679:◆EyREdFoqVQ   2021/11/06(土) 22:27:41.62 ID:xRpQIcl0o

680: 2021/11/06(土) 22:28:45.98 ID:xRpQIcl0o

 * 鎮守府埠頭 *

 ザザーン…

クルー3「……」

クルー3(わからないな……)

クルー3「……」

クルー3(ここの准尉は、轟沈した艦娘を私兵にして好き勝手していると聞いていたが、だいぶ話が違うようだ)

クルー3(准尉のあの態度からして、余程島に入られたくない、後ろめたいことをしているのかと思ったが……)

クルー3(艦娘たちは、話を聞いたように閉じ込められて虐げられているようでもなければ、性的な関係を強いられているようでもなかった)

クルー3(もし、ここの誰かが苦しんでいて、外部に助けを求めたいというのなら、俺の取材に誰かしら答えてくれてもいいはずなのに)

クルー3(まさか逆に、この島から出て行けと忠告されてしまうって、どういうことなんだ……?)

クルー3「……」

クルー3(そもそもこの島に来たのは、留さんたちのせいで沈んだ艦娘の回収のためであって)

クルー3(加古や鳥海を連れて行くことができればそれで良かったんだ)

クルー3(だが、鳥海はともかく、加古が反抗して帰るのを拒否した……これがまたわからない)
艦隊これくしょん -艦これ- おねがい!鎮守府目安箱 1 (電撃コミックスNEXT)
681: 2021/11/06(土) 22:29:30.58 ID:xRpQIcl0o

クルー3(遠大佐の鎮守府を見学させてもらったときも、あの個性的な艦娘たちがちゃんと言うことを聞いていたし)

クルー3(轟沈したとはいえ、数日前までは遠大佐の下にいた艦娘が、明確に嫌だと反発する姿なんて初めて見た)

クルー3(轟沈して心変わりするのなら、同じ海軍にいる准尉にだって反発するだろうに……)

クルー3「……」

クルー3(そもそも、艦娘は、艦隊の司令官である提督には忠実で、彼の号令の下、命を賭して戦うものだと思っていた)

クルー3(それが、轟沈もしていないのに命令に歯向かっただの、鎮守府を火の海にしただの、他の艦娘に嫉妬しただの……)

クルー3(あの艦娘が言っていたことが本当だとしたら、あまりに想定外過ぎる)

クルー3(艦娘が人間に反抗しないという前提があるから、留さんみたいな我儘な人でも艦隊の指揮ができそうだと思っていたのに)

クルー3(そうじゃないとなると、あの人に制御しきれるのか? この企画、最悪途中で投げ出すかもわからないぞ……?)

クルー3(もしそうなったら、誰が責任を取るんだ……? いや、責任なんてレベルになるのか……!?)

クルー3「……」

クルー3(考えれば考えるほど矛盾してくるな……民間人から『提督』に適性のある人材を募ったというが、どのくらい成功してるんだ?)

クルー3(准尉だってそうだ。あの傍若無人な態度で、どうやってこの鎮守府の艦娘を従えてきたんだ?)

クルー3(色目を使ったり媚を売ったりするようなタイプには思えないし……)

クルー3(かといって無理矢理言い聞かせるようなタイプなら、彼に反発する艦娘だって出るはずだ)

682: 2021/11/06(土) 22:30:16.27 ID:xRpQIcl0o

クルー3(それなのに、加古は彼には反発するような素振りを見せてない……)

クルー3(准尉は、この島でいったい何を任されているんだ……?)

クルー3「……」

クルー3「……」

クルー3(わからない。まったくわからない)

クルー3(……なにかあるはずだ、この島にしかない何かがあるはずなんだ。あの艦娘が言ったことを思い出せ)メモトリダシ

クルー3(ここは、轟沈した艦娘が集まる島……准尉以外に人間はいないと、あの艦娘は言った)

クルー3(誰も近寄らない理由がある。問題はそこだ……なんでこの島がそんな扱いなのか)

クルー3(なんでこの島に誰も近寄らないのか、それがわからないと何が悪いのかがさっぱりわからないぞ……?)

 ザザーーン…

クルー3「……艦娘が、この近海で哨戒してるんだったよな」

クルー3「地道に聞き込むか……」

683: 2021/11/06(土) 22:31:00.70 ID:xRpQIcl0o

 * 千歳と足柄の部屋 *

足柄千歳「「カンパーイ!」」カンッ

クルー6「か、乾杯……」カンッ

千歳「……」グィーーーッ

足柄「……」グビグビグビ

クルー6「……ふ、二人とも、すげー飲みますね……」

足柄「ぷはぁ……んー、まあね。割と飲む方じゃない?」

クルー6「割と……」アッケ

千歳「そうね、でも今日は控えめにしてるわよ?」

クルー6「ひ、控えめっすか……!?」

足柄「控えめよ控えめー。というか、あなたも今時珍しい控えめな子よね? テレビ局のスタッフにしては、大人しいっていうか」

千歳「そうねえ? 取材なんかだともっとぐいぐい来る人ばっかりだったけど」

クルー6「や、まだバイトで、入って1か月なんすよ……思い切って入りのいいバイト探してたら受かりまして」

足柄「それで初仕事がここなの?」

684: 2021/11/06(土) 22:31:46.11 ID:xRpQIcl0o

クルー6「ええ、まあ。シンカイセーカン? ってのが暴れ始めてから、景気悪くなって入る予定だった会社が潰れて」

クルー6「それからは浪人しながら自転車であちこち回って、就活しながらバイトで食いつないでたんですけど」

足柄「苦労してんのねえ」

千歳「で、まだ就活してるの?」

クルー6「ええ、まあ。人に恵まれないっつうか、どーも上司が問題ある人ばっかりで……正社員は夢のまた夢っす」

クルー6「こんなだから、誰かと仲良くなる前に、はいさよーなら、ってばかりで。パスポートもとったのにそこじゃ使わないまま辞めましたし」

クルー6「今の職場にバイトで入ってからも、荷物持ちと接待ばかりで出会いもなくて……人の名前や物や場所を覚えるだけで精一杯すよ」

クルー6「研修期間なんかも全然作ってもらえなかったし……なんかすいません、俺、愚痴ってばっかっすね」

千歳「それはいいわよ。いきなりこんな島に連れてこられて、気の合う人もいなくて、そんな気分になっちゃったんでしょ?」

クルー6「あ、いや、まあ……3さんにはそれなりに気にかけてもらってたんすけどね」

千歳「ああ、あのちょっと張り切ってた人?」

クルー6「ええ。報道の関係者の乗った船が襲われた事件、あったじゃないすか。あの船に仲のいい人が乗ってたみたいで」

クルー6「かたき討ちのために艦娘の取材をして、そんで少しでも艦娘の活動を支援しよう、って感じで張り切ってるんす」

クルー6「で、まあ、今回の取材も、沈んだ艦娘を返さないで独り占めにしてる人から取り返そうって話みたいで」

足柄「え?」

685: 2021/11/06(土) 22:32:30.51 ID:xRpQIcl0o

クルー6「協力的ならそれはそれで交渉を……って、なんか俺、変なこと言いました?」

千歳「ええ……だいぶ変よ?」

足柄「轟沈した艦娘は、深海棲艦になる可能性がある、って話、聞いたことないの?」

クルー6「え……」

千歳「おかしいと思ったのよ。留提督が一方的に話を進めてるから、話が伝わってないのか確認したかったんだけど」

足柄「これで確信犯だってことが判明したわね。意図的にこっちが口を挟む暇も与えてくれなかったってことかしら」

クルー6「ちょっ、待ってください、艦娘が沈むと深海棲艦になるんすか……!?」

足柄「実際に見たことはないけど、そうだって言われてるの」

クルー6「それ、3さんも知らないすよ、多分……つか、その話、本当なんすか?」

クルー6「本当だったら留さんたちだって、そんな危ないことしようなんて考えないはずっすけど……!」

千歳「本当か、って言われると、それがわからないのよ。実際に誰かが見たわけじゃなくって、過去にそういうことがあったから、ってだけよね?」

足柄「確かに言われてみれば……この島に流れ着いた艦娘も、深海棲艦になったって話は聞いていないし……」

足柄「でも、この島だけの特例なんでしょ? 轟沈した艦娘を運用していい、って話自体が」

クルー6「マジすか……」

686: 2021/11/06(土) 22:33:15.85 ID:xRpQIcl0o

千歳「むしろそれ以外でも評判悪くて、みんなこの島に近寄らないって話だものね」

クルー6「え、なんすかそれ」

千歳「この島に立ち寄った人は、みんななにかしらの災難に遭ってる、って話よ」

クルー6「えええ……」

足柄「……実際、波大尉も、この島への上陸こそしなかったけど、あの後荒れまくったしねぇ……」

千歳「まあ、ひどかったわね。喧嘩別れになっちゃったのが本当に悲しいわ」

足柄「あれってさ、自分の幸福論を全否定されても仕方がない人と出会っちゃったのが致命的だったわよね、やっぱり」

千歳「だからって准尉を責めるのも筋違いだし、こればっかりはねえ……」

クルー6「もしかして……俺たち、すごい場所に放り込まれた感じっすか」

千歳「そうかもしれないわね。私たちもどうなることやらだけど」

 * * *

 * *

 *


687: 2021/11/06(土) 22:34:00.45 ID:xRpQIcl0o

 * 鹿島たちの部屋 *

ガンビアベイ「Zzz...」

山風「」スヤァ…

鹿島「……」

鹿島「……」

鹿島「……眠れない……!」

鹿島「仕方ない……わよね。いつもなら夜間演習で駆逐艦のみなさんを指導してる時間なのに……」ムクッ

鹿島「みんなは、どうしているのかな……」

鹿島「……」

鹿島「どうして遠大佐は私たちを連れてきたのかな……」

鹿島「こんなことを、している場合じゃないのに……」ウツムキ

鹿島「……」

鹿島「……?」

688: 2021/11/06(土) 22:34:45.60 ID:xRpQIcl0o

鹿島「窓の外に誰か……?」スクッ

 スタスタ…

 窓<ギィ…

鹿島「……」

鹿島「……」

鹿島「誰もいない……誰かの気配があったような気がしたんだけど」

鹿島「……」

 扉<コン…コン…コン…

鹿島「……!?」

鹿島(弱々しいノックの音……!?)

扉の外からの声「た……す、けて……だれ、か……」

鹿島「こ、この声……テレビクルーの……」

声「クルー1……です……」

鹿島「ど、どうしたんですか!」

声「腹が……痛くて……!」

鹿島「……!」

689: 2021/11/06(土) 22:35:30.73 ID:xRpQIcl0o

声「みんな……酔っ払って……誰も、起きない、ん、です……!」

声「誰でもいいから……ここの、艦娘に……助けを……!」

鹿島(……どうしよう……二人が寝ているのに、扉を開けて留守にする訳にはいかないわ……)

 ドサッ

鹿島「え……!?」

 シーン…

鹿島「ど、どうしたんですか!? しっかりしてください!」

鹿島「1さん! 1さん!? ……仕方ない……行くしか、ありません!」

 ガチャッ

部屋の前で倒れているクルー1「」

鹿島「1さん!? しっかりしてくださ……!」

クルー2「今だ!」ガシッ

留提督「よし、早く入れ!!」ダッ

鹿島「な……!」ガシッ

 ドタドタドタ バタン

690: 2021/11/06(土) 22:36:30.95 ID:xRpQIcl0o

留提督「鍵かけろ! 急げ!」

クルー7「はいっ!」カチャッ

クルー4「……」

鹿島「……は、放しなさ……むぐっ!?」

留提督「静かにしててね、鹿島ちゃん……?」ニヤリ

クルー2「留さんの言う通りでしたね! 艤装外すと力が出なくなるって話!」

鹿島「……!」

留提督「ああ、昔の悪友に教えて貰ったんだよ。そいつはドジこいて捕まっちまったけどな」

クルー1「留さん、これで口塞ぎましょう、ついでにこれも……」タオルトロープトリダシ

留提督「おっ、準備いいなあ!」

クルー1「いやあ、留さんの着任が待ちきれなくて持って来ちゃいましたよ」ギリッ

クルー2「1さん縛るの好きだもんねえ」

留提督「そっかそっか、じゃあ僕が呉の鎮守府に着任したら好きな子選ばせてあげないとね~」

鹿島「……!?」

691: 2021/11/06(土) 22:37:15.43 ID:xRpQIcl0o

クルー7「っていうか、1さん演技うまかったっすねえ」

留提督「ほんとほんと! びっくりだよ!」

クルー1「バラエティとかやってると、たまに俺たちに演技しろとか無茶ぶり来るんすよねえ」シュル ギチッ

留提督「ああ、駆り出されるときあるもんねえ」

クルー7「うほおおお……山風ちゃんの寝顔、たまんねえええ……」ジュルリ

クルー1「お前ら、留さんに感謝しろよ? わざわざお前らの好みの艦娘を連れてくるように、遠大佐にお願いしたんだからな?」

クルー2「マジありがとうございます!」

クルー7「ありがとうございます! いやー、先輩もお目が高いっすね!」

クルー4「い、いや、俺はそんなつもりじゃ……」

留提督「さあて、鹿島ちゃんもそろそろ脱ぎ脱ぎしましょうねえ~」ニタニタ

鹿島「むぐ……!」ジロッ

クルー1「お前らも手早くやれよ?」

クルー7「うーっす!」

クルー2「ぐへへへ、マジもんの洋モノ金パツ巨Oだぁ……!」

692: 2021/11/06(土) 22:38:00.58 ID:xRpQIcl0o

山風「ん……え? な、なに……!?」キョロキョロ

ガンビアベイ「……!?!?」ビクッ

クルー7「なにって、これからナニしちゃうんだよぉ?」ノシカカリ

山風「……!? い、いやぁ……いやあああ……!!」ノシカカラレ

ガンビアベイ「No... 無理、無理です……!」

クルー2「何が無理なんだよ! どいつもこいつも、女どもはお高くとまりやがって……!」

クルー2「お前らはおとなしく股開いてイエスイエス言ってればいいんだよ!」バシッ

ガンビアベイ「!?」

鹿島「むぐー!(山風さん! ガンビアベイさん!!)」

留提督「ほらほら、あっちも始まったみたいだし、鹿島ちゃんもおとなしく……」

 ブンッ!

クルー1「危ない!」ガシッ

鹿島「……!」

クルー1「こいつ、留さんに蹴りを入れようだなんて……」

693: 2021/11/06(土) 22:38:45.80 ID:xRpQIcl0o

留提督「ああ、いいよいいよ、こういうときは……」

 ブンッ!

鹿島「っ!」バキッ

留提督「2、3発殴っときゃおとなしくなるよ」

 ガッ! ゴスッ!

鹿島「ん、ぐ……っ!」アオアザ

クルー1「顔はまずくないですか?」

留提督「修復できるんでしょ? 大丈夫だよ」ニヤニヤ

鹿島(……どうして)

鹿島(どうして、こんなことに……遠大佐は、何を考えてるの……?)

鹿島(どうしてこんな男に、ここまで好き勝手させられるの……!? 悔しい……悔しい……ッ!!)

山風「いやぁ……くさいよぉ……! 酒臭い……煙草臭いぃ……!!」ジタバタ

ガンビアベイ「No... Help... Please heeelp us... !」

鹿島「……」ジワッ

694: 2021/11/06(土) 22:39:45.88 ID:xRpQIcl0o

クルー7「そんじゃあ、早速いただきますかねえ!」

クルー4「……」

クルー4(おい、止めろ! 口リが好きなのは罪じゃないが、手を出すのはアウトだろ! Yes口リータ、Noタッチだろ!)

クルー4(ここで止めなきゃどうなるかわかんねえぞ!? 艦娘が絶対服従とは限らないって聞いただろう!)

クルー4(それに、こんなことを黙って見過ごすことが人として本当に正しいことかよ!! 守らなきゃいけないだろう!?)

クルー4「あ……」

クルー4(馬鹿言うな、こんなおいしい場面、そうそうあったもんじゃないぞ? ここまで来てヘタレる気か?)

クルー4(それに、俺一人でこいつらをなんとかできると思ってるのか? 止めたところで袋叩きに遭って終わりだぞ?)

クルー4(下手すりゃ殺されるかもしれないし、余計なことを言えばこの後の仕事にだってどう影響するかわかんねえよ!)

クルー4「……う……」

クルー4(それで得られるものがなんだって言うんだ! 止めなきゃ後悔するぞ!)

クルー4「……ぐ……」

クルー4(いいから一緒にヤっちまえ! タマついてんだろうが! 欲望に素直になっちまえよ!)

クルー4「……っ……」

695: 2021/11/06(土) 22:40:32.03 ID:xRpQIcl0o

クルー2「どうした……?」

クルー4「……や……」

クルー1「?」

クルー4「やめろおおおおおおおおおおお!!!」

クルー7「!?」ビクッ

クルー4「……はー、はー……」ドクン…ドクン…

留提督「……あーあ。しらけるなあ」

クルー1「黙らせますか」

 カチャンッ

留提督「……!」

クルー1「扉の鍵が……!?」

 扉<ガチャ

全員「「!?」」

提督「……よぉ」

708: 2021/11/20(土) 02:54:32.51 ID:zSOq3Kobo

提督「邪魔すんぞ」ズカズカ

留提督「ちょっと、勝手に入ってこないでくださいよ」

提督「……」ミギミテ

提督「……」ヒダリミテ

提督「はぁ……気分が悪いな。吐きそうだ」

クルー7「だったら出ていきゃいいのに……邪魔しやがって」ボソ

提督「……」ジトッ

クルー2「おい4、おまえ、准尉が来るの知ってたのか?」

クルー4「い、いや、そんなつもりは」

クルー2「すっとぼけてんじゃねえぞ! 最初からグルだったんだろ!? こいつに尻尾振って、見逃してもらおうって考えてたんだろ!!」

クルー1「おい、そうなのか?」

留提督「准尉、うちのクルーを懐柔したというのは、本当ですか?」

提督「……」

クルー2「おい、無視してんじゃねえ!」

提督「……」スタスタ

709: 2021/11/20(土) 02:55:18.02 ID:zSOq3Kobo

鹿島「……!」

提督「殴られたのか?」カシマニチカヨリ

留提督「ちょっと、勝手にうちの鹿島に触らないでくださいよ!」ウデツカミ

提督「……」グイ

留提督「ちょっ……ば、馬鹿力……っ!?」ヒッパラレ

提督「口を塞いでるタオルを外すぞ。痛かったら悪いな」シュル…

鹿島「……!」

留提督「おい! 俺の艦娘に、勝手な真似をするなって言ってんだろ!」

留提督「だいたい、勝手に鍵を開けて入ってくるのが非常識だろぉ!? プライベートの時間だってのがわからないのか? ねぇ?」ズイ

提督「……息がくせえ」ボソッ

留提督「……っ!」

 バキッ!

提督「……」

鹿島「ぷは……准尉さん!!」

提督「ふん……」

710: 2021/11/20(土) 02:56:20.21 ID:zSOq3Kobo

留提督「生意気な態度もそこまでにしておけよ? 俺は日本に戻ったら大佐になるんだ」

鹿島「!?」

留提督「遠大佐は、日本に帰ったら俺に大佐としての全権を譲ってくれると約束してくれた」

留提督「呉の大将にも、俺の父さんを通してその話をしてある」

鹿島「そ、そんな権限、許されるわけありません!」

クルー1「ところが留さんの御父様にはあるんだよ……!」ニヤリ

クルー1「留さんの祖父はもと日本海軍の関係者、そして御父様もその流れで今の呉の大将とは大親友であると同時に、世界的な映画俳優でね」

クルー1「過去には災害のあった地域に、そして今回は深海棲艦の被害を受けた地域や、海軍に対して多額の寄付をしているんだ」

クルー1「いわば、留さんの御父様は海軍のスポンサーなんだ」

鹿島「だからって……!」

クルー1「留さんの御父様のお力添えがあって、今回の取材や、留さんの海軍への着任の件も含めて、お世話になれているんだ」

留提督「そういうこと。今回の企画でも、絶海の孤島に大破して漂流した艦娘が閉じ込められていることを大々的に放送する予定なんだ」

留提督「態度を改めれば、お前も協力者としてテレビに出してやろうと思ったけど、全然そんな感じじゃないしね?」

提督「……」

711: 2021/11/20(土) 02:57:32.26 ID:zSOq3Kobo

留提督「そういうわけなんで。明日になったら、この島から、出てってもらいますよ」ニィ

留提督「文句を言ってもいいけれど、大佐の権限で、あなたを牢屋に入れてやることもできるんですよぉ?」

留提督「わかってますか? じゅ、ん、い?」

提督「……」チラッ

山風「……!」

ガンビアベイ「……!」

提督「おい、鹿島」

鹿島「! は……はい!」

提督「お前はどうする? これからどうしたい?」

留提督「おい、何を……」

提督「俺は艦娘と話をしに来たんだ。お前じゃねえ」ギロリ

留提督「っ……!」ビクッ

鹿島「……私たちと、話を……?」

提督「そうだ。この島に来た艦娘にはな、俺はよくこう聞いてんだよ」

提督「氏にたいか、生きたいか……ってな」

全員「「……!?」」

712: 2021/11/20(土) 02:58:17.52 ID:zSOq3Kobo

クルー4「し、氏にたいって……」

提督「それがいなくもねえんだ。世を儚んで生きる希望もなく、ただ世界を恨んで、目に入るものすべてをぶち壊してからら氏にたいってだけのやつがよ」

提督「でだ、鹿島。お前はどうする」

鹿島「……」

提督「氏にたいって言うのなら見捨ててやる。どこへなりとも失せやがれ」

提督「生きたいって言うのなら手伝ってやるよ。お前に望みがあるのなら、俺のできる範囲で手を貸そうじゃねえか」

鹿島「……」

提督「俺は、お前が言葉に出さない限りは手を貸さねえ。テレパシーなんか使えねえからな」

留提督「おい、いい加減に……」

鹿島「准尉さん!!」

留提督「!」

鹿島「私は、氏ぬ気はありません……ですが、こんな人たちの下で働く気もありません!」

鹿島「お願いです! 山風さんとガンビアベイを助けてください! 私はどうなってもかまいませんから!!」

留提督「……おい」

鹿島「こんな人たちに、国防を……この世界の守護を、任せるわけにはいきません!!」

713: 2021/11/20(土) 02:59:02.13 ID:zSOq3Kobo

留提督「な、何を言ってんだ! 俺はお前たちの上官だぞ!? それを……」

鹿島「何が上官ですか! 泣いて嫌がる相手を嘲笑うような、情けない下衆を迎え入れるなんて、恥以外の何者でもありませんっ!!」

留提督「……」

提督「わかった。さて、山風とガンビアベイだったな? お前らはどうだ?」

ガンビアベイ「ワ、私も、鹿島さんと、同意見です! こんな人たち、無理です! 無理ー!!」

ガンビアベイ「だから早く……Please help us, hurryyy !!」

山風「私も……同じ、だけど……」

提督「だけど?」

山風「か、鹿島さんも、助けてぇ……!」

提督「ふふ……ああ。わかった」ニヤリ

クルー1「……」ジャキッ

鹿島「准尉さん! 後ろ!!」

 ガッ!

714: 2021/11/20(土) 02:59:48.20 ID:zSOq3Kobo

クルー1「……!」

 (提督の背後から振り下ろそうとしたクルー1の警棒を持つ腕を、不知火が受け止めている)

不知火「……司令」

提督「んー?」

不知火「少し油断しすぎではありませんか?」ウデヒネリ

クルー1「あ、あだだだだだ!?」グリッ

提督「そんなことねえさ、無防備を装ってるだけだ。これでも、お前らを信頼してんだぜ?」ニヤ

提督「だからこの場は任せる」

提督「やれ」

不知火「了解しました。出番ですよ」スッ

 ババッ

クルー7「ぐえっ!?」ドガッ!

白露「よくも山風をいじめてくれたねえ……!」クミフセ

山風「し、白露、お姉ちゃん……!」

クルー2「ぐるじ……たす、け……」チョークスリーパー

黒潮「助けて? どの口が言うんよ……っ!」ギチッ

クルー2「あが……!」

715: 2021/11/20(土) 03:00:32.00 ID:zSOq3Kobo

摩耶「おらっ! てめーも来やがれ!」

クルー4「ひぃい!?」エリクビツカマレ

山風「あ! あの……その人は、違うから……優しく、してあげて……!」

摩耶「ん? そ、そうなのか? あー……その、悪かったな」ポンポン

クルー4「げ、げほ……いや、いいんだ。俺も……悪い人間だ」

提督「とりあえず、現行犯、だな?」

不知火「はい」

留提督「……おい、なにやってんだよ」

提督「ん?」

留提督「お前! 俺たちに歯向かってんじゃねえよ! 俺は大佐になるんだぞ! お前の上にも、もう報告してんだぞ!」

留提督「俺たちに手を上げればどうなるか、わかってんのか!? テレビにだって放送されるんだぞ!!」

提督「……で?」

留提督「!? そ、そうじゃねえだろ! お前の、お前の立場は……おまえ、なんか……!」

提督「……」ジッ

留提督「……っ」タジッ

提督「……」ジーッ

留提督「よ……寄るな!」ダッ

白露「あ、逃げた」

黒潮「寄るな、て、司令はんは見てただけやん」

摩耶「なっさけねえな……」ハァ…

716: 2021/11/20(土) 03:01:17.37 ID:zSOq3Kobo

留提督(また外に逃げれば……!)

 扉<バンッ!

三隈「あら、お待ちしておりましたわ」

 ズラッ…(廊下に居並ぶ巡洋艦娘たち)

留提督「……」

最上「で、どうしよっか? この部屋から逃げる人がいたら、好きにしていいって言われてたけど」

三隈「ねえ最上さん、私、この人を撃ってもいいかしら?」

五十鈴「三隈さん、また男の人の大事なところを撃つつもり?」

利根「気持ちはわかるが、それはさすがに……」

最上「いいんじゃないかな」

五十鈴「いいの!?」

由良「提督さんなら許してくれそうよね、ねっ」

神通「実弾はさすがに氏んでしまいますから、演習用の弾を一人一発まででお願いしますね」

五十鈴「あれ、人間が受けても大丈夫なの?」

利根「う、うむ……当たり所に依る……いや、どこに当たっても骨折しそうじゃな」

留提督「……」ガクゼン

 扉<パタン

最上「あ、逃げた」

由良「残念」ムー

717: 2021/11/20(土) 03:02:17.95 ID:zSOq3Kobo

不知火「おや。部屋に戻ってきましたね。怖じ気づきましたか」

クルー1「留さん……!」

黒潮「大人しく『ごめんなさい』すればええのになあ?」ギチッ

クルー2「……っ」ピクピク

ガンビアベイ「そ、それで許してあげるんですか……」

白露「ううん! 絶対許さないよ!」ギリッ

クルー7「ぎゃああああ!」

摩耶「……なあ提督? わざと捕まえねーで泳がせてんだろ? 性格くそ悪いな、おまえ」ヒソヒソ

提督「まあな」ニヤ

留提督「……くそ」

留提督「くそおおおお!!」ダッ

 窓<バンッ!

