705: ◆zvY2y1UzWw 2014/01/14(火) 00:31:46.39 ID:9SwiL0z50


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



なんだか異様に長くなっちゃった奈緒ちゃんin海底都市投下します

706: 2014/01/14(火) 00:32:55.99 ID:9SwiL0z50
都市を数日にわたって調査し、そしてあまり情報は入手できなかった。…どうやら神の洪水計画の事は、一般市民には伝わっていないらしい。

ならば王宮、または神殿へ潜入し、何らかの情報を掴みに行くしかない。

奈緒は現在の隠れ家から王宮や神殿への道のりを数日にわたり視察していた。そこへ侵入し、緊急事態の際は問題なく隠れ家に帰還できるように。

…そして今日、都市のあちこちに兵士がいるのを目撃した。不自然なほどに増えた兵士。何かを探すように彼らは動いていた。

例の悪魔がこちらの事を知ったのか、それとも別の能力者か…とにかく、異変が起きているのは間違いない。

見つかって捕まってしまってはどうなるか分かったものでは無い。だから慎重に考える。

最初に目撃したのは隠れ家がある第七地区。だが別の地区も見に行けば、そこにも兵士は居た。恐らく自分がどこにいるかまではわかっていないのだろう。

すぐに見つかることはないだろうが、結局は時間の問題だ。…こうなってしまったからにはもう動くしかないだろう。

夏樹が定期連絡用の穴を開けるのは昼だ、それまでに奈緒は動き出す。

本当にマズイ時はすぐさま隠れ家に帰還して脱出し、問題なく海底都市を去れるように荷物の準備も済ませる。

荷物も片づけ、箱に使わない道具を整理し、部屋の掃除を済ませた。

立つ鳥跡を濁さず。それを一応意識している。

----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。




707: 2014/01/14(火) 00:34:24.12 ID:9SwiL0z50
「定期連絡、こちら夏樹。奈緒、報告はあるか?」

背後に穴が開いた気配を感じ取って振り返った。

夏樹の部屋と今いる部屋を穴が繋ぎ、奈緒は現在の状況を報告した。

「夏樹…ちょっとヤバイかもしれない」

「ヤバイ?…何かあったのか」

「見回りの兵士が今朝から街のあちこちに居る。目的があたしにしろそうじゃないにしろ、見つかるかもしれない」

「…なるほど。確かにそれはヤバいけど…奈緒、なにかする気か?」

「あ、わかる?」

「わかるね。どう考えたって今から撤退してこっちに帰ってくる感じの声じゃないからさ」

「…だって、あたしまだ何もできてないから。まだこれからって時なんだ、撤退なんて選べない」

「…」

せっかく敵の懐まで来ているのに奈緒は何もできていない。それが奈緒は許せなかった。

その決意した声を夏樹は聞き逃さない。そして、少しだけ考え込む。

「…王宮か神殿、どちらかだけだ。今晩中に行けるか?」

「夏樹…いいのか?」

ネバーディスペアの形式上のリーダーはきらりでも、実質的には(不本意ながら)夏樹が仕切っている。

指令を下すのはLPだ。だが、指令が直接下されてない場では夏樹が判断し、動きを決める。

…今、LPはこの場にいない。彼が今ここにいれば安全を優先しすぐにでも帰還するように促すだろう。

だがそれではロックではない。

708: 2014/01/14(火) 00:35:14.93 ID:9SwiL0z50
「一度決めたなら少しでも足掻いて、結果を出す!奈緒…覚悟、決めてるだろ?」

