865: ◆6osdZ663So 2014/05/08(木) 08:41:43.35 ID:PN2KpoVko

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



あ、投下します
>>541からのイベントお借りです
お正月過ぎ時系列ですねえ
ではでは投下ー

866: 2014/05/08(木) 08:43:11.56 ID:PN2KpoVko




867: 2014/05/08(木) 08:43:57.84 ID:PN2KpoVko






「た、助けてっ!!助けてくれっ!」

「やめろっ!こっちに来るなっ!」

突如として炎に包まれた駅前広場。

ほんの数分前までは、いつものように平和な時を過ごしていた人々が逃げ惑う。

黒色の蜥蜴が爆裂し、地面から湧き出る怪物が次々と抵抗する術のない人間達を襲う。


「ひぃっ!!放せっ!頼むっ!放してくれ!」

逃げ惑う人々の中の一人が今、一匹の蜥蜴に捕まった。

抵抗し引き離そうとするが、がっちりと得物の手足に爪を食い込ませ尻尾を絡める蜥蜴は少しも怯む様子は無い。

「嫌だぁっ!!嫌だっ!!」

哀れ。こうなれば最後。

蜥蜴の自爆に至近距離で巻き込まれ、数秒後には彼は木っ端微塵であろう。

「助けてぇっ!!誰かっ!!」

喉の奥から振り絞った叫びも、逃げ惑う人々には届かない。

必氏で手を伸ばす彼の手を掴むものなどいるはずがない。

誰だって、巻き添えにはなりたくないのだ。


「捕まって!早く!」

「!」

そんな彼に、誰かを手を差し伸べた。
----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



最悪の状況に一筋の光明、彼はそれに縋る。


次の瞬間、彼の身体は消失した。

868: 2014/05/08(木) 08:44:44.06 ID:PN2KpoVko

『?』


その場所に残されたのは一匹の蜥蜴。

蜥蜴がその爆発に巻き込もうとした人間は、文字通りこの場所から消えてしまったのだ。

―― 一体どこへ消えてしまったのか?

