738: ◆OJ5hxfM1Hu2U 2014/01/15(水) 22:09:20.07 ID:HumleWzDO


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



投下します
実際長くなってしまったので読む前に覚悟がいる

739: 2014/01/15(水) 22:11:27.62 ID:HumleWzDO

‐プロローグ‐

 十二月も半ば過ぎ去ったその夜もまた、タカラダ・トミゾは孫との団欒を楽しんでいた。

「オジイチャン、ここ、ギアに負荷がかかり過ぎるよ」

「そうか、そこはオジイチャンも気になっておったのだ」

「ここはもう一回り大きいネジを使おう。子供はけっこう乱暴に振り回すんだ」

 孫のトミスケは十歳にもならぬ子供だが、そのアドバイスは的確だ。
 玩具で遊ぶ祖父と孫、傍目にはそう映るだろう。しかしそれだけではない。
 トミゾはネオトーキョーに本社を置く大手玩具メーカー、オタカラダ玩具の社長にして開発チーフである。
 試作品の玩具を持ち帰り、孫と一緒に遊ぶことで子供のリアルな目線からのアドバイスを得るのだ。

「アッ…。…オジイチャン、ちょっとぼくトイレ」

 夢中でLEDカタナを振り回していたトミスケだが、尿意が無視できぬレベルに達したか、慌ててトイレに駆けて行った。
 トミスケの両親……即ちトミゾの息子夫婦は、物心のつかぬ息子を残して反ルナールテロの巻き添えで氏んだ。
 妻を病で亡くして久しいトミゾにとって、トミスケは最後の家族だ。
 そしてトミゾは孫の中に非凡な才能を見出だしていた。彼は遠からぬ将来、孫に全てを譲るつもりでいた。

(その日まで、トミスケも会社も、ワシが守らねば…)

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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。




740: 2014/01/15(水) 22:14:33.30 ID:HumleWzDO

 吹き込む冷たい風に、トミゾの思考は中断された。ガラス戸は閉めたはずだが、いよいよボケたか。
 立ち上がり振り向いたトミゾの目に飛び込んだのは、人が通れるほどの大きさに切り抜かれたガラス戸だ。

「バカナ! 金属線入り強化ガラスだぞ!?」

 侵入者か!? トミゾは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。社長たる彼は護身用の武術を修めているのだ。

「出てこい賊めッ! ワシの生活、ワシの宝には指一本アバッ!」

 背後から首筋に手刀の一撃を受け、トミゾは気絶! 賊は彼を手際よく拘束、抱え上げると、ガラス戸を抜けてテラスに出た。
 ネオトーキョー一等地の超高層住宅、地上三百階の上空に、一機の大型ステルスヘリが音もなく待機している。
 賊はトミゾ老を担いだままテラスから跳躍、苦もなくステルスヘリに乗り移った。

「お疲れ様です」

 キャビン内で待機していたサポートメンバーにトミゾ老を預け、彼女は固いシートに腰掛けた。
 通気性の悪いボディスーツの胸元を開け、汗ばんだ素肌を外気に晒す。
 その仕種に下品さは感じられない。一仕事を終えリラックスするプロの姿だ。

「なに、こういうスリリングなミッションもたまには悪くないさ」

 狭苦しい機内で留守番していたハナを優しく撫でながら、傭兵アイは微笑んだ。
 ステルスヘリはネオトーキョーの夜空に溶け込むように姿を消す。
 既に遠くなった超高層住宅の一室から、幼い悲鳴が微かに響いていた。

741: 2014/01/15(水) 22:17:23.39 ID:HumleWzDO

‐1‐

 『タカラダ社長失踪! テロ可能性重点』『オタカラダ株大暴落、投資家の自殺件数が昨年度から倍増』
 午前九時。朝のワイドショーが、昨夜の事件をセンセーショナルに報道する。
 平常通りカートゥーンが始まった一つを除き、どのチャンネルも同じような緊急特集だ。

