID:RbrxHnUpo

みほ「私……この学校にきて皆と出会って、はじめて戦車道の楽しさを知りました」

エリカ「ッ!」

みほ「この学校も、戦車道も大好きになりました!」

エリカ「……」

エリカ「なによ……」

エリカ「分かっちゃいたわよ、アンタがこのヌルい環境とアホ面下げた連中に、入れ込んできてるってことくらい」

エリカ「分かっちゃいたわよ……」

エリカ「アンタの居場所は、もう、ここなんだってことくらい……」

エリカ「でも……」

みほ「だからその気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」

エリカ「黒森峰の日々だって、少しくらいは、アンタの中にあると思っていたのにっ……」

エリカ「去年私が大事にしていた気持ちをアンタのせいで台無しにされて、それでもっ……」

エリカ「毒づきながらでも、それでも仲間がしたことだからって、過去のことにしようとしてたのに……!」

620: 2016/12/31(土) 09:31:02.33 ID:RbrxHnUpo

桃「何を言っている……」

麻子(こっちの台詞だろ……)

桃「負けたら我が校はなくなるんだぞ!」

みほ「え……?」

エリカ「……は?」

みほ「学校が……なくなる……?」

杏「河嶋の言うとおりだ」

杏「この全国大会で優勝しなければ――」

杏「我が校は、廃校となる」

みほ「――っ!」

エリカ「……っ」

627: 2017/01/12(木) 03:19:57.40 ID:wUVEYWE7o

優花里「な、ななななななななな……!?」

梓「い、今、なんて……」

エルヴィン「ほら、あれだろう、より強くすべく、色々なものを我が校に混ぜ合わせてより良い物を……」

杏「それは配合だ」

ソド子「きっと、それでも果敢に戦った功績を認められて、何かのルールの大本になったりするのよ!」

杏「えーっと、それは大綱だな」

おりょう「幾度か辛酸を経て、志初めて堅し――」

杏「…………」

柚「……あっ、西郷?」

おりょう「うむ、それだ!」

桃「お前ら現実逃避をするんじゃないっ、本当に廃校なんだァ!」 ウワァーン

628: 2017/01/12(木) 03:49:37.85 ID:wUVEYWE7o

エリカ「廃校……」

エリカ「なによそれ……」

あや「あれだよ、負けたら野良仕事をやらされるんだよ」

優季「しっごーとがっすっきー」

あゆみ「てれてんてんてんてれてんてんてん」

桂利奈「ハイホーハイホーハイホー」

桃「廃校!!」

エリカ「……」

エリカ「もし、ここが廃校になったら……」

麻子「……ぽぅ」

桃「マイコーじゃない! 廃校だ!!」

杏「やる気ないなら無理矢理入ってこないで聞いてくれる方が有り難いんだけどな」

エリカ「……」

エリカ「このまま負ければ……」

エリカ「……あの子は、また、黒森峰に……?」

典子「きっと敗戦のショックで3日くらい失踪を……」

忍「失踪……一体何が……」

妙子「実は温泉旅行とか……」

あけび「温泉にならいいけど、ロッテには行きたくありません」

桃「ええいそんな1勝もしない投手なんて関係ない! 廃校なんだよ!!」

エリカ「……」

エリカ「実質部外者の私じゃなくてアンタらがもっと焦りなさいよ!」

エリカ「おちおち頭を悩ませれもしないじゃない!!」

630: 2017/01/12(木) 04:15:39.63 ID:wUVEYWE7o

沙織「き、きっと負けたら戦車を売られちゃうんだよ……」

沙織「しかも二束三文で、よりにもよって中古戦車のお店でなく中古バイクのお店に……」

桃「バイク王でもない! どんどん離れていくな!」

カエサル「超感動した」

華「圧倒的な世界観」

ゴモヨ「もう三回見ました」

左衛門佐「絶対泣ける」

パゾミ「友情っていいなあ、って思いますよね」

優花里「せーのっ」

「「「「ほにゃらら(お好きな映画タイトルをお入れください。例:実写咲-Saki-)、サイコーーーーー!」」」」

桃「ハイコーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

杏「あんまり現実逃避されても困るし、勝手に回想入っちゃうよ?」

エリカ「私の意思一つで発砲できたらこいつら全員粉微塵にしてやるのに」

631: 2017/01/12(木) 04:20:28.03 ID:wUVEYWE7o

エリカ「……はぁ……」

エリカ「ま、空元気も已む無し、か」

エリカ「相手はプラウダ」

エリカ「こう囲まれたら勝機はないわ」

エリカ「ここから逆転できたら、全裸でパンを尻にはさんで右手の指を鼻の穴に入れて左手でボクササイズをしながら「いぼぢをだいじに」と叫んでもいいわ」

エリカ「そのくらい、廃校は明白」

エリカ「……」

エリカ「つまり……」

エリカ「おそらく、あの子は……」

エリカ「いえ、黒森峰を拒否して、もしや他校に……?」

エリカ「……」

エリカ(何よ、このもやもやは……)

エリカ(私は一体、あの子にどうなってほしいの……?)

632: 2017/01/12(木) 04:28:51.31 ID:wUVEYWE7o

エリカ「……」

エリカ「それにしても……」

エリカ「早く諦めてもらわないと、もう試合は間に合いそうもないわね……」

エリカ「私の手で、継続相手に勝利したかったのに……」

エリカ「今頃、隊長達は相手を包囲し圧勝し終えたところかしら……」

エリカ「はあ……」

エリカ「そりゃそうよね……」

エリカ「なにせ隊長は優秀なうえ、あのチビと違って変な油断も傲りもない」

エリカ「遊ばずに終わっているはず……」

エリカ「……」

エリカ「私なんていなくても、きっと、問題なく、勝ってるのよね……」

633: 2017/01/12(木) 04:48:43.88 ID:wUVEYWE7o

小梅『……以上が、こちらの被害状況ですっ……』

まほ「そうか……」

直下『すみません、私達のせいで……』

まほ「いや、気にするな」

まほ「向こうが一枚上手だったんだ」

まほ「……包囲したあとの、フラッグ車の動き」

まほ「あの車輌だけ、頭ひとつどころでなく飛び抜けていた」

まほ「自らが逃走すべく奇策に徹されたのも、こちらとしては苦しかったな」

まほ(アクシデントで指揮系統が麻痺した時のため、ある程度各自で考え臨機応変に対応するよう指導していたが……)

まほ(それが完全に裏目に出たな)

まほ(まだ始めたばかりの方針であるため、各々が最適解を分からぬまま好き勝手に動き自滅してしまった)

まほ(……とはいえ、仕方のないことだ)

まほ(何のリスクもないのなら、とうの昔から取り入れている)

まほ(これらのリスクを踏まえたうえで、去年のようなことを繰り返さぬために、決めた方針だ)

まほ(来年・再来年のメンバーの底上げのためと考えれば、そこはもう割り切るしか無い)

まほ(それより、今は――)

まほ「この歯抜けになった軍団で、どうするか、だな……」

634: 2017/01/12(木) 04:57:49.00 ID:wUVEYWE7o

まほ(向こうは、基本的に奇襲をしかけてくる)

まほ(厄介なのは、フラッグ車を狙ってこない点)

まほ(削れる周囲を確実に削り取り、また逃走していく)

まほ(サシでの勝負で負けるつもりはないが…・…)

まほ(この段階で一人を相手に撃墜され続ければ、後のメンタル面に大きく影響する)

まほ(ここは早期に決着をつけねばなるまい)

まほ(とはいえ、この歯抜け状態で西住流の王道を行ってもさほど脅威たり得ない)

まほ(されど、西住流に泥を塗るような奇襲も出来ない

まほ「…………」

まほ(みほ……)

まほ(この局面、お前ならどう切り抜ける……?)

まほ(それに……)

まほ「……」

まほ「エリカ……」

まほ(エリカ、お前なら、どうするんだろうな……)

639: 2017/01/17(火) 03:36:05.18 ID:cXv/ICuRo

エリカ「よーやく種明かしが終わったわね」

エリカ「まあ、私は所々しか関わってないから、そんなに思う所はないんだけど」

エリカ(……思うところがあるとしたら、やっぱり、この子が廃校になった時どうするか、よね……) チラリ

みほ「……それで戦車道を復活させたんですか」

杏「戦車道やれば助成金も出るって聞いてたし」

杏「それに学園運営費にも回せるしね」

麻子「その割に戦車の購入どころかパーツの購入すら出来てないじゃないか……」

杏「極力使わず、生徒会室に空気清浄機と全自動卵割り機を導入するのに使わせて貰った」

麻子「この建物、カメラ入らないんじゃないか?」

華「なるほど、いつでも撃てますよ」

杏「まあ待て」

みほ「皆さん気持ちはわかりますけど落ち着いて!」

640: 2017/01/17(火) 03:40:47.05 ID:cXv/ICuRo

梓「じゃあ、世界大会というのは嘘だったんですか!?」

桃「それは本当だ」

エリカ「いきなり優勝なんて無理だし、世界大会なんてもってのほかよ」 ケッ

杏「いやー昔盛んだったならもっといい戦車が眠っているかと思ったんだけど……」

麻子「いい戦車抱えこんでたら辞めるわけないだろ」

エリカ「アホね」

エルヴィン「浅慮だな……」

杏「うわーボロクソ」

杏「ちなみにここにあるのは全部売れ残ったやつ」

麻子「で、その売上金は」

杏「先輩たちが運営費に当て、そして切り詰めて生徒会室の設備充実に当てた」

優花里「装填完了です、五十鈴殿!」

華「みほさん、いつでも撃てます」

みほ「……気持ちはわかりますが、冷静になりましょう」

杏「あれ、ちょっと擁護まで間がなかった?」

641: 2017/01/17(火) 03:48:33.15 ID:cXv/ICuRo

桃「……他に考えつかなかったんだ」

桃「古いだけで何も特徴のない学校が生き残るには……」

優花里「あんこう踊りがあるのでは」

カエサル「確かにアレは強烈だな……」

梓「思わず記憶しちゃうインパクトですよね……」

おりょう「となると、あんこう踊りで町おこし……?」

あや「それが出来るなら、とっくに栄えてるんじゃあ」

典子「そこは、根性で!」

麻子「衣装をあのピッチリしたスーツ義務にすればいいんじゃないか」

エルヴィン「なるほど、それを雇った美人にやらせて人目を引くと言うわけだな」

杏「……無謀だったかもしれないけどさあ」

杏「あと1年、泣いて学校生活を送るより――希望を持ちたかったんだよ」

みほ「会長……」

エリカ「いい話っぽくしてるけど、あいつらあんまり聞いてないわよ」

642: 2017/01/17(火) 04:13:31.71 ID:cXv/ICuRo

柚子「黙っていて、ごめんなさい……」

優花里「で、でもまだ、あんこう踊りで何とかなりますよ!」

あや「そうですよ、セクスィースーツで踊るイベントで、観光客がウッハウハです!」

桃「あんこう踊りじゃ無理だ」

桃「大体セクスィーなスーツ云々で客を釣り始めたら、恐らく禁止処分を受ける」

杏「大洗としても、あんこう踊りまで失うわけにはいかないんだよねー」

桃「大体、誰が着たがるんだあんなもん!」

梓「た、確かに……」

典子「根性があっても、あればっかりは……」

カエサル「と、いうことは……」

みほ「本当に、廃校……!?」

桃「だからそう言っているだろう!!」

典子「バレー部復活どころか、学校がなくなるなんて……」

おりょう「無条件降伏……」

優花里「そんな事情があったなんて……」

華「この学校がなくなったら、皆バラバラになるんでしょうか……」

沙織「そんなのやだよお!」

エリカ「……」

643: 2017/01/17(火) 04:16:40.26 ID:cXv/ICuRo

麻子「単位習得は、夢のまた夢か……」

うさぎさんチーム「うううううう……」

エリカ「……すっかり葬式ムードね」

エリカ「……」

エリカ「同情は、してあげないわよ……」

みほ「……」

みほ「まだ試合は終わってません」

エリカ「……!?」

みほ「まだ、負けたわけじゃありませんから」

優花里「西住殿……」

杏「西住ちゃん……?」

エリカ「ちょっ……あんた本気で言ってるわけ!?」

みほ「……頑張るしかないんです」

みほ「だって――」

みほ「来年もこの学校で、戦車道をやりたいから……」

644: 2017/01/17(火) 04:28:44.85 ID:cXv/ICuRo

みほ「……みんなと」

エリカ「……」

エリカ「なーによ、たった数ヶ月がいいとこの奴ら相手に、そこまで……」

優花里「私も、西住殿と同じ気持ちです!」

エリカ「なっ、ちょ、どんだけ単純なのよアンタは!」

沙織「そうだよ、とことんやろうよ!!」

沙織「諦めたら終わりじゃん、戦車も恋も!」

華「まだ戦えます……!」

麻子「……」 コクリ

エリカ「何よ……こいつら揃いも揃って感化されすぎじゃないの……」

みほ「降伏はしません」

みほ「最後まで戦い抜きます」

エリカ「……」

みほ「ただし、皆が怪我しないように、冷静に判断しながら」

エリカ「……」

エリカ「相変わらず、クソ甘いままなのね」

エリカ「立派に隊長として支持を出してるけど……そんなんじゃ、黒森峰では通用しないわよ」

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「アンタの居場所は、もう、黒森峰にはないんだから」

エリカ「別に、寂しくなんてないし――」

エリカ「――いいわ、私も、手ぇくらい貸してあげる」

エリカ「精々、圧倒的戦力差と現実を知って、あのクソ生意気なちびっ子に一矢報いてから氏になさい」

645: 2017/01/17(火) 04:37:45.98 ID:cXv/ICuRo

エリカ「……整備も、気付いたら手慣れてきてるじゃない」

エリカ「当然、私達黒森峰の方が上として――」

エリカ「この上達スピード……」

エリカ「ポッと出のわりには、努力してるんじゃない」

エリカ「……ま、このくらいは当然だけど」

桃「問題は、この包囲網をどうやって突破するのかだな」

エリカ「そう」

エリカ「闇蜘蛛に突っ込んでも、待っているのは知波単のような総玉砕」

エリカ「さりとて黒森峰のように乗り手も戦車も地力不足」

エリカ「さあ、どう指揮をとるつもりなのか、見せてもらうわ」

654: 2017/01/24(火) 02:05:00.09 ID:uUEBVOt9o

桃「問題は、この包囲網をどう突破するかだが……」

柚子「敵の正確な配置が分かればいいんだけど……」

みほ「偵察を出しましょう」

エリカ「ま、それしかないでしょうね」

エリカ「戦車戦は情報がものを言う」

エリカ「それを元に作戦指揮を執る隊長の能力も求められるし、目まぐるしく移り変わる戦況を把握できる手足もが王者には求められるものよ」

沙織「それにしても、なんで麻子達なの?」

沙織「寒がって引きこもりそうなイメージすらあるのに」

みほ「冷泉さん達のコンビは、視力がいいから……」

みほ「二人一組が基本になりますし……」

カエサル「では、エルヴィン達のコンビは……?」

みほ「……二人共、行きたいって志願を……」

沙織「うええ、元気すぎでしょ二人共……」

左衛門佐「庭駆け回る……」

エリカ「アホなんでしょ」



655: 2017/01/24(火) 02:17:03.74 ID:uUEBVOt9o

エリカ「しかしまあ、二人一組で人間を偵察に出す、ねえ」

エリカ「黒森峰じゃありえないスタイルだわ」

エリカ「偵察で情報収集は当然必要とはいえ、戦車を降りてコソコソやるなんて弱者のやる邪道そのもの」

エリカ「偵察隊を戦車チームで組み、威力偵察をすることこそ、戦車道の本懐」

エリカ「……試合中に戦車から降りることすら、西住流では恥とされているというのに」

エリカ「ほんっと、そーいうのに全然縛られなくなっちゃって」

エリカ「……昔は、もうちょっと、ビクビクしながらだったくせに」

エリカ「……」

エリカ「黒森峰でそんなことしようものなら切腹よ切腹」

656: 2017/01/24(火) 02:23:20.13 ID:uUEBVOt9o

逸見車操縦手「きゃああああ!?」

逸見車通信手「ちょ、どうしたの逸見さん!?」

逸見車砲手「突然走り出すなんて!!」

逸見車装填手「人一人背負ってあの速さ……ボクササイズの成果?」

逸見車通信手「やっぱり、『おっOい触ったら喋ってくれたし、もっと揉めばいいんじゃ』なんてすべきじゃなかったんだよ!」

逸見車砲手「いや、だって、あまりに気持ちよさそうだったから……」

逸見車砲手「揉ミュニケーション……」

逸見車操縦手「そ、それより止めてえ! っていうか止まってえ!」

逸見車通信手「そ、そうだよ逸見さん! そのまま行くと戦場に――」

逸見車砲手「はっ……!」

逸見車砲手「まさか逸見さん、このまま生身で乗り込もうっていうの!?」

逸見車操縦手「え!?」

エリカ「ドルルルルルルン」

657: 2017/01/24(火) 02:35:24.44 ID:uUEBVOt9o

逸見車装填手「でもそれ、逸見さんの敬愛する西住流の精神に反するんじゃ……」

逸見車砲手「確かにそうかもしれない」

逸見車砲手「普段なら、私だってそう思っていた」

逸見車砲手「でも、今こうして、生身で突っ込もうとしているのは、動かせない事実なんだよ」

逸見車操縦手「うっ、た、確かに……」

逸見車砲手「それに、逸見さんは、隊長だけでなく、元副隊長の西住さんのことも、ずっと意識してる風だった」

逸見車砲手「西住さんは、自分が守りたい者のためなら、規律だって捨てられる強さを持っていた……」

逸見車操縦手「……それは、確かに」

逸見車砲手「私たちは今、追い込まれている」

逸見車砲手「敵隊長の予想以上の無双を前に、下手をしたらこんなところで姿を消すはめになるわ」

逸見車通信手「ふ、ふたりとも、よく走りながら喋れるね……」 ゼヒーッ

逸見車砲手「作戦を立てよう」

逸見車砲手「逸見さんの意思を尊重した、生身の偵察を活かした作戦を」

逸見車砲手「王道じゃないかもしれない。怒られるかもしれない。それでも!」

逸見車砲手「私達の大好きなチームと、車長のために……!」

エリカ「ドゥルン……」

658: 2017/01/24(火) 02:50:36.51 ID:uUEBVOt9o

みほ「戦車が冷えるので、素手で」

あや「わあ、ほんとだー」 ヒヤ

みほ「最後まで聞いてほしかったかな……」

あや「あれ!? 張り付いた……!?」

桃「悲劇を繰り返さないためにも、西住、言ってやれ」

みほ「え、あ、はい……」

みほ「ええと、戦車が冷えるので、素手で触らないようにしてください」

おりょう「となると、素足で……」

みほ「ええと、それもちょっと……」

あけび「ほっぺスリスリとか……」

みほ「ほっぺ持って行かれますよ……?」

杏「もういっそ生乳で触って話題にだけでもなってみるか」

エリカ「やれるもんならやってみなさいよ乳首もげるわよ」

659: 2017/01/24(火) 03:00:46.47 ID:uUEBVOt9o

桃「手の空いたものは暖を取れ」

柚子「スープ配りまーす!」

杏「干し芋たっぷりで美味いぞー」

みほ「こんなに天気が荒れていたら、偵察に出た皆は……」

エリカ「割りと洒落にならない可能性はあるけど、でも――」

優花里&エルヴィン「「どーおせ生きては帰らぬつもりー」」

エリカ「不吉な歌を口ずさみながら帰ってきたわよ」

優花里「ただいま帰還しました」

ソド子「こちらも偵察終わりました!」

沙織「ちょ、どうしたの、そこかしこ濡れて……!」

麻子「途中でソド子のせいで敵に見付かってな」

麻子「さすがに特殊カーボンで守られていない生身の人間を撃つのは気が引けるらしくてな」

麻子「砲弾の代わりに雪玉が飛んできた」

エリカ「そりゃそうよ、そんな一生消えない十字架を誰が高校生の選択授業ごときで背負いたっつーのよ」

エリカ「でもそれを逆手に取るようなのは邪道だし、人間流の面汚しって感じだし、私は絶対やらないけど」 フフン

660: 2017/01/24(火) 03:09:22.44 ID:uUEBVOt9o

ガサガサッ

ミカ「!」

ミカ「アキ、ミッコ」

アキ「うん」

逸見車操縦手「さっきの偵察で、敵の隊長がここに潜伏しているのは知っている!」

逸見車操縦手「うおおおおおおお!」

バッ

逸見車操縦手「ってえええええええええええ!!」

ズドム

ミッコ「はっずれー!」

ミッコ「つっても、ドリフトしなくても全然当たってなさそうだけどな!」

アキ「黒森峰なのに、そんなことってあるのかな……」

ミカ「アキ。迷いという名の森の中に入りこむのは、あとでいいんじゃないかな?」

ミカ「今はただ、風に身を委ねるだけさ」 ポロロン

ミカ「――トゥータ」

ズドム

ヒョコッ

逸見車装填手「ぎゃあ、やられたー!」

661: 2017/01/24(火) 03:11:44.29 ID:uUEBVOt9o

逸見車通信手「!」

逸見車通信手(白旗が上がった……!)

逸見車通信手「今!!」

ガサッ

ミカ「!」

ミッコ「そっちか!?」

アキ「ま、待って! あれただの人だよ! 偵察っぽい!」

ガサッ

ミカ「本命は、後ろ、だね」

ミカ「予想外とは、常に背後からやってくるものなのさ」

ミカ「トゥー――――」

アキ「駄目!」

アキ「こ、こっちも生身の人間だよ!」

ミカ「!?」

エリカ「ドゥルン!!」

662: 2017/01/24(火) 03:19:22.52 ID:uUEBVOt9o

逸見車砲手(逸見車操縦手が、逸見さんの体の仕組みを幾つか解明してくれた……)

逸見車砲手(料理上手な逸見車装填手が、さっとありあわせの材料でハンバーグを作ってくれた)

逸見車砲手(その二人が、戦車を操縦し、敵の隙を作ってくれた)

逸見車砲手(そして、逸見車通信手が、二段階の不意打ちの中で最も危険な一の矢になって、タイミングを教えてくれたんだ!)

逸見車砲手(これは、逸見車全員の力が合わさった、初めての邪道っ)

逸見車砲手(邪道に落ちてでも、落とせない星を取るという決意の現れッッ)

逸見車砲手「こいつは――――」

ミカ「アキ!」

アキ「……!」

ミカ(まいったな……さすがに、戦車を囮に生身で挑んでくるだなんて……)

ミカ(なんて……自由……!)

逸見車砲手「外さないッッ」 ギュムッ

エリカ「ボシュッ」 ハンバァァァァァァグ

663: 2017/01/24(火) 03:25:47.69 ID:uUEBVOt9o

ビチャッ

アキ「ひゃっ」

ボムギッ

アキ「ええっ、そんな……!」

ミッコ「くそっ、まさか口から何か出てきて砲身に詰まるだなんて……」

ミカ「砲身がやられたら、高確率で白旗が上がる」

ミカ「もちろん、口から吐き出せる物質である以上、整備すれば何とかなったはずさ」

ミカ「でも――」

アキ「あ……私が、つい反射的に撃っちゃったから……」

シュポッ

アキ「砲身が暴発して、旗が……」

ミカ「……そうじゃない」

ミカ「戦車道には、人の心が詰まっている」

ミカ「何より風を感じ、空気を読むのは戦車自身さ」

ミカ「そして――白旗を出さないと、と戦車に思わせる空気を、向こうが作っただけのことさ」

シアイシュウリョウ! クロモリミネジョガクエンノショウリ!!

まほ「えっ」

しほ「…………???????????」

671: 2017/01/29(日) 02:12:22.01 ID:f0+GGPaso

エリカ「それにしても、さすがにもう試合は終わっちゃってるわよね……」

エリカ「以前の練習試合では、相手の隊長車が強敵だったけど……」

エリカ「それでも黒森峰と、西住流は王道にして最強」

エリカ「真っ向から小細工なんて叩き潰してるわよね」

エリカ「……はあ」

エリカ「まあ、いいわ」

エリカ「今回は――あのチビに、リベンジを果たしてやる」

エリカ「もし、万が一、大洗の試合に合わせて入れ替わりが起こるのだとしても――」

エリカ「もう準決勝を終える大洗の試合と、次が準決勝のうちはバッティングしないはず」

エリカ「次で鬱憤を晴らすようにいけ好かないグ口リアーナを倒してやるわ」
















しほ「…………」

しほ(……あの子は切腹ね)

672: 2017/01/29(日) 02:22:54.87 ID:f0+GGPaso

エリカ「…………」

風「びゅおおおおおおおおおおおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

エリカ「さっむ……」

エリカ「めちゃくちゃ吹雪いてきたわね……」

エリカ「……いっそ、中止になればいいんだけど……」

エリカ「……でも、これだけ優位を取ってるプラウダが、それをすんなり受け入れるわけがないし……」

エリカ「学校の貢献度とかから鑑みても、まあ、まずプラウダ側に媚びるように、中止しない方向で検討されてるでしょうね」

エリカ「そうなると、士気の維持が問題だけど……」

エリカ「……」

エリカ「いや中止になられたら困るんだった、再試合の時入れ替わりで聖グロ戦出られないなんて絶対ごめんよ」

エリカ「えーい、やみなさい吹雪!」

エリカ「ほら、さっさとしなさいよ!!」

673: 2017/01/29(日) 02:40:25.09 ID:f0+GGPaso

エリカ「ちっ……もう完全にお通夜ムードね」

優花里「さっき偵察中、プラウダ高校はボルシチとか食べてました……」

エリカ「いっそウォッカでも飲んでたら、辞退に追い込めたものを……」

麻子「美味しそうだな……」

華「それに、暖かそうです……」

優花里「やっぱり、あれだけの戦車を揃えている学校ですからね」

沙織「……」

沙織「学校、なくなっちゃうのかな」

エリカ「なくなるわよ」

エリカ「ここで勝っても、私は容赦なくアンタ達を叩き潰すんだから」

優花里「そんなの、嫌です……」

優花里「私は、ずっとこの学校にいたい!」

優花里「皆と一緒にいたいです!!」

エリカ「……ふん」

エリカ「いつまでもこのままでいられたらいい、なんて……」

エリカ「卒業だってするんだから、叶うわけないじゃない」

エリカ「……」

エリカ(でも……)

エリカ(叶うはずもないのに、心のどこかで、私も……)

674: 2017/01/29(日) 02:56:49.80 ID:f0+GGPaso

華「どうして廃校になってしまうんでしょうね……」

エリカ「知らないわよ」

エリカ「アンタラのとこの無能運営にでも聞きなさいよ」

エリカ「あのアンツィオや継続だって解体されてないんだし、あんたらよっぽど採算取れてないのよ」

エリカ「なんだっけ、あんこう踊りとかいう、伝統芸能的なのあるんでしょ?」

エリカ「そっちでなんとか人を呼ぶほうが現実的だったのよ」

エリカ「戦車道をナメたのが敗因よ」

華「ここでしか咲けない花もあるのに……」

エリカ「……」

エリカ「ここじゃ咲けない花もあるでしょ」

エリカ「……そこでしか咲けないと思っていた花が、違う場所で、もっと生き生きと咲くなんてことも、あるのよ」

675: 2017/01/29(日) 03:20:13.09 ID:f0+GGPaso

みほ「みんなどうしたの!?」

みほ「元気出していきましょう!」

エリカ「……無理よ」

エリカ「元々絶望しかけてた心を、無理やり奮い立たせてたのよ」

エリカ「それが吹雪で冷水をかけられたらこんなもん、よ」

みほ「さっきみんなで決めたじゃないですか、降伏しないで最後まで頑張ろって!」

一同「「「はーい……」」」

エリカ「わかってまーす、なんてのも、嘘じゃあないでしょうね」

エリカ「分かってても、一度冷めた熱は簡単には戻らない」

エリカ「窮鼠が猫を噛むのも、追い込まれて生まれた熱が生きてるから」

エリカ「……反撃に出るための熱量を[ピーーー]つもりで、こんな時間を設けたのかしら?」

桃「お、おい! もっと士気を高めないと!」

エリカ「元々、おどおどしてて士気高翌揚には向いてなかったのよね、アンタ」

エリカ「……この場面で、そんなアンタがどうするのか、見させてもらうわよ」

676: 2017/01/29(日) 03:27:41.81 ID:f0+GGPaso

桃「このままじゃ戦えんだろ」

みほ「え……」

桃「なんとかしろ、隊長だろ!?」

みほ「は、はい……」

みほ「……」

みほ「っ!」 キリッ

みほ「あああんあん!」 ヒョイッ

みほ「あああんあん!」 ピョコピョコ

エリカ「!?!?!?!」

沙織「みぽりん!?」

華「どうしたんですか……?」

エリカ「え、なに、あまりの絶望にネジでも飛んだの?」


677: 2017/01/29(日) 03:32:17.68 ID:f0+GGPaso

みほ「みんなも歌ってください!」

エリカ「!?」

みほ「私が踊りますから!!」

エリカ「ほんとどうしたのよあんた……」

エリカ「さすがに驚きすぎて引くし、みんなも歌って、他の連中もこの意味の分からない曲を歌える前提なわけ……?」

華「あの恥ずかしがりのみほさんが……」

優花里「皆を盛り上げようと……」

麻子「微妙に間違ってるけどな」

エリカ「微妙で済まないレベルで間違ってるんじゃないこれ???」

優花里「私も踊ります!」

エリカ「はあ!?」

華「やりましょう」

沙織「みんな、いくよー!」

麻子「仕方あるまい」

エリカ「え、なに、私なの? 私だけがおかしいの?」

678: 2017/01/29(日) 03:37:42.89 ID:f0+GGPaso

ピーッカピカー

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「あっ、これがあんこう踊りってやつ!?」

エリカ「いや、そりゃだめだわ……そりゃこれ前面に押すのはないわ……」

エリカ「上級者向けすぎでしょ……」

エリカ「まだ戦車道をナメて参戦してくる方が理解できるレベルの踊りね……」

エリカ「ソレを試合中にやるなんて、家元が見たら卒倒するわよ」

エリカ「しかもこの人数でそんな狂気の洗脳ダンスを踊るなんて……」

エリカ「戦車道の歴史においても指折りの恥さらし」

エリカ「ボジョレーヌーボーと違って、本物の近年トップクラスの恥さらしね……」

エリカ「まったく、うちの試合と重なっていて家元が見に来てないことを感謝しなさいよね」

679: 2017/01/29(日) 03:47:22.79 ID:f0+GGPaso

しほ「……」

まほ「あの……」

しほ「切腹用の刃はこれでいいかしら」

まほ「エリカのことを、許して頂けは……」

しほ「戦車道とは、心を育てるもの」

しほ「あれほどまでに心がやましく、西住流にも反する者を、手元に置いておく必要はありません」

しほ「ボジョレーヌーボーと違って、本物の近年トップクラスの恥さらし」

しほ「試合中ハンバーグを食べてそれを吐き出して勝利するなど、あまりにも言語道断」

しほ「戦車道の歴史においても指折りの害悪です」

しほ「それならまだ試合中に奇妙な踊りでも踊られる方が奥倍マシ」

まほ「それは、まあ、そうでしょうが……」

まほ「さすがに切腹というのは、些か時代錯誤かと……」

まほ「西住誕生直後の文化をそのまま現代にも適用するのでなく、そのあたりはフレキシブルに……」

しほ「分かっています。冗談です」

まほ「ほっ……」

しほ「今の時代、切腹はあまりに非人道的」

しほ「今の時代は無痛ですぐ終わる電気椅子です」

まほ「!?!?!?!?」

しほ「何でも揃うアマゾンとやらで注文したから、近日中に届くでしょう」

まほ「何でも揃うにも限度というものがあります」

まほ(頼むからKONOZAMAになってくれ……)

685: 2017/02/11(土) 00:56:57.83 ID:hwY4W5lco

プラウダの使者「あの!」

エリカ「うわ、見てたんだ……」

プラウダの使者「もうすぐタイムリミットです」

プラウダの使者「降伏は?」

みほ「しません」 スッパリ

みほ「最後まで戦います」

プラウダの使者「……」

プラウダの使者(まあ、あの踊りを全員で踊った挙句降伏しますと言われてもちょっと困るもんね……)

プラウダの使者(人の心を壊すくらい追い込んでしまった、ってトラウマにならないように、抵抗してもらわなきゃ……)

686: 2017/02/11(土) 01:00:29.00 ID:hwY4W5lco

杏「小山、行くぞ」

柚子「はいっ……!」

杏「突撃!」

エリカ「……」

エリカ「確かに、あの薄さは罠の匂いがするけど……」

エリカ「西住流は、真正面から多少の困難をねじ伏せるパワーだってあるけれども!」

カチューシャ「はあ!? こっちぃ!?」

エリカ「何でわざわざあんな分厚い所を……!」

杏「西住ちゃん、いいから展開して」

みほ「気をつけて……!」

エリカ「ちっ、あいつらムカつくからやられてほしいけど、そうも言ってられないわね」

エリカ「ただでさえ人数が不利なのに敢えて茨の道を行こうっていうアンタの手腕、見せてもらうわ」

687: 2017/02/11(土) 01:13:10.71 ID:hwY4W5lco

杏『いやー、ごめーん』

杏『2輌しかやっつけられてないのにやられちゃった』

杏『……あと、よろしくね』

みほ「わかりました」

みほ「ありがとうございます」

桃『頼んだぞ、西住っ!』

柚子『お願いねっ!』

エリカ「……」

みほ「この窪地を脱出します!」

みほ「全車あんこうについてきてください!!」

エリカ「……アンタが黒森峰よりこっちを取ったことは、まあ、こう、受け入れるとしてもよ」

エリカ「明らかに悪役だったはずのアイツら相手に、なんでそんな表情出来るのよ」

エリカ「……アンタ、そんな風に想いを背負ってくれたこと、黒森峰ではなかったじゃない」

エリカ「……」

エリカ(それとも……私に見えてなかっただけとでもいいたいの……?)