奈緒はすぐに頷く。

「…だけど、これは一種の賭けだ。見回りが多いって事は捕まりやすいって事だからな」

奈緒の異質な強さは夏樹もよく分かっているが、奈緒にも苦手な事はあるし、相手の手の内はまだ分かっていない。

悪魔がどれ程の強さかもわかっていない。奈緒より強い者がいてもおかしくないのだ。

「うん、分かってる」

「せめてアタシも行けるなら楽なんだけどなぁ…とにかく、スニーキング用の装備…あ、これだこれだ」

夏樹が別の穴を展開し、そこから装備と道具を取り出す。

「…とにかく、察してると思うけどLPさんには伝えないからな」

「ああ…LPさんには悪いけど、あたしにも意地があるから…ワガママだと思うけど」

「今の状況を考えて、多少の無茶をしたくなるのはアタシもよく分かる。ワガママだなんて切り捨てないさ」

神の洪水が実際に起きれば地球滅亡の危機なのだ。躊躇していられない。

「LPさんは…まぁなんとかしてみるよ。帰還用の連絡装置もちゃんと持ってるから今晩無事に終われば帰って来れるからなぁ…なんて言おう」

「…なんかそっちの方が不安だな」

「誤魔化したりとかは苦手なんだよ…まぁ、心配するなって。なんとかするから…とにかく…待ってるからさ」

「…おう」

苦笑いしながらLPにどう報告すべきか考えつつ、奈緒の返事を聞くと夏樹は穴を閉じた。

709: 2014/01/14(火) 00:39:26.88 ID:9SwiL0z50
暗くなった夜、奈緒は行動を開始する。

黒い潜入用のスーツに身を包み、潜入用の道具を装備し、泥をまるで布のように纏って顔を隠している。

獣の姿ばかりだった泥のイメージは増えていた。加蓮と関わってから…いや、憤怒の街で翼を持つ蛇龍に止めを刺したあの時からだ。

繋がって、再び離れて。二人は僅かな時間ではあったが無意識にイメージを共有していた。それが切欠だったのだ。

布のように纏ったり、武器のように構えたり。泥はあまりにも万能で便利で、奈緒はそれをたまに恐ろしく思う。

この泥は肉体でありながら道具である。カースの力だけではありえないこの力を、悪人が手にしたらどうなってしまうのだろうかと。

…元を辿れば彼女と分離した、悪しき『正義』の呪いの事など、全く知らずに。

「さて、行くか…!」

710: 2014/01/14(火) 00:41:06.96 ID:9SwiL0z50
黒い翼を生やした黒い人影が、都市の連なる屋根を駆ける。

広場の付近であるために屋根が途切れてしまっている場所に来ると、奈緒は黒い翼を広げ、宙を駆けた。

「あれは何だー!」

「何なんだー!」

「やばっ…!」

だが、運が悪い事に飛んだ場所のすぐそばに見回りが居たのだ。

暗い夜と言っても、海底都市では飛行するモノ自体が珍しい為か、その風を切って飛ぶ姿は一瞬だったにしても兵士たちの目についた。

それでも勢いを落とすことなく奈緒は飛んだ。

「飛んでいった方向には…王宮と神殿…。例の侵入者でしょうか」

「…スカルP様!どういたしましょう!」

「うむ、陽動の可能性も考え…奇数部隊のみ王宮と神殿方向へ向かう様に通信をだしてくれ」

「了解しました!」

711: 2014/01/14(火) 00:42:08.99 ID:9SwiL0z50
(…急がないと不味いな…!)

その騒ぎの気配は奈緒自身にもよく伝わっていた。

光を避け、神殿付近の暗闇に着地する。目標は神殿に決めていた。

神殿の方を選んだのは王宮と比べ見回りも少なく、それでいて重要な情報がありそうという直感に従っての行動だ。

一応夜目が利くほうではあるのだが、片目には管理局開発の小型暗視スコープを装備している。

神殿の入り口に近づくと、二体の見張り役のイワッシャーが居るのが見える。

(…陽動とかが居ると楽なんだけど)