「…クリスマス商戦真っ只中だってのに、気の毒な」

 ミルクティー片手に、低俗大衆新聞を読みながら黒衣Pが言った。見飽きたニュースだ。もはや画面を見もしない。

「ところでプロデューサー、オタカラダって?」

 尋ねたのは彼の担当アイドルヒーロー、斉藤洋子だ。上質ソファに体を埋め、ココア豆乳をフウフウと吹いて冷ましている。

「ああ、女の子には馴染みが薄いか? エート、リキチャン人形」

 黒衣Pは説明を続けようとしたが、合点がいったというような洋子の表情に、続く言葉を危うく飲み込んだ。
 オタカラダとダイバンドウの商品展開傾向の相違だの、業績の推移だの、難解な無駄話を聞きたい気分ではあるまい。

742: 2014/01/15(水) 22:20:13.48 ID:HumleWzDO

「それで、そのタカラダ社長はまだ…」

「そうだな。失踪したのが昨夜のことだし、捜査も始まったばかりだ」

 会話はそのまま途切れた。洋子はココア豆乳を啜り、黒衣Pは猥褻ページの工口チック小説を読み始めた。
 冬の朝の穏やかなひと時。しかし、それはほんの数秒後に呆気なく終わりを迎えた。

「洋子ちゃん、黒衣くん、おはよう!」

 事務所玄関から聞こえた声に、二人は顔を見合わせた。
 一呼吸の後、洋子はトイレに隠れようと試みた黒衣Pの首ねっこを掴み、上質ソファに座らせる。
 来客用スリッパがパタパタと音を立て、訪問者…アイドルヒーロー同盟のヒーロー応援委員、持田亜里沙が姿を現した。

 ~~~~~~~~~~~~~

743: 2014/01/15(水) 22:23:11.74 ID:HumleWzDO
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「家庭訪問にしては突然過ぎやしませんか、センセイ?」

 亜里沙と向き合って座る黒衣Pの表情はぎこちない。その隣で洋子もまた不動。
 この来訪が意味することを察し、二人には珍しく緊張状態にあるのだ。

「ごめんね、黒衣くん。先生もさっき指示を受けたばかりで、詳しいことは…」

「わざわざセンセイが来た以上、世間話で終わるはずもないんでしょうね。 …繋いでください」

 亜里沙の能力が、洋子と黒衣P、そして二人の直属の上司の間に脳内会話ネットワークを築く。
 “メッセージ”による脳内会話は、電話やメールに比べて遥かに高い秘匿性を誇る。
 どれほど優秀な諜報員とて、“脳内を覗く能力”でも持たない限り脳内会話を傍受することなど不可能だ。
 亜里沙が派遣された意味もそこにあった。電話やメールでは話せぬ内容……重要な仕事の話だ。
 タカラダ社長失踪事件を終息させるためのヒーローミーティングが始まった。

744: 2014/01/15(水) 22:26:10.10 ID:HumleWzDO

‐2‐

 ネオトーキョー第一産業区。ごく初期に開発され、今では辺境と化した一画に、その施設はひっそりと存在していた。
 地上部分に見えるのは寂れた工場……その正体は、地下十層に及ぶオワン形状の暗黒娯楽施設“女狐の巣”だ。
 これはルナール所有の施設だが、その存在を知るのは社内でも一握りの重役とエージェントだけである。
 ルナール社はこの施設の中で、明るみに出せない顧客と数々の黒い商談を行ってきたのだ。

「…それで、いつまで私をここに閉じ込めておくつもりだ? 私は暇じゃない、年内の仕事がまだ幾つか残っているんだ」

 ここは“女狐の巣”第四層にある貴賓室。室内据え付けの大画面モニタを睨むアイの眼には、明確な怒りが滲む。
 タカラダ・トミゾの身柄を依頼者に引き渡して既に二日、彼女はこの間ずっと貴賓室に留め置かれていた。
 最高級の食事も不足のない娯楽もアイは必要としていない。これがオモテナシの皮を被った軟禁であると気付いているのだ。

「解放する気がないなら、せめてハナを返してもらえないか。あの子がいないとなかなか寝付けない」

『それはできません。あの金属シャコが何らかのハイテック兵器であることを我々は掴んでいる』

 アイは歯噛みした。戦闘外殻さえあればこの状況を打開するのは容易だが、先方もそれは薄々勘付いているようだ。
