375:◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:25:35.54 ID:QqDzUTY0

376: 2009/06/28(日) 17:26:11.75 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「あの人にわたしたい」

―密林、子供達の遊び場―

紫ガミザミ 「のう、少女よ。ちと聞きたいことがあるのじゃがの」
少女 「ん? どうしたの?」
紫ガミザミ 「時たまおぬしの家に顔を出す、黒い竜がおるじゃろ?」
少女 「黒い竜……ナルガさんのことかな?」
紫ガミザミ 「ナルガ? ナルガというのか?」
バサルモス 「そうだよ。ナルガクルガさんは、樹海の防衛隊長をしてる人なんだ」
紫ガミザミ 「何と。おぬしも知っておるのか」
バサルモス 「そりゃもう。あの人は、俺達の目標みたいなものだからね」
モンハン イャンクック ペン画 原画
377: 2009/06/28(日) 17:26:30.29 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「俺も、もう少し大きくなったら防衛隊に入るんだ」
紫ガミザミ 「カム子の修行は良いのか?」
バサルモス 「まだオカマになるなんて、俺は一言も言ってないよ!」
少女 「紫ちゃん、それで、ナルガさんがどうかしたの?」
紫ガミザミ 「う……うむ。いや……まぁ……」
少女 「?」
紫ガミザミ 「な……何が好きなのかとか、どういう食い物が好みなのかとか……」
紫ガミザミ 「何か知っておらんかと思ってな……」

378: 2009/06/28(日) 17:26:59.12 ID:QqDzUTY0
少女 「そうだねぇ……ナルガさんは、お家に来てもほとんど喋らないからなぁ」
バサルモス 「あんまりコミュニケーションがとれる人じゃないって話だよ。パパが意思疎通ができないって怒ってた」
紫ガミザミ 「ふむ……」
少女 「あぁ、でもお家にきたら、必ずお酒を飲んでいくね」
紫ガミザミ 「酒か! 何を飲んでおるのじゃ」
少女 「うーん……何だろう。この前、紫ちゃんはいなかったけれど、ナルガさんとキングさんがお家で鉢合わせしたことがあって……」
バサルモス 「あぁ……あの時か……とても重い空気だったね……」
少女 「うん……黙々とおじさんと三人でお酒を飲んでたよ。一言も喋らずに……」
紫ガミザミ 「キングチャチャブーなどどうでもよいのじゃ。ナルガ殿の好物を、わらわは知りたいのじゃ」

379: 2009/06/28(日) 17:27:49.09 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「でも、そんなの知ってどうするのさ」
紫ガミザミ 「う゛っ……それは……まぁ……」
少女 「とりあえず、ツチハチノコのお酒だったと思うな。私、まだ良く見えないから、はっきりとは分からないけれど……」
少女 「ナルガさんとお話をしたいの?」
紫ガミザミ 「そっ……そんなことは申しておらぬ。わらわはただ、ちょっと、お渡ししたいものがあって……」
少女 「渡したいもの?」
紫ガミザミ 「あの方、いつもからだに傷がついておるじゃろう。とぉさまからお聞きしたのじゃ。常に前線で人間と戦っておると」
少女 「そうだねぇ。あの人、いつも血の臭いがするよ」
紫ガミザミ 「じゃ、じゃからわらわは、お守りにならんものかと思って……」
少女 「これ? (スッ)わぁ、耳飾り? 作ってきたんだぁ」
バサルモス 「ププッ」

380: 2009/06/28(日) 17:28:16.78 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「! 何がおかしい!」
バサルモス 「ふふふ、いやぁ、何でも」
紫ガミザミ 「その笑い顔無礼であるぞ! 何がおかしいかと聞いておる!」
バサルモス 「青春だと思った」
紫ガミザミ 「せいしゅん? よ、よく分からぬが馬鹿にするでない! わらわは、不意にだな」
紫ガミザミ 「ナルガ殿に、この黒真珠のお守りを、お渡ししたくなっただけじゃ!」
紫ガミザミ 「他意はない!!」
バサルモス 「いやぁ、渡したいって時点ですごい他意だよ」
紫ガミザミ 「ええいやかましい! 何がおかしい!?」
少女 「うぅん、おかしくないよ(なでなで)」
紫ガミザミ 「!!」
少女 「今日、ナルガさんがお家に来ることになってるの。そのときにちゃんとお話して、渡せば喜んでくれると思うな」
紫ガミザミ 「ほ、本当か!? ナルガ殿は受け取って下さるのだろうか」

381: 2009/06/28(日) 17:28:41.95 ID:QqDzUTY0
少女 「大丈夫だよ。あの人、顔は怖いけれどちゃんとお話をしてくれるよ」
バサルモス 「プププッ」
紫ガミザミ 「何を笑っておる! 二代目カム子!」
バサルモス 「まだカム子を継ぐなんて言ってないよ!!」
紫ガミザミ 「おぬしはあのオカムどもと乳繰り合っておるがお似合いじゃ。大人の話に口を出すでない」
バサルモス 「やめてよ人をもうカマみたいに言わないでよ!」
紫ガミザミ 「そ、そうと分かれば今日お伺いしてもいいだろうか」
少女 「(にこにこ)いいよ。一緒に渡そう」
紫ガミザミ 「(パァッ)少女……よし、とぉさまに頼んで、お酒も持ってくるぞな!」
紫ガミザミ 「夕刻また来る!(ズボッ)」

382: 2009/06/28(日) 17:28:57.20 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「行っちゃった……何? ナルガさんに一目ぼれでもしたのかな」
バサルモス 「カニなのに……」
少女 「一目ぼれって、素敵なことだと思うよ。種族が違くても愛し合えるって、すごいことだと思わない?」
バサルモス 「そ……そうだね」
バサルモス 「うん、確かにそうだ」
少女 「ナルガさん、おじさんのお話だと結婚もしてないみたいだし……」
少女 「もし紫ちゃんとカップルになれたら、もっと素敵だと思うな」
バサルモス 「いや、それはどうかなぁ……」
バサルモス 「いくらなんでもカニはないよ、カニは」

383: 2009/06/28(日) 17:29:25.92 ID:QqDzUTY0
―クックの巣、夕方―

クック 「(少女たちが少し遅いな……)」
クック 「(最近は日が落ちるのが遅くなってきたから、大丈夫だとは思うが……)」
クック 「(もう少し遅くなるようならば、探しに行った方が良いだろう)」
クック 「(……しかし、あの子にも友達ができて良かった……)」
クック 「(私は親にはなれるが、あの歳の子にとって、一番大切な、友達にはなれないからな……)」
ナルガクルガ 「邪魔をする(ヌッ)」
クック 「! ナルガか、早いな、今日は」
ナルガクルガ 「迷惑か」
クック 「そんなことはない。入ってくれ」

384: 2009/06/28(日) 17:30:18.25 ID:QqDzUTY0
クック 「最近、ラオシャンロンの容態もだいぶ快方に向かってきたようだ。めでたいことだ」
ナルガクルガ 「あの人間はいないのか」
クック 「あぁ、少女ならバサルモス君達と一緒に遊びに出ているよ」
ナルガクルガ 「……無用心だな」
クック 「?」
ナルガクルガ 「いくらラオシャンロンが認めたにせよ、人は人よ。あまりのうのうと出歩かない方が身のためかと、俺は思うが」
クック 「まぁ……確かに、それはそれなんだが。座ってくれ」
ナルガクルガ 「(スッ)」
クック 「あの子が人間でも、子供達は仲良くしてくれている。それは、とても大切なことではないかと私は思うんだ」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「ただそれだけのことが、私達大人にはなかなかできない。しかし子供なら、できるんだ」
クック 「随分前に、テオ殿とナナ殿の学び舎を見学した際に、聞いた言葉なのだがな」

385: 2009/06/28(日) 17:31:36.17 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「いいか、クックよ……人は人よ」
ナルガクルガ 「俺が竜であり、お前が鳥竜であるように、変わらぬ種というものは、本能のもっと奥深くに刻まれた業よ」
ナルガクルガ 「変えようとしても、そのカルマは変わることなどありはしない」
ナルガクルガ 「いつかきっと、お前が……」
ナルガクルガ 「後悔をするような日が来るのではないかと、俺は思うのだ」
クック 「…………」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「いや、今日は随分と饒舌ではないか。何も出さずにすまなかった。今、つまめるものでも用意しよう」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「わかっているよ」
ナルガクルガ 「?」
クック 「人間は人間だ。私達とは違う」
ナルガクルガ 「ならば何故ゆえに」
クック 「分からん……」

386: 2009/06/28(日) 17:33:03.92 ID:QqDzUTY0
クック 「分からんが……」
クック 「悲しいことというのは、なかなかに消えないものだからな」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「この壁に刻まれた焦げ目のように、奥まで入り込んで、とれやしない。悲しいことというものは」
クック 「その反面、私達は、人でも、モンスターでも変わらず、嬉しいことはすぐ忘れてしまう」
クック 「だから、心の底から喜べるという機会は、人生の上でとても、とても貴重なものなのだ」
クック 「悲しいことなんてすぐ、心に刻み込まれるものだがな」
クック 「私は、それゆえに子供達が、喜びを得ることができるのならば、将来ではなく今が」
クック 「今が、大切なのではないかと思うのだよ」
クック 「将来を作るのは、その今を経た、子供ではないか」
クック 「そうは思わないか」

387: 2009/06/28(日) 17:34:38.68 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」
クック 「や、話し込んでしまった。すまない。ツチハチノコの地酒でいいか?」
ナルガクルガ 「(スッ)…………つまみにはこれでも切るか」
クック 「! それはラオシャンメロンじゃないか。わざわざ持ってきてくれたのか。悪いなァ」
ナルガクルガ 「密林では今が熟れ時でな」
クック 「ほら、酒だ」
ナルガクルガ 「(ぐびっ)……うむ……」
クック 「そういえば、緑コンガさんの怪我も、あの時から快方に向かっているらしいな」
ナルガクルガ 「……あァ。そう聞く」
クック 「前よりもますます、ブランゴ一族……いや、今はラージャン一族か……と、交流が減っていくばかりだが……」
ナルガクルガ 「……猿には猿の掟というものがあるのだろう(ぐびっ)」
ナルガクルガ 「それに、また勝手に侵攻を始めるなどという馬鹿な真似は、当分しないだろう」
ナルガクルガ 「奴らにも、子供がいる……」

388: 2009/06/28(日) 17:34:56.86 ID:QqDzUTY0
クック 「(ぐびり)……そうか、そうなのか……」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「ナルガ、お前はそろそろ、相手を探さないのか?」
ナルガクルガ 「……ククッ」
クック 「?」
ナルガクルガ 「お前に会うと、必ずその話になる」
ナルガクルガ 「酔いが回ると、また言い出すぞ。今日は一回目だ」
クック 「そう言うな。これでも友人として心配しているんだ」
ナルガクルガ 「心配……?」
ナルガクルガ 「それこそ、余計なお世話というものよ(ぐびり)」

389: 2009/06/28(日) 17:35:26.06 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「独りはいい……独りは気楽だ」
ナルガクルガ 「お前のように、厄介者を抱え込もうとする、その気が知れん」
ナルガクルガ 「人は所詮独りよ。共にいようが、共に戦おうが、結局成すのは自分自身よ」
ナルガクルガ 「自分自身の行動に、誰が責任を取る。誰も興味などない、他人の行動などにはな」
ナルガクルガ 「責任を取れねば朽ちてゆくだけよ。何者と共にいようが変わらぬ」
クック 「否定はしないよ。それは、お前が強いから、そう感じるのだと思う」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「しかし、どんなに強いものでも、どこかでほころびというものが、いつかは出てくる」
クック 「何となくそう言える……」
クック 「心も、体も、強ければ強いほど、何かを失った時の喪失感は埋めることはできない」
クック 「もはやそこで完成してしまっているからな……」

390: 2009/06/28(日) 17:35:48.56 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」
クック 「誰か、お前のことを分かってくれる子と話をするということだけでも、随分に世界が違うものと思うぞ」
ナルガクルガ 「くだらん……」
クック 「(ぐびり)まぁ、好き悪しといえば好き悪しなんだがな」
クック 「折角だ、ラオシャンメロンを切ろう」
クック 「もう少ししたら、私は少女を呼びに行くよ。お前は自由に飲んでいてくれ」
ナルガクルガ 「その必要はない」
クック 「? 何故?」
少女 「おじさんー、ただいまー」
クック 「おお、帰ってきたか。杖の調子はどうだ?」
少女 「(コツコツ)うん、大丈夫だよ。なくてもけっこう歩けるようになったの。誰か来てるの?」
ナルガクルガ 「…………」
少女 「分かった。ナルガさんだ」
ナルガクルガ 「……ふん……」

391: 2009/06/28(日) 17:36:10.23 ID:QqDzUTY0
クック 「バサル君は?」
少女 「もうじき日が落ちるから、今日は早く帰るって。アカムさんに呼ばれてるらしいよ」
クック 「アカムさん……本気であの子を二代目にするつもりなのか……」
ナルガクルガ 「……何かいるな。嗅ぎなれぬ臭いがする」
少女 「あ、今日はじめて遊びに来たんだけど……」
紫ガミザミ 「(おどおど)」
少女 「ほら」
紫ガミザミ 「こ……こんにちは」
クック 「紫殿じゃないか」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「(チラッ)…………(ビクッ!!)」
クック 「どうしたんだ、そんなところに突っ立ってないで入りなさい」
少女 「ほら、行こう。紫ちゃん」
紫ガミザミ 「う……うぬ……」

392: 2009/06/28(日) 17:36:29.74 ID:QqDzUTY0
クック 「ダイミョウ殿が頭首になられてから、無茶な争いはなくなったのだろう。気に病むことはない」
紫ガミザミ 「邪魔をする」
ナルガクルガ 「ザザミ一族の一人娘ではないか……」
紫ガミザミ 「(ビクッ)」
ナルガクルガ 「恐ろしいか。なるほどそうだろう。お前の祖父を手にかけたのは、俺だからな」
少女 「あ……」
少女 「(紫ちゃんのおじいさん……ショウグンギザミさんは、あの時にナルガさんが……)」

393: 2009/06/28(日) 17:36:57.04 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「き……気にしてはおらぬ」
ナルガクルガ 「ほう。随分と異なことを言う」
紫ガミザミ 「じじさまは、随分前からおかしかった」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「三年前の事件から、じじさまはお人が変わったようになってしまった……」
紫ガミザミ 「でも、誰もじじさまをお止めすることはできなかった」
紫ガミザミ 「とぉさまも……」
紫ガミザミ 「あの時は、じじさまは、わらわの側近や、何よりとぉさまを巻き込んで、大変なことに陥らせるところであった」
紫ガミザミ 「わらわはとぉさまが好きじゃ。側近のAとBも大好きじゃ」
紫ガミザミ 「じゃが、わらわは戦いをとめることができなんだ」
紫ガミザミ 「大切な、とぉさまや側近達を失うところであった」
紫ガミザミ 「ザザミ一族を代表して、お主には……」
紫ガミザミ 「一度、お礼を申さねばならぬと、わらわはそう思っておった」