蜥蜴にもし思考する時間があれば、そのように考えたことだろう。

彼が消えて間もなく、蜥蜴の頭上に幾つもの剣が突き刺さる。

黒い頭が拉げて、辺りにその体液を撒き散らし、

その体内で消えた剣とともに、蜥蜴の体は消失したのだった――

869: 2014/05/08(木) 08:45:20.88 ID:PN2KpoVko


――


――



駅前広場を見渡せる、とあるビルの屋上。

その場所に立つ、人影が4つ。

男女混合で並び立つ大人と子供、背格好に共通点はない。

もし一般市民が彼らの姿を見たとしても、

彼らがどのような関係のグループなのか皆目見当もつけられない事だろう。


しかし、その中にいる1人の男の顔を見たならば、おそらくは誰もが驚いたはずだ。



黒いスーツに身を包み、少し癖のある金髪と虚空を見据える様な深緑の瞳が印象的な、

涼やかで整った顔立ち故に実年齢よりも若く見えるその男。


サクライP「ほらね、やはり来てよかっただろう?」

超巨大財閥の頂点に君臨する男がそこには居た。


さて、彼がこの場所に陣取っているのはどうしてか。

眼下で巻き起こる災禍を事前に察知したためだ。

870: 2014/05/08(木) 08:46:14.97 ID:PN2KpoVko

竜面「……よく、この時間この場所で起きる事件の事を勘付けたものだな」

竜面「それとも知っていたのか?」

当然の疑問を傍に控えていた竜面の男が尋ねる。

何しろ彼を含むサクライの私兵『エージェント』は、

この場所がまだ平和な駅前通りであった時から目の前の男に招集されていたのだから。

呼び出しの理由も知らされず来てみれば、起きたのは平和な街並みには似つかわしくない爆破テロ。

あまりのタイミングの良さ。誰もが不思議に思わないはずが無い。

サクライP「いや、知らなかったさ」

竜面の疑問に男はケ口リと答える。

サクライP「未来に何が起きるのか……”本来ならば”誰にもわかるはずがない」

当然、未来の出来事なのだから彼も含めて誰もが知る事などできるはずが無い。

しかし、彼はそこに”本来ならば”と皮肉な言葉を添えた。

その言葉の意味に面を被った男も勘付く。

竜面「ああ……予知能力者でもいたなら話は別だな」

サクライP「そう言うことだね」

871: 2014/05/08(木) 08:47:13.15 ID:PN2KpoVko

竜面「しかしサクライ殿は予知能力者、『アカシックレコードの読み手』を手にするのに随分苦心していたはずだが?」

アカシックレコードの読み手。

未来の情報を――いや、未来だけに留まらず現在、過去、未来すべての情報を読み取ることの出来る限りなく全知に近い存在。

予知能力などと言う次元には収まらない。およそ情報獲得の分野では最高峰たる能力者。

櫻井財閥は彼女の存在を知り、しばらく彼女の取得の為に追っ手を放っていたのだが……

竜面「未来の情報を知ることの出来る能力者を捕まえ従えさせることなど不可能だ。ソレが自ら望まぬ限りな」

結局、アカシックレコードの読み手を捕獲する作戦は失敗に終わり、財閥は手痛い大打撃を受けた過去が残っただけであった。

この場で語る竜面の男もその作戦に参加していたが、彼もまた当時酷い目に合わされた者の1人であった。

サクライP「まあ、神に手を打たれたとあっては……アレに関しての取得は一時、諦めざるをえないさ」

竜面「アレでない……とするのならば一体何を使った?」

予測不可能なこの事件。予知の類の力を使わなければ察知することなどできるはずもない。

しかし、現に男はこの場所に居るのだ。何かしらの未来を知る手段に頼ったのは間違いない。


竜面「アレ以外にも、”未来の情報”を獲得できる者の話を我が輩は聞いていない」

財閥の中に未来の情報を獲得できる能力者が居ると言う話を彼は聞いたことも無い。

いや、もしかすると彼が知らず、サクライPだけが知る『エージェント』の中にはその類の能力者も居るのかもしれないが……


サクライP「なに、カラクリは難しくはないさ」

サクライP「過去多くの支配者達が頼ってきたものに、僕も頼ってみただけのことだよ」

竜面の男の疑問に答えながら、サクライPは懐から1枚の紙切れを取り出した。

竜面「カード……?タロットカードか……!」

そして、その紙切れの正体を知った竜面の男は、サクライPに情報をもたらした者の正体にも気づく。

872: 2014/05/08(木) 08:47:39.88 ID:PN2KpoVko

竜面「まさか、この時代に本物が生き残っていると?それは驚いたな……」

未来を知ることのできる能力者ではなく、

世界の命運を探ることのできる者――『占い師』と呼ばれる存在。

サクライPはその力に頼って、この事件の発生を察知したのであった。

竜面「だが、占い師どもこそ……運命を知らせる相手を慎重に選ぶだろう」

竜面「既に多くの人間の運命をその手に握るサクライ殿を占うとは思えんが……?」

