535: ◆jBL8Qe1.Ns 2015/01/25(日) 12:03:59.93 ID:T+VnT8i70

【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【前編】

咲「…ありがとうございました」


言葉が届くかどうかはわからないけど、この戦いはこのメンバー、この状況だからできた。
この戦いは、多分、今までの人生で一番楽しい戦いだったから、心からの感謝の言葉を述べる。

私が、勝つために全力を尽くしたのはいつ以来だろう?
それも、負ける見込みが強い相手に対して知恵と力の限りを尽くすなんていうのは…

それこそ、麻雀を打ち始めた頃
まだ、お母さんやお父さんに勝てなかった頃
それ以来、こんなに必氏に打ったことはなかったように思う


ゆみ「ふっ…楽しかったよ。最後にいい思い出が出来た、力も出し尽くしたつもりだ。悔いはない」

咲「南一局の一本場、流れが変わった途端に倍満を和了るのはあなただからできたことだと思います。あなたが居なかったら、きっと負けていました」

ゆみ「そうかもしれないな。南二局、あれを和了っていたら天江が勝っていたように思う。と言っても、数え役満に仕立てたのだから、私の倍満は不要だっただろう?」

咲「必要ですよ。あれが無かったら、天江さんはリーチなんてかけませんから」

ゆみ「…そうか。なら、私はお前たちの勝負に割って入れるだけの打ち手ということだな。自信になるよ」


長野県団体戦二位、鶴賀学園の大将。
彼女が背負うその肩書きの価値は、これから自分が全国でどれだけ活躍するかで大きく変わる。

この素晴らしい打ち手に勝った自分は、これから先の戦いでも勝たなければならない。

でなければ、自分だけでなくこの人の評価まで貶めてしまうのだから。
咲-Saki- 24巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
536: 2015/01/25(日) 12:04:27.84 ID:T+VnT8i70

華菜「…あたしも楽しかったし」

咲「…池田さん?」

華菜「あんたらが化け物だってことも、あたしのトビを巡って戦術の道具にされたことも分かってる」


それが分かっていて、それでも楽しかったなんて言葉が出てくるのか…

強い人だな。

素直に、そう思う。


華菜「自分の力が全く通じないぐらいの相手に全力でぶつかって行くなんて、弱くなきゃ出来ないからな! 今しか出来ない楽しみ方だし!!」

咲「ふふっ…そうですね」

華菜「あ、勘違いすんなよ! 来年にはスーパー華菜ちゃんになってお前らに同じ楽しみを味わわせてやるからな!!!」

咲「…楽しみにしてます、また、打ちましょうね」ニコッ

華菜「おうっ!!」

537: 2015/01/25(日) 12:05:04.38 ID:T+VnT8i70

衣「…お前は、勝っても人に囲まれたままなのだな」

咲「天江さん…」

衣「衣以上の力を持ち、勝って失うものもなく…それが衣から見ればどれほど羨ましいことか」

咲「…」

衣「…なあ、都合のいい頼みかもしれないが…また衣と、麻雀を打ってくれるか?」

咲「…何言ってるの? そんなの―――」

衣「そうか…当然だな、ダメに決まって…」


――――当たり前だろう?(だしっ!)


衣「なっ!? お前たち!?」

ゆみ「再戦するならお前もセットだ。それとも、私たちに三麻でも打てというのか?」

華菜「清澄とまた打つって言ってるんだからお前とも打つに決まってるだろ! てゆうか勝ち逃げとか許さないし!!」

咲「…ですね。先に言われちゃった」


衣「い、いいのか? 衣と、また打ってくれるのか?」

華菜「むしろ打たなかったらぶん殴るし」

ゆみ「お前たちはどうせ来年の大会で打つだろうから良いが、私は三年だから別の機会を設けて打ってもらわないと困る。むしろ打て」

538: 2015/01/25(日) 12:05:52.79 ID:T+VnT8i70

咲「…だ、そうですよ。私は忙しいんですけどね」


華菜「はあ!? おいこら宮永! 一番逃げちゃいけない奴が逃げんなし!!」

ゆみ「五人で交代で打つ時ですら二位抜けが普通だろう? トップが勝ち逃げを許されるわけはない」

衣「……そうだぞ! 大体! 貴様が勝てたのは風越のトビと副将までで稼いだ点差を利用したからだろうが! 正々堂々と25000持ちで再戦を受けろ!」

ゆみ「そもそもお前が前半で池田に倍満を直撃したからだろうが! 開き直るな!!」

華菜「うっさい鶴賀! 悪夢を思い出させんなし!!!」


衣・ゆみ「「置物は黙ってろ!!!」」


華菜「置物言うなし!! 華菜ちゃんだって必氏に打ってたんだし! てゆうか親役満ぶち当てたし!」

ゆみ「それが二位じゃなくトップにぶちあててたなら評価も変わるだろうなああああ!!」

咲「池田さんがあれを見逃して自力でツモってたら、流れがどうなるかわからなかったんですけどね。直撃で楽になりました」

衣「うむ、衣はリーチをかけていたから切るしかなかったが、貴様は見逃しが出来ただろう? トップを楽にさせてどうするのだ、このうつけが!」

華菜「うっさいうっさい! いい加減にしないと泣くぞ!? 華菜ちゃん泣くぞマジで!!」

539: 2015/01/25(日) 12:06:26.80 ID:T+VnT8i70

久「随分楽しそうね、あの子たち。私たちも行きましょうか」

照「そうだね」

和「私も龍門渕さんに再戦を申し込みたいです」

久「あの星のタトゥーの子、真正面から挑んでみたそうにしてたのよねえ…受けてあげようかしら?」

まこ「わしはあんな化け物二度とごめんじゃけえ…」

久「全国ではあれぐらいの相手を抑えてもらわないといけなくなるかもしれないし、まこはあれと再戦決定ね」

まこ「勘弁してくれ……って、おい、なんで真顔なんじゃ? え? まさかマジで言っとるんか?」

優希「…レギュラーに選ばれなくて良かったのかもしれないと思えてきたじぇ…」

京太郎「つーか、咲の奴がどんどん人間離れしてくな…俺の中ではクールぶってるポンコツのはずだったんだが…」

540: 2015/01/25(日) 12:06:53.32 ID:T+VnT8i70

貴子「ま、今日ぐらいは休ませてやるか。お前ら、ホテル連泊にしといたから、休むなり牌譜検討するなり勝手にしろ。福路、就寝前に点呼報告だけは忘れんな」

美穂子「はい……ありがとうございます」

貴子「明日から特訓だ。来年はアレに勝たなきゃいけねえんだから覚悟決めろよお前ら」

星夏「はいっ!!!」

貴子「しかし、いくらなんでも来週の個人戦には間に合いそうにねえなあ…」

未春「…え?」

貴子「なんでもねえよ! 明日からの特訓に耐えられない奴は今日のうちに退部届を出せ!」

バタン


星夏「個人なんかどうでもいい、チームのために、団体のためにっていつも言ってるのに…」

美穂子「…あれが本音よ、コーチは本当は優しい方だから。厳しく指導するためにああいうふうに振る舞っているけどね」

未春「…コーチのこと、誤解してました」

美穂子「本人がわざと誤解されるようにしてるんだもの、騙されていてあげて。その方がやりやすいでしょうから」

541: 2015/01/25(日) 12:07:23.04 ID:T+VnT8i70

透華「そんな、衣が……衣が負けるなんて…」

一「…そこまでショックを受けなくても。むしろ、ずっと探してた『衣と互角に打てる相手』が見つかったんだから喜ぼうよ」

智紀「はじめの言うとおり」

透華「でも、私たちのことすら本心から受け入れていない今のあの子には、麻雀の強さしか拠り所がない…それが負けてしまったら…」

純「大丈夫だろ、見てみろよ。『本気でやりあって、喧嘩の後はお友達』っていう、どこの漫画だってぐらいベタな展開みたいだぜ」

一「決勝の相手が……大将があの人達で良かったね。多分、優勝するよりずっと良かったと思うよ」

智紀「…優勝してああなるのがベスト」

透華「…ですわね。ふざけた打牌をお説教しませんと。特に前半の風越への倍満、あんなもの言語道断ですわー!!!」

542: 2015/01/25(日) 12:07:56.73 ID:T+VnT8i70


智美「おやおや、戻って来ないゆみちんを迎えに来たら……大盛況だなこの部屋はー」ワハハ

モモ「これだけにぎやかだと、私とか部屋に入った瞬間に消えそうっすね」

睦月「うむ、どこも考えることは同じか」

佳織「あ、龍門淵と清澄の次鋒さん! 麻雀打ちましょう! どうやったらズラされたりしたときでも和了れるか教えてください!」

?「げっ、妹尾!? …逃げるぞ沢村!」

?「…あなたとは意見が合うらしい。ここは戦略的撤退が最善」

佳織「あっ! 待って下さいー!! 独学だから上手い人に教わりたいんです―!!」

?「おんしらの部長にでも教わりんさい!!」

?「あの大将は部長ではない、部長は中堅」

?「マジか!?」

543: 2015/01/25(日) 12:08:23.99 ID:T+VnT8i70

智美「どいつもこいつも…私をなんだと思ってるんだ…」

久「でも、実際部長には見えないわよね。というか、加治木さんがあまりにも部長っぽくて」

モモ「むしろなんで蒲原先輩が部長なのか問い詰めたいレベルっす」

智美「清澄の、どっから出て来た?…って、次鋒が居るんだから居るか。私が作った部なんだから私が部長なのは当たり前だろー」

久「作った……か。そっちも大変だったのねえ……で、練習試合の申し込み先はあなたで良いのかしら?」

智美「そういう話はゆみちんに頼む。小難しい手続きとかはさっぱりだー」ワハハ

久「なんで部長なのよあんた…変な人ね」クスッ

544: 2015/01/25(日) 12:08:55.13 ID:T+VnT8i70

一「確かに変な人だけど、あなたの待ちほど変ではないね」

久「あら、言ってくれるわね? 何の用かしら?」

一「再戦の申し込みを。三人がかりで抑え込むなんて小細工をしないで、真っ向勝負がしたい」

久「どうせなら練習試合をしたいわね。こっちの先鋒をそっちのエースにぶつけてみたいのよ」

一「それぐらいならお安い御用だよ。衣もあの大将と打ちたがってるし、先鋒も同等なら、うちにとってこんなにいい話はない」


?「おい、沢村! そっちは行き止まりじゃ!」

?「大丈夫、抜け道がある」

?「まってくださいよぉー!!」

?「なんで私まで追われてるの!? 助けて華菜ちゃーん!!」


一「次鋒同士も仲が良いみたいだしね」

545: 2015/01/25(日) 12:09:20.45 ID:T+VnT8i70

靖子「参加校同士の仲がいいのは良いことだ」

久「あ、靖子。お疲れ様」

靖子「人前では藤田プロと呼べって…まあいいか」

智美「解説プロがわざわざこんなところにおいでかー」

靖子「会場を片づけるからさっさと出てけと言いに来たんだよ。天江は普通の人間の言うことなんか聞かないから私が来た」

久「あら残念。私たちはずっとこの余韻に浸っていたいのに」

靖子「余韻に浸ってばかりでも困る、特にお前たち清澄にはな」

久「…そうね。個人戦もあるけど、それ以上に…」

靖子「大阪などの試合数の多い激戦区を除いて、普通の二日制の地区はもう決まっただろう。お前らには頑張ってもらわないとな」

久「…そうね、でも、今は――――」



――――もう少しだけ、この甘い余韻に浸っていたいわ。













靖子「だからダメだって言ってんだろ。撤収だ撤収。おーい! 会場の使用期限10分前だぞ!! さっさと出ろ!」

久「…空気読んでよ、締まらないじゃない」

546: 2015/01/25(日) 12:10:00.95 ID:T+VnT8i70

【同日16時20分 西東京】


『決着―――!!! 西東京代表は三年連続で白糸台高校――!!!』

『圧勝!』プンスコ

『二軍でも県代表クラスと言われる白糸台ですが、この一軍――』

『チーム虎姫!』プンスコ

『――は、まさに別格の一軍!! 優勝した昨年に続き、今年も圧倒的な強さで勝ちあがってまいりました!!』

『強い!』プンスコ

『率いるは、昨年新星のごとく現れた、高校生一万人の頂点!!』

『インタ―ハイと言えば彼女!』プンスコ

『昨年度インターハイチャンピオン!! 荒川憩!!!』

『第一歩!』プンスコ

『連覇へと向けて、最強の王者がその歩みを全国へと進めて行きます!!!』

547: 2015/01/25(日) 12:10:49.86 ID:T+VnT8i70

【埼玉】


『八木原景子が最後に跳満を決めて終わらせた―!!! 県予選はこれにて決着!埼玉県代表校は―――』

『―――四度目の代表となります!! 越谷女子に決まりました――!!!』

『今年はエースの新井ソフィアだけでなく、大将の八木原、副将の宇津木なども力をつけています。期待していいでしょう』

『是非とも頑張って欲しい! そして、埼玉県に悲願の優勝旗を持ち帰ってほしい!』

『期待させるだけの闘牌を見せてくれたと思います。全国での戦いぶりを見守りたいですね』

548: 2015/01/25(日) 12:11:41.15 ID:T+VnT8i70

【福岡】


『役満直撃―――!!!! 今年も福岡代表はこの高校!!!』

『九州最強!!! 過去には数度のインハイ優勝経験もあります!! 新道寺女子!!!!』

『決めたのはこの人! 白水哩とのダブルエース!!! 鶴田姫子―――!!!』

『先ほどの和了りで今大会の獲得点数が20万点を超えました。20万点というのは過去にも滅多に例がなく、全国屈指の高火力の証明になります。
  また、白水選手を力の出しやすい副将に起用したこともあって、副将まで繋ぎさえすればどんな状況からでもひっくり返す驚異のオーダーになっています
  それに加えて、次鋒の安河内は変幻自在な打ち回しも出来る県内屈指のデジタル派、中堅の江崎もかなりの高火力選手です。
  そもそも副将までに不利な状況で回ることがなさそうに思えますね』

『今年も【九州最強】はその名に恥じない強力な選手を揃えて来た!!! 全国でも期待がかかります!!』

『やっぱり新道寺を【九州最強】と呼べると、地元出身としては嬉しいですね。
 永水女子を下して第三シードを獲得した春季大会から大きくオーダーを変えましたが、上手く機能していると思います』

『インターハイ第三シードを用意された九州の王が、県予選を制覇して全国に殴り込みをかけるー!!! 目指すは優勝だああああー!』

549: 2015/01/25(日) 12:12:12.45 ID:T+VnT8i70

【奈良】


『圧勝―!!!!』

『まさかまさかの【王者】晩成高校の初戦敗退から始まった大荒れの奈良県予選!!!』

『制したのは、一回戦で王者を破った阿知賀女子!!! その勝利が決してまぐれではないことを県下に示しました』

『決勝では全半荘でトップを獲得する、まさに完全勝利!!』

『指導者としてチーム率いるのは、これまたかつて王者晩成を倒した世代の阿知賀女子のエースとして名を馳せた―――』

『――阿知賀のレジェンド、赤土晴絵ええええ!!!!! 伝説は世代を超えて受け継がれるうううう!!!!』

『奈良県で晩成高校が代表を逃したのは、創部以来二度……その二度に、どちらも彼女が関わっています』

『新世代の伝説はどこまで行くのか!? 県民悲願のインターハイ決勝卓、そして優勝旗!! 期待はどこまでも広がります!!』

550: 2015/01/25(日) 12:13:22.99 ID:T+VnT8i70

その日、各地で全国への切符を手にした猛者が勝ち名乗りを上げていった

危なげなく歩を進める王者、王者を脅かす刺客、群雄割拠の激戦区を勝ち抜いた強豪に、無名の伏兵

それぞれがそれぞれの想いを胸に秘め、掴みとった全国への切符を握りしめる


第71回全国高等学校麻雀選手権大会、通称、インターハイ


その本選は、二か月後

激戦を勝ち抜いた52校の中に、二か月という時を無為に過ごすものが居るはずもない

二か月後に始まる更なる激戦に向けて、強者たちが動き出す


551: 2015/01/25(日) 12:13:51.96 ID:T+VnT8i70

【後日 阿知賀女子麻雀部室】


晴絵「長野は清澄が上がって来たみたいだよ」

穏乃「清澄……和のいるところだ! やっぱり上がって来た!」

憧「うわ、去年の全国ベスト8メンバーが全員残ってる龍門淵に圧勝じゃん……にしても、何このベスト5? 先鋒以外どいつもこいつも獲得点数が10万超えてるんだけど…」

宥「20万点稼いだらあったかいかなあ? 清澄高校は20万点超えが二人いるからあったかそう…」

穏乃「20万って……奈良県ぶっちぎりトップでMVPの玄さんでも14万ですよね? 奈良の10万超えは玄さんしかいないし」

灼「役満も6人和了ってるし、長野は試合数が多いんだとおも…」

玄「対局数が多い激戦区の大阪とか兵庫でも10万超えはそうそういないけど……半荘何回でこの数字なのかな?」

宥「えっと……あれ? 玄ちゃん、参加校は多いけど、奈良と同じで三回戦しかないよ?」

憧「は? いやいや、あり得ないでしょ、ちゃんと見てよ宥姉。てゆうかあたしが見る」


憧「……マジだ……しかも龍門淵と風越ってシードじゃん!?決勝は半荘二回だとしても、半荘三回でこの数字なの!?」


晴絵「そゆこと。ついでに、MVPの宮永も二回戦は出てない。二回戦は中堅で竹井が飛ばしたからね」

憧「あ、これ、得点だけ足して失点を引いてないとか…」

晴絵「地区ごとに表記が違うわけないだろ、ちゃんと得失点で計算されてるよ。
  牌譜を読み込んでみると、個の力も各チームの総合力も地区大会としては異常なほどにレベルが高い。
  昨年度ベスト8にしてインハイ最多獲得点数記録保持者の天江衣を擁する龍門淵ですら予選で落ちることもあるのが、長野ってところだ」

玄「…」ゴクリ


晴絵「で、長野のレベルの高さを認識してもらった上で確認するけど……最初の練習試合の相手、長野の二位で本当に良いんだな?」

566: 2015/02/01(日) 17:11:17.04 ID:Nljhf+qF0

…あのちっこい生き物は高いところが好きだ。

だから、居なくなったときは居なくなったあたりから見える一番高い場所を探せば大体見つかる。

今回もその例に漏れず、一番高いところにいた。

なんとかと煙は高いところが好きって言うが、あれもそうなのかもしれねえな。


純「おーい、衣!」


下から大声で呼びかけてみる。

探してる他の連中への『衣発見』の報告代わりだ。

当の本人は物思いにでも耽っているのか、気付く様子はない。

さて、迎えに行くか。

567: 2015/02/01(日) 17:14:44.88 ID:Nljhf+qF0

純「…衣」

衣「む…純か、どうした?昼餉にはまだ早かろう?」


いつものウサミミカチューシャがピクッと動いてこちらの気配を察知し、衣が振り返る。

…カチューシャだよな、アレ? 耳とかじゃないよな? こないだ引っ張った時になんか頭から直接生えてるような違和感があったんだが…


純「急にいなくなったから透華が心配してたんだよ。で、探して来いとさ」


事実をありのままに告げる。

嘘をつく理由もないし、嘘をついても衣相手じゃ一発でバレる。

逆に、このお子様が気付いてないふりしても、俺や国広くんならこいつが気付いてることぐらいは分かる。

嘘を見抜くのが上手い奴でも、自分が嘘をつくのは得意とは限らねえ。逆に、バレバレの嘘しかつけないこいつでも、嘘を見抜くのは上手いってこともある。


衣「…心配? 別に、衣の失跡癖は今に始まったことではなかろうに、大げさな」

純「ま、その通りなんだが…昨日は特別なことがあったから、いつもより気にかけてるんだろうさ」

衣「…特別と言っても、悪いことは一つもなかっただろうに。やはり透華は過保護だ」

純「いや、少なくとも一個はあるだろ。麻雀で負けた」

衣「…なるほど、確かに、そう捉える事も出来るか」


手すりに腰かけていた衣が、こちら側に向き直ってから床に足をつける。

透華なら注意するだろうが、「危ないから手すりに座るのはやめろ」なんてことをこいつに言うのは野暮だろ。


衣「だが、衣は、それも『良いこと』の一つに数えている」

純「…はあ? おまえ、俺らが必氏こいて打って負けたのを良いことに数えんなよ…」

衣「おっと、不謹慎だったか? だが、衣にとってはそうなのだ」

純「まあ、俺らは衣のために集まったみたいなもんだし、お前が気にしないなら大会で負けたことなんかはどうでもいいっちゃいいんだが…」


にしても、負けたのが良いこと、ねえ? そういうこともあるかもしれねえが、勝つにこしたことはないと思うんだがなあ…

568: 2015/02/01(日) 17:15:35.04 ID:Nljhf+qF0

智紀「衣、居た」

透華「衣ー! 勝手にいなくならないでくださいましー!」

一「まあまあ、純くんの言った通り何ともなかったんだからいいじゃない」

透華「それも気に入りませんわね……従姉妹である私より衣のことが分かっているようなあたりが」

智紀「純は衣研究の第一人者だから、仕方ない」

一「何その設定……ボク初耳だよ」

透華「うーむ、研究者では仕方ありませんか…」

純「…何の話だ?」


どうせ、透華が無茶言って、国広君がなだめて、智紀が適当に誤魔化す、っていういつもの流れなんだろうが、内容自体は気になる。

放置すると後で全くわけのわからないままにこっちに火の粉が飛んでくることがあるからな、こいつらの会話は。


衣「なんだ、みんなで衣を探していたのか? 本当に大げさな……ハギヨシか純のどちらか一人で十分だろう」

透華「今日に限っては万が一がありますもの! 大ごとにもしますわ!」

衣「…ちょうどその話をしていたところだ。皆にも聞いてもらおうか」

透華「…私が話す話題すら先取りしていたとは……研究者は伊達ではありませんのね」

純「研究……何の話だ?」


絶対なんか面倒事になる予感がするぞこれ。

おい、智紀、説明しろ。という意思を込めて智紀を見つめる。

智紀はこちらに気付いて頷きかえすと、端正な顔を真剣な表情に作り替えてから、おもむろに口を開き――


智紀「で、衣の話とは?」


――俺の視線をガン無視する意思を明確に示した。


569: 2015/02/01(日) 17:16:07.10 ID:Nljhf+qF0

衣「…昨日は、友が出来、衣と麻雀を打っても人が離れないことがあると分かり、敗北することも出来た、良いことづくめの日だったという話を、純とした」

透華「…『敗北することが出来た』? それは、良いことですの?」

衣「…衣は、敗北を知らない特別な存在だった。フジタや透華ですら、今まで衣を打ち負かすことは出来なかった」

智紀「…特別であることは、悪いこと?」

衣「…特別であるがゆえに、衣は孤独だったと、そう思っている」

一「…」

衣「清澄が、衣を『特別』から解放してくれた。ゆえに、衣は、人並みに友を作ることが出来るようになったと、そう思う」


純「…これだからこいつは……わかってねえ、全然分かってねえぞ衣」

570: 2015/02/01(日) 17:16:34.12 ID:Nljhf+qF0

衣「…純?」

純「俺たちは、今まで友達じゃなかったって言うのかお前は? 流石の俺も怒るぞ?」

衣「…でも、純達は、透華が集めた友達で…」

純「自分で作った友達の方が、今まで一緒に居た俺たちより大事だってか?」

衣「い、いや、そうではないが……純達はもちろん大事な友人で…」

純「なら、そういうことだ。別に、昨日の負けなんか関係なく、お前はその前から友達を作れたんだよ。気付いてなかっただけだ」

衣「で、でも……それは透華が集めてくれたからであって…」

一「出会いはともかく、その後で友達になるのは、透華に言われたからって『はい、わかりました』ってなるものじゃないよ」

智紀「全く持ってそのとおり。ないがしろにされたようで不快。衣に対して謝罪と反省を要求する」

透華「ですわね。全く、この子は本当にもう…」

衣「お前たち…」

一「ボクは、みんなのこと家族だと思ってるよ……ダメかな?」


衣「だ、ダメじゃない! 衣はみんなのことを大事な妹だと思ってるぞ!」


透華「信頼して任せたのに風越に倍満を直撃させて勝利を手放すようなダメ姉は要りません、妹に格下げですわ」

智紀「私が衣に繋ぐためにどれだけ必氏に鶴賀を抑え込んだことか……その私の信頼を裏切った罰として妹に格下げする」

一「ボクも、真っ向勝負したいのを我慢して衣に繋いだのにな……これは姉としては認められないね」

純「俺は何も言える立場じゃねえが、身長差で俺が姉ってことにしとこう」


衣「…うむ? お前たち、何を言っているのだ?」

571: 2015/02/01(日) 17:17:35.65 ID:Nljhf+qF0

透華「というわけで、衣は私たち五姉妹の末っ子に大決定ですわ! お姉さんの言うことをちゃんと聞くんですのよ!?」

純「可愛い妹を撫でてやろう、ほれほれ」ナデナデ

衣「ふみゅうう……なんなのみんな? 純、なでるなー…」ビクッ

智紀「何かあったらお姉さんに相談すること」

一「衣が末っ子として、下から二番目がボクかな? 一番年が近いんだから、気軽になんでも話してね」

衣「ふみゅうう……衣が一番誕生日が早くて年上なのに……なでるなー…」

純「…いいから、遠慮せず甘えとけ。末っ子」ナデナデ


衣「ふみゅううう……」シオシオ


清澄には、感謝している。

こいつを、『特別』から解き放ってくれたのは事実だ。

俺が否定したのは、『特別だったから友達が出来ない』ってところだけ。

『特別』から解放されたこいつが自分から友達を作れるようになったのは、こいつが言うとおり、良いことなんだと思う。

572: 2015/02/01(日) 17:18:29.65 ID:Nljhf+qF0

長野県個人戦結果

【初日(東風20回戦)】

1位 宮永咲    +920
2位 竹井久    +720
3位 妹尾佳織  +618
4位 原村和    +572
5位 片岡優希  +372

(中略)

38位 宮永照  +100



【本選(東南10回戦)】

1位 宮永咲    +596
2位 竹井久    +492
3位 妹尾佳織  +466

4位 原村和    +411

(中略)

12位 宮永照  +0


*予選は25000持ち25000返し

*本選は25000持ち30000返し

573: 2015/02/01(日) 17:19:29.94 ID:Nljhf+qF0

久「……個人戦では見たことのない数字が並んでるわね。よくもまあここまで暴れたものだわ」

まこ「おんしには言われとうないわ」

咲「部長とかに当らなければ平均8万には出来たと思うんですけど……」

京太郎「平均素点7万で全対局でトップとか、お前は何になる気だ?」

咲「……麻雀って、楽しいよね?」

京太郎「答えになってねえぞ」

優希「上位が点棒を独占するから、下が悲惨なことになったじぇ……」

和「主に咲さんのせいだと思うのですが…」

照「どの口が言うのやら……原村さんも相当酷かった」

まこ「50人居るのにプラマイゼロで12位ってのもおかしな話じゃな」

照「まあ、上がおかしかったから」

久「事実上の1位が12位に居る方がおかしいと思うのだけど…」

照「また買いかぶる……」

久「照の強さを順位に反映できるルールが欲しいわね」

照「そもそも強くないから。この12位が私の実力」

咲「長野の上位陣は、全員が『お姉ちゃん最強説』の支持者だよ」

照「味方がいないどころか、敵は外にも増えつつあるらしい……」

まこ「あれだけ派手に暴れたらそうなるじゃろ」

京太郎「役満見逃しとか親役満への差し込みとか、やりたい放題ですからね」

優希「私が東風でも一位になれないとか、本当にどうなってるんだじぇ…」

京太郎「お前の記録も十分すげえよ、自信持て」

優希「うん……ありがとだじょ」

575: 2015/02/01(日) 17:21:43.68 ID:Nljhf+qF0

数絵「…おかしい。あいつらとの対局は南場に入ることすら出来なかった。おかしい」

優希「激しく同情するじぇ……部長の親番を止めるとか不可能だじょ」

智紀「一はよくあれの連荘を止めたものだと、心の底から思う」

一「ともきーも、染谷さんと組んだとはいえ、よくあんなの止めたね……」

智紀「火事場の馬鹿力というのは実際にあるらしい。同じことをもう一度やれと言われても出来る気はしない」

華菜「あいつら人間じゃないし……ヒトじゃない何かだし」

未春「私は宮永さんのお姉さんが一番怖かったよぉ……」

透華「この私を差し置いて個人戦の歴代最高記録を叩き出すとは、生意気ですわ――!!」

一「透華は6位だったんだから良いじゃないか。ボクなんかトータルマイナスだよ」

衣「個人戦、なかなか愉快な催しだったようだな。出ておけば良かったか…」

ゆみ「そうしたら本当に地獄絵図だな。10位あたりでプラマイゼロになるぞ。私やモモもプラスで終われるかどうか…」

美穂子「その卓には入りたくないわね。竹井さんといい、宮永さんといい、私が手も足も出ないなんてどうかしてるわ。妹尾さんも凌ぐのがやっとだし」

ゆみ「妹尾はあれからまた腕を上げたよ。今度、他県の代表校相手に長野のレベルの高さを見せつける機会が出来たから指導にも力が入るというものだ」

美穂子「他県に長野のレベルの高さを見せつける、それ自体は歓迎なのだけど……妹尾さんはまだ伸びるのね、末恐ろしいわ」

ゆみ「来年は天江や宮永と五分に渡り合ってもらわなければならないからな、他の人間にはあいつらの相手は荷が重い。
  私があいつの運を使いこなしてようやく五分と言ったところだろうから、私のすべてを伝えるつもりだ」

華菜「上等!! 来年は化け物三人まとめてぶち抜いてやるから覚悟しとけし!」


貴子「池田アアアアアア!!! てめえ入賞すら出来なかったくせに、なに油売ってやがんだアアアアアア!!!!」


華菜「ひいっ!?」ビクッ

美穂子「あらあら……大会が全て終わって、コーチも平常運転ね」クスッ

576: 2015/02/01(日) 17:22:27.37 ID:Nljhf+qF0

【夜 宮永家】


咲「…お姉ちゃん」

照「…言いたいことは分かるけど、あれが本気だって」

咲「…私は、お姉ちゃんは私より強いと思ってるよ」

照「同じぐらいか、咲の方が強いぐらいだと思うけど…」

咲「でも、藤田プロでもお姉ちゃんのプラマイゼロは崩せなかった。私は崩されたのに」

照「…」

咲「…もう寝るね」

照「…優勝おめでとう、咲」

咲「ありがとう。お休み、お姉ちゃん」

照「うん、お休み、咲」

577: 2015/02/01(日) 17:23:39.40 ID:Nljhf+qF0

【同時刻 竹井家】


久「……なにこれ?」


部員たちの個人戦のデータをまとめる作業もひと段落。
来年以降に強敵となるであろう相手のデータも後でまとめるつもりだけど、とりあえず今日は部員の分だけでいいわよね?