エリカ「……ちっ」

エリカ「やっぱり、この環境はいらつくわね」

エリカ「さっさと終わらせるわよ!」

688: 2017/02/11(土) 01:23:50.26 ID:hwY4W5lco

エリカ「ああ、もうっ!」

エリカ「フェイント入るしブンブン振られるし、最悪の気分だわっ!」

麻子「……」

エリカ「……」

エリカ(でも、いつの間にか、私が助力して慣性に抵抗しなくてもフェイントを完全に使いこなすようになってる……)

エリカ(それに、他の連中も、全員ついてきてる……)

エリカ(才能? 士気の高さ? それとも、あの子の指導が上手いっていうの……?)

バババババババ

エリカ「……」

エリカ「人の怪我には人一倍五月蝿いくせに、自分は機銃が飛び交ってても平然と上半身を出す所は変わらないのね」

みほ「この暗さに紛れるため、出来るだけ撃ち返さないで!」

エリカ「西住流にあるまじき邪道な奇手を思いつくのも変わらず、か」

エリカ(……違うとすれば、その奇手を周りが受け入れるかどうか、か……)

689: 2017/02/11(土) 02:01:09.26 ID:hwY4W5lco

沙織「それにしても、予想以上にあっさりと抜け出せたね」

沙織「まるで両思いの合コンみたい……」

エリカ「あのチビッ子、戦術家としては有能だけど、前線に立つのに向いてないのよ」

エリカ「圧倒的優位ですぐに慢心するわ、ツメが甘く得物を前に舌舐めずりするわ、現場に出るには二流と言わざるを得ないわね」

エリカ「一流というのは、隊長のように常に油断せず、驕らず、勝利が決定する瞬間まで勝利を確信し気を緩めない人のことを言うのよ」 フフン

麻子「……」

優花里「さっき偵察に行っていて知ったんですけど、どうやら今年のプラウダには優秀な偵察兵がいるようでして……」

優花里「こちらの人数や場所を的確に把握し、隊長達に伝達していたらしいんです」

沙織「そっか、だからさっきもあんなに的確に追い込まれてたんだ……」

華「でも、それならば、何故今はこうも容易く……?」

優花里「どうやらファインディング・コンピューターの異名を持つその人は、高度な計算の末に相手の居場所を割り出すため……」

優花里「30分以上試合をすると知恵熱を出しポンコツ化するんだそうです」

エリカ「なによそのMe以下の低スペックコンピューターは」

沙織「でも大丈夫なのかなー、こんな寒いのに熱まで出すなんて」

優花里「まあ、元々車外活動メインだったから彼女がいなくても戦車の運用は出来るんでしょうし、大人しく医務室に行ってると思いますよ」

優花里「おかげでこうして戦線を離れてフラッグ車を叩きにいけますし、今は同情ばかりしていられませんっ」

エリカ「しかしまあ、そんなやつを抱えてるのに猶予与えるとか、いよいよ持って舐めプの極地ね……」

エリカ「後悔させてやらなくちゃいけなんじゃないの?」

みほ「……」

みほ「相手の居場所、か……」

みほ「……」

みほ「ゆかりさん、もう一度偵察に出てくれる?」

優花里「……!」

優花里「はいっ喜んで!」

優花里「はあーーーーっ!」 シュバッ

エリカ「うおっ、いつもの2倍のジャンプと3倍の回転ッッ」

優花里「どこか高い所は……っと」 トテトテ

690: 2017/02/11(土) 02:19:17.75 ID:hwY4W5lco

優花里「あっ!」

優花里「発見しました!」

優花里「あちらの角で、冬のナマズのようにおとなしくしています!」

エリカ「わかってるとは思うけど……」

エリカ「問題はここからよ」

エリカ「あのチビっ子大好きなスナイパーをはじめ、向こうは伊達で四強をしてるわけじゃあない」

エリカ「腐っても黒森峰にラッキーパンチを当てるだけの戦車と技量を持っている」

エリカ「そんな相手に、こっちはとっくにフラッグ車を見付かってるのよ」

エリカ「……こっからが正念場ね」

691: 2017/02/11(土) 02:30:42.62 ID:hwY4W5lco

梓『うさぎチーム、走行不能!』

エリカ「!」

みほ「!」

沙織「みんな大丈夫!?」

ウサギさんチーム『大丈夫でーす』

あや『メガネ割れちゃったけど大丈夫でーす』

梓『カモさん、アヒルさんをお願いします!!』

ソド子『了解!』

エリカ「……」

エリカ「最初はあれだけ戦車道をナメてるとしか思えなかった、あの連中が……」

エリカ「この短期間で、人は変わるものね……」

エリカ「……」

エリカ(もしかしたら、私も――――)

エリカ「……」

エリカ「ふん、くだらないことを考えたわ」

エリカ「ほら、加速するわよ!」

エリカ「あと盾は一枚だけ」

エリカ「さっさと落として終わらせるわ!」

692: 2017/02/11(土) 02:48:17.01 ID:hwY4W5lco

Ⅳ号戦車になったことで、見えてきたことがある。

……ずっとあの子にムカついてて、隊長に並び立てる存在だと分かっていたけど受け入れることが出来なかった。

はっきり言って、今のあの子を見下してる。

でも――

見下すようになって、初めて分かったことがある。

見上げていると認めたくなくて、目を背けていたから気付けなかったことが。

エリカ「やっぱり――――アンタは強いし、上手いわよ。癪だけど」

でもそれは、“黒森峰の強さ”でも、“西住流の強さ”でも無い。

優花里『近付いてきます!』

見下せるようになった今だから言える。

アンタは確かに黒森峰に必要だったし、隊長の右腕に相応しかったんだと思う。

でも、それは、アンタが黒森峰や西住流とは違う強さを持っていたから。

隊長が体現する強い西住流は、100の力を持つ選手を束ね、そして100の力を発揮できるよう纏め上げて指示を出す。

でもあの子は、そうじゃない。

10のポテンシャルの子を、20や30に引き上げるのを得意としている。

だからこそ、隊長の右腕だったんだ。

隊長にないスキルを持っていたから。

足りない所を補い合える相棒だったから。

隊長と同じ道を選び、そしてまだ背中に追いつけていない私では、敵わないのも当然だろう。

693: 2017/02/11(土) 03:03:33.88 ID:hwY4W5lco

だが――――

エリカ「それがどうしたっていうのよッッ」

ああ、ああ、認めるさ。認めてやるとも。

あの子は強い。私にはなく、隊長にすら無い力を持っている。

認めたくない事実だけど。認めたくない力だけど。

でも確実に、彼女には理解しがたいほどのカリスマ性があるのだ。

優花里『来ました!』

さっき、KV2を撃破する直前、砲手に声をかけたように。

粘って負けた車輌の面々と交わした言葉のように。

あんな優しく気遣いのためのやり取りは、私には無理だ。

いや、きっと、黒森峰の全員に無理だ。

出来て当たり前のことなんて、失敗したら責めこそすれど、それをやるためのアドバイスなんてないし、失敗してもフォローなんてしない。

脱落者を労うくらいなら眼の前の敵を叩き潰すことに集中する。

あの子の行動では、黒森峰の副隊長も西住流の後継者も務まるまい。

みほ「撃ち方用意!」

それに、勝利の瞬間を自らの引き金で、というエゴがないのも強い。

そうなれるとは、思わないけど。

でも、もしその生っちょろいスタイルで、プラウダに勝つようなことがあれば。

あのエゴ丸出しで、全て一人で仕切り、圧倒的なパワーを誇る連中を上手く使役するカチューシャが、真逆の存在であるあの子に敗れるようなら。

あの子が――西住流の対局の存在として、決勝の場に、現れてくれるなら。

エリカ「……変ね、まったく」

エリカ「あの子は嫌いだし、ナメてるところなんて嫌悪すらしているはずなのに」

ズドォォォォォォン

エリカ「どうしてこんなに――――胸が高鳴るのよ」

700: 2017/02/28(火) 01:32:00.92 ID:9daAtvKxo

エリカ「着弾は……同時?」

エリカ「勝敗は――――」

『……大洗女学園の勝利!』

ワァァァァァァァァ

エリカ「……よっし」 グッ

エリカ「……」

エリカ「……いやいやいや、そんな大喜びするもんじゃあないっての」


701: 2017/02/28(火) 02:02:15.89 ID:9daAtvKxo

華「やりましたね!」

沙織「すごーい!」

エリカ「まったく、いちいち大はしゃぎしちゃって」

エリカ「ま、常勝である私達は優勝の瞬間までもあくまでクールに振る舞うのだけれど」 フフン

優花里「すごいです西住殿!」

沙織「やったあ!」 ガバッ

エリカ「ちょ、ば、何抱きついてるのよ!」

エリカ「戦車道は淑女の嗜みなのよ!?」

エリカ「な、なにをそんなベタベタと!!!」

杏「よくやったぞ!」

エリカ「アンタは何なのよもう!」

エリカ「あーいらいらするわ」

702: 2017/02/28(火) 02:55:43.42 ID:9daAtvKxo

カチューシャ「折角方位の一部を薄くして、そこに惹きつけてぶっ叩くつもりだったのに」

カチューシャ「まさか突破できるなんて思わなかったわ」

みほ「私もです」

カチューシャ「は?」

エリカ「ま、あの素人集団で出来るなんて思わなかったでしょうよ」

エリカ「……そのくせに平然と仲間を信じて突破しようとするなんてね……」

エリカ「邪道だけど――認めるわ」

エリカ「あんたのそういうとこを、きっと、隊長は評価していた」

エリカ「あの人は誰より真面目で誰より西住流に忠実に生きているけど、それでも他流派を客観的に評価できる人だったから」

エリカ「多分、見てたら、アンタのことを評価してたと想うわ」

エリカ「でも――」

エリカ「アンタの腕は認めてあげても、絶対に、アンタのことは認めない」

エリカ「私は――――否! 黒森峰は、西住流派は、そんなの絶対認めないッ」

エリカ「決勝戦で、私がアンタを否定してあげるわ」

エリカ「認めたくないから逃げるように払いのけるんじゃあない」

エリカ「認めたうえで、上をいくために、あんたを叩き潰すのよッ」

703: 2017/02/28(火) 03:00:49.97 ID:9daAtvKxo

エリカ「……受け入れちゃえば少しだけスッキリするけど、でもやっぱりまだモヤモヤはするわね」

エリカ「それでもいいわ」

エリカ「やりたいことが出来たんですもの」

エリカ「隊長という背中に追いつきたい」

エリカ「その道程に、越えなきゃいけない大きな壁として、あんたがいるって認めたくなかった」

エリカ「でも、今は」

エリカ「敵に回ってくれたおかげで、認めることが出来る」

エリカ「……楽しみだわ」

エリカ「アンタを、決勝戦で叩き潰すのが」

エリカ「そのために、あのいけ好かない聖グロの連中を叩き潰すのが!」

704: 2017/02/28(火) 03:05:34.93 ID:9daAtvKxo

みほ「たまたま上手くいっただけにすぎません」

みほ「次にやったら――多分勝てません」

カチューシャ「?」

エリカ「そうやって、無自覚に煽るところも、ムカつくだけの謙遜も、相変わらずみたいね」

エリカ「ほんと、心の底から嫌いだわ、あんたのことが」

エリカ「……」

エリカ(だけど、それ以上に――)

エリカ「……」

エリカ「あんたのこと、好きだったのかもしれないわね……」

705: 2017/02/28(火) 03:11:52.26 ID:9daAtvKxo

エリカ「私に無いものを持っていて」

エリカ「隊長の横が誰よりも相応しくて」

エリカ「……アンタがもうちょっと、私の敬愛する西住流の後継者に相応しいヤツだったら、きっと仲良くなれてたでしょうね」

エリカ「いや……」

エリカ「ひょっとすると、少しは、仲が良かったのかもね」

エリカ「私がアンタに、似合ってもいない理想を求めてさえいなければ、今頃は、まだ――」

エリカ「……」

エリカ「さようなら。私が敬愛した隊長の妹さん」

エリカ「さようなら。私が目指した隊長のパートナー」

エリカ「さようなら。親友になれたかもしれなかった人」

エリカ「……さようなら」

エリカ「アンタはもう、この世には実在しない」

エリカ「受け入れたわ」

エリカ「居るのは、認めたくない才能に満ち溢れ、共に歩みたかった道に唾を吐きかけた最大の敵」

エリカ「ナメてかかれるような雑魚なんかじゃない、本気で倒さねばならない宿敵ッ」

エリカ「それでも私は、アンタを認めてなおも認めたくない」

エリカ「私は私の信念のために、アンタを、アンタ達を、見下し続けてやるわッ……」

エリカ「そのためにも――」

エリカ「決勝戦では、圧倒的戦車のスペック差を用いて、情け容赦なく磨り潰すッ」

エリカ「誰より強いアンタを見下すためにッ!」

エリカ「決勝の舞台を、西住みほの公開処刑の場に変えてやるわッ!!」

706: 2017/02/28(火) 03:12:53.96 ID:9daAtvKxo






 ☆  ★  ☆  ★  ☆





 

708: 2017/02/28(火) 03:18:10.51 ID:9daAtvKxo

しほ「これより、逸見エリカの公開処刑を始める」

エリカ「えっ」

ワァァァァァァァァ

エリカ「えっ」

しほ「何か、言い残すことはある?」

エリカ「待ってくださ……えっ」

エリカ「何か起きて動かないと思ったら後手に縛られ正座させられ……え???」

しほ「そうね、腹を切るにはロープを切らないといけないわよね」

エリカ「いやその」

しほ「安心しなさい、上手く斬れなくても、きちんと解釈してあげます」

エリカ「お願いします待ってくだs」

しほ「学校中の生徒が観客席から見ているんですよ」

しほ「せめて恥ずかしくのない最期を迎えることを期待しています」

エリカ「話を聞いて」

712: 2017/02/28(火) 17:34:05.55 ID:WqKLFcbpO
さよなら。エリカ。お前のことは忘れない

713: 2017/03/01(水) 01:41:53.97 ID:UvFSTRX9o
この状況からどうやって生き延びるのか

719: 2017/03/07(火) 01:33:25.78 ID:rtyIBDIMo

エリカ「あ、あの!」

エリカ「本当に何でこんなことになるか分からないんですけど」

しほ「この期に及んで、何がいけないのかすらわからないとは……」 ハァ

エリカ「ていうか、現代日本で切腹に至ることなんてほぼほぼ0ですよ!?」

しほ「戦車道は、古来より伝わる乙女の道」

しほ「その道には当然、由緒正しき責任のとり方というものがあるのです」

エリカ(くっ……なんて時代錯誤な……)

エリカ(まあ、時代錯誤なほどの伝統が好きで入学したんだけど……)

エリカ(……だから、簡単に伝統を覆せないのは分かっている)

エリカ(それならば!)

エリカ「確かに戦車道という観点から見ればそうかもしれません」

エリカ「ですが!」

エリカ「偉大なる黒森峰にはゲルマンの魂が宿っています!」

エリカ「我が校に眠る魂に背き、日本の伝統にのみ従ってもよいものでしょうか!」

エリカ「ここはドイツの戦車道の文化を参考に……」

しほ「逸見エリカ副隊長」 ギロリ

エリカ「ひっ」 ビクッ

エリカ「は、はい……」

しほ「ここは日本であって、ドイツではありませんよ」

エリカ「分かってますよド畜生」

720: 2017/03/07(火) 01:37:16.03 ID:rtyIBDIMo

しほ「ド畜生……?」

エリカ「しまっ……!」

エリカ「ち、ちがうんですこれは……」 アワアワ

エリカ(戦車の時に独り言喋るくせがついちゃったせいで……!)

しほ「……まあいいでしょう」

しほ「我が黒森峰がドイツの文化を取り入れているのは確かです」

しほ「マナーや文化も、一部を取り入れる動きが、過去にもありました」

エリカ「そ、それじゃあ……!」

エリカ(士道不覚悟だかで切腹なんてのは、当時の狂った日本でしかやってなかったはず……!)

しほ「切腹を廃止する流れにも、30年ほど前になったと聞きます」

エリカ(よしッ生き残ったッ)

しほ「代わりにガス室が作られるも、国際大会を出入り禁止にされかけて、慌てて切腹に戻したと聞きます」

エリカ「OG連中アホなんですか?」

721: 2017/03/07(火) 02:06:52.37 ID:rtyIBDIMo

しほ「兎に角、そんな理由で切腹に戻ったのです」

しほ「きちんとガス室とかカラーのベンチとかを撤廃しましたアピールのためにバンバン切腹を推奨したともされています」

エリカ「知りたくなかったそんな暗部……」

しほ「本当ならば、貴方には切腹すら生ぬるい」

しほ「それでもこれまでの貢献度を評価して、切腹させてやろうというのです」

しほ「黒森峰の伝統や作法に唾をはきかけ、そして対戦校のフラッグ車にハンバーグをはきかけるような貴女には、本来なら打ち首が――」

エリカ「知りたくなかったそんな暗部」

エリカ「暗部っていうか恥部……」

エリカ(薄々嫌な予感はしてたけど……)

エリカ(この私が……全国大会の場で、そんな失態を……) クラァ

しほ「恥部で言うなら、試合中に胸を始めとする恥部を散々弄ばれていたことも、はっきり言って氏に値する蛮行です」

エリカ「うわあなにそれ氏にたい」

722: 2017/03/07(火) 02:20:49.96 ID:rtyIBDIMo

しほ「普通の神経なら首をつってもおかしくないことをしたと、ようやく自覚したようですね」

エリカ「穴があったら入りたいです……」

しほ「安心しなさい。せめてもの情け」

しほ「肯定に、貴女が入る大きな穴と、名前を刻める石を用意してあります」

しほ「そして、氏にたいという願いを叶えられる道具も」

エリカ「……ありがとうございます」

エリカ「割りと本当に、氏にたい気分です」

エリカ「こんな戦車道関係者に生き恥を振りまいて……」

エリカ「……プライドが高い方だという自覚もあります」

しほ「……」

しほ(高い“方”程度の認識なのか……)

エリカ「それでもやっぱり――氏ねません」

しほ「……氏ぬのが怖いのですか?」

エリカ「違います」

エリカ「氏ぬのは、そりゃあ、怖くないわけじゃないですけど……」

エリカ「でも」

エリカ「氏ぬことなんかより――このまま終わることの方が、ずっと怖い」

しほ「……」

エリカ「私は……」

エリカ「私はまだ、あの子と決着をつけていないッ……!」

723: 2017/03/07(火) 02:41:30.67 ID:rtyIBDIMo

しほ「……」

しほ「みほ、ですか」

エリカ「……はい」

エリカ「あの子が逃げ出したからこそ、今私は副隊長の座にいます」

エリカ「……決して実力で就けた地位じゃない」

エリカ「だから、私は勝ちたいんです」

エリカ「一度でいい」

エリカ「あの子に、勝ちたい」

しほ「……」

しほ「その想いの行き着く先が、ハンバーグ嘔吐砲と?」

エリカ「眉間の皺がとんでもないことになってますし全然違います」

724: 2017/03/07(火) 02:52:52.96 ID:rtyIBDIMo

しほ「そもそも、いつの間にか戦車道に復帰し、あの子を認めるわけではありません」

しほ「むしろ、あの西住流と掛け離れた試合運びには、失望すらします」

しほ「そんなあの子の影響を受けたというのなら、破門お已む無しでしょう」

エリカ「……ッ」

エリカ(普段の厳格で恐ろしい師範とは違う……)

エリカ(時折見せる、厳しい中にも優しさがある師範とも違う……)

エリカ(愛する門下生に、身内に向けるものとは違う、余所行きの顔……)

エリカ(冷徹で他人行儀な、縁を切るべき相手に向けられる言葉……)

エリカ(見も毛もよだつ。ぞっとする。吐きそうだわ)

エリカ(でも)

エリカ「お言葉ですが……」

エリカ「あの子に負けたくない、という意味では、確かに意識をしています」

エリカ「きっと、出会った時からそうだと思います」

エリカ「でも……」

エリカ「私が西住流を捨て、邪道に走ることなんてありません」

エリカ(ああ。そうよ)

エリカ(実力じゃあ、遠く及ばなくても9

エリカ(血がつながっていなくとも)

エリカ(例え、周りになんと言われようとも)

エリカ「私は、黒森峰の副隊長にして、誇り高き西住流の門下生」

エリカ「私の道は、後にも先にも、この道だけですッ……!」

725: 2017/03/07(火) 03:34:53.05 ID:rtyIBDIMo

しほ「……」

しほ「西住流の看板を背負い、黒森峰のパンツァージャケットを着る以上、伝統からは逃れられない」

しほ「腹を切らずに終わりにはなりません」

しほ「……しかし」

しほ「もしも、パンツァージャケットを脱ぎ捨て、黒森峰の戦車道と関わりを絶つというのなら、特別に許すつもりでした」

エリカ「……」

しほ「腹を切るか、黒森峰の戦車道を諦めるか」

しほ「2つに1つ」

エリカ「……」

エリカ「……腹を切るか、戦車道をやめるかすれば、許していただけるんですね?」

しほ「ええ」

しほ「戦車乗りに二言なし」

しほ「素直に戦車を降りるのなら、醜態を全て水に流し、学内で会っても微笑みくらい浮かべましょう」

エリカ「分かりました」

エリカ「……このお腹、切らせて頂きます」

726: 2017/03/07(火) 03:38:11.61 ID:rtyIBDIMo

しほ「なっ……!」

エリカ「よかったです……“腹を切って氏ぬ”ことが条件じゃなくて」

エリカ「腹を切りさえすれば、許してもらえるんですよね」

しほ「……」

しほ「これだけの観客がいるのです、軽く先端を刺す程度では、収まりませんょ」

エリカ「……でしょうね」

エリカ「それでも――」

エリカ「お腹を切っても、生き残る可能性はあります」

しほ「……戦車を降りれば、その確率は100%」

しほ「それでもなお、腹を切ると?」

エリカ「……氏にますよ」

エリカ「西住流を追い出され、戦車に乗れなくなった日には、“逸見エリカ”は氏んでしまいます」

エリカ「西住流も戦車道も、そして黒森峰も、“逸見エリカ”が生きていくのには必要不可欠なんです」

エリカ「だから――切ります」

エリカ「“生きる”ためにッ」

728: 2017/03/07(火) 04:21:54.19 ID:rtyIBDIMo

マッターーー!!