一人ではやはり無謀な気がするが、一度やると決めたからには行くしかない。泥を足に纏い、人の形からその形を変える。

右手にサイレンサー付きの拳銃を構え、息を整える。

利き手は多分虎の手にされた左だったから、右手だけで道具を使うのはあまり得意ではない。

それでも今は止まっている暇はない、泥の一部を腕に変化させ、右腕を支える。

奈緒から見て奥の方のイワッシャーの、レーザーを発射することが出来る頭部に狙いを定め、引き金を引いた。

奈緒以外には拳銃の音は聞こえず、ただ静かにイワッシャーの頭部を銃弾が貫く。

「……シャ?」

頭部を破壊され、撃たれたイワッシャーの機能が停止する。

「シャ!?」

攻撃されなかった方のイワッシャーは、急に倒れたもう一体に戸惑う。

そして奈緒は物陰から一瞬でイワッシャーに距離を詰め、頭部を虎の左手で猫パンチ…ではなく泥を纏った爪でえぐり取るように拳を放つ。

「シャ…」

奈緒は右手も虎の手に変化させると、その爪で倒れた二体の頭部と胴体部を切り離し、神殿の出入り口付近から退かせておく。

まだ周辺に気配がない事を確かめると、長く暗い廊下を静かに走り出した。

712: 2014/01/14(火) 00:43:26.91 ID:9SwiL0z50
「スカルP様!神殿の見張りのイワッシャーが破壊されています!」

スカルPと第七分隊の兵士たちが王宮と神殿のすぐそばに来ると、奇数隊が通信通りに集まってきた。

「…侵入者は神殿か。そこに何か重要な物はあるのかい?」

第五分隊と共に行動していた傭兵アイが、神殿に視線を向ける。

「神殿には守護神プレシオアミドラルの亡骸が祀ってありますが…」

「…それ以外には?」

「…メンテナンスを終えたヨリコ様のアビスエンペラーが、再び神殿に保管されておるの。それ以外に目ぼしい物はないはずじゃ」

「その他の使用されていない戦闘外殻は研究所にありますし、資料等も殆どが皇宮にあります」

「相手にとって神殿では唯一価値があるとも言えるアビスエンペラーも簡単に動かせる代物ではないからの。侵入者に少し同情するわい」

「…ふむ、なるほどね」

ドクターPによって『メンテナンス』を終えたアビスエンペラーは、現在プレシオアミドラルの亡骸のすぐ近くの部屋で保管されている。

アビスエンペラーはプレシオアミドラルの魂が無くては起動しない。

だから有事の時に海皇が装備し、民を導くアビスエンペラーは、本来はずっと神殿に安置されている筈だったのだ。

そのアビスエンペラーは核を埋め込まれ呪いの力を宿し、プレシオアミドラルの魂は呪詛で少しずつ自由を失いつつある。

「それに神殿の構造は基本的に一本道…袋の鼠じゃの」

「…ただ、この人数だと神殿の中で動きづらい。神殿へ行った事がフェイクの可能性もあるから、人数は分けるべきだね」

アイは聞いた情報から、まだ半分ほど侵入者が神殿に居る事を疑わしく思っていた。

それに屋内に大量に兵士がなだれ込んできても、もし戦闘になった場合に被害が大きくなるだけだろう。

「そうじゃな、ワシの部隊とお前さん達の部隊で行くとしよう。第一、第三分隊は万が一侵入者を見かけたらすぐに連絡をしてくれ!」

「かしこまりました!」

他の部隊に命令を下すと、アイとスカルPを先頭に、兵士達が神殿内部へ向かって行った。

713: 2014/01/14(火) 00:45:39.10 ID:9SwiL0z50
その頃、プレシオアミドラルの魂が宿る亡骸の前で、海龍の巫女は呪詛を少しづつ強めていた。

魂が壊れてしまっては意味がない、壊さぬように、自我を残さぬように、慎重に。

「…あら」

ふと、深くフードを被った巫女は振り返る。

「侵入者ね、わかるわ」

その声に廊下の闇にまぎれこちらを覗いていた者がビクリと反応する。

「出てきなさい、貴方はこちらへ来た時点でもう終わっているのよ?マヌケな子ね」

巫女は杖を構えるが、その構えた杖を銃弾が弾き飛ばした。

「あら、戦う気?」

観念したのか、暗闇から深い夜の闇の様な人影…奈緒が飛び出す。

巫女はその飛びかかってくる人影を躱すと、弾かれた杖を拾う。

「感情的になっちゃったのかしら?…でもそれももう関係ないわ。さっきも言ったでしょう?」

廊下に足音が響いてくる。たくさんの足音だ。奈緒の顔が青ざめる。

「貴方はもう終わっているのよ?」

その言葉と共に、兵士たちが部屋に入ってきた。

…巫女がニタリと笑った気がした。

714: 2014/01/14(火) 00:46:54.48 ID:9SwiL0z50
「巫女様!ご無事でしたか!」

「ええ、無事よ…私の事はいいの、まず侵入者を捕えましょう」

「そうじゃな、巫女殿は兵士と一緒に離れていてくれるかの?ここはワシらに任せてくれ」

「わかったわ」

「やれやれ…殺さない程度に痛めつけて捕まえればいいんだろう?」

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ絶対ヤバイ!!)

一対多。実力者らしき者は二人。それでも圧倒的に不利だ。奈緒は神殿を選んだ自分の判断を呪うしかなかった。


「ハナ、おいで。オリハルコン、セパレイション」

「では行くかの!オリハルコン、セパレイション!」

「アビスグラップル、ウェイクアップ」

「アビスソルジャー、ウェイクアップ!」

「…あぁっ!畜生、やってやる!」

アイとスカルPは、掛け声とともにオリハルコンの鎧を纏う。

奈緒の攻撃は殆ど意味をなさないだろう、それはなんとなく察していた。

それでも、帰還しなくてはならない。逃げなくてはならない。

脚は異形に、両腕を虎の物にしたまま、四足歩行するように体を低く構えた。

715: 2014/01/14(火) 00:47:40.79 ID:9SwiL0z50
「秘伝、《六骨》」

「っ!」

スカルPが繰り出す6発のパンチを、その速さに驚きつつも寸でのところで回避する。

アビスソルジャーは量産型故にアビスカルより性能は劣るが、それでもスカルPの身体能力の邪魔をすることはない。

「良く回避したね、だけど無意味だ」

しかし、回避した先を読んだアイが奈緒の横に駆け寄り、ナイフを振り下ろす。

(速っ…!?)