 これ以上話しても埒が明かぬ。アイは通信を切断、一拍の間を置いて、モニタに報道番組が映った。
 『タカラダ事件解決へ アイドルヒーロー投入』のテロップと、若い女の姿。それは実際アイにとって僥倖であった。
 およそ半日後、傭兵アイは拘束状態を解かれ、再び依頼者の前に姿を現すこととなる。

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745: 2014/01/15(水) 22:29:16.45 ID:HumleWzDO
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 夜のハイウェイを疾駆する一台の軽バン。側面には朱色ファイアパターンで彩られた『アイドルヒーロー同盟』のステッカーが輝く。
 システムを自動操縦に切り替えた運転席で、エボニーコロモは情報整理に勤しんでいた。
 彼らが“代表”と呼ぶ直属の上司は、配下に数名の情報収集エキスパートを有している。
 今回のヒーローミーティングで得られた情報は、ルナールを内偵している諜報員から得られたものだ。

「つまり、この件はルナール社の内輪揉め…ってことですよね」

 助手席の洋子が言う。勉強は苦手と自認する彼女だが、仕事に関することなら話は別だ。

「そうなるな。オタカラダも…まあ、それなりに良い思いをしてたらしいし、文句を言える立場じゃない」

 ルナール社が現在のような大企業に成長する過程で、規模の大小を問わず数多くの企業が従属を強いられた。
 それに伴う反発や軋轢を和らげるため、ルナールはガス抜きを用意していた。
 ルナールの利益に直接影響しない業種数社には、資金援助を行いながらも経営に干渉しない、極めて寛大な方針を取ったのだ。
 そして、オタカラダ玩具もその“特権企業”の一つであった。

「普通に考えて、ルナール社内の覇権主義者が黙ってるわけなかったんだよな」

「ずっと不満が燻ってて、こんな形で爆発しちゃったんですね」

746: 2014/01/15(水) 22:32:37.26 ID:HumleWzDO

 結果として今回の事件が起こり、ルナール社の奥ゆかしい配慮は台無しになった。
 では、囚われのタカラダ社長はどこに? 答えは既に出ている。社用軽バンは『第一産業区』の看板が立つ出口を抜けた。
 目指すは地図にも記されていない辺境の暗黒施設。その存在を知るのは、ルナール社でも一部の重役!

「…黒幕、いると思います?」

「いないだろうな。今頃何食わぬ顔で憩ってるんだろう。何にしろ、俺達のやることは変わらない」

「タカラダ社長を救出して、実行犯を捕まえる、ですねっ!」

 エボニーコロモは頷いた。無表情な黒子ヒーローマスクの下で、その表情は険しい。
 二人はかつて、憤怒の街での重要任務を完遂できなかった。上層部の評価は決して芳しくない。
 “代表”は今回の仕事を得点稼ぎと言ったが、果たしてそう気楽にやれるものか。
 強力な能力者である洋子はともかく、非能力者の出戻りヒーローに、居場所は残されるのか……。

(…アー、駄目駄目、シリアス過ぎるのは良くない)

 エボニーコロモはネガティヴ思考を追い払おうと努めた。相棒に不安を悟られれば迷惑を掛けることになる。作戦前には禁忌だ。
 軽バンは寂れた工場の敷地にしめやかに滑り込み、その動きを止めた。
 胡乱な車両の目撃情報から、地下への進入経路は既に割り出されている。
 状況は遥かに良い。作戦開始だ。

747: 2014/01/15(水) 22:35:15.20 ID:HumleWzDO

‐3‐

「すみませんねミス・トーゴー。本当はもう少し寛いでいただきたかったのですが」

「御託は結構。私は虫の居所が悪い、さっさと報酬と違約金を支払うのが身のためだ」

 アイは現在、“女狐の巣”第九層のコントロールルームにいる。
 室内には彼女の他に男が二人と、特殊合金ワイヤで拘束された巨大金属シャコが一体。
 片方の男の傍にはガイコツめいて不気味なドロイドが控え、その頭から伸びるケーブルは男の操作するコンピュータ機器に繋がる。

「報酬はお支払いできません、すみませんね。貴女のお食事代に充てさせていただきました」

