504: ◆jBL8Qe1.Ns 2015/09/09(水) 09:06:21.14 ID:C6R/mtmv0

507: 2015/09/09(水) 16:57:40.38 ID:C6R/mtmv0

怜(相手の能力や打ち方を『視る』、小走さんから仕込まれた打ち方に対応した私の新たな能力……)

怜(進化したら前の能力は消えるのかとも思ったけど、使い分けは可能で、切り替えれば今まで通りの一巡先を視る力も使える。ちなみに、切り替えは一局ごとや。配牌もらうまでに能力見抜いて、打つ時は一巡先を視るっちゅう便利な使い方は、今のところ出来そうにない)

怜(この能力で視えるもんは多岐に渡る。能力の詳細はもちろん、打ち方のクセ、その時点で何を狙っとるかなんてのも視える。状況に応じて狙いを変えるっちゅうのはよくあるから、毎局こっちを使うのもアリや。フナQみたいな策士タイプが相手やと一巡先が視えるよりこっちの方が心強いやろな)

怜(……ただなあ、私が努力して開眼したこれとほぼ同等の能力をデフォで使えるっちゅう桁違いの化けもんが目の前におってなあ……生きるんて辛いなあ……)

怜(ま、ぼやいてもしゃーないから、出来ることをするんやけど)

怜(……私には視えとる、荒川の目的も、宮永さんの能力も、神代の能力も。この場の誰よりも正確にこの場の状況を把握しとるし、把握した状況を最大限生かす技術も、今の私にはある)

怜(その中で最大の鍵は宮永さん。今の彼女は、プラマイゼロ……とは言い難いが、30000点前後でしか半荘を終われん制約がある。その制約の中で、今回はトップを狙っとる)

怜(これは、私にとって都合がいい。こいつら相手にまともに打ったら何万差をつけられるか分かったもんやないけど、この状況なら宮永さんと共闘が出来る)

怜(なにせ、その制約の中で宮永さんがトップに立つなら、上三人を同点にしての同着トップで点数も上限一杯の30500だとしても、最下位は8500は残るんやからな。まともに打ったら10万差になりかねんところが絶対に22000差以内に収まるんや、明らかに弱い立場の私はそれに乗るべきや)

怜(宮永さんとしても、神代を相手に使える駒無しで真っ向勝負は厳しいから、私を使いたい。利害は完全に一致しとる)


怜(そして、荒川……こいつの目的は宮永さんのプラマイゼロを崩すことや。なんでそんなことしたいのかまでは視えんけど、目的はそれで間違いない)

怜(ただ、宮永さんは荒川の目的を知らない。私は、情報の差を生かして二人の思惑を利用しながら自分に有利なように立ち回る)

怜(目標はトップではなく、実現可能な最善の結果。勝てん相手には勝てん、せやからもっとも逆転しやすい形で次につなぐ)

怜(私を利用して先鋒で勝負を終わらせるためだろうと、トップを取るためだろうと、それで自分が有利になるならいくらでも思惑に乗ったる)

怜(せやから、頼むで? あんたの力は準決勝で嫌というほど思い知らされたからな、私はあんたを誰よりも高く買っとるんや)
咲-Saki- 24巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
508: 2015/09/09(水) 16:58:17.70 ID:C6R/mtmv0

怜手牌

34赤5p356778s白白東東


照「……」

打:白


怜「ポン」

ポン:白白白 


怜(私が鳴けば、それだけ宮永さんのツモは増えるし、私も手が進む。この席順は急造コンビで宮永さん頼りの私らにとって理想的。宮永さんなら私の鳴きたいところを見極めてくれるはずや)

打:3s


照「……」

打:東


怜「ポン」

ポン:東東東 打:8s


照「……」

打:3s


怜(……7索と8索を先に切っとったらそれを直撃やったって? 無茶言うなや、そんなもん読めんわ)

怜(いや、違うな、共闘が必要な状況でそんなあてつけみたいなことするはずがない。この人なら私に何が読めて何が読めんかまで分かるはずや)

怜(あてつけやなくて、切った理由があるか、でなければ保険はかけとるっちゅうアピール)

怜(そうや。この点数状況、残り局数、自分をギリギリまで削って親番だけで決めるっちゅうのも難しい。そこまで行ったら私が裏切る可能性もある)

怜(私に和了らせるのに、必ずしも自分が振り込む必要はない。つまり――――)

509: 2015/09/09(水) 16:58:57.02 ID:C6R/mtmv0

怜「――ツモ」


怜(今回は、私にツモらせて神代を削るっちゅうことやな)


34赤5p5677s ポン:白白白 東東東 ツモ:4s


怜「白・東・ドラ1。2000オール」

510: 2015/09/09(水) 16:59:38.03 ID:C6R/mtmv0

初美「うが――!!! どうなってるですかー!!! 最強の神様を降ろした姫様が和了れないとかあり得ないです――!!」

霞「……信じられない。こんなこと……あり得ない」

春「けど、実際に起きてる」ポリポリ

巴「……人間じゃない……こんなこと、人間に出来るはずがない」

春「準決勝の結果から考えればあり得ることだった。私たちは姫様を過信しすぎた」ポリ

霞「……あの子は、何者なの?」

春「知らない」ポリ

初美「ううっ……アレを降ろした姫様でダメならお手上げですよー! どうなってるですか―!!」

巴「な、なんとかならないの……?」

春「……焦っているようには見える」

霞「焦っている? どういうこと?」

春「分からない。けど、表情が曇ってる気がする」ポリ


『ツモ。1100オール』


霞「くっ、また……本人が和了るならともかく、手足として使っている他人を、姫様を相手にしてこうも簡単に和了らせるなんて」

春「……」

霞「……彼女たちの目的が力を誇示することだとするなら、姫様を完封するというのは、私たちに対してはこれ以上ないほど効果的ね」

巴「……姫様でも、ダメなの? そんなの、誰がやっても……」

初美「巴! シャンとするです! そうやって絶望したらあいつらの思うツボですよー!!」

春「……」

霞「そうね。初美の言うとおりだわ。たとえ勝てないとしても、彼女たちの思い通りにはならない」

初美「たとえ姫様が勝てなくても、こいつはあいつらの切り札のはずですー!! ほかの連中なら私たちでもなんとかなるはずですよー!!」

春「その『他の連中』が手ごわいから姫様に頼る算段になっていたような……」

初美「はるるは黙ってるですー!!」

511: 2015/09/09(水) 17:00:50.48 ID:C6R/mtmv0

南二局二本場 ドラ:東


怜(……しかし、この人マジでなんなん? いくらなんでもおかしいやろ)

怜(何がって? 神代を完封しとることに決まっとるやろ)

怜(今の神代がどんだけおかしいか、萬子だけで作った山から適当に配牌取った後、5回もツモったら分かるで。こんなのに勝てるわけないって確信する)

怜(正直、この人がおらんかったらお手上げや、荒川でもまず間違いなく大敗するやろ。本来なら10万持っててもトビ終了の心配をせなアカン)

怜(それがどういうわけか、実際には私と宮永さんだけが和了って神代は動けずにいる)

怜(ありがたいけどな、実際やられてみると怖いっちゅうのが先に来るでこれは)

怜(例えば、サバンナで腹ペコのライオンに襲われるとするやろ? 人間がライオンに勝てるはずもないし、逃げることも出来んから氏を覚悟するやん? そこに、恐竜がやってきてライオンを蹴散らした)

怜(まあ、当面の危機は去ったわな。けど、その状況、目の前にはライオンよりヤバい生き物がおるんや)

怜(恐竜が食べるのは体の大きいライオンの方や、私を食っても腹は満たされん。せやから、私は当面安全ではある)

怜(けど、腹を減らした「そいつ」が、ライオンを食べて満腹にならなかったら? あるいは、人間が狩猟を楽しむように、そいつが空腹関係なく獲物を襲い始めたら?)

怜(自分の生氏を握っとる存在を怖がるなってのは無理や。けど、今はそれを頼る以外に生き残る術はない)

怜(それしかないんやけど……そろそろ潮時か)


照「ツモ。2200・4200」

123666m89p東東東南南 ツモ:7p ドラ:東


怜(私に点棒を預けるのもそろそろ限界、これ以上は仕上げに私を削るのが厳しくなる。なにせ宮永さんの目的は30000前後でのトップやからな、プラマイゼロ狙いの時みたく私をトップにしてもええってわけにはいかん)

怜(目的の状態で半荘を終わらなあかん以上、親番で連荘するわけにもいかん。それに、今和了ったこの点数。連続和了の制約を考えると……)

怜(……あれ?)

512: 2015/09/09(水) 17:01:56.87 ID:C6R/mtmv0


咲「……あの、これって」

久「結構ヤバいんじゃない? どうする気なのかしら?」

優希「何がヤバイんだじぇ?」

京太郎「さっぱりわからん。なんだってんだ?」

和「……分かってない二人のために説明しますので、点数を見てください。現在の点数状況はこうです」


白糸台  84800
清澄  105800
千里山 103800
永水  105600


咲「お姉ちゃんは25000点持ちの半荘だとみなして打ってるから、分かりやすくするために個人の点数にして、更に席順通りに並べ直すとこうだね」


小蒔 30600
怜  28800
照  30800
憩   9800


京太郎「……これの何が問題なんだ?」

咲「ここから、神代さんと園城寺さんを抑えてお姉ちゃんが29600~30500点でトップで終えるためにはどうすればいい?」

京太郎「神代さんを削った上で自分も削られなきゃダメだな。神代さんへの直撃は不可能だから一回はツモるとして……」

咲「連続和了の制約でお姉ちゃんは親番で8700以上の手しか和了れない。もちろんこれを和了ったらダメで、今お姉ちゃんに協力してくれるのは園城寺さんだけだから、次は園城寺さんが和了るしかないよね?」

京太郎「そうだな」

咲「園城寺さんが連続で300・500で和了るとどうなる?」

優希「えっと、永水が30000と照さんが30000で……同点だじょ?」

和「千里山がトップになるのもお忘れなく。最低点は1000、それを連続で和了れば現状の園城寺さんの点数である28800からは、絶対に照さんの獲得できる上限である30500を超えます」

京太郎「次は園城寺さんが和了らなきゃいけないけど、園城寺さんを連続で和了らせるわけにはいかない。ってことは、次の一局は園城寺さん、最後は照さんが和了るんだな?」

咲「最後にお姉ちゃんが和了るってことは、園城寺さんの次の和了りでお姉ちゃんを1300以上削ってもらわないといけない。じゃないとお姉ちゃんが30500までに収まらないからね」

久「しかも、仮に園城寺さんに照が2000を振り込んでからオーラスで照が300・500を和了ると、照がトップにならないのよね。神代さんが30300、園城寺さんが30500なのに対して照は29900だもの」

咲「理想は、園城寺さんが700・1300をツモってからお姉ちゃんが1000点を園城寺さんに直撃すること。次善は、2000を振り込んでから400・800を和了ること。園城寺さんに1600を振り込んでから300・500っていうのもあるよ。いずれも同点トップにしかならないけどね」

513: 2015/09/09(水) 17:02:42.47 ID:C6R/mtmv0

京太郎「……同点?」

咲「うん。詰んでるんだ、この状況。もう同点トップしか狙えない」

京太郎「いやいや、照さんは100点単位で調節できるんだからなんとかなるだろ?」

久「園城寺さんへの差し込みは2000点が限度。それ以上は自分が30500以内に収まる手では園城寺さんに追いつけない」

咲「神代さんが30600点っていうのが痛い。園城寺さんに差し込んで園城寺さんに直撃っていうわけにいかなくて、どっちかはツモらなきゃいけない」

和「園城寺さん、照さんの順で和了るとして、ロンとツモの組み合わせで和了るパターンは四通り。そのうち差し込んで直撃は神代さんがトップを維持する。差し込んでツモでは単独トップは不可能。ツモらせて直撃、ツモらせて自分もツモはどうでしょうか?」

咲「ツモらせて直撃はさっき言ったのが最善。700・1300未満じゃお姉ちゃんはそもそも和了れない」

京太郎「……確かに」

咲「ツモらせて自分もツモるパターンには同点トップすら存在しないよ。お姉ちゃんと園城寺さんを合わせた点棒が61000を超えたら、二人の中でどう分けても片方が30600を超える。お姉ちゃんは30600以上は稼げないんだから、他から持って来る分が増えたら状況が悪くなるだけ」

久「その考え方で行くと、現時点で既に59600なのよね。二人の中での移動はともかく、脇の二人から奪う分が1400を超えたらアウト」

咲「お姉ちゃんが親の南三局の園城寺さんのツモでは700・1300、荒川さんが親のオーラスのお姉ちゃんのツモでは400・800が限界なんだよ」

514: 2015/09/09(水) 17:03:41.82 ID:C6R/mtmv0

京太郎「現状では単独トップが無理なのは分かった。けどな……」

まこ「そうじゃな、なんで照さんがここまで追い込まれとるんじゃ?」

久「……むしろ、私はあの子がここまでやったことに恐怖すら感じてるんだけど」

咲「そうですね。アレを相手にして本当にここまでのことをやるとは、流石に驚いてます」

優希「???」

咲「あのね、さっき言ったと思うけど、今の神代さんは絶対に崩せない完璧な防御と、10万点持ちを東風であっさり飛ばすぐらいの攻撃力を兼ね備えた最強クラスのモンスターなんだよ?」

和「あっ……確かに……」

京太郎「照さんがあっさり抑えてるから、大したことないのかと……」

咲「ちょっと卓についてもらおうかな? 配牌からずっと一色しかツモらないっていうのがどれだけ頭のおかしなチートか教えてあげるよ」

久「待ちなさい、どうやってそれを再現する気?」

咲「私がツモる時だけ萬子をツモるまで山を開けていけばいいんじゃないですか? ざっくり計算して四枚に一枚以上は萬子なんですし、牌がなくなる前には終わると思いますよ」


まこ(良かった……常識的なやり方じゃった)ホッ

優希(京太郎相手なら実力であの能力を再現出来るとか言われたらどうしようかと……)ホッ

咲(……なんで今ので安心されたんだろう?)

京太郎(ツモる時はそれでいいが、配牌はどうする気なんだこいつ?)


和(ところで、華麗にスルーされていますが……これ、荒川さんがツモれば全く問題ない話ですよね?)ヒソ

久(そうね。彼女が和了ってくれさえすれば何の問題もないわね)ヒソ

久(……だけど、あのチャンピオンは一体何を考えてるのかしら? 力の差がありすぎて何も出来ないってわけじゃないでしょう?)

515: 2015/09/09(水) 17:04:20.68 ID:C6R/mtmv0

照(……いくらなんでも、そろそろ動くはずだよね? このままだと私は単独トップになれない、団体戦だから同点トップを取っておけば上家取りで二位になるなんてことはないから、それでも構わないけれど……)

照(ここで彼女が動かないなら、それもやむなし。その場合は同率一位に甘んじるしかない)

照(けど……これで終わるような人ではないはず)


照手牌

222m34p東東東南南南白白


憩「リーチ」

24589m23467899p ツモ:7m

打:2m


照(――来た!!)

516: 2015/09/09(水) 17:04:49.74 ID:C6R/mtmv0

雅枝「動いたか、しかし、これは……?」

泉「……なんかおかしいところありますか?」

セーラ「おい、泉、お前の目は節穴か? どこ見とんねん?」

竜華「常識的には平和もつく2萬切りが正しい、けど、荒川に限ってはあり得んな」

泉「いやいや、ここで5萬切るのと2萬切るので次のツモが変わるとかオカルトにもほどがあるでしょ!? どうせ3萬をツモるなら2萬切りの一手ですって!」

浩子「(無視)ま、これではっきりしましたね。荒川憩の目的は間違いなく宮永照のプラマイゼロ崩しです。このリー棒一本で、更に状況は難しくなる……とはいえ、プラマイゼロを阻止するのに役に立つんかな? うちらが知らん他の制約があるんか?」

雅枝「おそらくな。例えば、30000前後の得点の人間が三人おったらトップを取れるとかの特例があって、今回はそれを狙うと読んで、狙える状況に誘導したっちゅうのはどうや?」

浩子「それを狙って綺麗にそろえた三人の点数に生じる、1000点のズレ……ラス前でのそれは致命的なズレになる。荒川がプラマイゼロ崩しを狙ってやってるなら、十分あり得ますね」

泉「(無視されて泣きそう)手の届くところまでたどり着いたら諦めきれんもんです、もし、それに固執して打ち方を変えるようなことがあれば……」


『槓』


雅枝「……槓だと? 何が狙いや? 荒川に和了らせたいのか、それとも……」

517: 2015/09/09(水) 17:05:38.85 ID:C6R/mtmv0

『槓』


京太郎「……え?」

咲「大明槓の責任払い。東、南、嶺上開花、赤1の40符で満貫。親の満貫は12000。リーチも成立するからリー棒も手に入るね」

和「……咲さん?」

咲「和了れないリーチに期待したりはしない。確実に単独トップを狙うにはこれが最善」


『ツモ。嶺上開花・東・南・ドラ1、大明槓の責任払いで12000』


久「ここで赤5をツモるわけね、流石というかなんというか……」

和「いえ、あの……ちょっと理解できないんですが……?」

咲「……ここで満貫を和了ったっていうことは、次できっと6100オールをツモる、その後、荒川さんに役満の32600を差し込む」

和「は?」

咲「それで29500。最後に1000点を和了れば30500で単独トップ。1000点限定だからツモが許されないのが難点だけどね。リーチを掛けられたのはちょっと痛かったかな? ここで満貫を和了らざるを得なかったのも苦しいのかもしれない」

和「……」

久「上手く行くと思う?」

咲「……やれると思ってるからやってるはずです。今のリーチにも荒川さんからは勝つ気が感じられませんけど、いくらなんでもトップからの役満直撃を見逃すことは出来ないでしょう」

久「用意できれば確実に食いつくはずの餌、か。それでも食いつかなかったら?」

咲「……流石に無意味な仮定だと思いますけど、仮に食いつかなかったなら、お姉ちゃんが断トツで終わるだけです」

久「断トツな上に後半ではプラマイゼロの制約も完全に消えて大暴れ、それは私たちにとって願ったり叶ったり。優勝が転がり込んでくるようなもの、か」

518: 2015/09/09(水) 17:07:50.60 ID:C6R/mtmv0

憩(……さて、監督の予想通りやったな。宮永照の呪いをどうにか出来る奴が清澄におるんやないかって)

憩(ここまでの結果やったら、うちを削りつつ永水・千里山を並べた状態にしてプラマイゼロで終わらせたいってことで説明がつく。地力からして清澄が一番警戒すべきはうちらや、戦略的におかしなことはない)

憩(けど、これはそれじゃ説明出来ん、プラマイゼロが大きく遠ざかるからな。今の宮永照はプラマイゼロの呪いを克服していて、それ以外の狙いがあるっちゅうことや。ここまではプラマイゼロの呪いが解けたのを隠していて、最後に出し抜きに来たか?)

憩(あり得る。しかし、それやと違和感がある。特に、さっきまで浮かべとった苦しげな表情、あれは演技やない)

憩(苦しかったんや、さっきまでの状況は)

憩(苦しいってことは、目標が達成できへん見込みが強かったってことやろ? うちらを削りつつ永水と千里山を平たくして5000前後の点棒を稼ぐ……それが目的ならさっきのは理想に近い形のはずや)

憩(出し抜きに来た? いやいや、それならこの親番でいつでも出し抜けた。苦しいと考える理由がないし、その理由が消える道理がない。おそらく、まだ何らかの制約が残っていて、その中での最善の結果を狙っとるんやろな)

憩(さっきの一手が作用して状況が好転したはず。ここから宮永照が狙っていたことを推測すると……)


照「ツモ。6100オール」

1234446677889p ツモ:6p


憩(……これもヒントや。今の点差、状況、さっきまでの状況では困難だったこと……それらから推察される宮永照の目的は……おそらく――)

519: 2015/09/09(水) 17:08:50.37 ID:C6R/mtmv0

【回想】


憩「……清澄の先鋒の対策を考え直す?」

監督「ええ、昨日帰ってから考えていたのだけど、色々と腑に落ちないことがあるの」

憩「腑に落と?」

監督「まず、あの子は咲に自分の呪いのことを隠しているはずなのよ。だから、それがバレることを避けて麻雀自体をあまり打たなくなった。それが大会に出て来たのには何か理由があるはず」

憩「恐ろしく前の段階まで戻りましたね。大会に出とること自体がおかしいってことですか?」

監督「そう。そして、昨日の試合の録画……あんな辛そうな表情で打ってたら、プラマイゼロにするのは呪いですって言ってるようなもの」

憩「……妹さんには隠しとるはずの呪いを、勘付かせようとしてたっちゅうことですか?」

監督「仮にそうでないとしても、辛いと思いながらも出された指示を実行するぐらいには信頼してる相手が居るってことよ。大会に出て来たこと自体を含めて、照から相当の信頼を得ないとあり得ないことだわ。あの子、めちゃくちゃ頑固だし」

憩「で、それがどうして対策の見直しって話に?」

監督「……多分だけど、あれは、照の独断でやったことだと思うのよ。これは親としての勘とあの子の性格からの推測なんだけど、あの子、他人から命令された嫌なことは基本的に『嫌』の一言で済ませてよほどのことがない限りやらないの。その照があんな辛そうな顔でやってたということは、自分の判断でやってるはず」

憩「……自分の独断で、呪いの存在を妹さんに気付かせるような真似をした。なるほど、つまり……」

監督「清澄には咲も居る。呪いの存在に気付けば、咲だってそれを解こうとするはずよ。そして、咲だけじゃなく、照が信頼してる子がいる」

憩「それをあてにして呪いの存在を気付かせ、決勝の前にそれを解こうとした。うちらより先に呪いが解かれとる可能性があるっちゅうことですか?」

監督「……だとすると、私の五年間は一体……」ズーン

憩「ま、まあ、呪いを解かな勝てん相手やって思って昨日のアレに踏み切って、その結果呪いが解けたんやったら、監督がそれだけの敵を用意したことが少なからず影響しとるわけで、無駄ではなかったっちゅうことになりませんか?」

監督「はっ!! 確かに、超えるべき壁を用意した功績があるわね! ということは、私は娘の役に立てたのね!?」

憩「変わり身早いなこの人」

監督「まあ、そういうわけだから、もしかしたら呪いが解けて全開の照が相手かもしれないから気を付けてね」

憩「……気をつけろと言われても、ただでさえ一番ヤバい時の小蒔ちゃんが相手なんですけ―――」

520: 2015/09/09(水) 17:09:30.34 ID:C6R/mtmv0

【対局室】


憩「――ど?」


怜(……冗談やろ、なんやそれ……)ゾワッ

照「はい、32600」チャラ

憩「……は?」

憩(何が起きた? 確か、ついさっき宮永さんが6100オールを和了って……そうや、狙いが29600~30500での「トップ」やって気付いて、次は役満をうちに差し込むはずやってとこまで考えて――それから、どうなった?)

照「……荒川さん?」

憩(なんで、うちは手牌倒しとるんや? というか、なんやこれ? いつ配牌とった? うちは打った覚えないで?)


憩手牌

222333444s東東東北 ロン:北

521: 2015/09/09(水) 17:11:21.00 ID:C6R/mtmv0

『ここまで鳴りを潜めていたチャンピオンが大技を出して来た――!!!』

『配牌で2索と4索と東の暗刻がありましたからね。それだけでも三暗刻確定のチャンス手ですが、荒川選手にとっては事実上四暗刻確定の大物手でした。神代選手や宮永選手とのスピード勝負の様相でしたが、見事に制しました』

『これで劣勢を一気に取り返して三位に浮上!! ラス親が回ってきたチャンピオンが反撃の狼煙を上げる――!!』

『……それにしても、これは……』

『すこやん? どったの?』

『……ん? あ、いや、なんでもないよ』

522: 2015/09/09(水) 17:13:16.20 ID:C6R/mtmv0

咲「あとはお姉ちゃんが1000点を和了れば終わりだね」

久「そうね。1000点以外なにも許されない厳しい状況だけど、照なら問題ないでしょう」

和「……そうでしょうか?」

咲「……少し懸念はあるよ。この面子のことだよね?」

和「はい。まず、神代さんからの直撃は不可能ですよね?」

咲「そうだね。ここは絶対に不可能だから放っておいた方がいいかな」

和「そして、以前聞いた能力が正しいとするなら、千里山の園城寺さんからの直撃もほぼ不可能ですよね?」

咲「……一巡先に誰かが和了る場合、その和了り形まで視えるらしいからね。そしたら手牌を入れ替えてもその前に見たものを手掛かりにして今の形が大体分かるから、直撃はほとんど無理だね。1000点限定だと符の関係があるから単騎待ちにもしにくいし」

和「そして荒川憩ですが、少なくとも現役の高校生では最も守備が固い選手です。『攻撃面では運に助けられただけの取るに足らない選手だが、彼女の真価は守備にある、プロまで含めてもトップクラスの鉄壁の守備が奇跡的な幸運と結びつき、チャンピオンの栄冠に輝いた』との評もあります」

優希「あの誰でも気付くオカルトを無視したその評価……間違いなく『週刊デジタル麻雀』の記事だじぇ。中学時代ののどちゃんの愛読書だじょ」

和「優希の私的は図星ですが、守備に関しては彼女は本物です。いくら照さんでも、この三人の誰かから直撃を取るのは厳しいのでは?」

咲「さっきは直撃してたから大丈夫じゃないかな?」

和「あれは大明槓の責任払いです、配牌からあった刻子が読み切れなかっただけで、おそらく待ちは読まれていたでしょう。もちろん、大明槓でも責任払い自体は再現できる可能性がありますが、槓をして1000点で済むでしょうか?」

咲「……理論上はあり得る。厳しいけどね」


11p45567789s 明槓:2222s 嶺上牌:3s


咲「例えばこんな形だね。これで嶺上開花のみ、明槓の8符とツモの2符で30符に収まる」

京太郎「これだと、嶺上開花でしか和了れねえな」

咲「流石に直撃は喰らってくれないだろうからね。園城寺さんは一巡先、つまり大明槓の責任払いまで視えるはずだから、荒川さん以外への直撃は不可能。どうせそれ以外の和了りが不可能ならこれで大明槓の責任払いを狙うしかないよ」

優希「あのおねーさん、大明槓にもそんなに簡単に振り込みそうには見えないじょ? 大丈夫なのか咲ちゃん」

咲「お姉ちゃんは、こういう時は絶対どうにかするから。大丈夫」


久「……というか、普通に差し込んで来る人がいると思うのだけど」

まこ「じゃのう。長引くと何が起こるかわからんけえ、一刻も早く終わらせたいと思っとるじゃろうな。わしもそうじゃからよくわかる」

久「じゃ、私、そろそろ迎えに行くから、あとお願いするわね」

まこ「おう、迷子のお姫様をちゃんと連れて来るんじゃぞ」

523: 2015/09/09(水) 17:14:23.14 ID:C6R/mtmv0

怜(……いやいやいや、それは完全に反則やろ!! 意識奪って操るとか、そんなんどうしようもないやん!!)

怜(プラマイゼロとかその気になったら簡単に破れるんやないかって思っとったけど、これが宮永さんの意思と無関係に起きるんやったら防ぎようがないな)

怜(和了る気がなくても、気付いたら勝手に和了っとる。これ、下手したら宮永さん本人に対しても同じことが起こるんやないか?)

怜(プラマイゼロを目指さんで普通にトップ狙おうとしたら、いつの間にか意識を失って差し込みしとる……ありえん話やない)

怜(意識を失わんように腿でもつねりながら打ったら……チョンボでもするんかな? 流石にそれはないか?)

怜(……ま、いずれにしてもプラマイゼロもどきに関しては崩すのは不可能と思ってええ。崩そうとしたら意識奪われて終わりや)

怜(それを踏まえてどうするか。後半のこともあるけど、さしあたって目の前の一局)

怜(前半最後の一局……正直、1000点払うだけで終わるなら協力してもええぐらいに思うところや)

怜(むしろ、協力せんかったら、この三人の中で千点に振り込む人間は誰もおらんやろな。神代は論外、荒川も、他に注目が集まって目立たんけど守備はトップクラス。誰も振らんなら私か荒川が意識飛ばされて差し込まされるのがオチや、二回も意識飛ばされるのは荒川が不憫やろ)

怜(なにより、差し込まずに長引かせた場合、神代が清一色をツモる可能性がある。神代なら宮永さんのプラマイゼロも破れてええしな。清一色ツモられたら最低3000の出費、それに比べたら1000点は全然問題にならん)

怜(……この中で一番弱いのは私、最下位は私が引くべきやろな)

怜(決まりや、1000点くれたるわ。さっさと聴牌しいや)

524: 2015/09/09(水) 17:15:27.76 ID:C6R/mtmv0

憩(……これが、監督の言ってたやつか。トップクラスの打ち手がチョンボをしでかすカラクリ。なるほど、完全に意識が飛んどったわ、予備知識なしやったら動揺して麻雀どころじゃなくなっとるやろな)

憩(自分がプラマイゼロを目指さんかったら誰かがこうなる。今回は目指しててもなったけどな)

憩(なるほど、不幸や。本当は思う存分力を振るってトップを目指して戦いたいのに、プラマイゼロを目指すしかない)

憩(妹さんなり監督なり、このひと相手でも勝負になる人間は存在する。その場合は協力してこの人を抑えながらの駆け引きになるやろな)

憩(けど、この人がトップを目指すことが出来ずにプラマイゼロを狙うとなると、どうやってそれを利用するかになる)

憩(このひと自身は駒として使われるだけで、戦いに加わることが出来んのや。今はちょっと違うみたいやけど、まだまだきっついハンデ付き)

憩(……今が、このひとを救う最大のチャンスやろな)

憩(1000点、つまり30符1翻のロン和了り限定。ツモ不可、振り込まずに時間を稼げば小蒔ちゃんが和了ってくれる。これだけ条件を整えてオーラスを迎えるのは難しい)

憩(こちとら最初からそのつもり、拾ってくれた監督への恩返しのつもりで打っとるんや、予定に変更はない。予定より損が少なくて済んだだけ)

憩(ここが正念場や、気張れや自分!!)

525: 2015/09/09(水) 17:16:47.56 ID:C6R/mtmv0

照手牌

234567m1235578p ツモ:北


照(1000点限定なのが意外に痛い。園城寺さんがその気みたいだから、後は園城寺さんが差し込んでくれるのを待つだけなんだけど……)


怜(後半もあるからここで裏切る気は毛頭ないんやけど、手牌がな……)

怜手牌

222333666m111p東


怜(流石にこれはツモったり河に出たりしたら和了らせてもらうで。いくらなんでもこれを和了らんかったら言い訳がきかん。もちろん、アタリ牌を引いて来た時に切る言い分は立つから引いたら差し込むけどな)

怜(役満に目がくらんで裏切ったら後半で袋叩きや。こいつら相手に半荘一回、32000のリードじゃ逃げ切れん。間違って東をツモらん限りは裏切る気はないから安心せえ)


照(北はアタマにも使えないから切るしかない。園城寺さんのツモ待ちか……厳しいかな?)

打:北

526: 2015/09/09(水) 17:17:28.00 ID:C6R/mtmv0

憩「…ポン」

ポン:北北北 打:8m


照(……え? その手で鳴いた? 何のために……)

怜(鳴くっちゅうことは、手の内にペンチャンやカンチャンがないってことや。そうじゃなきゃ、ツモっても必ず手が進むんやから上家の宮永さんから鳴く理由がない)


小蒔「……」

打:7m


怜「……は?」

照「?????」

527: 2015/09/09(水) 17:18:38.17 ID:C6R/mtmv0

霞「なっ!?」

巴「そんな……なんでこんな時に……」

初美「ま、まだ神様が抜けきってないうちに寝直すですよ――!!」

春「無駄。索子以外をツモった時点で神様が憑いてないのは明白」ポリ

霞「……」


巴「こんな時に、起きてしまうなんて……」


初美「二度寝しても、次に出てくる神様じゃこいつらには勝てそうにないです―! 打つ手なしですよ――!!」

巴「七番目の神様ですら荒川に打ち負けたのに、今は9番目の神様を完封した宮永照も居る。一番目の神様じゃどうやっても……」

春「……」

霞(何が起きたの? あの卓では小蒔ちゃんが起きるような何かが起きていたはず、でなければ、後半まで降ろし続けるつもりでいたのが解除されるはずがない)

528: 2015/09/09(水) 17:19:47.46 ID:C6R/mtmv0

照(……これは、ラッキー、なんだよね? この局では神代さんは索子しかツモらないはずだった、それが萬子をツモったということは、能力が解除されたということ)

照(相変わらず出和了り1000点しか許されない状況だけど、すぐにでも清一色をツモるという時間制限がなくなって少し楽になったはず)


怜(神代の独占が崩れて宮永さんにも索子が入るようになった。とはいえ、1000点しか和了れん以上、単騎待ちは符の関係で出来ん。とすると、ムダヅモの可能性が増えただけやな)

怜(独占が崩れたとはいえ、ほっといたら神代も清一色をツモるやろな。何せ配牌が索子一色でここまで3巡回しとるんや、聴牌はしているとみていい)

怜(だとすると状況は好転しとらん。むしろ、うちら二人に使いようがない索子の無駄ヅモが増えた分だけ状況は悪くなっとるんと違うか?)


ツモ:8s


怜(索子は要らんって言うとるやろが……って、神代が清一色を張っとると仮定するなら、これ切ってええんか? とりあえず一巡先を……)


****

怜「……」


打:8s


小蒔「ロン、32000です」パタン

1112345679999s

****


怜(あっかーん!! なんやねんそれ!!)

怜(こんなん東切る一手や。切る奴はおらんと思うけど、8索切ったら役満のダブロンやでー)

打:東

529: 2015/09/09(水) 17:20:17.80 ID:C6R/mtmv0


「ロン」


530: 2015/09/09(水) 17:20:48.52 ID:C6R/mtmv0


憩「東のみ、1500」パタン

99m123567p東東 ポン:北北北


怜「……あ、忘れとった。そっちも怪しい動きしとったな」

憩「……」

照「……」

小蒔「憩さん……」


憩「……和了りやめ、させてもらうわ。お疲れ様でした」


怜「……お疲れ様でした」

小蒔「あ……お、お疲れ様でした」

照「……お疲れ様でした」




先鋒戦前半終了


白糸台  99800
清澄  104500
千里山  96200
永水   99500


550: 2015/09/16(水) 16:59:15.48 ID:yHp/JiGh0

【休憩中】


霞「で、何があったのかしら? 神様が剥がされるほどの何かが起きていたんでしょう?」

小蒔「……夢を、見ていたんです」

初美「まあ、寝てれば夢ぐらい見ますけどー」

小蒔「夢の中で、私はとても大きな龍と対峙していました、龍……と呼ぶべきかどうかも分かりませんが、それはとてつもなく大きな力を持った存在でした」

霞「……」

小蒔「その龍を、私は遠巻きに眺めていました。夢の中では私自身も鳳凰の姿をしていましたが、龍は鳳凰となった私よりも一回り大きく、とても立ち向かえるものではありませんでした」

巴「それって……まさか……」

小蒔「その龍に、立ち向かう人間がいました。龍の身体にしがみつき、逆鱗を探り当て、ついには逆鱗に刃を突き立てようとしました」

初美「……さっきの卓、ですかねー」

小蒔「逆鱗に刃が届こうとしたその時、龍はその身を大地に押し当て、しがみついていた人間を大地との間で押し潰しました」

霞「……」

小蒔「押し潰され、瀕氏となった人間は、それでもなお立ち向かおうとしました。ですが、それはあまりにも無謀。立ち上がることすらままならない彼女に、猛り狂う龍の爪が襲いかかろうとしていました」

春「……その人間を、鳳凰は身を挺して助けた?」

小蒔「……はい」

霞「……卓上には表れない駆け引きの結果、姫様の力の源である神様……鳳凰は龍に傷つけられ、その力を失った」

小蒔「彼女を庇い、龍の爪に切り裂かれたところで、私は目覚めました。8索待ちの九連宝燈、そこに萬子をツモったところでした。そこから先は現実の世界……後の顛末は皆が知る通りです」

551: 2015/09/16(水) 17:00:14.12 ID:yHp/JiGh0

霞「……なるほど、大体の事情は分かったわ」

巴「姫様の話を信じるなら、姫様がさっき降ろした神様より二回りほども大きな龍……どうしたものでしょう……まだ後半戦が残っているのに……」

春「触らぬ神に祟りなし。何もしなければ、少なくとも先鋒戦は平穏無事に終わるはず」

初美「はるるの言うことも一理ありますー。何と言ってもあの化け物の狙いはプラマイゼロ、逆らわなければ何事もなく終わるはずですよー」

霞「次に降ろす神様は順番だと一番弱い神様、それでは勝ち目はない。春の策に従うほかないわね」

小蒔「……そうですね」

春「ただ、そうなると次鋒以降が厳しい。ただでさえ前回は白糸台に競り負けたところ、今回は……」

巴「清澄が居るから更に厳しい戦いになる。それは間違いないけど……清澄が居るからこそ出し抜く隙もあるかもしれない」

霞「そうね、麻雀は四人で打つゲーム、単純に強いから勝てるというわけではない。強いからこそ他の三者に手を組まれて負けるということもある」

小蒔「弱いからこそ他の全員と協力することが出来て勝てるということもあります……ですが……」

春「……強いに越したことはない」ポリ

初美「つまり、六女仙最強の私にお任せってことです―!!」

霞「初美は頼りにならないから、私が一肌脱ぐしかないわね」

初美「老け顔の年寄りは引っ込んでるが良いですよー」

霞「あら? あらあら? 初美ったら、いつから氏に急ぐようになったのかしら?」ピキ

初美「事実を述べたまでで……痛っ!? 頭をグリグリするのはやめるですー!!」

霞「グリグリじゃなく、ゴリゴリならいいのかしら?」ゴリゴリ

初美「あぎゃああああああ――!!!! ごめんなさいごめんなさい――!! もうしないからやめて―!!」

552: 2015/09/16(水) 17:00:54.92 ID:yHp/JiGh0

咲「……流石だね。能力に頼らず、園城寺さんからこぼれそうな牌を狙い撃ちにしてる。能力だけでチャンピオンになったわけじゃないんだね」

まこ「ん? ああ、そうか、北を鳴いた後の8萬……あれを手元に残せば899とあったわけで、荒川なら……」

咲「鳴かずにペンチャンの7萬をツモって東と北のシャンポンにしてもいいところ……むしろ、東以外でもツモなら和了れる可能性がある分だけそっちの方がいい。能力を前提に打つならあそこは鳴きを見送る一手。それをあえて鳴くことで自分がツモるはずの7萬を神代さんに押し付け、神代さんがツモるはずの8索を園城寺さんに押し付けて東を切らざるを得ないように追い込んだ」

まこ「神代のアレは、鳴いたぐらいでどうにかなるもんなんかの?」

和「あの……咲さん? なんでそんなに冷静なんですか?」

咲「この世に慌てるべきことなんか何一つないんだよ原村さん。穏やかな心さえあれば、たとえ氏の淵に立たされても平静でいられる」

優希「咲ちゃんが悟りを開いてしまったじょ……」

京太郎「いや、これめちゃくちゃ動揺してるぞ。俺にはわかる。多分、今の解説もほとんど上の空で適当なこと言ってるはずだ」


咲「お姉ちゃんが負けるなんてありえないお姉ちゃんが負けるなんてありえないお姉ちゃんが……」


優希「唐突に壊れたじょ!? なんとかしろ京太郎!!」

京太郎「落ち着け咲、照さんはトップだ!! 負けてないぞ!!」

咲「……ん? はっ、確かに!!」

和「流石に手馴れてますね」

京太郎「まあ、なんだかんだで付き合いも長いしな。最近ポンコツに磨きがかかってる気がするけど」

まこ「しかし、おんしらが三人がかりで出来なかったことを、たった一人であっさりやってのけたのう。大したもんじゃ、流石はチャンピオンじゃな」

咲「むっ……私たちの時はプラマイゼロを破るっていう目的が最初からバレてましたから。まさかインターハイの団体戦で半荘一回丸ごと捨ててプラマイゼロを破りに来るなんて予想できませんし、私たちが負けたわけじゃありません」

京太郎「そこで変な意地張らなくても……」

咲「私は事実を述べただけだよ!!」プンスカ

和「酷い負けず嫌いですね……知ってましたけど」

まこ「哩姫のコンボを破りに行ったのもただの負けず嫌いじぇけえの」

咲「うぐっ……」

京太郎「で、これ、後半どうなるんだ?」

553: 2015/09/16(水) 17:02:22.68 ID:yHp/JiGh0

咲「……後半?」

和「あ、確かに」

優希「言われてみれば、まだ後半が残ってるじぇ」

まこ「これは、楽が出来そうじゃのう」

咲「……???」

京太郎「いや、これで、照さんのプラマイゼロ、完全に解除されただろ? 部長の仮説が正しいとするなら」

咲「あっ!?」

京太郎「つまり、後半は完全フリーの照さんが大暴れってことになるのか? ってことで聞いたんだが」

咲「……よほどのイレギュラーがなければ、間違いなくそうなるね。さっきの半荘を見て分かる通り、お姉ちゃんなら制約がなければ完封も可能なはず」

まこ「照さんがトップで昨日みたいなことをする可能性は?」

咲「十分あり得ます。ここで稼げば最多獲得点数……MVPの目も残ってますし、負けず嫌いのお姉ちゃんなら狙ってもおかしくない」

和「MVP……?」

咲「昨日のアレのせいで暫定MVPは園城寺さんだけど、ここで園城寺さんを削りながらトビ終了まで追い込めばお姉ちゃんがMVPなんだよね」

京太郎「……そんなもん気にしてるってことは、MVP狙ってたのか?」

咲「ギクッ……な、なんのことかな?」

優希「MVPの目ぼしい候補は?」

咲「荒川さんが186100……じゃなくて今200削られて185900、園城寺さんが215500、部長が173300、玄さんが196000、私が69800だからちょっと苦しいんだよね」

京太郎(細かい数字がスラスラ出てくるってことは、本気で狙ってたなこいつ)

和「苦しいのは仕方ありませんね、なんといっても出番が一試合しかありませんでしたから。ちなみに照さんは?」

咲「今、ピッタリ+30000だね。ちなみに、神代さんは55100」

京太郎「他の選手はどうなんだ?」

咲「玄さんの196000が壁になってるから、今挙げた人以外はそれを超えられないと思うよ」

優希「てゆうか咲ちゃん、阿知賀のドラ爆おねーさんが196000で固定ってことは、最低でも大将で126200稼ぐ気だったのか?」

咲「本気で狙うとなると厳しいよね……大星さんも居るし」

554: 2015/09/16(水) 17:02:54.62 ID:yHp/JiGh0


バタン


久「なんの話かしら?」

照「松実さんが196000って言ってるから、多分MVPの話じゃないかな?」

京太郎(あんたもなんでそれで分かるんだよ……狙ってたのか?)