奈緒の左腕から鮮血が舞う。

兵士の一人がそれを見て情けない悲鳴を上げた。

「ひっ!腕が!」

…その言葉通り、時としてオリハルコンすら切断する斬撃は骨を断ち、腕がポ口リと落ちていたのだ。

「どうだい、降参するかい?このままだと君は出血多量で氏ぬよ?」

「…『それは無理だな』」

奈緒が返事と共に動き、脚と右腕だけで左腕を回収すると、あっという間に腕は再び元通り接合される。

「なるほどね。なら容赦はいらないか」

「…これは骨が折れるのぉ」

それを見てアイとスカルPは回復能力を持っているとすぐに理解する。…スカルPはあまり乗り気ではないようだが。

716: 2014/01/14(火) 00:49:12.00 ID:9SwiL0z50
「…まだ…!」

奈緒が黒い翼を展開し、スカルPに突っ込む。

「…すまんの、秘伝、《骨挽》」

「ガハッ…!」

スカルPは冷静に、その勢いを利用して裏拳を叩きこむ。

「…グァ、ガアアアア!!」

口から血を吐きながら、奈緒の翼の羽が牙のように変形し、まるでサメの捕食のようにスカルPを挟むように襲い掛かる。

「ぐっ…」

「まだ、まだァ!」

「ぐおっ!」

牙を抑えるスカルPに、奈緒は異形の足で蹴りを叩きこんだ。

脚の爪がオリハルコンに僅かながら傷をつけ、スカルPは吹き飛ばされる。

量産型である為に、アビスカルなどと比べると頑丈さに欠けるアビスソルジャーではダメージを抑えきれなかったようだ。

「スカルP様!!」

殆どの者が吹き飛ばされたスカルPに視線を向ける。

奈緒はその隙に翼を広げ、宙へ逃げようとする。

「一度頭を冷やした方がいい。これは1対1じゃないのだから」

しかしそこに冷ややかな口調と共にアイが下から打ち上げるようなキックを放った。

「グ…ァ…!」

奈緒が高い天井に激突し、そのまま重力に従い落ちていく。

「…秘伝、《崩骨》」

そして落ちてきた奈緒を立ち直ったスカルPの掌底が襲い、壁に叩き付けられた。

717: 2014/01/14(火) 00:50:53.43 ID:9SwiL0z50
「…やったかの」

「氏んでないといいけどね」

スカルPとアイが、壁にもたれて動かなくなった奈緒を少し遠くから見ていた。

グチャグチャグチュグチュと音がするから再生はしているようだが、彼女自身が動かないのだ。

巫女はそんな奈緒を見て、一つだけ思い当たる種族が居た。

(…吸血鬼の類かしら…?…けれどそれでは説明がつかない事が多すぎる。カースの力だとしてもこんな力はあり得ない筈…)

吸血鬼も弱点を除けば不氏身の類だ。あの回復力は異常だが、個人差かもしれない。

黒い力から連想したカースの力は殆ど感じず、それではカースドヒューマンだったとしてもあれ程の戦闘能力と再生力を同時に持っているのはおかしい筈。

しかし、それでは異形の方が説明できないのだ。それに彼女が所属している筈の宇宙系組織に、利用派であろうと吸血鬼が所属しているのは不自然だ。

…カースの力をほとんど感じない原因は奈緒に埋め込まれた暴食の核が、小さな欠片だからなのだが。

(…わからないわ)

結局、巫女はまだ判断を下すのは早いと結論付けた。

718: 2014/01/14(火) 00:52:19.36 ID:9SwiL0z50
奈緒は壁に叩き付けられたまま、意識が朦朧としていた。

彼女自身のとも言えない感情が、内側で渦巻いていく。

―痛い、いたい、イタイ…!

骨が何本も折れている筈だ。内臓だってボロボロになっているだろう。

そんな体が再生をしているのが、感覚でよく分かる。

氏ぬことは許されない…でも、血が足りない。ダメージが酷すぎる。

―タリナイ、血ガ、タリナイ

―強サガホシイ、モット、モット

―モット、強イモノ食べナイト…

彼女の中の浄化された筈の小さな暴食の呪いが蠢く。

きらりとそれなりに長い間離れているのも原因なのだろう、呪いの力が奈緒に広がっていく。

鉄の味がしていた筈の、吐いた血まみれの口の中が砂糖のように甘いような…異常な錯覚が襲う。

内側にあるはずの器官が泥のように溶けていく。蛹が内側で溶けて変態して蝶に変わり羽化するように。

―タリナイ、タリナイ、ナニモカモ…タリナイ

―…オナカスイタ

719: 2014/01/14(火) 00:53:43.87 ID:9SwiL0z50
全く動かなかった奈緒が俯いたまま立ち上がった。

場は再び緊張する。

彼女が吐いた血は、神殿のあちらこちらを真っ赤に染めていた。プレシオアミドラルの亡骸にまで血が付着している。

何名かがその血や返り血を浴びていたようだが、鎧の下には届いていないようだ。

(甘い香りがする。気が狂いそうなほど甘ったるい香りがする)

