140: 2015/01/12(月) 19:00:04.12 ID:EyBLiPLYo


【咲×アカギ】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【前編】

 京太郎と藤田靖子の闘牌から遡ること数十分前
 清澄高校校長室では、一つの取材が行われていた


記者「それではもう一度写真いいですか?」

和「はい。どうぞ」ニッコリ

咲「うぅ……」グギギ

記者「あはは、硬いね。もっと自然に笑えるかな?」パシャッ

咲「が、頑張ります」ニコッ

和「いい感じですよ、咲さん」クスクス

咲「ふ、ふふ……」ニコニコ

和「……」

 全国大会で活躍した宮永咲、原村和への取材である
 それも、大々的に人気の麻雀雑誌への掲載だ

校長「いやー。素晴らしい」パチパチ

和「ありがとうございます」

校長「これで我が清澄高校も安泰だよ。君たち【女子】麻雀部のお陰でね」アハハハハ

咲「え? 女子、麻雀部?」キョトン

和「……校長先生?」ジロッ

校長「あ、いやっ! なんでもないよ、あははっ!」

咲「???」

和「もう終わりですよね? では私達は失礼します」

校長「あ、ああそうだね。ありがとう」

 ガチャ バタン

和「……ふぅ」

咲「和ちゃん、さっきのどういう意味だろう?」

和「さぁ、校長先生の何か勘違いでは?」

咲「そうだよね。酷いなぁ、京ちゃんだっているのに」プンプン

和「……」

咲「それじゃあ和ちゃん。私、もう行くね」

和「どこかに行くんですか?」

咲「うん。ちょっと京ちゃんを捜しに」

和「須賀君を……ですか?」

咲「最近全然話せてないから、えへへ、少し話したいなって」モジモジ

和「……須賀君も、喜ぶと思いますよ」ニコッ

咲「そ、そうかなぁ……//」

和「では……私は先に帰ります」

咲「あ、うん。また明日だね、和ちゃん」

和「はい。では、また明日――」

 タッタッタッタッタッタッ

和「……」

咲-Saki- 24巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
141: 2015/01/12(月) 19:00:30.11 ID:EyBLiPLYo

和「……」

 清澄高校一年、原村和
 元インターミドルチャンプで、今年はインターハイにて好成績を残す

 両親は弁護士と検事
 その恵まれた美貌に常人離れしたスタイル
 
 成績優秀、品行方正

 彼女を知る者は誰もが溜息を吐きたくなるほどの完璧超人
 
 それが――
 原村和であった


和「……」スタスタ

男子A「は、原村さん……// さようなら!」デレデレ

和「はい、さようなら」ニコッ

男子A「うひょぉぉぉ!!」ダダダッ

 テメェナニハラムサントハナシテンダ! シネッ!
 ドガバキッ!  ギャァァァア!

和「……」

 アーハラムラサンダー  カワイイー
 スタイルイイヨネー  ウラヤマシー

 ナカヨクナリタイナァー ホントホントー

和「……」ニコニコ

 常に、誰に対しても笑顔を崩さず
 全ての人に癒しを運ぶ少女

 人々はこぞって彼女を慕い、応援する

 中には狂信的なファンも多く――親衛隊のようなものまで出来る始末だ

和「……」スタスタ

 恵まれた存在
 人々がおおよそ望む、全ての幸福を詰合せたような――そんな人生

 その余りある幸福の中にあって、彼女にはただ一つだけ

 欠けているものがあった

和「……」ギリッ
 
 それが――
 今回の騒動を引き起こす、キッカケとなる


142: 2015/01/12(月) 19:01:02.13 ID:EyBLiPLYo

  第三話 
~~ノドカ~~

【京太郎の部屋】

 藤田靖子との対局の後、京太郎は帰宅していた
 というのも、出された宿題や次の日の予習――学生にはやることが多々あるのだ

 それに宿題を忘れればそれを口実にどんな嫌がらせをされるか分かったものではない
 弱みを作らない為にも、京太郎は優等生にならなけばならないのである

京太郎「……」カリカリ

 その――

アカギ「……」ジィー

京太郎「……う、うぅ」

 ハズだったのだが

京太郎「だぁぁぁ!! 集中できませんよ!!」

アカギ「あらら……」

京太郎「なんで、ついて来てるんですか!?」

 というのも、発端はあの靖子との一戦の後
 帰宅する京太郎の後ろを、アカギがずっと付いてきたのだ

 そしてそのまま家に上がり、部屋まで入り
 今じゃベッドに寝転んでくつろいでいる有様である

アカギ「クク……そう怒るなって」

京太郎「家に帰ればいいでしょ!」

アカギ「おいおい、忘れたのか? 俺は記憶喪失なんだ」

 つまり、帰る家も分からない
 どこに行く宛も無いというわけだ

京太郎「いやいや! お墓があるでしょ! お・は・か!」

143: 2015/01/12(月) 19:01:47.54 ID:EyBLiPLYo


 幽霊であるならお墓に帰るべきだ

 というかどうやってあの世からこっちに来たの?
 どうして俺のとこなの?

 聞きたいことは山ほどある 

京太郎「あの……そもそも、どういう経緯でここまで?」

 それが一番の気になるところだ
 幽霊はお風呂のぞき放題だとか、そんな姿でも性欲はあるのかとか
 色々と聞きたいことはあるがまずはそこ

京太郎「教えて、くれませんか?」

アカギ「……ま、話してやるか」

 この時アカギ、意外に素直

アカギ「アレは――」


【数日前 赤木しげるの墓】


 それはいつからの事なのか
 
アカギ「……」

 アカギは気が付けばそこに存在していた

アカギ「……?」

 見渡せば墓石が立ち並び、ここが墓地であることはひと目でわかる
 そして――自分の目の前にある【赤木しげる】の墓石

アカギ「クク――なるほど」

 それは、記憶の奥底で覚えていることなのか
 それともただの直感なのか

アカギ「赤木しげる……それが俺の名か」

 目の前の墓が自分のものであると、理解することができた
 
アカギ「化けて出たってわけだ」

 微妙に透けた身体
 おぼろげな記憶

 そんなまどろみのような存在として、アカギはそこに存在した

アカギ「さて、どうしたもんかね」

 どうしてそこにいるのかは、別にどうだっていい
 過去の事に縛られても――そこには何の価値も無い
 
 だが、問題はこれからのこと

アカギ「……」

 記憶がなければ行く宛も無い
 何をする気も起きない



144: 2015/01/12(月) 19:02:27.54 ID:EyBLiPLYo


アカギ「……」

 そこでアカギの取った行動は待機
 その場で留まることを決意する

アカギ「……ま、いろいろあるしな」

 墓前に備えられた栄養ドリンクやタバコ、その他様々なお供え物
 物には物理的干渉できないアカギだが、なぜかこれらには触れることが出来た

アカギ「クク……」カチッ

 スパスパ

アカギ「フゥー」

 タバコを吸いながら、ぼーっと空を見つめる
 目的も無く、これからどうするか

 一度氏んだ身に、何ができるのか
 
 命の重みも実感できず”あの”胸の焼け付くような戦いも出来ないのだ

アカギ「……あの?」
 
 思い出せない
 だが、確実に心の中に眠っている

 勝負を求める――狂気の魂

アカギ「……」

 だが、今となっては無力
 例えどれだけの才能があろうと、力があろうと

 体が無くては何もできない
 生を実感することも――不可能

アカギ「クク……お手上げだな」

 半ば諦めのような気持ちもあった
 だが同時に――期待もある

アカギ「……」

 ここで待っていれば、何かが変わる 
 そんな――予感


~~~~~~~


ひろゆき「……ヒック、赤木さん」スタスタ

天「……」ゴシゴシ

 その数日の間
 時々は誰かがやってきて、墓前で手を合わせていった

 顔も知らない、でもどこか懐かしい面々ではあったが――
 誰ひとりとして、赤木に気付くものはいない

アカギ「……」

 アカギは待った
 そこから動くことはなく、ただずっと


145: 2015/01/12(月) 19:02:55.84 ID:EyBLiPLYo

 オレが望んだもの……
 それは変化だった……

 全てをひっくり返すような変化だ
 生まれ変わるほどの……

アカギ「……」

 この氏ぬよりもつまらない退屈
 それを全て吹き飛ばすような――そんな変化

ひろゆき「それでですね、赤木さん。今日は――」ゴクゴク

 ほぼ毎日のように顔を見せるこの男の戦勝報告でもなく
 ただもっと――

 もっと自分を満たすような狂気の闇
 勝負への渇望

 誰でもいい

 このくそったれな空気
 流れを……変えてくれっ……!

アカギ「誰もいい……魔でも……!」

 神でも――!!

?「……」ソローリ

 ジャリッ

アカギ「!?」

 それは――

ひろゆき「君、この男に用があるのか?」
 
京太郎「えっ?」ドキッ

 それは――今や枯れ果て
 とうの昔に失った――熱いなにか


               

アカギ「……待っていた」ザッ

 自分には分かる
 自分がここにいたわけ、その理由――

アカギ「お前だ、お前を待っていた」

 それは――同類を嗅ぎ分ける、直感だったのか
 それとも――魔物が引き寄せた運命のイタズラか

アカギ「クク……」

 こうして、二人は出会ってしまったのである



146: 2015/01/12(月) 19:03:24.09 ID:EyBLiPLYo


ひろゆき「……まだ子供か」

京太郎「ど、どうも……」ペコリ

ひろゆき「見なよ、この人の墓」スッ

京太郎「え?」

ひろゆき「墓石の欠片をガリガリ削られて、今じゃこんなに小さくなってる」

京太郎「そ、そうですね」

ひろゆき「しかしそれも数年前までの話だ。今じゃ、誰もこの人の墓を削ろうなんてしない」

京太郎「……」

ひろゆき「……君は、コレが欲しいのかい?」

京太郎「……はい」

ひろゆき「そうか。素直な奴だな」ハハハ

 二人が話し込んでいるのを尻目に、アカギはただじっと少年を観察していた
 そのオーラ、身に纏う無頼としての格

アカギ「……」

 てんでお話にならない
 そこいらの小学生でも、もっとセンスのいいものはいるだろう

ひろゆき「君、麻雀をやってるか?」

京太郎「っ!?」

ひろゆき「その反応、図星だね。子供だからそんなことだろうと思ったけど」

京太郎「……」

ひろゆき「……君は、どうしてここに来た?」

京太郎「そ、それは……」

ひろゆき「強くなりたい?」

京太郎「……」コクッ

ひろゆき「……そうか、強くなりたいか」トオイメ
 
 ひろゆきも先ほどのアカギと同じように京太郎を品定めする
 結論は同じ
 てんでお話にならない

ひろゆき「やめておいた方がいい。ろくなことにならないから」

京太郎「なっ!?」

 だが、この時アカギには確信があった

アカギ「……」

 この少年には何かがある
 必ず、自分の求めている何かが――


147: 2015/01/12(月) 19:03:55.20 ID:EyBLiPLYo


ひろゆき「俺も長くこの世界にいる。分かるんだよ、そういうの」

京太郎「なんでそんなことを、アンタに言われなきゃいけないんだ!」

ひろゆき「……ごもっとも。だからこれはただの忠告」ザッ

 去りゆくひろゆき
 その背中を見て――アカギはなぜか、自分でもよく分からないが

京太郎「あ、あのっ!」

ひろゆき「俺はひろゆき。井川ひろゆきだ」

アカギ「ヒロ……」ボソッ

 呼び止めていた
 その男を、顔も覚えていないその――かつての”仲間”を

ひろゆき「(今の、声……)」ドクン

アカギ「クク……またな」

 聞こえているわけがない
 アカギ本人もそう思っている

 しかし――それは運命の数奇なイタズラか
 それともただの幻聴だったのか

京太郎「ひ、ひろゆき?」

ひろゆき「……なんでですか?」ボソッ

 ひろゆきの胸にはしっかりと――

ひろゆき「どうして、今さら……化けて出てくるんですか?」

 アカギの言葉は届いていた

148: 2015/01/12(月) 19:04:21.63 ID:EyBLiPLYo

 こうしてひろゆきと別れた後
 京太郎は目的を果たす為にカナヅチを取り出す

 墓石を手に入れようというのだ  

京太郎「……」ググググッ

アカギ「……」

 一方でアカギの方は、この少年にどう接触するべきか悩んでいた
 話しかけることも触れることもできない
 
 この状況ではさしものアカギもお手上げである

京太郎「俺は!! 俺の力を信じる!!」

 そんな最中、京太郎が一大決心とともにアカギの墓を殴りつける
 すると――

アカギ「!?」バキィッ

 突然、横っ面を殴り飛ばされたようにアカギが転倒する
 その衝撃は――重く、アカギの心にまで響く一撃であった
 
京太郎「……はぁっ、はぁっ」

アカギ「クク、やってくれるな」

 フラフラと起き上がり、京太郎を睨み上げるアカギ
 すると、そんなアカギに呼応するかのように――

 パキッ

京太郎「……え?」

 パキキキッ……

 パキィィンッ……!!

 カランッカランッ!

 墓石の欠片が、京太郎の前に転がり落ちたのである

京太郎「欠けた……?」

アカギ「あらら……」

京太郎「……赤木さん」スッ

 京太郎はそれを、アカギからの餞別だと勘違いしたのか
 ゆっくりと拾い上げる

京太郎「貰っていってやるよ」

 そして、深々とお辞儀をし――
 あらん限りの声で叫ぶ
 
京太郎「……ありがとうございましたっ!!」ペコッ

アカギ「……」


149: 2015/01/12(月) 19:05:13.31 ID:EyBLiPLYo

 そうして、京太郎は早々と帰っていく
 対するアカギはその後ろからバレないように付いて歩いている

 というのも、先ほど京太郎が墓の破片を手にしてから
 なんだか急に体が重くなり

 今までのふわふわとした感覚が無くなっていったのだ

アカギ「……」

 今の自分は、目の前の少年に近くされる
 漠然とだがアカギはそれを理解していた

京太郎「ふんふ~ん」テクテク

 だからこそアカギは後ろを歩く
 この少年を見極める為に――

アカギ「フフ……」


~~~~


 そうして長野まで付いてきたアカギが目にしたのは、
 学校内で虐げられる京太郎の姿であった
 
 理不尽な暴力、嫌がらせ

 しかしそれに不満を言わず、ただ辛抱する

 馬鹿そのものの生き方
 他人のことばかり気にして、自分のことを考えない愚か者

京太郎「うっ……くっ……ちくしょぉ」ポロポロ

アカギ「……」

 なんてことは無い
 この男は優しすぎるのだ

 無頼として生きるには――不要な甘さ
 
アカギ「やれやれ」

 現状では、この男には何も価値が無い
 自分を満たすような存在には到底思えないのだ

 しかし、それでもアカギが京太郎を見放さずに付いて回るのは――

京太郎「……だけど、明日で変わるんだ!」ギリッ

アカギ「クク……それでいい」

 瞳の奥底に僅かにくすぶる……勝負への執念
 勝ちへのあくなき執着

 それこそが、アカギが最も求めているものであった


150: 2015/01/12(月) 19:05:41.01 ID:EyBLiPLYo


【現在 京太郎の部屋】


京太郎「つまり……オレが面白そうだから付いてきたってことですか?」

アカギ「フフ……分かってるじゃん」ニヤリ

京太郎「なんじゃそりゃぁあぁ!!」

 そんな映画を見に行こう的な感覚で言われても
 こっちは困っちゃいますって!!