占い師と言う存在は、特に情報を知らせる相手を選ぶ。

運命の行末を探り、それを知らせることは時に運命を捻じ曲げることに繋がる。

その危険性を熟知していればこそ、櫻井のように巨大かつ大きな力を持つ存在に簡単に情報を伝えようとはしないだろう。


サクライP「まあ、そうだね。実際に僕自身が占ってもらった……と言う訳では無いんだ」

サクライP「都合よく運命を変える事ができるのは、運命を知るものと知らされたものの特権だからね」

運命の分岐。選択の権利だけは誰にでもあるが、

その選択の内、少しでも良い方を選ぶことができるのは先の答えを知る事ができたものだけである。


サクライP「けれど、どうだろう?」

サクライP「もし……多くの人間が運命を知って、運命を変えようと動いたならば……」

サクライP「それを観測することは難しくないと思わないかな?」

財閥の頂点、かつて世界を動かすことのできた男が不敵に笑う。

873: 2014/05/08(木) 08:48:05.54 ID:PN2KpoVko

サクライP「この事件は……それこそ多くの人々の運命の分岐点となるだろうね」

サクライP「もし、彼らが運命を知る事ができたならば……どんな行動を取るだろう?」

竜面「……触らぬ神に祟りなし。我輩ならば悪運を避けようとするだろうな」

サクライP「そう。それが最善……なら、実際に知る事ができた者達の行動を監視してさえいれば」

サクライP「この日、この場所で何かが起こることくらいはわかると思わないかい?」

竜面「……なるほど、占いの利用者達の動きを監視していたか」

サクライP「そう言うことさ」

サクライP「彼女は人気の占い師だからね」

サクライP「彼女の店を利用して、この日この場所を避けるように予定を変えた人間は随分と多かったよ」

竜面「悪趣味な事だな」

それが此度、突如として起きた気紛れのような事件に、彼が同盟やGDFよりも先んじて動けた種。

世間で暮らす多くの人々の動きさえ監視して把握する巨大財閥の力を使った裏技であった。


さくら「サクライさんっ!」

さて、彼らのすぐ近くで魔法陣を展開していた少女が声をあげた。

874: 2014/05/08(木) 08:48:55.51 ID:PN2KpoVko

さくら「ばっちり見つけましたよぉ!」

少女の回りに浮遊するのは、幾つもの黒い文字。

その中の1つを指差し、少女は得意満面に胸を張る。

竜面「ほう……いつもよりずっと早いリーディングであったな。魔法の時間と場所を狭い範囲で指定したおかげか」

さくら「えっへっへー!私が本気だしちゃえばこんなもんですよぉっ!」

目的達成の速さを褒められた少女は得意げに胸を張った。

サクライP「読み上げてくれるかい」

さくら「はぁい!えっとー」


さくら「『だれもきいてないだろうけどぉー』」

さくら「『このいんび……』……い、いんゔぃ?」

さくら「ええっと…『……いんゔぃでぃあがひとこといわせていただきまぁーす』」

さくら「『わたしたちいるみなてぃー……せかいをどろみずのごとくのこんとんにぃー』」


さくら「……だそうですっ!」 ドヤッ

サクライP「……なるほど、色々と合点が行ったよ」

魔法使いの少女が、口跡探知魔法を使い拾い上げた言葉。

それを聞いて、男の表情が変わる。

普段、笑顔以外の表情を出さない彼にしては珍しく、露骨に苦々しい顔をしていた。

875: 2014/05/08(木) 08:50:01.73 ID:PN2KpoVko

竜面「……久しく聞くな。本当に奴らなのか?」

竜の面を被った男がいぶかしんだ。

――『イルミナティ』

世界の裏側でさえ知るものしか知らない、存在するかも怪しいとされるある組織の呼称。

今回の事件の、おそらく首謀者たる人物の言葉の中にその組織の名前があったのだ。


竜面「今更になって奴らが活動をはじめたと?」

とは言え、それが本物だとは思いにくい。

世界の動きを監視する財閥の中に居た彼でさえ、久しく聞かなかったその組織の名。

長い期間動かなかった組織。もはや活動停止の可能性さえあると考えていたそれ。

化石の名前を聞いて今になってそれが本当に復活したのだ、とは竜面の男は思えなかった。

サクライP「過去に衰えてしまった……とされている組織の名を騙る意味なんてないさ」

サクライP「それに、呪術師くんならわかるだろう?」

サクライP「今、下で暴れまわるカース達の特異な性質にね」

竜面「…………確かに。並みの術師や悪魔の元ではアレは産まれぬか」

明確な悪意のもとに、人々を巻き込み爆裂する呪いの蜥蜴。

そして、疾駆する幻馬に誘われるが如く今も空から振り落ちる泥の雨。

竜面「言葉の真偽は差し置いても、事実存在する凶悪に制御された呪い……」

竜面「呪いを生業とする我輩としては……是非持ち帰って研究したいものだな」

ぼそりと、呪術師はその欲望を漏らした。