いや、既に狂っているのかもしれない。

さらにスーツと泥の服で見えないが、奈緒の肌に消えたはずの傷跡が藍色の刺青のように刻まれていく。

捕まっていた時は飢えてはいたが今ほどの強い暴食の感情など無かった。

しかし今、彼女は自ら求める。飢えを満たすような強さを持つ者を。あの時より強い暴食の感情を開放していく。

もはや奈緒自身の意識は薄く、その体を動かしているのは獣としての生存本能の塊だった。

「ッアアアアア!」

奈緒がその感情に振り回されるようにアイに飛び掛かる。

「まだ、これだけ動けるのか…だんだん本性が露わになってきているようだね」

しかしその単純な攻撃は難なく回避されてしまう。

だが奈緒は泥と一体化した髪を硬化させ神殿の床に突き刺し、飛び掛かった勢いを殺さぬままグルリと方向転換して再び襲い掛かる。

「…!」

それすらもアイは回避するが、奈緒も生物の範囲を超えた身体能力で追い詰めていく。

執拗に、逃がさぬように、髪が触手のように伸びてアイの移動範囲を狭めていく。

720: 2014/01/14(火) 00:55:41.58 ID:9SwiL0z50
「アイ殿…!」

「!」

『アオオオオオオオオン!!』

『シャアアアアア!!』

「なにっ!?」

スカルPがそれを中断させようと横から素早く間合いを詰めようとしたが、奈緒から分離した生命体がそれを妨害する。

そしてついにアイに逃げ場が無くなり、奈緒にのしかかられるようにして捕まってしまった。

その姿は半分以上が藍色の模様が刻まれた黒い異形と化しており、大きな虎の前足が抑えつけて離さない。

虎の最大の武器は牙ではなく発達した前足だ。前足で獲物の体力を削り、そして力尽きた獲物を抑え、捕食する。

「っ!」

「…グルルル」

「このっ…!離せ…!」

どんどん奈緒の背から泥が溢れ、アイにのしかかる重量が増えていく。

さらに噛みついてきているが、オリハルコンの鎧に阻まれてアイ自身はまだ無事ではあった。

それでも鎧の隙間から何かされる可能性も高く、アイは命の危機さえ感じていた。

『アォオオオオオオン!』

『ヒィイイイイイイイイイン!』

「邪魔をする出ないわ!」

兵士やスカルPも、奈緒から溢れるように生まれた黒い生命体に行動を妨害されて近寄れない。

状況はまさに一転し、絶体絶命としか言いようがなかった。

「…これは…暴食?」

巫女は巫女で、今になってやっと暴食の呪いの気配に気づいた。

「わからないわ…これほどのカースドヒューマンなら殆ど隠すこともできない筈、それにまともな自我なんてないはずなのに…」

721: 2014/01/14(火) 00:57:25.70 ID:9SwiL0z50
(頭がすげぇ痛い…痛い……)

肉体は暴走し、暴食の感情が爆発していた。このままでは目の前の彼女を骨すら残さず喰らい尽くすだろう。

それと同時に、彼女は葛藤する。殺されかけた相手とはいえ目の前の人を喰らおうとする暴食をなんとか抑えようとしている。それが頭痛となって彼女を苦しめる。

「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

悲鳴のように、雄たけびのように、奈緒は獣のように咆哮する。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

「!?」

そこに居た者達は驚愕した。

その咆哮とシンクロするように、プレシオアミドラルの咆哮が海底都市に響き渡ったのだから。

「…!」

その咆哮と同時に一瞬だけ拘束が緩まった。その隙をアイは見逃さない。手にしたナイフでぎらぎらと光る赤い目を切り裂いた。

「あ…ギャアアアアアアアアああああああああ!!!?グア、あああ、あ、アアア!?」

血が飛びり、目を潰された奈緒がパニックを起こす。そのパニックが原因か、泥は一斉に奈緒の元へ戻り、アイも解放された。

目を抑えて悲鳴を上げていた奈緒は、そのまま疲れ果てたように動かなくなった。

「…今度こそ終わっただろうね?」

「わからん…取りあえずアイ殿は下がっておれ。ワシらに任せておくのじゃ」

「…わかったよ」

しかし、巫女は咆哮の時に説明しがたい、なにか『嫌な予感』を感じた。

「…は、はやくあの侵入者を捕えなさい!今のうちにとにかく早く!」

「わかっておる、あれは何かおかしい!」

兵士達も倒れた奈緒を捕獲すべく、駆ける。

『…寝てたから状況はよくわかんねぇが…大人数で倒れてる女を襲うなんて、テメェら良い根性してやがるな!』

その次の瞬間、謎の声と共に、兵士たちは吹き飛ばされた。

722: 2014/01/14(火) 00:58:35.09 ID:9SwiL0z50
吹き飛ばしたのは右腕が変形する黄金の鎧。さらには海の色の様なマントまで装備されている。

それは装着者がこの場にいない筈のアビスエンペラーだった。

「う、動いたじゃと!?」

「アビスエンペラーが…わ、わからないわ…」

「…そうか、あれが例のアビスエンペラーか」

兵士たちを吹っ飛ばした攻撃を回避したスカルPは驚愕するしかなかった。海皇であるヨリコ専用の戦闘外殻が、彼女がいないこの状況で動いているのだから。

うごかしている存在に心当たりがある巫女は狼狽える。呪詛がまだ不完全とはいえ、プレシオアミドラルの魂は縛っていた筈だったのだから。

アビスエンペラーの足元でやっと正気に戻った奈緒は、朦朧とした意識の中、無意識にスーツの装備からある物を取り出していた。

「…」

ピンを外し、手放すとコロコロ転がっていく。

「…あれは…!」

アイが反応すると同時に、濃い煙幕がスモークグレネードから噴き出した。

視界が奪われ、皆が思わず目を塞ぐ。

そして煙が晴れた時、そこに奈緒の姿は無かった。

「逃がしたか…!」

アイがいち早くそれに気付き、悔しそうに周囲を見渡す。

「全分隊に連絡!侵入者が逃亡した!神殿周辺に包囲網を敷くのじゃ!黒い格好の女じゃ、逃がすでないぞ!」

スカルPも通信機を取り出し、外の部隊に命令を下す。

「…侵入者を捕えるのが私の依頼内容だ。行かせてもらうよ」

アイも神殿の外へ出ていった。

723: 2014/01/14(火) 01:00:29.77 ID:9SwiL0z50
『…おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るな』