アカギ「ま、いいだろ別に。減るもんでないし」

京太郎「なんで幽霊と同棲しなきゃならないんですか!?」

アカギ「中々出来ない経験って奴さ」

京太郎「そういう問題じゃないでしょ!」

 ズキズキと痛くなる頭を抱えつつも
 京太郎は続ける

京太郎「俺について来て、アカギさんは結局何がしたいんですか!?」

アカギ「……」

京太郎「……」


アカギ「そうだな……もう一度、満足の行く勝負をしたい」


京太郎「えっ?」

アカギ「……心を満たすような、身を焦がす命懸けの氏合だ」

京太郎「……」ゴクッ

 アカギの言葉はまるでとんちかんであったが、
 なぜか妙な重みがあった

 それは――冗談でもなんでもなく
 間違いなく本気の一言であると、京太郎は理解していた

アカギ「クク――だが俺はものに触れないんでね。必要なのさ、お前が」

京太郎「ひぃいぃぃ!? 体を奪われるぅぅぅぅ!?」ズザザザッ

アカギ「あらら……」

京太郎「というか命懸けの勝負ってなんですか!?」

アカギ「そりゃ……負けたら氏ぬってことだ」

京太郎「もう氏んでるじゃないですか!!」

アカギ「だから――」


アカギ「京太郎――お前でいい」

151: 2015/01/12(月) 19:06:21.25 ID:EyBLiPLYo

京太郎「え? それは俺に氏ねと言っているのでしょうか?」グギギギ

アカギ「クク……ま、遠からずってとこかな」

京太郎「」

アカギ「だが、今のお前じゃまだまだ弱い」

京太郎「そ、そりゃアカギさんに比べれば弱いですけど……」ブツブツ

 策略や運
 その全てが桁違いだったアカギ

 それと比べれば京太郎など、吹けば飛ぶようなものだ

アカギ「だから――しばらく見ていてやるよ」ゴロン

京太郎「え?」

アカギ「お前は強くなりたい。俺はお前を借りて勝負したい」

 ただそれだけ
 アカギにしてみれば、京太郎の氏は自分の氏に等しいのだから
 
 それで十分に熱い勝負が出来ると踏んでいた

アカギ「お互いに目的を果たせるってわけだ」

京太郎「た、確かにそうですけど……」

 アカギの闘牌を間近に感じ、ともに戦う
 今日一日だけでどれほど勉強になり――成長することができたか

 一目瞭然だった

京太郎「……」

アカギ「……」

京太郎「アカギさん。一つだけ、いいですか?」

アカギ「ああ、言ってみろ」

京太郎「確かに俺は強くなりたいし、実際に今はアカギさんに敵わないでしょう」

アカギ「……そうだな」

京太郎「だけど、だけど俺は強くなりたい。誰よりも――アナタよりも!」

 そう、誓ったんだ
 自分のチカラで赤木しげるを越える
 
 それが俺の目標なんだ

京太郎「だから――いつか俺と勝負してください」

アカギ「!」

京太郎「……そして、必ずアカギさんを満足させて――成仏させます」

 それは――いずれ果たされる約束

 京太郎は命を――アカギは魂を――
 
 それぞれが求める、夢の果てにあるもの
 胸焦がし、喉がひりつくような熱い勝負の先――


 神(魔)の一手を巡る戦いの始まり


京太郎「俺は――アナタを頃す」ニィ

アカギ「クク……面白い。やってみろ」ニヤリ

 アカギと京太郎
 その長い氏闘の火蓋は今、切って落とされたのである


152: 2015/01/12(月) 19:21:15.69 ID:EyBLiPLYo

 須賀京太郎と藤田靖子の闘牌を終えたRoof-top
 そこでは一時的に盛大な、お祭り騒ぎが起こり――場を賑やかせていた

 全く無名の高校生がプロ雀士を下す
 それも――完全に実力を上回る打ち筋である
  
 人々は口々に噂し、Twitterや2chにその情報を流す

 やがて、その噂は妙な現実味を帯びて語り継がれることになる


 あの【神域の再来】が現れたと


靖子「……」


 卓に突っ伏したまま、一言も発さずに微動だにしない藤田靖子
 今、彼女の胸を巡る想いはどのようなものなのか

 誰にも分からない
 きっと、このプロ雀士本人にも――ずっと


 ざわ……
   ざわ……

 
久「……」

 そんな喧騒の最中、頭を抱えている少女がいた
 
久「全く、どうしたものかしら」

 ある意味ではこの騒動の発端となった存在
 清澄高校麻雀部部長、竹井久である
 
まこ「……あれが、京太郎じゃと?」

久「何が言いたいのー?」ハァ

まこ「わしゃ……アレが京太郎とはとても思えん」

優希「……同感だじぇ」

 途中まではよかった
 正直、よく飛ばなかったと驚いた程だ

 そしてあの5pを切っての和了に至っては
 その瞬間――京太郎に麻雀をさせるべきではないか、そう考えたほどである



153: 2015/01/12(月) 19:21:48.94 ID:EyBLiPLYo


 しかし――
 藤田靖子が現れてから、須賀京太郎は変わった

久「まるで鬼神ってとこかしら」

 大三元のイカサマ、中の二連打切り
 靖子の目的を見抜いての和了の見逃し――

 そして極めつけは決着の一撃となったあの和了

久「まさか”まくりの女王”のまくりにカウンター決めるなんて」

 まるで理解できない
 自分達にいいようにやられていた須賀京太郎からは、到底信じがたい闘牌

優希「なんだか京太郎が怖い。今までのアイツじゃなくなっちゃったみたいで……」

まこ「優希、やめんか」

優希「で、でも!!」

 今にも泣き出しそうな顔で、優希は縋り付く
 対するまこの顔色は伺いしれない

 それは、彼女なりの必氏のやせ我慢であったのかもしれない

まこ「……そもそも。わしらの知ってる京太郎とはなんじゃ?」

優希「えっ?」

久「……」

まこ「いつも明るくて、雑用を嫌な顔せず引き受けて、スケベで、麻雀も弱い……」

久「……他は?」

まこ「……」フルフル

久「優希は、分かる?」

優希「や、優しくて……私のわがまま、聞いてくれて、それで、それで……」ジワッ

 思い浮かばない
 半年近くずっとそばにいたのに――自分達は一体京太郎の何を知っていたのか?
 
 知ったつもりでいたのか

久「所詮、それくらいなのよ。私達が知っていることなんてね」

優希「……」ガクッ

久「彼がどんな風に強くなったとか、今の私達にどんな想いを抱えているか……何も分からないわ」

まこ「ああ、そうじゃな……」ウツムキ

久「でも、一つだけハッキリしてることがあるわ」

 須賀京太郎は以前の素人ではない
 経過はどうあれ、今の彼は魔物――

 恐らくは自分達よりも遥か高みにいる


久「私達は負けたのよ」


 竹井久は覚悟を決めた
 何があっても、彼を――須賀京太郎を守りぬく

 それが自分の――最後の仕事であるのだと


154: 2015/01/12(月) 19:22:16.75 ID:EyBLiPLYo

 原村和が竹井久の呼び出しにより、Roof-topに着いたのは日が沈見かけた夕暮れであった
 大事な話があるから来て欲しい

 そんな簡素な呼び出しだけに、和はどこか嫌なものを感じていた

和「……」

 ただでさえ、気の滅入るような取材を終えて帰宅したばかり
 正直気は進まなかったが、無碍にするわけにもいかず


 こうやって、出向いてきたのである

 ガヤガヤ ザワザワ

 店の前まで来ると、店内は異様な熱気に包まれていた
 またあの日のようにコスプレでもさせられるのか

 そう思うと沈んだ気持ちが更に沈み込んでいくのが分かる

和「……」ハァ

 和は意を決し、扉を開く
 そこで自分の想像を越えた出来事が


155: 2015/01/12(月) 19:22:44.61 ID:EyBLiPLYo


久「和、大会の出場を諦めてくれる?」

和「はい?」

 店内に足を踏み入れた和
 彼女を待ち受けていたのは、久の唐突な発言であった

和「え? えっと……状況が掴めないんですが?」

 和は困惑に支配されながら、必氏に理解しようと務める
 部長は以前、確かに咲と和

 この二人を大会に出すと言っていた

 その決定を覆すということはつまり、出場する選手が変わるということ

和「もしかして、部長が出るんですか?」

 和が出した結論
 それは至極、理に適った考えである

 今年引退の竹井久が出場したいと思うのであれば、自分の辞退もやぶさかではない 
 それに――元々出たかったわけでものないのだから

久「……いえ、別人よ」

和「え? じゃあ……染谷先輩でしょうか?」

 次点で可能性があるのが染谷まこだ
 来年度の部長でもあるし、経験を積むのはいいことだ

 和も彼女になら代表を譲るのに抵抗はない

まこ「……違う」

和「えっ……?」

 そうなると、残っているのは片岡優希
 確かに実力は評価しているが、自分ほどではない

 しかし、来年からの成長を考えているのだとしたら――
 これも部への貢献となるだろう

和「分かりました。ゆーきの為でしたら――」

優希「ううん、のどちゃん。私でもないじぇ」

和「はい?」

 そうなると、一体誰が残るというのか
 新しく誰かが入部した?

 それならばいくらか合点も行くが複雑な心境だ
 自分たちが必氏になって手に入れた代表の座を、部外者に明け渡すなど

久「須賀君よ」

和「……はい?」

久「須賀君が、和の代わりに出場するの」

和「え……?」キョトン

156: 2015/01/12(月) 19:23:11.84 ID:EyBLiPLYo


 スガクン……?

 すがくん

 須賀君

 須賀京太郎君

 同じ麻雀部員だった少年
 優しくて、雑用をよく引き受けてくれていたあの須賀京太郎


和「あの、須賀君ですよね?」

久「ええ……そうよ」

和「本気ですか!?」

 和が声を荒げるのも無理はない
 それは何も、須賀京太郎の実力を軽んじてのことではなく
 
 ただ純粋に――彼の身を案じてのことだ

和「もし今そんなことになったら――」

久「ええ、そうね。特に和――アナタの親衛隊、黙っちゃいないでしょうね」

和「っ……」ゾワッ

 思い出しただけでも身の毛のよだつ集団
 あの気持ちの悪い男達の集まり――


 あんなもの、欲しくもなんともない


 ただただ、気持ち悪いだけ
 見られているだけで、声をかけられただけで――背筋が凍る
 
 そんな――頭のおかしな連中が、存在しているのだ

和「そう……ですよ、あの人達にまた――酷い事、されてしまいますよ?」ブルブル

久「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない」

和「そんな無責任なっ!」

久「……私はね。別に今更善人ぶるつもりも、取り繕う気もないわ」

和「!?」

久「私は自分の夢の為に須賀君を利用したし、そこに後悔は一切無い」

 断言
 その瞳には、本当に迷いや後悔は無いように見て取れる



157: 2015/01/12(月) 19:23:37.61 ID:EyBLiPLYo

まこ「部長、それは少し言い過ぎじゃ……」

久「まこ、別に言い訳しても仕方ないし、結果的にそうなった以上認めるわ」

まこ「……」

和「じゃあ、どうして今更須賀君に?」

久「……見たくなったのよ」

和「えっ……?」

久「私達が勝手に決めつけていた須賀京太郎という男のイメージ……その真の姿を」

和「??」

 和にはまるで意味の分からない言葉だった
 須賀京太郎は須賀京太郎

 それ以上でも、それ以下でもない

 麻雀は弱く――雑用しか取り柄がない
 優しさはあり、優希も懐いていて好青年だとは思う

 しかし、自分はあまり好きではなかった
 感謝こそしているが――所詮彼も他の男と同じ

 自分をいやらしい目で見ているだけでの、男にすぎなかった

久「和、あなたのイメージはきっと当たっていると思うし。事実よ」

和「……」

久「でもね。目に見えるものだけが真実じゃない、私はそう思うわ」

 和には分からなかった
 なぜ久がこんなにも須賀京太郎を過信しているのか

 どうしてここまで言い切ることが出来るのか

和「ですが、それと大会と何の関係があるんですか!?」

 折角、落ち着いてきたばかりだというのに
 あれだけ殺気立っていた連中も最近は影を潜め――

 今では大したこともしていないと聞いていた

 咲の耳にも入っていないことからも分かるように、
 このまま須賀京太郎が部活を辞めるだけで全て上手く行くハズだった

 それなのに――
 なぜ、なぜ掘り返そうというのか

久「私は、彼に賭けてみようと思うの」

和「賭ける?」

久「須賀君が――優勝することに」

和「なっ……」

158: 2015/01/12(月) 19:24:04.12 ID:EyBLiPLYo

 和はますます分からなくなる
 あの須賀京太郎が優勝?

 県予選ですらまともに戦えなかったあの少年が?

 全国の強者やプロを退けて優勝する?

 そんなオカルトありえない

和「……分かりました」ワナワナ

久「和……?」

和「つまり部長は私より……須賀君の方が強いと、仰りたいんですね?」キッ

 屈辱だった
 それは別に須賀京太郎がどうとか、そういうことじゃない

 今までずっと麻雀を打って来て――辛い想いもたくさんして
 共に全国大会を勝ち抜いてきた仲間から、一方的にこんなことを言われるなんて

久「……ええ、そうよ」

和「っ!?」

まこ「部長」

久「事実だもの。いずれ分かるわ」

和「っ……それが、答えですね」ワナワナ

優希「の、のどちゃん……」

和「染谷先輩も、ゆーきも……同じですか?」

まこ「……」コクッ

優希「……うん」ポロポロッ

和「……」

 裏切られた、という気持ちよりも
 ただただ虚しかった

 自分が信じていた絆というものが、あっさり砕け散ったかのようにも思えた

 こんなにも、自分達の関係は儚いものだったのだろうか

和「……決定した以上、私に異論はありません」

久「和、ごめんなさい」

和「ですが、まだ大会までは日がありますよね?」

久「え?」
 
和「なら、私が須賀君を倒します!」


159: 2015/01/12(月) 19:24:39.96 ID:EyBLiPLYo

 それは果たして――
 誰に対する挑戦であったのか

和「そうすれば、また考え直していただけますね?」

 どういう経緯で奪われたのか、それはどうでもいい
 ただ結果として、自分が彼よりも強いと証明できればいい

 そうすれば――全てが丸く収まるのだから

久「……ええ、いいわ」

まこ「部長!」

久「でも、和。一つだけ忘れないで」

和「……なんでしょうか?」

久「私達の絆が壊れたって、思ってるんでしょ?」

和「っ!」ドキッ

久「でもね、それは違うわ」

 久はゆっくりと息を吸い込み
 体を震わせながら、消え入るように吐き出す

久「元々、完成していなかったのよ。だって、私達六人で麻雀部じゃない……」

和「!!」

久「……ピースが足りてないパズルが、完成するわけないのにね」

優希「うっ、うぇぇっ……」グスッ

まこ「……」ギリッ

和「……」

久「一体、いつ道を間違ったのかしら?」

 その問いかけは果たして、和に対するものか
 それともまこや優希に向けられたものなのか

 あるいは――


久「……ごめんなさい」ウツムキ


 自分に向けられた言葉だったのかもしれない


160: 2015/01/12(月) 19:25:00.02 ID:EyBLiPLYo


【和の寝室】

 Roof-topでの話し合いから数時間が経ち、月が綺麗に輝く夜空

和「……」

 和は部屋の窓を開け、静かにその星空を眺めていた

和「どこで、ズレてしまったんでしょうか」

 和は思い返す
 まだ麻雀部に咲がいなく、優希と京太郎が馬鹿騒ぎを繰り返していた日々

 そこに咲が加わり、大会への目標を誓い合って
 それでみんな必氏に努力して、頑張って、戦って

 やっとの思いで優勝した

 しかし、気が付けばそこに須賀京太郎の姿は無くなっていた

和「……」

 別に彼が嫌いなわけではない
 むしろ――自分がこれほどに仲を保てる男友達など彼を除いてはいないだろう

和「……っ!?」ゾクッ

 だが、ダメなのだ
 気づいてしまったから

 理解してしまったから――

 周りが自分をどんな風に見て、どんな対象として触れようとしてくるのかを

和「はぁ、はぁっ……」ブルブル

 男はみんな同じ
 自分の事を性愛の対象くらいにしか思っていないのだ

 それはきっと――あの須賀京太郎も同じ

 だから、だからこそ

和「負けられません……男にだけは」カチカチカチカチ

 身を凍らせるような恐怖の中で、和はただ一人耐える
 自分を守る為に――

和「うぅっ……くっ……」ゴシゴシ

 好きだった可愛らしい衣装も――
 今ではもう着られない

 自分を【見られる】ということに、耐え難い苦痛を感じる日々

和「咲さん……ゆーき……助けて」ガタガタ
 
 唯一の心の支え――
 それは奇しくも、揃って別の方を向いている
 
和「須賀、くん……」

 和にはもう、何が正しくて
 何が間違っているかなど、分かるハズもなかった


161: 2015/01/12(月) 19:25:37.94 ID:EyBLiPLYo

 一方その頃京太郎はというと――

【京太郎の部屋】

 お風呂上がり、体が火照っている至福のひと時
 心地よい睡魔に誘われるようにベッドに転がりこむ

 そして――その布団の心地よい感触に身を委ねながら……

京太郎「……よし 」

 決意する

京太郎「(今日は和で抜くか)」ガサゴソ

 自家発電準備っ……!! 圧倒的っ……自家発電っ……!!

京太郎「和の写真を用意してっと……」ゴソゴソ

 ベッドから飛び上がり、机の引き出しから和の写真(引き伸ばし)を取り出す
 そしてティッシュボックス(ウェット)をセット
 誤爆の無いようにズボンとパンツを脱ぎ捨て、ベッドに再び腰掛けて終了――

 この間二秒弱

 数万回としてきた動きだ
 よどみはない

      

京太郎「よーし、そんじゃ早速!」ビンビン

 スゥー

 

アカギ「クク……なるほど、それでシコシコやろうってんだ」スッ

京太郎「」

アカギ「なんでもっとこう、スパッと生きられないかねぇ」

 和の読みはある意味、的中しているのかもしれない


162: 2015/01/12(月) 19:26:08.42 ID:EyBLiPLYo

京太郎「氏にたい」ズゥーン

アカギ「フフ……お前もやっぱりただの馬鹿だよな」

 京太郎の失敗
 それはアカギの存在を忘れていたことに他ならない

京太郎「いつもの、いつものクセなんです……」シクシク
 
 みっともなく布団に包まり泣き出す京太郎
 十五歳で自分のシコシコタイムを覗かれたのだから、当然といえば当然である

アカギ「というか、女々しく自分で慰めるくらいなら適当に女を抱けばいいだろ」フゥー

京太郎「は?(半ギレ)」

アカギ「ん?」

京太郎「俺童Oなんですけど? そこ分かっていらっしゃいます?」ギリギリギリギリ

アカギ「い、いや……」タジッ

京太郎「童O舐めるなよゴルァァァ!! 好きでシコシコしてんじゃないんだよぉぉぉ!!」
アカギ「……」

 面倒くさいのでさっさと童Oを捨てさせよう
 そう決意するアカギであった


163: 2015/01/12(月) 19:26:37.59 ID:EyBLiPLYo


アカギ「それでお前、この女が好きなのか?」

京太郎「えっ!?」ドキッ

 アカギが指差すのは勿論、原村和の引き伸ばし写真である
 集合写真を伸ばしたものだから解像度こそよくないが、その美貌は当然健在だ

京太郎「い、いやまぁ……好きって言えば、好きだけど……その、愛というか憧れというか」デレデレ

アカギ「クク……でもヤりてぇんだろ?」

京太郎「はい」キリッ

 即答である

アカギ「ふーん、ま、胸も大きいし顔も悪かない。ただちょっと丸いな」

京太郎「丸いって、そりゃアカギさんに比べれば大抵の人は丸いですよ」

アカギ「ほー、言うな京太郎」ギロリ

京太郎「すんませんしたっ!」ドゲザッ

アカギ「まぁいい。それより、他に抱きたい女はいるか?」

京太郎「え?」

アカギ「抱きたい女だ。いるのか、いないのか?」

京太郎「え、えーっと……」

 そりゃまぁいるといえば星の数ほどいる
 福路さんとか、神代さんとか、石戸さんとか、松実さんとか
 
京太郎「瑞原プロとか戒能プロとか愛宕プロ……いや、流石に人妻は……」

アカギ「クク、お盛んなこった」

京太郎「そりゃまぁ、年頃ですから」ポリポリ

アカギ「……なぁ、京太郎」

京太郎「?」

アカギ「お前――この世で一番、抱いて気持ちのいい女がどんな女か知っているか?」

京太郎「えっ……?」

 そう言われても返答に困る
 そんなの人それぞれだと思うし、というか童Oに分かるわきゃねぇだろ!

京太郎「む、胸のデカイ人ですか?」ドキドキ

アカギ「アホかおまえ、他には?」

京太郎「えーっと、あそこの締めつけがいいとか?」グヘヘ

アカギ「……」

京太郎「自分のナニと、相手のアソコの相性がピッタリ! これだ!!」

 まさに童Oの思考そのものである

アカギ「なんだなんだ! お前はただの童Oか?」ヤレヤレ

京太郎「」

アカギ「……ハァ、もういい」

京太郎「(なんだかすげー失望されてる気がする)」ガビィーン


164: 2015/01/12(月) 19:26:56.18 ID:EyBLiPLYo

京太郎「あの、答えは教えてくれないんですか?」

アカギ「ん……知りたいのか?」

京太郎「後学の為に是非とも!」ペコリ

 みっともなく頭を下げる京太郎に、アカギは半ば呆れながらも口を開く
 若い二十代前後の姿からは想像も出来ない、憂いを秘めた瞳で
 
アカギ「……たとえば麻雀だ」

京太郎「麻雀?」キョトン

アカギ「世の中には頓狂な奴がいて……ラチのあかねぇ遊戯に自分の限界を越えたもん賭けちまう」

京太郎「自分の人生も……」

アカギ「まぁ、そんな奴だから……頭は悪いが、勝ちたい気持ちはスゲェーもんだ」

京太郎「……」

アカギ「女も一緒さ。自分の全知全能をかけて考える、決断して、そして躊躇して」

 相手が本当に自分にふさわしいのか?
 自分が人生を預けるに値する男であるのか?