咲「あっ、お帰りなさい!!」


照「かくなる上はMVPを取って憂さ晴らしを……」

久「憂さとか言わない。さっきからずっと言ってるけど、トップで前半を折り返して制約も無くなった、いいことずくめじゃない」

照「でも……」

久「そんな顔しないの」

照「……」

久「……」


まこ「えっと、照さんのプラマイゼロは完全に解けたってことかの?」

久「さっきからずっとそれで拗ねててね。まったく、何がご不満なのかしら」

照「……わかってるくせに」

咲「やっぱりそっか……最後にきっちり和了ってプラマイゼロを阻止してたもんね」

照「ぐぐぐ……」

久「計算を狂わせるための無理なリーチなら小細工ってことになるんだろうけど、あのリーチはそうじゃないからね。本人が一番分かってるみたいだけど」

照「あのリー棒さえなければ……」

咲「ツモが封じられたのは痛かったよね」

久「とはいえ、それを計算に入れて照が軌道修正したのを打ち破ったわけだから、文句はつけられないわね」

照「むうう……」

555: 2015/09/16(水) 17:03:41.58 ID:yHp/JiGh0

京太郎「で、照さん、どうするんですか?」

照「どうするって、もう一度プラマイゼロをやって今度こそ竹井さんに解いてもらう……っていうのは流石に怒られそうだし……」

久「……それは思いつきもしなかったわ、絶対やらないでね。本気で怒るわよ」

照「……はい」シュン

咲「で、どうするって、何のことを言ってるのかな京ちゃん?」

京太郎「いや、プラマイゼロをしなくていいなら、思う存分暴れられるわけですよね? さっき話してたけど、MVP狙うのかなって」

照「……当然狙う」

咲「……お姉ちゃんにMVPを狙われると、私の出番が回ってこないんだけど?」ゴゴゴ

照「……咲はまだこのあと二年もある、ここは私に譲るべき」ゴゴゴ

咲「三年連続MVPは、一年生から獲り続けないと達成できないんだよ?」ゴゴゴ

久「咲はもうMVP狙うのは厳しいでしょ。大人しく譲りなさいって」

照「竹井さんの言うとおり。MVPは六桁で勝負が決まる世界、獲得点数5桁のプレイヤーは引っ込んでいるべき」

咲「自分だってまだ5桁プレイヤーじゃん!! てゆうか、単純に一試合で69800稼げるとして計算すると、出番さえあれば私は20万点超えてるし!!」

和「そもそも、照さんも今から狙うのは厳しいでしょう。暫定MVPの園城寺さんは獲得点数が20万点を超えていますし……」

咲「原村さん、その20万点を東風一回で稼がせたのは誰だっけ?」

和「……失礼しました」


まこ(MVPがどうのと浮かれとるが、本当に大丈夫なんかのう?)ヒソ

京太郎(大丈夫なんじゃないですか? 照さんが全力で打てるってのは大きいですよ)ヒソ

優希(照さん自身が狙うって言ってるんだし、大丈夫だと思うじぇ。相手の実力も、今打ってきた照さんが一番分かってるはずだじょ)ヒソ

まこ(……どいつもこいつも浮かれてて、どうにも落ち着かんわい。仮にもプラマイゼロを破りよった連中が相手じゃけえ、命取りにならんとええがの)ヒソ

京太郎(気持ちは分かりますけど……やっぱりこの状況で負ける要素はないですよ)ヒソ

優希(だじぇ!)ヒソ

556: 2015/09/16(水) 17:05:31.79 ID:yHp/JiGh0
憩「……」

監督「……」

憩「……」

監督「……」

菫「で、なにか申し開きはあるか?」


監督「……えっと、そもそも、私はこのために五年間監督をしてきたわけで……」

菫「知ったことか。個人的な事情をチームに持ち込むな」

監督「はい……」シュン

尭深(威厳ってなんだっけ……?)ヒソ

誠子(弘世先輩が纏ってるあのオーラのことだ。間違っても監督が出してる情けない空気のことではない)ヒソ


憩「ほら、宮永さん個人戦に出とらんし、本気の宮永さんとやり合うためにはここで呪いを解かな……」

菫「そんなもん練習試合でいいだろうが!! 言い訳にもならんことを言うな!!!」

憩「はい……」シュン

菫「まったく、監督とエースがチームを売るとはな……」

監督「申し訳ありません」

憩「うちは監督に言われてむりやり……ホンマはみんなのために戦いたかったんや!! 信じてや!!」

菫「さっき言ってた言い訳と矛盾してるだろうが!! 茶化して誤魔化せると思うな!!」

憩「はい……」シュン


淡「これは、エースの座を返上して私に譲るしかないねー? 実力で奪いたかったけど仕方ないな―、エースの座、引き受けてあげようかなー」


菫「……大星、憩の横に座れ。正座で」

淡「え? あ、ケイにお仕置きするんだね! りょーかい!!」チョコン

菫「この状況で空気も読まずに茶々を入れるとはいい度胸だ、お察しの通り仕置きをくれてやろう」

淡「へ?」

憩(淡ちゃん、助かったわ。おかげで、矛先が淡ちゃんに行った)ヒソ

淡「え? え?」

菫「三年は夏が終わったら引退する。憩がエースでいるのは、ちょうど一年後のこの日までだ。つまり、あと一年したら大星がチームを背負って立つ柱にならなければいけない」

淡「は、はい……」

菫「監督がこのザマである以上、エースの責任は今まで以上に重くなる!! なのに大星、貴様はいつまでもふらふらへらへらと……!!!」


『まもなく先鋒後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください。繰り返します……』


菫「ちっ……憩、行って来い」

憩「はい! 行ってまいります!!」ピュー

監督「あっ!? 逃げた!!」

淡「あー!! ケイ、ずるいー!!」

菫「おい、そこの二人、誰が立っていいと言った?」

監督「……申し訳ありません」チョコン

淡「横暴だよー!!」ガー

尭深「あ、淡ちゃん、今は逆らわない方が……」

誠子「手遅れだ、諦めろ尭深」


菫「さて、この不心得者にエースの心得を叩きこんでやるとするか」ゴゴゴ

淡「ひっ!?」ビクッ

557: 2015/09/16(水) 17:06:01.04 ID:yHp/JiGh0

怜「後半は、荒川と組んでどうにか凌がんとなあ……神代が手伝ってくれればええけど」

竜華「ん? 後半もプラマイゼロやったらアカンの?」

怜「無理や。宮永さんがプラマイゼロにしてくれんわ、多分三校まとめて飛ばす勢いで大暴れする。荒川のやつ、余計なことしおってからに……」

浩子「宮永照がプラマイゼロをやめるっちゅうことですか? またなんで?」

怜「あれ、そういう能力やから仕方なくやってたみたいでな。破られると普通に打てるようになるっぽいで」

セーラ「見て来たんと違うんか? なんで『みたい』とか『っぽい』とか言うんや?」

怜「信じたくないから間違っててほしいって思いが断言を避けさせるんや。あの人の怖さを一番知っとるんは私や、あの人が全力でトップ取りに来るとか考えたくもないわ」

雅枝「……勝算はあるんか?」

怜「『勝つ』算段なんか最初っからあらへん。どんぐらいのマイナスで抑えるかやけど……荒川と神代が包囲網に加わってくれたとして、マイナス50000で済めば御の字」

浩子「……マジですか? 荒川と神代と園城寺先輩で?」

怜「あの人は全国二位の辻垣内智葉を相手に半荘一回で10万削る化けもんやで? マイナス50000でも楽観的に見とるつもりや」

泉「それで楽観的って……」

怜「一番可能性が高いのは、昨日の準決勝の再現やな。ただし、今回はあの人が最初から最後まで和了り続ける」

竜華「だ、ダメやそんなん!! そんなことになったら姫松の連中に顔向け出来んやろ!!」

怜「せやから何とかしたい。神代も荒川もおるし、私だって宮永さん以外なら誰が相手でもそうそう負けへん。三対一なら半荘一回ぐらいはなんとかなる……と思いたいな」

浩子「……先輩がそこまで言うんやったら、覚悟だけはしときますわ」

怜「……さて、そろそろかな?」


『まもなく先鋒後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください。繰り返します……』


怜「ほな、行ってきます」

セーラ「頑張ってな」

竜華「絶対、泉に繋いでや!!」

怜「約束は出来んなあ……けど、やれるだけのことはやらせてもらうわ」

558: 2015/09/16(水) 17:06:27.14 ID:yHp/JiGh0

起家 小蒔「……」

南家 怜「よろしくお願いします」

西家 照「……よろしく」

北家 憩「お手柔らかに~」

559: 2015/09/16(水) 17:06:55.18 ID:yHp/JiGh0

東一局


照(神代さんが寝てる……さっきの以上はないと思うけど、クセの強い能力だろうから見極めておきたい)

怜(……この状況、下手な能力使うよりは荒川か私のサポートに回ってほしいんやけどな。てゆうか、小走さんの仮説やと、さっきの能力の次に出てくるのは最弱のアレやろ? 普通の相手に使うなら十分強力な能力やけど、宮永さん相手には通用せんはず)

憩(さっきと同じ席順か……さて、本気の宮永さんのお手並み拝見や。どれぐらい力の差があるのか、見せてもらおうやないか)

小蒔(…………)

560: 2015/09/16(水) 17:07:22.01 ID:yHp/JiGh0

照(……神代さんはさっきのが最強の能力のはずだから、そんなに怖くない。荒川さんは、何の制約もなければ私なら抑えられる。園城寺さんは……一人だけなら問題ないけど、他人を使うのも他人に使われるのも上手い。昨日の試合とさっきの半荘でそれは思い知らされた)

照(味方なら心強いけど、敵に回すと一番厄介な人かもしれない。そして、今回は多分、敵に回る)

照(よほどのイレギュラー……私を圧倒するような能力を荒川さんがこの場で獲得したりとかしない限りは、彼女を敵に回して打つことになる。二対一、あるいは三対一の状況になって、その連携の要をおそらく園城寺さんが担う……)


怜「……」ガタガタ


照(……はずなんだけど、様子が変だね? 怯えてるみたいだけど……私、そんなに怖がられてる?)


小蒔「ツモ。500オール」


照(早い、そういう能力なのかな? ……って、あれ? 照魔鏡が使えない……?)

怜「……」

小蒔「……」


ゴオオオオオオ


照「!?」ビクッ

怜「……やっぱ、宮永さんでもアカンか」

照(……今の、マジで? 冗談だよね? インチキにも限度があるでしょ?)

怜(幸か不幸か、準決勝からずっと組んで打っとる……宮永さんとは共闘する縁があるらしいな。これ、宮永さんが隣におらんかったら逃げ出しとるで?)

照(……これは、MVPとか言ってる場合じゃない。園城寺さんが怯えてたのは私じゃなくてこっちか。園城寺さんが味方だと心強いけど……味方になるような状況にならないでほしかった)

561: 2015/09/16(水) 17:08:04.48 ID:yHp/JiGh0

咲「……は?」

和「咲さん、どうかしましたか?」

咲「いやいやいやいや、それは無しでしょ。反則でしょ。てゆうかそんなの使えるならさっき使ってよ」

京太郎「お約束の大げさリアクションか。今度は何だって言うんだ?」

優希「さっきのも結局照さんが何事もなくあっさり封じたから、もうなに言われても驚かないじょ」

久「というか、何も起きてないように見えるんだけど。むしろ様子見の一局が500オールで済んでラッキーってとこじゃない? 何をそんなに怯えてるのかしら」

まこ「そうじゃのう……で、一体どんなインチキを使って来たんじゃ今回は?」


咲「……落ち着いて聞いて下さい。本当にインチキですから、取り乱さないでください」


まこ「わかったからはよう言いんさい」


咲「卓についてる三人の能力を強化してコピーした上で、相手の能力を完全に無効化する能力です」


久「……は?」

咲「今の神代さんは、一局捨てる必要なく照魔鏡を使い、打点の制約なしで連続和了して、多分二~三巡先を常に視つつ、ペンチャンとカンチャンがあったら次巡で必ずツモります……強化されてるから下手すると両面も必ずツモるかも」

優希「……は?」

咲「また、能力を無効化されているので、お姉ちゃんも園城寺さんも荒川さんも、今は一切の能力なしで普通に打つしかありません」

京太郎「……は?」

咲「やっぱり、そういう反応になるよね? ついでに言っとくと、あらゆる能力を使いこなせるだけの地力も備えてるよ。能力によっては使いこなせないと逆にハンデになるからね」

和「……は?」

咲「あらゆる能力を使いこなせるぐらいの地力だから、私とか衣ちゃんぐらいじゃないと能力なしでも勝負にならないんじゃないかな。それに加えて能力を強化してコピーした上に相手の能力を無効化だから、まともにやったら絶対勝てない」

まこ「おいおいおい……あ、いや、分かったぞ。照さんなら素の実力だけでなんとかなるんじゃろ?」

久「あ、なるほど。慌てることなかったわね」

優希「心配して損したじぇ」

和「まったく、人騒がせな……」


京太郎「……染谷先輩、それ、『やったか!?』の類のフラグじゃ……」


咲「残念ながら、能力なしでも私が勝負になるかどうかぐらいなので、能力込みだとお姉ちゃんでも勝てないと思います。せめてプラマイゼロをコピーしてくれてれば少なくとも大敗はなかったんですけど……完全に裏目になりましたね」

まこ「」

京太郎「染谷先輩……あんた、あんたなんてことを……っ!!」

まこ「わ、わしのせいじゃなかろ!?」

562: 2015/09/16(水) 17:08:48.68 ID:yHp/JiGh0

『ツモ、1200オール』


やえ「荒川が能力を失って、神代が荒川の能力を使っているように見えるぞ。ついでに、打点が連続和了みたいな刻み方をしている。妹の方の印象が強いが、姉も同じ特徴をそなえていたはずだ……これは……」

はやり「……こりゃとんでもないねー。健夜ちゃんでも無理でしょこれ」

良子「アンビリーバボー……まだこんな力を隠していたとは……」

由華「先輩、これ、どうなってるんですか?」

やえ「『能力を奪う』が現段階での仮説だ。あまりに非常識すぎるが、それ以外で現状が説明できん」

紀子「それは見れば分かる、何が起きてそうなってるのかを解説するのがやえの仕事」

やえ「無茶言うな、そんなもん見ただけで分かるか!」

はやり「良子ちゃん分かる?」

良子「……ノー、春からも聞いていない能力です。 ただ、これはヒトが扱える力では……おそらく神代さんも扱えてはいない。力に使われています」

やえ「全く、あのインチキ巫女はどこまで非常識なんだ……さっきので一周して弱い能力に戻るはずじゃないのか?」

紀子「……で、あれに対してはどうやって対抗する?」

やえ「……園城寺と宮永がやってるのと同じことをするよ。いくら非常識な化け物でも、一度に手に持てる牌は13枚、ツモれるのは配牌を合わせても30枚程度だ。三人で協力して手牌の39枚とツモった牌をやりくりすれば、10万点が尽きるまでに親を二回流すぐらいはできるだろうさ」

由華「園城寺さんたちと同じって、あの二人、何かしてますか?」

やえ「気付かないようなら、あの卓に居たら100万点持っていようと確実に飛ぶ。よく見ろ巽。来年エースとして晩成を背負うお前は、これに自力で気付けなければいけない」

はやり「よく見ろって言われてもはやり全然わかんない☆ 教えてっ☆」

やえ「……困ったプロも居たものだな。これは解説だけじゃなく後輩の指導を兼ねてるからまだ言えん。巽が気付くまで待っていてくれ」

563: 2015/09/16(水) 17:09:40.08 ID:yHp/JiGh0


『ツモ、1600オール』


咲「荒川さん、早く気付いて……」

久「そうね、咲の口から照でも勝てないって言葉が出るなら本当にヤバいんでしょうから、三対一は大前提よね。早く神代さんの危険性に気付いてもらわないと……」

咲「そんなのとっくに気付いてるはずです。荒川さんの能力って分かりやすいので、無効化されたらその瞬間に気付きます」

和「確かに……だとすると、咲さんは何に気付けと言ってるんですか?」

咲「園城寺さんとお姉ちゃん、しっかり見せるように手牌を倒してから、山とかの牌を先に落として、手牌を最後に穴に落としてるの、分かるかな?」

京太郎「あ、本当だ。てことは、和了れなかった手牌を意図的に見せてるってことか? 何のためにそんなこと……」

咲「左から順に、萬子、筒子、索子、字牌……数牌は左から小さい順に、字牌は左から東南西北白発中の順になるように理牌してる」

和「……照さんは普段そういう並べ方はしませんよね?」

久「並べ方が規則的だと、切った牌がどこから出て来たかで手牌が読めるからね。普段はそういう読み方をしてくる相手に対しての対策として、意識して不規則な理牌をしてるわ」

まこ「……規則的だと読まれやすいのにあえてやっとるっちゅうことは、お互いの手牌を読みやすくするために理牌の仕方を統一しとるんじゃな?」

咲「その通りです。お姉ちゃんはともかく、他の二人はそうしないと手牌を完全に読むなんて不可能ですから。アレに対抗するなら三人分の手牌をフル活用しないといけません」

優希「けど、そしたら相手にも手牌を読まれるじぇ?」

咲「理牌しないで打っても読まれるから関係ないよ、どうせ読まれてるからデメリットは皆無、味方が読みやすくなるっていうメリットだけが残る」

和「……園城寺さんも照さんも、それを即座に実行しているわけですか」

咲「二局目が始まった時には理牌は統一してたね。以心伝心って感じ」


久「むー……」

まこ「なに変な顔しとるんじゃ?」

久「照と園城寺さん、なんかあの二人いい感じじゃない? さっきも目を合わせて微笑み合ってたし」

まこ「……連携が上手く行くのは悪いことじゃなかろ?」

久「そうなんだけど……」

564: 2015/09/16(水) 17:10:16.39 ID:yHp/JiGh0

東1局 6本場


憩(……間違いなさそうやな。左から順に萬子、筒子、索子。数字は小さい順、字牌も順番に並べとる。そんなら……さっき出て来た8萬と1筒の位置から察するに……)

打:9m


照「槓」

槓:9999m


憩(やっぱりそこに9萬の暗刻があるか。しかも、それを槓してくれるってことは……うちが気付いたのに気付いて、答え合わせのために一局捨ててるんか……ここまでの6局、無駄にさせてもうたな)

怜(気付いたみたいやな。ようやくスタートラインに立てた……けど、ここまでくれば荒川の読みは私より鋭い。次からが本番や)


小蒔「ツモ」パタン


23456m345s赤56788p ツモ:7m 


小蒔「3200オール」


怜(次はおそらく七対子で3900オール……もしくは30符4翻で4600オールやろな)

怜(満貫級の手やから少しは時間がかかってくれるはず……ってのは甘いな、宮永さんなら5巡もかけずに跳満ぐらいは仕上げてくる。こいつもその例に漏れず、やろな)

怜(わたしの仕事はとにかく鳴いてこいつのツモを飛ばし、宮永さんと荒川にツモを回すこと。可能なら鳴いた勢いで和了ってもいい)

怜(親さえ流せば連続和了は途切れて打点も大人しくなる。ここで止めるで!!)

565: 2015/09/16(水) 17:10:56.49 ID:yHp/JiGh0

東一局 七本場


怜手牌

1244m2256p11s南南北


憩「……」

打:南


怜「ポン」

ポン:南南南 打:北


怜(流石やな。からくりに気付きさえすれば、読みは全国トップクラス。あの化けもんを止めるにはあんたは欠かせん)

怜(欲を言えば小走さんがそこに座っててくれると最高なんやけどな。あの人なら二局目で私らに合わせてくれたやろうから)

怜(ま、あの人と私らが異常なだけで、普通なら10万点が尽きるまでなすすべなく削られる。その前に気付いて対応出来る人間が同卓しとるだけでもありがたい。しかも、気付いた途端にこの鋭さや。文句を言ったらバチが当たるわ)


照「……」タン

打:4m


怜「ポン」

ポン:444m 打:2m


照「……」

打:2m

憩「……」

打:1s


怜「ポン」

ポン:111s 打:1m


照「……」

打:7p


怜「ロン。南のみ、3100」


2256p ポン:南南南 444m 111s ロン:7p


怜(にしても、鳴いて二人にツモを回すのが役目やって言った途端に二人して私のサポートに回りおってからに)

憩(鳴けるもん全部鳴くし、鳴くために対子揃えとるし、二人分のツモをサポートに回せるから、手牌さえ読めれば園城寺さんにトスするのが一番楽なんよ)

照(とりあえず親番は凌げた、これで次の親番までは進む。けど、なにか嫌な予感が……)

566: 2015/09/16(水) 17:11:28.58 ID:yHp/JiGh0

東二局


小蒔「ツモ。2000・4000」


怜「……は? 満貫やって?」

憩(……さっきまで、小蒔ちゃんは連続和了をしとった。最後は2600オールに6本ついて3200オール、積み棒なしなら7800、ありなら9600……嫌な感じやな。連続和了の始点で満貫っちゅうのはあり得ん話やないけど……)

照(……ヤバい。これ多分すごくヤバいやつだ)

567: 2015/09/16(水) 17:12:12.05 ID:yHp/JiGh0


『ツモ。3000・6000』


咲「……げっ!?」

久「咲、女の子がそういう声を出しちゃダメよ」

京太郎「なあ、これ、まさか……?」

咲「ごめん、読み間違えたよ……神代さんがコピーした連続和了、『打点の制約がない』んじゃなくて、『他の人間が和了っても打点がリセットされない』みたい」

和「なんですかそのインチキ!? もはや連続してないじゃないですか!?」

咲「だから、最初にインチキだって言ったでしょ!!」

優希「流石の照さんも、今回ばかりは本気で苦しそうだじぇ……」

咲「止めても打点が上がったまま……これ、地獄だね。こうなると、荒川さんが気付くまでに六局……止めるまでに七局和了らせたのが悔やまれる」

568: 2015/09/16(水) 17:12:55.42 ID:yHp/JiGh0

『ツモ。4000・8000』


やえ「……能力を奪う、では説明がつかんな。奪った上で強化するのか」

紀子「これは流石に笑えない……」

由華「……宮永妹の連続和了、チートだと思ってましたけど、リセットかかる分だけまだ良心的だったんですね」


はやり(これ、マジで健夜ちゃんとあたしと咏ちゃんで挑んでも勝てないんじゃない? 能力を奪って強化コピーするっていうなら、むしろ強い能力を持ってる分だけ勝ち目は薄くなる。かと言って、能力なしでも実力は高そうだから、そこらの素人じゃ絶対勝てない……どうすれば勝てる……?)


良子「はやりさん、アイドルらしからぬ表情になってます。スマイル」

はやり「はややっ☆ はやりとしたことが呆気にとられちゃった☆ てへっ☆」


やえ「……無理するな」


はやり「……え?」

やえ「たとえトッププロでも、いや、トッププロだからこそ、自分が勝てそうにない相手が高校生の試合で出て来たら平静でいられないものだろう?」

はやり「……」

やえ「気休めを言うなら、アレは毎回使えるわけじゃない。半荘10回打てば、最後の二~三回は厳しいとしても、瑞原プロなら勝ち越せるはずだ」

はやり「……うん。ありがと」


紀子(由華、日菜。後で緊急会議を招集したい)

由華(了解です)

日菜(はあ……まったくもう、やえってば……)


良子「ん? どうしたお前ら? 急に黙って」

紀子「上田には関係ない」
由華「上田先輩には関係ありません」
日菜「良子ちゃんには関係ないから気にしなくていいよ」

良子「問答無用で仲間外れっ!? 酷くね!?」

やえ「上田、気が散るから騒ぐな」

良子「なんで一瞬であたしアウェーの空気作るのお前ら!? どこで打ち合わせしてんの!?」


紀子「上田は全人類の敵。打ち合わせなどせずとも、私たちが人間である限り、本能でアウェーの空気を形成する」

良子「紀子のセリフが冗談に聞こえないぐらい見事なチームワークですよね皆さん!!」


良子「……上田さん、苦労なされてますね。まさか小走さんにまでこのような扱いをされるとは……」

良子「か、戒能プロ……あなたは敵に回らないでいてくれるんですか!?」

良子「どうにもエアーを読むというのはあまり得意ではなく……」

良子「戒能プロおおお……」グスン

良子「よしよし」

569: 2015/09/16(水) 17:13:47.90 ID:yHp/JiGh0

南一局 


照(神代さんの親番……とてもマジですごくヤバい。ここが正念場!!)

怜(18000、24300、36600、48900……48900の後どうなるか知らんけど、それだけでもう試合は決まったようなもんやろな。24300辺りでもう致命傷や)

憩(子で三連続和了を許したとはいえ、なにも出来ずにただ和了られたわけやない。いい勝負は出来とる。苦しいながらも4:6ぐらいの形勢のはずや。あとは確率の問題、たまたま三回連続で向こうに針が振れただけ……)

照(実際、均衡は取れてるはず。一歩届かないのが力の差なのか、偶然が向こうに良いほうに転がり続けてるだけなのか……それすらも実力差なのかもしれないけど……)


怜(とりあえず、そろそろエースが仕事してや。こっちの手はバラバラやからな)

打:3m


照「チー」

チー:234m 打:白


憩(……まだ一巡目やし、読みも何もあったもんやない。なんで鳴かせられるんやあの人? うちにまで同じこと求められても流石に困るで?
……今切った牌の右に二枚あるな。どっちやろ?)

打:発


照「ポン」

ポン:発発発 打:8s


憩(またわっかりやすいヒントやなあ……?????8s??で、多分字牌ではない……索子の8より後ろにある牌は字牌を除けば一種類だけや)

打:9s


照「ポン」

ポン:999s 打:5p


憩(5p????8s……6筒から7索までやけど、6筒と7索なら5筒も8索も切らんやろうから、7筒から6索までの9種類やな)

怜「(神代のツモを飛ばすために鳴いとくか)ポン」

ポン:赤5赤55p


怜(……さて、私の手牌はこんな感じなんやけど)


46779m1136p東中


怜(こんなん6筒切るしかないやろ。他にサポートになる可能性がある牌があらへんし)

打:6p


照「ロン。発のみ、1300」


6688p ポン:発発発 999s チー:234m ロン:6p



憩(……って、6筒持っとるんかい!? なんでそれがわかんねん。凄いな、園城寺さん……もしかして、理牌以外にうちが気付いてないヒントがあるんやろか? しかし、まさか公式戦で通しなんかしとるわけないしな……やっぱり、監督みたいに感覚で牌が分かるんやろか?)

570: 2015/09/16(水) 17:14:46.78 ID:yHp/JiGh0

咲「……ふう。これで、最悪でも次鋒戦にはたどり着けますね」

久「そうね。ここから三連続でツモられても大丈夫……てゆうか、子の倍満の後だから次は三倍満だけど、役満の次はどうなるのかしら?」

咲「一周して1000点に戻ってくれればいいんですけど、多分そういう救済措置とは無縁の存在でしょうから、もう一度役満じゃないですかね?」

まこ「ダブル以上ありなら、最後には大四喜字一色四暗刻の天和を繰り返す鬼畜マシーンになるわけじゃな?」

咲「そこまで行くってことはトビなしでしょうから、永遠に続きますね。最悪すぎる……」

京太郎「いや、四槓子と四暗刻の単騎をつけた方が高いからそれは最終形じゃない」

咲「本当にどうでもいい気休めをありがとう……とにかく、今回はここから三連続で和了られても6000・12000と8000・16000二回だから、最悪のケースでもトビ終了はない。四位の白糸台でも今の時点で75000残ってるからね」

京太郎「それなんだが、咲よ」

咲「何かな京ちゃん?」


京太郎「24000、32000、32000って可能性はないのか?」


咲「……へ?」

まこ「それなら飛ぶのう……まあ、前半で照さんが直撃とるのに苦労したように、あの三人は守りに定評のある面子じゃけえ、流石にだいじょ……」


『ロン』


京太郎「染谷先輩!! さっきからなんでフラグばっか立てるんですか!? どんだけ旗立てるんですか? 新大陸を発見した探検隊か何かですか!?」

まこ「わ、わしのせいじゃなかろ!?」

571: 2015/09/16(水) 17:15:16.37 ID:yHp/JiGh0

『32000』


咲「って、ちょっと待って、なにそれ!? 三倍満は!?」

久「……役満を連発出来るなら、律儀に一個ずつ段階を踏んで上げる必要もないのよね。照もいきなり満貫に飛んだりするし」

咲「冷静に言ってる場合じゃないですよ! どこですか振り込んだのは!?」

和「……それが、その……私も自分の目が信じられないのですが……」

優希「照さんだじょ……ドラを差し込んで数え役満……」

咲「はあ!? なにやってるのお姉ちゃん!?」

572: 2015/09/16(水) 17:16:28.95 ID:yHp/JiGh0

照「……」

怜(冗談やろ……宮永さんがミスで役満を振り込む?)

憩(いや、あの場面でわざわざドラを切る理由がない……何が狙いや?)


照「……」


怜(浮かれんなってことか。私らが三倍満、役満、役満と直撃喰らったらトビ終了の可能性がある。それを確実に避けるためには、後で絶対に振り込みを避けられる自分が振り込んでおくのが確実)

憩(……そうか、ここで10万削りきられずに生き延びてもそれで終わりやない。次鋒以降は20万点以上持った永水を削らなアカンのや)

憩(つまり、うちらの気を引き締めるため。三回ツモられても逃げ切りやっていううちらの油断を消し去るために……自分が役満食らっても、後の二局でうちらがヌルイ打牌する方が困ると)

怜(三倍満、役満、役満と喰らったら、清澄は88000稼がれた分と30000削られるのを合わせて永水から118000差をつけられることになる。うちらの気を引き締めて後の二局を凌げれば32000を差し込んだ差引き64000だけの差で済む。大儲けや)

怜(三人がかりで最善の打牌をして止められるかどうか分からん相手や……気が緩んだら止められるはずがない。後の二局を考えれば合理的な判断……だからって、役満を差し込むなんて狂気の沙汰や)

怜(その狂気の沙汰をさせてしまったんやな……申し訳ない。完全に助かったって思って気ぃ緩めてたわ)

憩(それも、うちらがしっかり打てば残り二局を抑えられる可能性があると踏んどるからや。その期待、全力で応えましょ)

怜(役満狙いなら手牌も読みやすいし、いくらなんでも手作りに時間がかかるはずや。あと二局、凌げるはず)


照(……助かったと思って油断してた、マジで読めてなかった。どうしよう、咲と竹井さんに怒られるかも……)

照(……残り二局は気を引き締めて全力で打とう。油断よくない)

573: 2015/09/16(水) 17:17:01.17 ID:yHp/JiGh0

先鋒戦終了


白糸台  72500(-27300)
清澄   53000(-51500)
千里山  76200(-20000)
永水  198300(+99800)

574: 2015/09/16(水) 17:17:34.19 ID:yHp/JiGh0

照「ありがとうございました」

憩「お疲れさまでした……うち、焼き鳥とか多分5年ぶりぐらいですわ」

怜「あー、生きた心地がせんわ……お疲れ様でした」


小蒔「……くぅ……くぅ……」スヤスヤ


憩「……変なもんは出てったみたいやな。こうしてると普通に可愛い子なんやけど……」

照「正直、神代さんには恐怖しか感じない。出来れば二度と会いたくない」

憩「そないなこと言わんと仲よくしてあげてくださいな。起きてる時はええ子ですから」

怜「寝てれば天使ってのは分かるけど、起きてるとええ子で寝てると悪鬼羅刹ってのは斬新やな」

照「常識の破壊児と名付けよう」

憩「……確かに、常識は色々ぶっ壊されましたね」

怜「ダサいんで秩序の破壊者とかにしましょ、中二心をわしづかみや」

憩「それもそれでどうかと……」

照「ダサい……」ガーン

575: 2015/09/16(水) 17:18:35.14 ID:yHp/JiGh0

小蒔「んぁ……ふえっ!? お、おはようございます!!」ガバッ


照「ひっ!?」ビクッ

憩「起きてる時は安全なんで、怖がらんでも大丈夫ですって」

怜「と言われても……」


小蒔「え、えっと、試合は……?」


照「とても酷い目に遭った」

怜「まあ、それがなければ宮永さんにもっと酷い目に遭わされてた可能性があるから私は感謝しとるけど」

憩「せやな。清澄がぶっちぎりトップよりかはまだ希望がある展開やし」

照「うぐっ……」

怜「ところで、私以外はお迎えが来とるみたいやな」

照「へ?」クルッ


久(いつまでいちゃついてるのかしら? 終わったならさっさと来なさい)ゴゴゴ

照(……竹井さん、さっきの役満に振り込んだのを怒ってる……? どうしよう……)


菫(さて、憩、お前への説教はまだ済んでなかったな?)ゴゴゴ

憩(あらら……根に持つなあ……どうやって誤魔化したもんやろか)


霞(小蒔ちゃん、なんであんなモノ降ろしたのか聞かせてもらうわよ?)ゴゴゴ

小蒔「あ、霞ちゃんが迎えに来てくれました。きっと神様を連続で降ろした私を心配してくれたんですね。お心づかいに甘えさせてもらいましょう」

618: 2015/09/23(水) 19:16:46.05 ID:br/E1JqI0

菫「さて、試合が始まる前の説教の続きをするとしようか?」

憩「まあまあ菫さん、次に試合を控えとるわけやし、説教は菫さんの試合の後にしましょ」

菫「……まあ、説教をしている場合でもないことだしな。この点差は想定外だぞ」

憩「と言っても、むしろ次鋒に繋げたことを褒めてほしいぐらいでして……」

菫「監督と大星が部屋の隅で怯えていたぐらいだからな。それについては良くやったと言っておこう」

憩「(怯えてたのは菫さんにやと思うけど……)ありがとうございます! ほな、尭深ちゃん達と優勝へ向けた善後策を練って来ます!」

菫「後半には間に合わせてくれよ。前半は私の判断で動く」

憩「りょーかい、何とかしますわ」

619: 2015/09/23(水) 19:17:22.61 ID:br/E1JqI0

霞「小蒔ちゃん……プラマイゼロに抗わずに半荘一回流すって話だったはずよね?」

小蒔「それが、気付いたら眠ってしまっていて……でも、何があったんですか? 神様を降ろしたとしても、憩さんたちにここまでの大差で勝てるとはとても……」

霞「……」

春「ここまで姫様に起きたいろいろな異常、かなりの部分はアレが仕込んだのではないかと思う」

巴「え?」

春「そうでも考えないと腑に落ちないことが多い」

初美「???」

春「まず、卓上に神様の力を全て注ぐのはとても難しい。なのに、最近の姫様は易々とそれを成していた」

霞「……そうね、私が使っているモノだって、力を全て注げれば9面の神々のいずれにも劣ることはない怪物。それが出来ないのは私の未熟だと思っていたけど……」

春「姫様の力だとも思えない。そもそも、神様を降ろしている時の姫様は眠っている。姫様の制御と無関係なら、神様側に原因があるはず」

初美「神様の力を卓上に集中することが出来ていた理由が、アレがそうなるように仕向けていたからだとでも言う気ですかー?」

春「そう。そして、全てのお膳立てを整えて、決勝の舞台の最高の対戦相手を迎えて満を持してアレが直々に出て来た。姫様の意思とも関係なく」

霞「……神様たちは、元々小蒔ちゃんの意志とは無関係に降りてきているような気がするけど」

春「それでも、予兆はあった。姫様が眠そうにしている時に降りてくる。最近は意識がはっきりしてるのにいきなり降りてきていた」

初美「確かに、最近は強そうな相手と試合するといきなり寝てましたよー」

霞「だとすると、アレは自在に姫様に降りて来れる、姫様が眠くなくても任意のタイミングで降ろせる……ということになってしまうのだけど……」

春「多分、それぐらい出来る。9面様全てを退けたあの化け物三人を圧倒するほどの化け物」

巴「それって、マズイんじゃ……いつアレが降りてきてその力を麻雀以外に使うか分からないってことでしょ?」

小蒔「……」

春「……強い相手と麻雀を打つためにここまで手の込んだことをするようなモノだから危険はないと思う。ただの麻雀狂」

初美「そんな神様居るんですかねー? いくらはるるの言うことでも流石に眉唾ものですよー?」

春「あくまで仮説……けど、ここまで姫様に起きたことを総合すると、これが一番納得できる仮説だと思う」ポリ

620: 2015/09/23(水) 19:18:12.79 ID:br/E1JqI0

怜「……」

照(隠れてる)

久「……」ピキ

怜「あの……宮永さん? 手ぇ引いて引っ張って来られても状況が全く分からんのやけど?」

照「多分怒られるから、私の弁護をしてほしい」

怜「……は?」

久「へえ……怒られる自覚はあるのね?」

照「……流石に役満に無警戒に振り込んだのは反省してる」

久「……は?」

怜「……は?」

照「……え?(なにこの反応?)」

久(何を言ってるのかしらこの子は……? いえ、冷静に考えましょう、この子は想像を絶するポンコツよ、何か私の想像を超えたところで勘違いしてるはず、考えなさい竹井久)

怜「……無警戒に振り込んだ?」

照「うん。流石に痛かった」

怜「生き残りが確定して気が抜けとる私らの目を覚まさせるためやなくて、素で無警戒に振り込んだ?」

照「……ん?」

怜「あのまま気が抜けた打ち方したら神代を止められんまま大差がつくから、それよりは私らの気を引き締めて役満一回で済む方がマシとか、そういう計算でやったんと違うんか?」

照(なるほど、その発想はなかった……これは行ける)

久「その言い訳があったか、って顔に出てるわよ?」

照「!?」ビクッ

怜「……」

照「なんのことか分からない。私は二人の気を引き締めるためにあえて役満に振り込んだ。結果として、振り込んだ後の二局では神代さんを抑えることに成功した」キリッ

怜「……あの、宮永さん?」

照「……なに?」

怜「聞きにくいんやけど……宮永さんって、結構抜けとるところあったりする?」

久「ええ、麻雀で大ボケかますのは初めて見たけど、私生活では基本的にずっとこれよ」

照「これとは失礼な」

怜「……なんか私の中の宮永さんのイメージが盛大に音を立てて崩れたわ。で、もう帰ってええかな?」

久「ええ、引きとめてしまって悪かったわね」

怜「ほな、またどこかで」


照「……他校にまで間違ったイメージが拡散された……今からでも園城寺さんに私の真の姿を教えてこないと」

久「真の姿が拡散されるだけだからやめときなさい。ほら、帰るわよ」

621: 2015/09/23(水) 19:18:50.86 ID:br/E1JqI0

怜「ただいま」

セーラ「おう、お疲れさん」

竜華「遅かったやんな?」

怜「……意外な一面を見て来たわ。もう一人も、竜華に喧嘩売って来たっちゅうからどんな怖い人かと思ってたら別に普通の人やったしな」

浩子「……?」

雅枝「ま、他校と縁を繋いどくのはええことやで。二位で折り返したんやから多少の寄り道は大目に見よう」

怜「席順に助けられましたわ。親かぶりが一番安い席やったんで……そんで、泉は?」

雅枝「もう行ったで? 途中で会わんかったか?」

怜「あー……寄り道したせいで違う道通ってもうたんかな」

浩子「なんかアドバイスでも?」

怜「いや、ほら、小走さんに仕込まれた戦法に文句言ってたから不安でな」

浩子「あれに関してはうちも疑問なんですけどね。ホンマにあんなんで勝てるんですか?」

怜「泉がまともに打ったら弘世さんに蜂の巣にされるだけってのは私ら三人の共通見解やろ?」

浩子「そりゃそうですけど……他に手があるやろってことです」

怜「ないからアレになったんやろ」

浩子「……泉が常識に囚われない打ち方をすることが出来れば……」

怜「それが出来んからアレしかないって話になったんやろ。気持ちは分からんでもないが」

浩子「……先輩らが引退した後のことが急に不安になって来ました」

セーラ「まあ、俺ら三人は今年の北大阪のトップ3やからな、抜けたら痛いやろ」

雅枝「そういう問題と違うわ、ま、先のことは先のことや。今は目の前の試合に集中せえ」

622: 2015/09/23(水) 19:19:16.77 ID:br/E1JqI0

『ロン、3900』

『げほっ!?』

『ツモじゃ、3000・6000!!』

『うげっ!? 親被り!?』

『……それ、頂きます。ロン、2000』

『ほおおおおおおっ!?』

『ロン、5800』

『うぎょおおおおお!?』

623: 2015/09/23(水) 19:19:58.75 ID:br/E1JqI0


やえ「ったく、あのガキは本当に口だけ一人前で困る」

日菜「で、どうなの?」

やえ「ダメだな。染谷は弘世が攪乱するだろうし、狩宿は地力で五分。私が仕込んだ通りに打たないとしても弘世に気をつければ酷いことにはならんだろう……という読みだったんだが、点差に惑わされて普段通りにすら打てていない」

はやり「弘世さんだけ気をつければ大丈夫っていうのはどういうことかな☆ そういえば、昨日の特訓ではあの子ほったらかしだったよね☆」

紀子「それは……」

やえ「……染谷の牌譜を洗ったんだが、おそらく、奴は相当打ってる」

由華「ごくり……」

やえ「だが、初心者らしき相手と個人戦で当った時、妙に調子が悪そうだった。また、長野に何人か居る特殊な打ち手も苦手としていた」

紀子「……中級者以上の、特殊な能力を持たない相手に対して発動する能力?」

やえ「まあ、能力に近いがな。そうではなく、対局の経験がそういう相手に偏っているんだと推測した。街の雀荘の客を相手に長年打っている感じだな」

由華「特殊な能力を持ったプロ級の打ち手や、腕に自信の全くない初心者がいない環境での経験……雀荘のメンバー経験が長いってことですか?」

やえ「家の近くに雀荘があって、そこに入り浸っていたんじゃないかと思う。入り浸れるということは経営者は親戚か何かだろうな。そして、そのレベルの闘牌に関してのみ経験が豊富になっている」

紀子「雀荘のメンバー……なら、弘世のような異常に対しては経験がない?」

やえ「多分な。経験を積んだとしても、メインになってる部分に比べて少ない経験しか積めていないはずだ」

由華「ということは……」

やえ「染谷に関しては弘世が攪乱してくれるはずだ、それだけでは他の二人が普通に打てば大きく崩れることはないだろうが、弘世が居るだけで染谷の脅威は抑えられる。だから弘世にだけ気をつければ酷いことにはならん」

由華「なるほど……けど、それにとどまらず、勝つための策を授けたんですよね?」

やえ「ああ……今述べたように、普通に打っても弘世に気をつければ酷いことにはならんが、弘世に加えてもう一人が染谷の経験にない打ち方をすれば染谷はボロボロになるだろう。更に、染谷の経験にも存在しないその打ち方は弘世の読みも狂わせる。攻める気のない狩宿は無視していい。四人のうち二人がボロボロで一人が守りに徹するなら、勝つのは残った一人だ」

はやり「けど、染谷さんって新道寺の安河内さんにも対応してたよね☆ まともな打ち方じゃ何やっても経験の範疇なんじゃないかな☆ かと言って、染谷さんが対応出来なそうな特殊な能力前提の打ち方は特殊な能力を持たないあの子には真似出来ない☆」

やえ「そこで、奴の経験の範囲をおさらいだ。特殊な能力を持った打ち手と、もう一つ対象外があるだろう?」

由華「……まさか、二条さんに授けた対策って?」

やえ「今後の成長を度外視してこの決勝の次鋒戦を凌ぐだけなら、あいつは初心者のような打ち方に徹すればいい。そこで、『タンヤオと翻牌以外の役を忘れて四組と頭一組を集めろ。役なしでもいいからリーチしてツモれ』と指導した」

良子「いや、それは……二条じゃなくても反発するだろ。なんで上級者が初心者の打ち方しなきゃいけないんだよ」

やえ「それ以外に今から仕込んで間に合う戦法がないんだから仕方ないだろ。弘世と染谷を同時に凌げて今のあいつに実行可能な対策はそれしかない。あいつの豪運があれば初心者の打ち方でも十分勝てるはずだ」

624: 2015/09/23(水) 19:20:30.95 ID:br/E1JqI0

次鋒戦前半終了


白糸台  85000(+12500)
清澄   76900(+23900)
千里山  46100(-30100)
永水  192000(ー 6300)

625: 2015/09/23(水) 19:22:01.70 ID:br/E1JqI0

怜「振り込み、ツモられを繰り返して全局マイナス……ある意味天才やな。親番二回ともツモられとるし」

浩子「笑ってる場合じゃありません。しばいたろかあのガキ……」

竜華「これは流石に厳しいで……」

雅枝「……普段通りの打ち方すら出来とらんな。この点差じゃ逆転はもう厳しい……ここまでか……」

セーラ「……」

竜華「……セーラ?」


セーラ「……あいつはそんなヤワなやつやない。俺、行って来るわ」


怜「セーラがそう言う未来は視えとったで」

浩子「江口先輩はともかく、園城寺先輩なにを言い出すんですか?」

セーラ「……そんなもんまで視えるんか、便利やなそれ。ついでに、次鋒戦がどうなるかも見てやってくれ」

怜「私が視んでもわかるやろそんなもん、セーラに見えてるんと同じ未来が私にも視えとるよ」

セーラ「そっか。なら安心やな」

怜「せやから、はよ行ってやらんとな」

セーラ「おう、行って来る」


バタン


竜華「なあなあ怜、それホンマに未来みえるん? 麻雀以外でも?」

怜「見えるわけないやろ。セーラがどうするかってのは分かったし、次鋒戦がどうなるかも予想はつくけど、別に能力使って見たわけやない」

浩子「……江口先輩とは付き合い長いから、分かるでしょうね。うちだって分かりましたし」

竜華「え? うち分からんかったよ?」

怜「親友失格やな」

浩子「戦友としても失格ですね」

雅枝「薄情な部長やな、園城寺、代わりに部長やらんか?」

竜華「せやかて分からんもんは分からんって!」

浩子「(無視)で、次鋒戦、どうなると思います?」

怜「んなもん決まっとるやろ。うちらの次期エースが『エースの仕事』をするに決まっとる。言われた通りの打ち方さえできれば決して過度な期待やない」

浩子「次期エースはうちが務めるつもりなんですけど……まあ、それが出来たらあいつをエースに据えることを考えてやってもええな」

626: 2015/09/23(水) 19:22:53.33 ID:br/E1JqI0

ガン! ガンッ!


