169: ◆6osdZ663So 2014/05/26(月) 00:13:45.65 ID:buOmktNUo



モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


 



前回のあらすじ


チナミ「それにしたって、アイドルヒーロー同盟の資料はどうしてこんなに一般人の個人プロフィールにも詳しいのかしらね」

チナミ「身長や体重はともかく3サイズまで分かるものなのかしら……」

クールP「別に不思議でもないんじゃないかな?」

クールP「世の中には一目見ただけで、女の子の3サイズが分かる子が居るとも聞くし」

チナミ「へえ、能力者かしら?」

クールP「いや、素らしいよ」

チナミ「なにそれこわい」


櫻井財閥と学園祭

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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



170: 2014/05/26(月) 00:16:35.66 ID:buOmktNUo




爛「『エージェント・バックメンバー』だぁ?」

目の前に座る女の口から出た聞きなれない言葉。

爛は眉を寄せて、聞き返す。


チナミ「そ。 とっておきの情報(おはなし)よ。もちろん買うわよね?」

向かいに座る女は、肘を突いて膝を組み、まるで当然のようにそんな事を言い出すのだった。


171: 2014/05/26(月) 00:17:05.93 ID:buOmktNUo

爛「……」

爛「つーかよぉ、そんな話をこんな時にこんな場所ですんのかよ」


こんな時のこんな場所。すなわち、学園祭真っ最中の京華学院。

教習棟内に設置された休憩スペースの一角である。


爛「……」

ちらちらと爛は周囲に目を配った。

学園内で休憩するならば、例えば喫茶店のような出し物は棟内には多くあるし、

無料で使える休憩スペースにしたって他にたくさんあり、

棟内の一番端にあるこの教室まで、わざわざ足を運ぶ人間は少ない。

ぶっちゃけここは人気のない休憩スペースであった。


とは言え、まったく人が居ないわけではなく。

爛達以外にも、少人数ではあるが雑談している者達が何組か存在している。


爛「あんま大っぴらに話せるコトじゃねーだろ?」

『エージェント』とは、櫻井財閥と言う巨大な組織に存在する裏の機関。

公に開かされてはならない仕事を担当する財閥の影。

それに関わる話を、目の前の女はこの場でしようとしているらしい。


チナミ「問題ないわよ」

しかし女は、平然と答えた。

172: 2014/05/26(月) 00:17:54.02 ID:buOmktNUo


チナミ「この部屋に居る人間は誰も私たちの話なんて聞いてないわ」

チナミ「いえ、”意識できない”とでも言い換えた方がいいかしら」

爛「……暗示か」

チナミ「まあ、そんなところね♪」

くすくすと、魔性の存在たる吸血鬼はおかしそうに笑う。

簡易的にではあるが”おはなし”とやらをする場は既に作っていたらしい。


爛「……」

爛「……おい、そこのデブ。ちょっと俺の話聞け」

でぶ「ここでしばらく休憩したら次は早食い勝負に挑戦するぶー!」

傍の席にいた、デ……少しふくよかでぽっちゃりした方に話しかけてみたが無視される。

どうやら、本当にこちらの言葉は周りの奴らには聞こえていないようであった。


爛「本当みてえだな」

チナミ「あなた、試し方が酷いんじゃない?」

173: 2014/05/26(月) 00:18:52.31 ID:buOmktNUo

爛「で、わざわざ休憩中のアイドル呼び出して商売の話かよ」


教習棟の廊下で瞳子と別れてからすぐに、爛はチナミと出会う事となった。

随分短時間の間に、『エージェント』の同僚と二度も遭遇するとは奇妙な事だが、

ただ、こちらは瞳子の時と違い偶然ではなく、

連れ込まれた休憩スペースの人間達に掛けられていた暗示から考えても、

どうやら、爛が居る事をわかっていて待ち受けていたらしい。


チナミ「休憩中に、急に連れ出して悪かったけれど」

チナミ「こう言う好機はあまりないもの。有意義に利用しなきゃね」

爛「好機?」

チナミ「あら?もしかして……爛は気づいてないの?」

爛「……チッ」