データをまとめたら、当然、中身が気になる。
そんなわけで内容を詳しく見ていたら、妙なことに気付いた。

自分が真っ先にチェックするのは当然のように宮永照のデータである。

そこに、誰が見ても明らかな異常があった。


【本選のすべての対局で、同卓者の誰かが飛ばされて終わっている】


宮永照に注目すれば必ず気付く、異常。

しかし、意図がわからない。
飛ばされた相手は、同じ部に所属する優希とまこ、風越の吉留さんと深堀さん、鶴賀の蒲原さんに……特に共通点はない組み合わせに思える。
適当に相手を選んで飛ばしていたということだろうか?


久「……何考えてんの、あの子?」


飛ばされた相手をリストアップ。
共通点は、大会の最終結果を見ればすぐに分かった。

最終結果が、プラマイゼロ付近になっている。

最終結果がプラマイゼロ付近ということは、照に飛ばされなければプラス、つまり、照より上位だったということだ。


久「ライバルになりそうな相手を、引きずり降ろしていた……ってこと? そんなことしなくても、普通に勝てばいいのに」


照はああ見えて相当な負けず嫌いだ。
やる気になってくれなければ棄権すればいいと思って勝手にエントリーしたけど、出た以上は勝ちに行くと思っていた。

私は、照のことにかけては、血の繋がった妹である咲の次ぐらいには理解しているつもりだ。
私が『照ならこうする』と思ったなら、大抵の場合、照はその通りに動く。

そこで、一つの仮説が浮かび上がってくる。

この結果は、【勝ちに行った結果】なのではないか?
プラマイゼロしか出来ない制約の中で必氏に上位を目指した結果が、【順位で競り合う同卓者を飛ばして終了させる】という歪な事象なのではないか?


久「…落ち着いてもう一度考えましょう、ちょっと信じたくないわ」


プルルルルルル

考え事をしたいときに限って予定外の着信、相手は……靖子?


久「もしもし、なんの用?」

久「今、ちょっと考え事したいのよ、大した用じゃないなら後にして」

久「は?」

久「……そうね、悪い話じゃなさそうだわ」

久「交渉成立ね。じゃあ、日程とかは後で詰めましょう」


衣と咲、あとは靖子か私で何とかなるかしら?

……それだけじゃ不安ね、保険は多くかけておきましょう。

久「確か、和の中学時代の牌譜を調べた時、面白そうな子が居たわよね。気休め程度にはなりそうだわ」

599: 2015/02/05(木) 16:43:24.66 ID:ugP+TZm+0

【鶴賀学園】


晴絵「着いたぞー」

憧「長野に入ってから長かったよね? ハルエ、迷った?」

晴絵「ナビ通りに進んだっての。県境から距離があっただけ」

灼「鶴賀は長野でも北の方だから……」

穏乃「ここが、長野県の準優勝校……」

宥「昨年ベスト8の龍門渕を抑えて準優勝した、鶴賀学園」

玄「相手にとって不足なしだね!」


ゆみ「阿知賀女子の皆さんとお見受けしますが、間違いないでしょうか?」

晴絵「ああ、あなたは鶴賀学園の部長の加治木さんか?」

智美「……部長は私なんだがなー」ワハハ

晴絵「マジで!? ……コホン、失礼した」

ゆみ「……もう少し部長らしく振る舞った方が良いんじゃないか?」

智美「久も言っていたが、ゆみちんが部長っぽいのが悪いと思うんだ」

ゆみ「それはすまないな」


穏乃「今日はよろしくお願いします!」

ゆみ「こちらこそ、奈良県の代表と手合せできるのはありがたい。よろしく頼む」

智美「よろしくなー」ワハハ

憧(うん、やっぱり加治木さんの方が部長っぽいわ)

玄(あれが部長の風格ってやつだね)

灼(私も加治木さんを見習いたいと思……)

600: 2015/02/05(木) 16:43:53.95 ID:ugP+TZm+0


ゆみ「最初に軽く自己紹介をしておこうか、先鋒から順に行こう」

睦月「うむ、先鋒の津山睦月だ。趣味はプロ麻雀カードの収集」

佳織「せ、妹尾佳織です!よろしくお願いします!」

智美「部長の蒲原智美だー。今日はよろしくお願いするぞー」ワハハ





ゆみ「……で、私が大将の加治木ゆみだ。よろしく頼む」


晴絵「(副将はどこに行った? ……遅刻かな?)じゃあ、こっちも先鋒から」

玄「松実玄です! 実家は旅館を経営しています!」

宥「ま、松実宥です、玄ちゃんのお姉さんです……あったかいのが好きです」

憧「新子憧、一年。実家は神社よ」

灼「鷺森灼、実家はボウリング場を経営してる」

晴絵「いや、実家の生業以外に言うことないのかお前ら?」

穏乃「高鴨穏乃! ラーメン食べたい!」


ゆみ「ふふっ、終わったらこのあたりのおすすめのラーメン屋を紹介するよ。では、始めようか」

晴絵「二校の対戦だから、それぞれ二人ずつ出して始めよう。こっちからは先鋒の玄と……憧でいいか?」

憧「りょーかい」

ゆみ「では、こちらは先鋒の津山と……最初は私が入ろう」

601: 2015/02/05(木) 16:44:25.48 ID:ugP+TZm+0

【練習試合中】


ゆみ(…やはり、ドラが姿を見せない。練習試合の申し込みを受けて奈良県大会の牌譜を見たが…推測は正しかったか)

ゆみ(これに対局中に気付くとは、晩成の先鋒も大したものだ。当ったのが一回戦だったのが不運だったな)

ゆみ(奈良県予選は32校。二回戦は二校が勝ち抜けになる…この異常に、他家の手を見ず対局中に気付いたほどの打ち手なら、二回目は負けなかっただろう)

ゆみ「ツモ。混一色・ツモ、2000・4000」


1236778899m西西西 ドラ:4m ツモ:9m


憧(……おかしい、直前に5萬を切ってその待ちってどういうこと?)

玄「そ、その手…なんで5萬落としてるんですか!?西切りなら一気通貫の目も残る上に一盃口が確定で……」

ゆみ「…4萬はドラだろう?ツモれないことぐらい分かるさ。4萬がツモれないことを考慮すれば、こちらの方が待ちは多い」

玄「」ビクッ

憧「…玄の能力が、バレてるってこと?」

ゆみ「当たり前だ。ドラが八枚あるルールで、半荘4回打ってドラが他家の手に一度も来ないなどという異常を偶然と思ってくれるとでも?」

玄「で、でも、奈良ではそれでも通用して…」

睦月「…『奈良』では通用したかもしれない」

憧「」ゾクッ

智美「ここは長野、しかも、他県とはいえ県代表を相手にするのにのほほんと待ってるわけないだろー」ワハハ

ゆみ「研究されてないなどと思ってもらっては困る。研究されてなお通用すると思われるのはなおさら困るな」


穏乃「そんな…奈良県MVPの玄さんが、焼き鳥…?」

晴絵「流石、長野の準優勝校。玄の能力の分析、それへの対処、完璧だな」

智美「ぶっちゃけゆみちん一人のおかげだけどなー」ワハハ

玄「ふ…ふええ…」グスッ

宥「だ、大丈夫だよ玄ちゃん…私が取り返すから」ブルブル

602: 2015/02/05(木) 16:46:01.76 ID:ugP+TZm+0

ゆみ「では、打ち子も変えるか…中堅と連続になるが、蒲原」

智美「中堅ではむっきーが入って、副将でまた私、大将でまたむっきーだな」

ゆみ「そうすると三連続だな。忙しくなるが、他に適当なものもいない。頼む」

灼「…他に二人居るし、加治木さんも大将以外は入れるはず、なんで入れな…」


晴絵「―――入れたら勝負にならないから」


穏乃「えっ!?」ビクッ

晴絵「…だろ?」

ゆみ「…こちらから面と向かってそれを口にするのは気が引けるが…そう考えている」

憧「な、何言ってんの?玄を焼き鳥にした加治木さんはともかく、変なオーダーじゃなければ、次鋒と副将は4・5番手でしょ?むしろ勝つために強い人を出してるんじゃないの?」

睦月「次鋒と副将はエースと元エースだ。うちのオーダーはセオリーから外れている」

「副将がエースだった期間が一週間もないっすけどね」

灼「信じられな…そもそも、副将はどこ…」

「ここに居るんすけどね…気付かないっすか?」

智美「気付かないみたいだな。モモ、大声で頼む」


モモ「わ―――――!!!」ジタバタ


「「「「「「いきなり現れた!?」」」」」」ビクッ


モモ「最初からいたんすけどねえ…」

ゆみ「彼女がこちらの副将、東横桃子だ。一応、始める前に自己紹介もしたと思ったが…」

穏乃「…中堅の蒲原さんのあと、しばらく間が空いて大将の加治木さんが名乗りはじめましたけど…」

憧「まさか、あの時の間は…」

モモ「私がしゃべってたっすよ。私の姿は見えない、声も聞こえない。私のリーチはダマと同じ、私がアタリ牌を切っても相手がフリテンになるだけっす」

玄「み、見えないとか、そんなオカルト…」

モモ「今見たものが事実っす。タネも仕掛けもないっすよ?」


ゆみ「これが、うちの元エースだ。我々は慣れてるからある程度認識できる。そちらが入れても構わないと言うなら入れるが…」


玄「…勘弁して下さい」

智美「だろうなー」ワハハ

憧「ちょ、ちょっと待った!?東横さんが【元エース】って、じゃあ、今のエースは?」

佳織「あ、私…みたいです」

晴絵「長野県予選団体戦ベスト5の一角…長野県最強の次鋒にして、個人戦三位。長野でもトップクラスの打ち手だな」

灼「とてもそうはみえな…」

ゆみ「まあ、そうだろうな。妹尾が見た目からして強そうだったら、我々も流石に次鋒にはしていない」

智美「打ってみてのお楽しみだぞー。そっちも打ち子出してくれー」

603: 2015/02/05(木) 16:47:28.97 ID:ugP+TZm+0

【練習試合終了】


宥「…うそ…」ブルブル

灼「…麻雀を打った気がしな…」


穏乃「東3局の親連荘で…飛んだ? 宥さんと灼さんが、10万点持ちで?」


晴絵「…実際打ってみると数字以上だねこれは…むしろなんで長野の決勝は中堅に繋げたのかがわかんないな。半荘二回もあったら確実にどこか飛ぶだろ?」

佳織「染谷さんと沢村さんと吉留さんは本当に強かったんですよ!全然和了れませんでした!」

智美「6万稼いでおいて全然和了れなかったとか、うちのエースは言うことが違うなー」ワハハ

憧「宥姉たちが東場すら凌げなかったこの人相手に半荘二回凌げる人が、ゴロゴロ居るって言うの?」

穏乃「これが、長野……」

ゆみ「今年は特におかしいよ。うちだって妹尾の力を知った時は県大会ぐらいは優勝できると確信していた。蓋を開けたら清澄と龍門渕には手も足も出なかったがな」

玄「…え? 手も足も出なかったって、準優勝したんじゃ…?」

ゆみ「大将戦の牌譜は見たか? 化け物同士の食い合いで食われた方が凹んで、波風を立てなかった三位が浮上しただけだ」

睦月「うむ、エースを避けた次鋒の妹尾と、怪物二人の隙間を切り抜けた大将の加治木先輩以外は、文字通り手も足も出なかった。私なんかは掌の上で踊らされていただけ」


ゆみ「準優勝はうちだが、長野の二強は清澄と龍門渕だよ。悔しいが、現時点での総合力を見ると、上の二校には敵わない…特に清澄は格が違う」

604: 2015/02/05(木) 16:48:04.87 ID:ugP+TZm+0

憧「うそでしょ…? うちが次鋒で飛ばされるほど強い鶴賀が、格が違うって言い切るほどの相手が居るの?」

智美「居るぞー、何なら龍門渕と打つかー? あいつらなら活きのいい獲物が居るって言えば飛んでくるぞ」ワハハ


晴絵(…力の違いを知るために長野に来たが、これ以上は危険だな。全国の前に心が折れかねない)


穏乃「是非!!! そんなに強い人が居るなら! もっと打ちたい!!!」

晴絵「おいっ!?」

穏乃「いや、だって、その人たちがどれだけ強いかわからないと、どれだけ強くなれば勝てるのかわからないじゃないですか?」

晴絵「…とりあえず、目の前に居る相手と打ってからだろ。まだお前は誰とも打ってないし、東横さんの力もまだ見せてもらってない」

穏乃「あ、そうか!」

憧「…あんた見てたら何とかなる気がするわ、うん。多分現状じゃどうにもならないんだろうけど、まだ時間はあるしね」

玄「なのです」

晴絵(…危険かもしれないが…穏乃ならきっと大丈夫。そんな気がする)

605: 2015/02/05(木) 16:48:39.77 ID:ugP+TZm+0

晴絵「ところで、加治木さん……長野のMVP、宮永咲だっけ? あれと妹尾さんがやったらどっちが勝つと思う?」

ゆみ「宮永ですね。妹尾が更に上達すれば分かりませんが、現時点では天和でも来ない限りほぼ間違いなく宮永が勝つと思います。実際、先週の個人戦での直接対決は完敗でした」

晴絵「…あれと比べてそこまで上に見られるほどの打ち手が居るのか……長野ってのはとんでもないな…」

ゆみ「明日は、どうなされますか? うちともう一日打つか、龍門渕に行くか」

晴絵「そうだな、今夜のみんなの様子次第になるけど……そうなると明日いきなり押しかけることになる。それは迷惑だろうし、明日はもう一日付き合って頂ければと思ってる」

ゆみ(多分アポなしで行っても大丈夫だがな、あいつら暇そうだし)

606: 2015/02/05(木) 16:49:28.17 ID:ugP+TZm+0

【翌日 夕刻 龍門渕家】


透華「で、原村和の旧友がいるという阿知賀女子、どうでしたの?」

『現時点では、清澄どころかうちにとってすら全く脅威にはならないな。全員が特殊な打ち手ではあるが、癖のある能力を生かし切れていない』

透華「…癖のある能力、使いこなせていない……まるでわたくしのようですわね」

『力の強さも使いこなせていない度合いもお前ほどじゃない。ただ、あくまで現時点では、だ。鍛えようによっては化ける。劇的な変化はないだろうが、私からも軽くアドバイスをしておいた』

透華「敵に塩を送るとは、お人よしですわね」

『機会があればお前たちにも挑むと言っていたからな、お前たちは相手が強い方がいいだろう?』

透華「気が利くではありませんか。とはいえ鶴賀に後れを取る程度の輩、多少化けたところで相手になるかは疑問ですが」

『言ってくれるな、県三位』

透華「だまらっしゃい、タナボタ準優勝」

『ふっ…で、例の話の日程はどうなった?』

透華「風越はそもそもコーチが企画者ですから問題なし。清澄は暇人の集まりだから問題ナッシング。うちは無理やりにでも空けます。後はあなた達次第ですわ」


『すまないな。蒲原の成績が芳しくなくて、補習が入りそうなんだ、夏休みに入ってすぐは難しいと思う』


透華「…補習が入りそうな科目の担任に圧力をかけてもよろしくてよ?」

『おいおい、冗談はよせ………まさか本気か?』

透華「ロンオブモチ」

『…本人には言うなよ、絶対に飛びつく。蒲原の学力は深刻な状態にあるから本人のためにならない』

透華「私にとっては衣の遊び相手の確保の方が優先……とはいえ、あなたの機嫌を損ねては元も子もない」

『理解が早くて助かる』

透華「ではこうしましょう、蒲原さんに家庭教師を送ります。人選はお任せあれ、費用もこちらで負担いたしますわ」

『…助かるが、いいのか?』

透華「衣の遊び相手はそこらのプロでは務まりませんもの。上位のプロを呼ぶ費用を思えば、家庭教師の一人や二人雇ってあなた達を呼べるなら安いものですわ」

『ならお願いしよう。蒲原の補習さえクリアできればこちらもほとんどフリーだ』

607: 2015/02/05(木) 16:50:15.97 ID:ugP+TZm+0

【後日 鶴賀学園】


智紀「残念ながら、一年生どころか中学生の基礎問題からやり直す必要があると判断されたので、当面は私で十分という結論に達した」

ゆみ「……そんな予感はしていた。しかし、三年生の家庭教師に二年生を送って来るとは、龍門渕のやつ…」

智美「先生、よろしく頼むぞー」ワハハ

智紀「学力の向上が目的のはずなので、追試までに間に合わなかったら教師に圧力をかける方針で行く」

ゆみ「…ここまでしてもらってダメだともいえないな。仕方ない、それで行こう」

636: 2015/02/08(日) 15:17:55.53 ID:jRqm8Ad50

咲「うーん…暑いなあ…」


お気に入りの木陰に寝転んで本を読んでいるが、流石にこの時期は暑くて外での読書は厳しい。
午前中ならまだしも、日が高く昇ってからは読書に集中できる環境ではない。

と言っても、図書室もあんまり行きたくない。
さて、どうしたものか。


照「…咲、暑い。図書室に行こう」

咲「…まあ、お姉ちゃんが一緒ならいいか」


インターハイ以来、姉だけでなく私本人の人気までうなぎ上りらしい。
今では、人気のない場所で本を読む理由が「悪意を避けるため」から180度変わってしまっていた。
私がクラスメイトからもみくちゃにされる日が来るとは思わなかったな。大抵、お姉ちゃんに近づくためにこっそりって感じだったから。

それでも、お姉ちゃんが居れば人はお姉ちゃんの方に流れる。
どこまで行っても、私は「宮永照の妹」という認識のされ方なのだ。


咲「……」

照「咲? どうしたの?」

咲「ん? 何も。もみくちゃにされるのと暑いの、どっちがマシかなって考えてただけだよ」

照「…それならいいけど……」


というわけで、お姉ちゃんが一緒なら図書室でも問題ない。
日が昇ってしまって、暑さで読書に適さなくなった木陰を去り、図書室に向かうことにする。

しかし、立ちあがった私の足が動き出すことはなかった。


照「どうしたの? 行くなら早く行こう」

咲「…それはそうなんだけどね、お姉ちゃん……校舎、どっちだっけ?」

照「…あれ?」


こうなると、私たち二人という組み合わせで打てる手はない。
仕方なく、私はこういう時にいつも頼っている麻雀部唯一の男子を呼び出すことにした。

637: 2015/02/08(日) 15:18:33.03 ID:jRqm8Ad50

京太郎「…なんであいつらは学校の敷地内で迷子になるんだよ……いくら広いとはいえ」


呼び出しを受けた男子は、同級生と憧れの先輩のあまりのポンコツぶりに驚愕する。
流石に大人びた美人というイメージは瓦解し、妹同様、猫を被ったポンコツという評価に落ち着いた。

いくら美人でも、中身がこれだけポンコツだと幻滅もするというものだ。
妹の方も、最初は可愛い子がクラスで浮いているから近づこうという下心があったような気がするが、今ではペットみたいな感覚である。

あんなポンコツどもが麻雀を打たせたら全国でも類を見ない怪物というのだから世の中は分からないものだ。


京太郎「あいつらの世話をするよりは和とキャッキャウフフしたいんだが……」


ゲスッ


京太郎「いってえええええええ!?なにしやがるこのタコスチビ!!」


脛に走る激痛。
すぐさま、手の届く距離に居たちんちくりんを捕まえる。
手が届く距離に居る人間はこいつ一人、つまり、犯人はこいつしかいない。


優希「私じゃないじぇ! 鶴賀のモモちゃんが来てたんだじぇ!」

京太郎「バレバレの嘘をつくんじゃねえ!」


確かに、東横桃子ならば俺に認識されずに脛を蹴るなど造作もない。

しかし、東横桃子が鶴賀からここに来る理由はない。ましてや、俺の脛を蹴る動機など皆無だ。

こいつにも動機らしい動機はないが、東横さんがここにきて理由もなく蹴るというのよりは、こいつがふざけ半分で蹴ったという方が1000倍はあり得る。

ということで、こいつの悪質な言い逃れは無視することにした。

638: 2015/02/08(日) 15:19:04.25 ID:jRqm8Ad50

久「相変わらず仲良いわね、あの二人」

和「そうですね。ところで、須賀君は咲さんからの呼び出しを受けていたみたいですが…」

久「…ああ、多分迷ったんでしょ。この時間なら例の場所だと思うから、私が行ってくるわ」

和「どうせなら部室に連れてきて下さい」

久「もうすぐ合宿もあるんだし、今そんなに打っても仕方ないでしょ。夏休み前だし、のんびりしましょう」

639: 2015/02/08(日) 15:19:51.88 ID:jRqm8Ad50

咲「…暑い」ペラ

照「…遅い」ペラ


文句を言いながら、迎えが来るまでページをめくり続ける。

須賀君に頼んだのが失敗だった。
竹井さんに連絡していれば、もっと早く迎えに来てくれただろうに。


咲「むー……いつもならもう来てる頃なのに」

照「何か用事でもあったのかな?」

咲「用事があるならそう言ってくれるはずだよ」

照「旧校舎に居なかったとか……?」

咲「うーん……だとしてもちょっと遅い気がする」

照「やはり、ここは竹井さんに助けを求めた方が……」


久「はーい、お待たせ。迷子のお子様はこちらのお二人様かしら?」


照「助かった、これで帰れる…」

咲「……部長? 京ちゃんは?」

久「須賀君は優希に捕まったわ。だから代わりに来たのよ」

照「あの役立たずめ…」

咲「優希ちゃん……人の命がかかってる時に救助隊の妨害をするのはどうかと思うよ」

久「校内で迷子になったぐらいで氏なないでよ……」

640: 2015/02/08(日) 15:20:19.55 ID:jRqm8Ad50

咲「……暑くなってきたね」

照「うん、期末も終わったし、いよいよって感じだね」

久「頼りにしてるわよ、あなた達」


夏休みに入るとすぐに、長野県決勝の四校による五日間の合同合宿がある。

それが終われば、すぐに八月――全国の強豪たちが一堂に会するインターハイが幕を開ける。

しばしの平穏はまもなく終わり、私たちは再び激戦の渦中に身を投じることになる。


咲「インターハイ、か……」

照「ん? 咲、何か言った?」

咲「ううん、なんでもないよ。独り言」


私がインターハイに出る理由。
麻雀をまた始めた理由。


咲「――――お母さん」


ポツリと漏れた呟きは、誰の耳に入ることもなく消えていった。


648: 2015/02/12(木) 16:10:37.17 ID:XDQIPubr0

ギャリギャリギャリ!!

モモ「きゃー! 揺れるっすー!」

揺れる、という言葉で済ませていいのだろうか?
曲がり切れるギリギリの速度でのコーナーへの侵入と三車線を目いっぱい使ったアウトインアウトのコーナリング。
あえて言おう、人を乗せた状態で許される運転ではない。

ゆみ「合宿所はまだなのか蒲原ああああああああ!?」

智美「うちは四校で一番北だからなああああああ!」

ギャリギャリギャリ!!

ゆみ「てゆうか、これ危険運転で捕まるぞ!? もう少し速度を落とせ!!!」

智美「喋ってると舌噛むぞおおおおお!!! 寝坊したから急がないとなああああ!!」

睦月「う、うむ……」クラクラ

ゆみ「津山!? しっかりしろ津山ああああああ!?」

佳織「智美ちゃん! ホントに免許持ってるの!?」

智美「当たり前だろ―!!!! ワッハハハ―――!!!!」

ゆみ「このスピードでアクセルを踏むなああああああ―――!!」

ヒイイイイイ!! ギャリギャリギャリ!! ワハハハハ----!!

649: 2015/02/12(木) 16:11:34.77 ID:XDQIPubr0

酷い目に遭った……妹尾の強運が無ければ確実に事故を起こしていたぞ、蒲原のやつ…


ゆみ「まあ……何はともあれ……無事に……たどり着いた……か」フラフラ

モモ「一応みんな無事っすね……むっきー先輩が帰りの心配をしてるっすけど」

睦月「うむ……途中から記憶がないが、不安すぎる」

ゆみ「……帰りは、電車で帰ろう。車には……妹尾と……蒲原だけが……乗ればいい」

モモ「先輩も大分キテるっすね……」

智美「それはあんまりだぞゆみちん…」

佳織「智美ちゃん、せめて前だけは見て運転してね」


?「お疲れ様」


智美「あ、先生。寝坊したから飛ばして来たぞー」

智紀「スピードの出しすぎは危険。今回に限れば、遅刻しても咎める人は居ないから安全運転をするように」

智美「わかりましたー」ワハハ

智紀「まったく、どれだけ理解しているのやら…そもそも寝坊して時間前につくなんて、どれだけ飛ばして…」

智美「ところで、他はもうついてるのか?」

智紀「清澄が遅れている。というか、まだ時間には早い。とりあえず中で休んでほしい」

智美「分かったぞー。みんなー、入ってくれー」

650: 2015/02/12(木) 16:12:00.91 ID:XDQIPubr0

久「今回は四校合同合宿にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」

貴子「移動の疲れもあるだろうし、今日は各校自由行動にしたいと思うんだが…」

ゆみ「合宿メニューに縛られる前に天江や宮永と打っておきたいのだが、卓は使えるか?」

透華「当然、麻雀に関しては最善の環境を整えていましてよ」

ゆみ「ならば異議なし」

久「では、本日は自由行動ということで」

651: 2015/02/12(木) 16:12:50.28 ID:XDQIPubr0

華菜「自由行動ならお風呂に直行だし! 一番乗りだし!」

貴子「おいこらどこ行く気だ池田アアアアア! お前は特打ちだアアアアア!!」

華菜「ひいっ!?」

衣「おい、その猫は我々が貰い受けるのだ、勝手に予定を決めるな」

ゆみ「差が広がってもいいならそちらで打てばいい。だが、目ぼしい面子はこちらで確保させてもらったぞ」

和「…正直、気が進まないのですが。照さん、咲さん、衣さん……勝てる気がしません」

咲「そう? 楽しそうだけど」

照「相手が誰でも、私がやることは同じ」モグモグ

久「今日こそあんたのプラマイゼロを破るから覚悟しなさい」

照「竹井さんには期待してる」モグモグ

久「いや、期待されると自信ないんだけど」

照「竹井さんなら行ける」

久「100回やって全部返り討ちにしたくせにどの口が言うのよ」

照「……」

靖子「初日からこの面子で卓を立てるのか、元気なことだ」

貴子「安心しろ化け物ども、こっちもそのつもりだよ。次のインハイまで一年もねえのに、この大事な合宿でエースを遊ばせてられるか」

華菜「横暴だし……みはるんとお風呂入る約束が…」シクシク

652: 2015/02/12(木) 16:14:14.76 ID:XDQIPubr0

華菜「リーチ一発ツモタンヤオ三色平和ドラ1! 裏ドラはめくらないでおいてやる!」

久「久保コーチが居る卓だと元気ねあなた……久保コーチ、池田さんに気付かれないように援護するのやめてくれませんか?」

華菜「はあ!? 言いがかりつけんなし! 実力だし!」

純「竹井さんを止めなきゃなんねえから見逃してたが、明らかに流れが不自然だったぜ。そこのコーチぐらいしか心当たりがねえな」

貴子(半荘一回で気付くのかよ……本当に高校生かこいつら?)