セーラ「ん? なんの音やろ?」


ガンッ! ガンッ!!


セーラ「……おい、なにやっとるんや!?」


泉「ひゃははははは!!! うちが、うちが弱いから悪いんや!! うちなんて豆腐の角に頭ぶつけて氏んだらええねん!!」ガンッ

セーラ「おい!! 落ち着け泉!! 額から血が出とるやないか!!」

泉「止めんなぁああ!!」

セーラ「止めるわ大ボケ!! なにやっとんねんこの馬鹿!!」

ゲシッ!


泉「痛っ!?」


セーラ「正気に戻ったか?」

泉「……一応」

セーラ「なにやっとんねんホンマに。アホなことしとらんと、後半どうするか考えろや」

泉「……考えて、頭を壁に打ち付けてるんです」

セーラ「……意味が分からんな。頭がおかしくなったんか?」

泉「変なプライド捨てて小走さんに言われた通り打とうって……前半もそう思いながら打ってたんですけどね」

セーラ「全く出来とらんかったな」

泉「……アホにならんといかんのです。牌効率なんかまったく分からんアホにならんと、言われた通りの打ち方が出来んのです……せやから……」

セーラ「……とりあえず、血、拭けや。ほれ」

泉「江口先輩、ハンカチとか持ち歩いてたんですね」

セーラ「ホンマはガラやないんやけど、試合の度に通路でシクシク泣いとる手のかかる後輩がおるからな。反省せえよ?」

泉「……ちょっとええ匂いしますね」クンクン

セーラ「か、嗅ぐなボケええええ!!!」ベシッ

泉「ほげっ!?」ガンッ


セーラ「あ……すまん、力入れすぎた。そこまで吹っ飛ぶとは……泉?」


泉「……」

セーラ「ま、まさか、打ち所が悪くて……そ、そんな……」ガタガタ

泉「……」

627: 2015/09/23(水) 19:23:25.45 ID:br/E1JqI0

泉「……」

セーラ「おい、泉。いい加減悪ふざけが過ぎるで? 次に名前呼んで反応せんかったら人呼ぶからな?」

泉「……」ムクリ

セーラ「あ、起きたか……タメが長いわ!! 心配させんなやホンマに」

泉「ほきょ?」

セーラ「……泉?」

泉「ほけらえむ」

セーラ「……」タラ

泉「ふけっきょらー!!」


タッタッタ


セーラ「……ヤバい、本気で壊れた……アカン……どうすればいいんや……」


『もけっきょろー!! けっきょろけっきょらけっきょるー!!』

628: 2015/09/23(水) 19:23:58.36 ID:br/E1JqI0

『つもっきょー!! 4000・8000!!』

『リーチ一発ツモ三暗刻裏三!? わしの親番に何ちゅうことを!?』


『ほきょ……? きょきょっ!! 2索ろんっほー!! 12000!!』

『な、なんだこいつの打ち筋は……私には確かにお前が将来4索を切るのが視えて4索待ちのカンチャンに寄せたのに、3334555s……23456索待ちの三面張だと? そこから4索を切るつもりだったというのか!?』


『リーチじゃと……? わけわからん捨て牌しおってからに……通れ!!』

『ろむぎょ! 12000っぽー!!』

『混一色三暗刻……しかもツモり四暗刻の形かい……親じゃから振った方が安いが、なんなんじゃこいつは!?』


『きょけーっけけ!! 8000・16000!!』

『……ここまでしのいだのに、最後の最後で役満の親被りか……姫様、申し訳ありません……』

『くっそお……妙な打ち方する連中が二人もおるせいで河が記憶と全然一致せん……』

『……ふがいない結果だな。これでは憩を叱ることも出来ん』

629: 2015/09/23(水) 19:24:26.58 ID:br/E1JqI0

次鋒戦終了


白糸台  65600(ー19400)
清澄   41300(ー35600)
千里山 122100(+76000)
永水  171000(ー21000)

630: 2015/09/23(水) 19:25:07.39 ID:br/E1JqI0

怜「……勝ったんはええ。それはなりよりや」

浩子「ええ、それは歓迎すべきことです」


『きょきょけー!!』


雅枝「江口、撫でてほしいみたいやで?」

セーラ「おー、よしよし」ナデナデ

『ほむるるるる』

竜華「嬉しいみたいやな。最初は面喰らったけど、慣れれば案外カワイイな」


怜「……勝利の代償に泉がアホに……とんでもないアホになってもうた……」

浩子「……おばちゃんが言語を理解できるようなので、飼育には問題ありません。不幸中の幸いですね」

怜「そうか……で、泉は後半できっちり荒川流の『エースの仕事』をして見せたわけやけど、次期エースの座は……確か、考えたるって言ってたやんな?」

浩子「猿をエースに据えたら千里山の恥です。次期エースは予定通りうちが背負いますんで」

怜「……せやろなあ……」

631: 2015/09/23(水) 19:25:37.68 ID:br/E1JqI0

ゆみ「……染谷以外の清澄メンバーなら控えの片岡を含めて誰を出しても十分渡り合えただろうに、相性が最悪だったな。しかし、あんな手でくるとは……」

美穂子「初心者が大会に出て来るなんて想定外だったでしょうね。特殊な打ち方は牌譜を見て研究していたけど、初心者対策は全く出来てないはずです。本当の初心者ではなく初心者のような打ち方をする上級者ですが、結果として染谷さんの記憶にない打ち方をする人間が同卓者三人中二人になりました」

ゆみ「染谷の牌譜を、個人戦の物まで含めて相当研究しないとあの対策は考えつかない。染谷の対応力が豊富な対局経験に基づくものであること、更にその対局経験の穴まで見抜けないと……流石は千里山の北大阪連続代表を支える名将 愛宕雅枝と言ったところだな」

美穂子「上級者ゆえに二回戦では染谷さんに対応されましたが、決勝までに対策して見せた。これがシード常連の名門の力……見習わないといけませんね」

佳織「私も打ち始めた頃はさっきの二条さんみたいな感じだったんだろうなあ……」

智美「佳織の豪運で初心者みたいな打ち方したらああなるだろうなー。それはそれで咲への対策になるかもなー」

ゆみ「いや、一年生にして千里山のレギュラーまで上り詰めた上級者だから応用が出来るんだ。今の妹尾の腕で真似をしたらスタイルを崩すだけだろう」

モモ「腕によって何が幸運かってのは違うっすからね。かおりん先輩の運は今のかおりん先輩の腕に合わせた豪運っす」

透華「それにしても千里山……なりふり構わぬ手で目立ちに来ますわね。初心者のような打ち方に合わせてあのようなパフォーマンスを……」

ゆみ(お前じゃないんだからそんなことしないだろう)