394: 2009/06/28(日) 17:37:15.67 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「……」
紫ガミザミ 「だから……その……」
紫ガミザミ 「気にするでない。わらわは、お主にそう言いたいのじゃ」
ナルガクルガ 「……ふっ……」
紫ガミザミ 「……?」
ナルガクルガ 「手にかけた孫から気にするなとはな。笑い種も良いところよ」
紫ガミザミ 「わ、わらわは真面目に言うておる」
ナルガクルガ 「良いか蟹の娘」
紫ガミザミ 「…………」
ナルガクルガ 「いかなる理由があろうと、仲間頃しは法度よ。許されることではない」
ナルガクルガ 「賞賛されることでもない……」
ナルガクルガ 「ゆえに、俺はお前に礼を述べられる筋合いはない」

395: 2009/06/28(日) 17:37:38.11 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「…………」
クック 「まぁ、そう言うなナルガよ。子供からの言葉は、素直に受けておくべきだ」
ナルガクルガ 「知ったことではない。どんな事情があろうとな(ぷいっ)」
クック 「紫殿、こっちに来なさい。丁度彼がラオシャンメロンを持って来てくれてね。今切ってあげよう」
少女 「ラオシャンメロン!」
紫ガミザミ 「う……うむ」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「(改めて見ると、傷だらけの恐ろしい顔じゃ……)」
紫ガミザミ 「(しかしこの人が……)」
紫ガミザミ 「(AやB、とぉさまを、じじさまの狂気から救ってくれたのだ)」
紫ガミザミ 「(きっと、物凄く強いのじゃろう……)」
ナルガクルガ 「(ぐびり)」

396: 2009/06/28(日) 17:38:25.08 ID:QqDzUTY0
クック 「紫殿は、お家には連絡をしたのか?」
紫ガミザミ 「うむ。それと、これをとぉさまから預かった」
クック 「これは……ツチハチノコの上酒だ。わざわざこんな高価なものを……」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「いつもわらわは少女に世話になっている。その礼と、とぉさまはもうしておった」
ナルガクルガ 「どれ……(スッ)」
紫ガミザミ 「え……」
クック 「ナルガ、もう帰るのか?」
ナルガクルガ 「子供がいる場所で酒盛りというわけにも行かぬだろう。俺は、コレで失礼する」
少女 「ナルガさん、一緒にラオシャンメロンを食べていこうよ」
ナルガクルガ 「あまり近づくな、人間」
少女 「……?」
ナルガクルガ 「他の者はどう思っていようが、俺はまだ人間の存在を認めたわけではない。無害であるから、放置しているだけよ」
少女 「でも、ラオシャンメロンは今食べなきゃなくなっちゃうよ」

397: 2009/06/28(日) 17:38:44.04 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」
クック 「そういうわけだ。妙な気遣いはいらんよ。なぁ紫殿」
紫ガミザミ 「う……うむ。ザザミ一族の中でも、ナルガ殿は噂の種なのじゃ」
ナルガクルガ 「……?」
紫ガミザミ 「じじさまの圧政から、みなを解放してくれた黒くつぉい竜だって、みんな噂をしておるのじゃ」
ナルガクルガ 「…………(ドスッ)」
ナルガクルガ 「……お前は何か、勘違いをしている」
紫ガミザミ 「勘違い?」
ナルガクルガ 「俺は黒いが、強い竜ではない。それこそ、俺より強い竜などごまんといる」
ナルガクルガ 「その中でも俺が強く見えるのは、俺が独りで、それゆえに非情だからだ」
ナルガクルガ 「褒められるようなことではない」

398: 2009/06/28(日) 17:39:04.28 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「それでも、つぉいことには間違いないのじゃろう?」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「先日も、ハンターの攻撃からとぉさまを助けてくれたらしいではないか。どんな理由であれ、つぉいのは格好いいぞな」
ナルガクルガ 「格好いい……俺がか。奇妙なことを言う餓鬼だ」
紫ガミザミ 「わらわはがきではない。英才教育を受けたスーパーカニであるぞ」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「お主、話をしてみると存外無礼じゃな。友達おらぬじゃろ?」
ナルガクルガ 「ふっ……子供に何が分かる」
紫ガミザミ 「ぬぅ、さっきから褒めてしんぜておるのに、子供扱いばかりしおってからに!」

399: 2009/06/28(日) 17:39:22.50 ID:QqDzUTY0
クック 「三人とも、ラオシャンメロンが切れたぞ」
少女 「わーい!」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「おお、いい香りがするぞな。何じゃこれは」
少女 「樹海の奥の方に生えてるメロンらしいの。時々ナルガさんが持ってきてくれるの」
紫ガミザミ 「初めて見るぞな」
ナルガクルガ 「(ぐびり)」
紫ガミザミ 「! お主また、わらわのことを子供と思って笑ったな!」
ナルガクルガ 「……(ぐびり)」
紫ガミザミ 「むきぃぃ! 何だか腹がたつぞ!」

400: 2009/06/28(日) 17:40:25.14 ID:QqDzUTY0
クック 「ほら、紫殿も」
紫ガミザミ 「う……うぬ。(シャリ)ほう! 火薬イチゴより甘くて冷たくてンまいぞな!」
クック 「それは良かった。まだ沢山あるから、どんどん食べるといい」
少女 「おいしいね!」
紫ガミザミ 「うぬ!」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「そういえば、ナルガ。くすりの取り締まりは上手くいっているのか?(ぐびり)」
ナルガクルガ 「正直なところ、全ての取り締まりは難しいな」
クック 「そうか……」
ナルガクルガ 「エスピナス兄妹にも手伝わせ、森の中のマンドラゴラはほぼ全て摘み取ったが、クイーンランゴスタが非協力的だ」
クック 「だろうな……彼女達は、それを餌にしている一面もある」
クック 「今度、またキングに頼んで、クイーンと話をしてみないといけないな」

401: 2009/06/28(日) 17:42:03.30 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「それに最近は、別エリアからの新種のヤクも確認されている」
クック 「別エリア?」
ナルガクルガ 「樹海を抜けた先にある、ラオシャンロンの統治から外れた自治区域から流れて来ているとの話だ」
クック 「あそこか……我々も滅多に寄り付かないように、提携を結んでいる、海を挟んだ場所……」
ナルガクルガ 「マンドラゴラのヤクは、ある程度息などで分かるが、あちらからのものは判断がつけがたいな。何しろ前例がない」
クック 「猫が海を渡って持ち込んだのだろうか」
ナルガクルガ 「おそらく」
クック 「しかし、彼らが海路から持ち込む品々は貴重なものも多い。それら全てを規制することもできないだろう」
クック 「考えられるとすれば、あちら側と交易を結ぶことだが……」
クック 「今の我々のまとまりでは、難しいかもしれん」
ナルガクルガ 「…………」

402: 2009/06/28(日) 17:42:38.51 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「……新種の獣竜種らしき卵も、この前猫が持ってきたものが今、フルフルの所で保管されている」
クック 「何!? よりによって卵を持ち帰ってきたのか!?」
ナルガクルガ 「持ち帰ってきた猫は、寂れた巣の中で拾ってきたと言っていたが、本当のことかどうか……」
ナルガクルガ 「盗んできたのならば、孵る前に返してこねばならぬが、フルフルの話では、もうじき生まれるそうだ」
ナルガクルガ 「そうなれば面倒なことになる……」
ナルガクルガ 「俺が心配しているのは、ヤクよりもむしろそれよ」
ナルガクルガ 「面倒なのは一匹で充分よ(ギ口リ)」
少女 「?」

403: 2009/06/28(日) 17:43:17.63 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「いずれにせよ、一度海を渡らねばならぬかも知れぬ」
クック 「…………人間達も、里に近い場所の素材はとりつくしたからな……」
クック 「外に目を向けるかもしれない時期に、面倒なことに……」
クック 「その卵は、ラオシャンロン殿やヤマツカミ様は存在を知っているのか?」
ナルガクルガ 「まだ知らぬはずだ。興味本位で猿どもが何をするか、分かったものではない。俺が戒厳令を敷いた」
クック 「そうか……明日あたり、私もフルフルさんのところに行ってみよう。ヤマツカミ様には、少なくとも知らせねばなるまい」
ナルガクルガ 「問題は誰が親になるかということよ」
クック 「…………」
ナルガクルガ 「フルフルは高齢だ。もはや昔のような力はない」
ナルガクルガ 「本来ならば親としての条件付けを施すのは適切ではないが……」
ナルガクルガ 「やはり、テオ殿とナナ殿に任せるしかなかろう」

404: 2009/06/28(日) 17:44:06.80 ID:QqDzUTY0
クック 「とにかく、面倒なことになる前に、もう一度猫を、卵を拾った場所に向かわせねばなるまいな」
ナルガクルガ 「卵は孵化が近いため、もはや動かすことはできんが、猫は既に向かわせた」
クック 「そうか……」
少女 「ねぇ、ナルガさん。あたらしい子が生まれるの?」
紫ガミザミ 「どんないかつい奴が生まれるのか、楽しみじゃのぅ」
少女 「きっと、すごく可愛い子だよ!」
ナルガクルガ 「ふっ……子供の発想だな……」
紫ガミザミ 「ぬぅ。何がおかしい! お主先ほどから子供子供と無礼であろう」
ナルガクルガ 「………………」
紫ガミザミ 「わらわも見てみたいぞな。ひょっとしたら、一番最初にわらわを見て、かぁさまと思うやも知れぬ!」
クック 「紫殿、それはちとまずい」
紫ガミザミ 「何故じゃ?」
クック 「今回の件に関しては、安易に条件付けはしないほうがいいだろう。いずれにせよ、フルフルさんと話をしてからだな」
紫ガミザミ 「むう、しかし興味はあるぞな。ナルガ殿、生まれる時はわらわも連れて行ってくりゃれ」
ナルガクルガ 「……俺は必要以上に揉め事には干渉せん。行きたいのならば自分の力で、独りで向かうんだな」
紫ガミザミ 「つれないのぅ。お主、ますます友達おらぬじゃろ?」
ナルガクルガ 「…………」

405: 2009/06/28(日) 17:44:45.35 ID:QqDzUTY0
クック 「まぁまぁ。悪戯をしないというのなら、私が連れて行ってあげよう」
紫ガミザミ 「本当か!? 話が分かるぞなクック殿。ナルガ殿とは大違いじゃ!」
ナルガクルガ 「(ぐびり)」
クック 「この前、数十年前の大地震のとき、地下に埋もれてしまったフルフルさんの卵も何個か見つかったそうじゃないか」
クック 「孵る確立は物凄く低いだろうが、雪山の氷層に埋もれていたから、もしかしたら新しい子が誕生するかもしれない」
少女 「本当!?」
クック 「今、フルフルさんは卵を温めている過程で動くことができないんだ」
クック 「少女はまだ見ていないだろう? 新種の卵の確認がてら、紫殿と見に行こうか」
少女 「小さなフルフルさんが生まれるの!? わぁ、楽しみ! 行くぅ!」
紫ガミザミ 「そういえばフルフルとは誰ぞな?」
少女 「雪山に住んでる優しいおばあちゃんだよ。紫ちゃんも、すぐ好きになるよ」

406: 2009/06/28(日) 17:45:06.16 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「(ぐびり)」
アクラ・ヴェシム 「大将、つきましたぜ……」
××××××××× 「ご苦労」
クック 「あの足音は……」
クック 「アクラ君、それにキングじゃないか!」
キングチャチャブー 「邪魔するぜ……」
チャチャブーA 「ビィッ!」
チャチャブーB 「ビィッ!」
キングチャチャブー 「お前らはここにいろ……」
アクラ・ヴェシム 「了解ですぜ……」
チャチャブーA 「ビィ!」
チャチャブーB 「ビィ!」

407: 2009/06/28(日) 17:45:29.27 ID:QqDzUTY0
クック 「どうしたんだ、キング。わざわざこんな夜分に」
キングチャチャブー 「いや……いい魚が入ったもんでな……」
ナルガクルガ 「…………」
キングチャチャブー 「……ほらよ(ドサッ)」
クック 「これは、太公鯉ではないか! わざわざすまないな。今、ツチハチノコの上酒を開けるところなんだ。飲んでいってくれ」
キングチャチャブー 「………………(ドスッ)」
ナルガクルガ 「………………」
クック 「アクラ君には、ハチミツ酒でいいかな?」
アクラ・ヴァシム 「お構いなく……」
クック 「遠慮せずに。君達も飲んでいくといい」
チャチャブー達 「ビィィ!」

408: 2009/06/28(日) 17:45:54.55 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「あ……あれがキング……初めて見た……」
少女 「キングチャチャブーさん、こんばんは」
キングチャチャブー 「(じろり)…………あァ…………」
紫ガミザミ 「(ひそひそ)何じゃ、こやつもコミュニケーション不全か……?」
少女 「(ひそひそ)そういう言い方をしたら失礼だよ。いい人だし、とっても偉いみたいだよ」
キングチャチャブー 「(ぐびり)」
ナルガクルガ 「(ぐびり)」
クック 「折角だから太公鯉を焼くか。少女、薪に火を起こすから手伝ってくれないか」
少女 「うん、分かったよ」
紫ガミザミ 「な……待つのじゃ少女! 独りで置いていくな!」
少女 「薪は……これでいいかな……」
紫ガミザミ 「あぁ……行ってしまった。空気が重苦しいぞな……」
キングチャチャブー 「(ぐびり)」
ナルガクルガ 「……(ぐびり)」

409: 2009/06/28(日) 17:46:23.59 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「(しかしコレはチャンスじゃ……)」
紫ガミザミ 「(想像とは違う人じゃったが、とぉさまを助けてくれたのは事実じゃ)」
紫ガミザミ 「(……じゃが、こんなものを渡しても喜んでくれるのじゃろうか……)」
キングチャチャブー 「……ダイミョウ家の娘じゃねェか……」
紫ガミザミ 「(ビクッ)……う、うむ」
キングチャチャブー 「餓鬼が、ここで何をしている…………」
紫ガミザミ 「な……何をしているって、そんなことお主には関係がなかろう」
キングチャチャブー 「…………(ぐびり)」
紫ガミザミ 「(う……怒った……?)」
キングチャチャブー 「違ェねェ(ぐびり)」

410: 2009/06/28(日) 17:46:57.85 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「ぬ!? 魚の焼けるいい匂いがしてきたぞな」
キングチャチャブー 「おい小僧……」
ナルガクルガ 「…………(ぐびり)」
キングチャチャブー 「てめぇのことだ……」
ナルガクルガ 「……?」
キングチャチャブー 「(ドサリ)」
ナルガクルガ 「! これは……マンドラゴラ? こんなに沢山……」
キングチャチャブー 「今朝方、ウチのモンがハチから巻き上げた……てめぇ、集めてやがるんだろう」
ナルガクルガ 「(スッ)」
キングチャチャブー 「処分しとけ……」
ナルガクルガ 「(グビリ)」