アカギ「それでもやっぱりこの人しかない」

京太郎「っ」ゴクッ

アカギ「そりゃもう、ほとんど自分の魂を切るように体を差し出すのさ」ククク

 その魂の乗った身体
 そういう女を抱くことは、それはまるで人の心を喰らうようなもの

京太郎「それって、つまり?」

アカギ「ククク……ようは自分にベタ惚れな女ってこった」

京太郎「へっ?」

アカギ「それに比べりゃあ、お前が言った女はゴミみてぇなもんだ」

京太郎「は、はあ……」

 そんな簡単なことなのか?
 そう思う京太郎

 見よ、これが童Oである

アカギ「この世じゃ人の心が一番うまいんだ。女だってそうさ」

京太郎「ふ、深い……」シミジミ

アカギ「自分みたいなクソッタレの為だけに、女が魂かけて差し出すから抱く価値がある」

京太郎「……」

アカギ「違うか……?」

京太郎「は……そうですね……」

アカギ「わかったらさっさと惚れさせろこらっ!!」どんっ

京太郎「は…はいっ!!」ビクビク

 こ、この人急にお爺ちゃんぽくなるんだな……
 ちょっと怖い

アカギ「フフ……」


165: 2015/01/12(月) 19:27:22.54 ID:EyBLiPLYo

京太郎「とは言っても、和はガード固いしなぁ」

 というか手を出したら殺されるんじゃなかろうか
 あの親衛隊どもに……

京太郎「あ、あのー……やっぱり別な人にしちゃダメですか?」

アカギ「……」ギロリ

京太郎「が、頑張りますっ!」ビシッ

アカギ「それでいい」

 というかなんで脱童Oする流れになってんだ?
 しかも相手があの和……?

 おいおい、マジかよ

 そんなの太陽が西から昇るくらいありえねぇって!

アカギ「……」ジィー

京太郎「アカギさん?」

アカギ「いや、なんでもない」

京太郎「?」

 今、窓から外を見ていたよな?
 一体何を見ていたんだ……?

 ブルブルブルブルッ

京太郎「ん? 携帯……メールか」パカッ

アカギ「けーたい……?」

京太郎「えっ!? 和からっ!?」ビクッ

 驚くのも無理は無い
 あの和からメールなど、ここ数ヶ月無かったからだ

京太郎「(てっきり嫌われてるんだと思ってたけど……)」チャッ

 カチカチ

【差出人:マイフェイバリットエンジェルのどっち】

題名:お願いです

本文
 明日の放課後、私と麻雀を打ってくれませんか?
 清澄では何かと目立つかと思います

 なのでよろしければ鶴賀の麻雀部でいかがでしょう?
 既に鶴賀には話を付けてありますから


 須賀君、どうかお願いします


京太郎「和から、勝負……?」

アカギ「クク、なるほど。いい機会だ」

京太郎「もしかして、部長が何か言ったのかなー」ウーン

 もしくは本当に約束を守ってくれたとか
 それで代表権を賭けての戦いを挑んできた……?



166: 2015/01/12(月) 19:28:08.52 ID:EyBLiPLYo

アカギ「どうする、受けるのか?」
 
京太郎「……受けますよ、そりゃ」

 ここで逃げてちゃ何も変わらない
 脱童Oは置いておいて……まず普通に和とは話しておきたいし

アカギ「……勝算はあるのか?」

京太郎「それなんですけど、アカギさん」

アカギ「なんだ?」

京太郎「実は俺……部長やみんなにも、隠してることがあるんです」

 それは――いつか和と戦う日を夢見てきた少年の――
 
アカギ「隠してること?」

 とっておきの、切り札

京太郎「俺……和にだけは絶対に勝てるんです」ニッ


~~~


和「……必ず、勝ちます」ギュッ

 この時、原村和はまだ知らない
 今この瞬間にも――嫌悪し、憎悪にも似た想いを向ける少年こそが

 自分を闇から救い出す、一筋の光であるということを
 
~~~


京太郎「……ということなんですよ」

アカギ「クク……なるほど、それならお前の勝ちだ」ニヤリ

京太郎「だから、明日は俺一人でやります」

アカギ「好きにすればいい。お前の売られた喧嘩だ」フフ

京太郎「待ってろ和。オレは必ず、お前を倒す」

アカギ「……」

 しかし、京太郎もまた知らない
 自分の存在が――和にとって光であると同時に

京太郎「……クク」クスッ

 強すぎる光は、闇をも生み出すということを

169: 2015/01/12(月) 19:49:31.29 ID:EyBLiPLYo



 京太郎とアカギの運命の出会いから一日が経った
 鮮烈な記憶を残したほんの一瞬の勝負

 その熱は今や身を潜めていたが、確かに京太郎の中にくすぶり続けている

 一度火がつけば消えることのない、その火はやがて大きくなり
 止まることなく、京太郎の体を焼き尽くす


 そんな身を削る戦いの先にある頂き――


 そう遠くない未来
 彼はふと思い出すのだろう

 自らを導いた一人の神域の存在
 越えるべき一人の伝説の男のことを


京太郎「そうでしょう……アカギさん」


 闇を飲み込み、男は変わる――


170: 2015/01/12(月) 19:50:02.28 ID:EyBLiPLYo


【早朝 清澄高校 廊下】


京太郎「……」

アカギ「クク……」

 ざわ……
   ざわ……

 こうして普通に登校し、歩いているだけでも京太郎は目立つ
 それは勿論いい意味ではなく悪い意味ではあったが

京太郎「……」スタスタ

 噂話とは尾ひれが付くものであり
 今や京太郎は麻雀部の部員に付きまとう変人であり、みんなの嫌われ者だと言われていた

 当然それは嘘であり、京太郎のクラスは全員そんなことはないと知っている
 だがそれをいくら訴えたところで、所詮は焼け石に水

 京太郎の噂はどこまでも広がり、今や県外のファンサイトですら叩かれる始末だ

 なんてことはない
 事実無根であろうがなんだろうが、他人の噂など面白ければ面白いほどいい

 京太郎のことを知らぬ者ほど、みんなこぞって悪人だと決め付ける
 女子5人の部活に一人男がいたのだ、下衆な妄想をしてしまうのも無理もない

 それは嫉妬か――羨望か
 たとえ手を出していなくても、五人の美少女の中に一人だけ男がいたという事実は変わらない

 世の男性が京太郎に向ける悪意は――とても計り知れるものではなかった
  
教師A「ん? 須賀か」

京太郎「……」ピタ

教師A「貴様……まだ学校に来れるとはな」ハァ

 その悪意は当然、こういった部分にも現れる
 今までは気にも止めなかったくせに、麻雀部が全国優勝した途端にこれだ

 顧問も付けなかった部に、あたかも学校側が力を注いできたかのように振る舞い
 京太郎のことを部の栄光に泥を塗る存在だと、勝手に決めつけて排除する

 醜いクソッタレな現実がそこにあった


171: 2015/01/12(月) 19:50:54.64 ID:EyBLiPLYo


教師A「お前も分からん奴だな、うん? なぁ、おい」

京太郎「……」

教師A「お前みたいなクズのせいで、学校が迷惑してるんだぞ」ガシッ

京太郎「……やめてください」

教師A「どうしてあいつらのまとわりつく? そんなによかったのか、あ?」

京太郎「俺とあいつらはそんな関係じゃありません」

教師A「ふん、どうだかな」グググッ

京太郎「……」

 京太郎は抵抗しない
 それは自分が反撃でもしてしまえば、事実だと認めてしまうようなものだから

 あの大切な仲間達に――
 みんなに迷惑はかけたくなかった

 だが――

教師A「なぁ、俺にも少し回してくれないか? そうすれば――」

京太郎「!」

 もし、標的が自分からアイツらになるというのなら
 話は別だ

教師A「特に原村はいい体してるだろう?」ククク

京太郎「……」ユラッ


 こんな奴、頃してもいい


アカギ「フフ……」


教師A「なんだその眼は? あぁ?」

京太郎「……氏ねよ」ボソッ

 京太郎の瞳が怪しく光り――
 その腕が伸びようとした――その時だった

?「私の後輩に――!!」ダダダダッ!


 ダッダッダッダッ!


教師A「ん?」クルッ

久「何してんのよっ!!!!」ガンッ!!


 チーンッ


教師A「」タマグチャァァア

京太郎「!?」タマヒュンッ!

アカギ「……」コカンヲサッ


 メリメリメリッ!
 グチュァ……

 
教師A「お、おぉっ……おほぉ……」ピクピク


172: 2015/01/12(月) 19:52:40.22 ID:EyBLiPLYo

教師A「」ピクピク

 ナンカタオレテネー? シラネ
 オイ、タドコロブチコンデイイゾー  イキマスヨーイクイク

 アーッ!


久「ふぅ……。おはよう須賀君」ニッコリ

京太郎「ぶ、部長?」ビクビク

久「あら、どうしたの股間なんて抑えて?」

京太郎「い、いえ……」ガクガクブルブル

 強烈なトゥーキックが玉袋にめりこんでいた
 あれは確実にタマタマが破裂しているレベルですね、はい

京太郎「(部長だけは怒らせないようにしよう)」ブルブル

アカギ「……」トオイメ

久「探してたのよ。今日、和と打つんでしょ」

京太郎「え、ええ。そうですけど」

久「ごめんなさいね、私が上手く説得できなくて」

京太郎「あ、いえ。というか――いきなり代表の座をくれるとは思ってなくて」

 元々の約束は代表の座を考えてくれ、というものだ
 てっきり次は咲や和と打ってから――なんて状況を想定していたのだが

 こうもあっさり認めてもらえるなんて、どういうことだろう?

久「それは、アナタの実力を認めたからよ……」

京太郎「……」

 それが嘘なのだと京太郎はすぐに察した
 それほどまでに、今の久の言葉は軽く――心に響かない

 きっと彼女なりの罪滅ぼし――あるいは、

173: 2015/01/12(月) 19:53:06.80 ID:EyBLiPLYo


久「……ねぇ、須賀君」

 ほんの少し、思いつめたような顔で久が呟く
 
京太郎「なんですか?」

久「私の事……恨んでる?」

京太郎「はい……?」

久「え?」キョトン

京太郎「恨む? 何をですか?」

久「……だって、その雑用とか……指導とか」

京太郎「……」

久「それに、今回の事だって守ってあげられなくて……」ジワッ

 バツの悪そうな顔でもじもじと久がうつむく
 彼女なりに思うところは多いようだ

 しかし、そんな態度が逆に気に入らない京太郎

京太郎「部長、俺をバカにしないでください」

久「!?」ビクッ

京太郎「俺が雑用を進んでやったのは弱かったからです」

 そう――
 みんなと同じ舞台に立つこともできず、見ているしか出来なかった

 練習相手になることも、その辛さを分かち合うこともできず
 静観することしか許されなかった

京太郎「無力だった――」


174: 2015/01/12(月) 19:54:16.70 ID:EyBLiPLYo

京太郎「今回のことだって、もし俺が全国に出場でもしていれば――違ったかもしれない」

久「須賀君、それは――」

京太郎「全部俺の蒔いた種です。だから、部長にとやかく言われる筋合いはありません」

久「……」ギュッ

京太郎「それに――俺、今でも感謝してますよ」ニッ

久「えっ……感謝?」

京太郎「俺を麻雀部に誘ってくれて、あんな面白いものに出会わせてくれた」

 もしも、これを知らずにいたら――俺はきっとつまらない人生を送っていただろう
 きっかけもつかめず、何も変わらず

 そして何よりも

アカギ「フフ……」

 この人に出会うこともなかった

京太郎「だから――もういいんです」ポン

久「須賀君……」ジワッ

京太郎「部長は役目を果たしてくれました。次は――俺が応える番です」ザッ

久「……うん」ポロポロ

京太郎「部長――俺、優勝しますから」

 和も、咲も、誰よりも強くなる
 例えそれで俺が俺でなくなろうとも、きっと俺は――もう引き返せない

久「ええ……待ってる」

京太郎「……」

 きっと、部長も分かってる
 ここから先は――俺がもう戻ってこられないこと

 だから――

京太郎「だから部長――もし、俺が和に勝ったら」
  
 
 きっとこれが最後の――


京太郎「その黒タイツ、一度ビリビリに引き裂いていいですか?」ニカッ



久「……ばか」

 アナタの後輩として出来る、最後の恩返しなんだ   
 

175: 2015/01/12(月) 19:54:43.08 ID:EyBLiPLYo

 スタスタスタ 

アカギ「……よかったのか?」

京太郎「何がですか?」

アカギ「フフ……」

 意味深な顔で後ろ付いてくるアカギ
 どうやら色々と思うところがあるらしい

京太郎「別に、部長とは何もありませんし」プイッ

アカギ「……そうかい」ニヤ

京太郎「そりゃまぁ、おかずにはしたことありますけどね」

 数百回くらい
 主にロッカープレイ

 せまいところが(ry

アカギ「ほー」

京太郎「うぐぐ」

 ええい、なんなんだ!
 アカギさんは俺に何を言いたいんだ!

京太郎「というか、学校まで付いてこないでくださいよ!」

アカギ「クク……そんなのは俺の勝手だ」

京太郎「うぐぐ、学校は部外者立ち入り禁止なんですから」

 勿論、幽霊も例外ではない

 多分だけど……

アカギ「へぇー、そいつは初耳だ」

京太郎「……もういいです」ハァ

 相変わらずアカギさんは子供なんだが大人なんだかよく分からないな
 ていうか、あれ?

 そういやアカギさんっていくつなんだ?