智紀「来年は透華がそうすればいい、私は遠慮させてもらうけど」

一「あ、ともきー、おかえり。衣をお手洗いに連れて行くだけなのに随分遅かったね?」

純「おい、ちょっと待て、なんで智紀だけなんだ? 衣はどこだ? トイレに行ったんだろ?」

智紀「先鋒でのアレに当てられて落ち着きがなくなっていたから気をつけてはいたのだけど、ちょっと目を離した隙に逃げられた、見つからなかったから萩原さんに任せた」

純「んな無責任な……いやまあ、あの人に任せたなら無責任でもねえか」

智紀「迷衣レーダーがあるから大丈夫」

純「アレ、どんな技術で作ってんだろうな?」

智紀「それが分かるなら苦労はしない。服を着替えても有効だから、おそらくカチューシャに発信機をつけてるのではないかと推測しているけど……」


658: 2015/09/30(水) 19:26:39.49 ID:quAnDCmi0

ハギヨシ「……反応は控室のある区画。レーダーに誤差がないとすれば永水女子の控室ですか。困りましたね、あそこは特殊で選手はおろか学校にも連絡が取れませんし」

ハギヨシ「ここから行くのが一番近いようですし、何かあれば駆けつけられるよう、この近くで待機しておきましょう」

~~~~~~

巴「……戻りました。 あの、その子供は……まさか……?」

衣(小蒔に抱えられてる)「子供じゃない、衣だ!!」

小蒔(衣をだっこしてる)「あ、おかえりなさい……彼女はですね、さっきお手洗いに行ったときに出会いまして……」

衣「衣にかかれば探し人を見つけるなど造作もないということだ!!」

春「……昨年度団体戦MVP」ポリ

巴「天江衣……だよねやっぱり」

初美(139㎝)「はるる、いい加減デマをばらまくのはやめるですよー。他人の空似ですー、こんなチビガキと一緒にしたら天江選手に失礼ですよー」

衣(127㎝)「うるさいぞちびっこ!! 衣は高校二年生だ!! 子供じゃないぞ!!」プンスカ

初美「私は高三ですよー! 高二のガキンチョはお姉さんの言うこと聞いて大人しくおうちに帰るです―!」

衣「なっ!? 嘘をつくな!! こんなちっこい高校生三年生がいるものか!! 一年生のユーキよりも小さいくせに!!」ガー

初美「私ぐらいの身長は探せば他にもいるですー!! てゆうかお前が言うなですー!! そしてユーキってだれですかー!?」ギャーギャー


霞「見ての通り、小蒔ちゃんに懐いてしまって離れないの。さっきの試合を見ながら的確な指摘をしていたし、私たちには必要だと思うのだけど……」

春「多分、私より頼りになる」

初美「こんなちびっこが役に立つはずないですー!! 巴、私と一緒にこいつを追い出す側に回るですよー!! そもそも部外者の立ち入りは禁止ですー!! どうやって入ったですかー!?」

衣「普通に歩いて入ったに決まっているだろう!! 衣にとって立ち入り禁止など無きに等しい!!」

巴「霞さんが必要とおっしゃるなら、私は反対しませんけど……」

初美「なっ!? 巴、私を裏切るですかー!?」

衣「ふふん、貴様のようなちっこい生き物に賛同する人間などいないということだ!!」

初美「うるさいですよー!! 私はそんなにちっこくないですー!! 宮守の中堅だって私よりちっこかったですよー!」

小蒔「衣さん、初美ちゃん、喧嘩はダメですよ?」

衣「む……こまきが言うならやめておこう」

初美「うぐぐ……こんなアウェイには居られないです――!! 私はもう行くですよ――!!」

霞「あっ、待って初美ちゃん、作戦を……」

初美「そんなもんなくてもリードを広げて帰って来ますよー!! あとははるると霞ちゃんが完封すればうちの優勝ですー!!」


バタン!!

659: 2015/09/30(水) 19:27:17.23 ID:quAnDCmi0

霞「……で、ああ言って出て行ったけど、初美ちゃんの言った通りになるかしら?」

衣「なるはずがなかろう。ののかはまだしも、貴様の相手は咲だし、ちびっこの相手はヒサだぞ」

小蒔「衣さん、貴様などと言ってはいけません。霞ちゃんにはちゃんと名前があるんですから」

衣「……カスミの相手は咲だし、ちびっこの相手はヒサだぞ」

小蒔「はい、よくできました」ナデナデ

衣「えへへー」テレテレ

巴(はっちゃんへのちびっこ呼びはスルー!?)

春(言ってもすぐ戻るから、姫様も諦めたみたい)ポリ

660: 2015/09/30(水) 19:29:02.21 ID:quAnDCmi0

霞「……具体的にどうなるの?」

衣「ちびっこがまともに勝負できるのは北家の時だけだろう。他はヒサの独壇場だ、親が流れるまでは耐えるしかないだろうな」

巴「親が流れるまでって……流さなきゃ親は流れないよ?」

春「……そうでもない、渋谷尭深がいる」ポリ

衣「左様。あやつはそこまでの第一打を任意の時点で回収できる。ヒサが親を続ければ、遅くとも12本場では流せる」

霞「……は?」

春「一昨日見せた天和は、やはり能力……? けど、12本場?」

衣「咲が言うには、最後に捨てた二牌が次の局の第一ツモと第二ツモになるとのことだったな。それが正しいのは衣も確認した。第一打から12牌を回収し、二牌を前局から回収すれば14牌が揃う。そのために必要なのは12局、0本場から11本場まで凌げば12本場で必ず流せることになる。親番の前から第一打を仕込んでいればもっと早い」

霞「え? いや、ちょっと待って、ついて行けないのだけど? 渋谷尭深はオーラスで役満を和了る能力じゃ……?」

衣「(無視)ヒサの親番がちびっこの北家と重なれば良いがな。そうでなければ、ヒサが延々と連荘して白糸台が役満で流す、それを四回繰り返して中堅戦が終わるだろう。いや、その前に試合が終わるな」

春「……清澄の中堅のあれは能力で和了っているわけではない、運次第で連荘を止めることも可能」ポリ

衣「……確かにな。だが、運次第というのはどれだけの幸運なのだ? 10局に一度程度しか訪れぬ幸運を四度引き寄せるのか? それならちびっこが二度続けてヒサの上家に座る方が期待できるぞ」

春「……」ポリポリ

小蒔「そんな……なんとかなりませんか?」

衣「あのちびっこの代わりに衣を出せば良い。逆にこの中堅戦で勝負を決めてやろう!」ピョン

霞「……真面目にお願いするわね。次にふざけたら、お仕置きよ?」ニコッ

衣「ひっ!?」ビクッ

春「私からもお願いする。私たちが勝つにはどうすればいいか、教えてほしい」

小蒔「お願いします、衣さん」

衣「……中堅のヒサを乗り切ってもその後に咲やののかも控えている。確かに大きな点差はあるが、点差以上に戦力差が大きすぎて勝つ方法が見当たらん」

小蒔「そんな……」

春「……一人で試合を終わらせるだけの力を持った選手を相手にリードを守って終えなければならない。それを少なくとも二回。厳しいのは当然」

衣「……とはいえ、衣も負けるはずのない戦で負けた。その時、咲は一対一での勝負を避け、他家を使ってみせた。咲以外を侮った衣の慢心が敗因だが、うまく使えば衣を倒せるほどの駒が咲以外に二人もあの卓に居たのがなによりも大きい」

霞「……」

衣「今回も、三校で手を組めば清澄を倒せるだけの戦力が揃っている。他家を使う術を知らぬ今の衣には実際に勝ちに繋がる策は見出せんが、やり方次第ではどのチームにも優勝できる可能性があるのだろう。咲ならばどのチームに居ても勝機を見出すはずだ」

巴「三校で、手を組めば……」

霞「だとしても、最大の戦力を揃えている清澄が有利なのは変わらないわね」

衣「当然だ。四人の実力が拮抗しているなら勝利の可能性は等しく、誰かが抜きんでているなら他の三人はそれを警戒して協力しながら戦う。それでも一人で三人を倒せるなら必ず勝つだろう。勝利への道の広さは実力差に比例する」

春「……あの卓の勢力図はどうなっているの?」

衣「単純な戦力なら大雑把に5:2:2:2と言ったところだろうな。後は相性の問題だが、能力を持たず勝負どころがない千里山が如何にも苦しい」

霞「三人で協力してようやく止められる相手……しかし、渋谷尭深は清澄に協力する可能性が高い」

衣「単純に戦力を足し合わせたら絶望的だな。しかし、ヒサは他人を使うのが上手くはないし、白糸台の中堅も能力こそ強力だが地力はあの卓のレベルでは高いとはいえない……協力しても効果はほとんどなく、ヒサの戦力は5のままだ。ちびっこは他と手を組めば5対4で勝負にはなる。さっき話した通りの展開ならば、ちびっこと同様に千里山が苦しい立場だ。手を組むならそこだろうな」

巴「千里山との共闘……はっちゃん……作戦聞かずに行っちゃったけど、大丈夫かな……」

661: 2015/09/30(水) 19:31:05.52 ID:quAnDCmi0

久「私の親番で薄墨さんが北家の場合は少し考えるとして、基本的に私は和了りまくればいいんでしょ?」

照「江口さんは火力重視で、速度で竹井さんに追いつくのは難しい。止めるとしたら薄墨さんだけど、新子さんとかに苦戦してたから竹井さんを止めるのは厳しいはず」

咲「渋谷さんは役満があるから部長が連荘するのを利用できます、よほど高い手を連発したり点差がつきすぎなければ無理に止めには来ないはずです」

和「連荘による荒稼ぎと、その連荘で第一打を溜めて舞い込む役満。大きくへこんでいる我々と白糸台の利害が一致しますね。上位二校を追い上げる形になります」

京太郎「部長に和了られまくった挙句、流すのも渋谷さんの役満ツモか……永水と千里山はやってらんねえな」

久「って言っても、私は無限に和了り続けるってわけじゃないからね。江口セーラや薄墨初美が相手ならあっさり流されるかもよ?」

照「……三対一とかにならなければ、親番の度に5~6本場は行けると思う」

咲「親番二回ともそれだけ積むと、渋谷さんの親が部長より後なら確実に一回は親役満が飛んで来ますから、最低16000は稼がないとマイナスですよ」

久「最低値の500オールを5回和了っただけだと仮定したって積み棒足して親番一回で10500稼げるんだから、親番二回で16000は余裕でしょ。トップを取るために64000差をつけておくほうが目標じゃないかしら?」

優希「あれ……16000って結構大きい点数だったような……64000差ってなんだじょ?」

京太郎「倍満は安手。ここはそういう世界なんだ、受け入れろ」

優希「人間界に帰りたいじょ……」

まこ「まったくじゃ、どいつもこいつも満貫ぐらいの頻度で役満をポンポン和了りおってからに。普通なら役満なんぞインハイ団体戦を通して一回出るかどうかじゃぞ?」

咲「役満どころか天和が二回出ましたから。非常識ですよね本当に」

まこ「非常識って単語がおんしの口から出よるんか!?」

662: 2015/09/30(水) 19:33:50.45 ID:quAnDCmi0

憩「ま、あれは事故ですわな。半荘一回丸ごと事故です」

菫「面目ない……」

憩「ま、うちも人のこと言える立場やなし。先のことを考えましょ」

監督「そうね。あなた達は五人全員がどこに行ってもエースを張れる実力者。どんな状況からでも逆転は可能よ」

菫「くっ……チームを売った監督のくせに知ったような口を……私自身が次鋒で無様を晒していなければ永遠に発言権を奪っておくのに……」

淡「でもさー、これ真面目に危なくない? どうするのケイー? 大エース淡ちゃんに全てお任せしちゃう?」

憩「全部ってわけにはいかんけど、淡ちゃんには頑張ってもらわんとな。むしろ、この状況やと淡ちゃんがガチンコで妹さんに勝ってくれる前提やないと作戦が立たんわ」

淡「わーい!! 私、ついにエース昇格!!」

誠子「調子に乗るなって」コツン

淡「あいたっ」

尭深「……清澄が最下位、うちが三番手、千里山と永水は大差をつけて逃げている。厳しいね」

憩「ま、中堅は清澄に乗っかるしかないやろな。連荘してもらってゲージ溜めて親番で役満炸裂や」

監督「13牌フルに溜めこめば、薄墨の北家と被っても確実に勝てる。準決勝では少ない枚数で薄墨を止められるかを試すために東と北を抱えたからお互いの足を引っ張り合う形になった。けど、清澄の中堅のおかげで今回はフルチャージできるのだから、風牌を避けて確実に天和を和了ってしまえばいい」

尭深「けど、それだと清澄がうち以上に稼ぐのは避けられません……」

憩「今はうちが勝っとるんやから、多少稼ぎ負けたってええ。それより上を削るのが大事や。逃げ切りなんか狙われたら清澄封じの共闘すら出来ん」

菫「そうだな。特に永水との差はいかんともしがたい。追いつくために、今は清澄を利用させてもらおう」

憩「この中堅で清澄と協力して永水との差を詰める。その後、副将を五分に近い形で折り返せれば、後は淡ちゃんに任せてええやろ」

監督「……咲も一筋縄で何とかなる相手じゃないけど、仕方ないわね。この点差で勝機があるプランが存在してること自体が奇跡みたいなものだし」

菫「昨年なら、この時点で勝負は終わったと解説が言い出す点差だな。最下位の清澄は倍満にでも振ったらトビも見えてくる点数、対して盤石なリードを保ってトップを独走する永水」

憩「やられる側になるとは思いませんでしたわー」

誠子「随分とノリが軽いな、この状況で」

憩「いやー、あんなふざけたもん相手に打ったら10万点とかカスみたいなもんやって。照さんがおらんかったら間違いなくあそこで終わりやった」

尭深「どうせ終わっていた勝負なら、続いてるだけ儲けものってことかな?」

憩「そのとーり。しかも、どうやって止めるか頭を悩ませてた清澄が都合よく最下位に落ちてくれとる。むしろ、普通に予想しとったどの展開よりも勝機があるぐらいや」

監督「ここまでの実績から考えて、竹井久と咲は他校も警戒するはず。その分、普段ならあり得ないぐらいに私たちへのマークは緩むわ。憩と菫以外は徹底的にマークされた状況しか経験してないでしょう? ノーマークで打つ最初で最後の機会よ、思う存分暴れて来なさい」

663: 2015/09/30(水) 19:35:11.59 ID:quAnDCmi0

怜「……っちゅうのが予想される展開やな。永水が共闘してくれればええけど、あそこは個々の実力が高いだけで状況を見通して手を打てる参謀がおらんようやから、そういう全体を見通した戦略的な動きについては期待薄や」

浩子「というか、化け物三人の特性を考えたらそうならざるを得ませんね。薄墨が竹井の上家に座ってくれるのを祈るばかりですわ」

セーラ「おい、二人して俺の存在は無視か」

泉「けっきょきょー!!」

浩子「現実見ましょ。二回戦で遊び半分の竹井を相手に手も足も出んかったやないですか」

セーラ「せやから竹井対策を聞いとるんやろが」

怜「悪待ちは防ぎようがないし、早和了りは実力やしなあ……対策って言っても『実力でねじ伏せろ』しかないで」

竜華「実力やったら仕方ないな……宮永妹の連続和了とかと違ってその場その場で対応してるわけやろ?」

怜「そうなるな」

セーラ「それやったら、俺も激戦区北大阪の個人戦代表やし、実力で……」

怜「……セーラなら何とかなると思いたいんやけどな」

浩子「せやから、現実見ましょ。永水と共闘出来たとしても厳しいところ、単独でどうにかしようっちゅうのは無理ですわ」

セーラ「……」

怜「負けるにしても白糸台にも清澄にもこれだけ点差をつけとる。負けを抑えられれば逃げ切りの目もある」

セーラ「永水の逃げ切りもどうにかせなアカンやろ。それはそれで大差や」

怜「微妙な立場になってもうたなあ……竹井さんがおらんかったらここでセーラにガツンと稼いでもらいたいとこなんやけど」

雅枝「……もう時間や。予想される展開はさっき園城寺が言った通り。最優先目標はあの化け物の連荘を止めること、そしたら渋谷の役満も妨害できる」

セーラ「その止め方がわからんから話し合っとるんですけど……」

雅枝「麻雀は運の要素が強いゲームや、チャンスを逃さんかったらなんとかなる。今まで打ってきた自分の打ち方をしっかり出しきるんや」

セーラ「……はい」

664: 2015/09/30(水) 19:36:11.31 ID:quAnDCmi0

『まさかまさかの展開――!! 大差が付いたまま次鋒戦が決着!! けど、勝負はまだまだ分からない――!! ……よね?』

『トップの永水女子は三校からマークされる立場です。早和了りが得意な竹井選手も居ますし、薄墨選手といえども簡単には和了らせてもらえないでしょう。それに加えて、役満などの大物手を成就させることの多い渋谷選手も居ます。下手をすればこの中堅戦で順位が逆になるということもあり得ます』

『……トップの永水と最下位の清澄で10万点以上差がついてますけど?』

『それでも、です。席順も影響しますが、それだけの力を持った選手ですから』

『おおっと――!! 小鍛冶プロも大絶賛、わずか半荘二回でこの点差をひっくり返せるというのか――!!?』

『ここでひっくり返るようだと、他校には厳しい展開です。かと言って、白糸台も千里山も現状の点差では永水を削るのが最優先……竹井選手に警戒しながらも永水女子を狙う、難しい立ち回りを要求されます』

『どうやら小鍛治プロは本気で言ってるみたいだぞー!! 小鍛治プロも大絶賛の竹井選手が試合の鍵になりそうだー! そして他の三校はどう動くのか―――!?』

665: 2015/09/30(水) 19:37:32.42 ID:quAnDCmi0

起家 初美「よろしくですよー」

南家 尭深「よろしくお願いします」

西家 セーラ「(……都合よく薄墨が竹井の上家に座ってはくれんか)よろしく」

北家 久「(薄墨さんの席順はクリア。無茶せず和了りやめすれば渋谷さんの役満も二回喰らうことはないわね。理想的な席順かしら?)よろしくね」

666: 2015/09/30(水) 19:38:40.13 ID:quAnDCmi0

東一局


久(……まずは様子見。私が様子見したって照みたいに一局捨てれば全部見えるってわけじゃないけど、今回の鍵は親番でしっかり稼ぐことだもの、そのための情報は大事。情報は少しでも多いほうがいい)

久(薄墨初美が親で、渋谷尭深は東一局では何の能力も使えない素の状態になる、江口セーラは言わずもがな……地力だけの勝負になるこの状況で、誰が和了るのかしら?)

初美(……清澄からやる気が感じられませんよー。最初は様子見ってことですかー? この点差で余裕かましてくれるもんですー)

尭深(連荘以外では竹井さんに和了ってほしくないなあ……うちと清澄の点差は大きくないから逆転されちゃう。かと言って、他の二校も削らなきゃいけないし……そしたら私が和了るしかないよね。厳しいけど、やってみる)


セーラ(また様子見か。ええで、そうやって余裕かましてれば喰らいつく隙が出来るってもんや)

667: 2015/09/30(水) 19:39:26.90 ID:quAnDCmi0

セーラ「ツモ。面前ツモ・混一色・一気通貫・白。3000・6000」

123456789s白白発発 ツモ:白 


久(……ま、この面子で私が様子見したらあなたが和了るわよね)

尭深(手数は少ないけど一発一発が大きい……けど、このメンバーだと火力でも脅威とは言えない。多分今までのスタイルじゃ大敗するだけ……だとしたら、このひとはどう動くんだろう? 何もせず終わりということはないはず、警戒しておかないと)

初美(うう……好きにすればいいですよー!! 次で耳揃えて返してもらうですー!!)

669: 2015/09/30(水) 19:40:08.94 ID:quAnDCmi0

東二局 


久「……」

打:北


初美「ポンですよー」

ポン:北北北


尭深(竹井さん……なんで北をあっさり……? 確かに一枚目だけど、薄墨さんには暗槓もあるのに……)

セーラ(自分の手牌に東がなくて、東を切れんようにして他家の手を止めようってことか? いや……そんなセコい真似する奴やないな)

久「~♪」

打:東


初美「……は?」ヒクッ


久「あら? 鳴かないの?」


初美「……なんのつもりか知りませんけど上等ですよー。ほえ面かかせてやるですー……ポン!!」

ポン:東東東

670: 2015/09/30(水) 19:44:37.31 ID:quAnDCmi0

咲「この局はもらったね」

照「こんな簡単に引っかかるとは……」

優希「……のどちゃん、解説頼むじょ」

和「いえ、私もわけがわからないのですが……」

京太郎「ここから南と西をツモって役満コースだろ? それを阻止するようなネタが仕込んであるのか?」

咲「……それ。南と西をツモって役満コースってところ。おかしいと思わない?」

まこ「……いんや、おかしくないじゃろ? そういう能力じゃけえ。能力ならここまでの試合でそれ以上のインチキがいくらでもあったしのう」

照「そういう話ではない。それに何巡かかるかという話」

和「……今からツモるところなので、5巡かかりますね」

咲「はい、問題です。お姉ちゃんに5巡与えたらどうなりますか?」

京太郎「……ほぼ確実に和了ることが確認されてるな」

照「ふふん」ドヤ

まこ「……なるほど、そういうことか」

咲「はい、そういうことです。部長はプラマイゼロがかかったオーラスでお姉ちゃんと速度勝負するために磨きをかけて来たわけですから、お姉ちゃんが和了れる大抵のケースでは部長も和了れる。更に、部長には点数に制限もない」

優希「つまり……どういうことだじょ?」

和「薄墨初美は、五巡後に役満を和了るだけの置物と化したということですね?」

照「正解。北と東を切る時に既に二巡手が進んでるわけだし、しめて七巡もあれば竹井さんなら余裕で和了れる。なんなら一回切ってフリテンにしても和了れる。その間、ツモるのが他家が一枚も持ってない、自分にしか使えない風牌のみというのはとても辛い」

京太郎「……えっと、能力で阻止するとかそういう話じゃなくて?」

咲「単純に、部長相手に五ターンクロックなんて間に合うはずないでしょ、って話だね。駆け引きも何もないゴリ押し」

京太郎「麻雀でクロックとか言うな。これ、ダブリーの三面張でも全員ベタオリなら2割は勝負つかずに流局するゲームだぞ」

咲「役満を諦めて混一色で手を打てばもう少し早いかもしれないけど、いずれにしても南と西しかツモれないから普通の手恰好からなら和了るのに三巡はかかるよ」

671: 2015/09/30(水) 19:46:53.83 ID:quAnDCmi0

久(ま、単騎を南か西に変えて次で和了りって形なら東と北を鳴いてから二巡で和了れるけどね。5巡与えたら役満だし、早和了りに切り替えたなら大きなアドバンテージがあるし、北家の薄墨初美が脅威なのは間違いない。けど……どうやら今回は役満狙う気満々みたいだし、相手を舐めてるのはどっちなのかを教えてあげないとね)


久「ツモ。400・700」

23456s678p12399m ツモ:4s


初美「なっ!?」

初美(私が役満を和了るまでに自分が和了る……こんな、こんな力技で私の役満を潰すって言うんですかー!? こんなのって……)

尭深(そっか……役満が完成するまでに和了れる自信があるんだ。だとすれば、役満を狙いに行く5巡が隙になる。竹井さんが居るこの卓では薄墨さんは役満を狙えない)

セーラ(どうせ竹井に追いつけんから薄墨が役満を狙うことはないし、仮に狙っても竹井に阻止されて和了れん。つまり、卓に竹井久や宮永照みたいな異常な速度で和了る化け物がおる時点で薄墨初美の役満は全く警戒する必要がない。怜とフナQの読み通りやな)

セーラ(こういうのの結果全てをやる前からわかっとるんやから、そら立ち回りも上手くなるわ。んで、化け物相手には全部分かってても何も出来んってのもよくわかる。なるほど、あいつはいつもこんな感じでおれらと戦っとったんか)

セーラ(……小走の奴、オレと洋榎が小走と同じぐらい上手くやれば竹井は勝てん相手じゃないとか言ってたな)

セーラ(小走と同じぐらいってのは無理としても、怜やフナQにもらった知識に加えて竹井相手に一回打った経験、今は竹井を侮る気持ちなんかこれっぽっちもないし、立ち回りにはそれなりに自信がある。しかし、あいつは洋榎の代わりになるんかな? 渋谷は清澄の味方らしいから、手を組む相手は一人しかおらんのやけど……)

672: 2015/09/30(水) 19:48:24.09 ID:quAnDCmi0

東三局


久「ツモ。1000・2000」


123m222345p4568s ツモ:8s ドラ:8s 


尭深(早い……)

セーラ(その手で6筒切りってのもおかしいけど、今更やろな)

初美(……うぐぐ……このままじゃマズイですよー……なにか手を打たないと……なにか……)

セーラ(さ、地獄の始まりや。こいつの連荘を止めんと試合が終わる。一応、あんまり続くようなら渋谷が役満で止めてくれることになっとるけど、そんなんで止めたら負けみたいなもん。なんとかして止めんと……)

尭深(今回は清澄がラス親。そこでの連荘は役満に繋がらない可能性が高い。東場の親は既に流れてしまったから、自分の親で役満を和了るにはここで連荘してもらうしかない。後半の清澄の親……オーラスは千里山と協力して流すけど、この親は続けてもらわないと困る)

セーラ(席順を考えると、渋谷は全力で清澄の味方をするやろな。ここはおれと薄墨で流すしかない……わかっとるか薄墨?)

初美(とにかく速攻ですよー、あいつの早和了りは能力じゃないからどっかで先を越すことも出来るはずですー。北家ばかりが目立つ私ですがー、普通に打ってもそこらの県代表のエース格ぐらいの力はあるんですよー!!)

673: 2015/09/30(水) 19:49:53.79 ID:quAnDCmi0

衣「……あれはダメだな。周りが全く見えていない、独力であのちびっこがヒサに敵う道理もない。ボロボロになるぞ」

霞「そんなこと言わないでちょうだい」

衣「事実だ、受け入れろ。しかし、今回は席順に救われた」

小蒔「席順ですか……? 初美ちゃんが竹井さんの上家に座るのが理想なのでは?」

衣「それはそうだが、ヒサがラス親なのが大きい。ちびっこが木偶のままでも、南場のヒサの親は千里山と白糸台が協力して早い段階で止めるだろう」

春「……東場だけなら、連荘を止められずに渋谷尭深の役満で流すことになっても、まだ逆転には至らない?」ポリ

衣「左様。手酷くやられるとしても、勝ち目を持って後半につなげられよう。前半を凌いだなら、休憩中に作戦を伝えれば良い」

春「……」ポリ

小蒔「……初美ちゃん」

衣「後半、ちびっこがヒサの上家に座れば上手く行く。そうならずとも、千里山との共闘が成れば中堅戦は凌げよう。悲観することはないぞこまき」

685: 2015/10/07(水) 16:51:24.96 ID:7wj3I2mx0

久「ツモ、三色同刻・三暗刻、4500オール」


11p11145688s111m ツモ:1p


初美(うぐぐ……四巡でその手とか、こいつの運はどうなってるんですかー!?)

尭深(ここまでは早い分だけ安かったけど……塵も積もればなんとやらで、既に親倍以上には稼いでる。役満の親かぶりでもマイナスにはならない)

尭深(そもそも、役満を和了れるかどうか……薄墨さんが役満を狙えないのと同様、私も、配牌で大三元が確定していても、残りがバラバラだと当てに出来ない。確実に和了れるのは天和や地和だけ……空振りすれば、その後12局の間、竹井さんを止める手段を失う……)

尭深(仮に、次の六本場で空振りしたとしたら……7本場から12局……仮に全部500オールだとしても積み棒を入れて合計21000オール……今の時点でも逆転されてるんだし、そこからの21000オールは許容できない。次以降に竹井さんが大きな手を連発して清澄を止めなきゃいけない場面になったとしても、確実に和了れる時まで動くわけにはいかない。私が止められなかったら、確実に止める手段はなくなってしまうんだから……)


セーラ(……こいつ相手に「上手く立ち回る」って、なんやろな? 正直、勝てる方法なんか全く浮かばんのやけど……)

セーラ(勝てるっちゅうのは小走の発言が正しいことが前提や、けど、あいつにも見落としはある。勝てるっちゅうのは、もしかしたらこいつの力を読み誤ったのかもしれん。けど、勝てるって言ったわけやから、ここを凌ぐことぐらいは「上手く立ち回れば」出来るはずやんな?)

セーラ(考えろ……俺に出来ることはなんや? こいつ相手に通じる武器はなんや?)


久「次、6本場ね」ポチ


ガラガラガラ……


686: 2015/10/07(水) 16:52:39.69 ID:7wj3I2mx0


まこ「照さんがやられて、わしもしくじって、こりゃどうなることかと思ったが……流石にこいつは心配要らんかったな」

照「その気になれば一人で全部決められるからね。実際に予選と本選で一回ずつ一人で終わらせてるし。私、要らなかったんじゃないかな?」

和「人数は足りてましたしね。部長がこれほどの強さなら一人でも十分優勝を狙える、私や優希や染谷先輩がいて、更に咲さんが居れば常識的にはもはや盤石。照さんをスカウトするために咲さんの退部を賭けて勝負というのは、今思えば狂気の沙汰でしたね」

京太郎「まあ、結果としては、照さんが居なかったらこの決勝の先鋒で終わってたからそれは大英断だったんだが……」

優希「あの時点でそんなこと分かるはずもないわけだし、全国優勝が目的ならあの勝負を受けるのはおかしいじょ」

和「優希は怒っていいと思いますよ。あれがなければレギュラーだったわけですから」

咲「……まあ、そしたら今頃は表彰式が始まってるんだけどね。仮に私か部長が先鋒でも、あの神代さんを相手にして次鋒に繋ぐのは無理……っていうか、前半のでも他家を守りながら半荘二回凌ぐのは厳しいよ。お姉ちゃんだから普通に抑えてたけど、あれ、本当に化け物だから」

和「うっ……」

照「竹井さんは本気で未来が視えてるんじゃないかと疑うときがある。じゃないと私にこだわった理由が説明できない」

咲「ないない、流石にそれはないよお姉ちゃん」


まこ「ま、なんにせよ順調すぎるぐらいに順調。断トツで折り返すじゃろうし、そこから咲と和なら万が一もないじゃろ」


京太郎「……」

咲「……」

優希「……」

照「……どうしたのみんな?」

和「さあ? 三人とも、いきなり黙ってどうしたんですか?」

優希「苦戦フラグだじょ……」

咲「……さて、何が起きるかな?」

京太郎「ここまでの検討で何も出来ないって言われてる薄墨さんと江口さんが何かしでかすんじゃないか? まさか、渋谷さんが進化するのか?」

咲「……どっちも考えにくいけど……染谷先輩の立てた苦戦フラグ、何が起きても不思議じゃないよ」

和「染谷先輩の発言が戦局を左右するとか、そんなオカルトありえません」

咲「やめて! 原村さんまでフラグ強化しないで! てゆうかオカルト肯定派になったんじゃなかったの!?」

和「麻雀はともかく、それ以外でそんな非現実的なことあるはずないじゃないですか」

咲「かなりの部分が私のせいなのかもしれないけど、麻雀をこの世で唯一のオカルトが起きる場って認識するのはどうかと思うよ?」

照「……私が居ない間になにやったの染谷さん?」

京太郎「それが……その……」

まこ「あ、あれはわしのせいじゃなかろ!?」

687: 2015/10/07(水) 16:53:35.42 ID:7wj3I2mx0

久「ツモ。1300オールね」


23456p12345677s ツモ:1p


セーラ(積み棒がなければ700オールやろ……くそ、積み棒の点数が重くなってきおった)

尭深(……憩ちゃんが5本も積んだら大体誰かが飛んで終わるから、こういう風に積み棒の重みを感じるのは初めてかも)

初美(まずいですよー……インハイルールにアレは採用されてませんがー、こういうのは運気に大きな影響を与えますー。達成されたらそれなりの損害を覚悟しないといけませんよー)

尭深(これで七本場……けど、安手ならまだ泳がせておける。それに、出来ることなら、他人の親を流すためじゃなく自分の親で役満を和了りたい)

688: 2015/10/07(水) 16:55:33.92 ID:7wj3I2mx0

東四局7本場 ドラ:2p


初美(思えばー、さっきの満貫もルール次第……普通の決めでは八連荘が成立していましたー。そこまでの安手から一転して満貫級の手になっていたのも、八連荘に相当する和了で運気が膨れ上がっていたからと考えられますー)

初美(次の八本場は、どんなルールだろうと問答無用で八連荘ですー。さっきのでも満貫でしたしー、下手をすれば素で役満の手が入る可能性までありますよー)

初美(私の鬼門は運気の流れを利用した能力ですから私にとって運の流れというのは大事ですー、そういうの気にしなそうな他の二人はともかく、私には八連荘の成立は大きく影響してしまいますー)

初美(ここが正念場、ここで止めなければ今あるリードは消し飛ぶに違いないですよー)

初美(その大事な場面で、三巡でこの形、この手なら勝負になるはずですよー。二翻縛りを考慮して混一色に向かいますー)


1p3456777s東東白白白 ツモ:北

打:1p


久「ロン」


初美「……へ?」

久「三色ドラ1、7300」


23p12344666s123m ロン:1p


初美「あ……」ジワッ

689: 2015/10/07(水) 16:56:21.98 ID:7wj3I2mx0

小蒔「は、初美ちゃん……ダメです、気持ちまで負けては……心を強く持って……」

巴「はっちゃん……」

霞「不味いわね……この状態でまだ清澄の親が続くなんて……」


衣「ん? 何を言っているのだ、これ以上は続かぬぞ?」


霞「……は?」

小蒔「えっと、衣さん、それは気休めではなく……?」

衣「衣は嘘は言わない」

小蒔「ご、ごめんなさい……でも、なんで清澄の親がここで途切れると?」

衣「まあみていろ。ヒサの奴め、完全に忘れているようだ」

巴「忘れる……何をですか?」

春「……裏切るタイミング」ポリ

霞「……? よくわからないわ、どういうことなの、春?」

春「見れば分かる」

690: 2015/10/07(水) 16:57:01.54 ID:7wj3I2mx0

東四局 八本場


久(八本場って、やっぱり燃えるわねー。ルールにないってわかってても、誰だって意識するでしょ?)

久(さ、親が和了り続けての八本場、正真正銘の八連荘よ。インハイ決勝の大舞台で、大ピンチで迎えた中堅戦、チームの命運を託されたキャプテン、起氏回生の八連荘を賭けた一局……これ以上燃えるシチュエーションを用意しろって方が無理ね。さあ、かかって来なさい!!)

691: 2015/10/07(水) 16:57:53.44 ID:7wj3I2mx0

照「『起氏回生の八連荘』って色々おかしいでしょ」

咲「……? いきなり何言ってるのお姉ちゃん?」

照「……なんとなく、竹井さんがそんなことを言ってるような気がした」

和「あの人なら何を言ってもおかしくはないですが……流石にそんな意味不明な単語は言わないでしょう」

照「確かに……いやしかし……」

京太郎「いや、あの人なら何を言ってもおかしくない」

咲「京ちゃんまで……まあいいけど、部長、忘れてないかな?」

優希「……? 何をだじょ?」

まこ「あの顔は、絶対忘れとるぞ」

咲「……これだけ稼げば大丈夫だとは思うけど。さっきのフラグがこれの前フリなら、安心していいかな?」

692: 2015/10/07(水) 17:00:43.43 ID:7wj3I2mx0

尭深「……」

打:南


セーラ「ポン!」

ポン:南南南 打:発


久「……あら?」

久(……ひい、ふう、みい……そっか、今が12局目……ここで流して、次の南一局が13局目。渋谷尭深の親は、その次)

久(任意のタイミングでそこまでの局の第一打を回収する能力の他に、前の局の最後の捨て牌が第一ツモに、その前の捨て牌が第二ツモになる能力があるのよね? だとすると、大三元以外の部分で三面張でも作っておいて、前の局のラストで和了り牌を仕込めば天和ね……)

久(私の親を流すために使うよりは、自分の親番で使う方が16000点ほど稼ぎが多いものね。ここで私を止める側に回るのは的確な判断だわ)

久(それよりも、問題は……)


セーラ「ロン! 4400や!!」

1234678m ポン:西西西 南南南 ロン:1m


尭深「はい……」

久(積み棒がなければ2000点のバカホン……これ、江口セーラが和了ったのよね?)

初美(た、助かったんですかー……?)

693: 2015/10/07(水) 17:02:31.25 ID:7wj3I2mx0

南一局 ドラ:西


四巡目


久「リーチ」

打:西

初美「なっ!?」

尭深(……ここでリーチ? 私の天和の最後の一牌、この局の最後に捨てる牌を妨害する気……なのかな? 残念だけど、止まる気はないよ。むしろ、切る牌……和了牌が無くなるほうが怖かったから、決着が早まる見込みの強いあなたのリーチは大歓迎)

セーラ(……ちょっと変わった打ち方して希望を見出したと思ったら、すぐに叩き折りに来る……二回戦でもそんな打ち方やったな?)


セーラ「……」

2345s66789m5678p ツモ:6s

打:8p


久「へえ? 私のリーチの一発目にそれを切るの?」

セーラ「……あいにく、ブラフに騙されるほど臆病じゃなくてな」

久(……一応、張ってはいるんだけどねえ……しかもブラフじゃなくて先制好形高打点の本手……私、江口さんにどんなイメージ持たれてるのかしら?)

2223456789p北北北

久(まあ、本来の私なら3筒あたりを切ってドラ単騎に受けてるんでしょうけど……)

久(って、なんで来るのよ? 今は呼んでないっての)

ツモ切り:西

694: 2015/10/07(水) 17:03:24.91 ID:7wj3I2mx0

照「なにやってるんだか……」

咲「様子見でデジタル打ちに徹してる……のかな?」

和「デジタルなら間違いなくドラ切りでリーチしますね。照さんなら次のドラツモが見えてるから単騎に受けるのかもしれませんが」

照「竹井さんなら普通に打てばドラ単騎でリーチ一発ツモに仕上げる」

咲「つまり、普通に打ってないんだよね? なんでかな?」

照「分かったら苦労しない。けど、何かを恐れて様子見してる。注意を払うぐらいならともかく、恐れて打ち方を変える必要のある相手は居ないはずだけど……」

695: 2015/10/07(水) 17:04:08.90 ID:7wj3I2mx0

セーラ「ツモ、400・700」

23456s66789m567p ツモ:1s


久(リーチに危険牌を通して、和了ったのが20符2翻? 江口セーラの打ち方じゃないわね……私を止めるために打ち方を変えて来た?)

久(だとすると、ここからは楽をさせてはもらえないでしょうね。そうせざるを得なかったとはいえ、寝た子を起こしちゃったか)

初美(……竹井久に、素で打ち勝った? どうなって……あっ!?)

初美(まさか、破回八連荘ですかー!? 八連荘が採用されてない以上、当然そんなものが採用されてるはずもないんですがー、運の流れということでは無視できませんしー……江口セーラに運が流れ込んでるということですかー?)

初美(……いえ、だとしても関係ありませんー。次は私の北家ですー、さっきは力技で強引に押し切られましたがー、同じ手には二度もかかりませんー。混一色あたりできっちり差を広げて試合を進めてやりますー。オーラスは渋谷尭深の役満で流れるでしょうしー、まだまだ勝負はこれからですよー!)

696: 2015/10/07(水) 17:04:53.04 ID:7wj3I2mx0

南二局


尭深「天和・大三元。ダブルはないので16000オールです」

久「はい」

セーラ「ま、そうなるわな。ほれ」

初美「はああああああああああ!?」

久「じゃ、一本場ね」

セーラ「せやな」

尭深「あ……まだ薄墨さんから点棒を受け取ってません」

久「ちょっとー、はやくしてよー」

セーラ「最初から分かってたことやん。今更文句言いっこなしやで?」

初美「お前らはなんで落ち着いてるですかー!? 天和ですよー!? 私が喰らうのは二回目ですよー!? 普通にサマを疑うところですー!!」

久「ああ……研究不足なのね……」

セーラ「まあ、オレも自分で見抜いたわけやないしな。あんまりデカいことは言えんわ」

697: 2015/10/07(水) 17:05:53.87 ID:7wj3I2mx0

霞「……あ」

春「初美さんは何も聞かずに出て行ったから……」ポリ

巴「はっちゃん……」

小蒔「でも、天和は凄いですね。分かっていても驚きです」

衣「何をやっているのだあのちびっこは……まさか、北家で和了って一息ついて、オーラスは白糸台の役満で流せるなどと思っていたわけではあるまいな?」

霞「……渋谷さんの能力を知らなかったら、私もそう考えて試合を見守り、この天和を見て取り乱してたと思うわ」

巴「……私も」

春「長い説明は苦手……」ポリ

衣「……何も言うまい。さて、ヒサが様子見をしている間に前半を終わらせてしまいたいところだが」


『ツモ、500・800』


衣「……まあ、そもそも様子見を始めた理由も良くわからんことだし、さもありなん」

小蒔「……また、竹井さんの親番が回って来るんですね」

衣「とはいえ、白糸台は今回は流す側につくだろう。親が流れた後の自分の親番もなく、南二局で第一打を全て使ってしまったから次の天和までも遠い……というか、地和だから鳴きで潰される可能性がある、ヒサのサポートをして得るものは小さく、失うものは大きい。であれば、ちびっこも当然流す側だから三対一だ。そう長く連荘を重ねることはできまい」

698: 2015/10/07(水) 17:07:24.88 ID:7wj3I2mx0

『ツモ。700・1300』


照「さっきの話だけど……竹井さんは、自分が強いと思ってなかったんじゃないかな?」

咲「……どの話?」

照「なんで咲の退部を賭けた勝負を受けたのかって話」

京太郎「ああ、染谷先輩がフラグ立てる前の」

和「……あれだけのことを出来るくせに、自分が並の選手だと?」

照「……二回戦の中堅戦から戻って来た時、そんなことを言ってた」

優希「そんなこと言ってたか? 記憶にないじぇ?」

咲「確か……お姉ちゃんの勧誘に夢中で気付かなかったけど、私って強かったのね……みたいなことを言ってた気がするよ」

照「そう、それ」

和「……そういえば、中堅戦の前も、江口セーラと愛宕洋榎相手に終わらせる方が難しいとかなんとか……結局圧勝しておいて何をと思いましたが、もしかして……」

まこ「まあ、照さん以外とまともに打ってなかったからの……自信を持てと言うのが無理じゃろ」

照「長野でも一回戦でもあれだけ大暴れしといて、まだ自分の強さにちゃんと気付いてなかった竹井さんが、ようやく自分が本当に強いんだと気付いた相手。それだけ高く買ってる相手……私も、さっき竹井さんが様子見を始めたのを見て、今考えついたんだけど……」

咲「……なるほど、それで、江口さんが打ち方を変えて来たのを見て様子見なんか始めたんだ? それぐらい、相手を強いって思ってる」

照「たとえ自分の方が強くなってたとしても、評価はそう簡単に変えられない」

まこ「自分が大会に出ずに燻ってた間、一線で活躍しとった連中か……そこまで入れ込んどるとは気付かんかったわい」

優希「なんかよくわかんない話してるじょ……」

和「ゆーきはそういうのと無縁そうですからね」

京太郎「照さんに勝ったとしても、『我、天才だじぇ……ついに照さんをも追い越してしまったじょ』とか言いそうだからな」

咲「手加減されたとか本気で調子が悪かったとか疑わなそうだよね。心の底から自分が強くなったんだと思って喜びそう」

優希「……貴様ら、どうやって一字一句違わず私の心を読んだ!? さてはダークタコス派の刺客か!?」

京太郎「読み切られるぐらいお前が単細胞ってことだろ!?」

咲「ダークタコスもタコスなんだから平等に愛するのが真のタコスの使徒なんじゃないかな?」

優希「はっ!? ダークタコスに真理を説かれるとは……私も修行が足りなかったようだじぇ」

咲(……ここまで単純だと、優希ちゃんの将来が心配だよ)

京太郎(お前に心配されるとは相当だな。ちなみに、俺はお前の将来の方が不安だ)

咲(不安なら面倒を見てくれてもいいんだよ?)

京太郎(はいはい、「面倒見させてあげてる」みたいな台詞は一人で会場に行けるようになってからな)

咲(むー)プクー

699: 2015/10/07(水) 17:08:32.11 ID:7wj3I2mx0

南四局


久(……普段ならこの手は歓迎なんだけど……江口セーラがスタイルを変えて来た今となってはいつも以上に早い手が欲しいのよねえ……)


33344455s77p西北白 ツモ:7p


久(悪くても対対三暗刻で満貫、四暗刻だって見える。けど、軽く流そうとしてる人間が居る、しかも高校トップクラスの実力者が普段のスタイルを曲げて速攻を仕掛けてるって状況だと、いい結果は見えないわね)

打:北


セーラ「ポン!」

久(あっ……しまった、翻牌)

セーラ(……さっきからツイとる。和了れこそせんかったが、前の二局も聴牌まではこぎつけられた)

セーラ(こういうちまちました麻雀は性に合わんのやけど、出来んわけやない)

345s345m367p白白 ポン:北北北

打:3p

セーラ(和了るだけなら役一個あればええんや、高目を狙わんってのは楽なもんやで、案外、こっちの方があってるかもしれんな)

700: 2015/10/07(水) 17:09:43.63 ID:7wj3I2mx0

やえ「ったく、出来るなら最初からやればいいものを、あの馬鹿は……」

はやり「へー☆ 竹井さんに通用するレベルで早和了り出来るんだ☆ はやりもちょっと危ないかもっ☆」

紀子「白々しい……素直に『なんで竹井さんは手を抜いてるの?』と聞けばいいのに」

やえ「言われてみれば、竹井に通用しているのはおかしいな……何が起きてるんだ?」

由華「あれ? 先輩にもわかりませんか?」

やえ「私だってなんでも分かるわけじゃないんだぞ? 牌譜から分かるものなら何でも見抜くつもりではいるが」

日菜「愛宕さんたちには、二人で協力すれば勝てるみたいなこと言ってなかった? 江口さんの速攻とかが通用するって思ってたんじゃ……?」

やえ「……あいつら二人と私の三人で囲めば勝てるとは思う。あいつら二人が私並に上手く立ち回れば、というのはそういう意味だ。文字通りにとってしまうと若干の誇張があるな」

紀子「売り言葉に買い言葉、その場のノリで言っただけ」

やえ「……まあ、あいつら相手だとそういうこともあるということだ」

由華「うわあ……江口さん、多分それを真に受けてますよ?」

日菜「この会話を聞かれたらなんて言われるか……」

やえ「……愛宕が居る場所で言うとしよう。あいつがその場に居れば江口をからかって怒りの矛先があちらに向かうはずだ。うん、そうしよう」

701: 2015/10/07(水) 17:10:59.87 ID:7wj3I2mx0

紀子「で、江口が竹井と渡り合えてる理由は?」

やえ「竹井の不調が大きいな。どうも親を流されてからミスが目立つ、もちろん、牌が分かってるのでもない限りミスとは言えないようなミスだが……普段は牌が見えているような精度で打っているから、かなりブレーキがかかっていると言える。その原因はわからん」

やえ「竹井が不調なら速度で渡り合える程度の力は元々あるんだ。江口の奴は平均的な和了率で高打点が特徴だが、打点にこだわらなければ平均を大きく上回る和了率を叩き出すことも出来る。普段はやらないがな」

紀子「3900を三回和了っても12000一回でチャラ、どちらが正しいというわけでもない」

やえ「打点や速度に極端に偏るのも本来は間違いだ、1000点を5回和了っても3900の2回分にすら届かんし、麻雀は基本8局だから1000点5回と3900点3回で埋められてしまって12000を和了る機会がないかもしれん」

紀子「しかし、竹井久は1000点を8回和了って他家を一度も和了らせないようにする生き物」

やえ「それを止めるには、自分も1000点5回を目指す打ち方に切り替えて、8回の中にねじ込むしかない。この状況での最善だな」


『ツモ、300・500』


やえ「三回に一回程度しかないはずの勝ちを竹井の親番の一局目に持ってきた。上出来だ」

はやり「永水との差も詰まったし、下に対してはまだリードがある。私たちが肩入れしてる千里山に希望が持てる展開だね☆」

702: 2015/10/07(水) 17:11:39.49 ID:7wj3I2mx0

中堅戦前半終了

白糸台  92100(+26500)
清澄   68300(+27000)
千里山 111700(ー10400)
永水  127900(ー43100)


703: 2015/10/07(水) 17:12:30.32 ID:7wj3I2mx0

バタン

尭深「戻りました」

憩「お疲れさん、最高の結果やでー」

菫「清澄との差をほぼそのまま維持しながら、上位二校に大きく近づいた。これ以上ない結果だろう」

淡「まあ、タカミーとセーコがやられても私がなんとかしちゃうんだけど、いい感じだよね」

誠子「後半もこの調子で行こう」

尭深「うん……」コクリ

746: 2015/10/16(金) 15:52:27.01 ID:3ZI7E9V10


衣「おい、何をぼさっとしてる」

霞「へ?」

衣「あのちびっこ、戻って来ないつもりだぞ。捕まえて来い」

春「作戦を伝える必要もあるから、可及的速やかに」ポリ

霞「え? え? 私が行くの?」

巴「私だと無理やり連れてくるのは難しそうなので……霞さんにも来ていただかないと……」

小蒔「あ、それなら私も……」

巴「春と姫様はダメです。私たちだけで行きます」

春「心得てる」ポリ

小蒔「え? ええっ!?」

衣「いいからさっさと行け。ただ連れ帰って作戦を説明するだけではなかろう?」

小蒔「えっと……?」

巴「分かってます。行きましょう霞さん」

霞「……そういうことね。分かったわ、行きましょう」

747: 2015/10/16(金) 15:53:11.57 ID:3ZI7E9V10

初美「……」


霞「あ、いたいた……」

巴「……はっちゃん」

初美「……」チラ

巴「……私たちだけだよ。姫様も春も居ない」

初美「……気を使わせてしまいましたねー。デカい口叩いて出てきておきながらこのザマですー、流石にちょっと堪えてますよー」

霞「ちょっとじゃないでしょ。相当こたえてるように見えるけど?」

初美「……」グス

巴「はっちゃん……」

霞「意地っ張りね」ギュ

初美「うっ……うう……」グスン

霞「……」ギュ

748: 2015/10/16(金) 15:53:38.00 ID:3ZI7E9V10

霞「落ち着いたかしら?」

初美「私は最初から落ち着いてますよー」

巴「……じゃ、一旦戻ろうか。春が作戦を練ってくれてるから」

初美「……どうせあのちっこいのの入れ知恵ですよー」

霞「選り好みしてる場合じゃないでしょ」

初美「聞かないとは言ってませんー、気に喰わないだけですー」

巴「やれやれ……」

霞「時間もあまりないわ、聞く気があるなら急ぎましょう」

初美「はいですよー」

749: 2015/10/16(金) 15:54:44.40 ID:3ZI7E9V10

【清澄控室】


久「やっぱり試合前にバナナを食べないと調子が出ないわね」

照「話を逸らさない」

久「逸らしてないわよ、予定より稼げなかった原因でしょ?」