華菜「せっかくトップ取ったのにケチつけんなし!」

貴子「(池田にバレても面倒だし、話題を逸らすか……)一回勝ったぐらいで調子乗んな池田アアアア!! 通算だと今この部屋で打ってる面子で最下位だろうが!!!」

華菜「ひうっ!?」

653: 2015/02/12(木) 16:14:45.76 ID:XDQIPubr0

靖子「あいつら、化け物の世話を私に押し付けやがって…」

照「ツモ。3000・6000。これでプラマイゼロ」

咲「むー……衣ちゃんでも崩せないか、お姉ちゃんはやっぱり凄いね」

衣「ただ勝つのとはやり方が違いすぎて勝手がわからん。下手に削っても最後にまくりやすい点数になるだけか…」

咲「むしろ、浮かせておいた方が崩す分には楽だよ……多分それでも崩れないけど。その辺の対策は原村さんが色々まとめてたから聞いてみて」

衣「む、ノノカが?」

咲「私のプラマイゼロを崩すために色々研究してたから。『プラマイゼロの崩し方』なんてのをまとめてるのは、お母さんを除けば原村さんぐらいじゃないかな?」

衣「聞いてくるぞ!」ピュー


咲「あ、行っちゃった」

靖子「卓が欠けたな、少し休むか」

久「あ、空いたの? なら私が入るわ」

靖子「…化け物三人の状況に変化なし、か」

久「あんたも十分化け物でしょうが。咲のプラマイゼロを崩したんでしょ?」

靖子「最近、衣にも宮永姉妹にも負けたせいで自信が無くなっててな…」

久「何言ってんの、佐久フェレッターズの大黒柱。あなたを私より強い打ち手だと思ってるから、咲や照にぶつけたのよ?」

靖子「おまえ、良い奴だな、久」

654: 2015/02/12(木) 16:15:59.73 ID:XDQIPubr0

【翌日】


貴子「で、どうでした?」

靖子「宮永姉妹と天江はあらゆる面で飛びぬけている。竹井も他と比べると全体的に頭一つ抜けているな。この四人は確定で良いだろう」

貴子「妹尾と原村は?」

靖子「雑魚相手なら妹尾の方が大きく勝つが、原村の方が上位相手でも安定する。私が監督なら使い分けたい」

貴子「福路……は昨日は打ってませんでしたね。あれは風越の歴代エースの中でも見劣りしない逸材です」

靖子「分かった、あとで直に打って確かめる。あとは池田と龍門渕、井上あたりも試しておきたいな。普通なら染谷や沢村、国広なんかも欲しいところだが、贅沢なことに枠がない」

貴子「加治木は?」

靖子「あらゆる面で非常に優れた選手だ、あれで麻雀歴が二年足らずだというし、将来性も期待できる。指導者も合ってそうだな」

貴子「ですね。本人に麻雀関係の進路を選ぶ気があるかが問題ですが」

靖子「あとは、実績はないが、加治木が自分より強いと言っている東横を見ておくとして…」

貴子「……U-18代表が長野県からのメンバーだけで埋まってもおかしくないですね」

靖子「全国には荒川が居るんだからそれはないだろう。が、昨年個人準優勝の辻垣内、昨年四位で実質現役三位の銘苅あたりでも、久より確実に上かと言われると怪しい。長野が相当の割合を占めそうだな」

貴子「酷い年に当たったもんですよ。風越だって例年以上の戦力だったと思ってるんですが」

靖子「あとは目ぼしい選手は……白糸台には活きのいい一年がいるんだったか?」

貴子「千里山にも、三年で頭角を現したエースが出てきてますね」

靖子「去年が一番の当たり年だと思っていたが、今年のための布石に過ぎなかったのかもしれないな」

貴子「……今年のインハイは、荒れますかね?」

靖子「少なくとも、下馬評通りの結果にはならないだろうな。去年の龍門渕以上の馬鹿でかい台風が、根こそぎ薙ぎ倒すだろう」

655: 2015/02/12(木) 16:17:41.08 ID:XDQIPubr0

【更に翌日】


優希「リーチだじょ!」

純「こいつ……チーだ!!」

優希「…む、ズラしたか。少しは出来るようだな、ノッポ」

睦月「うむ、決勝は相手が悪すぎたが、井上は全国でエース区間の先鋒を切り抜けてきた打ち手だ」

純代「…」

優希「だがしかし!咲ちゃんや照さんを相手に修行を積んだ私の敵ではない!一発ツモ……れなかったじょ」

純「ズラしたのに簡単に和了られてたまるかっての。ほれ、ツモだ。タンヤオのみ、300・500」

優希「ぐぬぬ……東場の私のリーチをかわすとは……」

純「ま、安いけどな」

優希「ふん、まだ東場は終わってないじぇ!」

純「さっさと流して南場で毟ってやるよ」

優希「出来るもんならやってみろ!」

純代「……」ポチ

カラカラカラ……

656: 2015/02/12(木) 16:18:12.48 ID:XDQIPubr0

美穂子「…最後の夏、勝てませんでしたけど、いい思い出になりました」

久「ちょっと、過去形にしないでよ。私の夏はまだ終わってないんだから」

ゆみ「そうだな。私たちに勝ったんだ、全国優勝を祈っているぞ。ポン」

久「おっと、気を抜いたらサクッと刺されるわね。集中集中…」

照「…槓」ゴゴゴ

美穂子「ひっ!?」ビクッ

久「照、美穂子が怯えるからあんまり槓しないで。この子、責任感が強いから決勝がトラウマになってるみたい」

照「これが私のスタイルだから」ゴゴゴ

久「もう……なんで不機嫌になってるのよ?」

照「…なんのことかしら?」ニコッ

美穂子「ひいっ…」ガタガタ

657: 2015/02/12(木) 16:18:43.61 ID:XDQIPubr0

【四日目】


衣「奇幻な手合いや手ごわい猛者がたくさんで嬉しいぞ!より取り見取りだ!」

咲「私たちの卓にはみんな入りたがらないけどね……」

衣「さあ、次は誰が衣の相手をしてくれるのだ!?」

優希「勘弁してくれだじょ…」

衣「ユーキが入るなら東風でも構わんぞ」

優希「東風!? やるじょ!」

純「…東風でも勝ち目ねえだろ。衣と咲だぞ?」

優希「はっ!? 東風という言葉に釣られてしまったじょ…」

和「親友を見捨てるわけにもいきませんし、四人目は私が入りましょう」

優希「のどちゃん、気持ちは嬉しいけど、ノッポの方が三位の可能性がある分ましだじぇ……」


?「こんにちわです!」

658: 2015/02/12(木) 16:19:46.31 ID:XDQIPubr0

久「あ、来た来た」

まこ「…誰じゃ?」

和「マホ!? 何故ここに?」

優希「マホムロコンビだじぇ! どうしたんだじょ?」

靖子「……ほう」

マホ「お呼びがかかったので来ちゃいました!」


久「私が呼んだのよ、和の中学時代の牌譜を見てたら面白そうなのが居たからね」


衣「…増えた」

照「…まだこんな子が……長野はどうなってるの?」

咲「お姉ちゃんがそれを言うの?」

透華「高遠原中学の制服……原村和の後輩ですの?」

マホ「はわわ!? 和先輩に勝ってた龍門渕さんが居ます! 緊張します!」

ムロ「おい、マホ、ちゃんとあいさつしろ」

マホ「は、はい! 高遠原中学二年、夢乃マホです! よろしくお願いします!」

ムロ「同じく高遠原中学三年の室橋裕子です」ペコリ

靖子「良く来た、歓迎するぞ」


久「それにしても遅かったわね、来ないかと思ったわよ?」

マホ「うっ……それは」

ムロ「……マホが期末で赤点取って、昨日まで補習受けてたので」

智美「ワハハ、勉強はちゃんとしないとダメだぞー」

ゆみ「お前だけは言ってはいけないセリフだな、蒲原」

智紀「……室橋さんの方が学力が高いのではないかと思う」

智美「それは流石に……ないとも言い切れないなー」ワハハ

智紀「笑い事ではない。合宿が終わったらすぐに勉強を始める」

智美「トホホ……」

659: 2015/02/12(木) 16:20:17.63 ID:XDQIPubr0

靖子「じゃあ、さっそく打ってもらおうか」

マホ「は、はいっ!」

咲「面子は?」

靖子「…お前ら三人、宮永姉妹と天江で打ってもらう」

衣「…ほう?」

久「やりすぎじゃない?」

靖子「別に、やりすぎだったとしても飛ぶだけだろ? 早く底を知りたい」

照「…まあ、誰が相手でもやることは同じだけど」

久「じゃ、始めて。頑張ってね、マホちゃん」

マホ「わわわ! 憧れの宮永咲さんと天江衣さんです!!! お姉さんの方も、槓して手牌にドラ乗せるのすごくかっこよかったです!」

照「ありがとう、あなたも頑張ればできるようになるよ」ニコッ


まこ「頑張って出来るもんか、あれ?」

咲「普通は無理ですね。あの子は分かりませんけど」

優希「照さんが適当に言ってるのか、それともマホが実は凄いのか…」

660: 2015/02/12(木) 16:21:23.79 ID:XDQIPubr0

マホ「…リーチ一発海底ツモドラドラ! 6000オールです!」パタン


123p白白57789s444m ドラ:白 ツモ:6s 


衣「…衣の手が一向聴で止まっていた。これは、まさか?」

咲「様子見は危険かな? 練習で良かった…」

照「」ゴゴゴゴゴ


ゴオオオオオオオ


マホ「ひうっ!?」ビクッ


照「なるほど……これは、凄いけど強くはない」

咲「強くないの?」

照「うん。多分強いのは最初だけだと思う。少なくとも今の彼女は」

衣「…なら、様子見したのは惜しいことをしたな。強いという最初のうちに遊んでおかねばならんのに、みすみす一局フイにしてしまった」

マホ「い、今、何か凄いことされた気がします…」ビクビク

661: 2015/02/12(木) 16:21:52.57 ID:XDQIPubr0

東二局


マホ「さっきの凄いの! やってみます」

照「…は?」

咲「…いや、いくらなんでも照魔鏡は無理でしょ? 妹の私でも使えないのに…」

衣「そうとも限らん。衣の海底をさらっていくような奴だぞ?」

ーー

マホ「…ノーテンです」パタン

咲・衣・照「聴牌」パタン

マホ「」ゴゴゴゴゴ


ゴオオオオオ


咲「これ、うそ……そんな……」

衣「……とんでもないのが紛れ込んで来たものだな」

照「…」


マホ「ふむふむ。皆さんの打ち方、勉強になります……って、あれ?」

久「どうしたの?」

マホ「これは……マホ、驚きです!」

照「…」

662: 2015/02/12(木) 16:22:23.13 ID:XDQIPubr0

【翌朝】

智美「今出れば9時には鶴賀に戻れるぞー」

智紀「…来た時に、安全運転をするように言ったはず」

智美「先生、細かいこと言うもんじゃないぞー」

佳織「というか、沢村さん、なんで居るんですか?」

智紀「…着いたら勉強。どうせなら一緒に帰った方がいい」

智美「…着くのは10時ぐらいになるかもしれない気がしてきたぞー」ワハハ

ゆみ「むしろそうしてくれ」

モモ「沢村さんに感謝するっすよ…」

睦月「うむ」

智紀「…?」

663: 2015/02/12(木) 16:23:15.41 ID:XDQIPubr0

マホ「結局一度も勝てませんでした…」ズーン

まこ「そりゃあ、相手も悪かったからの……わしとかを相手にしてりゃあ、一回ぐらいはトップとれたじゃろうに」

咲「私とか部長とかと常に同卓してたからね。藤田プロも意地悪だよね」

久「いい線行ってたわよー」ナデナデ

和「そうですね、チョンボが無ければ私相手にトップを取れていた半荘もありましたし」

マホ「うう…」

ムロ「まほっち、タコスぢから、嶺上、槓ドラ、豪運、海底、治水、悪待ち、オーラスのまくり……本当になんでもありだなマホは」

久「相手が悪いとはいえ、それだけ使えてトップ取れないのもね……一日に一回しか使えないのが痛いのかしら?」

マホ「ぐすん…」

優希「そもそもチョンボをするからな、マホは。精進が足りないじぇ」

664: 2015/02/12(木) 16:23:43.69 ID:XDQIPubr0


照「咲、忘れ物はない?」

咲「ないと思うよ」

和「……部屋に携帯が置きっぱなしでしたが?」

咲「あっ!?」

照「やれやれ……」

優希「あ、照さん、本置きっぱなしだったからもってきたじぇ」

照「ぐっ……不覚……」

和「ちなみに、咲さんの携帯もちゃんと回収してます」

咲「ありがとう、原村さん」

まこ「さて、これで本当に大丈夫そうじゃな」

665: 2015/02/12(木) 16:24:16.46 ID:XDQIPubr0

透華「では、我々も出発いたしますわ」

純「楽しかったぜ、お前ら」

一「またね。近いうちに会うと思うけど」

衣「また衣と遊んでほしいぞ!」

咲「うん、またね!」

照「気を付けて」

優希「ノッポ! 次こそ決着をつけるじょ!」

まこ「沢村がおらんのう?」

透華「智紀なら鶴賀の車に乗って行きましたわ」

マホ「鶴賀の車にですか?」

純「……いろいろな事情があるんだ。お前も、もしかしたら分かる日が来るかもしれねえが」

マホ「……?」キョトン

裕子「ああ……なんとなく分かりました。沢村さん頭良さそうですもんね」

透華「概ね正解ですわ」

ハギヨシ「では皆様、お元気で」

666: 2015/02/12(木) 16:24:45.30 ID:XDQIPubr0

華菜「うがー! チビのくせに調子乗んなし!」

照「……道路で遊ぶと危ない」

未春「そうだよ華菜ちゃん」

純代「…」コクリ


久「…合宿も終わりね。駅に着いたら、後はそれぞれ最寄駅で降りて家に帰るだけ」

美穂子「五日も過ごすと名残惜しいですね。でも、また会えますよ、きっと」

久「そうね。妹尾さんは個人戦でインハイ会場でも会うだろうし、龍門渕は衣の遊び相手を求めてうちに来るだろうし…」

美穂子「…うちだって、清澄とは練習試合を組みますよ。最大のライバルですから」

久「…そうね、これからも、会えるのよね」

美穂子「…応援しています。私たち風越からは誰もインターハイに行けなかったけど……その分だけ、清澄に頑張ってもらえるように」

久「…ありがとう、美穂子。月並みだけど、あなた達の分まで頑張るわ」

美穂子「はい、信じていますよ、あなた達が勝つと」


684: 2015/02/15(日) 21:50:36.67 ID:z43FMS/40


近くの景色は、飛ぶように消えていく。

遠くの景色も、少し時間が経つと全く違うものに変わっている。

新幹線というものが高速で移動していることを実感する。

しかし、景色が流れるのを見るのもほどなく飽き、私は手元の本に視線を落とす。

内容は、よくある恋愛小説。

高校に入って出会った二人が、衝突を繰り返しながらもお互いを認め合い、ついには結ばれるというあらすじだ。

よほど自分と似ている境遇でもない限り自分と縁遠い設定の方が読んでいて素直に感情移入できるという理由で、私は、自分には縁のない恋愛というものを綴った小説を好んで読んでいる。

……本当に縁がないんだよなあ、と、溜め息をつく。

隣に座る悪友はそれに気づいたようだ。


久「なによ、これから東京に乗り込もうって時に溜め息なんかついて」

照「恋愛小説を読んでたら、あまりに遠い世界の出来事に打ちひしがれた」

久「いやいや、あんた学生議会長の私と人気を二分する学校のアイドルじゃない。何言ってんの?」

照「…竹井さんは男女問わず人気なのに、私はなぜか女子にしか人気がない。不公平」

久「いきなり何言い出すのよあんたは。ついでに言っとくと、男子の人気はあんたの方が高いわよ?」

照「疑わしい。竹井さんは男女問わず話しかけられてるけど、私は県大会で優勝するまでに男子から話しかけられたことは数えるほどしかない」

久「ファンクラブの連中は抜け駆け禁止の紳士協定を結んでるらしいからねえ……」

照「この本みたいな恋愛がしたい……」

久「このポンコツ乙女は……」


私たちは今、東京へ向かう電車に乗っている。

長野駅で新幹線に乗り換えたら東京駅まで一時間ちょっと、寝るには少し微妙な長さ。

寝るには微妙。だからこうして他愛もない話に花を咲かせている。


久「まあいいけど、東京駅で迷わないでね。迷子になったら流石に見つける自信ないわ」

照「大丈夫、手を繋げばはぐれない」

久「ま、そうなんだけど、いいの?」

照「試合の度に手を繋いで対局室に行ってたのになにを今更」

久「ふふ、それもそうね」


とりあえず、東京駅で迷子になる心配だけはしなくていいらしい。

でも、あんまり連れまわすわけにもいかないし、旅館に着いたら部屋で読書かな。

685: 2015/02/15(日) 21:51:10.15 ID:z43FMS/40

【白糸台高校】


憩「かーんーとーくー、何見てるんですかー?」

監督「各県の代表の牌譜、よ。集中したいから話しかけないでほしいわね」

憩「監督が一人の牌譜を見るのに10分もかけるなんて珍しいから、ついつい話しかけてしまいましたわー。堪忍ですー」

監督「…人のこと良く見てるわね、あなた」

憩「患者の状態を把握するのはナースの基本ですから」ニコニコ

監督「…今年のインターハイは、荒れるわよ」

憩「監督が言うとホンマに荒れそうだからやめてくださいよー…マジですか?」


ケイトウチタイー! ケイドコイッタノー! ケイー!


菫「憩、淡がゴネ始めたからなだめてくれ。すみません監督、憩を借ります」

憩「菫さん、今は大事なお話し中なんですよー。淡ちゃんには好きにさせときましょう」

監督「…大星さんを注意するついでにミーティングをするわ、弘世さん、一軍を集めておいて」

菫「分かりました。憩、行くぞ」グイッ

憩「そんな引っ張らんでもちゃんとついていきますよーぅ。ほな、監督、またあとでー」

686: 2015/02/15(日) 21:51:39.82 ID:z43FMS/40

淡「あー! ケイ、どこ行ってたの!? 逃げたかと思ったよー!」

憩「小鍛治プロとかならまだしも、淡ちゃん相手に逃げるわけないやん」

淡「むー! そうやって余裕かましてられるのも今のうちだけだよ! 今日こそケイに勝つんだからー!」

憩「頑張ってなー。二年後のエース」

淡「二年後じゃないもん! 来年にはケイに勝ってエースになるんだもん!!」

誠子「大星。今年は勝てないって認めてるようなもんだぞ、それ」

尭深「淡ちゃんは勢いだけでしゃべってるから…」

淡「タカミ、セーコ、うっさい! とにかく勝負だよケイ!」

憩「今からミーティングするから、終わってからなー」

淡「えー? 今更なにを話すのー?」

菫「シード校やインハイ常連校についてはあらかた検討し終わったな。となると、個人か、あるいは……」

淡「個人はどうせ私とケイの一騎打ちだし、まだ検討してない無名校とかどうでもいいじゃん! それよりケイと打ってた方がいいって!」

?「それがそうでもないのよね」

淡「むっ!? 誰、ここは一軍の部屋だよ!?」

687: 2015/02/15(日) 21:52:22.41 ID:z43FMS/40

監督「残念ながら、連覇が危うくなるような強敵が出て来たわ」

淡「あ、監督だ」

憩「うちと淡ちゃんがおっても連覇が危ういって、マジですか監督?」

菫「…長野と奈良ですか?」

誠子「ああ、晩成と龍門渕、そういえば前回までのミーティングで名前が出ませんでしたね」

尭深「どっちも県予選で敗退したんだよ、誠子ちゃん」

淡「ん~? そこ強いの?」

誠子「晩成は県内ではともかく全国ではそこまで強豪って感じではないが、龍門渕は去年のベスト8メンバーが全員残ってるからな」

淡「ベスト8ぉ~?」

監督「ベスト8といっても、他校のトビで終わっただけ。エースが出る前に終わってしまったけど、エースに回っていれば臨海をまくっていたと思うわ」

淡「臨海より強いのかー……それなら少しは手ごわいかも?」

憩「衣ちゃんはえらい化け物じみてましたなー。半荘数が二回少ないのに、うちより稼いでMVPやったし」

淡「へ? それってケイより強いってこと?」

菫「数字の上ではな、実際打ったらどうなりそうだ?」

憩「ん~? あれは流石に打ってみないとわかりませんわ」

誠子「いつもだったら『白糸台のエースが負けると思います?』って返すのに…」

尭深「誠子ちゃん、憩ちゃんの真似上手いね…」

688: 2015/02/15(日) 21:53:01.76 ID:z43FMS/40

淡「なにそれ! そんなの居るの!? そう言うのはもっと早く教えてよ!」キラキラ

憩「うーわ、めっちゃ目ぇキラキラさせとる…」

監督「で、その天江さんが半荘で10万差をつけられて負けた相手が居るわけだけど…」

憩「…監督、その言い方やと淡ちゃん勝ち目ないですやん。事実ですけど、言葉はえらびましょ」

監督「なんだ、調べたの?」

憩「衣ちゃんが負けるってのはうちにとっては大ニュースですから、それぐらいは調べますわ」

監督「憩がビビッて取り乱す様が見れるかと思って、一番強そうに聞こえる表現を選んだのに…」

憩「そんなことのためにあんな必氏に牌譜見とったんですか…」

監督「じゃあ、奈良代表と長野代表の分析と対策をするわよ。無名校だからデータが無くて時間がかかったの」

……

…………

………………

監督「阿知賀はこんなところね。先鋒は初見だと辛いけど分かってしまえば対応は簡単。他は対応が難しいけど、その分、卓に与える影響もそれほど大きくないわ」

憩「つまり、地力で押しつぶせってことですな」

監督「そうなるわね。まあ、こっちはあなた達なら大丈夫でしょう」

菫「こっちは……ということは、本命はもう一校ですか」

誠子「でも、憩と淡が居て勝てない相手なんてそうそう居るものじゃ…」

監督「とりあえず、長野の団体戦ベスト5を見てもらおうかしら」

689: 2015/02/15(日) 21:55:17.86 ID:z43FMS/40

尭深「…なんですかこれ、獲得点数20万超えが二人?」

誠子「いやいや、憩とか神代じゃないんですから……しかも一チームに二人!?」

菫「中堅と大将……しかも、大将は天江を相手にしてなおこの数字か…」

淡「獲得点数負けてるー! くやしいー!」

憩「試合数考えたらぼろ負けやな。確か、宮永咲ちゃんは半荘三回しか出とらんよ」

監督「と言っても、一回戦は雑魚を殲滅しただけ、決勝もトビ寸前の風越を使って上手く立ち回っただけ……牌譜を見た限り、地力では天江さんが勝っているように見えるわ」

菫「それでも天江に競り勝ったというのは脅威ですね。上手く立ち回ったというのも勝負強さの証でもある……これは大星でも厳しそうだ」


監督「実際厳しいけど……本当の脅威はそっちじゃないわ。先鋒の照よ」


尭深「決勝では半荘二回でプラス1万1000点……大将と比べたらそれほど脅威ではないように思えますが?」

監督「その、半荘一回でプラス5500という数字を、意図的に狙ったとしたら?
 福路美穂子や井上純を相手にして、100点の誤差すらなく正確にその点数を狙ってみせたとしたら?」

憩「…化け物ですわ。うちでもそれは多分無理です」

菫「…いくらなんでも偶然でしょう?」

誠子「ですよね?」

淡「ところで監督、この宮永って監督と同じ苗字だよねー!? 親戚か何かだったり?」


監督「偶然じゃない。それは、誰よりも多く照のプラマイゼロに挑んできた私が保証する」


憩「(誰よりも多く挑んだって、分かりやすいなあ)苗字見た時から怪しいと思ってたんですわ。テルって言うのも、たまに監督から聞いてた名前やし」

菫「普通に考えたら偶然だ……牌譜を見れば印象が変わるかもしれないが、他の目立つ記録に埋もれて目をつけようとも思わない」

誠子「牌譜までチェックするのは時間の都合で難しいですよね。全国の代表をチェックしている中だと、目立たない数字は見逃しがちです」

尭深「多分、最初から目をつけてチェックしないと、プラマイゼロを狙ってるなんて気付くのは無理じゃないかな?」

憩「いやいや、個人戦の記録見たら一発で気づきますよーぅ?」


監督「白糸台高校の二連覇を阻む最大の敵は、全国二位の臨海女子でも神代小蒔を擁する永水女子でもない」

監督「清澄高校、その中でも宮永照と宮永咲。この姉妹よ。そのつもりで、今から言う対策を聞いてちょうだい」

690: 2015/02/15(日) 21:55:44.89 ID:z43FMS/40

監督「…対策は以上よ、何か質問はある?」

憩「はいはい、監督、一つええですか?」

監督「…なに?」

憩「最初に聞こうかと思ったんですけど、てゆうか淡ちゃんが聞いてたと思うんですけど…」

監督「もったいぶらずに早く言いなさい」


憩「この二人、姉妹なん?」


監督「…は?」

菫「珍しい苗字にしたって、そういう苗字ほど同じ地域に固まっているからな。苗字が同じだからと言って姉妹とは限らない」

尭深「監督は確信をもって姉妹だって言ってるけど、どこにもそんな情報はないですし…」

淡「てゆうか、監督と同じ苗字でしょ? 親戚じゃないのー?」

憩「牌譜からだと分からんことまで知っとるみたいやし、ご家族だったりするんですか?」


監督「…私に娘はいない、あの子達を、もはや自分の娘だとは思わない」


憩(別に娘だなんて言っとらんのやけど…)

菫(確定だな、監督の娘か)

誠子(結婚してたのか、このひと…)

尭深(…監督って、家事出来るの?)