  ダダッ

白露「で、今度は窓から逃げちゃった、と」

山風「お、追わなくて、いいの……?」

提督「ああ。そっちもそっちで罠はってるからな。それはそれとして……」

718: 2021/11/20(土) 03:03:17.44 ID:zSOq3Kobo

提督「鹿島、山風、ガンビアベイの3人には、申し訳ないことをした」ペコリ

鹿島「じ、准尉さん!?」

ガンビアベイ「な、なんであなたが謝るんですか!?」

提督「俺がこいつらの暴走を煽って、この状況を作ったからだ」

鹿島「……!」

クルー1「……俺たちを、はめたのか!?」

提督「ここまではまると思わなかったがな。決定的な不始末を引き起こすよう、酒を用意して気を大きくさせ……」

提督「俺の艦隊は哨戒に出たと嘘の情報を流し、かつ鎮守府内をわざと無人にして、こいつらが動きやすい環境を作ったのは事実」

鹿島「……」

提督「そうして馬脚を現したところを、一網打尽にするつもりだった。お前たちを囮にして、な」

ガンビアベイ「Oh...」

提督「だからこそ俺はお前たちに謝らなければいけないし、鹿島の顔の怪我は、俺の落ち度としか言いようがない」

鹿島「!」ハッ

提督「……許す許さないは別にして、治療はさせてもらいたい」

摩耶「許さなくてもいいってことか? おまえ、それでいいのかよ」

提督「ああ、恨まれて当然のことをしたからな」

鹿島「……」

719: 2021/11/20(土) 03:04:02.69 ID:zSOq3Kobo

 ドォン!(窓の外から響いてくる砲撃音)

山風「きゃあ!?」ビクゥ

ガンビアベイ「What !?」

鹿島「な、何の音ですか!?」

提督「始まったか」

鹿島「い、いったい何を」

 ドォン!

山風「ひっ!?」

 ドォンドォン!

ガンビアベイ「……」

 ドドドドォオン!

摩耶「……この音、空砲だよな?」

白露「うん、爆発音ではあるけど、打撃音じゃないよね」

鹿島「……」

山城「ふふ、ふふふふ……」ヌゥッ(山城が笑いながら窓の外から部屋をのぞき込む)

山風「!?」ビクッ

720: 2021/11/20(土) 03:04:47.32 ID:zSOq3Kobo

山城「ああ……不幸だわ」ニィッ

山城「窓から逃げ出すなんて有り得ないでしょ、って言ったのに、まさか本当に窓から逃げ出そうとするなんて」

山城「おかげでこんな夜中に窓の外で張り込みよ? 何が悲しくて夜更けにこんなところで待ってなきゃいけないのと思ってたんだけど」

提督「でも、正解だったよな?」

山城「ええ、ええ……その通りよ。なんて不幸なのかしら」ニマァァ

山城「おかげで、一緒に張り込んでいた大和型と金剛型、そして扶桑お姉様と一緒にあの男を取り囲んで、私の号令で一斉砲撃したんだもの」

山城「なんで空砲なのかしら、実弾だったらこれ以上なく気分爽快だったのに。あぁ、不幸だわぁぁ」ポヤァァ

摩耶(くそ幸せそうじゃねーか……)

黒潮(恍惚の表情て、こういう顔を言うんやろなあ)

提督「で、首尾はどうだった」

山城「見てもらった方が早いわよ」ユビサシ

留提督「」ピクピク

提督「泡吹いてぶっ倒れてやがるな」

霧島「空砲ではありますが、撃ったときに砲口から勢いよく熱風が出ますので、その衝撃も影響したのでしょう」

比叡「普通に反動もすごいもんね!」

721: 2021/11/20(土) 03:05:33.04 ID:zSOq3Kobo

武蔵「それに、大和と榛名の迫力がすさまじかったからな……鬼気迫るものがあったというか」

金剛「我が妹ながら、ドン引きデース……」

扶桑「そうねえ。でも、その不安の元凶もああなったことだし……」ニコニコ

榛名「敵の首魁を打ち取りました!」ハイタッチ

大和「これで安心ね!」ハイタッチ

提督「……ま、そうだな」

クルー1「……留さん……」

提督「さてと、とりあえずこいつらは牢屋にぶち込んどくか。武蔵、留提督の運搬は頼んでいいか?」

武蔵「ああ、任せろ」

提督「摩耶、こっちの連中も手分けして連行してくれ。神通は牢屋への道案内頼む」

神通「承知しました」

クルー1「……あんた」

提督「ん?」

クルー1「ただで済むと思うなよ……!」

提督「……ふーん」

最上「負け惜しみかな?」

クルー1「!?」ギッ!

722: 2021/11/20(土) 03:06:17.04 ID:zSOq3Kobo

三隈「もがみん!」シーッ!

利根「最上は素直に思ったことを口に出し過ぎじゃぞ……」アタマオサエ

五十鈴「ほら、そっちの二人も連れて行くわよ」

クルー2「」グッタリ

クルー7「」グッタリ

由良「って、ちょっとやりすぎじゃない?」タラリ

提督「そりゃしょうがねえよ、白露は姉妹艦やられそうになったし、黒潮は昔の怒りを思い出してるし」

提督「こいつらに腹を立ててたのも俺は理解できる。二人が溜飲下げるくらいには痛めつけてもバチは当たらなねえよ。なあ?」

黒潮「せやせや」ウンウン

提督「それに場面が場面だから駆逐艦は連れて行かないつもりだったが、この二人はたっての希望だったしな」

白露「五月雨と島風が大人しく留守番してくれてて良かったよー」

五十鈴「とにかくこいつらも持っていきましょ。担架を持ってくれば良かったかしら」

白露「こんなふうに担いでいくと楽だよ。こうやって、ブロックバスターみたいに横から入って……」

三隈「ブロック……?」

白露「プロレス技だよ。知らない?」

由良「知らないわ……」

723: 2021/11/20(土) 03:07:02.38 ID:zSOq3Kobo

白露「こういうふうに担ぎ上げて、後ろへ倒れ込む技がブロックバスターだよ。で、こういう担ぎ方をファイアーマンズキャリーって言うんだけど」

摩耶「良く知ってんなあ……」

白露「担ぐ相手のお腹側と背中側を逆にすると、アルゼンチンバックブリーカーとか、タワーブリッジとかになるよね!」

神通「そ、それはいいですから、とにかく連れて行きましょう? 案内しますから」

白露「はーい!」

摩耶「あ、そうだ、こいつはどうすんだ?」

クルー4「……」

提督「……おい、山風。お前、こいつはどうする? 牢屋に入れるか?」

山風「え……っと……」チラッ

山風「……そこまで、しなくていいと、思う」

提督「そうか。じゃあ、あんたは部屋に戻って大人しく寝ててくれ。俺の気が変わらないうちにな」

クルー4「わ、わかった……」

クルー4「それから、その……本当に、申し訳なかった。嫌な思いをさせてしまって……すまなかった」ペコリ

山風「……」コク

提督「よし、不知火と利根は執務室へ行って大淀に報告してくれ。あと他の連中は……」

クルー6「なんか、騒がしいっすね」スタスタ

足柄「准尉? なにかあったの?」スタスタ

724: 2021/11/20(土) 03:07:49.68 ID:zSOq3Kobo

提督「ああ、なにかあったぜ。お前らこそどうしたんだ?」

足柄「さっきまで彼と飲んでて、お開きにしたところよ」

クルー6「すいません、いろいろ愚痴を聞いてもらってました」

足柄「そんなのお互い様よ!」バシバシ

クルー6「いてて!?」

提督「ふーん。そっちは平和そうだな」

足柄「で、何があったのよ」

提督「ああ、いろいろあってな……ちょっと面倒臭えことが……」

クルー4「……准尉さん。それなら、俺が説明しますよ。なにがあったか、ちゃんとお話しします」

クルー6「?」


 * *


クルー6「……マジっすか……はぁ……マジっすか」

足柄「なんで二回も言うのよ」

クルー6「そんくらいショックだったってことっすよ。はぁ……犯罪じゃないっすか、こんなの」

クルー6「4さんはあれっすか。土壇場で理性が帰ってきたって感じすか」

クルー4「……まあ、な。関わったら社会的に氏んでただろうし、当然と言えば当然なんだが、勇気出して良かったよ……」

725: 2021/11/20(土) 03:08:32.39 ID:zSOq3Kobo

クルー4「はあぁ、これで俺もめでたくクビか……次の仕事、どうすっかな」

足柄「勇気……って、どうせこうなるなら、この部屋に入る前に嫌だって言えば良かったじゃない」

クルー6「同調圧力ってやつっすよ。言えばどうなるか、わかってるよな? みたいな空気感、あるじゃないっすか」

提督「こいつの肩を持つわけじゃねえが、こんなもん持ち歩いてるような奴が上にいたんじゃ、大怪我してた可能性もあったな」スッ

足柄「なにそれ、警棒?」

提督「だな。下手に歯向かってたらこいつで殴られて、下手すりゃ殺されてたかも、だな」

クルー4「……」

提督「ともかく、こいつも証拠品として押収、明日にでもやって来た特警にでも押し付けるさ」

足柄「ここまで準備してたってことは、最初からこういうことを想定してたのかしら」

提督「いや、わかんねえぞ。こんなもん持ち歩いてるところを見ると、日常的に暴力的な奴だったんじゃねえの?」

クルー6「まあ、ちょっとパワハラ気味なところもあったっすけど……」

クルー4「かもしれないな。俺たちみたいに長く一緒にいると麻痺してきて、まあこの人だししょうがない、って思うようになっちまうし」

クルー4「今回の事件も、そういう感覚がまずかったんだろう。酒が入って気が大きくなって、なんとかなるの感覚で暴走して」

クルー4「……言いたくないですけど、甘く見てた……高をくくってたんでしょうね。留さんがいるから、たいしたことにはならないと」

726: 2021/11/20(土) 03:09:17.70 ID:zSOq3Kobo

提督「そりゃあ、留提督の父親がいるからか?」

クルー4「ええ。1さんが言ってましたが、この企画も留さんのお父さんが呉の大将さんと仲良しだから通ったって話ですし……」

クルー4「留さんのお父さんが、留さんの起こしたいろんな不祥事を揉み消してるって噂もちらほらありますので」

提督「なるほどねえ……今後はその黒幕がどう出るか、か。面倒臭えな」フー

足柄「面倒って……」

提督「あとは遠大佐が何を考えてるか、だな。なんでこんな奴に大佐の役職を譲る気でいるんだ? そこがわからねえ」

足柄「えええ!? ゆ、譲るって、そんなことできるの!?」

提督「それこそ、留の父親のコネか何かで捻じ込むつもりだったんだろ。実際にできるかどうかは別としてな」

提督「けど、大佐の椅子を遠大佐が譲る気でいるのは事実っぽいからな。そこが俺は一番気になってんだ。何かメリットあんのか?」

足柄「あるわけないわよ、失職でしょ? ……でも、その気でいるのよね?」

提督「そうなんだよなあ……」

727: 2021/11/20(土) 03:10:02.22 ID:zSOq3Kobo

クルー4「ところでお前、5さんと一緒じゃなかったのか?」

クルー6「いえ、俺に一人で行けみたいな感じで、一人でどっか行っちゃったんですよ。野暮用とか言って」

クルー4「野暮用? こんな夜中にか?」

クルー6「そうっす。3さんも戻ってきてないんすか?」

クルー4「ああ……」

提督「2人が行方知れず、か」

クルー6「3さんは風に当たってくるって言ってたんで、埠頭に行ったはずなんすけど」

提督「その埠頭にさっき川内が行ったんだが、誰もいねえって話だったぞ」

クルー6「そ、そうなんすか」

提督「やれやれ。随分好き勝手に動いてくれたもんだ。捜索は明日の朝から始めるぞ、今夜はもう消灯だ」

足柄「そういえば遠大佐たちはどうしたの?」

提督「寝てるってよ。ぐっすりだそうだ」

足柄「ええええ……?」

728: 2021/11/20(土) 03:10:47.08 ID:zSOq3Kobo

 * 一方そのころ *

 * 墓場島 北東の砂浜~伊8が作った露天風呂へ通じる道への入り口 *

 ザザーーン…!

(鼻歌を歌いながら、砂浜へ歩いてくるクルー5)

クルー5「うまく撮れてっかなあ。撮れてっといいなあ、ひひっ」

 ザザーーン…!

クルー5「それにしても今日は波が高えな。艦娘が海に出てるせいか?」

クルー3「……おい」

クルー5「うお!? な、なんだお前かよ……焦らせんなよ」サッ

クルー3「おい、今お前が隠したカメラ、長時間撮影できる定点カメラだったよな?」

クルー5「……」

クルー3「こっちに何があるんだ? お前、ここで何を撮ってたんだ?」

クルー5「……」

クルー3「お前、以前厳重注意を受けたよな? 俺は覚えてるぞ。私物のカメラを撮影現場に持ち込んで、更衣室に仕込んで隠し撮り……」

クルー5「お前なあ!」

クルー3「!」

729: 2021/11/20(土) 03:11:37.93 ID:zSOq3Kobo

クルー5「昔っからごちゃごちゃうるさいんだよ! 俺のやることにいちいち口を出すな!」

クルー3「な……ふざけんな! お前がくっだらねー真似ばっかりしてるからだろうが!」

クルー5「くだらねーと思うんなら放っとけよ! 神経質すぎんだよお前は! この前だって屋上でタバコ吸ってたのチクりやがって!」

クルー3「お前が無神経すぎるんだよ! タバコくらい喫煙室で吸えよ!」

クルー5「ちょっとくらいいいだろうが! 灰皿持ってったんだぞ!? くそったれ!」

クルー3「おい、どこへ行く! 話は終わってないぞ! だいたいそのカメラ……」

クルー5「お前には関係ねえだろ!」

クルー3「俺はわかってるんだぞ! お前、この先に温泉があるのを地図で確認してたよな! そこに置いて盗撮してたんだろ!」

クルー5「チッ……あーはいはいそーですよ! そう答えりゃ満足か!?」

クルー3「ふざけんなよ! そんなもので小遣いを稼ごうだなんて、見下げ果てた奴だ!」

クルー5「あぁ!? 金目当てじゃねえよ! 俺が個人で楽しむだけだ、売ったら足が付くだろうが!」

クルー3「信じられるかそんなこと!」

クルー5「俺はこれまで撮った画(え)を売ったことなんかねえよ! 勝手に決めつけんじゃねえ!」

クルー3「そんな言い訳、通じると思うか!!」

クルー5「俺はこれでもわきまえてんだよ。撮られたことが誰にも知られず、俺以外の誰にも見られないなら、迷惑にはならねえだろうが!」

クルー3「……お前……!」

730: 2021/11/20(土) 03:12:32.10 ID:zSOq3Kobo

クルー5「それに、誰かに公開しなくても撮影しただけでNGだって言うんなら、お前だって同じだろうが!」

クルー3「誰が同じだ!? 一緒にするな!」

クルー5「同じだろ! ここの提督は撮影禁止って言ってたんだろ! なのにカメラ持ち込もうとした留さんたちを止めなかったのはなんでだよ!」

クルー3「それは、もしここの提督が悪人だったら、証拠を掴むためにカメラは必要だろう! 必要悪だ!」

クルー5「自分に都合よく解釈してんじゃねーよ! 結局お前の屁理屈でどうとでもなるんだろ!?」

クルー3「違う! 悪人が定めた法律なら、守らなくて当然だろう!」

クルー5「はぁ!? お前が法律なのかよ! お前が良いって言うなら何やってもいいのかよ! 偉そうなこと言ってんじゃねーぞ!」

クルー5「で、結局ここの提督は悪人だったのか? もしそうじゃなかったら、お前のやったことも無断撮影で悪だよなあ!?」

クルー3「そ、そうなったら真摯にお詫びすればいいだろう!?」

クルー5「お詫びぃ? 謝ればいいってか? そんな軽いもんで済ませんのか!」

クルー5「無実を言い張ってた相手を勝手に犯人と同等に扱って、何もなかったらごめんなさいで済ますってか! 立派だなあおい!」

クルー3「お前……!」

クルー5「お前がこの島の取材の志願したのって、この鎮守府に閉じ込められて迫害されてる艦娘を保護するつもりで来たんだろ?」

クルー5「それが、ここの艦娘も困ってる様子がなくて、提督准尉を糾弾する当てが外れて……」

クルー5「振り上げたこぶしを下す場所がなくなって、それでさっき風に当たるとか言い出したんだろ?」

クルー3「……」

731: 2021/11/20(土) 03:13:17.68 ID:zSOq3Kobo

クルー5「どうせこんな島に来たって、得られるもんは何もねーんだ。轟沈した艦娘はワケあって海軍に復帰できねーって話らしいし」

クルー3「は!? な、なんでお前、そんなこと知ってるんだ……!?」

クルー5「お前も集めた情報を鵜呑みにするんじゃなくて、裏を取れって言われなかったのかよ? 今時取らねえか、そういうの時間かかるしなあ」

クルー3「そ、そうじゃない! なんでそれを知ってて、なんでこの島に……なんで留さんたちを止めなかったんだ!?」

クルー5「言って聞く人じゃねーよ、あの人は。言うだけ無駄無駄」

クルー5「1さんだって留さんの腰巾着だし、下手なこと言って機嫌損ねたらどうなるかわかんねえって、お前も知ってるだろう?」

クルー3「だからって、そんな重要なことをなんで黙ってんだよ……」ヨロッ

クルー5「お前みたいに逐一報告してたら、あの人たちがなんて言うか想像つくだろ?」

クルー5「俺たちの邪魔をするな、って突っぱねられて終わりさ。最悪、次から仕事に呼ばれないなんてこともあり得る」

クルー3「っ……!」

クルー5「俺が、お前がこの島に来るのをさり気なく反対してたのもそういうことだよ!」

クルー5「お前が自分の正しさを証明したくてこの島に乗り込んだとしても、どうせ無駄骨だったんだからなあ!」

クルー3「……じゃあ」

クルー3「じゃあお前は、なんのためにこの島に来たんだよ!」

クルー5「そりゃあ仕事のためだ。ディレクターと主演男優がお仕事に来たんだ、付き従ってカメラを回すだけさ」

クルー5「失敗するのがわかっていても、言う通りにして迂闊な進言もしない。ちょっと気を回して、やる気を出すフォローをしてやりゃあいい」

732: 2021/11/20(土) 03:14:17.43 ID:zSOq3Kobo

クルー5「考え方を変えろよ。今回の仕事はな、失敗したのを放送するのが仕事なんだ」

クルー3「……」

クルー5「艦娘の運用には複雑な事情があって、留提督たちにその試練は乗り越えられなかった、ってさ」

クルー5「トライして結果NGだった企画だってこれまでたくさんあったろ? それでいいんだよ、必ずしも予定調和にならなくていいんだ」

クルー5「その上で、協力的な態度を示せば、失敗も次の糧になるってもんだ。お前みたいに、身勝手で場違いな思惑を現場に持ち込むなよ」

クルー3「お、お前がそれを言うか……お前が、それを言うのか!?」ガシッ

クルー5「うおっ」エリクビツカマレ

クルー3「ディレクターやアイドルに従っていれば、何をしてもいいってのか!? お前がやってることは犯罪だろう!?」

クルー5「だからいちいちうるせえよ! 俺なんか可愛いもんだ、あっちじゃもっと派手なことやってんだからな!」

クルー3「……どういう意味だ」

クルー5「そんなもん言わなくたってわかってんだろ。艦娘のひとりやふたり、手を付けたって代わりなんて大勢いるだろ」

クルー3「……は? お前は……知ってたのか」

クルー5「今更イイ子ちゃんぶるなよ、童Oじゃねーんだからお前だって気付いてたろ? それか、見ないふりでもしてたか?」

クルー5「ま、どうせヤれても2番手か3番手だし、それよりも俺はこっちの方がいいしな……ひひっ」

クルー3「……」ボーゼン

 ザパーン…!

クルー5「おらっ、いい加減、手を放せよ!」バッ

クルー3「……」

733: 2021/11/20(土) 03:15:17.51 ID:zSOq3Kobo

クルー5「ったく……あの人たち、まだヤってんのかな。しゃーねえ、乱交に混ざりたくもねーし、もう少し時間潰して疲れたってことにして寝るか」

 ガッ!

クルー5「ぐあっ!?」ヨロヨロッ

クルー3「……幻滅したよ。許せねえ」

クルー5「お、お前、なにしやがる……」

クルー3「艦娘ってのは、俺たちのために戦ってるんだぞ!?」

クルー5「そ、そうかもしれねえけど……」

 バキッ!

クルー5「がっ!」ドサッ

クルー3「かもしれねえじゃねえよ! そうなんだよ! 今、俺たちがこうやって海を行き来できるのも、艦娘がいるからだぞ!」

クルー3「それを! かもしれない、だと!? ふざけんな!」バキッ

クルー5「ぐえ……っ」ドシャッ

クルー3「挙句の果てに風呂場の盗撮まで……俺がこの島に来るのを反対したのは、それがしやすくなるからって言うのが一番の理由じゃないのか!」

クルー5「く……ほんっとうに、うるせえな! こんな電気も電波も通ってねえような島に、誰が好きで来るんだ!?」

クルー5「ロケに来るのに、娯楽が何もねえとか、やってられっかよ! くそ、なんで俺だけ、お前なんかに殴られなきゃなんねーんだ……」

734: 2021/11/20(土) 03:16:02.12 ID:zSOq3Kobo

クルー3「……こんなもの……」

クルー5「はっ! お、おい、カメラはよせ!」

クルー3「こんなものがあるから……!」

クルー5「よせって言ってんだろ!!」ドガッ

クルー3「!」ズシャア

クルー5「くそ……仮にも会社の備品なんだぞ。壊したら弁償しなきゃなんねーだろ、ちくしょう……」

クルー3「会社の備品だって……? お前、そんなことのために持ち出したのか……!」ジリッ

クルー5「く……つ、付き合ってられるか!」ダッ

クルー3「逃げるな!!」ダッ

 ザッザッザッザッ…

クルー3「はあ、はあ……待て!」

クルー5「く、くそ……砂が水吸ってて重てえし、月が雲に隠れて暗いわで走りづれえ……」

 ガッ

クルー5「うわあ!?」ズデーン

735: 2021/11/20(土) 03:17:02.48 ID:zSOq3Kobo

クルー5「ああくそっ、何に躓いたんだ……」

クルー3「や、やっと追いつい……な、なんだ? これは……」

(ゆっくりと月を覆っていた雲が薄れて砂浜を少しずつ照らしていく)

(二人の足元が見えるようになって現れたのは、砂浜に打ち上げられた艦娘の氏体)

クルー5「ひ……!?」ズザザッ

クルー3「う、うわあああ!?」

クルー5「な、なんだこれ……艦娘か? 艦娘が氏んでんのか!?」

クルー3「嘘だろ……お、おい、大丈夫か……?」

クルー5「ば、馬鹿! 頭吹っ飛んでんだぞ……それで生きてたら化け物だ……!」

クルー3「だ、だが……艦娘ってのは不氏身なんだろ?」

クルー5「知るかよ! 現にこうやって氏んでんじゃねえか!」

クルー3「け、けど、工廠に連れて行けばどんな怪我も治って、蘇るって……」

クルー5「そ、そんなわけあるか! 艦娘は氏んだら深海棲艦になるって俺は聞いたんだからな!?」

クルー3「は!? じゃ、じゃあ、なんでこいつは深海棲艦になってないんだよ!」

クルー5「だから知るかって言ってんだろ!」

736: 2021/11/20(土) 03:18:17.24 ID:zSOq3Kobo

クルー3「もしかして、まだ間に合うんじゃ……おい、この艦娘を鎮守府に……工廠に連れて行くぞ! 手伝え!」ガシッ

クルー5「何言ってんだお前!? 嫌に決まってんだろ! 放せよ!」

 ザザーッ

クルー3「!」

 ザバーン!

