574: ◆lhyaSqoHV6 2014/07/02(水) 06:53:52.89 ID:pThR+vU4o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


副業でしばらく離れていたけど、落ち着いたので丹羽ちゃん復活編投下します
今や懐かしの憤怒の街時系列という

あと長くなっちゃってますごめんなさい

575: 2014/07/02(水) 06:55:48.63 ID:pThR+vU4o
期間空きすぎてるのでこれまでの流れ

丹羽ちゃん登場編

アヤカゲとの邂逅

憤怒の街騒動における仁美とあやめの立ち位置

狼型カースとの対決




仁美が次に意識を取り戻した場所は、周囲に一片の存在も感じない空間だった。

仁美「あれ……アタシ、どうしたんだっけ……?」キョロキョロ

辺りを見渡してみるも、虚空が広がるばかりである。
起き抜けに混乱しているかのような頭で今までの記憶を探るが、はっきりと思い出せない。


「ああ、情けなや情けなや!」

仁美「っ!?」

突如、周囲に何者かの声が響き渡り仁美は肝を冷やす。

「あの程度の異形に簡単に敗れるとは……それでも丹羽の人間ですか!」

仁美「エ……?」


声が聞こえてくると同時に、仁美の眼前に一人の女性が現れる。

仁美「も……もしかして……母さん?」

その姿は、仁美が物心付くか付かないかの時分に氏に別れた母親のものだった。


「そう言うんじゃないよ」

先程とは別の声が聞こえたと思うと、新たな人影が仁美の傍らに立っていた。

「仁美が頑張っていたのは、あなたも見ていたでしょうに」

仁美「!!?」

その姿を認めた仁美の表情が驚愕の色に染まる。

仁美「お、おばあちゃん! なんで!?」

仁美の傍に姿を現したのは数年前に亡くなった祖母だった。


母「母上は仁美を甘やかし過ぎだったのです、だからあの程度の相手に氏にかける」

祖母「あのねぇ……あなたが戦う術を伝えてあげられなかったのが悪いんでしょうよ」

母「む……それを言われると弱い……」

仁美「ど、どういうこと……?」

仁美の困惑をよそに、突然現れた母と祖母は口論を始めていた。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



576: 2014/07/02(水) 06:56:25.11 ID:pThR+vU4o

仁美「あ……そっか……アタシ、氏んじゃったんだっけ……」

氏に別れたはずの身内に会ったことで、現在の状況に対する理解と、目を覚ますまでの記憶が戻ってくる。
街に現れたカースの相手をしていて、致命傷を負い意識を失ったのだ。