876: 2014/05/08(木) 08:50:37.69 ID:PN2KpoVko

サクライP「さて……紗南くん、解析は終わりそうかな?」

紗南「……んー……もうちょっと掛かりそう」

サクライが声を掛けると、

彼らのやや後方にて眉に皺を寄せてゲーム画面に集中していた少女が顔をあげて答えた。

三好紗南はその能力を使い、此度の事件の首謀者の情報を洗い出そうと尽力していたのだった。


紗南「やっぱこれだけ距離があると……ムズゲーだなぁ」

三好紗南の情報獲得。

彼女の視界内に存在するものから洗いざらいの情報を抜き取る能力であったが、

距離があればあるほど精度が落ちてしまうようであった。

それはそうだろう。

距離があると言う事は、それだけ視覚に入ってしまう情報が多くなり、その中から欲しい情報を選び取る事は難しくなるし、

同時に氏角に入ってしまう情報も多くなり、対象が障害物の影に隠れてしまえば得られる情報が急激に減ってしまうのだから。

怠惰の悪魔ベルフェゴールであれば、一度に入ってくる大量の情報の処理をスパコンよりも素早く行うことが出来たが、

ただの人間の少女である紗南の脳はそれに追いつきはしない。

なので情報の獲得に時間が掛かってしまうのは仕方の無いことであった。


紗南「だけど……ここまで情報獲得しにくいのも変なんだよね」

紗南「特に馬の方なんて、明らかにこっちから見えてるはずのに……情報ほとんど手に入らなくって……」

サクライP「……見えてるはずなのに……か」

紗南「もうっ!わっけわかんないっ!」

紗南「うーん……接近できればいいんだろうけど……危険すぎるよねぇ……」

さくら「お師匠さんの貼った結界の外の安全は保障できませんからねぇ」

竜面「いや、我輩の結界内の安全もまったく保障するものではないが」

さくら「ええぇっ!?!」

877: 2014/05/08(木) 08:51:07.89 ID:PN2KpoVko


紗南「……サクライさん。下の人達さ、大丈夫なのかな?」

心配そうに表情を曇らせた少女が、目の前に悠然と佇む男に尋ねた。

さくら「大丈夫ですよぉ!聖來さんも芽衣子さんも救援活動手伝ってますしぃ!」

尋ねられたサクライPより先に、あっけらかんと魔法使いの少女が答える。

サクライP「ああ。そこまで心配せずとも、ヒーロー達もじきに駆けつけるさ」

少女の答えに、彼も同意する。

サクライP「僕たち人間は、あの忌々しい過去を」

サクライP「『憤怒の街』の一件を忘れたわけじゃない」

紗南「……」

さくら「……」

2人の少女が黙り込んでしまった。

彼女達はかつてあの町に乗り込んだ事があるからだ。

思い起こされる凄惨な現場の記憶。


大量発生したカースによって、街1つが選挙され……

世界の多くの人々が絶望する事となったあの事件。

878: 2014/05/08(木) 08:51:40.89 ID:PN2KpoVko

サクライP「解決こそしたが、多くの犠牲者を出してしまったあの事件から」

サクライP「僕たちは反省し、教訓を得たはずだ」

サクライP「そう、同じ間違いは二度と犯さない」

男が力強く発した言葉は、あの絶望を経験した人々の思いの代弁。

サクライP「同盟やGDFは元より、多くの組織がカースの脅威を改めて認識した今では」

サクライP「この事件も、すぐに解決できるよ」

さくら「で、ですよねぇっ!」

紗南「……うん」

サクライPの言葉に少女達は強く頷く。

あの時、絶望の淵から立ち上がったヒーロー達をはじめ、人間達もみな成長したはずだ。

突如として起きてしまったこの事件……だけれど、ヒーロー達は必ず駆けつけ被害が広がる前に食い止めることだろう。

膨れ上がるのは呪いばかりではない。


希望もまた、確かに大きく育っているのだ。




竜面「しかし、だからこそ解せぬのだろう」

竜面の男が口を挟んだ。

サクライP「それは……『イルミナティ』がこの事件を起こした目的がかな?」

竜面「然り」

その大きな手で竜を象った仮面を押さえて、男は考え込んでいた。

879: 2014/05/08(木) 08:52:18.54 ID:PN2KpoVko


紗南「サクライさん。そのさ……『いるみなてぃ』ってなんなの?」

少女が素朴な疑問を男に尋ねる。

サクライP「『イルミナティ』、世界の裏側に存在する組織の一つさ」

その疑問に男は静かに答えた。

サクライP「簡単に言えば、馬鹿げたことに世界征服を企む秘密結社と言ったところかな」

自分の事は棚に上げ、馬鹿げたことだと一笑する男。

紗南「ふーん、今時は珍しくないタイプの組織だよね」

さくら「要するに悪い人達の集まりって事ですよね!」

うんうんと納得したように頷く魔法使いの少女。

なお、自分も悪い人達の集まりの中に居るとはあまり認識してはいないらしい。

竜面(ひどいブーメラン大会だな……)