不満そうな声がアビスエンペラーから聞こえてくる。

「黙った方が身の為じゃぞ。…ヨリコ様のアビスエンペラーをどうやったかは知らんが勝手に使った罪は重いからの」

『…どうやったか?それはそこの怪しい巫女さんが良く知っているだろうよ』

「なに?」

「…っ!」

『ま、お二人でごゆっくり話し合ってればいいさ、俺はもう遠くへ行かせてもらうからよぉ!』

「待たんかーっ!」

「ま、待ちなさい!」

『待つわけないだろうが!!』

右腕を鈍器に変えたまま、アビスエンペラーは神殿の壁を壊し神殿の外へ飛びだしていった。

724: 2014/01/14(火) 01:01:12.16 ID:9SwiL0z50
「…巫女殿、ワシがこの事をヨリコ様に伝えてこよう。なぁ…聞かせてくれ、あれは一体なんだったんじゃ、何か知っておるのか?」

茫然としつつスカルPが巫女に問う。

「わからない、わからないわ…」

しかし巫女はただそう言う事しか出来なかった。

725: 2014/01/14(火) 01:02:09.40 ID:9SwiL0z50
アビスエンペラーはその高い機能をフルに活用し、夜の都市を高速で駆ける。

兵士に何度か遭遇し、止めようとして来るが、いとも簡単に吹っ飛んだ。

兵士達が神殿周辺に集まりだしたせいか、その遭遇頻度も下がり、ついには気配すら感じない程の位置に来た。

アビスエンペラー…に憑依したプレシオアミドラルが、周囲に誰もいない事を確認して小声で喋り出す。

『おい、聞こえるか』

「…」

『返事しろっての!』

「…だ…れ?」

虚ろな返事が返ってきた。

『俺はプレシオアミドラル様だ!知ってる筈だろうが!』

「…プレシオ……あ、そうだ…ピー助の知り合い!」

『…フタバイキングだからな、一応言っておくが』

「わかってるよ…うん」

『まぁ…氏んでないようでなによりだ』

すぐに意識が戻ってきたことプレシオは安堵した。

726: 2014/01/14(火) 01:04:43.09 ID:9SwiL0z50
「なぁ…ちょっと待ってくれ、今の状況がよくわからないんだけど…」

そこに奈緒がプレシオに戸惑い気味に質問する。

『覚えてねぇのか?』

「だから聞いてるんだよ…全く分かんねぇんだ。てっきり捕まったのかと思ってた」

『仕方ねぇな…』

どうやら意識が朦朧としていたからか、殆ど覚えていないようだ。プレシオは面倒そうに説明する。

魂であっても真夜中に近いこの時間帯はプレシオは眠っていた。しかし周囲であまりにもうるさかったので起きてみたらあの状況だったのだ。

『…どこから言うべきかね…まぁ捕まりそうになっていたお前を助けたのは紛れも無くこの俺よ!』

「じゃあ…今アタシが鎧の中にいるのはなんでだ?」

『それか?俺は幽霊みてぇなもんだ。巫女の妙な術で動けなかったが…さっき力を振り絞ったらなんか知らんが動けたんで、近くにあった鎧に憑りついたんだよ』

『つまり…俺はこのアビスエンペラーとかいう鎧を体の代わりに動いている訳だ。お前は空っぽの鎧の中に入ってきた…と言う事だな』

煙幕の中、彼女が泥のように溶けて鎧に入って来た時の恐ろしい光景を思い出さないように、説明を手早く済ませる。

あの時の奈緒は、まだ少し暴食の感情が生きていた。強い力を欲し、喰らう事を思考の奥底で欲していた。

そこにアビスエンペラーが現れ、奈緒はその力を欲し、喰らえなかったアイの代わりに捕食しようと泥のように溶けて襲い掛かったのだ。

だが幸運なことにオリハルコン製のアビスエンペラーは食えるモノではなく、中に誰も居なかった。

そして泥の状態のまま、奈緒は暴食の衝動により居もしない中の人を喰らおうとアビスエンペラーの隙間から中に入ってしまい、そのまま現在に至るのである。

727: 2014/01/14(火) 01:06:10.73 ID:9SwiL0z50
『…要するに、お前の知識で言う、「ニーサン!」とか言っているアレだな』

「…うん、よく分かった。けど、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど『お前の知識』って…?」

