1: 2012/01/17(火) 01:22:47.26 ID:T8Dh1aP30
私は頃し屋だ。組織の中でも最も多くの人を頃している。

幼い頃から頃し屋として働いていたのもあるが、今の私には目的があった。

ある頃し屋を頃す。

それが高校の頃からの私の目的だった。

12: 2012/01/17(火) 01:28:27.27 ID:T8Dh1aP30
冷たい、暗い、そして黒い部屋のドアを開けると誰もいないことを確かめた後電気をつける。

部屋にはベッドと机、そしてパソコン以外には何もない。

私は重いドアの鍵を何重にも閉めるとベッドに横になりそっと目を閉じた。

組織の間ではキチOイとか、悪魔とか氏神とか……いろいろな呼ばれ方をされているらしい。

以前のプライドの高い私ならば怒っていただろうが、今の私はそんな気が起きない。

明日のターゲットを頃す方法を考えながら目を閉じるとすぐに眠気が襲い掛かってきた。

明日も朝から従の整備をしなければいけない。その後すぐにターゲットを頃す。そして余った時間で……。

16: 2012/01/17(火) 01:30:34.14 ID:T8Dh1aP30
やすな「ソーニャちゃん!」

私のことを友達と呼んでくれた少女が語りかけてくる。

やすな「ひどいよ、ソーニャちゃん! いい加減に学習してよ!」

そいつは、馬鹿で、アホで、やっぱり馬鹿で……。

やすな「大丈夫、ソーニャちゃん。私がついてるよ!」

……私の、唯一の親友だった。

17: 2012/01/17(火) 01:34:57.80 ID:T8Dh1aP30
ソーニャ「朝、か……」

夢を見た。

いやな夢だった。

私は銃の整備をした後、固いパンを食べ、そのまま仕事に向かった。

今回の仕事はマフィアのボスの暗殺だった。

邪魔する兵士をナイフで頃し、ターゲットを銃で撃ち頃した。

仕事を終えるとシャワーを浴び、知り合いの情報屋に会いに行く。

私に頼まれている情報はまだ見つかっていないそうだ。

19: 2012/01/17(火) 01:39:37.62 ID:T8Dh1aP30
今度のターゲットは子供だった。

このターゲットは組織からの依頼ではなく、国からの依頼だった。

よくある大統領の息子や娘を暗殺させる自作自演だ。

下手な頃し屋は捕まるであろうが、私は違う。

無邪気にはしゃぐ子供の心臓をためらいもなく銃弾で打ち抜くと黒服の男たちが騒ぎ出す前にその場を後にした。

昔の私なら頃すことを躊躇っただろう。

だが、これも仕事だ。仕方がない。

21: 2012/01/17(火) 01:42:52.88 ID:T8Dh1aP30
頃した。

今日も、何の罪もない人間を。

いや、何の罪もないというのはおかしいか。

本当に何の罪もないのなら、依頼なんてくるはずがない。

その罪を償うために、氏ぬんだ。

だから私が引導を渡しているんだ。

昔の私の「いいわけ」だった。

自分の罪から逃れるための……。

23: 2012/01/17(火) 01:45:34.40 ID:T8Dh1aP30
やすな「ソーニャちゃん!」

やすな「ありがとう、ソーニャちゃん!」

やすな「ひどいよ、ソーニャちゃん!」

やすな「あそぼーよ、ソーニャちゃん!」

夢の中で、またあいつが騒いでいる。

やめろ。その名前で呼ぶな。

やすな「……ソーニャちゃんは、私に命令できる立場なの?」

ソーニャ「え……?」

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

24: 2012/01/17(火) 01:48:16.80 ID:T8Dh1aP30
いやな夢を見た。

親友の夢。

汗がひどい。

服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる

黒い部屋の中で音がした。

あの音はメールの届く音だ。

一糸纏わぬまま部屋へ戻ると情報屋からメールが届いていた。

赤い髪の頃し屋が、見つかったそうだ。

25: 2012/01/17(火) 01:50:50.23 ID:T8Dh1aP30
あの日以来、初めての依頼のキャンセルをした。

私は銃の整備をすると懐にナイフを忍ばせた。

防弾チョッキも用意した。

情報屋に今までためた大金を払いそいつの情報をすべて受け取った。

明日、計画を実行に移す。

この数年、待ち望んでいた最初で最後のチャンスだ。

絶対に、あの頃し屋を頃す。

26: 2012/01/17(火) 01:56:25.17 ID:T8Dh1aP30
やすな「ソーニャちゃん! 今日の放課後はどこへ行こうか?」

ソーニャ「私は忙しいんだ。またにしてくれ」

また、あの夢だ。

やすな「またまたー、ほんとは私と遊びたいくせに!」

ソーニャ「誰がお前なんかと……もういい、帰るぞ!」

せめて、あのときに遊びにいってやればよかった。

やすな「ひどっ! ……! ソーニャちゃん、危ない!」

ソーニャ「誰がそんな言葉に騙されるかっ! ……って、うわっ!!?」

いつにない、やすなの本気の体当たりで、私はバランスを崩し倒れた。

ソーニャ「お前、何考え……っ!!?」

やすな「……ソーニャちゃん……だい、じょーぶ……?」

やすなの背中に、ナイフが刺さっていた。

30: 2012/01/17(火) 02:01:07.95 ID:T8Dh1aP30
ソーニャ「だ、誰か、救急車を!」