 アイの方を見ようともせず、男はキーボードを叩く。と、機器から一枚の紙が吐き出された。

「クソッ、ハズレです。すみませんついでに、もう一件お仕事を依頼したいのですが」

「ふざけた奴だ。こうも馬鹿にされて、私がハイと答えるとでも?」

 アイは制裁プランを練る。この男達はおそらく素人だ。たとえ銃を持っていても、ナイフの方が速い。
 金属骨格ドロイドの存在は気がかりだ。まずはコイツを先に始末するべきか。
 その時、アイの瞬時の思考を遮るように、壁に背を預けて立つ狐面の男が口を開いた。

748: 2014/01/15(水) 22:38:22.48 ID:HumleWzDO

「この金属シャコ、アンタにとって余程大切な物だと俺は踏んでるんだが」

 同時にドロイドが動き、ハナの可動部を曲がらない方向に曲げようとする!
 何たる非道! オリハルコン製ボディは強固だが可動部は比較的脆弱! ハナが苦しげな声を漏らす!

「卑怯な…!」

 以前のアイであれば、この下らないパフォーマンスの間に二人の男を始末していたであろう。
 しかし今、アイは迷っていた。ハナとの付き合いはそう長くもないが、情が移ってしまったか。
 ハナのボディから何らかの危険な異音が聞こえる! 迷っている暇はない!

「……依頼を受けよう」

 苦渋の決断! ハナは拘束されたまま無造作に転がされた。駆け寄ろうとするアイの前にドロイドが立ちはだかる。

「そのドロイドはオフィス向け知能重点タイプですが、耐久性テストを依頼します。すみませんね」

 欺瞞! ハリウッドSFの殺戮ロボットを思わせる強靭な合金骨格は無言にして暴力的だ。

「ヨロシク、オネガイシマス」

 ドロイドが、無機質な合成音声を発した。

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749: 2014/01/15(水) 22:41:41.35 ID:HumleWzDO
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 “女狐の巣”最下層はオワン構造をそのまま活かし、フロア全体が中心に向かって緩やかに傾斜する円形闘技場となっている。
 そして今、闘技場中心で向き合う一人と一体! テストの名を借りた傭兵解体ショーの始まりだ!

『それではテスト開始します。攻撃モーションを確かめるのでしばらくお待ちください』

 ドロイドは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。数日前にも見たその動きをアイは覚えていた。

「…悪趣味な」

 ドロイドから距離をとりつつ、アイは苦々しく呟き……しかし次の瞬間には、その悍ましい事実を頭から追い出した。
 彼女が着用しているボディスーツは防弾・防刃性能を有するが、強靭な合金の腕に殴られれば長くは耐えられまい。
 余計な感傷が命取りになるであろうことを、アイは戦う前から理解していた。……だが、その時!

「マグネモ!」

 正拳突きを繰り出したドロイドの右腕、肘から先が射出! 磁力誘導ナックルだ! 完璧な奇襲!

「なッ!?」

 アイは咄嗟に跳躍、致命的打撃を避け……否、反応が僅かに遅れた! 合金マニピュレータがアイの足首を掴む!

「マグネモ!」

750: 2014/01/15(水) 22:44:47.86 ID:HumleWzDO

 ドロイドが右腕を振り上げる! 不可視の磁力ワイヤで引っ張られたナックルは一本釣りめいて急上昇する!
 頭に血が上る感覚! 視界が赤く染まる! このまま頭を天井に打ち付けられて氏んでしまうのか!?
 せめてものガード体勢をとった直後、天井の一部が円形に赤熱、熔解した! 液化天井を突き破り朱色の人影!

「たあーッ!!」

 その朱色はシャウトと共に空中前転、勢いを乗せた踵落としをナックルに叩き込む!
 極大衝撃にマニピュレータが動作不良を起こし、アイを手放した! 一瞬の浮翌遊感の後アイは落下!
 朱色の踊り子ヒーローが手を伸ばしてアイを引き寄せ、そのまま脇に抱えて着地!