どこか小ばかにされているような態度。やりにくい女である。

相方であるクールPはこいつと好んでつるんでいるが、これの何がいいのかは爛にはさっぱりであった。

爛「わかりやすく説明しろよ」

174: 2014/05/26(月) 00:19:38.54 ID:buOmktNUo

チナミ「それじゃあ、今が好機である理由を順を追って説明するけれど……」

チナミ「まず1つ、『エージェント』のメンバーが消息不明になってるのよ」

爛「知ってる。電気能力使ってたアイツだろ?たしか名前は……ま、どうでもいっか」

電気を操る能力を持つ『エージェント』が、消息不明になった事件。

その事は、聖來からの連絡で他の『エージェント』達に速やかに伝わった。

恐らくは、彼が氏亡してしまっている事もである。


チナミ「それも2人」

爛「は?」

チナミ「消息不明になった『エージェント』は”2人”よ」

チナミ「もう1人の方は、つい今朝に発覚した事なんだけどね」

爛「……」

新情報であった。『エージェント』内にもう1人、行方不明者が居るとは初耳である。

チナミ「他の『エージェント』達からは『鏡(ミラー)』って呼ばれてた奴よ。知らないかもしれないけれど」

チナミ「そいつも”財閥から放流されたカース”の一匹を追ってる最中に、それごと消息不明になったらしいの」

チナミ「まあ、たぶん『電気(エレクトロン)』を消した奴と同一犯の仕業なんでしょうね」

淡々と、その話の流れをチナミは推測を交えて語った。

チナミ「あ、この情報についてはタダでいいわよ」

爛「当たり前だろ、待ってれば俺にも普通に伝わる話じゃねえか」

チナミ「ええ、でしょうね」

175: 2014/05/26(月) 00:20:52.94 ID:buOmktNUo

爛「おい……その今朝ってよ。何時くらいの話だ?」

チナミ「具体的な時間は知らないけど……早朝も早朝よ。日が昇るか昇らないくらいの」

爛「……そうか」

爛(…………ならどうして”今になるまで”俺に伝ってなかった)

爛は考え込む。『エージェント』の2人目の消息不明について。

それは今朝に、発覚した事だとチナミは言った。

昨日の『エージェント』の氏亡は、比較的速やかに『エージェント』に属する人間に伝わったのだから、

この件に関しても、既に爛の耳に入っていてもおかしくない話である。

しかし、実際には今チナミの口から聞かされるまで、爛にはそれらに関する情報が伝わってはいなかった。

爛「今の話、嘘じゃねえだろうな?」

チナミ「もちろん。後で確認してもらってもいいわよ」

爛(……ま、すぐバレる嘘付く意味とかねえよな)

爛(しっかし、嘘じゃねえとしたら……ちょっと情報が伝わるのに時間が掛かりすぎじゃねえか…?)

いや、そもそも”チナミから新情報を聞かされる”と言う状況からして何か引っ掛かる。

爛(俺の気にしすぎ……か?)

176: 2014/05/26(月) 00:21:49.28 ID:buOmktNUo

爛「……」

爛「セイラは何してるんだよ」


『エージェント』をまとめて取り仕切る事の多い、水木聖來の様子を尋ねてみた。

チナミは彼女ともよくつるんでいるのだから、彼女の仕事の状況なども把握しているだろう。


『エージェント』に関わる連絡はサクライPでなければ、聖來から入ってくる事が割とある。

事実、昨日の連絡は彼女からであったし、ならば今日の情報も彼女から入ってくるのが自然であろう。

少なくとも、情報の伝達ラインにチナミが間に割り込んでるよりは不自然ではない。


チナミ「聖來は寝込んでるわ」

爛「……寝込んでる?なんだ、病気かよ」

チナミ「似たようなところね、昨日、正体不明の白いカースと交戦した影響で体調不良みたいよ」

爛「……白いカースねえ」


そう言えば、つい先ほどにクールPを通して伝わったアイドルヒーロー同盟からの情報の中にも、

『白いカース』についての話があったような気がする。

恐らくは昨日、聖來が交戦したと言う『白いカース』とも関係があるのだろう。

まあ今はそこはどうでもいいのだが。


チナミ「さて、かわいくてかしこい爛ちゃんの事だからそろそろわかったんじゃないかしら?」

爛「うっせえよ」

茶化すチナミに、爛は適当に言い返す。

177: 2014/05/26(月) 00:22:50.17 ID:buOmktNUo

爛(1.『エージェント』2人が行方不明)