クルー5「うわっぷ!?」バシャーン

クルー3「な、なんだ今の高い波は……!」ビッショリ

クルー5「……おい、よく見ろ。もしかして、こいつら、流れ着いてきたのか……?」

クルー3「こいつら? こいつらって……あ、あああ……」

クルー5「3……いや、4体いるか? こいつら全部、この浜に……今みたいな強い波で、押し流されて……」

クルー3「と、とにかく、誰かにこれを知らせないと……へきしっ」

 ザザァ…

クルー5「な、なあ、海の上に誰かいるぞ」

クルー3「艦娘か? おーい!」

??「……!」

クルー3「気付いたみたいだな、助かった……あれは長門か?」

クルー5「……いや……」

??「……」ザザァ…

クルー3「ん? あれ……?」

クルー5「あ……あれは……」ガタガタ

??→ル級「……」


744: 2021/11/28(日) 10:47:02.08 ID:K5+fZQPfo

 * 翌日 早朝 *

 * 北東の砂浜 *

霧島「司令、こちらへどうぞ」

提督「おう。ほれ、お前らもキリキリ歩け」

手を縛られた留提督「どうして僕がこんな扱いを……」

遠大佐「……自分の行いを省みてはどうかね」ジロリ

留提督「く……っ」

手を縛られたクルー1「なんであの2人は縛られてないんだよ……」

クルー4「……」

クルー6「……」

提督「そりゃお前らみたいに不届きな真似をしてねえからな」

手を縛られたクルー2「直前で怖じ気づいただけのヘナチンのくせに……」

手を縛られたクルー7「やっぱり、あいつ最初から准尉とグルだったんじゃないすか?」

提督「俺は最初から全員しょっ引きたかったんだがな。山風と足柄が許せっつったからそうしてるだけだ」

雷「あの……准尉さん、私たち、どうして砂浜に案内されてるの?」

745: 2021/11/28(日) 10:47:48.57 ID:K5+fZQPfo

提督「この島が墓場島って呼ばれていることは知ってるよな?」

雷「え? ええ……知ってるわ、轟沈した艦娘が流れ着いてくる島だから、って……」

提督「それを改めて説明してやろうって話じゃねえか。よく見ろよ」

雷「え……えええ!?」

遠大佐「……こ、これは……!?」

(砂浜に流れ着いた艦娘たちを、電たちが囲んでいる)

電「ぐすっ、ぐすっ」

電の背中をさする由良「……」

敷波「摩耶さん、この子たちって……」

摩耶「ああ。B提督の艦隊の……あん時の艦娘たちだな……」

遠大佐「提督准尉。これはどういうことだ……!?」

提督「どうって、見ての通り、聞いての通りだろうが。知ってんだろ? この島がどんな島かを……!」

提督「少し前にテレビでも放送されたっていう、空母棲姫の戦い……あいつらはその戦いで轟沈した艦娘だ」

クルー2「轟沈、って、そういう……マジかよ……」

クルー6「う……」フラッ

クルー4「お、おい、大丈夫か」

クルー7「ちょっ、俺こういうの駄目……うぷっ」ヨロヨロ

746: 2021/11/28(日) 10:48:32.02 ID:K5+fZQPfo

雷「こんな……こんなに、轟沈させられたの……!?」

留提督「なんだよこれ……なんなんだよ、これは!」

提督「これ? その言い草こそなんなんだよ、失敬な奴め」

留提督「そうじゃねーよ、なんで艦娘が氏んでんだよ……!」

提督「ああ? 何言ってんだお前? ……まさか艦娘が氏なないと思ってたのか?」

留提督「聞いてない……こんなになるなんて聞いてないぞ! 艦娘ってのは、いくら怪我したって修復材ぶっかけりゃ直るんだろ!?」

留提督「どんな大怪我しても戻ってこれるんだろ!? 氏ぬわけがないって……!」

提督「なんだそりゃ? どこから湧いて出てきた、そんな話」

留提督「だ、だって、そうじゃなきゃ艦娘が海で見つかるなんて有り得ないだろ!?」

留提督「轟沈だって、しばらく動けなくなって一時的に眠ってるだけなんだろ!?」

提督「海で? ……ああ、もしかしてドロップ艦を、轟沈した艦娘が蘇ったもんだって考えてるわけか」

提督「説としちゃあ興味あるが、そいつは多分違うな。そもそも艦娘は不氏身なんかじゃねえ」

留提督「そんな!? 深海棲艦だってすぐ復活してるじゃないか! あいつら、倒してもすぐ復活してくるだろう!? 艦娘だけ氏ぬなんて……」

提督「そいつも多分違うな。俺が思うに、連中は復活してるわけじゃねえ」

提督「喩えは悪いが、おそらく魚とか蟻みたいに、同じ顔した奴がいっぱいいて、次から次と生まれ出てきてるだけなんじゃねえかな?」

747: 2021/11/28(日) 10:49:17.14 ID:K5+fZQPfo

留提督「遠大佐! こいつの言うことは本当なんですか!?」

遠大佐「いや、それは私にもわからない」

遠大佐「しかし、深海棲艦が海に無尽蔵に出てくる以上、深海にも建造ドックと同じものがあって、大量生産されているという見方はある」

留提督「……」

提督「艦娘も、同じ顔、同じ名前の艦娘が複数存在してんのを、お前らも見たことあるだろ?」

提督「だが、そいつら全員が全員、性格や嗜好まで完全一致してるわけじゃねえし、艦娘になってからの記憶を共有してるわけでもねえ」

提督「ただ似ているだけの別人……と呼ぶには無理があるが、双子や三つ子が何十人、何百人にもなったようなもんだと、俺は思ってる」

留提督「……」

提督「ところでお前ら、艦娘を解体したことあるか? 毎日の任務にも出てくるんだ、やったことある奴のが多いんだろ?」

雷「それは……」

遠大佐「ああ、ある。日々の任務に指示されているからな」

提督「で、だ。お前らは、解体した艦娘を、元に戻せるのか? 建造したそいつは、どこかで解体された記憶を引き継いできたことがあるか?」

遠大佐「……」

留提督「……」

748: 2021/11/28(日) 10:50:01.93 ID:K5+fZQPfo

提督「同じ艦娘を建造したり発見したりしても、そいつがどこかで解体した艦娘の記憶を引き継いだりしてたことなんか、なかっただろ?」

遠大佐「……ああ。確かに、それはない」

留提督「……」

提督「仮に魂というものが存在して、巡り巡って再び同じ艦娘として生まれたとしても……」

提督「過去に解体した、もしくは沈んだ艦娘の記憶が失われていたのなら、それは氏んだのと同じじゃあねえのか?」

提督「……氏ねば終いさ。それが艦娘であっても、人間であっても。そうだろ?」

留提督「……」

クルーたち「「……」」

遠大佐「……そろそろ戻ろう。呉からの船が戻って来るんだろう?」

提督「慌てんな。お前らをここに連れてきた一番の理由がまだ残ってる」

クルー2「?」

クルー1「……まさか」

霧島「司令、こちらです」

提督「ああ。ついてこい」

留提督「なんだって言うんだ……」

749: 2021/11/28(日) 10:50:51.01 ID:K5+fZQPfo

 ザッザッザッ…

クルー4「……え? あれってもしかして……」

クルー1「おい、嘘だろ……やめてくれよ……!」

クルー3の水氏体「」

クルー5の水氏体「」

遠大佐「!!」

クルー2「うわあああああ!?」

クルー6「……そんな」

クルー1「もう駄目だ……もう、終わりだ……」ガクッ

提督「おい、誰でもいいから確認しろ。この2人は、お前らと一緒に来たテレビクルーの2人で間違いないな?」

クルーたち「「……」」

雷「准尉さん、クルーさんたちが亡くなってすぐ確認するのはさすがに無理よ……心の準備ができてないと思うわ?」

提督「ふん。しゃあねえな」

雷「あの……この二人が発見されたのはいつなの?」

提督「5時ごろか? 夜明けと同じくらいに砂浜を見回ったときに見つけて、その時点でこうなってたんだよな?」

750: 2021/11/28(日) 10:51:46.85 ID:K5+fZQPfo

霧島「はい。それからこちらを……若干ですが、争った形跡が見られます」

提督「……顔にあざができてるな。殴り合いでもしたか?」

霧島「1人は埠頭に行ったということでしたので、そこで殴り合って海に落ち、溺れてこの浜に流れ着いた、と推測しています」

提督「んー……まあ、そのくらいしか思いつかねえな。案内もしてねえ砂浜へ夜中に二人で来る理由がわかんねえし」

提督「しかし、こいつら何を争ってたんだ? この二人、仲が悪いのか?」

クルー4「……え、ええ、まあ……良いとは言えませんね」

クルー4「同期だけれど、3さんは真面目で融通が利かなくて、5さんは要領はいいけど犯罪スレスレのことも平気でやる人でしたから」

提督「……面倒臭え関係だな。そんな奴等を同じ部署に入れてて大丈夫なのかよ」

クルー4「社長はバランスをとるためって言ってましたけどね……最終的には1さんがよく取り成して、双方納得させてましたよ」

提督「ふーん」

雷「埠頭からここまで流されてくるものなの?」

提督「この島の潮の流れは普通じゃない。だからこそ轟沈した艦娘が浜に流れ着いてくる。この島に来る輸送艦もたまにこっちに流されるくらいだ」

提督「それで海に落ちたんじゃあ、余程泳ぎが達者でない限りはこうなっても不思議とは思わねえがな」

クルー4「なくは、ないのか……2人が泳げたかどうかは俺も知らないし、今となっては確かめようもないか」

提督「服も着てるし、おまけに夜中だ。海に落ちて岸がどっちかわからなくなったら、助かるとは思えねえな」

雷「……」

751: 2021/11/28(日) 10:52:34.91 ID:K5+fZQPfo

クルー6「なんで……なんでこんなことに……」

クルー6「3さんは艦娘を支援したくて、この撮影班に入ったんですよ。それなのに、こんなのって……」

提督「おい。事故や災害ってのは、悪人だけを頃すのか?」

クルー6「……」

提督「俺はお前らにこの島に入るな、帰れと言った。夜中も大人しくしてろと言った」

提督「それを無視して外に出た奴が、本当にいい奴なのか?」

クルー6「でも……っ」

提督「そこまでこの世は都合よく出来ちゃいねえよ。手前に都合の良いことばっかりほざいてんじゃねえ」

クルー6「……」

留提督「……だからって、まさか、氏者が出るなんて、ないだろ……」

提督「おい。よりによって、お前がそんな台詞を吐いてんじゃねえぞ」ズイ

提督「いいか? 艦娘を『沈める』ってのは、こういうことだからな?」

留提督「……っ」

提督「鳥海と加古は、たまたまこの海岸に打ち上げられて、たまたま命が助かった。運が良かったってだけの話だぞ?」

提督「あいつらも、こいつらみたいに、なっていたかもしれねえんだ……お前の命令によってな」

留提督「……!!」ビクッ

752: 2021/11/28(日) 10:53:33.17 ID:K5+fZQPfo

提督「お前は軽い気持ちで『行け』と言ったんだろうが、艦娘にとっては命懸けだ。深海棲艦だって氏にたくないから必氏に抗ってくる」

提督「俺たちは、その艦隊指揮を執った責任を取る立場にある。それが俺のような准尉であろうと、大佐であろうとな」

提督「ま、その艦娘をレ○プしようとしてた奴らが、氏ぬのは残酷だ、とかほざくんなら……」ギロリ

霧島「司令」

提督「……とりあえず、見せたかったもんは以上だ。鎮守府に戻りな」

留提督「う……」

クルー2「……戻りましょう、留さん」

留提督「……あ、ああ」

クルーたち「「……」」ゾロゾロ…

提督「……霧島」

霧島「はい」

提督「勢い任せに要らねえ説教までしちまうところだった。ありがとな、止めてくれて」

霧島「いえ……」ペコリ

 ウワアアア!

提督「んん、なんだ?」

753: 2021/11/28(日) 10:54:16.92 ID:K5+fZQPfo

霧島「あれは……さっきのクルーの一人ですね」

クルー7「なんでですか! なんで5さんが氏ぬんですか!!」

クルー2「おい、落ち着け!」

クルー7「あの人だけっすよ! 俺が番組でヘマしたのを笑って慰めてくれたのは!」

クルー7「飯おごってもらったし! 企画も取り上げてもらったのに……これからだって時に、なんで氏んでんですか!!」

クルー7「ちくしょう……ちくしょおおお!!」

霧島「彼らにあまり良い印象がなかったのですが、そういうわけでもないのですね……」

提督「悪人と呼ばれる奴にも、いいところはあるだろうさ。カンダタだって蜘蛛の命を助けたことがあるんだぜ」

提督「ただ、それでそいつのやった事を帳消しにできるかと言えば、それとこれとは話が別だ」

霧島「……はい」コク

提督「さてと、霧島も案内ご苦労さん。あとは摩耶達と一緒に、こいつら弔うの手伝ってやってくれ」

霧島「了解しました。司令はこれから船の出迎えですか」

提督「ああ。ただ、その前にあいつを問い詰めねえとな」

754: 2021/11/28(日) 10:55:01.82 ID:K5+fZQPfo

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

提督「さてと……テレビの連中は牢屋に戻ってもらった」

遠大佐「……それで、私に訊きたいこととは?」

雷「……」

提督「そっちの秘書艦も薄々感付いてるんじゃねえの。あんた、なんであんな奴に、手前の大佐の階級を譲ろうとしたんだ?」

遠大佐「……」

提督「あんたのせいであの留提督が増長したのは自覚してるか? ちょっと酒で酔わせただけでこのざまだ」

提督「自分の艦隊を手に入れて、好き勝手できると思ってフライングで鹿島たちに手を出しやがった」

提督「こんな奴らを海軍に引き入れて、どうしようって言うんだ? これだけ手を煩わせておいて、説明なしってのはねえだろ」

遠大佐「……」

雷「司令官……お願い、私にも理由を教えて。私たち、これまで一緒に戦ってきたじゃない……!」

遠大佐「……雷……」

提督「……」

遠大佐「わかった……話そう。准尉のような、口の利き方も知らん生意気な小僧にまで聞かせねばならんのは癪だがな……!」

755: 2021/11/28(日) 10:55:46.69 ID:K5+fZQPfo

雷「彼に話すのが癪、って……!?」アセアセ

遠大佐「こんな生意気な、甘やかされたクソガキには理解できまいよ!」

提督(面倒臭え奴……)ブゼン

雷「し、司令官! 落ち着いて!? 深呼吸して、ゆっくり……」

遠大佐「……す、すまん、取り乱した……」

雷「それじゃ司令官、話せる? 聞かせてもらえる?」

遠大佐「ああ。私が大佐を譲ろうとしたのは……」

雷「したのは……」ゴクリ

提督「……」

遠大佐「何もかも嫌になったからだ」

提督「……」

雷「……は?」

遠大佐「嫌になったのだよ……何もかも! 確かに私は大佐だが、艦娘が現れ、この私を飛び越えて少将になった若造が何人いると思う!?」

遠大佐「私だって努力はしている! なのに、あいつらは得体の知れない装備を開発して、聞いたこともない戦術で海域を解放していくんだ!」

遠大佐「私のほうがキャリアは長いんだぞ!? それをあいつらは、私と話すときも艦娘を侍らせてへらへらいちゃいちゃと……」

遠大佐「目上の者であるはずの私に対する敬意が微塵も感じられんのだ!!」

756: 2021/11/28(日) 10:57:01.83 ID:K5+fZQPfo

雷「し、司令官はよくやってるわ!」

遠大佐「だが、現実は残酷なものだよ……私の知らぬ間にあいつらは独自の情報網を作り上げ、深海への対応をマニュアル化していたんだ」

遠大佐「その情報を見せられて私は愕然とした。斬新すぎてまったく意味が分からんのだ……! は、ははは……なんと、なんと情けない」

遠大佐「私もいつの間にか、古い流儀、古いやり方に縛られた、時代に置き去りにされた人間だったんだ」

雷「司令官……駄目よ、そんなんじゃ! しっかりして!」

遠大佐「ああ、しっかりと、自分の立ち位置を確認したよ。ふふ……恐ろしいな、若さというのは。それに引き換え私はどうだ?」

遠大佐「……だから、もういいんだ。私がこれ以上、この席に固執しても、なんの進歩もない……老兵は去るのみなんだ」

遠大佐「今だから言えるが、私は彼らに嫉妬していたんだろう……その思考の柔軟さも、才能も、環境も」

雷「嫉妬……?」

遠大佐「ああ、彼らの顔つきを見ればわかる。それに私は聞いてしまったんだ、彼らの会話を」

遠大佐「何を話していたと思う? 友達のこと、恋人のこと、両親のこと……家族のこと……!」

遠大佐「彼らは、私が持っていないものを、すべて持っていたんだ……!」ブワッ

提督「……」

遠大佐「この地位になるまで、必氏になって勉強し、恋すら知らずに働いてきた私には、彼らの存在が眩しすぎるんだ……!!」

遠大佐「准尉も政治家の息子という恵まれた環境だったそうじゃないか。お前のようなリア充には、俺の苦難は理解るまい!」

提督「……」

757: 2021/11/28(日) 10:57:46.85 ID:K5+fZQPfo

遠大佐「私は……女性が嫌いだった。母だったあの女は、私が5つの時に男を作って逃げた!」

遠大佐「父も、私が中学に上がるころに付き合い始めた女に骨抜きにされ、高校を出てすぐ二人でどこかへ消えた……」

遠大佐「父が私を育ててくれたことは感謝している……だが、私と父の人生を狂わせた、女性に私はどうしようもない嫌悪感を持っていたんだ」

遠大佐「そんな思いを抱いた私が、まともに女性と接するなんて不可能だ。そこへ、この深海棲艦騒ぎ……艦娘の出現だ」

遠大佐「女性との接し方すら知らない陰キャの私が、彼らにかなうわけがなかったんだ……!!」

提督「……」

雷「司令官……」グスッ

遠大佐「だから私は今の地位を捨て、最初からやり直す道を選んだ」

遠大佐「留とかいう男に地位を譲ろうとしたのも、私の苦労の1割でも味わってもらいたかったがゆえだ」

遠大佐「あの傲慢な陽キャが、私よりはるかに学も力もある若者たちに、打ちのめされればいいと思っていた」

遠大佐「その前に、准尉が彼らを叩きのめしてしまったようだがね……」

提督「……」

遠大佐「私は気付いてしまったんだ」

遠大佐「私は心の奥底で嫉妬していたんだよ。彼らの幸せな境遇を……私も、それを欲しがっていたんだと」

遠大佐「艦娘たちといることで、それに気付いてしまったんだ……!」

758: 2021/11/28(日) 10:58:32.08 ID:K5+fZQPfo

雷「大丈夫よ、司令官には私がいるじゃない!」

遠大佐「ありがとう、雷……その通りだ。私には、雷がいる」

雷「司令官……!」

遠大佐「だからこそ……だからこそ、雷。君に、頼みがある」キッ

雷「うん……司令官、なぁに?」



遠大佐「私の……私の母親になってくれ!!」



雷「」

提督「」


.

759: 2021/11/28(日) 10:59:17.12 ID:K5+fZQPfo

 * 鎮守府内 執務室 *

スピーカー『母親になってくれ!!』

室内の艦娘たち「「ぶーーーーーーーーっ!?」」ズドガラドシャァ

扶桑「……みんな、派手にずっこけるわね?」

五十鈴「ずっこけるわよ、こんなの聞かされたら!」ムクッ

吹雪「私の部屋に取り付けたマイクを司令官が持って行ったのは、これを聞かせたかったからかぁ……」

千歳「い、いくらなんでも、准尉さんだってこんな答えを聞くことになるなんて思ってもなかったと思うんだけど!?」

武蔵「……つまり、なんだ? 遠大佐は最初から全てを投げ捨てるつもりだったということか?」

足柄「そういうことよね……多分。はた迷惑な話だけど」


 * 鎮守府内 通信室 *

利根「まあ、退役しようというのなら、後釜なんぞ気にしないというスタンスもわからんでもないが……」

予備スピーカー『……』

榛名「提督たちも驚きすぎてて、次の言葉が出てこないみたいですね……」

那珂「なんていうか、今回来た人たちが残念過ぎていろいろショックだよぉ……」ガックリ

鳥海「ええ、本当に……」ガックリ

加古「……」グンニョリ

神通「その……胸中、お察し致します……」

760: 2021/11/28(日) 11:00:02.07 ID:K5+fZQPfo

 * 埠頭 *

遠大佐「……」

雷「」

提督「……」

雷「……!」ハッ!

提督「……」

雷「……は、ははおやっ!?」アセアセッ

遠大佐「あ、ああ、そうだ!」

雷「そ、そんな……そんなの……駄目よ……っ!」モジモジ

提督「……」


 * 執務室 *

如月「ねえ、声の調子からして、雷ちゃん喜んでないかしら」

筑摩「ま、まだそうとは……」

スピーカー『いや、正直に言わせてもらいたい。雷……君をお母さんと呼ばせて欲しいんだ!!』

スピーカー『はうっ!』トゥンク!

陸奥「……ちょっと、喜んでるみたいよ?」

大和「い、いろんな愛情表現があるのですね……」ヒキッ

761: 2021/11/28(日) 11:00:46.93 ID:K5+fZQPfo

 * 通信室 *

予備スピーカー『いや、ここはママと呼んだほうがいいかな!?』

予備スピーカー『はぁぁぁんっ』ズキューン

鳥海「」シロメ

加古「」ズルベチャー

那珂「ちょっ、加古さんが椅子から転げ落ちちゃったよ!?」

利根「しっかりするんじゃあああ!」

榛名「こ、これをこの二人に聞かせたのは失敗だったのでは……」タラリ

神通「いえ……聞かせないわけにもいかないと思います、けど……」アタマオサエ


 * 埠頭 *

提督「……」

雷「マ、ママ……? 私が、司令官の、ママ……!?」

遠大佐「そうだ! 私が、本当に欲しかったのは、愛情だ……母親の愛だ!!」

遠大佐「気付いてしまったんだ! これが自分の素直な欲求だってことに!」

遠大佐「お願いだ! 私の……私のママになってくれ!! 雷!!」

雷「」ズギャァァーーン!

762: 2021/11/28(日) 11:01:47.02 ID:K5+fZQPfo

雷「」

雷「」

提督「……」

雷「も、もう、仕方ないわね……! いいわ、この私が、司令官のママになってあげるわ!」ズバァーーン!

遠大佐「ほ、本当か!? やったあああ!!」ワーイ!

提督「……」

遠大佐「ママ! ママと呼んでいいんだね! ママ!! ママーーーー!!」

雷「も、もう、がっつきすぎよ! 落ち着いて!」

遠大佐「うん!」

雷「その、じゃあ、改めて……おいで?」リョウテヒロゲ

遠大佐「ママーーーー!!」ダキツキー

遠大佐「ずっと……ずっとこうしたかった! こうしてみたかったんだ!!」

雷「もう、昨晩のベッドの中でもたくさん甘えてきてたじゃない!」ナデクリナデクリ

提督「……」

763: 2021/11/28(日) 11:02:31.94 ID:K5+fZQPfo

遠大佐「あのときはまだ我慢していたんだよ! でも今は違う! やっと、自分に偽りなく、ママに甘えられる!!」

遠大佐「全然違うんだよ!」

雷「ふふふっ、わかったわ! 今日からもたくさん頼っていいんだからね?」ナデナデ

遠大佐「ママァァァァァァアアア!!!」ダキツキー

提督「……」

雷「……あ、えっと……」

提督「……」(←無言で頷く)

雷「そ、それじゃ、失礼するわね! 船が来たら呼んで貰えると嬉しいわ!」

提督「……」(←無言で頷く)

雷「それじゃ行きましょ! 司令官!!」テヲツナギ

遠大佐「うん、ママ!!」ニッコニコー

提督「……」

提督「……」

提督「……」

暁「……しれーかん?」コソッ

霧島「失礼します」スッ

764: 2021/11/28(日) 11:03:17.67 ID:K5+fZQPfo

提督「……」

暁「し、司令官、大丈夫?」ツンツン

提督「ん……う、おお、暁か。霧島はどうした?」

霧島「私は、砂浜の作業がひと段落つきましたので、ご報告にと。お取込み中だったようなので、待機しておりました」

霧島「なにやら大変なことになったようですが……暁はなぜこちらに隠れていたんです?」

暁「暁は、雷が暴走しないか、見張るように言われてたの。結果的に、取り押さえたりするような事態にはならなかったけど……」

提督「とりあえず、二人とも見てたか? 今のやりとり」

暁「ええ、見てたわ……少し頭が痛くなっちゃったけど」

霧島「私も途中からですが……その、なかなか衝撃的と言いますか……」

提督「……」

暁「司令官?」

提督「ああ、悪い。肝心の俺が、理解が追い付かないっつうか、理解したくないっつうか……とにかく今あったことを頭が咀嚼したがらねえ」

霧島「……ああ……」

暁「……まあ、そうよね……」

提督「んー……ともかく、なんだっけ? えーと……」クビカシゲ

霧島「司令……だいぶ混乱してらっしゃいますね」

765: 2021/11/28(日) 11:04:01.98 ID:K5+fZQPfo

暁「え、ええっと……まとめると、遠大佐は、今の立場や地位を捨ててでも、家族の愛っていうか、母親からの愛情が欲しかった、ってことかしら」

霧島「そうね……全部投げ捨てるからこそ、留提督が付け入る隙になった、と考えられそうね」

提督「……あー、なんとなく、頭が整理できてきたぞ……?」

霧島「司令、大丈夫ですか? 所属の艦娘への説明はできそうですか?」

提督「ああ、それは大丈夫だろ。これまでの会話はこのマイクで拾って、執務室で聞いてもらってる。もうスイッチオフにしていいか」プチ

暁「いいと思うけど……これ聞いてて、みんなどう思ってるのかしら」

提督「どうだろうなあ……」

霧島「少なくとも、遠大佐が少しおかしくなったのは周知したほうがよろしいかと」

提督「……少し、か?」

霧島「いえ、遠大佐の名誉のために控えめに表現させていただきましたが……」

暁「遠大佐、どう見ても壊れちゃったとしか思えないんだけど」


 * 執務室 *

如月「なんていうか、いろいろな意味でショックな話ね……」

扶桑「そうね。聞いてる限りの様子だと、遠大佐は童子帰りしたってことかしら」

足柄「母親の愛情が欲しくて、精神だけ子供になった、ってこと? わからなくはないけど……」

千歳「ずっとストレスを感じていて、それが今回爆発した、ってことなのかしら……」

766: 2021/11/28(日) 11:04:47.25 ID:K5+fZQPfo

筑摩「……」

五十鈴「筑摩さん? どうしたの、大丈夫?」

筑摩「いえ……私も、利根姉さんにあんな風に接していたのかと……」

陸奥「あんな風……って、遠大佐みたいに? あそこまで酷くはなかったと思うけど」

武蔵「筑摩の場合は、違う意味で大変だったがな。甘えたいというより、ひたすら迫りたがっていた、というか……」

筑摩「……」

大和「……」ズーン

武蔵「! どうした大和、お前も顔色が悪いぞ」

大和「だ、大丈夫よ……」

大和(ああ、私も提督に甘えたいのに……私もあんな風に気持ち悪く見られてたらどうしよう……)

