48:◆lhyaSqoHV6 2013/08/19(月) 07:12:32.09 ID:VHs+KO40o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



憤怒の街で各勢力が色々と動いているその頃~的なものを投下

49: 2013/08/19(月) 07:13:06.59 ID:VHs+KO40o

大量に発生したカースが街一つを占拠し世間を騒がせ始めて数日後。
丹羽仁美は学校帰りに街を歩いていた。
小娘だてらに長物を振り回し退魔士を名乗ってはいるが、彼女の本業はあくまで学生だった。

仁美「(ん……あれは、カースに占拠された街……か)」

ふと、ビルの壁面に据えられた巨大なモニターが目に入る。
それは丁度、午後のニュース番組を流しているところだった。

『多くの組織が事態の収束に向けて活動を続けているものの、未だに街の解放の目途は立っておらず──』

現地から『憤怒の街』の様子を伝えるリポーターの背後では、GDFの戦闘車両が集まってバリケードを築いていた。
その周辺を武装した隊員が忙しなく動き回っており、物々しい雰囲気が伝わってくる。

それらのさらに向こう側には、『憤怒の街』の中心部のビル群が見える。
空を覆う雨雲は、直下で炎が上がっているかのように赤く染まり、
昼なお暗い様は街に蔓延る異形が放つ、その瘴気の濃さを表しているかのようだ。

仁美「(うーん……今日も進展は無いみたいね)」

報道を聞きながら仁美は内心歯噛みする。
助けを求める人が居て、それを救い得る力を持っているのに、
何もせずに見ているだけなどという事は彼女の正義に反することだった。

仁美「(けど、あやめっちにあんなこと言っちゃったしね……)」

しかし、いつぞやから共に行動するようになった少女……あやめを諌めた手前、自分が軽率な行動を取る事は出来ない。
彼女も今の仁美のように『憤怒の街』へと赴き彼女なりの義を為したいと、そう訴えていたのだが、仁美はそれを不要だと諭したのだった。


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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。


~中略~


「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。

・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。





50: 2013/08/19(月) 07:13:49.44 ID:VHs+KO40o

あやめに対しては『憤怒の街』の惨状に際し、「自分達が出来る事は何も無い」などと突き放すような言葉を投げつけてしまったが、
仁美自身は、実際にはそのような事はないだろうと考えていた。

仁美は幼い時分より異形と戦うための厳しい修行を積んできていた。
あやめも同様に忍びとしての修行を積み、幼くして免許皆伝を受けるにまで至った実力を持っている。
二人共、心身共に一般人とは比べ物にならない程……ある意味では、『あの日』に突然能力に目覚めた者達以上に鍛え上げられているのだ。

その自負もあって、あるいは、自分達も攻略に加わる事で街の解放が更に早まるのではないかと……
そんな風に考えたことは一度や二度では無かった。
それでも、依然として普段通りの生活を送っているのには、彼女なりの考えがあっての事だった。

現状、『憤怒の街』奪還のためにアイドルヒーロー同盟の所属ヒーローは勿論の事、在野ヒーローもその多くが出払っている。
GDFも同様に、奪還目的や、逆に街からカースを出さないための防衛線を張るなどの目的で人員を割かれ、
周辺地域には少数の兵力しか残っていない。

名のあるヒーローは、本人が望むと望まざるとに関わらず、少なからず周囲から期待の目が向けられるものだ。
必然、今回の様な大規模な厄災が発生した時には──勿論人助けという目的はあるだろうが、体面を保つために出動することになる。

その点、仁美はヒーローを気取ってはいるもののあまり有名ではないため、
組織の束縛や周囲の目などを気にする必要も無く、自由に動けるという事になる。
仁美と共に行動することが多いあやめも『アヤカゲ』の名が示す通り、影に忍んでの活動を主としていたため、仁美と同じような状況にある。