京太郎「あの、アカギさんって何歳で氏んだんですか?」

アカギ「……さあな」

京太郎「あ、そういえば記憶が無いんでしたっけ」

アカギ「ああ、何も覚えてない」

 つまり、20歳だったり100歳だったりもありえるのか?
 あれだけの伝説を残してるくらいだし、結構な歳はいってそうだが

京太郎「(一度、アカギさんのこと詳しく調べた方がいいかな……)」

 だけど図書室とかにありそうもないし
 裏で伝説を残した人だから表立っての資料は残っていなそうだ

 やはりそういう筋の人を尋ねるのが一番だろう

京太郎「そうなると……やっぱり」


 【あの人】を――頼ってみるか


176: 2015/01/12(月) 19:55:08.99 ID:EyBLiPLYo


【一方その頃 東京 某所】

 ヤクザ同士の麻雀賭博
 そんなものは、いつの時代だって行われている

 例え規制が強くなろうと、なんであろうと
 それが組の面子を保つものである限り――この先も残り続けるだろう

 そして――そんなヤクザ同士のゴタゴタの中で
 今、一際異色を放つ代打ちがいた

黒服「お嬢、お見事でした」

 ざわ……
   ざわ……

??「……存外つまらないな。裏のプロというのも」

八木「……」

 男の名は代打ちの八木圭次
 遥か以前は相当な打ち手として名を馳せたその男も――今や氏にかけのジジイ

 若い時代に飲み込まれるのも、無理のない話であった

黒服「いえ、この程度の代打ちはまだまだ三下でして」

??「そうか。ならいい」

 元々は興味本位で付いていった組同士の代打ち麻雀
 そこで見た、一人の男

 優男な風貌からは想像も出来ない、悪魔じみた闘牌
 そこいらのプロ雀士よりも遥かに高みにいる、その実力

??「……」

 心が震えた

 あれほどに強い打ち手がいるということ
 麻雀にはまだまだ先があるということを知った


177: 2015/01/12(月) 19:55:35.52 ID:EyBLiPLYo


 今の自分ではとても敵いそうにないが――いずれ機会があれば戦いたい
 そのためにも、今は実力を付けるのみ

??「そういえば、あの男はどれくらいの強さなんだ?」

黒服「井川ひろゆきのことでしょうか? でしたら――最上位より、少し落ちるくらいかと」

??「……あれでか」

黒服「とは言っても、今では引退間際の天さんを除けば上から数えた方が早いのですが」

??「そうか。あれよりも上がいるのか――」

 恐るべき強さを有していた井川ひろゆき
 しかし、それすらをも上回るという打ち手

 そして、終局後に井川ひろゆきが言った言葉――
 今でもハッキリと覚えている


~~~「まだまだ赤木さんには届かないな……」~~~


??「ふふっ、面白い」

黒服「は……?」

??「次の相手を用意しろ。なるべく強いのがいい」

黒服「か、かしこまりました!」

??「赤木しげる。【神域】と呼ばれた男……どれほどなのか」


 少女はまだ知らない
 いずれ、自らの前に立ちふさがる少年こそが――


 その【神域】の男であるということに 


178: 2015/01/12(月) 19:56:10.87 ID:EyBLiPLYo


【さらに一方その頃 鶴賀学園】


睦月「……」サッサッ

鏡「」キラーン

睦月「……」カミイジリイジリ

鏡「」キラキラーン

睦月「に、にこっ」ニカー

鏡「」ブッブー

睦月「」ガーン

 ガクッ

桃子「むっちゃん先輩、何してるんすか?」

佳織「えっと……今日、部室を清澄の人に貸すらしくて」

桃子「そういえば、清澄のおっOいさんが来るとかなんとか」

佳織「うん。それでその、一緒に清澄の、ほら……男の人がいたでしょ?」

桃子「男? あぁ、あの荷物持ちしてた奴っすね」

佳織「あのね、これは内緒なんだけど……」ヒソヒソ

桃子「ええええ!? むっちゃん先輩がアイツに!?」ガビーン

 ざわ……
   ざわ……

佳織「ああ! ダメダメ!」アセアセ

桃子「ご、ごめんなさいっす」」シュン


睦月「う、うむ。ひ、久しぶり、だ、だね」グギギギッ

鏡「」ブブー

睦「Orz」ズゥーン


桃子「一体何があったんすか?」ヒソヒソ

佳織「詳しいことはよく分からないの……」ヒソヒソ



睦月「す、須賀君……きょ、今日もいいて、天気で」グギギギ

鏡「」ブブー


睦月「」ショボーン


 
桃子「重症っすね」

佳織「重症だね」


179: 2015/01/12(月) 19:56:40.29 ID:EyBLiPLYo

桃子「でも、可愛いっすよ」ヒソヒソ

佳織「うん。恋する乙女だよね」ヒソヒソ


睦月「……帰る」フラフラ


桃子「!?」

佳織「ええっ!?」


睦月「こんな顔じゃ須賀君に会えないから、帰るよ」スタスタ

桃子「え、うぇええ!?」

佳織「ど、どうしたの急に!?」アセアセ

睦月「もう氏のう」

桃子「どういう思考回路っすか!?」

 ギャーギャー

 ガチャッ

ゆみ「おいおい、何を騒いでるんだ?」

智美「廊下まで声が漏れてたぞー」ワハハ

桃子「先輩! 元部長さん!」

佳織「どうしてここに?」

ゆみ「今日は清澄に立会人を頼まれてな」

智美「それで部室を掃除しておこうと思って来たわけだぞ」ワハハ

 モトブチョウダー
 ユミセンパイカッコイイ
 ワハハセンパイマジワハハ

睦月「嫌われる、もう終わりだ……おしまいだぁ」ガクガクブルブル

ゆみ「で、これはなんだ?」

智美「見事なナーバスぶりだなー」ドンビキ

桃子「ジツハカクカクシカジカスカトロモモなんすよ」

ゆみ「あの、須賀とかいう少年に?」

智美「おー、めでたい!」パチパチ

佳織「ま、まだ付き合ってるわけじゃないよ」アセアセ


睦月「ソウテダヨワタシガスガクントツキアエルワケナイヨウムモウシノウ」ブツブツブツブツ


佳織「あぁぁ! ち、違うのぉ!」アセアセ

ゆみ「重症だな」

智美「重症だぞ」

桃子「重症っすね」

佳織「重症だよぉ!」


睦月「……」ムック


180: 2015/01/12(月) 19:57:11.46 ID:EyBLiPLYo


睦月「氏なせてください!!」ジタバタ

智美「や、やめるんだ! 早まるんじゃないぞー!」ガシッ

佳織「いやー!!」

 ギャーギャー! ワイワイ!


桃子「そういえば、清澄はなんの用なんすか?」

ゆみ「ああ、なんでも原村と須賀が【二人きり】で勝負したいらしくてな」


睦月「……」ピクッ


桃子「え? 清澄じゃダメなんすか?」

ゆみ「事情は分からないが、なんでも【人目につかない場所】がいいらしくてな」


睦月「……」ピクピクッ


桃子「それでここってわけっすね」

ゆみ「ああ。私と蒲原でメンツを揃えて、サシ馬対決でもする気だろう」


睦月「サシ馬……? 挿す……? 馬のように……?」ガクガク


 モワモワァン

~~妄想~~


京太郎「そら、和! どうだ!!」パァニパァニ!

和「ひひぃぃぃん!?」ガクガク

京太郎「馬並みだっ……!! 俺のはっ……馬並みだろうっ……!!」パァニパァニ!

和「ひぐぅぅぅぅ!?」ガクガクプシャァァア!!


ゆみ「いいぞー!」

智美「やれやれー!」ワハハ


~~~~


睦月「……氏にます」フラフラ

ゆみ「どうしてそうなる!?」ガーン


181: 2015/01/12(月) 19:57:37.29 ID:EyBLiPLYo


 ガラガラッ!

睦月「飛び降りる! 氏ぬしか、道はない! 無いっ!」グググッ

智美「だからやめっ、やめろぉー!!」ガシッ

佳織「氏んでもいいことないよぉ!」グググッ

睦月「う、うぅっ……!!」ポロポロッ

 その時、奇妙な偶然が起こった
 窓を開けて身を乗り出し、涙を流す睦月

 暴れたことにより飛び散った涙のひとしずくが……
 静かに遥か下へと吸い込まれていくその最中


   ピチョン


 偶然にも、下を歩いていた少年に当たってしまった

睦月「えっ……?」

「雨か……?」

 顔を上げる
 その少年の視線が上へ、上へと上がって行き――やがて




京太郎「津山……さん?」

睦月「あっ……」

 その視線は激突した

睦月「あ、あぁっ……//」カァァァア

京太郎「……? (何してるんだろ)」

 事情がよく分からない京太郎ではあったが、
 視線があった以上挨拶しないわけにもいかない

京太郎「……」ニコッ

睦月「」ボムッ!

智美「!?」ビクッ

睦月「あ、うぁ……あぁ」バタンッ


一同「えええええ!?」


182: 2015/01/12(月) 19:58:14.26 ID:EyBLiPLYo


 ムッキー! ウワァァアシンダァァア!!
 ダレカァー! ビエェェン!


京太郎「騒がしいな……」

 鶴賀はとても賑やかな場所らしい
 京太郎の中での鶴賀のイメージがちょこっとだけずれていく

アカギ「フフ……そんなことより京太郎。相手はお待ちかねのようだ」

京太郎「……!!」

 アカギの視線の先
 そこで待ち受けるのは――




和「よく来てくれましたね」

京太郎「和――」

和「須賀君、私は絶対に負けません」

京太郎「……」

和「私が勝って、咲さんと大会に出ます」キッ

 それは――正面から京太郎をねじ伏せるという和の決意
 だが、それは大きな勘違い

京太郎「なぁ、和。一ついいか?」

アカギ「クク――」

和「……?」

京太郎「俺が負けたら、出場権をお前に返すのはいいんだけどさ」

和「はい、そうして貰えるなら助かります」

京太郎「でもよ、これっておかしくないか?」

和「……はい?」キョトン

 まるで分からない、という和の表情
 それに対し京太郎は――至って冷静な顔で告げる

京太郎「お前が負けたらどうするんだ?」

和「えっ……?」


183: 2015/01/12(月) 19:58:40.57 ID:EyBLiPLYo

 和にはまるで意味が分からなかった
 自分が負けたら何を差し出すか?

 自分が負けたら?

 何を言っているのだろう?

和「あの、言葉の意味がよく……」

京太郎「俺は部長達に勝って枠を手に入れた、負けたらマネージャーになるって条件でな」

和「それが……?」

京太郎「俺はこの枠に命を賭けて、必氏にしがみついて手に入れたんだ」

和「……」

京太郎「だから、メリットの無い戦いにこの枠を賭けるなんてするわけないだろう?」

和「!!」

 ここまで来て、ようやく和は理解した
 つまり京太郎は和にも賭けの商品を差し出せと言っているのだ

和「……」

 正直、和は全くそんなことを考えていなかった
 なぜなら大会の枠というのは強い二人が選ばれるもの

 戦って勝った方が手に入れる
 それが当たり前だと思っていたからだ

京太郎「つまり、だ。お前が俺を勝負に乗せるだけの何かを差し出すってんなら――打つぜ」

和「……見損ないました」

 これでも和は京太郎を他の男子よりは評価しているつもりだった
 ほんの僅かではあるが、それは並の男子からすればエベレストにも勝るものである

 それが、まるで紙くずのように吹き飛んでいくのが分かる

和「アナタはもっと、真摯な人だと思っていました」

京太郎「なんだっていいさ。俺の考えは変わらない」

和「くっ……」

 だが、いくら和が京太郎を嫌おうと――見下そうと
 枠を握っているのは京太郎である

 つまり――京太郎が受けなければ勝負自体が成立しないのだ

和「……ハッキリ言えばいいんじゃないですか?」

京太郎「ん? なんだ?」

和「須賀君の……望みを」

 正直、これ以上失望したくなかったというのもある
 須賀京太郎が他の低俗な男と同じだと、なぜか認めたくなかった

 しかし、その期待は裏切られることになる

京太郎「そうだな――それじゃあ」

和「……」

京太郎「胸、ひとつ」

和「……えっ?」

京太郎「和が胸をひとつ賭けるなら受けてもいい」


184: 2015/01/12(月) 19:59:09.89 ID:EyBLiPLYo

和「む、胸……ですか?」ビクッ

京太郎「ああ、そうだ。右でも左でも好きな方でいい」

和「そんな――胸を、どうするんですか?」

京太郎「所有権を貰う。触ったり、舐めたり、嗅いだり……」ウヘヘ

和「ひっ!?」

京太郎「枕にしたり――!?」チラッ

アカギ「……」
 
京太郎「!?」


 その時のアカギさんの表情は印象的で
 今でもよく覚えている

 子供が興味の無いおもちを見つめる目



京太郎「(って、諦めるかー!!)」ギラギラ

和「……っ」ブルブル

 燃え上がる京太郎とは対照的に、和は苦しんでいた
 ただでさえ京太郎に裏切られたことに続き……この展開である

185: 2015/01/12(月) 19:59:35.76 ID:EyBLiPLYo


和「何を……馬鹿な」

京太郎「……」

和「そんな条件、受けれるわけないじゃないですか!」

京太郎「なぜ……?」

和「なぜも何もありません! 話にもなりません!」

 必氏に否定する和
 その姿は異様なまでに怯えにまみれている

京太郎「なんだ……自信が無いのか?」

和「自信は……あります」

 悩む和
 自分が負けるとは思えない

 だが、もし――もし負けたらどうなるのだろう?

和「しかしどんなに低い確率でも、ゼロではありません」

アカギ「……」

和「たとえ1%でも裏を引く可能性がある以上、胸なんて取り返しのつかないもの……」

京太郎「……」

和「勘違いしないでください。これは負けることや胸を失うことを恐れているわけではないんです」

京太郎「じゃあなんだ?」

和「こんなの馬鹿馬鹿しい賭けです。確率が低いとは言っても――」

京太郎「……和」

和「単なる大会で、命や体を張れますか? 【無意味な氏】はごめんです」

京太郎「無意味な氏?」

アカギ「クク……なるほど、凡夫だ」

京太郎「その【無意味な氏】ってのが――まさにギャンブルじゃないのか?」

和「えっ……?」

京太郎「俺はある人のお陰で、最近そう考えるようになったけど……違うのかな?」

186: 2015/01/12(月) 20:00:05.17 ID:EyBLiPLYo


 京太郎の瞳に迷いは無い
 本気でそう思っているのだ

 隣にいるその男の影響か――あるいは元から眠っていた本質か

和「私とは考えが違うようですね、須賀君と私とは」

京太郎「いや、これは考えの違いじゃない。覚悟の問題だよ」

和「!?」

京太郎「ようするにお前はまだ勝負の覚悟を決めていないんだ」

和「なん……」ワナワナ

京太郎「だから、麻雀を確率なんかで計ろうとする。見当違いも甚だしいぜ」

和「っ!!」ギリッ

京太郎「背の立つところまでしか海に入ってないのに、海を知ったと言ってるようなもんじゃないか?」ニヤリ

アカギ「ハハハ、言うな京太郎」

和「須賀君っ……!!」ギロッ

 デジタル麻雀に対する罵倒
 これは――和本人への罵倒よりも遥かに効果を与える

京太郎「さぁ、どうする?」

和「わ、私は――」

京太郎「まさか、ここまで言われて引き下がるのか?」

 確かにこのままでは悔しい
 勝負に勝って、目の前の男に敗北を与えたいという衝動が沸き上がってくる

和「……」

 この男に胸を奪われて、好き勝手にされて……
 そんなこと、考えただけでおぞましい

和「(でも……)」ブルブル

 負けたくない
 男には――特に、こんなことを言う男にだけは

 だから――

和「分かり、ました……」

和「その勝負、受けます!!」

京太郎「Good!!」

アカギ「なぁ、京太郎。やっぱり命を張らねぇか?」

京太郎「ダメです。これこそがベスト」キリッ

アカギ「……そうか」


187: 2015/01/12(月) 20:00:31.95 ID:EyBLiPLYo

和「胸が欲しいだなんて……変態ですね」

京太郎「そうか? 俺らしいと思うけど」

和「……最低っ」ボソッ

京太郎「あっはっはっ、そう怒るなって」

アカギ「……?」


和「私は、負けません――絶対」ブツブツブツ

アカギ「……」

和「いやらしい男なんかに、絶対、男には――」ギリッ


アカギ「……なるほどな」

 この時、アカギだけは京太郎の思惑に気づく
 
京太郎「……(悪いな、和。こうでも言わないと――)」グッ

 その恐るべく思惑は――
 
アカギ「(クク……お優しいこった)」ニヤリ

 きっと、京太郎に残された最後の良心

京太郎「じゃあ、行こうぜ和」

和「……」コクッ

 この時の和はまだ知らない
 胸を賭けたことの本当の意味――

 京太郎が自分をどんな目で見ていたのか

和「……必ず、勝ちます」

 そして、須賀京太郎に対する考えがこの日を境に――




京太郎「――さぁ、楽しい勝負の始まりだ」

 
 思いもよらぬ方向へ、変化していくことを


209: 2015/01/12(月) 21:31:52.69 ID:EyBLiPLYo


【数週間前 清澄高校】


和「……」スタスタ

 その頃、原村和は喜びに満ちた日々を送っていた
 というのも、所属する部活が全国大会で団体戦優勝

 自分は天候もせずに済み、この長野の地に留まることが出来たからである

和「ふふっ……」

 親友の片岡優希、そして大切な仲間である宮永咲
 頼りになる先輩である竹井久、染谷まこ

 それと、ほんの少しだけ仲のいい


                


 ――ちょっとだけ気になる男の子

和「……いえ、ないですね」

 確かに優しさもあるし、優希が懐くだけのことはある
 だけど、正直よく分からない

 恋愛という気持ちを体感したことがない上に――そもそもそんなに熱を上げているわけでもない

 あくまで他の男子よりもほんの少しだけ上に位置している
 ただそれだけのことだ

和「あっ……」

 などと色々と思案していたが、大事なことを忘れていた

 次の授業は移動授業
 日直である自分が教材を運ばないといけないのだ

和「ゆーきは……先に行ってしまいましたね」

 待たせてしまうが、こればかりは仕方ない
 踵を返し、教室へと引き返す和

 それが、悲しい出来事の始まりとなった


210: 2015/01/12(月) 21:32:27.98 ID:EyBLiPLYo


 ガヤガヤ

 移動教室というものは不思議なもので
 大体が移動する時に仲のいいグループでかたまり、女子はさっさと移動
 男子は時間ギリギリまで教室で遊んだり、喋っていたりするものだ

 この日もそれは例外ではなく、和をはじめとした女子はみな先に移動を終え
 今教室に残っているのは一部の不良男子のみであった

和「(……少し、入りづらいですね)」

 と、教室の前まで戻ってきた和であったが
 中に男子しかいない状況はいささか、躊躇する

和「(まぁ、気にすることもないでしょう)」

 一応はクラスメイトである
 とって食われるわけでもないと言い聞かせ、扉に手をかけた――

男子A「やっぱり原村の胸は最高だよなぁー」グヘヘ


和「っ!?」ピタッ


 扉越しに聞こえた言葉
 自分の胸が最高?

 それは一体――

男子B「だよなぁ、顔も可愛いけどやっぱりあの胸だな!」

男子C「あぁ~、一度でいいから揉みしだきてぇよ~」

 ゲラゲラゲラゲラ  イヒヒヒヒ
 フヒヒヒヒ   


和「え……? 何、を……?」

 困惑
 今まで自分が聞いたこともないような下卑た言葉が、和を混乱させる

男子A「俺なんか昨日は原村の大会の映像見てさー抜いちまったよ」

男子C「あー、原村とヤれたら気持ちいいだろうなー」

男子B「犯したくなっちゃうよなー隣で見てると」ニタァ


和「!?」ゾワッ


212: 2015/01/12(月) 21:32:54.32 ID:EyBLiPLYo


 多少の自覚はあった
 優希がネタにしたり、からかう時によく言う言葉

 だが、実際にそうだなんて――思ってもいなかった

男子A「私服もアレだぜ? 誘ってるに違いねーよ」ニヤ

 ワカルワカルー  ショウジキガードアマスギ

男子D「なる~、やっぱ淫乱ピンクってか」ギャハハハ

男子B「じゃけん今度、輪姦しましょうね~」


 ガヤガヤ  ザワザワ


和「あ、あぁ……」ブルブル

 むしろ、今まで何も気付かなかった方がおかしいのだ
 その余りある美貌、常人離れしたスタイル

 学校中の男子が一度は自分をそういう目で見ているのは当然のこと

和「い、いや……」ガクガク

 普段は優しく自分にプリントを配ってくれた男子も
 委員会で一緒に仕事を頑張ったあの人も

 大会優勝を祝ってくれた男子のみんなが――

男子ABC「「「やっぱり原村はいいオカズだわ」」」

 
 自分のことを、性欲の目でしかみていなかったという現実


和「っ!!」ダダダッ

 それからは無我夢中で何も覚えていない
 気が付けばいつの間にか保健室で寝ていて

和「(あれは夢……悪い夢なんです)」フラフラ

 教室に戻ると、みんな暖かく迎えてくれた

 しかし――

男子A「原村、大丈夫だったか?」ニコッ

男子B「気をつけろよー」ニコニコ

男子C「”大事なカラダ”なんだからさー」アハハ

 アハハハハ! フフフフ!