「…君は…そうか、君がタカラダ社長救出作戦の」

「《プリミティヴ》、バーニングダンサーです。参考人として詳しく話を聞きたいところだけど…」

「このドロイドをどうにかするのが先、だろう? だが、私の推測が間違いでなければ社長は…」

 二人と一体は対峙する。仕切り直しだ。天井の照明がバチバチと音を立てて爆ぜ、訪れる暗闇と静寂。
 洋子はアイの言わんとする所を理解した。ドロイドの内奥から、強い無念を感じたのだ。

「でも…それでも、助けます。あの中にタカラダ社長がいるなら!」

「…退くつもりはないようだね。ふむ…さっきの礼というわけでもないが、私も頑張ってみようか」

 非常灯が灯ったその瞬間、二人の能力者は敵に向かって跳躍していた!

751: 2014/01/15(水) 22:47:50.14 ID:HumleWzDO

‐4‐

 闘技場を見下ろす特別観覧室。ハナを足先で小突きながら、ジュダマツは上機嫌であった。
 オタカラダのヒラ社員に過ぎない彼に“オツカイ”を名乗るルナールエージェントの男が接触したのは一週間前のことだ。
 男はジュダマツにタカラダ社長の略取を持ち掛け、成功の暁には相応の地位も約束した。

(このご時勢にオモチャ屋は落ち目だ。社長が消えてルナールに吸収されれば、給料も上がる!)

 以前からオタカラダの方針に不満を抱いていたジュダマツに、この提案を拒む理由はなかった。
 また、男が社長の生氏に言及しなかったことはジュダマツを更なる凶行に駆り立てた。
 旧知の闇医者に頼み、タカラダ社長の生体脳をルナールから提供されたドロイドに移植したのだ。

(社長は老い先短いが、機械の体なら不氏身だ。じっくりとアイデアを搾り取って、特許で一生安泰!)

 彼が“ゴールデン・グース”と呼ぶこの計画は、既に最終局面に入った。
 元々使い捨てるつもりだった傭兵と乱入アイドルヒーローの始末も、ドロイド優位の今となっては時間の問題だ。

752: 2014/01/15(水) 22:51:11.71 ID:HumleWzDO

「オイ、あのアイドルヒーロー妙だ」

 共犯者たるオツカイが口を挟んだ。

「いつも近くにいるはずの黒子野郎、姿が見えねぇ。…迎撃するぜ」

 オツカイは狐面を脱ぎ捨てた。ガイコツめいて不気味な合金頭部が露わになる。この男もまたドロイド戦士!
 オツカイの出撃から三十秒後、特別観覧室の扉が再び開いた。

「早かったですね、何事もありま」

 振り返ったジュダマツは凍り付いた。無表情な黒子ヒーローマスクが彼を見下ろしていた。
 その左手には、破壊されて間もないオツカイの頭部があった。

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753: 2014/01/15(水) 22:56:18.95 ID:HumleWzDO
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「マグネモ!」

 一瞬の隙を突いてドロイドの両腕が射出、バーニングダンサーを空中で磔めいて拘束する!
 ドロイドの腹部が展開し、何らかの発射口が露出、眩い光を放ち電力を充填!

「シメ・ウチ!」

 巨大プラズマ光弾をバーニングダンサーは避けられない! 凄まじい爆発! 彼女の絶叫も光の奔流に掻き消された!
 視界が晴れた時、そこにあるのは倒れ伏す洋子の姿だ。炎の装束は消え失せ、ピクリとも動かない。
 続いてドロイドは発射口をアイに向ける。その威力は今実証されたばかりだ。

「シメ・ウチ!」

 放たれる巨大プラズマ光弾! さらに磁力誘導ナックルが周囲を高速旋回し、鳥籠めいてアイを逃がさない!
 光弾が凄まじい爆発! アイの姿が光の中に消え……

「オリハルコン、セパレイション」

 涼やかな声が響く。プラズマ光弾が弾け、霧消した。オリハルコン! ……オリハルコン!

754: 2014/01/15(水) 22:58:12.74 ID:HumleWzDO

「アビスグラップル、ウェイクアップ。…無事で良かった、ハナ」

 アビスグラップル無傷! 拘束を解かれたハナが間に合ったのだ!