普段街を守っている者が居ないのであれば誰かがそれを埋める必要があり、その役は自分達が適任であると、仁美はそう考えるに至る。
事実、多くのヒーローが出払っていることを好機と見たのか、人間の悪人やら怪人やらの活動も活発になっている。

つまるところ「出来る者が出来る事をする」というのが最良なのだ。
だとすれば、自分が為すべきは『憤怒の街』の状況に気を揉む事ではなく、
出払ったヒーローやGDFの留守を守ることだというのが仁美の考えだった。

51: 2013/08/19(月) 07:14:55.68 ID:VHs+KO40o

仁美「(一意専心! ……は、ちょっと違うかな……初志貫徹? これも違うか……)」

仁美「(まあとにかく、アタシはこの街を守るって決めたんだから、それを通すまでよ!)」

仁美「(あやめっちにアタシの考えを押し付けちゃった形になったのは申し訳ないけどね……)」

決意を新たにしたところでモニターに目を戻すと『憤怒の街』からの中継は終わり、
スタジオにて口だけは達者なコメンテーターと司会進行が、出鱈目な憶測をしたり顔で並べ立てているのが目に入った。

もうこれ以上見ていても時間の無駄だろう。
そう判断した仁美は、その足を帰路に向ける。


──その時、何処からか悲鳴が聞こえてきた。


仁美「松風!」

『でけぇ声出すな! 聞こえてるよ!』

すわ問題事かと、慌てて相棒の黒馬を呼び出し飛び乗る。

仁美「声のした方へ向かって!」

『おうよ!』

52: 2013/08/19(月) 07:16:34.41 ID:VHs+KO40o

悲鳴の聞こえた現場にたどり着くと、辺りは騒然となっていた。
なにやら見たことの無い黒い物体が、人を襲っているのが見える。
その物体は、どうやらカースであるらしいが、その形は獣──狼の様な姿を取っていた。
総数は八体ほどだ……数も多い。

仁美「な……何? こいつら……見たことない」

『纏っている"気"は、カースとかいう化け物と同一のものだが……濃さが段違いだな』

退魔士の本能が告げる。
こいつらは強い……と。
もしかすると、自分の手には負えないかもしれない。

仁美「一応、あやめっちにも連絡しておこうか……」

仁美は懐から携帯電話を取り出し、あやめにカース発生時の定型文メールを送信する。
彼女と共同で対応すれば、何とかなるかも知れない。
……それまで自分が持ちこたえていられればの話だが。

仁美「小さいのは何とかなるかもしれないけど、あの一体だけ大きい奴はヤバいね……」

よく見ると狼型カースの群れの中に一際大きい個体がいる。
見るからに強靭そうな体躯は黒い瘴気を纏っており、その眼は憤怒の赤色に染まっている。

松風『念の為教えておいてやるが、お前一人じゃあアレはどうにも出来んと思うぞ』

松風『我が身が可愛ければ、素直に逃げるこったな』

仁美「……そんなわけにいかないでしょ」

松風の言葉に、一瞬心が揺らぎそうになる。
もし、あの狼型の群れとやりあう事になれば、無事に済む保障は無い。
恐怖を感じないかと言われれば、そのようなことは無かった。