しほ「!?」

観客「あれは……」

まほ「黒森峰戦車道チーム、西住まほ」

小梅「同じく、赤星小梅!」

まほ「逸見エリカの助命の単願に参りました」

しほ「……」

まほ「本当は分かっていらっしゃるのでしょう?」

まほ「エリカが、誰よりも――」

まほ「下手をすれば、すでに指導の立場にいるような西住流の者よりも、西住流を体現しようとしていることを」

まほ「そして、彼女の力が、黒森峰の捲土重来には必要であるということを」

しほ「……」

しほ「物事には、責任が生じるものよ」

しほ「そして、それは誰かが取らねばならない」

しほ「……副隊長を失うのが痛手だからと、隊長を失うような愚行を犯させるつもりはないわ」

まほ「……そうでしょうね」

まほ「誰かが責任を取らねばならない」

まほ「とはいえ、私が責任を取るわけにもいかないでしょう」

まほ「かといって、誰かに責任を取れと言うことは、出来ませんでした」

まほ「だから、到着が遅れました」

小梅「……私でよければ、いつでも身代わりになります」

小梅「元より、最初に黒森峰に泥を塗ったのは私ですから」

小梅「それと――」

逸見車装填手「逸見さん!」

逸見車通信手「こうなったのは、私達のせいだもの……」

逸見車砲手「貴女一人に責任をおっかぶせるわけにはいかないわよね!」

逸見車操縦手「責任なら、私達が」

エリカ「貴女達……」

まほ「それに、これには已むを得ない事情があります」

まほ「本来なら、隠したかったかもしれないが――全員揃って戦うためだ」

まほ「……話してしまってもいいか?」

エリカ「……」

エリカ「はい」

まほ「……すまないな」

しほ「……その事情とやらを、一応、聞いてあげましょう」

まほ「ありがとうございます」

まほ「聞いて下さい。エリカの、病気についてを――」

734: 2017/03/10(金) 02:11:56.73 ID:lkpprBuNo

まほ「……と、いうことなのです」

しほ「なるほど」

しほ「何かの病気なのか、ある日突然、意識を失ってしまうことがあると」

まほ「はい」

しほ「その際は呼吸も止まり、自らの意思では動けなくなると」

まほ「はい」

しほ「そして、そのときに体を弄られると、それに沿って行動してしまう……と」

まほ「はい」

まほ「恐らく体に刺激が加わることで、特定の反射行動に至るものかと」

しほ「……」

しほ「正気……?」

エリカ(かつて見たことがないくらい困ったような顔をしているし、素で困ってる……)

735: 2017/03/10(金) 02:29:05.49 ID:lkpprBuNo

まほ「ええ、我々は本気です」

まほ「……私が、こんな場面でくだらない嘘を吐いたりはしないことを、ご存知でしょう」

しほ「……そうね」

しほ「そもそもこんな意味の分からないことを言い出すようでもなかったのだけれど……」

エリカ(未だかつて見たことないくらい弱々しくなってる……)

まほ「それに、嘘をつくならもう少しマシな嘘をつきます」

まほ「それこそが、この信じがたい話が本当だという根拠です」

しほ「なるほ……うーん…………?」

エリカ(めちゃくちゃ困ってる……)

736: 2017/03/10(金) 03:17:40.27 ID:lkpprBuNo

まほ「……それでも信用出来ないというのなら、時間を下さい」

まほ「また発症したときに、その姿をお見せいたします」

エリカ「えっ」

しほ「……」

しほ(見せられても困る……)

しほ「まあいいでしょう」

しほ「切腹は文化とはいえ、大事な準決勝前に流血を見て気分を悪くする選手に出られても困る」

しほ「電気椅子が届かなかったが故に、何らかの処分が必要と考え切腹と戦車道をやめるとで二択を迫るつもりでしたが……」

しほ「真偽が分かるまでの謹慎とします」

まほ「よかった……」

エリカ「……」

エリカ「隊長、ありがとうございます」

エリカ「……」

エリカ「ですが――」

エリカ「謹慎を食らうくらいならば、やっぱり、腹を切ります」

まほ「なっ!?」

しほ「!?」

エリカ「私はまだ、泥を塗った汚名を挽回していません」

エリカ「何も、この大会で役に立てていない」

エリカ「次の聖グ口リアーナとの戦いは、私にとって、隊長の横で戦うためには避けては通れないんですッ……」

エリカ「意地でも、その試合から降ろされるわけにはいきませんッ」

しほ「……」

737: 2017/03/10(金) 04:35:17.83 ID:lkpprBuNo

逸見車砲手「き、謹慎なら、代わりに私達が!」

逸見車操縦手「そうですよ!」

逸見車操縦手「結果的に邪道をしてしまったのは、私達のせいなんですし……」

エリカ「あ、あんたたち……」

逸見車通信手「私達が乳首のイグニッションを入れなければこんなことにはなってなかったんです……」

逸見車装填手「責任をおうべきは、乳首ッションを入れた私達です!」

逸見車砲手「乳首を攻められた逸見さんは、むしろ被害者なんです!」

逸見操縦手「乳首ッションの責任は、私達が!」

エリカ「あ、あんたたち……」

まほ「一瞬にして同じ言葉に込められるニュアンスが変わったな……」

しほ(頭が痛くなってきた……)

738: 2017/03/10(金) 04:44:55.24 ID:lkpprBuNo

小梅「そういうことなら、責任は私にもあります」

小梅「情報を隠していました」

まほ「それに、エリカ抜きで早々に決着をつけられなかったことも、恥という点では同じ」

エリカ「赤星……隊長……」

逸見車砲手「謹慎が必要なら、私がやります」

逸見車操縦手「足りないなら、車の他のメンバーが謹慎をします!!」

逸見車通信手「私達だって、同じ戦車に乗って、命を預けあってるんです」

逸見車通信手「このくらいは……!」

逸見車装填手「その代わり、逸見さんは、試合に出してあげてください」

逸見車装填手「人間性は最低だけど、その指示の的確さは誰もが認めるところです」

逸見車装填手「きっと、他の戦車で指示を出すだけでも、役に立ってご覧に入れます!」

エリカ「みんな……」

しほ「……」

小梅「折角だし、一緒に乗る?」

黒星「うちならいつでも歓迎しますよ」

ブロッケン「お前らばかりにいい格好させるかよ」

まほ「これが友情パワーか……」

739: 2017/03/10(金) 04:50:32.14 ID:lkpprBuNo

まほ「何もしない、というわけにはいかないことは分かります」

まほ「ですが、彼女達はこう言っています」

まほ「それならば、黒森峰のためにも、提案を受け入れるべきではないでしょうか」

しほ「……」

しほ「分かりました」

しほ「その代わり、次の聖グ口リアーナ戦で無様を晒した日には――」

エリカ「……分かっています」

エリカ「そのときには、戦車道であろうと命であろうと、棄てられるもの全てを棄てて償います……!」

まほ「エリカ……」

740: 2017/03/10(金) 04:54:10.21 ID:lkpprBuNo

小梅「よかったね、逸見さん」

直下「同乗メンバーが処分を受けたことで、観客たちもさほど文句や野次を飛ばしてこなかったしね」

エリカ「ええ」

エリカ「……」

エリカ(あまり普段口を効かない連中だけど……)

エリカ(いい子たち、なのかもしれないわね……)

まほ「しかし……大丈夫なのか?」

エリカ「あれほど大口を叩いて……ということですか?」

エリカ「大丈夫です」

エリカ「……勿論、100%の保証なんてありません」

エリカ「でも私は、120%役に立てると豪語できる私でありたい」

エリカ「安定して勝利する、強い黒森峰の一員でありたいッ」

まほ「エリカ……」

エリカ「だから隊長も、見ていて下さい!」

エリカ「普段と違うチームの戦車に混ざっても、絶対、役に立って見せますから!」

まほ「……」

まほ「そうじゃなくて、病気が発症しないのか?ということなんだが……」

エリカ「…………」

エリカ「!!!!!」

まほ「失念していたのか……」

745: 2017/03/18(土) 01:22:44.61 ID:72N+ATTNo
すでに眠たいのですが、エタりたくないのでちょっとでも投下します

746: 2017/03/18(土) 01:47:35.51 ID:72N+ATTNo

エリカ「そ、それは、その、だ、大丈夫ですよ!」

エリカ「ほら、その、なんていうか……」

エリカ「絶対にならないぞー的な、そういう、気合的なやつで、こう、ほら!!」

小梅「わぁ、ふわっふわした対策」

まほ「それだと今までは病気にならないように気合を入れてなかったように聞こえるが……」

エリカ「そ、そんなことは……」 アタフタ

エリカ「と、とにかく、なんとかします」

エリカ「それだけは……絶対に」

エリカ「命にかえてもッ……」

ブロッケンJr「はっはー、よく言った!」 バシバシ

直下「最近アレだったけど、やっぱり副隊長様は根拠がなくても偉そうに自信満々じゃないと調子でないもんねぇ」

小梅「うん、みんなでサポートするし、聖グロ戦、絶対に勝とうね!!」

747: 2017/03/18(土) 02:49:04.13 ID:72N+ATTNo

エリカ「」

小梅「……?」

小梅「逸見さん?」

エリカ「……った」

まほ「ん?」

エリカ「刺さった……」

まほ「????????」

エリカ「どこかのアホが背中叩いた時に、さ、刺さったあああああああああナイフぁああああああああああ!!!」

小梅「うえええええええええええええええええええ!!???」

まほ「な、なんでずっと腹につきつけてたんだ!!!」

エリカ「だ、だだだだって、覚悟示す場面だし、こう、見栄えっていうか見えっていうか……」

直下「痛くないの、それ……?」

エリカ「ちょ、言われたら痛くなってきたじゃないの!!」

まほ「ああ待てエリカ、抜くな、抜いたら血が出るかもしれない!」

まほ「ど、どうすればいいのか、ここはこういう場に慣れているであろう責任者に指示を――」

しほ「……」

まほ「うわぁマジで刺すのかよ引くわみたいな顔してるーーーーーーーーーーーっ」 ガビーン

748: 2017/03/18(土) 03:11:25.24 ID:72N+ATTNo

エリカ「うおおおおおお……」

エリカ「あ、あの、お腹ちょっと切れたし、やっぱりさっきの処分はなしには……」

しほ「……」

しほ「もうちょっと潔かったならともかく、そこまで喚かれたうえに自ら無様に嘆願をされても……」

エリカ「ううううう……」

エリカ(こ、こんな理不尽な痛みに襲われるなら、いっそ草や木に生まれたかった……!)

エリカ(特殊カーボンのコーティングが恋しいっ……!)

749: 2017/03/18(土) 03:12:13.82 ID:72N+ATTNo






 ☆  ★  ☆  ★  ☆





 

750: 2017/03/18(土) 03:15:26.59 ID:72N+ATTNo

エリカ「……確かに、ナイフじゃ傷つかない特殊カーボンを羨んだけど……」

エリカ「別にまた入れ替わりたいってわけじゃなかったのに……」

エリカ「……はあ」

エリカ「当然試合なんてあるわけないし、授業か放課後まで暇そうね……」

エリカ「朝練とかしてるのかしら……」

エリカ「……」

エリカ「うう、今は傷なんてない体なのに、お腹がじんじんする気がする……」

ガラガラガラガラ

エリカ「……っと、自動車部の連中かしら?」

みほ「……おはようございます」

エリカ「……っ!」

沙織「ほんとに毎朝挨拶してるんだ!」

みほ「うん……そうすれば、またお話出来るかもって」

エリカ「……」

エリカ(あれ……アンツィオん時に使ってた盗聴用の……)

751: 2017/03/18(土) 03:51:12.64 ID:72N+ATTNo

優花里「うう、私もⅣ号とお喋りしてみたかったです……」

エリカ(願い下げだわ)

みほ「……」

みほ「本当は、ちょとだけ、自分一人の秘密にしようかな、なんて思っちゃったりもしたんだ」

みほ「だけど……」

みほ「私にとって戦車は、嫌いになったはずなのにやっぱりどこか傍にいると安心しちゃう、大切な存在だから……」

みほ「同じくらい大切な友達にも、紹介したいなって」

麻子「いい話風にしてるけど、字面だけ聞くとホラーだな」

沙織「もう、麻子!」

麻子「……まあ、聞こえないだけで、何か喋っていてもおかしくはないと思うけどな」

麻子「無性に蹴りを入れたくことがあるしな」

沙織「なにそれこわい」

752: 2017/03/18(土) 04:07:53.27 ID:72N+ATTNo

みほ「……これからもきっと、戦車に語りかけちゃったりするんだろうな、なんて思うんだけど、でも……」

みほ「前を向くために、一旦お別れ」

みほ「うつむいて、戦車を見ることしかできなかった昔とは違うから……」

みほ「顔をあげて、みんなのことを見ながら、お姉ちゃんたちに、勝たなくちゃいけないから……」

みほ「もう、聞こえるかも分からない声に固執したりしない」

みほ「そんなことで、あれこれ考えて泥沼にハマったりもしない」

みほ「聞こえなくたって、傍にいてくれるだから」

みほ「だから――」

みほ「集中して、決勝戦――そこに、全てを賭けますッ」

沙織「……うん! そうだね、みぽりん!」

華「お話に拘らなくても、絆は深まっていきますしね」

麻子「……寝るか、今から。全員戦車で」

沙織「もー麻子!」

優花里「戦車を愛する気持ち、よくわかります!!」

優花里「でもだからこそ、愛しているからこそ、少し距離を取ることも大事ですもんねえ」

757: 2017/03/24(金) 01:13:46.05 ID:luLWBCA8o

エリカ「……」

エリカ(ほーんと、ムカつくくらい、いい顔するようになっちゃって)

エリカ「……」

エリカ(……アンタが前向きになって能動的に動くようになったら凄いことは、誰より肌で感じていた)

エリカ(ついぞその姿を見ることはなかったけど)

エリカ「……」

エリカ(西住流を捨て、アンタだけの力を得た……)

エリカ(きっと、みんな驚くだろうけど……)

エリカ(それも試合が始まってからすぐだけことッ)

エリカ(所詮西住流の敵ではないことは、私が証明してあげるわっ……!)

758: 2017/03/24(金) 01:17:26.44 ID:luLWBCA8o

小梅「あのー」

しほ「っ!」 ビクゥ

しほ「……何か」

小梅「ああ、その……」

小梅「昨日色々あって、大事を取って保健室で寝ていた逸見さんですけど……」

しほ「……彼女が目を?」

小梅「ああ、いえ」

小梅「心臓が止まりました」

しほ「…………」

しほ「?????????????????」

小梅「驚かれているでしょうが、最初だけです。すぐに慣れますよ」

しほ「いや、心臓……え?」

小梅「例の病気の最中の逸見さんをお見せしようと想いまして……」

しほ「……」

しほ「わかりました。では今すぐ保健室に……」

小梅「ああ、いえ、お手を煩わせるまでもありません」

小梅「隊長がここに乗ってきてます」

しほ「そう……」

しほ「しかし仮にも腹部に傷を負ったモノを連れてくるのは――――」

しほ「……」

しほ「“乗って”きて……?」

小梅「はい。“乗って”きてます」

まほ「失礼します」 ガラッ

エリカ「ドゥルン」

しほ「」

759: 2017/03/24(金) 02:36:30.37 ID:luLWBCA8o

しほ「何を遊んで……」

まほ「……触ってください」

フヨン

しほ「……意外とある……」

しほ「ではなく!」

しほ「ほ、本当に止まっている……!?」

しほ「し、心臓マッサージ……いやでもこうして立って……!?」

まほ「これが、かつて私達が心臓マッサージをしようとした結果判明したエリカの症状です」

小梅「胸をこうやって押すと……」 グッ

エリカ「ズドォォォォォォン」 ハンバァァァァァァグ

まほ「ハンバーグが射出されます」

しほ「ハンバーグという名詞に射出という動詞を使う日がくるなんて……」 クラクラ

まほ「まだまだあります」

しほ「え……」

まほ「……ここまで来て、中途半端に隠し立てをしても、逆効果です」

まほ「全てをお伝えします」

しほ「……」

しほ(頭が痛くなってきた……)

760: 2017/03/24(金) 03:21:42.02 ID:luLWBCA8o

沙織「みぽりんも、戦車とばっかイチャイチャしてないで、ちゃんと男の子とイチャイチャしなくちゃだめだよー?」

エリカ「んなっ……!」

エリカ(しまった、思わず声が……)

みほ「あはは……でも、今は、戦車道が楽しいから」

エリカ「……」

エリカ「ほっ……脳味噌ゆるふわ達と話すためヘッドホン外してくれてたのね……」

沙織「たまには趣味以外にも目を向けないと、男の子だって寂しがっちゃうんだよ!」

華「とても彼氏がおらず無線の勉強に打ち込んでる人間の言葉とは――」

沙織「も、もー!」

優花里「大体欲しくもないのに無理して作るものじゃありませんよ!」

麻子「まったくだ。いい加減諦めたらどうだ」

沙織「やーだー! あーきーらーめーなーいー!」 プップクプー

麻子「まったく……」

沙織「ぜーったい、いい男振り向かせちゃうんだから!」

みほ「あはは……」

優花里「……」

優花里「西住殿は……」

優花里「男性よりも、お母様とお姉さん、ですよね」

みほ「えっ」

優花里「振り向かせたいのは」

エリカ「何言ってんのよこのモジャ毛!」

エリカ「そいつは……その家族や私達を捨てて、ここに居るのよ」

761: 2017/03/24(金) 03:24:37.97 ID:luLWBCA8o

小梅「こうやって一口ハンバーグを食べさせることによって、逸見砲の装填が可能です」

しほ「…………」

しほ「一つ、言わせてもらうわ」

まほ「……はい」

しほ「正気???????????」

しほ「貴女達、正気??????????????????????」

小梅「……はい」

まほ「勿論です」

エリカ「ドゥルン」

しほ「どうしても、おちょくられているんじゃないかという気持ちになるのだけれど」

小梅「そ、そんなことはありません!」

小梅「それに……」

小梅「それに逸見さんは、誰よりも“西住”を敬愛し、拘っています!」

小梅「認めてもらいたい人の前で、認めてもらいたい人を相手にバカにするはずがありません」

しほ「……」

しほ(バカにしてるわけじゃない方が問題よね、ドゥルンドゥルン言いながらハンバーグを吐き出すって……)

762: 2017/03/24(金) 03:29:24.29 ID:luLWBCA8o

みほ「……」

優花里「……すみません出過ぎた真似をしました」

みほ「……ううん」

みほ「多分、それは……その通りだから」

エリカ「あんた……」

みほ「でも……」

みほ「それは無理って……分かってて」

みほ「お母さんもお姉ちゃんも、立派な“西住流”だから」

みほ「今の私じゃ、きっと――振り向いてなんて貰えないし、認められるわけがない」

エリカ「……」

エリカ「何よ、分かってるんじゃない……」

エリカ(それなのに、それでも、あんたは――)

763: 2017/03/24(金) 03:36:48.06 ID:luLWBCA8o

まほ「生物とは、何らかの力をその身に受けると、反射という動作を行います」

まほ「例えばボールが顔めがけて飛んできたら目をつぶったり」

まほ「頬を叩かれたあとは思わずそこを抑えたり」

まほ「熱いものを触ると、反射的に手を引っ込めるのもそうでしょう」

しほ「……それは分かります」

まほ「エリカのも、それと同じだと想われます」

まほ「乳首を触れると、反射的にイグニッションが入る」

まほ「胸部を押すと、口からハンバーグを射出する」

まほ「これらは、そんな反射と一緒です」

しほ「もうわからない」

しほ「意識がないのでしょう?」

まほ「はい。ですがエリカの場合、肉体に直接触れられています」

まほ「一箇所に力が加われば、それにつられて体全体が動いてしまうものですし、それも一種の反射ではないでしょうか」

しほ「……」

しほ(分からない……)

しほ(言っていることもだけど、それ以上に自分の娘が分からない……)

しほ(一体どうしちゃったというの……)

しほ(反抗期にしてもアクロバティックすぎるわ……)

しほ(なんか今だと相対的にマシなみほを笑って許せてしまいそうだわ……)

しほ(厳格な組織の長として非情な決断を貫くためにも、試合を目の当たりにして破門の意思をもう一回固めないとマズイ……マズイわこれ……)

しほ(っていうか誰か助けて……)

764: 2017/03/24(金) 03:55:07.38 ID:luLWBCA8o

みほ「でも……」

みほ「せめて、見てほしいなって」

エリカ「……え?」

みほ「私はきっと、お母さんが望んでた通りに育つことができなかったから……」

みほ「期待を、裏切っちゃったから」

みほ「だから、認めてなんてこと、言えないけど……」

みほ「でも……」

みほ「せめて、見てほしい」

エリカ「……」

みほ「お母さんの期待に添えなかった私だけど……」

みほ「それでも、私が選んだ戦車道を、見てほしい」

みほ「そんな私を、認めてくれたみんなのことを見てほしい」

みほ「その結果認められないのは、悲しいけど……でも……」

みほ「せめて……私はここで自分の戦車道を見つけて、幸せだよってことを言いたい……」

優花里「西住殿……」

765: 2017/03/24(金) 04:06:34.68 ID:luLWBCA8o

しほ「貴女の主張はよくわかったわ」

しほ「ですが――信じるのは無理」

しほ「いやさすがに無理無理意味わからないって」

まほ「厳しくも礼儀正しい外面崩れてきてますよ」

しほ「…………コホン」

しほ「まあ、設定の壮大さはプロレベル。しかし話は人をバカにしているとしか思えない」

しほ「一言で言うなら、ありえない――ね」

まほ「……」

しほ「常識で考えて、人間が心停止して乳首でイグニッションするなんて、ありえない」

小梅「お、お言葉ですがっ!」

小梅「信じがたい現実にも目を向け、認めることも必要ではないでしょうかっ!」

しほ「……」

しほ「私が意固地になって現実を見ていないとでも?」 ギロリ

小梅「うっ……」 ビクッ

まほ「……」

まほ「よく考えて下さい」

まほ「さほどメリットもないのに、心停止したフリをして乳首を弄らせ振動しながらハンバーグを吐き出すというのも、大概ありえないことです」

しほ「……たしかに」

まほ「嘘でも真でも、どちらもありえないこと」

しほ「……なるほど」

まほ「で、あれば、実際に脈拍が確認できない“真”であるという方が、微差ですが可能性が高いのでは?」

しほ「一理あるわね……」

小梅(……鋼の心にヒビ入ってきてる……)

766: 2017/03/24(金) 04:13:06.71 ID:luLWBCA8o

みほ「それに……」

みほ「前の学校には、みんなみたいな友達はいなかったけど」

みほ「でも――」

みほ「みんなみたいな友達になりたかった人なら、いたから」

みほ「私は、求められてる姿になれなくて、ぶつけられた感情に曖昧な笑みでしか答えられなかったけど……」

みほ「今ならきっと、まっすぐに想いを伝えられるから」

みほ「だから――」

みほ「勝ちたい」

みほ「みんなのおかげで見つけられた、私の戦車道で」

エリカ「……」

沙織「うん、そうだよね、勝とう!」

麻子「当然だ」

華「あの喫茶店にいた目つきの悪い方にも、謝りたくなるくらいの実力を見せてあげなくては」

優花里「我々は、西住殿にどこまでもついていきますよ!」

みほ「ありがとう、みんな……」

みほ「それに……」 ナデッ

エリカ「んっ……」

みほ「大切な、私のパートナー」

優花里「私たちにとっても大切な、6人目のあんこうチームですね!」

沙織「そんな道具なんかなくったって、Ⅳ号のことならもうあらかた分かっちゃったり」

華「恋愛と絡めなくてもいいですからね?」

沙織「あーっ、まだ言ってないのにー!」

麻子「……次で最後だ」

麻子「悔いのないように、コイツも動かしてやる」

みほ「はい! お願いしますっ!」

エリカ「……」

767: 2017/03/24(金) 04:22:21.96 ID:luLWBCA8o

しほ「……未だに釈然とはしませんが、いいでしょう」

しほ「処分は。逸見車メンバーの準決勝謹慎のみに留めるよう、話を進めます」

まほ「ありがとうございます」

しほ「……ここからは、厳格な指導者でなく、貴女の母として言うわ」

まほ「……はい」

しほ「貴女がそこまでするなんて、正直思ってもみなかったわ」

まほ「……」

しほ「……何か病気に対抗する策がないか調べておくわ」

しほ「だから――きちんと準決勝で、その子の有能さをサイドアピールしなさい」

しほ「彼女が貴女を生かすように、貴女もまた彼女を生かすのよ」

まほ「……はい」

しほ「……特定の誰かを贔屓して采配を振るえなんて、指導者としては当然言わない」

しほ「その子の魅力を頃してでも絶対に勝て、と言いたいわ」

しほ「でも――」

しほ「その子が誰より西住流に真摯なことは、私だって知っているもの」

しほ「……そんな子の今回の大会を、無様な邪道の記憶だけにしてはだめよ」

しほ「貴女を慕う、次期隊長なのだから」

まほ「……ええ」

768: 2017/03/24(金) 04:25:26.52 ID:luLWBCA8o

エリカ「……」

エリカ「不思議ね」

エリカ「色々と満足したからか、敵に回ると決めたからか……」

エリカ「ホント、素直に自分の気持ちを認める事ができる」

エリカ「……」

エリカ「私も、アンタや隊長に――西住流に“私”を見てほしかった」

エリカ「とうとう最後まで、アンタには見て貰えなかったけど」

エリカ「でも……」

エリカ「私もアンタを見て来てなかったのよね……」

エリカ「……」

エリカ「……このクソムカつく入れ替わりのおかげで……」

エリカ「あんたのこと、少し理解できた気がする……」

エリカ「やっぱり、相容れないとは思うけど」

エリカ「それでも――――知れてよかったわ」

769: 2017/03/24(金) 04:28:06.14 ID:luLWBCA8o

エリカ「Ⅳ号としての偽りのチームメイトだったけど、それでも楽しかった」

エリカ「けれども、それはただの夢よ」

エリカ「私はⅣ号戦車じゃない」

エリカ「例え精神が入れ替わろうと、私はⅣ号戦車じゃない」

エリカ「私は“逸見エリカ”なの」

エリカ「だから……」

エリカ「……」

エリカ「Ⅳ号の中、折角慣れてきた所だけど――」

エリカ「サヨナラね」

エリカ「今度は――逸見エリカとして、アンタの前に立ちはだかるから」

エリカ「アンタはせいぜい、本来の仲間である“Ⅳ号戦車”と絆を深めるといいわ」

エリカ「……」

エリカ「さよなら」

770: 2017/03/24(金) 04:28:41.99 ID:luLWBCA8o






 ☆  ★  ☆  ★  ☆





 

771: 2017/03/24(金) 04:31:11.51 ID:luLWBCA8o

エリカ「ん……」

エリカ「ここは……」

エリカ(保健室?)

エリカ(そっか、お腹切ったから、一応寝かせられたのね……)

ガラ

まほ「む、起きていたか」

エリカ「あ、お早うございます隊長」

エリカ「今丁度起きたところです」

まほ「ふむ……」

まほ「いいニュースと悪いニュースとめざましテレビのニュースがある」

まほ「どれから聞きたい?」

エリカ「最後のやつ選択肢にいります?」

772: 2017/03/24(金) 04:35:37.74 ID:luLWBCA8o

まほ「希望がないなら適当にこちらで順番を決めるが」

エリカ「あ、ちょっと待って下さい」

エリカ「まあ、こういう時、相手に決めさせるとどっちも碌でもないニュースってオチ見えてますから……」

まほ「あー、悪いニュースかと思っていいニュースを聞いたら『今のがいいニュースだ』と言われるやつか」

まほ「安心しろ、ちゃんと片方は朗報だ」

エリカ「それでも悪いニュースからお願いします」

エリカ「いいニュースを覆すような嫌な話かもしれませんし、嫌なことは最初に処理しておきたいので」

まほ「そうか」

まほ「じゃあまず悪いニュースだが、お母様がエリカの病気の姿を見た」

エリカ「まあ、でしょうね」

まほ「ドン引きしていた」

エリカ「あまりにも簡潔でただただ恐怖を掻き立てられる表現恐ろしすぎるんですけど」

まほ「乳首ッションいじりすぎて色々暴走したのか、こう、排水までしはじめたからな……」

エリカ「はァ!?」

エリカ「うわっ、今気付いたけどノーパ……ええええええええ!?」

まほ「新機能の判明だな、おめでとう……」

エリカ「隊長じゃなくて赤星だったら何が目出度いって言いながら掴みかかったような内容ですけどありがとうございます」

773: 2017/03/24(金) 04:37:48.79 ID:luLWBCA8o

まほ「まあだが、その新機能も使う機会はないだろうがな」

エリカ「まあ、条件がわかったなら二度としないでもらえればいいですしね」

まほ「それもあるが……」

まほ「いいニュースを発表しよう」

まほ「お母様が、色々なコネを使い医師に聞いてくれたんだ」

まほ「やはり、その症状そのままの病気というのはないそうだ」

エリカ「でしょうね……」

まほ「だから――こう言われた」

まほ「何か精神的なものじゃないか、と」

エリカ「……」

エリカ「何だか分からないやつ全部にそう言ってそうなコメントでなんですけど……」

エリカ「でも――ひょっとすると、そうかもしれないですね」

774: 2017/03/24(金) 04:40:46.88 ID:luLWBCA8o

エリカ(戦車の気持ちが分かりたいと、たしかに願った)

エリカ(戦車道を知りたいと、誰よりずっと思っていた)

エリカ(……あの子の本音が聞きたいと、再起してほしいと、ぶつかり合いたいと思ったことだってある)

まほ「……何か心当たりでもあるのか?」

エリカ「いえ……ただ……」

エリカ(もしも私の願いが原因ならば)

エリカ(その願いは、もう、十分叶ったから)

エリカ(もう――満足)

エリカ(だから)

エリカ「それならきっと、もう、あの病気になることはないと思います」

782: 2017/04/07(金) 03:07:47.73 ID:VlNmxB3qo

まほ「それは頼もしいな」

まほ「……信頼しているぞ」

エリカ(隊長の期待に、どれだけ応えられているのか分からないけど)

エリカ(でも……)

エリカ(隊長と一緒に戦える最後の夏)

エリカ(受けた恩を隊長に、そして黒森峰に返すためにも、負けられない)

エリカ(ましてや戦車になってましたで意識のないまま参戦するなんて真似は出来ないわっ!) ギリッ

まほ「ああ、それと、もう一つ」

まほ「うちのワンコが、めざましテレビに出たんだ」

まほ「すごいだろう?」

エリカ「は、はあ……」

エリカ(めっっっちゃ嬉しそうな顔……ツッコミづらい……)

まほ「こう、電波に乗って全国に広まるというのは、なんというか、気恥ずかしさやら何やらがあるな」

エリカ「隊長本人はさんざん電波に乗ってるじゃないですか」

まほ「まあそうだが……」

まほ「こう、な?」

まほ「自分と愛犬は違うじゃないか」

小梅「確かに、隊長がニュースに出てインタビュー受けてるのと、逸見さんが喋るわけでもないのに隊長の守護霊いたいな顔してテレビに出てるのとじゃ違いますもんね」

エリカ「……」 チッ

小梅「顔見ただけで舌打ちされた!」 ガーン

エリカ「ここ最近の行いのせいでしょうが」

783: 2017/04/07(金) 03:41:46.01 ID:VlNmxB3qo

小梅「でも実際、何で自分のインタビューでもないのに、あんな格好つけて画面には映ってたの?」

エリカ「なっ、いいでしょ別に!」

小梅「いや、気になるなーって」

エリカ「どうだっていいでしょう!」

エリカ「そ、それより隊長の犬の話でしたよね!?」

まほ「む、そうやって話を変えられると、乗ってしまいそうになるな……」

小梅「隊長、わんちゃん飼ってるんですね」

エリカ「わんちゃんて」

まほ「ああ」

まほ「今度見に来るか」

エリカ「!?」

小梅「ええ、いいんですか?」

まほ「ああ」

まほ「可愛らしいし是非見てほしいというのもあるが……」

まほ「私としては、もう少し、我が家に対する敷居を下げてもいいと思っているしな」

エリカ「で、でも、西住流といえば……」

まほ「勿論、“西住流”の厳格さを軽んじるつもりはないさ」

まほ「だが――」

まほ「“ただの西住まほ”として、我が家に友人を呼びたいし、“黒森峰の隊長”としてもっと気軽に西住流に触れてほしいとも思うんだ」

小梅「そういうことなら今度暇なときにでも」

エリカ「ちょ、赤星!」

エリカ「西住流の総本山をそんな近所付き合い感覚で……!」

まほ「……エリカは、来たくないのか」 ショボーン

エリカ「そ、そんなことは!」 アワアワ

エリカ「西住流の、というか隊長のお宅に伺いたいとかそういうことはなくてですね!」 アタフタ

まほ「……」

エリカ「む、むしろ住みたいくらいです!!!」

まほ「それはどうかと思う」

小梅(めっちゃテンパってる……)