411: 2009/06/28(日) 17:47:21.82 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「何ぞな、この赤いキノコは……」
紫ガミザミ 「うあ、変な臭い……」
ナルガクルガ 「(バッ)」
ナルガクルガ 「何してる……餓鬼」
紫ガミザミ 「な……何じゃ。ちと気になっただけではないか」
紫ガミザミ 「そんなに乱暴にせずとも良いではないか」
ナルガクルガ 「黙れ……」
紫ガミザミ 「!」
ナルガクルガ 「餓鬼が触っていいものと、悪いものがある……」
ナルガクルガ 「好奇心も大概にしろ……」
キングチャチャブー 「(ぐびり)」

412: 2009/06/28(日) 17:47:40.09 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「(ひくっ)」
紫ガミザミ 「ふ……ふん! そんなもの、こちらからお断りじゃ!」
紫ガミザミ 「不愉快じゃ。わらわはもう帰る!」
紫ガミザミ 「(ズボボボッ)」
ナルガクルガ 「…………」
紫ガミザミ 「(ズボッ…………チャリィィン)」
少女 「みなさん、お魚焼けたよー」
少女 「あれ? 紫ちゃん?」
クック 「ん? 紫殿は帰ったのか?」
クック 「何か落ちているな……」
クック 「黒真珠の耳輪ではないか」
少女 「!」

413: 2009/06/28(日) 17:47:58.06 ID:QqDzUTY0
少女 「それ、紫ちゃんが、ナルガさんのために作ったものなの」
ナルガクルガ 「? 俺のために?」
少女 「お父さんを助けてくれて、カッコよくて……」
少女 「それに、いつも傷だらけだから……」
少女 「お守りだって、そう言って、今日はそれをナルガさんに渡しに来たのに……」
ナルガクルガ 「…………」
クック 「子供からの贈り物だ。ほら、持っているといい」
クック 「お前が独りきりで活動していると思っても、沢山の人がお前の活躍を見ているんだぞ」
キングチャチャブー 「…………」
ナルガクルガ 「ふん……こんなもの……」

414: 2009/06/28(日) 17:48:19.14 ID:QqDzUTY0
キングチャチャブー 「……てめぇ、女からの貢物を投げ捨てる気か……?」
ナルガクルガ 「……貴様には関係がないことだ……」
キングチャチャブー 「あァ……ねェな……」
キングチャチャブー 「だが、男にゃァ、守らなァいけんものがあるってな……」
キングチャチャブー 「どんな外道になっても、それだけぁ忘れるなと……」
キングチャチャブー 「俺ァ……先代のキングから教わったことがあるもんでな……」
ナルガクルガ 「(ぐびり)」
キングチャチャブー 「……女からの供物と、うめぇ酒はな……命の次に大事なもんだ……」
キングチャチャブー 「(ぐびり)どっちも……そう簡単には手にはいらねぇ」

415: 2009/06/28(日) 17:49:16.44 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「ふん……(グッ)」
クック 「ナルガ、魚を食べていかないのか?」
ナルガクルガ 「興が削がれた。また、出直すことにしよう……」
キングチャチャブー 「(ぐびり)」
ナルガクルガ 「邪魔をしたな(ズン、ズン)」
少女 「またね、ナルガさん」
ナルガクルガ 「…………(ズン、ズン)」
少女 「あぁ、紫ちゃん……何か怒っちゃったのかな……」
少女 「私が目を離してる間に……」
少女 「独りでちゃんと帰れるかな……」
クック 「大丈夫だ。心配は要らないよ」
少女 「どうして?」
クック 「ほら」
少女 「あ……! キングさんが持ってきた袋と……紫ちゃんの耳輪がなくなってる!」
クック 「ナルガはああ見えて義理堅い男さ……」
クック 「ほら、キング。それにアクラ君やチャチャブーさんたちも、魚が焼けたぞ」
アクラ・ヴァシム 「や、こりゃあり難ェ」
チャチャブー達 「ビィィ!!」
キングチャチャブー 「(ぐびり)」
クック 「少女、明日あたり、一緒にフルフルさんのところに行こうか」
少女 「うん! 紫ちゃんも連れて行っていい?」
クック 「もちろんだ。さぁ、ラオシャンメロンの残りを食べてしまおう」

416: 2009/06/28(日) 17:49:46.57 ID:QqDzUTY0
―樹海入り口―

紫ガミザミ 「(ふん、子供子供と……)」
紫ガミザミ 「(馬鹿にしくさりおって……)」
紫ガミザミ 「(もうあんな黒いの、知ったことか!)」
紫ガミザミ 「(お礼を受け取る気もないみたいだし、最初っからわらわのことなんぞ馬鹿にしておるのじゃ!)」
紫ガミザミ 「(所詮、カニと竜など、別の種族なのじゃ!!)」
紫ガミザミ 「…………」
紫ガミザミ 「(うぅ……寒くなってきた)」
紫ガミザミ 「(勝手に飛び出してきてしまったが、少女やクック殿に失礼であった……)」
紫ガミザミ 「(しかし今更戻るのも情けのぅ)」
紫ガミザミ 「(少し遠いが、歩いて帰るか…………)」
紫ガミザミ 「(トボトボ)」

417: 2009/06/28(日) 17:50:01.95 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「! (何じゃ? 何かが木の上を飛び回っておる!)」
紫ガミザミ 「ひっ……(ビクッ)」
紫ガミザミ 「(こ……怖い……!)」
紫ガミザミ 「(もしも凶暴な奴じゃったら……)」
紫ガミザミ 「(は……はよう地面に……)」
紫ガミザミ 「(うわっ! ここは硬くて潜れぬ!!)」
紫ガミザミ 「(ど……どこかに身を隠さねば……)」
×××××× 「(シュバッ)」
紫ガミザミ 「ピィィッ!!(ビクッ)」

418: 2009/06/28(日) 17:50:51.13 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………何を氏んだふりなどしている。餓鬼め…………」
紫ガミザミ 「(チラッ)…………し……氏んだふりなどしておらぬ!!」
紫ガミザミ 「な、何じゃ。またわらわを馬鹿にせんと、おいかけてまで来たのか!」
ナルガクルガ 「お前になど興味はない……俺の巣もこちらの方向なだけだ……」
紫ガミザミ 「!!」
紫ガミザミ 「(ぬ……! ナルガ殿の耳に、わらわが作った黒真珠のお守りが!!)」
紫ガミザミ 「(怒って出てくるときに、落としてしまったのか!)」
紫ガミザミ 「(もしかして、この方は、わらわのことを心配して……)」
ナルガクルガ 「……何をしている。それとも独りで帰るか。それもまた一興」
ナルガクルガ 「この一帯は、夜は猿の縄張りとなるがな……」
紫ガミザミ 「さ……猿!?(ビクッ)」
ナルガクルガ 「行くぞ……」
ナルガクルガ 「背中に乗れ」
紫ガミザミ 「…………」
紫ガミザミ 「う……うぬ!」

419: 2009/06/28(日) 17:52:05.27 ID:QqDzUTY0
お疲れ様でした。SSの書き溜めはここまでとなります

no title


また、続きを書きましたら投稿させていただきます
短編完結ではなく、続き物となってしまい申し訳ありません
気長にお付き合いいただけましたら幸いです

433: 2009/07/03(金) 16:14:55.23 ID:zd2zU5k0
2.リオレイア 「どうしてあなたはそんななの?」

―水没林―

ラギアクルス 「それでは本当なのか……ボルボロス様の卵が盗まれたという話は」
チャナガブル 「ああ。今は砂原は大騒ぎになっている。何しろ、数十年ぶりのお子だ」
ラギアクスル 「このままでは我ら騎士の面目が立たぬ……」
チャナガブル 「どうするつもりだ、ラギア」
ラギアクスル 「盗んだのは、チャチャ族ではあるまい。おそらくは猫だ」
ラギアクルス 「ボルボロス様の巣付近で、見慣れぬ猫の姿を見たという者の話を聞いた」
ラギアクルス 「このあたりには、あまり猫は生息していない」
ラギアクルス 「おそらく、臨海線を越えた、あのフィールドからやってきた者だろう」

434: 2009/07/03(金) 16:15:37.78 ID:zd2zU5k0
チャナガブル 「お主、まさか……」
ラギアクルス 「お前はボルボロス様をお守りするのだ。我は海を越え、あちらに渡ろうと思う」
チャナガブル 「早計ではないのか」
ラギアクルス 「身内ではあるまい。卵を盗むなど重罪甚だしい。そんな愚考を成す者が、我ら騎士団の中にいるとは考え難い」
チャナガブル 「それはそうだな……だがお主のみに任せるわけにはいかぬ。私も……」
ラギアクルス 「いかぬ。お前はここで、副騎士団長としてみなの統率に当たらねば」
チャナガブル 「うむ……しかし……」
ラギアクルス 「何、我の速度ならば三両日もあればあちらに着くだろう。また、みなに余計な心配をさせたくはない」
チャナガブル 「分かった。いつ経つのだ?」
ラギアクルス 「一度ボルボロス様に拝謁してからだな……」
ラギアクルス 「このことが、御身に響かねばよいが……」

435: 2009/07/03(金) 16:15:58.57 ID:zd2zU5k0
―雪山、朝―

少女 「おばあちゃん、こんにちは!」
クック 「フルフルさん、お邪魔するよ」
フルフル 「ああ、少女にクックかい。すまないねぇ。出迎えもせんで」
クック 「いやいや、気にしないでくれ(ブルブルッ)」
少女 「外はすごい雪だよ。あんまり動かないほうがいいかも」
フルフル 「そうかいそうかい。今茶ァでも淹れてあげっかね」
クック 「いや、気遣いなく。私が淹れよう」
少女 「卵、みつかったの?」
フルフル 「あァ、そうなんだよ」

436: 2009/07/03(金) 16:16:52.24 ID:zd2zU5k0
フルフル 「雪山の割れ目に落ち込んでた、あたしの卵が少しねぇ。ためしにあっためてみてるんだがね。ここさね」
少女 「(ぺたぺた)うわぁ、卵でも大きいんだね」
フルフル 「どうやら、氷付けになってたみたいでね。この一つだけは無事のようなんだよ。もうじき生まれるねぇ」
少女 「素敵! 子フルフルちゃんだね!」
フルフル 「はっは。この歳のババァが子供っつぅのもおかしな話なんだがね。まぁ捨て置くわけにもいかんじゃろ」
少女 「こっちの卵は……何だかゴツゴツしてる」
フルフル 「うむ。猫が、どうやらここから離れた場所から盗んできたらしい卵でなァ」
フルフル 「このままにしておいては、氷付けになる前に氏んじまう」
フルフル 「しょうがないから温めてるってなわけじゃよ」
少女 「おばあちゃんの卵はつるつるしてるのに、まるでこれは岩みたい。それに、とっても熱いよ」
フルフル 「火山のモンスターかもしれんねぇ。ババァの皮はしなびて、もう熱さはよぉ感じんけどねぇ」

438: 2009/07/03(金) 16:18:19.19 ID:zd2zU5k0
クック 「それが、猫が海の向こうから盗ってきてしまったという卵か……見たことのないものだな」
フルフル 「あたしにもわからんねぇ。何が生まれるのか見当もつかんよ」
クック 「面倒ごとにならなければよいが……フルフルさんも、そのお歳では一度に二匹の子育ては辛かろう」
フルフル 「若造が心配なんて気の利いたことをするんじゃないよ。あたしはまだまだ大丈夫さ」
少女 「そういえば、地獄兄弟さんたちがいないね」
フルフル 「あいつら、卵を温める役をさせようとしたら逃げよった。いくじのない男どもよ」
少女 「おばあちゃん、私手伝うよ!」
フルフル 「ありがとよ。でも人間のお前にできることかい……そうさね、木の葉で、覗いてる方の卵の面を拭いてやってくんないかい」
少女 「うん!(ごそごそ)」
フルフル 「目はどうだい」
少女 「少しずつオオナズチさんの血を飲ませてもらってて、ずいぶん良くなったよ」
少女 「ぼやーっと何かが見えるくらい」
フルフル 「そうかい、それはなによりさね」

439: 2009/07/03(金) 16:19:15.31 ID:zd2zU5k0
少女 「あ……中で何か動いた。おばあちゃん、卵の中で何か生きてるよ!」
フルフル 「そりゃそうさ。卵は強いんだ。氷漬けになったくらいじゃ、氏にゃせんよ」
フルフル 「まさかあの人との忘れ形見が、ひょっこり出てくるとはねぇ」
少女 「こっちのごつごつしたのは、動かないねぇ」
フルフル 「うむ……ひょっとしたら、温めるのが間違っているのやもしれん」
フルフル 「どうにも火山の竜の処置は分からなくてね。ナナ・テスカトリを呼んでいるんだ。聞こうと思ってね」
少女 「ナナさんがここに来るの?」
フルフル 「あァ。もうじき来るはずさね」
少女 「わぁい。ナナさん、優しいから大好きだよ」
フルフル 「お前さんももう少し大きくなったら、ナナの学校に通ってみるといい」
クック 「おぉ、それはいい考えだ」
少女 「学校? 私が、学校に行けるの?」
クック 「少女が行きたいと言うなら、私から頼んであげてもいいぞ」
少女 「行きたい!」

440: 2009/07/03(金) 16:19:38.25 ID:zd2zU5k0
フルフル 「! 今卵が動いたな」
クック 「何と、もう生まれるのか?」
クック 「フルフルさん、ここに温めた木の実のスープは置くよ」
フルフル 「火山の卵は分からんが、あたしの卵はそろそろ生まれそうだねェ」
フルフル 「クックよ、火のついた炭を少し、ここらに集めてくれないか」
クック 「ああ、これくらいでいいかい?」
フルフル 「そこに、この卵を置いてくれ」
クック 「どっこいしょ……これでいいかな」
少女 「どうして卵を炭で炙るの?」
クック 「雪山は寒いから、生まれてきてすぐに凍えてしまわないように、こうするんだ」

441: 2009/07/03(金) 16:20:00.11 ID:zd2zU5k0
クック 「お……! 卵にヒビが入ってきたぞ!!」
少女 「わぁ……!!」
少女 「(よく見えないけれど、私くらいの大きさの卵が動いてる!)」
少女 「(フルフルさんの赤ちゃんが生まれるんだ!!)」
卵 「(カタカタ)」
卵 「(パリ…………)」
子フルフル 「キィィ!(モゾ……ッ)」
フルフル 「おぉ、ほんに生まれおった!」
クック 「元気な子じゃないか!!」
子フルフル 「ピィ、ピィ(モゾモゾ)」

442: 2009/07/03(金) 16:25:01.72 ID:zd2zU5k0
少女 「おじさん、もがいてるよ」
クック 「大丈夫。竜は自力で卵を出てきて、初めて一人の竜として認められるんだ」
子フルフル 「キィ……キィ…………」
フルフル 「坊や、こっちじゃ、おいで」
子フルフル 「! キィ……!(バッ)」
子フルフル 「(ドダッ)」
子フルフル 「(ズリズリ)……キィ…………」
フルフル 「よぉしいい子じゃ。こっちにきな。体ァ舐めてやっかんね」
子フルフル 「キィ」