しかしその時、仁美の視界に狼型カースの一匹に襲われている人が映った。

仁美「っ! やるしかないか!!」

言うと同時に駆け出す。

松風『甲冑には着替えないのか?』

仁美「残念だけど! そんな暇無いよ!」

松風の冗談?に気を取られながらも、逃げ遅れたと思しき人に飛びかかろうとする一匹を、不意を衝いて串刺しにする。

53: 2013/08/19(月) 07:19:36.25 ID:VHs+KO40o

仁美「遠からん者は音に聞け!」

狼型を串刺しにした槍を地に突き立て、自らを奮い立たせるように叫ぶ。

仁美「我が名は丹羽仁美! 異形を狩る者なり!!」

松風『(名乗りがいつもの雰囲気と違うな……本気モードってヤツか?)』

その槍を思い切り──侍が刀に付いた血糊を払うかのように振るうと、狼は地面に叩きつけられ、飛沫を上げて飛び散った。

泥を払った槍を残った群れに向け言葉を続ける。

仁美「闇より出でし禍つ者共よ! 数多の魔を屠りし我が斧槍を以って、昏き淵へと送還してくれよう!!」

口上を終えると、仁美は松風に飛び乗り狼型の群れと反対方向へ駆け出す。


松風『格好つけておいて結局逃げるんだな』

仁美「逃げるんじゃないよ! 時間稼ぎだから!」

仁美が向かったのは、有事の際に使用されるシェルターの反対方向だった。
少しでも民間人の避難を助けられればと考えての行動だ。

仁美「よし、かかった!」

すぐさま狼型の追手がかかる。
見ると、八匹全部が追いかけてきたようだ。

仁美の名乗りは一見目立ちたいがための無意味な行為に見えるが、その実、相対した相手の気を引くという効果もあった。
それは、相方であるあやめの戦い方──陰ながら敵に忍び寄り、隙を衝いて致命傷を見舞うような戦法と、図らずも合致するものだった。

仁美「(まあ、今はあやめっちも居ないし……あんまり意味は無いんだけどね)」

それでも、狼型を全て引き連れて、人の少ない方へとおびき寄せる事には成功している。
一般人の避難を助け、仁美にとって戦いやすい環境を作るくらいの効果はあったのだ。

54: 2013/08/19(月) 07:21:05.86 ID:VHs+KO40o

カースの群れとの遭遇場所からかなり離れたところまで来たところで、仁美は殺気を感じた。
周囲を見渡すと、数匹の狼型が追いついてきているのが見える。

仁美「松風、頭下げて!」

松風が仁美の言葉で頭を下げると、真正面から、噛み付こうと飛び込んできている個体が見えた。
その大きく開いた口目掛け、槍を突き出す。
胴体の中にあった核ごと全身を貫かれた狼型は、さながら串に刺されたししゃものような姿を晒す。

仁美「これで二匹目!」

槍を振るい刺さったカースを落とすと、側面から別の個体が接近してきていた。

仁美「っ! そこだっ!!」

斧槍のリーチと形状を存分に生かし、攻撃されるほどに近寄られる前に薙ぎ払う。
この個体も頭から胴体まで真っ二つになり、泥と消えた。

仁美「三匹目!」

三体目が消滅するのを見届けた仁美は、真後ろから接近している個体に気が付いた。

仁美「松風!!」

松風『分かってる!』

松風は前足でブレーキを掛けると、両の後ろ足で接近してきた個体を思い切り蹴り上げる。
蹴られた個体は核ごと砕かれ、泥の飛沫を上げて飛び散った。

仁美「っ!? 危ないっ!」

ふと、仁美は異常な殺気を感じ、戦慄する。
足を止めたのが悪かったのだろう、群れの中に一匹だけいた大型の個体がこちらに飛び込んできていたのだ。
仁美は既のところで松風から飛び降り難を逃れたが、その松風は大型の個体に噛みつかれ、引き倒されてしまっていた。

仁美「この……っ! 離せ!!」

仁美は体勢を整えるとすかさず突きを繰り出すが、大型の個体はすぐに飛び退いて躱す。
取り敢えずは松風から引き離すことには成功したが、残りの個体も集まって来て、取り囲まれてしまった。