爛(2.まとめ役の聖來は寝込んでて)

爛(3.俺に情報が伝わったのはチナミから)

爛(つまり……)


爛「『エージェント』内部の伝達系統が微妙に混乱してやがるってところか」

チナミ「正解よ」

チナミ「しかもおまけに、今現在サクライには連絡が繋がらないわ」

爛「は?こんな時にかよ……微妙にどころか、ガッタガタじゃねえか」


組織の指揮権を持つ男と、それに順ずるリーダーの不在。

さらには、メンバー2人が突然脱落したこの状況。

『エージェント』にとってそれは組織が回らなくなるほどの不具合ではなかったが、

しかし、どうあっても内部の情報伝達網は、多少なり混乱するだろう。


チナミ「今は臨時で、あの辛気臭い竜のお面被った男が指揮してるみたいだけど」

チナミ「それでも情報が伝わるのはちょっと遅れるわよね」

チナミ「だって『エージェント』の全メンバーを把握しているのはサクライだけなんだもの」

爛「なるほどな、”好機”って言うのはそう言う事かよ」

チナミ「ええ、今なら私たちがこんな風に会ってても、サクライに何か勘付かれる心配はまったくないってわけ」

チナミ「とは言え、この状況も今日中には回復するだろうし……」

チナミ「その前に爛ちゃんに大切な事を話しておいてあげようと思ってね」

爛「……つか、さっきから”ちゃん付け”で呼んでるんじゃねえよ」

178: 2014/05/26(月) 00:23:54.82 ID:buOmktNUo

爛「んで、何なんだ。その『バックメンバー』って言うのはよ」


話は戻る。

チナミが先ほど言葉に出した『エージェント・バックメンバー』と言う存在について。


チナミ「その前に、わかってるわよね?」

爛「……」


含みのある遠まわしな言い方であるが、

詰まる所、『教えて欲しかったら、対価を寄越せ。』と言う事らしい。


爛「……本当に価値のある情報なんだろうな」

チナミ「少なくとも私たちにとってはね」

爛「……幾らだよ」

チナミ「お金は要らないわよ、アイツからは妙に高い給料貰ってるもの」

爛「まあ、だろうな……(つかアイツは何処からあれだけの資金調達してんだ……)」

179: 2014/05/26(月) 00:24:46.48 ID:buOmktNUo

爛「……で、金じゃなかったら何だよ。何が目的だ」

チナミ「協力してほしいのよ、今じゃなくていいわ」

チナミ「でもいつか、私が必要な時に、私の為に動いてくれるって約束してくれれば」

チナミ「それでいいの」

爛「…………らしくねーな。そんなもんいくらでも反故にできるだろ」

具体的な対価をすぐには要求せず、しかも後払いでいいとは、

どこか”利用派吸血鬼”らしからない。

チナミ「その時はその時よ」

チナミ「私の目的はただ単に、『これからはより仲良くしましょう』って……それだけなのよ」

チナミ「お互いがお互いに損しないように、お互いの行動がお互いの利益になるように」

爛「……」

爛(つまりは同盟みたいなもんか……?)