サクライP「しかし、彼らは凡百の……所謂、悪の組織とは違う」

サクライP「僕が知る限り、『イルミナティ』はこの世界で最も”常識外れ”な組織だ」

苦笑交じりに彼は語る。

紗南「常識外れ……」

さくら「……道路で煙草をポイ捨てしちゃうとか……不良って事ですか?」

サクライP「さくら君……常識外れと言うのは、人道的に常識が無いと言う事ではなくてね……」

サクライP「……奴らは底抜けに計り知れない、恐るべき脅威の存在だと言う事だよ」

紗南「……」

世界の支配者に最も近かった男が”底抜けに””計り知れない””恐るべき””脅威”と評する存在。

紗南はなんとなくであったが、その存在の尋常ではないおぞましさを理解した。

880: 2014/05/08(木) 08:53:16.94 ID:PN2KpoVko

竜面「我輩の疑念は、その恐るべき脅威が……どうしてこの程度の騒ぎを起こしたのかだ」

呪術師が話を戻す。彼の頭を悩ますのはこの騒ぎの規模。

世間を混乱させる事はできても、決して大きすぎはしない破壊工作の意味への疑問。

さくら「えっとぉ……よくわからないですけど、普通のテロじゃないんですかぁ?」

紗南「普通のテロって言い方はないよね?」

サクライP「さくら君。テ口リズムはただ暴れたくてやってるわけじゃない」

サクライP「そこには思想があり、訴えかけたい言葉があるからこその暴力だ」

サクライP「騒ぎの裏には思想があって、必ず目的がある」

サクライP「そうだね……それを知るために、僕は君たちをこの場所に連れてきたと言ってもいい」

騒ぎの収束は放って置いてもGDFと同盟が完遂するだろう。

財閥に所属する部隊にも、彼らに何らかの協力をさせる予定である。

先んじて、下では既に『エージェント』達が動き、避難活動の誘導を行っていた。

だから、事件の解決自体は財閥のトップが出張る必要のない話なのだ。

それでも財閥の頂点に立つ彼が、今もなおこの場所に立つ理由は1つである。

サクライP「この機会に、あの穴熊の尻尾を捕まえられればいいのだけどね」

881: 2014/05/08(木) 08:54:01.46 ID:PN2KpoVko

サクライP「ところで呪術師君はどう考えているのかな?」

男はすました笑顔で、傍に控える呪術師に尋ねた。

竜面「……潜伏していた組織が突如として引いた引き金、告知とも取れる宣戦布告の言葉」

竜面「しかし、規模は……新聞の一面記事を飾れはするだろうが、甚大すぎはしない」

話を振られた男は、推測し結論を出す。

竜面「撒き餌ではないのか」

竜面「集まってくるヒーローや、あるいはサクライ殿……貴方を釣るための」

サクライP「なるほど。可能性としてはなくはない」

その答えを聞いてニヤリとサクライPは笑った。

紗南「釣るって……この騒ぎにみんなが集まってくるのを待ってるってこと?」

サクライP「そう言うことだね」

紗南「……もし目的がサクライさんだとしたら……サクライさんがノコノコとここに居るのってまずくないの?」

サクライP「はははっ!紗南君の言うとおり失敗だったかな?」

紗南(えぇぇ……)

少女の指摘に対して、男は大きく笑った。

その様子に紗南はなんだか呆れてしまう。

882: 2014/05/08(木) 08:54:35.33 ID:PN2KpoVko

サクライP「まあ、仮にそうであったとしても……今はすぐ近くに芽衣子君が居てくれている」

サクライP「何か起きた時は、僕は緊急で移動できるさ」

瞬間的な移動を可能とする並木芽衣子の力なら、

この場所から離れることも容易であるし、遠くで何か起きた場合でもすぐに赴くことが出来る。

サクライP「それに万一、僕がどうしても動けない自体に陥ったとしても……その場合は代わりに『あの方』が動くからね」

紗南、さくら(……?)

竜面「……」

少女2人には、ニヤつく男が信頼する『あの方』については思い至らなかったようであった。

サクライP「何より僕はね、”これ”の目的が釣りのようなものだとは考えていない」

竜面「ほう……その心は?」

サクライP「これは開幕の狼煙」

サクライP「つまりは――」


ドォンッ ―― !!