淡(娘じゃないってことは親戚かなー? どっちにしろ知り合いってことだよね。監督がライバルの情報を持ってるなんてラッキーだね)


監督「今は、血を分けた娘であろうと全力で倒すのみみょっ!!!」


憩「のみみょ?」

菫「噛んだな」

誠子「噛みましたね」

尭深「これ以上ないぐらい勢いよく噛みましたね。あと、娘だって自分で言い切りましたね」

淡「おー! 清澄を倒して二連覇だー!」


監督(噛んだ…はずかしい…)

691: 2015/02/15(日) 21:56:31.07 ID:z43FMS/40

【清澄高校宿泊施設】


久「じゃあ、今日は移動の疲れを取るために自由行動にしましょうか」

まこ「そんなんでええんか?」

照「…ちゃんと休んで実力を出し切る方が大事」

久「さすが照、わかってるじゃない」

優希「自由行動なら、私はお風呂に入ってくるじぇ!」

和「あ、優希、まずは避難経路の確認をしてから…」

咲「真面目だね、原村さん。私も一応見ておこうかな」

京太郎「断言するが、お前は避難経路見ても無駄だ」

照「あ、須賀君……」

まこ「京太郎は相部屋なんか? 流石に不味いじゃろ」

京太郎「いや、隣ですけど、この後の予定を聞きに来ました」

久「自由行動よー。出来れば咲のお守りをお願いしたいけど、お風呂らしいから流石に無理ね」

692: 2015/02/15(日) 21:56:57.12 ID:z43FMS/40

優希「タコスー♪ タコスの皮ーは全てを包む―♪」

和「優希、他の方も居るのですから静かに…」

咲「優希ちゃんって、お風呂好きだよね」

優希「おうっ! タコスほどじゃないけどな!」ガラッ


?「相変わらずうるせえな、タコス娘。気分よく浸かってたのが台無しだ」


優希「む!? 龍門渕のノッポ!? なぜ貴様が女湯に…」

純「俺は女だっての!!」


和「なぜ、井上さんがここに…?」

純「お前らの応援をするって言って聞かねえ奴が居てな、ついて来た」

咲「えっと、それって…?」


?「純! 余計なことを言わないでくださいまし! 元々インターハイに来る予定で昨年から予約を取っておいたホテルが無駄にならないようにしただけですわ!」

?「おお、もうついていたのか咲!」

咲・和「ええっ!?」

693: 2015/02/15(日) 21:57:57.31 ID:z43FMS/40

美穂子「本当に泊まってしまって良いんですか?」

ハギヨシ「そのように仰せつかっております。お嬢様は清澄と同じ旅館に移られましたので、ご自由にお使いください」

星夏「私まで…」

美穂子「でも、キャンセルすればいくらかでもお金が戻るのでは…?」

ハギヨシ「あなた方との親交を深める対価としては安い、とのことです」

一「池田さんは妹さんの世話があるから来れないんだっけ?」

美穂子「え? は、はい……吉留さんも華菜について長野に残ったから、私と文堂さんと深堀さん、後はコーチだけです」

一「ハギヨシさんは透華のところに行っちゃうけど、ボクは久保コーチと一緒に隣の部屋にいるから、何かあれば呼んでね」

貴子「悪いな、あたしはもともとこっちに用があったから自費でも良かったんだが…」

694: 2015/02/15(日) 21:58:25.90 ID:z43FMS/40

智紀「…重ねて言う。安全運転で」

智美「とは言っても門仲のばーちゃんが急かしてくるからなー」

智紀「一分一秒を争うほどではない」

智美「ま、そりゃそうかー」

智紀「あと、あなたには対局がないから、向こうに着いたら勉強を再開する」

智美「悪いなばーちゃん、そっちに行くのは遅れそうだ―」ワハハ

ゆみ「沢村には感謝してもしきれないな」

佳織「はい……智美ちゃんが安全運転してくれるなんて…」

睦月「この間のキャンプにも来てくれれば…」

モモ「流石にキャンプで勉強はしないから、それは居ても無駄だったと思うっす」

智紀「…?」

佳織「智美ちゃんの本当の運転を知らないんだよね、沢村さん」

ゆみ「知らないから乗ってくれるんだ。わざわざ言う必要はない」

695: 2015/02/15(日) 21:58:54.14 ID:z43FMS/40

まこ「は? 龍門渕と風越も来とるって?」

照「…なぜ?」

久「応援、らしいわよ。今、ゆみから連絡が来たわ」

まこ「あいつらもあいつらでのんびりしとるのう。個人の代表しかおらんとはいえ、まだ長野に居るんか」

久「…七月の終わりにやった合同合宿のメンバーが大体集まるみたいね。思ったより早い再会になりそう」


バタバタ


衣「ヒサ! 照! 麻雀するぞ!」

照「…落ち着いて本も読めない」パタン

久「全くね。風呂に行った三人と打ってなさいよ」

まこ「…ちゅうか、あいつらはどこ行ったんじゃ?」

衣「咲たちはもう少しお風呂に入ると言っていたぞ! 咲が来るまでマコが入れ!」

まこ「マジかい……しんどいのお」


732: 2015/02/24(火) 20:47:59.35 ID:LjGXgKvU0

【龍門渕高校】


透華「お待ちしておりましたわ、阿知賀女子の皆様」

純「こいつらが奈良代表?」

一「こいつらとか失礼だよ、純くん」

智紀「……」ペコリ


晴絵「本日はお忙しい中練習試合の申し出を受けて頂きありがとうございます。よろしくお願いしたします」


透華「鶴賀から、阿知賀女子は面白い選手の集まりだと聞いております。皆様との対局を心待ちにしておりました」

穏乃「よろしくお願いしますっ!!」

733: 2015/02/24(火) 20:48:37.43 ID:LjGXgKvU0

【対局中】


宥「…リーチ」


宥手牌

222345678m5s中中中 ツモ 9m

打:5s


純「ポン!」

打:1p

玄(お姉ちゃんのリーチがかかってる、まだ二向聴だし、ベタオリかなあ……)

打:東

透華「……リーチですわ」

打:3p

宥「ふえっ!?」

734: 2015/02/24(火) 20:49:26.25 ID:LjGXgKvU0

灼「龍門渕の先鋒は、鳴きで流れを操るって……」

憧「龍門渕さんに有効牌が入った。さっきのはただの一発消しじゃなくて、これを狙った鳴きだったの? そうか、流れを操るって、仲間のサポートにも使えるのか……」

晴絵「…多分、それだけじゃないな」

憧「え?」

晴絵「完全に嵌められたらしい。鳴き一つでここまで状況が変わるのか……」

灼「ハルちゃん、どういうこと……?」

晴絵「流れっていうのは、ゼロサムゲームだ。誰かに流れが行ったら、その分だけ誰かの流れが失われる。卓上の流れを数値化した場合、全員の流れを足したらゼロになるんだ」

憧「流れとか言うオカルトが存在して、それがハルエの言うとおりの物だと仮定するけど……じゃあ、龍門渕さんに流れが行ったってことは……」

晴絵「……奪われたのは、誰の流れだろうな?」

灼「まさか……」

晴絵「……多分、間違いない。龍門渕は鶴賀より格上って話、嘘じゃないみたいだ」

735: 2015/02/24(火) 20:51:31.44 ID:LjGXgKvU0

純(阿知賀のモコモコがツモる予定だった一発目は1萬か。てことは萬子はやべえかな、透華に任せるか)

打:西

玄(私と井上さんはベタオリ……お姉ちゃんと龍門渕さんのめくり合いだね。おねーちゃん、ツモっちゃえ!)

宥「あ……」

純(ズラしたのにツモられてたまるかっての、清澄の先鋒じゃあるまいし)

宥「つ、冷たい牌……」ブルブル

打:6s

透華「ロン」パタン


678m23478s22678p ロン:6s


透華「リーチ一発タンヤオ三色平和……あなた相手に裏をめくる必要はありませんわね。12000」

純「お見事」

透華「当然ですわ」


憧「これが、昨年度ベスト8、龍門渕高校……」

穏乃「井上さんの鳴きも凄いけど、龍門渕さんもドラなしであっさり跳満を和了った」

晴絵「こっちの手の内もしっかりバレてるみたいだな。油断するなよ、うちらは格下の鶴賀にも飛ばされたんだ。下手打つとその時点であっさり飛ばされるぞ」

736: 2015/02/24(火) 20:52:18.79 ID:LjGXgKvU0

【二時間後】


穏乃「か……」


衣「また衣の勝ちだー♪」


穏乃(……勝てないっ!!)


憧「天江さん以外も強いけど、天江さんは格が違いすぎる……どうしろってのよこんなの?」

灼「何も出来ないまま点棒が消えてく……」

純「そりゃそうだ。衣相手に流れも運も関係ねえ、出来るのは点棒を差し出すことだけだ」

宥「で、でも……清澄の大将は……」

一「あれは、ねえ?」

智紀「そもそも満月の夜に衣と『勝負』が出来る時点でおかしい」

穏乃「ど、どういうことですか?」

透華「……あなた方は、奈良県の代表でしたわね?」

憧「う、うん……そうだけど」

透華「であれば、皆の期待や負けた者から託された想い、そういったものを背負っているでしょうから、これを告げるのは心苦しいのですが……」

晴絵「……」


透華「今のあなた達では、清澄には絶対に勝てませんわ」

737: 2015/02/24(火) 20:54:07.57 ID:LjGXgKvU0

【夏休み直前】


晴絵「…鶴賀と龍門渕以外には全勝か。まあまあの仕上がりだね」

穏乃「でも、その鶴賀と龍門渕が……特に妹尾さんと天江さんには誰も……」

晴絵「そりゃなあ……妹尾は実績こそないが、間違いなく全国でもトップクラス、天江は昨年度全国大会MVPで大会記録保持者、歴史上最強の高校生だ」

玄「それにみんなが勝てるようなら、簡単に全国優勝出来ちゃうね」

穏乃「でも、勝てないようだと…」

晴絵「総合力で勝てばいい。と、言いたいところだが…」

憧「その総合力でも、個人の力でも、長野最強が清澄なんだよね…」

晴絵「妹尾に勝ち越す奴が二人、妹尾と互角に打てる和と、絶対にプラマイゼロにしてくる先鋒……妹尾を抑えたっていう次鋒が最大の穴か…」

宥「あの人を抑えられような人が穴だなんて……私と灼ちゃんは二人がかりでも何も出来なかったのに……」ブルブル

晴絵「まあ、出過ぎた杭は打たれるもんさ。勝ち進んでその強さがわかれば他校も清澄を徹底的にマークするだろうから、それを徹底的に利用して、最後に出し抜く!」

憧「予選の成績だけでも十分警戒されるレベルだから、三対一の状況はあり得ないことじゃないよね」

灼「麻雀は四人で打つもの、三対一の状況が続くなら勝機はあると思……」

玄「一人で試合を終わらせることが出来るジョーカー……それが、清澄には4枚ある。そのことが知られればマークは必然なのです」

晴絵「慢心はダメだが、お前たちは激戦区と言われる大阪の二位を南北ともに退けたんだ、全国でも上位の力がある。自信を持とう」

宥「慢心なんかしようがないよね……私たちが歯が立たないぐらい強い二校が敵わなかった相手を、倒さなくちゃいけないんだもん」

穏乃「けど、まだ時間はある! 私たちはもっと強くなれる! 周りも、清澄を警戒する! なら、チャンスはきっとある!」

晴絵「そういうこと。じゃ、これからの予定の確認だ」

738: 2015/02/24(火) 20:54:59.74 ID:LjGXgKvU0

玄「明後日から、夏休みが始まります」

灼「…合宿所の使用申請は出してある。ハルちゃんの人徳ですんなり通った…」

憧「ハルエの人徳ってよりは、奈良県の期待を背負ってるのが大きいでしょ。晩成に勝っちゃったんだし」

晴絵「そこから10日間の合宿で、各自の底上げ……晩成のOGや小走なんかも来てくれるらしい」

穏乃「小走さん……晩成の先鋒の人ですよね」

晴絵「ああ、あいつは対局中、自分から見える情報だけで玄の能力を見抜いていた。私ですら気付いてないお前たちの弱点も、見破ってくれるかもしれない」

穏乃「そうしたら、もっと強くなれる…!」

玄「そして、合宿の後、数日は疲れを取るために休養」

晴絵「やることをやりきったら、最大の力を出し切るために体調を整える。これは大事なことだ」

灼「その休養が明けたら――――」


―――インターハイへ、出陣だ


憧「と言っても、前日入りして、初日は開会式と抽選だけなんだけどね。最も遅い場合、最初の試合は大会四日目、東京入りから6日目になる」

晴絵「憧、その情報、後でいい……締まらない」

739: 2015/02/24(火) 20:56:14.40 ID:LjGXgKvU0

【合宿にて】


やえ「…なあ、松実妹?」

玄「は、はいっ!?」ビクッ

やえ「私に勝っておいて、貴様……何だこの腑抜けた闘牌は!? 大体、貴様は本当に自分の能力が分かっているのか!?」

玄「ひうっ!? ど、ドラを集める力です!」

やえ「この馬鹿は……よかろう、貴様の対策も兼ねていくつか試したいことがある。ちなみに、ドラを切った場合のペナルティはなんだ?」

玄「き、切ると、それからしばらくドラが来なくなって…」

やえ「ちっ…面倒だな、なら、実験に失敗してドラを切らざるを得なくなったら山を崩してチョンボで凌げ。今だけは私が許す」

玄「ひいいっ!?」

やえ「ちなみに拒否権はない。貴様の成績いかんによっては私の面子が潰れるんだ。次の半荘、全て私の指示通り打て」

玄「うう……なんかとんでもないことに…」

由華「先輩にしては珍しくスパルタですねー?」

紀子「時間があまりないから。やえ、面子は私たちでいい?」

由華「あ、丸瀬先輩。次鋒はもういいんですか?」

紀子「……暑いから、休憩」

由華「……ああ、なるほど」

やえ「私は後ろで松実に指示を出すから、もうひとり必要だな。岡橋!」

初瀬「はいっ!」シュタッ

やえ「卓につけ。松実の能力を検証する」

初瀬「了解しました」

740: 2015/02/24(火) 20:57:07.26 ID:LjGXgKvU0

憧「この面子……きつくない? なんか二人ともテレビで見たことあるんだけど」

晩成OG1「安心しろガキンチョ、あんたは眼中にない」

OG2「こいつには10年前の借りがあってな」

晴絵「いやー、あの時はお世話になりまして……」

OG1「団体戦の準決でボコボコにされたぐらいで約束反故にしやがってこいつは…」

晴絵「えっと、約束?」

OG1「次は絶対勝つから来年も出て来いって言っただろうが! エントリーすらせずに勝ち逃げしやがって!!!」

OG2「個人であたしの分まで勝ってこいって言っただろ!? なに棄権してんのあんた!?」

晴絵「ごめんなさい、トラウマ抱えてそれどころじゃなかったんで」

OG1・2「よし、血祭りだ」ゴゴゴ


憧「ハルエにも色々あるんだなあ……当たり前なんだけどさ」


晴絵「憧は知ってるみたいだけど、この人らプロだから。あたしも負ける気無いけど、憧はラス引かないように頑張れ」

憧「マジで? プロ級三人相手にラス引くなってあんた…」

OG1・2「飛んで邪魔したらお前から頃す」ゴゴゴ

憧「キッツいわー…」

741: 2015/02/24(火) 20:58:25.24 ID:LjGXgKvU0

玄「凄い……私の力にこんな使い方が…」

やえ「本当に気付いてなかったのか……ちっ、松実が気付いていないことにあの時気付いていれば他の手もあったというのに。今更言っても遅いが」

紀子「…非常識な力だけど、まあ、そういうこともある、ということにしておこう」

由華「これは……警戒されても止められないでしょうけど、決勝まで温存した方が良いですかね?」

やえ「温存の必要はないだろう。先鋒は化け物の見本市、特に荒川と神代……松実の能力を考慮しても、最優先で警戒されるのは奴らだ」

玄「え……自分で言うのも変ですけど、私のこの力、相当非常識だと思うんですが……チャンピオンって、そんなに強いんですか?」

やえ「奴ら相手に警戒しすぎということはない。だから、こう言っておこう」

玄「……」ゴクリ


やえ「荒川憩は、そして神代小蒔は、ヒトじゃない」


742: 2015/02/24(火) 20:59:01.81 ID:LjGXgKvU0

望「やってるかー! ……って、なんか初日なのにやつれてるね憧」

憧「誰か代わって……この卓、キツイ……」

望「んー、穏乃ちゃんあたり呼んでこようか?」


OG1「ダメだ、変な能力持ちが居るとツモがおかしくなるからお前が入れ。そして赤土をシメさせろ」

OG2「あんたらの特訓にわざわざ付き合ってあげてるんだから文句言わずに打つ。そして赤土は頃す」

晴絵「だそうだ、頑張れ憧。あと、シメるのはともかく頃すのは勘弁して」

望「あー……ごめん、私もこの人達を敵には回したくない。頑張れ憧」

憧「たーすーけーてー……」ガクッ

744: 2015/02/24(火) 20:59:27.17 ID:LjGXgKvU0

【八月某日】


合宿を終えて更に数日、ついに、全国大会の舞台の東京へ向かう日が来た。

この日のためにレンタカーを借りて、阿知賀こども麻雀クラブのみんなに見送られて、私たちは奈良を後にする。

みんなが手作りしたであろう横断幕には『目指せ全国制覇』の文字。

そう、『全国制覇』、それが私たちの目標。

そのために、とんでもなくでっかい障害があることを、私たちは知っている。

けど、それを乗り越えるための策も、力も、今の私たちにはあると信じてる。

『うおおおおお!! 燃えて来た―――!! 絶対勝つぞ―――!!』

大声で叫びながらみんなに手を振るシズに便乗して、私もみんなに向かって叫ぶ。


『絶対勝つから! 応援してて――!!!』


『あこちゃあああああああん! 頑張れー!!!!』


シズの大声と自分たちが出してる大声の中でも、誰かが私の声を聞きとったらしい。

名指しで頑張れって言われちゃったら、頑張るしかないよね。

745: 2015/02/24(火) 20:59:59.47 ID:LjGXgKvU0

【浜名湖PA】


穏乃「休憩――!!!」ノビー


思いっきり伸びをするシズに便乗して、私も軽く体を伸ばす。

私の後に降りて来た玄は大して疲れてないらしく、伸びをするそぶりは見せない。

私は車の中で寝ちゃったから、起きてた玄より体が凝ってるのかもしれない。


憧「長いこと乗ってると流石に疲れるねー」


私のすぐ後に玄、晴絵が大分遅れてついてきて、それに灼がくっついて歩く。


穏乃「東京まであとどれぐらい!?」

玄「三時間はかかるって」

穏乃「うわー、とおいー」


多分私が寝てる間に話してたんだろうな。

シズの質問に答えるのは大体私の役割なのに、今回は玄に先を越された。

むー……って、なんか違和感。なんだろ……あ、わかった。


憧「あれ、宥姉は?」

玄「まだ寝てる」


なんだ、宥姉も寝てたのか。

PAに着いてから起こされて、玄が降りる時に邪魔になるから慌てて降りたんだよね。

だから周りの状況を把握する余裕がなかった。


晴絵「おーい、うちら売店行くけどなんかいる?」


「ら」っていうのは灼か。

必要なものは…少しのどが渇いたかな、暑いから熱中症には気をつけないとね。

お腹は…まだ空いてない。オッケー。


憧「飲み物があれば他は特に…」

晴絵「おっけ、じゃあ、しばらく自由行動で」

玄「はい」

憧「シズー、なんか食べ物とか飲み物とかリクエストあるー!?」


あの落ち着きのないお猿さんは、大声出さないと聞こえないぐらいの距離をふらふらしている。


穏乃「憧! あれ見てあれ! あれおいしそう!」

憧「…ホットドッグ、ねえ? まあいいけど、飲み物は?」

穏乃「飲む!」

憧「ハルエー、飲み物一つ追加ー」

晴絵「あいよー」

746: 2015/02/24(火) 21:00:31.35 ID:LjGXgKvU0

憧「あづー…」ダル

玄「ちょっと曇ってて良かったね」

憧「これ晴れてたら超暑いよ、氏んじゃうよ」

穏乃「」ハムハム

穏乃「ん? あれ……?」

憧「どうしたの?」


シズの視線を負うと、その先には湖畔に佇む制服の女子が居た。


穏乃「制服の子が居る……」


今は夏休み、しかも、ここは高速道路のPAなわけで……制服の子が普通に居るような場所でも時期でもない。


玄「私たちみたいだね」


…私たちみたい?

…私たちみたいに、部活の全国大会で、東京に向かう途中…?


穏乃「んわっ!? 倒れた!」

憧「熱中症!?」

穏乃「大丈夫ですか!?」


シズが飛び出す。

それに遅れまいと私も駆け出す。

あの人が誰だろうと、とりあえず助けるのが先決!

747: 2015/02/24(火) 21:00:57.41 ID:LjGXgKvU0

?「怜っ!」


私は、野生児のシズをも上回る速さで倒れた少女に駆け寄る、一つの影を認識した。

先に駆け出したシズと、その影が目標にたどり着いたのはほぼ同時。


?「だいじょうぶ!?」

穏乃「ふぉ!?」


自分の後ろから自分以上の速さで駆けつける存在が居るとは思ってもいなかったであろうシズが、驚きを声に出す。

倒れた少女は、知り合いだからか、それとも先にたどり着いたからか、シズではなく謎の影の方に振り返った。


?「竜華…また、ごめんな…」ハアハア


とりあえず、意識もあるし、しゃべる余裕もあるみたいだ。

それを確認して、竜華と呼ばれた少女も落ち着いたらしい。

休める場所を探そうとしたのだろうか、彼女は周囲を見渡した。

そして、私たちに気付く。


竜華?「あ………」


なんとなく気まずい。

まあ、知り合いが助けたなら、赤の他人は退散しましょうかね…ん?


?「」ジー


倒れた少女が、なんか見てる?

視線の先は…


穏乃「?」モグ


―――シズの、ホットドッグ?

748: 2015/02/24(火) 21:01:26.02 ID:LjGXgKvU0

結局、ホットドッグの売店まで付き添った。

で、一緒にホットドッグを食べている。

ちなみに、倒れた方は園城寺怜、助けた方は清水谷竜華という名前らしい。

……何故か聞き覚えがある気がする。

私たち三人も名前を名乗って、これで、私たち五人は立派な知り合いとなった


怜「おいしいな」

竜華「うん」


なんとなく二人の世界が作られている気がする。


穏乃「もう体調の方は…」モキュモキュ

憧「食べながら喋るなってーの」

竜華「ああ、お騒がしてごめんな」

怜「ウチ、ちょっと病弱で…」

竜華「そのアピールやめ…っ」


大したことがないなら、それにこしたことはない。


玄「そういえば、なんで制服なんですか?」

竜華「ああこれ? 学校の部活で移動中やから。そっちこそ制服やん?」


学校の部活で移動中―――それは予想通り。

ただ、病弱な人間が出られる部活となると、運動部ではなさそう。

関西弁なので、おそらく大阪代表。

大阪代表が浜名湖PAを利用するなら、多分、行き先は東京…

夏、東京、高校生の部活の大会で…文化系。

九分九厘、間違いない。


憧「え……まさか……」


私の「まさか」は、疑問の形をしながらも確信を伴って口から出て行く

749: 2015/02/24(火) 21:01:57.52 ID:LjGXgKvU0

?「トキー、バスモウスグデルデー」ブンブン


こちらに向かって「怜」、と呼びかけた男性の胸には、千里山の文字。

聞き覚えのある名前のはずだわ。


清水谷竜華


平均獲得素点は関西随一。

順位点がない今年の団体戦ルールにおいて、関西最強のプレイヤー。

北大阪のMVP。


竜華「いかんと…楽しかったで」スッ

怜「ほな」フラー


…まあ、トーナメントで当たるまでは、敵じゃないからね。

シズや玄と一緒に笑顔でお別れをする。


晴絵「こんなところに居たのか」

玄「赤土さん」


…なぜかハルエにくっついてる灼がドヤ顔してるけど、車で寝てる宥姉以外の全員が集合した。


晴絵「ん? あれ、千里山じゃないか?」

穏乃「千里山?」


制服で分かるのか。晴絵って意外とすごい?


灼「向こうの方にバス4台あって、あの制服でいっぱいだった」


……前言撤回。


灼「全国ランキング、第3位」

憧「インターハイは、残念ながら姫松とともにノーシード」

晴絵「だが、激戦区大阪を代表する双璧、北の雄。春季大会では姫松に勝っている」

玄「あれが、千里山女子……」

晴絵「そう、関西最強の高校だ」

750: 2015/02/24(火) 21:02:26.62 ID:LjGXgKvU0

千里山と出会った。

だからと言って、何が変わるわけでもない。

関西最強と言われる打ち手も、普通の優しくて面倒見がいい女の子だってことが分かっただけ。

ホテルに着く少し前に、宥姉が起きた。


宥「……むにゃ?」

憧「宥姉、おはよ。そろそろ着くみたいだよ」

宥「…高いビルがいっぱいだね」

玄「なのです」

751: 2015/02/24(火) 21:02:59.83 ID:LjGXgKvU0

ホテルに到着。

着いたと同時に、10日間の滞在を前提とした重たい荷物をドスンと音を立てて放り投げる。

部屋は、思ったより狭かった。

てゆうか、ベッドも二つしかない。

これから10日間過ごす部屋なんだから、もうちょっといい部屋取ろうよハルエ…


晴絵「デラックスツインを3部屋取ってある」フフン

憧「うわ、贅沢!!」


え、マジで!?

これ、二人部屋!?

てっきり六人で泊まるもんだと思ったわ。

ちょっと我慢すれば普通に6人泊まれる広さだし。

ヤバい、テンション上がるわ。


晴絵「部屋割り決めてちゃっちゃと休みましょう」

「「「「「はーい」」」」」

752: 2015/02/24(火) 21:04:00.44 ID:LjGXgKvU0

まあ、灼はハルエにべったりだし、玄と宥姉は確実に相部屋を希望するし……

そしたら当然こうなるよね。


穏乃「憧、よろしく!」


ま、シズのお守りはあたしの役目か。

753: 2015/02/24(火) 21:04:28.41 ID:LjGXgKvU0

お風呂に入って、部屋を見て回って、後は寝るだけ。

シズは思いっきりベッドに飛び込んで、寝る体制に入った。


寝る前に、少しだけ、話でもしておこう。


憧「ついに来たね、東京…全国大会」

穏乃「うん…」


眠いのか、それとも、私の言葉を噛みしめているのか。

シズにしては珍しく、声が小さい。


憧「和に……会いに行く?」

穏乃「いや、向こうが来ないならこっちも行かない」


理由は、多分なんも考えてないんだろうな。聞くだけ無駄か。


憧「まず、清澄と戦ってみたいね―――」

754: 2015/02/24(火) 21:04:55.43 ID:LjGXgKvU0

【翌日】


六人並んで会場に向かう

今日は開会式と抽選だけとはいえ、インターハイが始まると思うと気合が入る


晴絵「じゃあ灼、抽選お願いね」

灼「はい」


穏乃・憧「ぶちかませー!!」

玄「灼ちゃん、ファイト!」


灼「ただの抽選に大げさな…」


宥「そういえば、なんで灼ちゃんが部長なんですか?」

晴絵「お? 唯一の三年生としては不満か?」

宥「いえ、むしろ私は壇上で抽選とか無理なのでありがたいですけど…」

晴絵「チームで一番しっかりしてるのが灼だからね」


宥「…………」ナットク


晴絵「じゃあ、うちらは観客席に行こう」

755: 2015/02/24(火) 21:05:25.41 ID:LjGXgKvU0

穏乃「なー。もしぐーぜん和に会っちゃったらどーする?」

憧「それはもう仕方ないんじゃない?」

穏乃「うーん…会っちゃうかもなー」

憧「ホントは早く会いたいからね」


晴絵「!」

756: 2015/02/24(火) 21:06:06.97 ID:LjGXgKvU0

咲「…多分こっち」

照「私の直感もこっちだと言っている」

和「麻雀以外では照さんと咲さんの勘は信用できないのですが……」

優希「照さんと咲ちゃんを探して私たちまで迷うとは……不覚だじょ」

和「案内板さえ……いえ、手段は何でもいいので現在地さえわかれば、後は何とかなります。何としても、部長の順番までには観客席に戻らないと……」


ゾ ワ ッ 


穏乃「え…何…ひっ!?」ビクッ

憧「なにこれ……冗談でしょ?」ガクガク

晴絵「…」ガタガタ

玄「あ…う…」パクパク



咲「……抽選よりも、乙女の貞操の方が大事だよ」ゴゴゴ

照「……全くもってその通り」ゴゴゴ

和「あまり周囲を威圧しないでください……現在地さえわかればお手洗いも何とかなります。とにかく早く戻らないと……」ゴゴゴ

優希「のどちゃんも迷子でイライラしてるみたいだじょ……」



穏乃「あの制服……清澄……」

憧「なんなのよ、あれ…ていうか、もしかしなくてもさっきの、和…」

玄「そ、それどころじゃありませんでした……息が出来なかった」

宥「……」ブルブル

晴絵「…」タラリ

穏乃「清澄高校……」

晴絵「和のやつも、とんでもない化け物に育ったもんだ。先生と呼ばれるのが辛いなこれは」


玄「あれが、宮永照――――」

穏乃「宮永……そうだ、宮永咲――――」


『――――私の、倒すべき相手』


786: 2015/03/01(日) 17:29:08.38 ID:47FtOgzc0

まこ「おう、ようやく来たか」

和「すみません。当てもなくこの広い会場を探していたら流石に迷ってしまって…」

優希「のどちゃんが居なかったらミイラ取りがミイラだったじょ」

咲「ごめんなさい」

照「…会場が悪い。もっとシンプルな構造にすべき」

京太郎「いや、あんたらが離れなければいいだけだから…トイレに行くときは誰かを呼べって部長に言われたでしょう?」

照「私は咲を呼んだ」

咲「私はお姉ちゃんを呼んだ」

まこ「それに何の意味があるんじゃダアホ!」

照「三人寄れば文殊の知恵」

和「せめて三人揃えてから言ってください」

まこ「もう抽選は始まっとるから、座っときんさい」

787: 2015/03/01(日) 17:29:38.52 ID:47FtOgzc0

『南大阪姫松高校、38番!!!これは―――!!』


ザワザワ…マジカヨ

ザワザワ…モッタイネエ

ザワザワ…ウチラ サイアクノ ブロック ジャン


『33番の千里山高校と同ブロックに、南大阪の姫松高校!!!大阪の両雄が、二回戦で早くも激突だー!!!!』


京太郎「凄い騒がれようですね…」

まこ「そりゃあのう、姫松やら千里山がノーシードっちゅうのがまずおかしいんじゃ」

咲「激戦区大阪を毎年制覇してくる関西の双璧、でしたっけ?」

まこ「そうじゃ。去年は白糸台と永水が大活躍しちょったけえ今年はシードから漏れよったが、例年なら姫松と千里山と臨海の三校はシード確定。残り一枠も大抵は新道寺じゃの」