784: 2017/04/07(金) 04:48:09.01 ID:VlNmxB3qo

エリカ「う、で、でも、そりゃあ、私だって呼んでいただけるなら、その……」 モヂモヂ

小梅「大型犬を学校でも飼ってるだなんて、さすが西住流」

エリカ「おい」

まほ「そうだな」

まほ「たまに他所様に噛み付くが、実は素直でカワイイ犬だ」

エリカ「ちょっ、隊長まで!」

エリカ「……」

エリカ「ちなみにご自宅の犬と学校の犬はどっちの方が……」

まほ「え?」

エリカ「あ、いや、なんでもありません……」

小梅「え、逸見さん、もしかして犬に嫉妬……」

エリカ「だあああああああ! そんなわけないでしょうが!」

エリカ「ほら! 保健室で騒ぐと迷惑だから帰りなさいアンタは!」

小梅「ええー、一番騒がしいのは逸見さんだよ?」

まほ「……ふふ」

エリカ「た、隊長~」

エリカ「笑ってないでコイツになんとか言ってあげてくださいよお」

まほ「……変わったな、二人共」

エリカ「へ?」

まほ「互いに、踏み込めるようになったじゃないか」

785: 2017/04/07(金) 05:53:08.91 ID:VlNmxB3qo

まほ「……プライドだったり、自信がなかったり……」

まほ「理由は様々だろうが、どうしても、うちは連携部分が弱いからな」

エリカ「……馴れ合いでは、勝てません」

まほ「当然だ」

まほ「だが――連携なくして、勝てるようなものでもない」

まほ「戦車道は、単なるスポーツでもなければ野蛮な戦争ゲームでもない」

まほ「“人”を作る、華道や茶道に並ぶ“道”だ」

まほ「人を蔑ろにしていいわけがない」

小梅「……」

まほ「……言いたいことは分かるさ」

まほ「許せとも言わない」

まほ「勝たなければ意味がない、という理念を掲げているのは事実だ」

まほ「黒森峰のレギュラーは、レギュラーやレギュラーになれなかった多くの“人”で形成されている」

まほ「勝利という形で応えねばならないし、勝利を蔑ろにするのもまた人を蔑ろにすることに繋がる」

まほ「昨年のことは、何が正しかったのか、明確な答えなんてないだろうし、私だって思うがままに答えられるかはわからない」

まほ「……勝利よりも人を優先する、なんてことに急に方針転換するのも現実的じゃないだろう」

まほ「それでも少しずつでも、変わっていけたらと思う」

まほ「だから――二人が少しでも歩み寄ってくれるのは、とてもうれしい」

エリカ「隊長……」

まほ「それに、黒森峰の生徒とはいえ普通の女子高生だからな」

まほ「気持ちよく戦車道をするには、楽しく日常を送ってもらわねばいけないだろう」

エリカ「私は戦車道があれば毎日気持ちよく過ごせますけど」

小梅「え、でもネットサーフィンとかもしてるし、戦車道だけじゃないよね」

エリカ「まあ、そりゃそうだけど」

小梅「逸見さんのパソコン借りた時ブックマークや履歴見ちゃったけど、結構すごいアレなサイトに入り浸ってるみたいだし」

エリカ「待って」

まほ「ふっ……どうやら私が思っていた以上に仲良くやってくれてるようだな」

エリカ「待って下さい」

小梅「はい。今では逸見さんの夜のオカズが何かも把握してる程です」

エリカ「待てっつってんでしょ黙れバカ星!!!!」

まほ「駄目な馴れ合いにならなければ、心の距離が近いのはいいことだ。これからも、二人で仲良くやってくれ」

エリカ「今の会話で心の距離が過去最長記録を更新してるんですが」

786: 2017/04/07(金) 06:08:12.65 ID:VlNmxB3qo

小梅「でも、こう、軽口が叩けるようになると、ちょっとうれしくなるかなーって」

エリカ「何言ってんだか……」

エリカ「私は別にどーでもいーし、これでも一応病み上がりなんだから、用事がないなら帰りなさいよ」

小梅「あ、そうそう、用事あるんだ」

小梅「ええっと、逸見さんに関するいいニュースと、逸見さんに関する悪いニュースと、逸見さんに関するはちまのニュースがあるんだけど……」

まほ「ああ、それを選ばせる流れならさっきもうやってしまったな……」

小梅「あ、そうなんですか?」

小梅「じゃあ良いニュースから順番でいいかな……」

まほ「いや、エリカは悪いニュースから聞きたい派らしい」

エリカ「恐らくそのニュースよりヤバそうなやつが選択肢に入ってそうなんですけどそれは」

787: 2017/04/07(金) 06:16:29.71 ID:VlNmxB3qo

小梅「まず悪いニュースだけど……」

小梅「逸見さん、思ったより人望がなかったよ……」

小梅「副隊長としては信用してるけど、自分のところの小隊長だと色々しんどい、みたいな声が……」

まほ「む、そうなのか」

小梅「ええ、まあ……」

小梅「一応フォローもしてるんですけど、どうしても萎縮しちゃうみたいで……」

小梅「その、ちょっと言葉が乱暴なのもあるし……」

まほ「聖グロ戦で、果たしてどこに編入できるのかだな……」

エリカ「マジトーンで言われると結構傷つくわね……」

まほ「それでも、導き方は人によるし、どんな風に導かれるのがいいのかも千差万別」

まほ「エリカの厳しく接するスタンスも、全否定するつもりはない」

小梅「私も、逸見さんのことは大好きだよ?」

エリカ「マジのフォローやめてください心が痛いから!!」

まほ「しかし、それは信頼できる情報なのか?」

小梅「ええ」

小梅「逸見の森の匿名アンケートを元にしていますし、逸見さんに比較的有効的な人物のみで集計してアレだったので……」

小梅「下手したら予想の数倍ヤバいかもしれません」

エリカ「だーっ、もう!」

エリカ「逸見の森とかいう巫山戯たワードが出てきて悪ふざけ感出てきたことに安堵してる場合じゃないんだっての!」

エリカ「さっさといいニュースを教えなさい!」

788: 2017/04/07(金) 06:37:06.75 ID:VlNmxB3qo

小梅「いいニュースだけど……」

小梅「聖グロ戦で、逸見さんがどこの小隊に入るのか決まったよ」

エリカ「!」

小梅「私が小隊長を務める、赤組が引き取ることになったんだ」

エリカ「引き取るって言い方」

まほ「よかったな、エリカ」

エリカ「ありがとうございます」

エリカ「……去年の敗戦の原因が指揮してるってのが不安ですけどね」

小梅「あ、ひどい!」

小梅「でも――酷い敗戦を知ってるからこそ、私達赤組は強いんだよ!」

エリカ「あーはいはい」

エリカ「……っていうか、赤組って……」

小梅「チーム名というか、小隊名だよ」

小梅「ほら、1年生の時に相性いい相手と組んでいいって、自由に小隊組まされたけど……」

小梅「私みたいな“ちょっと人より戦車道が上手い”ってレベルの人間じゃ、どんな人材が必要かまで全然わからなかったから……」

小梅「偶然で赤が名字に入る人間が手を取り合った後、面倒になって名字が赤の人を探し倒してさ」

エリカ「名門のイメージが! 私の黒森峰のイメージが!!」

小梅「所詮ただの女子高生だから……」

789: 2017/04/07(金) 06:45:30.99 ID:VlNmxB3qo

エリカ「大体赤組って何よカッコ悪い」

まほ「例のアレだ」

小梅「ほら、去年の敗戦以降、何が黒森峰に足りないのか他の名門と比べたこと、あったじゃない」

エリカ「あったわね、そんなこと……」

まほ「他校が小隊に名前をつけているのを見て、我が校に足りないのはそれかもしれないと思ってな」

まほ「その時“赤組”と名付けられて以来、そこそこ安定して成績を出してるのもあって、存続し続けているんだ」

エリカ「はあ……」

小梅「っていうか、ネーミングセンスなら、逸見さんも人のことは言えないんじゃあ……」

エリカ「なっ!」

まほ「確かに、割りと不評でエリカの小隊は速攻で名前無しに戻ったな……」

エリカ「そ、そんなに駄目でしたか!?」

エリカ「でも、ほら、あれですよ!」

エリカ「シュヴァルツ・フォレストって名前、黒森峰だからなんですよ!」

エリカ「まさに象徴って感じの名前だし、こう、ほら!」

小梅「小学生みたい……」

まほ「更に言うと、『シュヴァルツ』はドイツ語で、『フォレスト』は英語だ」

790: 2017/04/07(金) 06:49:27.51 ID:VlNmxB3qo

エリカ「そんな……」

エリカ「私のネーミングセンスがそんなになかっただなんて……」

エリカ「だから私の立てるスレはあんなにも……?」 ブツブツ

まほ「まあなんにせよ、エリカも快方したようだし、明日からまた練習に合流してくれ」

小梅「今のやりとりでメンタルの方は病んだっぽいんですけど」

まほ「……可哀想だが、あまりゆっくりさせてもやれないスケジュールだからな」

エリカ「承知してます」

エリカ「それに――聖グロとの準決勝、絶対に勝ちたいんです」

エリカ「一刻も早く、戦車に乗って感覚を取り戻したい……」

まほ「そうか」

まほ「しかし今日は大事を取っておいた方がいいだろう」

まほ「今日は帰ってゆっくり休め」

まほ「明日からは甘く出来ないからな」

エリカ「はいっ……!」

小梅「それじゃあ、また明日」 スタスタスタ

まほ「休むのも仕事の内だ、今日はしっかり休むんだぞ」 スタスタスタ

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「しまった、一番気になるはずのハチマのやつ聞きそびれた……」

795: 2017/04/15(土) 01:44:45.23 ID:owEJaMFZo

エリカ「……」

エリカ(あれから数日)

エリカ(準決勝に備えて練習に打ち込んだけど……)

エリカ「……」

ピトッ

エリカ「ほわぁーーーーーっ!?」

小梅「浮かない顔だね」

エリカ「何!? 何今の!?」

小梅「え?」

エリカ「何か今、首にぴとって!」

小梅「ほら、差し入れのジュースとかでカップルとかがやるイタズラ的なの、やってみたいなーって」

小梅「逸見さん、そういうタイプじゃなかったかな……ごめんね?」

エリカ「ジュースの感触じゃあなかったわよ!? なんかこう、ねばって! ネチャって!」

小梅「まあそれは置いておいて……」

エリカ「大丈夫なのよね? 置いておいて大丈夫なものをくっつけてきたのよね!?」

小梅「うん。ほんのり臭うだけだから大丈夫だよ」

エリカ「どの面下げて大丈夫と」

796: 2017/04/15(土) 02:32:53.39 ID:owEJaMFZo

小梅「それより……どうかした?」

エリカ「いや……」

エリカ「……」

小梅「何かあったなら、その、話してくれたら嬉しいかなって」

小梅「これでも、ちょっと仲良く慣れたかなーって思うし」

小梅「ほら、逸見の森の管理人として知っておきたいし……」

エリカ「若干近づきかけた心が一瞬で離れたんだけど」

小梅「まあまあ」

エリカ「はあ……」

エリカ「……」

小梅「本当にどうしたの?」

エリカ「ん……」

エリカ「練習をしてて、なんかこう、しっくりこなかったというか……」

エリカ「決して悪くないし、全員の技量は高いはずなのに、ピンとこないというか……」

エリカ(……)

エリカ(間違いなく技量は高いはずなのに、“あの子達”みたいに、一点特化の強みみたいなものを感じづらい……)

エリカ(勿論安定した強さで王者の戦いをする黒森峰としてはそれでいいかもしれないけど……)

エリカ(あの大洗を見たあとだと、不安が残る……)

797: 2017/04/15(土) 03:22:36.14 ID:owEJaMFZo

小梅「……なるほど」

小梅「逸見さん、次の試合が不安なんだね」

エリカ「は?」

エリカ「何で……」

小梅「エスパーですから」 フンス

エリカ「……」

小梅「わぁ冷たい目」

小梅「……まあ、エスパーじゃなくても、逸見さんの悩みなんて大体分かるんだけどね」

エリカ「何よ、人をシンプルな単細胞みたいに言って……」

小梅「いや、ほら、逸見さんって、戦車道バカって感じだから」

エリカ「はァ?」

小梅「私や他の皆も勿論戦車道は大好きだし、きっと他の学校より戦車に乗ってる時間も長いんだけど……」

小梅「そんなの比較じゃないくらい、逸見さんって戦車で頭がいっぱいって感じだしさ」

小梅「逸見さんの悩みといえば、戦車道のことしかないなーって」

エリカ「……」

エリカ「まあ、否定はしないけど」

小梅「もうちょっとしたら恋の悩みとかハンバーグの悩みとか持ち出すかもしれないけど、まだ逸見さんの自我はそこまで育ってないもんね」

エリカ「あのねェ、私だって……」

小梅「えっ、恋の悩みとかあるの!?」

エリカ「……」

エリカ「に、人間関係の悩みくらいなら、なくはないわよ」

798: 2017/04/15(土) 04:29:56.79 ID:owEJaMFZo

小梅「逸見さんも人間関係で悩んだりするんだね」

エリカ「……まあ、そういうこともあるわよ」

小梅「まあ、得意じゃなさそうだもんね」

エリカ「うぐっ」

エリカ「言ってくれるじゃない……」

小梅「うん、じゃあ、皆でファミレスでもいこう!」

小梅「明後日の準決勝で一緒に小隊組む人達に声かけておくからさ!」

エリカ「はぁ?」

エリカ「いや、今は人間関係じゃなくて、戦車道の方を……」

小梅「一朝一夕で伸ばせるものなんて、限られてる」

小梅「ましてや、うちの戦車道チームって、それなりに技量は高いだけに、素人さんほど伸び率が高くないし」

小梅「……そんな私達が一朝一夕で伸ばせるとしたら、これはもうチームワークなんじゃないかな」

エリカ「急造のチームワークぅ?」

小梅「一応1年以上一緒にやってきてる子も多いし、全くの0からってわけじゃないし……」

小梅「それに、相手のことを少しでも理解していた方が、連携だって取れるんじゃないかな?」

エリカ「ふん」

エリカ「相手がどんな人間か分からなくとも、それぞれがきちんと己の役目をこなして適切な行動を取れば自ずと連携は取れるわよ」

小梅「……うん、そうだね」

小梅「全盛期の黒森峰も、そうだったみたいだし」

小梅「でもさ」

小梅「史上最強と名高かった隊長とみほさんのコンビは、どうだったと思う?」

エリカ「……」

799: 2017/04/15(土) 05:11:59.15 ID:owEJaMFZo

小梅「私のせいで、伝統に泥を塗っちゃってさ」

小梅「今、黒森峰って、大変な時期なんだと思う」

小梅「伝統を重んじながらも、何かテコ入れ求められてるんだろうし」

小梅「ちょっと今、大変だし、浮足立っちゃってるしさ」

小梅「だからこそ、こう、結束のパワーみたいなやつをさ!」

エリカ「……はぁ」

エリカ「わかったわよ」

エリカ「私は、そんなの、認めない派だけど……」

エリカ「モチベーション管理も副隊長の仕事といえば仕事だし」

エリカ「どうせ直前の整備で遅くまで乗り回せないんだから、今日くらいは良しとしてあげる」

小梅「わあ、やった!」

小梅「じゃあ皆に連絡回して、寮の方にもちょっと帰りが遅くなるって連絡入れておくね!」

エリカ「はいはい……」

エリカ「……」

エリカ(あの子は……大洗で、こういうこと、してたらしいけど……)

エリカ(別に、そういうのじゃあ、ないわよ)

エリカ(私はあの子のやり方じゃなく、隊長と共に西住流のやりかたを貫くんだからっ)

800: 2017/04/15(土) 05:46:15.20 ID:owEJaMFZo

小梅「思ったより皆集まってくれたよ」

エリカ「アンタんとこの小隊のメンバーだっけ」

小梅「うん」

小梅「……去年の事件以来冷や飯を食べてたし、私達のせいだから、私達の小隊って言い辛いんだけどね」

黒星「落ちたの自体は事故だし、リカバリー出来なかった負い目とかもあるってことで、まだ小隊のリーダー格ヅラさせてもらってますけどね」

エリカ「まあ、技量でいえばそれが妥当でしょ」

エリカ「なんだかんだでトラウマにもならずまだ戦車に乗れてるメンタルの強さもあるし」

小梅「そういう話はテーブルで、ドリンクバーでも飲みながらゆっくりやろ?」

黒星「じゃあ店員さん呼ぶね」

小梅「とりあえず全員ドリンクバーとして……」

白星「デザート何か食べようかな」

小梅「うん。パフェとか食べたいよね」

エリカ「寮で夕飯は食べたっていうのに……太るわよ?」

小梅「う、運動はしてるし……」

エリカ「まったく……」

店員「ご注文をお伺いいたします!」

エリカ「チーズインハンバーグとドリンクバーです」

小梅「晩御飯もりもり食べたあとだよね?」

エリカ「ハンバーグは別腹だし、肉は筋肉になるからいいのよ」

801: 2017/04/15(土) 23:52:16.63 ID:owEJaMFZo

エリカ「……しかしまあ……」

エリカ「こうしてみると、普段の厳格な黒森峰戦車道チームの面影はないわね……」

小梅「普通の女子高生だもんね」

小梅「戦車道以外の遊びだってするし、こうしてお喋りに興じたりもするんだよ」

小梅「名門だって、マリオカートに夢中でミーティングをサボっちゃったりするんだよ」

エリカ「するんだよ、じゃあないわよそれは」

エリカ「……何か調子狂うわねえ」

小梅「逸見さんは、戦車を降りても“黒森峰戦車道チーム”って感じだもんねえ」

エリカ「当然よ」

エリカ「私にとっては――それが全てなんだから」

小梅「……そっか」

エリカ「なによ?」

小梅「ううん」

小梅「やっぱり逸見さんは凄いよな~って」

エリカ「何よソレ」

802: 2017/04/16(日) 01:35:16.11 ID:CZZ9xYVho

小梅「私も、戦車道は、相当好きな自信があったんだよ」

小梅「……あんなことになっても、辞められなかったくらいだしね」

小梅「私にとって、戦車道は人生のほとんどだったけど……」

小梅「逸見さんにとっては、きっと全てなんだね」

エリカ「……当然でしょ」

小梅「それを当然と言えちゃうのが、逸見さんの凄さなんだよ」

逸見車装填手「うん。おかげでちょっと近寄りがたいと思ってたけど」

エリカ「はあ?」

どどめ色星「常にピリピリしてたしー」

逸見車通信手「こうして一緒にファミレス来る日が来るなんて、夢にも思わなかったもん」

エリカ「そんな大げさな」

黒星「正直一生友達になれないと思ってた……」

直下「関わると面倒くさそうだなーって」

白星「意識の高い隊長の腰巾着で、友達も当時の隊長と副隊長だけな印象だったし……」

小梅「絶対友達できず孤立すると思ってた時期があったなあ」

エリカ「あんたら」

804: 2017/04/16(日) 03:05:48.73 ID:CZZ9xYVho

小梅「まあ、これを機に、いろんな人と仲良くなったらいいんじゃないかな」

黒星「人数多いから、どうしても一緒の小隊メンバーかルームメイトとつるみがちだし……」

直下「下手したら、今日名前覚えてない人もいるんじゃあ」

エリカ「うぐぐっ・・」

小梅「まあ、今回はある程度覚えやすいはずだし、頑張って覚えよう?」

小梅「私達も覚えやすいしってことで、なんとなーく赤色の集団を作ったわけだし」

エリカ「またそういうわけのわからないことを……」

小梅「ただのジェーケーだから、そういうノリみたいなのもあるんだよ」

小梅「私たちにとって、戦車道は人生のほとんどだったけど、でも全部には、できなかったから」

エリカ「……」

小梅「まあ、それでも戦車道大好きで黒森峰のレギュラーらしく、皆ちゃんと強いんだけどね!」

小梅「例えばあそこのドリンクバーで輸血してるアカギさんとか何が起きても冷静沈着な切れ者って感じだし、赤土さんもデータの使い方が上手い」

小梅「赤井さんは真面目にやってきてるし、ジェイドさんはビーフケークハマーが強い」

エリカ「緑混じってるぞオイ」

805: 2017/04/16(日) 03:10:37.51 ID:CZZ9xYVho

小梅「ジェイドさんはブロッケンさんの妹分で、ベルリンが真っ赤に染まるかのようなフェイバリットを持ってるんだよ!」

エリカ「わざわざ特殊カーボンしてるんだからそんな色で染めようとするんじゃないわよ」

小梅「通称緑の矢って呼ばれてて、かなりの腕前なんだから」

エリカ「緑なんじゃない!」

エリカ「はーーー……叫びすぎて喉が痛いわ……」

エリカ「頭も痛いし」

エリカ「……ちょっと前じゃ考えられないくらい、ウチの戦車道チームへの印象が変わったわね」

小梅「あはは」

小梅「人間って、多角的だからね」

小梅「私達にも、こういう側面はあるよ」

小梅「……ううん。隊長や逸見さんと比べれば、こういう側面の方が多いかもしれない」

小梅「でも――」

小梅「隊長や逸見さんみたいに、真剣な黒森峰戦車道チームとしての面だって、私も皆もちゃんと持ってるんだからね!」 フフ

エリカ「……はん」

エリカ「そんな当たり前のこと、わざわざ言われなくてもわかってるわよ」

小梅「ふふ……」

小梅「……」

小梅「明日、絶対勝って、去年のリベンジ、果たそうね」

エリカ「……当然よ」

エリカ「絶対に――私達が、優勝するのよ」

806: 2017/04/16(日) 03:32:19.01 ID:CZZ9xYVho






 ☆  ★  ☆  ★  ☆





 

807: 2017/04/16(日) 03:34:07.62 ID:CZZ9xYVho

エリカ「……」

エリカ「ん……」

エリカ「とうとう、聖グロ戦の日ね……」

エリカ「……」

エリカ「見慣れた天井……」

エリカ「背中にあたる、ふかふかのベッドの感触……」

エリカ「ちょっと泣きそうになってぼやける視界っ……!」 グスッ

エリカ「ああっ、手を伸ばせば、視界に手が映り込んでくるっ!」

エリカ「ああ、ああ……」 グッパーグッパー

エリカ「動く……ちゃんと動く……」 グッパーグッパー



エリカ「入れ替わって……ないっ……!」




811: 2017/04/26(水) 03:31:42.33 ID:iZIUb7H7o

小梅「おはよー」

エリカ「」 ジーン

小梅「……」

小梅「せいっ」 モニュッ

エリカ「わひゃあ!?」

エリカ「な、なにすンのよ!」

小梅「あ、おはよう」

小梅「いやほら、最近試合の時おかしくなること多かったから……」

小梅「イグニッション入ったりしないかの確認を……」 コリコリ

エリカ「いつもこんなことして確かめてたの……」 ドンビキ

小梅「これが一番確実かなーって」

エリカ「……そこは百歩譲るとして、そろそろ離してくれないかしら」

小梅「意外と癖になる触感で……」

エリカ「グーで殴るわよ」

小梅(ハンバーグ吐き出されるより全然マシだよねえ……) モニュモニュ

812: 2017/04/26(水) 04:18:26.50 ID:iZIUb7H7o

まほ「……」

小梅「おはようございます」

まほ「その頭のコブは……」

小梅「まあ、色々ありまして……」

小梅「それより、朗報です隊長!」

小梅「正直、前のタンカが前フリに終わると思われていた逸見さんですが――」

エリカ「え、何それ」

小梅「ご覧の通り、ちゃんと普通の状態で今日を迎えられました!」

エリカ「ていうか、え、アンタ私を何だと」

まほ「そうか……よかった……本当に……」

まほ(私も正直病気の状態で来られて頭を抱える可能性が高いと思っていたしな……)

813: 2017/04/26(水) 04:43:12.08 ID:iZIUb7H7o

小梅「ごめん、ちょっとそっちもうちょっと詰めて」

エリカ「……」

小梅「ごめんねー、狭くて」

エリカ「それは別にいいわよ」

エリカ「こっちは乗せてもらってる身だもの」

エリカ「……」

小梅「……」

小梅「さっき挨拶で何かあった?」

エリカ「え?」

小梅「いや、なんか様子が変かなーって」

小梅「これでも、最近はちょっと分かるようになったんだよ」

小梅「……昔は分かっても聞けなかっただけだけどね」

エリカ「そういう謙虚な姿勢は貫いてくれてもよかったのに」

小梅「逸見の森のおかげで、大分逸見さんへのアレコレも薄れたから」

エリカ「ったく……」

エリカ「……」

エリカ「さっきの挨拶……」

エリカ「ダージリンは、うちの隊長を意識しているようだった」

小梅「……」

エリカ「それに……」

エリカ「あの子――大洗の、隊長のことも」

エリカ「……」 ギリッ

814: 2017/04/26(水) 05:00:54.01 ID:iZIUb7H7o

小梅「……」

小梅「よし、勝とう!」

エリカ「……はあ?」

小梅「だって――悔しいもんね」

小梅「隊長だけが凄いって風に思われるのも」

小梅「私達をすっ飛ばして、先ばっかり見られるのも」

エリカ「……」

ブロッケンJr「そうだーーーっ、その意見に賛成だーーーーっ!」

ブロッケンJr「この世に生をうけて、あいつのようなやつらになめられっぱなしじゃ、生きてる甲斐がねえんだよーっ!!」

黒星「まるでサンダース大みたいなセリフだけど、確かにそのとおりですよね」

白星「まあ、副隊長自身そういうことするトコあるし、因果応報?的なやつかもしれないけど」

白星「でもだからこそ、やられっぱなしではいられないよね」

ドドメ色星「王者として、相手を舐める不遜な存在であり続けるなら、ナメてきた相手はボコボコにしてやらないと立場がないでガンス」

エリカ「……ふん」

エリカ「勝手に心中察した気分になられても腹が立つけど、まあ、いいわ」

エリカ「なんだっていい」

エリカ「今はただ――目の前の紅茶軍団を、叩き潰すのみッ」

赤星「Yah!」

赤星「私は車長だけど――この小隊の長は逸見さんだよ」

赤星「号令を!」

エリカ「――戦車、前進ッ」

815: 2017/04/26(水) 05:43:34.18 ID:iZIUb7H7o

アッサム「……」

ダージリン「何か言いたそうね、アッサム」

アッサム「……」

アッサム「あの娘の投入は、まだ早いんじゃ……」

オレンジペコ「ローズヒップさんですか……」

ダージリン「あら、貴女は特別彼女を可愛がっていたように思うけど?」

アッサム「……でも、あの娘は」

ダージリン「こんな格言を知っている?」

ダージリン「恐れを抱いた心では、小さいことしか出来ないでしょう」

オレンジペコ「フローレンス・ナイチンゲールですね」

ダージリン「ローズヒップには、聖グ口リアーナの淑女として欠けているものが確かに多い」

ダージリン「ここに来るまで、試合に出されない程に」

ダージリン「でも――」

ダージリン「”あの”黒森峰や西住まほを恐れずに、誰より果敢に突っ込んでいけるのは、マナー以上に恐れを知らないあの娘だわ」

アッサム「それは、まあ……」

816: 2017/04/26(水) 05:46:50.18 ID:iZIUb7H7o

ダージリン「……」

ダージリン「私はね、勝ちたいのよ」

ダージリン「気品あふれる立ち振舞で尊敬を集めてはいるし、世間に実力を認めてももらっているわ」

オレンジペコ「自分で言っちゃうんですね……」

ダージリン「だけど――」

ダージリン「この3年間、”西住まほ”には勝てていないわ」

ダージリン「たとえ万の評論家が私を評価することがあっても、その事実だけは覆せない」

ダージリン「だから――これは、私の我儘」

ダージリン「一度くらい、どんな手を使ってでも、あの人に勝ちたいのよ」

ダージリン「……みほさんが私達に見せてくれたように」

ダージリン「泥臭い高貴さというのも、あるんじゃなくって?」

オレンジペコ「……」

ダージリン「呆れたかしら?」

オレンジペコ「いいえ」

オレンジペコ「突然理解できないことをするのも、我儘なのも、慣れっこですし、とうに分かってましたから」

817: 2017/04/26(水) 05:51:31.07 ID:iZIUb7H7o

シュポッ

ブロッケンJr「ジェイドーーーーーーーっ!」

白星「どーすンの、副隊長!?」

黒星「あのスピード……装填が追いつかない!」

白星「全然当たらねーし、何とか立て直さないとヤバイよこれ!」

エリカ「ええい、何とかするわよ!」

エリカ「ここで私達から綻んでやられました、なんて日には、今後二度と戦車に乗れなくなるわ!」

小梅「それは同感!」

小梅「皆、二年連続で戦犯扱いされないよう、頑張るよ!」

白星「おう!」

黒星「うん!」

ドドメ色星「いくでガンス!」

ローズヒップ「んっふっふ」

ローズヒップ「こんな格言を知っている?」

ローズヒップ「巧遅は拙速に如かず!」

ローズヒップ「まーダージリン様が仰ってただけですし、あんまり意味は分かってないんですけどねー!」 バシュンバシュン

エリカ「ええい、鬱陶しいちょこまかと!」

818: 2017/04/26(水) 06:30:29.21 ID:iZIUb7H7o

ローズヒップ「この世の理はすなわち速さでしてよ!」

ローズヒップ「物事を速くなしとげればそのぶん時間が有効に使えましてよ!」

エリカ「おわっ」

エリカ「っつ~~~!!」

小梅「本来予定してない搭乗数なのに無理に詰め込んでるから、小刻みに車体揺らされると危ないねこれ……」

ドドメ色「でも、あんだけちょこまかされたら、こっちも嫌でも――」

ローズヒップ「遅いことなら誰でも出来る……」

ローズヒップ「20年かければバカでも傑作小説が書けるとアッサム様も言ってましたわ!」

ローズヒップ「アッサム様のポエムノートは速攻で書きなぐったのにあのクオリティだからこそ凄いんですのよ!」






アッサム「……」 ゾクッ

オレンジペコ「どうかしたんですか?」

アッサム「いや……何か、こう、うーん……」

ダージリン「こんな格言を知ってる?」

ダージリン「速さこそが文化である」

アッサム「……?」

ダージリン「あの娘は、貴女が思っているより軽いフットワークで何にでも触れているし、その速さで何でも吸収している」

ダージリン「スタート地点こそ聖グ口リアーナの生徒の理想から遠かったけど――」

ダージリン「その理想に近付く速度なら、誰よりも上」

ダージリン「最初こそ近かったけど、それでもずっと足踏みをしているようでは、あの娘に勝つことは出来ない」

ダージリン「……来年のキーマン同士の対決の結果にも、期待しておきましょう」

ダージリン「こちらはこちらで、隊長首を取りにいくわよ」 フフフ

823: 2017/04/29(土) 03:45:43.53 ID:KrR5eLL/o

エリカ「こんの……!」

黒星「あっ、外れた……!」

白星「うわあ、うわあ……!」

ドドメ色星「ひーっ、このままじゃ壊滅でガンス!」

ブロッケンJr「うっおー! くっあー! ざけんなーっ!」

エリカ「ええい落ち着きなさいアンタら!」

小梅「……はいドーン!」 ズリッ

エリカ「ほあーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

エリカ「ちょ、おまっ、何すンのよ!」

小梅「うーん、意外と抵抗なくぱんつって引きずり下ろせるものなんだ……」

小梅「もっと摩擦抵抗とかあるかと思ったけど、まあ、大事なのはぱんつが引きずり下ろせるかどうかだもんね、うん」

エリカ「うんじゃないわよ!」

エリカ「このヤバイ時に何やってんのよ!」

小梅「ヤバイ時だからだよ」

小梅「……これで少しは皆頭冷えた?」

エリカ「……っ」

小梅「完全に大混乱してたよ、逸見さん」

小梅「トップが混乱すると、一気に広まっちゃうんだよ」

小梅「……去年、水に落ちたときに学んだことだし、偉そうには言えないんだけどさ」

824: 2017/04/29(土) 04:13:38.22 ID:KrR5eLL/o

小梅「黒森峰は強いよ」

小梅「普通にやったら完勝できる」

小梅「でもだからこそ、普通じゃない方法で一発入れられたら、崩れちゃうんだよ」

小梅「……あの日、溺れた私達は勿論、誰もあの混乱の中まともに動けなかったよね」

小梅「それでも隊長と、みほさんだけは、結果に結びつかなかったけど動いたんだよ」

エリカ「……」

小梅「私達は凡人っていうか」

小梅「高校生の中じゃ戦車道が上手いけど、どこにでもいる普通の女の子なんだよ」

小梅「プロでもなければ、戦車道に全てを捧げた西住流マシーンでもない」

小梅「たった一年じゃ、激しい基礎能力の向上と、土壇場の対応力を並行して鍛えるなんて、無茶なんだよ」

小梅「基礎能力や戦車スペックが底上げされたらそんなに対応力使う場面なんて訪れないから、皆無意識に手を抜いちゃってただろうしね」

小梅「……逸見さんは、どう?」

小梅「私達凡人と同じで、去年から何も変わってない?」

小梅「それとも――」

エリカ「……ふん」

エリカ「バカにするのも大概にしなさいよ」

ドドメ色星「お、おしゃべりはそのへんにしてほしいでガンス~!」

白星「なんとか同士討ちにならないようしてるけど、これ以上は持たないって!」

ブロッケンJr「あのスバシッコイのを何とかしないとなーーーーっ!」

825: 2017/04/29(土) 04:41:27.58 ID:KrR5eLL/o

エリカ(とはいえ……)

エリカ(どうする……)

エリカ(奇策を打つ? あの子みたいに?)