別に悪い話ではない。

チナミとの関係は元から利害関係の一致で時々情報の交換をする程度であったが、

これからはもう少し頻繁に情報交換をし、そしてもう少し踏み込んだ協力関係を築きたいと言う事だろう。

爛もチナミもお互い、サクライの犬たる『エージェント』に身を置いてこそいるが、

その実、お互いにサクライの駒で居続けるつもりはさらさら無い事を知っているのだから、

そう言う意味では仲間と言ってもいいし、協力できるのであればしてやってもいいとは思う。

ただ問題があるとするならば、

目の前の女が信用に足るかどうかだ。


爛「……」

チナミ「やっぱり、”利用派吸血鬼”なんて信用できないかしら?」


その思いを見透かしたように女は言った。

180: 2014/05/26(月) 00:25:49.68 ID:buOmktNUo

爛「はっ!”利用派が”つーか、”テメェが”だけどな!」

チナミ「……」


可愛らしい顔立ちにまるで似合わないほどに、爛は凄んでみせる。

小さな口を獰猛に開き、恐竜のような牙を見せ、

ギラギラと瞳を光らせて、目の前に佇む女を睨んだ。


爛「俺も、アイツ(クールP)もよ、腹に一物抱えてる同士だ」

爛「お互いの事を、心の底から信用してるなんて言葉はまあ口が裂けても言えねーけどよぉ」

爛「でも、ま、同じニオイがする者同士割と仲良くやっていけてると思ってるぜ」

爛「けど、テメェは違うな。俺たちと同じ様に見えてニオイが全然ちげぇ!」

爛「仲良くしてくれぇ?」

爛「とてもじゃねえけど、『はい、こちらこそ^^』なんて言えそうにはねえな!」

やはりどこか信用ならない。

クールPに感じる同族の様な意識を、彼女にも向けることは爛にはできなかった。


チナミ「……」

チナミ「ま、当然よね」

チナミ「私だって実のところ、誰も”信頼”はしていないもの」

爛「おいおい、なんだよ。そっちから話を持ちかけておいて即交渉決裂か?」

牙を剥いた口を閉じ、呆気に取られたように、爛はリアクションする。

チナミ「”信頼”はしていないけれど…」

チナミ「でも私、あなたの事”信用”はしているのよ」

爛「アぁ?」

よく分からないチナミの言葉に、再び爛は眉を顰めた。

181: 2014/05/26(月) 00:26:57.46 ID:buOmktNUo

チナミ「ええ、あなたの内面はともかく、その能力は信用しているわ」

爛「そう言うことかよ、別に、評価されてても嬉しくはねえけどな」

チナミ「同じ様に……私の事も内面じゃなくって、私の能力を信用して欲しいのよ」

チナミ「つまり利用価値の提供ね。どうせお互い信頼なんて出来ないんだから。」

チナミ「都合よく利用して利用されあう関係。お互い切ろうと思えばいつでも手を切れる」

チナミ「それでいいでしょ?」

爛「……まあ、それが一番わかりやすくていいわな」

結局はそこに落ち着く。

少しだけ踏み込んだ協力関係を築いてもいいが、あくまで少し。

お互いに踏み込みすぎはしない。爛としても信頼できない奴との一蓮托生は御免被る。

チナミ「で、私の能力を信用して欲しいから話すのよ。とっておきの情報を」

つまり彼女は、自分の情報獲得能力を売り込みに来たわけである。

爛「なら、それを聞いてから決めるとするか。テメェとの関係をこれからどうするかは」

チナミ「ふふっ、それでいいわ」

爛の答えを聞いて、彼女は僅かに微笑んだ。


爛「聞かせろよ、そのとっておきの話」

爛「『エージェント・バックメンバー』について」

182: 2014/05/26(月) 00:27:46.03 ID:buOmktNUo

チナミ「あなたも知っての通りだけど、『エージェント』はサクライの犬」

チナミ「あの男が揃えた財閥の影の仕事を担当する能力者集団なわけだけど…」

チナミ「それには実は2種類居るのよ」

チナミ「それが『エージェント・フロントメンバー』と『エージェント・バックメンバー』」

爛「……初耳だぞ」

チナミ「そりゃあそうよ、私たち『フロントメンバー』には知らされていない事だもの」

女はそんな事をケ口リと言う。

爛「私たち?」

爛「俺が『フロント』ってのはなんとなくわかるけどよ。テメェも『フロント』って奴なのかよ」

チナミ「ええ、そう。『フロント』、つまり”表側”」

チナミ「『エージェント』って言う影の組織に所属しながら”表”にも立つ必要のある人材のこと」

チナミ「だから『フロントメンバー』の『エージェント』は、全員表向きの肩書きを持ってるの」

チナミ「例えば、『アイドルヒーロー』だとか財閥に所属する企業の会社員だとか」

チナミ「一応、私もルナール社員としての名義をまだ持ってるから……『フロントメンバー』になるわね」

爛(……って事は俺の知ってる奴は全員『フロントメンバー』か)