『ああん?俺だって知るかよ、なんか知らんがお前の知識も俺のモノになってやがる』

「え…え、え?マジで?」

『大マジだ。なんなら他の事も言うか?お前の部屋の机の上から二番目の引き出しには…』

「わ、わーっ!わーっ!ほぁーっ!ぬわーっ!バカ、バカ、バカァ!」

『わかった!わかったから少し黙れ!』

プレシオのカミングアウトは奈緒に全力で阻止された。

『…とにかく、お前のおかげで俺はいろいろ分かったし、自由になれたわけだ。俺はお前を捕まえる理由もねえし、逃がしてやるよ』

「あ、ありがとう…で、どうやって脱ぐんだコレ」

奈緒の肉体はもう普段通りの骨も内臓もある普通の体になっている。脱ぎ方が分からないので鎧に閉じ込められているような感じになっているのだ。

『それはだな、こうすればいいんだよ』

アビスエンペラーがプレシオサウルス型の金属生命体の姿に変形し、奈緒と分離する。

「おおー…やっぱりよく分かんねぇけどスゲェ技術だな…」

『俺もこういうのはよく分かんねぇな。まぁ便利だけどよ。さっき壁を壊した時ついた傷も元通りに戻ってるしな』

「金属でも再生するんだな…」

『科学の力ってすげーって奴だろ、俺はそういうの詳しくないんで聞いても適当に言うからな』

「…じゃあ止めておく」

728: 2014/01/14(火) 01:08:03.43 ID:9SwiL0z50
「…そういえば神の洪水について何か知らないのか?守護神なんだろ?」

『あー…ったく、いろいろ知ったが何が神の洪水だ。俺は守護神として崇められてたが洪水なんて何もしらねーぞ?』

「関係ないのか?」

『ったりめーだ!俺はあの巫女の妙な呪詛で動けなかったんだからよ!まぁ今は自由の身だがな』

「巫女…あのフードの女…だよな?」

『おう、あの巫女にヨリコ…職業で言うと海皇サマは騙されちまってる。アイツはどう考えても黒幕だな。妙な術ばかり使う汚ねぇ奴だ』

「アイツが…」

神殿に居た巫女を思い出す。確かに彼女からは少し不気味な雰囲気を感じた。

『とにかく、ここから逃げるならとっとと逃げな。…飛ぶんじゃねーぞ?ここで飛ぶと目立つからな』

「ああ、そうするけど…お前はどうするんだ?」

『俺か?…一応、あの嬢ちゃんに忠告するつもりだが…あの巫女がどうも不気味でよ…なにかされる気がしてならねぇ』

ヨリコに忠告をしたい気持ちもあるが、あの巫女が何かしらの呪詛でまた縛り付けてくる不安がある。

そしてプレシオは自覚していないが、今アビスエンペラーにはとあるカースの核が埋め込まれている。

勘の様なもので、巫女には近寄らない方がいいとプレシオは判断していた。

『…まぁ俺はここに残って俺がやりたいことをやるだけだ。フタバ達には悪いが、まだ会うのは当分先になるな』

「…そっか、わかった。なんか変な事になったけど、ここまで連れてきてくれてありがとな」

『また追われるんじゃねーぞ?』

「なんだよ、そっちこそ下手な失敗とかするなよ?」

『俺の心配している暇があったらさっさと行きやがれってんだ。「ねばーでぃすぺあ」の仲間がいるんだろ?』

「人の記憶勝手に見るんじゃねえよ…もう見るなよ!あたしもう行くからな!」

『…はいよ』

奈緒は手を振って、夜の都市を急いで駆けだした。

729: 2014/01/14(火) 01:09:58.65 ID:9SwiL0z50
今の位置は見覚えがある。すぐ近くに隠れ家がある場所だ。

(アイツの心遣いかな…多分)

隠れ家の扉を開き、スーツを脱いで片づけ、急いで最後の帰還準備を済ませる。

箱の中に荷物を詰め込み、来た時と全く同じ部屋に戻ったのを確認する。

隠し戸を開いて、奈緒は外への通路に潜水し、無事に海底都市を脱出した。

隠し通路のハッチを閉めて砂で隠し、暗い夜の海の中、ただひたすら上に向かって泳ぎ続けた。

730: 2014/01/14(火) 01:11:08.33 ID:9SwiL0z50
暫くして月の光が見えてくる。暗い藍色の夜の海から、一筋の光を目指して奈緒はひたすら泳ぎ続ける。