 クスクス  ゲラゲラ

和「(やめて、ください……)」

 和の目には、もう男子は正常には映らなかった
 全てのシセン――声がいやらしい意味に聞こえる

 自分のことをそういう目で見ているようにしか感じられない


和「(もうっ……いや……!!)」ブルブル


 その日から、原村和は変わった
 男に恐怖する、一人の少女として

 あるいは――


213: 2015/01/12(月) 21:33:47.55 ID:EyBLiPLYo


   第四話

~~シセン~~


【鶴賀学園 麻雀部部室】


ゆみ「……では、改めて自己紹介させてもらおうか」

 鶴賀学園麻雀部

 つい最近まではたったの5人しかいなかったこの小さな部も、
 今では10人を越えるメンバーがいる

 しかし、今日に限ってはその数は少なく
 残っているのは一世代前のレギュラーメンバーだけである

ゆみ「元鶴賀麻雀部員の加治木ゆみだ」

智美「元部長の蒲原智美だぞー」ワハハ

 今や引退した身であるが、相応の実力を備えた二人だ
 そして――今回の目玉とも言えるのは次の二人である

和「清澄高校麻雀部一年、原村和です」

 元インターミドルチャンプ、原村和
 
京太郎「清澄高校元麻雀部一年、須賀京太郎です」

 元麻雀部員である須賀京太郎

ゆみ「今回の闘牌はこの四人で行う。そして、立ち会いを見届けるのが――」

 ゆみの視線の先
 そこにいるのは三人の少女

佳織「せ、妹尾佳織です」

桃子「東横桃子っす」

睦月「う、うーむ……」

ゆみ「一人気絶しているが、気にしないでくれ」ハァ

京太郎「……??」

ゆみ「とにかく、私と蒲原が入り、原村、須賀の両名の対決ということで問題ないか?」

和「……ありません」

京太郎「ええ、いいっすよ」


214: 2015/01/12(月) 21:34:15.14 ID:EyBLiPLYo


 そう、今日は須賀京太郎と原村和の決闘の日である
 お互いに譲ることのできないものを賭けた、真剣勝負

 京太郎は大会の出場権を
 和は自身の体の一部を

 それぞれ、魂と同価値の大切なもの

ゆみ「ルールはプロアマ大会仕様、半荘一回での結果勝負とする」

京太郎「問題ないです」

智美「不正が発覚した場合はその場で敗北。まぁ、これは問題無いと思うが」ワハハ

和「いえ、どうでしょうか」ジッ

 ざわ……
  ざわ……

京太郎「それはどういう意味だ?」

和「……聞いていますよ、須賀君があの藤田プロに勝ったということ」

ゆみ「何……?」バッ

智美「それは本当か?」ワハハ

京太郎「さぁ、どうでしょう?」

 こればかりは正直に答えるわけにはいかない
 何せ、勝てたのは全て……

アカギ「フフ……」

 この隣にいる男の力によるものなのだから

桃子「その噂、確かに聞いたっす」

佳織「う、うん。クラスで凄い噂になってた」

睦月「うむ、うむむ……」ムニャムニャ

和「しかも、奇想天外な方法で勝利したとも伺っています」

京太郎「(そりゃまぁ、ドラが8も乗ったしな)」ポリポリ

 イカサマもなにも、オカルトの力も利用したものだ
 最も、和には理解できないだろうが

和「言っておきますが、私にイカサマは通用しません」

京太郎「……へぇ?」

和「やりたければどうぞ。それでも私は負けませんので」

 それは、和の麻雀に対する絶対の自信の表れ
 不正などには負けない、そう和は言い切ったのだ


216: 2015/01/12(月) 21:34:49.76 ID:EyBLiPLYo


京太郎「なぁ……和」

和「なんでしょうか?」

京太郎「俺は、麻雀ってのは奥が深いもんだと思ってる」

ゆみ「……?」

京太郎「確立とか、運とか、オカルトじみた力とか……色んな要素がごちゃまぜ」

和「……」

 だからこそ面白い
 だからこそ、色んな戦い方がある

和「それがどうかしましたか?」

京太郎「中でも、和は理に適った打ち方を好む。確立と計算によるデジタルな打ち方だ」

和「ええ……そうですね」

京太郎「そんなお前からしたら、俺は運だとかオカルトじみた部分に少し頼ってる――不安定な打ち手に見えるかもしれない」

和「だから、なんだと言うんですか?」

京太郎「否定はしないよ。事実だし、俺はこのスタイルを気に入ってる」

 俺は頭もよくないし、特別な力も無い
 でも、自分は勝てると信じたい

 自分の力を信じて、相手を打ち勝てると思っている

京太郎「だから、お前が俺を弱いと決めつけて、俺の打ち方は否定するというのなら――」

 それは最大の侮辱
 勝負に命を賭けようとする男の……触れてはいけない琴線

京太郎「俺はお前のやり方で、お前を倒す」ニカッ

和「!?」ガタッ

京太郎「今日の俺は”理”でお前を倒してみせる」

 京太郎からの和への挑発
 勿論、こんなことを言われては和も引き下がっているわけにはいかない

和「……分かりました。では、疑うのはもうやめましょう」

 軽率な自分の言葉を戒め。新たに決意を固める和
 目の前の男は――全身全霊を持って倒す


和「私も、私の”理”を持ってアナタを倒します」


 こうして原村和、須賀京太郎による麻雀勝負は始まる

 交差する”理”と”理”
 勝つのは計算による”理”か、それとも――


京太郎「さぁ、サイを振ろう」


 須賀京太郎の”理”か


217: 2015/01/12(月) 21:35:25.01 ID:EyBLiPLYo


アカギ「……」タバコスパー 


 イクゾノドカッ!  ドウゾ
 ワハハ、マケナイゾー  サテ、ドウナルカ

 ガンバルッスヨー!  マダオキナイノカナ?   ウム……

 
 ワイワイ  キャッキャウフフ


アカギ「……」


 この時アカギ、意外に手持ち無沙汰


221: 2015/01/12(月) 21:35:57.87 ID:EyBLiPLYo


【鶴賀学園 麻雀部】


 須賀京太郎と原村和
 両名の意地を賭けた闘牌、その始まり

京太郎「……」

ゆみ「(藤田プロを倒したという実力、嘘か誠か……)」
 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「では、始めよう」

 最初の親は加治木ゆみ
 そこから順に和、智美、京太郎が親となる
 
ゆみ「……」タンッ

和「……」タン

智美「……」タンッ

京太郎「ふーむ」タンッ

 それぞれがよどみなく牌を切っていく最中、
 後ろからその闘牌を見守るのは桃子、佳織の両名である

桃子「(うーん、さすがおっOいさんっすね)」ジーッ

佳織「(すごい、三つがもうあんなに……)」

睦月「うーむ……うむ」スピー

和「……」チャチャッ


223: 2015/01/12(月) 21:36:33.27 ID:EyBLiPLYo


 順調な滑り出しを見せる和
 その手牌の速さ、牌の流れを見切る動きに唖然とする外野

和「(……聴牌、ここで気になるのは加治木さんの動きでしょうか)」チラッ

 彼女の実力はよく知っている
 河から察するに、もう聴牌をしていてもおかしくはない

 しかし、こんな序盤から警戒をするほどのことでもなし
 そもそも相手は目の前の須賀京太郎なのだから

和「(それで、一方の須賀君はというと――)」チラッ

京太郎「ふんふ~ん♪」チャッ

智美「……?」

ゆみ「……???」

 理解不能
 京太郎が切るのは――

【京太郎の河】
 3s 4m 発中 9p

和「(切ってる牌はほぼ他家の現物ばかり)」

 つまり、京太郎は最初からベタオリしているのだ
 それも始まったばかりの東一局の第一打から

和「……須賀君」

京太郎「ん? どうした、和?」ニコッ

和「それが――アナタの”理”なんですか?」ギロッ

京太郎「おいおい、和。対局中に相手の打ち方に文句付けるなよ」アハハ

ゆみ「……原村、須賀の言うとおりだ」

智美「勝負が終わるまでは口出し無用だぞー」ワハハ

和「……そうですね。では」スッ 千点棒


 タンッ

和「リーチです」


224: 2015/01/12(月) 21:37:01.60 ID:EyBLiPLYo


 和の先制リーチ
 相手がベタオリするというのなら、自分は少しでも高い手を和了る

 和は合理的な考えで、場を支配しようと動き出した

智美「手が早いなー」タンッ

 一方それに対しての京太郎の行動

京太郎「これは通るかなー?」つ危険牌

 それが――全くの意味不明さ

桃子「(えっ……?)」

 ざわっ……
  ざわっ……

和「……通ります」

京太郎「やったぜ。」

ゆみ「(ここでその牌だと?)」

智美「(危険スレスレの牌を……?)」

佳織「ほえ?」

 周りが困惑するのも仕方ない
 何せ、今までずっとベタオリだった男が――突然危険ギリギリの牌を切ったのだ

ゆみ「(現物が切れたにしても、もっとやりようがあるだろう)」タンッ

和「……」タンッ

智美「降りるかなー」ワハハ

京太郎「お、いい牌。そんじゃ……」

一同「「!?!?」」

 またもや巻き起こる混乱
 そう、京太郎がツモ牌を引き入れた代わりに出した牌が――

京太郎「通れ!」つ現物

 和の現物
 つまり、先ほどの危険牌打ちは現物切れではなかったのだ

ゆみ「(なんだこいつは――まるで意味不明だ)」タラッ

和「……」ワナワナ


225: 2015/01/12(月) 21:37:35.70 ID:EyBLiPLYo


京太郎「よっし、いいぞ」ニコニコ

 一発が付きそうな場面での現物保留
 その直後の現物切り

 京太郎の目的は一体何か?
 
 その場に分かるものはただ一人だけ



アカギ「……」ゴロン


 そう、アカギ一人である


227: 2015/01/12(月) 21:38:03.70 ID:EyBLiPLYo


 京太郎の打ち方は混乱こそ招いたが、それは有効打とはなりえない
 というのも、京太郎が変な打ち方をしても周りは普通に打てばいい

 対策をする必要も無いし、むしろ勝手に自滅してもらえれば好都合

ゆみ「(やはり藤田プロに勝ったというのは偶然か)」

智美「(だろうなー)」ワハハ

 一斉に京太郎への評価が決定されていく中――

 バラッ

和「ツモ、倍満です」

 とうとう和のツモ和了となる

京太郎「……」

ゆみ「くっ……流石にツモは防げないか」

智美「いきなり倍満手とは凄いなー」ワハハ

和「4000・8000です」

京太郎「お、おおぉお!!」

 と、ここで京太郎が震え出す
 誰もが和の実力に驚き、恐れだしたのだと思った

 だが――

京太郎「お、俺今二位だ!!」ジィーン

ゆみ「……は?」

京太郎「よっしゃー、このままリード守るぞー」ウエヘヘ



和「……」ポカーン

 困惑
 ただその言葉に尽きる


228: 2015/01/12(月) 21:38:32.00 ID:EyBLiPLYo


ゆみ「お、おい? 肝心の原村には大差を付けられたままだぞ?」

 ゆみの言うとおり
 これは京太郎と和の勝負

 今や20000点の差を付けられたのだから、この先の勝負は厳しいハズ
 だが京太郎はそんなこと気にも止めていない様子で微笑む

京太郎「いやー、加治木さんや蒲原さんからは直撃取れる気がしないので」エヘヘ

和「っ!?」キッ

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「は、はは。言うな……」

京太郎「事実ですから」ジャラジャラ

 その言葉、裏を返せば和からは直撃が取れるということ
 京太郎の挑発かあるいはただのハッタリか

 いずれにしても、それは和に多大な効果を与える

和「……続けましょう」

ゆみ「あ、ああ……」

 しかしそれでも平常心を保っていられるのは、和の実力か
 それとも【負けられない対価】を賭けた戦いだからなのか

和「(須賀君、これが”理”だと言うのなら――それは勘違いです)」

 挑発や虚勢などなんの意味も持たない
 自分は感情によって、闘牌を変えるような愚か者ではないからだ

和「……」つエトペン

桃子「あれは……」

ゆみ「来たか……」

 ギュッ

和「……」ポーッ

 デジタルの神の化身
 闘牌を全て俯瞰で感じる、その恐るべき思考能力

和「では……私の親ですね」

智美「(怖いなー)」ブルブル

ゆみ「(どう警戒したものか)」ゾワッ

 それぞれが和に対する警戒を強める中で
 京太郎はただ一人、別の展開を描いていた

京太郎「……」ニカッ

230: 2015/01/12(月) 21:41:18.64 ID:EyBLiPLYo


 そうして迎えた東二局
 和の親である

和「……」カチャカチャ クルッ カチャ

ゆみ「……」カチャカチャ

智美「……」カチャカチャ カチャッ

京太郎「……」ジィー カチャカチャ

 まずは配牌
 京太郎の手牌はまずまずといったところ

和「……」タンッ

 対する和は好調な配牌
 運も和に傾いているかのような状況である

ゆみ「……」タン

智美「うーん」タン

 一方で二人は和に対する様子見
 まずは出方を伺っているのだろう

和「……」タンッ

桃子「(凄い、これが原村和……)」ゾクッ


【和の手牌】 ※ドラ9p

123m 1237s 1299p 東東  

 
桃子「(鳴かずの三色、役牌2、チャンタ、ドラ2……)」

 そのままでも8翻での和了
 リーチすれば、裏も踏まえて三倍満も夢ではない

桃子「(これがまだ4順目の手っすか!?)」

 配牌も、ツモも、流れを読みきった動きも
 全てが和の手中に収まっている


231: 2015/01/12(月) 21:41:44.95 ID:EyBLiPLYo


桃子「(……それに対して、須賀京太郎は?)」チラッ

 この好調な手牌に対応できるわけがない
 そう思いながらも、京太郎の手を覗く桃子

京太郎「……」

【京太郎の手牌】

1156p 33447s 9p 西北南南


桃子「(これまた微妙な手っすね)」

 ドラ2の七対子
 リーチ裏ドラで跳ね満出世も視野に入るが――

桃子「(このままいくと、多分ダメっす)」

 桃子の予感
 それはある意味で的中する

京太郎「さーて、頑張るぞっと」

 数巡後――

【京太郎の手牌】

1155p 33447s 9p 西南南 
 
桃子「(ようやくここまでっすね)」

 イーシャンテンまでこぎつけた京太郎
 目の前の和の動向も気になる中での、ツモは――

京太郎「……」つ西


【京太郎の手牌】
1155p 33447s 9p 西西南南

 
桃子「(聴牌!!)」ドクン

 なんという豪運であろうか
 和のあの神ががった手を躱しながら聴牌まで持ってきたのだ

桃子「(ビギナーズラックって奴すかね?)」チラッ

佳織「(みっつずつじゃない?)」アレ?

桃子「(だけど、ここが正念場っすね)」

 問題は7s切りか、9p切りか
 7sは既に河に二枚あり、地獄待ちとなる
 逆に9pはドラであり、まだ河には一枚も無い 

桃子「(切られる可能性も低く、放銃の可能性もある9p)」

 それか出るかどうかすら怪しい7sにするか
 この決断は迷うところである

桃子「(さて、どうするっすか?)」チラッ


233: 2015/01/12(月) 21:42:49.94 ID:EyBLiPLYo


京太郎「……」スッ

 京太郎が選んだのは――


 タンッ! カラン


京太郎「リーチ」

 9p

ゆみ「!?」

智美「(ここでドラ!?)」

和「!!」ピクッ

桃子「(ドラ切り……)」ゾワッ

 正直な話、京太郎はここで7sを切ると桃子は思っていた
 少しでも高い手が欲しい局面、ドラを残したいと思うのが人情だ

桃子「(だけどこの男は、まるで確信があるかのように……)」

 勿論ありえる選択肢ではある
 だが、それだけでは片付けられない奇妙な偶然があるのだ

和「須賀君……その9p、ポンです」

桃子「(これは当然の流れっすね)」

 ドラ2をドラ3に変え、聴牌まで漕ぎ着ける
 
 
【和の手牌】 

123m 1237s 12p 東東  【999p】 

 和も聴牌
 そして、手の内にある先ほど京太郎の待ち選択肢の7sと9p

 もし京太郎が9pを待ちに選んでいれば、確実に出ていなかっただろう

 逆に、この7sはどうであろうか

和「(須賀君の手は捨て牌から見て七対子ですね)」

 素早く巡る、和の思考回路
 リーチをしたということは、それなりに出やすいものを待ちに選んでいる可能性が高い


235: 2015/01/12(月) 21:43:53.10 ID:EyBLiPLYo


和「(私の手で切りたいのは勿論7s、これはどうでしょうか?)」

 場には既に二枚の7sが出ている
 つまり、残りは1枚のみ

 一巡待てば違う待ちにできる七対子をリーチで縛り、更にはドラを捨ててまでの地獄待ち
 非合理的過ぎる

 さらに言えば、聴牌を崩して受けに回るほど劣勢な場面でもない

和「(どう考えてもこの局面で、7s切り以外ありえません)」タンッ

 そして、とうとう切られる7s 
 吸い込まれるように……和はその手を差し出してしまう

京太郎「クク……悪いな、和」

和「え?」

 ジャラッ

京太郎「ロン。リーチ、チートイ、赤ドラに……よし! 裏ドラも乗った!」クスッ

和「なっ……」

京太郎「ハイ、御免でした。満貫頂き!」イェイ

 ざわ……
  ざわ……

ゆみ「7sで地獄待ち……?」

智美「おもしろい待ちをするなー」ワハハ

 一同が騒然とするのも無理は無い
 先ほど和が考えた思考がそのまま、裏をかかれた形となるのだから


237: 2015/01/12(月) 21:44:26.45 ID:EyBLiPLYo


和「……」

 唖然とする和
 しかし、それよりももっと驚愕に包まれていたのは――

桃子「(な、なんて奴っす!)」ゾクゾク

 和の手牌を見抜いたように、正確な7s残し
 結果として和の7s切りを見抜き――挙句に直撃まで奪った

桃子「(こいつ……バカのフリして実は!?)」

京太郎「ん……ドラ? あぁぁー!!? 俺ドラ切ってるじゃん!!」

一同「……え?」

京太郎「ぐあぁぁぁ! しまったぁぁ! あ、でもドラで和了でも同じようなもんか」ポン

ゆみ「……」ポカーン

智美「ここ、笑うとこ?」キョトン

佳織「????」

桃子「(や、やっぱりこいつアホっす)」ガクッ

 一同の京太郎への評価がまたもや急転直下していく
 そんな中、静かに京太郎を見つめる和

和「……(偶然に決まっています)」ギリッ

 自分の好調な手を潰されたのは腹ただしい
 しかし、だからといって負けが決まるわけでもない

和「(元々意味不明な闘牌をする人でしたし、気にする必要はありません)」

 目の前の男が計算外の行動を起こしただけのこと
 その破天荒さも視野に入れれば、計算できないことではない

和「(もう油断しません)」キッ


京太郎「……」クスッ

アカギ「クク……」


 
ゆみ 17000

和 33000

智美 21000

京太郎 29000 


238: 2015/01/12(月) 21:44:57.74 ID:EyBLiPLYo


【東三局】
 
 そして続く蒲原智美の親番
 ここまで見に回っていた智美だが、親番となっては強気に動くしかない

智美「(早和了で場数を稼ぐしかないなー)」ワハハ

 タンッ

京太郎「……」つ東

智美「ポンッ!」

 東東東 カッ!

智美「……(よしっ)」

ゆみ「(蒲原が早いな――一方の原村はどうか)」チラッ

和「……」タンッ


【和の手牌】ドラ4m

 456456m 678s 2223p


桃子「(やはり流れはおっOいさんっすね)」ゴクッ

 異様に手が早く、しかも高い
 智美も聴牌しているが、どちらが先に和了か――

京太郎「……」つ2m

智美「ポンッ!」チャッ

 222m カッ!