彼が知る限りの『エージェント』には全員表向きの立場がある。

『フリーのヒーロー』だとか、『櫻井財閥に所属する救護班』だとか。

爛「んで、そうなると『バックメンバー』って奴らは表向きの肩書きさえ持ってねえってことか」

チナミ「そうね、財閥の影の組織『エージェント』のさらに裏側。裏の裏を担当する能力者部隊」

チナミ「それが『エージェント・バックメンバー』よ」

183: 2014/05/26(月) 00:28:49.63 ID:buOmktNUo

チナミ「彼らは表の立場を持たない。」

チナミ「表の名前を持たない。」

チナミ「表の顔を持たない。」

チナミ「表に立つことは決してない。」

チナミ「正真正銘の暗部って訳ね」

爛「文字通り、『バックメンバー』ってことか」

チナミ「それで、ここからが大事なんだけど…」

チナミ「そんな部隊が必要になる機会って、あなたにもわかるでしょ?」

爛「人知れず何か消したい時だろ」

爛「例えば粛清とかな」

チナミ「そう言う事」

爛「なるほど、テメェが大事な話って言った理由はわかった」

爛「つまりアレだろ?”もしも”、”万が一””仮定の話で””ありえねえ話だけど”」

爛「俺やお前がサクライを裏切ったりすれば、”そいつら”から狙われるって事だ」

チナミ「私に感謝しなさいよ?爛ちゃんの身を案じて、教えてあげたんだから」

爛「ケッ!心遣い痛み入るな!」

184: 2014/05/26(月) 00:29:30.56 ID:buOmktNUo

チナミ「今のところ、『バックメンバー』について教えられるのはこんな所ね」

チナミ「顔を持たない部隊のことを、これ以上調べて教えろだなんて無茶は言わないでね」

チナミ「だからここまで。何か質問はあるかしら」

爛「……」

爛(……んで、今の話は本当なのかねっと)