エリカ「……」

エリカ(それだけはダメっ……!)

エリカ(そんなことをしたら、西住流や今までの私を否定することになるっ)

エリカ(そんなことをして勝っても、何の意味もないっ……!)

エリカ(あくまでも王道、黒森峰が尊ぶ西住流の基本のやり方で勝たなきゃ意味がないッ)

エリカ(それなら……)

エリカ(西住流の戦車道で挑んで、私の技量不足で負ける方が……)

エリカ「……」

826: 2017/04/29(土) 04:50:15.75 ID:KrR5eLL/o

ローズヒップ「相手さん大混乱してますわ!」

ローズヒップ「逃げ惑っても逃しませんことよー!」

ローズヒップ「……っと、深追いしすぎもダメだとアッサム様に言われてましたわね!」

ローズヒップ「とりあえずクランベリーやマテ茶が到着するまでに削れるだけ削ってさしあげますことよ!」 フフン

ブロッケンJr「くそーっ、このままじゃマジで全滅だぜ!」

ブロッケンJr「どうするよ、毒霧でも吐くか!?」

エリカ「吐かないわよ! 何特上の変化球投げようとしてるのよ!」

白星「ていうか、吐けるんだ……」

小梅「まあ世の中ハンバーグを吐いて勝利する人もいるくらいだから……」

エリカ「何か言った?」

小梅「ん? 別に?」

827: 2017/04/29(土) 05:30:14.78 ID:KrR5eLL/o

エリカ「……」

エリカ「私の指揮じゃ、悔しいけど、混乱から立ち直らせることは出来そうにない」

エリカ「出来るのは被害を減らすことだけ」

ローズヒップ「このまま押し切ってやりますわよ!」

ローズヒップ「そーすれば、圧倒的に有利に――」

エリカ「ここの攻防じゃ勝てそうにないうえに、本丸の壊滅だって早々容易くはないでしょうね」

エリカ「やりあえば負ける気はしないけど、でも瞬殺が出来るような相手じゃあない」

エリカ「だけど」

ローズヒップ「……え?」

ローズヒップ「そ、それマジですの!?」

エリカ「外殻部分に一撃を入れるくらい、隊長ならしてくださる」

エリカ「本当は、忌々しいダージリンとの戦いに専念させるのが私の仕事だったけど……」

エリカ「事情を話せば、私の願いを聞き入れてくださる度量が、あの人にはある」

ローズヒップ「やっばいんじゃないですの!?」

ローズヒップ「相手のエースが本陣に雪崩込んでくる前に援護を――」

エリカ「そうよねえ、そうなるわよねえ」 ニタァ

エリカ「どこかが切り崩されて隊長が危険となったら、忠実なシモベなら助けに行かざるを得ないわよねえ」

エリカ「単身突っ込んでくるくらい実力に自信があって、駆けつけられる技量があるなら尚更」

エリカ「……所詮外殻一枚削った程度で、ここから隊長は長々やりあう羽目になる」

エリカ「でも――たった一言、襲われた部隊が壊滅しそうな胸を全体に通信してくれればいい」

エリカ「そこそこの脳みそと行動力と忠誠心があるなら、隊長の指示が来る前に、そこを目指そうとする――」

ズドム

ローズヒップ「うぎゃあ!?」 シュポ

エリカ「……自力じゃどーにもできなくても、隊長が道を切り開いてくれる」

エリカ「隊長なら、奇策に出ずとも、真っ向から切り崩してくれる」

エリカ「私は隊長の勝利を、揺るがぬ心で信じていればいい」

小梅「奇策に片足突っ込んでるような気もするけど……でも、うん、いいんじゃないかな」

エリカ「アンタに言われたくないわよ」

エリカ「……自力で倒すのを諦めるなんて逃げみたいな真似、したくはなかったのだけど」

小梅「現実から目を背けるより、自分に出来ることを受け入れた今の方が、”逃げてない”って感じがするけど」

エリカ「……何言ってんだか」

小梅「溺れて氏にかけて以降、ちょっとポエミーなのです」 フフ

エリカ「いいから行くわよ」

エリカ「こっちも犠牲が出たけど、相手の小隊長格は潰したし」

エリカ「コイツの速度にやや遅れているであろう連中から順繰り叩き潰して、隊長の援護に行くわよ!」

831: 2017/05/05(金) 02:21:37.79 ID:U/Ypoxyco










エリカ「……」 ギリッ

エリカ「クソッ!」 ガン

白星「戦車に当たるのよくないよー?」

小梅「いやー……さっくりやられたねぇ」

ドドメ色星「不甲斐なくて申し訳ないでがんす……」

小梅「まあでも、役に立てたし、チームとしてはプラスに終われたんじゃないかな」

エリカ「……わかってるわよ」

エリカ「でも……悔しいの」 ギリッ

エリカ「チームが勝つことが大事。そんなの当然わかってる」

エリカ「ダージリンは隊長に食らいつける数少ない人間だし、客観的に見て私より格上なのだってわかってるわよ」

エリカ「でも……」

エリカ「直接対決して負けるだなんて思ったことはなかったし、隊長のお役に立ってダージリンを仕留めるのは私でありたかったっ……!」

832: 2017/05/05(金) 03:23:04.85 ID:U/Ypoxyco

小梅「……」

小梅「やっぱりすごいな、逸見さんは……」

白星「私達も……戦車道には入れ込んでるつもりだったけど」

小梅「それだけ悔しがれるなら、きっと次はもっと役に立てるよ」

エリカ「……」

エリカ「アンタに慰められると、なんかムカつくわね」

小梅「ええ~、なにそれー」

ボシュッ

黒星「わあ……!」

小梅「勝った! 勝ったよ逸見さん!」

エリカ「当然よ」

エリカ「隊長が負けるはずなんてないわ」

エリカ「……」

エリカ(そう、負けるわけがない)

エリカ(私がいなくても……)

エリカ「……」

エリカ(何弱気になってるのよ) ブンブン

エリカ(例え負けなくても大変に決まってる)

エリカ(隊長の負担を少しでも減らすべく、私が役に立たずにどうする!)

833: 2017/05/05(金) 04:42:04.38 ID:U/Ypoxyco

小梅「これで今年も決勝戦には進出、かあ」

エリカ「ふん、当然でしょ」

エリカ「むしろここからよ」

エリカ「王座を脱して捲土重来」

エリカ「それが当然とされるんだもの」

エリカ「……足元をすくわれるわけにはいかないわ」

エリカ「……」

エリカ「例え、相手が――」

エリカ「隊長のことを誰よりよく知り、私達の手の内を知る、あの子でも……!」

834: 2017/05/05(金) 04:46:04.34 ID:U/Ypoxyco

小梅「……」

小梅「やっぱり逸見さんは、みほさんのこと――」

エリカ「……は?」 ギロリ

小梅「ま、まだ何も言ってないよ?」

エリカ「……つい」

小梅「まあ言おうとしたんだけど」

エリカ「おい」

小梅「……」

小梅「いやでも、ホント、すごいよね」

小梅「誰よりみほさんの実力を信じているっていうか……」

小梅「大会が始まってから、ずっと注目して意識してたの、バレバレだったよ」

エリカ「うぐっ……!」

エリカ(まあ、そりゃ、嫌でも傍で快進撃を見てたから仕方ないのよ……)

835: 2017/05/05(金) 05:28:13.35 ID:U/Ypoxyco

小梅「それに、なんかずーっと、決勝戦では大洗と当たるって信じてたみたいだし」

エリカ「うっ……」

エリカ「別にそんなことはないわよ」

エリカ「……さすがに、プラウダが来るって、ずっと思ってたわよ」

エリカ「……」

エリカ(それなのに……)

エリカ(あの子はそんな常識的な予想を覆してきた)

エリカ(私も助力したけど、でも、それだけじゃない)

エリカ「とにかく!」

エリカ「今回は、役には立てたかもしれないけど、最後まで援護することは出来なかった」

エリカ「次は……次こそは!」

エリカ「絶対に、最後までお傍にいてみせるわ!」

小梅「おお燃えてる~」

836: 2017/05/05(金) 05:33:07.95 ID:U/Ypoxyco

エリカ(それからは、あっという間だった)

エリカ(決勝戦は元々のチームで戦車に乗れることが決まって……)

エリカ(それからはずっと真摯に戦車にばかり乗り続けた)

エリカ(いつしか校内は、あの子が決勝にあがってきたことの話題で持ちきりになって……)

エリカ(今更、なんて思いながらも、何とか周囲にも気合を入れ直させた)

エリカ(……あと、なんか、いつしか逸見の森でバンバンオリジナルスタンプが飛んでると思ったら)

エリカ(クリエイターズスタンプで5段くらい勝手にリリースされていたからぶん殴っておいた)

エリカ(……この大会が終わったら、何とか停止させないといけない)

エリカ(それでもあのクソのようなチャットを放置する程度には、戦車のことだけを考えた)

エリカ(朝から晩まで……あの子の何倍、何十倍、いや何千倍努力をした)

エリカ(そして――――)

エリカ(運命の、決勝戦の日を迎える)

842: 2017/05/27(土) 02:26:12.57 ID:JeNBqky0o

エリカ「……ん……」

エリカ「……」 モゾ

エリカ(見知った天井……)

エリカ(見知った部屋……)

エリカ(手を伸ばせば、ちゃんと自分の手が視界に入る……)

エリカ「……よし」

エリカ(どういう理屈なのか本当にわからないけど、やっぱりもう入れ替わらないみたいね)

エリカ(……これで心置きなく、黒森峰の選手として、あの子とやり合えるっ……!)

843: 2017/05/27(土) 02:30:46.64 ID:JeNBqky0o

小梅「あれ、逸見さん早いね」

エリカ「まあね」

エリカ「……いやまあアンタに言われたくはないけど」

エリカ「少し昂ぶってるし、散歩でもしてこようかと思っただけよ」

小梅「……あ、じゃあ、私も行っていい?」

エリカ「……」

小梅「露骨に嫌そうな顔してるけど、返事がないってことは行ってもいいってことだとみなすね」

エリカ「……図太くなったわよね、あんた」

小梅「おかげさまで」

844: 2017/05/27(土) 03:10:22.43 ID:JeNBqky0o

小梅「まあ、でも逸見さんの丸くなりように比べたら、ね」

エリカ「……あのねえ」

エリカ「何度か言ってくるけど、私は別に丸くなんてなってないわよ」

エリカ「……黒森峰の生徒ともあろう連中が、思ったよりアホ揃いだったことにも舌打ちが止まらないしね」

小梅「えー……私達が普通なんだけどなあ」

エリカ「アンタみたいなのが標準的戦車道履修者だったら舌打ちのしすぎて上顎弾け飛んでるわ」

小梅「アンツィオ」

エリカ「……あそこは例外」

小梅「サンダースも大概」

エリカ「……まあ、あそこは下品な所も含めての強さというかなんというか……」

小梅「ある意味聖グロ」

エリカ「……アホと言えばアホね」

小梅「プラウダは……」

エリカ「……アホもいるわ。よく知ってる」

エリカ(スパイの天パにペラペラ情報漏らすヤツもいたみたいだし)

小梅「やっぱり強豪校でも大体アレだよ」

エリカ「否定しづらい箇条書きマジック使ってきたわね」

845: 2017/05/27(土) 04:08:53.65 ID:JeNBqky0o

小梅「逸見さんは戦車道履修者に夢を見てるんだもんね」

エリカ「別にそんなつもりじゃないわよ」

エリカ「ただ名門黒森峰のメンバーとして、名誉ある西住流の門下生として、恥ずかしくない行いを――」

小梅「ちゃんと授業中はしてるよ」

エリカ「……最低限は、でしょ」

エリカ「戦車道っていうのは、健全な乙女の精神を作る武芸なのよ」

エリカ「戦車に乗ってるときのみならず、普段からその心構えを持って健全な精神を宿さなくてどうするのよ」

小梅「あー。だから西住流に染まった健全な精神じゃない生徒には風当たりが厳しいんだ」

エリカ「……まあ、そうね。正直に言うと、そういう連中はムカついたし嫌いだったわ」

小梅「……“だった”?」

エリカ「……」

エリカ「こんな私でも、来年になれば指導者だもの」

エリカ「出来てない人間に苛ついて、その指導を放棄するようじゃ、上に立つ者として失格だわ」

エリカ「……だから別に丸くなったとかじゃなくて、なんていうか、西住流の門下生として、上に立つ自覚を持ったというかなんというか」

エリカ「あんた達の駄目な所を認めて、全否定せずに受け入れて、そのうえで黒森峰に相応しい戦車乗りになるよう指導してやるってだけよ」

小梅「……」 ポカーン

エリカ「……なによ」

小梅「いやあ、なんていうか……」

小梅「逸見さんがそういう風に思っていたのも驚いたし……」

エリカ「なによそれ、私を何だと思ってたのよ」

小梅「自分を健全な精神だと想い込めてるのも相当だなって……」

エリカ「なによそれ、私を何だと思ってたのよコラ赤星おい赤星」

846: 2017/05/27(土) 04:30:23.99 ID:JeNBqky0o

エリカ「……まあでも、認めるわ」

エリカ「昔の私は、たしかに健全ではなかったかもね」

小梅「安心して、間違いなく不健全だったから断言しても大丈夫だよ」

エリカ「……」

エリカ「まあ、不健全というか、自分が見えてなかったわ」

エリカ「ただ意地を張るのに必氏で、自分すらまともに理解できてなかったわ」

エリカ「……今なら分かる」

エリカ「あの子に対して苛ついてた理由も、抱いている感情も」

エリカ「……なんで負けたくないのかも、私がどうありたかったのかも」

エリカ「だから、少しでも憧れた隊長に近付けるように、ちょっとだけ他の仲間のことを考えることにしたのよ」

エリカ「それだけだから、別に甘やかすようになったとか、そんなわけじゃないんだからね」

エリカ「特に赤星、アンタはライン云々のことを除いても、去年のあれこれがあるんだから」

小梅「うう、わかってるよ……」

小梅「去年あれこれ言われて軽く引きこもってた時に、散々悩んで、自己分析して……」

小梅「私に足りなかったことも、駄目だったとこも、全部、分かってはいるの」

小梅「……前に進むために、必要なこともね」

エリカ「……それは一緒よ」

エリカ「私やアンタだけじゃない」

エリカ「黒森峰が前に進むには、絶対に、また優勝旗を持ち帰らないといけない」

エリカ「そうしないと――私達の誇りや自信は、永遠にあの雨の中に置き去りのままだわ」

847: 2017/05/27(土) 04:45:22.80 ID:JeNBqky0o

まほ「そのとおりだ」

エリカ「た、隊長!」

まほ「最初はプラウダ相手に雪辱を果たす展開を想定していたが――しかし、結果として決勝の相手はみほ率いる大洗だ」

小梅「逸見さんだけは、大洗が来るって信じてたみたいですけどね」

エリカ「……まあ、あの子の強さは、誰より分かっているつもりだったから……」

まほ「何にせよ、みほが相手でよかったのかもしれないな」

小梅「え?」

まほ「……みほは、昨年の敗戦の代名詞になっている」

まほ「だが、私は、みほが最も黒森峰を将来率いるに相応しい人物だと思っていた」

エリカ「……」

まほ「だからこそ、乗り越えねばならない」

まほ「そうすることで、泥を塗った過去を越えるだけではなく、“みほが副隊長として率いていた黒森峰”をも越えられる」

まほ「あの日の自分たちより成長していたことを実感できるようになるだろうし、“みほが残っていたら”などという甘えた幻想を打ち消せる」

まほ「……エリカ」

エリカ「はい」

まほ「今では、来年の黒森峰を率いるのは、エリカしかいないと思っている」

まほ「だから――みほと比較されても堂々と自分の方が上だと言えるような成績を叩き出そう」

エリカ「はいっ、勿論です!」

まほ「それに――西住流として、勝って終わらせねばならない」

小梅「ええ! 勝ちましょう、絶対!」

まほ「ああ」

まほ「……下船の準備をしろ。早めに到着しそうだ」

まほ「コンディションを高め、しっかりと緻密な作戦会議を行い、王者の戦いぶりを見せ付け――」

まほ「そして、また、あの優勝旗を持ち帰るぞ」

エリカ「はいっ!」

848: 2017/05/27(土) 04:52:11.21 ID:JeNBqky0o

エリカ「そういえば、少し散歩をしていたらお腹減りましたね」

エリカ「その、ご飯をどうするか決めてないのでしたら、よければこのあと一緒にご飯でも行きませんか?」

エリカ「おしゃれなお店を調べてあるんです!」

小梅「わあ、楽しそう」

エリカ「……」

小梅「逸見さん顔こわい顔殺意があまりにも漏れてる」

まほ「いや――すまない」

まほ「予定というわけではないのだが、食事はもう決めているんだ」

エリカ「え、そうなんですか?」 ショボーン

まほ「……誘ってもらえたことは素直に嬉しいし、またの機会に行こう」

エリカ「……!」

エリカ「はい!」

849: 2017/05/27(土) 05:03:45.24 ID:JeNBqky0o

小梅「ところで何を食べる予定なんですか?」

まほ「ああ……アンツィオのところのナポリタンをな」

エリカ「アンツィオ?」

まほ「決勝戦を見に来るらしい」

まほ「……判官贔屓なのか、自分たちと重なるからか、はたまた直接自分たちを破った相手だからか分からないが――」

まほ「どうやら、大洗の応援に来る予定らしい」

エリカ「はあ!?」

エリカ「この前あんだけ世話になっておいて!?」

まほ「……まあ、無理もあるまい」

まほ「突然決勝に出た大洗では、地元からの応援団もさほど数に期待は出来まい」

まほ「応援部隊が十分用意できるうちではなく大洗につくことを選んでも、責めることなど出来ない」

まほ「……それに、律儀にもメールで連絡を貰ったしな」

まほ「私達へのエールはメールにびっしり書かれている」

まほ「お詫びに、格安で好きなものを食べさせてくれるそうだ」

まほ「……折角だから、少しでも売上に貢献してやりたいしな」

エリカ「……そういうことなら、私もお付き合いさせていただきます!」

エリカ「お腹も減ってるし、更にお腹をグーグーにした状態で店に行って、泣いて謝るくらいバカスカ格安で食べてやるんだから!」

まほ「ふふ……そうか」

小梅(私も行きたいけど普通に睨まれそうだし、ウインナーでも食べていこ)

855: 2017/06/27(火) 02:30:47.20 ID:XlHFkyjWo

ケイ「またエキサイティングでクレイジーな戦いを期待してるからね」

みほ「ありがとうございます」

カチューシャ「このカチューシャ様が見に来てあげたわよ」

みほ「あ、はい……」

ダージリン「……貴女は不思議な人ね」

ダージリン「戦った相手みんなと仲良くなるなんて」

みほ「それは……皆さんが素敵な人達だから」

ダージリン「……貴女にイギリスの言葉を送るわ」

みほ(でも……アンチョビさん達は来てないみたい……)

みほ(仕方がないけど、少しさみしい、かな……)

みほ(色々お世話になったし……)

みほ(……お世話になったって言えば……)

みほ(アンチョビさんのおかげでちょっとだけお喋りできたⅣ号と、またお話がしたいな……)

ダージリン「――永遠じゃないわ」

みほ(……はっ!)

みほ(いけない、折角ダージリンさんが有難そうなお話してくれてたのに、聞いてなかった……)

みほ「……はいっ」

みほ「……」

みほ(き、聞いてなかったって言えず、曖昧な笑みと微妙な応えを返しちゃった……) ズーン

856: 2017/06/27(火) 02:34:18.65 ID:XlHFkyjWo

グキュルルルルルルルル

小梅「うわあ、すごい音……」

直下「え、どうしたの……?」

エリカ「……アンツィオのバカども、どこ探してもいないじゃないの」 ギリリ

エリカ「こんなことならサンダースハンバーグでも食べたらよかった……っ!」

小梅「えっ、アンチョビさん達来てないの?」

ブロッケンJr「おかしい……確かにこちらに向かっていると、連絡があったんだが……」

まほ「……まあ、寝坊か何かだろうか」

まほ「そういう連中だ」

エリカ「ううう……」 ギュルルルルルルル

小梅「大丈夫、逸見さん」

小梅「何か食べる?」 スッ

エリカ「パンの一つでも差し出したかと思ったら何ボイレコ差し出してンのよ」

小梅「あまりにいい音出してるから、つい」

857: 2017/06/27(火) 03:19:48.63 ID:XlHFkyjWo

小梅「冗談はおいておいて……」

小梅「はい」

エリカ「……」

小梅「あ、あれ?」

小梅「今度は本当に何も冗談とかじゃない、そこで売ってたハンバーガーだけど……」

小梅「あ、ハンバーガーは嫌いだった?」

エリカ「……いや、そうじゃないけど……」

小梅「じゃあ――食べて。よかったら」

小梅「お腹空いてイライラしたままだと、みほさんに会った時、掴みかかったりしそうだし」 フフ

エリカ「……馬鹿ね」 クスッ

エリカ「そんなことしないわよ」

直下「まあでも暴れん坊副隊長サマなら有りえないことじゃないもんねー」

直下「しょうがない、食べ残しみたいで悪いけど、たこ焼きがまだ3つくらい残ってたし、あげるよ」

白星「温め直しておこうか?」

ブロッケンJr「ドイツ人ならソーセージだろ? ほら、分けてやるよ」

どどめ色星「魚肉のソーセージもドイツでゴンスか……?」

黒星「あ、この焼きそばも……」

ジェイド「パンでよければありますよ」

エリカ「あーもうっ、わかったからそんな一気によこさないでよ!」

エリカ「地蔵の備えものみたいになってるじゃないの!」

まほ「……ふっ」

エリカ「……何笑ってるんですか隊長?」

まほ「いや……」

まほ(あれほど周囲と距離があったのに、いつの間にか、周りに人が出来るようになったんだな……)

858: 2017/06/27(火) 03:57:42.10 ID:XlHFkyjWo

蝶野「両チーム、隊長、副隊長、前へ!」

みほ「……」 ザッ

桃「……」 ザッ

エリカ「……」 ザッ

まほ「……」 ザッ

エリカ(そういえば誰が副隊長なのかと思っていたけれど……)

エリカ(よりにもよってこのビッグマウスのカスが副隊長……?)

エリカ(こんな奴を副隊長に据えるなんて、おしまいね) ハン

エリカ「……お久しぶり」

エリカ「弱小チームだと、貴女でも隊長になれるのね」 ハン

エリカ(そんでもって、このカスでも副隊長になれるのね)

エリカ(まあ、Ⅳ号のときしか見てないせいで、こっちは口に出せないけど)

桃「……」 ビキビキビキ

エリカ(んで口に出してないのになんかめっちゃマガジンのヤンキー漫画みたいな顔してるし……)

杏「煽り耐性低いからなー河嶋」 ケラケラ

柚「やっぱり副隊長にしたのは失敗だったんじゃあ……」

まほ「……」

まほ(一応強豪校では副隊長張っていたし、エリカよりも上の地位だったんだけど、言わない方がいいよな……)

まほ(とりあえず黙っておこう……)

859: 2017/06/27(火) 04:56:33.01 ID:XlHFkyjWo

蝶野「本日の審判長、蝶野亜美です。よろしくお願いします」

蝶野「両校、挨拶!」

エリカ「……」 ハン

桃「……」 ガルルルルルル

まほ「……」

まほ(なんだこのギスギスしすぎな空気……)

みほ「え、ええと……」

みほ「よろしくお願いします!」

一同「よろしくお願いします!!」

蝶野「では、試合開始位置に移動!」

蝶野「お互いの健闘を祈るわ」

まほ「……」

まほ(みほには悪いが――西住流のため、勝たなくちゃいけない)

まほ(私が“西住流後継者”としての勝利を捧げることが、ひいてはみほの自由にも繋がるんだ……)

まほ「行くぞ」

エリカ「……はい」

エリカ「……」

エリカ(あの子が西住流を捨てて、なお強いのは分かっている)

エリカ(でもだからこそ、負けられないし、負けたくない)

エリカ「……たまたまここまで来れたからって、いい気にならないで」

エリカ(Ⅳ号じゃない“私”は、アンタらを見くびってもおかしくないでしょうね)

エリカ(……まあ、いずれにせよ)

エリカ「見ていなさい」

エリカ「邪道は叩き潰してやるわ」

みほ「……」

860: 2017/06/27(火) 05:00:26.73 ID:XlHFkyjWo

エリカ「……」 ザッザッ

まほ「……」 ザッザッ

小梅「……」

小梅(さすが、西住流後継者と、心酔して全てを捧げてる逸見さん……)

小梅(試合モードのスイッチが入ったら、声をかけるのも憚られる迫力……) ゴクリ

エリカ「……何呆けてんのよ、らしくない」

小梅「え、あ、その……」

まほ「……」

まほ「エリカ。作戦の最終確認をする。ついてこい」 ザッザッ 

エリカ「はい」

エリカ「……」

小梅「……」

エリカ「……私と隊長は、これから作戦の最終確認でテントに戻るわ」

小梅「え、あ、うん……」

エリカ「……十分くらい、二人共出て来られないから」

エリカ「……もし私達が居たらやりづらいことがあるのなら、さっさと済ませておきなさい」

小梅「……!」

エリカ「……ふん」 ザッザッ

861: 2017/06/27(火) 05:05:15.86 ID:XlHFkyjWo

みほ「……」

小梅「待ってくださいみほさん!」

みほ「あ……」

小梅「あの時はありがとう……!」

小梅「あのあと、みほさんが居なくなって、ずっと気になってたんです……」

小梅「私達が、迷惑かけちゃってたから……」

小梅「……」

小梅(それなのに……)

小梅(みほさんに、救いの手を差し伸べられなかったから……)

小梅「でも、みほさんが戦車道辞めないでよかった……」

みほ「……」

みほ「私は、やめないよ」

優花里「……」 フッ

みほ(本当は、とっくに辞めそうになったけど、でも――)

沙織「みぽりーん!」

華「行きましょう」

みほ「うん!」

小梅「……そっか……」

小梅(私達ではなれなかった存在になってくれる人が、見つかったんだ……)

みほ「それじゃあ」

小梅「……うん」

小梅(振り返らない、かあ)

小梅(逸見さんが変わったように、みほさんも変わっているんだ……)

小梅(私も、変われてるのかなぁ……)

862: 2017/06/27(火) 05:11:20.58 ID:XlHFkyjWo

まほ『これより決勝戦だ』

まほ『相手は初めて対するチームだが、決して油断はするな』

エリカ「……」

エリカ(そう、油断のならない一芸集団)

エリカ(でも隊長に油断はない)

エリカ(まさに兎を狩るのに核ミサイルを持ち込むライオンのような絶対無敵の王者)

エリカ(みほの甘さという弱点がなくなった今、負けるわけがない)

エリカ(……みほを弱点と見なした西住流が、そしてその西住流で在ろうとする私が、負けるわけがない)

エリカ(負けるわけにはいかないッ)

まほ『まずは迅速に行動せよ』

まほ『グデーリアンは言った』

まほ『厚い皮膚より早い足、と……』

エリカ「……」

エリカ(いいこと言ってるはずなのに、どこぞの紅茶馬鹿が頭をよぎってくる……)