咲「例年ならシードになる三校が、同じブロックに固まった……」

照「三校が固まったけど、麻雀は四人で打つもの。そして団体戦は四校で打つもの」

咲「……まだ空いてるね、27から39までの13個の枠で一つだけ、29が残ってる」

まこ「引くところはご愁傷様じゃの。ここからは、誰もがあそこだけは引かんように祈りながら抽選くじを引くじゃろ」

照「普通なら嫌だろうね。誰もが、かどうかは知らないけど」

優希「次はいよいよ部長の番だじぇ!」

和「ギリギリでしたね。間に合って良かった……」

788: 2015/03/01(日) 17:30:18.29 ID:47FtOgzc0

『さあ、第3シードの新道寺と大阪の両雄が二回戦で激突する激戦のブロックが出来上がりましたが、まだまだ抽選は続きます!!』


咲「うわ、すっごく悪そうな笑顔」

まこ「あいつまさか……引くなよ、絶対に引くなよ!?」

照「それは、引けってこと?」

和「まあ、どこが相手だろうと関係ないですが……くじなんて狙って引けるものでもないですし」

優希「決めたみたいだじぇ!」

京太郎「掲げる前にめっちゃ見てる、嫌な予感しかしねえ…」


『29番―――――!!!!! 激戦の第三ブロック、最後の一枚は長野代表、清澄高校が引き当てた―――!!!!』

789: 2015/03/01(日) 17:30:55.00 ID:47FtOgzc0

久「二回戦、よろしくね」

洋榎「…えらい自信やな? あんたんとこ、一回戦にも真嘉比とかおるで?」

久「いやー、引けて良かったわ。アタリが一枚しかないとかケチ臭いわよね」

竜華「引きたかったん? わざわざ二回戦負けしに来るなんて物好きやな」

洋榎「いやいや、どうせ負けるなら名門姫松に負けて終わりたいって、その気持ちは分かるでー」

久「ちょっと違うわね。どうせ優勝するんだから、道中は豪華な方がいいじゃない」

洋榎「ほお……?」ピク

竜華「ええ度胸やな、口だけじゃなきゃええけど」

久「一回戦で、口だけかどうかぐらいは見せられると思うわ。清澄高校、名前ぐらいは覚えておいてね」

790: 2015/03/01(日) 17:31:26.47 ID:47FtOgzc0

まこ「おい、なんか壇上でやっとるぞ?」

咲「多分、二回戦の挨拶をしに行ったんですね」

照「挨拶っていうか、喧嘩売ってるんだと思うけど。竹井さん、浮かれすぎ……」

和「誰が相手でも、やることは同じです。むしろ二回戦の相手が予想しやすい分だけ、やりやすいですね」

京太郎「姫松が引いたとき並みのざわめきですね…」

まこ「そりゃ、誰もあんなブロック引きたくないからの。貧乏くじ引いてくれたらざわつきもするわ」

優希「次のところはちっともざわつきが起きないじょ」

791: 2015/03/01(日) 17:31:52.52 ID:47FtOgzc0

透華「あら羨ましい。目立ちまくりですわね」

ゆみ「悪目立ちだと思うが……しかし、狙っていた節があるな」

智美「狙ってたに決まってるだろー。久だぞー?」

美穂子「壇上で姫松と千里山に話しかけてますね」

純「喧嘩売りに行ったんだろ」

一「愛宕さんと清水谷さんの雰囲気が変わったし、間違いないね」

ゆみ「あの馬鹿……これで負けたら大恥だぞ」

衣「どうやって負けると言うのだ。清澄だぞ?」

モモ「反論できないっすね」

智紀「次鋒で飛ばすしかない。ただし、出来るチームがあるとは思えない」

星夏「あるとしたら鶴賀ですね」

佳織「む、無理ですよぉ……先鋒でヘコんでれば分かりませんけど」

透華「先鋒は……どんな強力なエースを置いていても、あのエース頃しが先鋒ですからね」

美穂子「エース頃し……言い得て妙ですね」

睦月「うむ」

純「荒川とか神代ならどうにか出来るかもしれねえけど、それは決勝までお預けだしなあ……」

792: 2015/03/01(日) 17:32:42.61 ID:47FtOgzc0

『予選を勝ち抜いた52校のうち、去年のインハイや春季大会の成績から選ばれた上位四校がシードになるんだよねい』

『どれほど強豪と言われようと、シードから漏れれば抽選によってブロックが決まります。今回はシードを逃した強豪が一つのブロックに偏りました』

『偏った……言われてみれば真嘉比も第三ブロックだねい。しかし、姫松と千里山が二回戦でねー』

『そうですね……厳しいブロックになりました』

『新道寺、姫松、千里山、番狂わせはあるかもしれねーけど、順当に行くとこの中から一校か……』

『いずれも優勝の期待もかかる強豪です。くじとは恐ろしいですね』

『ま、それはそれとして、Aブロックだけど…』

『第一シードの白糸台と第四シードの永水女子は当然として、他に注目校はどこでしょう?』

『ん~、伏兵が出てくる予感がするけど、よくわかんねー』

793: 2015/03/01(日) 17:33:17.54 ID:47FtOgzc0

【翌日 インターハイ二日目 阿知賀、レジェンド・灼部屋】


晴絵「もう見てると思うけど……昨日の抽選の結果」


バサッと音を立てて、六枚の紙がテーブルに投げ置かれる
もちろん私は目を通しているし、多分玄も既に目を通しているだろう。
灼も流石に見てるよね?
となると、見てなさそうなのはシズと宥姉ぐらいか。

にしても、宥姉を見てると今が真夏だって忘れそうになる。
なんで25度を超えてる室内で防寒具フル装備で毛布にくるまってるのだろうか?

いやまあ、宥姉だからそれが当たり前なんだけど。


穏乃「これ―――清澄って完全に逆側!」


こいつは…やっぱり見てなかったのか。
まあ、シズだから仕方ない。
宥姉が室温30度に設定した部屋で毛布にくるまってるのと同じで、仕方ないことなのだ。

ちなみに宥姉、さりげなくエアコンの設定温度上げたの、気付いてるからね?


憧「そうだよ、だから決勝まで行かないとねって言ったでしょ?」

穏乃「でも、これじゃ、和のチームと戦う前に……とんでもないのとあたる――――!!!」

晴絵「白糸台高校、下馬評では日本で一番強い高校だな」

憧「下馬評で言ったら、どうせ決勝までに四番以内のどこかに勝たなきゃいけないんだけどね」

灼「むしろ、決勝まで行くつもりなら一番と四番が居るこっち側の方が、倒すのが四番目でいい分マシだと思……」

晴絵「下馬評関係なく、目下最有力候補と目される清澄が逆側で、千里山や姫松まで引き受けてくれるんだからこっち側は楽な方さ」

玄「でも、永水女子と白糸台が居ます」

灼「あの天江さんと同格と言われる、荒川憩と神代小蒔…」

穏乃「うちらが誰も勝てなかった天江さん……それと同じぐらい強い人に勝たないといけない…」

宥「」ガクガクガク


晴絵「ま、暗くなってもしょうがない。気持ちで負けたら来る牌まで弱くなる」

灼「はるちゃんの言うとおり…」

晴絵「まずは、最初のタスク一つずつ!一回戦の相手の地区予選の映像を見るよ」

794: 2015/03/01(日) 17:34:03.50 ID:47FtOgzc0

――

『変だけど、これで』

『彼女は、理想の牌譜を、卓上に描き出す―――』

『シロ達が作ったリード、大切に守らないとね』

『そこで磔になっているがいいさ、副将戦が終わるまでね』

『追っかけるけどー』

――

咲「…今日一回戦を打った12校の中で、宮守だけ頭一つ抜けてるね」

久「そうねえ……ここが上がって来るなら、私が一番動きやすいかしら?」

照「先鋒は手ごわい、副将は……原村さんには関係ないんじゃないかな?」

京太郎「大将のあれは能力なのか? 後手リーチで必ず先手リーチに自らの和了牌を掴ませる……リーチしてるからどうしようもねえし」

咲「それだけならリーチしなければ大丈夫だけど、多分それだけじゃないね。決勝までには残りの手札も見せてくれると思うけど」

優希「次鋒は大丈夫なのか?」

咲・照・久「多分まこ(染谷先輩・染谷さん)とは相性が良いから大丈夫」

まこ「えらい信頼されようじゃの。ま、あんたらがそういうなら大丈夫か」

和「それにしても、上がって来るかもわからない相手までチェックするんですか?」

咲「宮守は準決勝までは確実に上がって来るだろうからね。これ相手にどういう立ち回りをするかを見られるから、見ておけば必ず決勝の相手の参考になるよ」

照「明日も、これぐらい図抜けたチームがあると良いけど」

久「そうあってほしいわね。上がってくる見込みのないところを観戦しても無駄だもの」

795: 2015/03/01(日) 17:34:41.90 ID:47FtOgzc0

和「…明日の組み合わせを見る限り、注目校はありますか?」

久「個人で昨年14位の寺崎さんが居る射水総合と、激戦区兵庫の代表の剱谷ぐらいかしら」

咲「射水総合の相手……阿知賀と讃甘と裏磐梯は、どんな高校ですか?」

久「聞いたことないわね、無名校よ。無名でも鶴賀みたいなのも居るから油断は出来ないけどね」

和「ん?」

優希「どうした、のどちゃん?」

和「……奈良代表で、阿知賀?」

照「そう書いてあるね。何かあるの?」

和「まさか……いえ、阿知賀に麻雀部はないはず、だとすると、作ったとしか…」

咲「原村さん?」

和「阿知賀のメンバーは!?」

久「あらあら、なにかあるのかしら? えーっと、あったあった、先鋒から順に読み上げるわよー」

和「お願いします」

久「松実玄、松実宥、新子憧、鷺森灼、高鴨穏乃…補欠はいないわね」

和「やっぱり穏乃……」

咲「知り合い、かな?」

照「だろうね」

和「私の、奈良に居た頃の友人です……阿知賀は中高一貫で、私も通っていました。麻雀部は廃部になっていたはずなのに……」

まこ「奈良っちゅうと、晩成が有名じゃのう。少なくともあそこには勝ったんか」

久「麻雀部すらなかったところが、例年代表になっている名門を退けたってことか……で、和の知り合い? 期待できそうね」

796: 2015/03/01(日) 17:35:09.48 ID:47FtOgzc0

【翌日 インターハイ三日目】


晴絵「さあ、出陣だ!新生阿知賀の全国初お披露目、派手にかましてくれ!」

穏乃「頑張って下さい!」

灼「気合で」

宥「わわ…玄ちゃん頑張って」

憧「ま、下手打ってもあたしらが取り返すから、気楽にね」


玄「お任せあれ!!」

797: 2015/03/01(日) 17:36:27.78 ID:47FtOgzc0

【清澄宿舎】


久「んー、流石個人14位、面白いように手が伸びるわね」

咲「団体戦にしか出てない衣ちゃんみたいな人も居ますけど、そういうのを考慮しなければ全国で14番目の打ち手ですからね」

まこ「去年の14位じゃけえ、上位の三年が引退したから今の順位は一桁じゃろ」

咲「そうなると、福路さんぐらいかな?」

照「全国で一桁なんだから、もう少し上でしょ?」

久「長野を基準にしちゃダメよ。長野の五位を全国大会に出したら四位ってことがあり得るもの」

咲「長野の12位が全国1位なのは揺るぎない事実ですからね」

久「全く持ってその通り」

照「また二人して買いかぶる…」

咲「長野の12位が全国1位なのは私が証明するから安心して」

照「全く安心できない。咲は本当に優勝しそうだからむしろ不安」


『ツモ、16000オール』


咲「…え?」

照「うわ、寺崎さんに気をとられてる間にこんな手に……」

久「…和、あんたの知り合い、とんでもないわね。何よこれ?」

和「確かにそういう傾向はありましたけど、こども麻雀クラブの頃はここまで酷くなかったと思うのですが……」

798: 2015/03/01(日) 17:37:14.54 ID:47FtOgzc0

【同時刻 永水女子宿泊施設】


霞「阿知賀女子、ねえ」

初美「あの晩成を倒して来たところですよー」

春「小走やえ…」

巴「ああ、あのドリル髪の…」

初美「なかなかでしたねー、二度寝で神様が変わったのに即座に対応したのは敵ながら見事でしたよー」

巴「あれが抑えられなかったのがこの先鋒だとすると、この三校じゃ厳しいかな…」

春「なぜ?」

初美「射水総合の寺崎は去年の個人14位ですよー、大抵のものはどうにかするはずですー」

巴「…あのドリル髪は、当たりが悪くなければもっと上に行けたはずだから。
  姫様が最強の神様を降ろしてる上に二度寝した時に同卓したり、荒川と辻垣内の斬り合いに巻き込まれたりしてた。
  銘苅と当った時も他二人が完全デジタルで打つだけで実質銘苅のサポート要員だった、あれはくじ運がないだけで実力は全国でもトップクラス」

初美「それが抑えられなかったなら、寺崎には無理と…そう考えると確かに厳しいですかねー」


小蒔「人の可能性を侮ってはいけませんよ」


巴「姫様…」

小蒔「たとえ力が及ばない相手でも、他家と手を組み、工夫を凝らせば勝機はあります。鹿児島で、私たちはそうして苦しめられたのではありませんか?」

霞「その通りね、人は予想を超えてくる。一度しかないインターハイの舞台なら、なおさら」

小蒔「きっと、どんな相手でも諦めずに勝機を探れば打つ手はあります。全国では私たちもまた挑戦者、力の差がそのまま勝敗にはならないと信じましょう」


『ロン! 24600です!』


巴「…でも、先鋒で裏磐梯が飛びそうだけど」

霞「巴、空気を読みなさい?」ニッコリ

800: 2015/03/01(日) 17:38:42.24 ID:47FtOgzc0

久「向こうの準決勝のカードは大体決まったわね。白糸台、宮守、阿知賀、永水。二回戦に番狂わせの要素はないでしょ」

照「じゃあ、明日の私たちの相手のチェックに移ろうか」

咲「注目は、昨年度個人四位の銘苅さんが居る真嘉比だっけ?」

久「副将ね。先鋒なら照をぶつけられるのに」

和「副将ということは、私の相手ですか」

久「ん? 和と当たることはないわよ」

咲「…せめて中堅の相手を見てから言いましょうよ、そういうセリフは」

まこ「いや、副将なら和とあたるじゃろ?」

照「……中堅で飛ばせば当らない」

優希「いやいや、10万点持ちで飛ばすとか、照さんと咲ちゃんと部長と龍門渕の大将と鶴賀の次鋒ぐらいしか出来ないじょ」

京太郎「出来る奴で1チーム組めたな」

まこ「しかもそのうち三人がうちにおるな」

照「これだから長野は…」

まこ「出来る奴の筆頭が何を言うか!?」


和「…本気ですか?」

久「二回戦の相手に挨拶したときに、口だけかどうか一回戦の結果で見せてあげるって言っちゃったもの」

照「浮かれすぎ。まったくもう」

久「いやー、照が味方だと怖いもんなしよね。全国MVPの衣ですら負けを認めたぐらいだもの」

照「あれは……まあいいや、この話題で竹井さんに何を言っても無駄だし」

咲「うーん、どの高校も中堅は普通ですね……これは本当に私たちの出番ないかも」

801: 2015/03/01(日) 17:39:42.43 ID:47FtOgzc0

【翌日 インターハイ四日目】


久「さ、出陣よ。万に一つも負けはないけど、気を緩め過ぎないでね」

咲「その発言が一番気が緩んでると思いますけど…」

透華「全くですわ」

まこ「おんしらはどこまでついてくる気じゃ、宿舎からここまでずっとついて来おって」

衣「無論、行けるところまでだ!」

照「高らかに宣言されても…」

ゆみ「やあ、にぎやかだな」

優希「あ、鶴賀だじぇ」

和「わざわざ見送りに?」

智美「見送りというか、観戦だなー。来ないわけがないだろ」

佳織「みなさん、頑張ってください!」

モモ「っす」

咲「部長によると、私たちの出番はないらしいけどね」

睦月「うむ?」

智紀「それはまた強気な…」

ゆみ「おいおい、長野中の人間が応援してるんだから、あんまり早く終わらせるなよ」

久「…へ?」

802: 2015/03/01(日) 17:40:17.08 ID:47FtOgzc0

ゆみ「県予選の会場ではお前たちの試合を中継して応援するイベントが催されるし、街頭スクリーンにも大勢集まってるそうだ」

智美「現地に残った池田からの情報だぞー」

久「あらあら、大人気ねえ」

照「…緊張する」

咲「これは、宣言通り私の出番までに終わらせてもらわないと」

プルルルルル

まこ「なんか鳴っちょるぞ」

久「あら? 緊急用の携帯の方ね、何かしら? もしもしー、緊急じゃなきゃ怒るわよー?」

『あ、会長。えーっとですね……メール送ったんで、見てください。それじゃ』

久「切られちゃった……何かしら? 夏休みだし学生議会の話じゃないと思うんだけど」

ゆみ「じゃあ、私たちは観客席に行くよ」

衣「ゆみ! また後でな!」

智紀「衣、私たちも観客席に行く」

衣「ふえっ? ちょっと待てともき、衣はまだ一緒に…」

ゆみ「アホか、ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。行くぞ」

純「じゃあな、頑張れよ」

優希「おうっ! ノッポはせいぜい気合を入れて応援するがいいじぇ!」

純「お前は控えだろうが…」

803: 2015/03/01(日) 17:40:46.47 ID:47FtOgzc0

京太郎「軽食と飲み物用意しました、足りなかったら言って下さい」

優希「タコスがないじぇ」

照「お菓子が少ない」

まこ「おんしらは……真っ先にそれかい。ありがとな京太郎」

京太郎「いえいえ、お安いご用ですって。お菓子はかさばるから先鋒戦の間に買って来る予定でした」

久「先鋒戦までの間に食べる量ぐらいはあるわね。ありがと、須賀君」

照「あ、そっか……私、先鋒だっけ。ごめん」

咲「…バナナが多いね」

京太郎「部長が対局前にバナナ食べるって言ってたからな」

咲「むー……私の好物は知ってるよね京ちゃん?」

京太郎「ちゃんとあるぞ」

咲「ホント!?」

京太郎「お前用に別の入れ物に入れて来た。俺に感謝しながら食え」

咲「……ありがとう」


久「あら、さっきの電話で言ってたやつ、動画だわ」


まこ「動画? なんじゃろうな」

久「さて、何かしら?みんなで見てくださいって書いてあるからモニターに繋ぐわね」

804: 2015/03/01(日) 17:41:25.52 ID:47FtOgzc0

【少し前 清澄高校体育館前】


一太「準備は出来たかい?」

裕子「オーケーです」カメラモッテル

マホ「では、撮影開始です!」


一太「あー…実はですね、会長は応援団とか壮行会とか苦手って言ってましたけど」

マホ「もっとハキハキしゃべってください!」

一太「県予選の後、うちの生徒の父兄やOB・OG、地元の皆さんに清澄高校麻雀部のファンが増えてきてまして」

一太「清澄高校体育館を使って応援イベントをやることに決まりました。手続きは会長が東京に行ってから急いでやりました」

マホ「その後半の情報いらないです! カットで!」

裕子「なんでマホが仕切ってんのさ……編集してる時間ないからカットとかしないぞ」

805: 2015/03/01(日) 17:41:58.25 ID:47FtOgzc0

一太「えー、中の様子はこんな感じです。現時点で約50名、試合開始までに倍以上に増えると思います」

マホ「カメラ引いて、全体を映してください」

裕子「やってるっての」

一太「では、集まっている方からの応援メッセージを頂戴したいと思います」

マホ「はーい、選手たちに応援メッセージを送りたい方、順番にこちらにどうぞー!」


ササヒナ「片岡さん、頑張ってね!」


おばちゃん「一つ勝つごとにおにぎり一個サービスね! 頑張るんだよー」


親父「次来たらタコスラーメンっての作っちゃるからな!」


マホ「マホ達もしゃべります! 副会長さん、カメラ代わって下さい」


裕子「あんた、こんだけ画面外からギャーギャー言っといて…まあ、私もしゃべりたいとは思ってたけど」

一太「はい、どうぞ」

マホ「みなさん頑張ってくださいです! マホ、応援してます!」

裕子「頑張ってください! 皆さんなら勝てると信じてます!」

806: 2015/03/01(日) 17:42:32.98 ID:47FtOgzc0

【インハイ会場 清澄控室】


『みなさん頑張ってくださいです! マホ、応援してます!』


優希「ムロが完全に背景だじぇ…」

咲「マホちゃんしか映す気無いよねこれ……二人組なのにマホちゃんセンターでアップだし」

まこ「副会長の口リコン疑惑はマジじゃったか…」

久「……業が深いわね、内木君。優希、あなたも気をつけなさい」

優希「じょ?」

807: 2015/03/01(日) 17:43:42.95 ID:47FtOgzc0

【清澄高校体育館】


モブA「宮永さん、頑張って下さい!」

モブB「妹さんも頑張ってねー!」

一太「ちなみに、男子の宮永さんファンクラブの面々は別会場で何かしてるみたいです」

マホ「というわけです! みんなで応援してますから頑張ってくださいです!」

一太「以上です。これ、緊急案件でいいですよね? 今からメールして電話かけます」


一太「最後に僕からも、会長、宮永さん、染谷さん、原村さん、妹さん、頑張ってください」


808: 2015/03/01(日) 17:44:30.48 ID:47FtOgzc0

久「…ったく、負けられない理由はとっくに足りてるってのに」

まこ「照れ隠しなんかせんで素直に喜びゃええのに」

照「…負けられないね」

咲「負ける気は最初からないけどね」

和「…こんなにたくさんの方が、私たちの勝利を祝ってくれるんですね」

優希「のどちゃんまで勝ったつもりでいるじょ…」

和「あ、いえ、そういうわけでは…ただ、部の仲間以外に応援とか祝福をされるということが今までなかったので」

咲「……原村さん?」

和「勝ちましょう、絶対に」

久「当たり前でしょ。照が入ってくれた時から、私は優勝しか狙ってないのよ」

809: 2015/03/01(日) 17:45:19.28 ID:47FtOgzc0

【数時間後 一回戦第8試合会場】


セーラ「ったく、ちまちまと千点や二千点を稼いで楽しいか?」

モブ「……南2局まで焼き鳥でいるよりは楽しいですよ」

セーラ「そっか、まあ、そらそうやな」

モブ(トラッシュトークに乗せられちゃダメ……今は、少しずつでも確実に差を詰めなきゃ)

セーラ「リーチ」

モブ「」ビクッ

モブ(親リーが入った、オリなきゃ……捨て牌からしてチャンタ系。タンヤオで手を進めてる以上、現物はいくらでもある) 

セーラ「ま、どう打とうと自由やけど、3900ぐらいならともかく、1000や2000を何回か和了ったところで――――」


――――18000和了られたら、一発でオジャンやで?


モブ「ひっ…!?」

セーラ「ツモ」パタン


112233s11999m東東 ツモ:東


セーラ「リーチ一発ツモ・チャンタ・東・一盃口。あ、すまん、18000って言うたけど裏乗ってもうたわ、8000オールや」

モブ「あ…ああ…」

810: 2015/03/01(日) 17:46:42.78 ID:47FtOgzc0

【千里山女子 控室】


怜「おー、さっすがセーラ。親倍を和了ってから勢いに乗って、結局ぶっちぎりのトップや」ゴロゴロ

泉「園城寺先輩が作ったリードがどんどん広がりますね」

浩子「泉もきっちりリード広げてくれたしな。一年が仕事しとんのに元エースが差を詰められたら切腹もんや」

竜華「ま、セーラの心配はしとらんよ、それより……」


ダダダッ


セーラ「洋榎の奴の獲得点数は!?」

怜「まだ終わっとらんけど、いまんとこセーラの48600よりは多いなー」

セーラ「なんやて!? くそっ! 洋榎のやつ、振り込め! 振り込んでまえ!」

竜華「ちまちま鳴く奴が居て稼ぎにくかったから仕方ないやん。48600でも相当やで?」

セーラ「それでもあいつには負けたくないんや!」

浩子「ライバルがおるのはええことです。ただ、次はそうも言ってられませんわ」

セーラ「いやいや、次こそ直接対決やん!?」


浩子「ライバルとの勝負、とか言うてられんかもしれんってことです」


セーラ「……は?」

竜華「抽選で喧嘩売られたって話したやろ?」

セーラ「そんなこと言っとったな」

怜「その清澄なんやけどな、今、中堅だけで13万稼いどる。洋榎さんとセーラの点数を合わせたのより多いわ」

浩子「長野予選のデータから、清澄が強いのは分かってたんですけどね。ここまでとは…」


『直撃――――!!! 20400という珍しい点数での決着となりました! 激戦の第三ブロック、最初に二回戦に名乗りを上げたのは長野代表、清澄高校!!』

『清澄高校は、県予選では昨年度ベスト8の龍門渕に20万点近い大差をつけています。もしかしたら、二回戦第三試合で最も有力なのはこの清澄かもしれません』

『エースの原村と、予選で昨年度MVPの天江を大差で下した大将の宮永の二名を温存しての中堅での飛び終了―――!!! 清澄高校、その実力は未だ未知数―――――!!!!』


竜華「口だけじゃないってことやな。気合入れんと、ホンマに二回戦で消えることになりそうや」

848: 2015/03/07(土) 20:22:45.57 ID:bC/2FLcY0


穏乃「清澄……やっぱり強い」

憧「インターミドルチャンピオンの和と、妹尾さんがまず勝てないっていう大将、二人を温存して強豪真嘉比を飛ばすって、とんでもないわね」

玄「大将の宮永さんは、天江さんにも大差で勝ってます。やっぱり、まともにやって勝てる相手じゃ…」

宥「で、でも、清澄の対策より、今は…」

晴絵「そうだな、第四シードの永水女子だけじゃなく、埼玉代表の越谷女子、激戦区兵庫の代表 剱谷、いずれも強豪だ」

灼「まずは、目の前のタスク一つずつ…」

宥「次の相手の研究と対策、だね」

849: 2015/03/07(土) 20:23:18.35 ID:bC/2FLcY0

【インターハイ5日目】


恒子「さあ、さあさあ! ついにミスインターハイの登場だあああああ!!!! お前ら見逃すなああああ!!!」

健夜「今日から二回戦。シードの四校のうち二校が、ついに姿を見せることになります」

恒子「もちろん、うちの局は二回戦第一試合! 第一シードの白糸台を独占中継だあああああ!!!」

健夜「独占じゃないよ!? 理沙ちゃんのところでもやってるからね!?」

恒子「あれ? そうだっけ? てゆうか、他局の宣伝ですか小鍛治プロ?」

健夜「はっ!? しまった……って、こーこちゃんのせいでしょ!?」

850: 2015/03/07(土) 20:23:58.35 ID:bC/2FLcY0

【二回戦第二試合】


起家 小蒔「……よろしくお願いします」

南家 玄「よろしくお願いします」

西家 美幸「よろしくお願いするのよもー」

北家 ソフィア「よろしく」

851: 2015/03/07(土) 20:25:57.59 ID:bC/2FLcY0

東一局 ドラ:4m


玄(さて、この手…一つ前のツモが5索だったから…)


玄手牌

4444m5666s赤5赤5678p ツモ:6s


玄「うん、行けるはず…槓」

暗槓:4444m


ソフィア「げっ!?」

美幸「ドラ槓子!? 何なのそれもー!?」


56666s赤5赤5678p 暗槓:4444m 嶺上牌:赤5s 槓ドラ:6s


玄「…もう一つ槓」

暗槓:6666s


ソフィア(手の中の槓子にモロ乗りだと!?)