大和「ううっ……」グスッ

武蔵「お、おい!?」

如月「大和さん!? 本当に大丈夫!?」

大和「は、はい、だいじょ……うううう」ボロボロ…

如月「……大和さん、お部屋に行きましょ? 少し落ち着かないと……」

武蔵「そうだな、一緒に行こう。つらいときは私や明石にも頼るといい」

大和「……うううっ」コクン

767: 2021/11/28(日) 11:05:46.97 ID:K5+fZQPfo

 * 通信室 *

那珂「加古さん落ち着きました?」

加古「あー、うん。いちおーね……」

加古「あのひとがヤケになったからこその、あの指揮だってことは、まあ理解できたっていうか……」ハァァァ…

加古「やられたあたしたちはたまったもんじゃないけど、これで縁が切れるって言うんなら、まあ無理矢理にでも納得するけど……」チラッ

那珂「……」チラッ

鳥海「え……エヒッ……ひは、あヒヒ……っ」マッシロ

神通「鳥海さん! しっかりしてください! 鳥海さんっ!!」

鳥海「ウヒ、ハヘッ……グゲッ、アガガガ」ガクガク

利根「神通! 鳥海を明石のところへ連れて行くぞ! これはもう吾輩たちの手には負えん!」チョウカイセオイ

神通「は、はい!!」

 ワーキャー ミチヲアケロォォ

加古「鳥海は真面目すぎるんだよなあ……指揮が雑になっても信じてたわけだし。思い詰めてたりしなきゃいいなって思ってたんだけど」

那珂「あの様子はやばいよね……提督さんにも連絡しておかないと」

768: 2021/11/28(日) 11:06:47.86 ID:K5+fZQPfo

榛名「……」アオザメ

那珂「榛名ちゃんも大丈夫?」

榛名「いえ……提督も同じように、ご両親から愛情をいただいていない方でしたから、同じようなお気持ちになったりしないのかと……」ブルブル

那珂「それは大丈夫じゃないかなあ? 提督さん、甘やかされるの好きじゃないみたいだし……」

那珂「どっちかって言うと艦娘を甘やかしすぎるタイプだよね。放任主義に見えて、ちゃんと私たちのこと見てくれてるしー」

榛名「そ、そうだと良いんだけれど……その、途中から一言も発さなくなっていたので……!」ソワソワ

那珂「そういえば……! 榛名ちゃん、ここは私がいるから、見てきてあげたら?」

榛名「は、はいっ! お願いします!」

 ガチャ タタタッ…

加古「……ここの提督も訳ありなの? すごい心配されてたけど」

那珂「家庭の事情はちゃんと聞いたわけじゃないけど、遠大佐と同じか、それ以上に不運なんじゃないかなー?」

加古「マジかー……」

774: 2021/12/05(日) 22:28:48.32 ID:1mbWFkSso

 * 墓場島鎮守府 牢屋 *

クルー7「ひっく、ぐすっ……うえっ」

クルー1「……」

留提督「……」

クルー2「はぁ……参ったな……」

 ガラガラガラ…

クルー2「ん……台車の音か? 誰だ?」

古鷹「おはようございます。朝餉をお持ちしました」

クルー2「あ、ああ……そういや、朝飯まだだったんだっけか」

古鷹「おにぎりとお味噌汁、それからお漬物です。あとでお茶もお持ちしますね」コト

クルー2「……いいよ。いろいろありすぎて、とても飯なんて食える気分じゃない」

古鷹「……差し出がましいようですが、こういうときこそ、しっかり食べてください」

古鷹「あなたがたはまだ生きています。まだ、今日を生きられることができます」

クルー2「……そりゃあ、そうかもしれないが、多分、これで俺たちの仕事は駄目になった。稼ぎが消えたんだ」

クルー2「おまけに入った先が牢屋だ。これから俺たちはどうなるんだ? もう、俺たちゃ氏んだも同然じゃないのか……」

775: 2021/12/05(日) 22:30:03.37 ID:1mbWFkSso

古鷹「私たちの仕事は、あなたがたの命を深海棲艦から守ることです」

古鷹「ですから、あなたがたのこれからの人生に直接関われるわけではありません。ですが……」

古鷹「私は、こうやってお話しできた人たちが、出会った人たちが、みんな幸せになれればいいな、って、思ってます」ニコ

クルー2「……!」

古鷹「今を、不幸だ不幸だと嘆くのは、仕方のないことだと思います」

古鷹「提督や、あなたがたと話した皆さんから、あなたがたが何をしたか、何をしようとしてたかを聞きました」

古鷹「提督は厳しい方ですから、あなたがたがやったことに容赦しなかった結果がこうなったのだと思います」

古鷹「……ですが、それでも命を奪うようなことまではしませんでした」

クルー2「……」

古鷹「人の世界には、人の世界の決まりや法律がありますから、あなたがたが行った行為に対する処罰がこれから決まると思いますが」

古鷹「私は、それを乗り越えて立ち直って欲しいと思っています」

クルー2「……簡単に言うなよ……!」

古鷹「ええ、簡単ではないと思いますよ。でも、あなたは今、氏にたいとは思っていないでしょう?」

クルー2「……」

古鷹「食べた方がいいと思います。どうやってこれから生きていくか考えるために」

クルー2「……」

776: 2021/12/05(日) 22:31:18.68 ID:1mbWFkSso

クルー7「……なんだよ……なにが、どうやってこれから生きるか、だよ……」

クルー7「先輩、氏んじまったんだぞ……仕事だって、続けられるかわかんねえ。俺は、これから何を目標にすりゃあいいんだ……」

古鷹「素敵な先輩だったんですね。では、あなたも、その先輩のいいところを、誰かに伝えていってはいかがでしょうか」

クルー7「ど、どういう意味だよ……」

古鷹「あなたがその先輩から受けた、嬉しかったこと。それを、他の誰かに同じようにしてあげるんです」

古鷹「私も、されて嬉しかったことは、同じように誰かにしてあげたいと思っています」

古鷹「ここで腐ってしまっては、その先輩の良かったところを、誰にも伝えられません。それは、悲しくありませんか?」

クルー7「う……!」

古鷹「どんな人にも、良いところと悪いところがあります。どうせなら、良いところをみんなに知ってもらいたいと思いませんか?」

クルー7「あ、ああ……!!」

古鷹「そして、良いところを知れば、応援してくれる人も現れます」

古鷹「人は誰だって過ちを犯すものです。自分の悪いところを反省し、見直して、改める……そして、自分の間違いとちゃんと向き合うこと」

古鷹「正直に言えば、あなたがたが襲った艦娘の皆さんが、あなたがたを許すかと言えば、それはわかりません」

古鷹「でも、素直な気持ちで自分の間違いを認め、省みることができれば……ほんの少しでも、変わるのではないでしょうか」

クルー7「ううっ……ぐす……」

777: 2021/12/05(日) 22:32:33.58 ID:1mbWFkSso

古鷹「それに、短絡的にここで氏んだことにするのも簡単かもしれませんが……」

古鷹「この島で亡くなった方たちの遺族のように、悲しむ人を増やすのもどうかと思います」

古鷹「生きて、お世話になった人たちや、悲しんでくれるであろう人たちを安心させてあげた方が、何倍もいいのではないでしょうか」

留提督「……父さん……」

クルー1「……妻と、娘に……」

古鷹「さっきも言いましたけど、私たちの仕事は、あなたがたの命を深海棲艦から守ることです」

古鷹「生きるのなら、これから、もっと良い人生にして欲しいな、って思います」

古鷹「それでこそ、私も、戦う意義が……命をかける理由があると、感じられますから」ニコッ

クルー2「……」

クルー1「う……」ジワッ

留提督「……あんた……いや、あなたの、名前は……?」

古鷹「私ですか? 古鷹と言います」

留提督「ふる……ま、待ってくれ、もしかして、加古の……」

古鷹「はい。加古は私の姉妹艦です」

留提督「……なんで……なんでだ!? 俺は、加古を沈めたかもしれなかった……いや、それくらいのことをしたんだぞ!」

留提督「なのに、なんで……」

778: 2021/12/05(日) 22:33:33.43 ID:1mbWFkSso

古鷹「結果的に、加古が助かったからというのもありますが……」

古鷹「戦争に於いては、誰を憎んでも仕方ないと思うんです。それと、これもさっき言いましたけど……」

古鷹「私は、こうやってお話しできた人たちが、みんな幸せになれればいいな、って、思ってるだけなんです」ニコ

留提督「……」

古鷹「だから、この島で二人の方が亡くなられたのは本当に……残念で」ウツムキ

古鷹「だからこそ、これ以上、悲しくなるような事件が起きなければいいな、って思っているんです」

留提督「……」

古鷹「……ごめんなさい、話し込んじゃいましたね。朝餉、冷めないうちにお召し上がりください」ペコリ

留提督「あ……」

 タタタッ…

留提督「……」

クルー2「……」

クルー1「……」

クルー7「……ぐすっ、ぐすっ」

クルー2「……飯、食いましょーよ……」

クルー1「……ああ」

留提督「……」

留提督「……しょっぱい」

クルー1「留さん……」

クルー2(あの人が泣いてるとこ、初めて見た……)

留提督「しょっぱいよ、このおにぎり……」ボロボロボロ

779: 2021/12/05(日) 22:34:33.58 ID:1mbWFkSso

 * 同時刻 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

提督「あれ? お前……」

士官(←もと中佐の部下1)「……お前のおかげで散々な目に遭ったぞ、ちくしょうめ」

提督「散々? そうか? あれの下で働くよりはずっと快適だろ?」

士官「うるさい。中将に顔を覚えてもらうチャンスだったのに」

提督「お前の狙いはそっちか。大和を連れてったついでに、か?」

士官「ああそうだ。だが、あの大和、本営で噂になるほどの問題児らしいな?」

提督「らしいな。俺も詳しく聞いてねえが、少将相手にやらかしたとかいう話は聞いてる」

士官「はぁ!? そりゃやらかしすぎだろ!! 聞いてねえぞそんなの……無茶苦茶じゃねーか」

提督「今は大和のことはいいだろ。今やらかしたのはあいつらだ、とりあえず連れ帰ってもらえるんだろ?」

士官「ああ、呉に戻ったら呉の大将直々に審問するらしい。遠大佐は降格ののち、おそらく余所に転籍になるだろうがな」

提督「転籍、ねえ」

士官「海外の泊地に左遷されるはずだ。早い話が不始末だからな、この島に置いていこうかって話もあったくらいだ」

提督「あぁ!?」

士官「露骨に嫌そうな顔すんな。中佐が大将に頭下げてやめてくれって頼んだらしいから、その話はなくなったぞ」

提督「……ふーん」

780: 2021/12/05(日) 22:35:48.40 ID:1mbWFkSso

士官「なんだその反応は。遠大佐たちが島に留まるのが嫌だったんじゃなかったのか?」

提督「留まられるのは当然嫌なんだが……中佐がやめろと言う話も、多分そうなるだろうと予測できてたからな」

士官「……どういう意味だ」

提督「俺が中佐にとって不都合なことをいろいろと知ってるせいで、俺と他人とを接触させたくねえんだよ」

士官「……だから、お前はこの島で隔離されてる、ってことか?」

提督「中佐の望みは俺がこの島で野垂れ氏ぬことだ。ただ、下手に中将と関わりがあったせいで、俺を故意に氏なせるのは難しい」

提督「だからあいつは、この島に放り込んで提督として着任した扱いにして、勝手に氏んでくれるのを待ってんのさ」

士官「いったい何をしたんだお前は……」

提督「何もしてねえよ。あいつが勝手に俺を疎んでこの島に閉じ込めたのが悪い。ご丁寧に初期艦や大淀、明石の着任も妨害してやがったしな」

士官「はぁ!? それをどうやってここまで……」

提督「それこそいろいろあったんだよ。俺の素性くらい中佐の部下だったんなら知ってんだろ?」

士官「生憎と俺は何も聞いてない。そもそも俺は中佐の下じゃ3か月も働いてないんだぞ」

提督「ほーん……」

士官「本当は中将の下で働きたかったんだ。息子である中佐に認められれば、中将にもお近づきになれると思ってたんだが……お前のせいで台無しだ」

提督「そりゃあどうかねえ……それより、今は呉の大将と仕事できてんだろ? 好転してんじゃねえのか」

士官「残念ながらそれも今回だけだ。呉の重鎮にはこの島との関わりを異様に嫌がるお方もいるせいで、俺は今回限りの使い捨てだよ」

提督「そいつはまた面白くねえ話だな」ウヘェ

士官「ああ、まったくだ」ムスッ

781: 2021/12/05(日) 22:37:18.66 ID:1mbWFkSso

提督「ところで、鹿島たちの艤装はどうした? この船、昨日あいつら乗せて来た船と違うよな?」

士官「そっちの船は、本営に回ってからこっちに来る手筈になってる。おそらく明日になるだろう、早くても今夜だな」

提督「なんだそりゃ?」

士官「遠大佐……というか留たちテレビ関係者の荷物を、本営の中佐に届けることになってるんだ」

提督「中佐に? じゃあ、お前もこの後あいつに会うのか?」

士官「いいや、さすがに中佐とはもう顔を合わせづらいからな。俺の仕事は、ここへ来て遠大佐たちの身柄を確保するのと引き渡しまでだ」

士官「あの船に乗って鹿島たちの艤装を持ってここに来るのは、別の『提督』だ」

提督「なんだそりゃ? 二度手間じゃねえか? 今の時点でこいつらがカメラ隠し持ってたらどうすんだ」

士官「それはそれで回収するさ。とにかくテレビ局の連中は、全部着替えさせて衣服も全部回収しろってお達しだからな」

提督「身ぐるみ剥げってか」

士官「中佐が、この島で撮影された内容を全部精査するって息巻いてるんだよ。放送可能なシーンを選んでテレビ局に返すんだと」

士官「だから今ある荷物はすぐさま全部回収するし、こっちにいる奴らが隠し持ってる荷物も全部回収する」

士官「二度手間だろうとなんだろうと、急いで全部持ってこい、というお達しなんだそうだ」

提督「……随分焦ってやがんな」

士官「まあ、仕方ないと言えば仕方ないんだよ」

782: 2021/12/05(日) 22:39:03.18 ID:1mbWFkSso

士官「今や艦娘の存在は、過熱しすぎてて食傷気味になる程度にはブームになってる。あの二世タレント軍団はそれに乗っかりたかったんだろう」

士官「そんなご時世に、実は艦娘が轟沈してるだの、こんな島があるだの、そんな話が流れたらどうなるか想像してみろ」

提督「まあ、間違いなく面倒臭いことになるか……」

士官「そういうことだ。暫くはメディアを迎合していた海軍全体が、今じゃ引き締めにかかってるからな」

士官「特にこの島には外に出せない事情が多すぎるとか……俺も詳しく聞けなかったんだが」

提督「ふーん……だとすると、テレビ局というより、俗にいうパパラッチ連中には間違いなくこの島はスクープの種になると思うんだが」

士官「そうならないように大将が釘をさすらしいぞ? 緘口令も出るし、轟沈させるなってお達しも……」

提督「いやいや、そういう意味じゃねえよ、これからの話じゃない。昨日今日でこの島で起こったことの話だ」

提督「あいつらが今回撮影した動画とか、衛星通信とかで直接テレビ局に送ったりされてたら、その時点でアウトだろ?」

士官「んん……そういう話なら、今回はそこまで心配はいらないはずだな」

提督「そうなのか?」

士官「動画ってのは必然的にデータサイズがでかくなるからな。こんな離島から衛星通信使って送信したんじゃ、金と時間がかかりすぎる」

士官「こんな離島からスマホで転送できる動画の量なんてのもたかが知れてるし……」

士官「テレビで使いたい映像をリアルタイムで撮る気で来たんなら、できれば転送用の専用の通信機材と、それ用の電源がないと無理だな」

士官「連中が乗って来た船にバッテリーが入ってた鞄があったし、予備を持ち歩いてなけりゃあ撮影の継続もできなかっただろう」

提督「つうことは、情報は漏れてないと見ていいのか……?」

士官「希望的観測だが。送信履歴を遡ってみるが、多分、奴等のスマホから外には出てないはずだし、撮影用のカメラにも通信機能はなさそうだ」

783: 2021/12/05(日) 22:41:21.37 ID:1mbWFkSso

士官「どのみち、こいつは没収して中佐に送って、中身が見られないことを確認することになるだろう」

士官「写真数枚なら送ってる可能性もあるが、普通に撮影機材一式を持ち込んでるし、ピンポイントでスマホで数枚だけ、ってのは考えにくい」

提督「このメモリーカード? だったか、こいつも全部ぶち割って水に浸したけど、これも持っていくのか?」

士官「ああ、これはこれで復元不可能だってことを確認するためにも、全部持っていく」

提督「そうか。連中が持ってきた缶ビールの空き缶とかはどうする」

士官「それはさすがにお前んとこで処分しろ」

提督「なんだ、つまらねえな」

士官「なんだじゃねえよ、ゴミ回収まで俺に押し付けんじゃねえ」

提督「留提督連中も同じゴミなんだから、いいじゃねえか」

士官「生ゴミだろ? 離島だからってゴミの分別サボんじゃねえ」

士官「とりあえずテレビ局の関係者8人と、遠提督を連れてきてくれ。あと6隻の艦娘もだ」

士官「ただ、艦娘の回収はこの船じゃ行わないぞ。留提督と遠大佐がやったことを事情聴取するだけだ」

提督「それなんだが、テレビ局関係者は2人ほど氏体になったぞ。いわゆる土左衛門だ」

士官「っ!! そりゃ本当か?」

提督「ああ。お前の言う通りの生ゴミだ」

士官「マジかよ……ったく、頭が痛えな……」

提督「それから、遠大佐も狂ったから、秘書艦がいないと話になんねえかもしれねーぞ?」

士官「はああ!? どういう意味だそりゃああ!」

提督「見たほうが早えぞ」ハァ…

士官「……やっぱとんでもねえな、この島は……」

802: 2021/12/19(日) 21:39:02.61 ID:WmSDkBawo

 * それからしばらくして *

 * 埠頭 *

利根「……と、いうわけでの」

提督「鳥海がおかしくなったってか」アタマカカエ

暁「た、確かにショックよね……鳥海さん、遠大佐を信じてたみたいだし」

利根「とりあえず鳥海には、明石に鎮静剤を打ってもらって眠らせておる」

利根「ほかにも朧も立ち直っておらんし、大和も泣きながら如月に連れられて部屋に行くところを見た」

暁「大和さんが?」

提督「なんでそっちにまで飛び火してんだよ……」

利根「すまんが、そちらの二人もおぬしからフォローしてもらえまいか」

提督「いやまあ行くけどよ……あいつら、どんだけこの鎮守府引っ掻き回してくれてんだよ、くそが」

暁「……そういえば……ねえ、司令官?」

暁「さっき巡視船に乗り込んでいった留提督たち、落ち込んでいたっていうか……反省してたみたいな感じだったけど、司令官がなにかしたの?」

提督「うん? いや、俺はあいつらには砂浜で文句言っただけだぞ? むしろ、もうちょっと反抗的な目を向けられると思ってたが」

利根「ああ、それは古鷹のせいらしいぞ?」

提督「古鷹? あいつ、あいつらと話したのか?」

803: 2021/12/19(日) 21:40:02.72 ID:WmSDkBawo

暁「どういうこと?」

利根「古鷹が朝餉を持って行って、優しい言葉をかけたそうだ。提督が砂浜で打ちのめした直後であろう? 効果覿面である」

提督「……ったく、あれほど念押ししたのに、結局なにか話したのかよ」

暁「いけなかったの?」

提督「今となっちゃあ、いいけどよ。これ以上俺たちがあいつらと接触することもねえだろうし、古鷹がなにか悪い影響受けてなきゃ、それでいい」

暁「ふーん……」

提督「古鷹にあいつらとの接触を控えろって指示してたのも、連中を下手にもてなして調子に乗らせないようにしたかったってのと……」

提督「あいつらが加古を轟沈させてるから、そもそも近づけさせたくなかったってのと」

提督「あとは、雷に関わってお人好しが悪化しないようにしたかった、って意図があったんだ」

暁「……その……ごめんなさい」

提督「そこは暁が謝るなよ。いくら姉妹艦だからって、今回来た雷とはほぼ関わってないだろ? 俺がいろいろ仕事を押し付けたせいでな」

暁「それって、私が雷を見てショックを受けないようにって気を使ってくれてたわけでしょ?」

提督「この鎮守府に古鷹が来たときのこと、覚えてるか? それこそやりすぎだったからな」

提督「あんまりな姿にショックを受けさせたくなくて接触を控えさせてたわけだが……」

暁「大丈夫だと思ってた最後の最後に、とんでもない爆弾を投げつけられた感じよね……」アタマオサエ

804: 2021/12/19(日) 21:40:47.76 ID:WmSDkBawo

利根「ふむ……欲望というのは単純であればあるほど強くなるからな。遠大佐は余程、母性に飢えていたんだろうよ」

提督「母性、ねえ……ん?」

利根「む? あれは……千歳たちか?」

提督「なんだあいつら、もう戻って来たのか?」

 (埠頭に寄港している巡視船から降りてくる千歳たち)

千歳「あら、准尉! わざわざ待っててくださったんですか?」

提督「ん……まあ、そんなところだ。事情聴取は終わったのか?」

千歳「ええ、思った以上にすんなり終わりましたよ。当時の状況はガンビアベイちゃんが理路整然と説明してくれましたし」

提督「理路……あの控えめな性格でか?」

ガンビアベイ「私の国は、訴訟大国ですから……」エヘヘ

提督「あー、なるほど。お国柄とはいえ、あんまり嬉しくねえ適性だな」

足柄「テレビ局の6人も、一部しぶしぶだけどやったことは認めてるし、遠大佐以外は早いうちに解放されてたわね」

暁「それで雷が帰ってきてないのね……」アタマカカエ

提督「……まあ、骨が折れるだろうな、あれは」

805: 2021/12/19(日) 21:41:33.52 ID:WmSDkBawo

鹿島「その、なんと申し上げたら良いか……私たちの提督が申し訳ありません」

提督「いや、それで鹿島が謝るのはおかしいだろ。お前たちだって被害者なんだぞ」

暁「そうよ! それより鹿島さん、早くそのお顔、治療しに行きましょ?」

利根「うむ、ここに来た呉の関係者に見せるためとはいえ、その青あざをそのままにしておくのは、この鎮守府に所属する者として申し訳が立たん」

利根「いくら時間がたてば消えると言っても、怪我は早期治療が肝要じゃぞ」

鹿島「で、ですが……」

提督「その怪我は俺が連中を焚きつけた結果だ、鹿島が委縮する要素はどこにもない。俺が言うのもおこがましいが、治療を受けて行ってくれ」

鹿島「……」

山風「鹿島さん……!」

ガンビアベイ「鹿島……!」

鹿島「……わかりました」コク

提督「よし、利根、修理ドックまで案内を頼む」

利根「うむ、任されよ」

山風「私も、鹿島さんについてく……」

ガンビアベイ「Yes, 同行します」

 ゾロゾロ…

806: 2021/12/19(日) 21:42:33.00 ID:WmSDkBawo

提督「早期治療か……利根が言うと説得力が違うな」

暁「司令官、利根さんって確か……」

提督「ああ、一緒に風呂に入りたがらない理由がそれだよ」

暁「そうなんだ……」ウツムキ

提督「さてと、雷だけここに戻ってきてないが、そもそも戻ってくるのか?」

足柄「どうかしら……遠大佐のあのはっちゃけぶりだと、雷と離したら発狂するんじゃないかしら」

暁「そんなにひどいの……?」

足柄「遠大佐がはっちゃけたせいで、留提督の企みもわかったのが良かったのか悪かったのかなんだけど……」

千歳「留提督の目的は、単純に芸能界での力を得ることだそうです。海軍に所属して艦娘を率いたとなれば、それだけで知名度は段違い」

千歳「親の七光りなんて言われたくなくて、自分独自の……と言っても親のコネを使ってるわけだけど、独自の地位を築きたかったみたい」

提督「軍人系アイドルってか。斬新だな」

千歳「誰かの二番煎じを避けたかった、という意図があったのなら、まあまあいいところに目を付けたとは思うけど……」

千歳「初手で鳥海と加古を沈めましたからね。スタート地点がマイナスじゃ格好がつかないから、なんとかサルベージしようって話になって」

千歳「彼らか墓場島のことを知ったのは、それからみたいですね」

807: 2021/12/19(日) 21:43:33.12 ID:WmSDkBawo

足柄「この島の話はあちこちで誇張されてるみたいなの」

足柄「やれ提督が艦娘を奴隷にしてるだの、囚われた艦娘が帰れなくて困ってるだの、どこまで本当かがわからないくらいよ?」

暁「もう……誰も見てもいないのに、どうしてそういう話になるのかしら」

提督「まあ、噂話なんてだいたいそんなもんだ」ハァ

千歳「それから、留提督は、轟沈した艦娘が深海棲艦になるかもしれないって話を知らなかったようです」

提督「本当かよ?」

千歳「意図的に情報が止められてたみたいで、ディレクターのクルー1さんしか知らなかったみたいですね」

足柄「6君と一緒に飲んでたときもその話になったけど、彼も知らなかったって言ってたわね」

足柄「連れて帰って何か起きたら誰が責任を取るんだ、って頭を抱えてたわ」

足柄「そういえば千歳も昨日言ってたわよね。あの人たち、やってしまえばこっちのもの的な考えがあるって」

提督「面倒が起きたら海軍に丸投げ、何も起きなきゃあいつの手柄、ってか?」

千歳「ええ。それに加えて、どさくさに紛れて准尉さんの功績も奪うつもりだったんじゃないかしら……」

提督「あいつらには手に余る話だと思うがな」

暁「……ねえ司令官? 私たちがこの島を出てもいいって判断するのは、本営の人たちになるの?」

提督「ん? ……多分、そうなるな。ぶっちゃけ俺は本営がそんなことはしないと思ってるが」

808: 2021/12/19(日) 21:44:32.61 ID:WmSDkBawo

暁「えっと……一番長くいるのは如月と不知火よね? 次が吹雪と朧?」

提督「だな。ただ、不知火は本営の中将麾下だから、ちょっと都合が違うな」

千歳「え、ちょっと待って。本営中将って……」

提督「今言った通りだぞ。不知火は俺の部下じゃなくて、本営中将の部下なんだ」

提督「この島には憲兵も特別警察もいないだろ? 不知火にはその代わりにお目付け役をしてもらってる」

提督「だから今回の騒ぎも不知火には中将に直接報告してもらうつもりだ」

足柄「ちょっとぉ、一番最初にその話をしなさいよ。話してたらこの島に乗り込まれずに済んだんじゃないの?」

提督「さあ、どうだろうな? あまり中将に頼りたくないってのもあるが、それを伝えても強引に押し切られる前提で考えてたからな」

提督「あいつらが言って素直に聞く連中とは思えないし、この島にメディアが来たらこうなるぜ、って見せしめを作りたかったってのもあるしな」

足柄「見せしめって……」ヒキッ

提督「だからこそもうちょっと念入りにすり潰しておきたかったんだが……しょうがねえ、あとは中佐けしかけて追い打ちかけとくか」

千歳「そ、そこまでやる必要あります?」

提督「何度も言ってるが、俺が外の人間と関わりたくないんでな。二度と起き上がれない程度にやりすぎるくらいで丁度いい」

暁「……司令官。そういうの、ほどほどにしたほうがいいわよ?」ジト

提督「やめとけってか? しゃあねえな」カタスクメ

809: 2021/12/19(日) 21:45:17.72 ID:WmSDkBawo

暁「やりすぎて余計な恨みを買わないほうがいいでしょ? もう」ヤレヤレ

足柄「な、なんかここの暁ちゃん、大人びすぎてない?」ヒソヒソ

千歳「そ、そうね……以前もこんな感じでびっくりしたけど」ヒソヒソ

暁「……それから、さっきの話の続きなんだけど。如月って、ここへ来て1年以上経ってるわよね?」

提督「ん? そうだな……1年半くらい経つか?」

暁「それまでずっと、司令官が様子を見てきたんでしょう? 普通の鎮守府に戻れる判断基準とか、決まってないの?」

提督「まったくないな。俺は俺でこのままでいいと思ってたし、向こうから働きかけてくることもなかった」

提督「とはいえ、放置し続けるのも問題か。俺たちが受け入れ続けるにも限界があるしなあ」

提督「持ち直した奴を戻してやるってのも、真面目に考えねえと駄目な時期にきたってことかねえ」

暁「司令官。そこで『面倒臭い』はなしよ?」

提督「なんでだよ。やることはやるから、そうぼやくくらいは許してくれよ。手続きにしろ調査にしろマジで面倒臭えんだからよぉ」ハァ…

提督「この島から送り出す先の相手を探すのも骨が折れるぞ? それなりに……いや、それなりじゃなく信頼できそうな安心できる相手を探さねえと」

足柄「心配しすぎじゃないの?」

提督「しすぎなもんかよ。送ってやった先が中佐や留提督みたいなくそ野郎だったりしたらどうすんだ」

810: 2021/12/19(日) 21:46:02.94 ID:WmSDkBawo

暁「……司令官って、お父さんみたい」

提督「あぁ?」

暁「だって、そうでしょ? 司令官のお父さんはそうじゃなかったんだろうけど」

暁「お父さんっていうのは自分の子供を心配して、それが娘だったら『お前のような男に娘はやらん』みたいなことを言うんでしょ?」

提督「どっから仕入れてんだよ、そういう俗な知識……」

足柄「でも、よくあるシチュエーションよね。『お義父さん、娘さんを僕に下さい!』『貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!』みたいな!」