まほ『……行くぞッ!』

エリカ(……Ⅳ号と戦うなんて変な気持ちだわ)

エリカ(でも、なんだろうと関係ないッ)

エリカ「隊長のお言葉どおり、迅速に終わらせるわよ!」

エリカ「パンツァー・フォーッ!」

868: 2017/07/19(水) 03:04:58.51 ID:C9zJ0eaNo

エリカ(赤星が、あの子の重荷を軽くしたはず)

エリカ(多分あの子に、もう迷いはない)

エリカ(本気で首を取りにいかないと、プラウダのチビやサンダースの馬鹿みたいに返り討ちにあうッ)

エリカ(一撃で仕留めるッ)

小梅「撃てー!」

ズドーンズドーン

逸見車装填手「おー、敵さんうろたえてる」

エリカ「当たり前でしょ」

エリカ「この電撃戦が出来るのは、黒森峰の練度があってのものよ」

エリカ(……私の理想や隊長ほど、他のみんなは戦車道だけに全てを賭けられるわけじゃない)

エリカ(それでも確かに、名門に恥じない努力を積み重ねてきた)

エリカ(一人一人は目立たぬかもしれないが、完璧なまでの基礎技術を駆使した陣形全体はまさに無類ッ)

エリカ「全車輌、一斉攻撃ッ!」

エリカ(奴らは無駄な一芸持ちが多い)

エリカ(さすがにもう逃げ出すような愚図は残ってないようだけど、追われるとひたすら逃げるので手一杯のはず)

エリカ(例えみほの指示で逃げ切れても、反撃に転じられる程の技量はない)

エリカ(……私が見たことのないチームもいる)

エリカ(大洗で得た情報から察するに、新しく入った未経験者ッ)

エリカ(ならば、初陣の時の連中みたく、テンパって落ちる可能性が高いッ)

エリカ(勢いをつけるためにも、まずはここで雑魚を狩るッ)

逸見車装填手「なんか露骨に動きが怪しいのいるけど、私達は――」

エリカ「無視よ無視」

エリカ「あんなのは、赤星にでもくれてやればいいわ」

エリカ「私達が狙うのは、あの子の――大将の首のみッ」

869: 2017/07/19(水) 03:08:48.95 ID:C9zJ0eaNo

逸見車砲手「前方2時方向にフラッグ車を確認」

エリカ「よし、照準を合わせろ」

エリカ(アンタのことはⅣ号で見ててよーく分かってる)

エリカ(ここで下手を打つと、逃げ延びたアンタは油断した私達にカウンターを食らわせてくる)

エリカ(猫を噛み頃す窮鼠――そんなシーンを何度もⅣ号として経験してきた)

逸見車砲手「照準よし、フラッグ車に合わせました……!」

エリカ(だからこそ、対処法は分かる)

エリカ(あの子は毎回スロースターター)

エリカ(結果してやられたプラウダ戦も入れると、立ち上がりは毎回今ひとつ)

エリカ(そこで悠長にするせいで、あの子に奇策を思いつかせてしまうッ)

エリカ(だから――)

エリカ「一発で終わらせてあげるわ」 ニタァ

逸見車装填手「装填完了ッ」

エリカ「よし……」

エリカ「撃てぇぇぇぇぇ!」 クワッ

ズドォォォォォォン

870: 2017/07/19(水) 03:16:11.79 ID:C9zJ0eaNo

シュポッ

蝶野『大洗女子学園三式、走行不能!』

エリカ「~~~~~~~っ!?」

エリカ「三式ぃ!?」

エリカ「あんな放っておいても赤星とか直下が潰しそうな三式とかいう三下ァ!?」

逸見車砲手「いや、そんなこと言われましても……」

逸見車装填手「向こうが急速に割り込んできたし、その勘を褒めるしかないんじゃあ」

エリカ「えーい五月蝿い!」

エリカ「とにかくフラグ車を逃がすな!」

エリカ「この場で息の根を止めるのよ!」

逸見車砲手「頃すって……」

逸見車装填手(やっぱり戦車に乗ってる時の逸見さんこわーい……)

逸見車通信手(ハンバーグバズーカ逸見とか言われてる時とはまた異なる怖さ……)

871: 2017/07/19(水) 03:40:43.11 ID:C9zJ0eaNo

エリカ「撃て! 撃ってなんとしてもここで仕留め――」

モクモクモク

エリカ「煙ぃ?」

エリカ「ニンジャじゃあるまいし、小賢しい真似を!」

赤星『ニンジャ……島田流を思い出すね……』

ブロッケンJr『へっ、カラスまでは騙せない程度の忍術じゃあ虎を騙すことなんて出来ないって教えてやるぜ!』

エリカ「島田流……」

エリカ(いくら西住流を捨てたあの子とはいえ、島田流に身を染めるとは思えないけど……)

エリカ(でも、あの子の戦法が島田流のような搦手が多いのは事実)

エリカ(このまま調子に乗らせるのは不味いッ)

エリカ「全車撃ち方用意!」

まほ『……全車撃ち方やめ!』

エリカ「!?」

エリカ「一気に叩き潰さなくていいんですか!?」

まほ『下手に向こうの作戦に乗るな』

ブロッケンJr『へっ……ロビンもそんなことを言っていたっけな……!』

まほ『無駄弾を使わせるつもりだろう』

まほ『弾には限りがある、次の手を見極めてからでも遅くない』

エリカ「……」

エリカ(隊長の言うことは、正しい)

エリカ(下手に策に乗るのは危険だし、無駄弾をあまり使えないのも事実)

エリカ(でも……)

エリカ(今までの経験からすると、おそらく向こうの策の真の狙いは無駄弾消費じゃあない……)

エリカ(あの子の搦手は、搦手はのくせに一発一発は甚大なダメージをもたらしてくる)

エリカ(世間一般の搦手が手足を攻撃し動きを封じてからとどめを刺す、といったものだとすれば――)

エリカ(あの子の搦手は、手足を一撃で切り落とす、しかも猛毒が塗られたような一撃)

エリカ(無駄弾を撃たせるためなんてアバウトかつローリターンな搦手を安売りするヤツじゃあないっ……)

エリカ(ここで見極めようとしたら、手遅れになる可能性が……)

エリカ「……クソッ!」

エリカ(でも言えないッ……)

エリカ(一般的に考えれば隊長が正しい。そうでなくとも隊長はいつも正しい)

エリカ(私が嫌な予感を覚えるのも、全部Ⅳ号と入れ替わった記憶ゆえのもの)

エリカ(それを上手く説明も出来ない以上、従う以外の選択肢はないッ……!)

エリカ「バルカン砲撃てェ!」

逸見車砲手「ええ!?」

エリカ「こっちなら問題はないはずだし、撃ち方やめにも反しない!」

エリカ「何にせよぶち当てて、ダメージと共にすぐそこに迫っているという威圧を与えるッ」

エリカ「絶対……逃がすもんですかっ……ッ!」 ギリィ

872: 2017/07/19(水) 03:45:59.20 ID:C9zJ0eaNo

エリカ「敵、11時方向に確認ッ」

まほ『あの先は坂道だ』

まほ『向こうにはポルシェティーガーがいる』

まほ『足が遅いからそう簡単には登れまい』

まほ『十分に時間はあるはずだ』

ダージリン「恋と戦争はあらゆるものが正当化されるのよ」 キリッ

オレンジペコ「通信傍受もですか?」

ダージリン「……」

ダージリン「……うーん……?」

オレンジペコ(あ、マジトーンで悩みだした……どうしよう……)

オレンジペコ「あっ、え、煙幕晴れてきましたッ!」

エリカ「んなっ……」

エリカ「もうあんなところに!?」

エリカ(そうか、全員がポルシェティーガーを引っ張って……ッ)

エリカ(クソッ、何故気付かなかった……!)

エリカ(大洗女子で、奴らがワンフォーオールの仲良しこよしごっこをよくすると学んでいたはずじゃないかっ……!)

873: 2017/07/19(水) 03:50:30.79 ID:C9zJ0eaNo

エリカ「くそっ……!」

エリカ「広範囲に煙幕を張られてるせいでまだ追撃が――」

ボシュンッ

ボシュンッ

エリカ「!?」

エリカ「今度は何!?」

逸見車通信手「奇襲です!」

エリカ「やられたの!?」

逸見車通信手「ええと……」

逸見車通信手「誰も旗は上がってないけど、2輌履帯がやられました!」

エリカ「くっ……!」

エリカ(自分が追い込まれたときをチャンスに変える……)

エリカ(平気で自分を囮にして、追う者を背後から刺すスタイル……!)

エリカ(誰よりそれを見てきた私が気付かなくてどうするんだ、くそっ……!)

まほ『深追いはするな』

エリカ(不味い不味い不味い……!)

エリカ(これ以上好き勝手されると、私の印象云々以前に、普通に不味いッ!)

エリカ(勝つのは黒森峰、そして伝統ある西住流じゃなくなちゃならないのよっ!)

エリカ(何とかして……なんとかして主導権を握らないと……!)

874: 2017/07/19(水) 03:54:58.82 ID:C9zJ0eaNo

まほ「……想定より早く陣地を構築したな」

エリカ(……さすが隊長は落ち着いていらっしゃる)

エリカ(そうだ……私がきちんとどうにかできずとも、隊長がいる……)

エリカ(万が一私がダメでも、隊長ならば――)

まほ「囲め」

エリカ「はい!」

ズドォォォォォォン

ズドムズドムズドム

エリカ「ちぃぃぃぃっ!」

エリカ「クソッ、なまじしっかり陣地を作ってるせいで犠牲が……!」

エリカ「私のパーフェクトゲーム構想が……!」

エリカ「優勝の瞬間がニュースになる度、史上最悪の負け方をした大洗の恥ずかしいシーンが流されるという私の野望があ!」

逸見車操縦手(人間が小さいなあ……)

879: 2017/07/28(金) 02:46:52.45 ID:cKBMiYpfo
「せんしゃ、つおい」くらいの認識で当スレは進行しております、脳内補完してね(すまんな)
円盤も出ちゃったしさっさと書き進めます

880: 2017/07/28(金) 02:56:17.40 ID:cKBMiYpfo

まほ(……囲まれても冷静に捌いてくるか)

まほ(伊達にここまで残ってはいないな)

まほ(みほのみならず、他の者も一定の技量を持っている前提で指揮を取るべきか)

まほ「……ヤークトティーガー、正面へ」

まほ(あの戦力では易易とヤークトティーガーを貫けまい)

エリカ「これが王者の戦いよ」 フッフーン

エリカ「策を弄し奇策に頼るのは凡夫の証!」

エリカ「真の王者とは優雅に美しく、どんと構えて真っ向から相手を踏み潰すものなのよ!」

エリカ(勝てる!)

エリカ(大洗で見てきた戦力では、やはり黒森峰を倒すなんて不可能ッ)

エリカ「邪道に付け入るスキを与えたサンダースやプラウダのように、満身も舐めプも我々黒森峰には無いッ」

エリカ「このまま叩き潰してやるわ!!」

逸見車通信手(割りと普段から慢心の塊のような……)

881: 2017/07/28(金) 03:03:28.38 ID:cKBMiYpfo

ズドーン

直下「あああああああああああああ!!」

直下「直したばっかりなのにィ!」

直下「うちの履帯は重いんだぞ!」

キュラキュラキュラ

小梅「……あれ?」

ブロッケンJr「どうした?」

小梅「いや、なんか向こうで上半身出した直下さんが発狂したみたいに踊ってるんだけど……」

白星「踊ってる……?」

小梅「あ、いや、違う」

小梅「あれ、なんか腹立てて暴れてるんだ!」

小梅「ヘッツァーがこっちに向かって――!?」

黒星「え!?」

ドドメ色「何も通信は入ってきてないでガンスよ!?」

小梅「直下さん、腹を立てると業務連絡とかそういうのスコーンと忘れて当たり散らすところあるからなあ……」

ブロッケンJr「今からでも隊長に報告するか?」

小梅「いや、多分……その前にこの感じだと――」

ズドーンズドーン

小梅「やっぱりヘッツァーを見つけて撃ち合いになった!」

ジェイド『うっおー! くっあー! ざけんなーーーー!!』 ドーンドーン

小梅「あーっ、同士討ちになる!」

小梅「みほさん、これを狙ってたの!?」

小梅「み、みんな落ち着いてえ!」

882: 2017/07/28(金) 03:12:58.87 ID:cKBMiYpfo

エリカ「ちょ、あんたら何やってんのよ!」

エリカ「無様に混乱なんてしてないでさっさと立て直しなさい!」

小梅『逸見さん、パニックガールの代名詞みたいに浮足立ってるよ!』

エリカ「わざわざンな通信寄越すんじゃないわよ!」

逸見車砲手「あ、大洗、撤退はじめました」

エリカ「ええい撃て、ここを奴らの墓場にするのよ!」

ワーキャー

小梅『ごめん逸見さん、こっちダメそう!!』

小梅『ああっ、混乱してブンブン振り回してたジェイドが落とされた!』

エリカ「はあ!?」

小梅『ああダメ、何とかしようにも他の味方の車体が――』

脇にヘッツァーがいるぞ子「すみません逃げられました!!」

エリカ「何やってるの!」

まほ「体勢を立て直して追え。こちらもすぐ向かう」

エリカ「私が行きます!」

エリカ(他の連中は宛に出来ない……)

エリカ(隊列を組み、決められた動きをすることに関しては同世代最強の集団だけど……)

エリカ(あの子は“それ”をさせないことに長けすぎているッ……)

エリカ(こっちの手の内も全部わかってるわけだし……ここは私が決めるしかないッ)

エリカ(アンタがこっちの手の内を知ってるように、私だってアンタの手の内は知ってるってこと、思い知らせてやるわ!)

883: 2017/07/28(金) 03:18:30.40 ID:cKBMiYpfo

逸見車装填手「それにしても……」

逸見車装填手「そろそろポルシェティーガーがだめになって向こうも戦力分散されて良い頃だと思うんですけどねえ」

エリカ「……それはあまり期待しない方がいいと思うわよ」

逸見車通信手「?」

逸見車車砲手「ふぁっ!?」

逸見車装填手「どうしたの?」

逸見車砲手「向こうのポルシェティーガー、走りながらなんか直してる……」

逸見車装填手「ええええええええ!?」

エリカ「……」

エリカ(まあ、そうでしょうね)

エリカ(私が知ってる範囲では、大洗に戦車に乗れる人材はほとんど残ってなかったはずだし)

エリカ(乗せるとしたら自動車部は有力候補)

エリカ(……一晩であれだけの無茶な修理が出来る連中よ)

エリカ(応急処置くらいなら、走りながらやってきても驚かないわ)

エリカ「……驚きはしないけど、是非とも黒森峰に欲しい人材ね」

逸見車砲手「驚かないんだ……」

逸見車装填手「すご……」

エリカ「一々相手に合わせて驚いてペースを乱してやる必要なんて無いわ」

エリカ「冷静にここで決めるわよ!」

逸見車装填手「はいっ!」

逸見車砲手「おまかせあれっ!」

884: 2017/07/28(金) 03:36:43.31 ID:cKBMiYpfo

エリカ「逃さないわ……」

エリカ「目標、1時フラッグ車!」

エリカ(ここで決めて、私は完全にアンタを超えるっ……!)

エリカ(奇策に翻弄されず冷静に仕留められる人間が黒森峰にもいるってことを、思い知るがいいわ!)

ガガガガ

エリカ「ちょっと、どこ行く気なのよ!?」

ガッコン

エリカ「何やってんの!!!」

逸見車操縦手「左動力系に異常!」

逸見車操縦手「すみません、操縦不能です!!」

エリカ「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

エリカ「あーもう、早く直しなさい!!」

エリカ「隊長に大見得切ってるのよ、走りながら直しなさい!!」

逸見車装填手「ひい~っ」

逸見車操縦手(やっぱり逸見さん怖い~っ)

エリカ「ああもう、はやくしなさいよ!!」 ムッキー

逸見車砲手(リズミカルに踊ってないで手伝ってほしい……)

逸見車通信手(逸見ステップ……)

885: 2017/07/28(金) 03:46:48.34 ID:cKBMiYpfo

エリカ「……」

小梅「不機嫌だね、逸見さん」

エリカ「うっさいわね」

小梅「直すの手伝ってあげたのに」

エリカ「ふん」

エリカ「自信満々に追撃に出て交戦すらせず逃げられるなんて醜態晒した直後なのよ」

エリカ「上機嫌でいられるわけないじゃない」

小梅「あんまりすぎたことを引きずってもしょうがないよ」

小梅「すぎたことを引きずりすぎると、混ぜる勇気がなくて封を切れない塩素系洗剤をずっと引き出しに入れ続けることになっちゃうよ」

エリカ「洒落にならないことをネタにできようになったメンタル面の成長は認めてあげるけど、別にまだ去年のこと風化したわけじゃないからね?」

886: 2017/07/28(金) 03:56:18.11 ID:cKBMiYpfo

直下『あっ、大洗の車輌を発見!』

エリカ「どれどれ……」

エリカ「……」

エリカ「何やってンのよ、あれ」

小梅「……」

小梅「川で立ち往生したのを助けてる、のかな……」

エリカ「……」

ズドーン

ズドーン

エリカ「……撃ってきたわね」

小梅「でも全然当たってないというか、今までに比べて狙いが粗いね」

直下「焦ってるせいで精度が落ちてるとか?」

エリカ「……あの子の救出作戦を援護してるつもりなんでしょ」

エリカ「正確に狙えないなら砲弾を節約しておけばいいものを」

小梅「……そうだね」

エリカ「……」

小梅「……」

エリカ「何よ」

小梅「あ、ううん、ごめん……なんでもない」

エリカ「……」

エリカ(残弾数も気にせず、当たるかどうかでなくて、守りたいから撃っている――)

エリカ(去年の私達にできなかった、ある種敗因の一つ)

エリカ(それをチーム一丸となりやっている、か……)

エリカ「……ふん」

エリカ「相変わらず甘いわね」

エリカ「その甘さが命取りなのよ」

エリカ「戦車前進用意!」

エリカ「丘を越えたら川に沈めてやるわ!」

887: 2017/07/28(金) 04:00:23.64 ID:cKBMiYpfo

まほ「……後方7時敵」

まほ「11号車、やれ」

ズドムズドム

杏「さすがに三度目はないかあ~!」 スタコラサッサー

エリカ「ちっ、何外してンのよ!」

まほ「深追いはするな」

エリカ「は、はい……」

エリカ(くっ、あのヘッツァーの運転手はあのクソいけ好かない生徒会長)

エリカ(さっさと沈めておきたいのに――!)

小梅「逸見さん」

エリカ「――っと、砲撃用意!」

エリカ「撃てーっ!」

ズドムズドム

エリカ「ぐっ……!」

小梅「ギリギリで逃げられちゃったね……」

エリカ「何処に向かう気……?」

まほ「……」

まほ「恐らく、市街地」

888: 2017/07/28(金) 04:03:36.25 ID:cKBMiYpfo

エリカ「橋ぃ?」

エリカ「戦ってるより逃げてる方が多いじゃないの」

エリカ(まあ、この戦力差ならそれも已む無しといったところかしら)

エリカ(でも放っておくと打開策を見つけてくるのが西住みほという女)

エリカ(無策で無様に逃げ回ってるスキに叩くッ)

エリカ「……落ちた?」

エリカ「橋がァ!?」

エリカ「……分かった」

エリカ「橋は迂回して追う、お前は先回りしろ!」

エリカ「……」

エリカ(まさかこんな策を用意してるなんて……!) ギリッ

エリカ「……」

エリカ(無策で逃げてる今の内に、とか口に出してなくてよかった……)

889: 2017/07/28(金) 04:08:30.87 ID:cKBMiYpfo

逸見車通信手「あ、逸見さん、マウスから通信!」

逸見車通信手「二輌撃破したそうです!!」

エリカ「……ッシ!」 ガッツポ

エリカ「……」

エリカ「こほん」

エリカ「迂回してる間に終わってしまうかもしれないわね」

エリカ「所詮弱小チームなんてこんなものよ」

逸見車通信手(今ガッツポーズしてたよね……)

逸見車砲手(めっちゃ嬉しいんじゃん……)

逸見車装填手(ごまかせてるつもりなのかな……)

逸見車操縦手(普段怖いのにたまに可愛いよね、逸見さん……)

890: 2017/07/28(金) 04:24:16.01 ID:cKBMiYpfo

エリカ「隊長、2輌撃破しました」 フフン

まほ「あと5輌」

エリカ「こちらはまだ16輌残っています」

まほ「フラッグ車を潰さねば意味はない」

エリカ「……」

エリカ(確かに、これまでサンダースもプラウダも、車両数では圧倒しながらも最後にはフラッグ車を潰されて敗北した……)

エリカ(でも、今回に関してはそんなこと起こり得ないッ)

エリカ(向こうのポイントゲッターである三突は潰した)

エリカ(ポルシェティーガーのチートメカニックどもが未知とはいえ、戦車に乗ること自体は未知のはず)

エリカ(ヘッツァーは鬱陶しいことこの上ないが、二度に渡りやられたのもあり、すでに十分に警戒出来ている)

エリカ(練度の高い八九式はそもそもこちらの装甲を抜けるとも思えないので放置でオーケイ)

エリカ(ただでさえ低火力のM3に乗ってるのは例の頼りない一年どもだからこれも論外)

エリカ(そうなると残る強敵はあの子のⅣ号のみ)

エリカ(……そのⅣ号はフラッグ車だし、マウスだって最優先で狙うはず)

エリカ(万が一マウスをどうにかできるとすればⅣ号だけど、そう易易とやられるはずがないわ)

エリカ(直々に手を下す前に負けられることだけが心残りだけど……)

エリカ「もうここから負けようがないわね」

891: 2017/07/28(金) 04:44:26.96 ID:cKBMiYpfo

マウス車長『すみません撃破されました!』

エリカ「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

エリカ「何をどうしたらそんなことになるのよ!」

マウス車長『そ、それが――』

エリカ「はあ!?」

エリカ「ヘッツァーが潜り込んで来て動けなくなったうえに、乗り込んできた八九式に砲塔を抑え込まれたァ!?」

エリカ「そんなアホみたいな手で……!」

逸見車砲手「あ、でも、意外とそういう奇策って防げないし……」

逸見車通信手「私達、圧倒的なことが多いせいで、そこ崩されると結構浮足立っちゃうって言われてるもんね……」

エリカ「だからって、天下の黒森峰があのヘッツァーに三度も撹乱されて足元をすくわれたなんて許せるわけないじゃない!」

逸見車操縦手「そうかもしれませんけど……」

逸見車砲手「でも何事にも動じないと噂される継続の隊長ですら、逸見さんが生身で乗り込んでハンバーグ吐いたら動揺したんですよ」

逸見車通信手「生身でハンバーグ砲撃する人間と比べたら、ヘッツァーはまだ常識的……なのかな……」

逸見車装填手「どっちにしても動揺するよね、それ……」

エリカ「ああああああ、終わった話は終了! おしまい!」

エリカ「そんなことより我々も間もなく市街地、直接奴らに手を下せることに歓喜しながら戦闘に意識を切り替えなさいっっ!」

逸見車操縦手(やっぱり軽い黒歴史になってるんだ……)

897: 2017/08/23(水) 05:14:58.64 ID:xrJXyN0Po

逸見車通信手「敵発見とのことです!」

エリカ「よし、このまま私達の手で落とすわよ!」

キュラキュラキュラキュラ

逸見車砲手「うーん」

逸見車装填手「小回り活かされてるねえ」

逸見車砲手「これだけ頻繁に曲がられると気安く撃てませんけどどーしましょ」

逸見車通信手「フレンドリーファイア怖いもんねえ」

エリカ「くっ……」

エリカ(互いの戦車の強み・弱みを的確に把握したうえでの立ち回り……)

エリカ(本来総合力で圧倒的に劣るにも関わらず撃墜されぬよう策を弄してくる……)

エリカ(何回見ても気にいらないけど、でも――)

エリカ「鮮やかすぎてムカつくわね……」

エリカ「絶ッッ対! 叩き潰すわよ!」 ゲシゲシ

逸見車操縦手「痛い痛い、蹴りすぎですって!」

エリカ「ええい邪魔よ!」

逸見車砲手「隊列を乱さないよう言われてたし、柔軟に道をあけたり、なんてのは出来ないですって」

逸見車装填手「順番は守らないと……」

エリカ「むっきー!」 ジタバタ

エレファント車長『こちらエレファント、M3にやられました!』

エリカ「何やってんのよ!!」

逸見車砲手(本当にどうやったんだろう……?)

エリカ「黒森峰が……西住流は最強なのよ!」

エリカ「こんな……こんなところで、こんなことで負けていいはずがないのよっ……!」

898: 2017/08/23(水) 05:26:02.65 ID:xrJXyN0Po

逸見車通信手「あっ」

エリカ「今度は何!?」

逸見車通信手「ヤークトティーガーやられたみたいです……」

エリカ「はあ!?」

エリカ「何やってんのよ!」

エリカ「相手にはもうまともな火力は残ってないのよ!」

エリカ「いやまあ最初からまともな戦車なんてなかったようなものだけれども!」

逸見車通信手「よりにもよってM3と刺し違えたみたいです!」

エリカ「だから! 何をどうすれば! そんなことになるのよ!」

エリカ「ああもう!」

エリカ(分かっていてもイライラするし、わけがわからずモヤッとくるわね……)

エリカ(今のあの子を知らなかったら、多分もっとやばかったわ……)

エリカ「もういいわ、考えたってわけがわからないものは無視!」

エリカ「このまま隊長とフラッグを落とせば問題ないわ!」

エリカ(普通にやれば隊長が負けるわけがない)

エリカ(だけどあの子は……普通にやらせないことにかけては天才的ッ)

エリカ(最悪自分を盾にしてでも、あの子の作戦は叩き潰すッ)

899: 2017/08/23(水) 05:43:43.58 ID:xrJXyN0Po

エリカ(無駄弾もバンバン使えるわけじゃないし、あのボケ娘の運転技術は腹立たしいけど一流)

エリカ(下手に打って隊長車に当てるわけにもいかないし……)

エリカ(何とか包囲して援護したいけど、そう簡単にさせてはくれない……)

エリカ「……このまま進めば、開けたところに出る……?」

逸見車砲手「あー、そこまで追い込めたらあとは包囲できるんじゃないですか?」

エリカ(いや……)

エリカ(それに気付いていないはずがない……)

エリカ(地形や有利不利を把握し、それを使って策を弄するのがあの子のやり方……)

エリカ(絶対に何かが……)

エリカ「他の2輌はどこ!?」

逸見車装填手「他の2輌……?」

エリカ「大洗のよ!」

逸見車通信手「ええと、ちょっと待って下さい確認しますっ」

小梅『あ、もしもし逸見さん?』

エリカ「何よ、こっちは今忙しいんだけど!」

小梅『奇遇だね、こっちも今忙しいよ』

エリカ「はあ?」

小梅『こちらロート小隊、現在八九式を発見し追撃中』

小梅『……逸見さん、すごく大洗の戦略を気にしてたしさ』

小梅『一応、向こうの行動報告しておこうかと思って』

小梅『座標と向こうの行動、そっちの通信手さんに細かく連絡させとくね』

エリカ「……」

エリカ「やるじゃない、感謝してあげるわ」

小梅『あはは』

小梅『そういうときはもっとシンプルに「ありがとう」でいいのに』

小梅『もしくは「愛しているよ」で』

エリカ「忙しいから切るわよ」

900: 2017/08/23(水) 05:52:15.25 ID:xrJXyN0Po

エリカ「ポルシェティーガーは誰か目撃してないか確認して」

エリカ「もし誰も目撃していないようなら、待ち伏せの可能性が――」

逸見車操縦手「あっ」

エリカ「どうしたの」

逸見車操縦手「……目撃しました」

エリカ「は?」

逸見車操縦手「ポルシェティーガー」

逸見車砲手「……っていうか、また上半身出して前見たらすぐ見ること出来る位置に」

エリカ「ッ!」 ガコン

エリカ「しまったっ……!」

エリカ(ただの待ち伏せによる砲撃なら、隊長だって警戒しないはずがない……)

エリカ(射程や潜伏出来る場所は頭に入っているだろうし、遮蔽物などのチェックも怠っていない)

エリカ(撃って一撃で仕留めるなんて芸当、あのブリザードのノンナかサンダースのナオミでもなければ不可能)

エリカ(なのにこいつらっ……)

エリカ(撃っても仕留められないからって、敢えて砲撃を度外視することで、隊長の警戒を潜り抜けるなんてっ……!)

逸見車操縦手「ど、どうしましょう! 道を塞がれたんですけど!」

エリカ(分断されたッ……!)

エリカ(あの子の狙いは最初から、タイマンっ……!)

901: 2017/08/23(水) 05:58:10.74 ID:xrJXyN0Po

ズドムッ

逸見車操縦手「撃ってきたぁ!」

逸見車装填手「ってそりゃそうだ!」

エリカ「ええい撃ち返して!」

エリカ「あんな失敗兵器、さっさとスクラップにしなさい!」

逸見車砲手「え?」

エリカ「何よ!」

逸見車砲手「あ、いや……」

逸見車砲手(最近親しみやすくなったとはいえ、やっぱまだ怖いっていうか何ていうか……)

逸見車砲手(まあ、うちは上下関係厳しくて、車長の言うことだもんね……)

逸見車砲手「了解でーす」

ズドムッ ズドムッ

エリカ「何やってるの、失敗兵器相手に!」

逸見車操縦手「あっっぶ!」

逸見車通信手「失敗兵器のわりにめちゃくちゃしっかりしてないあれ!?」

エリカ「あんのクソチートメカニックどもめ……!」 ギリッ

エリカ(砲手や戦車乗りの技量は凡骨そのものでよかったけど……)

エリカ(あのメカニック能力は脅威だし、不気味)

エリカ(さっさと落として駆けつけないと……)

エリカ(あの子のこと、まだ何か策を弄してくるかもしれないっ……!)

エリカ「隊長、我々が行くまで待っていて下さい!」

エリカ(隊長が不覚を取るはずなんてない……ないけど……)

エリカ(でも……二人で戦わせるなんてことはできないっ!)