母「いいえ……仁美よ、あなたはまだ生きています」

自分は氏んでしまったのだという答えに対し、しかし母から聞かされた言葉はそれを否定するものだった。

仁美「……だってここ、あの世じゃないの?」

母「あの世ではありません、現世と冥府の狭間とでもいうべき場所です」

現状の把握に苦戦している仁美に対して、母が説明を始める。


母「こちらに来る直前、あなたは『かあす』なる異形と対峙していた……それは覚えていますね?」

仁美「う、うん……」

母「その際にあなたは深手を負い、その身体から魂が抜け出てしまったのです」

仁美「よく分からないけど、それってつまり氏んじゃったって事じゃなくて?」

母「実際危険な状態でした……既のところで治癒が間に合ったようですが……」

母「あと一歩遅かったらどうなっていたことか……」

仁美「(治癒って……病院か何かに運び込まれたってことかな)」

仁美「(あの状態のアタシを治すとか……腕の良い医者も居たもんだね)」

要約すると、瀕氏の重傷を負いはしたものの、身体の生命活動が止まる直前で首の皮一枚繋がった……ということらしい。


母「そして、あなたは一時的とはいえ魂だけの存在となったことで」

母「私や母上の居る、この空間に立ち入る事が出来たのです」

母「もっとも、現世を彷徨うあなたの魂を、我々がこの空間へと呼び寄せた…という形にはなりますが」



大雑把に現状の説明を終えた仁美の母だったが、さらに言葉を続ける。

母「結局のところ、現世のあなたの身体が負った傷は完治してはいるのですが……」

母「現世に戻る前に、こちらでしばらく修業を受けてもらいます」

母「そのためにこちらに呼び立てたのですからね」

仁美「……」

577: 2014/07/02(水) 06:57:10.46 ID:pThR+vU4o

母から、現在に至るまでの顛末を聞かされた仁美は、浮かない表情を浮かべながらたどたどしく口を開く。

仁美「……この空間て、現世と冥府の狭間とかって言ってたけど」

仁美「言ってしまえば、夢か幻みたいなものなんだろうけどさ」

仁美は今まで聞かされた話を何とか繋ぎ合わせ、少しずつ言葉にする。

仁美「そんな場所で目を覚まして……それで、母さんとお婆ちゃんが出て来て……」

仁美「まあその……流れ的に……なんとなく予想はしてたけど」

仁美「なんだって……生きるか氏ぬかって時にまで修業しなきゃいけないの……?」ゲンナリ

母が自分の前に現れた理由を聞かされた仁美だったが、うんざりとした態度をおおっぴらにして隠そうともしないのだった。


仁美「(アタシ自身、母さんの事は全然覚えてないけどさ……)」

仁美の記憶の中の母の姿はその殆どがおぼろげであったが、
今まで生きてきた中で、幼くして母を亡くしたことによる寂寥感などを抱いたことは無かった。

仁美「(こんなわけのわからない状況とはいえ……もっとこう、感動の再開ーみたいなさ)」

仁美「(少しくらい……そういうのあってもいいよね)」

それでも、些か奇妙な状況ではあるが、折角の再開である。
仁美がそれに対し感慨深さのようなものを求めるのも無理からぬことだった。


母「あなたにはいずれ現世に戻った際に、今以上に戦えるようになってもらわねばならぬのです」

母「現世においてあなたを鍛える事が出来なかった以上、こうするより他に方法が無かったのです」

そんな仁美の様子を見ても、しかし母は意に介する風もない。

仁美「本当に戻れるのかすらも怪しいんだけど……」

仁美「……まあ……しょうがないか」

不満気だったが、それでも仁美は渋々といった様子で母のいう事を受け入れる。
いずれ現実に戻れるのなら力をつけておくことに越したことは無いし、
それに、拒否したところで現世への戻り方も分からない今の仁美には、他にどうすることも出来ないのだ。

578: 2014/07/02(水) 06:58:27.69 ID:pThR+vU4o

母「ふむ……なるほど」

仁美の意思を確認した母は、しばらく品定めをするかのように仁美のことを眺めていたが、やがて満足気に口を開いた。

母「身体能力の基礎は、どうやら出来ているようですね」

祖母「私の言いつけを守っていたんだね、偉いよ仁美」

仁美の様子を観察していた母の発言に、祖母が相槌を打つ。

仁美「そりゃ、おばあちゃんの遺言だったからね……毎日、鍛錬は欠かしてなかったよ」

自主的な鍛錬に加え、悪人やカースとも幾度となく戦ってきたため、
仁美には身体能力だけでなく実戦経験も豊富に身についていたのだ。

その能力は、母と祖母二人の大方の予想を大きく上回っていた。

母「これなら、"技"を伝えるのに問題は無さそうですね」

仁美「……技?」


祖母「丹羽の家には、一族相伝の戦闘術があるんだよ」

祖母「異形を仕留める為の"狩人の技"がね」

仁美「狩人の……技……」

祖母の説明を受けた仁美は、その言葉の意味を確かめるように繰り返す。

祖母「私がもう少し若かったら、生きてる内に仁美にも教えてあげられたんだけどねえ」チラッ

母「……私が伝えてやれなんだのは、済まなかったと思っています……」

祖母の非難するような視線を受けて、母はバツが悪そうに呟く。
本来なら一族相伝の技は親から子へと継がれるはずなのだが、幼くして母を亡くした仁美にはそれが叶わなかったのだ。