松風『こんな犬っころに手傷を負わされるとはな……俺も焼きが回ったか』

松風はよろめきながらも立ち上がる。

仁美「大丈夫なの!?」

松風『傷は浅い、走るのに影響は無い……』

周囲の狼型は、距離を縮めるよう円を描きながら少しずつ包囲を狭めてくる。
その様子を見た松風が、珍しく神妙な様子で口を開く。

55: 2013/08/19(月) 07:22:45.57 ID:VHs+KO40o

松風『仁美よ、俺の全速力なら、今ならまだ包囲を突破して逃げる事も出来るぞ……敵の数も減ったしな』

松風『だが、これ以上戦うつもりでいるなら、そのチャンスもすぐに無くなるだろう』

仁美「……」

松風『時間が無い、どうするかすぐに決めろ』

仁美「確かに逃げるってのも手かもね、『三十六計逃げるに如かず』って故事もあるしね」

松風『だったら──』

仁美「でも、アタシは逃げない……逃げたくない……」

仁美がここにいるのは、戦う術を持たない民間人を助けるためという理由からだ。
だが、それ以上に、自分の存在意義を掛けて戦っているという側面が強かった。

仁美「ここで……逃げるわけにはいかない……っ!」

松風『……』

他のヒーロー達の留守を……この街を守ると決めたのだ。
立てた誓いを簡単に破るわけにはいかない。

仁美「もののふにはね、命を賭してまで戦うべき時があるの……アタシにとっては今がその時なのよ」

仁美「生くべき時に生き、氏すべき時にのみ氏するってね!」

松風『……そうかよ、なら俺はもう何も言わん』

仁美とは短くない付き合いの松風は、言っても無駄だと察したのだろう、口を噤む。

仁美「(ただ、松風は最初から逃げろって言ってたんだよね……)」

仁美「(ここに残って戦おうっていうアタシのワガママに、付き合わせるわけにはいかない)」

仁美「松風、あなたは戻って」

仁美は槍を掲げ、松風をその中へと封印する。

松風『なっ!? お前、何を!?』

仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」

56: 2013/08/19(月) 07:25:25.42 ID:VHs+KO40o

仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」

痺れを切らし、正面から飛びかかってきた二匹の狼型を横薙ぎに払い核ごと真っ二つに、
返す石突で別方向から飛び込んできていた一匹を強打する。

不安定な馬上にのそれに比べ、二本の足で大地を掴み、しっかりと支えられた身体から繰り出される攻撃は、威力も、速度も、正確さも数段上回る。
仁美が松風を降りたのは、松風をやられて自棄になったのではなく、勝算があっての事だった。

仁美「足を奪ったくらいで、勝った気にならないでよね!」

松風『足って俺の事か!?』

仁美は大きく飛び上がると、空中で槍を逆手に持ち替え、突き飛ばされのたうつ狼型に思い切り突き立てる。
衝撃で核が粉々に砕かれた狼型は即座に泥と化し消えていった。

仁美「七匹目……!」

槍を地面から引き抜き、顔を上げると、狼型の群れの最後の一匹が目に入った。


仁美「これで真打登場ってわけね」

取り巻きを始末し終えた仁美は、ついに一際大きい狼型のカースと対峙する。
纏う雰囲気や、発する瘴気の濃さから、今まで相手をしていたものとは比較にならない強さを持っている事が分かる。

仁美「(これは……覚悟を決めないとかな)」

巨大な狼型は、猛スピードで飛びかかってくると、鋭い爪の生えたその前足を思い切り振るう。
仁美は最小限の動きでそれを躱すと、すぐさま反撃に転じる。
しかし、突きだした槍はわずかに敵の身体を掠めるくらいで、大きなダメージを与えることは出来なかった。

仁美「身体は大きいし力は強い、その上素早いとか……っ!」

身を翻し、再び突進してくる狼型を、今度こそ捉えられるようにと身構える。
しかし、反撃を意識し過ぎたのだろう、回避に意識がまわらず、仁美の身体を引き裂かんと振るわれた爪に、僅かに腕が掠ってしまう。