902: 2017/08/23(水) 06:02:00.27 ID:xrJXyN0Po

エリカ「撃て!」

エリカ「総攻撃であの失敗兵器をただの鉄屑に変えてやるのよ!」

ズドンズドン

シュポッ

『大洗女子学園、ポルシェティーガー、八九式中戦車、走行不能!』

エリカ「!」

エリカ(よし、赤星も上手くやってる!)

エリカ(これで仲間を使った戦術はもう使えない)

エリカ(フラッグ車を囮にして策にはめる常套手段は封じたわよ!)

エリカ(あとは策を弄す暇がないよう、物量で押し切るッ!)

エリカ「突撃ッ!」

エリカ「中央広場へ急げ!」

903: 2017/08/23(水) 06:04:45.18 ID:xrJXyN0Po

逸見車操縦手「ポルシェティーガーが邪魔で通れません!」

エリカ「ッ!」

逸見車砲手「……」

エリカ(この顔……この娘、まさか気付いて……)

エリカ(じゃあ何で言わな――)

エリカ(いや……仕方がない……車長の言うことは本来は絶対)

エリカ(車内であんなに意見がバンバン出されて採用される大洗こそ異常なのよ)

エリカ(これは気付けなかった私の失態ッ……!) ギリッ

エリカ(あんな馬鹿でかい鉄屑、邪魔になるって分かっていたはずなのにっ……!)

エリカ「回収車急いで!」

レオポンさんチーム「「ゆっくりでいいよ~」」

904: 2017/08/23(水) 06:11:21.53 ID:xrJXyN0Po

エリカ「……ッ」 ギリィ

エリカ(不味い不味い不味い)

エリカ(こうしている間にも、あの子と隊長が一騎打ちをしてしまっているっ……!)

エリカ(何とかしないと……何とか……)

小梅『逸見さん』

エリカ「切るわよ」

小梅『わーっ、待って待って』

小梅『状況を聞いてて、大丈夫かなって心配してるんだから』

エリカ「るっさいわね!」

エリカ「ちっとも大丈夫なんかじゃないわよ!」

エリカ「回収車まだなの!?」

逸見車通信手「わ、わかりません~」

逸見車砲手(うー、めちゃくちゃカリカリしてる……)

逸見車操縦手(何でそんなに追い込まれてるんだろ、隊長なら大丈夫だろうに……)

逸見車通信手(赤星さんに助け求めてよかったかもしれない……矛先こっち来なくなるし……)

小梅『何だかすごく焦ってるみたいだけど……』

小梅『そんなに隊長が心配?』

エリカ「当たり前でしょ!」

エリカ「アンタとあの子のせいで10連覇が途絶えて、隊長や私達の肩にどれほどのものが乗っかってると思ってるのよ!」

小梅『……』

エリカ「あっ……」

エリカ「その……」

エリカ「……」

エリカ「でも事実じゃない」

エリカ「万が一でも負けるわけにはいかないの!」

エリカ「隊長のため、黒森峰のため!」

エリカ「それに、私自身のためにも!」

905: 2017/08/23(水) 06:32:48.37 ID:xrJXyN0Po

小梅『……素直に謝るのも大事だと思うけど』 ポソ

エリカ「……何よ」

小梅『まあいっか、これからまた怒られるかもしれないこと言うし』

エリカ「は?」

小梅『……そんなに想ってるならさ』

小梅『そんなに焦っているなら――手段、選んでる場合じゃないんじゃないかな』

エリカ「……そりゃあ、わかってるわよ」

エリカ「でも、回収車を待つ以外に手段が――」

小梅『私達はそっちに行けないから何も手助けできないけど、そっちはポルシェティーガーに落とされず全車輌無事なんだよね』

エリカ「当然よ」

小梅『じゃあさ、出来るんじゃないかな』

エリカ「?」

小梅『ほら、マウスがやられたっていう』

小梅『味方の戦車を足場にして、相手の戦車に乗り上げるやつ』

エリカ「……!」

906: 2017/08/23(水) 06:42:12.54 ID:xrJXyN0Po

エリカ「……」

エリカ(確かに……大分キツイけど、できなくはない)

エリカ(アイツを乗り越えて先に進めば、回収車を待たずとも……)

小梅『どうするかは、逸見さん次第だよ』

小梅『……何を重んじたいのか、自分の心に従ったほうがいいとは思うけどね』

小梅『……私はそれが出来ず、学校の方針だとか、常識だとか世間の目だとか、そういう物差しで色々考えちゃったから』

小梅『だからさ』

小梅『どうせどっちを選んでも引きずる可能性があるなら』

小梅『自分がいちばん信じたい道を、一番やりたいことをやるのがいいんじゃないかな』

エリカ「……」

エリカ「ふん、そんなこと、言われるまでもないわよ」

小梅『もう、素直じゃないなあ』

エリカ「……」

エリカ「ありがと……」 ポソ…

907: 2017/08/23(水) 06:45:47.74 ID:xrJXyN0Po

小梅『え、なに? 聞こえなかったけど』

エリカ「なんでもないわ」

小梅『待ってもう一回言って! 録音するから』

エリカ「聞こえてンじゃないの!」

エリカ「ったく、切るわよ!」

エリカ「……」

エリカ(私は西住流が大事)

エリカ(でも……それ以上に隊長が大事)

エリカ(私にとっての西住流は、あの人そのものだ)

エリカ(例え私が何をしてしまおうと、あの人さえ無事で勝利を飾れたなら、それでいい)

エリカ(それで西住流の名は守れるし、この学校だって復権できる)

エリカ「戦車前進!」

逸見車操縦手「え!?」

エリカ「味方を踏み台に奴を踏み越える!」

エリカ「隊長の元に馳せ参じるわよ!」

908: 2017/08/23(水) 06:53:32.46 ID:xrJXyN0Po

ギャリギャリギャリ

逸見車通信手「アンタ達強引だって、ってクレーム来てますけど」

エリカ「無視!」

エリカ「学園艦単位で鏡でも送ってあげなさい!」

逸見車操縦手「やった、乗り越えた!」

逸見車通信手「あ、逸見さん、狭いから中に入らないと危な――」

エリカ「かまわないわ!」

エリカ「戦車内は特殊カーボンで守られてるのよ、気にせず全力疾走よ!!」

逸見車通信手「戦車内だけなんだけどな……」

逸見車操縦手「ああもう、どうなっても知りませんよ!」 ブロロロロロロロ

エリカ(急げ急げ急げ急げ急げ!)

エリカ(あの子が奇策で万に一つの奇跡を呼び寄せる前にっ……!)

逸見車装填手(どうして逸見さん、あんなに必氏な顔なんだろう……隊長なら私達抜きでも負けないだろうに……)

エリカ「今行きます、待って下さい隊長ッ!」

逸見車通信手(天井ギリギリすぎて下手に盛り上がりとかあったら逸見さんの頭がすりりんごみたいになりそう……)

909: 2017/08/23(水) 06:57:10.14 ID:xrJXyN0Po

エリカ「……っ!」

出来るだけ飛ばしてきた。

もっと早く、赤星に言われる前に気付けたら、或いは間に合えたのかもしれなかったけど。

エリカ「隊……長……」

でも――そんな仮定は、無意味である。

分かっていても、思わずにはいられない。

きっと赤星も、あの滑落について何度も何日も無意味な仮定を思い描いたのだろう。

『黒森峰フラッグ車、走行不能』

着いたときには、全てが終わっていた。

文字通り、終わっていたのだ。

試合も、黒森峰の栄華も。

土煙が晴れ白旗が見えると同時に、耳障りなアナウンスが聞こえてきた。

『よって、大洗女子学園の勝利!』

918: 2017/09/01(金) 00:39:11.86 ID:3RH/mxXEo

エリカ「……」

まほ「……」 カツカツカツ

エリカ(何を、言えば……)

エリカ(謝罪? あの子とタイマンにさせたことへの?)

エリカ(それを隊長は受け入れるか?)

エリカ(いや、でも、実際に私が不甲斐ないせいで、黄金時代になるはずが、二年連続のV逸……)

まほ「……」 スッ

エリカ「あ……」

エリカ(何も……言えなかった……)

エリカ(涙も流さず、しっかりと前を見ているその姿……)

エリカ(きっと、私には想像もつかないレベルで反省と次を見据えた思考をしているんだろう……)

エリカ(あの人達に追いつくには、それが必要……)

エリカ(泣いてる場合じゃない……)

エリカ(他の子達みたいに無様に下を向いて、泣いてる場合じゃ……) ジワッ

919: 2017/09/01(金) 01:10:42.73 ID:3RH/mxXEo

小梅「残念だったね」 チーーーーーン

エリカ「おわーーーーーっ!」 ドゴッ

小梅「ふ、振り向きザマにナイスエルボぅ……」 ハナヂダバー

エリカ「うっ、わ、悪かったわよ……つい……」

エリカ「つーか何よさっきの」

小梅「えーっと、万が一負けたときのためにと思って」

小梅「仏具店で、チーンって鳴らすやつと、ポクポク叩くやつを」

エリカ「何でそんな飛び切り不吉かつ不要なモンを準備してんのよ」

小梅「負けた時しんみりした空気が和むかなーって」 チーンチーンチーン

エリカ「やかましいわ!」

小梅「でもトライアングルの音色とか、こういう音色ってちょっと心が穏やかになるらしいよ」 チーンチーンチーンポクポクチーンポクチーンポチーンポク

エリカ「木魚を混ぜてリズミカルに叩くんじゃないわよ」

小梅「でもこう、買ったあと皆で遊んでたら、難しいレベルの太鼓の達人『夏祭り』なら木魚で叩けるようになったんだよ」 ポクポクポクポクポクポクチチチン

エリカ「何バカみたいな努力に時間費やしてンのよ!」

逸見車装填手「……」 プルプル

エリカ「ほら! さっきまで泣いてたアホがちょっと笑いこらえ始めてるじゃない!!」

920: 2017/09/01(金) 02:01:06.03 ID:3RH/mxXEo

エリカ「ったく……アンタまじここ最近で急に変なことになってきてるわね……」

エリカ「こういう時、真っ先に泣いてトイレに篭りそうな子だったのに」

小梅「あはは……」

小梅「まあ、最近急に変になった度合いなら逸見さんの方が上だし……」

エリカ「ぐっ」

小梅「それに、今年は負けて悲しいのも、きっと逸見さんの方が上だと思うから」

エリカ「……」

小梅「なんだかんだで私は逃げ回っちゃった時期も長いけど、逸見さんは去年負けてからすぐ未来を見据えてたでしょ」

小梅「それに、私達の中で誰よりも優勝旗奪還への情熱を持っていたから」

小梅「……だから、放っておくと、まともに悲しんだり怒ったり出来ないんかもって」

エリカ「……何よソレ」

小梅「去年さ」

小梅「……いつまでも私とみほさんの失態に拘って、終わったことに縛られ続けて皆が前に進めなくなっていた時期、あったじゃない」

小梅「でも逸見さんは、隊長の背中を追いかけて、未来を見ていて」

小梅「……ものすごーく厳しいし、誤解されそうな形だったけど、私やみほさんのお尻を叩いてくれたよね」

エリカ「……別に。リベンジのためにも、いつまでもウジウジされてたら目障りだっただけよ」

小梅「誤解されてもしょうがないどころか恨んだとしても逆恨みじゃなく正当な恨みだよなってくらい厳しかったけど」

小梅「その結果みほさんは黒森峰を辞めちゃったみたいなところもあるけど」

エリカ「な、なによ、それはあの子が弱かったからでしょ!!」

小梅「まあ、でも、逸見さんなりに励ましてくれてたわけだし」

小梅「おかげで皆同じ所にウジウジとどまらずに済んだのは事実だもん」

小梅「私は逃げてたところからちょっとだけ前に踏み出せたし」

エリカ「今思うと一生閉じこもってもらうべきだったわ」 ハァ

小梅「みほさんも、逃げ出しちゃったけど」

小梅「……でも、閉じこもって足踏みせずに逃げたからこそ、今のみほさんが居るんだもんね」

小梅「やっぱり、逸見さんのおかげっていうのも、ちょっとくらいあると思うよ」

小梅「ポカリスエットの果汁くらいは」

エリカ「分かりにくいけど少なそうってことは理解したわ」

921: 2017/09/01(金) 02:39:36.64 ID:3RH/mxXEo

小梅「まあ、そんなわけで、間違ってるかもしれないけど、私は私なりに今年は逸見さんに恩を返そうかなって」

エリカ「受取拒否で返品したいわ」

小梅「それにほら、今年は私戦犯じゃないっていうか、私自身は良かったし」 フンス

エリカ「アンタそれを私の前で言うか」

小梅「うん。去年はそれを言われるサイドを一身に背負ってたから」 フフ

エリカ「ったく……」

小梅「……泣くでも腹立つでも呆れるでもさ」

小梅「なんでもいいから、その、想った気持ちを受け入れて、発散するって、大事なことだと思うよ」

小梅「隊長みたいにすぐ切り替えて前を向きたいのは分かるけどさ」

小梅「逸見さんは隊長じゃないんだし……」

エリカ「……そんなこと、わかってるわよ」

小梅「憧れの背中を追い続ける所、私は好きだよ」

小梅「でも――」

小梅「無理をして気持ちを押し込めて、整理も出来てないのに出来てる顔して追いかけてたら、いつか躓いちゃうよ」

エリカ「……そうね」

エリカ「それは、そうかもしれないわ」

エリカ(まだ……やっぱり、色々思うことはあるものね……)

小梅「だから、泣いてもいいし、怒ってもいいんだよ」

小梅「ハンバーグを吐いてもいいし」

エリカ「2・3発殴ってもいい?」

小梅「それはだめ」

エリカ「ふん、じゃあいいわ」

小梅「……泣きたくなったら言ってくれたら、直下さん達とどこか出かけるくらいするからね」

エリカ「……はいはい」

エリカ「……」

エリカ「ま、一応感謝はするし、頭の片隅にくらい置いておいてあげるわ」

922: 2017/09/01(金) 02:52:13.61 ID:3RH/mxXEo

エリカ「さ、皆顔を上げて」 パンパン

エリカ「泣くなら黒森峰に帰る途中か、帰ってから泣きなさい」

エリカ「……会場には、今年の黒森峰を支援してくれた人達もいる」

エリカ「せめて最後まで格好つけて、強豪らしくここを去るわよ」

逸見車砲撃手「……うん」 グスッ

ドドメ色星「記念に土を持って帰ろう」 グスッ

黒星「うう……この土を見る度に、これからこの大会を思い出すんですね……」 グスッ

小梅「あ、記念に地面スレスレのローアングルから土集めてる写真撮ろうか?」

エリカ「やめなさい」




923: 2017/09/01(金) 03:09:08.79 ID:3RH/mxXEo

エリカ「ほらさっさと乗り込んだ乗り込んだ」

小梅「もうすっかり復活しちゃって」

エリカ「……泣くのは自室でって決めてンのよ」

小梅「へー」 ニヤニヤ

エリカ「……大体運転するのは私の役目なんだから、涙で視界をぼやかせるわけにもいかないでしょ」

小梅「確かに」

小梅「ぼやけた視界で川に落ちて事故か自殺かなんて言われたら最悪だもんね」

白星「そして助けに来る元副隊長」

直下「しかしそれは現隊長・逸見エリカの狡猾な罠だった」

エリカ「置いてくわよアンタら」

ブロッケンJr「まあそうカリカリするなよ」

ブロッケンJr「一本吸うか?」

エリカ「ちょ、何問題になりかねないモンを――」

ブロッケンjr「毒ガス」

エリカ「吸わないわよ! 想定より数倍ヤバいもんだし何歳になっても吸ったらダメなヤツよそれ!」

ブロッケンjr「はっはっは、ちょっとしたジャーマニージョークさ」

エリカ「アンタまじ鉤十字のアイコンといい、いつか退学させられるわよ」

924: 2017/09/01(金) 03:18:44.93 ID:3RH/mxXEo

まほ「待たせたな」

エリカ「いえ!」

エリカ「隊長でしたら何年でもお待ちできます!」

まほ「はは」

まほ「私もエリカならどのくらいでも待っていられるよ」

エリカ「えっ……」 トゥンク

まほ「まあ、さっきは待てずにみほと戦り合って、無様に負けてしまったんだけどな」 ハハ

エリカ「え、あ、はは……」 ズーン

まほ(……しまった、失言だったか)

まほ(引退した後じゃ何もしてやれないし、何とかこの敗戦を引きずりすぎないよう小粋なジョークで和ませようと想ったのだが……)

まほ「あー」

まほ「こうして荷台に人が敷き詰められていると、まるで捕虜か人身売買のようだな」

まほ「これが戦車道でなく戦争だったら、このまま奴隷市場に運ばれていたのかもな」 ハハ

エリカ「は、はあ……」

まほ「……」

まほ(あまり笑いに詳しくない私にでも分かる。これはドン引きの空気というやつだ)

まほ(助けてくれ安斎。お前どうやって毎回毎回もりあげてたんだ。お前すごかったんだな安斎……)

まほ(誰か助けて……)

エリカ(ど、どうしよう、空気が完全に凍りついた……)

925: 2017/09/01(金) 03:20:55.90 ID:3RH/mxXEo

みほ「お姉ちゃん」

まほ「!」

エリカ「!」

みほ「……」 トテトテ

まほ(救世主だ……)

エリカ(助かった……)

まほ「優勝おめでとう」

まほ「……」

まほ「完敗だな」

エリカ「……」

エリカ(そう、完敗)

エリカ(あれだけ戦力差があったのに、あと1輌まで追い詰めたのに)

エリカ(まんまと策にハマって分断されて、フラッグ車とタイマンに持ち込まれて)

エリカ(そして――誰より強い隊長が負けて、試合が終わった)

エリカ(言い訳不能なくらいの完敗)

926: 2017/09/01(金) 03:24:40.15 ID:3RH/mxXEo

まほ「……」 スッ

みほ「……!」 パァァァァ

エリカ(握手、か……)

エリカ(不思議な気持ちだわ……)

エリカ(かつて夢見た光景のはずなのに、どうしてこう、胸がざわつくのかしら)

エリカ(……あの場に、私は混ざれないからかな)

エリカ(まだ、実力面でも、人間としても、あそこに混ざるに相応しい存在になれてない)

小梅(……)

小梅(地上最強の姉妹喧嘩、ここに終結ッ!!)

小梅(とか言う空気じゃないよね、これ……黙って見ておこ……)

まほ「……」

まほ(掌にメッセージでも書こうと思ってやったんだが、なるほど握手か……)

まほ「……」 ニギニギ

まほ(大きくなったな……)

まほ(私の見ぬ、ほんの数ヶ月で……)

927: 2017/09/01(金) 03:37:58.73 ID:3RH/mxXEo

まほ「みほらしい戦いだったな」

まほ「……西住流とはまるで違うが」

エリカ(……そう、西住流とはまるで違う)

エリカ(でも――強かった。隊長が、認めるくらい)

みほ「そうかな?」

まほ「そうだよ」

エリカ「……」

エリカ(本来は色々思うべき所があるはずなのに、余計なものが頭をよぎるし、ネットサーフィンのしすぎも考えものね……)

エリカ(日常会話にしれっと潜むネットスラングやAAネタみたいなので笑いそうになるし、そりゃ口数も少なくムスッとするしかなくなるわよ……)

みほ「……あ」

優花里「……」

エリカ「……」

エリカ(最初はただのオタクだったのに、気付いたらあの子の信頼を誰より得ていた……)

エリカ(黒森峰とは毛色が違うけど、確かに戦車の知識は豊富だった)

エリカ(……もっと、あの天パにも警戒すべきだったわ)

華「……」

エリカ(……あのそこそこ突っかかってきたバカ食いロング)

エリカ(意味の分からない発言も多いくせに、射撃能力だけは高かった)

エリカ(アイツさえいなければ、隊長だって落とされなかったかもしれないのに)

エリカ(……射撃の腕ならウチの平均も相当高いけど、無茶な状況で撃たされ慣れてるから、動じないしどんな場面でも安定してるのよね)

エリカ(ムカつくけど……学ぶことはあるわ)

麻子「……」

エリカ(眠そうなカチューシャ女……)

エリカ(あの子のドライビングテクニックは天性のものだし、変な勘は鋭いし、ムカつくけど天才だわ)

エリカ(……うちにだって、あそこまでの者はいない)

エリカ(でもそれだけに、あれだけ突出してたら足並みは揃えにくいはず)

エリカ(……動転せず、高いレベルで統率された隊列を維持できていれば、あるいは……)

沙織「……」

エリカ(ゆるふわスイーツ脳ビXチ……)

エリカ(私個人としては大嫌いだけど、でも、あんなヤツがあの子の心を解きほぐしたのよね……)

エリカ(……)

エリカ(私も、ああなれていたら、何かが変わっていたのかもしれない)

エリカ(でも……)

エリカ「私は、ああはなれないし、なりたいとも、思えなかったものね……」 ボソ

928: 2017/09/01(金) 03:41:53.32 ID:3RH/mxXEo

みほ「……じゃあ、行くね」

まほ「……ああ」

小梅「……」 チラ

エリカ「……」

エリカ(そんな目されなくても、わかってるわよ……)

みほ「……お姉ちゃん」

まほ「ん?」

みほ「やっと見つけたよ」

みほ「……私の戦車道!」

エリカ「……!」

エリカ(戦車道、か……)

エリカ(あの子の戦車道は、黒森峰にはなかった……)

エリカ(……分かってたけど、あの子は大洗で、見つけたのよね……)

エリカ(……Ⅳ号として傍にいたから、そんなこと分かっていたはずなのに)

エリカ「……」

エリカ(何にどうして、こんなにチクリと胸が痛むのかしら)

エリカ(傍にいれなかったから? 道を違えたから?)

エリカ(……置いて行かれたような気がするから?)

エリカ「……」

エリカ(黒森峰の、西住流の戦車道こそが、最強だって思っているのに)

エリカ(なのに、なんで、遅れを取っているかのように思えるんだろう)

エリカ「……ああ」

エリカ(そうか――)

エリカ(私はただ、黒森峰と西住流に憧れているだけだからだ)

エリカ(私は、まだ――あの子と違って、自分の戦車道というものを、見つけられていないんだ……)

929: 2017/09/01(金) 03:45:09.33 ID:3RH/mxXEo

まほ「……うん」

エリカ(ああ、クソ……)

エリカ(どんどん思い知らされる)

エリカ(自分が、決して特別な強者じゃないことを)

エリカ(まったく、穴があったら入るどころか、世界中の人間を穴に埋めてやりたい気分だわ……)

エリカ「……次は、負けないわよ」

エリカ(でも――)

エリカ(こんなところで、くじけてなんてやるもんか)

エリカ(私だって……ちっぽけな意地はある)

エリカ(あの人に、アンタに、並び立ちたいんだ)

エリカ(まだ、ふわっとしたものしかないけど)

エリカ(でも――)

みほ「……はいっ!」 ニコッ

エリカ(いつの日か、その背中に追いつきたい)

エリカ(あの日、Ⅳ号として共に歩いたときのように)

エリカ(今度は――“逸見エリカ”として、並び立ちたいっ……!)

930: 2017/09/01(金) 03:51:38.52 ID:3RH/mxXEo

しほ「……」

しほ「……」

しほ「……ふっ」

しほ「……」 パチパチパチ

しほ「……」 パチパチパチ

しほ(今なら、素直にみほに拍手を送れる)

しほ(誰も見ていないから、というのもあるけれど)

しほ(……そういう意味じゃ、今は一人でよかったのかもしれない)

しほ(でも、それはそれとして……)

しほ「……完全に置いて行かれたわね、私……」

937: 2017/09/07(木) 05:42:02.07 ID:2icaoLAOo

ブロロロロロ

エリカ「隊長」

エリカ「……よかったんですか、置いてきてしまって」

まほ「ああ」

まほ「お母様は、まだ当分戻ってこられないだろうしな」

エリカ「そうなんですか?」

まほ「……あれだけの期待がかかっていたのに、2年連続で優勝を逃した」

まほ「鳴り物入りで早期に隊長職についた、実の娘が、だ」

まほ「……様々な批判も出ている頃だろうし、頭を下げ、またしっかりと弁明するのに追われるだろう」

小梅「……2位だって、十分凄いのになあ」 ポソ

エリカ「あんたね、聞こえたわよ」

小梅「え、あ、ごめんなさい……」

まほ「いや、いいさ」

まほ「……実際、二位になれただけ、胸を張ってもいい」

まほ「それだけ、周りのレベルも上がってきている」

エリカ「……」

まほ「だが……それでも……」

まほ「私達は、王者であることを、求められていたんだよ」

938: 2017/09/07(木) 05:49:16.24 ID:2icaoLAOo

エリカ「……」

エリカ「隊長、その……」

エリカ「本当にすみませんでした……」

エリカ「誰より黒森峰が強くなくちゃいけないって思っていたはずなのに、ちっともお役に立てず……」

まほ「そんなことはない……」

まほ「が、もし、本当にそう思っているなら」

まほ「……来年は、こうならないように頑張ってくれ」

まほ「来年はみほ達のチームも健在なようだから、難しいだろうが」

エリカ「いえ……」

エリカ「絶対に……来年こそはっ……!」

939: 2017/09/07(木) 06:04:54.55 ID:2icaoLAOo

キキーッ

ボフン

エリカ「……」

小梅「わあ、見事に顔面から……」

直下「エアバッグってすごい……」

逸見車装填手「折角格好つけて決意表明してたのに……」

小梅「でも、まあ、締まりきらないのが、また逸見さんらしいというか……」

エリカ「どーいうことよ……ってて……」

小梅「なんかこう、丸に囲まれた画面で『もう戦車道なんて懲り懲りよ~』なんて言って、そのまま円が小さくなって画面が真っ黒になって終わり、みたいな」

エリカ「あんたねえ」

直下「ところでどうしたんですか、急に止まったりして」

まほ「いや……お母様から連絡があって……」

まほ「弁明あいさつ回りしなきゃいけないところが多すぎて無理だから一旦一緒に戻るそうだ」

エリカ「あまり知りたくなかった裏の事情ですね……」

小梅「大丈夫? やめたくなっちゃったりしてない? もう戦車道なんて懲り懲りだよ~みたいな」

エリカ「ならないわよ!」

エリカ「っていうか、そんな意味不明なフレーズにハマるのやめなさいよ……ったく……」

小梅「ダメかな」

エリカ「ダメよ」

小梅「しょうがないかあ……」

小梅「じゃあ右隣に置いておいて」

直下「右隣の私がそれを拾い上げて再利用すると」

エリカ「こういうときだけ謎の連携プレーするのやめなさい」

940: 2017/09/07(木) 06:11:19.68 ID:2icaoLAOo

直下「怒られたから更に右隣に置いて、と」

逸見車装填手「わあ、私の番だ」

逸見車装填手「さっさと次に回しちゃおう」

エリカ「何でちょっと爆弾ゲームみたいになってるのよ!」

まほ「ははは……」

エリカ「た、隊長……?」

まほ「まあ……たまにはいいんじゃないか?」

まほ「毎日このノリをされると正直困るが……」

まほ「たまにはいいだろう」

まほ「……私は、そういうノリを呼び寄せる隊長じゃなかったし、その結果がコレだからな」

まほ「違うやり方だって、色々試していけばいい」

エリカ「……」

エリカ(そりゃあ、隊長が隊長になってから、2年連続でアレだったけど……)

エリカ(それでも、私が目指したい背中は――)