 ハナを取り戻した今、アイに枷はない。アビスグラップルは真正面からドロイドとの距離を詰める!

「マグネモ!」

 ドロイドが両肘から先を飛ばす! ダブルナックル! アビスグラップルのナイフがナックルを一刀両断!

「マグネモ!」

 ドロイドが両膝から下を飛ばす! ダブルキック! アビスグラップルのナイフがキックを一刀両断!

「シメ・ウチ!」

 ドロイドの腹部が展開! プラズマ光弾を

「遅い!」

 アビスグラップルの投擲ナイフが磁力浮翌遊するドロイドの腹部を貫通! 発射口が暴発!
 勢いは止まらない! 踏み込みからの左パンチが胸部を打つ! 打つ! さらに打つ!
 CLASH! 絶え間無く打ち込まれる拳に合金胸郭が破砕! 続く渾身の右パンチがドロイドの胸部を貫通した!

755: 2014/01/15(水) 23:01:39.44 ID:HumleWzDO

「オノレ…ゾクメ…トミスケニハ、トミスケ…ケケニニ…」

 四肢を失いながらも起き上がろうともがく錯乱ドロイドに、アビスグラップルはゆっくりと歩み寄る。

「種をまいた一人である以上、私がケジメを付けなければならない。貴方個人に恨みはないが」

「…恨みがないなら、ちょっと…だけ…待っててもらえませんか…?」

 背後から声。先程バーニングダンサーを名乗ったアイドルヒーローだ。辛うじて意識はあるようだが、足取りは覚束ない。

「おや、大した回復力だが…私が止めを刺すから、安心して休んでいてくれ」

 洋子は歩みを止めない。アイは肩を竦めて道を空けた。ヒーローという人種には、時として何を言っても無駄なのだ。

「洋子、実行犯は確保した。撤収だ」

 エボニーコロモだ。スマキにされたジュダマツを肩に担ぎ、何らかのドロイドの頭部を首刈り族めいて腰からぶら下げている。

「…プロデューサー。タカラダ社長…助けないんですか…?」

「生身の体はもう処分しちまったらしい。そうでなくても、どのみち元には戻れないんだ」

756: 2014/01/15(水) 23:04:14.07 ID:HumleWzDO

 エボニーコロモの声はそのヒーローマスクと同じく無感情だ。淡々と、自分に言い聞かせているようでもある。

「洋子だって、その重傷じゃ放っとくと氏ぬぞ。撤収だ。…俺達が出遅れた、それだけだ。仕方ない」

「仕方なくなんてないですっ!」

 洋子は無意識の内にエボニーコロモを一喝していた。体の奥底に朱色の灼熱を感じる。これは怒りか、それとも……。

「私は諦めたくない! タカラダ社長も! プロデューサーのことも!」

 エボニーコロモは明らかに動揺したようだった。ジュダマツを取り落とし、その場で膝から崩れ落ちた。

「…そのドロイドの中に、タカラダ社長の脳味噌が入ってる。洗脳にハイテック要素は一切無い…だそうだ」

 エボニーコロモはそれ以上何も言えなかった。彼は深々と頭を下げ、洋子は振り向かなかった。
 やがてエボニーコロモが顔を上げた時、その眼前には石造りの祭壇と、煌々と燃える朱色の炎だけがあった。

757: 2014/01/15(水) 23:11:25.00 ID:HumleWzDO

‐エピローグ‐

 ヨクボはルナールでも五指に入る重役であり、そして今日、オタカラダ玩具の社長補佐に就任する予定であった。
 オタカラダ新社長のタカラダ・トミスケは十歳にもならぬ子供であり、補佐とは名ばかりにヨクボが実権を握るのだ。
 玩具は廃業、生産ラインを全てヨクボの手中に収め、以てルナール内での発言力をさらに高める。
 特権企業を一つ潰すことになるが、それによるデメリットよりメリットの方が遥かに大きい。

「ジュダマツ君、逮捕でなく氏んでくれていればもっと良かったが…この際文句は言うまい」

 でっぷりと肥えたヨクボの顔に、邪悪な笑みが浮かんだ。彼こそがタカラダ社長失踪事件の黒幕なのだ。
 ……しかし、ヨクボの企みはルナール上層部に筒抜けであった。
 元より不穏分子として密かに監視されていた彼は、この一件により反逆者と断定されたのだ。
 狐面処刑サイボーグ部隊が迫りつつあることを、そして明日の新聞が彼の自殺を報じることを、ヨクボはまだ知らない。