少々疑り深いかもしれないが、”利用派吸血鬼”を相手にするのであれば、このくらいは警戒しなければなるまい。

とは言え……チナミが話を持ってきたタイミングや、理由を察すれば、偽りの情報と言う事はおそらくないだろう。

”粛清される可能性”を考え『バックメンバー』とやらを警戒するのはチナミも一緒で、

それを知ったからこそ、今になって爛との協力関係を強めたいなどと言い出したのだろうから。

だが、信じきるには後一歩足りないと言ったところか。


爛「おい、信用してほしいって言うなら1つだけ教えろ」

だから、後一歩のために爛は聞く。

185: 2014/05/26(月) 00:30:13.83 ID:buOmktNUo

爛「そんな情報どうやって調べやがった?」

爛「『フロントメンバー』には一切知らされてないんだろ?」

知らされていないと言う事は、決して知られないようにもされているはずだ。

彼女も『フロントメンバー』であるなら、その話を知る機会などなかっただろう。

隠された情報を暴き奪うため、一体どんな手を彼女は使ったと言うのか。


チナミ「……それは」



『私が調べたのよ』


爛「……は?」

目の前の女からではなく、爛の耳元から声が聞こえた。

横を見てやれば、

チナミ(小)『あらっ、気づかれちゃった?』

爛「んなっ!?」

いつの間にか彼の肩に、掌サイズほどの小さいチナミが乗っていた。

爛「なんだこいつ!なんだこいつっ!?!」

チナミ「紹介するわね、その子はブラッド・ドッペルゲンガー」

チナミ「私自身にして、私の使い魔みたいなものよ」

チナミ(小)『よろしくね』

爛の肩に乗るチナミは、そう言ってウィンクしたのだった。

186: 2014/05/26(月) 00:30:59.41 ID:buOmktNUo

ブラッド・ドッペルゲンガー

一部の吸血鬼が使役する、吸血鬼の血液と魔力から造られる分身体の如き使い魔。

小さな身体と影に溶け込める性質を活かして、本体をサポートするメッセンジャーとして活動する。


チナミ「その子を使って、色々と調べまわって貰ってたの」

チナミ「吸血鬼の使い魔は、影に潜り込むのは大の得意よ」

チナミ「実はこの部屋に入ってきたときから、あなたの傍に居たんだけど全然気づかなかったでしょ?」

チナミ(小)『爛ったらおかしいわね。そんなに驚くなんて』

爛「……チッ!」

気を抜いていたつもりはなかったが、確かにまったく気づいていなかった。

古の竜たる爛の持ち合わせる高い精度を誇る五感と、野生的な直感さえも欺く、恐ろしく高度なステルス能力。

なるほど。これをスパイとして使ったならば、隠された情報を知ることもできるのだろう。


チナミ「どうかしら?私の能力、少しは信用できた?」

爛「んな能力、却って警戒するっつの」

チナミ「ふふ、『評価されてる』と受け取るわよ」

爛「……」

チラリと再び、爛は自身の肩に目を移す。

そこには先ほどまで座っていた使い魔の姿はなかった。

爛(……一度認識した後でも気配を消せるのかよ……末恐ろしいな)

何気に凄まじい能力である。

彼女を侮っていた訳では無いが、その認識を少しだけ上方修正する必要はあるようだ。

187: 2014/05/26(月) 00:32:06.45 ID:buOmktNUo

チナミ「さて、これから贔屓してくれるなら」

チナミ「”私”の集めて来た情報の一部をあなたにも提供してもいいと考えてるのよ」

チナミ「どう?」

爛「……別に情報収集の分野でこっちが困ってるってほどでもねえけどな」

爛「クールPの奴も居るしよ」

爛の相方たるクールPは、アイドルヒーロー同盟のプロデューサーにして利用派吸血鬼。

チナミと同じ事ができるかは知らないが、少なくとも情報収集能力が劣っているとは思わない。

チナミ「でも立場が違えば、集めてこれる情報も違う。そうでしょ?」

アイドルヒーロー同盟に所属するクールPだからこそ集められる情報もあれば、

彼女だからこそ集められる情報ももちろんあるのだろう。

爛「……」

爛「はあ」

頬杖をついて、溜息。

爛「わかったよ」

そして、了解の返事を返した。

爛「どうせ切れる手なら、損が無い限り使ってて問題ねえしな」

チナミが先にクールPの奴に話を通してるのかはわからないが、アイツのことだから断らないだろうと爛は考える。

爛「何かあったら協力してやる。ただてめえの望み通り、利用するだけ利用してやるから覚悟しとけよ」

チナミ「ふふ、それでいいわ。イイ関係を築きましょうね、お互いに」

かくして2人の『エージェント』は、手を結ぶのであった。

188: 2014/05/26(月) 00:33:22.74 ID:buOmktNUo

チナミ「それじゃあ早速だけど、少し協力して貰っていいかしら」

爛「あ?」

爛「おい、さっきお前”今じゃなくて”とか言ってなかったか」

チナミ「ええ、確かに」

チナミ「”いつか私が必要なときに”って言ったわね。それが”その時の今じゃない数分後の未来”だとは教えてなかったけど」

爛「……屁理屈かよ」

大方、今すぐ協力して欲しいなどと言えば、交渉の弱みになるとでも考えたのだろう。

しかし一度協力する事を了承をしてしまった後ならば、弱みにはならず、爛としても断りづらい。

と言う心理を利用したかったのだろうが……別に爛には断るに足る理由は充分にあった。

爛「言質とってから協力仰ぐとか、わざわざ姑息な真似して貰ったところ悪いけどよ」

爛「俺この後アイドルの仕事だから、あんまり時間ねえんだよ」

爛「流石に今は、そっち優先な」

至極、単純で真っ当な理由である。


チナミ「大丈夫よ、すぐに済むし迷惑だってかけないから」

爛「?」


189: 2014/05/26(月) 00:34:18.20 ID:buOmktNUo

――


チナミ「はい、チーズ」

爛「……」(むすっ)