美幸(これ、一回戦と同じ……一回戦のあれはバカヅキじゃなくて実力ってこと? そんなの反則よもー!)


5赤5s赤5赤5678p 暗槓:6666s 4444m 嶺上牌:5s 槓ドラ2:5s


玄「嶺上開花、タンヤオ・三暗刻・ドラ14。8000、16000」

ソフィア(東パツから役満とかマジかよ、きちー……てゆうか、親かぶり喰らうのに役満を和了らせるとか、神代はなにやってんだ?)

小蒔「…」

852: 2015/03/07(土) 20:27:21.24 ID:bC/2FLcY0

東2局


玄(幸先良く役満スタート。けど、神代さんに動きが見えないのが怖い…)

小蒔「…」

美幸(阿知賀も化け物だけど、神代のマークは絶対はずせないのよもー)

ソフィア(くそっ、本当にドラが全部あいつのとこに行くのかよ……最悪だこの卓、下手すりゃ第三ブロックの方がマシだぞ!?)


小蒔「…ツモ。700・1300」パタン

2345678s456m東東東 ツモ:5s


玄(安い……けど、点差を気にせず安上がりというのは逆に怖い。何かを狙ってるに違いない……)

853: 2015/03/07(土) 20:29:14.05 ID:bC/2FLcY0

【同時刻 姫松宿舎】


漫「先輩、さっきの数え役満……」

恭子「予想通りやな。嶺上開花は偶然やと思いたいが、あの松実、手が窮屈そうやけど、それを苦にせんらしい」

絹恵「えっと……どういうことですか?」

洋榎「ドラ槓子も、手の中の槓子に槓ドラが乗ったのも偶然やない……ってことやろ?」

由子「手牌にドラが集まるって頭おかしいのよー」

恭子「今打ってるのも含めてデータがあるのが半荘7回、赤入りでこれだけ打って一度もドラが他家に入ってません。松実妹に『ドラ独占』の能力があるのは間違いないでしょう」

洋榎「で、それは槓ドラにも適用されるってことやな?」

郁乃「自分がドラ四枚集めて槓したら~、普通なら槓ドラが河の捨て牌とか他家の手牌とかに乗ってまうやん~? そしたら『独占』が崩れてまうけど~」

恭子「しかし、河に見えてない牌を集めておけば?」

由子「まさか、その牌が槓子になってモロ乗りするってことなのー?」

洋榎「奈良ではやってなかった打ち方やけど、全国来てから使い始めおったな」

絹恵「全国までの短い期間に成長したってことですか?」

恭子「無名の新設麻雀部。怖いのは、経験不足ゆえに成長も著しいということです。この分だと、上がって来たとしたらですけど、決勝までには、もう一つ二つ化けるかもしれませんね」

漫「うち、こんなん相手するの嫌ですよ…」

854: 2015/03/07(土) 20:32:09.41 ID:bC/2FLcY0

【晩成高校宿舎】


やえ「そう、今あるドラだけではなく、将来的にドラになる牌も奴に集まる」

紀子「つまり、後から対子や刻子になるように集まって来た牌や配牌で刻子になってる牌は、槓でドラになる可能性が高い」

由華「今までは、牌効率を気にして槓ドラになる牌を切ってしまっていたんですよね」

やえ「そうすると、手牌に四枚目のドラが来ない。来ても455556みたいな、絶対に槓しない形で来る」

良子「なんでだ?」

紀子「槓したら、捨てた牌に槓ドラが乗ってしまうから。槓をさせないように牌が集まる」

日菜「もう言ってることが無茶苦茶だよね。実際そうなるんだから仕方ないけど」

やえ「窮屈な手でも、奴ならドラである限り確実に槓子にしてツモれるから関係ない。ミスをしなければ奴の手は高確率で三暗刻以上の対子手になる」

良子「それにドラ4だのドラ8だのが乗るんだろ? 最悪すぎる…」

やえ「実験では、赤抜きだと最低でも三暗刻三槓子のドラ12にはなったな。赤ドラは、奴にとっては邪魔者になる」

由華「ドラを集める能力だからドラが増えた方が有利かと思いましたけど、ドラが少ない方が強いっていうのは意外な結果でしたね」

やえ「潜在的な槓ドラまで集めるからな、赤まで入ると手牌に収まりきらないんだ」

紀子「松実さんにとっての最善はドラだけで構成された四暗刻四槓子。赤ドラを使うと赤を使った順子の分だけ手が窮屈になる」

良子「なにその青天井でやったら絶対勝ちそうな悪魔」

紀子「実際、赤無しの青天井ルールであれに勝つのは困難。小鍛治健夜や三尋木咏みたいな松実に火力で対抗しうる化け物でもない限り、焼き鳥にする以外に勝ち方はない」

やえ「といっても、今打ってるのは通常のルールな上に松実に不利な赤入りだ。そして、あの場には赤無し青天井でも松実に対抗しうるカードがある」

855: 2015/03/07(土) 20:33:42.51 ID:bC/2FLcY0

小蒔「ツモ、面前ツモ・タンヤオ・一盃口。2000オール」


445566m333s2366p ツモ:4p


美幸(止めらんないのよもー!)

ソフィア(無理に止めようとして場を長引かせたら阿知賀の方が暴れ出す…本当に最悪だ、この卓)

玄(うう…リードがじわじわと削られていく……やっぱり、強い。けど、妹尾さんや天江さんに比べたら、噂ほどじゃ…)

856: 2015/03/07(土) 20:34:29.10 ID:bC/2FLcY0

霞「今降ろしているのは、何番目だったかしら?」

巴「6番目です。今が6、準決勝で7、決勝で8、どこかで二度寝したら9番目の神様が出ます」

初美「今日は二度寝しないでほしいですねー、二試合で二度寝すると一周してしまいますよー」

春「流石に二回戦で使いたくはない」ポリポリ

霞「阿知賀の子、勘違いしなければいいけど」

巴「勘違い?」

霞「神代小蒔、噂ほどではない……なんて考えたら、準決勝で出てくる7番目の神様の餌食になるだけだもの。あの子の能力だと特にね」

初美「そうですねー。見たところ相当強力な能力ですが所詮人間、神様に勝てるはずがないんですよー」

巴「確か、七番目の神様は……」

霞「ふふ、どんな顔するかしら? 楽しみねえ…」

857: 2015/03/07(土) 20:35:06.45 ID:bC/2FLcY0

美幸「な、なんとか終わったのよもー」

ソフィア「しんどいなんてもんじゃねー……」

玄「ありがとうございました」ペコリ

小蒔「…はっ!? すみません、眠ってしまっていました。お疲れ様でした!」


先鋒戦終了

永水女子  132600
阿知賀女子 158200
越谷女子   59000
剱谷     50200

858: 2015/03/07(土) 20:36:07.51 ID:bC/2FLcY0

【阿知賀控室】


晴絵「宥、分かってると思うけど…」

宥「は、はい!」

晴絵「最初は永水の出方を探る、向こうが乗ってきそうなら協力して流すが、こちらを脅威と見てここで潰しに来るかもしれないからな」

憧「越谷と剱谷はもう既に高い手狙わないといけない苦しい点差になってる。当然狙ってくるだろうから警戒してね」

晴絵「と言ってもこの点差だ、無茶をしなければ滅多なことはない。気負いすぎないように」

灼「宥さんなら問題ないと思……がんば」

穏乃「景気よくぶちかまして来てください!」

晴絵「頼むぞ、宥」

宥「はいっ!」

859: 2015/03/07(土) 20:38:16.75 ID:bC/2FLcY0

【同時刻 二回戦第一試合会場】


憩「小瀬川さん、面白い麻雀打ちますね。また打ちましょ、うち、小瀬川さんの麻雀好きですわ」

白望「準決でどうせ打つ、荒川さんとまた打つとか、だるい…」

憩「次はちゃんと本気で打ってもらいますよーぅ? 手の内隠しとるんは分かってますから」

白望「買いかぶられても困るなあ……次は神代さんもいるだろうし、本当にだる……」

憩「あー、それは分かりますわ。あの人と打つんは楽しみやけど、それ以上にしんどいからなあ……」


菫「憩、お疲れ」

憩「あ、菫さん。きっちり『エースの仕事』しましたよーぅ」

白望「エースの仕事、半荘一回につき二位と五万点差ってやつか……だる……」


先鋒戦終了

白糸台 213800
宮守  105100
苅安賀  47400
鬼籠野  33700

860: 2015/03/07(土) 20:39:22.04 ID:bC/2FLcY0

【新道寺宿舎】


哩「向こうの準決のカード、大体決まりやね」

美子「どっちも先鋒終わった時点で二位と三位の差が取り返しのつかんことになっちょるばい」

仁美「阿知賀の先鋒が暴れよったね、神代に勝つっちゅうのはなかなかばい」

姫子「というか、神代が大人しすぎっと。あいつはあんなもんじゃなか」

哩「阿知賀の値踏みをしたんやろ。なんかあっても後ろに薄墨や石戸もおるけん」

美子「一回戦から目立っちょったね、阿知賀は。先鋒で飛ばしたから次鋒以降のデータも地区大会の分しかなかけん、探りを入れたい気持ちはわかる」

仁美「先鋒は全国に来てから打ち方が進化しちょるから、次鋒以降も地区大会のデータは当てに出来んけんね」

姫子「そんなもんですか…」

哩「ま、当るのは決勝やけん、今から神経質になってもしかたなか。しかし……」

仁美「二試合とも先鋒で勝負が決まりよったし、先鋒の責任重大やね」


煌「はて、果たしてご期待に添えられるかどうか……何はともあれ、明日の二回戦ですね」


姫子「千里山……シード常連で、うちと同格以上と目される強豪やね」

美子「姫松も例年ならシードを争う強豪やね。うちの二回戦ば決勝っちゃ言われてもみんな信じよるぐらいの好カードばい」

哩「そして、それ以上に気をつけんといけんのは……龍門渕を退けて出て来た――」

煌「――清澄高校。いやはや、和もとんでもないところに入ってくれたものです」

861: 2015/03/07(土) 20:45:25.79 ID:bC/2FLcY0

『決まった―――!!!!! 弘世菫が満貫直撃で鬼籠野を飛ばしたああああああ!!!』

『昨年に続き、荒川・弘世のコンビは健在ですね。荒川選手が盤石なトップを築き、弘世選手が最下位を徹底的に狙う』

『安全圏から弱ったものをいたぶる行為に小鍛治プロのダメ出しが入りました!!!』

『ダメ出しじゃないよ!? そうやって盤石なトップとトビが近い最下位に手を縛られると他校が非常に打ちにくい、とても良いコンビです』

『それはまたなんで?』

『最下位のトビが見えると、迂闊にツモ和了りが出来ませんからね。三位は言わずもがな、二位も、三位との点差次第では自分の首を絞めかねない』

『トバしながら逆転でジ・エンドってこともあるからね。で、四位は?』

『徹底的に狙われて大差をつけられているので、高い手を狙うしかなくなります。本人たちが打ちにくいのはもちろんですが、二位・三位はそれも警戒して立ち回らなければなりません』

『あ、そうか、大きいの狙ってるところに振り込んだりして一発もらったら、いきなり奈落の底ってわけだ』

『そう。特に三位は、二位との点差が開くと二位と白糸台が協力して四位を狙う展開もあり得るので、万が一にも高い手の直撃は受けられない。
  次鋒が終わった時点の順位がそれ以降の各区間の結果や最終結果と一致してしまうほどに、それぞれの打ち方に制限が付きます』

『聞けば聞くほど嫌な展開……』

『それを、去年の白糸台はやってみせました。だからこそ、今年はほとんどのチームがその展開を避けるためにエースを先鋒にオーダーしています。
  それまではエースを大将に据えるオーダーもかなりありましたが、今年は軒並みエースを先鋒で起用しています。
  そうでないのは、52校のうちでは、姫松、新道寺、真嘉比の三校ぐらいでしょう。昨年の大会で、彼女たちはそれだけの猛威を振るいました』

『うっは、全国のオーダーを変えちゃうぐらいの影響力?』

『はい。あのコンビは、それほどの脅威です。この全国大会の二回戦でも、その力を存分に見せつけました』

862: 2015/03/07(土) 20:46:30.71 ID:bC/2FLcY0

晴絵「全く、向こうは派手に暴れてるみたいだな、第一試合、もう終わったってよ」

憧「はあ!? まだ昼休憩前だよ!? 次鋒で飛ばしたってこと!?」

灼「妹尾さんでもない限りそんなの無理だと思……」

玄「妹尾さんに出来るなら出来るのです。妹尾さんどころか、天江さん並みと言われる怪物が居ますから」

穏乃「……そうか、白糸台高校―――!!」

憧「――荒川憩と弘世菫か。と言っても、弘世菫にはそこまでの得点力はなかったはず。てことは、先鋒が終わった時点で最下位がトビ寸前だったのかな?」


『ツモ、8000オール』


晴絵「人のことは言えないな。この分だと、こっちも次鋒で終わりか」

玄「高目をツモってしまったら仕方ないのです。二位でいいと思ってるのか、永水も止める気がなさそうですし」

憧「あたしの全国デビューはいつになるのよ? 全国来てから玄と宥姉しか打ってないじゃん」

863: 2015/03/07(土) 20:48:50.72 ID:bC/2FLcY0

【夕刻】


「「「「「ベスト8おめでとー!!!」」」」」


憧「オトナの味だねー!」

灼「麦茶だけど…」

穏乃「夏の冷えた一杯は格別!!」

玄「はい、おねーちゃんはホットなのです」

宥「ありがとー玄ちゃん」

穏乃「永水女子相手にまさかのトップ通過ですね!! さっすが玄さんと宥さん!」

玄「うん、神代さんも思ったよりはなんとかなる感じだったし、これなら荒川さんもなんとかなっちゃうかも!!」

宥「玄ちゃんは凄いねー、私も鼻が高いよぉ」


『浮かれるのもほどほどにしないと、明後日が辛いよ』


玄「」ビクッ

晴絵「お前たち、今、鶴賀とやったら勝てるか? 龍門渕は? 二校同時なら?」

憧「…キツイね。先鋒で玄が飛ばしてくれるのが唯一の勝ちパターンかな」

灼「井上さん相手じゃそれは無理だと思……」


晴絵「忘れるな、荒川はあの天江衣と同格と言われる選手だ。神代も、今日は明らかに手加減していた」

穏乃「で、でも、玄さんと互角に渡り合ってましたよ!?」

憧「そうだよ、あれで手加減してるって? 多少は余力を残してるかもしれないけど……」

晴絵「手加減した天江が、玄と互角に渡り合えないと思うか? 小走でも玄相手にあれぐらいの立ち回りは出来るだろ?」

玄「あ……」

憧「確か……やえは、荒川憩と神代小蒔はヒトじゃないって……」

晴絵「そういうことだ。もう一度聞くが、今のお前たちに、妹尾に勝てる奴はいるか?」

宥「…」フルフル


晴絵「永水と白糸台は龍門渕より格上と言われている。だとすれば、鶴賀と龍門渕を同時に相手にするより厳しい戦いになる。真正面からぶつかれば良くて絶望的……はっきり言えば―――【論外】」


憧「…」

晴絵「派手な勝ち方をしたせいで、うちらを侮ってくれる可能性も薄まった。状況はかなり悪い」

穏乃「…」

晴絵「私は少し用事があって外に出てくる、みんなはルームサービスでもとってしっかり休んでおくこと」

864: 2015/03/07(土) 20:50:00.17 ID:bC/2FLcY0

憧「ハルエ、なんっかピリピリこいてたね……」

宥「うう……私が調子に乗って次鋒で飛ばしちゃったから警戒されちゃったのかな……それで怒ってる?」

灼「過ぎたことは言ってもしかたな……」

玄「次は、『準決勝』だから、赤土先生がピリピリするのは仕方ないよ……それに、そんなこと言ったらおねえちゃんより私の方が……」

穏乃「うぅ~……」

玄「穏乃ちゃん?」

穏乃「ラーメン食べたい! ラーメン!!!」


憧「…は?」

穏乃「赤土先生ルームサービスとれって言ってたじゃん! ラーメン食べたい!!」

玄「メニューにはないね」

宥「もしあっても、ホテルのラーメンは穏乃ちゃんの食べたがってるラーメンとは違うと思う……」

憧「……暗くなってても仕方ないからね、食べに行こうか?」

灼「でも、ハルちゃんはルームサービスとれって……」

憧「『ルームサービスでも取ってしっかり休め』って言ってたでしょ、限定されてるわけじゃないし、ラーメン食べた方が休めるやつがいるんだからいいんじゃない?」

灼「……確かに」

玄「じゃあ、外に食べに行こうか」

穏乃「やったー! ラーメンだ――!!!」

865: 2015/03/07(土) 20:53:42.01 ID:bC/2FLcY0

【とある屋台】


智紀「…北海道でラーメンを主食としていた私を満足させるとは、なかなか」

親父「おうよ! どんなもんだい!」

智美「ばーちゃんのおすすめだぞー、うまいだろー」ワハハ

ゆみ「……これは美味いな。臭みがない、だが淡白な味でもない、濃厚かつ複雑な……」

佳織「チャーシューもとろけるみたいな触感で、すごく美味しいよ智美ちゃん!」

睦月「うむ! うむ!」ズルズル

桃子「これは大当たりっすね。屋台でこのレベルの当たりを引けるとは思わなかったっす」


『ここが通のみぞ知る名店らしいよ』

『おおー! すごくおいしそうなにおいがする!』

『これは期待できるね』

『屋台、あったかそう…』

『確かにいい匂…』


ゆみ「…聞き覚えのある声だな」

智紀「わたしの記憶にも、こんな声としゃべり方の五人組が居る」

智美「人の顔と名前を覚えるのは得意なんだ、これは忘れないなー」

智紀「その記憶力を英単語を覚えるのに使ってほしい」

睦月「うむ」

智美「むっきーにまで言われるとはなー」トホホ

佳織「あ、入って来たよ」


憧「うわ、先客が5人もいる……穴場じゃなかったの?」

穏乃「待ってもいいから食べたい!……って、ええっ!?」

玄「うそ、なんでこんなところに…?」

宥「どうしたの玄ちゃん? あ……」

灼「鶴賀と、龍門渕の……」


ゆみ「……縁とは数奇なものだな。二か月ぶりか?」

866: 2015/03/07(土) 20:54:39.53 ID:bC/2FLcY0

親父「おう、突っ立ってねえで入んな。席は……足りねえな」

智美「ああ、私は食べ終ったからどくぞー」

智紀「御馳走様でした」


ゆみ「こんなところでまた会うとはな」

佳織「私たちは、私が代表になって部費が出たから、今日は少し贅沢したんだよね」

睦月「うむ」

玄「その節はお世話になりました」

ゆみ「…準決勝進出おめでとう。ずいぶんと腕を上げたな、あの打ち方は考えつかなかった」

玄「長野に鶴賀や龍門渕がいるように、奈良にも代表以外の強豪がいるんですよ」

ゆみ「…あの打ち方を授けたのは晩成の先鋒か。見込んだ通り、ただものではなかったらしい」

宥「先鋒だけじゃないですよ。今思えば、なんであの頃の私たちが晩成に勝てたのか不思議です」

智美「麻雀は運の要素が強いからなー。強豪晩成でも、一回勝負じゃ勝てるとは限らないってことだなー」ワハハ

穏乃「おじさん! チャーシューメン大盛り!!!」

憧「はあ……こいつは本当に緊張感がないんだから」

佳織「ふふ、いいんですよ。食事に来たんでしょう?」

睦月「うむ、気にせず注文をしてくれ」

867: 2015/03/07(土) 20:56:50.00 ID:bC/2FLcY0

玄「……」ジー

憧「……」ジー

佳織「あ、あの……私、何かしました?」

玄「……妹尾さん、一つ、お願いがあるんですけど、聞いていただけませんか?」

佳織「へ? 私に、ですか?」

ゆみ「…腕試しがしたい、か?」

憧「加治木さんには分かっちゃうか。……ダメかな?」

智紀「……」

穏乃「ふえ? 何の話?」

灼「清澄には、妹尾さんに勝てる選手が4人居る。妹尾さん相手に、今の私たちがどれだけやれるかを知りたい」

ゆみ「…対価は?」

宥「ふえっ!?」

ゆみ「妹尾も個人戦を控えた選手だし、我々は清澄の応援に来ている立場だ。何の対価もなしとは言うまい?」

玄「そ、そんなこと言われても……」


憧「…情報」


ゆみ「ほう?」ニヤリ

868: 2015/03/07(土) 20:58:11.15 ID:bC/2FLcY0

憧「私たちは、県予選の頃とは比較にならないぐらい強くなった自信がある。少なくとも、全国の舞台で手の内を見せずに準決勝まで行けるぐらいには強い」

ゆみ「確かに、中堅以降は未だに手の内を見せていないな」

憧「あの頃の私たちは妹尾さんに手も足も出ずに飛ばされたけど……その妹尾さんに挑もうと思う程度には腕を上げたよ」

ゆみ「私たちが肩入れする清澄にとっても、その情報は価値があると、そういうことだな?」

憧「足りないかな?」

ゆみ「正直、妹尾に勝てるかもしれない、ぐらいの認識の奴らに清澄が負けるとは思えなくてな。もう一声ほしい」

憧「……ここの支払い、まだだよね?」

智美「おー、それは助かるなー」

佳織「あの、私は別に……」

睦月「妹尾、ここは吹っかけておこう」

佳織「あ、はい…」

ゆみ「交渉成立だな。妹尾にも特殊な打ち手相手に経験を積ませたいと思っていたところだ。モモは居るものの、私たちにはツモ自体を偏らせるような打ち手が居なくてな」

宥「えっと…?」

ゆみ「もう一つサービスだ。長野県の名目上の三位に加えて、実質二位か三位の奴もつけよう。他にもおまけが来るかもしれないな」

智紀「衣には『面白い獲物が網にかかった』と連絡をした。すぐ来ると思う」

玄「……いつの間に?」

智紀「松実さんが『一つお願いがある』と言い出した時点で、加治木さんが吹っかけつつ結局引き受けるここまでの展開は予想できた」

ゆみ「さすが、よくわかっているな」

智紀「問題児の対処で連携をとる必要があるから、アイコンタクトで意思疎通が出来る程度には理解しているつもり」

智美「ワハハ……これが私に勉強をさせるために使われるコンビネーションだ」

佳織「それでもたまに二人の隙をついて逃げるからね、智美ちゃん」

ゆみ「なにせ、勉強以外の能力は無駄に高いからな」

睦月「うむ」

灼「ハルちゃんはしっかり休めって……それに、部費を勝手に」

憧「二杯食べてもあのホテルのルームサービスよりは安いでしょ。問題ないって」

ゆみ「もちろん私も混ぜてもらうぞ。松実と妹尾と天江の卓……楽しみだ」

872: 2015/03/07(土) 21:13:12.93 ID:bC/2FLcY0
補足

姫様の能力は、自分の解釈だと原作では各神様に強い順に番号を付けた場合、146785932→14……みたいな順にローテする(原作二回戦はこのローテの9の位置)イメージなんですが、このSSでは987654321と順調にランクアップしていって上がりきったら最弱にることになってます。

891: 2015/03/15(日) 20:54:23.01 ID:PLQRGizv0

【蒲原祖母邸にて】


衣「少しは出来るようになったが、まだまだだな」

玄「うう……槓で潜在的なドラを持っていかれたのです……」

憧「ミスがなければ嶺上牌がほぼ100%の確率で槓ドラってのも酷い話だけど、それが他家に渡ったらドラにならないようになっちゃうんんだね」

玄「小走さんの検証では、私が卓についてる時に槓できる人がいなかったので確認してませんでした……小走さんはこうなると予想してましたが」

衣「『ドラの独占』か、強力な力だが、他者に渡った牌がドラにならぬように自らの手すら縛る、御し難い力だな」

ゆみ「これを狙って出来る奴はそうそういないだろうが……残念ながら天江の他に二人ほど心当たりがあるな」

佳織「宮永さんなら、ドラ爆する前に和了ることも出来るし、槓で手を封じることも出来ますね」

衣「そういった搦め手は衣よりも咲や照の方が……特に槓を絡めるなら間違いなく奴らの方が上手だな。衣に出来るのだから、咲や照にも出来ると思って構わん」

玄「うう……」

憧「なに落ち込んでんの? 凄いじゃん、妹尾さんと天江さん相手に半荘一回生き延びたんだよ!?」

宥「荒川さんと神代さん相手でも、希望が出て来たね」

穏乃「次! 私、私が打ちたい!!」

ゆみ「ふふっ、手が空いているなら手積みでモモ達と打っていてもいいぞ。イカサマをする者はいないだろう?」

憧「あ、じゃあ私も……」

智紀「よろしく」

モモ「全力でいくっすよ」

892: 2015/03/15(日) 20:55:04.83 ID:PLQRGizv0

【阿知賀 ホテル前】


穏乃「すみません、わざわざ送っていただいて…」

智美「いやいや、あんまり相手出来なくてごめんなー」

佳織「加治木先輩が、明日は清澄の応援をするから早く休みたいと言いだしちゃいましたからね」

憧「それが本来の目的なんだから仕方ないですよ」

智美「衣と佳織は明日一日付き合ってくれるみたいだから、それで勘弁してくれー」ワハハ

佳織「『清澄の二回戦の相手を見たが、あのような俗物どもを蹂躙するのを眺めるよりはお前たちと打つ方が楽しそうだ』でしたっけ?」

智美「佳織はツモが偏る異常な場に対応できるように経験を積めってゆみちんの命令だぞー」

玄「明日一日、天江さんと妹尾さん相手に練習が出来る……」

宥「これってすごいことだよね。全国でも最強クラスのコーチが二人もついてくれるってことだもん」

灼「明後日の準決勝……本気の永水女子と、それより強い白糸台高校……」

憧「出来ることは全てやっておきたい。永水や白糸台相手に、やり過ぎってことはないはず」

穏乃「よし! やるぞ――!!」

「「「「おー!!」」」」

893: 2015/03/15(日) 20:56:08.69 ID:PLQRGizv0

【翌日】


『本日はインターハイ二回戦、第三試合と第四試合が行われます!』

『シード校は第三シードの新道寺女子と第二シードの臨海女子が初登場になりますね』

『なかでも注目は第三試合! どこが勝つのか予想もつかない超好カードだああああ!!』

『シード校の新道寺はもちろんですが、姫松高校も千里山女子も、シードの新道寺に決して劣らない力を持っています。そして、もう一校―――』

『昨年度個人戦4位の銘苅選手に回させることなく一回戦を終わらせた脅威の伏兵、長野県代表、清澄高校――!!』

『インターミドルチャンピオンの原村和選手を擁していますが、雑誌のインタビューでは原村選手は自分は四番手と答えています』

『うっは、なにそれ、インターミドルチャンプより強いのが三人居るって? マジで?』

『記録を見た限りでは、少なくとも二人は原村選手以上の実績を残しています。個人戦でも原村選手を抑えて地区予選を1・2位で通過していますね』

『これは本気で期待できるぞー!! 名門どもの鼻っ柱を叩き折ってやれー!!!』

『アナウンサーがそういうこと言っちゃダメ―!!!』

『さあ、選手の入場だ――!!』

『誤魔化した!?』

『最初に入場するのは南大阪代表 姫松高校! 先鋒を務めるのは昨年副将を務めました上重漫選手です!!』

『順位点を考慮しない場合の平均素点は名門姫松高校でもトップを争うとのことです、順位点のない今年の団体戦ルールでは非常に強力な選手ですね』

『続きますは北大阪代表 千里山女子!! 先鋒を務めるのは春から抜擢された三年生!! 園城寺怜―――!!』

『千里山で三年生になってから抜擢されるのは珍しいですね、大抵は、監督が一・二年生のうちに才能を見出して大会等に出場させるんですが……』

『小鍛治プロが指導者の目が節穴だと言い始めたぞ――!! 千里山の皆さん、聞きましたか――!?』

『言ってないよ! 三年生になってから抜擢されるのは珍しいっていう事実を述べただけだよ!!』

894: 2015/03/15(日) 20:56:37.41 ID:PLQRGizv0

煌「さて、名門姫松高校で一年生時からレギュラーを任される天才や、名門で三年目にしてエースの座を手にしたシンデレラガールと比べると、私には華がありませんね」

煌「一番注目されるべきシード校であるにも関わらず、取材陣もまばらです」

煌「まあ、それもそのはずです、私の成績は地区大会からずっとマイナス。何故先鋒に抜擢されたかを疑問視する声がそこかしこで上がっても不思議ではありません」

煌「……しかし、今回は、その理由を教えて差し上げられる相手かもしれません」


895: 2015/03/15(日) 20:57:34.84 ID:PLQRGizv0

照「……流石に迷ったりはしない、一人で行ける」

久「一人で行けることと、一人で行かせることは別よ。私が一緒に居たいの。ダメかしら?」

照「……ダメじゃない」

久「ふふっ、じゃあ、行きましょうか」

記者A「あ、すみませーん、試合前に一言だけ抱負を……」

照「はい?」スマイル

記者B「あ、いえ、お時間も迫ってますし、今回は結構です」

記者A「え?」

照(助かった……)


記者B(馬鹿、長野は原村和だけでいいんだよ)ヒソヒソ

記者A(いや、デスクが長野代表の、特に先鋒は要注意って…)

記者B(あんなパッとしない成績の選手なんかどうでもいーの。去年の龍門渕のベスト8も天江衣が素人みたいな打ち方でバカヅキしてただけだし、長野のレベルが落ちてるんだって)

記者A(お前、一回戦見てないのか?)