毒のにおいがした。なぜ、その瞬間まで気がつけなかったのだろうか。

ソーニャ「大丈夫か!? すぐに病院に……!」

私の手がどんどん赤く染まっていく。

やすな「……えへへ……こんなに……やさ、しい……そー、にゃ、ちゃん……はじ、めて……」

ソーニャ「しゃべるな!」

やすな「……もう、いえなく、なっちゃうから……だから、これだけは、いいたいんだ……」

ソーニャ「そんなわけない! 言えなくなんてならない! だから……」

やすな「……ありがと……」

そういうと、あいつは目を閉じた。

ソーニャ「……や、すな……? うそ、だよな……おい、やすな!!! うわああああああああああああ!!!!」

その日、私の親友は……この世を去った。

32: 2012/01/17(火) 02:05:12.40 ID:T8Dh1aP30
それから、私の視界に色彩はなくなった。

高校をやめ、情報のために金を集める日々。

毒のついたナイフ、そしてその日学校で目撃された赤い髪の不審者。

これだけの情報だったが、ついにやすなを頃した頃し屋を見つけ出すことが出来た。

私は、仕事をするための服に着替えると、黒い部屋を出た。

37: 2012/01/17(火) 02:10:10.57 ID:T8Dh1aP30
勝敗がつくのはあっけなかった。

銃撃戦も、接近戦も、終始私が優勢だった。

皮肉なことに、今までの経験が役に立っているのだ。

そいつは、自分が何をしたのかわかっていないようだった。

ソーニャ「……お前が、3年前に頃した女子高校生のことを覚えているか?」

頃し屋「そ、そんなもの、いちいち覚えているわけがないだろ!!!」

私は、両足を打ち抜き、腕をナイフで刺し、そのままそいつを拘束した。

簡単に頃しはしない。もっと、もっと苦しませるんだ。

最初で最後の会話から数時間後、そいつは苦しみながら氏んだ。

目的が達成できた瞬間、私はとても虚しい気持ちになった。

42: 2012/01/17(火) 02:13:14.99 ID:T8Dh1aP30
翌日、私は依頼で日本の高校に来ていた。

以前の私のような頃し屋が組織にとって邪魔な存在らしい。

私はその高校の制服を着ると、その頃し屋を頃すために高校に潜入した。

頃し屋は簡単に見つかった。友達と喧嘩をしているようだった。

私はその背後にそっと忍び寄り、ナイフを出した。

45: 2012/01/17(火) 02:17:16.17 ID:T8Dh1aP30
「あぶない!」

頃し屋の友達が、私の前に現れた。

あまりに突然の出来事で手を止めることができず、私はそいつをさしてしまった。

そして、あの日の出来事がフラッシュバックする。

頃し屋は泣きながら私に銃を向けた。

私は頭が真っ白になったまま走って逃げ出す。

屋上まで逃げるが、ついに追い詰められてしまった。

「なんで……なんであいつを刺したんだよ!!!」

泣き声の混ざった叫びが屋上に響く。

あのときの、私がそこにいた。

47: 2012/01/17(火) 02:22:31.81 ID:T8Dh1aP30
もしも、ここで私が逃げれば、彼女はどうするのだろう。

私のように復讐だけを考えて生き続けるのだろうか。

私のように、何人もの人を頃すのだろうか。

その時、親友の声がした。

やすな『そういう仕事は、いけないと思うな』

そうだ。

私が今までやってきたことは、罪なのだ。

いまさら、気づいた。

私は、あの頃し屋と同じだった。

救われたいと思った。

もし、救われるとすれば、方法はひとつだった。

ソーニャ「キルミーベイベー(頃してみろ、可愛い子ちゃん)」

銃声が、木霊した。

50: 2012/01/17(火) 02:26:28.20 ID:T8Dh1aP30
ソーニャ「……いい、友達だな」

「当たり前だ!!! なのに……なんで……」

ソーニャ「急所は、外れてる……私の、胸ポケットの……薬を、飲ませれば……毒も、抜ける……」

「……え……?」

ソーニャ「……私のターゲットは、お前だ……あの子じゃ、ない……」

多分、私は少しでも救われたかったんだろう。

でも、こんなことで罪を消せるわけではない。

私の胸ポケットからカプセルを持ち出すと、その頃し屋は走り去って行った。

空の青さが、目に染みた。

ソーニャ「なんだ……まだ、色が見えるんだ……私……」

52: 2012/01/17(火) 02:30:07.90 ID:T8Dh1aP30
……ソーニャちゃん……。

ソーニャ「……なんだよ、迎えに来たのか」

……言ったでしょ。ずーっといっしょだよって。

ソーニャ「なら、もっと速く会いに来てくれよ」

……わっ、素直なソーニャちゃん、初めてだ!

ソーニャ「……やすな、これからは……ずっと一緒だ」

……うん。



青い空の下。

氏神と呼ばれた優しい頃し屋は、その短い生涯を閉じた。

だが、その氏顔は……とても穏やかなものだった。

まるで、暖かい優しさで包まれているかのように。


終わり

54: 2012/01/17(火) 02:31:00.59 ID:T8Dh1aP30
って言うネタをキルミーベイベーの1話を見て思いついたのですよ

61: 2012/01/17(火) 02:38:02.08 ID:T8Dh1aP30
それじゃ、そろそろ寝る。

76: 2012/01/17(火) 08:40:52.89 ID:HW01Mx+b0

引用: ソーニャ「キルミーベイベー」