母「しかし、それはそれとして、ものすごーく頼りになる先生をお連れしたので」

母「あの方にかかれば私が伝えるよりよほどうまく、一族の技を体得することができましょう」

仁美「先生……?」


母「それではお呼びしましょう、仁美に一族の技を伝えて頂くのはこの方ですどうぞー!」

「よろしくお願い致します」

仁美「!?」

母が呼びかけに応じて虚空から現れたのは、仁美と寸分変わらぬ容姿を持った少女だった。

579: 2014/07/02(水) 07:00:08.82 ID:pThR+vU4o

仁美「あ、あれ……? ア、アタシ!?」

母「っ!! この子はなんてことを! こちらにおわすお方をどなたと心得ますか!」

仁美の発言を聞いて母が言葉を荒げる。

母「畏れ多くも、丹羽家興隆の魁と称えられしご先祖様にあらせられますよ!」

先祖「どうも、ご紹介にあずかりました、先祖です」

母から紹介を受けたご先祖様と呼ばれた少女は、目を丸くしている仁美の前に進み出る。

先祖「仁美、あなたの活躍はずっと見ていましたよ」

仁美「ご先祖様……興隆の魁?」

先程から状況についていけずに、仁美の頭の上には疑問符がいくつも浮かんでいる。


母「あなたは……自らの家系の歴史も知らないのですか?」

仁美「だって、興隆とか……うちの家ってそんなに大層な家柄だったの?」

母「くっ! ……ご先祖様、不肖の娘が申し訳ありません」

母は仁美の発言に憤慨しつつも、自らの娘の非礼について先祖の少女に詫びを入れる。

先祖「詮無きことです」

先祖「この国においては異形を相手にする者といえば、妖怪退治屋の方が名が有りますから」

それを受けた先祖の少女は、しかしさほど気に留めていないようだ。

仁美「(母さんとおばあちゃんが出てきただけでもわけわからないのに、今度はご先祖様……?)」

そんなやりとりを眺めながらも、相変わらず仁美は現状についていけていない様子だ。

580: 2014/07/02(水) 07:00:34.48 ID:pThR+vU4o

祖母「それじゃあ簡単に、ご先祖様の偉業について話してあげようかねえ」

混乱している仁美を見た祖母は、軽い前置きの後に目の前の少女についての逸話を語り始める。

祖母「かつて人間界に、魔界より攻め入ってきた吸血鬼の軍勢があってね」

仁美「きゅ、吸血鬼……!?」

祖母「その軍勢の首魁……吸血鬼連中の"祖"の一柱を討ち取り、軍勢を魔界へと追い返したのがこちらのお方なんだよ」

仁美「そ?を討ち取る?」

先祖の偉業とやらを語られてもいまいち理解が出来ず、仁美の頭上には相変わらず疑問符が浮かんでいる。


祖母「今より遥か昔……まだ人間が地上を全面的に支配する以前の時代」

祖母「この地上を手中に収めんと跋扈する魔界の勢力があってね」

祖母「それらの親玉が、『祖』などと呼ばれる吸血鬼だったんだよ」


祖母「彼奴はその膨大な魔力を用いて世界を暗雲で覆い尽くし、人々から陽光を奪い去った……」

祖母「こりゃいかんということで、幾人もの豪勇の者が挑んだものの、その尽くが返り討ちにあったということでね」

祖母「最終的にはこちらのご先祖様が、三日三晩にも渡る氏闘の末に、見事討ち取ったというお話さ」

先祖「うーん、懐かしいですねー」

祖母の話を共に聞いていた少女が口を開いた。


先祖「あの時は大変でした……現代は電気? でしたっけ? それのおかげで夜でも明るいですけど」

先祖「当時はロウソクとか油を燃やして明かりをとっていましたから」

少女は今しがた祖母が語った"吸血鬼の親玉"と対峙していた当時の様子を語る。

先祖「日光が弱点という事で考えたんでしょうね」

先祖「あれを退治するまでは夜が明けなくなってしまって……」