京太郎「今日はよく鳴かれるなー」アハハ

桃子「(こいつはこいつでマイペースすぎるっすね)」

 役牌を切ったり、現物を切ったり
 フラフラと自分なりの麻雀を打っているようだ


240: 2015/01/12(月) 21:45:29.88 ID:EyBLiPLYo


 だが、一方で隣に座る加治木ゆみは冷や汗をかきながら京太郎を見る

ゆみ「(まるで平凡な打ち手だが……なぜだ? なぜこうも嫌な予感がする!)」ゾクッ

 というのも、先ほどから京太郎が危険牌をことごとく切っているのだが
 それが一つも原村和にヒットしない

和「……?」

 それどころか、なぜこうもことごとく躱されるのかと困惑しているようにも見える
 つまり、原村和の手を読み切っているような打ち筋なのだ

智美「……」タンッ

ゆみ「(二人が張っているのに、どうしてそんなに強気なんだ?)」チラッ

京太郎「~~~♪」チャッチャッ

ゆみ「(私も聴牌だが――降りるべきか?)」

 悩むゆみ
 しかし、背負う者の無い闘牌である

ゆみ「(むしろここは、相手を牽制する!)」スッ

 タンッ!

ゆみ「リーチ!」

智美「!」

和「……」

 場に点棒が出たことで、ダマテン二人にも緊張が走る
 しかし、そんなことを意に介さない男が一人

京太郎「うわー、手が早いですね」ニコニコ

ゆみ「あ、ああ。ありがとう」

 ただ笑って、手を進めるのであった

智美「(ユミちんの待ちが読めないなー)」

 動揺を隠せない智美だが、ここまで来た以上降りるわけにもいかない
 迷わずに聴牌を維持しながらツモ切りに務める

和「……」

 それは和も同様で、聴牌を崩さずに勝負に走る
 自分が和了るという絶対の自信の表れなのだろうか


242: 2015/01/12(月) 21:46:04.75 ID:EyBLiPLYo



京太郎「……」

 そして一方の京太郎
 聴牌もしておらず、ベタオリするかに思われた彼に行動は――

ゆみ「……一発は乗らずか」スッ

京太郎「ポン……!」チャッ

ゆみ「え?」

京太郎「……」ニカッ

ゆみ「では……」スッ

 タンッ

京太郎「ポンッ!!」

 チャッ

ゆみ「!!」

和「……」

桃子「(どうしてここで2副露?)」

 三人が聴牌している状況で無理に勝負する必要も無い
 これではまるで――

ゆみ「よしっ! ツモだ!」ジャラッ!

智美「くっ……」

ゆみ「2000・4000だ」

和「……」

京太郎「あちゃー、鳴かなければよかったなー」アハハ

桃子「(先輩に和了牌を引かせる為だけに鳴いた……?)」

 勿論、そんなことは可能性である
 どう見ても初心者の京太郎が場の聴牌も読めずに鳴いた

 その結果ゆみが牌を多く引き、ツモ和了しただけ

京太郎「……」クス

和「……(偶然に決まっています)」

 どちらにせよ、和のトップは揺るぎない
 大丈夫、問題は無い

京太郎「次は――俺の親だな」ニカッ


ゆみ 25000

和 31000

智美 17000

京太郎 27000 


243: 2015/01/12(月) 21:46:31.18 ID:EyBLiPLYo


【東四局】


京太郎「……」カチャカチャ

和「……」チャッチャッ クルッ クルッ チャッ

ゆみ「……」チャッチャッ カッ

智美「……」ワハハ

 そして続く東四局
 待ちに待った京太郎の親である



京太郎「……」タンッ

和「……」ゴクッ

 ここまで平静を保ってきた和だが、
 京太郎の親となるといささか緊張がぶり返してくる
 
和「(もし、負けたら――)」

 目の前の男に、自身の胸をいいようにされ
 氏にたくなるような恥ずかしめを受けるに違いない

和「……」ギュッ

 エトペンを抱く手に更に力がこもる
 大丈夫、自分は負けない

 そう言い聞かせながら、和は更なる高みへと身を落としていく

和「……」ポーッ


244: 2015/01/12(月) 21:47:08.05 ID:EyBLiPLYo



京太郎「……」タンッ つ中

和「ポン」カッ

ゆみ「(鳴きにシフトしたか……)」

智美「(須賀君の親を流すつもりかー?)」ワハハ

京太郎「……」つ7s

和「ポン」カチャッ!

 息も付かせぬ早い鳴き
 この予想外の動きに、ゆみと智美は動揺する

ゆみ「(現物が少なすぎて、何を切ればいいか分からない)」クッ

智美「(とりあえず無難なところを切るかー)」ワハハ

 タンッ 1s

和「ポン」チャッ!
 
智美「(しまった!?)」

 これで和の鳴きは中、17s
 混一色の可能性大である

ゆみ「(これは下手にソーズは切れないな)」

智美「(ここはなんとしても降りるぞー)」ワハハ

京太郎「……」

 一方の京太郎は意にも介さず、思うように牌を切る

京太郎「せいっ」つ東

桃子「(あぁっ、バカ!)」

和「……」
 
 しかし和、この東をスルー
 この時和の待ちは――

【和の手牌】>>5s赤ドラ

 45s 北北 【111s 777s 中中中】

 ずばり36s両面待ち
 
京太郎「ふんふーん」つ8s

和「……っ」

京太郎「ん? どうかしたか?」ニコッ

 通る
 京太郎の切るソーズがことごとく通る

京太郎「これもいいな」つ9s


246: 2015/01/12(月) 21:47:36.81 ID:EyBLiPLYo


 そのあまりの自然なソーズ切りに、動揺したのは和だけではない

ゆみ「(まさかソーズが通るのか?)」

智美「(読み違えたか……?)」

 京太郎のソーズ連打にゆみと智美、両名の思考が鈍る
 そしてとうとう、まるで悪魔に魅入られるように――

智美「(通るか……?)」タンッ

 6s

和「ロン!」ジャラッ

智美「あっ」

和「7700です」

 鳴きの混一色役牌にドラ1
 僅か数巡でこの和了である

京太郎「折角の親が流れちまったなー」


ゆみ 25000

和 38700

智美 9300

京太郎 27000 


 これで京太郎と和の点数差は11700
 先ほどの奇跡のような和了で詰めた点差も、またもや一瞬で離される

ゆみ「(これが原村和か……)」

 場の流れを読み、確実に自分の手牌を積み上げる
 合理的で完成された闘牌スタイル

ゆみ「(まるで付け入る隙が無い)」グッ


247: 2015/01/12(月) 21:48:07.29 ID:EyBLiPLYo



 恐ろしい実力だと、改めて関心するゆみ
 そして逆に対峙する京太郎への印象は最悪だ


ゆみ「(何を考えているのかまるで分からん)」

 奇跡的に放銃を躱してはいるが、それはあくまで運がいいだけに過ぎない
 先ほどの和了も偶然のように見えるし、合理性に欠ける

ゆみ「(ようするに、無茶苦茶に打っているだけの素人か)」

 ゆみの推察はある意味では正しかった
 唯一誤算があるとすれば、京太郎は無茶苦茶に打っているわけではない

京太郎「あー、もう東場は終わりか」

和「……これで分かりましたか? 須賀君に勝ち目はありません」

京太郎「ん? 逆だろ?」


 この男は、自分の”理”を組み立てながら打っている


京太郎「この東場でハッキリした」
 
 ざわ……
  ざわ……

和「何が、言いたいんですか?」ギロリ

京太郎「和、やっぱりお前にだけは負けない」

和「!?」

 京太郎の闘い
 それは既に始まっている


248: 2015/01/12(月) 21:48:40.73 ID:EyBLiPLYo



和「虚勢ですね……」キッ

京太郎「そう聞こえるか? なら、証明してやるよ」

 チャッ

京太郎「次の局。俺はお前から直撃を取る」

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「(馬鹿な、何を根拠に……)」

智美「(そんなの無理に決まってるなー)」ワハハ

桃子「(無理っすね、絶対)」


 果たしてそれは――現実となるのか


和「……」


 二人の戦いはいよいよ、後半戦へともつれ込んでいく

 
睦月「ん……ここは?」パチッ


                       ...::<///

アカギ「Zzzz……」スピー



京太郎「さぁ、続けようぜ」

和「……はい」


 この闘い
 勝つのは京太郎か、それとも和か

 思考渦巻く闘牌の果てに――

 二人は何を見るというのか


京太郎「……」


250: 2015/01/12(月) 21:49:06.75 ID:EyBLiPLYo


【南一局】ドラ7p


 京太郎の和に対する直撃宣言
 その言葉により、その場は重い空気に包まれていた


京太郎「……」カチャカチャ

和「……」チャッカチャカチャ

ゆみ「ふむ……」カチャカチャ

智美「……」ワハハ


睦月「あ、あれ……?」

佳織「あ、起きたの?」

睦月「うむ……」

桃子「もう後半戦っすよ」

睦月「南場か……須賀君は?」チラッ


ゆみ 25000

和 38700

智美 9300

京太郎 27000 


睦月「二位!! 二位だ!! 須賀君が二位だ!!」パァァァァ

桃子「むっちゃん先輩……これはサシ馬対決っすよ」

睦月「ん……ということは」

桃子「11700の差で須賀京太郎が負けてるっすよ」

睦月「なん……だと……?」グギギギ

 原村和、須賀京太郎による対決
 現在は和の圧倒的有利状態――

ゆみ「では始めるぞ」タンッ

和「……」タンッ

智美「うーん」タンッ

京太郎「……」タンッ

 それぞれが思い思いの牌を切っていく

和「……」タンッ

智美「……」タンッ

京太郎「……」タンッ

桃子「(なるほど、おっOいさんも意地があるっすね)」

 先ほどの京太郎の挑発
 直撃を取ると宣言された以上、狙われる和も少しは弱気になりそうなものだ

 しかしそれでも和は今までどおりの強い闘牌で攻める


251: 2015/01/12(月) 21:49:40.47 ID:EyBLiPLYo



ゆみ「(ここで降りれば、須賀の思うツボだからな)」

 牌効率、相手の捨て牌から手を予想し切る
 単純、だがそれゆえに弱点らしいものが見つかりにくい

 和には絶対の自信があった
 それゆえに自分のスタイルを曲げてまで逃げたりはしない

ゆみ「……」タンッ

和「……チー」チラッ

 678s カッ

智美「ふーん」タンッ

京太郎「……」タンッ

和「ポン」

 111s カッ

ゆみ「(ソーズの2副露か)」

智美「(早めにソーズを処理しておくかー)」タンッ

 4s

和「……」ピクッ

智美「(まだ聴牌はしてないのか……?)」

京太郎「……」タンッ

 2s

和「ポンです」

 222s カッ

ゆみ「(これは――!?)」

【和の鳴き】

 678s 111s 222s

【和の捨て牌】
 5m、2p、72m、59p、3s、西、1p

智美「(やっぱり清一色、もしくは混一色か?)」チラッ


和「……」カシッ クルッ カシャッカシャッ

京太郎「……」ジィー

和「……」つ9s


 タンッ

ゆみ「(9sを切ったか。既に聴牌している可能性が高い)」

智美「(字牌とソーズはもう切れないなー)」ワハハ



253: 2015/01/12(月) 21:52:03.91 ID:EyBLiPLYo


 この時、誰もが和の聴牌を察知
 ソーズと字牌に対する警戒が最高潮に高まっていく

 そんな中、ただひとり

京太郎「……」

 京太郎だけはある確信を持って、その手を切っていた

京太郎「……」つ4s

桃子「(えっ……それは!?)」

 圧倒的危険牌4s
 その時京太郎の手牌は――

【京太郎の手牌】 ドラ7p

 245m 33345s 222678p

桃子「(現物の3sで)」

 それを敢えてこの危険な勝負に持っていく
 そんな必然性などどこにもない

京太郎「……」タンッ

 だがそれはあくまで、京太郎以外の話である

和「……っ!?」

京太郎「……どうした? 通るのか?」

和「……」コクッ

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「(偶然か……? いや、それにしては妙な自信だ)」

智美「(なんにしても、ここはベタオリだな)」

 点数差のある智美がベタオリに移行
 ゆみも少し悩んだが、様子見で降りを決意

 これにて戦いは京太郎と和
 この両名に限られた

京太郎「……」ニッ
 
桃子「(こいつには、一体何が見えてるんすか……!?)」

和「……っ」

 しかし、ここで動揺したのは和である
 
和「(私の牌が見られている……?)」

 そんなハズは無い 
 しかし、京太郎の不思議な動きはどうにも理解できない


254: 2015/01/12(月) 21:53:33.45 ID:EyBLiPLYo


和「(私の牌が見られている……?)」

 そんなハズは無い 
 しかし、京太郎の不思議な動きはどうにも理解できない

和「(……いえ、落ち着かないと)」タンッ

 例え相手がどんな打ち方をしようと、自分の打ち方を貫く
 それが原村和の意地なのだ

智美「……」つ タンッ

 5m(赤)

京太郎「……うひゃー勿体無いですねー」

智美「現物切れて苦肉の策だぞー」ワハハ

和「(……赤ドラ)」

 点棒が少しでも欲しいこの状況
 京太郎にとって赤ドラは是が非でも手にしたい筈

 5mの赤で鳴かないということは34m 67m辺りは空っぽなのだろう
 つまり、あっても123m 789m  

ゆみ「……」タンッ

 タンッ タンッ タンッ

 場に少しばかりの緊張が流れていく
 一方で和はその思考をどこまでも高めて、確立を重んじる戦いを続ける

和「……」つ5m

 そして、和のツモで引き入れたのは5m
 これは確実に安牌

和「……」タンッ

 自分の待ち牌はまだ河に出ていない
 焦らず、待ちを広げられればいずれ――

京太郎「……和」クスッ

和「えっ……?」

京太郎「だからそれが、お前の限界ってわけだ」パタン

【京太郎の手牌】

 2345m 333s 222678p

京太郎「ロン。2600だ」

和「なっ……!?」

 あまりの衝撃に、誰もがハッと息を呑む
 そして京太郎の和了を見て――誰もがある事実に気付く

ゆみ「馬鹿な、さっきの赤5mで和了じゃないか!?」

 そう、京太郎は先ほどの5mでロン和了
 点数は5200となり、直撃を取るよりも点数を稼げた


255: 2015/01/12(月) 21:53:59.61 ID:EyBLiPLYo



和「なんで、こんな……」

京太郎「合理的じゃないかって?」

和「っ!?」ドクン

京太郎「悪い、俺は点棒に興味は無いんだ」 

 ゆっくり、ハッキリと京太郎は告げる
 
京太郎「俺は”お前”に勝つ為に打ってる」

和「……!」

 それは不合理極まりない打ち方
 しかし時にそれは――

京太郎「まずは俺の一勝、かな」ニッ

 相手の喉元に喰らいつく牙となる


睦月「はぅっ……//」キューン


アカギ「……Zzzz」スヤァ


ゆみ 25000

和 36100

智美 9300

京太郎 29600


257: 2015/01/12(月) 21:55:03.71 ID:EyBLiPLYo

【南二局 和の親】

 京太郎の和了により、ざわめき立つ部室
 不可能と思われた京太郎の和直撃

 誰もがその偉業に驚き、騒然としている
 僅か2600とはいえその功績は大きい

京太郎「さて、やるか」ジャラジャラ

 そんな空気を意にも介さぬといった様子の京太郎が牌を落としていく
 しかし、そこで思わぬ場所から物言いの声が上がった

桃子「待つっす!!」バァーン

ゆみ「モモ? どうかしたか?」

桃子「……牌の交換をするっす」

京太郎「へぇ……」

智美「んー? どういうことだ?」ワハハ

桃子「さっきから後ろで見てるっすけど、須賀京太郎の打ち筋が何かおかしいっすよ!」 ビシッ

 ざわ……   
   ざわ……

睦月「何!? まさか、須賀君がイカサマしてるとでも!?」ゴゴゴゴゴッ

桃子「い、いや……えと、その」ガクガク

佳織「」ビクビク

ゆみ「まぁ落ち着け津山。モモの言うことにも一理ある」

京太郎「……」

ゆみ「先ほどの4s切りといい、東場での回避といい。いささか神がかり的に思える」

京太郎「それは、相手が和だからですよ」チラッ

和「っ!!」ガタッ

ゆみ「落ち着け原村。だが須賀君、そう言い切れるということは牌は別に変えてもいいだろう?」

京太郎「ええ、いいっすよ。何も変わらないと思いますけど」

和「……」ギリッ

智美「よし。確か新品の牌がロッカーにあったハズだぞー」ワハハ

 ガヤガヤ

京太郎「……」

 こうして、南二局より新品の牌を使用することとなる
 キズ一つなく、ガンパイすることなど確実に不可能

桃子「これでよし!」

睦月「須賀君がイカサマなんかするハズない……うむ、絶対に」メラメラ

桃子「あ、あくまで保険っすよ、保険」ビクビク

 だが、本音を言えば少し違う

桃子「(あの荷物持ちが、こんなに強いハズ無いっす!)」

 自分を難なく抑え、全国でも大活躍だった原村和
 一方的なライバル意識さえ多少なりとも持っている相手だ
 それを――雑用しかしてこなかった男
 ”男”が原村和を上回っているなどと、絶対に認めたくない

桃子「(むっちゃん先輩には悪いすけど、どうせこいつはイカサマしてたっすよ)」フフン

 だがそれもこれで終わり
 新牌になった以上ガンも出来ず、小細工などしようものなら後ろから止めに入ればいい

258: 2015/01/12(月) 21:55:45.88 ID:EyBLiPLYo


京太郎「……じゃあ、続けようか」

和「ええ、では」チャッ

桃子「(そのメッキ、外してみせろっす!)」
 
 桃子の京太郎に対する認識
 麻雀もできないくせに、女子目当てで入部してるようなふしだらな”男”