443: 2009/07/03(金) 16:26:35.05 ID:zd2zU5k0
少女 「赤ちゃんでも大きいねぇ。無事に生まれてよかった!!」
フルフル 「少しすれば言葉を覚えるさね。竜は青年期までは成長が早いから、これだけ歩けりゃ大丈夫さ」
フルフル 「ペロペロ」
子フルフル 「クゥン」
フルフル 「はっは。あたしが母ちゃんだって分かるのかい。賢い子だ!」
クック 「良かったなぁフルフルさん。何か食べさせてあげないといけないんじゃないか?」
フルフル 「もう作ってあんのよ。魚のすり身をあわせたやつさね。ほれ、食いねぇ」
子フルフル 「キィ(もぐもぐ)」
フルフル 「ほっほっほ。食いよる。この子は元気に育つぞい!」
少女 「良かったね、おばあちゃん!」
少女 「(すっ)」
少女 「(なでなで)よろしくね。お姉ちゃんだよ」
子フルフル 「キュゥ」

444: 2009/07/03(金) 16:28:31.56 ID:zd2zU5k0
クック 「めでたいめでたい。樹海に猫を飛ばしてヤマツカミ様たちにも知らせよう」
フルフル 「そんな大げさなことでもないさ。でも生まれて悪いことなんてなにもないかんねぇ」
フルフル 「最も、あたしがちゃんと育ててやれるか、体がもつかどうかちょいと心配だが」
少女 「おばあちゃん、私、この子を育てるの手伝う! おじさん、いいよね?」
クック 「手伝うって、ここでかい?」
少女 「(こくり)」
クック 「(ふっ)……ああ。フルフルさん、迷惑でなければ少女も使ってやってくれ」
フルフル 「迷惑なもんかい。逃げた不祥の息子どもよか、よっぽど頼りになるさね」
子フルフル 「(ムグムグ)」
少女 「どれくらいで喋れるようになるかな?」
フルフル 「ちゃんと毎日喋りかけてやれば、すぐに簡単な受け答えは出来るようになるだろうよ」
少女 「人間とは違って、強いんだねぇ」
フルフル 「それくらいでないと、竜はやっていけんのよ」

445: 2009/07/03(金) 16:29:16.62 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「こんにちは。フルフル様、いらっしゃいますか?」
少女 「!! ナナさんだ!」
クック 「おお、ナナ殿。吹雪の中ご苦労だった。迷わなかったかい」
ナナ・テスカトリ 「ごきげんよう、イャンクック様、それに少女。ええ、わたくしにとって雪は、たいした障害にはならないのです」
ナナ・テスカトリ 「(ブルブルッ)フルフル様?」
フルフル 「おおナナよ、こっちへおいで」
ナナ・テスカトリ 「!! まさか!? お生まれになったのですか!!!」
子フルフル 「(むぐむぐ)キュゥ」
フルフル 「はっは。ついさっきな。クック達が手伝ってくれて、無事に生まれた。元気な子だよ」
ナナ・テスカトリ 「まぁ! 良かった……本当に! 夫も、随分と心配しておられました。可愛らしい子ではないですか!!」
フルフル 「あたしに似てしわくちゃだが、そこらへんは愛嬌さね」

446: 2009/07/03(金) 16:30:18.21 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「あぁどうしましょう。まさかこんなことになっているとは思わず、何もお祝いの品を持参いたしませんでした」
ナナ・テスカトリ 「ご滋養に良いかと思い、ゲリョス君に協力してもらって、狂走エキスの滋養酒はお持ちしたのですが……」
フルフル 「ほう。それはありがたい。それと、気ィ使うんじゃないよ」
フルフル 「あんたが来てくれたってことだけで、もう充分さね」
ナナ・テスカトリ 「フルフル様……」
クック 「ナナ殿、滋養酒を木の実の椀に注ごう」
ナナ・テスカトリ 「よろしいのですか? では、お願いいたします(スッ)」
少女 「ナナさん、久しぶりです(すっ)」
ナナ・テスカトリ 「ああ少女ちゃん。目は、少しは見えるようになったかしら」
少女 「ぼんやりと輪郭だけ……」
ナナ・テスカトリ 「こちらに来なさい。わたくしの毛に包まっていれば、幾分温かいでしょう」
少女 「(もぞもぞ)うわぁ、ぽかぽかしてる」

447: 2009/07/03(金) 16:30:53.60 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「後程夫も伴い、きちんと御祝儀にお伺いいたします」
フルフル 「いいさいいさ。テオも忙しいのだろう」
ナナ・テスカトリ 「めでたいことはみなで祝わなければ。フルフル様は、もう少しわがままになってもよろしいと思われますよ?」
フルフル 「言うようになったじゃないかい。小娘がねぇ」
クック 「ほら、フルフルさん。ナナ殿がお持ちになった滋養酒だ」
フルフル 「ありがとよ。(ぐびり)うむ。体が温まるねぇ。ゲリョスにも、礼を言っておいておくれ」
フルフル 「あいつの頭のクリスタルは、そろそろなじんだかい?」
ナナ・テスカトリ 「フルフル様の治療のお陰で、新しいライトクリスタルもぴったりはまったって喜んでいましたわ」
フルフル 「そうかいそうかい。それは何よりさね」
子フルフル 「すぅー……すぅー……」
ナナ・テスカトリ 「ふふ……眠ってしまいましたね。わたくしの毛を少し、差し上げましょう(がぶり)」
ナナ・テスカトリ 「こうしてかけてあげれば、寒くないでしょう?」
フルフル 「若い女が、そういうはしたないことをすんじゃないよ」
フルフル 「しかし炎妃龍のたてがみが生まれの贈り物かい。帽子でも作ってやって、大事にせんとねぇ」

448: 2009/07/03(金) 16:31:36.97 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「いえ、でも本当に良かった。今日は幸せな日です」
フルフル 「お前さんらも、はよ子供つくりなよな。人のこと見て一喜一憂する歳でもあるまいさ」
ナナ・テスカトリ 「まぁ、フルフルさんったら。わたくしたちはまだ、王子を残す気はありませんよ」
フルフル 「運命はどう転ぶか分からんからね。あたしも、まさか数十年前に谷底に落ちた卵が、今孵るとは思わなんだよ」
フルフル 「その時のためさ」
ナナ・テスカトリ 「(くすり)……そうですね」
クック 「フルフルさん、その子は女の子かい?」
フルフル 「そうみたいさね」
クック 「そうかそうか。私の鱗も、何かに使えるだろう。ほら、収めてくれ」
フルフル 「お前さんまで、まったく気にするなと言うに」
クック 「フルフルさんはその子を見てやっていてくれ。しばらく、家事は私と少女がやろう」
クック 「ナナ殿も、何か食べて行かれるといい」

449: 2009/07/03(金) 16:32:12.02 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「いいえ、イャンクック様、お構いなく」
ナナ・テスカトリ 「早く夫に、このことを知らせてさしあげたいのです」
ナナ・テスカトリ 「あの人も、きっと喜びますわ」
少女 「そういえば、おばあちゃん」
フルフル 「何だい、少女?」
少女 「もう一つの卵のことを、ナナさんに聞かなきゃ」
フルフル 「おぉ、うっかりしておった。ナナよ、先日の卵のことなんじゃが」
ナナ・テスカトリ 「ああ、わたくしもうっかりしておりました。これですね……」
ナナ・テスカトリ 「お送りいただいた猫さんから、お話はお聞きしています」
ナナ・テスカトリ 「海の向こうの地から、盗まれてきたらしいですね……」
ナナ・テスカトリ 「お母様やお父様は、どれだけ心を痛めていることでしょう……」
ナナ・テスカトリ 「できうることなら、すぐに元の場所に戻してあげたいのですが…………」

450: 2009/07/03(金) 16:34:00.00 ID:zd2zU5k0
フルフル 「それができりゃ苦労せんわなぁ。一応温めてはおるのじゃが、あたしの体温よりも卵の方が熱いのよ」
フルフル 「どうしたものかと思ってねぇ」
ナナ・テスカトリ 「生まれつき炎をまとっている、特殊な竜なのかもしれません」
ナナ・テスカトリ 「その場合、卵は温めるよりもむしろ、適度に冷やした方が子にとっては良いと思われますわ」
フルフル 「やはりそうかい。でも、だからといって雪の中に埋めるわけにもいかんねぇ」
ナナ・テスカトリ 「氷を拾ってきて、その上に立てかけておくだけで充分ですよ」
フルフル 「おお、そうだったのかい」
クック 「今、少し入り口からとってこよう」
フルフル 「すまないね、頼むよ」
ナナ・テスカトリ 「しかし……フルフル様、竜は、生まれてすぐに見た者、感じた者を親と思ってしまうことが、往々にしてあります」
ナナ・テスカトリ 「この卵の実情が分からないまま、生まれてしまっては双方のためにはならないと思われます……」
ナナ・テスカトリ 「残酷なようですが、もう少し詳しいことが分かるまで……」
ナナ・テスカトリ 「もし、近いうちに生まれてしまった場合には、目隠しをしてあげてください」

451: 2009/07/03(金) 16:35:23.64 ID:zd2zU5k0
フルフル 「ふむ……そうするほかあるまいな」
ナナ・テスカトリ 「今、盗んできた猫さんの取り調べをナルガクルガ様が行っております」
ナナ・テスカトリ 「場合によっては、海を渡り向こうの地へ行く必要もあるかと思われます」
ナナ・テスカトリ 「なるべく早くことを進めるよう、ナルガクルガ様にはお伝えいたしますゆえ……」
フルフル 「まぁ、とってきちまったもんはしかたないさね」
フルフル 「丁度家族が増えたとこだ。もう一匹くらい増えても、どうってことはないさね」
フルフル 「もしもの時はあたしがちゃんと育てるよ」
ナナ・テスカトリ 「フルフル様……」
クック 「よっ……と(ドサリ)これくらいでいいかな?」
ナナ・テスカトリ 「あぁイャンクック様、ご苦労おかけいたします」
クック 「何の何のこれくらい。それでは、この卵は、氷の中に置いておくぞ(グッ)」
クック 「しかし熱いな……燃えるようだ(ゴロン)」

452: 2009/07/03(金) 16:36:53.32 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「それでは一旦失礼いたしますわ。夫と共にまたお伺いいたします」
少女 「ナナさん、待ってるね」
ナナ・テスカトリ 「後で一緒に遊びましょうね(すりすり)」
フルフル 「気をつけて行くんだよ。吹雪はもっと強くなるからね」
ナナ・テスカトリ 「わたくしは炎龍です。これしき問題はありませんよ」
ナナ・テスカトリ 「それでは、失礼いたします」
クック 「ああ、私たちもここにいるから、ゆっくり来て下さって大丈夫だ」
ナナ・テスカトリ 「はい。それじゃね、ぼうや」
子フルフル 「すぅー……すぅー……」
クック 「行ってしまったか……炎龍とはすごいな。吹雪が割れるようだ」
少女 「テオさんも来るんだって。楽しみだね」

453: 2009/07/03(金) 16:37:48.80 ID:zd2zU5k0
クック 「折角だ。私も狂走エキスの滋養酒を少しいただいてもいいだろうか」
フルフル 「おぅおぅ、飲みぃや」
クック 「(ぐびり)うむ、体が温まる。少女もほら」
少女 「(ちびり)辛っ……」
クック 「はっは。まだ早かったか」
クック 「フルフルさん、何かやることはないだろうか。何でも手伝うぞ」
フルフル 「それじゃ、魚の干物を一旦お湯で戻してから、すり潰してくんないかね」
クック 「分かった。少女もやるかい?」
少女 「やるぅー!」
フルフル 「まったく、あんたらがいてくれて助かるよ」
フルフル 「あのバカ息子どもはまったく持って役にたたん」
クック 「男の子というものは、どこか格好つけてしまうものだ。気恥ずかしいんだろう」
フルフル 「あいつらはただ阿呆なだけさね。いい歳こいて、子供のままさ」

454: 2009/07/03(金) 16:39:01.43 ID:zd2zU5k0
クック 「ん? 裏口の方が騒がしいな」
 >ガタガタガタ
××××× 「あ、開けてくれェェ! この岩をどかしてくれェェ!」
クック 「誰か来たみたいだ。でも、わざわざ裏口から来るなんて……」
クック 「岩をどかしてくるよ」
フルフル 「あの声は、レイアの旦那じゃないかい」
リオレウス 「ぶぅっはぁぁ! 氏ぬかと思った!」
クック 「レウスさん! 雪まみれじゃないか!!」
リオレウス 「や……やぁイャンクックさん(ガチガチ)」
リオレウス 「少女さんに、フルフル婆さんも、こんちは(ガチガチ)」
リオレウス 「レイアに、こんがり肉Gを渡してくるように言われたんだけど……」
リオレウス 「も、物凄い吹雪で……遭難しちゃったんだ……」
リオレウス 「ぶえっくしょぃ(ゴウッ)」
 >ボッ
クック 「お、薪に火がついたぞ」

455: 2009/07/03(金) 16:40:05.48 ID:zd2zU5k0
フルフル 「久しぶりじゃないか、坊主。とんと顔を見せに来ないから、鬼嫁に虐め殺されたかと思ったよ」
リオレウス 「酷いなぁ婆さん。それより、地獄兄弟をどうにかしてくれよ。家に居場所がなくなってきてるんだ」
少女 「こんにちは、リオレウスさん」
リオレウス 「こんにちは。お。それは狂走エキスの滋養酒だね。いただいてもいいかい(グビリ)美味い!」
少女 「(あ……私の……)」
リオレウス 「婆さん、レイアが焼いたこんがり肉G、ここに吊るしておくね」
フルフル 「まったく、気を使うこたぁないのに。よろしく言っといてくれ」
リオレウス 「(ブルブル)うぅ寒っ……少し温まっていっていいかい?」
リオレウス 「ふぅ。まったく何だってこんな吹雪の時に」
子フルフル 「すぅー……すぅー……」
リオレウス 「!?」
リオレウス 「ひぃぇ! 小さい婆さんがいる!」
フルフル 「今ごろ気づいたのかい。例の卵が、ついさっき生まれたんだよ」
リオレウス 「何てこった!! 二代目じゃないか。良かったなぁぁ婆さん!!」
フルフル 「おいおい、そんなに騒いじゃ、この子が起きちまう」
リオレウス 「おっとこりゃ失敬。いやぁぁ! でもめでたいなぁぁ!! 婆さんに子供か!」
リオレウス 「レイアにも知らせてやらなきゃ!」
リオレウス 「……あー…………吹雪が止んだらね……」