提督「お前もそこで暁に変な知識吹き込むんじゃねえよ」

足柄「その反応がもう完璧に、娘を持つお父さんと同じじゃないの」

暁「ねー?」

提督「……」

千歳「お父さん、ねえ……」ウーン

千歳「ねえ、足柄? 留提督のお父さんって、どのくらい海軍に顔が利くのかしら」

足柄「へっ? どのくらい……って、民間人でしょ? そんなの、たかが知れてるんじゃないの?」

提督「いや、なんか、あいつの父親は有名人らしくて、海軍に金を出してるとか言ってやがったぞ?」

足柄「そうなの!?」

千歳「足柄……また聞いてなかったの?」ガックリ

足柄「えへへ……」

811: 2021/12/19(日) 21:46:48.01 ID:WmSDkBawo

暁「留提督のやってることがすごく行き当たりばったりな気がするのも、そのせい?」

提督「かもなあ。金があるから好きにさせろ、って頭はあるかもしれねえな」

暁「うーん……だからって、鹿島さんを殴るなんて、やっぱりおかしいわ! やっていいことと悪いことの区別もつかないのかしら!」プンスカ

提督「それこそ区別つかなかったんだろうよ。あいつらの生きてる世界はまた特殊で、注目を集められる人間こそが正義ってところがある」

提督「芸能界なんて、いるだけで特別扱いされる世界だし、それこそここでも特別扱いしてもらえるって目算もあったんだろ」

提督「ただ、芸能人なら体裁を気にすると俺は思ってたんだ。色恋沙汰のスキャンダルくらいならありふれてるが、暴力はそうはいかねえ」

提督「だから煽ったんだが、そういうラインを平気で越えてくる輩だと見抜けなかったのは、俺の落ち度でしかねえよ」

暁「そういうのがテレビの世界なの? 幻滅しちゃうわ……」

提督「俺個人の色眼鏡がかなり強く入ってるから、全部が全部そういうわけじゃないだろうがな」

提督「暁はどうなんだ? お前、自分がテレビに映ったりしたら嬉しいか?」

暁「うーん……それはわかんないけど、どうせ映るなら、もっと立派なレディーになってからにしたいわ。今だとまだ子供に見られそうだし」

足柄「もう十分に大人びてると思うんだけど……」

千歳「どんな育ち方をしたらこんなに大人びた子になるのかしら……」

812: 2021/12/19(日) 21:47:33.11 ID:WmSDkBawo

提督「そうだなあ、俺なんか目立ちたくも他人と関わりたくもないから撮影拒否してんだ。暁と比べたらくそガキもいいとこだぜ」ヘッ

暁「司令官はそうやって、自分を悪く言うのやめてよねって、みんな言ってるでしょ?」ジトッ

提督「へいへい、悪かったよ」

足柄「ちょっと准尉? 暁ちゃんの精神年齢、高すぎない?」

提督「それは別にいいだろ、暁はレディーになりたいって言ってんだから。俺たちが困るようなことあるか?」

提督「むしろ、そうありたいって望んでんのに、それを俺たちの感情で、見た目通り子供らしくしろって言うのこそ理不尽だろ」

足柄「そ、それもそうだけど……」

暁「大丈夫よ、暁はレディーなんだからそのくらい気にしてないわ。むしろ大人に見られて光栄だって思わなきゃ」

千歳「対応が大人過ぎるわ……」

暁「でしょ?」ニコ

千歳「笑顔が愛らしいだけにますますギャップが……ううん、こういう物言いこそ失礼な話ね。ごめんなさい」ペコリ

暁「ふふっ、いいのよ! 間違いは誰にだってあるんだから!」

提督「笑って済ませられる間違いならいいんだがなあ……なあ暁、応援を呼ぶからこの場を任せていいか?」

暁「?」

提督「そろそろ朧たちのフォローも入れてやらねえと、と思ってな」

818: 2021/12/26(日) 19:51:01.34 ID:TSQ7cZ5Qo

 * 鎮守府正面入り口 *

物陰から提督を見ている榛名「……」コソッ

提督「……? 榛名はさっきから何やってんだ」

榛名「はっ!? 榛名の気配に気付いたのですか!?」

提督「気付くも何も、あれで隠れてたつもりか? めっちゃ物陰から体を乗り出してただろ」

榛名「そ、そうでしたか……」

提督「どうかしたのか? 話しづらいことでもあんのか?」

榛名「は、はい! その……提督は、あの、大丈夫ですか?」

提督「……端折りすぎだろ。それじゃ何が大丈夫なのかわかんねえよ。なんとなく言いたいことの察しはつくが」

榛名「も、ももも、申し訳ありません!」オタオタ

提督「まあ確かに、神経すり減らされる出来事ばっかりで、疲れたってのは正直あるな……この二日間でいろいろありすぎだ」ハァ

榛名「そ、それでしたら提督!」パァッ

榛名「榛名をお母さんだと思って甘えてくださっても」リョウテヒロゲテ

提督「そういう冗談はよせ」アタマツカミ

榛名「はう!? も、申し訳ありまあああひぃいいいい!?」メキメキッ

819: 2021/12/26(日) 19:51:46.29 ID:TSQ7cZ5Qo

提督「お前、俺を心配して来たっぽいのに、逆効果なことやってどうするよ?」ハァ

榛名「はうぅ……も、申し訳ありません。ですが、提督も、両親と呼べるご家族がいなかったのを思い出しまして……」

提督「……」

榛名「榛名は心配なんです。提督は、いつもご自身より艦娘のことを案じておられます。いつも私たちを支えようと、気を張っておいでです」

榛名「提督はいつお休みになられているのか、気の休まるときがあるのか……」

榛名「提督が身を預けて休めるような、心の支えと呼ぶべき人が、提督にはおられませんので、榛名がその代わりになれればと……」シュン

提督「そんな顔すんな。むしろ、俺はお前らのために働いてる時の方が、俺はしっかりしていられる気がするんだ」

提督「お前ならわかるだろ? 俺もこうやって普通に接してくれる相手が妖精しかいなかったからな。それだけでもありがたいと思ってる」

榛名「……!」

提督「心配してくれたのに、悪かったな」ナデ

榛名「提督……!」ウルッ

提督「ところで、鳥海のことで金剛に相談したいことがあるんだが……」

榛名「そ、そうでした! 鳥海さんが大変なんです!」

提督「ああ、そいつを利根から聞いてな。それでちょっと頼まれてほしいことがあるんだが、頼んでいいか?」

820: 2021/12/26(日) 19:52:31.28 ID:TSQ7cZ5Qo

 * 鎮守府内 朧の部屋の前 *

提督「さてと……」

 コンコン

提督「……」

 扉<キィ…

潮「て、提督! 来てくれたんですね……!」

提督「おう。まだ朧は立ち直ってねえか」

潮「は、はい……」チャッ

提督「朧、入るぞ」

(ベッドの中の朧が枕に顔を突っ伏して布団をかぶりうずくまっている)

朧「」ズォォォ…

提督「……放ってる空気がくっそ重てえな。こんな朧は初めてだ」

潮「昨日からずっとこんな調子で……朧ちゃん、提督が来てくれたよ……!」

朧「……」ドヨーン

提督「なんつうか……朧も結構潔癖だったってことか?」

潮「そ、それは、わかりませんけど……」

821: 2021/12/26(日) 19:53:16.20 ID:TSQ7cZ5Qo

提督「おい、朧」

朧「……」

提督「朧?」ツンツン

(ゆっくりとかぶっていた布団をまくって顔を出す朧)

朧「……」モソッ

提督「うお……お前、目の下のクマがすげえぞ。眠れてないのか?」

朧「……」ジトッ

提督「おい、おぼ……うお!?」ガシ グイッ

(朧が手を伸ばして提督の手を取り、そのまま提督を引き寄せる)

提督「お、おい、急に引っ張るな! 危ねえだろ……!」

朧「……」

提督「……本当にどうしたんだ?」

朧「……提督の……」

提督「?」

朧「提督の手は、どうしてこんなに安心するんですか……」ギュ

提督「朧……?」

822: 2021/12/26(日) 19:54:01.19 ID:TSQ7cZ5Qo

朧「あの知らない人に触られたときは、すごく嫌な……気持ち悪い感じがしたのに……」

朧「提督に……提督の手に触れられてると落ち着くのは、なんでなんですか……」

提督「……」

朧「あのとき……提督に、頭をなでられたとき、すごく……嬉しくて」

朧「こうやって、提督の手を、頬にあてると……胸の奥が、ぽかぽかしてきて……」スリ

朧「離れたく、なくなる……」

提督「……」

提督(困ったな……潮はどこ行った?)キョロ

物陰に隠れた潮「……」ドキドキ

提督(いつの間にかいなくなりやがった……)タラリ

朧「提督」

提督「」ドキ

朧「もっと、こっちに来てください」ジッ

提督「あ、ああ」

朧「もっとです」グイ

(朧が座るベッドの端に、屈んだ提督の膝が付くくらいに近づける)

提督(……目が怖え)

823: 2021/12/26(日) 19:54:46.23 ID:TSQ7cZ5Qo

朧「うふふ……えいっ」ダキツキ

提督「っ!? ……ったく、お前、本当に大丈夫かよ」

朧「駄目です」

提督「……」

朧「だから、もっと触ってください」

提督「触れって……こ、こうか?」ナデ

朧「ん……」ニヘラ

朧「アタシ、こっそりとですけど、いいなあ、って思ってたんです。金剛さんとか、大和さんとか」

朧「みんな、こうやって、提督にくっついて、なんの躊躇もなく、ぎゅって、できるじゃないですか」

朧「アタシはそういうタイプじゃないし……自分でも、違うなあ、って思ってたんです」

提督「……」

朧「でも、朧、気付いたんです。提督に頭をなでて貰えたの、嬉しくて」

朧「もっと、触って欲しいなあ、って」スリ

提督「……」

824: 2021/12/26(日) 19:55:31.11 ID:TSQ7cZ5Qo

朧「だから、こっちも触ってください」グイ

提督「!? お、おい……!」

朧「知らない人に触られた場所も、触ってください……!」

提督「……俺にセクハラしろってか」

朧「アタシが望んでたら、ハラスメントとは言わないでしょ?」

提督「かもしれねえけどよ……」セキメン

朧「まだ、一回しか、触って貰えてないんだから、いいでしょう?」ジトッ

提督「一回? 俺の記憶なら、一回じゃねえな」

朧「……え?」

提督「お前が砂浜に流れてきたときも抱きかかえていったし……」

提督「N中佐だったか? あいつをお前が問い詰めた日の夜、お前が意識不明のまま出歩いて倒れてたの、覚えてねえだろ?」

提督「そのときもお前を背負って部屋に連れてったし……」

朧「……」

提督「まあ、そのときにも、もしかしたら尻を触ってたかもしれねえんだが……」

朧「……」

825: 2021/12/26(日) 19:56:16.23 ID:TSQ7cZ5Qo

提督「……朧?」

朧「そう……ですか……」ニヘラ

朧「一回だけじゃ、ないんですね……」ギュ…

提督「……」

朧「……」

提督「おい……?」

朧「……」クテン

提督「! ……困ったな」キョロキョロ

潮「……?」チラッ

提督「ん? 潮、そんなとこにいたのか……!」テマネキ

潮「す、すいませ……」

提督「……」(←口元に人差し指を立てて静かに、と促す)

潮「? ど、どうしたんですか?」ヒソヒソ

826: 2021/12/26(日) 19:57:01.15 ID:TSQ7cZ5Qo

提督「……」(←提督の懐にもたれかかった朧を指さし)

潮「朧ちゃん……?」コソッ

朧「……すー、すー……」

提督「寝ちまったんだ」ヒソッ

潮「……!」

提督「寝付いたばかりだからな。もう少ししたら横にして寝かせるよ」

潮「は、はい」

提督「……それにしても」

潮「はい?」

提督「その……なんだ。あいつらに触られたところを触ってほしいとか……わけわかんねえ。意味わかるか?」

潮「うーん……嫌な記憶を、いい記憶で上書きしてほしかった、とか……」

提督「俺が、いい記憶になるのか……? 逆効果だと思うんだが……」

潮「あはは……でも、提督が嫌いだったら、朧ちゃんもそんなふうに、提督にもたれかかって眠ったりしないと思います」

潮「ほら、朧ちゃんもなんだか安心したような顔をしてますし……!」

提督「……そんなもんかねえ」セキメン

827: 2021/12/26(日) 19:57:46.25 ID:TSQ7cZ5Qo

潮「だと、思います。だから、あの……少しだけ、そのまま、動かないでくださいね?」

提督「ん?」

潮「わ、私も、提督にだったら、その……触っても、大丈夫、ですから」ウシロカラダキツキ

提督「潮!? お、お前……」

潮「あ、あの、ちょっとだけ、朧ちゃんが背負われてたの思い出して、ちょっと、いいなあって思ったので……」エヘヘ

提督「いきなりだからびっくりしたぞ。いいけどよ……」

潮「男の人の背中って、大きいんですね……」スリ

提督「……」

潮「こうしてると、提督って、お父さんみたい……」スリスリ

提督(また、お父さんみたい……か。そういうもんなのか?)

潮「……提督の心臓の音が聞こえる……」ギュ…

提督(あまり胸を押し付けないで欲しいんだがな……)タラリ

潮「……」

潮「……」

潮「……」ノシッ

提督「んん? ……まさか」

828: 2021/12/26(日) 19:58:31.24 ID:TSQ7cZ5Qo

潮「……スヤァ……」

提督「マジかよ……」ガックリ

提督「そういや長門から、潮はすごく寝付きが良いとか言われたことがあったようななかったような……」

朧「……すー……」

潮「……くー……」

提督「……動けねえ……やべえ、しゃがんでるせいで足も痺れてきた」

提督「くそ……誰か、誰か来ねえか……!?」

提督「そ、そうだ! 妖精! 誰かいるか!? 潮か朧の装備妖精、いるんだろ!?」

潮の装備妖精「ふえっ!?」ビクッ

提督「お前まで寝かけてたのかよ……悪いが、誰か艦娘呼んできてくれ」

提督「このままじゃ俺も動けねえし、二人をちゃんと布団に寝かせてやらねえと。誰かの手を借りたいんだ」

潮妖精「わ、わかりましたー!」スクッ ピューーン

提督「誰か都合よく来てくれると助かるんだが……くっそ、榛名に一緒に来てもらった方が良かったか?」

829: 2021/12/26(日) 19:59:16.98 ID:TSQ7cZ5Qo

 * 数分後 *

提督「……」プルプル

提督(前後から力いっぱいのしかかられて、筋トレ状態だぞ……)

提督(潮の装備妖精はまだか……? 朧の装備妖精も一緒になって寝てるし、俺の妖精はどっか行ってるし)

提督(っつーか、妖精には昨日働いてもらったから休んどけって言ったばっかりだったな、そういや……)ガックリ

提督(くそ、マジできついぞ……まだ数分しか経ってねえよな?)

 タッタッタッ…

提督「来たか……!?」

潮妖精「連れてきましたー!」シュタ!

大和「……提督……?」

提督「大和か……ちょっと手を貸してくれ。動けなくて困ってんだ」

大和「は、はい、今参ります……!」ササッ

提督「とりあえず背中の潮を引っぺがしてくれ。起こさないようにゆっくり頼む」

大和「わ、わかりまし……」

830: 2021/12/26(日) 20:00:01.51 ID:TSQ7cZ5Qo

潮「むにゃ……」グイッ

提督「うお……っ!?」ヨロッ(←よろめいて前に倒れて朧を押し倒す)

 ドサッ

大和「て、提督! 大丈夫ですか!?」

提督「……あ、あぶねえ……! もうちょっとで朧を押しつぶすとこだったぞ……!」

大和「提督、急に倒れ込んだように見えましたが……」

提督「ずっとあの体勢でいたから脚が痺れたんだよ。おかげで全然踏ん張れねえ」

提督「とにかく俺の背中から早く潮をどかしてくれ。身動き取れねえ……」

大和「は、はい! ……がっちり抱き着いてますね……提督、潮ちゃんの手をほどけますか?」

提督「ああ……つか、なんか首筋が冷てえんだが」

大和「潮ちゃんのよだれです……」

提督「……」

839: 2022/01/30(日) 21:39:51.60 ID:xuaBtb3Vo

 * 朧の部屋の外 *

大和「提督、お疲れ様でした」

提督「ああ。ところで……そろそろおろしてくれ」(←お姫様抱っこ)

大和「まだ足の痺れが残っておられるのでは?」ツン

提督「ひうっ!?」ビクッ

大和(反応が可愛い……)

提督「くそ……ま、まあ、そうだけどよ……」プイ

大和「でしたら、もうしばらくこのままで」ニコー

提督「誰も来ないといいけどな……つうか、俺はこのあとお前のところにも行こうとしてたんだが」

大和「えっ!? そ、そうだったんですか!?」パァッ

提督「お前も泣いてたとか聞いたからだよ。昨日から立ち直れてなかった朧を優先してこっちに来てたんだ」

大和「そ、そうでしたか……ご心配おかけして申し訳ありません」

提督「遠大佐のあの言動で鳥海や加古がショックを受けるのはわかるが、なんでまたお前が泣き出したんだ?」

大和「それは、その……やはり、私が提督に甘えるのが、おかしいのか、と、思いまして……」

提督「……」

840: 2022/01/30(日) 21:40:35.29 ID:xuaBtb3Vo

大和「音声を聞いた限りですが、遠大佐があの小さな駆逐艦に甘えていたのを聞いて、私も少なからず眩暈を覚えました」

大和「そう思うと、この大和が、提督に甘えようというのはやはり間違っているのではと……」ウルッ

提督「まだ悩んでたのかよお前。外聞が気になるんなら、露見しなきゃいいんじゃねえの?」

大和「……」

提督「恥ずかしいなら隠れてやりゃあいい。遠大佐も大っぴらにしたから俺たちからドン引きされたわけだろ?」

大和「提督……!」

提督「そもそも、お前の場合、今更恥ずかしがることもねえんじゃねえか? 昔っから俺にくっついてたわけだし」

提督「向こうで鳳翔に叱られるまでは、しょっちゅう俺にくっついてきてたろ」

大和「……あ、いえ、それは、その……」セキメン

提督「なおかつ、お前は俺に甘えたいって言ったし、俺はそれを聞いたからな。今更やめろなんて言わねえよ」

提督「周囲の目が気になるんなら、事情を説明して理解者を増やすか、二人だけの時だけそうするか……ってのが解決策だろうな」

大和「よ……よろしいん、ですか?」

提督「いいも悪いも、それがお前の望みなんだろ?」

大和「……は、はいっ!」

提督「ったく、どいつもこいつも、なんで俺にそういうのを求めんだよ。俺を過大評価しすぎなんじゃねえの?」アタマガリガリ

提督「朧と潮もあんな感じだし……俺としちゃあ、早いとこ親離れしてほしいんだがな」

大和「お、親……ですか?」

提督「ああ、俺が父親みたいだと。ここに来る前に足柄や暁にも言われたし、潮にも言われたぜ。そんな器じゃねえと思うんだがなあ」

841: 2022/01/30(日) 21:41:19.47 ID:xuaBtb3Vo

大和「お言葉ですが提督? 提督は十分その器だと思いますよ? 提督は以前、私たちを家族だと言って下さったではありませんか」

提督「そりゃあ……まあ、言ったけどよ。大和から見たら、見た目の齢が近すぎて親子って感じでもねえだろ」

大和「ふふっ、それは仰る通りかもしれませんね」

大和(どうせなら、親子よりも、夫婦に見られたい……なんて)ポ

提督「くそ、なんか恥ずかしくなってきた……足の痺れも消えたな。大和、そろそろ降ろしてくれ」

大和「は、はい!」

 ストン

提督「ん、ありがとな。朧たちのことも、助かった」

大和「いいえ、お役に立てたようでなによりです」ニコ

提督「……」

大和「提督? 大和がどうかしましたか?」

提督「いや。さっき来た時は元気がなさそうに見えたんだが、今はそうでもねえかな、と思ったんだ」

提督「やっぱりお前はそうやって胸張って堂々としてたほうが、凛々しくていいな」

大和「そ、そうですか……?」ポ

提督「おう。背中丸めて縮こまってるよりかは、ずっといい。見てて晴れやかになる」

大和「……!」パァッ

842: 2022/01/30(日) 21:42:19.38 ID:xuaBtb3Vo

提督「あ、言っておくが、あくまで俺の勝手な感想だからな。お前が嫌なら無理しなくていいからな?」

大和「っ……もう、わかっておられませんね提督は」プク

提督「ん?」

大和「私は大和ですよ? このくらい無理でも苦でもありません。むしろ戦艦艦娘として当然の立ち居振る舞いです」

大和「なによりあなたからお褒めの言葉を戴いたことは、この大和の誇りであり誉れなんですよ?」

大和「それを二言目に無理するなと言われてしまっては……まるで私が不甲斐ないように思われているようで心外ですっ」プイ

提督「……あー、ま、それもそうか。それは悪かった」

提督「悪い意味にとらないでくれ。無理が来たら言えって言いたいだけだ」

大和「はいっ!」ニコニコ

提督「さて、ほんじゃあ次は鳥海んとこに行くか」

大和「大和もご一緒させていただきますね!」

提督「ん? おう」



筑摩「……」コソッ

武蔵「……」コソッ

筑摩「大和さん、背筋が伸びましたね」

武蔵「ふむ……立ち直ったと見て良さそうだな。提督が大和と何を話したか知らんが、私が口を出す必要はなさそうだ」

武蔵「良し、行こうか。付き合わせて悪かったな」

筑摩「いえ……」

筑摩「……」

843: 2022/01/30(日) 21:43:04.29 ID:xuaBtb3Vo

 * 入渠ドック内 医務室 *

鳥海「」ポケー

提督「目を覚ましてもこうだと、相当重症だな……」

大和「それでも明石さんが言うには、先刻より良い状態という話ですから……」

提督「鳥海もいい加減な真似ができねえタチなんだろうなあ。霧島が摩耶と相性いいのは、霧島が鳥海に似てるってのもあるのかもな」

大和(霧島さんが力技で押し込もうとする辺りは武蔵とも似てますけどね)

 扉<コンコン

金剛「テートク、榛名に聞きましたヨー。私に御用デスカ?」チャッ

提督「おう、呼び出して悪いな。ちょっと頼まれて欲しいことがあってなあ」ユビサシ

鳥海「」ポケー

金剛「鳥海……?」ヒキッ

提督「まあ、あれを聞かされちゃしょうがねえか……」

金剛「いったい何があったんデスカ?」

提督「? お前、あの遠大佐のやりとり、聞いてなかったのか」

大和「金剛さんはあのとき、霧島さんたちと一緒に埋葬を手伝っていましたから」

844: 2022/01/30(日) 21:43:34.36 ID:xuaBtb3Vo

提督「ああ、なるほど、そういうことか。金剛、実はな……」

 * かくかくしかじか *

提督「で、その話をしてたところを聞かせたら、こうなったんだとよ」

金剛「Oh, my ...」

提督「でだ。金剛、この落ち込みすぎて壊れてる鳥海に『あれ』をやってくれ」

金剛「アレ?」クビカシゲ

提督「なんて言ったらいいんだあれは? お前が自分に甘えろとか言って俺や霞にやった、捕まえて頭を撫でてた『あれ』だ」

金剛「Oh, アレは確かに……ナデナデとでも呼んだらいいんデショウカ?」

提督「どんな呼び名がいいかはわからんが、それを鳥海にやってほしいんだ。頼めるか?」

金剛「Yes ! 私にお任せくだサーイ!」

大和「て、提督? 本当にそれで大丈夫なんですか?」

提督「まあ見てろ。金剛のあれは俺ですら落ちかけたからな……」

大和「お、落ちかけた!? どういう意味ですか!?」

提督「落ちかけたっつうか毒を抜かれかけたというか……ちょっとなんて表現したらいいかわかんねえな」

845: 2022/01/30(日) 21:44:19.70 ID:xuaBtb3Vo

提督「とにかく、鳥海をまともに話ができる状態にしたいんだ。怪我してるんなら入渠させるし、寝てるんなら起こしてやるわけだが……」

提督「今回の鳥海は遠大佐の仕打ちというか、やったことに絶望しまくったわけだ。無理矢理叩き起こしても失意の底にまた沈んじまうだろう」

提督「沈んだ感情をサルベージしてやらねえことには、何を話しても破滅的な方向にしか進まなさそうだと思ってな」

提督「希望を持たせると言うか、気持ちを浮上させてやるっつうか……」

大和「金剛さんに癒してもらおう、ということですか」

提督「ああ、それだそれだ。今の鳥海に必要なのは、癒しなんだ。精神的、感情的にプッツンした糸を修復できるのはそれしかねえ」

金剛「鳥海~、楽にするデース」ナデナデ

鳥海「……」

金剛「ンー……鳥海、大丈夫デス、安心してくだサイ……」ギュ ナデナデ

鳥海「……」ピク

金剛「Okey, 体の力を抜いて……」ナデナデ

鳥海「……」ピクンピクン

提督「見ろ、何やっても無反応だったっつう鳥海が、金剛に撫でられて反応してる。こうなりゃそのうち覚醒するはずだ」

提督「金剛、この場は任せていいか?」ヒソッ

金剛「……!」smile & thumbs up

提督「ありがとな。大和、俺たちは部屋から出るぞ」

大和「は、はい」

846: 2022/01/30(日) 21:45:04.42 ID:xuaBtb3Vo

 * 医務室前廊下 *

大和「あの場に提督がいらっしゃらなくて良かったんですか?」

提督「鳥海がまともに話せるようになるまでは、まだ時間がかかんじゃねえかな。気持ちの整理もつけなきゃならねえしな」

提督「じきに摩耶も来るだろ。これからどうするかの答えを聞くのは、鳥海が金剛、摩耶とゆっくり話してからでも遅くはねえ」

大和「……提督もお優しくなりましたね」

提督「んん?」

大和「如月さんから聞きましたよ。以前のあなたなら、アイアンクローで無理矢理起こしていたのでは?」

提督「ああ、金剛がいなかったらそうしてたかもなあ」

 <ウワァァァン

提督「!」

大和「あれは……鳥海さんですね。感情が戻って来た、という感じでしょうか」コソッ

提督「みたいだな。あとは摩耶にフォローしてもらうか」

摩耶「提督!」タタタッ

提督「お、噂をすれば……って、多いな!?」

霧島「摩耶の姉妹艦の一大事ですので……!」

847: 2022/01/30(日) 21:45:49.63 ID:xuaBtb3Vo

提督「霧島や榛名はともかく、なんで比叡までいるんだ?」

摩耶「金剛型総出で轟沈艦娘の埋葬を手伝ってもらったおかげで早く来れたんだよ」

榛名「榛名は、まだお手伝いできることがあればと思いまして……」

比叡「私は金剛お姉様がこちらに来ていると聞いて!」

提督「比叡は野次馬かよ……とりあえず摩耶は早く鳥海を安心させてやってくれ」

摩耶「おう!」タタッ

利根「なんじゃ、何やら人の気配がすると思えばおぬしたちか」

提督「よう、うるさくして悪いな。さっき連れてった鹿島の怪我はどうなった?」

利根「それならば何も問題ない、明石が綺麗にしてくれたぞ。しかし、まだどこかぎこちない感じではあるな」

利根「山風に限っては白露たち姉妹艦もいることで、いくらか緊張も解けたようだが……他の二人は誰と話をさせれば良いかと思ってな」

提督「ガンビアベイと鹿島の話相手なあ……アメリカの空母に練習巡洋艦だろ? 艦種で呼ぶなら雲龍か? 鹿島は……」

比叡「それじゃあ、私が鹿島さんとお話ししましょうか?」

提督「比叡がか?」

比叡「はい! 私、練習巡洋艦じゃないけど、練習戦艦になったこともありましたし!」

提督「なるほど……なら、いいかもしんねえな。鳥海がひと段落ついたら金剛も呼ぶか、英語繋がりで」

比叡「はい! お願いします!」

848: 2022/01/30(日) 21:46:49.94 ID:xuaBtb3Vo

榛名「でしたら、私はお茶をご用意しますね!」

提督「……」

霧島「司令? どうなさいました?」

提督「ん、ブリテンとメリケンじゃあ水が合わねえかもしれねえな、と……とはいえ、ほかに候補もいないしな」

大和「ふふっ、大丈夫ですよ、金剛さんなら」

比叡「はい! 金剛お姉様がいれば百人力です!」

提督「まあ、大丈夫だとは思うけどな」

利根「……なるほど、鳥海の見舞いに摩耶が来ておるのか」

提督「? どうした、利根」

利根「いや、なんでもないぞ」

利根(……姉妹というのは、良いものだな)

利根(吾輩も……向き合わねばなるまい)

提督「んじゃ、ここは金剛立ちに任せるか。大和は長門と大淀を呼んで、埠頭の巡視船まで連れて行ってくれ」

提督「今、暁が千歳と足柄と一緒に報告待ちしてる」

提督「いくら暁が大人びてるとはいえ、この手の仕事は全部わかってる連中に任せないと負担になるからな」

大和「はい、提督はどちらに?」

提督「埋葬された奴らに手を合わせに行ってくる」

大和「! 承知しました、いってらっしゃいませ」ケイレイ

849: 2022/01/30(日) 21:47:34.68 ID:xuaBtb3Vo

 * 幕間 その後…… *

金剛「朝は紅茶デース!」

ガンビアベイ「No ! Coffee is best one !! です!」

榛名「!?!?」オロオロ

明石「うっわ、面倒臭い英米戦争が。誰か提督呼んできてー!」

朝潮「明石さん! お二人のために鴛鴦茶を作ってまいりました!」ガチャバーン!