 ~~~~~~~~~~~~~

758: 2014/01/15(水) 23:15:53.79 ID:HumleWzDO
 ~~~~~~~~~~~~~

 ネオトーキョー一等地の超高層住宅。斉藤洋子は自身の背丈を遥かに超えるコンテナを背負い、三百階を目指す。

「…はぁっ…はぁっ…よいしょっ…」

 現在二百階。コンテナが重すぎてエレベータを使えなかったのは誤算だった。体の調子も、まだ万全とはいえない。
 それでも洋子は、その荷物を誰でもない自らの手で運びたかった。

「大丈夫 ですか お嬢さん。やはり 私が 自力で …」

 コンテナの中から声。アクセントや繋がりがやや不自然なそれは、タカラダ・トミゾの声をサンプリングした音声プログラムだ。
 洋子の能力により洗脳を解かれた彼は、孫を守るために二度目の生を望んだ。
 破壊されたドロイドの体に、アイドルヒーロー同盟技術者達から新たな手足を与えられたのだ。

「駄目ですっ、トミゾさんが歩いてたら、プレゼントのっ、ワクワクが…っ」

 荒い息をつきながら、洋子は階段を上る。三百階まであと少しだ。

 ~~~~~~~~~~~~~

759: 2014/01/15(水) 23:20:09.94 ID:HumleWzDO
 ~~~~~~~~~~~~~

 暗い地下駐車場に、一台の軽バンが佇む。黒衣Pは倒した運転席のシートに横たわり、思いを巡らせていた。
 脳裏に浮かぶのは、望まず機械の体を与えられ、二度の氏を経験したかつての宿敵だ。
 自我すら失い、ただ破壊を撒き散らす殺戮人形と化した男と、トミゾ老は同じ道を歩むのではないか。黒衣Pは恐れていた。
 それでも彼は、最終的にトミゾ老を信じた。洋子の「大丈夫です」を。

「鍵もかけずに物思いに耽るなんて、聖夜とはいえ緩みすぎだ」

 助手席からの声に、黒衣Pは跳ね起きた。傭兵アイがそこにいた。

「…アンタか。悪いが洋子はいない」

「構わないよ。ついさっき、今年最後の仕事が終わったばかりでね。知った顔が見えたから声をかけただけさ」

「そうか。…いろいろ面倒をかけたみたいで悪かったな。おかげ様で、何とか首は繋がってる」

「何のことかな。まあ、ハナには伝えておくよ」

760: 2014/01/15(水) 23:23:41.92 ID:HumleWzDO

 黒衣Pが職を失うことはなかった。
 オツカイの頭部に残された記録と差出人不明の記録映像が、タカラダ社長を無事救出することは不可能であったと証明したのだ。

「それで、ヒーローというのは年末もまだ忙しいのかい?」

「他はどうだか知らないが、俺達は今日で仕事納めだ。洋子もまだ本調子じゃないしな」

「噂をすれば、洋子くんだ。…なんだ、意外と元気そうじゃないか。それに…いや、これ以上はよしておこう。じゃあ、良いお年を」

 エレベータの扉が開き、洋子が現れた。黒衣Pが再び助手席を見た時、既にアイはいなかった。
 洋子は軽バンを見つけ、大きく手を振った。それだけで、黒衣Pには充分だった。

【終わり】

761: 2014/01/15(水) 23:31:58.66 ID:HumleWzDO
いじょうです
長々とお付き合いいただき申し訳ない
クリスマスにも洋子バースデーにも間に合わないしいつの間にかアイさんメインっぽくなってるし

スペシャルサンクス:
あいさんとありさてんてーに出演していただきました

!ノーティス!
・アイにとって今回の件は小銭稼ぎ程度で済むはずだった。裏切られることなど傭兵の常とはいえ…
・エピローグ時点で12月24日の夜。現状、時系列的には最後か。アイが地上で仕事してても問題はない…はず

762: 2014/01/15(水) 23:43:23.82 ID:LtwytiZU0
乙です
エボニーコロモPと洋子さんみたいな関係もなかなか良いものだ
アイさんがハナに愛着が湧いているのにちょっと和んだ
…でも災難に巻き込まれ過ぎじゃないですかね…アイさん幸運値低め?

763: 2014/01/15(水) 23:52:27.99 ID:h09Jb4+QO
乙ー

アイさん大変そうだな…
洋子さんとエボニーコロモはいい感じの仲だねー




【次回に続く・・・】


引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part8