―― すぐ近くで爆音が鳴った。

竜面「むっ?」

さくら「ひっ!?」

紗南「し、下から!?な、なんか来てるよっ!?」

サクライP「やれやれ、無粋な来客のようだ」


―― 眼下を覗き見れば、

―― 一匹の巨大な蜥蜴が、

―― 彼らの立つビルを昇ろうとしていた

883: 2014/05/08(木) 08:55:14.93 ID:PN2KpoVko


―――


―――



襲い来る影を振り切りながら疾駆するのは1人のヒーロー。

聖來「よいしょっと」

『ガァァアッ!?』

彼女が両の手に持つ妖刀「小春日和」と「桜花夜話」の刃が、泥の塊に一薙ぎに刻まれてその核を破壊する。

舞い踊るような彼女の剣撃に次々とカースが切り伏され消失するが、

『ゲヘヘヘ』

『ウィヒヒヒヒ』

すぐにその欠員を補充するように地面から黒色の泥が沸いてくる。


聖來「うじゃうじゃうじゃうじゃ……きりがないね」

1匹倒せば2匹が忍び寄り、2匹倒せば4匹が湧き上がる。

雨から産まれるカースは比較的弱めの固体であるが、

そんな事が救いにもならないほど、際限ないその数に参ってしまう。

884: 2014/05/08(木) 08:55:58.59 ID:PN2KpoVko

聖來「……雨を引き起こしている本体を倒さないとか」

次々と沸いてくるカースの発生を止めるには、

その発生源となる本体を見つけ出して、それを叩くしか無いだろう。


芽衣子「連絡では、この雨は走り回る馬が原因じゃないかって話だったね」

聖來「わわっ、芽衣子さん!」

芽衣子「あっ、驚かせちゃった?ごめんねっ」

突然の背後からの同僚の登場に、思わずびっくりしてしまう聖來。

並木芽衣子の移動能力は文字通りに瞬間的である。

そのため、背後に現われるとあらかじめわかっていたとしても、ついつい驚いてしまうのだった。

聖來「い、いいんだけどね。それよりさっきの人大丈夫だった?」

芽衣子「うん。もちろん、怪我は少しも無し!ちゃんと救助できましたっ」

尋ねられた芽衣子は、えへっと笑った。

櫻井財閥に所属する『エージェント』の2人。

しかし今回は、2人とも表向きの立場。

すなわち『フリーのヒーロー』と『財閥の救護班』としての任務である。

それぞれの立場で、逃げ惑う人々の避難の誘導を行うのが、招集された彼女達に与えられたお仕事であった。

885: 2014/05/08(木) 08:56:37.05 ID:PN2KpoVko

芽衣子「それにしても……たくさん集めたねえ」

聖來「あははっ、まあね……」

雨で新たに沸いてくるカースも多いが、それだけではなく

聖來の周りには明らかに周囲から集まってきているカースが多い。


聖來「熱い視線を向けてくれるのはいいけど、なんだかモテちゃうって辛いのかもね」

水木聖來の『カリスマ』は、人外を惹き付けてしまう力。

いつも掛けている制御装置代わりのサングラスも外して、

その力を少しも抑えず発揮している今は、低級カースでさえも集めてしまっているようだ。

彼女達の四方八方を囲むカースの群れ。

背中合わせに立つ2人に向かって、じりじりと近づいて来ている。


芽衣子「あはは、確かにこんなに迫られても困っちゃうよね」

芽衣子「それじゃあ、逃げちゃおっか」

聖來「だねっ」

並木芽衣子の瞬間旅行。

”人間とその手荷物だけ”を迅速に好きな場所に運べるのがその力。

一斉に飛び掛ってきたカースの群れの中心から、

パッと2人は姿を消した。

集まる泥の中心点に残されていたのは、十数本のナイフ。

次の瞬間、殺到したカースの群れによってそのナイフが破壊されて、


辺りが弾け飛んだ。

886: 2014/05/08(木) 08:57:15.56 ID:PN2KpoVko

――


ドォオオオン!