カシャ

190: 2014/05/26(月) 00:34:46.02 ID:buOmktNUo

――


チナミ「もう…せっかくなんだから、少しでも可愛く写りなさいよ」

携帯電話の画面に映る写真を見ながらチナミはぼやく。

爛「ちっ……なんだってそんな写真……」

チナミ「ちょっと、アイドルヒーローの写真が欲しかったのよ」

爛「……プライベートのをか?」

チナミ「ええ、プライベートの」

爛「……まあ別に、手に入れようと思ったら簡単に手に入るもんだからいいけどよ。俺の写真くらい普通に売ってるしな」

とは言え、プライベートの写真となると、ファン垂涎ものなのだろうが。

チナミ「まあ、これは使わないかもしれないけど、使うかもしれないから一応ね」

爛「???」

チナミ「これで準備はだいたい整ってきたかしら。後は……」


「チナミっさぁ~ん」

爛「あん?」

チナミ「丁度いい時に来たわね」

爛とチナミが、声の方向に目をやれば、そこには奇抜な格好をした若者が1人。

爛「誰だそいつ」

チナミ「この学園祭でさっき会った子達の1人よ、私の事案内してくれるんですって」

爛「なんで普通にナンパに引っ掛かってんだよ、お前は」

191: 2014/05/26(月) 00:35:35.07 ID:buOmktNUo

「チナミさんが探してた新田っすけど、見つけてきたっすよー。相変らず工口かったっす」

若者は2人の座る席まで、足早に近づくと、大仰な身振りを交えて何やら報告を始めだした。

チナミ「後ろの部分の報告はいいから、状況は?」

「今、仲間の一人が追跡してるっすー」

チナミ「そ。それじゃあ案内してもらうとしましょうか」

「任せてくださいよ!」

爛(あん?…………ただナンパに引っ掛かた訳じゃなくて良い様に使ってんのか……?)

爛(つか……この様子だと軽い暗示かけられてるなコイツも)

爛が訝しげに睨めば、若者はきょとんとした顔で見返してくる。

恐らく彼は自分の意思で行動してるつもりで、実際はそこに吸血鬼に操られているのだろう。

「……そっちの子も可愛いっすね、チナミさんの知り合いッすか」

爛をアイドルヒーローだとは気付かなかったようだが、可愛い容姿をしている事には目ざとく勘付いたらしい。

「ねえ君、どう?この後俺と一緒にお茶とかさー?」

爛(殴りてえ)