咲「逸らしてますよ。江口セーラを警戒しすぎって話をしようとしてるんです」

久「……バレた?」

照「当然」

久「仕方ないでしょ。中学の頃から雲の上の存在だったんだから」

まこ「それじゃったら他にも何人かおるじゃろ」

久「あいにく、憧れの選手は大半が先鋒なのよね」

照「……後半はちゃんと打って」

久「怒ると可愛い顔が台無しよ?」

照「その手には騙されない。とにかく、後半はちゃんと……」

久「わかってるって。そんなに信用ないかしら? 前半だって予定ほどじゃないけどちゃんと稼いで来たでしょ」

優希「というか、普通なら大勝って言えるレベルだじぇ」

和「その前に大暴れした人のせいでプラス27000のトップが霞んで見えますが、普通に考えて十分ですよね」

咲「まあ、そうなんだけど……私は今回ちょっと自信ないからトップでバトンを受けたいんだよね」

久「ちょっと、あなたのその発言が一番不安なんだけど……」

照「天和はどうやっても破れないからね」

咲「そうなんだよね……さっき部長がやったみたいに天和前提で稼ぎまくっても簡単に追いつかれちゃうし……64000は大きいよね……」

京太郎「稼げるのは前提なのか?」

和「そこは咲さんですし」


『後半戦を開始します、選手は対局室に集合してください』


久「あら、のんびりしてたらもう時間だわ、行かなきゃ」

照「頑張って」

久「任しといて」

750: 2015/10/16(金) 15:55:18.97 ID:3ZI7E9V10

起家 尭深「よろしくお願いします」

南家 初美「よろしくですよー」

西家 久「よろしくね」

北家 セーラ「おう、よろしくなー」

751: 2015/10/16(金) 15:55:54.49 ID:3ZI7E9V10


東一局 ドラ:3m


久(……いや、参ったわね。そりゃ、確率は三分の一だから、半荘二回打てば一回はこうなる確率の方が高いのだけど)

初美(……前半の北家は役満を阻止されたり天和で潰されて動揺してるうちに流されたりで散々でしたがー、今回はきっちり仕事させてもらいますよー)

尭深(起家だから、親番で役満を和了るのは厳しいかな……竹井さんの親で薄墨さんが北家だから、連荘も伸びる保証がない。この席順は厳しいかも)

セーラ(この席順、なんもしなくても大した被害が出ずに終わる見込みがある。理想的な席順や)

久(さて、どう出てくるのかしら? 私の大連荘は考えにくい、気付いてるかどうか知らないけど、私が連荘を伸ばさないなら渋谷さんも役満は厳しい。薄墨さんは私が止める……お互いに足を引っ張り合ってるわけだけど、一人だけ自由に打てる人が居るわよね?)

セーラ(なんもせんでも傷は浅い、なら、和了った分だけ稼ぎになるわけやろ? ボーナスステージってとこやな)

久(やる気満々ね……さて、こっちはどうしようかしら?)

752: 2015/10/16(金) 15:56:30.25 ID:3ZI7E9V10

久(張った……けど、このドラ、通るのかしら?)

34p23455s233344m ツモ:2m


セーラ「……」

1145677m ポン:南南南 西西西


久(萬子染め……おそらく聴牌はしているはずよね?)

久「……」

打:3p

753: 2015/10/16(金) 15:58:02.98 ID:3ZI7E9V10

『おっと、ここでオリたか―!? ドラを押せば通っていたぞ竹井久――!!』

『……どうも、いつもの切れがありませんね。不調の時にも大きく崩れないのは評価できますが』

『ふーん。ところで、小鍛治プロは不調の時はどういう打ち方をされていますか?』

『え? ここで振るの? ……そうですね、私は不調というものを感じたことがないので、ちょっと分かりません』

『調子を管理できないうちは二流、トッププロの厳しいお言葉だ――!!』

『二流だなんて言ってないでしょ!! 本当に不調とか感じたことないんだってば!!』

『不調だとしても圧倒的な力でねじ伏せれば問題ない、それが出来ない奴は二流!! 小鍛治プロが世界の全ての雀士に喧嘩を売ったぞ――!!』

『そんなこと言ってない―――!!!』

754: 2015/10/16(金) 15:59:35.28 ID:3ZI7E9V10

照「私、ちゃんと打てって言ったよね?」ゴゴゴゴゴ

優希「ひいっ!?」

咲「お姉ちゃん、ストップストップ、優希ちゃんが怯えてる」

照「……」ゴゴゴゴゴ

まこ「そ、そこまで怒らんでもええじゃろ?」

照「ああん?」ゴゴゴゴゴ

まこ「ひっ!?」

咲「お姉ちゃん、めっ!」

照「……」ゴゴゴ

和「なにをそんなに怒っているんですか照さん。どうせ後には咲さんが控えているのですから多少のことは問題ないでしょう?」

咲「原村さんは原村さんで黙らせなきゃダメかな? 私、今回は自信ないって言ったよね?」

照「試合はどうでもいい。私相手には怯えて手をひっこめたりしたことないのに、なんで江口さんだけ……」ムスー

咲「あ、そこなんだ」

まこ「めんどい人じゃのう」

照「竹井さんのバカー!! 負けちゃえー!!」

京太郎「いや、負けられたら困るんだが……」

755: 2015/10/16(金) 16:00:02.94 ID:3ZI7E9V10

セーラ「ツモ、700・1300」

1145677m ポン:南南南 西西西 ツモ:1m


久(あら……通ったのね、ドラ。しかも、染めてる割に安いし……照達の言ってた通り、私は警戒しすぎなのよね。分かってはいるんだけど……)

234567s2233344m

756: 2015/10/16(金) 16:01:05.63 ID:3ZI7E9V10

怜「あ、あのセーラが安手の早和了り……夢でも見とるんか?」

浩子「そのリアクション遅すぎません? 前半でやってましたよね?」

雅枝「チームのために、自分のスタイルを曲げとるんや……あの江口が……」

浩子「おい、乗っかんな」

泉「きょけっけけー!!」

浩子「お前は早いとこ正気に戻れや!?」

泉「きょー!!」

竜華「けど、いい感じやんな?」

怜「ああ、信念さえ曲げさせるほどの仲間への強い想いが、セーラを強くしとるんや」

浩子「え? そのノリまだ続けるんですか?」

雅枝「こればっかりは、私が教えてどうなるもんやない。三年間過ごしてきたお前らの力や」

怜「うちら三人の……力……」

浩子「本来ならうちも適度にボケに回ってこの役割は主に泉の役割なんやけどなあ……辛いなあ」

竜華「友情パワーか、なんかええやん」

浩子「友情より今はツッコミ役が欲しいわ。四対一ってバランス悪いやろ」

怜「セーラ……前半の無茶が祟って体はもうボロボロなんに……うちらのために……」

浩子「設定追加したやろ! 今、話続かなくて設定増やしよったやろ!?」

竜華「えっ!? セーラ怪我しとったん!? 元気そうやったけど……隠しとったんか?」

雅枝「江口……すまん。私は……私は教育者として失格や……お前を止められんかった」

浩子「この流れを止めへんことが一番の欠格事由な気がするけどな」


『ツモ、2「きょっけー!!!!」0、さあ、私の親ね』


浩子「泉いいいいいい!!!! 音声に被せんなああああああ!!!!」ドガッ

泉「きょきいいいいいい!?」

怜「ああっ!? フナQがキレた!?」

浩子「誰のせいやねん!? 最初にネタ振ったのあんたやろ!?」

757: 2015/10/16(金) 16:02:43.17 ID:3ZI7E9V10

東三局


セーラ(こんなもん抱えて打てるかって話やな。薄墨と竹井の出方も探れるし、こんなもんは切る!)

567s457m5567p白白中 ツモ:北

打:北


初美「ポンですよー」

打:7p

久(さて、二度も同じ手にかかるとは思えないけど、一応やっておきましょうか)

打:東


初美(……馬鹿にしてるですかー? 前半で痛い目見たばかりで同じ手を二度も喰らうと思うなですよー!)

2234s4567m東東 ポン:北北北


セーラ(スルーか。ま、そらそうやな)

ツモ:6m 打:中


尭深(……当然のスルー……役満が約束された鳴きをスルーするのが当然。これは、それだけ竹井さんの存在がこの面子に対して与える影響が大きいということなんだけどね。薄墨さんが役満を捨てて彼女を止めないと勝負にならない。高火力で有名な江口さんですら早和了りに徹している……彼女が面子に加わるだけで普段では絶対にやらない打ち方を強いられる、それほどの力を持っているということ)

尭深(私は、能力だけなら白糸台の全メンバーの中でも一番強力かもしれない。けど、ただ座っているだけで江口セーラや北家の薄墨初美をも抑えこむ相手に対して、能力を発動しないまま対抗する手段を持っていない……悔しい……)


久(ま、ダメもとだったから別にいいんだけど……こうなると、やっぱり連荘は伸ばせそうにないわね。だとすると、打ち方を変えるべきか)

久(って、席順見た時点でとっくに変えてるんだけどね。気付いてるかしら?)

758: 2015/10/16(金) 16:03:15.85 ID:3ZI7E9V10

初美「ツモ、北・ドラ1。500・1000ですー」

34589m赤567p東東 ポン:北北北 ツモ:7m


久「はい」

セーラ(あっさり流されたくせに、随分余裕そうやな?)

尭深(……あれ? 一度も連荘せずに流れたの? いくら北家の薄墨さんが早和了りに徹したからって言っても、竹井さんなら二~三本場までは積めると思ってたのに……)

初美(……あのちっこいの、「上家に座ったからと言ってヒサの親は簡単に止まるものではない、先んじることが出来るのはせいぜい三……いや、四局に一度だな」とか言ってましたねー。けど、あっさり止まりましたー……「もっとも、貴様が上家に座った場合に備えて何か手を打っているかもしれんがな」ってのが当たったか、それとも運良く三回か四回に一度の勝ちを最初に引いたのか……)

セーラ(ここまで三局のうち、竹井が和了ったのは一回のみ……前半の不調が尾を引いとるんか?)

セーラ(あの余裕がブラフなら、ここで畳み掛けんとな……ブラフなら、やけど)

759: 2015/10/16(金) 16:03:49.72 ID:3ZI7E9V10

東四局


セーラ「ロン、2900!」

2234s567p456789p ロン:赤5s


久「はい」

尭深(竹井さんが……振り込んだ? 一体何を考えて……)

初美(わけが分かりませんよー? 様子を見る限り、手を読めていて差し込んだように見えますー)

久(……ま、読めるものは読めるわよね。予想も出来ない手を作って来たりはしない。オーケー、もう大丈夫)

セーラ(差し込んで来た……俺の早和了りは見切ったってことやろか? それとも、うっかり振り込んだのを表に出さんようにしとるだけか?
……ダメやな、どうにもスッキリせんわ。やっぱりオレにはちまちました駆け引きは向いてないってことやな)

760: 2015/10/16(金) 16:04:22.70 ID:3ZI7E9V10


やえ「……マズイな。誰も気付いてないのか」

はやり「モニターを通して全員の手牌を見てる私たちには一目瞭然だけどね☆ 対局しながらだと厳しいんじゃないかな☆」

紀子「東二局で気付かないようでは話にならない」

由華「ですよね……満貫を和了ったのは偶然じゃないです。和了率が低くなっているのも偶然じゃない」

良子「えっと……どういうことだ?」

良子「スピードを火力に……席順を見た時点で連荘が出来ないと悟って、和了率重視から火力重視にチェンジしたんですよ」

やえ「積み棒がなければ、500オールを10回和了るよりも子の倍満1回の方が大きい。それは分かるな?」

はやり「15000点と16000点だもんね☆」

やえ「まあ、とはいえ500オールでも32回和了れば親役満と同等なんだがな。実際には積み棒もある。あいつは机上の空論じゃなく本当に32回和了りかねんし」

由華「実際、前半では親の役満ツモがあったのにトップでしたからね」

紀子「しかし、この席順ではそれは出来ない。親番で薄墨初美が北家になり、役満を狙わず早和了りに徹してくる可能性が高い」

やえ「連荘が出来なければ、300・500を子番全て……6回和了ったところで満貫にも届かん。それでは最下位の清澄としては都合が悪い。都合が悪いなら手を打つ。そして、打った手がこれだ」


『ツモ、3000・6000。さっきの2900にお釣りがついてきたわね?』


紀子「火力重視。1000点を6回和了るより、12000を1回和了るほうが高い」

やえ「普段の奴のスタイルは、連荘を考慮しないとして、八局全てを1000点で和了れば他家は一度も和了れないから必ずトップに立てるというものだ」

はやり「自分が和了った分だけ他家の手を潰せるからね☆ 単純に和了の期待値だけ見たら和了率重視は損に見えるけど、実際はそう単純でもないよ☆」

日菜「スピード重視のスタイルのトッププロが言うとそうなのかなって思えるよね」

やえ「しかし、全て和了るというのは出来ない状況だ。なら、普通に打たれているような打点と和了率のバランスが取れた打ち方が最も効率よく稼げる。1000点を6回よりも2000点を4回、それよりも3900を三回、更にそれよりも満貫二回……もう一歩進んで跳満一回になると効率が落ちるな」

紀子「相手次第でどれが実行可能かは変わる。竹井相手では薄墨は役満0回にされてしまうから2000点を選ぶしかなかった」

やえ「満貫や跳満程度の手作りなら半荘通して2~3回は和了れると踏んだのだろう。速度を犠牲に火力を上げても、もともとの速度が圧倒的だから通常程度の和了率を維持できる。江口や薄墨相手にな」

由華「連荘が望めない状況への対応であると同時に渋谷さんの役満対策でもあります。局数を減らして一局の打点を上げるのがこの卓では最善と判断したということ……ですよね?」

やえ「その通りだ。にしても、早和了りするだけでも厄介なのに火力重視の打ち方も出来るのか……本当に、なんで今まで大会に出てこなかったんだこいつは?」

761: 2015/10/16(金) 16:05:32.93 ID:3ZI7E9V10

憩「……なるほど、この席順じゃ役満食らった上でお釣りが出るほどには稼げんから、役満を止める方針やな」

誠子「あの人なら座ってるだけで薄墨の役満は潰せるもんなあ……局数を減らしに来たってことは尭深の能力もバレてるってことか」

憩「まさかの天和つきで盛大にお披露目してもうたからな、準決勝で」

監督「照なら見抜くでしょうね、咲でも同じ。二人とも居るんだから当然見抜かれてるはずよ」

菫「おい、チームの危機を嬉しそうに語るな売部奴」

淡「売国奴的な感じで言ったんだろうけどゴロがめちゃくちゃ悪いよスミレー」

菫「……」ゴン

淡「痛っ!?」

監督「それにしても、この子もなかなかよね。照を表舞台に引っ張り出しただけはあるわね」

憩「……まあ、尭深ちゃんも分が悪いのはわかっとるみたいで、方針を変えとるからオーラスは仕事してくれると思います。それより……」

誠子「副将、だな?」

憩「淡ちゃんにはガチンコで妹さんに勝ってもらうつもりなんで、そこは淡ちゃんに任せるとして、あとどこでリードを作るかっちゅうたらそこやんな?」

誠子「この点数状況、各校がどう考えてどう動くか、それをどう利用するか……何か策があるんだな?」

憩「策って言えるほどのもんやないな、少し淡ちゃんに楽してもらえるかなって程度や」

監督「もし百点を争うような……いえ、そこまで細かくなくとも、1翻の有無で決まるぐらいの接戦ならその「少し」は大きいわ。話してちょうだい」

憩「ほな、まず状況分析からなー……」

762: 2015/10/16(金) 16:06:04.30 ID:3ZI7E9V10

南一局 ドラ:北

セーラ(……なるほど、そう来たか。薄墨が上家に座ったのを見て、連荘頼みの速度重視をやめたってわけや)

セーラ(なるほどなー、それでも俺の速度重視の打ち方より早い自信があると)

セーラ(……)

2345678s234p34m北 ツモ:2m


セーラ( ナ メ ん な ! )


セーラ「リーチ!」

打:8s


久(……あら? なんか怒ってる? ……別にナメてるわけじゃないんだけどな。私は最善を尽くしてるだけ)


尭深(……江口さんのリーチ。さっきまでと雰囲気が違う……この手じゃ押せない……)

23567m12488899s ツモ:赤5p


尭深(……オリるなら8索の壁を頼って9索かな)

打:9s


久「ロン」

尭深「……えっ?」

久「8000」

1233445569s南南南 ロン:9s


尭深「……」

久(……咲が変なこと言ってたし、白糸台は削っておかないとね。現時点での最下位と三位で争うのは不毛に見えるかもしれないけど、最終結果の時点では効いてくるはず)

763: 2015/10/16(金) 16:06:37.13 ID:3ZI7E9V10

南2局


初美(親ですがー、親なんですがー……)

1189s13m6p東南北西白中 ツモ:4p


初美(……冷静に考えましょー、この手でこの面子相手に和了れる可能性はゼロですー。ちっこいのから聞いた渋谷尭深の能力から考えてー、『第一打を打たせない』ことの価値も決して小さくありませんー)

初美(私は北家以外で普通に打っても強いんですよー? しかし、この相手でこの手ではやむなしですー)

初美「……」パタン


久「あら? まさか天和じゃ……ないわね?」

初美「九種九牌ですー。最後の親番なのにこんな配牌が来てしまうとはついてませんねー」

尭深「……」

久(ナイスよ薄墨さん)

セーラ「国士狙ったらええやん」

初美「そんなもんを和了らせてくれる相手なら、東三局の東は鳴いてますねー」

セーラ「そらそうやな。しゃーない、次や次!」

764: 2015/10/16(金) 16:07:24.25 ID:3ZI7E9V10

南三局 



久「ポン」

ポン:777s 打:9s


セーラ(ナイスポン、やな)


3赤56s456m2345p白白白 ツモ:4s

打:6s


尭深「……」

打:4s


久「ポン」

ポン:444s 打:2p


セーラ「ロン。2600」

久「はい」

セーラ(……トップの永水よりはうちに和了ってもらって親を流したいってところか? 流したかった理由は一つやろな)チラ

尭深「くっ……」

久「……仕込めたのは7枚だけよね? 悪いけど、次は全力で流すわよ」

尭深「……清澄は、うちを警戒してるということですか?」

久「ノーコメント」

765: 2015/10/16(金) 16:10:35.41 ID:3ZI7E9V10

南四局


尭深(席順を見た時点で仕込める枚数が少なくなる可能性を考えて清一色の多面待ちを目指して索子を仕込んではいたけど……それ以外で翻牌の暗刻が来てくれたのはラッキーだね。自然に混一色に移行できる)

尭深(さっきのラストで4索を切ったからそれも回収して、その前に切った7索も面子に出来る)

尭深(ただ、上手く染まってくれればいいけど無理に染めに行くのはNG、竹井さんが本気で流すと言ってる以上、そんな余裕はない。他の色で面子が出来ちゃったら素直に発のみで和了る)

2333456s38m4p発発発


尭深(とはいえ、この配牌から4索と7索をツモることが確定してるから、ここまでは確実)

23334567s38m発発発 ツモ:4s


尭深(二巡でこれなら、竹井さんとも勝負になるよね?)

766: 2015/10/16(金) 16:12:18.16 ID:3ZI7E9V10

尭深「ツモです」


久「へ?」


尭深「2000・4000」

2333445678s発発発 ツモ:9s


久「……ランダムで引いた中に発の暗刻が出来てたって?」

尭深「ちょっとだけ、ツイてました」


久「……ま、ツキに見放されちゃ仕方ないか。お疲れ様でした」

尭深「お疲れ様でした」

初美「ううー……北家で一回しか和了れてませんよー」

セーラ「お疲れさん」

767: 2015/10/16(金) 16:12:48.37 ID:3ZI7E9V10

中堅戦終了

白糸台  85300(ー 6800)
清澄   88100(+19800)
千里山 106400(ー 5300)
永水  120200(ー 7700)

781: 2015/10/28(水) 13:10:54.02 ID:Em3f5F1f0

霞「おかえり」

初美「うぐぐ……面目ないですよー」

巴「大丈夫、まだトップだから!」

春「……副将は、何とかする」ポリ

初美「はるるなら安心ですねー……で、ちびっこはどこですかー?」キョロキョロ

衣「目の前にいるだろうが」

初美「あ、居たんですかー。小さすぎて見えませんでしたよー!」

衣「な、何をー!!?」ムキー

小蒔「あ、あの二人とも……喧嘩はだめですよ?」オロオロ


霞(私は準決勝で大星淡に負けている……宮永咲が大星淡と同格だとすれば、今の点差で二人を相手にしては到底逃げ切れない…)

霞(……春が頑張っても、清澄との点差は今より開くことはないでしょうね。つまり、今の点差のまま大将戦を迎える見込みになる)

霞(とすれば、この時点でほとんど詰んでいる)

霞(けど、アレさえ降ろせば……アレの力をもってすれば、たとえ相手が三校のエース三人だろうと圧倒出来ることは小蒔ちゃんが証明済み。大星淡は荒川憩と比べれば同格以下でしょうし、清水谷竜華も園城寺怜に及ばないはず……清澄も、セオリー通りのオーダーと公言しているのだから宮永咲が宮永照以上ということはないでしょう)

霞(……ただ、私が無事で済むかどうかね。姫様と違って私が神まがいのモノを降ろすのはリスクがある。今の私があれを長時間降ろせばどうなるか……とはいえ、私が制御できる程度のモノを降ろしたところで、大星淡一人を相手にしたとしても勝てる見込みはない)


衣「この戦犯チビがー!! 言うに事欠いてなんということをー!!」

初美「まだ負けてないから戦犯じゃないですー!! 部外者小学生は黙ってろですよー!!」

衣「こ、衣は子供じゃない―!!」


霞(ふふっ……初美ちゃんを戦犯にさせちゃ悪いからね。ちょっと無茶しようかしら)

782: 2015/10/28(水) 13:12:04.85 ID:Em3f5F1f0

久「ま、こんなもんでしょ」

照「足りない。私のライバルなら10万点は稼いでもらわないと」

久「無茶言わないでよ。あんたのライバルは私には荷が重すぎるわ」

咲「てゆうかお姉ちゃん、今大会トータルでマイナスのくせによくそのセリフが言えるね」

照「え?」

和「数字はしっかり出てますからね」

照「私、準決勝で大暴れしたから流石にまだプラスでしょ?」

京太郎「大暴れしても5000点しか稼いでないんで。見た目の派手さのわりに成績イマイチですよね照さんって」

照「なっ!?」

久「平均着順と平均素点は普通なら凄い数字なんだけど、あいにく、高校麻雀界には平均着順1位台とか平均素点で5万を超えるようなのがゴロゴロいるし、成績を見て強いと思える人間はそうそう居ないでしょうね。牌譜を見ても……それどころか直接打ってもあなたを強いと思えない人も多いはず」

照「うぐっ……」

咲「放銃率も高いし、数字だけ見るとあんまり凄そうに見えないよね、お姉ちゃん」

照「そ、それはプラマイゼロをしていたからであって……」

まこ「……プラマイゼロをやめてからの成績は? 半荘一回だけじゃが」

和「……言った方が良いですか?」

照「アレは事故でしょ!? むしろ私頑張ったよね?」

咲「うっかり役満に振り込むのを『頑張った』とは、普通は言わないんだよお姉ちゃん」

照「な、何故それを!? 竹井さんにしか言ってないのに……まさか!?」

久「え? 私は話してないわよ?」

咲「……やっぱりうっかりだったんだね? あれさえなければ今トップだったはずなのに、なにしてくれてるのお姉ちゃん!?」

照「ゆ、誘導尋問!? 咲、どこでそんな高度な技を…」

783: 2015/10/28(水) 13:13:00.85 ID:Em3f5F1f0


浩子「行ってまいります」

怜「任せたでー」

セーラ「頼んだでー」

泉「お願いします船久保先輩」

竜華「気張りやー」

雅枝「ま、浩子なら大丈夫やろ」

浩子「……アドバイスとかなんもなしですか。悲しいなあ」

怜「うちらがフナQにアドバイスなんか出来るわけないやん」

セーラ「せやせや」

浩子「園城寺先輩は出来てええと思いますけど」

怜「ほんなら……亦野の早和了りに気を付けるんやで」

浩子「言われんでも分かってます」

怜「滝見は高い手を潰す能力があるみたいやな。安手に差し込ませるのが特徴、奴が鳴いたら要注意や」

浩子「知ってます」

怜「どうも、原村はオカルトじみた相手に対して強運を発揮するみたいや。せやから原村には妙な能力は使わん方がええかもしれん、純粋な技量で勝負すべきやな」

浩子「そもそも、うち能力とか使えへんのやけど」

怜「……役に立ったか?」

浩子「いえ、全く役に立ちませんでしたね」

怜「せやろ、フナQに私のアドバイスなんて要らんねん」

浩子「微妙に納得しかねますが……もう時間なんで行きますわ。後半までにちゃんとしたアドバイスを用意しておいてください」

雅枝「前半が終わった後、またここに来るとええ。本当のアドバイスを聞かせたる」

浩子「あるなら今言えや!! ほな、マジで行きますんで」

怜「いてらー」

784: 2015/10/28(水) 13:13:48.14 ID:Em3f5F1f0

怜「さて、中堅戦後半で竹井さんの和了りシーンに音声被せて、ツッコミ負担の集中によるストレスと相まってついにキレたフナQからの暴行を受け、そのショックで正気に戻った泉」

泉「おっそろしく説明くさい台詞ありがとうございます。ご紹介にあずかりました二条泉です」

竜華「きょきょきょ言うてるのも面白かったんやけどなー」

セーラ「あっちの方が気が合いそうやったんやけどなー」

怜「もう二度とあっち側に行ったらアカンで。あいつらと一緒になってまうで」

泉「そっち側の人間の膝枕に頭乗せてる人が言うセリフじゃないですよね?」

怜「ええツッコミや。これならうちらが引退した後の千里山を任せられる」

セーラ「ま、泉があのままやったら勝っても後味悪いしな。正気に戻って良かったわ」

竜華「えー? おもろいからええやん」

雅枝「世の中には面白くてもやったらアカンことがあるんや、清水谷」

怜「……もう無茶したらアカンで。大会での勝ち負けより、人の命の方が大事なんやから。セーラに聞いた話やと、壁に頭打ち付けとったらしいやないか?」

泉「……はい、すんませんでした」

雅枝「本来なら決勝まで来ただけでも十分なんや。今年はノーシードやから、まずはシードを取り戻すのが目標。勝てんからって気に病むことでもないし、一年のお前が負けたからって自分を傷つけるなんてもってのほかや」

怜「いや、あんた目標は優勝やって言うとったやん」

雅枝「……」ギロッ

怜「ナンデモアリマセン」

雅枝「ええか、お前が負けても、お前を抜擢した私の責任、結果を出せるだけの指導をして来なかった私の責任なんや、少なくともうちの部員である間は、負けたり失敗したりしても必要以上に自分を責めたらアカンで」

泉「監督……はいっ!!」

雅枝「なにより、負けるより事故で部員が怪我する方が問題になる。実績もあるし代わりもおらんから、ちょっとやそっとの不振やったらうちの立場が揺らぐことはあらへんけど、部活動中に命に関わる怪我があったら即クビや。マジで勘弁してな」

泉「感動した後に大人の汚さ見せつけるのやめてくれませんか」

セーラ「照れ隠しやな」

怜「せやろな」

雅枝「うっさいそこ!」

785: 2015/10/28(水) 13:14:42.93 ID:Em3f5F1f0

憩「……また尭深ちゃんはおかしな真似しよったな。検証するでー」

尭深「ふえっ!? わ、私なにかしてた?」

憩「発の暗刻が偶然出来るわけないやろ……とは思うけど、一応偶然の可能性もあるからなー」

誠子「ん? どういうことだ?」

憩「あれな、多分、前半のラスト三局の第一打を回収したんやないかと」

菫「……冗談だろう? そんなことが出来たら、休憩中に麻雀を打っておけば天和や地和を仕込めてしまうじゃないか」

憩「せやから検証するって言っとるんですわ」

監督「確率は低いけど、偶然だと思うわよ」

憩「確率が低いんやから、能力の可能性を疑うのが自然ですって」

尭深「……検証はしておいた方が良いかもね。もし能力なら、それが影響するのは試合だけってわけにはいかないだろうから。前回の麻雀の捨て牌が次回に影響するのは、常にプラスってわけじゃない」

憩「前の日に遊びで打った麻雀で第一打に適当な牌捨てて、いざ試合の時に天和狙ったらそいつらが紛れ込みおった……なんてことになったら目も当てられんからな」

誠子「あ、そうか……そういうマイナスの影響もあるのか」

憩「あと、前の半荘からの持越しが出来るなら、第一打を貯めるのが面倒で検証してなかった『第一打のストックが14枚を超えたらどうなるか』の検証も出来るしな。15枚目は次回に持越しなのか、ところてん式に押し出されて古い牌が消えてくのか……」

淡「絶対それがメインでしょ。ケイってば本当に研究好きだよねー」

憩「分からんことはきっちり調べんと気が済まんタイプでな」

監督「でも、偶然だと思うけどね」

憩「夢を潰すようなこと言わんでくださいよーぅ」

誠子「ま、それはそっちで検証しておいてくれ。私は目の前の試合に集中させてもらうよ」

菫「頼んだぞ」

誠子「お任せあれ」

786: 2015/10/28(水) 13:15:16.16 ID:Em3f5F1f0

起家 誠子「よろしくお願いします」

南家 浩子「よろしくお願いします」

西家 和「よろしくお願いします」

北家 春「……よろしく」

787: 2015/10/28(水) 13:16:15.44 ID:Em3f5F1f0

東一局


浩子(ここまでの無茶苦茶な連中と違って、この面子ならそうそう妙なことは起こらん。普通にデジタルで最善の打牌をすればええ)

春(……)

和(照さんや咲さんは私はオカルト相手にぶつけた方が良いなどと言いますが……私はデジタルの場の方が得意です。妙な力が私にあるとしても、それを警戒してデジタルに徹して来たならばそれこそ私の望むところ)

誠子(……私の能力は分かりやすいから、研究は十分されているはず。原村はオカルトに対しておかしな力を使う、船久保は研究で能力への対策をする……この面子では能力で押し切ることは出来ないだろう)


浩子(と言っても、普通にデジタルで最善打ってたら運任せや。大勝ちする可能性もあれば大負けする可能性もある。期待値通りトントンで終わるとしても、それやと化け物三人相手にする清水谷先輩がろくなリードも持たんで戦うことになる……清澄の宮永は昨年度の団体戦で、荒川や神代を抑えてMVPになった天江を大差で下した正真正銘の化けもんや。大星もまともに相手してどうにかなるようには思えん。石戸も、清水谷先輩の能力には回数制限があることをを考えれば能力込みの清水谷先輩とおそらく五分の相手……せめてトップで折り返したいと思うやん?)

春(……宮永、大星はもちろんのこと、清水谷さんも能力を考慮すれば霞さんと五分以上の相手……せめてトップで繋ぎたい)

和(オカルトに対して発動するという私の能力も任意に発動できるわけではありませんし、私は普段通り打つだけです)

誠子(まともにやって押し切れないなら、押し切れる奴に任せればいい。うちの大将は淡だ、宮永以外は問題にならない)


浩子(かと言って、まともに勝負したら運任せになるのは既に述べた通り。そしたら、状況を利用するしかないわな。 白糸台は大将に自信があるから、うちと永水には構わず、とにかく清澄を逆転してあわよくばリードがほしい。永水はトップを守りたい。清澄は……ほっとけばデジタルで打つ原村や。永水とは利害が対立しとる、清澄は手を組むという発想がない、なら、手を組む相手はそこしかないやんな?)

春(普通に打てば目標は達成できない。千里山や清澄とは協力できない。けど……)

和(……咲さんは、大星さん相手に勝てる自信がないと言います。ならば、私がここで白糸台を突き放さないと……)

誠子(淡にとって宮永以外が問題にならないなら、清澄との差だけが問題になる。そして、宮永と大星に追われる二人の力はおそらく五分……化け物二人の起こす嵐を凌いで逃げ切りを狙う立場だ。凌いで逃げ切るなら、無理な攻めが必要な状況は望ましくないよな?)


誠子(つまり、永水と千里山はどちらもトップで繋ぎたいと思ってるはず。そのために、手を組めるならどこかと手を組みたい。この状況、一番利用する相手が多いのは……一番有利なのは、私だ。そうなんだよな、憩?)

788: 2015/10/28(水) 13:16:49.04 ID:Em3f5F1f0

誠子(……下手に鳴くと、原村の能力に引っかかるかもしれないからな……確証はないけど、能力を発動した相手に対して強運を発揮するんじゃないかって憩が言ってたし……)

春(……嫌な感じがする、力を使うと痛い目を見るような……デジタルでも普通に鳴くような場面以外では鳴かない方がいいかもしれない)


和「……」


2333456m678s西西西 ツモ:1p

打:1p


浩子「ロン。2000」

23赤567p33789s456m ロン:1p


和「はい」

誠子「……」

春「……」

789: 2015/10/28(水) 13:17:37.39 ID:Em3f5F1f0

東二局


誠子「ツモ。タンヤオ平和ツモ、700・1300」

23456m345s45688p ツモ:7m


浩子(……鳴かずに和了る、か。白糸台も原村のアレを能力の類やと考えとるってことか?)

春(……その三面張でもリーチしない……固い面子だから? それとも……親に被せた時の被害を軽減するため?)

和(……亦野誠子が鳴かずに和了る……どういうことでしょう?)


誠子「……」


ガラガラガラ……

790: 2015/10/28(水) 13:18:11.00 ID:Em3f5F1f0

純「東場が終わるまでリーチも鳴きもほとんどねえぞ。全員ダンマリ決め込んで地味ーな試合だなおい」

智紀「リーチをして出すような面子ではない。役なし聴牌以外でリーチがないのは当然」

純「だからって鳴きまで封印することねえだろ。亦野は鳴きがメインだし、滝見だって鳴いて安手をアピールして差し込みを誘発したり、安手に差し込んだりとかそういうスタイルだったはずだろ?」

智紀「能力を使うと船久保に隙を突かれると考えて警戒しているのだと思う。普段通りの打ち方をすれば、研究によって弱点を突くスタイルの船久保の餌食」

ゆみ「原村も、オカルトに対して強運を発揮するらしいからな。もしも白糸台や永水がそれに気付いているなら、オカルトを封印してデジタルに徹する判断は妥当だ」

一「その人が卓につくだけで普段と違う打ち方を強要される……嫌な相手だね。原村さんの方はボクには関係ないけど」

透華「それでこそ私の獲物に相応しいですわ。原村和の能力が知れ渡れば、次に打つ時は妙な能力で小細工をするような無粋な輩の邪魔を入れずに打てそうですわね」

モモ「誰も邪魔しようとしてないのに、自ら無粋な真似をして無茶苦茶な試合にした人が何か言ってるっすよ?」

ゆみ「モモ、決勝で何もさせてもらえなかったのを根に持ってるのか?」

モモ「当たり前っす。ツモ自体をおかしくする連中はみんな不慮の事故に遭って出場を辞退すればいいんすよ」

智美「ワハハー、モモ、不慮の事故を自らの手で起こすのはやめろよー? 相手に気付かれなくてもカメラには映るんだぞー」

モモ「……蒲原先輩は私をなんだと思ってるっすか?」

純「しかし、本当に地味な試合だな。さっきまでの飛び道具がブンブン飛び回ってる乱打戦が嘘みたいだぜ」

一「本来は麻雀ってこういうゲームなんだけどね。鳴きはもう少しあるだろうけど」

智紀「もし先鋒戦なら、この面子でもここまで地味にはならなかったかもしれない」

星夏「どういうことですか?」

791: 2015/10/28(水) 13:19:41.14 ID:Em3f5F1f0

智紀「前提が二つあって面倒な説明になるから、一つずつ確認する……この副将戦の後の大将戦、誰が勝つと思う?」

美穂子「宮永さんでしょうね。彼女が姉の方の宮永さん以外に負けるのはちょっと考えられません」

純「そうか? 確かに咲は色んな要素が噛み合えば衣にも勝てるぐらいだからそうそう負けねえだろうけど……大星って言ったか? あれの天和を随分気にしてたみたいだぜ、万が一ぐらいはあるんじゃねえか?」

ゆみ「おそらくない。個人的な格付けよりチームの勝利を優先すれば、だがな。話が逸れそうだから理由はあとで話す」

智紀「石戸さんや清水谷さんが勝つ可能性は?」

モモ「石戸さんは大星さんにボロ負けしてるし、清水谷さんは咲ちゃんにボロ負けしてるじゃないっすか。二人で手を組んでも片方に勝てるかも怪しいっす」

智紀「そう。つまり、大将戦の結果はある程度見えている」

星夏「清澄と白糸台がトップと二位、千里山と永水は三位とラスになるんですね?」

智紀「更に言えば、咲がトップで大星が二位、石戸さんと清水谷さんはその二人の争いでかなり削られての三位と四位というところまで、あの四人の中では共通認識になっていると思う。『各チームの大将同士の力関係』、これが一つ目の前提」

智美「ふむふむ……そうするとどうなるんだ先生?」

智紀「大将に繋ぐ際に、希望の持てる点数や順位というのが決まってくる。白糸台は、清澄に差をつけておけばどうにかなる。清澄は、よほどの大差をつけられていなければ、どんな状況でも咲がなんとかする。では、千里山と永水は?」

純「……その二校に大差をつけての、出来ればトップが欲しいな。二位だと、下から逃げるだけじゃなく上を叩かなきゃならねえ」

智紀「大将戦の結果が見通せてしまうと、この副将戦で許される結果も限定されてしまう。それから外れるような冒険は出来ない」

佳織「けど、結果が見通せているからこそ、勝負に出なきゃいけないってこともあるじゃないですか?」

智紀「ここで二つ目の前提。各チームの副将は大将を強く信頼している」

モモ「……? 信頼してるから地味な展開になるっすか?」

智紀「前提二つを合わせると千里山と永水から見れば『自分が強く信頼している大将ですら絶対に勝てない相手が出てくる』ということになる。白糸台はまだ勝負になる駒をぶつけられるからそうでもないけど……この時、千里山と永水の副将ならどうする? 大将を楽にするためにリスクを取って勝負?」

一「大将の衣でも勝てない相手……小鍛治プロとか照さんが出てくる状況で、副将を任されたらどうするか……ね。確かに、冒険は出来ないな」

純「今が五分なら、俺は勝負するかもしれねえな。けど、リードがあるってわけか。そのリードを自分のミスでなくすかもしれねえ……キツいな」

星夏「……理屈では、それでも最善を打つべきだと思うんですけど……」

一「そう割り切れたらいいんだけどね、インハイの決勝なんていうただでさえプレッシャーがかかる舞台で更に心理的な負荷をかけられたら、その『最善』を判断することすらまともに出来ないと思うよ。自分に判断できないから、信頼する大将に判断を任せる、今あるリードを使って何をするか、その判断をする機会を譲る」

智紀「清澄以外の三校は、一か八かでリターンを取るより、リスク……失点の可能性と相手の得点を潰す打ち方を強いられる。大将を信頼していて、勝機のある状況からならしっかり逃げ切ってくれると思っているからこそ、ミスが出来ない」

ゆみ「博打に出て勝てば良いが、仮に跳満にでも振り込んでしまえば致命傷になる……その決断を自分がしてしまうよりは大将に任せたい。大将を信頼するからこそ、な」

智紀「ここまで慎重になるということは、普段なら自分がどんなミスをしても大将が取り返してくれると考えるほどに信頼していることの証明でもある。その信頼する大将でも勝てない相手が出てくると分かっているから、大将より劣る自分の判断でリスクを取るという決断が出来ない」

美穂子「卓に座るだけで打ち方を変えるのも大概ですけど、後ろに控えるだけで卓上全体の勝負手を封じ込めているわけですね。宮永さん、恐ろしい人です……」

智紀「これが先鋒戦ならば、そこまで手が縮むことなく何らかの勝負手が出ると考えられるけど、直後に大将戦が控える副将ではそれも出来ない。ついでに、咲の発する威圧感の最大の根拠が、我らが大将を倒した実績だということを付け加えておく」

ゆみ「わざわざ言わなくてもわかってるさ。大した奴だよ天江は」

純「てゆうか、その大将はどこ行ったんだよ? ハギヨシさんからも連絡がねえし、流石に不安になって来たぞ?」

智紀「……? 先ほど、永水女子に保護されている可能性が高いと連絡があったけど?」

純「それを早く言えよ!?」

一「聞いてないの純くんだけだよ? 会場に出て来た原村さんを見て透華のテンション上がってる時に来た連絡だから、ツッコミ役してて聞き逃したんじゃない?」

792: 2015/10/28(水) 13:21:39.74 ID:Em3f5F1f0

南二局 ドラ:6p


和(……ここまで焼き鳥……確率的にはおかしなことではないのですが、なにかおかしいような……)


誠子(……三副露すれば数巡で確実に和了れる。これは、後付けなんかでも有効だ)

誠子(適当な面子を両面喰いでもなんでもいいから三つ鳴けば、数巡で和了れる。役がないなら、後から役牌がついてくる)

誠子(対対や混一色あたりの役を絡めたある程度の火力を備えた攻撃も、役牌一枚だけ残して後々付けの超速攻なんかも出来る。速攻でこそ生きる能力)

誠子(この能力は速攻用なんだ……だから、私は能力なしでも速度重視の打ち方を普段からしている)

春「……」

誠子(滝見も同じように、普段から安手を作るようにしているのだろう。安手で勝つためには、他家より多く和了らなきゃいけない。速度に優れているのは必然)

浩子「……」

誠子(こっちは正直意外だったが、速度特化もお手のものか。データに基づいて弱点を突くには、自分自身もいろんな打ち方が出来なきゃいけないってことかな? だとすると、速攻主体の私や滝見への対策か。速度で勝負出来なきゃ隙を突くことも出来ない)

誠子(期待値重視での最大効率が原村和のデジタル。それに対して、完全に牌効率に特化した三人が囲めば、よほどの不幸に見舞われなければ三人の誰かが速度で上に立てる)

誠子(うちも永水と千里山からは警戒される立場だけど、その二校が牽制し合っていて、協力者としてうちを求めているという状況ではマークが緩む。結果として、清澄は三校からの完全な包囲を受けるというわけだ)

誠子(憩の入れ知恵だけどな。どうやら思惑通りに行ってるらしい)


和(……能力などではないでしょう。亦野誠子も滝見春も鳴きを主体とした能力のはずです、鳴き自体がほとんどないこの状況は完全にデジタルの場と考えて良い)

和(完全にデジタルなのであれば、多少の偏りは運や偶然と言ってしまって構わないはず……私の打ち方にはミスはありませんし、ただの不運です。よりにもよってこの場面で不ヅキに見舞われるとは……しかし、嘆いても何も変わりません。デジタルの場であるならデジタルの最善を……)

234赤5s234567p中中中 ツモ:8p

打:2s


誠子(捉えたぞ、原村和!)

誠子「ロン! 平和ドラドラ、3900!」


123345m34s23466p ロン:2s


和「……はい」

793: 2015/10/28(水) 13:23:14.77 ID:Em3f5F1f0

久「……おかしいわね。緊張してるのかしら?」

咲「ダメだったら私任せにする気満々の原村さんが緊張ですか?」

照「……じゃなければかつてないレベルの絶不調」

京太郎「散々な言われようですね。そんなに酷いですか? 俺には、ミスなく打っててたまたま運が悪いだけって感じに見えますけど」

咲「自分の手牌だけ見るなら確かにノーミスだよ」

京太郎「……周りが見えてないってことか?」

咲「正解。普段の原村さんならあれは押さないね」

京太郎「いや、5200の三面張なら押すだろ? 待ち牌も9枚の内8枚は見えてないし」

久「和が期待値マイナス3900の選択をするわけないでしょ。中でオリるか、押すならツモ切り……いえ、8筒だとドラに近いから振り込んだ場合のマイナスが大きいと判断して2筒かしら? 細かいのよねあの子」

照「あのぐらいは読めるし止まる。原村さんが本調子なら読めてても止める必要がない形で聴牌するから、止めるのはあんまり見ないけどね」

優希「のどちゃん……どうしちゃったんだじょ……?」

まこ「あいつが緊張で打牌を乱すなんてことがあるとはのう……インハイの決勝になんか思い入れでもあるんじゃろうか?」

咲「私は聞いてないけど……お姉ちゃんなにか聞いてる?」

照「聞いてない」

優希「親友である私ですら聞いてないことをほんの数か月前に会ったばかりの咲ちゃん達が聞いているはずがなかろうだじぇ」

京太郎「なにドヤ顔で言ってんだ、親友なら聞いとけ」

久「……思い出せる限りで記憶を掘り返してみたけど、私も何も聞いてないわね。強いて言うなら、さっき咲が自信ないとか言ってたの聞いて青ざめてたかしら?」

咲「勝てない可能性を指摘されて青ざめるって……それ、思い入れどころか、この試合に勝たなきゃいけない理由があるってことになりません?」

久「なるわね」

咲「もう、なんでそういう大事そうなこと隠すかなあ……原村さんってば」

まこ「心配をかけたくない、とかじゃろうな。あいつはそういうのを一人で抱え込むタイプじゃろ」

咲「ああもう! 一人で抱え込む系はこれ以上要らないのに!!」


照「……? 他に誰か居たっけ? あっ、もしかして咲、何か悩んでる? 悩みがあるならお姉ちゃんに……」


京太郎「おーい優希、鏡あったら貸してくれ」

優希「そんなものはない!!」

京太郎「お前、一応女子高生なんだから鏡ぐらい持っとけよ……化粧しないにしても髪型とか服装とか色々気にする年頃だろ」

優希「姿見などタコスがあれば十分だじぇ!」

京太郎「姿見でタコスって、お前はなんなんだよ……タコスの化身か?」

咲「その質問、YESって答えが返って来ると思うよ京ちゃん。むしろそれ前提で言ってると思うよ」

794: 2015/10/28(水) 13:23:56.50 ID:Em3f5F1f0

南三局 ドラ:南


和(最後の親……ここまで焼き鳥。幸か不幸か他家は安手続きですが、放銃が多くて状況は芳しくありません。なんとか取り返したいところです)

和(だというのに……酷い配牌ですね)


1479s11m8p東西西北白発中


和(……いえ、こうなれば一か八かで……)

795: 2015/10/28(水) 13:24:47.17 ID:Em3f5F1f0

咲「えっ!? ちょっと、何してるの原村さん!?」

久「和ったら、らしくないわね。流す一手でしょうに」

まこ「親の期待値なんぞ、せいぜい子の1割増し程度なんじゃがな。あの配牌から和了る確率を考えたら、流す方が有利じゃ」

京太郎「親の期待値が一割増し……そうなんですか?」

咲「親特有の連荘して大逆転なんてのを無視して、一局ごとの期待値を見ればね」

まこ「単純に、それぞれの和了率が25%で、ツモとロンの比率が1:3じゃと仮定すると、親は32分の3だけ平均より有利で、子は32分の1だけ平均より不利になる。親と子の優劣は35:31じゃ」

咲「親を固定して、2000点の手を四人で四回ずつ……ツモと他三人からのロンを全通り、計16通り和了った場合、親はプラス3000点で子はマイナス1000点になるよ。実際にはオリとかもあって、ロンの比率がもう少し低くなるからその分有利が小さくなる」

久「この親と子の差って、直撃し合った場合の差なのよね、ツモだと期待値トントンだから。てことで、ロン和了りの比率が低い、固い面子だと親の価値は下がるわよ。あと、直撃し合ったら有利だから親の方が押しやすいとかのメリットはあるかもね」

京太郎「35:31、子に対しての有利は一割ちょっとか……親の有利ってそんなもんなのか……」

咲「単純計算だと一割以上、実際に打っても多分一割弱ぐらいの有利はあるから、多く打てば確実に差が出るぐらいには有利だよ。だけど、半荘一回や二回じゃ、明確な差が出るほど有利とはいえないよね」

照「配牌が悪くて和了れそうにないなら、さっさと流してしまう方がいい程度の有利。けど……今の原村さんはその判断が出来ていない」

優希「のどちゃん……」

咲「これは、ちょっとまずいよね?」

久「そうね……咲、何点差までなら行ける?」

咲「何点あっても不安ではありますけど……大星さんが天和を連発できたら親番を回した瞬間に終わりですし」

照「……」

796: 2015/10/28(水) 13:26:53.98 ID:Em3f5F1f0

春「ツモ。2000、4000」

234p56s南南南 チー:123m 678p ツモ:7s


浩子(げっ!? ドラのダブ南が暗刻かい……きっつー……むしろ満貫で済んで良かったわ)

誠子(清澄が親なら高い手のツモは歓迎だが……差が開いて千里山が無茶するのが怖いな。船久保なら大丈夫か?)

和(……結局、手牌はバラバラのまま満貫の親かぶり……私は、何をやっているんですか)


春「……オーラス。私の親番」


和「あ……」

和(オーラス? もう、オーラスなんですか? 私は、まだ、なにも……)

797: 2015/10/28(水) 13:28:30.13 ID:Em3f5F1f0

久「……それにしても、メンタル面で弱さをさらけ出してるわね。経験不足が祟ってると思わない?」

照「さっきの中堅戦で竹井さんも思いっきりやらかしてたもんね」

京太郎「……照さん、気付きませんか? 部長が何を言いたいのか」

照「……?」

咲「原村さん、団体戦はほとんど経験がないんだよね?」

優希「われわれ高遠原中学は安定の予選敗退だじぇ」

久「どっかの誰かがまわりくどいことしないでさっさと泣き付いてれば、準決勝は普通に打って経験を積めたはずなのよねえ?」

照「……あれ? もしかして、私アウェーの流れ?」

咲「とりあえず、準決勝のアレ、要らなかったよね? 普通に相談してくれてれば」

照「そ、それは咲のためを想う姉心で……傷つけないために隠してた的なアレで……」

まこ「一番妹が傷つくやり方でそこまで隠してた秘密をぶち明けたのが、なんじゃって?」

京太郎「咲、珍しく思いっきり泣いてたもんな。ポンコツのくせに意地っ張りだから人前じゃ大泣きはしないのに」

照「なっ!?」

久「戦犯を決めたいと思います。先鋒戦でうっかり役満に振り込んだ上に準決勝で経験を積むチャンスを吹っ飛ばした人が一番罪深いと思う方は挙手願います」


ノノノノノ<ハーイ


照「ま、まだ負けてないから戦犯じゃないし……」

咲「とりあえず、負けたらお姉ちゃんのせいね」

照「わ、私のせいじゃ……てゆうかむしろ私が居なかったら先鋒で終わって……」

咲「ん? 先鋒でうっかり役満振り込んだのが何だって?」ニッコリ

照「……すみませんでした」


久(咲までプレッシャーで調子が出ないなんてことになったらたまったもんじゃないからね。とりあえず負けたら照のせいってことにしとけば大丈夫でしょ)

まこ(あくどいのお……おんしがヘマやらかしたのをなかったことにしとるあたり、いかにもあくどい)

久(いや、二連続トップのプラス40000オーバーで戦犯扱いされたら困るんだけど)