明石「それは火に油を注ぐやつだからやめて!!」

鹿島「えんおうちゃ? ってなんですか?」

比叡「えーっと、紅茶とコーヒーのブレンドティーだったかな?」

鹿島「」

850: 2022/01/30(日) 21:48:19.45 ID:xuaBtb3Vo

 * 丘の上 *

電「……」

電「……」

提督「また、増えちまったか」

電「! 司令官さん……!」

提督「気に病むな、とは言わねえが、これはお前が背負いこむことじゃねえぞ」

電「……そうは、いかないのです」ウツムキ

電「もとはと言えば、電があの人を諫められなかったのが悪かったので……」ガシッ

提督「……お前なあ」

電「す?」アタマツカマレ

提督「いい加減にしろ! いつまでも自分を追い詰めてんじゃねーぞ、しつけえんだよくそが!!」メキメキメキ

電「ぎ゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 痛゛い゛の゛で゛す゛う゛う゛う゛!?」ジタバタ

提督「ったく……大和といい鳥海といい、真面目が過ぎる奴が一番面倒臭え」パッ

電「は、はううう……頭に穴が開くかと思ったのです」

提督「そのまま氏んだ方が楽だったか?」

電「そ、そんなことは……!!」

851: 2022/01/30(日) 21:49:04.63 ID:xuaBtb3Vo

提督「ねえよなあ? もしそうなったら、由良や敷波がどんな顔するよ? 暁や長門だって黙っちゃいねえだろうさ」

電「……」ウツムキ

提督「今、お前が使命感に駆られたところで、できることなんざ何もねえよ。諦めろ、っつってんだ」

提督「しいて言うなら……そうだな、何をしてやったら喜ぶかな。雪風が無事だってことを伝えて安心させてやるくらいか?」

電「……」

提督「無念を晴らそうにも空母棲姫は撃沈済みだしなあ。B提督を断罪ってのも無理があるし……」

電「あの……司令官さん?」

提督「ん?」

電「電は、B提督の鎮守府に戻ろうと思うのです」

提督「……説得のためにか?」

電「はい。なので、私たち轟沈艦娘が、この島から出られる方法を検討してほしいのです」

提督「……」フー…

電「司令官さん……!」

提督「確かに……ずっとこの島でリハビリなんてのは、方便とはいえもともとの目的にそぐわねえ」

提督「様子を見ると言った以上は、結論をいつかは出さなきゃあなんねえな」

電「それじゃあ……」

852: 2022/01/30(日) 21:49:49.32 ID:xuaBtb3Vo

提督「ただな。俺個人の見解として、お前がそいつのもとに行ったとしても、その説得に勝算はないと思ってる」

電「そ、そんな……!」

提督「むしろ、お前がそいつに始末されたりしないか心配だ」

電「い、いくらなんでもそんなことは……!」

提督「寝惚けんな。そこに並んだ艤装をちゃんと見ろってんだよ」

電「っ!」

提督「お前が初めてB提督に出会ったときのことは知らねえが、今のそいつは目的のために手段を選ばなくなってると俺は見てる」

提督「ここまでして中佐のやつに取り入られたかった奴が、お前の説得に応じると思うか?」

提督「聞く耳を持たないだけならまだいい。最悪、目障りに思われたら、無事に帰ってくることすら怪しいな」

電「……」ゾクリ

提督「そんなことになったら、それこそ由良たちが何を言ってくるか、だ。この話はあいつらにこそ相談が必要だろ」

提督「だからB提督のことなんざ忘れちまえ。お前はB提督に殺された。その時点で縁が切れたんだ」

電「そんなの、無理なのです」

電「司令官さんだって、司令官さんのお父さんやお母さんのことを、忘れられてないんじゃないですか……!?」

提督「んぐっ……! ったく、痛えとこ突いてくれるな、お前はよ……!」

853: 2022/01/30(日) 21:50:34.51 ID:xuaBtb3Vo

提督「俺はいいんだよ。お前らと違って、ねじくれまくって矯正も後戻りもできねえ人間だ」

提督「吹雪にも言ったけどな。俺は俺があいつらと違うことを証明したいため、俺の自己満足のためにお前らを利用してるだけだ」

提督「そんな人間、もう救いようがねえんだから、汚れ仕事をおっかぶせるのに丁度いいじゃねえか」

提督「思う存分、俺を使え。俺も、くそみたいな人間を潰すのには躊躇しねえよ」

電「……」

提督「とはいえ、お前の復讐を果たすまでには、まだ俺たちの力は及ばねえ……」

提督「だから今は、忘れちまえ。封をして、眠らせろ」

電「司令官さん……」

提督「こっちは五月雨にも言ったんだけどな、恨み続けるってのは体力も気力もすげえ消耗するんだ」

提督「お前が自分を責め続けるのも同じだ。ただ気疲れするだけで、B提督のダメージになんかこれっぽっちもなりゃしねえ」

提督「そんなの、面白くねえだろ?」

電「……」コクン

提督「だから、お前の無念も、こいつらの無念も、俺に一旦預けとけ。な?」

電「……司令官さんは、ずるいのです」

提督「ん?」

854: 2022/01/30(日) 21:51:19.54 ID:xuaBtb3Vo

電「そうやって、電たちから悪いものを取り除いたふりをして、自分が沈む準備をしているのですから……」

提督「それはいいっつったろ、俺みたいな人間が全部……」

電「司令官さんは!」

提督「!」

電「自分がされて嫌だったことを、電たちに味わわせないようにしてますよね……?」

電「電は、そんな人が、自沈するのを黙ってみているだけの方が耐えられないのです……!」

電「電は、沈んだ敵も助けたいと思っているのです。あなたも……司令官さんも、同じなのです!」ダキツキ

電「勝手に……電の知らないどこかに行くなんて、許さないのです……!!」ギュッ

提督「……」

電「ぐすっ……」

提督「……」



由良「電ちゃん、大丈夫かな……」オロオロ

敷波「初期艦だったからねー、いろいろ思うところがあってもしょうがないよ」

暁「……」

足柄「なんなのよもうっ、霞ちゃんといい、ぐずっ、あなたたちといい……!」

千歳「足柄、泣き過ぎよ……」

足柄「如月ちゃんだって提督だってそうだわ! ここのみんなは、いろいろあり過ぎよ……!!」グスグスッ

855: 2022/01/30(日) 21:52:05.61 ID:xuaBtb3Vo

 * 鎮守府内 ロビー *

 ゾロゾロ…

長門「む、提督が戻って来たか」

大和「提督、おかえりなさいませ!」

大淀「提督、電さんはどうしたんですか?」

提督「電にも思うところがあってな。話聞いてやって泣き出して、そのまま寄りかかられて寝ちまったんで抱きかかえてきた」

敷波「自分が初期艦だってことにいろいろ思うところがあったみたいだしさー」

由良「しょうがないわよね、ね」

大和「足柄さんも目元が赤いですね……」

千歳「もらい泣きしたんです。足柄になにかあったわけじゃないから、大丈夫ですよ」

長門「そういえば先日、厨房で霞の境遇を聞いたときも大泣きしていたんだったな」

足柄「……はっ!? まさか、大淀や長門さんも……っ!?」

大淀「私はそんなに大したことはありませんよ」クス

提督(そうかねえ……)

足柄「あったことは事実なんでしょお!?」ブワッ

暁「足柄さんって、こんなに涙もろかったかしら」

千歳「ま、まあね……ちょっと、感情移入しやすいところはあるかもね」

856: 2022/01/30(日) 21:52:49.65 ID:xuaBtb3Vo

大淀「それより提督、本営の船ですが、遠大佐と留提督の一味を連れて日本へ帰りました」

提督「ん、そうか。雷も一緒か?」

長門「ああ。遠大佐のその後がどうなるかは知らんが、雷がいないと話にならなさそうなんだと」

大淀「あのショッキングな告白がありましたからね……」アタマオサエ

提督「ま、あの様子じゃあそうもなるか」

大淀「それから、加古さんと鳥海さんの処遇についてですが、轟沈艦として処理されておりますので……」

提督「んじゃ、あとはあいつら次第だな」

大淀「そういうことになりますね」

千歳「? どういうこと?」

敷波「加古さんと鳥海さんが、この鎮守府でやっていく気があるかどうか、確認するんじゃない?」

千歳「ああ、なるほど……」

提督「加古はともかく、鳥海はあれだからな。ま、答えは急がなくてもいいだろ」

由良「すぐ訊かなくていいんですか」

提督「いい。ぶっちゃけ面倒臭え」

千歳「」

足柄「」

敷波「……」

長門「貴様は……」アタマオサエ

857: 2022/01/30(日) 21:54:04.50 ID:xuaBtb3Vo

提督「別にいいだろ。昨日今日といろいろ立て続けに起こりすぎて疲れてんだからよ」

提督「それから大和、ちょっと電を抱えててくれるか? 上着脱ぎたいんだ」

大和「え?」

暁「電が司令官の上着をすごい力で掴んでるの」

提督「上着ごと引っぺがして電を部屋のベッドに寝かせてくるから、ちょっと支えててくれ」

大和「は、はい!」

長門「こ、ここで脱ぐのか!?」

提督「ずっと抱きかかえててそろそろ腕がつらいんだよ。お前ら戦艦と同じ体力腕力だと思うな」

大和「上着はどうなさるんです?」

提督「電が掴んだままでいいだろ。相当気に病んでたし、俺の身代わりで安心するんならそれでいい」

大和「……そ、そうですか」

大和(うらやましい……)シュン

由良(うらやましい……)ジトッ

大淀(由良さんの目が怖い……)

858: 2022/01/30(日) 21:54:49.55 ID:xuaBtb3Vo

 *

長門「提督、これは上を全部脱いだ方がいいな」

大和「制服の下に来ているTシャツまで掴んでますね……」

提督「マジか。ちょっとこのまま押さえててくれ、下着が脱げねえ」

暁「司令官、ここ、引っかかってるわ」

提督「悪い、暁もちょっと手伝ってくれ」

暁「っていうか、ここでやらなくてもいいんじゃない? 面倒がらずにお部屋に移動してからでもいいでしょ?」

千歳「ま、まあ、いろんな手間を省くつもりなんだろうし、提督の判断に任せましょ?」

暁「? 千歳さんがそう言うなら……」

千歳「うんうん」

由良「……」ギラギラ

大淀「……」チラッチラッ

足柄「……」ドキドキ

敷波(まあ、提督のこんなところ、見る機会はないけどさー……)ソワソワ

千歳「思った以上に耐性のない子が多くて不安なんだけど」ボソッ

敷波「そ、そうだね!?」ビクッ

862: 2022/01/31(月) 21:28:51.16 ID:y3ExNOm9o

 * 食堂 *

長門「……」

陸奥「長門、どうしたの? 考え事?」

長門「いや、ついさっき、初めて提督の裸を見たんだが」

陸奥「!?」

不知火「!?」ブボッ

如月「きゃあ!?」

不知火「げほ、げほっ! す、すみません……」フキフキ

陸奥「ちょ、ちょっと長門! どういうことなの!?」

長門「いや、それがな。かくかくしかじか……」

不知火「こほん……なるほど、電も思いつめていたと」フキフキ

長門「ああ。それで提督が上半身裸になる羽目になったんだが、軍人としてはどうも細いなと思ってな」

長門「肉がついていないわけではない。が、無駄がないと言えばいいのか、無駄がなさすぎるというか……」

長門「やせすぎとか貧相とまではいかないが、最低限の筋肉しかついていない。減量中のボクサーみたいな体つきだったな」

如月「そういえば司令官も、もうちょっと脂肪を付けたいとは言ってたわね。でもここは離島だし、食肉だけは補給に頼るしかないから……」

863: 2022/01/31(月) 21:30:47.98 ID:y3ExNOm9o

長門「確かに動物性の脂質を摂るのは難しいな。魚ばかりというのもそれはそれで栄養が偏るか」

不知火「……私の方から本営に掛け合います」

長門「そうしてもらえると助かる。それから、提督も結構、体に傷が多いというか……とくに腕はひどいな? 無数の引っ掻き傷ができていた」

如月「あれって、学生時代にケンカでできた傷なんですって。ほら、司令官って殴る蹴るより、まず掴むじゃない?」

如月「そうすると、振りほどこうとして腕を掴まれてああいう傷が増えたんですって」

長門「掴んでいれば、その間は相手が腕一本分有利にはなるからな。反撃もそれなりにもらうわけか」

如月「そもそも司令官、殴るのを嫌ってるし、ね?」

陸奥「如月ちゃん、詳しいのね……やっぱり初期艦だからかしら」ジッ

長門「付き合いは長いだろうからな。私たちより提督のことを知ってて当然だろう」

如月「え、あの……はい。そうですね」ポ

如月(今の話を司令官と一緒に寝たときにしたって言ったらどう思われるかしら……)セキメン

不知火「……どうしましょう、不知火は司令の体については何も知らないのですが」

不知火「不知火も司令に裸体を見せていただくようお願いすべきでしょうか」カオマッカ

陸奥「そ、そこまでしなくていいと思うわよ……?」

870: 2022/02/13(日) 14:19:32.82 ID:O3CU2Q2io

 * 翌日の朝 墓場島埠頭 *

提督「なんだ、お前かよ……身構えて損したぜ」

L大尉「なんだじゃないよ、ひどい挨拶だなあ。少しは歓迎してくれたっていいじゃないか」

提督「何言ってんだ、お前の秘書艦のせいで鹿島がああなってんだろが」ユビサシ

鹿島「うわああああん!」ナミダジョバー

香取「大変だったわね、鹿島」ダキヨセ

鹿島「香取姉えええええ!!」ヒシッ

L大尉「あれは僕のせいでも香取のせいでもないと思うぞ?」

ガンビアベイ「Oh...これが、緊張の糸が切れる、デスカ」

山風「鹿島さんも、無理してたんだね……」

千歳「相当気を張り詰めてたでしょ?」

足柄「反動もあるんじゃない?」

朝雲「さっきまで話してた時はすっごいしっかりしてたのに……」

山雲「山雲は~、ちょっとだけ、気持ちがわかるかも~」

白露「やっぱり姉妹艦だと気の持ち方とかいろいろ違うよね~」

山風「うん……あっ」

871: 2022/02/13(日) 14:20:17.81 ID:O3CU2Q2io

海風「良かった、千歳さんも足柄さんも無事だったんですね!」

白露「あっれぇ、海風じゃん!」

山風「海風姉……!」

海風「白露姉さん!? 山風も!?」

白露「なになに、海風ってば足柄さんたちの知り合い?」

海風「は、はい、私は波大尉の鎮守府の所属です! 白露姉さんも被害に遭ったんですか!?」

白露「私はこの鎮守府の所属だよ。被害に遭ったのは山風!」

海風「そ、そうだったんですか……!」

千歳「海風、どうしてあなたがここに?」

海風「はい! 千歳さんたちがこちらの鎮守府に向かったと聞いて、お迎えに上がったんです!」

足柄「波大尉はどうしたの? 海風に秘書艦を引き継いだのに……」

海風「……波大尉は、その……入院、しています」

足柄「え?」

千歳「もう、あの子ったら……あの程、お酒は控えてって言ったのに……!」

海風「ち、違います! その……お酒もあるかもしれないですけど、鬱、です。司令官は、うつ病になったんです」

千歳「うつ……!?」

872: 2022/02/13(日) 14:21:02.78 ID:O3CU2Q2io

朝雲「ええっ!? ちょっと、あんなに明るい人が、いったいどうして!?」

足柄「うつ病って、なにがあったの……?」

海風「……こちらの鎮守府の用を済ませて、ブルネイまで医療船を届けた後、お二人と大喧嘩して艦隊から除名されましたよね」

L大尉「喧嘩? それで除名だなんて、いくらなんでも短絡的じゃないか」

足柄「それは……いろいろ仕方ないのよ。あのときだって、酔った勢いで売り言葉に買い言葉、ってやつだったんだから」

千歳「私も居合わせたけど、ひどかったの。波大尉の部屋の床に無数のお酒の空き缶が転がってて、そこで更に飲もうとしてるから」

千歳「飲むなって言っても聞かなくて、私も思わず感情的になっちゃって……お医者様からもお酒は控えたほうがいいって言われてたのに」

足柄「おまけに波大尉ってお酒が入ってネガりだすと止まらないの。それで、勢い任せに私たちの解任と除名の手続きを始めちゃって」

足柄「千歳でもどうにもならなくて……私が怒鳴ったのが決定的だったのよ。泣くわキレるわ怯えるわ、まともに話せなくなっちゃって」

L大尉「それはまた……」

提督「それでお前らが路頭に迷う羽目になったってか」

海風「そう……です。お二人が鎮守府を離れることになって、私が秘書艦を務めたんですが……波大尉がもう……」フルフル

海風「千歳さんたちを解任したことをものすごく後悔なさってて、それ以来ろくに執務が出来なくなって」

海風「自己嫌悪からくるやけ酒と不摂生から体を壊して……入院なさってからも、私が病室に行くたびに、ごめんなさい、ごめんなさいって」

海風「千歳さんと足柄さんの名前を出して、私に謝られるんです……!」ポロポロ…

千歳「……」

足柄「……」

873: 2022/02/13(日) 14:21:47.96 ID:O3CU2Q2io

L大尉「そういうわけで、診断の結果を見て、本営は、波大尉にこれ以上の軍務を続けさせられないと判断したんだ」

千歳「……!」

足柄「それって……!!」

海風「……」グスッ

提督「退役して一般人に戻る、ってことか」

L大尉「……だね」コクン

L大尉「それで、波大尉の入院先が、彼女の地元に近い神戸に移ることになったんだ。徐々に艦娘や海軍から離れてもらうためにね」

L大尉「彼女が回復するまでは、海軍が責任を持って看病することも決まって、僕がそこに一枚かむことになった」

L大尉「僕も元民間だったから、その民間人の視点でどう彼女をリハビリさせた方がいいか、その相談役のひとりとして、ね」

提督「波大尉が海軍を辞めるんなら、後釜はどうなる」

L大尉「それがいなくてね。かといって艦娘たちも全員フリーにするわけにはいかないから、O中尉だったかな? 彼が身元を引き取るらしいんだ」

提督「O中尉……あいつか。まあ、預け先としちゃあ悪くねえかな?」

L大尉「知り合いかい?」

提督「中佐んところで善行積みすぎて目障りになって切られた奴だ」

L大尉「……と、とにかく信用できるんだね?」

提督「知らん」

L大尉「……」

874: 2022/02/13(日) 14:22:32.77 ID:O3CU2Q2io

朝雲「知らない、って、あのN中佐の騒動のときに手伝ってもらったんじゃなかったの!?」

提督「過去に協力してもらったことはある。が、あいつが提督業についてからの働きぶりまでは俺は見聞きしちゃいねえ」

朝雲「あ、そっか……それじゃ知らないって答えて当然よね」

提督「で、千歳と足柄もそっちに異動するって話なのか?」

L大尉「そこは香取にも立ち会ってもらって、二人の希望を取りたかったんだよ。香取?」

香取「は、はい! 鹿島、ちょっと離れててくれる?」

鹿島「ぐすぐすっ……うえっ、ふぎゅっ」グジュグジュ

香取「こほん。この話をする前にひとつ、問題があるのですが……」

香取「今回、遠大佐ならびに留提督とともに行動した艦娘6隻については、呉へ戻ることはできないとお達しがありました」

山風「え……?」

提督「なんだそりゃ。戻ってくんなってか」

L大尉「平たく言えばね。呉の中将がまあ縁起を担ぐ人物というか……」

提督「んじゃあ、L大尉も呉は出入り禁止になんのか?」

L大尉「そうなるだろうね~……」ハァ

千歳「……あら? 准尉、誰か呼んでるわよ?」ユビサシ

875: 2022/02/13(日) 14:23:17.87 ID:O3CU2Q2io

黒潮「……はーん! しれえはーーん!」ブンブン

提督「ん? ありゃ黒潮か? 一緒にいるのは不知火と……誰だ?」

足柄「ちょっと!? なんで那智がいるの!?」

不知火「先程、砂浜で仰向けに倒れ込んでいたところを黒潮が見つけたんです」

那智(中破)「すまないな二人とも、案内してもらって」

提督「工廠じゃなくて直接こっちに来たのか?」

黒潮「司令はんと話したいことがあるんやて。氏にそうってわけでもないし、連れてきたんやけど、あかんかった?」

提督「まあ、いいけどよ」

那智「このような姿で失礼する。私は那智、貴様がこの鎮守府の提督か」

提督「ああ。俺がこの島の鎮守府の提督だ。何の用だ」

那智「私を、この島の艦隊に加えていただきたい」

提督「……!」

黒潮「は?」

足柄「はぁ!?」

不知火「本気ですか……?」

那智「ああ。この島が墓場島だろう? 轟沈した艦娘が集まる島だと聞いているが、間違いないな?」

876: 2022/02/13(日) 14:24:02.92 ID:O3CU2Q2io

香取「そこまで御存知なのでしたら、なおのこと忌避される方の方が多いと思うのですが……理由を聞かせていただいても?」

那智「私は、呉の中将……和中将の鎮守府に所属していた」

L大尉「呉の……!?」

提督「なんだ? さっきの話か?」

香取「は、はい。呉鎮守府の墓場島嫌いなのが、件の和中将閣下です」

那智「うむ。そこで私は、和中将の酒飲み相手をずっとさせられていた。海に出ることも、海を見ることもかなわず、耐え忍ぶことはや1年」

那智「和中将の話を聞きながらグラスを傾け酒をあおり、ただ首肯する。私は、ずっとその役目を背負わされてきた」

那智「しかしだ。私は本来、艦娘として、人類の敵たる深海棲艦を打倒するものとして、生まれてきたはず」

那智「何度か具申させていただいたがそれも受け入れられず……それで私はあの鎮守府を抜け出し、和中将が忌み嫌うこの島へ来たんだ」

那智「私がここに来たとあの男が知れば、それ以上私に関わろうとは思わないだろうからな……!」

足柄「那智……!」ウルッ

提督「やれやれ、わざわざ氏にに来たのか?」

那智「いいや、私は生きて、艦娘としての生を全うするために、ここに来たんだ」

提督「ふーん……」

877: 2022/02/13(日) 14:25:02.56 ID:O3CU2Q2io

黒潮「司令はん? 顔がわろてるけど?」

提督「いやあ、いい覚悟してんじゃねえかと思ってな」ニィッ

不知火「いつもの質問もする必要がないということですね」

足柄「ちょっと、准尉の笑顔がすっごい悪役っぽいんだけど」タラリ

提督「しょうがねえだろ、これが地の顔だ。ま、とにかくだ、和中将に確認なんかいらねえな、ドロップ艦扱いで申請しても良さそうだ」

那智「本当か!」パァッ

提督「ま、お前みたいにこの島に着任したくて流れ着く奴なんて初めてだからな。今更引き返すなんてできねえぞ、いいんだな?」

那智「艦娘として、海で働かせてもらえるのだろう? であれば二言はない」ニコニコ

提督「それがお前の望みなら、好きに出撃しな。あとで大淀に連絡しとくぞ、黒潮たちも入渠に付き合え」

黒潮「了解やー」

提督「それにしても、よくここまで来られたな」

那智「この船が呉を出港する時に、鎮守府を抜け出してこの船を追いかけたんだ」

那智「横須賀に向かったときは少し焦ったが、その後に外海に出て、この島へ向かう航路に向かってくれて安心していたところだ」

香取「そういえば、この島に向かう途中、深海勢力の駆逐艦が数隻、電探に反応していましたが、そのうち数隻分の反応が突然喪失していました」

878: 2022/02/13(日) 14:25:48.17 ID:O3CU2Q2io

香取「これは、私たちの船を追いかけていた那智さんが、敵艦隊を撃沈していたからということでしょうか」

那智「ん、反応されていたか。確かに、数隻の敵駆逐艦と戦闘になったな」

足柄「それでそこまでボロボロになるの?」

那智「仕方ないだろう、さっきも言ったが私は海に出るのは初めてだぞ?」

香取「なるほど……それでは致し方ありませんね」

提督「ともかく、那智はここに新規着任でいいな。L大尉も香取も、こいつがその和中将だかの鎮守府から来たことは黙ってろよ」

L大尉「……ああ、わかった。それから、ここにいる艦娘たち以外に、遠大佐によって轟沈させられた艦娘もいるんだったね?」

提督「おう。鳥海と加古だな」

鹿島「加古さん……というと、古鷹型の2番艦ですね」

L大尉「古鷹型!? 古鷹の妹なのか!? 遠大佐はその子を轟沈させたのか!?」グワッ

提督「ま、やったのは遠大佐じゃなくて留とかいう芸能人だけどな」

L大尉「芸能人?」クビカシゲ

提督「ああ、よくあるだろ、一日警察署長とか。あれの提督版で……」

L大尉「うげっ!! も……もしかして、そいつのお父さんは映画俳優の留父さん?」

提督「知らん。父親が大物だとか言ってはいたが」

L大尉「いや、でもその名前はそうだ……嘘だろ……!? 僕は留父さんの主演映画、大好きなんだぞ……!?」

879: 2022/02/13(日) 14:26:32.94 ID:O3CU2Q2io

L大尉「バラエティでもすっごいいい人で尊敬すら覚えたほどなのに! それが本当だとしたら超ショックだよ」ガックリ

提督「トンビが鷹を生むって言うだろ。逆があってもおかしくねえよ」

L大尉「そうかもしれないけど……あああ、なんでそんなことに! 幻滅だよもう……」

提督「ま、どうでもいいが……俺たちこそお前らが来るなんて聞いてねえぞ。お前ら、中佐の命令聞くようになったのか?」

香取「いえ、此度の任務は、本営の中将閣下から直々にご指示いただいたものです」

提督「中将が? なんでまた……さてはまた何か粗相して目を付けられたか」

香取「いえいえ、今のところは大きな失敗もなく」ニコ

香取「むしろ……贔屓目かもしれませんが、L大尉が気に入られたのかも、と思っています」

L大尉「なんで僕が懇意にされているのか、わかんないんだけどね……」

L大尉「中将閣下を訪ねてくる将官佐官は錚々たる顔ぶれだ。そこに民間から登用された僕が並んだんじゃ、場違いすぎてストレスフルなんだけど」

香取「根っからの軍人ではないからこそ、重用されているということもあるかもしれませんよ?」

香取「それをさておいても、今回の栄転はL大尉が評価されたからこそではありませんか」

L大尉「うーん……まあ、そう言われれば悪い気はしないんだけど」

朝雲「それって、さっきの神戸へ行くとか言う話ですか?」

香取「はい。神戸に、提督候補生を育成する学校が新設することになりまして。今後は艦隊を指揮しつつ、そちらへも顔を出すことになりました」

880: 2022/02/13(日) 14:27:18.01 ID:O3CU2Q2io

香取「波大尉が神戸の病院に移されたのも、それを見越してというのがありますね」

L大尉「正直、僕らはそっちにつきっきりになりそうだけどね。だからおそらくこの島に来るのは今回が最後になりそうなんだ」

提督「良かったじゃねえか」

L大尉「少しは寂しがってくれないか?」

提督「こんな島に好き好んで関わってちゃ出世に響くぞ」

提督「それに、この島の事情をある程度分かってる奴が海軍の上にもいてくれねえと、俺も安心できねえよ」

L大尉「む……!」

香取「出世しろと言うことですね。責任重大ですよ、L大尉」クスクス

提督「で、L大尉がいく学校ってのはどんなとこなんだ?」

香取「民間出身の提督を数名集めて、成功例や失敗例をいくつかまとめ、それを今後入ってくる提督候補生に伝授しようというのが狙いです」

提督「あー、あの失敗はくそでけえだろ」

L大尉「それは言わないでくれ……」ズーン

L大尉「確かにあのやらかしがあったからこそ、中将に覚えていただいたし、香取を秘書艦に迎えることになったんだけど」

足柄「何やったの?」

提督「ああ、そりゃあな……」

L大尉「頼むから掘り起こさないでくれないか」

881: 2022/02/13(日) 14:28:02.76 ID:O3CU2Q2io

提督「古鷹べったりで全部古鷹に任せてたのを朝雲に指摘されて、観艦式があるってのに見栄で古鷹をこの島に置いてったんだよ」

L大尉「ちょ」

提督「で、観艦式で使う資材の保管庫の鍵を古鷹に預けてたせいで、燃料やらが使えなくて大コケしたんだ」

足柄「うわあ」

千歳「うわあ」

白露「うわあ」

海風「うわあ」

山風「うわあ」

黒潮「うわあ」

山雲「うわあ~」

ガンビアベイ「Unbeleavable...」

L大尉「掘り起こさないでくれないか!」ウワァァア!