チナミ「残念だけど、彼女は今忙しいみたいよ」

「あっちゃあー……そっすかー……残念ッ!」

爛「おい、誰が彼女だ、誰が」

192: 2014/05/26(月) 00:36:33.45 ID:buOmktNUo


チナミ「じゃあ、私はそろそろ行くけど」

チナミ「最後に1つ、いい事教えておいてあげる」

爛「いいこと?」

チナミ「サクライの現在の居所よ」

爛「……それも知ってんのか」

チナミ「いいえ、でも今回の事で予想はついたわ」

チナミ「エージェント2人の行方不明に加えて、まとめ役の体調不良」

チナミ「これだけの事が起きてるのに、向こうからも連絡が無い」

改めて言われれば、爛も気付く。

爛「あー、わざと連絡切ってたり、連絡してこないんじゃなくって」

爛「連絡できねー場所に居るってことか」

例えば、異世界とか、異世界に順ずる土地に赴いてると言う事だろう。

チナミ「そこまでわかれば、何処に行ったのかもだいたい予想もできそうよ」

爛「ま、その条件でアイツが行きそうな場所っつーと限られてくるな」

最後の情報提供を終えると、チナミは席を立った。

193: 2014/05/26(月) 00:37:27.03 ID:buOmktNUo

チナミ「それじゃあまたね、爛」

チナミ「直接会える機会が、次にあるのかはわからないけれど」

チナミ「何か伝えたい事があれば、”使い魔の私”を送るから」

チナミは、まだ席に座る爛の横を通り過ぎ、部屋の入り口へと向かう。


爛「さっきのか」

爛「ま、あんま期待はしてねーけど」

爛「協力し合うって言った限りはせいぜい使える情報集めて来いよ」

爛は顔の向きを変えずに、返事だけを返した。


チナミ「そこは信用して貰っていいわ」

チナミ「その代わり、そっちも私の期待に答えなさいよ」

爛「おう、考えておいてやるよ」

互いに背中合わせ、向かい合わずに言葉を交し合う。


チナミ「じゃあね」

爛「じゃあな」

そして顔を合わせないままに、

チナミは部屋を出て、爛はそれを見送った。




194: 2014/05/26(月) 00:38:20.50 ID:buOmktNUo

――


「新田も、この教習棟にいるみたいっすね」

「ビラ配りしてたんすよ。チラシ渡す時にちょっと前に屈むんだけどさ。それがグッと来るんすわ」

チナミ「だから、後ろの報告はいらないから」

ツカツカと、若者を従者のように侍らせて、女吸血鬼は学院の廊下を歩く。

「言われたとおりに、新田の休憩時間も新田の友達に聞いて確認してっすから」

「アイツが暇になるのはもう少し後みたいっすよ」

チナミ「それじゃあ、今のうち衣装合わせを済ませておきましょうか」

「コスプレの貸し出しなら1階にあったはずっス」

チナミ「ええ、それじゃあ行きましょう」

彼女は無駄な事は嫌う。いつだって目的に向けて一直線に、邁進するのみ。


チナミ(待ってなさい、新田美波)

チナミ(これから、私が迎えに行ってあげるから)


かくして準備万端。満を持して、吸血鬼チナミによる新田美波攻略が始まる。

何も知らぬ少女に潜み寄る魔性の企み。

チナミ「ふふ…楽しみね」

チナミは毒牙を剥いて、まだ見ぬ少女の純潔なる血の味に思いを馳せるのであった。




……しかし、この後彼女は、

”物事はすべてが思い通りには動かないものだ”と痛感させられる事となるのである。


おしまい


195: 2014/05/26(月) 00:39:25.64 ID:buOmktNUo

『暗示魔法』

吸血鬼チナミが習得している魔法。対象の物事の認識をほんの少しだけ弄くれる。
術者であるチナミへの警戒心の高さがレジスト判定に用いられるため、
警戒心の無い一般人にはよく効くものの、爛のように少しでもチナミを警戒してる者には全然効かない。
その点では、有無を言わさず見つめた相手を操れる『吸血鬼の魔眼』より劣るが、
効果時間の長さや適用範囲の使いやすさ、操られてる事に対する気付かれにくさなど、こちらの方が勝る点もあり、使い分けが大事。


『チナミ(小)/ブラッド・ドッペルゲンガー』

吸血鬼チナミの血液と魔力から作られた使い魔の一種。分身であるため、ほぼ本人そのもの。
掌サイズであるため戦闘力はないが、吸血鬼と同じく影に溶け込みこっそり活動するのは得意。
人に見つかりにくい性質を活かし、メッセンジャーあるいはスパイとして使われる。
身体が小さいので物陰に隠れやすく、そのため本人ほど日光に気をつけなくていいので日中の活動も多い。
チナミのヘルパーとしての役割を持たされて作られたためか、どうにも興味本位でお節介を焼く性格になったらしい。
暇な時は自由気ままに過ごし、恋に悩む女の子を見つけてはこっそり耳打ちして行動を煽っ……手助けしたりしているとか。


『エージェント・バックメンバー』

櫻井財閥の暗部を担当する『エージェント』の、さらに裏側。
裏の裏、影の影たる詳細不明の特殊能力部隊。
彼らは表舞台に立つ名前や顔、立場さえ持たず、
ただ財閥と言う組織の敵対者を始末するためだけに動くと言う。
『バックメンバー』に対して、表でも活動する必要のある『エージェント』は『フロントメンバー』とされるが、
『フロントメンバー』には、基本的に『バックメンバー』の存在は明かされていない。


『鏡(ミラー)』

『エージェント』の1人。鏡に関わる能力を持っていたが、消息不明となった。

196: 2014/05/26(月) 00:41:39.02 ID:buOmktNUo
性懲りも無くべたべた伏線を貼っていくスタイル
無事回収できるかは知らない(投げっぱなしジャーマン)
が、頑張ります!

バックメンバーってどんな奴らかって?
私も知りません(ほぼ何も決めてない奴)

爛ちゃんお借りしましたー

197: 2014/05/26(月) 01:28:15.27 ID:ytAvJpBl0
乙ー

バックメンバー…そんなのもいるのか
そして、新田ちゃんの運命は!?

198: 2014/05/26(月) 07:25:16.50 ID:y/2zeQvF0
乙です
フロントとバック、なるほど面白くモバマスネタ使えるなぁ
ちっちゃいチナミさんかわいい
美波ちゃんを襲う前に失敗が確定してるチナミさんェ



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10