798: 2015/10/28(水) 13:29:09.77 ID:Em3f5F1f0

浩子「ツモ。500・1000。お疲れ様でした」

333678s34赤556p北北 ツモ:7p


誠子「お疲れさま。また後半で」

春「お疲れ様」

和「……お疲れ様でした」


799: 2015/10/28(水) 13:29:41.27 ID:Em3f5F1f0

副将戦前半終了


白糸台  85800(+  500)
清澄   74400(-13700)
千里山 112900(+ 6500)
永水  126900(+ 6700)

800: 2015/10/28(水) 13:30:38.24 ID:Em3f5F1f0

和(……負ければ転校。お父さんとの約束は、『優勝できたら長野に残ることを考える』というものでした)

和(個人戦は、予選で敗退しました。だから、私にはもう個人戦での優勝の可能性はありません)

和(であれば、団体戦で優勝するしかない。照さんと咲さんが居て負ける可能性などないと思っていましたから、それでも大丈夫だと思っていましたが……)

和(咲さんは、大星淡に勝つ自信がないと言います。ですが、リードした状態でバトンを渡せばきっと……長野の決勝で、勝てるかどうか分からない、むしろ、まともにやれば負けるとまで言っていた衣さんとの勝負でも勝ってみせたように、他家まで使った駆け引きできっと勝ってくれます。大星さん以外の二人も加治木さんや池田さんに劣るとは思えませんから、大星さんが天江さん以上でなければ、いえ、天江さん以上であったとしても咲さんならきっと……)

和(であれば、私の役目は、部長が逆転してくれた勢いに乗ってリードを広げて咲さんに繋ぐことです。なのに……)


和「結果は、リードを広げるどころか逆転を許す始末……勝たなければいけないというのに、なんという……」


?「なんで『勝たなければいけない』のか、聞かせてもらっていいかな?」


和「えっ?」

咲「……聞く権利ぐらいは、あるよね?」

和「さ、咲さん……」

825: 2015/11/04(水) 16:42:22.69 ID:wxgJdgWC0

和「……なんのことでしょうか? 勝たなければいけないというのは、力関係から言って私は勝ちを期待されているということであって、それ以上の意味は……」

咲「その割には随分と打牌にミスが多かったみたいだけど? 私が自信ないって言ったのを聞いて動揺してるんじゃないの?」

和「そ、そんなことは……大体、打牌にミスはありません。私は期待値が最大になる最善の打牌を……」

咲「後から考えてもミスに気付かないぐらい不調なんだね。読めるはずの待ちに振り込むのが期待値最大の打ち方なの?」

和「……」

咲「言っとくけど、自信がないっていうのは、天和を破る自信がないっていうだけで、勝てる自信がないとは言ってないよ?」

和「……へ?」

咲「……」

和「ほ、本当ですか?」

咲「露骨に安心した顔してるよね。やっぱりなにか事情があるよね?」

和「うっ……」

咲「……話せない?」

和「え、えっと……今は時間もないですし……」

咲「特に事情がないなら、イチかバチかで天和破りに行っちゃおうかなー。安全策を取れば確実に五万点ぐらい差をつけて勝てるけど特に意味もなく勝負しちゃおっかなー?」

和「や、やめてください!! 勝てるならちゃんと勝って下さい! お願いですから!」

咲「事情も話してくれないような薄情な仲間のために頑張る気にはなれないなー。個人的な理由を優先させたいなー」

和「……咲さんの意地悪」

咲「むー、ここまで言っても話さない原村さんの方が問題なんじゃないかな?」

和「終わったら話しますから」

咲「約束だからね?」

和「はい」

826: 2015/11/04(水) 16:42:51.58 ID:wxgJdgWC0

京太郎「……結局、事情は話さねえのな?」

咲「……出て来るの早くない?」

和「……え? な、なんで須賀君が!?」

京太郎「そりゃお前、こいつが一人でここに来れるとでも思ったのか」

和「……あ」


【現在地:特設対局室入口】


和「……言われてみれば当たり前ですね」 

咲「が、頑張れば来れるもん!! 今は緊急事態だから時間と手間を節約しただけで……」

京太郎「へいへい」

827: 2015/11/04(水) 16:43:32.15 ID:wxgJdgWC0

誠子「ただいま」

尭深「おかえり」

憩「……」ションボリ

誠子「憩?」

憩「あ、誠子ちゃんか。お疲れさん」

誠子「どうしたんだこれ?」

尭深「あ……その、私の能力の検証をしたんだけど、やっぱり偶然だったみたいで……」

菫「ウキウキしながら検証を始めて、結果が出たらこれだ。こいつを先鋒から動かせない最大の理由だな」

監督「気になったら試合中でも検証を始めるし、そのくせ仮説が外れたらやる気なくすものね」

誠子「ああ、まあ良かったじゃないか。いつも次の半荘を意識して不完全燃焼ってのも嫌なもんだろ?」

尭深「そうだね」

淡「……」スヤスヤ

誠子「……あっちは?」

監督「憩が相手してくれないからふて寝し始めたのよ。横になったらすぐ寝ついたわね」

誠子「……緊張感のない奴だな。大物なのかアホなのか……」

828: 2015/11/04(水) 16:44:04.27 ID:wxgJdgWC0

浩子「……なんで誰もおらんねん!?」


ガラーン


浩子「……テーブルに書置きがあるな。どれ……」


『借金取りがここにまで押しかけて来た。うちらはほとぼりが冷めるまで身を隠す、お前も自力でなんとかせえ』


浩子「なんの借金やねん!?」

『団体戦に参加するための交通費と、うちらの宿泊費用や』

浩子「先読みすんな!! そして、それ借りたの早くてもせいぜい先月やんな? 返済期限短すぎやろ!」

『悪いな……私には、視えてしまうんや。お前の反応がな』

浩子「なんで借金取りが来ることは視えなかったんですかねえ?」

『手紙はここで終わっている』

浩子「おいこら……くっそ、これ以上は先が読めんからここで無理やり終わらせたってことやんな?」

浩子「つーか、手紙読み終わっても誰も出てこんのかい?」

829: 2015/11/04(水) 16:44:58.98 ID:wxgJdgWC0

バタン


浩子「お、来たか」

???「おうおう、借りたもんは耳揃えて返してもらうでー」

浩子「江口先輩、せめてサングラスなりヅラなりの小道具仕込んで下さい。普通に控室に帰って来たようにしか見えません」

セーラ「おう、ええ椅子やな。売ればそこそこの値段になりそうや」

浩子「会場の備品です」

セーラ「このテーブルもなかなかええな。早速質に入れたるわ」

浩子「せやから会場の備品です」

セーラ「しかし、これでもちと足りんなあ……うちの利子は高いでー? ちょっとでも元金が残ったら、あっという間に雪だるまや」

浩子「はあ……」

セーラ「……なんや、ノリ悪いな?」

浩子「わりかし堪えてるんですよ。永水には追いつけんし、原村は不調みたいやけどこの休憩で立ち直るやろうし。後半はどうなることか」

830: 2015/11/04(水) 16:45:28.22 ID:wxgJdgWC0

バタン


怜「ぐへへへ、若い女なら買いますよ旦那……って、なんや、そんな凹んどるんか?」

雅枝「そう悪くはない結果やったけどな」

浩子「ん……まあ、うち個人としてはそうなんですけど、後に宮永と大星が控えてると思うと……」

怜「んなもん気にしても無駄や。つーか、先鋒で終わらんかった時点で儲けもんやし、次鋒の泉が大爆発したからなんとかなってるだけで、普通にやったら最初から勝ち目ないしな」

セーラ「竹井も絶不調やったやろ。俺も内心では『確実に逆転されて下手したら中堅で飛ばされる』なんて心配しとったのが、リードしたまま終われたしな」

雅枝「どうせ負け戦や。思いっきり打って、経験を次に活かすしかないな」

浩子「おいこら監督」

怜「しゃあないやろ。実際、なんでリードしたままここまで来れてるか分からんわ。本来なら今の時点で清澄20万超、白糸台が10万ちょい、うちと永水はトビ寸前か、とっくに飛んでるはずやで?」

浩子「そうは言いますけどね……実際に優勝の目があるわけで……」

怜「んなもん気にせず普通に打ったらええねん。ダメでも、竜華がなんとかするやろ」

浩子「いや、相手は宮永ですよ? いくら清水谷先輩でも……」

怜「私もこの試合に限れば姉の方の宮永さんに勝てたからな、上手く行けばなんとかなるやろ」

浩子「上手く行けばって、そんな適当な……」

怜「てか、確実に逃げ切るならここで終わらせるしかないで? 妹が姉と同格やとしたら、親が一回あれば40万稼ぐからな」

雅枝「あれが大星と潰し合いをして、ドサクサ紛れに清水谷が能力使って和了って逃げ切る。元々他力本願や、浩子は普通に打って次につなぎさえすればええ」


『怜ー! うちらの出番まだー!?』


怜「……ほれ、まだのんきにネタの用意しとるで? 大物やろ、うちらの大将?」

浩子「……確かに、あんな人のために必氏にリード作るのはアホらしいですね」

セーラ「調子戻ったみたいやな。んじゃ、続き行くでー」

浩子「……今から始めて、休憩中に終わるんですか?」

怜「……終わらんな。もともとギリギリの長さやし」

雅枝「清水谷、二条! 作戦は中止や、時間内に終わらん!!」


『えー!? せっかく練習したんにボツなん!?』

831: 2015/11/04(水) 16:46:09.50 ID:wxgJdgWC0

春「……」ポリポリ

霞「お疲れ様。流石ね」

春「……霞さん、お願いがあります」

霞「あら、何かしら?」

春「……次の半荘、私がトップで終えたら、考え直して下さい」

霞「……何を、かしら?」

春「大将戦の方針を」

霞「……」

春「……」

巴「えっと、春、なんの話?」

初美「さっぱりわからんですよー?」

霞「仕方ないわね、約束しましょう」

春「……ありがとうございます」

霞「礼を言うのは私の方な気がするけどね」

春「……そうかも」ポリ


小蒔「すう……すう……」

衣「くー……くー……」


初美「なんか話がまとまったみたいですけど、全く話が見えませんよー? 姫様とちびっこは寝てるし、誰か説明しろですー!」

巴「はっちゃん、騒ぐと姫様が起きちゃう……」


霞「で、勝算はあるのかしら?」

春「……気合で」ポリ

霞「……それは結構な作戦ね。あなたからそんな根性論を聞けるとは思わなかったわ」

春「……」

832: 2015/11/04(水) 16:47:17.09 ID:wxgJdgWC0

咲「戻りました」

京太郎「任務完了しました」

久「……あら? 和は?」

咲「会場で集中を高めたいって言ったので連れて来ませんでした。多分、大丈夫だと思います」

まこ「ならええが……事情は聞けたんか?」

京太郎「長くなるから、終わったら話すそうです。咲が余裕で勝てるってことで落ち着かせました」

久「そう。それで落ち着くってことはやっぱりなにかあるのかしらね?」

咲「……原村さん、中学一年生までは奈良に居たんですよね? 奈良の前はまた別のところにも……」

優希「うむ。奈良にも小6の時に引っ越したそうだじぇ!」

咲「……転校が多いってことだよね?」

優希「……む?」

咲「……高校生ぐらいなら、無理を言えば一人暮らしとかも許してもらえるかな?」

京太郎「あー……微妙だな。男ならともかく、女の子だと厳しくないか?」

咲「ん~……なら、お父さんだけ単身赴任してもらうとかかなあ……? いずれにしろ、インハイ優勝を条件に出されるぐらいには厳しいか」

京太郎「インハイで優勝出来るチームなら今後のためにも残ったほうがいい、みたいな話で親御さんに頼みこんだってのはあり得るな」

咲「奈良には二年間。それぐらいの期間で転勤するとして、前回の転勤が三年前なら、今回もそろそろだよね?」

京太郎「だろうな。その線で間違ってないんじゃないか」

まこ「つまり、和のやつの事情っちゅうのは……」

久「手元にある情報から一番無理なく導けるのは、それね」

咲「……優勝したらこっちに残れる、出来なかったら転勤について行くって感じかな。単身赴任することになるお父さんには申し訳ないけど」


照(……話が急展開過ぎてついて行けない。この場はわかったふりして、後で竹井さんに聞こう)


優希「……それはつまり」

咲「よっぽど優希ちゃんと離れたくないんだね。愛されてるよ優希ちゃん」

優希「なんと! やはりのどちゃんは我が嫁だったじぇ!」


京太郎(……つっても、今の時点で和が転校をそこまで嫌がるとも思えねえんだけどな。転校したって仲よくやれるってのは、三日前からの阿知賀との交流で証明されてるわけだし)

京太郎(とはいえ、今それを言っても咲を不安にさせるだけか。和の様子を見る限り、咲が勝てば良いだけの話っぽいしな。黙っとこう)

833: 2015/11/04(水) 16:50:40.17 ID:wxgJdgWC0
(途中で席順変わってた。直してきます)

834: 2015/11/04(水) 16:53:52.93 ID:wxgJdgWC0
(席順間違ったまま書いてたから次のレスの席順直すだけで大丈夫っぽい)

835: 2015/11/04(水) 16:54:46.12 ID:wxgJdgWC0

起家 和「よろしくお願いします」

南家 誠子「よろしくお願いします」

西家 浩子「(うちが来た時には卓についてた……もしかして、会場にずっと居たんか? だとしたら、不調から立ち直っとらん可能性もあるか?) よろしく」

北家 春「よろしく」

836: 2015/11/04(水) 16:55:18.88 ID:wxgJdgWC0

東一局


和「リーチ」

浩子「げっ!?」


浩子(四巡目の親リーとかやめろや……ん? リーチ?)

浩子(この面子でリーチして出るはずないってのはわかっとるはずや、いくら四巡目でもそれは変わらん。全員きっちりオリる)

浩子(てことは、それ、ツモれる手なんやろな?)

浩子(あるいは、前半の結果を見てやけっぱちになったか? いや、そんな奴ではないはず……やっぱり、手が入ったとみるべきやな。オリや)


誠子(振り込むよりはツモの方がマシ……だろうか? いや、面前ツモなら1翻がつく……ツモって30符の形だとして、面前ロンの10符がついて40符1翻の2000に振り込むのと30符2翻の1000オールのツモ……私にとって重要なのは清澄との点差だけだから、この場合、全く変わらないわけだ)

誠子(……放っておいてツモられるのを待つのと止められる可能性に賭けるのでは、後者の方がマシ……読みに自信がないわけでもない)

誠子(……しかし、他も二人も固い面子だし、きっちりオリれば原村が和了れずに流局する可能性も……)

誠子(……くそ、なんだこれ? どう打てばいいんだ?)

誠子(個人戦なら自分の収支を最大にすればいいから、振り込むリスクと和了れるメリットを比べればいい。ツモられるのは振り込むよりマシ)

誠子(けど、ツモられても振り込んでも同じって言うんじゃ、攻めるべき局面が増える……増えるよな?)

誠子(……となると、普段なら押さないような手で押さなきゃいけない場面が出てくる。どんな手まで押すべきなんだ?)


3468s455789m234p ツモ:5m


誠子(……5萬は安牌。ツモ切りでもイーシャンテンのまま。安牌が増えればまだ押せるし、オリるにしてもこれでいい。迷うことのない牌だ)

打:5m

837: 2015/11/04(水) 16:55:50.24 ID:wxgJdgWC0

和「聴牌」

13456s東東東南南南白白

浩子・誠子・春「ノーテン」


浩子(……四巡でその手か。マジでふざけんな)

誠子(……結局オリてしまった。しかし、カンチャン待ちの悪形でも四巡で親ならリーチか……前半の不調でやけになったのか?)


春(……これは、しんどそう)

838: 2015/11/04(水) 16:56:42.10 ID:wxgJdgWC0

東一局 一本場

和「……」

111999m19s1赤59p東南西


和「九種九牌」パタ


浩子(……ま、暗刻二つあるとはいえ、端牌じゃ使い勝手も悪い。四向聴で他の形が悪すぎる。親の一本場ということを考慮しても流すのが正解やろな)

誠子(ヤケなのか、それとも冷静なのか……前半で流せる手牌を流さずに痛い目に遭ったから臆病になっているようにも思える……)

春(……)

839: 2015/11/04(水) 16:57:13.89 ID:wxgJdgWC0

東二局 二本場


誠子(……前半とはうってかわって、原村が場の中心に居る感じがするな。いや、たった二局で何を弱気なことを言っているんだ私は……)

誠子(空振りのリーチと、親番を九種で流しただけだろう? 何を恐れることがある?)

誠子(四巡目でリーチしてもツモれない、仕切り直せば九種九牌。恐れる必要はない、むしろ不運に見舞われてるじゃないか)

誠子(大丈夫、行けるはずだ……)


誠子(って、なんだよこれ!? どうなってる!?)


199m19s789p東南北白発中


誠子(九種九牌で親が流れた後の親がまた九種九牌って……)

840: 2015/11/04(水) 16:57:49.33 ID:wxgJdgWC0

菫「憩、お前ならこの状況、どうする?」

憩「うち以外なら国士狙いをおすすめしますね。うちは流します」

尭深「憩ちゃんだと、カンチャンとかペンチャンが出来る度に国士と関係ない牌が来ちゃうからね。あの筒子の処理が出来ない」

憩「7切ったらペンチャンで7が来て、8切ったらカンチャンで8が来るやろ、9切って面子消してから改めて9をツモる必要がある。下手すりゃフリテンの9筒待ちや」

監督「不便よねえ……」

憩「そんな不便を帳消しにするぐらいのメリットはありますんで、気になりませんけどね。国士なんか和了れんでも満貫四回和了ったらええんやし」

菫「お前は本当に満貫を四回和了るから始末が悪いな」

尭深「それにしても、親が二回連続で九種九牌かあ……珍しいよね」

憩「このまま全員二回ずつ九種九牌で流してくれてもええんやけどな。今より状況が良くなる可能性は低そうや」

菫「……状況が良くなる見込みがない? それは、原村が調子を戻したということか?」

憩「いえ、原村とは関係なく、こっちの調子がイマイチですね。流してもうたんで」

菫「……11種12牌から流すのは、流石に看過できないと?」

憩「12牌ですよ? 配牌で役満の一向聴、狙わん理由はありません」

菫「……そうか。私なら迷ってしまうかもしれんな」

尭深「迷う……ですか?」

菫「現状のリードが広がる保証はない、前半は上手く行きすぎたぐらいだ。上手く行ってるうちに大将に繋いでしまいたい。ならば、次の局にノーリスクで進められるというのが魅力的に見えてもおかしくない」

憩「随分と弱気ですね。国士の一向聴ですよ?」

菫「そうだな、弱気だ。冷静に考えれば国士狙いで続行するのが正しいと思う。しかし、おそらく亦野も同じ考えで流したんじゃないか?」

監督「……あなた達に、負ける可能性のある試合を経験させて来なかった私の責任ね」

憩「いやいや、負ける可能性のある相手がおらんかったんやから、監督の責任と違いますって」

監督「チームを分けて打たせるなり、プロを呼ぶなり、手はあったわ……ごめんなさい」

尭深「監督……」

菫「今更言っても仕方ないさ。しかし、亦野が弱気の風に吹かれているとなると、憩の言うとおり、良くて現状維持だろうな」

憩「ま、現状維持なら、うちらの大将が何とかしてくれるやろうけど」


淡「むにゃむにゃ……ケイー、あそぼー……」


菫「これに頼るのは不本意なんだがな……」

憩「とはいえ、準決勝でも最後は淡ちゃん頼みやったからなあ……大会前のオーダー決めでは下手すると淡ちゃんの出番なしで大会終わるかもしれんとか言っとったけど、全くそんなことはなかったと」

841: 2015/11/04(水) 16:58:20.47 ID:wxgJdgWC0

東三局 三本場


浩子配牌

2445s1578p4赤56s東北白


浩子(……流石に三連続はあらへんか。誰も和了らんまま東三局の三本場……三本場か)

春(積み棒が三本と、リー棒が一本。1000点でも2900。おいしい)

誠子(……確率の低いことが二回続いたら能力を疑うって憩は言ってたけど……九種九牌が能力だとしたら、誰のだ?)

和「……」

浩子(ここから切るなら字牌か1筒やな。染まる手でなし、とりあえず北でええやろ)


打:北


春(……ん?)

129m11378p1237s中 ツモ:北

春(……二連続で九種九牌の後……いや、まさか……)

打:北

842: 2015/11/04(水) 16:59:14.07 ID:wxgJdgWC0

咲「なにあれ? 偶然だよね?」

照「偶然だけど……偶然起こるような確率じゃないと思う」

咲「けど、偶然だよね?」

照「多分」

久「ノータイムで北切りか、ま、和ならそうよね。流れたなら流れたで構わない手だし」

京太郎「……まさかこれって……」

まこ「亦野はクズ手じゃから、当然切るじゃろうな」


優希「四風連打だじぇ!」


咲「なんでこれが流れるルールなのか、昔から疑問なんだよね」

照「言われてみれば確かに。流れる理由がない」

久「麻雀は中国由来のゲームで、中国語だと『四』と『氏』が同じ発音。だから。四がつくものは縁起が悪いってことで流れる、みたいな説を聞いたことがあるけど……」

照「四開槓とか四家立直もそれ?」

久「らしいわよ」

咲「そんな理由なら、なくしてもいいと思いますけど……」

久「あら? そんなに嫌なの?」

咲「嫌というか、四風連打の局面から続けたいんですよね。国士の可能性が無くなるから、安心して公九牌を槓出来るじゃないですか」

照「国士の暗槓和了りなんてレアなものを気にして四風連打を無くせと言われても……」

咲「国士の暗槓和了りはレアじゃないでしょ?」

照「レアだから。激レアだから。10万局打っても一度も起きない超レアだから」

咲「……確かに、最近だと加治木さんぐらいしか狙ってこなかったね」

久「あんたらの中じゃありきたりなのかもしれないけど、漫画とか小説のネタになるようなものは基本的に現実では起きないのよ?」

まこ「10万局で起きないなら100万局やればええと言いたくても、一人の人間が一生に打てる局数もたかが知れとるしのう」

843: 2015/11/04(水) 17:00:08.23 ID:wxgJdgWC0

東四局 四本場


春(……三回続いたら、もう偶然とは思えない。けれど、誰かが何かをした様子もない)


浩子(うちにもついに能力が……なんてことはあらへんやろな。となると、一番疑わしいのは永水……そもそも、場を進めて一番得するのはトップの永水や。疑うなら滝見を疑うのが自然やろな)

誠子(九種九牌の次は四風連打。『和了りを潰す』能力なら、その局自体を流してしまうのもあり得る……こいつは一杯喰わされたかな?)

和(……流すというならそれで構いません。四風連打を恐れて好配牌を崩したり、三家和を嫌ってロンを見送るよりマシです)


春(……ん? もしかして、私が疑われている?)

春(確かに私でも他の三人の立場なら私を疑うけれど……私は何もしていない)

春(……私を疑うということは、つまり、疑ってる人間は何もしていないということ)

春(この三局の流局が偶然だと分かっているのは私一人だけ……上手く使って出し抜ければ……)


234s14589m西西西白発 ツモ:西


春(……配牌でこれは、偶然にしては出来過ぎだけど……利用させてもらう)

春「槓」

844: 2015/11/04(水) 17:01:01.83 ID:wxgJdgWC0

憩「確定やな、滝見さんがなんかやっとるわ」

尭深「また目をキラキラさせて……憩ちゃんってば」

監督「ここまでの三局から推測されるのは流局させる能力。今の槓から警戒する流局は……四開槓ね。ということは、一枚も河に見えてなくて自分が対子以上で持ってない牌は迂闊に切れない」

菫「他の三人の配牌を見る限り、四開槓が起きる可能性はなさそうだが……」

監督「でしょうね。ここまでの三局の偶然を利用して他家の手を縛りに行っただけだと思うわ」

憩「え、いや、流石に滝見さんがなんかやっとるんと違います?」

監督「うーん……それらしい素振りは見せてないのよね。それに、四開槓を狙うなら最初に槓して警戒させるのも変だし」

憩「そう思わせて初牌を抱えさせて暗刻や槓子にさせようってことかもしれんやないですか?」

監督「……そもそも四開槓のためには他家が槓しないといけないからね。けど、他家に頼る能力っていうのも妙じゃない? そのまま使うなり、一枚外すなりされたら目論見が外れるし」

憩「……たしかに。配牌で不要牌になりやすい四風連打ならともかく、四家立直や四開槓となると……なんや、また偶然かい」

監督「まあ、九種九牌や四風連打は能力と考えられなくもないわ。能力の無駄遣いを避けながら、槓が出来る手牌を見てそれを意識させる立ち回りをしているのかもしれないし……」

憩「そうや! 九種は配牌に送り込むだけやから、淡ちゃんみたいな能力やと考えればあり得ん話やない。ちょっと滝見さんの過去の牌譜を漁って……」

菫「あいつの牌譜は今年の分だけ……県大会のものと一昨日の準決勝のものしかないぞ?」

憩「二回戦……は小蒔ちゃんと松実姉妹が暴れて次鋒で終わりやったな。県大会も決勝以外は中堅で終わりか……さっきの前半合わせても半荘五回しかデータないやん……あーもう、こんなんじゃ検証できんやろー!!」

菫「他校の人間の能力より試合を気にしてほしいんだが……」

憩「それやけど、誠子ちゃんも一年以上うちと麻雀打っといて今更あの面子にビビって手を引っ込めるようじゃ困るんやけど……」

尭深「それは同感。あの三人で手を組まれるよりも憩ちゃん一人を相手にする方が嫌だな、私は」

監督「憩と打ち続けたからこそ自信がないのかもしれないけどね……」

845: 2015/11/04(水) 17:02:04.67 ID:wxgJdgWC0

春「ツモ。6400オール」


12345789m白白 暗槓:西西西西 ツモ:6m


誠子「なっ!?」

誠子(槓子は最初の一つだけ……いきなり一面子を手出しで落としたのも染めに行っただけだと!?)

誠子(まんまとブラフに踊らされて足止め喰らって高目を成就された……船久保も悔しそうにしてるな)

誠子(原村は……全く表情が読めないな。動揺はないのか?)


和(私は染め手を警戒してオリましたからね。ツモられるのは仕方ありません)


浩子(……ブラフかい。さっきまでのが能力かどうかも分からんし……)

浩子(てゆうか、能力に引っかかるのがシャクで手え引っ込めたけど、能力だとしても流すだけっちゅうならノーリスクやん?)

浩子(大したことない能力やけど、三連続で使うことで薄気味悪さと派手さで過大に印象付けることが出来る。そして、自分の親番で他家を足止め。その隙に大物手を成就……完全に騙されたわ。ここまで温存してたことも含めて、大したタヌキやでこいつ)


春(……上手く出し抜けた。あとは親を安く落として南場を逃げ切れば……)

846: 2015/11/04(水) 17:03:49.23 ID:wxgJdgWC0

優希「そういえば、のどちゃんの転校話で聞きそびれたけど、咲ちゃんが大将戦で勝てるって言うのは本当なのか?」

咲「嘘に決まってるでしょ。あんなの相手に簡単に勝てる人なんか、お姉ちゃんと永水の先鋒さんだけだよ」

照「またそうやって過大評価を……いや、後者は正しいけど」

久「で、勝算はあるのかしら?」

咲「……打ってみないと分かりません」

まこ「展開が読めんほどに底の知れん相手っちゅうことか?」

咲「そういうわけでもないんですけど、不確定要素があって……」

京太郎「それ次第で展開が変わるってことか?」

久「どう変わるのかしら? 照の件で昨日は決勝への対策とか練ってる暇なかったから、詳しく聞かせてもらっていい? なにか対策が出せるかもしれないし」

咲「そうですね……じゃあ、順を追って説明するために大星さんの分析から行きましょう。
彼女の能力は確認されている限り三つ。他家の配牌を悪くする、ダブリーする、天和を和了る。基本的に配牌に絡む能力ですね。発動にも条件があって、多分、弱い方の能力を破ると次の能力が発動する……順番としては、配牌支配を破るとダブリーされます。で、ダブリーを破ると天和が出てきます」

照「『ダブリーを破る』の定義は、ダブリーをさせない、あるいは、槓裏モロ乗りをさせない」

咲「具体的に破る方法は、槓材をツモれないように順番をズラす、槓裏表示牌を槓材と違う牌にする、配牌でダブリー出来ない手を送り込む、三回以上槓して大星さんに槓させない……あたりだね」

京太郎「イカサマなしで人間に実行可能なものが一つもないんだが」

優希「ズラすだけならあるいは……だじぇ」

久「彼女が槓するのは最後の角を超えた巡目。そこで鳴いて四牌ズラせば私なんかでも行けそうね。やると天和が来るからやりたくないけど」

咲「ダブリーかかってる中で先に和了るのはセーフ。だから、私だけなら天和を使わせずに和了ることは可能だよ」

照「……やっぱりそこまで分かってるんだよね? そうすると、私には咲がなんで悩んでるのか分からないのだけど。『どうしても天和を使わせた上で勝ちたい』とかじゃないよね?」

咲「清水谷さんは最善の打牌をするだけで配牌やツモをおかしくさせたりはしないから大丈夫。なんだけど……」

久「清水谷さんと大星さん本人じゃないってことは、永水ね?」

咲「はい……多分、あの人、あれ以外にも能力が使えると思うんですよね。神代さんみたいに」

847: 2015/11/04(水) 17:04:32.64 ID:wxgJdgWC0

照「……あ」

咲「まあ、彼女にダブリー対策が出来ないというなら問題ないんですけど。ダブリー対策に使えるような能力があって、実際に対策して来た場合ですね」

久「……咲以外が破って天和を使われた場合でも、天和の被害は三人平等だものね」

咲「いくつか能力がありそうな中で、一昨日は自分に有利な一色独占を使ってましたけど……ダブリー対策で相手を不利にするような能力を使うかもしれません。そうなると、石戸さんがダブリーを破れた場合に天和前提で打たないといけなくて……」


照「……あり得る」


京太郎「なるほど、そりゃ、対策出来るなら永水だって対策しないわけがないからな」

優希「けど、破ると次の能力が出てくるから、あえて対策しないってこともあり得るじょ?」

咲「準決勝とかここまでの色んな人への対策を見る限り、そこまでは見破れないと思うんだよね、永水の人達。追い詰められたから使ったぐらいに思ってるだろうし、だとすると大星さんを抑え込むために何かしてくると思う」

まこ「なるほどのう……」

照「……そうなった場合、どうしようもない」

咲「天和はどうしようもないからね……けど、石戸さんがダブリーを破る前にどうにかするとか、天和前提で64000以上稼ぐとか」

照「そういう問題ではない。あんなものをどうにか出来るわけがない」

咲「天和以外はどうにかなるでしょ? てゆうか、さっきは『なんで咲が悩んでるのか分からない』とか言ってたのに、何を言ってるのお姉ちゃん?」

照「私が言ってるのは大星さんじゃない。石戸さん」

咲「……?」


照「石戸さんが神代さんと同じタイプの能力だった場合……神様っぽい何かの力を借りる能力だった場合……あり得るよね?」


咲「神代さんと同じ……あっ!?」

久「……ちょっと待ちなさい、それは反則でしょ? 照でも10万点差をつけられたのよ? そいつにトップでバトンを渡されたら……」

照「荒川さんと園城寺さんに比べて、他の面子も一段落ちる。サポート要員としては一段どころじゃなく落ちる。だから、どうしようもない」

咲「……そうだとしたら、今から原村さんがどこかを飛ばして終わらせるしかないじゃない!?」


優希「どうしたんだじょ?」

京太郎「……先鋒で永水が使ったアレを、大将戦で石戸さんが使えるかもしれねえってさ」

優希「それは大変だじぇ」

京太郎「台詞から危機感が感じられねえよ」

優希「打つのは私じゃないからな。もし仮にこの試合に負けてのどちゃんが転校したとしても我らの友情は永遠、少しのあいだ離れることになったとしてもプロの世界を目指せばいつかまた会えるはずだじぇ。それに、どうせ咲ちゃんは大げさに騒いでおいて最後にはどうにかするんだじぇ」

京太郎「薄情なのか信頼が厚いのか……」

848: 2015/11/04(水) 17:05:08.84 ID:wxgJdgWC0

和「ツモ。面前ツモ・チャンタ・東。2500・4500」

123999m789s東東白白 ツモ:東


春(一瞬で14000詰められた。あと四局、逃げ切れるかどうか……)

誠子(……原村が走るのは放置できないな。守りに入ってる場合じゃない、か)

浩子(つーか、なんでお前はそんなポンポン大物手が入るんや!! せめてチャンタ外せや! 孤立牌切っただけの自然な捨て牌でチャンタになるとかどんなイカサマやねん!)

849: 2015/11/04(水) 17:05:58.82 ID:wxgJdgWC0

南一局


浩子(大将戦のことは大将に任せる。うちの仕事は副将戦や)

浩子(……トップが親ッパネ、二位が子で満貫をそれぞれツモって、まあ状況は芳しくない)

浩子(着順で点数がつく個人戦やなく、純粋に収支のみで競うルール。どんな状況だろうと目指すものはトップ)

浩子(つまり、親ッパネの24000差をどうにかして逆転しろって話やな)

浩子(んで、出来たのがこの手)


7899m44567p3456s ツモ:7s


浩子(リーチかけたら出ん面子? 千点の手を二千点にするために千点を供託するのは割に合わん?)

浩子(知るかボケ!! ピンフのみでもリーチ一発ツモ裏裏なら跳満になるんや! 大差で負けとって、そんでも一位を狙う立場やったらリーチかけるに決まっとるやろ!!)

浩子「リーチ!!」

打:9m


春(……原村さんの親番でツモってくれるなら歓迎。チームとしてのトップではなく、今回はこの半荘のトップが目的。当然ベタオリ)

打:西


和(まだ一向聴、当然ベタオリです)

打:3m


誠子(安牌増やせよお前ら……くそ、現物を切るしかないか)

打:3m

850: 2015/11/04(水) 17:06:45.82 ID:wxgJdgWC0

怜「二巡後にツモるのにここでリーチするとは、詰めが甘いでフナQ」

セーラ「ツモれるならええやん」

泉「てゆうか、そんなん分かるの園城寺先輩だけですって」

竜華「えー、怜、他人の試合でも一巡先が視えるん?」

雅枝「二巡後って言うとるやろ。一巡先が視えてもそんなん分からん、つまりボケただけや。揃いも揃って空気の読めん奴らやな」

怜「わかりにくかったかもしれんな。ツッコミをフナQのレベルに合わせとるから、フナQがおらんとどうにも滑りやすくて困るわ」


『ツモ、赤5索ツモって裏裏乗ったわ、3000・6000や!』


怜「……は?」

竜華「おー、ホンマに二巡後にツモったで! すごいな怜、他人の試合の二巡先も視えるんやな!!」

セーラ「さすが千里山のエースや!」

泉「けど、これやったら一発ついても変わらなくないですか?」

怜「さっきのはボケただけやって……やるなあフナQ」

雅枝「いくら対策したって、凡人のツキで相手の隙を突けるような手が入るわけないんや。浩子も相当な強運持ち、というか、私の姪なんやから素質があって然るべきや」

851: 2015/11/04(水) 17:07:26.80 ID:wxgJdgWC0

南二局


浩子(……まさか赤ツモって裏裏とか……そりゃ、リーチ一発ツモ裏裏がどうのとは言ったけどマジでそうなるとはなあ)

浩子(ま、たまにはこんなことがあってもええか。原村のバカヅキに比べたら、たまに赤ツモって裏二枚乗せるぐらい可愛いもんやろ)

浩子(……ん?)


誠子「……」

23578s167p2479m東 ツモ:東

打:1p


浩子(……んん?)

23456p234678s22m


浩子(落ち着け、落ち着くんや、冷静に考えろ。人和がないからここで和了ると千点、一方、地和の32000のチャンスはまだ10牌残っていて、見えてない122牌のうち、次にツモる牌が和了れる牌である確率は……少なくとも期待値は1000より高いな)

浩子(……地和がツモれなくても、この手ならリーチしてツモれるやろ。上手く行けば一巡目で見逃した1筒で直撃が取れるかもしれん。ダブリー平和ツモでの5200か直撃での3900が八割程度の確率で和了れるとなれば、千点取っとくより明らかに得)

浩子(オーケー、スルーや。スルーして地和を狙う)

浩子(流石にツモれんか……)

浩子「リーチ」

ツモ切り:発


春「……九種九牌」パタ

124m139s赤59p東南北白発 ツモ:4m


浩子「んなっ!?」

浩子(千点の直撃取っとくのが正解やって、しらんわそんなん……って、そうか、滝見の能力があったなそう言えば……好手が流れる可能性は考えるべきやった……それでも期待値的にはスルーが正解やけどな)


春(……ダブリーが流せてしまった。これは誤解が深まりそう)

852: 2015/11/04(水) 17:08:09.73 ID:wxgJdgWC0

霞「春ったら、私たちにも隠してたのね。あんなことが出来るなら準決勝でも楽が出来たでしょうに」

巴「敵を騙すにはまず味方から、ですかね。副将が安全に流せるとなると打ち方が緩みそうですし」

初美「私にも教えないとはけしからんですよー!」


霞(……ここまでずっと、私たちにすら教えていなかった力を使ってまで、私に無理させまいとしているのね。これは、どうしたものかしら?)


小蒔「すう……すう……」

衣「くかー……」


霞(小蒔ちゃんや初美ちゃんの頑張りを無駄にもしたくないし……かといって、ここまでしてくれた春の頼みを無下にも出来ないし……困ったわね)

853: 2015/11/04(水) 17:08:44.71 ID:wxgJdgWC0

南三局 


誠子(……ここまで何も出来てない。色んなものに振り回されっぱなしだ)

誠子(……けど、今回は形になった。上手く和了れれば……)


1234赤56m赤567s南南中中


春「……」

打:南


誠子「ロン、5200!!」


春「……はい」

ーー

南四局


春(……元々、わずかながら勝算はあった。それがこのオーラス)ピシッ

和(……ん? 何か違和感が……)

誠子(清澄との点差は広げられなかったが、少なくともリードして淡につなげることは出来そうだ)

打:発


春「ポン」

ポン:発発発 打:中


和(これは……?)

854: 2015/11/04(水) 17:09:21.69 ID:wxgJdgWC0

怜「滝見の作戦勝ちやな」

セーラ「ん? どういうことや?」

怜「この後半戦のオーラスでは、原村を気にせず能力が使えるんや」

竜華「ん? どういうことなん?」

怜「原村はオカルトに対して強力なカウンターを使って来るけど、それは基本的にカウンターなんよ。最初の一発はちゃんと使える」

泉「あっ……ということは……」

怜「決勝戦の、前後半で二半荘打つうちの後半戦、そのオーラス。次がないこの場面でなら、能力を使って和了ってもカウンターは喰らわん」

雅枝「……なんでそれを浩子に言わんかった?」

怜「フナQにはそもそも使う能力がないやん。亦野と滝見が気付いとらんかったら無駄な知識やし、気付いてるかどうか分かるのはオーラスに入った後、手が進んでからやし、そこからじゃ対応出来んやろ」

竜華「あ、確かに」

怜「安手で高目を潰す、滝見の能力はさほど強力やないし、ここで使われても痛手にはならん。とはいえ、ここで使って和了りやめで逃げ切り確定。うまいことやりおったな」

855: 2015/11/04(水) 17:10:55.81 ID:wxgJdgWC0

泉「ん? あれ、ちょっと待って下さい。おかしくないですか?」

怜「なにがや?」

泉「滝見の奴、後半始まってからずっと能力つかってましたよね?」

怜「一度も鳴いとらんのにいつ使ったんや?」

泉「いや、あの、九種九牌とか四風連打とか……まさか、あんだけ続いて偶然とか言わんでしょう?」

怜「……泉、残念なお知らせやけどな、それ偶然なんや」

泉「は、はあああああ!?」

怜「天和だって、純正九連だって、四風連打で半荘一回全部流局することだって、三家和だけで半荘が終わることだって、麻雀にはおこり得るんよ」

雅枝「まずあらへんけど、絶対ないということはない。理論上あり得ることなら、麻雀にはおこり得るっちゅうことやな」

怜「能力として扱ってるけど、実は偶然かもしれん。たまたま麻雀打つ時に千回連続で起家になったとして、それが起家になる能力なのか、偶然そうなっただけか、わからんのや」

泉「いや、千回続いたら能力でしょう!?」

怜「四の千乗分の一の確率で、偶然起こる現象やで?」

泉「小数点の下にゼロがいくつつくと思ってるんですか?」

怜「二の10乗ごとにゼロ三つとして、600個ぐらいか? 書くのが大変そうやな」

泉「いやいや、流石にそれは偶然には起きんでしょう?」

怜「ま、そうやな。だから能力として扱う。けど、千が百なら? あるいは10なら? 5回ぐらいならお前も連続で起家になったことあるやろ?」

泉「そらまあ、ありますけど……今回の滝見はダブリー流したりしてましたやん」

怜「トッププロ三人相手にダブリー1回するまで麻雀打つのと九種九牌が3回来るまで麻雀打つのやったらどっち選ぶ?」

泉「よっぽどの麻雀好きで、打つのがご褒美ってんでもない限り後者ですね……」

怜「確率で言ったらフナQのダブリーの方が異常やろ?」

泉「けど、あれは一回こっきりやし……」

怜「九種九牌三回と四風連打一回ぐらいの間にダブリーの配牌が一回来るか?」

泉「来ませんけど……」

怜「そうやろ? あのダブリーが偶然なら、九種九牌も偶然や」

竜華「まあ、怜が言うなら偶然なんやろ」

セーラ「おかしなことばっか起こる卓やなー」

泉「納得いきません……」

怜「まあ、私も能力やと思いたいんやけど……原村に動きがないから偶然ってことにするしかないやろ。 今までの原村の実績を考えて、確率が高い方を偶然とするなら九種九牌が偶然ってことになる。確率で言えば、小数点の下のゼロの数がいくつか違うぐらいの差があるしな」

856: 2015/11/04(水) 17:11:29.75 ID:wxgJdgWC0

和「……」

234m2346s234赤5赤56p ツモ:7s

打:6p


誠子(原村がヤバそうだ……おそらく聴牌、ほうっておけば次にでも和了るかもしれない)

誠子(……滝見に差し込むしかないか。散々振り回されて、最後もしてやられるのは癪だが、それが最善)

打:8m


春「ロン。発のみ、1000点。終了します」


79m北北 チー:345m 789s ポン:発発発 ロン:8m


和「……お疲れ様でした」

浩子「お疲れさん」

誠子「お疲れ様でした」

春「お疲れ様でした」


857: 2015/11/04(水) 17:12:04.94 ID:wxgJdgWC0


副将戦前半終了


白糸台  78100(- 7700)
清澄   73500(-  900)
千里山 114000(+ 1100)
永水  134400(+ 7500)


891: 2015/11/18(水) 16:07:52.57 ID:CXKyFt/d0

>>857訂正


副将戦後半終了


白糸台  77600(- 8200)
清澄   73500(-  900)
千里山 114000(+ 1100)
永水  134900(+ 8000)


892: 2015/11/18(水) 16:08:49.09 ID:CXKyFt/d0

和(少なくとも白糸台との差は詰めました、咲さんならあとはなんとか……)

ガチャ


咲「ヤダヤダヤダ!! 無理、絶対無理、勝てるはずないじゃん!!」

照「大丈夫大丈夫、最悪でもトビで終わるだけだから。あ、ここから飛べばトータルマイナスでお揃いだよ咲」

咲「こんな姉と一緒になりたくないいいいいい!!!」

久「姉妹揃って同じ相手に負けてマイナスとか、仲良しね」

咲「いやあああああ!!!」


和「えっと……状況が把握できないのですが?」

優希「あ、のどちゃんお疲れさまだじぇ」

京太郎「お疲れさん、あれは気にするな。いつもの大げさ騒ぎだ、多分」

まこ「いや、話が本当なら今回はマジでやばいと思うんじゃが……」

893: 2015/11/18(水) 16:09:44.55 ID:CXKyFt/d0

和「……」


久「あ、おかえり和。お疲れ様」

和「はい……ところで、あの……」

久「ん~……聞きたい?」

和「当たり前です」

久「……先鋒の後半で神代さんが使った能力、覚えてる?」

和「……まさか」

久「石戸さんも、アレを使えるかもしれないって話になってね。照でも勝てないんだから、石戸さんが本当にあれを使えたら、その時はどうしようもないと思うわ。最悪なことに永水がトップだしね」

和「え? あ、あの……それは……」

久「とはいえ、使えるならなんで準決勝で使わなかったのかって疑問もあるわよね?」

照「……む? 確かに」

咲「……あれについては対策しても無駄ですからね。対策が無駄なら研究されても関係ないですし、それなら毎回使えばいいはず……」

まこ「バカ騒ぎしながら、なんか対策でも考えついたんかの?」

久「対策というか、あれが出て来たらなにしても無駄だから、出てこないんじゃないかってことにして気持ちを落ち着かせようと色々考えたのよね」

京太郎「出て来たら勝てないってのは確定なんですか?」

咲「お姉ちゃんとあの二人が三対一で打ってボロ負けするような相手には、誰が何やっても勝てないと思うよ。世界ランク一位から三位を揃えても勝てないんじゃないかな?」

京太郎「なんでそんな化け物が高校生の試合に出て来てるんだよ……」

照・咲「それはこっちが聞きたい」

894: 2015/11/18(水) 16:10:40.12 ID:CXKyFt/d0

和「で、石戸さんが準決勝でアレを使わなかった理由はなんですか?」

久「ま、一番単純で一番心安らぐのは『使えないから使わなかった』ね」

咲「……だといいんですけど」

久「神代さんはいくつかの能力を順番に使うんでしょう? つまり、任意にあの能力を使えるわけじゃない。けど、石戸さんは任意に能力を選べるわよね?」

咲「あの感じだと、多分選べると思います。私も任意に選べる前提で石戸さんを警戒してましたし」

久「任意にアレを使うようなチートが許されると思う?」

咲「断じて否ですね」

久「だとすれば、使えないか、使うと大きな代償を払うって感じなんじゃないかしら?」

照「そうであってほしいところ」

まこ「なるほどのう……確かに、準決勝は負けてもおかしくない展開じゃったから、それで使わんのもおかしな話じゃ。使えんっちゅうのはありそうじゃな」

久「でしょう?」

和「……つまり、大丈夫ということでしょうか?」

照「使えること前提で可能性を考えるなら、強い能力は使うのに厳しい条件があるのかもしれない。準決勝で使わなかったのは、既に別の能力を使っていたり、それ以外で何か必要な条件が満たせていなかったとか」

咲「……だとしたら、条件を満たさせないようにしなきゃいけないね。条件が分からないから、それも探りながら」

久「探りながらって……能力を発動される前に条件が分かるの?」

咲「……頑張ればなんとか」

優希「人のこと言えない程度には咲ちゃんもおかしいじょ……」

照「そうでもない。例えば、発動の条件が『風牌を鳴く』とかなら、それを狙った打ち方をするから、咲なら2~3局打てば一度も発動されなくてもそれがなんらかの能力の条件であることを見抜ける」

久「……それが出来るだけでも十分おかしいと思うのだけど。私から見てもおかしいわよ?」

和「発動してない能力の条件を察知出来る時点でおかしいですが、それも照さんなら一局で見抜けるわけですよね?」

照「また持ち上げようとしてる気配がするから先に釘を刺しておくけど、咲は自分で和了りながらでも見抜けるけど、私は一局完全に捨てるからね?」

咲「それは、照魔鏡を使わなければお姉ちゃんも出来るでしょ。選択肢がある分有利だよね」

京太郎「部長、こいつや照さんがおかしいのは、今まで一緒に試合を見て来て十分わかってるでしょう? 今更ですよ」

咲「むー……四人の手牌が見えてる観戦中と、自分の手牌しか見えない実戦は全然違うんだよ?」

照「そうそう」

和「……それ、実戦で出来るお二人がおかしいと強調してるだけでは?」

咲・照「……あ」

895: 2015/11/18(水) 16:11:10.56 ID:CXKyFt/d0


『大将戦を開始します、選手は対局室に集合してください』


咲「あっ!? もうこんな時間!?」

京太郎「やべっ!? 咲、トイレ大丈夫か!?」

咲「う、うん……」

京太郎「よしっ、じゃあ急ぐぞ!!」

咲「う、うんっ!」


ドタドタ……バタン


和「……あんな調子で大丈夫でしょうか?」

優希「のどちゃんがいつになく不安げだじぇ」

久「……そういえば、和の隠し事は何かしら?」

和「え?」

まこ「後で話すっちゅうて結局まだ聞いちょらんけえのう」

和「そ、それは咲さんが戻ってから……須賀君や咲さんがいない場で話すというのも気が引けますし……」

久「ま、それもそうか。話す方は二度手間だしね」

和「は、はい……」

896: 2015/11/18(水) 16:11:43.82 ID:CXKyFt/d0


誠子「ただいま」

憩「おかえりー」

尭深「お疲れ様……」

誠子「大星はまだ寝てるんですか?」

菫「そうだな、そろそろ起こすか。おい、起きろ大星」ユサユサ

淡「ん~……はっ!? おはよー! 出番? ついに淡ちゃんの出番!?」

監督「ええ、出番よ。しっかりね」

淡「はーい!!」


憩「……ん?」

誠子「……おいおい……」

尭深「いつもの淡ちゃんだね……」


淡「寝癖とかついてないかなー?」

監督「心なしか髪の毛がウネウネしてるような気がするわね」

淡「あわわわわ……寝癖なおさないと……」

897: 2015/11/18(水) 16:12:42.36 ID:CXKyFt/d0

菫「なあ、憩……」

憩「落ち着いて下さい菫さん、イレギュラーやからこそ冷静に、不可避の負傷でも、その傷を可能な限り浅く済ませるのが技術ってもんです」

誠子「確認するが、宮永にぶつける予定だったのは冷たい方だよな?」

憩「当たり前やろ」

尭深「……淡ちゃんを冷たくするための方法ってどうなってたっけ?」

憩「……あ」

菫「……いつも、なる時は勝手に冷たい方になってたからな」

憩「……必要条件は、うちとか監督みたいな同格以上の相手と打つこと。十分条件はなし、ですね」

誠子「つまり……」

尭深「確実に淡ちゃんを冷たい方にする方法はない……?」

憩「……(頷く)」

菫「……さて、どうしたものか」


898: 2015/11/18(水) 16:13:57.15 ID:CXKyFt/d0

淡「監督ー、変なとこないー?」

監督「ばっちり決まってるわよ」