仁美「くっ!」

予想外の痛みと衝撃に思わず腕を見ると、制服のブレザーとワイシャツは紙の様に切り裂かれ、血が滲んでいるのが見えた。

仁美「(少しかすっただけでこれ? ……まともにもらったら、ただじゃ済まないな)」

仁美は気を取り直し、狼型へ向き直る。
狼型の方も、真っ赤に燃え上がる双眸で仁美を見据えていた。

仁美「さあ、来なよ! まだまだこれからだよ!!」

三度、仁美と狼型が交錯する。

57: 2013/08/19(月) 07:26:44.01 ID:VHs+KO40o

それからも数度、狼型の突進と仁美の迎撃の応酬が続いた。

狼型の攻撃により、仁美の身体には致命傷とまではいかないものの無数の切り傷が出来上がっていた。
対して狼型の方は大した損傷も無く──そもそも、カースの特性として、核を攻撃できなければ体表の損傷などはすぐに回復してしまうのだ。

仁美「(まだ充分に動ける……けど、このままじゃジリ貧だ……なんとかしないと)」

仁美「(敵は、毎回真正面から飛び込んできているんだよね)」

毎回狼型の方から攻撃を仕掛けてくるという事実を受けて、仁美は思案する。

仁美「(はっきりいって単調だけど……)」

攻撃一辺倒になるという事は、その分防御が疎かになるという事でもある。
そこを上手く衝ければ、勝機はあるかも知れない。

仁美「(何度かの打ち合いで、核の大体の位置は掴めてる……あとはそこに一撃を加えられれば!)」

再び飛び掛かってくる狼型の動きを読んだ仁美は、反撃ではなく回避することを選んだ。
大きく振るわれた前足を、槍で受けると同時に自分の後方へと回転させ衝撃を受け流す。
攻撃をいなされた狼型は、無防備なまま仁美の後ろへと着地した。

仁美「(これは……もらったッ!)」


しかし、その攻撃が届くことは無かった。


狼型は着地した直後、前足を軸に半身を素早く横にずらし、仁美の突きを躱したのだ。
その動作は非常に素早く、狙いすました大振りの一撃を躱された仁美は、敵の反撃に対する反応が遅れてしまう。
狼型が振るった前足を咄嗟に槍で受けたものの、その手には強い衝撃と同時にぐにゃりと、何かが折れ曲がったかのような嫌な感触が伝わってきた。