456: 2009/07/03(金) 16:40:58.84 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「寝てるのかい? はっはっは! 婆さんそミニチュアにしたみたいだ!」
フルフル 「あたしも若い頃は、こんなにつやつやした肌だったんだよ」
クック 「よし、魚のすり身煮込みの仕込みは終わったよ。レウスさんが持って来てくれたこんがり肉Gにも火を通したから、みんなで食べよう」
リオレウス 「へぇ! そいつはありがたい!」
リオレウス 「ついでに温かいスープももらえると最高だね!」
クック 「ははは。ほら、どうぞ」
リオレウス 「うん、美味い! レイアのより断然美味い!」
フルフル 「今のは聞かなかったことにしてやるよ」
リオレウス 「ん? 何であの卵は氷に漬けてあるんだい?」
少女 「さっきナナさんが来てくれて、火山の竜の卵はそうした方がいいって」
リオレウス 「ふぅん。あぁあれか。猫が海の向こうから盗んできたってやつだね」

457: 2009/07/03(金) 16:41:31.81 ID:zd2zU5k0
フルフル 「そういや、あんたはあっちの方から来たんだっけかい」
リオレウス 「まぁ、生まれてしばらくして、こっちに渡ってきたけどさ。詳しくはあっちのことを知ってるわけじゃないよ」
リオレウス 「でも、もし騎士団の竜の卵なら、まずいことになるかもしれないな……」
クック 「騎士団?」
リオレウス 「ああ。海の向こうは、一つの王族を中心にして、その周りを騎士団が守って暮らしているんだ」
リオレウス 「騎士団は王族に絶対忠誠を誓ってて、結束も固い」
リオレウス 「束になって襲い掛かってくるから、怒らせたら面倒だ」
リオレウス 「早いところ、元の場所に戻した方がいいと思うけどな」
フルフル 「それができりゃ苦労せんわ。もうじき生まれそうなんじゃ」
リオレウス 「ヘェァ! 本当かい!? まったく、何だってそんな面倒なものを持ってきたんだ!」

458: 2009/07/03(金) 16:42:04.20 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「うーん……俺は全然子育ては分かんないからなぁ」
リオレウス 「雪が止んだら、レイアを連れてくるよ」
フルフル 「そうかい。あたしも久々にあのじゃじゃ馬を見たいもんだ」
リオレウス 「最近酷いよ……狩りの獲物が小さいと、容赦なく締め落とすんだ」
リオレウス 「段々それが快感になってきてしまっている自分がいる……」
フルフル 「快感になってるならいいじゃないかい」
リオレウス 「変わっていく自分が怖いんだよ……」
クック 「よし、少女。そこの木の実の器に、すり潰した魚を入れるんだ。できるかい?」
少女 「うん、頑張る」
リオレウス 「俺も何か手伝おうか?」
リオレウス 「どうせ吹雪で、しばらく外には出れそうにないからね」

459: 2009/07/03(金) 16:42:25.77 ID:zd2zU5k0
少女 「じゃあ、リオレウスさんはこの香辛料を振り掛けてくれる?」
リオレウス 「よしきた! 任せてくれ(バッバッ)」
リオレウス 「(ムズムズ)……う……鼻が…………」
リオレウス 「ぶえっくしょい!(ゴウッ!)」
少女 「きゃぁ!」
 >ズゥン
クック 「少女! 大丈夫か!」
リオレウス 「ああごめんよ! 家でもよくやって、レイアに半頃しにされるんだ!!」
少女 「ちょっとびっくりしただけ。平気だよ(なでなで)」
リオレウス 「あ……何か優しくされると涙が……」

460: 2009/07/03(金) 16:42:49.56 ID:zd2zU5k0
クック 「ん!? 今のレウスさんの火の玉、あの卵に直撃したぞ!!」
リオレウス 「何だって!?」
フルフル 「お、おい。大丈夫なんだろうね?」
クック 「氷は全部溶けてしまっている。割れてはいないようだが……」
クック 「熱っ……!!」
クック 「ま……真っ赤に発熱している!」
リオレウス 「お……俺のせいかい!?」
クック 「卵にヒビが入ってきた! 生まれるぞ!!」
フルフル 「何だって!? 振動を与えたからかい!?」
フルフル 「ちょっと急すぎるさね。早く目隠しの用意を……」

461: 2009/07/03(金) 16:43:10.67 ID:zd2zU5k0
卵 「(ピキ……ピキ……)」
卵 「(バリィィィンッ!!)」
×××××× 「ピィィィィ!」
クック 「うわっ! 火の玉が飛び散った!!」
少女 「きゃぁあ!」
リオレウス 「あ……あれは……!!」
竜の子供 「ピィ……ピィ……」
フルフル 「いかん! 目を開けるぞ!!」
竜の子供 「ピ……?」
竜の子供 「(きょろきょろ)」
竜の子供 「(じーっ)」
少女 「……?」
少女 「(何か、私くらいの大きさの竜さんが、こっちを見てる……)」
竜の子供 「まんまー(バッ)」
竜の子供 「まんま(ドスドスドス)」
少女 「(こっちに来た!)きゃぁぁ!」

462: 2009/07/03(金) 16:43:35.17 ID:zd2zU5k0
竜の子供 「まんまー、まんまー(ぺろぺろ)」
少女 「え……あ……?」
少女 「(この子、もしかして……)」
少女 「(私のことを、お母さんだって思っちゃったの!?)」
フルフル 「……遅かったようだね……」
クック 「まさか少女のことを……」
クック 「しかし、この異様な姿は……」
クック 「まるで岩が絡み合ったような……どことなくグラビさんに似ているが、頭が物凄く大きい……」
竜の子供 「(すりすり)」
少女 「う……うふふ。くすぐったい(なでなで)」
リオレウス 「何てこった……」
クック 「レウスさん?」
リオレウス 「これは……ボルボロスの子供じゃないか……!」

463: 2009/07/03(金) 16:45:12.44 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「……いや、違う……? 俺が知っているボルボロスとは形が……」
クック 「ボルボロス? 一体誰だい?」
リオレウス 「海の向こうの土地の、騎士団が守っている女王だよ」
フルフル 「何だって? 女王じゃと……」
竜の子供 「まんまー」
少女 「あはは、くすぐったぃ~」
クック 「面倒なことになったな……こんなに孵化が早まるとは思わなかった」
リオレウス 「もしかしなくても俺のせいだよね……ごめんよみんな」
フルフル 「いや、楽観視しておったあたしらも悪かった。とにかく少女。そのいかつい子をこっちによこしな。凍えちまう」
少女 「うん。でもこの子、すごくポカポカしてるから大丈夫だと思うよ」
クック 「そういえば湯気が立ってるな……」
クック 「グラビさん達でも湯気は立たないというのに……よほど体温が高いのか」

464: 2009/07/03(金) 16:45:43.52 ID:zd2zU5k0
少女 「どっちかというと、お水を飲みたいみたい」
フルフル 「そうさね。あたしの後ろに大きな木の実の殻があるだろう? そこに、作っておいたハチミツ水があるから、飲ませておやり」
クック 「これか? ほら」
竜の子供 「ふんぎゃぁぁ!」
少女 「きゃっ……いきなりかくれて、どうしたの?」
クック 「私の顔に驚いたのか?」
リオレウス 「しかし、それにしてもごっつい赤ん坊だなぁ」
竜の子供 「ピィィィ!!」
リオレウス 「う、うわ! 何だ、顔に似合わず怖がりだ!」
少女 「落ち着いてね、みんないい人だよ」
竜の子供 「ブフゥー、ブフゥー」
少女 「これ、ハチミツ水。飲める?」
竜の子供 「!! (ゴクゴクゴクゴクゴク)」
少女 「ひゃっ……すごい勢い……」
少女 「もうなくなっちゃった……」
竜の子供 「ぷふぅ~」
竜の子供 「まんま~(ごろり)」
少女 「ふふ、よく見えないけど、可愛いね(なでなで)」
竜の子供 「ふぶぅ~」

465: 2009/07/03(金) 16:47:18.02 ID:zd2zU5k0
クック 「(困った……王族の子だったのか!)」
クック 「(私やフルフルさん、レウスさんならともかく、よりにもよって人間の少女を親と思い込んでしまうとは……)」
クック 「(海の向こうの土地が、人に対してどんな感情を抱いているのか分からないが……)」
クック 「(こうなっては引き離すわけにもいかん……)」
クック 「(どうしたものか……)」
フルフル 「おいおい、少女、気をつけな。いくら子供とはいっても竜なんだ。知らない間に大怪我をすることだってあるよ」
少女 「うん、気をつける」
少女 「ねぇ、ここは風が入るから、もう少し奥に行こう?」
竜の子供 「??」
少女 「こっちだよ」
竜の子供 「(じり……じり……)」
少女 「この人はフルフルさん。そして子フルフルちゃん。私の、家族みたいな人たちだよ」
少女 「大丈夫、怖くないよ」
竜の子供 「(ズン、ズン)」
フルフル 「(なでなで)ふむ……手触りはバサル坊主に近いねぇ」
竜の子供 「(ふぁぁぁ)」
少女 「あ……ちょっと待って……」
竜の子供 「(ゆらり……ずぅん)」
竜の子供 「すぅー……すぅー……」
少女 「寝ちゃった……私の服を掴んでるから、動けないよ」
少女 「どうしよう、おじさん……」

466: 2009/07/03(金) 16:48:57.45 ID:zd2zU5k0
クック 「うむ……もしレウスさんの言うとおりに王族の子だとしたら、迂闊なことはできないな」
クック 「少女、すまないが少し、その子の近くについていてやってくれないか?」
少女 「うん、分かったよ」
リオレウス 「何か責任感じちゃうなぁ。イャンクックさん、どうするよ?」
クック 「もうじきテオ殿とナナ殿がいらっしゃるはずだ。彼らならいい知恵を持っているかもしれないから、少し待とうか」
クック 「どっちにしろ、赤ん坊が二匹も生まれたんだ」
クック 「大人の私達がここを離れるわけにはいかないだろ?」
リオレウス 「うぅん、そうは言われても」
リオレウス 「吹雪だけど、俺は頑張って家に帰って、事情を話してレイアに来てもらうよ」
リオレウス 「俺よりも、何かとあいつのほうが役に立つと思うし」
フルフル 「そうかい。ついでに地獄兄弟がいたら、ブッ叩いてつれてきてくれないかい?」
リオレウス 「ひゃぁ、バイオレンスだなぁ婆さんは。反撃されない程度にやっておくよ」
クック 「レウスさん、これを持っていくといい。狂走エキスの滋養酒を木の実に入れておいた。飲めば寒くないぞ」
リオレウス 「お、ありがたいねぇ。それじゃ皆さん、邪魔しかしてない気がするけど、すぐ役に立つ奴を連れてくるから!」
少女 「気をつけてね、リオレウスさん」

467: 2009/07/03(金) 16:49:37.74 ID:zd2zU5k0
少女 「(この子、私の服を強く掴んでる……)」
少女 「(私のことを、お母さんだと思ってるんだ……)」
少女 「(まだ頭とかが濡れてる……)」
少女 「(拭いてあげなきゃ……)」
少女 「……(ごしごし)」
テオ・テスカトル 「御免。日中最中だが失礼する」
ナナ・テスカトリ 「フルフル様、夫とまた参りました」
クック 「お、テオ殿とナナ殿だ。レウスさんと入れ違いになってしまったな」
フルフル 「おお、お入り。中は温かいよ」
テオ・テスカトル 「いや、すごい吹雪だ(ブルブルッ)フルフル殿、久しゅう」
テオ・テスカトル 「む、その子が、あなたのお子様か」
テオ・テスカトル 「僭越ながら、私のたてがみで毛布を編んできた。使ってください」
フルフル 「そんなに気を使わずともよいのに」
少女 「テオさん、こんにちは!」
テオ・テスカトル 「おお少女よ。久方ぶりだな…………ぬ? 何だ、その子竜は?」
ナナ・テスカトリ 「あぁ! もしかして、生まれてしまったのですか!?」
クック 「うむ。少々困ったことになってしまって……」

468: 2009/07/03(金) 16:50:36.01 ID:zd2zU5k0
クック 「………………というわけなんだ。おそらく、熱を受けて孵化が早まったんだろう」
テオ・テスカトル 「私は海の向こうに行ったことはないが、もしリオレウス殿の仰るとおりに、王族の子としたら、少々面倒なことだ」
テオ・テスカトル 「竜は、一度親と認識した者は、およそ氏ぬまで親と思い続ける」
テオ・テスカトル 「物心ついても、本能の奥でずっと、その感情は消えることはない」
テオ・テスカトル 「はからずも少女が、この子竜の『親』となってしまったわけだが……」
少女 「ご……ごめんなさい……どうしよう……」
テオ・テスカトル 「いや、君の責任ではない。いたし方がないことだろう。それよりも、無事に生まれてよかった」
ナナ・テスカトリ 「! そうですわ! 何の問題もなく、綺麗に生まれて、こんなに嬉しいことはありません」
クック 「あ……ああ。そう考えれば、確かに……」
クック 「ちゃんと生きていて、生まれて来てくれたというのは嬉しいことだ」
少女 「じゃ……じゃあ、この子に何もしない?」
クック 「何を言うんだ。私たちは、これから少女、お前とこの子を守らなければならないんだ」
テオ・テスカトル 「左様。ナルガクルガ氏より話を聞き、一度海の向こうに渡ることを考えていたが……」
テオ・テスカトル 「この状態では、少女も共に渡らねばなるまいな」
ナナ・テスカトリ 「………………」
少女 「海の向こうにいけるの!?」
少女 「私、ずっと海に行ってみたかったの!!」

469: 2009/07/03(金) 16:51:24.21 ID:zd2zU5k0
テオ・テスカトル 「少女、酷なようだが忘れてはいけない」
少女 「?」
テオ・テスカトル 「君は人間だ。そして海の向こうの土地では、人間のことをどう思っているのか、我々はよくは知らぬ」
少女 「あ…………」
少女 「ごめんなさい……」
テオ・テスカトル 「謝ることではないが、危険ではある。派遣隊は慎重に選ばねば」
竜の子供 「ブフゥ……まんま……(ぎゅっ)」
少女 「うん……大丈夫だよ(なでなで)」
ナナ・テスカトリ 「とりあえず、火山の竜は塩分が不足しがちです。岩塩の塊も取ってきました。スープを作ります」
ナナ・テスカトリ 「フルフル様、お台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
フルフル 「ああ、ええよ。好きに使いな」
クック 「ナナ殿。私も手伝おう」
ナナ・テスカトリ 「ありがとうございます。それでは、この材料を……」

470: 2009/07/03(金) 16:51:59.55 ID:zd2zU5k0
テオ・テスカトル 「ふむ…………」
テオ・テスカトル 「リオレウス殿はボルボロス、と仰ったのだな?」
少女 「うん。女王様だって……」
テオ・テスカトル 「向こうの地に渡った猫から、話だけは聞いたことがある」
テオ・テスカトル 「女王がボルボロス、そして王がウラガンギンと……」
少女 「ウラガンギン……」
テオ・テスカトル 「王は随分前に氏去したらしいが、その方と女王の子供だとすると、どちらかの種の特徴が色濃く出たようだな」
テオ・テスカトル 「推測するに、雄であるところを見るとウラガンギンか……」
テオ・テスカトル 「(なんと言うことだ……)」
テオ・テスカトル 「(もしもこの推測が本当のことだとするなら、未来の皇帝ではないか……!)」