淡「よしっ! じゃあ行ってきまーす!!」


バタン


菫「……素の大星のまま行ってしまったわけだが」

憩「落ち着きましょう、状況はそこまで変わりません。たとえ冷たいほうでなくても、淡ちゃんなら妹さん以外はどうにかしてくれるはずです」

誠子「そ、そうだな……なんだかんだで憩以外は素でも淡に勝てないからな」

憩「他家を5向聴以下にする絶対安全圏……これに関しては冷たい時の強化版と比べて、牌種とかの縛りが無くなる分柔軟になります。石戸さんの一色支配に対しては、むしろ有効……本気出した時のダブリーは健在ですし、今回の相手なら素のままの方が上手く立ち回れるかもしれません」

899: 2015/11/18(水) 16:15:34.06 ID:CXKyFt/d0

監督「ん? 何の話?」

尭深「淡ちゃんが冷たい方じゃなかったっていう話です」

監督「あっ!? ……由々しき事態ね」

菫(……これは役に立たなそうだから放っておこう)

憩「となると、やはり妹さんがどう出るか……派手に暴れてくれて三対一になれば、一番点数が少ないうちが清澄を止める役をもらえるはずや。千里山と永水は互いにサポートしたくないはずやしな」

誠子「……上手くそうなったとして、三対一であいつを止められるか?」

憩「……誠子ちゃん、そういうセリフは思っても黙ってて欲しかったんやけど」

菫「やはり、厳しいか……?」

尭深「け、けど淡ちゃんなら……ほら、試してなかったけど、もしかしたら冷たくなくても天和が使えるかもしれないし」

憩「……はっ!? 確かに……今すぐ淡ちゃんを連れ戻して時間ギリギリまで検証せな……」

菫「渋谷、憩に変な情報を吹き込むな。そして、もう時間だから諦めろ憩」

憩「いーえ! 今から追いかけて対局室前でギリギリまで検証します!! ほな!!」


バタン


菫「……牌も持たずに行って、なにを検証する気なんだあいつは?」

誠子「あはは……まあ、ああいうとこもあるから憎めないわけで」

尭深「飛びぬけて強い人ってどこか抜けてるよね。神代さんとかも」

監督「そんなことないでしょ? 私とかしっかりしてるし、デキる女って感じだし」

菫「……立ったまま寝てる大人がいるな?」

誠子「これの娘だと、清澄の二人も期待薄ですよね」

尭深「仮説が補強されたね」

900: 2015/11/18(水) 16:16:36.22 ID:CXKyFt/d0

春「……勝った」

霞「お疲れ様、春」

春「というわけで、霞さん……」

霞「そのことなんだけど……やっぱり小蒔ちゃんや初美ちゃんの頑張りを無駄にしたくないし……」

春「……」ゴゴゴ

霞「あ、あの……ちょっと無茶しようかな、なんて……」ビクッ

春「……ちょっとというのは、どのぐらい?」

霞「え、えっと……そ、そうね……その……」

春「姫様達の頑張りを無駄にしたくないと言うのは分かるけど、せめて後半のオーラスだけとか、10万差がついたらとか、制限ぐらいは設けてもらえないと、私の頑張りが無駄になる」

霞「え、えっと……」


衣「……ハルとカスミは何の話をしているんだ?」

小蒔「さあ……春はたまに難しいことを言うので……」

初美「はるるにしては珍しくグイグイ行きますねー」

巴「え、えっと……なんか雰囲気悪いし、止めた方がいいかな?」

901: 2015/11/18(水) 16:18:10.43 ID:CXKyFt/d0

霞「わ、わかったわ、なら……「トップから陥落したら降ろす」というのはどうかしら?」

春「……苦しいからと言って、わざと陥落して神様に頼るような真似をしないなら」

霞(あ、あら? 案外すんなり受け入れるのね? もっと厳しい条件を求めて粘られると思ったのだけど……)

春「霞さん……まさか、私が作ったリードをわざと捨てる気じゃ……?」

霞「い、いえ、もちろんよ、全力でトップを守るわ! 春が広げてくれたリードだもの、当然でしょう!?」

春「……なら、いい」

902: 2015/11/18(水) 16:19:20.90 ID:CXKyFt/d0

怜「ふむ、名残惜しいが、時間やな」

竜華「チャージ終了やな。ふとももに怜を感じるで」

浩子「つーか、さっきの小芝居とか思いっきり膝枕やめてましたよね? 良かったんですか?」

竜華「あ、確かに」

雅枝「浩子を元気づけるほうが優先っちゅうことやろ。なあ、園城寺?」

怜「いえ、単にとっくにチャージが完了しとるだけですわ。いくら竜華のふとももがむっちむちでも貯められるエネルギーには限界がありますよって」

セーラ「五回分が限界とか言っとったな、そういえば」

浩子「そんなことやろうとは思いましたけど……」

竜華「へ? チャージ終わっとったん?」

怜「ぶっちゃけると昨日の時点でフルチャージやったな」

雅枝「おいこら」

竜華「……それやったら、怜が進化した分うちの能力が強くなっとるか試したかったんやけど」


怜「……せやな」


浩子「せやな、とちゃいますわ。なにしとるんですか園城寺先輩!?」

怜「ふっ……私もまだまだってことやな。チームを導く器には程遠い……フナQや小走さんの領域には到底及ばんわ」

セーラ「怜……そんなことない、怜はエースとしてチームを引っ張って……」

雅枝「三文芝居で誤魔化せると思うなよ?」

怜「すんませんでした」

セーラ「いやー、竜華が進化しとる可能性には気付かんかったなー」

903: 2015/11/18(水) 16:20:13.15 ID:CXKyFt/d0

怜「けどほらまあ、どうせ怜ちゃんが説明するんやろ? なんとかなるなる」

泉「……清水谷先輩、チュートリアルでも一回分消費させられたとか愚痴ってませんでしたっけ?」

竜華「あ、そうや、説明の時にも一回分使ってまうんよ……ちょっともったいないなー」

雅枝「……さて、園城寺?」


セーラ「怜、準備はいいか?」

怜「すまんなセーラ、私の不始末に付き合わせて……」

セーラ「気にすんな、俺ら親友やろ?」

怜「……おおきに……3、2」

セーラ「……1、逃げるで!!」

怜「おうよ!!」


ダダダダッ


浩子「はあ……めんどいんで追っかけませんけど……」

泉「あんなんでも北大阪の二位と三位なんですよね……」

雅枝「仕方のない奴らやな。逃げても仕置きが先に延びるだけやっちゅうのに」

竜華「あはは……」

浩子「ま、園城寺先輩もおらんし、うちが授けられる策もありません。ここに居ても仕方ないんで、早めに会場に行って集中を高めたらええんと違いますか」

泉「え? 時間までゆっくりしたほうがええと思いますけど……」

雅枝「浩子の言う通りやな。はよ行って来い。うちらは休憩中のネタの仕込みもあるからな」

竜華「ん~、まあ、監督とフナQが言うならそうなんやろな。ほな、勝って帰って来ますんで!」

浩子「期待してます」

泉「頑張って下さい!!」

雅枝「悔いが残らんようにな、ここまで来たならどんな結果でも十分誇れるもんや。やりたいこと、出来ること、全部出し切って来い!」


竜華「はいっ!」

904: 2015/11/18(水) 16:21:23.44 ID:CXKyFt/d0

恒子「いやあ……青春だねえ……」

健夜「若いって良いよねえ……」

恒子「さあ、自らの老いを認めた小鍛治プロですが、若者たちは文字通り若い!! 永水以外の大将は会場に向かう通路でチームメイトの激励を受けているぞー!!」

健夜「千里山は三年生二人が声をかけてるみたいだね。この三人は中学時代からのチームメイトだそうです」

恒子「ということは、六年越しの誓い的な熱いものがあるのかー!? これこそ青春だあああ!!!」

健夜「ところで、園城寺さんたちは先に通路で待ってたよね。チームメイトなんだから一緒の部屋に居たはずだけど……」

恒子「最後の戦場に向かう途中で合流みたいな展開の方が燃えない?」

健夜「いや、燃える燃えないの話じゃなく、先に部屋を出て待ってるのってちょっと違和感あるなって話で……」

恒子「つまり、清澄のあの子らみたいに手を繋いで出て来いってこと!?」

健夜「うぐっ!? 精神にダメージ入るからあの子達のことは忘れさせて!!」

恒子「二人は中学からの同級生、ここまで全ての試合で、宮永咲選手にはマネージャーの彼が付き添っているぞー!!」

健夜「身長高いし、モニターだとよく見えないけど顔も悪くなさそうだよね……青春だよね」

恒子「姉は親友と連れ添い、妹は彼氏連れ、宮永姉妹のリア充っぷりに小鍛治プロの嫉妬の炎が燃え上がる―!」

健夜「割と本気で羨ましいよ……もう白糸台のほうに話を移そうよ」

恒子「対局室の入り口で立ちすくむ後輩、それを追いかけて駆け寄って来たエース。背中を押す最後の言葉はどんなのだー!?」

健夜「なんとなく、石戸さんを応援したい気分になってきたね」

恒子「解説が一校を贔屓すると高らかに宣言――!! 小鍛治プロの職業倫理はどうなってるのかー!?」

健夜「あなたにだけは言われたくないよ!! ああもう! さっさと対局室入って試合始めてよぉおおおお!!!」

恒子「さあ、いよいよ! もうすぐ!! 大将戦が始まるぞおおおお!!」

922: 2015/11/25(水) 16:45:41.07 ID:see+wZSV0

久「で、石戸さんは実際どうなの?」

照「……アレは、私の全力より危ない。自分の力ならともかく、借り物だとすると……」

久「石戸さんには使いこなせないってわけね?」

照「使いこなすことは出来る、というか、使うのではなく使われる感じだろうね。神代さんもそうだったし」

久「えっと……つまり、使えるの使えないの?」


照「……私と天江さんと咲が、真後ろで、全力でゴゴゴゴしながら、染谷さんとか片岡さんに次に切る牌を指示するような感じ。指示に従って麻雀を打つことは可能だけど……」


まこ「半荘終わるまでに心臓麻痺でお陀仏じゃな」

優希「一局も持たずに逃げ出す自信があるじぇ」

和「私は別にかまいませんが……」


久「それは私でもちょっとキツイわね。石戸さんは大丈夫なのかしら?」

照「原村さんみたいに鈍ければ大丈夫かもしれないけど、彼女はそうじゃないだろうから、大丈夫なはずがない。だから、使ってくるはずはないと思うけど……万が一がある」

久「試合中に倒れたら大会どころじゃないけれど、どうしても優勝しなきゃいけないって事情でもあれば万一はあると。なるほどね」

和「どうしても優勝しなければならない事情……心当たりがあるだけに否定できませんね」

照「本人もあれを使ったら自分の身体が持たないことは分かってると思うから、最初から使ってくるということはないはず。どこまで追い詰められたら使う気なのかを見極めて、使わせないように立ち回るのが大事」

和「え? ということは、さっきの会話は計算ずくだったんですか? 発動条件を意識させて送り出しましたよね?」

照「え? ……と、当然計算している。姉として妹のサポートは義務」

久「……後付けね。この子がそんな器用なはずないでしょ」

まこ「じゃろうな」

923: 2015/11/25(水) 16:46:06.59 ID:see+wZSV0

初美「で、霞ちゃんと何を話していたんですかー?」


春「……」ポリ

春「……」ポリ

春「……」ポリ


巴「あ、考え込んだ」

初美「……これは暗号を解読させられるパターンですよー」

衣「暗号? どういうことだ?」


春「……頑張った」ポリ


衣「うにゃっ!? 黒糖を食べながら考え込んだと思ったら、ようやく喋ったのが一言だけ!?」

初美「はるるー……私は霞ちゃんと何を話していたかを聞いたんですよー?」

巴「……春は口下手だから」

初美「いつものことですが、口下手ってレベルじゃないですよー!」

衣「うむ……智紀でももう少し喋ってくれるぞ……というか、さっきはもっと喋っていた」

小蒔「おそらく色々と説明しようとして要約しすぎてしまっているので、なんとか要約から読み取らないと……」

衣「……なるほど、暗号とはそういう」


春「説明は、苦手……」

924: 2015/11/25(水) 16:46:32.15 ID:see+wZSV0

起家 淡「よろしくー」

南家 咲「よろしくお願いします」

西家 竜華「よろしく」

北家 霞「よろしくお願いします」

925: 2015/11/25(水) 16:47:33.32 ID:see+wZSV0

東一局


咲(……あれ? 大星さんが、準決勝の時と違う? あれは様子見で今回は本気? それとも、あれが全力だけど能力の発動条件を満たせなかったのかな?)

咲(……清水谷さんも、勝算があるって顔だね。なにかしてくるつもりなのかな?)

咲(石戸さんは……今は普通に打ってるだけだね。このメンバーなら全力で打たないと簡単に追いつかれることぐらいは分かってるはずだけど、お姉ちゃんが言ってた通り、彼女にも神代さんが使ったアレが使えて、その条件を満たすために今は抑えてるのかもしれない……)

咲(……厳しいなあ……全員が全員、予想と違う出方をして来てるし、そもそもトップで回ってくると思ってたらなんでか知らないけど最下位だし……)

咲(……一つずつ、見極めていこう。半荘は二回あるんだし、焦る必要はない)

咲(で、配牌は……)


146s256m149p東東西北


咲(……大星さんの能力、けど、これは準決勝よりマシかな? 配牌5向聴にするだけで、高目を狙える配牌は来る)

淡「最初から飛ばして行くよー! ダブリー!!」

打:1s


咲(……嶺上牌は3索で、槓材は南……かな。振り込むことはなさそうだね)

ツモ:東 打:西

926: 2015/11/25(水) 16:48:53.06 ID:see+wZSV0

照「ん?」

久「あら、配牌が割とまともね」

和「あの、全然まともじゃないんですが……」

まこ「十三不塔が成立しとるような配牌よりマシじゃろ。準決の大星の能力より大分マシじゃ」

優希「基準がおかしいじょ……」

久「で、どうなってんの照?」

照「多分、準決勝の方が本気……というか、絶好調モードで、今回はそれになれなかったんだね。咲にとっては楽な展開なはず」

和「楽、ですか……」

照「準決勝の大星さんは、なんていうか、機械みたいな感じだったから、人によってはこっちの方が厄介かもしれないけど。咲にとっては楽だと思う」


バタン


京太郎「戻りましたー」


久「あら、旦那様のおかえりね」

照「妹はやらん、やらんぞ!!」ガルルルル

和「全国放送で咲さんと手を繋いでるのをバッチリ映された須賀君、おかえりなさい」

優希「おい! 京太郎、あれはどういうことだじぇ!?」


京太郎「……はい?」


優希「咲ちゃんと手を繋いでたのはどういうことだと聞いている!!」


京太郎「いや、あいつトロいから、急いでる時は手を繋がないとすぐはぐれるんだよ。今回は時間ギリギリだったから急いだだろ? 他も遅れてたから会場の前では余裕があったけど……」

久「でしょうね。照が相手なら私もそうするわ」

まこ「どうせそんなこったろうと思ったわい」

927: 2015/11/25(水) 16:49:30.99 ID:see+wZSV0

竜華「リーチ」

打:4s


霞(……リーチ? 大星さんがダブリーをしている中でも面前で聴牌に出来るの?)

打:6p


淡(あと二巡……大丈夫、あんなリーチただの悪あがきに決まって……)

打:2s


竜華「ロン、リーチ一発、2600」

13789s222567p白白 ロン:2s


淡「……へ?」

咲(清水谷さん……まさか、最初から? 回数制限があるはずじゃ……?)


竜華「さあ、次いくでー」


咲(……なるほど、甘く見てたかな。これ、思った以上に大変かもしれない)

928: 2015/11/25(水) 16:50:27.75 ID:see+wZSV0

『ツモ、500、1000や!』


セーラ「飛ばしてんなー」

怜「まあ、そういう作戦やからな」

浩子「……うち、聞いとらんのですけど? 気い利かせて三人だけの場を用意したんやから、教えてくれてもええでしょう?」

怜「フナQなら空気読んでくれると思ったで」

浩子「世辞はええんで、作戦の内容をですね」

雅枝「……作戦っちゅうことは、能力の進化とは関係ないんやろ? てことは、ブラフか」

怜「ご明察。まあ、それとは関係なく東一局は使いどころですけど」

浩子「……なるほど、自分を大きく見せるっちゅうことですか。実際、宮永は清水谷先輩の能力じゃ止められんのは二回戦で証明済みですし、せめて警戒させて他に任せようと」

セーラ「監督とフナQは流石やな。俺と竜華は説明されんと分からんかったで」

泉「……同じく説明されんと分からんので説明してほしいんですけど……」

怜「……んじゃ、説明するか。まず、私たちが竜華に授けた作戦は、能力が進化しとる可能性を一切考慮しとらん。確認されとる能力のままって前提や。そんなもん織り込んで作戦立てられたら神様かなんかやからな」

セーラ「もし能力が進化しててこの作戦より有効に使えそうなら、作戦は無視してええって伝えてあるで」

泉「ふむふむ……」

怜「で、前半東一局……ここは大抵の場合、全国区のエース連中は様子見する。妹さんと大星も例に漏れずや。だから、ここで使えば空振りに終わる可能性はほぼない」

浩子「回数制限のある能力です。潰される可能性がある以上、有効に使えるとわかっとる場面では使っておきたいですね」

怜「で、東二局で使った理由。これは、無制限に使えるのかもしれんって思わせるためのブラフ」

雅枝「二連続で使われたら、少なくとも回数制限はかなり緩いと思われるやろな」

怜「それが狙いですわ。で、親番は流させて、東四局でも使います」

浩子「……は? 全部で6回しか使えんのに、前半の東場で三回使うってことですか?」

怜「そう。そしたら、大星か宮永が本気出してくるやろ。南場以降の竜華はそれに止められてもうた風を装う」

浩子「……宮永や大星なら止められる以上、簡単に止められる清水谷先輩よりそっちを警戒する。東場で上手いこと稼ぎながら、警戒の対象は他になるんやな」

雅枝「……親番では、使わんのか?」

怜「そもそも、回数制限のある能力を親番で使うっちゅうのが筋が悪い考えでして」

泉「へ? 回数制限があるんやから有利な親番で使うのがええんじゃ……?」

怜「そしたら連荘するやろ?」

泉「……それの何が問題なんですか? ええことやないですか?」

怜「泉……8分の5と、26分の15、どっちが大きい? ちなみに、5×3は15で、8×3は24やで」

雅枝「……なるほど。親番で点数が五割増しになることを考えても、分母が増えるぶんだけ損なんか」

怜「点数で見てもそうですし、局数で見たらもっと顕著です。8分の5と13分の5ですから。実力だけで勝負せなあかん局が3局から8局に増える。2万点のリードで3局逃げるのと、その五割増しの3万点のリードで8局逃げるのと、相手が格上ならどっちが勝ちやすいと思います?」

泉「えっと……まあ、普通に考えて2万点で3局逃げる方が楽ですね」

怜「てなわけで、竜華の能力を使うなら基本的に子でっちゅうのが、小走さんの考えです。ただ、小走さんには言わんかったけどあれは配牌見てから使えるんで、親で高得点が期待できるならそれは別ですが」

セーラ「って、またあいつか!? 怜が考えたんと違うんか?」

怜「受け売りですまんな」

929: 2015/11/25(水) 16:51:03.56 ID:see+wZSV0

南一局 ドラ:2s


咲「……」

淡(なんで……なんで和了れないの!? 絶対安全圏も機能してる、ダブリーも出来てる、なのに一度も和了れない……なんなのこれ? ケイが相手でもこんなことないのに!!)

打:1p


咲「それ、ロン」

淡「ううっ……なんで和了れないの……?」

咲「……16000」

淡「……は?」

咲「……」パタン


23p123s11223399m ロン:1p


淡「な、なんで配牌で5向聴以下のはずなのにそんな手が出来て……」

930: 2015/11/25(水) 16:51:59.03 ID:see+wZSV0

憩「……淡ちゃんでも、ここまで差があるんか」

尭深「……山からツモってるとは思えないような進み方だったね。表になってる牌のなかから自由に選んだみたいなツモだった」

誠子「東一局からずっとそうだけど、『次にどの牌が欲しい?』って聞かれて普通の人間が『これ』って答えるような牌だけしかツモってないよな、あいつ」

菫「……というか、こいつら、ダブリーが怖くないのか? 東三局の石戸はまだしも、清水谷といい宮永といい、初牌ばかり切っているが」

監督「……清水谷さんも咲も、振り込まない自信があるはずよ。むしろ、ダブリーが狙い撃ちされてるわね。相手が相手だし、力押しは通じないわ」

憩「……5向聴から和了るまで、最低6巡。普通なら10巡以上、ダブリーを警戒すればもっと遅くなる……けど、妹さんなら最速の6巡で和了れる」

尭深「憩ちゃんでもそんなに早くはないよね。あの速度は異常だよ」

誠子「まあ、予想以上とはいえ妹さんが強いのは分かってたことだ。それより、清水谷や石戸が和了れているのが気になるな」

尭深「あ、『妹さん』って呼ぶんだ?」

誠子「……憩がそう呼んでるから、つい」

菫「『宮永』だといちいち反応する者がいるから、この際それで統一するか。姉の方とも混同しないし」

憩「……清水谷さんのは、二回戦で妙な手順で和了ってたアレでしょうね。配牌が悪いだけなら、その後の打ち方でどうにかするあの能力を使えばなんとかなります」

尭深「……じゃあ、石戸さんは?」

憩「妹さんがサポートしとったな。淡ちゃん相手に、他家を和了らせるだの、倍満の直撃だの、やりたい放題や」

誠子「……さっきの「ここまで差があるんか」っていうのは、それ込みだったのか?」

憩「そうやで。完全に手玉に取られとる、やっぱり冷たい方に出てもらわんと、妹さん相手じゃ話にならん」

菫「やはり、分が悪いということか」

憩「にしても、清水谷さん、飛ばして来るなあ……回数制限があると見込んでたんやけど、もう三回使って……いや、今回は妹さんが本気だったみたいやし、それで潰されたとするなら四回、下手すると東三局も使っとってここまで全部使っとるのかもしれん。回数制限を伸ばして来たか、あるいは無制限になったか……そう思わせる作戦かもしれんけど、気前よく使い過ぎやろ」

931: 2015/11/25(水) 16:52:28.94 ID:see+wZSV0

南二局


淡(……ふざけないでよ)ゴゴゴ

淡(私が、本気でやって、手も足も出ない? そんな相手、居るはずない!!)

淡(さっきまでのは調子が悪かっただけだもん!! 今度は本当に本気!!)

淡「……ダブリー!!」ゴゴゴゴゴ

35789s123777p発発


咲「……」

竜華(……うわ、キッツいなー……麻雀せえや。これ、プレッシャーで相手を威圧するゲームとちゃうで?)

932: 2015/11/25(水) 16:53:03.86 ID:see+wZSV0

淡「槓」

暗槓:7777p 槓ドラ:西 嶺上牌:4s


淡「ツモ。3000・6000」


竜華(……裏ドラめくれや。って、声出すのもキツいわ……誰か言ってやって……)

咲「……裏ドラ、めくってないけど?」

竜華(こいつもこいつで平然としとるしなあ……)

淡「めくらなくても分かるから」

竜華(見なくても分かるってなんやねん!? 分かるかボケ!!)

咲「……今回はちゃんと乗ってるけど、一応めくって」

竜華(って、お前も見なくてもわかんのかい!?)

淡「はーい」コロン

竜華(6筒……まあ、乗るとは聞いとったけど……宮永でも止められんのか?)

933: 2015/11/25(水) 16:53:40.09 ID:see+wZSV0

南三局


竜華(配牌は相変わらずグダグダ……回数制限のある能力を親番で使うのもなあ……)

霞(……宮永さんに和了らされた一局以外、何も出来てないわね。かといって、春との約束も破れないし、他のモノを降ろしてもおそらく通用しない……仕方ないわね、今は固く打って耐えましょう)

淡「まだまだ行くよー! ダブリー!!」

45679p234m西西西発白 ツモ:発  

打:白


咲「……」

934: 2015/11/25(水) 16:54:28.39 ID:see+wZSV0

憩「……つーか、リー棒だけでも結構な出費やなあ」

尭深「毎回リーチして、和了ったのがさっきの一回だけだからね。5000点かあ……」

誠子「けど、本気出したさっきの一局では和了れたわけだし……」

憩「それなんやけど……嫌な感じがするんよ」

監督「あら、勘がいいわね。お察しの通り、罠よ。いえ、餌と言った方が良いかしら?」

菫「餌……? まさか……」

監督「ダブリーを狙い撃ち出来るのは南一局で証明済み。他家を抑える意味でも、直撃を確実に取る意味でも、淡にはダブリーをし続けてもらう方が都合がいい……なにかおかしいかしら?」

憩「……さっきのは、和了れたんじゃなく、和了らせてもらっただけっちゅうことですか?」

尭深「そんな……跳満の親かぶりをなんのためらいもなく喰らってみせるっていうんですか?」

監督「通用しない武器には、通用するという希望を。有効な武器には、効かないかもしれないという疑念を……あの子はそうやって卓上の全てをコントロールする。駆け引きをさせたらあの子の右に出る者はいないわ。もっとも、あの子が駆け引きをする必要がある相手なんて滅多にいないけどね」

菫「……」

935: 2015/11/25(水) 16:56:08.89 ID:see+wZSV0

咲「ツモ。2000・4000」

123456789m34赤55s ツモ:2s


淡「……え?」

咲「……」

竜華(……大星のプレッシャーはさっきと同等……その中で和了れるっちゅうことは……さっきのは和了らせただけ? 何のために?)

竜華(……まさか、うちが能力を使っとるかどうかを見極めるため? だとしたら、ブラフは見抜かれたっちゅうことか?)

936: 2015/11/25(水) 16:56:38.83 ID:see+wZSV0

南四局


竜華(使ってないことがバレたなら、つまり、使いどころってことや。使ってないと思って油断したところで使う。回数制限があるからこそ、効果的な場面で惜しみなく使う。回数制限があることまで見抜かれたとして、その回数はバレとらんのや。ここでもう一度使うことで、また警戒させることが出来るはず……)

淡(…南二局では通じたはず。なら、今のはまた油断してどこかで手を抜いてたに決まってる! 私が勝てないなんてあるはずない!!)

霞(……嫌な感じね。親だけど、この面子に素の実力でまともに渡り合えるはずもなし。差し込みも視野にいれて打ちましょう)

咲「……」

937: 2015/11/25(水) 17:00:08.28 ID:see+wZSV0

照「この半荘はもらった」

久「あら? 言い切るのね」

照「多分、石戸さんはトップでいる間は例の力が使えないんだと思う。だから、今ぐらいの点数状況なら咲は石戸さんを気にせず思いっきり暴れられる」

久「……まあ、照がそれを看破したなら、咲も看破出来てる可能性が高いわね」

照「大星さんでは、咲は止められない」

和「南一局の倍満直撃や先ほどの南三局で証明されていますね」

照「清水谷さんも同様」

京太郎「二回戦で証明済みですね」

照「つまり、今のあの卓に、咲の障害たり得るものはない」

まこ「ということは……」

優希「……咲ちゃんの手が凄いことになってるじょ」


『槓』


京太郎「混一色、三暗刻、嶺上開花、ツモ、中……倍満になった……っておい!? 何やってんだお前!?」


『もいっこ、槓』


和「……照さんみたいに槓ドラでも乗せるんでしょうか?」

照「違うね、それなら一枚めくった時点でモロ乗りさせるはずだし、咲って槓ドラ滅多に使わないし……あと、石戸さんが親だから役満は流石にまずい」

まこ「……槓ドラじゃないなら、何をねらっとるんじゃ?」


『もいっこ、槓』


照「三槓子……と」

久「三槓子じゃ10翻で倍満のまま……なら、当然、嶺上牌は……」

938: 2015/11/25(水) 17:00:56.39 ID:see+wZSV0

咲「ツモ」

5678p 暗槓:中中中中 3333p 4444p ツモ:赤5p


咲「嶺上開花、面前ツモ、混一色、三暗刻、三槓子、中、ドラ1」


咲「6000、12000です」


淡「う、うそ……なんで……こんな……」

竜華(……おい、怜、これ洒落にならんで。怜ちゃんの能力な、和了れん場合でも失点が最小になるように道を示してくれるように進化しててな……つまり、使ってなかったら、これ、役満やったんちゃうかって……)

霞(……これは、後半が始まったら早々に降ろす羽目になりそうね。身体が持てばいいのだけど……)

939: 2015/11/25(水) 17:01:27.74 ID:see+wZSV0


大将戦前半終了

白糸台  52500(-25100)
清澄  116500(+42000)
千里山 105600(- 8400)
永水  126400(- 8500)

940: 2015/11/25(水) 17:02:49.19 ID:see+wZSV0

『圧倒的――!! 南場に入ってから大物手を連発、最下位から一気に二位へ、トップも射程圏に捉えたぞ――!!』

『宮永咲選手は、昨年度MVPの天江選手を県予選で下したのをはじめとして、出場したすべての試合で大差での勝利という結果を残しています。最下位からでも安心してバトンを渡せる選手が最後に控えているというのは副将までの各選手にとって精神的に大きいですが、最下位で託された側も、プレッシャーに負けずにしっかりと期待に応えていますね』

『なにそれ!? 全試合で圧勝とかマジで?』

『打ち合わせの時の資料に書いてあったでしょ……コホン、彼女に出番が回る前に竹井選手などが試合を終わらせることが多くて出場機会が極端に少なくなっていますが、彼女も、他校であればどこに行ってもエースを務められる選手だと思います』

『ここに来て清澄が隠し玉を出して来た――!! どこからそんな戦力を持ってきたんだ――!?』

『いや、隠し玉っていうか、予選が終わった時点では清澄の中で原村選手の次に注目されてたのが宮永咲選手で……』

『このまま清澄が初出場で優勝をかっさらうのか!? それとも名門とシードの三校が意地を見せるのか!? 私は断然清澄を推すぞおおおおお!! 初出場の無名校が優勝とかめっちゃ燃えるうううううう!!!』

『アナウンサーが特定の高校に肩入れしちゃダメ――!!』

7: 2015/12/03(木) 00:19:04.37 ID:Lyrzg8qR0
日付変わってしまってますが、もう少しかかりそうです。申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。

11: 2015/12/03(木) 06:41:12.44 ID:Lyrzg8qR0

春(……自分から言って来るとは思わなかったけど、予定通り)ポリ

春(トップから引きずりおろされたら……最悪でも、私の作った分のリードが無くなったらアレを降ろすように制限を設けるのが元々の予定)ポリ

春(清澄の大将なら、そのあたりを察知して降ろさせないように立ち回ってくれるはず)ポリ

春(優勝出来れば、それはとても嬉しい)ポリ

春(けど、アレを降ろしたら霞さんが無事では済まない。一局だけだとしても危ないし、私や巴さんでは払えるかどうかも怪しい)ポリ

春(オーラスだけとか、後半の南場だけみたいな条件ではダメだった。一度も降ろさずに終わる可能性のある条件じゃないと)ポリポリ

春(優勝出来たら嬉しいけど、霞さんが犠牲になってしまったら、優勝した喜び以上に悲しいに決まってる)ポリ

春(トップから引きずり降ろされたらアレを降ろす……それなら、少なくともオーラスまでは、それに気づいた清澄が霞さんをトップにしてくれる)ポリ

春(そうなれば、実質、オーラス一局勝負。一局だけなら……たった一局だけなら、逃げ切ることも出来るかもしれない)ポリ

春(霞さんを犠牲にせずに、優勝する可能性のある条件。無茶する気満々の霞さんにそれを飲ませた。頑張った)ポリ



春「……頑張った」ポリ


初美「何度聞いてもこれしか言いませんよー……これはもうお手上げですよー」

巴「霞さんが戻って来てから直接聞いた方がいいかも……」

衣「もうそれは放っておけ。それより、妙だぞ」

小蒔「どうしたんですか衣さん?」

衣「先ほどの半荘、カスミは何も降ろさず、白糸台は不調、千里山こそ孤軍奮闘してはいたが、それでも咲ならたやすくトップに立てたはずだ。何故二位に甘んじた? そもそも、何故カスミは傍観していたのだ?」

初美「霞ちゃんがなにも降ろさず打つのは不自然すぎますねー。戻って来たら問い詰めてやりますよー」

春「……戻って来なそうだけど」ポリ

巴「……卓についたまま瞑想してるみたい。確かに、前半では何も降ろしてないから戻ってくる必要はないけど……」

衣「だとしても作戦を聞く必要があるだろう。何を考えているのだカスミは?」

初美「はるるー、なにか知ってるならはやく教えるですよー」


春「……頑張った」ポリ


巴「うーん……答えが変わらないってことは、天江さんの疑問の答えまで、大将戦の前に春と霞さんが話してたことに含まれてるってことだよね?」

小蒔「これは是が非でも春の言葉の意味を解読しなくては……」

12: 2015/12/03(木) 06:41:43.88 ID:Lyrzg8qR0

【白糸台高校 反省会会場】

憩「……」

菫「……」

誠子「……」

尭深「……」

監督「……」


淡「……えっと、なにこれ? 反省会って……?」


監督「達筆でしょ? 私、字は上手いのよ」

尭深「監督が書いてくれたんだよ」


淡「違ーう!! これが何かはどうでもいいの!! なんで反省会とか言ってお通夜みたいな雰囲気になってるのかって聞いてるの!!」


憩「……すまんな、うちが勝負に徹しとったらこんなことには……」

菫「終わったことを言っても仕方ない、来年は挑戦者として挑めばいいんだ。このチームの主力は二年、また次があるさ」

誠子「すみません弘世先輩……」

菫「なに、去年は憩に優勝させてもらったようなものだ。私こそ、お前たちに何もしてやれずに……」

尭深「先輩……」


淡「いい加減にしろ―――――!!」ガー


憩「とはいえなあ……こんだけ点差開いたら、今から冷たい方出しても勝ち目ないやろ?」

誠子「だよなあ……」

尭深「最後の一打まで勝負は分からない、たとえ大差がついてる状態の子でオーラスを迎えたって親と二人聴牌での流局を繰り返して逆転できるかもしれない……心構えとしてはそうかもしれないけど、実際問題、この状況じゃ……」

憩「気合じゃどうにもならん。勝負ってのは、勝てるだけの戦力を揃えて、勝利への戦略をきっちり用意したもんが勝つんや。本当に最善を尽くしあった果てに気合で決まることはあるかもしれんけど、まずは拮抗した状態まで持ち込まんと……」

菫「どうせ負けるなら、正しい負け方というものがある。負けを認め、再起に向けて次につながる終わり方をすべきだ」


淡「だから、まだ負けてないってば!! もういいよ!! こんなとこに居たら勝てるものも勝てなくなっちゃうよ!!」

13: 2015/12/03(木) 06:42:13.62 ID:Lyrzg8qR0

バタン


誠子「……行ったか?」

憩「さっきのセリフ、九割本気やけど、それでも勝つためには冷たい方を出さんと話にならんのは事実」

尭深「……試合中になんとか冷たい方を出そうとして話し合った結論……負けを意識した時に冷たい方が出てくる、本当かな?」

憩「任意に出す条件があるとしたら、それぐらいしか思いつかん。自分と同格か格上の相手と打つのが必要条件やし、自分より強い相手と打って起きることって言ったら、なあ?」

菫「準決勝は、あれだけ精鋭揃いの阿知賀で大将を務める高鴨への恐怖を無意識に感じていたのだろうし、憩や監督と打って出てくる時は散々負けた後だからな」

憩「今回はまだお気楽モードやけど、控室に戻ったら信頼してるうちらが負けを確信してお通夜みたいになっとる……負けを意識させるならこれ以上のショックはないやろ」

監督「私が書いた小道具がグッドだったわね」

憩「いや、あれは要らんかったけど……むしろギャグっぽくなって逆効果や」

誠子「しかし、今更淡が冷たい方になっても……」

憩「……いや、あっちには、普段の方にはない切り札がある。勝ち目は確かに薄いやろうけど、勝負はまだ分からんよ」

14: 2015/12/03(木) 06:43:17.76 ID:Lyrzg8qR0

はやり「これは清澄で決まりかな☆」

良子「パワーバランスは宮永さん以外の三人を合わせても宮永さんに傾くほどに崩れています、これはもう……」

紀子「……個人戦でこいつをどうするかに論点を移すべきかもしれない」

日菜「様子見が終わったのがさっきの南場……あとはあれが最後まで続くとなると……そうかもしれないね」

由華「大星さんが準決勝で見せた本気モードに入ったとしても、大勢は変わりませんかね?」

紀子「おそらく、変わらない。仮に大星の底力が見積もった以上で宮永と五分に渡り合えたとしても、今から白糸台が追いつくのは絶望的」

良子「てことは、決まりか……あたしらに勝った阿知賀、それに勝った永水と白糸台、それを更に蹴散らして無名の清澄か……」


やえ「どいつもこいつも……今の半荘で明らかにおかしいことが二つあるだろうが。それが片付かんうちは終わったなどと言えん」


紀子「……二つ? 一つじゃなく?」

やえ「二つ目の原因がそれだとしたら、手を組まなければいけないのは、清澄以外の三校ではなく、永水以外の三校なのかもしれない」

紀子「二つ目が分かっていないと言ってるのに話を先に進めないで」


はやり「二つ目は、宮永咲ちゃんがトップにならなかったことだよね☆」


紀子「……」

良子「ホワット? はやりさん?」

はやり「あの子が本気出して、あの状態のあのメンバー相手に4万ちょっとしか稼げないなんてありえないよね……そうでしょ?」

やえ「最初に『これは決まりかな』なんて言ってた人間とは思えないな。お察しの通り、それが二つ目の異常だ」

紀子「……わかってたくせにとぼけるとは、タチが悪い」

由華「あの……一つ目は?」

日菜「私たちはそこから既に置いてけぼりなんだけど……」

紀子「石戸が何もしなかったこと。準決勝でも散々やられた大星が相手で、それより格上と目される宮永まで居る。無策で挑むのは不自然すぎる」

やえ「その通り。では、あれが無策ではなく、何かの下準備だとしたら? 宮永はそれを見破って、あえて二位に甘んじたのだとしたら?」

日菜「え、えっと……つまり、石戸さんが何かを企んでるってこと?」

はやり「何かあるのは間違いないね☆」

やえ「その何かをめぐる攻防……表に出ないかもしれないが、それがあるのだとしたら、勝負はまだ読めない」

15: 2015/12/03(木) 06:43:47.87 ID:Lyrzg8qR0

起家 淡「……」

南家 咲「前半と同じ席順ですね。よろしくお願いします」

西家 竜華「よろしく」

北家 霞「よろしくお願いします」 

16: 2015/12/03(木) 06:44:17.99 ID:Lyrzg8qR0

東一局


竜華(前半と同じ席順……だからって、結果まで同じになるわけやない)

竜華(なにせ、うちがあと二回しか怜ちゃんを使えんからな!! 同じように打っても同じ結果には絶対ならんで!!)

竜華(……って冗談はさておき、ようやくお目覚めか)


147s258p369m東西北白


竜華(こいつはアカンなあ……毎回これになるなら、怜ちゃんの使いどころも全くわからんってことになる)

17: 2015/12/03(木) 06:44:47.14 ID:Lyrzg8qR0

――6巡目


淡「リーチ」

23456s34p777889m ツモ:7s

打:8m


竜華(うちらが最悪の配牌に苦しんどる間にも、こいつは普通の配牌で普通に手が進む……なんとかなるみたいな話やったけど、どうにもならんでこれ)

咲「……ロン、1300点」

567m5678s ポン:発発発 北北北 ロン:8m


竜華「……は?」

竜華(どうなって……大星の能力で最悪の配牌になっとるはずと違うんか? 6巡目で直撃って、あり得んやろ? しかも七対子ですらないとか……)

18: 2015/12/03(木) 06:45:13.53 ID:Lyrzg8qR0

東二局


咲「……」タン

竜華(おかしい、なんで大星の能力が効かなかったんや? 一体何が起きたらそうなるんや?)タン

霞「……」タン

竜華(いずれにしろ、宮永は大星の配牌操作を破った。つまり、ここからはダブリーが……)

淡「……」タン


竜華「……へ?」

竜華(ダブリーせんやと? ちょっと待て、本気で何が起きとるんや!? 意味が全くわからんで!?)

19: 2015/12/03(木) 06:46:12.05 ID:Lyrzg8qR0

照「配牌操作は通用しなくて、ダブリーはさせてもらえない……圧倒的だね」

久「……ちょっと理解が追いつかないけどね。あの子、なにやったの?」

和「今更照さんや咲さんが何をやっても驚きはしませんが……理屈は気になりますね」

京太郎「前半は普通に効いてましたよね? 何が起きてるんですか?」

照「……例えば、『好配牌になる能力』と大星さんの能力がぶつかったら、どうなると思う?」

久「……普通に考えたら、大星さんの能力が優先されて、好配牌が無効化されるんじゃないかしら?」

照「新道寺のコンビなら?」

久「……あの二人なら、微妙ね。大星さんの方が無効化されるんじゃないかしら?」

照「私が新道寺のコンビ相手に『なんらかのデメリットと引き換えに他家の配牌を自分の配牌のシャンテン数以下にする』能力を発動したら?」

和「確実に照さんの能力が優先されますね」

照「……どうせそう答えるとは思っていたけど、本当に断言されるとは。まあいいや、私のそれを先鋒で出て来た神代さんのアレにぶつけると?」

まこ「……強化コピーするから、『自分の配牌のシャンテン数未満にする』にされて、照さんのほうは無効化されるじゃろうな」

照「それらの違いは?」

京太郎「えっと……もしかして、能力を使う人間同士の実力差、ですか?」

照「正解」

20: 2015/12/03(木) 06:47:38.54 ID:Lyrzg8qR0

久「ってことは、大星さんより咲のほうが圧倒的に上ってこと?」

照「さっきの一局とこの一局に限れば、ね。下手するともう二~三局続くかもしれないけど」

優希「どういうことだじょ?」


照「前半の南場で、完全に勝負がついてしまったから。『勝負の流れ』が咲に味方してる」


和「……流れとはまた非科学的な」

久「……長野の決勝で最後に天江さんたちを圧倒したのも、流れが完全に咲のものになってたからだったわよね?」

照「そう。流れが完全に味方してる状態だと、咲より格上なはずの天江さんでも手も足も出なくなる。さっきと席順まで同じになって、前半の圧勝の流れがまだ続いてしまってる」

京太郎「流れが続いて『しまってる』って……いいことじゃないんですか?」

照「……相手が大星さんじゃなければ、良いことなんだけどね」

まこ「誰が相手でも関係なかろ? 良い流れに乗って打つのにデメリットがあるとは思えんが……」

和「……いえ、大星さんに限れば、『能力を破ってしまう』のはデメリットかもしれません」

京太郎「破ってしまう……あ、そういうことか。確か、大星さんの能力は……」


『つ、ツモや! 1000・2000』


久「弱い方の能力を破ると、より強い能力を使う……だったわね?」

照「……さて、さっきの一局は147p258m369s発発北北で、配牌操作を緩和しつつダブリーの条件を満たさないようにしてたけど……この一局では完全に配牌操作を無効化しながら『ダブリーをさせない』ことに成功してしまった……」

和「字牌は他家と重複する部分がありますから、槓材になり得る牌がないようにしつつ、配牌操作を破ることが出来るんですね。東一局のように槓材がなければダブリーは出来ない。東二局では槓材となり得る牌があるのにダブリーが出来なかった」

照「微妙だけど、『槓材になり得る牌がないからダブリーしようとしない』ように配牌操作を破るのは、ダブリーを破ったことにならないみたい」

優希「……けど、東二局はダブリー出来るはずなのにそれをさせない……聴牌することを防いでしまったじょ。てことは、次は……」

照「咲も全力で流れを抑えようとしてるね。二回破ったら二回使われるかもしれないし。本当なら流れがあるうちにさっきの親番でどこかを飛ばす手もあったんだけど、石戸さんが居るからトップに立つわけにいかない」

久「『天和』と『照が全国トップクラス二人と手を組んでも勝てない化け物』、前門の狼、後門の虎って感じかしら?」

照「大星さんの親番が無くなるまでこれ以上ダブリーを破らずに凌いで、石戸さんがトップのままアレを出させることなくオーラスを迎えて、最後の一局で差し切る。それしか勝ち方はない。幸い、前半で白糸台が沈んでくれてるから天和一回ならどうにかなる」

和「……実質、オーラスの一局勝負ですか?」

久「オーラスの一局勝負に持ち込むまでも大変なのよ? 逆転しないようにしながらトップが狙える位置で試合を進めなきゃいけないんだから。間違って裏が乗ったり、ダマでも赤をツモってしまったり、トップが親の時に他家がツモって逆転したり、槓ドラを乗せられてしまったり……色々注意を払わなきゃいけないもの」

21: 2015/12/03(木) 06:48:27.50 ID:Lyrzg8qR0

東三局 ドラ:9m


竜華(さっきの一局……バラバラな手が上手くまとまった……宮永が鳴いてあいつのツモがうちに来たから?)

竜華(そんなら、あいつはなんで鳴いた? そんなことしても何の得も……)

竜華(いや、親番を嫌ったならあり得るか? だとしたらなんで親番を……?)

竜華(今、決勝戦の大将戦の後半やで? なんでここに来てわけわからんことが起こんねん!?)

竜華(全部情報出揃って、切り札を出すタイミングの読み合いとかになるはずやん!? なんや? どっかでフラグ立て損ねて勇者の剣なしでラスボスにたどり着いた感じか?)


霞「……ツモ。6400」

2255s11477p3399m ツモ:4p


霞「……」


竜華(……手を開けんかったから確信が持てんかったけど、石戸にも大星の力は効いとる。今回も宮永の鳴きで石戸に手が入った感じや)

竜華(あーもう、わけわからん!! なんや、何が起きとるんや!?)

22: 2015/12/03(木) 06:49:20.34 ID:Lyrzg8qR0


怜「あー、状況わかっとらんなあれは」

浩子「いや、うちにも分からんのですけど。何ですかあれ? なんのために流れを捨ててまで局を進めとるんですか?」

セーラ「さっぱりやなー」

怜「安心しろ、私にもさっぱりや。ただ、今この時点でトップに立てん事情があるんやろなってことは推測できる」

雅枝「東二局では清水谷に和了らせたいみたいやったな。自分もチャンス手やったのにそれを潰すような鳴きをしてまで……」

怜「今トップに立ってしまうと不都合があるんや。だから、トップに立たずに試合を進めとる。その不都合がなにかとか、どこまで先に進めるのかってのは分からんけどな」

浩子「……その不都合ってのは本当に分かりませんか?」

怜「あの卓で妹さんが勝負を避けるようなもんって言うと、大星の天和ぐらいしか思いつかんなー。あの人、地和なら鳴けば潰せるとか言い出しそうやし」

浩子「ということは、準決勝で見せた天和には何らかの条件を満たさないと発動出来ない縛りがあって、それを避けて試合を進めとるってわけですか?」

怜「だとすれば、南一局までは妹さんは動かんし、その後はやりたい放題ってことになるな」

セーラ「けど、宮永妹がトップやと使えて石戸がトップやと使えないっての、なんか変やで? 大星からしたらどっちも同じやんか?」

怜「せやから、さっぱりやって言うとるやん。他に妹さんが避けるようなもんが思いつかんだけで、大星の天和を避けとるようには見えんし」

浩子「あ、そこまで考えた上でさっぱりやって言うてはったんですか?」

怜「なんやろなー……さっぱりわからんわー」

23: 2015/12/03(木) 06:50:37.66 ID:Lyrzg8qR0

東四局


竜華(正直、状況が全然わからんし……このまま行っても、怜やフナQならともかくうちに今の状況がどうなってるか分かるとは思えんし……)

竜華(切り札を残して終わってもうたら洒落にならんし、宮永がなんか企んどるなら後からじゃ通用せん可能性もあるし……)

竜華(あと、あまりにも他力本願な上にズルしとる気がしてちょっと嫌やけど、怜ちゃんならなんか分かるかもしれんし……)

竜華(てなわけで、怜――!!!)


怜ちゃん(はいはいー。この局の最善は……)

竜華(それは後でええから、この状況、この卓、この半荘で何が起きとるか分からん?)

怜ちゃん(いや、知らんがな。強いて言うなら、南一局で大星が天和和了るぐらいやな。うちに分かるのは)

竜華(へ? マジで?)

怜ちゃん(一局先を視る者……そう呼んでくれて構わんよ。ほな、頑張ってなー)

竜華(ちょい待ち!! 最善! この局の最善は!?)

怜ちゃん(あのな、竜華……一局先を視るには一回分のパワーが必要やねん。この局の最善を知るためには、残りのエネルギーを使い切る必要がある)

竜華(そういうの先に言えや!? あー、ここではまだ取っときたいからまた後でな)

怜ちゃん(ご利用は計画的になー。残り一回で言っても後の祭りやけど)ヒュイーン


竜華(次で大星が天和……宮永の妙な動きはそれに絡んだものやろか? だとしたら、次の南一局がこの半荘の山場……宮永は天和を破ろうとしてなんかやっとる? けど、大星はその上を行くってことか?)

竜華(いずれにしても天和なんかどうにもならん。その後の気が緩んだところ……最後の一回の使いどころはそこや)

24: 2015/12/03(木) 06:51:09.58 ID:Lyrzg8qR0

咲「……」タン

打:2s

竜華「ロン、1600」

25577s44m33p東東白白 ロン:2s


竜華(……うちに和了らせて流すつもりやったか。最後の一回、温存して正解やな)

25: 2015/12/03(木) 06:52:03.34 ID:Lyrzg8qR0

南一局


淡「……」ゴゴゴゴゴ


霞(……なにも降ろしてない状態で接すると、ここまで酷いのね)

咲「……」

竜華(あ、は、は……冗談やろ……なんやこれ……震え……止まらん……)


淡「……」チャッ

咲「……」チャッ

竜華(……落ち着け、ダンラスが天和和了って浮上するだけや。逆転されるけど、それは射程圏内……てゆうか、これ……)


白糸台 48900
清澄  111300
千里山 108000
永水  131800

竜華(今の点数がこれ、ここから天和が入ると……)


白糸台 96900
清澄  95300
千里山 92000
永水  115800


竜華(……全員が逆転優勝圏内に入る。永水に跳満直撃でトップや……残り四局、逆転が見える勝負……)

竜華(最後の四局や。上手く行けば勝てる、それが見えたら、全員が目の色変えて優勝を狙いに行く……そこでこそ、駆け引きに優れた宮永の本領が発揮されるんやないか?)