 それはきっと概ね正しい

京太郎「……」タンッ

 だがほんの数分後

和「……」グッ

 その認識がそのままそっくり裏返ることになるとは――誰が予想しえただろうか


【南二局】


和「……」タンッ

 原村和は今、軽い混乱の最中にいた
 対局を俯瞰で感じながら、牌効率と相手の捨て牌によって最良の手を切っていく

 それが自分のスタイル
 完成されたデジタルの打ち方だと自負していた

 
 八巡目――


ゆみ「……」タンッ 4s

和「……(鳴けますね――でも)」チラッ つツモ

京太郎「……」ジィーッ

【和の手牌】

 3888p 23455m 3567s

 先程は鳴いた為に手を読まれた
 ここは面前での最良の手を作る

和「(そうすればアナタは捨て牌から私の手を予想するしかない)」タンッ

 南

 そう、それこそが完全無欠のデジタル
 得られる情報から、予想し限りなく正解に近づける打ち方

和「(須賀君、アナタにそれができますか?)」  


260: 2015/01/12(月) 21:56:22.08 ID:EyBLiPLYo


京太郎「……フフ」

ゆみ「?」

京太郎「なるほど、考えてるな和」

和「……さぁ? なんのことでしょう」

京太郎「素晴らしい”理”だよ。関心するぜ、本当に」

和「……」

ゆみ「須賀君、無駄な私語はやめるんだ」

京太郎「すみません、じゃあ俺の番っすね」チャッ

 タンッ

桃子「……」ジッ

 京太郎は静かに微笑む
 その打ち筋には微塵も迷いは感じられない

和「……」グッ

 そして迎えた十巡目――

【和の手牌】ツモ4p

3999p 23455m 3567s

和「(3s切りで聴牌ですね)」チラッ

 京太郎の河を見る
 相変わらず読みづらい、デタラメな河だ

和「(恐らく七対子。ですが、この牌で待ちますか?)」

 3s切りで聴牌である
 これを逃す手は無い

和「通ればリーチ!」つ3s

 カランッ

京太郎「……ふふ、それが出るか」

和「えっ……?」

京太郎「御無礼、ロンだ」バラッ


【京太郎の和了】ドラ4m 赤5m

3s 5577p 334455m 中中
 

京太郎「またまた、満貫頂き!」ニカッ

和「……」ヘナッ

ゆみ「(なんだこれは――!?)」

智美「(偶然じゃ……ない!?)」


261: 2015/01/12(月) 21:57:02.22 ID:EyBLiPLYo



 ざわ……
   ざわ……

和「……」
 
 これで京太郎の逆転トップである
 ここにいる誰ひとりとして予想しえなかった状況

 誰もが困惑し、動揺を隠せない中――

桃子「い、異議ありっす!!」

 すばやく我に帰った桃子が割って入る

京太郎「……なんだ?」

桃子「さっきから後ろで見ていたっすけど、今の和了には不自然なところが……」

睦月「無い」キッパリ

桃子「い、いや!」アセアセ

 ざわ……
   ざわ……

ゆみ「モモ、どういうことだ?」

桃子「その男、聴牌してからずっと3sを待ちにしていたっす!」

京太郎「それが何か問題なのか?」

桃子「問題って……だって、待ちを変えることはいつでも出来たハズ!」

 そう、3sだなんてものよりもっと出そうな待ちはいくらでも出来た
 場に一枚出ている中や北……などなど
 少なくとも3sよりは出やすい待ちがあった筈なのだ

桃子「なのに、どうして……?」

京太郎「どうしてって、和が3sを持ってるからだよ」

和「!!」ガタンッ!

 と、ここでとうとう和に限界が来る

 京太郎の度重なる挑発、言動に冷静さを取り繕っていたが
 流石にここまで言われて黙っているわけにもいかない

和「説明してください! どうして分かったんですか!?」

京太郎「えー? 残り二局もあるのに?」

 そう、仮にトリックがあるにしても
 それを教えてしまえば次からは利用できない

 教えるとしても終局後――そう考えるのが普通だ


263: 2015/01/12(月) 21:57:29.10 ID:EyBLiPLYo



ゆみ「気持ちは分かるが、それは直感や能力の類ではないのだろう?」

京太郎「いや、まぁ――」

和「そんなオカルトありえません。何か仕掛けがある筈です」キッパリ

京太郎「んんー、まぁそうなんだけどさ」ポリポリ

和「でなければ、私が――須賀君なんかにっ!」ワナワナ

京太郎「……」


睦月「あー、怒らせたねー。うむ、私の事本気で怒らせちゃったよ……」オープンアップ

佳織「あ、あわわわっ……」


京太郎「あーもう、分かった。分かったよ」オテアゲ

和「!」

京太郎「種明かししてやるから、そう怒るなよ和」ニッ

和「……」キッ

京太郎「可愛い顔が台無しだぜ、な?」ニコニコ


睦月「うっ、ひぐっ……ぐすっ……」ポロポロッ

桃子「(はやっ!?)」ビクッ


和「やめてください。虫唾が走ります」ギロッ


睦月「……あ?」スクリュー ブリザート!

佳織「」ガタガタブルブル


ゆみ「では一時中断し、須賀君の話を聞こうか」

京太郎「とは言っても、大した仕掛けじゃないですけどね」ポリポリ

 そして京太郎は卓の上の牌を集めて説明を始める
 須賀京太郎の”理”

 それは、恐るべき異端の策の上に成り立っていた



ゆみ 25000

和 28100

智美 9300

京太郎 37600


265: 2015/01/12(月) 21:58:11.75 ID:EyBLiPLYo
 
京太郎「まず一局目から順を追って説明します」

ゆみ「ああ、頼む」

京太郎「まず東一局、俺はいきなりベタオリを見せましたね」

 そう、和の現物ばかり差込み
 まるで和了る気配を見せない闘い

京太郎「みんなにはそう映ったかもしれないけど、アレは俺なりの闘いだった」

智美「俺なりの闘い……?」

京太郎「……俺はある【方法】で和の牌の傾向が大体分かっていたんです」

和「やっぱりイカサマを……!」

ゆみ「まぁ待つんだ。最後まで聞こう」

智美「それで?」ワハハ

京太郎「ですが、実戦でそれを試したことがない。だから、それが通用するか確かめたんです」

桃子「つまり、ベタオリしながら様子見――?」

京太郎「ああ。それで和がリーチした時に、俺はそれを試した」

 和の手牌を理解しているなら、放銃を避けることは容易い
 その結果が――あの時の危険牌打ち

京太郎「結果として大成功。それは通り、俺は確証を得ました」

ゆみ「なるほど――その後の現物切りは目的達成の証というわけか」

京太郎「それもありましたし、和にとっては意味不明な打ち方をすることも目的でした」

和「!!」

京太郎「混乱したろ?」ニカッ

和「っ~~!!」ギリギリッ

桃子「(おっOいさんの目が血走って怖いっす……)」ビクビク

京太郎「和がツモった後のアホ発言も、まぁ……和のペースを乱す為です」

ゆみ「結果としては、更に本気にさせてしまったようだが……」

京太郎「いえ、そんなことありませんよ」

ゆみ「何?」

京太郎「あの挑発のお陰で、和は自分でも気づかない程に動揺してました」

和「そんなことっ!!」

京太郎「してたさ。だからこそ俺はあの東二局で勝負に出た」

 七対子での7s待ち
 ドラを切っての、予想を裏切る攻撃

京太郎「ドラなんてどうでもよく、最初から俺は和の7sを狙ってたんだ」

和「……」

ゆみ「確かに、7sが分かっているのならあの打ち方にも納得が行く」

智美「その後のアホな振る舞いは演技かー?」

京太郎「お恥ずかしながら」ポリポリ

桃子「(こ、コイツ……!?)」

ゆみ「そして続く東三局は私の和了だったが?」

京太郎「東場で和了を重ねても、俺が警戒されちゃまずいので……それでちょっと」


266: 2015/01/12(月) 21:59:00.43 ID:EyBLiPLYo


 今は格下と侮られている(事実その通りなのだが)京太郎が
 もしも東場で荒稼ぎしたらどうなるか?

京太郎「和を油断させたまま、混乱だけを積み重ねたかった」

 その為に自分はのらりくらりと和を躱し、
 逆にゆみに和了を譲ることでその場を凌いだ

ゆみ「だが東四局では原村に譲っていたな?」

京太郎「あれは出来れば蒲原さんか加治木さんに和了って欲しかったんですけどね」アハハ

智美「申し訳ないぞー」ワハハ

桃子「そこは別に謝るとこじゃないっすよ」

京太郎「でも、それで東場で俺から直撃を取れなかったという事実を和に突き付けた」

ゆみ「直撃を?」

京太郎「和のスタイルは別に狙い打つようなスタイルじゃありません。でも――」

 その東場が終わった後に京太郎が見せた挑発
 それは――自分が和から直撃を取るというもの

京太郎「これで和は相当動揺した筈だ。俺からの直撃なんてとんでもないって」

和「……」

京太郎「本人は気丈に振舞って打っているつもりでも、どこか俺を意識してしまう」

和「してませんっ!!」

睦月「そうだそうだ!!」

京太郎「えーっと? それでまぁ、和はいささか保守的な動きにならざるを得ない」

 それは普段の和のデジタル計算機の――僅か1%を狂わせたにすぎない
 だがその1%にこそ、勝機がある

京太郎「それで迎えた南一局。和が染めている気配を見せた瞬間――計画はスタート」

ゆみ「……」

京太郎「まずは和の和了牌が5sだと予想した俺はまず4sを切り――」

和「だからそんなことは不可能だとっ!」ガタッ!

桃子「お、落ち着くっすよ!」アセアセ

京太郎「……はぁ、分かった」オテアゲ

和「えっ?」

京太郎「最後まで引っ張ろうと思ったけど、そこまで言うなら先に教えるよ」

和「……お願いします」

京太郎「じゃあ、あの時の和の鳴きの形はこうだろ?」


【和の鳴き】
 678s 111s 222s

【和の捨て牌】
 5m、2p、72m、59p、3s、西、1p


268: 2015/01/12(月) 21:59:36.78 ID:EyBLiPLYo

ゆみ「ああ、間違いない」

京太郎「この鳴きを完成させる前に和は一度、蒲原先輩の4sに反応しています」

智美「ああ、覚えてるぞ。正直ヒヤヒヤしたけどなー」ワハハ

京太郎「この時4sは俺が一枚、場に一枚、そして蒲原さんの切った一枚が見えていました」

ゆみ「つまりポンではなく、チー」

京太郎「234s、345のチーは俺が3sを三枚、和が一枚切ってるからありえない」

智美「考えられるのは――56sのチーだな」

京太郎「その後和はある牌”X”をツモって9sを切った」

和「……」

京太郎「つまり、Xをツモる前の和の牌の形はこうなります」カチャカチャ

 569s X

京太郎「Xの牌が何か、可能性は四つ」

 6s 7s 8s 9s  

京太郎「まず9sの場合、この形なら蒲原先輩の4sで和了だ。見逃す必要が無い」

桃子「9sじゃないってことっすね」

京太郎「次に6sの場合ですけど、これも不自然なことがある」

ゆみ「6s切りの数巡前に確か、3sを切っていたな」

京太郎「そのとおり。もし3sなら和はその時点で35669sとなるから、切るなら普通は9s」

 この局面で聴牌を崩す必要性など皆無だからだ

京太郎「なら次は7sだけど、5679sならさっきの4s鳴きの反応が不可解になる」

智美「単騎待ちの上に、ツモによっては両面待ちにできるからなー」ワハハ

京太郎「そうなると残るは――5689s。つまりXの正体は8sで決まるってわけだ」

和「……」ワナワナ

京太郎「和、俺の考え……間違ってるか?」

和「いえ、ここまでは正解です」

 ざわ……
   ざわ……

睦月「うむ、かっこいい……//」フラフラバターン

 ギャー! マタキゼツシター!?
 マタカ!? ウワァァアンン!

ゆみ「(な、なんて奴だ……!?)」

 まるで非の打ち所のない的確な推理
 恐ろしい程までに研ぎ澄まされた”理”の打ち方

智美「凄いな、普通にデジタルも打てるんじゃないかー?」ワハハ

京太郎「あはは、【師匠】がいいんですよ。【師匠】が」

和「で、ですがっ!」ダンッ

京太郎「ん?」

和「そこまでは認めます。しかし、5689sからの9s切りは二通りある筈ですよ」

智美「確かに7sをツモっての5678sか、8sをツモっての5688sと二通りあるな」ワハハ

 7sをツモっていれば58sが待ちとなり、8sをツモっていれば47sが待ちとなる

和「これでどうやって7sか8sか特定できるんですか!?」

269: 2015/01/12(月) 22:00:07.87 ID:EyBLiPLYo


和「これでどうやって7sか8sか特定できるんですか!?」

 そうだ
 これが特定できない以上、4s切りは50%の確立で氏亡するギャンブルと同じ

和「結局は運だけで――」

京太郎「いや、違うよ」

和「え?」

京太郎「言っただろ。俺の”理”で勝負するってさ」ニカッ

 京太郎は胸を張って言い切る
 100%の確立で、4sが通ると確信していたと

ゆみ「しかし、どうやって――」

桃子「聞きたいっす」

 その京太郎の自信に――誰もがその種に関心を寄せていた
 先ほどまで、意味不明な素人と思っていた人間の”理”

 この場はもう、京太郎に対する興味のみが渦巻いている

京太郎「と、その前に――一つ、いいですか?」

和「……?」

ゆみ「……なんだ?」

 突如、解説を遮り――視線を上げる京太郎
 その先にいるのは……原村和

京太郎「……俺は、麻雀部に入部してからほとんど打たずに雑用ばかりで過ごしました」

和「っ……」 ズキッ

ゆみ「ああ、知っている」

京太郎「俺には優希みたいな東場で強くなる力も無いし、部長の悪待ちなんてものもない」

 ただ、弱かった
 なんの力も持たず、なんの成果も得られず

京太郎「咲みたいな能力も当然無いし、染谷先輩みたいに豊富な知識があるわけでもなかった」

 暗闇
 弱者に位置づけられた自分に、這い上がる術など何もないと思っていた

京太郎「正直、何度もやめようと思ったし……辛い日々だった」

和「……」ブルブル

京太郎「でもな和。お前なんだ」

和「……わた、し?」

京太郎「お前が俺に、光をくれたんだよ」

 オカルトに負けず、自分の打ち方に自信を持ち
 誰が相手でも効率を重視した完璧なデジタルをやり遂げる


271: 2015/01/12(月) 22:01:00.17 ID:EyBLiPLYo

 オカルトに負けず、自分の打ち方に自信を持ち
 誰が相手でも効率を重視した完璧なデジタルをやり遂げる

京太郎「だから俺は――ずっとお前に憧れてた」

和「私に、須賀君が……?」

京太郎「その日から俺、家でも部活でも、ずっとお前の打ち方を真似してたんだよ」
 
 当然、そんなに甘いわけでもなく
 勝率なんて少なく――ネトマでも負け越すことの方が多かった

京太郎「お前のビデオを見て、過去の牌譜も暗記して――ずっと幻影のお前を追っかけてた」

和「そこまで――」

京太郎「勿論、和みたいに凄い計算ができるわけじゃないから――弱いままだったけどさ」

桃子「(さっきの理詰めでも十分凄いっすけど……確かにおっOいさんには劣るっすね)」

京太郎「それで、ある日気づいたんだ」

ゆみ「気づいた……?」

京太郎「和の打つ時のクセ、ツモり方が――目に焼き付いて離れないってことに」

和「!!」ドクンッ

京太郎「そんな俺からしたら――7sツモか8sツモかなんてハッキリ分かる」

ゆみ「どうやって……?」

京太郎「無意識だったんでしょうね。和の奴――ツモった牌をひっくり返したんです」

一同「!!?」

京太郎「5689sは上下対称。ひっくり返す必要なんて無い」

 つまり――あの時に和が引いた牌
 それは確実に7s

京太郎「だから俺は5678sでの待ち、58sが和了牌だと分かったんだ」

和「……じゃ、じゃあ!」

京太郎「ああ。今までの局でお前の手が分かったのもほとんどはこれ」

 配牌時に――ツモった時に
 整理し、回転させ、位置を整える

京太郎「俺はお前がどういう傾向で並べてるのかよーく知ってんだ」ニッ

和「そ、そんな――」

 これが須賀京太郎の”理”
 デジタルでは和に及ばないものの、その場の空気――対戦相手の気配を察知し
 
 相手の手牌を予想する
 それは――和のデジタルよりも、恐らく精度の高いもの

ゆみ「(原村限定とはいえ――なんて男だ!?)」

桃子「(勝負への覚悟、執念がまるで違う……)」ゾクゾクッ 

和「どう、して……?」ジワッ

京太郎「……」

和「す、須賀君は……悪い、男の人、なのにぃ……どう、じで……」ポロポロッ

 和は戸惑っていた
 目の前の男は自分にいやらしい視線を寄せ、挙句に胸を賭けに要求するような男
 他の男――あのクラスの男子達となんら変わらない存在、そのハズだった

 なのに、どういうことだ? 
 雑用をしながらヘラヘラ鼻の下を伸ばしていたと思っていた彼が、陰でこんなにも努力していた
 自分に憧れてデジタルの道を学び、ここまで成長していた
 こんなにもまっすぐな瞳で、麻雀に向き合っているではないか 

273: 2015/01/12(月) 22:02:08.89 ID:EyBLiPLYo


和「わ、わたっ……私……」ブルブル
 
京太郎「俺さ、ずっと好きだったんだ」

和「ふぇっ?」

 しんと静まり返る部室
 京太郎が発した言葉――その一言が周囲の雑音を消し去ったのだ

京太郎「和――」

和「須賀……くん?」 

京太郎「俺は確かに、スケベで弱虫で――麻雀も弱い、役立たずだ」

和「……」

京太郎「お前の事を性的な目で見てたし、正直――何回オカズにしたか分からねーくらいだよ」

和「っ!!」ゾクッ

 やっぱり、同じなのだろうか?
 あのいやらしい人達と、須賀京太郎も――

 そう、和が思った時である

京太郎「でも、でもな……」

 それは――
 和が一度も見たことがないような優しい笑顔

 嘘偽りの無い、穢れなき光

 
京太郎「和。俺は一度だってお前を”身体だけで”見たことなんかねぇよ」

和「……!」

275: 2015/01/12(月) 22:03:29.12 ID:EyBLiPLYo


京太郎「可愛くて、おっOい大きくて、それでいて堅物なくせに、仲間想いで――」

和「……」ツーッ

 言葉にすればいくらでも出てくる
 須賀京太郎が好きな、原村和という少女の特徴

京太郎「なんかいい匂いして、少女趣味で、俺の麻雀の手本になってくれて――」

 京太郎はなおも、続ける
 無理やりのようなものも、長所と言えないようなものもひっくるめて

 次々と、和にその言葉をかけていく
 
京太郎「他にもえーっと、うん。まぁたくさんあっけどさ。一つ言わせてくれ」

 彼の他に、誰も言葉を発しない
 ただその行く末を見届けたいと――誰もが思った

京太郎「誰が、お前の”身体”だけに惚れるかってんだ!」

和「っ!」ドクンッ

京太郎「俺はな、お前の全てをひっくるめて好きなんだよ!」

和「!!」ドクンッドクンッ

京太郎「勝手に値打ち下げてんじゃねぇ!」プイッ

和「あ、うぁっ……//」カァァア

 超が付くほどのどストレートな言葉
 それは、なんの打算も無い――ただただシンプルな想いの叫び

京太郎「……」チラッ

ゆみ「……//」モジモジ

智美「わ、ワハハ……//」テレテレ

佳織「はぅ……//」ドキドキ

桃子「……//」ポーッ

睦月「Zzzz……」スヤァ

アカギ「……」ソワソワ

 この時アカギ、意外に純情


276: 2015/01/12(月) 22:04:19.70 ID:EyBLiPLYo


和「え、えっと……// そのっ……//」モジモジ

 突然の愛の告白に戸惑う和
 今までに数多くの告白を受けてきた百戦錬磨の和だが、
 こんな情熱的な告白は初めてなのだから無理もない

和「~~~っ!」ギュゥゥゥ

エトペン「」ブチブチブチィィィィィィィッ!!