香取「ご愁傷様です」

提督「まあ、こういうへまをしたから香取にしごかれて今はよっぽどマシっぽいんだが……香取、そういう認識でいいんだな?」

香取「ええ、結構です」

鹿島「うええええん香取姉ええぇぇえ」グズグズ

提督「こいつも香取が面倒見てやんねーと駄目っぽいな」

香取「そ、そうですね……香取、こんなに甘えん坊だったかしら」

882: 2022/02/13(日) 14:29:02.79 ID:O3CU2Q2io

ガンビアベイ「それは多分、遠大佐の下では、気が抜けなかったせいだと、思います」

香取「そうなんですか?」

山風「遠大佐、私たちを甘やかしてたところはあったと思う……それに危機感を募らせてたのが、巡洋艦のひとたちで……」

山風「でも、加古さんは面倒なことに関わりたがらないし、鳥海さんは割と疑わずに素直に従っちゃうし」

山風「このままじゃ駄目だ、って、奮起したのが鹿島さんなの」

千歳「駄目な大人ばっかりだったってこと!? それじゃ鹿島も苦労性になるわ……」

香取「鹿島は頑張ったのね」ナデナデ

鹿島「がんばったのおおおお!」ナミダジョバー

白露「むしろ山風のほうがしっかりしてない?」ナデナデ

海風「そうね、山風は立派ね。白露姉さんの言う通りよ」ナデナデ

山風「う、うん……ありがと」ポ

ガンビアベイ「あの、駆逐艦たちへの指導がオロソカ? になったのは、遠大佐の他の理由もあります」

提督「というと?」

ガンビアベイ「遠大佐、駆逐艦たちをとても可愛がってました。ちょっと行き過ぎるくらいで……」

ガンビアベイ「私たちのような空母や、戦艦のみんなが駆逐艦に注意すると、遠大佐がすごく怒るんです」

ガンビアベイ「Because, 駆逐艦と私たち、会話が減っていったんです」シュン…

883: 2022/02/13(日) 14:29:47.66 ID:O3CU2Q2io

山風「だから、誰に対しても明るい留って人が一日提督として来たときは、みんなちょっとだけ期待したの……」

提督「あー……第一印象でころっとやられたわけか。詐欺師は外面いいからな、そんな状況下じゃしょうがねえな」

L大尉「とにかく、遠大佐は今回の件で降格処分。呉から海外の泊地に左遷されることが決まったそうだ」

L大尉「そのせいで遠大佐の鎮守府にいる艦娘も所属変更の手続きが必要になっててね……」

提督「それで移動の確認を、ってか」

朝雲「さっきの話に戻る訳ね」

L大尉「そういうこと。鹿島たち3人については呉に戻るなと言われているから、どうせなら僕たちと一緒に神戸に来ないか、聞きたかったんだ」

鹿島「わたしは香取姉と一緒がいい……!」エグエグ

香取「ほら、もう泣かないの」ナデナデ

L大尉「山風、ガンビアベイ、君たちはどうする?」

山風「……私たちの鎮守府にいた、みんなはどうなるの?」

L大尉「遠大佐の艦娘たちは、呉に点在する各鎮守府への異動するそうだ。呉の外に出る艦娘もいるみたいだが、行先は全員バラバラらしくてね」

L大尉「誰がどこに行くという細かい情報も、僕たちは把握していない……というか、不祥事だから大っぴらには知らせないみたいなんだ」

山風「……そう」

ガンビアベイ「……私、L大尉のもとにお世話になろうと思います。山風も、一緒に来ませんか?」

山風「……うん。鹿島さんも、一緒だし……」

L大尉「よし、じゃあ3人は決まりだね」

884: 2022/02/13(日) 14:30:32.89 ID:O3CU2Q2io

海風「千歳さんと足柄さんも、一緒に行きましょう! 私も神戸に行って、L大尉にお世話になります!」

千歳「そうなの……!?」

香取「先程も申し上げましたが、波大尉の艦隊はほぼ全員がO中尉の艦隊へ異動することになりました」

香取「今のところ、海風さんだけはL大尉の艦隊へ。千歳さんと足柄さんが、未決定ということになります」

那智「ん、なんだ? 足柄はここの鎮守府の所属じゃないのか」

不知火「はい。説明すると長くなりますが」コク

L大尉「どうだろう。波大尉も、君たちが近くにいるのなら少し安心するんじゃないかな」

足柄「うーん……そうねえ……」

千歳「……私は、そうは思わないわ」

足柄「千歳……?」

L大尉「どういうことかな?」

千歳「私が波大尉といつでも会えるような場所にいたら、彼女は人間社会に戻れないんじゃないか、って……」

千歳「自意識過剰なのかもしれないけど、頼りにされてた実感があるし。何より、一緒にいて楽しかった。友達というかいい同僚というか……」

千歳「今ここで、私があの子の顔を見に行ったりしたら、きっと楽しかったことを思い出すんじゃないかって思うのよ」

千歳「思い出って、どうしても楽しいこと優先で思い出しちゃうから……そうしたら、またあの子が無理を言い出すんじゃないかって」

千歳「提督であることを自分の使命だと思い込んで、無理するんじゃないか、って……」

足柄「千歳……」

885: 2022/02/13(日) 14:31:17.91 ID:O3CU2Q2io

千歳「波大尉、喧嘩別れした時に言ってたのよね。『自分の幸せをみんなに分けて欲しい、そう言われて海軍に入った』って」

千歳「『でも、私の幸せは、私の理想は、みんなの願いじゃなかった……私、何のために頑張ってたんだろう』って」

提督「……」

千歳「そのことで提督准尉を責める気は全然ないわ。人によって幸せの形や理想が違うのは、当然よね」

千歳「人の未来がかかっていることなら、私にできることなら、やる、って……」

千歳「そういう強い意志を持って入ってくれた子が、あんな風になっちゃったんだもの」

千歳「余計なプレッシャーをかけさせないためにも、もう私たちは関わらないほうがいいんじゃないかしら」

足柄「で、でも……」ウルッ

千歳「それに、波大尉は結婚願望あるでしょ? 提督の才能があったとしても、彼女が人並みの幸せを望む以上は、邪魔したくないし」

千歳「人間社会に戻って、民間人として生活できてた方が、良かったんじゃないかとも思うのよね」

足柄「それは……そうかもしれないわね」

千歳「海風、あなたに全部任せてしまって申し訳ないんだけれど……私は、一緒に行かないわ。波大尉には、もう会わないことにする」

海風「千歳さん……!」

提督「なあ、あの女提督も民間出身だって言うんなら、妖精が見えたりしてるのか?」

L大尉「いいや? 輪郭がうっすらぼやけて見える程度らしいね」

足柄「何もないところに小人の輪郭がうっすら見えるから、それを目で追ってたらスカウトされたって聞いたわよ」

提督「ふーん……なるほど」

886: 2022/02/13(日) 14:32:03.59 ID:O3CU2Q2io

香取「それはそうと、千歳さん? あなたはこれからどうなさるおつもりですか? このままでは無所属のままですが……」

千歳「それなんだけれど」クルッ

提督「?」

千歳「提督准尉、私もここの艦隊に加えてもらえないかしら?」

足柄「ええええ!?」

海風「ち、千歳さん!? 何をおっしゃるんですか!?」

千歳「うーん、興味がわいたっていうか。どうしてこの人が、海軍で人間の未来のために戦っているのか……」

提督「人間の未来のため? 俺はそんなつもりは毛頭ねえぞ」

足柄「ええぇぇぇえええ!?」

那智「お、おい! 貴様、どういうことだ!?」

提督「俺は人間の未来なんてどうでもいいっつったんだよ。俺が戦うのはこの鎮守府の艦娘のためだ」

提督「格好つけて言えば、艦娘の未来のため、だな。考えてもみろよ、艦娘ってのは現状、人間に利用されるだけの存在だ」

提督「沈んで生き延びた連中を助けてやりたいってのがきっかけだったが、その助けた後も人間に利用されるだけじゃあ救われねえだろ」

L大尉「……!」

提督「これから先、深海棲艦がいなくなったら艦娘たちはどうなる? こんな不思議な力を持った連中、良くも悪くも人間が放っておくと思うか?」

提督「最悪の事態に陥らないために、艦娘だけで生きられる手段を誰かが考えなきゃいけねえ。そう、思わねえか」

足柄「そ、それは……確かに、考えさせられるわね」

887: 2022/02/13(日) 14:32:47.89 ID:O3CU2Q2io

提督「人間の平和はお前らが勝手に守っててくれ。俺は艦娘のこれからを考えるのに手一杯なんだ」

L大尉「……なんというか、すごいな、准尉は」

香取「はい……!」

提督「そういうことだから、俺のやることは人間のためじゃねえぞ。千歳、お前はそれでもいいのか?」

千歳「ふふっ、面白いじゃない。平和になったら用済みになるはずだった艦娘に、新しい生きる航路を見せてくれるんでしょう?」

足柄「……」

提督「足柄は乗り気じゃなさそうだな。L大尉んとこに入っても……」

足柄「ぐ……ああ、もう! わかったわよ! 付き合うわ!」

足柄「戦いと揚げ物作るの以外はそんなに得意じゃないけれど! 私が、この艦隊に勝利をもたらしてみせるわよ!!」

提督「……無理しなくていいんだぞ」

足柄「無理なんかしてないわよ!?」

提督「本当かよ……海風だったか、なんか悪いな? 本当ならお前ら全員でL大尉んところに行く手筈だったんだろ?」

海風「あ、いえ、大丈夫です。千歳さんが仰る通り、波大尉の担当医さんからも、徐々に私たちとは距離を取ったほうがいいと言われてましたし……」

海風「いつでもいいんで、また一緒にお仕事できるようになれば、私はそれで……」

提督「そうか。そん時ゃ、ついでにうちの白露型も面倒見てくれると助かる」

白露「ちょっ!? 提督、あたしたちのことが邪魔なの!?」

提督「俺がいなくなったら頼る相手として確保したいだけだ」

888: 2022/02/13(日) 14:33:32.97 ID:O3CU2Q2io

朝雲「司令、そういうこと言うとまた誰かさんたちに睨まれますよ?」

提督「知らねえよ。俺と同道したいんなら、それ相応の覚悟しろって話なだけだ」

提督「……それでも付いてきそうな奴が多そうだから面倒臭えことこの上ねえんだけどな……」ハァァ…

山雲「朝雲姉も、司令さんに、ついて行くの~?」

朝雲「うーん、あんまり変なこと言い出すときは考えるけど……言い方が悪いだけで方向性はまともなことが多いから、悩むわね……」

白露「私たちのやりたいことをやらせてくれるってところは最高だけどね」

千歳「ふーん……それじゃ、ある程度は我儘も聞いてくれるわけね」

黒潮「司令はんができる範囲でやけどね~」

提督「そういうことだ。ま、食い物とかの自由はきかねえが、欲しいものがあるんなら遠慮なく言え。鎮守府の財布と相談すっからよ」

足柄「本当!?」キラッ!

海風「あ、あの、准尉さん! あまり迂闊なことは言わない方がいいですよ!?」

提督「なんでだ」

海風「このお二人も、その、酒豪なんです……」

提督「……飲むのか?」

海風「はい。際限なく」

提督「……」チラッ

足柄「」プイス

千歳「」プイス

889: 2022/02/13(日) 14:34:32.72 ID:O3CU2Q2io

提督「……食い物の恨みは恐ろしい、っつうしな。酔っ払い方にもよるが、悪酔いしない程度になら酒の手配もするさ」

足柄「本当……!?」パァッ

千歳「やったわ……!」パァッ

那智「私は飲まないぞ。今後は禁酒させてもらう」

提督「おう、それも自由にしろ。つか、俺も酒を強要されんのは大嫌いだ」

海風「それでですね、実は……お酒、準備してまして」

足柄「えっ、なにそれ!?」キラーン!

千歳「準備してるの!?」キラーン!

海風「お酒を暫く飲んでないだろうと思って、船に積み込んでるんです」

L大尉「もしかして、僕たちが横須賀でこの船に乗ったときに積んでいた荷物かい?」

海風「はい。本当なら神戸に着いたときに下ろそうと思っていたんですが、千歳さんたちがここに残ると言うのであれば……」

足柄「いやったああああ!」ガッツポーズ

千歳「嬉しい! 海風愛してる!!」ダキツキー

海風「きゃああ!」ダキツカレー

提督「……なんか、新しい頭痛の種が生まれた気がしねえか?」

朝雲「うーん……か、かもしれないわね」

千歳「おとといに久々に缶ビール飲んだんだけど、あれっぽっちじゃ全然物足りなくて!」

足柄「そうそう!! この船に積んであるんでしょ? 荷下ろし手伝うわよ!!」ガシッ

海風「」

L大尉「……」

香取「……」

山風「……大丈夫なのかな」

山雲「心配ね~」

910: 2022/04/10(日) 20:35:31.38 ID:f1G643mzo

 * 停泊中の巡視船 貨物室 *

海風「……」

千歳「……」

足柄「不幸だわ」

泥酔した隼鷹「うーぃ……ひっく」

(座り込んだ隼鷹の足元に転がる無数のビールの空き缶と酒瓶)

L大尉「ちょっ……誰だ!?」ダッ

隼鷹「んああぁ?」ゲファア

L大尉「ぶわっ! 酒臭っ!! 目に染みるッ!?」ギャアア!

提督「なんだこりゃ……おいL大尉、こいつはお前の部下か?」

L大尉「知らないよあんな酔っ払い!」

隼鷹「……なんらぁ? 目的地に着いたのかぁ……?」ヒック

鹿島「あれは、隼鷹さん……!?」

提督「知り合いか?」

鹿島「い、いえ、知り合いではありませんが……あの方は、軽空母の隼鷹さんですね」

911: 2022/04/10(日) 20:36:20.82 ID:f1G643mzo

香取「私も余所の鎮守府でお会いしたことがあります。同じ方かどうかはわかりかねますが」

那智「これはひどいな……何日ここにいたのかは知らないが、350の缶ビールとはいえ一人で3箱も空けるか?」

千歳「日本酒の一升瓶も数本空になってるわ。何升飲んでるの」

足柄「ああ! これ美味しいやつじゃない! 好きな銘柄なのにぃ!」

提督「こんだけ飲んだら氏ぬだろ。馬鹿かこいつ」

隼鷹「んおっ、とぉ……んひっ、こんなもんれ、氏にゃあ、しない、ってぇ……ひひっ」ヨロッ

提督「やれやれ、艦娘にもこういう困ったタイプがいるのか」ハァ…

千歳「ぜ、全部が全部こうじゃありませんよ!?」

提督「わかってるよ、そんなことは……」

隼鷹「おぉ~、こっちにはいいワインがあるじゃんか~」ゴソゴソ

海風「ちょっ、その箱は駄目です! 千歳さんも手伝ってください!」

隼鷹「おほぉ~、美味しそうなワイン発見~」

千歳「! それは……!」

海風「それはだめですっ!!」バッ

隼鷹「おっとぉ」ヒョイッ

海風「きゃっ!?」スカッ

912: 2022/04/10(日) 20:37:01.70 ID:f1G643mzo

千歳「海風! ちょっと隼鷹!?」ダダッ

隼鷹「おお~っとぉ、近付かないでくれよぉ? うっかり落としちゃいそうになるからねえ~」

千歳「……っ!」

足柄「くうう! 人質ならぬ酒質を取るなんて! 卑怯よ!」

香取「彼女、いつの間に紛れ込んだんでしょう……いくら艦娘だからって、そう簡単にこの船に入れるとは思えないのですが」

提督「……とりあえず、部外者なんだな?」

香取「は、はい」

提督「そうか」スタスタスタ

香取「え」

千歳「ちょっ」

隼鷹「な、なんだよぉ! 近づくなって言っ……」

提督「知るか」ズイ

隼鷹「ひっ!?」ウデツカマレ

提督「おら、離せ」グッ

隼鷹「い、いだだだだ!? な、なんて力!?」

913: 2022/04/10(日) 20:37:46.39 ID:f1G643mzo

提督「離せって言ってんだろが。腕、圧し折んぞ」ギリッ

隼鷹「に、人間なんかにそんなこと、できるわけないっしょ!? 離しなよぉ!」

提督「海風! 酒瓶落とさねえように確保しろ!」

海風「は、はいっ!」ダダッ ガシッ

隼鷹「な……!」

海風「酒瓶、掴みました!」

提督「よし、あとは隼鷹が手を離せばおしまいだ。ふんっ!!」ギュウッ!

隼鷹「い、ったあああああ!?」パッ

海風「やった……!」

千歳「海風! 早くこっちに!」

海風「はいっ!!」

隼鷹「あああ! あたしの酒えぇぇぇええ!!」

足柄「……あら? そのお酒、もしかして千歳が波大尉に贈ったやつと同じじゃない?」

千歳「そうよ。良かった、まだ開けられてなくて」

海風「私、波大尉が昇進した時に、記念に開けようって言ってたのを覚えていたんです。波大尉に持って行くつもりだったんですが……」

千歳「危ないところだったわね」

914: 2022/04/10(日) 20:38:31.50 ID:f1G643mzo

提督「ほーう。それをお前は、あたしの酒、ってか」

隼鷹「寄って集って、なんなんだよぉ……離せ、離せよぉお!!」ジタバタ

提督「……おい、こいつ、どうしたらいい」

L大尉「えっ? そ、そうだね……とりあえずこれ以上被害が出ないように、捕まえておかないと」

鹿島「捕縛用の手錠とかはありますか?」

L大尉「クルーが知っているはずだ。取りに行ってこよう」

香取「私も参ります」

隼鷹「ちくしょう、離せ、離せぇえ~! あたしに酒を飲ませろぉおお!」

那智「ふむ……とりあえず室内の掃除が必要だな。提督、まずは外に出ないか?」

提督「そうだな。さっさと連れ出すか」ガシッ

隼鷹「ふえっ!? ちょ、頭掴むんじゃな……あいたたたた!?」

提督「キリキリ歩け」ズルズル

隼鷹「痛い! 痛いってえの!!」ヨタヨタ

足柄「……ねえ、もしかして、准尉って強いの?」

千歳「さあ……?」

915: 2022/04/10(日) 20:39:16.61 ID:f1G643mzo

 * 墓場島 埠頭 *

朝雲「で、積み荷のお酒の半分近くを、一人で飲んじゃったわけ?」ヒキッ

足柄「そうなの。缶ビールが殆どなんだけど、日本酒の一升瓶とかスクリューキャップのワインとかも飲まれてて……」ガックリ

千歳「せっかく海風が1か月分用意してくれたのに、これじゃ一週間もつかどうか……」ガックリ

那智「? 計算が合わなくないか?」

千歳「この鎮守府で過ごすつもりだもの。みんなにふるまわないわけにはいかないでしょ」

足柄「そうね、私たち以外に呑兵衛がどのくらいいるかだけど、人並みなら一週間くらいで見ていいんじゃない?」

海風「那智さんは飲まないんですよね?」

那智「ああ。控えさせてもらう」

朝雲「この鎮守府でお酒飲む人、どのくらいいたかしら」

山雲「う~ん、あんまり、いないんじゃないかしら~」

千歳「そうなの?」

白露「そもそも酒保にもあまりお酒を置いてないんだよね。墓地にお神酒で使うお酒も、ワンカップだったり紙パックだったりするし」

白露「たまに見かけても、煮物とかに使う料理酒だから飲んでもあんまりおいしくないらしいし」

916: 2022/04/10(日) 20:40:01.53 ID:f1G643mzo

不知火「確かに……この鎮守府の艦娘がお酒を嗜んでいる場面はほぼ見ませんね」

黒潮「そうやなあ。潜在的に飲む人はおるんやろうけどな」

足柄「准尉はどうなの?」

白露「どうだろ? そもそもお酒飲んでるとこ自体、見たことないなあ」

山雲「司令さんに~、直接訊けばいいんじゃな~い~?」

足柄「直接、ねえ……」チラッ


提督「……」ギロリ

隼鷹「……」ビクビク


千歳「准尉、滅茶苦茶殺気立ってるんだけど……」

不知火「……隼鷹さんを見張り中ですか」

黒潮「うち、あそこに声かけられる気せえへんわ」

白露「うん、無理だね!」

917: 2022/04/10(日) 20:40:46.22 ID:f1G643mzo

山雲「そ~お~? じゃあ、山雲が~、訊いてみるわね~。いってきまぁ~す!」トテテテッ

足柄「!?」

朝雲「ちょっ!?」


山雲「ねえねえ、司令さ~ん?」

提督「……その口調は、山雲か」

山雲「ちょっと~、聞きたいことがあるんですけれど~、い~い~?」

提督「……隼鷹から目を離せねえ。お前のほうを向かないで、このまま答えてもいいか?」

山雲「いいわ~、大丈夫~」

提督「そうか。聞きたいことってのは何だ?」

山雲「司令さんは~、お酒って飲むの~?」

提督「酒は飲まねえな。特にうまいと思ったこともねえから好きでもねえし、料理には使うが特段飲みたいと思わねえ」

隼鷹「……」チラッ

山雲「じゃ~あ~、この鎮守府で、お酒飲む人って、います~?」

提督「残念だがそれは知らねえな。その質問なら、よく厨房に出入りいる長門や比叡とか、仕入れしてる明石をあたったほうがいいな」

918: 2022/04/10(日) 20:41:32.16 ID:f1G643mzo

提督「あいつらなら、厨房に置いてる酒の減り具合とか、誰が買ってくとか知ってると思うぞ」

山雲「あ~、なるほど~。よ~くわかったわ~、ありがとうございます~」

提督「おう。L大尉が来たら教えてくれよ、はやくこいつをふん縛っておかねえと、俺の目の自由が利かねえ」

山雲「は~い、了解ですぅ~」


山雲「ですって~。聞いてた~?」

足柄「……うん、聞いてたけど、よく聞きに行けたわね」

黒潮「度胸ありすぎや……」

山雲「そ~お~?」クビカシゲ

朝雲「私も司令から『邪魔するな』くらいは言われるかと思ったんだけど……」

白露「そっかー、このくらいじゃ提督は怒らないのか~」

L大尉「准尉! 手錠持ってきたよ!」

提督「おう、早く頼む」

足柄「ねえ……どっちが偉いんだかわかんないんだけど」

朝雲「まあ、そこは、L大尉が司令に迷惑かけたこともありましたからね……」

不知火「不知火も改めて欲しいと思っていますが、司令が人間関係を最初から投げ捨てていますので、改善は難しいかと……」ズーン

足柄「く、苦労してるのね……?」

927: 2022/04/18(月) 22:30:17.40 ID:3ss71ySNo

 * 拘束完了 *

隼鷹「……」

提督「これで俺も目を離していいな」フー

香取「はい、お疲れ様です」

L大尉「さてと、まずはどうしてこの船に侵入したのか、目的を聞かせてもらおうかな」

隼鷹「……ないよ、そんなの……」

L大尉「ない?」

隼鷹「あたしは厄介払いされたんだ。どうせ……あたしのことなんて誰もわかっちゃくれないし」グスッ

L大尉「……??」

足柄「なんか、複雑な事情がありそうね」

千歳「詳しく話を聞いてみたほうがいいんじゃない?」

提督「そう言うんなら、お前らがやってみるか? 千歳は艦種も近いし、話が合うかもしれねえ。L大尉、どうする?」

L大尉「そうだね……試しに任せてみようか。香取、サポートお願いしていいかい?」

香取「かしこまりました」

928: 2022/04/18(月) 22:31:02.08 ID:3ss71ySNo

足柄「それじゃあさっそく!」ビールトリダシ!