聖來「……」

芽衣子「……」

先ほどの場所から、少しだけ離れた位置でその爆発を見届ける聖來と芽衣子。

おそらく集まったカースはその核ごと爆散したことだろう。


聖來「……あー……や、やりすぎちゃった……かな……?」

芽衣子「な、なんとかなるよ……たぶん」

芽衣子「け、建造物の修復に関しては財閥がお金を出してくれるってサクライさん言ってたし」

聖來「か、カースをあちこちで暴れさせちゃったら大変だし……人命優先だよね、人命優先」

芽衣子「うんうん」


カースを集めて、まとめて一掃すると言う大雑把な作戦。

聖來の持つ妖刀『月灯』の力で、”事前に『ナイフ』に変えていた爆弾”の威力は想定以上であったようだ。



『ほう……たかだが人間風情が随分と好き勝手にやってくれているではないか』


聖來、芽衣子「!?」


突然の声に慌てて振り向いてみれば、

彼女達の後方に、炎の鬣を靡かせる漆黒の馬が存在していた。

887: 2014/05/08(木) 08:57:53.72 ID:PN2KpoVko



『吾輩の高貴なる姿、逃げ惑う低俗なる人間どもに見せてやろうとしたのだが……余計な事をしてくれたな』


地が唸るような声が辺りに響く。

どうやらその声の主は、今目の前に存在しているらしい。


芽衣子「……馬が喋ってる」

聖來「芽衣子さん、突っ込みどころたぶんそこじゃない」


突然現われた一体の炎馬。

偶然の遭遇と言う訳ではなく、おそらくそれは2人の活動を察知してやって来たのだろう。

艶のある漆黒の毛並み。

美しく靡く2色の炎。

逞しき4脚を軽やかに踏みしめて、

パカリ。パカリ。と足音を慣らしながら

それはゆっくりと…こちらに近づいてきていた。

888: 2014/05/08(木) 08:58:28.30 ID:PN2KpoVko

聖來「紗南ちゃんからの情報の一致」

聖來「今回の騒ぎの原因の1つは、貴方だね」

事前に仲間の少女から送られて来ていた情報と照らし合わせた彼女は、

徐々に近づいてきている漆黒の馬に、声を掛けてみる。


『……下等生物風情が、吾輩の素晴らしき行軍を、たかが”騒ぎ”であると評するか』

『よほど身の程を知らぬのか、あるいはこの偉容を理解できぬ程に愚かなのか』

『どちらにしても、哀れであり不遜な事だ』

聖來「……」


あまりにも無遠慮な文句が返ってきた。

彼女達の前に現われた呪いの黒馬。

知性的ではあったが、決して理性的ではないらしい。

言葉は通じていても、話の通じる相手ではなさそうだ。

889: 2014/05/08(木) 08:59:20.16 ID:PN2KpoVko


『塵芥にも劣る人間どもを、1匹とて偉大なる吾輩は逃すつもりはない』

鼻息を荒くしながら、呪いの炎馬は依然ゆっくりと……こちらに歩を進めている。


『その愚かなるこうべを吾輩の逞しきこの脚で蹂躙せねば、気が済まぬのだ』

荒ぶる炎が、よりいっそうと燃え上がり、パカリ、パカリと強くその脚を鳴らす。


聖來(芽衣子さんっ)

芽衣子(うんっ)

2人はアイコンタクトを送りあう。

そして並木芽衣子は、パッとその場から姿を消した。

水木聖來だけが1人、この場に残る。


『逃がすつもりはないと吾輩は言った』

『例え能力を使い万里先に逃げていたのだとしても……吾輩は必ずそれに追いつき燃やし尽くすぞ』

聖來「そ。だけど、まずは貴方の相手はアタシだよ」

『まさか万象を頴脱するこの吾輩に、貴様一匹で立ち向かうつもりか』

聖來「そのまさか、と言ったら?」

『笑止千万』

その歯を剥きだしにして、嘲笑うような声で炎馬は答えた。

890: 2014/05/08(木) 09:00:59.60 ID:PN2KpoVko


パカリ。パカリ。パカリ。

足音のリズムが早くなった。

しかしあくまで少しずつ、ジリジリと炎馬は聖來との距離をつめてくる。


聖來(……馬型のカース。カースの能力はその造形に左右される)

聖來(となると……その速度と脚に要注意かな)


聖來は両の手に2本の美しき刀を構えて向き合い、

斜め後ろの方向に後退しながら、相手を観察しつつ攻撃を仕掛ける適切な距離とタイミングを測る。


聖來(それで、纏っている炎……色は黄色と紫……『傲慢』と『嫉妬』のカースの色だね)

聖來(なるほど外部に放出されるほどのエネルギーが周囲に影響を与えて……この雨や周囲のカースを生み出してるってところかな)


外部に視覚化されるほどに強烈な負のエネルギーの放出。

特に『傲慢』の黄色の炎は、彼女を慕う小日向美穂が時々纏う黄色のオーラの揺らめきと似ていた。

そのために聖來は、炎馬と対峙しただけでその性質をある程度見抜くことができていた。


聖來(後は核の位置さえ見抜けば……戦いやすいんだけどな)

カースとの戦いで最も重要なのが、弱点となる核の位置。

今回の敵は、見た目からその位置を推測できない。

果たして胴体の内にあるのか、それとも頭部にあるのか。

パカリ。……パカリ。パカリ。

聖來「?」

鳴り響く足音に聖來が違和感を覚えた。


聖來(足音が……ずれ込んだ?)

891: 2014/05/08(木) 09:02:24.70 ID:PN2KpoVko



『ところで、聡明なる吾輩は先ほどから気になっていたのだが……』

炎馬がぼそりぼそりで呟く。

パカリ……パカリパカリ。……パカリ。


聖來(なに……?この音の違和感は……)

しかし彼女がその違和感の正体に気づく前に


パカリ……パカ

『頭が高くはないか?下賎の猿風情がっ!』

聖來「えっ!!」

気づけば炎馬はすぐ目の前に。

あり得ないほど瞬く間に接近されていた。


聖來(そんなっ!?一瞬で近づかれたっ!?)

それだけ炎馬の移動速度が速かった?

いや違う。まるで近づかれたのではなく、”既に近づかれていた”ような感覚。


馬の前脚が、彼女の頭上から大きく振り下ろされて、

聖來「っ!!!!」

聖來の身体は、大きく後方へと吹き飛んだ。

892: 2014/05/08(木) 09:03:36.47 ID:PN2KpoVko


―――


―――


―――



ドンッ!!

ドンッ!!

ドドンッ!!