471: 2009/07/03(金) 16:52:49.71 ID:zd2zU5k0
―密林、昼間―

リオレイア 「もう! あなたって人は本当に馬鹿なんだから!」
リオレイア 「私は、お婆様を助けに行きなさいって言ったのよ?」
リオレイア 「どうしてそんな簡単なことさえ出来ないの!?」
リオレウス 「わ……分かった……悪かった……」
リオレウス 「悪かったから……飛びながら尻尾で首を絞めるのはやめてくれ…………」
リオレウス 「お…………落ちる…………」
リオレイア 「(バサァッ)ふぅ……あなたは本当に頼りにならないわね……」
リオレウス 「言葉もないよ……」
リオレイア 「とりあえず、出産祝いは持ったわね? 早くお手伝いに行くわよ!!」

472: 2009/07/03(金) 16:53:14.13 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「(バサァ、バサァ)」
リオレウス 「(雪山の悪天候のせいか、こっちまで霧がかかってるな……)」
リオレウス 「レイア、そんなに飛ばしたら、前が良く見えないだろ? 危ないよ」
リオレイア 「軟弱なあなたと一緒にしないで!」
リオレウス 「怒るなよ。俺は俺なりに頑張って生きてるんだよ!!」
リオレイア 「はいはい。どうでもいいから遅れないで」
リオレウス 「分かってるよ…………ん?」
リオレウス 「(何だ、あれ?)」
リオレウス 「(海と密林を繋ぐ入り江で、何か動いてる……)」
リオレウス 「(霧でよく見えないけど……)」
リオレウス 「(地獄兄弟かな……?)」
リオレウス 「……!! ひぃぇ!!」
リオレイア 「(ビクッ!)な、何、いきなり奇声を上げて!」

473: 2009/07/03(金) 16:53:34.10 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「レ、レイア! 下に何かいる!!」
リオレイア 「下? 何も見えないけど……」
リオレウス 「そっちじゃないよ! 入り江の方に……」
リオレウス 「(で……でかい!!)」
リオレウス 「(竜!? でも、あんな竜は見たことがない!!)」
ラギアクルス 「……………………」
リオレイア 「!! 何、あれ!?」
リオレウス 「分からない……でも、このままだとあの竜、奇面族の土地に入っちゃうぞ!」
リオレイア 「う……嘘! そんなことしたら……」
リオレウス 「止めなきゃ……!!(ヒュゥゥゥ)」
リオレイア 「あ……あなた!!」

474: 2009/07/03(金) 16:53:55.32 ID:zd2zU5k0
―密林、奇面族の里―

キングチャチャブー 「…………?」
キングチャチャブー 「何だ……?」
キングチャチャブー 「(森の空気が、いつもと違う……)」
キングチャチャブー 「(ざわついてやがる……)」
キングチャチャブー 「(さっきから感じるが、気のせいじゃぁねェ)」
キングチャチャブー 「(何か近づいてきてるってのか……)」
チャチャブーA 「ビィ! ゴッドファーザー! 緊急報告!」
キングチャチャブー 「…………」
チャチャブーA 「エリア1の守備隊より、正体不明の竜の進入を確認との連絡!」
チャチャブーA 「現在、その竜は速度を変えずに、こちらに向かってきております!!」
キングチャチャブー 「…………(チッ)」

475: 2009/07/03(金) 16:54:15.78 ID:zd2zU5k0
キングチャチャブー 「……(嫌な霧だ……)」
キングチャチャブー 「…………」
チャチャブーA 「守備隊は正体不明を追いながら南下中! ご指示を!!」
キングチャチャブー 「(スッ)」
キングチャチャブー 「……酒が切れた」
キングチャチャブー 「丁度暇ァなったとこよ」
キングチャチャブー 「一番隊、二番隊、出撃準備」
チャチャブー一番隊 「ビィ!!(ザッ)」
チャチャブー二番隊 「ビィ!!(ザッ)」
キングチャチャブー 「行くぞ……」
キングチャチャブー 「(変な胸騒ぎがしやがる……)」
キングチャチャブー 「(チッ……酒が切れたせいならいいが……)」

476: 2009/07/03(金) 16:56:12.28 ID:zd2zU5k0
お疲れ様です。次回へ続かせていただきます

no title


3も、あと一ヶ月で発売ですね
楽しみなものです

493: 2009/07/07(火) 13:38:53.73 ID:S/GPSHQ0
こんにちは。次話を書きましたので、投稿の方をさせていただきます

494: 2009/07/07(火) 13:39:46.42 ID:S/GPSHQ0
3.キングチャチャブー 「空は飛ぶんじゃねぇ、駆けるもんだ」

―密林、運河内―

ラギアクルス 「(弱った。何だ、このまとわりつくような霧は……)」
ラギアクルス 「(このあたりは水深も浅く、水が濁っている……)」
ラギアクルス 「(頭を出して泳ぐしかないが、現在位置も分からぬことには……)」
ラギアクルス 「(我自身、こちらの土地に来るのは初めてのことだ)」
ラギアクルス 「(突発的に攻撃はしてこないと思うが……)」
ラギアクルス 「(もしも他人の縄張りだった場合、少々厄介だ……)」
ラギアクルス 「……!!」
ラギアクルス 「(何だ……? 霧の向こう……木を盾にして、何か大量にうごめいている……)」
ラギアクルス 「(チャチャ族……? 違うな。一回り大きい……)」
ラギアクルス 「(こちらの奇面族……!)」
ラギアクルス 「(まずい。別大陸のチャチャは凶暴と聞く)」
ラギアクルス 「(我は、奴らの縄張りに入ってしまったのか……)」
ラギアクルス 「(蹴散らすことには造作はないが……)」
ラギアクルス 「(奴らに、御前様の御卵を奪われている以上、表立って騒ぎを起こすのは得策ではない……)」
ラギアクルス 「(さて、いかとするか……)」

495: 2009/07/07(火) 13:40:40.51 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「…………」
チャチャブー達 「………………」
ラギアクルス 「(弓……? 人間の武器を真似て作ったのか……)」
ラギアクルス 「(あの光沢、おそらく痺れ毒が塗られている……)」
ラギアクルス 「(知らぬこととはいえ、領域侵犯は重罪よ……)」
ラギアクルス 「(それは分かる。我も同じ状況になれば、騎士団員に同様な命令を発するであろう)」
ラギアクルス 「(優秀な指揮官がおるのだ……)」
ラギアクルス 「(となれば、木っ端と話をいくらしようとも無駄……状況は好転せぬ)」
ラギアクルス 「(指揮官に事情を説明せねばならぬ……)」
ラギアクルス 「(だが……)」
ラギアクルス 「(川の両脇に、毒矢の奇面族か……)」
チャチャブー達 「…………」
ラギアクルス 「(囲まれた…………)」

496: 2009/07/07(火) 13:43:13.30 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「(仕方がない)」
ラギアクルス 「(我にも、我の身を守る権利がある)」
ラギアクルス 「(それに、御卵を盗んだのはこちらの方……)」
ラギアクルス 「(義は、我にある……!!)」
チャチャブーA 「三番隊、四番弓隊、構え!」
チャチャブー達 「ビィ!!」
チャチャブーA 「三番隊、てェ!!」
チャチャブー達 「ビィィィ!!(ピュンピュンピュンピュン)」
ラギアクルス 「!!」
ラギアクルス 「(撃ってきた……やはり、いたし方あるまい!)」
ラギアクルス 「ふんッ!!(バリバリバリバリ)」
チャチャブー達 「!!」
チャチャブーA 「……電撃!? 竜が電撃だと……!?」
チャチャブーA 「矢が、空中で弾け飛んだ…………!!」

497: 2009/07/07(火) 13:44:21.61 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「シャァァ!!(バシャァァァ!!)」
チャチャブー達 「ビィィ!!」
ラギアクルス 「(ゴゴゴゴゴ)」
チャチャブーA 「退避ィ!」
チャチャブー達 「ビィィィ!(ズザザザザッ)」
ラギアクルス 「(ゴウッ!!)」
チャチャブーA 「(こちらに向けて、白い電撃を吐いた……!!)」
チャチャブーA 「(まずい……避けられない…………!!)」
リオレウス 「ギャォォォ!!(ゴウッ!)」
 >バシャァァァッ!!
ラギアクルス 「!!」
リオレウス 「奇面族! 下がりなさい!(バサッ! バサッ!)」
チャチャブーA 「貴様は……リオレウス……!!」

498: 2009/07/07(火) 13:45:29.72 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「(新手か……!!)」
ラギアクルス 「(誰にも目撃されずに、奇面族を片付けるつもりだったが……しくじった!)」
ラギアクルス 「(我を敵とみなしたか……!!)」
リオレイア 「あなた! 危ない!!」
ラギアクルス 「(かくなる上は、貴殿らにも気絶を願うこととする!)」
ラギアクルス 「(ゴゴゴゴゴ)」
リオレウス 「ひゃぁ! カッコよく登場してみたはいいけど、もう限界だよレイア!」
リオレウス 「俺は戦える星の元に生まれてきてないんだ!!」
リオレイア 「あなた前見て! 馬鹿なの!?」
リオレウス 「ば……夫に向かって馬鹿はないだろう馬鹿は!!」
ラギアクルス 「(バリバリバリバリ)」
リオレイア 「!! (ヒュゥゥゥ)」
リオレイア 「(ゴウッ!!)」
ラギアクルス 「(ドゴォッ!)ぐっ……」
リオレウス 「お……お前! いきなりそんな……」
ラギアクルス 「(あの緑の竜の方が危険だな……)」
ラギアクルス 「(ドプン)」

499: 2009/07/07(火) 13:46:56.13 ID:S/GPSHQ0
リオレウス 「! 水に潜った……!!」
リオレウス 「くそ……霧でよく見えない……」
リオレウス 「レイア!!」
 >ズズズズズズ
ラギアクルス 「(バシャァァ!)ギャォォォ!!」
リオレイア 「!! きゃぁぁぁ!!」
リオレウス 「レイアァァ!!(ヒュゥゥゥ)」
リオレウス 「こ……このォォ!(ドガッ)」
ラギアクルス 「! ガッ……(よろ……)」
リオレイア 「あ……あなた!」
リオレウス 「助けを呼んでくるんだ!」
ラギアクルス 「シャァァ! (ブンッ)」
リオレウス 「(ガキィィン)早く!!」
リオレイア 「わ……分かったわ!(バサッ)」

500: 2009/07/07(火) 13:48:04.09 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「!! (緑の竜が逃げる……!!)」
ラギアクルス 「(させてなるものか……!)」
ラギアクルス 「ガァァ!(バシャァァァン)」
リオレウス 「しまった! 宙に飛び上がった!!」
リオレウス 「あいつ! レイアを狙ってる!」
リオレウス 「させるかぁぁ!(バサァッ!!)」
リオレウス 「ふんぐぅッ!(ガシッ)」
ラギアクルス 「くっ……は……離せ!!」
リオレウス 「このまま水の中に戻ってもらうよ!!」
ラギアクルス 「(しくじった……この赤い竜、予想外に力が強い……)」
ラギアクルス 「(このままでは、水に激突してしまう……)」
ラギアクルス 「(だがッ!)」
リオレウス 「! うわぁぁ!」
ラギアクルス 「我の体を舐めるな! 締め付けるくらい造作もないわ!!」
リオレウス 「(ギチギチギチ)ぐぅぁぁぁあ!」
リオレイア 「あなたぁぁ!!」
リオレウス 「ば……馬鹿! 行け!!」
ラギアクルス 「頭を下にして落ちるのは、貴殿の方よ!!」

501: 2009/07/07(火) 13:48:59.10 ID:S/GPSHQ0
リオレウス 「(な……何だ……?)」
リオレウス 「(チャチャブー達が、大きなパチンコ台のようなものを……)」
××××××××× 「…………(ヒュッ!)」
リオレウス 「(岸から、何か小さな影が、こっちに向かって飛んできた……!!)」
ラギアクルス 「ぬっ!(ヒュッ)」
キングチャチャブー 「(ガキィィンッ!!)」
リオレウス 「キング!!」
ラギアクルス 「くっ……チャチャ族か……!! 頭から離れろ!! 無礼者!」
キングチャチャブー 「(ヒュンヒュン)」
キングチャチャブー 「(ドガッ)」
ラギアクルス 「! グァァァ!!」
リオレウス 「(あの堅い頭に、痺れ矢を突き刺した!!)」
リオレウス 「(しめた! 拘束が緩んだ!!)」
リオレウス 「キング、こっちに!」
キングチャチャブー 「(ヒュッ……スタッ)」
リオレウス 「この……落ちろ!(ドガッ)」
ラギアクルス 「うああぁあ!(バシャァァァァンッ!!)」

502: 2009/07/07(火) 13:49:50.36 ID:S/GPSHQ0
リオレウス 「はぁ……はぁ……」
キングチャチャブー 「………………」
ラギアクルス 「(バリ……バリ……バリ……)」
キングチャチャブー 「降ろせ」
リオレウス 「あ……あぁ」
リオレウス 「(ヒュゥゥゥ……ズザァッ!)」
キングチャチャブー 「(ピョン……スタッ)」
チャチャブー達 「ゴッドファーザー!!」
チャチャブーA 「ご無事で!?」
キングチャチャブー 「見て分かるこたぁ聞くな……」
チャチャブーA 「これは失礼を」
チャチャブーA 「あの、麻痺した正体不明はいかがいたしましょう?」
キングチャチャブー 「…………」
リオレウス 「何だこの竜……見たことない形してるぞ……」
リオレウス 「(もしかして、向こうの地の、騎士団……!?)」

503: 2009/07/07(火) 13:51:24.60 ID:S/GPSHQ0
―雪山、深夜―

ウラガンギン 「…………すぅー…………すぅー…………」
少女 「眠ってる……ちょっと離れても大丈夫かな……」
クック 「グガァ……グガァ……」
フルフル 「グゥ……グゥ……」
子フルフル 「スゥー……スゥー…………」
少女 「(そそ…………)」
少女 「(ナナさんとテオさんは、一旦お家に帰ったけれど……)」
少女 「(いつ地獄兄弟さんたちが戻ってくるか分からないし……)」
少女 「(私の杖は……)」
少女 「(あった……)」
ウラガンギン 「すぅー……すぅー……」
少女 「(なでなで)……すぐ戻ってくるからね」
クック 「………………(チラッ)」

504: 2009/07/07(火) 13:52:16.37 ID:S/GPSHQ0
少女 「(……雪が止んでる。良かった……)」
少女 「(これなら、私一人でも大丈夫……)」
少女 「(……風が寒い……)」
少女 「(あの人、またあそこにいるのかしら……)」
クック 「………………(ササッ)」
少女 「(大分人の里から離れているけれど……)」
少女 「(でも、この前は、しばらくこの雪山で待ってるって……)」
少女 「あ……」
少女 「(氷の、小さな洞穴から光が見える……)」
少女 「(もしかして……)」
少女 「(よろっ)きゃっ!」
少女 「(どてっ)」
×××× 「……? 誰かいるのか?」