竜華(圧倒してしまって三人で手を組まれると万が一がある。けど、勝機を見せてバラバラに戦わせれば、宮永が勝つに決まってる……それが狙い?)

竜華(そのために、この状況を仕組んだ? いや、そんなことするぐらいなら大差で勝ってしまえばええはずや、でも、それやと三対一で万が一があるからリスクの小さい方を選んだっちゅうのもおかしな話ではないか……?)

竜華(ええい! 考えても分からん! とにかくさっさと天和和了って次に進めろや!)


淡「……ツモ。16000オール」


123678m345s東東西西 ツモ:西


26: 2015/12/03(木) 06:53:27.07 ID:Lyrzg8qR0

南一局 一本場


竜華(……さて、ここが勝負どころ……か? 本当にそうやろか?)

竜華(宮永が勝機を見せて全員をバラバラに戦わせたいなら、ここはまだ動かんのと違うか?)

竜華(勝負になる、出し抜ける……そう思わせるように仕向けるんと違うか?)

竜華(白糸台以外との点差は変わっとらん、全員を焚き付けたいなら、まだ動かさんとアカン奴がいるはずや)


咲「……」タン


竜華(うちは冷静。大星は最初から個人プレー……なら、こいつが動かすのは)


霞(……あっさりと天和を和了らせて、何を考えているのかしら? 東一局で配牌操作も破っているし、ダブリーも封じてみせた。実力差は明らかよ。なのに、勝負を決めに来る気配がない……点差を詰めさせて、むしろ混沌としてきている)

霞(本当に、何が狙いなのかしら……まさか、私と春の約束が見抜かれていて、アレを降ろさせないようにしている? そんな、エスパーじゃあるまいし……)タン

打:5s


淡「ロン」

霞(っ……しまった、この子は配牌操作を受けないから早い巡目で聴牌する可能性もあるんだったわ……迂闊……)


淡「4200」

赤56677s234789m発発 ロン:5s


霞(守るだけじゃ逃げ切れなそうね。けど、逃げる立場の私はどんな安手でも和了りさえすればいい、有利なはずよ。もしダメでも、トップから陥落したらアレを降ろせばいいだけ)

27: 2015/12/03(木) 06:54:28.60 ID:Lyrzg8qR0

監督「やる気になったみたいね。逃げているだけじゃ勝てないと悟った」

憩「……石戸さんですか?」

尭深「けど、あの配牌で勝負したって勝ち目なんか……いつも打ってる私たちは、あれよりマシな配牌でも憩ちゃん以外は大体返り討ちにあってるのに……」

誠子「だな。九種九牌で流すことすら出来ないから本当に最悪の配牌だ。あれで打ち続ける気にはなれない」

菫「が、打たなければいけない。そして、あいつは全員から狙われる立場になった。あいつから直撃を取ればトップが見えるんだからな」

憩「もちろん、守り主体で打つのは変わらんでしょうけど……多少は和了りに色気出さんといかんようになりましたね」

監督「そして、あの子がそれを見逃すはずがない。その欲、突かれるわよ」

誠子「……淡のリーチに危険牌……宮永は、石戸の手にある孤立牌を切りましたね。サポートしているようにしか見えない」

憩「つーか、淡ちゃんもリーチせんでほしいんやけどな。天和に続けてさっきのダマで和了れて、行けると判断したんやろか?」

尭深「実際、良い流れだと思うけど……ちょっと迂闊かもしれないね」

憩「石戸さんが七対子で張った……妹さんが張らせたようなもんやな」

監督「……振り込むわね。これで、石戸さんはこの卓で勝負出来るという確信を得るはずよ」


『ロン、1600の二本場で2200ね』

28: 2015/12/03(木) 06:55:05.20 ID:Lyrzg8qR0

南二局


霞(……和了れちゃったわね。宮永さんも大星さんも特に動きがないまま……残り四局になって、まだ私を和了らせるのはどういうことかしら?)

霞(いくらなんでも、強者の余裕とかお遊びってことはないわよね? だとすると……宮永さんと大星さんが互いにけん制し合って消耗しているのかしら?)

霞(……だとしたら行けるかもしれないわね。出来れば、アレに頼らずに自分の力で優勝を掴みたいとは思っていたし)


竜華(……さっきの一局、石戸が攻めに出た……これで、宮永の思惑通りの状況の出来上がりやな)

竜華(で、今は思い通りに行って油断しとるやろ? うちの切り札、最後の一枚……使わせてもらうで! 怜―――!!)


怜ちゃん(……いよいよ最後やな。一回しか言わんからよーく聞くんやで……)

竜華(……うん、わかった)

29: 2015/12/03(木) 06:56:08.98 ID:Lyrzg8qR0

咲「……」タン

打:8s


竜華「……」

22558s4455m発発北北 ツモ:赤5m


竜華「リーチ」

打:5m


霞(……リーチ? 和了れる確信でもあるのかしら? そうか、例の能力……だとしたら勝負は無理ね、オリましょう)

打:1p


淡「……」

打:7p


咲「……」

打:8s


竜華「ロン!! リーチ一発七対子ドラ1、裏は乗らず、8000や!!」

咲「はい」チャラ

竜華(……よし、二位浮上、トップとの差は14800……満貫以上の直撃か跳満ツモで逆転や……もう怜の力は借りられんけど、あとは自分の力で……)

30: 2015/12/03(木) 06:56:37.65 ID:Lyrzg8qR0

南三局


霞(この終盤で、満貫に振り込む……わざとってことはないでしょうね)

霞(私は、宮永さんを警戒しすぎたのかもしれない。冷静に考えれば、宮永さんは東一局以降何も出来ていない)

霞(東二局で清水谷さんを和了らせたのは、そうするしかなかったから。東三局の私もそう。彼女は、大星さんを止めるために力を使い果たしたんじゃないかしら?)

霞(思えば、清澄は力を誇示するような勝ち方を繰り返してきた。この大将戦でも、そうする予定だったんじゃないかしら?)

霞(けど、今回の大星さんは見積もった以上に手ごわかった。それで、彼女を止めるために力を使い果たしてしまった)

霞(にも関わらず、天和は止められなかった……そして、私や清水谷さん、大星さんは自由に打てている)

霞(宮永さんは、残り少ない力で、前半に見せた幻影を利用して私たちを委縮させているんじゃないかしら?)

霞(けど、もう宮永さんは相手の手を読むことすら満足に出来ないほどに疲弊している……)

霞(なら、チャンス……そして、今和了って勢いに乗っている千里山は危険……点差も……簡単に逆転される範囲だわ)

霞(安全に勝つのは無理。なら、勝負に……)


144p22558s99m南南白 ツモ:8s

打:1p


咲「ロン」


霞「……え?」ゾワッ


咲「混一色、一気通貫、赤。12000です」

234赤56789p北北中中中 ロン:1p


霞「う、うそ……なんで? 今までのは、この半荘ずっと動きがなかったのは、なんだったの?」

咲「……さあ? なんだと思います?」

31: 2015/12/03(木) 06:57:08.05 ID:Lyrzg8qR0

『跳満直撃いいいいい!!! 一気に清澄がトップに躍り出t』

『……てないよ!! ちゃんと点数見て!!』

『てなかったけど差を詰めたぞおおお!! たった一つの和了りで景色がガラッと変わったあああ!! そこに優勝の二文字は見えているかあああ!?』

『……見えているでしょうね、ただし、その二文字は全員に見えていると思います』

『へ? どゆこと?』

『えっと……点差を見てもらえばわかるんじゃないかな。あとたったの一局、それでこの点差……』

『えっと、点差……ああああああああ―――――!?』

32: 2015/12/03(木) 07:05:46.45 ID:Lyrzg8qR0

はやり「トップが102800点、最下位が97900点……インターハイ史上稀に見る接戦だね☆」

やえ「4900点差……リー棒が出て3900を和了れば届く点数だ。残すところはわずか一局、逆転の可能性があるならリー棒は出てくるだろう」

良子「リーチのみでも裏二枚で逆転の可能性があります。もはや守りのことは誰も考えないでしょう」

紀子「……この試合がこんな接戦になるとは、思わなかった」

日菜「同感。大差で決まると思ってた」

やえ「さて、どうなるかな。たった一局、されど一局……4900の点差も、無いようなものだが無ではない」

由華「普通に考えれば、手を組むことなくバラバラに打ったら宮永さんが勝ちますね。4900は最下位の大星から見た点差であって、宮永さんから見れば点差は3500……700・1300のツモで十分ですから、彼女にとってはなんの歯止めにもならないでしょう」

やえ「しかし、ここまで間近に優勝の二文字をぶら下げられたら、食いつくしかないな。バラバラに打ったら万に一つしか勝ち目がなくても、万に一つに賭けて自分の勝利を目指すことになる」

紀子「つまり、形勢は宮永が圧倒的に有利。なんらかの理由でオーラスが始まるまではトップに立てないとして、その中で作れる最善の状況と言える」

やえ「……そのなんらかの理由も、もう無くなっただろうな。誰が和了ってもここで終わり、その先は考慮する必要がない。たとえ『宮永妹がトップに立つと次の親が天和を永遠に和了り続ける』なんて制約だったとしても、その次の親は巡ってこないんだ」

33: 2015/12/03(木) 07:06:42.90 ID:Lyrzg8qR0

『これほどの接戦で迎えたオーラス。しかも、トップは親……一局勝負といった様相ですね』

『誰が和了ってもそこで終了だね、親は当然和了りやめするし……つまり、この一局で全てが決まるぅううう!!!』

『一応、親が聴牌して流局すれば和了りやめ出来ないから次があるけど……』

『で、この状況ってどこが有利なの!?』

『……実力的には、清澄が有利だと思います。ただ、一局勝負となると何が起きるか分かりません』

『そうなの?』

『……一局勝負なら、トッププロがルールを覚えたばかりの初心者に負けることもあります。腕の差は多くの局数を打つ中で少しずつ表れていく、麻雀というのはそういう競技ですから』

『すこやん相手だと一局勝負でも勝てる気しないんだけど……』

『わ、私はトッププロだし……それに、一局勝負だったら何が起きるか分からないよ……1000局打って一局しか和了れないとしても、その一回をその時に持って来るかもしれないし』

『さりげなくアマチュア相手には千局に一局しか負ける気はないとの宣言!! トッププロの強さは計り知れない――!!』

『た、たとえで言っただけでしょ!! 試合の実況してよお……』

『それもそうだ―!! さあ、運命の配牌はどうなっ……うげ、マジですか?』

『……うそ……どうなってるの、この試合……? なんなのこれ……?』

34: 2015/12/03(木) 07:12:16.04 ID:Lyrzg8qR0

咲(……なにこれ? 配牌でこれって、おかしいよね? 自分の手だけならともかく、流石の私でもこれはドン引きするレベルだよ)


19m19p19s東南西北白発中


咲(……罠? いや、こんな罠が張れる人は居ないはず……居るとしたら石戸さんだけど……石戸さんも驚きで固まってるから、違うよね?)

35: 2015/12/03(木) 07:12:45.10 ID:Lyrzg8qR0

霞(……いくらなんでも、偶然じゃないわよね? なんなのこれは?)


1112345678999m ツモ:4s


霞(罠、よね? けど、誰がこんな罠を張れるの? 宮永さん? 大星さん? そもそも、罠だとしてもこんな大がかりな罠を張る意味がないわ)

霞(どうなってるのよ、これ……)

36: 2015/12/03(木) 07:13:14.56 ID:Lyrzg8qR0

淡(……意味が分からない。何が起きたらこんなことになるの?)


1p東東東南南南西西西北北北


淡(親は配牌見て固まってるし……まさか、親の手もこんなことになってるなんて言わないよね?)

淡(いや、多分そのまさかなんだ……この異常、何が起きてるの……? 誰の仕業なの?)

37: 2015/12/03(木) 07:13:56.82 ID:Lyrzg8qR0

竜華(神様、ありがとうございます!! ってわけにはいかんやろなあ……)


1999p白白白発発発中中中


竜華(誰かが仕組んだとしか思えん……しかし、こんなん仕込んで誰が得するんや?)

竜華(宮永も、大星も、石戸も面食らった顔しとる。演技だったら大した役者やな)

竜華(あいつらの反応が演技でないとするんなら……これは偶然か?)

竜華(あるわけないやろ、そんな偶然。うちだけなら、まあ、百歩譲って偶然ってことにしてもええ)

竜華(けど、卓についてる四人全員にこんな手が入るなんて……偶然起こるはずがない。起こるはずがないんや)

竜華(なら誰や? 宮永の姉の方か? 荒川か? 神代か? はたまた、観戦しとる小鍛治プロがなんかしたんか?)

竜華(いや、あり得ん。今挙げた連中全員合わせてもこんな異常は起こせん)

38: 2015/12/03(木) 07:15:07.44 ID:Lyrzg8qR0

照「……これは、驚いた」

久「……何が起きてるか、分かるの? 分かるなら説明してもらえるかしら?」

照「落ち着いて良く聞いてほしいんだけど……多分信じられないと思うけど事実だからちゃんと信じてほしいんだけど……」

和「その手の大げさな前フリはもう結構ですから、誰が何をしてああなったのか説明してください」

京太郎「しかし、あんなの出来る人が居るんですか? 照さんでもあんなの無理ですよね?」

優希「もう何が起きても驚かないじょ」

まこ「で、あれは何じゃ? もったいぶらずに教えてくれんかの」



照「えっと、絶対信じないと思うけど……あれ、偶然です」



久「照、冗談はいいから真面目にお願い」

和「あの卓には大星さんの能力の影響があるでしょう。あの手になるかどうかはともかく、配牌で『偶然』の要素はないはずです」

照「えっとですね……大星さんの能力については、よくわからないけど無効化されてまして……」

京太郎「大星さんが配牌操作でなにかして、咲がそれに変な能力乗っけておかしくなったとかじゃないんですか?」

照「そういう説明がつくようなものだったら、私とか小鍛冶プロがここまで驚くわけないよね?」

優希「いや、照さんはいつもこれぐらい驚いてるじょ」

照「……それを言われると反論できない。けど、小鍛治プロが本気で驚いてるし、偶然でないとしてもあの人でも見抜けないような何かが起きてる」

久「大星さんの能力を無効化した『何か』が悪さをしたと考えるのが妥当ね。けど、それが何かが分からないし……」

39: 2015/12/03(木) 07:15:53.92 ID:Lyrzg8qR0

霞(……罠ね。罠なのは間違いないのだけど……だとしたら、何を切るのが正解?)

霞(これを切って下さいって言ってるような4索……これは無理ね。これを抱えて4索単騎に取るなら、聴牌を維持できるのは……)

霞(2、5、8萬……かしら。これを切る?)

霞(いえ、危険ね。4索を切れないとなると、次に候補に挙がるのがその三枚……それを三面待ちで刺せるというのが気味が悪い)

霞(4索は目くらましで、本命はその三面張かもしれない……となると、これも切れないわね)

霞(聴牌維持も諦めましょう。となると、1萬か9萬……ん?)

霞(……本当にそれでいいの? そもそも、これは誰が張った罠なの?)

霞(落ち着いて周りを見渡せば、全員「とんでもなく良い手が入りました」って顔してるじゃない?)

霞(国士無双……有り得るわね。1萬と9萬はやめておきましょう)

霞(……随分と弱気な牌だけど……仕方ないわよね?)


打:4m

40: 2015/12/03(木) 07:17:12.65 ID:Lyrzg8qR0

初美「ああ――!? なにやってるですか――!? そんなの4索切りの一手ですよー!!」

春「……それは無理」

衣「衣でも厳しいな。アタリでないのは分かるが、咲がいるのなら、罠を疑って4索は切れないかもしれない」

巴「逃げ切ればトップだから、役満を和了る必要はないもんね……守りに入ってしまうのも無理はないよ」

初美「守りは得意とか攻めは苦手とか言って攻める気持ちを忘れてるからそうなるですよー!! 待ち枚数を数えるですー!!」

小蒔「清澄が残り7枚、霞ちゃんは21枚、千里山と白糸台は1枚ですね。国士無双の13面待ちより、九連の9面待ちの方が有利になっています」

初美「押してれば一番勝ち目が濃いのは霞ちゃんですよー!! なんでオリるんですかー!!」

巴「そりゃ、私たちには四人の手が見えてるけど……」

初美「宮永と大星と清水谷を見るです――!! 堂々と4索を切ってるじゃないですか――!!」

衣「いや、他の三人まで4索をツモったことの方がおかしいのだが……何がどうなっているのだ?」

41: 2015/12/03(木) 07:18:18.64 ID:Lyrzg8qR0


霞(……とりあえず、4索は切れるのね。さっき切っておけば和了りだった……いえ、宮永さんの罠だとしたら、大星さんからの直撃では届かないから手を変えたのかも……ツモ切りだったようにも見えるけど、一度手に入れてたから……)


111235678999m4s ツモ:4m


霞(疑心暗鬼を生ず……とはいえ仕方ないじゃない、こんな手をいきなり送り込まれて疑うなって方が無理よ)

霞(それに、さっきも言ったけど、私からの直撃なら和了れるけど他からでは和了れない形だったのかもしれないじゃない? 七対子のみの1600点とか)

霞(なんにせよ、今回はちゃんと切れるわ。フリテンで出和了りは出来ないけど、純正九連宝燈の9面待ちなら十分ツモが期待できる)


打:4s


淡「……」

ツモ切り:4m


霞(……は?)


咲「……」

ツモ切り:4m


霞(ちょ、ちょっとどうなって……てゆうか、よく考えたらさっきも4索連打されて……何なのこれ? なんなのよこれは!?)

42: 2015/12/03(木) 07:22:21.48 ID:Lyrzg8qR0

竜華「……」

1999p白白白発発発中中中 ツモ:5p

竜華(さっきの4索みたいに同じ牌が繋がってるとしたら……石戸は4萬をツモったんやろなあ。で、最初にツモった4索を切って4萬を入れなおした。多分、フリテンで萬子の九連でも張っとるんやろ。こっちがこんな手になっとるんやから、そんぐらいはあり得る)

竜華(だとすると、4萬は四枚しかあらへんからこうなるわな。宮永が4萬切った時点で、うちが選択を迫られるのは必然……)

竜華(つっても、ツモ切りの一手やろなあ……1筒は考えなくもないけど、あいつらがノータイムで切った牌から考えると……むしろ端牌の方が怖いわ)

竜華(怜……おるかな? なんの力も使えんでも、おってくれればええんやけど……)

怜ちゃん(おるでー……米粒みたいな大きさになっとるけどな)

竜華(おったか。なあ、これ切ってええと思う?)

怜ちゃん(ん~? 今の力じゃ一巡先も視えんけど……切った直後に「ロン」って言われるかどうかぐらいなら、残りの力で視えるかもしれんで? 視るか?)

竜華(いやいや、そういうんと違うんやって。ただ背中押してほしいだけやねん)

怜ちゃん(……大将なんやから自分で決めえって。ま、私もここはツモ切りやな)

竜華(そっか。じゃ、問題ないな)

怜ちゃん(言っとくけど、めっちゃ成長した本体と違って、こっちの素の実力は三軍レベルのままやで。生まれたのがその頃なんでな)

竜華(ええよ、それでも。怜と一緒に決めた牌ならセーラも文句言わんやろ)

怜ちゃん(フナQたちのことも忘れんといてなー)

竜華(あはは、忘れとったわ。ほな、切るでー)

怜ちゃん(おー、切ったれー!)


打:5p


43: 2015/12/03(木) 07:23:05.38 ID:Lyrzg8qR0


霞(……清水谷さんは5筒をツモ切り……この流れなら、私がツモるのは5筒のはず……って、なによこれ!?)

1112345678999m ツモ:1p


霞(こんなもの、切って……って、国士があるんだったわね。だとしたら、私が切るのは……)

霞(……仕方ないじゃない、何を切ればいいかわからないんだもの。確実に安全な牌……一つしかないなら、一つだけあるなら、それを切るしかないじゃない)

打:4m

44: 2015/12/03(木) 07:24:13.72 ID:Lyrzg8qR0


『再び九連を崩した――!! 守りに定評のある石戸霞、手堅い、手堅いぞ――!!』

『……並の選手なら、純正九連宝燈の誘惑に勝てません。危険だと思っても、役満だから、アタリ牌とは限らないから、なにかと理由をつけて九連の聴牌を維持してしまうものです。ここで誘惑を断ち切って守りを選べるのも、また非凡な才能だと思います』

『さっきと違って、今回はマジで振り込んじゃうもんね』

『振り込めば三家和で流局、永水の優勝ですが……それが分かるようなら苦労はしません。オリるのは間違った判断ではないと思います』

『けどさー、さっきは押していれば通った、なら今回も……ってなるのが人情ってものだよねー。失敗したから、取り返したくなるよねー』

『だからこそ、石戸選手が再び聴牌を崩した判断は非凡なんです。今回は先ほどと違って、もう九連に復帰する可能性は残っていません。だから、普通なら誘惑に負けてオリることは出来ない……1筒を切って三家和、優勝を掴めるはずでした』

『って、それ、オリたの裏目ってるよね? オリない方が良いよね?』

『裏目です、完全に裏目ですけど……ここで優勝を掴めるであろう数多の選手より、彼女は優れた選手です。優れた選手だからこそ、裏目を引かされてしまったと言えます』

『……やけに褒めるね?』

『……事実を述べただけだよっ!!』

『本当は、すこやんがあの場に居ても同じ選択をしてたから庇ってるだけだったり?』

『……ノーコメント』

『え? マジで?』

『ノーコメントだってば!!』

『……ちょっと、永水を応援したくなった』

『ありがとう。けど、アナウンサーが特定の高校に肩入れしちゃダメだからね?』

『はーい』

『……って、そんなこと言ってる間にツモっちゃったね』

『あわわっ!? け、決着――!! インターハイ団体戦、その幕を下ろしたのは役満のツモ和了り、和了ったのは――』

45: 2015/12/03(木) 07:27:26.34 ID:Lyrzg8qR0
九連は聴牌すらしてません。1筒は山に存在しません。ツモることが出来る手は……


以下、後日談になります。

46: 2015/12/03(木) 07:29:14.52 ID:Lyrzg8qR0


――数日後


やえ「……不幸だ」

紀子「……」

やえ「……三年だ、三年間、このために動いて来た」

紀子「……」

やえ「三年かけて、目ぼしい相手の対策を練り、各地で能力が知られていない伏兵を育て、私だけが知っている対策で優位に立てるようにそいつらを育てながら対策を立てた、全てはこのインターハイため、この大会のために準備を進めて来た」

紀子「……知ってる。私も手伝ったし、やえの苦労は常にそばで見て来た」

やえ「なのに……だというのに……」


紀子「一戦目、宮永咲、小瀬川白望、大星淡。二戦目、神代小蒔、辻垣内智葉、宮永咲。三戦目、荒川憩、園城寺怜、竹井久。終了」


やえ「ふざけるなあああああああ!!! 私と当った8人全員が今回のベスト8メンバーだぞ!? 組み合わせに悪意がありすぎるだろうが!! しかもチャンピオンと予選ラウンドで二回対戦させられるとか、なんの嫌がらせだ!!?」


紀子「一部では登竜門や幸運の女神などと呼ばれる小走やえさん。彼女と予選ラウンドで対戦した者はその大会で好成績を約束されるとのこと……その彼女と二回も対戦した以上、チャンピオンになるのは必然……」

??「呼びました? うちは一回しか小走さんとあたっとらんと思いますけど……」

やえ「……その声、荒川か。何しに来た、『元』チャンピオン?」

憩「いえ、なんや楽しそうやったんで」

紀子「この楽しさがわかるとは、なかなかに通……」

やえ「これ以上ドSを増やすな、身が持たん」

憩「あ、ちなみにチャンピオンもおりますけど……」

??「ひゃうっ!? け、憩さん!? 怖くて隠れてたんだからばらさないでくださいよぉ……」

やえ「ほう……なら問いただしておかんとな……なんであのメンバーで私だけを集中的に狙ったのか、その理由を……」ゴゴゴ

咲「え、えっと……後に残られると一番手ごわそうだったので、つい……」

やえ「ほう……?」ゴゴゴ

咲「え、えっと……ごめんなさい」ペコリ

やえ「謝って済むかあああああああ!!!!!! 私の三年間を返せえええええ!!!」

咲「ひうっ!?」ビクッ

紀子「どうどう」ポンポン

やえ「がるるるるるる」

47: 2015/12/03(木) 07:31:07.30 ID:Lyrzg8qR0

久「ちなみに、団体戦MVPも居るわよ」ヒョコ

やえ「……よう、棚ボタMVP」

久「確かに棚ボタだけど、20万点稼いだのは事実なのよねえ……」

やえ「バカヅキ女、無名、宮永姉妹のオマケ」

久「なんでここまで嫌われてるのかしら……?」

やえ「意味のわからん悪待ちで私にトドメを刺したからに決まってるだろうが!! 荒川を狙う場面だろあれは!?」

久「チャンピオンとの決着は決勝でってのが基本じゃない? 予選で手の内見せて必氏に削っても、ねえ?」

憩「てゆうか、あれは園城寺さんの方がギルティやと思いますけど……うちのサポートしてまで小走さんを削ってましたし」

やえ「それもそうだが……あの腹黒……恩を仇で返しおってからに……」


??「怜のお腹は黒くないで!! 日焼けしとらんから真っ白やで!!」


久「あ、こんにちは」

竜華「げっ……竹井……」

紀子「関わりたくないなら声をかけなければいいのに……」

怜「いやー……私も千里山のエース張ってる立場上、勝負に徹さんといかんかったんで……ホンマすいません」

やえ「千里山の部訓は『常に一位を目指して』じゃなかったのか? トップと二位が三位を狙い撃ちするのを手助けしてどうするんだ? ああん?」

怜「いやー、あそこでラス引くと本選の位置が厳しくなりそうやったんで……」

セーラ「終わったことをいつまでぐちぐちと、器のちっこいやっちゃなー」

やえ「黙れ無能。貴様が二回戦と決勝でまともに打ってればあそこの棚ボタを抑えて私の弟子がMVPだったんだ。反省しろ」

セーラ「いやいや、俺は頑張った方やろ!? 役満の直撃喰らった洋榎に言えや!」

48: 2015/12/03(木) 07:32:58.54 ID:Lyrzg8qR0


??「つーか、団体でも個人でも予選で消えた奴が偉そうにぬかすなっちゅーねん」


やえ「ちっ、一番やかましいのまで来たか」

セーラ「おう、とっくに出番なくなったのに未練がましく東京に残ってた愛宕洋榎やないか」

洋榎「出番が無くなったんはお前もやろ。二日目で消えたくせに」

セーラ「お前も同じ日に本選トーナメントから消えたやろ」

洋榎「うちはチャンピオンに負けて消えた事実上の2位やからええねん」

セーラ「本選は二人勝ち抜けやろ、適当言うなや。そんなん言うたら俺も二位に負けて消えた事実上の三位やっちゅーねん」

久「あんたら団体で仲良く私に負けたでしょ。せめて7より下の順位を自称してくれないかしら?」

やえ「全くだ」

洋榎「やかましいわ。つーか、お前も辻垣内もなんで仲よくあんな一年に負けとんねん、うちらより上を気取るなら真面目に打てや」

セーラ「せやせや」

久「団体の決勝、あんな配牌でよく打つ気になったなあって感心してたわ。麻雀に投了があったら迷わず投げるところよ、清水谷さんは凄いわね」

竜華「いやー、あんときは打つしかなかったしなー……って、アカンアカン、こいつに心を許したらアカン!」

久「初対面の印象が悪いのは分かるけど……なんでこんな警戒されてるのかしら?」

怜「なんでやろな?」

竜華「怜に触んなああああ!!」

怜「竜華、理由もなく人を邪険に扱ったらいかん。理由があってもダメなぐらいや」

竜華「と、怜……うちは怜のために……」


やえ「お前ら、漫才なら他でやれ」

49: 2015/12/03(木) 07:33:51.99 ID:Lyrzg8qR0

??「あ、咲ー、和どこにいるか知らない? シズが和に会いたいって騒ぎだしてさー……って、何この面子?」


咲「あ、新子さんだ。原村さんかあ……多分、衣ちゃん達と一緒に応援席に居たんじゃないかと思うけど……」

憧「うーん……そっちは先に当ったんだけど、透華さんも知らないって言っててさ」

咲「そうなの? うーん、だとするとちょっと心当たりはないなあ……ごめんね」

憧「あー、いいって。聞いてみただけだから。ありがと」


やえ「……ぞろぞろと集まって来たな、この面子で固まってると目立つぞ」

玄「ですね……実際、すごく目立ってます」

久「あ、玄も居たのね?」

玄「憧ちゃんとは別行動だったのですが、見知った顔が見えたので……」

紀子「松実、姉の方は?」

玄「ホテルで暖房かけて観戦してます」

やえ「あいつが寒がりなのは知っているが……今日の最高気温、34度だよな? 暖房ってどういうことだ? サウナか? ダイエットでもするのか?」

玄「おねーちゃんは寒がりなので……」

50: 2015/12/03(木) 07:35:05.63 ID:Lyrzg8qR0

??「あら、私を出迎えるのにこれだけの人間を揃えましたの? 困りますわね、今日の主役は咲ですのに……」


久「あら、大所帯が来たわね」


一「てゆうか、なんでこんな面子で集まってるのさ?」

純「咲と竹井さんはまあいいとして……なんだ、プロのチームに喧嘩でも売りに行くのか?」

智紀「近くのプロチーム……恵比寿が相手だと、衣と照さんが居ないと厳しいと思われる」

透華「あら? そんなお話でしたの? 当然、私の出番は用意してくださいますわよね?」

ゆみ「お前たちはなんでそう物騒な方向に行こうとするんだ。大会で知り合った同士で親交を深めていただけだろう」

桃子「そうっすよ。大体、そういう話なら竹井さんが照さんを呼ばないはずがないっす」

智美「照っちが居たらその可能性を考慮するってことかー?」

佳織「竹井さんならやりかねないよね……」

美穂子「鶴賀の皆さんは久をなんだと思ってるんですか……」

ゆみ「おい福路、私を含めるな」


洋榎「……なんやこいつら?」

セーラ「いや、福路は分かるやろ。で、そっちは……」

怜「龍門渕と……清澄の予選の試合の映像で見た顔やな。確か……」

ゆみ「鶴賀。長野の県大会準優勝校だ」


洋榎「な、長野の二位やて……!?」

セーラ「それは、つまり……事実上の……」


ゆみ「ん? な、なんだ……?」

やえ「ああ、すまん、そこのバカ二人は無視してくれ」

ゆみ「あ、ああ……よくわからないが、わかった」

玄「加治木さん、お久しぶりです」

ゆみ「久しぶりというほど久しぶりでもないな。阿知賀とはこっちに来てから頻繁に会っているし」

51: 2015/12/03(木) 07:36:03.58 ID:Lyrzg8qR0

咲「……本格的に大所帯になって来ましたね」

久「そうねえ……まだ増えそうだけど」


??「む? うまそうな獲物がよりどりみどりだぞ小蒔!!」

??「衣さん、獲物などと言ってはいけませんよ」

??「むー……ではなんと呼べばいいのだ?」

??「『強そうな人がたくさんいる』でどうでしょう?」

??「ふむ……小蒔が言うならそうしよう」


純「おう、来たか」

透華「本当に、衣にも私たち以外の友達が出来ましたのね……」

霞「どうも、その節はお世話になりました」

透華「いえ、こちらこそ衣がお世話になりまして」

やえ「……おい、こいつらまで呼んだのは誰だ? どれだけ面子を揃えれば気が済むんだ?」

憩「さっきの決勝戦のメンバーが揃ってもうたなー」

咲「あ、本当だ」

怜「……あと、団体決勝のメンバーもあらかた揃ったな」

憩「……へ?」

怜「……ん(指差す)」


??「ケイー!! どこ行ったの――!! ちゃんと五位になったから勝負してよー!! 約束したでしょー!?」

??「騒ぐな、そして走るな。まったく……監督も見つからないし、憩もどっか行くし、淡のお守りを押し付けられるし……」


憩「こっちやでー」


淡「あー!! 居た――!!」

誠子「あ、憩……って、なんだこの集団? なに企んでるんだお前?」

憩「別になんも企んだりせんって。ただ集まって親交を深めてるだけや……今はまだ、な」

誠子「今は……って、お前、一体何を」

やえ「呼ぶな馬鹿。これ以上目立ってどうする、そして漫才は余所でやれ」

憩「いや、どうせならどこまで増えるか試してみたくないですか?」

やえ「いや、全く」

紀子「私の予想では次に来るのは……み」


??「はややっ☆ やえちゃんはっけーん☆ てゆうか凄い面子そろえてるね☆ 麻雀打っちゃおーか☆」


??「ああ――!! すごいよー!! サインもらいたい相手が大集合だよー!! シロー!! 見てみて――!!」


??「サトハー、なんかすごい面子が集まってるよー?」

52: 2015/12/03(木) 07:36:58.52 ID:Lyrzg8qR0

紀子「……瑞原プロは当った」

やえ「……あとは、宮守と臨海女子と……おい、こんな面子そろえてマジで何する気だお前ら?」

憩「心外やなー、集めたんは小走さんでしょうに」

やえ「集めた覚えはないぞ。人が不幸を嘆いているところに勝手に集まって来ただけだろうが」

智葉「不幸を嘆いてる時点でお前が半人前だということだな。運も実力の内だ。麻雀では特にな」

やえ「卓上はともかく、くじ運はその限りではない。てゆうか帰れお前ら。マジで帰ってくれ頼むから」

ネリー「サトハー、それ誰ー?」

智葉「面白い麻雀を打つ奴だ。どうせ暇だし、打ってみろ」

ネリー「えー? 全然強そうに見えないけどー?」

やえ「」ブチッ

紀子「……やえ?」

やえ「……上等だ、卓につけクソガキ!!」バン

はやり「やえちゃんってば、どっからマットと牌出したの☆ まあいいや、はやりも混ぜてー☆」

やえ「……え? いや、瑞原プロが入ると色々と予定が狂……」


紀子「ちゅーもーく!! 腕に覚えのあるもの!! 瑞原プロのガチ対局に混ざるチャーンス!!」


ザワッ!!


やえ「おいこら、お前大声出すキャラじゃないだろ!? なんだ今の!?」

紀子「……やえの不幸を見るためなら、私は大抵のことは出来る」

やえ「最悪すぎるぞこいつ!?」

53: 2015/12/03(木) 07:37:51.33 ID:Lyrzg8qR0

『はーい!! 私打ちたいでーす!!』

『ちょっと、決勝卓に残れなかった人は引っ込んでてくれるかな? この場で腕に覚えのあるものって言ったらどう考えても個人戦優勝者の私だよね?』

『私、瑞原プロのファンなのよね。ここは譲る気ないわよ?』

『待て貴様ら、あれは衣の獲物だ』

『いや、とりあえず最初はうちやろ? 大将の宮永さんは後に控えてもらって……』

『わわわっ! サインだけじゃなくて本気で打ってもらえるかもしれないって!! 私やりたいよー!!』

『なんの騒ぎかは分かりませんが、腕に覚えのあるものと言われてしまったら名乗りを上げないわけには参りませんね』


やえ「最後の台詞、藤原か!? お前いつから居た? 対木と百鬼と霜崎まで増えてるし!!」

54: 2015/12/03(木) 07:39:21.05 ID:Lyrzg8qR0

淡「ここは公平に、生まれてから今までに天和を和了った回数の多い順で決めよう!!」

洋榎「それのどこが公平やねん!! ほれ、打って決めるで!!」

セーラ「洋榎……お前、あの卓にわざわざ入りに行くんか?」

洋榎「はっ!? しまった、ついツッコミからの流れで……」


??「迷った……みんなはどこ……?」

??「大丈夫よ照、こういう時はその場にじっとしてれば白糸台のみんなが私を見つけてくれるの」

??「……それ、今まで移動してたのは失敗だったってことなんだけど?」

??「はっ!?」

??「やはり、この母親は許されない……」

??「ま、待って照!! 今のは違うの!! 照にいいところ見せようとして頑張っちゃっただけなの!! 和解したくて頑張っただけなの!!」


咲「……よりによって全国のみんなが大集合してるところに身内の恥が(頭を抱える)」


??「身内の恥とは言いますが、迷子に関しては咲さんが一番タチが悪いじゃないですか」


憧「あ、和だ。どこに居たのよ?」

和「ちょっと、家族と話し合いを。先ほどの決勝戦と五位決定戦の中継を見せながら、麻雀が『運で決まる不毛なゲーム』ではないことを理解してもらいました」

咲「……運で決まる不毛なゲームではないことは簡単に証明できただろうね。特に五位決定戦の方」

和「二局目で理解してもらえましたね。大星さんに感謝しなければ」

咲「で、麻雀は続けられるの? 運じゃないにしても、五位決定戦の方は相当不毛なゲームだったと思うけど」

和「そちらを理解してもらえたのは決勝卓……咲さんのおかげですね。ありがとうございます」

咲「そっか、よかったあ……」

55: 2015/12/03(木) 07:40:27.86 ID:Lyrzg8qR0

『腕に自信のあるもの……つまり、私を呼んでいるということ?』

『あ、あなた臨海の子よね? ちょっと娘と親睦を深めるために麻雀打ちたいからそこ譲って?』

『おいこら!? 私がそいつの性根を叩きなおすと啖呵を切ったのがこの騒動の発端なんだぞ!? そいつをどけられたら意味がなくなるだろうが!!』

『なら、そっちのプロっぽいのをどかそう』

『なるほど、名案ね……けど、この子もどっかで見たことあるような……んー、どこで見たのかしら?』

『はやっ☆ このポンコツ親子、はやりを知らないとか喧嘩売ってる? 売ってるよね? よーし、全力で買っちゃうぞ―☆』

『どうでもいいから早く打とうよー。ネリー、時間の無駄やだよー?』

『……もういい、お前ら四人で打て、私が抜ける。この三人なら私がやるより痛い目に遭わせてくれるだろう』

『それは認められない。ネリーさん、帰ってよし。これにて一戦目のメンバーが確定した』

『おいこら紀子!? 私が打つ理由がなくなったんだが!? っていうか一戦目ってなんだ!? 二戦目以降はないぞ!?』

『……二戦目があるかどうかを決めるのはやえではない。たぎる闘志は誰にも止められない』

『その通り。そこに卓があるなら、それが戦う理由になる』

『宮永、お前、適当言ってるだろ!? 話の流れ全く理解してないだろ!?』

『……そんなことはない、私がそんなポンコツのような真似をするはずがない』

『おい、宮永妹、こいつどうにかしろ!! 保護者の棚ボタMVPでもいい!! こいつをどうにかしろ!!』


『残念だけど、家庭の事情に口出すほど野暮じゃないのよね』

『……その人たち、他人なので』


『覚えてろよお前らあああ!! ああわかったよやってやる、かかって来いポンコツどもおおおおおお!!』

56: 2015/12/03(木) 07:41:55.37 ID:Lyrzg8qR0


憩「ところで、せっかくこれだけの面子揃っとるんやから打たんと損やと思わん?」

久「そうねえ……結局、本選ではあなたと当らなかったし、悪くないわね」


『ダブリ……あれ? なんで配牌が……』

『大星さんには仏滅を使わせてもらうよー。運と技術で勝負するよー』

『……ちゅうことは、うちが有利やな?』

『いや、オレやろ?』

『どう考えてもうちやろ? つーかなんでセーラが入っとるん?』

『いや、流れで』


咲「あっちこっちでもう始めちゃってますね。インターハイ終わったばっかりなのに」

久「なんでみんなして牌とマットを持ち歩いてるのよ……」

衣「ハギヨシが用意してくれたんだ。それより、早く打つぞ咲。小蒔が待ちくたびれてしまう」

咲「え? 神代さんと衣ちゃんって……あと一人は? お姉ちゃんでも憩さんでも大星さんでもないとなると、誰もやりたがらないんじゃ……」


玄「やりたがらないのは、やらなくて済むということではないのです……助けて下さい、見逃してください、私は悪いドラ使いじゃないのです」


衣「どうだ咲、玄なら相手として不足はなかろう!」

咲「玄さんか……そういえば一度も戦えなかったんだよね……」


玄「助けて……咲ちゃん、助けて……」


咲「ごめんなさい玄さん。私、ちょっと……いえ、すごくワクワクしてます」

玄「いやああああああ――――!?」

57: 2015/12/03(木) 07:43:18.70 ID:Lyrzg8qR0

その夜――宿舎浴場にて


チャプン


『……結局、会場の人に怒られるまでずっと打ってたね』

『……馬鹿ばっかりだね』

『それ、騒動の中心に居た人が言っていい台詞じゃないよね?』

『……? 私は巻き込まれただけだよ?』

『うわ、自覚なし……途中から、周りの卓はお姉ちゃんへの挑戦権をかけて打ってたんだよ?』

『なるほど、咲と瑞原プロがよく来ると思ったらそんな事情が……』

『トップは上位の卓に移動、三位と四位は下位の卓へ。二位は残留。お姉ちゃんの卓でも二位が残ってたでしょ?』

『言われてみればそんな気が……』

『ルールとか移動先の割り振りはやえさんと丸瀬さんがしてたよ。あと、衣ちゃんと神代さんは二人で打ちたがってたから、二人で獲物を捕まえて打ってた』

『ああ、あっちで騒いでたのはそういう……』

『ふふ、楽しかったね』

『……うん』

58: 2015/12/03(木) 07:44:17.54 ID:Lyrzg8qR0

『いろいろあったよね……インターハイ』

『うん』

『でも、一つだけ分からないことがあるんだ』

『ん? なに?』

『団体戦のオーラス。あれ、なんだったのかなって』

『……少なくとも、あの場に居た人間の仕業じゃない』

『……あの場に居なかった人間でもないよね、てゆうか、あんなこと誰にもできないでしょ?』

『人間には無理だけど……出来そうなモノに心当たりはある』

『……モノってことは、やっぱりアレ?』

『出番があると思ってたのに無くなって、憂さ晴らしを始めたんじゃないかと』

『迷惑すぎるね、それ……』

『神代さんに聞いたら、先鋒でも勝手に出て来ただけらしいし。よっぽどの麻雀好きだよ、アレ』

『相手になる人が居なそうだけどね……神代さんが降ろす他の神様でも無理でしょ、アレの相手』

『だから、久々に飛ばずに半荘を終わらせられる相手を見つけてテンション上がってたんじゃないかと』

『……相当なポンコツだね』

『まさしく』

『……だから、永水に勝つチャンスが多くなるように仕組んだのかな?』

『多分そう』

『……なるほどね』

59: 2015/12/03(木) 07:50:17.37 ID:Lyrzg8qR0

同時刻――とある雀荘にて


咏「いやあ、はやりさんが一回も勝てないとか、照ちゃんおっかないねー」ケラケラ

はやり「咲ちゃんにもちょくちょく二位取られるしさ……なんなのあの子ら? あたしこれでもタイトルホルダーだよ?」

健夜「……無理しないで私たちを呼んでくれれば良かったのに。プロの威厳ってものがあるよね?」

咏「あんたはただ打ちたいだけだろ。まあ、はやりさん以上の相手が見つかったって聞いて打ちたくなる気持ちは分からんでもないけどねい」

理沙「はやりちゃんより上って、うたちゃんでも厳しいんじゃ……」

咏「あたしは全日本のエースだぜ? 流石に一回も勝てないってことはないでしょ、知らんけど」

健夜「いや、高校生に負けないでほしいんだけど」

咏「高校生って言ってもねー。今年のインハイの異常っぷりを見ちゃうとガキ扱いは出来ないんじゃないかと思うね、知らんけど」

はやり「役満10回以上、天和もポンポン出るような異常事態だからね。だからって、まさかあたしが勝てないとかさー」


晴絵「えっと……ところで、なんで三尋木プロがおられるんでしょうか?」


咏「こんな楽しそうな面子で麻雀打つって聞いてこないわけないっしょ? 何言ってんのー?」

はやり「一番年下な上に本来は部外者なのに仕切ってるしねー」

咏「一応、この中で一番ランク上なんでねー。やっぱ、この面子なら麻雀の強さが序列でしょ、知らんけど」

健夜「……私、大会出てないだけだから」ピク

咏「そんなら卓上で示してもらわないと」

健夜「確かに、ちょっと序列を教えてあげる必要があるみたいだね」

咏「……本気で行かせてもらいますよ」

健夜「あれ? 敬語になったね? 打つ前から序列がわかっちゃったかな?」

咏「……上等だよ、あんたの時代は終わったってことを分からせてやる」

はやり「二人で盛り上がんないでほしいな☆ 私たちも居るんだよ☆」

理沙「……久しぶりに、本気」


晴絵(……ヤバイ、帰りたい。てゆうか帰っていいよねこれ? 四人で盛り上がってるし、私要らないよね?)

60: 2015/12/03(木) 07:51:30.89 ID:Lyrzg8qR0

更に数日後 宮永家


界「……なるほどなあ、まさか本当にそんなオカルトが……」

咲「……事情を全部知ってたとも、知ってて信じてなかったとも思わなかったよ」ガクッ

照「どいつもこいつも揃ってポンコツなんだから……」

咲「あれ? てゆうか、うちでお姉ちゃんのプラマイゼロの事情を知らなかったのって私だけ?」

界「……だな」

咲「……」

照「ほ、ほら、お姉ちゃんが咲を傷つけないために必氏に隠してたし……」

咲「このポンコツが隠したぐらいで気付けなかったなんて……」

照「さ、咲……それは酷くない? お姉ちゃん泣くよ?」

咲「分かってれば、お母さんが強そうな人を連れて来た時にとっくにプラマイゼロ破って終わらせてたのに……」

照「い、いや、ほら、お姉ちゃん強いからそれは出来なかったんじゃないかな?」

咲「いくらなんでも、プロとお母さんと私の三人で何回でも挑めるなら、一週間も持たないよね?」

照「……はい」

咲「このポンコツ姉―――!!! お母さんが出てったのも今まであんまり麻雀出来なかったのも変な麻雀覚えたのも全部お姉ちゃんのせいじゃん!!! バカー!!!」

照「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

界「喧嘩はダメだぞー?」

61: 2015/12/03(木) 07:52:25.38 ID:Lyrzg8qR0

咲「はあ……もういいや。学校行こ」

照「……? 今日は日曜日じゃ?」

咲「……練習試合」

照「あっ!?」

咲「だからポンコツだって言ってるの!! 本気で忘れてたでしょ!!」


ピンポーン


??「外まで聞こえてるぞー。あと、一人で学校いけないポンコツが言うなー」

咲「うぐっ……」

照「は、早く着替えないと……」

咲「今日は私服でいいって話だから、京ちゃん来てるし、そのまま行こうね」

照「え? いや、その……私、パジャマのままなんだけど?」

咲「でもほら、京ちゃん来てるし」

照「あ、うう……」


??「いや、待ってるんで早く着替えて来て下さい。それ見越して早めに来てるんで」


照「あ、はい」


咲「おはよう京ちゃん」

京太郎「おまえ、照さんに対してだけドSなのな?」

咲「……家族愛だよね」

京太郎「いや、歪みすぎだろ」

62: 2015/12/03(木) 07:53:56.59 ID:Lyrzg8qR0

駅にて


和「おはようございます」

咲「おはよう、和ちゃん、優希ちゃん」

優希「おはようだじぇ」

照「おはよう」

京太郎「おはよう。じゃ、行くか」

和「ちょうど、電車も来ましたね」


ガタンゴトン アー、サキチャンタチオッタデー アラアラ、ヨテイヨリハヤイサイカイネ 


咲「……」

京太郎「……なんか居たな?」

和「……まあ、清澄に集合するなら、同じ電車に乗ることになりますよね。あの周辺には宿もありませんし」

京太郎「合宿所押さえなかったのかよ……」

優希「他校の人間はNGって言って断られたそうだじぇ!」

咲「で、わざわざ離れたところに宿を取ってまで練習試合? キャンセルしないんだね……」

京太郎「アレだな。インハイ後に照さんが瑞原プロまで含めた高校オールスター+αに全勝したのが効いてるんだろうな」

和「瑞原プロ以上となると、トッププロの指導対局みたいなものですからね」


??「おーい、はよせんと電車出てまうでー!?」


咲「はあ……目的地に行く前の電車で会っちゃうとか、風情がないよね」

京太郎「お前らがアホな漫才してるからだろ。予定だと一本早い電車だったんだよ」

和「とにかく、乗りましょう。本当に乗り遅れますよ」

63: 2015/12/03(木) 07:55:12.15 ID:Lyrzg8qR0

咲(……)

監督「お、おはよう、咲。照も」

照「……(無視)」

咲「……おはよう、お母さん」

監督「つ、ついに娘と和解できたわ……」ウルウル

咲「いや、出来てないからね。完全に無視されてるからね? 私とはインハイ直後でもそんなに険悪じゃなかったし」

監督「はっ!? 確かに……」

咲「もう……で、いつ家に帰って来るの?」

監督「そうね……来年の夏……憩が引退するまでは監督を続けて、それからかしら?」

照「……は?」ギロッ

監督「ひいっ!? こ、これはアレなの? 『一生帰って来るな』的な拒絶オーラなの?」

咲「いや、来年って、お姉ちゃん卒業しちゃうよ? 多分プロになるから、家出ちゃうよ?」

照「……」

監督「……?」

咲「家を出た後に帰って来ても、嫌いなら何とも思わないよね?」

照「……」

咲「ということは、家を出る前に帰ってきてほしいってことだよね? さっき睨んだの」

照「知らない。何を言ってるのかわからない」

監督「て、照……許してくれるの? 既に和解は出来ていたの?」

照「……」プイッ

咲「もう、素直じゃないなあ……」


64: 2015/12/03(木) 07:55:42.94 ID:Lyrzg8qR0

麻雀部に入ってから、色んな事があった。

沢山の友達が出来て、麻雀が楽しくなって、お母さんが返って来て、お姉ちゃんとも、前よりよく話すようになった。

麻雀を打つたびに、友達が増えた。

悲しいこと、辛いこともあったけど……(そのほとんどがお姉ちゃんのせいだった気がする)

けど、麻雀をまた始めて、良かったと思う。

良かったと思えるだけの良いことが、あった。


『あ、来た来た。遅いわよあんたたち……って、お客様と同伴ってどういうことよ!?』


きっと、これからも良いことが続いていく。

悪いことが始まったのは、麻雀を拒絶するためのプラマイゼロを始めてからだったから。

良いことが始まったのは、麻雀をまた始めてからだから。


『ま、準備は終わってるんだけどね。じゃ、早速始めましょうか? 誰から打つ?』


だから、私は今日も―――麻雀を打つ


66: 2015/12/03(木) 08:40:09.14 ID:2jfhX4zj0
乙。
最高に楽しかった。ありがとう。
初投下から楽しみに見てたから終わっちゃうのは寂しいなあ

このスレでの短編とか後日談とかは無し?

67: 2015/12/03(木) 09:11:29.13 ID:mtS4eN0/0
お疲れ様です 後日談は読みたいね

引用: 【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」3