941: 2017/09/07(木) 06:15:10.39 ID:2icaoLAOo

小梅「こうして、逸見さんの戦いは幕を閉じるのでした――完」

エリカ「何勝手に終わらせてンのよ」

小梅「えー、でもこう、エンディングって感じの空気だったし」

エリカ「……全国が終わったって、終わりじゃないのよ」

エリカ「あくまでこれは小休止」

エリカ「学校に戻ったら、隊長に残り少ない指導をみっちりつけてもらわなくちゃいけないんだからね」

小梅「はーい」

小梅「……」

小梅「今の笑顔で、こう、映画とかならイントロが流れて主題歌ドーンみたいなやつだよね」

エリカ「知らないわよそんなの」

942: 2017/09/07(木) 06:22:46.00 ID:2icaoLAOo

ブロロロロロ

キキーーーーッ

小梅「あれ、あのジープって……」

アンチョビ「お、おおっ、お前たち!」

やっとー目をー覚まーしたかいー

エリカ「あんたら……屋台もせずに今まで何を……」

アンチョビ「えーっと、その……」 ゴニョゴニョ

エリカ「……」

エリカ「は?」

エリカ「宴会したせいで寝過ごしたあ!?」

こーれーでも出来るだけ飛ばしてきたんだよおー

小梅「過去の友好相手との遭遇、なんていうかエンディングって感じがしてしんみりするよねえ」

エリカ「この馬鹿と馬鹿が集まった結果生まれてしまった馬鹿のお子様ランチみたいな連中を前にどうすればしんみりできるのよアンタは」

943: 2017/09/07(木) 06:28:50.71 ID:2icaoLAOo

小梅「……まあ、でもあれだよ」

小梅「しんみりするかとか、エンディングとかそういうのはともかく……」

小梅「実際全国大会は終わっちゃったんだし、何かコメントとかってないの?」

エリカ「無いわ」 キッパリ

エリカ「……今は何を言おうとしても恨み節か後悔だけだろうし」

小梅「んー……」

小梅「せめて、こう、『這い上がろう。負けたことがあるということが、いつか大きな財産になる』みたいなさ」

エリカ「……そんなわけないでしょ」

エリカ「そういうセリフは所詮は詭弁」

エリカ「負けなんて、財産になるわけないでしょ」

エリカ「そんなのは、負ける余地がある弱者だからこそ、弱点が分かって成長できてよかったねってだけの話」

エリカ「私達レベルにもなると、負けなんて負債でしかないわ」

小梅「……」

小梅「隊長はともかく、逸見さんは改善の余地がいっぱいあるんじゃ」

エリカ「そこの馬鹿が沸かしてるお湯にパスタの代わりにぶちこむわよ」

944: 2017/09/07(木) 06:32:38.00 ID:2icaoLAOo

小梅「でも実際、去年の負けから、逸見さん、だいぶ変わったかなあって思うし……」

エリカ「……」

エリカ「ま、まあ、あのときは、確かにまだ未熟だったから……」

小梅「あ、そこは認めるんだ」

小梅「実際あのときの影響か、ここ数ヶ月の逸見さん、すごく変わったなあって思うしさ」

小梅「今回の負けでも、だいぶ柔らかくなったと思うけど……」

エリカ「……ないない」

エリカ「別に負けたら柔らかくなるなんてことないわよ」

小梅「そうかなあ」

小梅「意識無い時に揉みしだいてみた逸見さんのおっOいばりに柔らかくなってると思ったけど……」

エリカ「今固くなったわ主に握った拳が」

945: 2017/09/07(木) 06:40:36.44 ID:2icaoLAOo

小梅「うーん、柔らかくはなったと思うんだけどなあ」

アンチョビ「ああ、それは私も思ったな」

エリカ「はあ?」

エリカ「……ったく、変なとこで会話に入ってこないでさっさとパスタ茹でなさいよ」

エリカ「大洗激励に使う予定だった麺とかいうフザケたシロモノだけど、お腹は減ってきてるし食べてあげるわ」

アンチョビ「これでもうちょっと素直になってくれたらなー」

小梅「でもそうなると逸見さんの魅力が……」

直下「確かに半減だよね」

エリカ「全員パスタの代わりにゆでダコにするわよ」

アンチョビ「しかしまあ、敗北を知ったからじゃないなら、何でそこまで丸くなれたんだ?」

アンチョビ「うちは結構気性荒い子もいるし、ドぎつい跳ねっ返りも多いからさ」

アンチョビ「自分のためにも、来年を任すペパロニやカルパッチョのためにも、そういう情報は聞いておきたいなあって」

エリカ「恥も外聞もなく情報ねだってくるなんて……」

アンチョビ「まあまあ、こっちは明日さえ知らない身」

アンチョビ「腐っても9連覇の偉業をなしとげた超名門の絶対王者」

アンチョビ「まさか相手を強化したくないから、なんてみみっちいことは言わないだろー?」

アンチョビ「頼む、このとーり!」

アンチョビ「ペパロニとカルパッチョじゃお前みたいな跳ねっ返りを扱えなさそうだし、割りとマジで聞いておきたいんだって!」

小梅「こんなに頭下げてるし、教えてあげた方がいいんじゃないかな。全裸」

エリカ「はいはい分か――らないわよ! 服は着るわ!!」

小梅「残念……」

エリカ「ったく……ドア・イン・ザ・フェイスにしてももうちょっと上手くやりなさいよ……」

946: 2017/09/07(木) 06:43:40.57 ID:2icaoLAOo

まほ「……良ければ教えてやってくれ」

まほ「安斎には世話になっているし、ライバルは強い方がいいだろう、エリカも」

エリカ「わかりました」

エリカ「っていっても、丸くなんてなったつもりないですし、どうして丸くなったのかみたいに言われても――」

エリカ「……」

エリカ「あ」

アンチョビ「お、どうした? 何か心当りでもあったのか?」

エリカ「……」

エリカ「まあ、そうですね」

アンチョビ「へえ、それで、それで?」

エリカ「……」

エリカ「自分自身が戦車になる」

エリカ「そうすれば、丸くもなるし、色々なことが分かるようになりますよ」

947: 2017/09/07(木) 06:46:04.47 ID:2icaoLAOo

アンチョビ「……」 ポカーン

小梅「……」 ポカーン

まほ「自分自身が……? それは何かの比喩か……?」 キョトン

エリカ「……」

エリカ「ふふ……」

エリカ「冗談ですよ」

アンチョビ「な、なんだよー! 一瞬マジかと思っただろ!」

小梅「目がマジっぽかったですもん」

エリカ「狙いを悟らせない、なんてのは戦車戦の基本だもの」

キャイキャイキャイ

まほ「……」

まほ(自覚はないのかもしれないけど……やっぱり丸くなったよ、エリカ……)

まほ(そんな風に笑うようになってくれて、とてもうれしい)

956: 2017/09/27(水) 03:52:29.13 ID:8CcPxjX+o

エリカ(あれから時は流れて……)

エリカ(練習の中心は、徐々に徐々に1・2年生へと移ってきていた……)

エリカ(残された時間を使って、3年性が培ったものを後輩達に伝えるためかのように……)

エリカ(私はとしては、まだまだ第一線で活躍する隊長の傍にいたかったのだけれど)

エリカ(隊長が後輩の育成より勝利を優先する試合など、もう早々訪れないのは分かっていた)

エリカ(……あれから入れ替わりも起こっていない)

エリカ(今はただ、残り少ない時間を、隊長に自分を魅せるのに使うだけだ)

エリカ(少しでも、後継者に相応しい姿を――)

小梅「それでは続きまして逸見さんによる大爆笑一発ギャグです」

エリカ「……」

エリカ(隊長の道は間違っていないという証明を……)

直下「上下関係の厳しさはすぐには変えられない……しかし宴会によって距離を詰めることはできる……」

直下「なるほどこれが大洗から学んだ、新たな黒森峰の形……!」

小梅「ほら逸見さん、最上級生様のグラスが空だよ!」

小梅「いつもみたいにアツアツの鉄板ジョークを言いながらお酌して!」

エリカ「……」

直下「ああもう、笑顔でやらなきゃ! これだって一応カリキュラムの一つなんだし、ちゃんとしないと成績に響くよ!」

まほ「……」

まほ(なんだろう、思っていたのと全然違う光景が繰り広げられている気がする……)

957: 2017/09/27(水) 04:10:00.49 ID:8CcPxjX+o

まほ「あー……」

まほ「今日は久々にアンツィオの面々が来てくれた」

アンチョビ「やあやあやあ、ノリと勢いとパスタの国からドゥーチェ参上だあ!」

ペパロニ「黒森峰のポテトやウインナーを使ったピザに加えて、今回は新作ピッツァもあるっすよ!」

カルパッチョ「お安くなってるし、お昼ごはんに是非♪」

エリカ「第一声でいきなり商魂逞しいわね」

まほ「まあ、そう言うな」

まほ「今回はこちらが無理して来てもらっているんだ」

まほ「少しくらい貢献してやろう」

エリカ「はあ……」

エリカ「まあ確かに、そろそろ紅白戦もマンネリしてきてますし、決勝じゃ小兵相手にしてやられましたから、交通費払ってこいつら呼ぶのは分かるんですけど……」

エリカ(……勝てるようになるまで、大洗とはやりたくないし)

ペパロニ「いやーマジ助かるっすわ」

カルパッチョ「どんな戦車より優先して屋台の整備をしてきてよかったですね」

アンチョビ「だな! 勿論戦車も手入れしなくちゃだめだけどな!」

エリカ「……こいつらかあ……」 ボソ

まほ「エリカ」

エリカ「……すみません」

エリカ「でも、その、継続高校とかの方がよかったのではないかと」

まほ「……そう言うな」

まほ「色々と事情があるんだ」

まほ(……アンツィオの楽しそうな雰囲気のコツとかこっそり聞きたいし……)

まほ(継続はエリカのアレがあるせいで何か招待しづらいしな……)

958: 2017/09/27(水) 04:15:58.31 ID:8CcPxjX+o

アンチョビ「まあまあ、そう冷たくしないでくれ」

アンチョビ「うちも財政難でな……」

アンチョビ「引退前に、せめてP40の修理費くらい稼いでおいてやりたいんだ」

エリカ「は?」

エリカ「……修理費も確保してないのに大会に導入したと?」

アンチョビ「ああ、いや、一応最低限の修理費は勿論速攻確保したんだ」

ペパロニ「なんだかんだで一番の戦力っすもんね」

アンチョビ「でもなー、最低限直した所で、ダージリンに壊されちゃって……」

エリカ「?」

アンチョビ「いや、何か乗ってみたいっていうから乗せてやったら、こう、ボカーンって」 シクシク

エリカ「???」

959: 2017/09/27(水) 04:28:20.12 ID:8CcPxjX+o

まほ「……それなら、聖グ口リアーナに賠償請求でも出来るんじゃないのか?」

アンチョビ「そ、それが……」

ペパロニ「全員揃って、なーんか言いくるめられちゃったんすよねー」

カルパッチョ「確かに非はこちらにあるかも、って思わされちゃったんですよね」

エリカ「本ッ当に何やってンのよアンタ達は……」

エリカ「大体P40って秘密兵器みたいなもんだったんじゃないわけ?」

エリカ「どうしてソレにホイホイ他校の隊長を乗せちゃったのよ」

アンチョビ「そ、それが私にもわからないんだ……ダージリンのやつにそそのかされて……」

エリカ「ったく……あんな紅茶馬鹿を信用するからそんなことになるのよ」

アンチョビ「うう……」

アンチョビ「でもほら、疑うよりは、信用する方がいいかなーって」

エリカ「はあ?」

アンチョビ「ほら、戦車道もだけどさ、何事も一人でやれることって限界があるだろ?」

アンチョビ「だけど、誰かと手を取り合えば、一人じゃ出来ないことだって出来る」

アンチョビ「だから、誰かのお願いとかは、突っぱねるより、出来るだけ受け入れた方が、後々自分のためにもなるかなって」

エリカ「……ふん」

エリカ(私は……誰かと馴れ合った力なんかに頼らず、自分だけの力で……)

960: 2017/09/27(水) 04:41:33.10 ID:8CcPxjX+o

エリカ(……そう、私は自分の力をこれからも伸ばしていく)

エリカ(もう以前ほどのわだかまりはないけど、それでもあの子に負けっぱなしじゃいられないから)

エリカ(あの子が甘っちょろい馴れ合いのチームで勝とうとするなら、私は西住流の築き上げた厳しく統率されたチームで勝ってみせる)

小梅「どうしたの逸見さん、眉間に皺をよせて」

直下「いつものことじゃない?」

小梅「確かにそうだけど」

直下「どうせまた何か一人であれこれ考えてるんだよ」

エリカ(……アホの赤星達のおかげで、天下の黒森峰とて異常に戦車道に賭けているのは一部だけだと分かった)

エリカ(それでも厳しくしていかないと、捲土重来は夢のまた夢)

エリカ(下級生が楽しめているかはともかく、厳しい訓練のガス抜きで宴会を導入したのは隊長のファインプレー)

エリカ(これからもガス抜きはさせつつ、ビシビシ鍛え上げていくッ)

エリカ(次こそは、絶対に優勝旗を取り戻すッ)

エリカ(あの子のせいで暗黒期になるだなんて、絶対に御免だわッ)

961: 2017/09/27(水) 04:53:49.66 ID:8CcPxjX+o

エリカ(あの子が変わったように、私も変わった)

エリカ(……変われなかったところだって沢山あるけど)

エリカ(あの子とは、とうとうしっかり仲直りもできなかったけど)

エリカ(でも、今は満足している)

エリカ(あの日Ⅳ号戦車と入れ替わったことも、今ではいい思い出)

エリカ(きっともう、二度とあんなことはないけど)

エリカ(あの経験を活かして、絶対に来年こそはあの子を追い抜いてみせる――!!)

962: 2017/09/27(水) 04:59:16.82 ID:8CcPxjX+o
 





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





 

963: 2017/09/27(水) 05:13:23.92 ID:8CcPxjX+o

エリカ「ん……」

エリカ「……」

エリカ「あれ……?」

エリカ「目をこすろうとしても、手が動かない……」

エリカ「……」

エリカ「金縛り……?」

エリカ「……」

エリカ「顔すら動かない……」

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「待って……何この逆に慣れ親しんじゃったかのような感覚……」

エリカ「ま、まさか……」

エリカ「ひっ、“あのやり方”で視界が動く……」

エリカ「こ、これって……これってぇ……」

964: 2017/09/27(水) 05:14:26.96 ID:8CcPxjX+o
 









no title








 

965: 2017/09/27(水) 05:30:53.97 ID:8CcPxjX+o

エリカ「また入れ替わってる――――!?」 ズガビーン

エリカ「ど、どうして……」

エリカ「あれが精神的なものに起因していて、私の願いに呼応したものだとしたら……」

エリカ「もう、前ので終わったはずなのに……」

エリカ「……」

エリカ「と、とにかく、状況を整理しないと……」

エリカ「ええっと、またⅣ号よね私」

エリカ「視線移動の方法とか完全にあの時と同じだし……」

エリカ「……」

エリカ「でも……大洗の車庫、こんな見た目だったかしら……?」

エリカ「……」

エリカ「ああ、最近何もなかったから”私の身体“に対策施してないっ……!」

エリカ「いやああああああお願い私の身体、変なことしてないでえ~~~~!!」

966: 2017/09/27(水) 05:44:48.97 ID:8CcPxjX+o

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「うう……」

エリカ「誰も来ないせいで嫌な予想ばかり膨らんでいくわね……」

エリカ「何やってんのよ大洗の連中は! 戦車の様子を見もしないで!」

エリカ「優勝したからって気を抜きすぎでしょ……」 ブツブツ

エリカ「……」

エリカ「それにしても、何だか揺れるわね……」

エリカ「……」

ガッコン

エリカ「ひゃっ」

エリカ「な、なに!?」

エリカ「一体何が――」

バシュウッ

エリカ「何か開――」

エリカ「壁が開いた……」

エリカ「光のおかげであたりが見渡しやすくなったけど、もしかして、これって……」

ケイ「よっと……」

ケイ「うん、どうやら全車輌無事に運べたようね」

エリカ「サンダースのスーパーギャラクシーの中……!?」

967: 2017/09/27(水) 06:02:10.18 ID:8CcPxjX+o

ナオミ「大洗の車輌、どうします?」

ケイ「うーん、サンダースの車庫には入れない方がいいわよねえ」

アリサ「まあ、どこから情報が漏れるかわかりませんしね」

ケイ「オッドボール三等軍曹の件もあったものね」

ナオミ「じゃあこのままスーパーギャラクシーに格納しておく、ってことにしておきますか」

ケイ「そうね」

ケイ「念のため、この機体は故障中ってことにして人払いもしておこうかしら」

アリサ「まったく……こんなことバレたら大事ですよ」

ナオミ「そう言いながらも協力するんだ?」 クク

アリサ「……あのまま放っておくのも気分が悪かっただけよ」

ナオミ「まあ、グレーゾーンの行いは得意だもんね」

アリサ「もうっ」

ケイ「HAHA……まあでも、今回は100%政府の方が不義理だし、力も貸したくなるわよ」

ケイ「……あそこまで頑張った大洗が、まさか改めて廃校だなんて」

エリカ「…………」

エリカ「……………………は?」

973: 2017/10/09(月) 02:32:02.61 ID:YB1tLH+jo

エリカ「廃校……?」

エリカ「大洗が……!?」

エリカ「ちょっと、どういうことなのよ!」

エリカ「あの子達はそれを撤回させるために戦ってたんじゃないの!?」

エリカ「っていうか、優勝校が廃校ってなによ!」

エリカ「勝ち逃げされちゃうじゃない!」

エリカ「あ、こら行くんじゃないわよ! 待って!」

エリカ「ああ~~聞こえてないんだ!」

エリカ「ちょっと待ちなさ、こら!」

バタン

エリカ「……」

エリカ「くっ……」

974: 2017/10/09(月) 02:49:21.02 ID:YB1tLH+jo

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「廃校になって、私――というかⅣ号がスーパーギャラクシーに居る……」

エリカ「……戦車の没収を避けるため?」

エリカ「……」

エリカ「あーもう、考えても埒が明かないわ」

エリカ「明日には元の身体に戻れるだろうし、少しそっちで調べてみようかしら……」

エリカ「まあ、その前に今日の私が何かやらかしてないかのチェックが最優先だけど……」

エリカ「……」

エリカ「それにしても……」

エリカ「この感じだと様子見に来てもくれなさそうだし、やることないのが難点ね……」

エリカ「……」

エリカ「72時間何もない所に閉じ込めると発狂するって聞いたけど、あと何時間あるのかしらこれ……」

975: 2017/10/09(月) 03:13:16.96 ID:YB1tLH+jo

アンチョビ「はいよ、パスタお待ち」

まほ「すまない、ありがとう」

アンチョビ「いやいや、こっちこそ金を落としてくれることに有難うだ」

まほ「学食も悪くはないのだが、どうしても食べるものが定番化してしまうからな……」

アンチョビ「あー、好きなのばかり選んじゃったりするもんなー」

まほ「一応、バランスも考えて、様々なカレーを日替わりで頼んでいるのだが……」

アンチョビ「え、毎日カレー? まじで?」

まほ「お前たちだって毎日パスタなんだし似たようなものだろ?」

アンチョビ「いやいや、毎日ちゃんといろんなもの食べてるし」

アンチョビ「それに売り物こそイタリアンオンリーだけど、自炊じゃ色々作ってるからな?」

まほ「そうだったのか……」

アンチョビ「お前も戦車だけじゃなくて、料理とか色々趣味を持った方がいいぞー?」

アンチョビ「まあ名門跡取りだから忙しいのかもしれないけどさ」

アンチョビ「一つしか熱中しているものがないと、そこに行き詰まった時にしんどいぞー?」

まほ「……オペラなんかは好きだが……」

アンチョビ「おお、いいんじゃないかー?」

アンチョビ「まあ私はオペラはさっぱりだけどな」

アンチョビ「戦車道で行き詰まる度に息抜きで楽しめるものがあるっていいよなー」

まほ「私は行き詰まったことなどないが」

アンチョビ「うえー、マジかー」

バタン

小梅「大変です隊長、逸見さんが久々に全裸でブリッジ進行した挙句アンツィオの戦車とレースを始めてます!!」

まほ「すまん前言を撤回する進行形で色々行き詰ったかもしれない」

976: 2017/10/09(月) 03:34:00.81 ID:YB1tLH+jo

エリカ「……」

エリカ「ふああ……」

エリカ「いつの間にか寝てたみたいね……」

エリカ「戦車になってると横になるってことができないからきっついわあ……」

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「え、ちょ、待って……」

エリカ「身体が動かない……」

エリカ「私――元の身体に戻ってない……!?」

977: 2017/10/09(月) 03:42:23.80 ID:YB1tLH+jo

エリカ「日付が変わっていない……?」

エリカ「いやそんなはずはない」

エリカ「身動きが取れなくて暇すぎて、ひたすら頭の中で音楽を流したりしてたけど……」

エリカ「寝落ちてなお日付が変わってないなんてことはないはず……」

エリカ「それどころかこの感覚、寝すぎた時のソレと同じだわ」

エリカ「一体どうなってるのかしら……」

エリカ「……」

エリカ「クソッ、外はどうなってるのよ」

エリカ「ここを開けて外を見せなさい外を!!」

978: 2017/10/09(月) 03:44:46.65 ID:YB1tLH+jo

ガコン

エリカ「!」

エリカ「開いた……って……」

エリカ「ちょ、ま」

エリカ「誰も入ってこないどころか、この景色って……」

ビュオオオオオオオオオオ

エリカ「空!?」

エリカ「ちょ、待って、まさかスーパーギャラクシー飛行中なの!?」

エリカ「なのになんで扉を開け――」

ガコン

エリカ「え、ちょ、ま、ウソでしょ!?」

エリカ「ここから私達を落とす気!?」

エリカ「ま、待ちなさい馬鹿!」

エリカ「こんな高さから人間が落ちて助かるわけが……!」

エリカ「い、いや、今は戦車かもしれないけど!」

エリカ「無理無理、さすがにこれは無理だってば!」

エリカ「やめ――」

エリカ「ひぃえあああああああああああああああああああああ!!」

979: 2017/10/09(月) 04:12:42.87 ID:YB1tLH+jo

エリカ「ひ、ひぬ……」 ガクガク

エリカ「ひぬかとほもっは……」 ガクガク

エリカ(な、なによあの高さから放り捨てるって……)

エリカ(そ、そりゃあれからグッと地面に近づいたとはいえ……)

エリカ(本当にそのままポーンと放り出すなんて!)

エリカ「せ、戦車じゃなきゃ氏んでたわよほんと……」

エリカ「うう……あんなの人間の状態でやってたら間違いなく漏らしてたわ……」

エリカ「っていうか今も足がじんじんしてるし……」

ケイ「ちゃんと届けたわよ!」

エリカ「何がちゃんとよ!」

エリカ「ちゃんとって言うなら丁寧に下ろしなさいよね!」 ムッキー



980: 2017/10/09(月) 04:16:19.23 ID:YB1tLH+jo

みほ「……!」

エリカ「……チッ」

エリカ「Ⅳ号に向けてるって分かってても、どうもこのキラキラした目には慣れないわね……」

エリカ「……」

エリカ(それにしてもこの状況……)

エリカ(本当に廃校になったみたいね……)

エリカ「……」

エリカ「……」

エリカ「じゃあ、何で私はⅣ号と入れ替わったのかしら……」

981: 2017/10/09(月) 04:30:52.02 ID:YB1tLH+jo

エリカ「……」

エリカ「てっきり、この入れ替わりにも、意味があると思ってたのだけど……」

エリカ「……あの時の願い事が、結果的に叶った形になったし……」

エリカ「蓋を開けてみたら、私が戦車道をするうえで、必要な入れ替わりだったようにも思える……」

エリカ「……」

エリカ「いやまあ、失ったものを考えると、なくてよかった入れ替わりなのに違いはないけど……」

エリカ「でも……」

エリカ「結局あれ以降何もなかったことも含めて、そういうものだと思ってた……」

エリカ「呪いの類にしろ、精神疾患にしろ……」

エリカ「私の内面に、入れ替わりの原因やきっかけがあるのだとばかり……」

エリカ「……」

エリカ「確かに、あの決勝戦で吹っ切れたものもあれば、新たな道を探して迷ったりもしてるけど……」

エリカ「でも、廃校になった大洗にきて、何が得られるというのかしら」

エリカ「……あの子との確執に関することなら、それこそスーパーギャラクシーに詰め込まれた後でなく、詰め込まれる前よね」

エリカ「どうせ今生の別れみたいな顔で一夜を共にしたりしたんだろうし」

エリカ「……謎ね……」

982: 2017/10/09(月) 04:48:40.32 ID:YB1tLH+jo

アンチョビ「……なあ、大丈夫か?」

まほ「……ああ……」

ペパロニ「見るからにゲッソリっすねえ」

カルパッチョ「まるで絶食してるみたいね」

アンチョビ「いやまあ、信頼してた副官がアレなことになってたらそりゃそうなるだろうけどさー」

ペパロニ「いやー、頼りない副官だと大変っすね」

アンチョビ「ちなみにお前もなかなかになかなかで来年を思うと私も胃はキリキリ痛み続けてるからなー?」

ペパロニ「へー、消化に優しいもの作りましょうか?」

アンチョビ「おまえなー」

まほ「……」

まほ(完治したと思ったのに、また再発とはな……)

まほ(ひとまず何とか収めたし、アンツィオの連中も丁重にもてなしていればエリカのことを忘れてくれるだろ……)

まほ(一日でひとまず治まってくれることだけが救いだな……)

バーン

小梅「た、大変です隊長!」

まほ「どうした赤星」

小梅「い、逸見さんが……」

まほ「どうした、昨日の痴態を苦に手首でも切ったか?」

小梅「そ、それが……」

小梅「壊れたコントローラーでやるゴールデンアイの如く、ひたすら壁に向かってゴツンゴツンと前進を続けていて……」

まほ「」

小梅「直前に乳首のイグニッションに触れたせいだとは思うんですけど……」

まほ「」

アンチョビ「ど、どうした西住、世界の終わりみたいな顔をして……」

ペパロニ「ホラゲナイトって感じっすね」

小梅「……考えにくいんですけど……」

小梅「多分、今日も“例のアレ”です……」

まほ「」

983: 2017/10/09(月) 04:57:11.00 ID:YB1tLH+jo

エリカ「……」

エリカ「やっぱり、今日も元に戻ってない……」

エリカ「周囲の明るさから言っても、日付は絶対変わってるのに……」

エリカ「これにも何か意味が……?」

エリカ「いや、それとも、意味があると思ってたのが間違いだった……?」

エリカ「今までのはただの予兆で、これが本番……?」

エリカ「……」

エリカ「ダメね……考えてもさっぱり答えが出ないわ……」

沙織「まさかコンビニに戦車で行くことになるなんて……」

エリカ「私だってまさかコンビニに戦車で行くことになるなんて思わなかったわよ」

エリカ「……“戦車で”のニュアンスが大きく違うけども」 ハァ

984: 2017/10/09(月) 05:00:17.77 ID:YB1tLH+jo

エリカ「……」

エリカ「それにしても、本当に廃校で、この子達もそれを受け入れたなんてね……」

エリカ「……」

エリカ「どこに転校してくるのかしら」

エリカ「ひょっとして……うち……?」

エリカ「転校手続きには保護者の印鑑がいるし、黒森峰以外の転校で判を押すわけが……」

華「……みほさんは?」

沙織「一緒に行こうか?」

エリカ「はあ? 小学生じゃないんだから……」

エリカ「……」

エリカ「アンタの親友の座、気付けばすっかりこのアホどもがしっくりくるようになったわね……」

986: 2017/10/09(月) 05:26:06.24 ID:YB1tLH+jo

優花里「西住流家元も見てみたいですし……」

エリカ「はァ~~???」

エリカ「何言ってンのよアンタは!」

エリカ「あの人は黒森峰の指導や西住流の指導で多忙なのよ!?」

エリカ「娘の友人ってだけでアンタみたいな小汚いマルチーズみたいな奴に会うわけないでしょ!」

みほ「……ううん。大丈夫。一人で帰れる」

エリカ「よーしよく言ったわ!」

優花里「そうですか……」

エリカ「そうよそうよ、ほらもっと言ってやんなさい!」

みほ「また今度遊びに来てね」

優花里「……はいっ!」 パァァァ

エリカ「はぁぁぁぁ!?」

エリカ「何甘やかしてンのよ!」

エリカ「大体アンタ、まだ西住家に許されきったわけじゃないでしょうが!」

987: 2017/10/09(月) 05:28:11.10 ID:YB1tLH+jo

華「私は明日、家に帰ります」

沙織「私もそうしようかなあ」

みほ「私も……」

エリカ「!?」

エリカ「ちょ、待ちなさい!」

エリカ「アンタ明日帰ってくるわけ!?」

エリカ「だ、ダメよそんなの!」

エリカ「それってつまり、その、暴走してる私の身体に会っちゃうってことでしょ!?」

エリカ「ダメダメ絶対、そんなのダメ!!!」

エリカ「ちょっとポンコツ戦車!」

エリカ「いい加減私の身体に戻しなさいよ!」

988: 2017/10/09(月) 05:36:11.74 ID:YB1tLH+jo

みほ「!」

みほ「止まって下さいっ!」

キキーーーーッ

エリカ「どわっぷ!」

エリカ「な、何よいきなりっ!」

エリカ「急停止されるとこっちは結構苦しいんだからね!?」

みほ「そのままバックして!」

キュラキュラキュラ

優花里「どうしたんですか……?」

みほ「わあ~!」

エリカ「げっ……この看板に書かれたボコって……確か……」

989: 2017/10/09(月) 05:38:45.60 ID:YB1tLH+jo

みほ「知らなかった!」

みほ「こんなとこがあるなんて!!!」

沙織「今までで一番テンション上がってるよ……」

エリカ「はん」

エリカ「ファンとか言ってる割に情報収集がおろそかなのね」

エリカ「私はネットサーフィンのついでに調べたことがあるから知ってたけど?」 ハン

エリカ「……あ、べ、別にアンタといつか行く気だったとかそういうんじゃ――」

ワイワイガヤガヤ

エリカ「……」 ポツーン

エリカ「……そりゃそうよね……」

エリカ「私は戦車で、声も聞こえてないんだから、そりゃ私は駐車場で留守番よね……」

エリカ「……」

エリカ「ふん、別にいいわよ、あんな子供だましみたいなキャラクターのミュージアムなんてハナっから興味ないし」

990: 2017/10/09(月) 05:45:26.12 ID:YB1tLH+jo

エリカ「ほんっと、待ってる間は暇ねえ……」

エリカ「……」

エリカ「それにしても、あの子はマジで全然変わってないわね……」 ハァ

エリカ「……」

エリカ「やっぱり、こういう交流が目的なら、スーパーギャラクシーに幽閉されてるタイミングで入れ替わる理由がないのよねえ」

エリカ「ってことは、本当に意味も法則性もなく入れ替わってるのかしら」

エリカ「……」

エリカ「……入れ替わり……」

エリカ「向こうの私は乳首のイグニッションで動いている……」

エリカ「つまり、言うならば、Ⅳ号戦車の魂は、私の魂と入れ替わるようにして私の身体に入っている……」

エリカ「……」

エリカ「もし……」

エリカ「Ⅳ号戦車にも魂みたいなものがあるといたら……」

エリカ「いつか赤星が言っていたように、物にも魂が宿るとしたら……」

エリカ「廃校が決まって、スーパーギャラクシー収納前にあの子達と何かの交流をして……」

エリカ「それで、あの子達や大洗を救おうと考えるかもしれない……」

エリカ「……」

エリカ「考えづらいけど……元々考えづらい意味不明な事態だものね……」

エリカ「ありえるのかもしれない……」

エリカ「これまでが、私の方の我儘でホイホイ入れ替わっていたのだとしたら……」

エリカ「今回のコレは、Ⅳ号戦車の方の意思――」

991: 2017/10/09(月) 05:45:53.23 ID:YB1tLH+jo






エリカ「Ⅳ号戦車が私に、何かをさせようとしている――――?」






 

992: 2017/10/09(月) 05:48:45.33 ID:YB1tLH+jo
スレも1000行きそうですし、もう朝なので投下を終わります
次の更新の時に新スレ建てよう

Ⅳ号戦車「ドゥルルルルルルン……!?」 エリカ「貴女の名は」

引用: エリカ「入れ替わってる……!?」 みほ「貴女の名は」