千歳「口を滑らかにするために一献!」サカビントリダシ!

 ガシガシッ

足柄「あら?」アタマ

千歳「えっ?」ツカマレ

提督「シラフで説得しろ」

足柄「あっ!? ちょ、あ、あだだだだ!?」メキメキメキ

千歳「いだいいだいいだい!? な、な、なんですかその馬鹿力!?」ミシミシミシ

鹿島「あの……准尉さんって、あんなに細いのに怪力なんですか?」

朝雲「握力がすっごいらしいですよ?」

白露「あたしもやられたことあるけど、あのアイアンクローはしゃれになんないよ。大和さんや金剛さんでも痛がるくらいだもんね」

山風「大和さんが……?」ヒキッ

ガンビアベイ「Oh my god ...」シャッシャッ(←十字を切っている)

那智「なに、我々が恐れることはないだろう。先刻の山雲が話していたところを見ても、非常識な真似をしなければ良いだけじゃないか」

山雲「山雲も~、そう思います~。ね~」

929: 2022/04/18(月) 22:31:47.91 ID:3ss71ySNo

提督「ったく、呑兵衛のこいつから酒取り上げたってのに、お前らがこれ見よがしに飲みだしたら話にならねえだろうがよ」

千歳「わ、わかりましたから……あいたたた」

足柄「まあ、いいわ。ねえ隼鷹? 目的がない、って言ったけど、それ、どういう意味?」

隼鷹「……」プイ

千歳「だんまりじゃわかんないわ。やっぱりお酒が……」ガシッ

提督「……」ジロリ

千歳「じょ、冗談ですよ?」

足柄「っていうか、そもそもどこの艦隊の所属なのよ。別に私たちが絡まないで、そこの司令官に任せればいいんじゃないの?」

香取「それにはまず、隼鷹さんからどこの鎮守府の所属か、聞きださないといけませんね」

足柄「この島に向かう船の貨物に紛れこむくらいなんだもの、お酒を飲ませてもらえないような鬼みたいな提督なんじゃない?」

足柄「じゃなかったら、隼鷹が逃げ出すくらいの外道とか……」

隼鷹「そうじゃない……」ボソッ

足柄「えっ?」

隼鷹「そうじゃないんだよぉ……!」ボロボロボロ

千歳「!」

隼鷹「R提督に……あたしたちの提督に、会わせて貰えないんだよぉ……!」

930: 2022/04/18(月) 22:32:31.65 ID:3ss71ySNo

隼鷹「どこ行っちゃったかも教えて貰えないし、出撃もさせて貰えない! 誰かと話すのだって制限されてる!」

隼鷹「いつ元の鎮守府に戻して貰えるかわからない上に、艦載機も全部取り上げられて外とのコンタクトも取らせて貰えない!」

足柄「……」

隼鷹「そうなったってのに、飲む以外に、何ができるってえのよ……!」

香取「R提督と仰いましたね。その方が何かしたのですか?」

隼鷹「……私の、せいなんだ。あたしが、酒の席で、提督をひっぱたいたのが悪いんだ」

香取「何があったんです?」

隼鷹「……ケッコンカッコカリ……」

香取「……!」

隼鷹「あたしはこの通り酒飲みだしさ。カッコカリとはいえ、品の良い告白なんてガラじゃないって思ってる」

隼鷹「でも、飛鷹は違う。飛鷹はあたしなんかと違ってしっかりしてるし、昔も今もお嬢様なんだ」

隼鷹「あたしだけならともかく、飛鷹も一緒に、居酒屋でカッコカリの告白をしたんだよ。そりゃーちょっとあんまりだと思わない!?」

足柄「あー……」

千歳「……それは、まあ……」

隼鷹「酒の勢いで告白なんてして欲しくなくてさあ……あたしがR提督を平手打ちして文句言ってたところを、上の人に見られて」

隼鷹「あとはもう、引き離されて閉じ込められて、まともな出番も用意して貰えなくなって。軟禁状態から逃げてきたってだけさ」

931: 2022/04/18(月) 22:33:16.50 ID:3ss71ySNo

隼鷹「どこ行ったって装備もなけりゃ情報もないし、どうせ会えないんなら……って」

隼鷹「荷物開けてみたら酒があったから、何もかも忘れようってんで、ヤケになったってだけの話だよ……」

足柄「……」

千歳「……」

香取「なるほど。となると、R提督の居場所を探して、彼女を送り届けるのが最終目的になりそうですね」

L大尉「そうかもしれないけど、大丈夫かな? R提督が提督業を続けられなくなってたりしたら……」

香取「まだそうと決まったわけではありません。飛鷹さんの行方も含めて、確認するのが先決かと」

L大尉「うーん……」

提督「……まあ、隼鷹が痛飲するほど嘆いてるのはわかった」

千歳「提督……」

提督「話の続きはそいつが酒代を払ってからだな。無銭飲食だろ」

隼鷹「」

千歳「」

足柄「」

那智「……いや、確かにそうだが」

提督「いや、じゃねえだろ。ぶっちゃけそいつの事情なんて俺たちには知ったことじゃねえ」

932: 2022/04/18(月) 22:34:01.41 ID:3ss71ySNo

提督「荷物勝手に開けて飲み食いすんのはよくねえよ。L大尉んとこでちゃんと働いて落とし前付けてこい」

L大尉「……まあ、確かにその通りだね。けど、僕のところに連れて行っても、ちゃんと仕事になるかどうかはわからないよ?」

提督「なんだ、嫌か?」

L大尉「ぶっちゃけると嫌だね。僕は酔っ払いは大嫌いなんだ」ムスッ

朝雲「うわー……L大尉があそこまで不快感をあらわにしてるの、私、初めて見たわ」

L大尉「酔っ払い相手に無理に飲まされた翌日、二日酔いで丸一日動けなくなったこともあってね……」

L大尉「そもそも、人がもういいと言ってるのに、無理矢理飲ませようとする神経が理解できないんだよねえ……!」イライラ

香取「そういうわけでして、L大尉はお酒を滅多に召し上がらないんです」

提督「そんな経緯があるなら当然だな。もしかして香取も酒飲みか?」

香取「嗜む程度にですけれども。まあ……晩酌のお相手がいないのが、少々寂しく思うのは否定できませんね」

提督「なら隼鷹連れてって相手してもらってもいいだろ」

L大尉「えーー?」

提督「うちにだって引き取る義理はねえよ」

足柄(押し付け合いになってるわ……)

千歳(自業自得とはいえ、隼鷹が気の毒ね……)

海風「あ、あのぉ……」

足柄「? どうしたの海風」

933: 2022/04/18(月) 22:34:48.31 ID:3ss71ySNo

海風「准尉さんは、隼鷹さんが飲んだ分を働いて返せと仰るわけですよね」

提督「まあそうだな」

海風「もともとこの荷物のほとんどは、足柄さんや千歳さんのために持ってきた荷物です」

海風「その足柄さんたちが、こちらの……墓場島鎮守府に着任するとなれば、この荷物は全てこの島のものになります」

海風「もし、隼鷹さんもこちらの鎮守府に着任したとすれば、その荷物を盗んだ扱いにはならないのでは……」

L大尉「それだ!!」

提督「それだじゃねえよ! こっちが荷物受け取る前だぞ! ノーカンだろ!」

L大尉「いいじゃないか丸く収まるんだから!」

提督「収まるわけねえだろ!」

香取「准尉、仮に隼鷹さんを連れて帰ったとして、素直に神戸に入れると思えません」

香取「呉鎮守府からは、この島に行く人員について確認を求められています。この島に寄って、その帰りに艦娘を連れてきたらどうなるか」

提督「……なるほどな。叩けば埃が出るご身分じゃあ、連れて帰った方がどうなるかわからねえってか」

香取「はい」

提督「……」

934: 2022/04/18(月) 22:35:31.35 ID:3ss71ySNo

L大尉「……准尉こそ、何か問題でもあるのか? ここは艦娘を匿うにはこれ以上ない場所だと思うし」

L大尉「君がさっき話した『艦娘の未来のため』には、隼鷹を含んでもいいだろうに」

提督「……おい、海風。ちょっと来てくれ。黒潮もだ」

海風「は、はい?」

黒潮「どうしたん?」

提督「L大尉たちはちょっと待ってろ。海風と黒潮はこっちだ」

海風「?」

 *

黒潮「司令はん、ゴミ袋なんか漁ってどうすんの?」

提督「さっき片付けた空の酒瓶は……あったあった、この四合瓶だったよな」ゴソゴソ

提督「海風、さっき足柄が高い奴だって騒いでた酒の瓶はこれだな?」

海風「は、はい、そうです」

提督「これを使って、ちょっと胸糞悪い芝居を打つからよ。悪いが口裏合わせててくれ」

海風「は、はあ……?」

935: 2022/04/18(月) 22:36:16.53 ID:3ss71ySNo

提督「黙ってるだけでいいからよ。黒潮も、俺の素性を知ってる連中が声を上げないように、ちょっと黙らせててくれ」

黒潮「……何しよんの?」

提督「ちょいと、でけえ釘を打っておこうと思ってなぁ」ニタァ

黒潮「……」

海風「あの、准尉さんは一体何を……」

黒潮「んー……多分、悪いことやないと思うんやけど……」ウーン

 *

足柄「隼鷹の話、隼鷹がやったとはいえ気の毒ね」

千歳「お酒の席での話でしょう? 確かに少しは盛り上がってことが大きくなるけど……大袈裟にしすぎな気もするわ」

提督「待たせたな」

L大尉「あ、戻って……その酒瓶はなんだい?」

提督「隼鷹に訊きたいことがあってな」

足柄「あ、その酒瓶……」

千歳「さっきのいいお酒の瓶ね」

936: 2022/04/18(月) 22:37:01.47 ID:3ss71ySNo

提督「おい隼鷹。この酒もお前が飲んだんだよな?」

隼鷹「え? ま、まあ、そうだけど……」

提督「うまかったか?」

隼鷹「??」

提督「うまかったか、って訊いてんだ」

隼鷹「ま、まあねえ……いいお酒だったよ」

提督「そうかそうか」ニッ

朝雲「……なに、あの薄ら寒い感じの笑顔」

那智「ん? そうなのか?」

不知火「ええ、そうですね……いつもならもっと不敵な感じの笑い方なのですが」

黒潮「それが、ちょいと訳ありなんよ……」ヒソヒソ

白露「どういうこと?」

黒潮「ええから、何も言わずに静かに見守っといてぇな」シー

937: 2022/04/18(月) 22:38:01.82 ID:3ss71ySNo

提督「貴重な酒だからな。うまかっただろうさ」

隼鷹「……えーと……何が言いたいのかな……?」

提督「ああ、なんてことはねえ。この酒は俺の妻の命日に開けようと思ってたってだけだ」

隼鷹「……!!」サァァ…ッ

足柄「えええ!?」

千歳「め、命日!?」

L大尉「……そ、それは……!」

隼鷹「」カタカタカタ

提督「そうさ。妻の最後の贈り物が、全部お前の胃袋ん中に入っちまったからなあ。どうしてやろうか、ってなあ……?」ズイ

隼鷹「あっ……ご……ごめ……! ごめん……なさ……!!」ガタガタガタ

L大尉「……そ、それは、ごめんなさいで済む話か!?」

千歳「ちょ、ちょっと待って!? 准尉って既婚者なの!?」

足柄「嘘でしょ!?」

提督「ああ、嘘だぜ?」ケロッ

隼鷹「」

L大尉「」

千歳「」

足柄「」

那智「……」

938: 2022/04/18(月) 22:39:02.08 ID:3ss71ySNo

海風「……あのう、准尉さん? 冗談にしては悪趣味ではないでしょうか」ドンビキ

提督「冗談? 俺は嘘とは言ったが、冗談にしたつもりはねえぞ」

海風「? それはどういう……」

提督「今の話が嘘にならねえ艦娘が、この鎮守府には少なからずいるんだよ」

香取「なるほど。ここには、愛する人を失った艦娘が在籍している、ということなんですね?」

朝雲「あ……!」

不知火「……」

提督「そういうこった。それも一人や二人じゃねえ上に事情も様々でな。お前らもわかるだろ?」

黒潮「うん、まあ……そうやねえ」

提督「好意を寄せていた相手を殺された奴、信頼していた相手に先立たれた奴、大事な仲間を失った奴……」

提督「それとは逆に、上に見捨てられた奴もいれば、ろくでなしから逃げてきた奴、捨て艦にされた奴もいる」

提督「そういう複雑な事情を抱えた連中がいるのに、酒を言い訳にして好き勝手するような奴は、俺としても放っちゃおけねえんだよ」

白露「うーん、そうだね~……あたしはともかく、黒潮の話は重かったもんね」

山雲「朝雲姉は~、そういう事情の人、知ってるの~?」

朝雲「あ、うん……えっと、いち、にい、さん……」

那智「そんなにいるのか……」

939: 2022/04/18(月) 22:40:03.08 ID:3ss71ySNo

L大尉「誰がそうなんだ……?」

提督「その辺は訊いてやるな。下手に刺激するとそいつがどうなるか保証できねえ。当人が話し出さない限りは余計な詮索はやめとけ」

L大尉「……そう、だな。すまない」

提督「それだけでも問題だってのに、ここは年中食糧不足の離島の鎮守府だ。食い物の恨みとなれば、どれほどのものか……」

提督「仮にそれが酒であったとしても、わからねえとは言わさねえぞ?」

足柄「確かに、御無沙汰しててお酒に飢えてた私たちとしてはね……」

千歳「すでに一度やられているものね。また次があったんじゃ、さすがにちょっと考えるわ」

隼鷹「……」シュン

提督「で? 結局どうすんだよ、隼鷹は」

L大尉「僕たちは連れて行くつもりはないぞ?」

提督「お前らにゃ訊いてねえよ。俺は隼鷹に訊いたんだ」

隼鷹「……」

提督「手っ取り早く訊くぞ。お前、生きたいのか氏にたいのか、どっちだ」

隼鷹「……!」

那智「提督、貴様……!?」

940: 2022/04/18(月) 22:40:47.86 ID:3ss71ySNo

提督「俺は氏にたい奴に用はねえ。手前の望みがない奴も、手を貸したいとは思わねえ」

提督「生きる気がない奴を無理矢理生かしておいたら余計に残酷な目に遭うときもある。介錯してやるのも情けってやつだろうが」

隼鷹「あたしは……」

提督「!」

隼鷹「あたしは、氏にたくなんかないよ……!」

隼鷹「あたしの提督に……R提督に、会いたいんだよ……!! 誰が、氏んでやるもんか……っ!!」

提督「……はぁ、そうかよ。ったく、面倒くせえ」

不知火「司令」

提督「わかってるよ。引き取ってやろうじゃねえかよ、くそが」

香取「……准尉、お願いできますか」

提督「ま、今のところは仮で、だけどな。とりあえず決意を見せてもらおうじゃねえか」

香取「決意、と仰いますと」

提督「隼鷹、お前、酒を抜け」

隼鷹「え……?」

提督「シラフになれっつってんだよ。今飲んだ酒はR提督に会えないことに絶望して飲んだヤケ酒だ」

941: 2022/04/18(月) 22:41:46.78 ID:3ss71ySNo

提督「その絶望の証が体から完全に抜けたら、この鎮守府への配属を考えてやる」

提督「R提督が今を何してんのかを調べんのも、それができてからだ」

提督「後で、酔っ払ってて何を言ったか覚えてねえとか、俺に無理矢理言わされたとか、酔った勢いとか、言い訳はさせねえぞ」

千歳「……少し、厳しすぎないかしら」

提督「それがなあ、俺が助けた相手に『お前に助けられなければ良かった』って言われたことがあるからな?」

提督「そうでなくとも、酔っ払いの言葉を信じるほど俺もお人好しじゃあねえんだよ」

提督「……そういうわけだから、隼鷹の酒が抜けるまではこの酒も隠しておかねえとな」

足柄「ええええ!?」

提督「当然だろが! 禁酒突きつけられた隼鷹の手前でこれ見よがしに飲む奴がいるか! ちったあ協力しやがれ!」

千歳「それは協力と言うより巻き添えよ……」

提督「嫌だっつうんなら、海風に全部持ってってもらうぞ」

千歳「協力します!」

足柄「だからお酒は置いていって!」

提督「……やれやれ」

L大尉「どうしてこう、お酒がやめられないのかなあ……」

提督「ああ……L大尉と意見があうなんて、時化が来そうだな」

L大尉「ひどいな!?」

948: 2022/05/01(日) 23:29:00.84 ID:UtfV1pPCo

 * その後 執務室 *

大淀「L大尉が神戸に、ですか」

提督「ああ。いろいろあるらしいが……またここに来る機会がなくなるらしいし、白露に関係者集めてもらって盛大に見送ってやったぜ」

提督「加古の寝坊助っぷりに驚いてたが、まああいつにゃあ関係ねえしな」

大淀「それにしても、こんなにお世話になるとは思いませんでしたね」

提督「古鷹連れてきて、置き去りにして以来か……よくあそこまで持ち直したもんだ。まあ、内地勤務にもなったし、長生きはするだろ」

大淀「L大尉に運んでいただいたお酒は牢屋に保管したんですか」

提督「あそこも鍵かかってるからな。人が立ち入らなきゃ割とひんやりしてるし、置いといて味が変わったりはしないだろ」

提督「盗りに来るようならそのまま鍵かけてもいい。最悪、全部かち割って備え付けの便所に全部流しちまってもそれまでだ」

大淀「そうならないことを祈りたいですね」

提督「まあな。とりあえず鍵は俺が預かっとく。予備の鍵の管理は頼むぜ?」

大淀「はい、お任せください」

 ドタドタドタ

提督「ん?」

949: 2022/05/01(日) 23:30:00.52 ID:UtfV1pPCo

吹雪「司令官司令官しれいかーーーん!」ガチャバーン!

提督「なんだなんだ、どうした?」

吹雪「これです! この新聞、見てください!」

提督「新聞?」

吹雪「そうです! S提督がお辞めになったときの新聞です!」

吹雪「あっちの吹雪ちゃんと話した後で、あの新聞を私に見せてくださったじゃないですか!」

提督「ああ、お前に預けるって言ってたあの新聞か」

吹雪「はい! 確かあの記事の周りに、R提督の名前があった気がしたのを思い出して……!」

提督「なに?」

吹雪「これですよね! 丁度S提督の記事の上!」

提督「おお……R提督ってちゃんと書いてるな。ショートランド泊地、っつうと太平洋の制海権の東端じゃねえか。マジで左遷扱いなんだな」

吹雪「大変なところなんですか?」

大淀「ゆるい場所ではありませんね。日本からは一番遠い泊地で補給も困難で、かつ対深海勢力の最前線ですから」

提督「長期滞在するにゃあ、少々しんどそうだ」

950: 2022/05/01(日) 23:30:45.91 ID:UtfV1pPCo

吹雪「そこにR提督が行ってるんですね……」

提督「お前に預けたとはいえ、こんな記事のこと、良く思い出してくれたな。吹雪のお手柄だ」ナデ

吹雪「! あ、ありがとうございます!」パァッ

提督「よし、そんじゃあちょっと探り入れてみるか。この手の話は不知火と初春だな」

吹雪「初春ちゃんもですか?」

提督「不知火は真面目過ぎて、必要な要件聞いたらそこで話が終わっちまうんだと」

提督「で、初春が隣にいると、好奇心からかいろいろ質問してくれて、いろんな話が聞けて助かるんだそうだ」

大淀「たまに雑談が弾み過ぎて手持無沙汰になる、って言ってましたけどね」

吹雪「あはは……」

提督「居場所さえわかっちまえば、とっとと隼鷹連れて行きたいところなんだが……」

提督「仮にも鎮守府を脱走した奴を連れて行くわけだからな。連れて行ったら捕まりましたじゃあ話にならねえ」

提督「向こうが今どういう状態で、隼鷹が行って問題ないのか、探りを入れてから連れて行かねえとなあ」

提督「それから、隼鷹が脱走するまでにいた鎮守府の動きも確認しておきたい。艦娘の脱走だ、普通ただじゃ済まねえと思うんだが」

大淀「そちらも不知火さんに調べてもらうよう依頼しましょう」

提督「いずれにせよ、うちで隼鷹を匿う方針に変更はねえ。隼鷹の存在は誤魔化せるだけ誤魔化すさ」

吹雪「はいっ! 了解です、司令官!」

951: 2022/05/01(日) 23:31:45.48 ID:UtfV1pPCo

提督「ところで、なんでお前がR提督の話を知ってんだ?」

吹雪「それは、食堂で隼鷹さんが泣いてて、それを千歳さんたちが慰めてたのを見たからです」

吹雪「そのときにR提督の名前が聞こえてきて、どこかで見覚えがある気がして……ふっと思い出したんです」

提督「食堂? あいつら、酒は入ってたか?」

吹雪「うーん、それはわからないです。隼鷹さんは明らかに酔ってたっていうか、お酒が入っていたような気がしますけど」

提督「隼鷹はここに来るまでにしこたま飲んでたからな。酒が抜けるまではこれ以上飲むなって言ったんだが」

吹雪「あの、飲んでいたのがお水かお酒かは、私の見た感じではちょっと……」

提督「涙流すにも水は必要だからな。何も飲ませねえわけにはいかねえし……まあいい。酒が抜けないなら見捨てるだけだ」

吹雪(……本当に見捨てるかなあ? なんでかんで口を出して無理矢理にでもシラフにさせそうな気がするんだけど)

提督「これを機会にちったあ酒の量減らす努力があってもいいよな。ショートランドだって酒がたくさんあるわけじゃねえだろうしよ」

大淀「減酒ですか……難しいと思いますよ?」

提督「減らすのすら、か?」

 コンコン

提督「!」

那智「私もそう思うぞ。酒を減らすには、それなりに覚悟が必要だ」スッ

吹雪「那智さん!」

952: 2022/05/01(日) 23:32:45.76 ID:UtfV1pPCo

那智「失礼する。執務室のドアが開けっ放しというのは、少々感心できないな?」パタム

吹雪「も、申し訳ありません!」ビシッ

那智「食堂の3人の様子を見てきたが、アルコールの類は摂っていないようだ。隼鷹にしても、もう2日も我慢すれば完全に抜けるんじゃないかと思う」

提督「わざわざ見てきてくれたのか?」

那智「ああ、私も気になっていたからな。私が話した感じでは、落ち込んでいる隼鷹を、足柄と千歳が慰めている状況だったが……」

那智「私には、隼鷹を慰めたいのが半分、自分たちが早く酒を飲みたくて隼鷹を頑張らせているのが半分といったふうに見えたな」フフッ

提督「やれやれ……」

大淀「お酒の管理は厳重にした方が良さそうですね。明石にも伝えておきます」

提督「ああ、そうしてくれ」

那智「それから提督。これを預かっておいてくれないか」ゴト

提督「なんだ? 酒か?」

大淀「ウヰスキーですね」

那智「この達磨は、向こうの鎮守府を出るときに、事情を知っている士官から餞別代りに持たされたんだ」

那智「とはいえ、私は当分酒を控えるつもりでいる。なので、貴様に預かっていてほしい。飲んでもらってもかまわない」

提督「開ける気はねえが……わかった。とりあえず、預かっとく」

那智「ああ、よろしく頼む」ニッ

953: 2022/05/01(日) 23:33:30.62 ID:UtfV1pPCo

那智「それにしても、隼鷹についたあの嘘にはヒヤリとさせられたぞ。貴様が嘘だと告げたときも、冗談ではないと告げたときもな」

那智「考えさせられたとはいえ、隼鷹は生きた心地がしなかっただろうな」

吹雪「? あ、あの、いったいどんな嘘をついたんですか?」

那智「ああ、隼鷹が盗み飲みした酒の一本を、提督が、氏んだ妻の形見だと言ったんだ」

吹雪「うわ……」ドンビキ

提督「うわ、じゃねえよ。そのくらいのことを言わねえと、ことの重要性を認識しねえだろ。素面ならまだしも泥酔してたんだぞ」

提督「冷や水浴びせて目ぇ覚まさせた上で、でかい釘を刺しとかねえと、隼鷹が歓迎されない可能性だってあるんだからな」

大淀「どういうことですか?」

提督「隼鷹の場合、R提督が生きていれば幸せになる可能性が残ってる」

提督「もしかしたら、それがここにいる他の艦娘の嫉妬を生むかもしれねえと思ってんだ」

大淀「嫉妬……?」

954: 2022/05/01(日) 23:35:04.09 ID:UtfV1pPCo

提督「隼鷹はR提督と再会できる可能性があるのに対して、うちの艦娘の中には慕っていた相手に先立たれてて二度と会えない奴らがいるだろ」

吹雪「ああ……」

提督「隼鷹が迂闊なことを言って、そいつらの不興を買うようなことは避けたいんだ」

提督「ぶっちゃけ、隼鷹みたいに望みがありそうな奴には、とっととこの鎮守府から出て行ってもらいたい」

提督「幸い、R提督がどこに行かされたかもわかった。無事を確認できりゃあ、あとは連れて行ける状況を作るだけだと思ってる」

提督「うちの連中と交流するのが悪いとは言わねえが、幸せになる道がある程度見えてる奴に、これ以上不幸になるような余計な寄り道歩いて欲しくはねえな」

大淀「確かに、そうですね……」

提督「隼鷹の話を聞く限り、自分の身内への告白を蔑ろにされたことに憤ってたみたいだし」

提督「もともとは他人を思い遣ったりできる奴だと思ってる。それを思い出せたんなら、言い方に注意するのも大丈夫だと思いたいな」

那智「ふむ……言い方にしろシチュエーションにしろ、随分と容赦ないなと思ったが、あれは貴様なりの試金石だったということか」

提督「そこまで大仰なもんでもねえがな。もし、あの嘘を理解できないくらいに頭がアルコール漬けになってたんなら、最初から隼鷹は見捨ててたぜ」

提督「あとは隼鷹が、自分が幸せになることに臆病にならないことを祈るだけだな」

吹雪「うわあ……」ドンビキ

大淀「提督がそれを言いますか……」ドンビキ

提督「なんで引くんだよ、くそが」

那智「?」

955: 2022/05/01(日) 23:38:28.29 ID:UtfV1pPCo
というわけで今回はここまで。

おそらく、もう一回くらい投下したら、
次のスレを立てることになると思います。

956: 2022/05/03(火) 22:15:51.52 ID:qIiZUc5v0
乙です。提督、ドンマイb

957: 2022/05/04(水) 09:06:59.07 ID:ACLHXSgA0
次回あたりが伊勢&日向くらい?

959: 2022/05/13(金) 22:08:26.05 ID:zTVyrmoc0
投下乙乙です。最近忙しくて見れてませんでしたがもうこのスレも埋まっちゃいそうですね。
隼鷹さん、見かけたことがあると思ってたけどあの時に出てきてたのか

960: 2022/05/15(日) 10:09:40.96 ID:sLwV0S9To
収まりが悪かったので、次スレに移行しました。

【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」

次スレでもよろしくお願い致します。

引用: 【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」