突然現われた巨大な蜥蜴の影は、

地響きの様な爆音を鳴らしながら、

ビルの外壁を恐るべき速度で爆進し、昇り上がってきている。


サクライP「まさに、爆進だな」


ドンッ! ドンッ!

足を打ち付けるたびに、その肉体は爆裂しビルの外壁を破壊して、

その場を炎上させると再び足を踏みしめて破壊を繰り返す。

爆破の規模はそれほど大きくは無く、ビルを倒壊させる事は無いだろうが、

大蜥蜴は、その爆破によって生じる推進力を利用して、図体の大きさに似合わぬ躍進を可能としていた。



さくら「こ、ここっち来てますよぅっ!?さ、紗南ちゃんっ!情報っ!情報っ!」

紗南「ちょっ、ちょっと待って!向こうの情報獲得に集中してたから急にはっ……」


急な襲撃に対応するため魔法使いの少女が、その場に居るもう1人の少女を急かすが、

紗南は先ほどまで別の敵を情報を洗っていたのだから、すぐにはその対象を変えることは出来ない。


ドンッ!ドンッ!ドンっ!

その間にも大蜥蜴は凄まじい速度で、彼らのすぐ近くの階まで迫っていた。


竜面「『愚かなる汝の影は、大いなる我が力に従い暗黒の呪縛へと縛られん……シャドウバインド!』」


呪術師が唱え終えると、大蜥蜴の張り付く壁や窓に黒く渦巻く染みが幾つも現われる。

そしてその渦の内側から何十…いや、何百ものドス黒い人の手のようなものが現れた。

一瞬で生え出た黒い手達は、大蜥蜴の身体へとガッチリと絡みつき、瞬く間にその動きを束縛する。

893: 2014/05/08(木) 09:04:22.86 ID:PN2KpoVko



ギチギチと皮が擦れるような音がなる。


大蜥蜴の進撃を、暗黒から伸びた手がどうにか縛り止めようとしている音だ。

しかし、蜥蜴はなおも食いつくように屋上を目指して歩を進める。


さくら「と、止まってないですよぉっ!?」

竜面「『止まれ』『逃れることは出来ず』『ただ縛られよ』」


魔術に対しての追加の詠唱。竜面の男が唱え続ける度に、召喚された手はその拘束を強めるが、

大蜥蜴もさしもので、その足が完全に停止することはなかった。


竜面「我が輩の束縛式でさえも止めきれぬか……ますます欲しいな」

さくら「い、言ってる場合じゃないですってばぁっ?!」

サクライP「紗南君、弱点はわかるか?」

紗南「……あの蜥蜴の中身、嫉妬の炎で溢れてる」

束縛の術式によって、蜥蜴の爆進が弱まっている間に、

紗南は『情報獲得』を使い、迫る怪物のその中身を調べあげていた。


竜面「なるほど、その炎こそがエンジンと言う訳か」

紗南「火を…火を鎮めることができたらっ!」

さくら「み、水とかですか……?」

サクライP「……」

サクライP「……都合が良い事に、すぐそこに貯水タンクがあるね」

ビルの屋上に設置されていた大きな貯水タンクを見上げるサクライP。

サクライP「大量の水を用意することはひとまず可能だろう」

894: 2014/05/08(木) 09:05:49.71 ID:PN2KpoVko


サクライP「だけど、嫉妬の炎がただの水で消えるのかな?」

爆炎の大蜥蜴の体内で燃え上がっているのは大罪の炎。

ただ水をぶっ掛けて、それを消化する事はまずできないだろう。

竜面「……魔術で強力な鎮火の属性を付加すればあるいは」

サクライP「できるかい?」

竜面「……だが、束縛式を使用している最中ではな……」

竜面「今の我が輩では瞬時に用意できる魔力の量が足りないだろう」

サクライPの質問に竜面は首を振って答えた。

紗南「じゃあさくらさんが魔術を使えば……?」

さくら「えっ!?」

急にお鉢が回ってきて魔法使いの少女は驚く。

竜面「さくらではまるっきりダメだな、前提としての魔術の技巧がもうまったく追いついていない」

さくら「ええっ、酷いっ!!」

しかし即答で否定されてしまうのだった。酷評付きで。

竜面「こうなれば手は一つしかないだろう……」


竜面「さくら、あれを使うぞ」

さくら「……えっ」

895: 2014/05/08(木) 09:07:26.41 ID:PN2KpoVko



―――



―――

896: 2014/05/08(木) 09:09:20.65 ID:PN2KpoVko




すみません
半端なところなのですがちょいとここで区切ります。
用事が出来てしまい外出することとなったので……続きは今日中に



【次回に続く・・・】



引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part9