記者B(バカヅキしてただけだろ? 牌効率も分かってない素人の集団が代表とか、長野も落ちたよなー。風越は二回戦常連の名門だったってのに)


照「へえ……」ゴゴゴゴゴ

久「長野のレベルが落ちてる、ねえ?」ゴゴゴゴゴ

久・照「」ゴゴゴゴゴ

896: 2015/03/15(日) 20:58:08.02 ID:PLQRGizv0

起家 怜「うっ!?」

西家 漫「……どないしました、園城寺さん?」

北家 煌「は、はは……どうしたことでしょう、震えが止まりません……」カタカタ


南家 照「……よろしくお願いします」ゴゴゴゴゴ

897: 2015/03/15(日) 20:58:46.06 ID:PLQRGizv0

【姫松控室】


恭子「先鋒で注意するべきは、清澄の宮永です」

洋榎「千里山の園城寺やないんか?」

恭子「もちろん園城寺も警戒せないかん相手ですけど、こいつはそんなもんじゃありません」

絹恵「でも、戦績は大したことないですよ?」

恭子「数字だけ見ればな。でも、映像で試合を見るととんでもない化け物だって分かるんや」

由子「どういうことなのよー?」

恭子「見た方が早いです……これを」

洋榎「地区予選の映像か」


『……槓』


由子「…槓した後、何もしないのよー?」

恭子「しかも暗槓です。常識的には搶槓もあり得ませんから、問答無用で槓ドラめくって嶺上牌をツモるもんですけど…」

洋榎「てゆうか、この時点では普通に勝ってるやん。トップ独走中や」

絹恵「……何やこいつ、手牌でも見えとるんか?」

恭子「絹ちゃんは気付いたか。そう、今槓した1筒が対戦相手の鶴賀の国士のアタリ牌。国士だから暗槓を搶槓出来るんや」

洋榎「搶槓されるのが分かってたから動かなかったって言うんか? 手牌が見えるんやったら振り込まなければええやん」

恭子「そう、それや。アタリ牌と分かってるなら、普通に考えたら振り込まん方がいいに決まってる。で、理由を探したら簡単に見つかったわ」

由子「それはなんなのー?」

恭子「地区大会通して、宮永照の一試合の得点は+4600から+5500の間に収まってるんや」

洋榎「…プラマイゼロってか? 偶然やろ、たった半荘4回やし……」

恭子「いいえ、地区大会通して、です。個人戦初日の東風20戦と二日目の半荘10回も、その範囲に収まってるんですよ」

洋榎「……は?」

恭子「偶然で済ませられる確率じゃありません。宮永照は、半荘の収支をプラマイゼロにする能力がある」

洋榎「けったいな能力やな。でも、プラマイゼロにするだけやろ?」

恭子「それを前提として団体戦を見ると……おそらく、削る相手や点数状況まで任意に操作できると考えられます」

絹恵「……はあ!?」

恭子「強豪を削って、無名校をサポートする。三試合の四半荘全てがそんな感じの結果になってます」

由子「それがホントなら、宮永照が卓につく限り、他の三人は誰が打っても結果は同じってことなのー?」

恭子「この試合では、無名校の鶴賀を太らせて、昨年度優勝の龍門渕をマイナス3万、名門の風越をマイナス1万、自分はプラマイゼロの上限の11000…」

由子「この時の役満差し込みは、鶴賀を太らせて、その分他校を削るため?」

洋榎「なんやそれ、化け物やないか」

恭子「せやから、一番注意せなあかんのは宮永やって言うてるんです」

絹恵「このこと、漫ちゃんには……」

恭子「当然伝えてあります。あとは無事に帰って来ることを祈るのみですわ」

898: 2015/03/15(日) 20:59:21.59 ID:PLQRGizv0

【千里山控室】


浩子「ということなんで、エース頃しもここまで来ると笑うしかないですわ」

セーラ「怜に伝えた対策は?」

浩子「『どうにか出来そうなら頑張ってください』、以上ですわ」

竜華「どうにもならんことが前提な上に何の対策にもなってないやん」

浩子「龍門渕の井上と風越の福路の、全国でも一線級の連中二人がかりで何も出来んのやからお手上げですわ」

泉「その二人はそんなに強いんですか?」

セーラ「去年の試合見ただけやけど、井上はかなりやるで。福路も個人でいいとこまで行ってたな」

浩子「ツモをおかしくするような妙な力が無い人間に限れば、そういう連中の対策にかけては全国トップクラスの二人です」

竜華「あー……怜の力は先が見えるだけでツモを変えられるわけやないしなー」

浩子「いくら園城寺先輩でも、あの二人にどうにも出来ないもんがどうにか出来るとは思えません。一巡先が見えてるから何かできる場合もあるでしょうけど、期待薄ですわ」

泉「まあ、しかし、なんもなければ一万プラス作られて、その分ちょっと削られて二万差で済むんですよね?」

浩子「なんもなければ、な」

泉「なんかありそうな言い方やめてくださいよ……」

899: 2015/03/15(日) 20:59:51.38 ID:PLQRGizv0

東一局 


怜「リーチ」

照「……」

漫(げっ!?)

煌(千里山のエース、園城寺怜……その代名詞とも呼べる特徴。それは、驚異的なリーチ一発率)


怜「リーチ一発ツモドラ1。4000オール」


2455赤5s345m234p東東 ツモ:3s


煌(リーチをかけたらズラさない限り必ずツモる、やはり、間違いないようで……)


ゴオオオオオオ


煌「ん?」

怜「」ビクッ

漫(どうしたんや、二人とも急に後ろ振り返って……?)


照「……」


煌(…今のは、一体……?)

怜(マジで普通の手合いじゃなさそうやな……フナQ、これはどうにもならんかもしれん)

漫(園城寺に早速親満ツモられた……取り返さんと。へこまされたら宮永に狙われるかもしれん)

900: 2015/03/15(日) 21:00:37.06 ID:PLQRGizv0

東一局 一本場


***

照「ツモ、400・600」

照手牌

34s33345688p西西西 ツモ:2s

***


怜(今の……嘘やろ? 2巡目で? 1巡目で張ってるならダブリーせえや……)

怜(まあ、手牌が見えたから振り込むことはない。あの手なら、ここをズラせば染めに行くやろうからチャンスはある……この辺でどうや?)

打:中

煌「ポン!」

煌(園城寺怜の下家とはいえ、翻牌は鳴いて良いでしょう。逃げてばかりで半荘二回は耐えられません、ここは攻める)

怜(助かった……で、これがアタリ牌やな。抱えとこ)

照「ツモ、800・1400」

34s33345688p西西西 ツモ:赤5s


怜「なっ!?」

煌(動揺している……予想外のことが起きたということでしょうか?)

漫(確か、園城寺は中を切る前に小考しとったな? 末原先輩も注意しろって言ってたけど……園城寺が手を打ってもその更に上を行かれたってことか?)

怜(ずらしても和了る……それどころか高くなった。おいフナQ、対策適当過ぎやろ、こんなんどうやってどうにかせえって言うんや?)

照「私の親……だね」ゴゴゴ

901: 2015/03/15(日) 21:01:14.56 ID:PLQRGizv0

東二局


照「ロン、2900」

煌「はやっ!?」

怜(すまんな、どうにも出来んわ)

漫(早すぎやろ……さっきも2巡で終わって、今度は4巡)

煌(あれれ? まさか、この場で警戒しなくてはいけないのは、園城寺さんではない?)


照「一本場」

902: 2015/03/15(日) 21:02:09.40 ID:PLQRGizv0

久「飛ばしてるわねー」

咲「思いっきり新道寺を狙ってますけど、どんな指示したんですか?」

久「なにも。あれはあの子の意志ね」

和「その割には、何やら納得してるような様子ですが……」

優希「照さんのロン和了りは珍しいんだったか?」

まこ「県予選でそんなこと言うとったのお」

京太郎「もったいぶらずに説明してくださいよ、何があったんですか?」

久「聞かない方が良いと思うわよ? 聞きたい?」


咲「一応」

和「もったいぶらずに早く説明してください」

まこ「そうじゃそうじゃ」

久「いやね、対局室に向かう途中に記者が居るじゃない?」

和「居ますね」

久「で、コメントを求められたのよ」

咲「それだけなら別に変わったことではないですね」

久「けど、その記者の相方に止められて、コメントは要らないってことになったのよ」

まこ「……新道寺を狙うことにどうつながるのかわからんの」

久「で、記者同士でコメントを要らないって言った理由を話してるのが聞こえちゃったのね」

優希「それが新道寺を狙う理由……?」

京太郎「『どうせ新道寺が勝つ』みたいなこと言われて怒ったってことですか? あんまりそういうので怒るイメージないですけど」

咲「そんなんじゃ怒らないと思うよ。少なくとも、それぐらいでわざわざ狙ったりはしないと思う」

京太郎「だよなあ……何言われたんですか?」


久「『長野のレベルが下がってるだけだから清澄のコメントなんかどうでもいい』らしいわよ」


咲「……へえ?」ゴゴゴゴゴ

優希「それはどこの記者だ?」ゴゴゴゴゴ

和「是非とも知りたいですね」ゴゴゴゴゴ

まこ「おい、やめろおんしら、落ち着け」

京太郎「優希、お前はこっち側だろ。化け物側に行くな」

優希「だって! 私だけならともかく、長野のみんなを馬鹿にされたみたいで悔しいじょ!!」

咲「……私の出番、残してくださいね?」ゴゴゴゴゴ

和「全国の舞台に慣れておく必要がありますからね」ゴゴゴゴゴ

久「中堅の相手は江口セーラと愛宕洋榎よ? 終わらせる方が難しいわ」

903: 2015/03/15(日) 21:02:39.45 ID:PLQRGizv0

まこ「で、照さんが怒ってるのは分かったが、なんでまた新道寺なんじゃ?」


京太郎「あ、確かに」

久「本人に聞かないと確実なことは言えないけど……一つ問題を出すわ、あの三校で一番格上はどこ?」

まこ「……どれも甲乙つけがたい名門じゃが、一応、シードの新道寺かの?」

久「そういうことよ。あの中で一番格上の新道寺を、徹底的にヘコませるつもりなんじゃないかしら?」

咲「…プラマイゼロの範囲内だと、出来るのはそれぐらいかな?」

和「そうですね。普通にトップを取っても二位に二万差程度で、強さを示すというのは難しいですし」


優希「のどちゃんが、ついに任意の相手を直撃できることに突っ込まなくなったじぇ……」

京太郎「あいつもあっち側だからな」

まこ「照さんと久に挟まれると見せ場がないから辛いのう……」

優希「まこ先輩、頑張るじょ!」

まこ「おう、おんしの分ぐらいは頑張らんとな。 言われっぱなしにしとくわけにもいかんしの」

904: 2015/03/15(日) 21:06:42.65 ID:PLQRGizv0

東二局 3本場


怜(おいフナQ、話が違うやん!? 前半戦はでかい手で荒っぽい点数調整をするんやないんかい!?)

煌(……いやはや、四連続直撃、自信が無くなりますね)

漫(末原先輩、話が違いますやん!? 下手するとこれ、この親番で終わりますよ?)

照「」ゴゴゴゴゴ


怜(と言っても狙いは新道寺らしいし、全部直撃やから、このまま行けばうちは二位抜け出来るんやけど……)チラッ


漫捨て牌

4m 3s 6p 6p 西


怜(姫松の先鋒は爆発すると手牌が上に偏る、ついでに相手が強ければ強いほど爆発しやすいってフナQが言ってたな……この化けもん相手なら、そろそろ来とるんやないか?)

漫(なんとか止めんと……県予選全てプラマイゼロにして終わってるのも、そう思わせてどっかで出し抜くための布石かもしれん。こいつがプラマイゼロの調整のために振り込むなんて保証はあらへん)

漫手牌

789s7788999m789p


怜(このまま行けば、一巡先が見えてて振り込みをほとんどせん私が姫松や新道寺より多く失点することはない。今うちが二位やから、確実に二位で抜けられる。けど、千里山の目標に二位はない)

打:6m

漫「ろ、ロン!! 3900は4800!」

怜(だから、なるべく少ない被害で次につなぐ。ここは差し込んででも流す)


照「……」

905: 2015/03/15(日) 21:08:01.32 ID:PLQRGizv0

久「おかしいわね」

咲「はい、あり得ません」

和「えっと……なにがですか? 照さんが本気ということを考慮すれば、姫松がリーチをかけなかったことも千里山の差し込みも不自然ではないと思いますが」

まこ「上手く差し込んで親を流したように見えたが、なにかおかしいかのう?」

京太郎「照さんにしてはあっさり終わったように見えますけど……」

優希「自分の親を流すたびに派手な真似されたらたまらないじょ……」

久「それよ須賀君」

咲「京ちゃん、いいところに目をつけたね」

京太郎「いや、言ってはみたけど、優希も言ってるが、たまにはあっさり終わってもいいだろ?」

咲「良くないよ、お姉ちゃんは全力で新道寺を削ろうとしてるんだから」

久「ここは、連荘が止まるなら照が姫松に9萬で振り込むところよ。それで稼ぐ余裕を作って更に新道寺を削る、照が本気なら必ずそうなるわ」

咲「そもそも、まだ連荘を止める局面じゃない。本気のお姉ちゃんなら、もう一回か二回和了ってから役満あたりに差し込むところだよ」

久「同感ね。何が起きてるのかしら?」

906: 2015/03/15(日) 21:09:05.58 ID:PLQRGizv0

【姫松控室】


恭子「最悪のケースは回避しましたね」

洋榎「最悪のケース? なんやそれ」

絹恵「あ、そっか、ホンマに点数を自在に調節できるとしたら、一位にこだわらなければ……」

恭子「流石やな絹ちゃん、それで正解や。新道寺には頭が上がらんわ」

由子「あ、そうか、一位を狙わなけれは昨日の第一試合みたいな点差に出来るのよー」

洋榎「第一試合って言うと…白糸台と宮守が勝った方か。確か白糸台が20万超えて、宮守が10万ぐらいで先鋒が終わったんやったな」

恭子「二校を大きく凹ませて、一校を押し上げる。それどころか、場合によってはそのまま先鋒で飛ばして終わらせる。宮永照にはそれが出来るはずや」

絹恵「準決勝や決勝に連れてく相手を自由に選べるわけですね」

由子「なんでそうしないのよー?」

恭子「新道寺の先鋒のおかげです」

洋榎「ああ、あのなんで先鋒なのかわからん奴か。アレもけったいな能力持っとるんか?」

恭子「はい、あの先鋒は……」


郁乃「絶対に飛ばない、やろ~?」


恭子「…代行」

郁乃「あの子、ほとんどの試合で失点して終わってるけど、失点が半荘でマイナス25000を超えたことが一度もなくて~、そういう能力なんやないかって~、末原ちゃんと話したんよ~」

洋榎「マイナス25000以上になるのはそうそうないやろ。偶然ちゃうか?」

恭子「地区予選で一度、東一局で花田がリーチして、二順後に親倍に振り込んだ対局がありました」

由子「それはご愁傷様なのよー」

恭子「その後、花田が得点することはなかったんですが、この半荘のその後の牌譜がおかしいんです」

絹恵「どういう風に?」

郁乃「その後、ロン和了りと全員ノーテン以外で場が進んでないんよ~」

907: 2015/03/15(日) 21:10:14.55 ID:PLQRGizv0

洋榎「それは……まあ、なくはないけど、おかしいな」

恭子「ついでに、その時の同卓者。親倍を和了った奴ですけど、福岡の個人戦三位です」

郁乃「自風牌を鳴くと風に乗って手が伸びる能力があるんやけど~、鳴いても全然和了れとらん~」

洋榎「それを先に言えや。確定やん」

絹恵「気付きにくい能力ですけど、間違いなさそうですね」

恭子「おそらく、荒川や神代への対策で先鋒に起用したんやろ。あいつらを相手にして確実に5万以上残して次鋒に繋げるのは大きい」

由子「新道寺は後半で逆転するオーダーにしてるのよー」

絹恵「公式戦の放銃率ほぼゼロの園城寺はまず振り込まない、新道寺は飛ばせない……そうなると……」

恭子「先鋒で終わらせに来た場合、狙われるのはうちや。それが最悪のケース」

郁乃「だから、手を進める時は宮永照の現物を絶対に残すように、更にリーチは厳禁って指示を出したんよ~」

恭子「宮永を最大限に警戒して振り込まんようにすれば、いくらなんでもトブまで削られることはない」

洋榎「で、振り込みをせん園城寺と警戒して守りが固いうちを諦めて、新道寺の絶対飛ばんっちゅー能力を破りに行ったけどダメだったと、そういうわけか?」

由子「能力さえ破ってしまえば地力的には一番下が新道寺の先鋒なのねー」

恭子「そうや。そして、おそらく破り損ねた。地区大会の牌譜なんかを見ると、宮永があんなにあっさり親を流されるとは思えん」

郁乃「更に、この半荘に限れば、宮永に削られたおかげで新道寺の絶対飛ばん能力が発動して園城寺の一発ツモなんかも封じられるはず~」

絹恵「うちにとっては楽な展開になりそうやな」

恭子「漫ちゃんは言いつけ守って現物も切らさんようにしてるし、リーチもかけてない。後半もこの調子で行けば……」

908: 2015/03/15(日) 21:12:25.04 ID:PLQRGizv0

照「ツモ、2300、4500」

怜「……ありがとうございました」

漫「ありがとうございました」

煌「ありがとうございました。皆様、すばらな試合運びでした」

照「……ありがとうございました」


先鋒戦終了

新道寺  82900(-17100)
清澄  109200(+ 9200)
姫松  102200(+ 2200)
千里山 105700(+ 5700)

909: 2015/03/15(日) 21:13:38.71 ID:PLQRGizv0

【白糸台高校】


憩「……ん~? 思ったより大人しい麻雀打ちますな、このひと」

菫「そうだな、監督があそこまで言うほどの打ち手には見えない」

淡「そーかな? 淡ちゃんのセンサーにはヤバそうな気配がビンビン伝わってきたけど」

誠子「一番当てにならない奴のセンサーに引っかかってもなあ……」

憩「いや、うちもヤバいとは感じてますよーぅ? ただ、ヤバいはずなのにそのヤバさが目に見えんって言うか……」

誠子「憩が言うならまあ……」

尭深「憩ちゃんが言うならそうなんだろうけど……」

淡「ぶーぶー! なんでケイが言うと態度が変わるのー!? 差別だー!」

菫「普段の言動の積み重ねだな」

淡「うー、納得いかない……」

誠子「で、どうにかなりそうなのか憩?」

憩「これは直接やってみんとなんとも言えませんわ。どれぐらい強いのか見当もつきません」

淡「ケイなら余裕でしょ! 私より強いんだし!」

尭深「そういう言動が淡ちゃんの信用を削ってるんだと思う」

菫「全くだ。お前より強い憩が『やってみないと分からん』と言っているんだから、軽々しく断定するな」

淡「ケイなら勝てるって! てゆうか、ケイが勝てない相手なんて居ないもん!」

憩「信頼されるのは嬉しいんやけど、宮永さんな、あれ淡ちゃんより強いよ?」

尭深「関西最強のエース園城寺怜、それに姫松で平均素点一位の上重さんも今回は好調でした……終わってみればその二人を抑えてのトップ」

誠子「それでいて、おそらくまだ余力を残している」

憩「あの人が本気でうちを抑えに来たとして、ちゃんと稼げるかどうか……」

淡「絶対大丈夫だって! ケイが負けるはずないじゃん!」

菫「……淡と同じで何の根拠もないが、私も憩を信じているぞ」

誠子「お前が負けたのは見たことないしな、私も信じる」

尭深「任せたよ、憩ちゃん」

憩「みんなしてホンマに無責任なんやから……ま、白糸台のエースが無様は晒せませんし、やるだけやりますわ」

910: 2015/03/15(日) 21:14:15.97 ID:PLQRGizv0

洋榎「で、次鋒はゆーこと千里山のクソ生意気なガキと安河内か」

漫「トップと三万差以内、デコの落書きは免れたで……」

郁乃「爆発したのにトップ取れないとか~、許してええの~?」

恭子「仕方ないでしょう。相手が悪すぎます」

絹恵「清澄、次鋒は大したことないはずやけど……」

恭子「由子なら大丈夫やろ、問題は……本来なら一番安心して見てられるはずの中堅やな」

洋榎「心配せんでええって、うちに任しとき!」

911: 2015/03/15(日) 21:14:43.67 ID:PLQRGizv0

怜「泉なら大丈夫やろ、問題はセーラやな」

竜華「怜が二位で帰って来たんやから、ちゃんと凌いで帰って来んと怒るで?」

セーラ「トップで帰って来たるわ。任しとけ!」

浩子「あ、それは期待してないんで大丈夫です」

セーラ「おい!?」

雅恵「あれは相当な化け物や、無理はするな」

セーラ「監督まで……」

912: 2015/03/15(日) 21:15:14.68 ID:PLQRGizv0

煌「申し訳ありません、一人沈みで……」

哩「よか、花田の仕事は5万点持って美子に繋ぐことばい」

姫子「そしたら、先輩たちと私らで何とでもすっと」

仁美「それが八万残して帰って来ちゅー、大戦果やね」

煌「ありがとうございます」

哩「後は私らが引き受けた。準決でもこの調子で頼む」

煌「……はいっ!」

913: 2015/03/15(日) 21:16:07.64 ID:PLQRGizv0

起家 泉「よろしくお願いします」

南家 美子「よろしく」

西家 まこ「よろしく」

北家 由子「よろしくなのよー」

914: 2015/03/15(日) 21:16:47.61 ID:PLQRGizv0

東一局


まこ「……長野のレベルが落ちとるだけ、じゃったか? あの場ではあいつらに気圧されたが、わしだってそれなりに頭に来とるんじゃ」

由子「のよー?」

まこ(うちのレギュラーで一番弱いのは間違いなくわしじゃ。なら、そのわしが、名門中の名門の次鋒三人をボッコボコにしたら、ふざけた評価も変わるかのう)

まこ配牌

12s3赤5899m69p西西白白

まこ(まあまあの配牌じゃ。挨拶代りにでかいのぶちかましちゃる)

915: 2015/03/15(日) 21:17:37.21 ID:PLQRGizv0

【数巡後】


泉(この面子だと変な打ち方する奴が居ないから、純粋な地力の勝負やって船久保先輩が言っとったな)

由子(一年には負けられないのよー)

美子(……)

まこ「ツモ! 3000・6000!」


34赤567899m白白白西西 ツモ:西 


由子(って、清澄!? 『唯一の穴』じゃなかったのー?)

泉(……船久保先輩、次鋒は他と比べたらパッとせんとか言いましたよね?)

美子(リーチせんってことは、一通まで狙っとったってことやね。思ったよかやりよるかもしれん)

泉(つーか親かぶりやん……出鼻くじかれてもうたな)

916: 2015/03/15(日) 21:19:17.31 ID:PLQRGizv0

東二局


由子(生牌だけど、いらないから切るのよー)

打:東

美子(……)

美子手牌

23344赤56777p東東

美子(清澄の次鋒が本物かどうか……一局で判断するのは早か、けど、悠長にしてたらチャンスが無くなりよる。巡目的にも面前で聴牌出来るか怪しかとこやし、ここは行く)

美子「ポン!」

打:3p

まこ(おっと、この顔はいかんの……この辺か?)

打:発

泉「ポン!」

泉手牌

1233s34567m西西 ポン:発発発

打:3s

美子(…6索、無駄ヅモばい)

打:6s

まこ(さて、この辺じゃろうな)

打:2m

泉「ロン! 発のみ、1000点です!」

美子(……鳴かせて差し込み。こいは、流されたんかね?)