水面が近づいてきた。

「せーのっ!」

イルカのように水面から飛び出し、翼を広げる。

空中を飛びながら箱の中から通信機を取り出して、スイッチを入れるとすぐに少し上に穴が開かれた。

「奈緒!お帰り!」

「李衣菜…!ただいま!」

穴から伸ばされる李衣菜の手を掴み、釣りあげられるように引き上げられる。

その勢いが着いたまま、計算されていたのか積まれていたタオルにボフッっと突っ込む。

…無事、少々ダイナミックな帰宅をした。

731: 2014/01/14(火) 01:13:38.83 ID:9SwiL0z50
「奈緒ちゃーん!お帰りなさーい!きらり達ずっとずーっと待ってたにぃ!」

「きらりー!力強いから!強いから!」

「ごめんなさーい、じゃあちょっち弱めのはぐはぐ☆」

きらりがタオルで体をワシャワシャ拭きながらハグをしてくる。

もうかなり遅い時間だが…きらりの言う通り、李衣菜と夏樹もずっと待っていたようだ。

「遅かったから心配したよ!もう、奈緒が遅いから、何かあったのかってなつきちも落ち込んじゃうし…」

「落ち込んだって言うか…アタシの判断ミスのせいで奈緒が帰って来ないって気がしてだな…なぁ奈緒、侵入した時に何かあったのか?」

「うん、あったよ」

奈緒が侵入した時にあったことをできる限り説明できるように話す。

記憶が曖昧な所はできるだけ話さないように…そして心配をかけないように受けたダメージの事は減らして話しているが。

「ねぇ…奈緒はスニーキングできてなかったって事なんじゃないの?」

「あたしもそれは自覚してたから言わないでほしかったなぁ…思い切り見つかっちゃってさぁ…」

「…でも奈緒ちゃんすっごく頑張ったの!お疲れちゃーん!」

そう言って揉みくちゃに拭かれた奈緒をきらりが抱える。

「よーし、奈緒ちゃんスペシャル入浴ターイム☆スペシャルだからきらりも一緒ねーっ!」

「ふ、風呂ぐらい一人で入ってもいいだろ!?はーなーせー!」

「…ちゃんと体が温まるまで入るんだぞー」

「疲れているんだから暴れない方がいいと思うよー?」

「ふ、二人とも止めてくれよぉー!!」

抵抗空しく、奈緒が風呂場へ連れていかれるのを夏樹と李衣菜は見送った。

732: 2014/01/14(火) 01:15:04.81 ID:9SwiL0z50
「…で、LPさんにはどう報告しようか、真夜中な訳だけど」

「あの人なら多分起きてるだろ。奈緒の帰還連絡と、情報を伝えないと…」

李衣菜が一応と、メモ帳とペンを取り出しつつ、奈緒の話をまとめ上げる。

「呪術使いの巫女が黒幕で、海皇専用の強力な装備であるアビスエンペラーは現在『脱走中』。けど奈緒を倒すくらいの実力者が最低でも二名居る…って?」

「…鎧を装備した相手を倒すのが奈緒は難しい事を考慮しても、やっぱり海底都市の技術は進んでいるみたいだな」

「再生する金属の鎧とかもそうだけど…やっぱりよく分かんない事がまだ多いね。黒幕らしい巫女の実力もまだ分からないし…」

「だな…とにかく、アタシは奈緒の話をありのままに報告するだけだ。奈緒のスニーキングの実力については今後話し合うとしても…黒幕らしき人物の情報をつかめたってのは、大手柄だな」

「だね、何とか平和に終わらせたいものだけど、今は交渉自体難しいからなぁ…海の中に私は絶対入れないし!」

「それは仕方ない事だな…っし、送信完了っと。だりー、きらりと奈緒のパジャマ出しておけよー」

「りょーかーい」

報告を済ませた夏樹の言葉に従って、李衣菜が部屋を出ていく。

暫く直接会えなかった奈緒に、きらりはさぞかしはしゃいでいる事だろう。

少しだけ溜まった疲れが義眼の入っている目の瞼を閉じさせる。

(ああ…思ってたよりアタシは奈緒を心配しすぎたみたいだな…)

そこでようやく疲労している事に気が付いた夏樹は、少しの間だけ視覚ユニットを腕に収納して眠りにつくことにした。

(…無事で、よかったよ。本当に)

733: 2014/01/14(火) 01:16:53.30 ID:9SwiL0z50
情報
・奈緒が帰還しました。
・海底都市の神殿が血まみれ&壁に大穴があきました。(血は恐らく時間が経って既に『喰らう』力を失っている筈)
・管理局が今回の事を大体把握しました。
・海底都市のあちこちで金色の戦闘外殻、アビスエンペラーが目撃され始めました。

734: 2014/01/14(火) 01:20:25.64 ID:9SwiL0z50
・グラトニーモード
奈緒の『暴食』が暴走した状態。
瀕氏の時に渇望し、飢え、求めることで覚醒する。
獣の生存本能が捕食する方向で暴走し、奈緒の意識は殆ど無い。
とにかく一度決めた相手をとにかく喰らおうと襲い掛かってくる。頑丈な鎧でも装備していない限り、無事では済まないだろう。
瞳はぎらぎら輝き、全身に過去に受けてきた傷の数だけ藍色の刺青が刻まれている。
全身を自在に変形させる事も可能で、圧倒的な強さを誇るが…知能は低下しているようだ。
この姿にいきなりなったのは、恐らくきらりと暫く離れて行動していた影響である可能性が高いようだ。
再生能力がさらに強化されているが、瞳が唯一の弱点であり、そこを襲われると操作していた泥が動きを止め、元に戻ってしまう。

アビスエンペラー(奈緒同化状態)
プレシオアドミラルが憑依して自律行動しているアビスエンペラーの内部に、肉体が泥と化した奈緒が入り込んだ。
内部に泥が満ちていても少々重量が増した程度で活動に支障はなかった。
アビスエンペラーに埋め込まれたカースの核がプレシオの意識街ではあったが奈緒の肉体に反応し、知識と記憶をある程度読み取ったようだ。
プレシオはネバーディスペアのことや奈緒のアニメ関連の知識やちょっした秘密を知ったらしい。

735: 2014/01/14(火) 01:21:45.30 ID:9SwiL0z50
以上です
サヤの建てたフラグを回収するだけの簡単なお仕事…アイさんとスカルPの二人を一人で相手にするとかムリゲーすぎるじゃないですかー!やだー!
…とか考えていたらこうなっていたんだ…アイさんには非常に申し訳ない事をしたと思ってます(白目)

奈緒ちゃんは可愛いんだ、決して化け物じゃないんだ…




【次回に続く・・・】


引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part8