慌てて飛び退き、狼型から距離を取り視線を手元に落としてみると、
無理な受け太刀が祟ったのか、槍の柄が真ん中が拉げ折れ曲がってしまっていた。

仁美「抜かった……!」

仁美は苦々しげに吐き捨てる。

仁美「(もしかすると、単調な攻撃もアタシの大振りを狙って……?)」

仁美も、決して侮っていたわけではないが、想定より遥かに手強い相手だったらしい。
ここまで一方的にやられることになるなどと、戦う前は想像もつかないことだった。

狼型は敵から牙を奪ったことを理解したのだろうか、悠然と仁美の方を向き直る。

仁美「くっ……」

折れ曲がった状態では、自慢の斧槍ももはや武器としての役目を成さないだろう。

58: 2013/08/19(月) 07:29:52.78 ID:VHs+KO40o

仁美「どうしようもない、か……」

仁美は片膝をつくと、言い聞かせるように呟く。

仁美「ご先祖様……ごめんなさい!」

そう言うと仁美は、ついた片膝に槍の折れ曲がった部分を宛てがい、両の手で力を込めてへし折った。
穂先だけでも、武器として利用しようというのだろう。

松風『おい! 仁美! 何があった!?』

槍の中に封印されている松風が、今までに感じたことの無い衝撃に思わず声を上げる。
それに答えるように、仁美がおもむろに口を開く。

仁美「……松風」

仁美「もし"自由"になれても、もう人間界で暴れるのは止してね」

松風『ハァ!? お前、何を言って──!』

仁美は、松風の言葉を意に介さず立ち上がる。
そして、覚悟を決めるかのように、大きく深呼吸を一つ。

仁美「矢尽き刀折れ……最後に残ったのはこの身一つ……か」

仁美「だけど、アタシは負けない!!」

戦う術を失いながらも、猛然と向かってくる狼型に臆する素振りを見せず、叫ぶ。
狼型は、相手が動かないのを戦意を喪失したと見たのか、大口を開けて突進してくる。


──そしてついに、その凶悪な顎が、仁美の身体を捕らえた。


刃物の様に鋭い牙が身を裂き、強靭な顎が骨を軋ませる。
仁美は顔を苦痛に歪めるが、しかしその口元は──口角が微かに吊り上がっていた。

そして一言

仁美「勝った……!」

そう呟くと、手にした穂先を狼型の首へと突き立てた。

59: 2013/08/19(月) 07:33:40.74 ID:VHs+KO40o

仁美の決氏の攻撃は、果たして狼型の核を捕らえることに成功した。
手に何か硬い物を穿ち砕く感触が伝わり、身体に食らいつく顎の力が急速に弱まるのを感じる。

仁美「ふっ……肉を斬らせて……骨を断つ……ってね」


満身創痍の状態で、核から穂先を引き抜く。
すると、巨大な狼型の体躯はすぐさま不定形の泥と化し、そのまま地面へと消えた。

仁美「やったよ……アタシが、勝ったんだ……」

仁美は、カースの消滅を以って自らが勝利したことを実感する。
しかし、緊張状態が途切れたことにより脳内物質の分泌が止まったのか、焼け付くような痛みが全身に襲い掛かる。
視線を落とすと、狼型に噛みつかれていた部分から鮮血が溢れているのが見えた。

仁美「こんなに……血を流しちゃうなんてね……」

仁美「……ふふ……真っ赤で……時代劇で見る通りだなあ……」

深手を負い混乱しているのか、わけのわからない思考ばかりが浮かぶ。


仁美「あっ……」

ふっ、と身体から急に力が抜け、思わず倒れそうになるのを、折れた穂先を杖代わりにして膝をつき耐える。
流れ出る血と共に生気も抜けていっているのだろう、視界の端から黒く濁ってゆき、一瞬前まであった痛みももはや感じなくなっていた。

仁美「(これはもう、ダメかな……)」

仁美「(あやめっち……ゴメン……あとは任せた)」

心の中で、今まで共に戦ってきた、そして、一人残してしまう事になる友人に、己の不甲斐なさを詫びる。

仁美はついに崩れ落ちると、そのまま起き上がる事は無かった。

60: 2013/08/19(月) 07:37:52.58 ID:VHs+KO40o

※丹羽ちゃん本気モード

時代劇口調と中二病が合わさり最強に見える。
普通の人間がやろうとすると逆に頭がおかしくなって氏ぬ。


※狼型カース

『憤怒の街』に現れるものと同じ。
ただ、癒しの雨の効果が無いため、かなり強化(元の強さに戻っただけ)されている。
いつまでも進展しない『憤怒の街』の状況に、人々の恐れや不安などの負の感情が高まり、それが原因で発生したらしい。


※デカい狼型

名前の接頭語に"ドス"とでも付きそうな印象の、狼型カースの強化版。
通常の狼型カースが一際強い負の感情を得て変異した物。
どうでもいい話だが、今回戦った個体は、後に松風によって『ホイレンヴォルフ』と名付けられる。

仁美「なんでドイツ語なの?」

松風『カッコいいだろ!?』

61: 2013/08/19(月) 07:42:45.32 ID:VHs+KO40o
丹羽ちゃん強化イベント前篇、投下終了
強化イベントと言いつつ氏にかけてるのはキニシナイ!!

◆EBFgUqOyPQ氏の前後編システムが引きの演出として素晴らしいと思ったのでリスペクトさせてもらいました!
構想が長過ぎて書き切れていないなんて理由では無いです、ハイ


投下して気付いたけど、ところどころセリフ頭の松風の名前が抜けてた

62: 2013/08/19(月) 08:12:26.42 ID:nsax2UQSo
乙乙
丹羽ちゃんかっけえと思ってたら氏にかけてるー!?




【次回に続く・・・】



引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6