 あまりの興奮と衝撃からか、思わずエトペンを握りつぶす和
 中身出そうになってる? 知らんな

京太郎「……とまぁ、こういう感じで和の手牌の一部は分かってました」ポリポリ

 と、一方の京太郎はいささか罰の悪そうな顔で話を戻す
 そりゃこれだけの人数を前にして告白まがいをしたのだから当然だ

ゆみ「あ、ああ。分かった、痛いほど理解したよ」ニヤニヤ

智美「あぁー、愛のなせる技だぞー」ワハハ

佳織「(あぅぅ、気絶していて助かったよぉ)」ホッ

睦月「うむ……」スピー

桃子「(あれ、どうしてっすかね。なんだか胸が……)」バクバク

京太郎「後は約束の直撃を取る為に、5mの赤を見逃しました」

 あの状況で智美、ゆみが降りることはなんとなく予想できた
 となると引っかかるのは強気で勝負してくる和くらいだろう

ゆみ「南二局の3s待ちは?」

 狙いすましたように和の3sを七対子で待った
 ただ牌を予想できても、必ず切る保証など無いハズだ

京太郎「ああ、それも原理は同じです」

ゆみ「というと?」

京太郎「和は早くに、加治木先輩の4sで鳴こうか悩んだんですよ」

和「!?」

智美「?? そんな気配あったかー?」

ゆみ「いや、私は感じなかったが」

和「そうです。あの時は慎重に行動していたので、分かるハズがありません」

 そう言い切る和
 しかし京太郎は首を横に振って否定する

京太郎「ツモる時の指だよ」

和「指……?」

京太郎「和の牌をツモる動作はすごく綺麗だ。毎回ブレなくまっすぐに牌の中心を掴んでる」

ゆみ「そう言われると確かにそうかもしれないが、だからどうした?」

京太郎「その時は和の奴、鳴こうか悩んだ4sに視線を送っていたんで手がずれたんですよ」

一同「???」

京太郎「つまり、よそ見しながら牌をツモろうとして、いつもより左に流れた部分を掴んだんです」


 ○=指  ●=牌
   
 ○○       ○○
 ●●  →   ●●
  ○        ○

和「そ、そんなっ!?」

278: 2015/01/12(月) 22:04:57.38 ID:EyBLiPLYo


京太郎「他家の河から察するのに4sポンじゃない。となると3567sの牌形が分かる」

 つまり、そこの牌溢れとなりえる3sを狙った
 その為に待ちを変えやすい七対子に絞って

ゆみ「し、しかし……そんな小さなこと!」

京太郎「だから、言ってるだろ」

和「……」ドキドキ

京太郎「俺は、ちゃんと”和”を見てる」ジッ

和「ぅぁっ、ぁぁ……//」ドキドキドキドキ

 顔が熱い
 心臓が早鐘のように鳴り響いている

 平常心を保てない
 顔がにやけそうになるのを、必氏にこらえていなければならない

和「(私、どうして……?)」

 分からない
 この気持ちがなんなのか?

 考えれば考える程
 目の前にいる須賀京太郎を見つめれば見つめるだけ――動悸は激しさを増していく

ゆみ「なるほど……それが君の”理”ということか」タラッ

京太郎「納得して頂けましたか?」ニッコリ

ゆみ「ああ。正直言うと言葉が出ないよ」

 今まで彼女達の京太郎への評価など、ただの荷物持ちでしかなかった
 大会ではいいとこ無しだと聞いていたし、それは変えようのない事実である

京太郎「……」

ゆみ「(何がきっかけで化けたのか分からないが――この男!?)」 ゾクッ

智美「(精密なデジタルをベースに、ラフプレイに心得もある)」

桃子「……」ジィー

京太郎「まぁ、対策するのには観察が必要だし。和以外にはそうそう通用しませんけどね」アハハ

 この間の竹井久達との対戦でもそうであった
 久はラフプレイに慣れているし、まこは京太郎よりも技術が上
 優希は沈黙していたが、最初の東場で暴走されていたら手遅れであっただろう 

 つまり、最初からまともにやりあって勝てる相手は和くらいなもの

京太郎「だけど――和にだけは負けない自信があった」

和「はぁっ……はぁっ……//」ギュッ

 須賀京太郎の”理”は和の”理”を制す
 それは同時に和の中の何かを変えるキッカケとなる


279: 2015/01/12(月) 22:05:38.48 ID:EyBLiPLYo

ゆみ「しかし、困ったな」

 正直言うと、ゆみも含めてここにいるほとんどが京太郎のイカサマを確信していた
 だが実際はそうでなく京太郎は確かな対策を持って和に挑んでいたのだ

智美「ああ、これじゃあ残りの二局……京太郎君が不利だなー」ワハハ

 種を明かされた手品ほどつまらないものはない
 あの原村和に、同じ手はもう通用しないだろう
  
京太郎「まぁ、約束した以上。最後まで俺の理で挑みますよ」

 例え勝算が薄いと分かっていても
 それでもいい

京太郎「俺は和に認めて欲しかった。こんな”シセン”もあるってこと」

和「あっ……」ハッ

京太郎「だから、もう勝ち負けなんてどうでもいい」ニカッ

和「須賀君、まさか……?」 

 そして和は気付く
 あのまとわりつくような視線への嫌悪感

 それがもう綺麗さっぱり消え去っている

和「(まさか、あんな賭けを持ち出したのも?)」

 胸を賭けた闘い
 和の中で京太郎の評価は最低値にまで落ちていたが――今ではむしろその逆

 もしかすると京太郎は、身を持って教えようとしたのでないだろうか

京太郎「男はみんなスケベなもんさ。そりゃ中にはマジでろくでもない奴もいるけど、でも……」

和「……須賀君」ドクン

京太郎「お前が魅力的過ぎるのも悪いんだぜ?」ハハハ

和「……フフ。そう、ですね」クスッ

 笑った
 原村和が――ついに笑みを見せた

京太郎「(ああ、これでいい)」

 須賀京太郎は最初から、勝つつもりは無かった
 この闘いの中で和に道を示し――その抱えている闇を照らしてあげられれば、それで

京太郎「……じゃあ、残り二局。打つか」

 もっとも、勝機の見えない戦いである

 京太郎が”理”で戦う限りの話だが

和「待ってください」

京太郎「ん?」

和「この勝負は私の負けです」

ゆみ「何?」

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「和、お前?」

 突然、負けを認める和に一同が騒然とする

和「私の理は須賀君の理に負けました。それは代わりのない事実」

 最初に取り決めた約束
 和はそれに破れた、挙句にその弱点を指摘してもらう始末

和「ですから、私の負けです」

280: 2015/01/12(月) 22:06:28.00 ID:EyBLiPLYo


京太郎「和、お前はそれでいいのか?」

 京太郎からしてみれば、和がここで敗北を認める意図が分からない
 いくら意地があるとはいえ、負ければ胸一つを賭けると言っている勝負だ

和「……はい」コクッ

 迷いの無い瞳で京太郎を見る和
 だが逆に、京太郎が首を振って否定する

京太郎「それはダメだ、和」フリフリ

和「!? どうしてですか!?」

京太郎「俺が認めない。勝っていない勝負の景品なんか、なんの価値にもなりゃしねぇ」

和「須賀君……」ギュッ

京太郎「だから俺は続けるぞ」チャッ

 勝ちの目があるから勝負するんじゃない
 勝ちたいから勝負をする

京太郎「……」

和「……分かり、ました。ですが須賀君、お願いがあります」

京太郎「なんだ?」

和「須賀君には――何か、不思議な力のような、オカルトめいた物が……ありますよね?」

一同「!?」

和「残り二局――須賀君、本来のスタイルで打って貰えませんか?」

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「和、お前……?」

和「須賀君が藤田プロを倒したのは、恐らくこの方法じゃありませんよね?」

京太郎「……ああ」

和「お願いします。それなら、まだ勝負は分かりませんから」

京太郎「でも、それは……!」

 京太郎本人の実力ではない
 あの【神域】の男の知恵を借りた――偽りの闘牌だ


281: 2015/01/12(月) 22:07:02.98 ID:EyBLiPLYo

 京太郎本人の実力ではない
 あの【神域】の男の知恵を借りた――偽りの闘牌だ

京太郎「俺の、力じゃ……」

アカギ「クク……いいじゃねぇか京太郎」スッ

京太郎「(アカギさん!? いたんですね)」ビクッ

 京太郎の悩みを掻き消すように、ゆっくりとアカギが姿を現す
 その顔はどこか誇らしげである

アカギ「京太郎。お前は明らかにこの女を上回った、それは事実だ」

京太郎「(でも、今はもう違います)」

 京太郎の指摘で和は以前のような隙は見せなくなるだろう
 かといって全力で挑んでも地力の差で敵わない

アカギ「……お前が逆なら、どうだ?」

京太郎「!!」

アカギ「女の意地、通してやれねぇような男じゃあんめぇ」ニッ

京太郎「はは、本当にお爺ちゃんみたいだ」ボソッ

アカギ「フフ……」

京太郎「(でも、お陰で目が覚めた)」

 和が望むなら、自分の持てる最大の力で戦うしかない
 それが例え――

アカギ「退屈してたところだ。さぁ、やるぞ」

 悪魔の力でも

京太郎「分かった……やるぞ、和」

和「……須賀君!」パァァッ

ゆみ「話はまとまったようだな」

智美「じゃあ、続けるぞー」ワハハ

桃子「……須賀、京太郎。須賀京太郎、須賀京太郎……」ジッ

佳織「ど、どうなっちゃうんだろう?」ドキドキ

睦月「う、うぅむ……」スヤァ

  
京太郎「和……」

和「はい」

京太郎「これから打つのは……俺であって俺じゃない」

和「……」


 和はその言葉の意味がよく分からなかった
 だけど、その時和にはハッキリと見えた


282: 2015/01/12(月) 22:08:02.61 ID:EyBLiPLYo

アカギ「……」ニヤリ

京太郎「……」

和「(そう、それが須賀君の――)」

 一瞬の出来事
 瞬きをする間に消えてしまったけれど、和にはそれで十分だった

京太郎「それでも、許してくれるか?」

和「ええ、勿論」ニコッ

 そこからの勝負は――
 およそ、現実とは思えない程の闘いであった

京太郎「……」


 その打ち筋は独特で、誰も真似が出来ない


アカギ「クク……的が外れてやがる」

ゆみ「そんな……!?」

智美「こ、こんな打ち方――!」

和「ああ……須賀君。これが、これがアナタの――目指してる道なんですね」


 まぎれもなく天性の博才


京太郎「和……その牌だ」

和「……私の、負け。ですね」


 鶴賀学園で行われた須賀京太郎と原村和の意地を賭けた対決
 その結果は――須賀京太郎の勝利

 終わってしまえば、圧倒的な点差である


284: 2015/01/12(月) 22:09:11.34 ID:EyBLiPLYo


ゆみ「ああ、しかと見届けた」

智美「ワハハ、強かったなー」

桃子「須賀京太郎……///」ポーッ

睦月「う、うぅーむ」

佳織「あれ? 待ちを変えて? あれ? あれれ?」チンプンカンプン

 
 須賀京太郎の勝利を見届け、それぞれ思うところがあるようだ
 ある者は恐れ、ある者が感心し、ある者は憧れを抱いた

 だが、それでも京太郎は満たされない
 
 なぜならこれは――自分一人で掴んだ勝利じゃないから


京太郎「……それじゃあ、俺。帰ります」ガタッ

 スタスタ

和「待ってください、須賀君!」

 ガチャッ バタンッ

和「っ!!」タタッ



【帰り道】


京太郎「……」

 タッタッタッタッタッ!

和「須賀君!!」ザッ

 ピタッ

京太郎「……和」

和「はぁ、はぁっ……ま、まだ。終わっていません」ゼーゼー

京太郎「……」

和「しょ、賞品を――渡して、いないじゃないですか」カァァ

京太郎「賞品?」

 それは――原村和の胸
 はっぱをかける為だけに持ちかけた条件である

285: 2015/01/12(月) 22:09:59.30 ID:EyBLiPLYo

和「……その、須賀君になら……//」モジッ

京太郎「……悪い、和」

和「えっ?」

京太郎「今の俺には、それを受け取る資格がない」

アカギ「……」

和「で、でも!」

京太郎「それは好きにしてくれ。だけど、たった一つ望むならこれかれはもっと自信持てよ」 

和「……そ、そんな!」

京太郎「……」クルッ

 そのまま踵を返して去ろうとする京太郎
 だが、和はなぜか引き止めていた

和「行かないでくださいっ!」

京太郎「……」

和「わ、わた……私は!」

 ここで引き止めないと、手遅れになるような気がした
 もう二度と――以前の須賀京太郎には会えなくなる

 そんな――予感

和「私はアナタが好きです!!」

京太郎「……っ!」

和「だから、だから――お願い、します」ポロッ

京太郎「……」

和「胸でも、どこでも……好きにして、いいですからっ」ポロポロ

京太郎「……和」


 京太郎は振り向かない
 その顔を見せないのは、一体どういう意図なのか?

287: 2015/01/12(月) 22:11:03.26 ID:EyBLiPLYo

 ただ一つ、分かっていること
 それは……


京太郎「敗者に、そんな資格は無いだろ」

和「っ!!」

京太郎「俺が欲しけりゃ、いつでも勝負してやるよ」

和「勝負……?」

京太郎「お前が勝てば、好きにしていい」ザッ


 歩き出す
 これまでの甘えを捨て去るように――強くなる為に


 好きな人すらも、犠牲にして


京太郎「俺は今よりも、もっと強くなる」

 大会で強者と闘い、喰らい
 自分の強さの糧として――いつかはあの男を越える

 それが、須賀京太郎の目標だから


和「だったら……私も、強くなります!」


京太郎「……」


和「だから、待っていてください! 必ず、須賀君を手に入れてみせますから!」


 それは本心からの叫び

 ”完璧”である原村和に唯一欠けるもの――


和「私は……! 私は須賀君を追いかけます!」


 愛を、手に入れた瞬間だった

 
京太郎「……」スタスタ


288: 2015/01/12(月) 22:17:35.35 ID:EyBLiPLYo


~~~~~


アカギ「クク……よかったのか?」

京太郎「……んー? 何がですか?」

アカギ「惚れてたんだろ、アイツに」

京太郎「ええ、まぁ。それなりに」ポリポリ

アカギ「ふーん……。折角の童Oを捨てるチャンスを不意にしたってわけだ」

京太郎「それは……うん。もういいです」

アカギ「あらら……」

 一人の少年と、一人の幽霊は歩く
 夕日が落ち、朝と夜の狭間の影の中で――

京太郎「ヤるときゃ自前でやりますよ。酒と女は自前って言うじゃないですか?」

アカギ「フフ……分かってきたな」


 今日も、明日も
 これからも――

 二人は共に歩いていく


京太郎「しっかし、今日の闘牌。あれどうやったんですか?」

アカギ「お前にはまだ早い」

京太郎「チャンタって言うんでしたよね。あれかっこいいですよ!」


 いつか、お互いに戦うことになるその日まで
 どちらかが、本物の【無頼】となるその時まで


京太郎「ところで字牌を逆さまにしろって指示……あれチャンタの合図?」

アカギ「当たり前だバカ。気づくのが遅い」ハァ

京太郎「うぅ、ちくしょー」


 須賀京太郎と赤木しげる
 二人の男は、運命的な出会いの中でともに戦いに身を投じていく

 次の相手は――仮か、本物か


京太郎「あぁ……強くなりてぇーなー」

アカギ「ククク……」


 いずれにせよこの二人


京太郎「でもなにより、勝負がしたい!」グッ

アカギ「ああ、それでいい」ニヤッ


 向かうところ、敵無しである



291: 2015/01/12(月) 22:28:34.41 ID:EyBLiPLYo


【次回予告】

 須賀京太郎と原村和の意地を賭けた闘牌は、須賀京太郎が勝利を納めた

 しかし――
 それを不服とする者がいる

男子A「テメェをぶっ頃してやる」

京太郎「へぇ……」

男子B「調子づいてんじゃねぇぞ!!」

京太郎「……イラつくんだよ、テメェら」
 
 今までと別人のように変わりつつある京太郎

咲「京、ちゃん……?」

アカギ「あらら」

 そして遂に
 大切にしていた絆さえも

京太郎「俺はもう、お前の知っている奴じゃない」

咲「……」

 儚く崩れ去っていくのみ

アカギ「クク、緊張しているのか?」

京太郎「いえ……武者震いですよ」

 男は踏み入れる
 一度入れば二度と引き返さない、闇の奥底へ

智葉「裏の世界へよく来たな」

京太郎「……アナタが相手でしたか、辻垣内さん」

智葉「噂の実力……試させて貰おう」


 次回

――エモノ――


智葉「(なぜだ、なぜ私を無視する――!?)」

京太郎「その牌に当たる価値は無い」

アカギ「フフ」



298: 2015/01/12(月) 22:33:53.18 ID:EyBLiPLYo

 遂に修正が追いついたのこれまで
 ぬわぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉん

 察しの方もいるかと思いますが、オリジナルなんてろくなことにならないので
 これからはアカギや天以外の闘牌もパクって行きます

 主に御無礼さんからの流用が多くなるかもしれませんが
 そこのところはどうかご容赦ください

   

303: 2015/01/12(月) 22:45:25.78 ID:fHooCT9T0

引用: 【咲SS】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【アカギ】