505: 2009/07/07(火) 13:54:01.15 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「! 少女ではないか!」
ハンマー 「大丈夫か? 目が不自由だというのに、こんな雪の中……」
少女 「ハンマーさん、こんばんは」
少女 「ここはモンスター達のお家が近いから、あんまりキャンプはしないほうがいいのに……」
ハンマー 「何、俺は慣れている。問題はない」
ハンマー 「夜中に抜け出してきたのか?」
少女 「(こくり)」
ハンマー 「そうか……」
ハンマー 「簡易的なものだが、寝床がある。少しそこで温まっていくといい」
少女 「うん……」
ハンマー 「こっちだ」
少女 「ハンマーさんは、ここで何をしていたの?」
ハンマー 「地図を作っていた。このあたりの、詳細な」
ハンマー 「それに、君のことも気になったしな……」
少女 「…………」
ハンマー 「しばらくぶりだな……俺の、人里に帰ろうという誘いを、君が断って以来だ」

506: 2009/07/07(火) 13:55:04.22 ID:S/GPSHQ0
―雪山、ハンマーの野営地―

ハンマー 「…………なるほど。そんなことがあったのか」
ハンマー 「海の向こう……ここから離れた場所にも、人の住む場所がある」
ハンマー 「シュレイド城へのモンスター侵攻事件により、あちらへ渡った人も多いと聞く」
ハンマー 「俺も見たことのないモンスターなのだろう」
ハンマー 「(話を聞く限りでは、危険な竜のような気がするが……)」
ハンマー 「(この子を親と思ってしまったのか……言わない方がいいかもしれない)」
ハンマー 「(だが、人間がモンスターの親になれるのか……?)」
ハンマー 「(いくら、モンスターの中で暮らす少女とはいえ……)」
ハンマー 「(それは、やはり違うのではないか……?)」

507: 2009/07/07(火) 13:56:11.70 ID:S/GPSHQ0
少女 「可愛い子だよ。そうだ、ハンマーさんにこれをもってきたの」
ハンマー 「?」
少女 「私のお友達が作った、狂走エキスのお酒。体が温まるよ」
ハンマー 「ほう……」
ハンマー 「それは珍しい。いただこう(グビリ)」
ハンマー 「…………ッ!!」
少女 「だ、大丈夫?」
ハンマー 「いや、俺は酒があまり得意ではなくてな。だがいけるぞ、これは(チビリ)」
ハンマー 「(モンスターの作った酒か……)」
ハンマー 「(少女と出会っていなかったら、口に入れることさえできずに一生を終えていた……)」
ハンマー 「そうだ、俺も君に渡したいものがあったんだ」
少女 「?」
ハンマー 「これだ。持っておくといい」

508: 2009/07/07(火) 13:57:18.77 ID:S/GPSHQ0
少女 「これは?」
ハンマー 「村の再興が進んできて、調合屋が開いたので調合してもらってきた。秘薬だ」
ハンマー 「量は少ないが、持っていて損はないだろう」
少女 「ありがとう!」
ハンマー 「…………少女よ」
少女 「?」
ハンマー 「少し前に森の中で君に、偶然遭った時、俺は人里に、一緒に戻らないかと聞いた」
少女 「…………」
ハンマー 「無論、君から今までの顛末は聞いたし、理解をしている。君は人間というよりも、どちらかというとモンスターに近い」
ハンマー 「だが、俺とこうして話をしている。それだけで君が人間であるという資格はあるんだ」
ハンマー 「人間ならば、人間の土地で暮らしても誰も咎めはしない」
ハンマー 「少なくとも俺は、咎めはしない」
ハンマー 「君一人の面倒くらいならば、俺が見よう」
ハンマー 「やはり人里に戻る気はないか?」

509: 2009/07/07(火) 13:58:36.15 ID:S/GPSHQ0
少女 「…………」
ハンマー 「(あの時……砦蟹の侵攻の際、俺にはこの子が白い竜に見えた……)」
ハンマー 「(それゆえに心配だ……)」
ハンマー 「(もしかしたら、この子には言い伝えのあの竜が……)」
ハンマー 「(このままでは、人間ではなくなってしまうかもしれない……)」
ハンマー 「(目も見えず、モンスターの中で……)」
ハンマー 「(もしもだ……)」
ハンマー 「(もしも、この子が人間ではなくなった時……)」
ハンマー 「(もう一度森の中で見かけたとき、俺は、攻撃をしなければならなくなるのではないだろうか……)」
ハンマー 「(確かにか人間の、この子を……)」
少女 「…………」
少女 「私、ここがいい…………」
ハンマー 「…………」
ハンマー 「………………そうか」

510: 2009/07/07(火) 13:59:53.80 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「……この話はここまでにしよう。何も、すぐに結論を出すことはないんだ」
少女 「…………」
ハンマー 「何か食べていくといい。モンスターの中で暮らしていて、食事は大丈夫なのか?」
少女 「うん。おじさんの作るご飯はおいしいよ」
ハンマー 「おじさん……か(あの怪鳥のことだ……)」
ハンマー 「(俺には、とても人間と同じように考えることはできないが……)」
ハンマー 「(この子にとっては、家族に等しい存在なのだろう)」
ハンマー 「…………」
ハンマー 「…………他に何か、入用なものはあるかい?」
少女 「うぅん。大丈夫……この前、靴ももらったから……」
ハンマー 「あれくらいどうということはない。裸足のままでは、足がどうにかなってしまうだろう」
ハンマー 「ほら、モスの苔皮を乾燥させて作ったお菓子だ」
少女 「わぁい!」
ハンマー 「(……こうして見ると、普通の女の子なんだが……)」
ハンマー 「(何だろう……時折、人間ではないような……)」
ハンマー 「(奇妙な感じだ……)」

511: 2009/07/07(火) 14:01:01.01 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「(俺の武器も、少し反応している……)」
ハンマー 「(わずかに大宝玉が光っている。この子に対してなのか……)」
ハンマー 「(振動はしていない。危険を発しているわけではないようだが……)」
少女 「ハンマーさん、何か大きなものを持ってるの?」
ハンマー 「? ああ、これは、俺の先代が使っていた武器なんだ」
ハンマー 「大事なものだ(ガシャコン)」
少女 「……ハンマーさんは、それでモンスターを倒すの?」
ハンマー 「……ああ。それが仕事であり、俺の指名だからな……」
少女 「…………」
ハンマー 「だが、君の家族は覚えておこう。他の者にも、手を出さないようにとは伝えてある」
少女 「でも……」
少女 「ハンマーさんたちが怪我をさせたモンスターにも、家族がいるかもしれないんだよ」
少女 「昔、人間に酷い目に遭わされて、今でもすごく怒ってる人もいる」
少女 「みんな仲良くすることはできないかな……」
少女 「私、今ハンマーさんと話をしてて、とってもそう思う」

512: 2009/07/07(火) 14:02:14.12 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「…………」
ハンマー 「みんな仲良くか……」
ハンマー 「本当は、それが一番いいのだろう」
少女 「…………」
ハンマー 「だが少女、憶えておくといい。君もいずれ、成長して大人になる。子供ではなくなる」
ハンマー 「その時には、何故か同じセリフを口に出すことはできないんだ」
少女 「どうして?」
ハンマー 「さぁ……どうしてだろうな……」
ハンマー 「俺も、小さい頃……そう思っていた時があった」
ハンマー 「だが…………何故だろう……」
ハンマー 「きっとそれが、大人になるということなのだろう」
ハンマー 「俺は、そう思っている」
少女 「…………」

513: 2009/07/07(火) 14:03:11.92 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「君にどんなに糾弾されようと、俺はモンスターと戦う」
ハンマー 「それがハンターとしての俺の使命であり、生活なんだ」
ハンマー 「すまないが」
少女 「……うぅん。ハンマーさんは悪くない」
少女 「わがままを言ってる私のほうが悪いんだと思う」
ハンマー 「……いい子だ」
少女 「あ……ハンマーさんの武器、光ってる」
少女 「とっても温かい玉……? 何だか、懐かしい感じ……(なでなで)」
少女 「この感じ、どこかで…………」
ハンマー 「…………」
ハンマー 「別の大陸に行くのかい?」
少女 「……うん、みんな迷惑だろうと思うけれど……」
少女 「あの子にとって私がお母さんになれるんだったら、ついていってあげたいの」
ハンマー 「そうか……」

514: 2009/07/07(火) 14:04:15.41 ID:S/GPSHQ0
ハンマー 「(あちら側の大陸には、スラッシュアックスがいる……)」
ハンマー 「(モンスター嫌いのあいつのことだ……もし少女が見つかってしまったら、厄介なことになる)」
ハンマー 「(族長をしているあいつに、もしもの時のために説明をする必要があるかもしれない……)」
少女 「……? ハンマーさん?」
ハンマー 「ああ、いや。考え事をしていた」
ハンマー 「……そろそろ戻った方がいいだろう。君の『おじさん』の、巣の近くまで送ろう」
少女 「それは駄目」
ハンマー 「?」
少女 「おばあちゃんはすごく鼻がいいの。ハンマーさんが近づいたことなんて、すぐ分かっちゃう」
ハンマー 「そうなのか。では、このエリアの境界線まではついていってやろう」
少女 「え……」
ハンマー 「どうした、行くぞ。手を掴め」
少女 「………………」
少女 「(ぎゅ)」

515: 2009/07/07(火) 14:05:15.78 ID:S/GPSHQ0
―雪山エリア、境界線―

少女 「ハンマーさん、いつまでここにいるの?」
ハンマー 「もうニ、三日で地図は完成する」
少女 「そうなんだ……」
ハンマー 「あとは密林の地図を、探検隊を組織して作ることになっている。もしかしたらまた遭うかもしれないな」
少女 「! うん!」
ハンマー 「そうだ。これも持っておくといい」
少女 「これは?」
ハンマー 「小型の打ち上げ樽爆弾を改良したものだ。火薬をほとんど使っていない代わりに、煙が空に打ち上げるようになっている」
ハンマー 「もしもの時は紐を抜いて、地面にたたきつければいい」
ハンマー 「すると作動する。近くにもしも俺がいた場合は、助けに行こう」
少女 「ありがとう……ハンマーさんって、すごくやさしい」
ハンマー 「……そんなことはない」
少女 「みんな仲良くできれば、本当にいいのに……」
少女 「今度また会ったら、お返しするね。それじゃね」
ハンマー 「ああ、気をつけるんだ」
ハンマー 「! (大宝玉が一瞬強く光った……)」
ハンマー 「(少女に対して反応しているのか……?)」
ハンマー 「(無事に、仲間のところに戻れるといいが……)」

クック 「………………(スッ)」

516: 2009/07/07(火) 14:06:19.23 ID:S/GPSHQ0
―雪山、フルフルの巣―

少女 「(いろんなものもらっちゃった……)」
少女 「(顔、見えないけど……)」
少女 「(きっと、格好いい人なんだろうな……)」
少女 「(みんな寝てる……ばれてない……)」
クック 「…………」
ウラガンギン 「グゥ~…………クゥ~…………」
フルフル 「スゥー……スゥー…………」
子フルフル 「スー……スー…………」
少女 「(もらったものはポケットにしまって、私も寝よう……)」

517: 2009/07/07(火) 14:07:11.26 ID:S/GPSHQ0
少女 「すぅー……すぅー……」
クック 「(少女……)」
クック 「(あの人間と、何を話していたんだ……?)」
クック 「(近づいてみたが、私には言葉が分からなかった……)」
クック 「(うすうす感じていたが、少女は特別なのか……)」
クック 「(人間でありながら、モンスターと話ができる……)」
クック 「(どういうことだ…………?)」
クック 「(それに、忘れかけていたが……)」
クック 「(あの時、シェンガオレンを退けた光の中で、あの子は聞いたことのない言葉を叫んだ……)」
クック 「(あれはもしや……)」

518: 2009/07/07(火) 14:08:13.62 ID:S/GPSHQ0
クック 「………………」
クック 「(いずれにせよ、あそこで人間が野営をしているのは、誰かに言ったほうがいいのだろうか……)」
クック 「(しかしあれは、あの時にナルガと共に戦ったという人間だ……)」
クック 「(私は傷を負わされたことはあるが、悪意はないらしい……)」
クック 「(本来なら、すぐに警備隊に言うべきだが……)」
クック 「…………」
少女 「すぅー…………すぅー…………」
クック 「(まぁ……)」
クック 「(あそこなら、特に誰が困るわけでもないか……)」
クック 「(まぁいいだろう……)」

519: 2009/07/07(火) 14:09:09.53 ID:S/GPSHQ0
―翌朝、フルフルの巣―

ウラガンギン 「ふぁぁ゛ぁッ」
少女 「んう……? (ごしごし)」
ウラガンギン 「まんま」
少女 「あ、おはよう(なでなで)」
フルフル 「おう、起きたかい、少女。朝飯ができてるよ。それにお客だ」
子フルフル 「クゥーン」
ナナ・テスカトリ 「おはよう、少女。ウラガンギンちゃん? でしたっけ? 君もおはよう」
ウラガンギン 「ふぎゃぁ!(ドタドタ)」
ウラガンギン 「うー……まんまー」
ナナ・テスカトリ 「ふふ、私は怖い人ではありませんよ」
少女 「ウラちゃん、この人はナナさん。優しい人だよ」
ウラガンギン 「うう゛ー」
ナナ・テスカトリ 「顔はしっかりしているのに、少し臆病な子ねぇ」
ナナ・テスカトリ 「でも、ほら。温かいスープができていますわよ」
ウラガンギン 「!」
ナナ・テスカトリ 「どうぞ。少女ちゃんも」
ウラガンギン 「(そ~…………)」
ウラガンギン 「(チラッ)」
ナナ・テスカトリ 「(ニコリ)」
ウラガンギン 「(ガブガブガブガブ)」
少女 「ふふ、すごい勢いで食べてる」
ナナ・テスカトリ 「竜は沢山食べて大きくなるんですよ。まだまだこんなものじゃありません」

520: 2009/07/07(火) 14:10:11.44 ID:S/GPSHQ0
クック 「あぁおはよう少女。よく眠れたかい?」
少女 「え……う、うん。おはようおじさん。眠れたよ」
クック 「そうか。ウラガンギンも元気そうで良かった」
フルフル 「じゃ、とりあえずナナ、クック、頼んだよ」
ナナ・テスカトリ 「ええ。お任せください」
クック 「フルフルさんこそ、育児で無理はしないようにな」
少女 「?」
クック 「朝方、ナナ殿が知らせてくださってな」
クック 「昨日、リオレウスさんたちが、どうやら別大陸から来たという竜を捕まえたという話だ」
少女 「!!!」
少女 「も……もしかして、この子を追って?」
ウラガンギン 「?」
クック 「ああ、おそらくな……」