917: 2015/03/15(日) 21:20:05.27 ID:PLQRGizv0

照「好調だね」

和「なにを根拠に読んでいるのか分かりませんが、差し込みや鳴かせるタイミングが絶好ですね」

照「運が味方すれば和了るし、そうじゃない時でも上手く被害を抑えて凌ぐ。染谷さんは安定して強い」

久「当然よ。ツモを偏らせたり、初心者だったり、ルールが違ったり、異常な豪運だったり、そういうイレギュラーが無ければまこに勝てる人なんてそうそういないわ」

咲「新道寺が打ち方を色々変えて抵抗してますね」

久「無駄よ。まこは河を表情として認識し、膨大な記憶の中から対応を引き出して自分に有利な展開にするんだもの」

照「打ち方が変わっても、それが染谷さんの記憶にあるパターンに一致すれば、染谷さんの有利は揺るがない」

咲「私やお姉ちゃんみたいに相手の打ち方を把握して対応してるわけじゃなくて、あくまで場の状況に対応してるんだっけ?」

久「そうよ、だから、色んな打ち方をしてみたところで、それが一般的な打ち方、状況の範疇ならまこの記憶の範疇に収まる」

照「この次鋒戦の面子は、染谷さんに対抗する手段を持ってない。よほどの不運が続かない限り、染谷さんはトップで帰って来るはず」


京太郎「……なあ、この部、実は俺めちゃくちゃ場違いじゃねえか?」

優希「……否定してやりたいが、残念ながら染谷先輩も大概だじょ」

京太郎「お前も、東場だけだったら相当な化け物だったよな?」

優希「それも否定できないけど、あそこの三人とは一緒にしないでほしいじぇ」

京太郎「俺に安住の地はないのか……」

918: 2015/03/15(日) 21:20:31.88 ID:PLQRGizv0


次鋒戦終了

新道寺  78900(- 4000)
清澄  127900(+18700)
姫松   96300(- 5900)
千里山  96900(- 8800)


まこ「お疲れさん」

由子「一人浮きにさせちゃったのよー、お疲れ様なのー」

泉「(差し込みっぽい和了り以外なんもしとらん、清澄にいいように使われてもうたかも)……お疲れ様でした」

美子「お疲れ様でした」

949: 2015/03/22(日) 20:25:57.82 ID:PY1fshm80
 

恒子「さあさあ! 最高のカードとなりました二回戦第三試合! 次は大注目の中堅戦だー!!」

健夜「江口選手、愛宕選手、竹井選手はいずれもチームの柱と言える選手です。また、一回戦の獲得点数は三人合わせて二十万点をゆうに超えています。この中堅戦は、今大会の全対局の中でも屈指の好カードですね」

恒子「更に更に、新道寺の江崎仁美も九州屈指の高火力プレイヤー! ド派手な大技の応酬が期待できるぞ――!!」

健夜「竹井さんは高火力という印象はないから、大技の応酬はちょっと見られないかも……」

恒子「へ? 一回戦で15万点稼いでなかった?」

健夜「そうなんだけど、大きな和了りはほとんどないんだよ。一番高いのが八本場で親ッパネを和了った最後の20400」

恒子「十分高いっしょ!?」

健夜「高いと言えば高いけど、やっぱりコツコツ小さな和了りを重ねてくイメージが強いかな」

恒子「それで15万稼ぐとかマジで?」

健夜「う、うん……満貫でも10回和了れば8万点だから……親なら12万点」

恒子「はい、サラッと満貫を安手と言ってくれた小鍛治プロの傲慢さを皆さんの心に刻んだところで、行ってみようか、選手紹介だああああああ!!!!」

健夜「悪質な印象操作っ!? って、ホントに始めたし!」

950: 2015/03/22(日) 20:26:56.27 ID:PY1fshm80

『まずはこの人! 南大阪代表姫松高校の伝統のエースポジションを務めます、愛宕洋榎ええええ!!!』

『攻守ともにバランスよく、場の状況に応じて柔軟な対応が出来る選手です。よほどのことがなければ大きく崩れることはないでしょう』


絹恵「小鍛治プロのべた褒めとか珍しいな。さっすがお姉ちゃん」

恭子「また調子に乗るから、これは聞かせられんな」

由子「なのよー」

漫「それより、恒子ちゃんが姫松のエースポジションが中堅やって知ってたことが驚きですわ」

恭子「一回戦の時に『あんなデコがエースのわけないやろ、姫松のエースは中堅や』って苦情が殺到したらしいで」

漫「……マジですか?」

郁乃「確かに苦情は入れたけど~、そこまでは言っとらんよ~?」

恭子「……え?」

郁乃「でもでも~、苦情の電話したの解散した後なのに~、末原ちゃんはなんで知っとるん~? うちの後を尾行してたり~?」

恭子「あの……冗談やったんですけど……」

郁乃「……へ?」

漫「」ホッ

由子「代行、まさか……?」

郁乃「……う、うちも冗談やで~、ほら~、緊張した空気を解そうと思って~」

絹恵(いや、マジで苦情入れたやろこの人)

恭子(触れたらアカン、絹ちゃん)

951: 2015/03/22(日) 20:27:50.68 ID:PY1fshm80

『続いてはこちら、関西を代表するもう一つの名門千里山で、昨年度はエースを務めました! 江口セーラ選手です!』

『千里山はエースをセオリー通り先鋒に置きますから、この対戦が団体戦で実現する可能性は低かったのですが。関西を代表する二校の両エースの激突、注目のカードです』


怜「せやなあ……なんでセーラが中堅なんやろ?」

泉「いやいや、100%園城寺先輩のせいですって」

竜華「本人も中堅って聞いたとき嬉しそうやったしな。一番熱心に怜を先鋒に推してたのセーラやし」

浩子「中学時代からの因縁ですからね。流石にそれだけじゃないでしょうけど」

雅恵「ま、あいつらなら大丈夫やろ。あの二人でどうにもならんかったら誰出しても止められん」

泉「あ、監督」

怜「お疲れ様です~」

雅恵「園城寺、体調は?」

怜「見ての通りですわ~」ゴロゴロ

雅恵「清水谷に膝枕されてる状態で『見ての通り』って言われてもな」

浩子「いつものことですわ」

怜「監督もフナQも堅物やな、もっとビシッと突っ込んでくれんと」

泉「てゆうかシャンとしてくださいよ、監督も居るんですし」

竜華「せやな、怜、起きよか」

怜「ん~……もうちょいこのままで」ゴロン

雅恵「こいつは……まあ、構わん。あれと打った後だから、多少は大目にみよう」

怜「おおきに~」

952: 2015/03/22(日) 20:28:45.77 ID:PY1fshm80

『大注目のシード校 新道寺女子からは県内屈指の面前派、江崎仁美が登場だあああ!!』

『白水選手や鶴田選手に埋もれがちですが、面前の高火力麻雀を得意としていて守備面も優れています。名門新道寺の中堅として相応しい実力の持ち主ですね』


煌「すばらっ! 良くわかっていらっしゃる!」

哩「まあ、ダメなときはとことんダメやけん、期待しすぎっと馬鹿見るがな」

美子「仁美ちゃん、鳴かんのじゃなく鳴けんのよね。不器用で」

姫子「龍門渕の井上の牌譜ば、すっごく嫌そうに見ちょりましたね」

哩「鳴かれると弱かとこがあっけど、格下相手ならそれでも地力でねじ伏せよる」

美子「この面子だとそれは厳しか。けど……」

煌「そもそも鳴きを多用する面子ではないですからね」

哩「実力的にも、仁美ばマークして普段せんような鳴きを入れるっちゅーことはないやろ。そこそこやれるはず」

美子「ここさえ凌げば……」

姫子「次は部長ばい、どうにでもなっとね」

953: 2015/03/22(日) 20:30:01.82 ID:PY1fshm80

『そして、今大会のダークホース 清澄からは一回戦で15万点を稼いで試合を終わらせた注目の選手が登場だあああ!!』

『……なぜこの選手が個人で出てくることなく三年目を迎えているのか分かりません。今すぐプロで打っても十分に通用する実力があります』

『てことは、小鍛冶プロとも勝負になる?』

『それはやってみないと……でも、この卓は彼女をどう抑えるかの勝負になると思うよ』


咲「……」

和「……」

照「……」


京太郎「え、なにこの沈黙?」

まこ「わしに聞くな」

優希「三人とも、どうしたんだじょ?」


咲「今回ばかりは、出番がないと嫌だなって」

和「咲さんに繋がなければいけない関係で、部長が稼ぎ過ぎると私が稼げないなと思いまして」

照「また飛ばして勝ったとして、竹井さんがインタビューとか受けると私が無駄に持ち上げられるから不安」

咲照和「「「だから、今回は勝たれると困る(ります)」」」


京太郎「応援する気が全くないだと……」

まこ「こいつらは……勝つことを心配するとかわけがわからんわい」

優希「負ける心配を一切してないじぇ」

954: 2015/03/22(日) 20:30:32.30 ID:PY1fshm80

起家 久「真打は後から登場するってね」

南家 仁美「この面子相手に真打か、いい度胸やね」

西家 洋榎「言っとけ、目にもの見したる」 

北家 セーラ「ま、口だけじゃないのは見してもらったからな。今度はこっちが教えたるわ」

955: 2015/03/22(日) 20:32:10.83 ID:PY1fshm80

東一局

仁美(さて、早上がりが持ち味の竹井と、高火力の江口、バランスよく柔軟な対応をする愛宕……どうなっかね?)

セーラ(鳴かんとはいえ、一回戦とかを見る限り、こいつのスピードは化け物じみとったしなあ。配牌もいまいちやし、東一局は様子見や)

洋榎(とりあえず普通に打って、お手並み拝見やな。なんとなくやけど行ける気がすんねん)

久「……」

135s245567p36m東東東

打:5s

仁美(いきなりど真ん中……妙なことしとるね)

956: 2015/03/22(日) 20:39:10.14 ID:PY1fshm80

咲「なるほど」

照「まあ、そうなるか」

和「あの、さっぱりわからないのですが?」

まこ「同じく」

京太郎「親でダブ東もあるんだから打点も十分だし、無理してまで染めたりする必要もないだろ? 何が狙いなんだ?」

咲「多分だけど、様子見。安牌候補を確保するために危険牌になりやすい真ん中から捨ててるんだね。和了る気はほとんどないんじゃないかな?」

和「それは、何のために?」

照「原村さんと咲に出番を回すため」

咲「ここで出番が無かったらこの後の士気に関わるからね。部長自身は抑え気味に行く気じゃないかな」

京太郎「ああ、なるほど」

957: 2015/03/22(日) 20:41:18.74 ID:PY1fshm80

洋榎(うーん……清澄が妙なことやってるみたいやけど、張ってもうた)


洋榎手牌

23456m345p赤55689s ツモ:7s


洋榎(ピンフ赤1の三面張、4ー7萬ならタンヤオもつく。この手でリーチせん理由はないわな。覚悟決めて行くしかないやろ)

洋榎「なんかやっとるみたいやけど、そんなこけおどしが通じる相手と思ってもらっちゃ困るわ。こちとら天下の愛宕洋榎様や」

セーラ「お? リーチか? リーチやな? 絶対リーチするわこいつ」

洋榎「うっさいわ! お察しの通りリーチや!」

打:9s

仁美(さて、これで清澄がどう動くか……)

セーラ(さて、流石にオリとくか。現物)

打:北

久「……」

打:東

仁美(あれは配牌から持ってた牌やけん、オリよったかね? 何考えとーと清澄は?)

打:1p

洋榎「一発ツモ……ならずや!」

打:5s

958: 2015/03/22(日) 20:42:50.54 ID:PY1fshm80

恭子「主将の無茶が良い方に転がりましたね。三人ともオリましたし、あの待ちなら和了るでしょう」

由子「清澄は何してるのー?」

恭子「様子見やろな、天江とか荒川とかもそうやけど、ああいう化け物は様子見をすることが多い。一回戦は東一局から和了りまくっとったけど、流石に主将や江口相手には力押しはして来んらしい」

絹恵「流石お姉ちゃんやな」

漫「あ、ツモりました。2000・4000ですね」

恭子「化け物が様子見してる間に稼ぐ、基本やな。最悪、二回戦は二位でもええんや。千里山と新道寺相手に10000点の違いは大きい」

959: 2015/03/22(日) 20:44:01.88 ID:PY1fshm80

東二局


仁美(さて、親でこの配牌……どうすっと?)


仁美手牌

1469p258s11566m西

仁美(正真正銘、まごうことなきクソ配牌やね。哩なら縛らんで諦める、和了らるっ気のせん配牌)

仁美(親やけど店じまいやね。安牌抱えて七対子でも狙いながら、危ないと感じたら即オリ)

960: 2015/03/22(日) 20:46:05.24 ID:PY1fshm80

煌「これはすばらくない……」

哩「まあ、来てしまった配牌は仕方なか。半荘は最低でも八局あっから、腐らず打てばチャンスは来るはずばい」

美子「……やったらいいけど」

姫子「先輩?」

美子「いや、なんでもなかよ。そんなはずなか」

哩「……プロを呼んで打った時の私らと同じ、か?」

煌「部長も、飛ばされたんでしたっけ?」

哩「ああ、どうしようもなかった」

姫子「あたしも……」

煌「差支えなければ、どういうことなのか教えて頂けると助かります」

哩「花田はプロ相手でもトバんかった、これは、とんでもなかことなんよ」

姫子「監督がプロの中でも上位の面子を呼びよったからね」

煌「えっと……?」

美子「プロでも上位の打ち手、その豪運は常識はずれやった」

哩「それが三人集まると、残り一人にしわ寄せがくるんよ。絶対和了れないような不運が押し寄せて来よる」

姫子「今、江崎先輩に来たみたいな配牌しかこんようになる。ツモもバラバラ。あの卓ではプロしか和了れんようになっとった」

煌「それは……私の時はそんなことはなかったと思うのですが……」

哩「やけん、花田をレギュラーに抜擢したんよ。あれを相手にトバずに打ち切れる花田なら、荒川だって抑えられるっちゅーてな」

煌「ま、待って下さい!? だとすると、いまのあの卓は……」

美子「勘違いやって。プロ相手ならいざ知らず、同じ高校生相手でそんなはずなか!」

961: 2015/03/22(日) 20:46:57.96 ID:PY1fshm80

『ツモ! 2000・4000!』


怜「さっすがセーラやな。しかし、清澄がまた様子見しとったけど……」

竜華「随分長い様子見やな? 狙いはなんやフナQ?」

浩子「なんでうちに聞くんですか? 流石にまだわかりませんって」

泉「いや、船久保先輩なら『おそらくやけど……』とか言いながら答えてくれそうですし」

怜「せやな」

浩子「『せやな』やあらへん! どんだけ便利な参謀やねんうちは!?」

怜「でも、なんかあるんやろ?」

浩子「……おそらくやけど、先鋒や次鋒の打ち方から、清澄は実力を誇示しようとしてるんやないかと思われます」

竜華「それはまたなんで?」

浩子「理由は不明ですが、推測の根拠はあります。長野予選の宮永照のロン和了りの確率、一桁台なんですわ。面子にもよりますが、通常は和了全体の4~7割はロン和了りになりますから、これは異常です」

怜「ふむふむ……でも、普通にロンしとったな。新道寺から」

浩子「普通なら、狙うにしても園城寺先輩です。園城寺先輩は一巡先が見えますが、振り込みを予期して手を変えるとおよそ二巡の間、先が見えなくなります」

怜「せやな」

浩子「宮永照なら、その二巡の隙をついて園城寺先輩を徹底的に削ることは可能やったと思われます。けど、実際には新道寺を狙った」

雅恵「一応三校で一番格上の新道寺を直撃し続ける……あいつは最終的にプラマイゼロにしか出来んから、実力を誇示するなら強者を叩くしかないと、そういうことか」

浩子「はい。まあ、宮永がそうしたのは他の理由かもしれませんけど、ひとまずそれが実力を誇示するためにやったことだと仮定します」

962: 2015/03/22(日) 20:48:21.34 ID:PY1fshm80

怜「いよいよ本題やな」

浩子「実力を誇示するつもりなら、うちと姫松はまだしも、新道寺には大将に出てきてもらわんといかんわけです」

竜華「あ、そっか……」

雅恵「地区大会獲得点数二十万点超え……全国区の怪物の一人、鶴田姫子」

浩子「これを、宮永妹をぶつけて叩き潰す気でいる。うちはそう推測します」

泉「そのために、手を抜いているってことですか?」

怜「でも、うちと姫松だって中堅はエースが出とるやん?」

浩子「……長い様子見をしても、勝つことは出来るってことでしょう」

泉「は?」

浩子「手加減してほどほどに勝つ。本気でやったら鶴田の出番が来ない。そういうことです」

雅恵「ホンマに舐めくさりおってからに……江口! そこや! 叩き潰せ!」

怜「お、話し込んでる間に南入しとるな」

竜華「東三局と四局はセーラと洋榎さんが跳満ツモを被せあって、竹井と江崎は焼き鳥……一騎打ちって感じやな」

963: 2015/03/22(日) 20:50:40.10 ID:PY1fshm80

南一局


久「……焼き鳥じゃ、流石にカッコつかないわよね」

洋榎「」ピク

セーラ「……」

仁美(さっきから配牌もツモも全然ばい。これはあれやね、プロとやった時のアレ……こうなると、後のことは哩と姫子に任せて、私は振り込みを避けて凌ぐしかなか)

久「リーチ」

打:8m

洋榎(……三巡目でリーチかい。早すぎやろ)

セーラ(おいおい、化けもんが……せっかく洋榎との勝負が盛り上がってきたとこなんやからもう少し空気読めや)

964: 2015/03/22(日) 20:51:34.94 ID:PY1fshm80

照「満貫の親かぶりが一回と、満貫ツモが一回、跳満ツモが二回……マイナス12000」

和「全部ツモですか……固い面子ですね」

まこ「そりゃのう。大阪の去年の二大エースと新道寺のレギュラーじゃ、そうそう直撃なんかとれやせん」

咲「しかし、あの手であのリーチかあ……」

照「非常に竹井さんらしい」

咲「和了るのは間違いないとして、誰か振り込むかな?」

京太郎「……俺があそこなら一発目で振り込む自信がある」

優希「同じく、てゆうかどっちでも切るじょ」

照「ああ、確かに手牌見た限りだと出そう」

965: 2015/03/22(日) 20:52:25.64 ID:PY1fshm80

洋榎手牌

345s346p2345m北北西 ツモ:北


洋榎(……)

打:6p

久「あら、強いわね」

洋榎「こういう時はな、自分の勘を信じるんや。通るもんは通る」

久「まあ、通るんだけど。へえ……なるほどね」


セーラ手牌

2246s3344p3赤57m南南西 ツモ:5s


セーラ(いや、こんなん西しか切るもんないやろ?……と言いたいけど、嫌な予感がするなあ……場風の対子やから勿体ないけど、リーチもかかってるから安全第一や)

打:南


久「……あなたも固いわねえ」

セーラ「当たり前や。振ったらその局では和了れんやろ、俺は高い手和了るのが好きやねん」

久「和了る、じゃなくて、高い手を和了るのが好きなのね……贅沢だこと」

久「…っと、ツモだわ。直撃取れると思ったんだけどね」パタン


345678m東東東白白白西 ツモ:西


久「リーチ一発ツモ・混一色・東・白。8000オール」

966: 2015/03/22(日) 20:53:03.64 ID:PY1fshm80

照「実に竹井さんらしい和了り」

咲「なんで三面張を単騎にするかなあ……部長だから当たり前だけど」

和「照さん、嬉しそうですね」

照「無理に私に張り合って早和了りするより、あの方が竹井さんらしい」

咲「個人的には早和了がりする方が安心して見てられるんだけど……」

和「どうでもいいですが、出番を残してもらわないと」

まこ「珍しく攻撃的じゃのう」

和「……私だって怒ることはあります」

優希「お弁当をつまみ食いされても怒らないのどちゃんがここまで怒るなんて……」

京太郎「お前の怒りの琴線は食い物だけなのか……」

優希「うむ」

京太郎「『うむ』、じゃねえよ!?」

967: 2015/03/22(日) 20:54:03.34 ID:PY1fshm80

『おーい、すこやん?』

『なに、こーこちゃん?』

『ここまで竹井さん全然目立たなかった上に、東一局からここまで派手な和了りのオンパレードなんだけど?』

『うっ……そ、そういうこともあるんじゃないかな?』

『じとー……』

『……ごめんなさい』

『で、ここからの展開は?』

『うーん……相変わらず竹井さんの動きが鍵だと思うんだけど、何考えてるかわからないからちょっと読めないかな』

『と言いますと?』

『そうですね、おそらくここまでは様子見だったと思うのですが、事前に牌譜なども見ているはずなので、16局しかないうちの4局を様子見に費やすというのは不自然です。
  なんらかの意図があるはずですが、それがなんなのか? この中堅戦で効果が出ることなのか、大将までの試合全体を見通したものなのか、あるいは大会全体を見たものか……』

『うーん……よくわからん!! こっからド派手な大技とか、果てしなく続く連荘地獄とかそういうのはないの!?』

『出来ない選手ではないと思うけど……また様子見に戻ったみたいだし、江口選手と愛宕選手の実力は拮抗してるから連荘地獄はないかな』

『ド派手な大技は!?』

『竹井さんが動かないなら、ビハインドを背負った面前派三人で派手な手の応酬になる可能性はあるかも……』

『おっしゃあああああ! 聞いたかテレビの前のみんなー! ド派手な応酬が期待できるぞ――!!』

『早速、江口選手が雀頭の2筒を落として萬子に染めましたね。呼応するように愛宕選手も萬子の面子を崩して索子の清一色を目指しています』

『ここにきて大阪の両雄の大物手が激突!! さあ、和了りを掴むのはどっちだー―!!?』

968: 2015/03/22(日) 20:55:10.04 ID:PY1fshm80

純「……なんで様子見なんかしてんのかね、竹井さんは?」

透華「新道寺の鶴田を咲に叩き潰させてチーム全体が目立つために決まってますわ!!」

一「目立つためかはともかく、原村さんと咲ちゃんに出番を与えておくつもりなんじゃないかな? 出番ないまま決勝ってのも良くないだろうし」

智紀「二人とも、精神的に安定しているとはいえ一年生。 場慣れさせないとイレギュラーが起きることも考えられる」

ゆみ「しかし、新道寺の手牌がさっきから酷いな……」

純「ああ、そりゃ、あの卓じゃしょうがねえだろ」

睦月「うむ?」

純「卓上で、三人がツイてたら、残り一人はどうなる?」

ゆみ「……まさか。そんなことが起きるのか?」

純「常識的には起きねえんだけどな。自分の手が酷くなるんじゃなく、せいぜい相手に常に先を越される感じになる」

一「じゃあ、あれは?」

純「新道寺も新道寺で運が太いんだよ。けど、周りの三人が強すぎる。だからああなる」

ゆみ「……なるほど、半ヅキよりまし、ということか」

純「ああ。半端に勝負できる手が来て勝てない勝負をして振り込むより、バラバラの手が来て話にもならないでオリてる方が安全だ」

智美「けど、ここまで全部ツモだぞー? 運が良いのにそうなるのかー?」

純「ああ、全部ツモだな。けど、全部振り込むよりマシだろ? あの三人相手じゃ『ツモで済んだ』と思わなきゃいけねえ」

透華「純の言っていることが正しいとして、竹井さんは分かりますが、あの二人もそこまでの強者ですの?」

純「少なくとも、今のあいつらは乗りに乗ってる感じだな」

ゆみ「あの二人はライバルという話だ、この大舞台でお互いを意識して普段以上の力を出しているのかもしれないな」

969: 2015/03/22(日) 20:57:57.67 ID:PY1fshm80

洋榎「さて、リーチや」


洋榎手牌

123444567799s4m ツモ:9s

打:4m


セーラ「随分待たせるやん。こっちはとっくに張っとるで? お、来た来た、俺もリーチや」


セーラ手牌

2345678m北北北南南南 ツモ:9m

打:北


久「……」

打:白

仁美(蚊帳の外ばい……しかし、どうしようもなか。幸い、安牌だけはいくらでもあるったい)

打:1p


洋榎「さて、そろそろケリつけようか、セーラ」

セーラ「ああ、さっさとツモって振り込めや、洋榎」

洋榎「うちの振り込みなんか待たんで自力でツモらんかい」

セーラ「席順考えろや。そっから海底まで俺の和了り牌しか山に残ってないんやで? どう考えてもお前が俺のアタリ牌ツモって切るのが先やん」

洋榎「うちの和了り牌どこにあんねん!? てゆうか何面待ちやねんそれ!?」

セーラ「知らんのか? 現物以外は全て和了り牌……単騎の江口とは俺のことや」

洋榎「くっ……お前があの……って、誰やねんおまえ!? 全国大会でサマ使うなや!」


久「いいからさっさとツモりなさい、これ全国放送なのよ?」


セーラ「だからテレビ映えするように決め台詞の応酬をやな……」

洋榎「なあ?」

仁美「こっちに振らんでくれるか? さっさとツモれ」

洋榎「はいはい……残念、ツモれずや」

打:6m

セーラ「……残念、こっちも一発ならずや」

打:2s

970: 2015/03/22(日) 20:58:26.97 ID:PY1fshm80

怜「セーラ、頑張れ……」

竜華「セーラ……」

浩子「先輩……」

雅恵(……監督ってのは難儀やな、江口の応援せなアカンのやけど、どうしてもな)

泉「先輩、お願いします……勝って下さい……」

971: 2015/03/22(日) 20:58:58.17 ID:PY1fshm80

郁乃「熱いめくり合いやな~」

漫「主将……」

恭子「洋榎なら大丈夫や、うちは信じとる」

由子「洋榎が負けるはずないのよ~」

絹恵「お姉ちゃんはここ一番では絶対勝つんで、ここは勝ってくれます」

郁乃「とか言いながら~、三人とも手汗びっしょりやで~?」

漫「代行……流石に野暮ですよ」

972: 2015/03/22(日) 20:59:32.59 ID:PY1fshm80



『ツモ。4100・8100』



973: 2015/03/22(日) 21:00:09.49 ID:PY1fshm80

久「……失礼」

次ツモ:1m

セーラ「……その牌が何かは知らんけど、俺に見せんでくれよ」

久「そこまで野暮じゃないわよ」

洋榎「見んでも分かるわ、席順の差以上の差はうちらにはない。こいつはうちのライバルやからな。せやろ?」

久「さあ? 知りたくないとの本人の希望だから、答えられないわね」

セーラ「……次いくで。まだ10局以上残ってるんやからな」

洋榎「ああ、ちゃんとついてこいや」

セーラ「誰に言うてんねん? 置いてかれるのはお前やろ?」

974: 2015/03/22(日) 21:01:16.05 ID:PY1fshm80

咲「軽口は叩いてるけど、多分、理解してるよね」

照「……流れ、だね」

和「今の和了りが、分かれ目ですか?」

咲「衣ちゃんみたいに倍満くらいならいつでも和了れるっていうなら、これぐらいじゃ決まらないだろうけど……」

照「天江さん二人の勝負なら、このまま倍満を返して、次は三倍満になって、分かれ目は役満だろうね」

まこ「まあ、普通は倍満より上はまず出んからの。ここが分かれ目か」

京太郎「てことは……」

咲「一方的な展開にはならないだろうけど、次の江口さんの和了りは良くて跳満、多分満貫。対して愛宕さんは跳満に対しては倍満、満貫には跳満を返すっていう感じで差がついていくと思うよ」

照「あの二人だけの勝負なら、多分そうなる」

優希「あれが分かれ目なのはなんとなくわかるじぇ……」

咲「四人で打つゲームで、あの二人の勝負だけを見れば、だけどね」

照「そう。ただし、普通ならあの二人の勝負に割って入るのは無理。事実、新道寺の江崎さんはあんな感じだし」

和「また酷い配牌……」

まこ「じゃが、あそこには部長がおるからの」

咲「今動くのか、後半戦からか……」

照「後半からじゃないかな? なんとなくだけどそんな気がする」

975: 2015/03/22(日) 21:02:15.03 ID:PY1fshm80

『前半戦終了―――!! 9回の和了りが全て満貫以上のツモ!! ド派手な大技の応酬になりました!!!』

『親番で和了ったのが竹井選手だけでしたね。予想に反して、竹井選手が一度しか和了らず、小さな和了りを刻むと思われた竹井選手の和了りが一番大きな和了りになりました』

『大物手が飛び交う展開でしたが、特に圧巻だったのは南一局一本場の倍満手のめくり合い! 制したのは大阪の南の雄、姫松高校 愛宕洋榎選手でした!!』

『あそこを制したのは大きいですね。その後も江口選手が跳満と満貫で倍満に利子をつけて返したところに、愛宕選手が再び倍満、と大物手が続きました』



中堅戦前半終了

新道寺  42800(-36100)
清澄  122800(- 5100)
姫松  126600(+30300)
千里山 107800(+10900)

976: 2015/03/22(日) 21:04:01.05 ID:PY1fshm80

洋榎「おいこら! 誰も迎えに来ーへんのかい!?」

恭子「あ、お疲れ様です」

絹恵「いやー、臨海強いわー」

漫「有珠山、大分凹んでますけどこれトビませんかね?」

郁乃「まだ6万あるから大丈夫やろ~、エースは大将やし~、むしろ二位抜け候補やん~?」

由子「なのよー」

洋榎「うちの試合を見てすらおらんやと!?」

恭子「で、いくら点棒取られました?」

漫「うちより取られてたら罰ゲームらしいですよ」

洋榎「漫は今回プラスやったやろ!?」

絹恵「で、もっかい聞くけど、どんだけ負けたんお姉ちゃん?」

洋榎「負けてへん! ちゃんと勝ったわ!」

由子「二位でも三位でもプラスなら勝ちって……洋榎も落ちたのよー」

洋榎「プラス三万のぶっちぎりトップやっちゅーねん!!」

郁乃「あのな、洋榎ちゃん。嘘つきは泥棒の始まりやで?」

洋榎「いつも語尾伸ばすのにいきなり普通に喋んなや!? なに『叱るときはきちんと叱る』みたいな雰囲気だしとんねん!?」

恭子「ま、何はともあれお疲れ様でした。後半もなんとか耐えてください」

洋榎「恭子めっちゃ冷たない!?」

絹恵「不出来な姉の不始末は、うちがきっちりカタつけますんで……」

由子「まあ、絹ちゃんがそう言うなら……」

洋榎「おいこらそこ!!」

漫「やっぱり、伝統を破って先鋒にエースを据えて正解でしたね監督」

郁乃「そうやで~、漫ちゃんが稼いでくれてなかったら~、ここでトンどった~」

洋榎「さっきと言ってることちゃうやん!? もうええわ!」

977: 2015/03/22(日) 21:05:02.81 ID:PY1fshm80

恭子「では、改めて……お疲れ様でした。江口との競り合いを制しての大トップ、流石です」

洋榎「どんなもんや!」

絹恵「流石おねーちゃんや!」

恭子「ただ、分かってると思いますが……清澄が手を抜いてました」

洋榎「南一局で大技決めたあと、またダンマリ決めこんどったな。あれは何のつもりなんや?」

恭子「わかりません、トップまですんなり譲ってくれたというのは不気味ですわ」

由子「あの和了りもそうだし、他の局も早上がりを目指してれば和了れてたのよー。調子が悪いってわけでもなさそうよー」

漫「ホンマに何考えとるんですかね……」

郁乃「……」

洋榎「ま、この状況からならあいつが何しても振り込まんかったら二位は確実や。わからんこと考えてもしゃーない」

恭子「ですね。後半もお願いします」

洋榎「任しとけ! 断トツ作って来たる!」

978: 2015/03/22(日) 21:06:57.15 ID:PY1fshm80
次スレ立てました
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」2【前編】

本日分はここまでです。次回も一週間後を予定しています。

979: 2015/03/22(日) 21:07:45.06 ID:vHOV1/dlo
乙です

980: 2015/03/22(日) 21:16:40.42 ID:CodEHFUAO
乙!

引用: 【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」