521: 2009/07/07(火) 14:11:27.72 ID:S/GPSHQ0
ナナ・テスカトリ 「その竜は、今ヤマツカミ様のところにいるそうです。夫が先に向かいました」
ナナ・テスカトリ 「準備ができてからでいいですので、わたくしたちも向かいましょう」
ナナ・テスカトリ 「少女ちゃん、ウラガンギンちゃんを誘導してくれないかしら?」
少女 「うん、分かったよ。ウラちゃん、お出かけだって(なでなで)」
ウラガンギン 「まんま!」
クック 「………………」
クック 「(ひそひそ)おおごとにならなければいいが……」
ナナ・テスカトリ 「(ひそひそ)既に、ナルガクルガ様たちもいらっしゃっているようです」
ナナ・テスカトリ 「(ひそひそ)奇面族の王も、姿をお見せになっているとか……」
クック 「何と。キングが?」
ナナ・テスカトリ 「ええ。ですから、もしもその竜が暴れても問題はないと思われます」
ナナ・テスカトリ 「問題は、少女ちゃんがこれからどうすべきなのか……」
ナナ・テスカトリ 「それが、わたくし達にも分からないということです」
クック 「…………そうだな…………」
クック 「だが、少女は守らねば……」
ナナ・テスカトリ 「…………そうですね…………」

522: 2009/07/07(火) 14:12:33.22 ID:S/GPSHQ0
~しばらく後~

ナナ・テスカトリ 「それでは準備はいいですか?」
ナナ・テスカトリ 「しかし……ウラガンギンちゃんは、見た目よりもずっと重いですね……」
少女 「ごめんなさい、ナナさん」
少女 「やっぱり私はおじさんの背中に……」
ウラガンギン 「!! まんま!!」
少女 「あぁ……ごめんね、どこにもいかないから……」
ウラガンギン 「(すりすり)」
クック 「……やはり、ナナ殿にお願いするしかないな……すまない」
ナナ・テスカトリ 「いえ、そのために来たのですから、お気になさらずに」
ナナ・テスカトリ 「それではフルフル様、空から一気に密林まで行ってまいります」
フルフル 「気をつけな。少女も、変な子竜も落ちるんじゃないよ」
少女 「うん! おばあちゃん、また来るね!」

523: 2009/07/07(火) 14:14:08.79 ID:S/GPSHQ0
―樹海、ヤマツカミの聖域―

ヤマツカミ 「…………ふむ。話は大まかに把握させてもろうた」
ラギアクルス 「先に攻撃を仕掛けてきたのはそちらだ。我に過失はない」
キングチャチャブー 「………………」
リオレイア 「過失がないって……あれだけ暴れまわっておいてよくそんな口が聞けるわね!」
リオレイア 「それに、奇面族の土地に入り込んだのは事実よ。私たちは見ました」
ラギアクルス 「それに関しては先ほど釈明した通りである。我はこの土地に対し不慣れであった。他意はない」
リオレイア 「あなたね、それで済むと思ったら、何もルールなんていらないのよ。分かる?」
ナルガクルガ 「レイア殿、少しよろしいだろうか」
リオレイア 「……はぁ、埒が明かないわ。あなたも何か言いなさいよ! 何? さっきの勢いはどこに行ったの!?」
リオレウス 「お前……ナルガさんが話をしたいというのだから黙りなさいよ……すまないな、ナルガさん」
ナルガクルガ 「いや……」

524: 2009/07/07(火) 14:15:07.06 ID:S/GPSHQ0
ナルガクルガ 「つまりお前は、海の向こうの土地から来たというわけか。それは事実でいいのだな」
ラギアクルス 「いかにも。しかし、『お前』呼ばわりはやめていただきたい」
ラギアクルス 「我には聖騎士団団長、ラギアクルスという名前と肩書きがある」
テオ・テスカトル 「ふむ……では聖騎士団団長殿」
ラギアクルス 「何だ?」
テオ・テスカトル 「貴殿が求めている卵は、確かにここにある」
ラギアクルス 「!? 何! どこだ!?」
ラギアクルス 「大切な、御方のご子息なのだ」
ラギアクルス 「頼む。即刻返還してくれ」
ナルガクルガ 「それはできない」
ラギアクルス 「何だと!? まさか、貴様達……我が主君ボルボロス様のご子息と知って、それで奪い取ったのか!」
ラギアクルス 「何故ゆえにだ!(バチバチバチ)」
テオ・テスカトル 「落ち着かれよ。団長殿」

525: 2009/07/07(火) 14:16:02.30 ID:S/GPSHQ0
テオ・テスカトル 「我々も、卵を奪うということはどれだけ重罪なのかは、俗物ながら分かっているつもりだ」
テオ・テスカトル 「あなたの騎士団がそうであるように、我らにも相応の常識は存在している」
テオ・テスカトル 「盗んできたのは、ここから少し離れた場所の群落に暮らす、トレジャーハンティング猫だ」
テオ・テスカトル 「後程、その身柄をあなたに引き渡そう」
ラギアクルス 「……やはり猫だったか……くっ……何たる失態……!!」
ラギアクルス 「しかし、返還ができないとはいかに?」
ナルガクルガ 「結論から言おう。卵は既に孵化をしてしまった」
ラギアクルス 「!!!!!」
ラギアクルス 「な…………何だと!?」
ラギアクルス 「次代皇帝閣下の卵が、もうすでに別の土地で……」
ラギアクルス 「孵化を!?」

526: 2009/07/07(火) 14:16:57.61 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「何故だ!? まだ孵る時期には余裕があったはずだ!!」
ラギアクルス 「保護をしてくれていたのには感謝をするが、貴殿ら何かを……!!!」
リオレウス 「あぁ……それなんだけど……」
ラギアクルス 「赤い竜……?」
リオレウス 「……………………ってなことがあって…………」
ラギアクルス 「(ギリギリ)きっさまぁっぁぁ!!」
ヤマツカミ 「おっと……落ち着くんじゃ、ラギアクルス殿」
リオレウス 「な……何だよ謝ってるじゃないか。偶然だったんだよ。レイアも何とか言ってくれ」
リオレイア 「………………」
リオレウス 「おぉい! 見捨てないでくれよ!」

527: 2009/07/07(火) 14:17:57.15 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「…………何と…………」
ラギアクルス 「あぁ……ウラガンギン様……」
ラギアクルス 「蛮族どもの手の中で……くっ!!!! 無念!!!」
ラギアクルス 「貴様ら! この責は必ずとらせるぞ!!!」
キングチャチャブー 「…………ビービーうるせぇ騎士団長とやらだな……」
ラギアクルス 「何!?」
キングチャチャブー 「……ガキィ無事に生まれて、怒り狂う阿呆がどこにいる……」
キングチャチャブー 「それともてめぇ……生まれちまったとかほざくつもりじゃねぇだろうな……」
ナルガクルガ 「…………」
ラギアクルス 「わ、我はそんなことは……」
キングチャチャブー 「ガキに罪はねぇ…………どんな極悪人だろうが、女王だろうが……」
キングチャチャブー 「そのガキはただのガキよ」
キングチャチャブー 「外野がビービー泣き喚いて、てめぇ一体何がしてぇんだ?」
ラギアクルス 「………………」

528: 2009/07/07(火) 14:19:31.00 ID:S/GPSHQ0
キングチャチャブー 「………………」
ヤマツカミ 「奇面の王の言うとおりじゃ。ラギアクルス殿、子供はこちらで保護し、生まれた。五体満足じゃ」
ヤマツカミ 「それは事実。まずは安心していただきたい」
ラギアクルス 「……確かに、少々我は感情的になって見境をうしなっていたようだ」
ラギアクルス 「そのとおりだな……」
ラギアクルス 「ウラガンギン殿は、大切に保護されているのだな?」
テオ・テスカトル 「いかにも」
テオ・テスカトル 「しかし、一点大事な問題がある」
ラギアクルス 「そうだ、その通りだ」
ラギアクルス 「誰を親と、お思いになってしまったのだ?」
ラギアクルス 「…………ウロボロス様…………!! 嘆かわしい……!!」
テオ・テスカトル 「…………人間の少女だ」
ラギアクルス 「………………? 今、何と?」
テオ・テスカトル 「これを貴殿に理解いただくためには、少々話をせねばならぬ。聞いて、いただけるだろうか」
ラギアクルス 「………………」
ナルガクルガ 「…………」
ラギアクルス 「分かった。聞こう」

529: 2009/07/07(火) 14:20:38.33 ID:S/GPSHQ0
―数時間後―

ウラガンギン 「まんま、まんま」
少女 「どうしたの? またお水?」
ウラガンギン 「まんま(こくり)」
少女 「こまったなぁ。水筒のハチミツ水はこれで最後だよ」
ウラガンギン 「(ゴクゴクゴクゴク)」
ナナ・テスカトリ 「もうじきヤマツカミ様の聖域に到着します。そこで少し分けていただきましょう」
クック 「しかし天候がすぐれないな……こう霧が深くては、やはり歩くしかないか……」
ナナ・テスカトリ 「! 見えてきました」

530: 2009/07/07(火) 14:21:48.18 ID:S/GPSHQ0
少女 「…………?」
少女 「水の、匂いがする……」
少女 「とっても大きくて、澄んだ水の匂い……」
クック 「ナルガさん! それにキングも!!」
ナルガクルガ 「来たのか、クック」
キングチャチャブー 「………………」
リオレイア 「あぁ! ナナ様、クックさん、夫がご迷惑を……」
ナナ・テスカトリ 「レイア夫人、お気になさらず。レウス様は、ご立派に働かれましたよ」
リオレウス 「ナナさん……!!!」
ヤマツカミ 「ほっほ。皆到着したようじゃの。こちらにおいで」
少女 「ヤマツカミのおじいちゃん!」
ヤマツカミ 「少女か。久しぶりじゃなぁ」
ウラガンギン 「(ビクビク)」
ラギアクルス 「………………」

531: 2009/07/07(火) 14:22:43.29 ID:S/GPSHQ0
少女 「な……何!? 誰かいるの!?」
ラギアクルス 「……………………」
ウラガンギン 「まんま……(ぎゅ)」
ラギアクルス 「(スッ)お初にお目にかかり恐悦至極に存じます。ウラガンギン閣下」
ラギアクルス 「あなたの聖騎士団、団長ラギアクルスと申します」
ウラガンギン 「………………」
ウラガンギン 「(クンクン)」
ウラガンギン 「!! まんま(ぐいぐい)」
少女 「ど……どうしたの?」
ウラガンギン 「(なでなで)」
ラギアクルス 「! 頭をなでていただけるとは! 感動にてござります!!」
ウラガンギン 「らむー」
ラギアクルス 「ハッ。ここに」

532: 2009/07/07(火) 14:23:53.23 ID:S/GPSHQ0
リオレウス 「えらく俺らに対する態度と違うな……」
クック 「それは、次代の皇帝なんだから仕方ないだろう?」
ラギアクルス 「……話は聞きました。あなたが少女か」
少女 「は……はい。あなたは……この子の土地からいらっしゃったんですか?」
ラギアクルス 「左様」
少女 「ご、ごめんなさい」
ラギアクルス 「?」
少女 「この子、私のことお母さんだと思っちゃって……本当のお母さんに、とっても、とっても悪いことを……」
少女 「で、でも、すごくいい子なんです」
少女 「もう少し大きくなって、ちゃんと説明すれば分かってくれると思います」
少女 「だから…………」
ラギアクルス 「……成る程。人の身でありながらモンスターの言葉を解するか」
ラギアクルス 「それに、我やウラガンギンさまの異様の姿を前にしても、物怖じ一切せぬ」
ラギアクルス 「普通の人間ではないようだな……」
クック 「…………」
少女 「え……わ、私……普通の人です……」
少女 「とくにとりえもありませんし……役にも立てませんし……」
ラギアクルス 「………………」

533: 2009/07/07(火) 14:25:44.25 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「そなたからは、白光の匂いがする」
クック 「!!」
少女 「びゃっこう?」
ラギアクルス 「状況は分かり申した。ウラガンギン様もご無事なようだ」
ヤマツカミ 「やっと、落ち着いてくれたかの?」
ラギアクルス 「正直なところ、動転している。しかし……」
少女 「……?」
ウラガンギン 「まんま、まんま(ぐいぐい)」
ラギアクルス 「ウラガンギン様のご安全を確認するのが、我の使命。それは果たせ申した」
ヤマツカミ 「ならば、いかがいたしたものだろう」
ラギアクルス 「………………」
ラギアクルス 「やはり、一度こちらの大陸にお越しをいただく必要がある」
ラギアクルス 「この件については、我が単独で何かを決められる問題ではない」
ナルガクルガ 「ふん……妥当な判断だな……」

534: 2009/07/07(火) 14:26:56.47 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「我の背中に乗れば、遅くとも四両日中には到着できる」
ラギアクルス 「いかがか」
テオ・テスカトル 「ふむ。今回のことに関しては、我々の責任もある」
テオ・テスカトル 「直接ボルボロス殿とやらに拝謁させていただく必要もあるだろう」
テオ・テスカトル 「我も行こう」
ヤマツカミ 「助かる、テオ殿。それでは、ラギアクルス殿、こちらで、渡る人選をさせていただく時間を、すこしいただけるだろうか」
ラギアクルス 「なるべく即急に頼む」
ヤマツカミ 「分かっておるよ。お主は、この奥にわしの弟子が使っている部屋があるでな、少し体を休めるといい」
ラギアクルス 「……言葉に甘えさせていただこう。ウラガンギン様、こちらに……」
ウラガンギン 「…………まんま……(ぎゅっ)」
ラギアクルス 「…………」
少女 「あ……ごめんなさい。この子私から離れなくて……」
クック 「少女、ラギアさんのところに私と行こうか。ウラも」
少女 「おじさん!」
ラギアクルス 「……かたじけない」
クック 「イャンクックだ。よろしく」
ラギアクルス 「………………ああ」

535: 2009/07/07(火) 14:28:17.94 ID:S/GPSHQ0
―別大陸―

×××××× 「何だって? ラギアの野郎が、卵を探してあっちの大陸に行ったって?」
メラルー達 「ええ、話じゃ、今ごろつく頃じゃねぇかとおもいやス」
×××××× 「ちっ……まさか生きちゃぁいないとおもうが、もし卵が無事に生まれてたら面倒なことになるぜ……」
×××××× 「お前達、あたしの名前を使っていいから、他の猫を使って、卵の安否と奴らの行動を確かめるんだよ!」
メラルー達 「オウイエスッス!!」
×××××× 「(次期皇帝なんざ、誕生させてなるものか……)」
×××××× 「(次に王位を狙うのは、あたしなんだよ……!!)」

536: 2009/07/07(火) 14:32:19.53 ID:S/GPSHQ0
お疲れ様です。次回へ続かせていただきます

no title

537: 2009/07/07(火) 14:42:08.87 ID:QdiYV4.o
乙でした~
こんな時間に投下来てるとは・・・
キングは相変わらずかっこいいぜ

539: 2009/07/07(火) 16:48:34.81 ID:wc0cUvAo
乙ですー
そういや気づいたら女児から少女に変わってたんですな

引用: イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 2