母「吸血鬼の祖といえば、魔界における諸勢力の中でも相当な上位に位置する存在……」

母「そのような難敵を下したのだと言われれば、ご先祖様の偉大さは自ずと理解できましょう」

仁美「……えっと、よく分からないけど、その吸血鬼とやらはとにかく強いってことよね」

仁美「それで、こちらのご先祖様は、それ以上って事ね」

状況に頭が追い付いていないのは変わらなかったが、
目の前にいる自分と瓜二つの少女の実力だけは辛うじて伝わったらしい。

581: 2014/07/02(水) 07:01:07.89 ID:pThR+vU4o

先祖「そのことなんですけどね……」

少女はふう、と、一息吐き出すと、若干顔を強張らせながら続ける。

先祖「実は……その、私が退治した祖ですけど……」

先祖「……そろそろ……復活しそうなんですよね」

仁美「あー、復活ね……そういう大ボス的な相手には付きものよね、うん……」

仁美「って! そんなのが復活するって結構マズいんじゃないの?」

先祖「申し訳ない話なのですが、奴の存在そのものを完全に滅することは出来なくてですね」

先祖「辛うじてその身を封じた……というような形になるのですが、その封印がそろそろ解けそうな感じでして……はい」

仁美「事の大きさの割になんか適当じゃない……?」

先祖「それでですね、あなたに今一度奴を退治してもらいたいという事でして……」

仁美「……エ?」

少女からさらりととんでもない事を言われ、仁美は言葉の意味を咀嚼するのに手間取る。


先祖「もしかしたら、もう既に復活しているという可能性もあるんですよね」テヘッ

仁美「えっと……それをアタシが?」

仁美の脳内で、先程の母の発言が少しずつかみ合っていく。

「現世に戻るにあたり、今より強くなってもらわなければならない」

「そのために、修業を受けてもらう」

「そもそも、修業を受けさせるためにこちらの世界に呼び出した」

といった内容だったはずだ。


仁美「(そうすると何か? アタシがその何とか言う吸血鬼をやっつけることになるって……?)」

仁美「……無理でしょ!?」

母や目の前の少女の言わんとしている事を理解した仁美は、知らず声を上げていた。

先祖「心配には及びません、ちゃんと吸血鬼と戦う術は教えますから」

仁美「そ、そんなこと言われても……で、出来ないよ……出来ないって……!」

そもそも不確実な未来の話なのだが、しかしどうしても仁美は引き下がる。
狼型カースとの戦いで手酷くやられて以来、戦うという事に対しどうにも臆病になってしまったらしい。

582: 2014/07/02(水) 07:02:08.21 ID:pThR+vU4o

母「……仁美」

母「あの、かあすだとかいう異形にやられ、臆しましたか」

食い下がる仁美の様子を見かねた母が口を開く。

仁美「う……」

母「戦えないというのならば、仕方がありませんね」

母「あなたは、もののふの魂を持ち合わせていなかったと……それだけの事です」

仁美「むむ……」

母は、仁美の反発心を煽るように言葉を続ける。

母「後は、世界が再び闇に閉ざされるのを、指を咥えて見ていればいい……それもまた一つの選択でしょう」

仁美「ぐぬぬ……!」


仁美「わ、わかったわよ! やればいいんでしょ! やれば!」

仁美「アタシがやらねば誰がやるってね!!」

母「よろしい!」

先祖「(チョロい……)」

祖母「(すぐムキになるあたり、血は争えないねえ……)」

仁美「(なんか乗せられた感があるけど、どっちみちそんなの放っておけないもんね!)」

吸血鬼と戦う意志を見せる仁美だが、その理由は煽られたからだけでは無かった。
元より仁美にも、彼女なりの正義感が備わっているのだ。
自分が動かねば世界が危ういなどと言われれば、それを拒否する様な事は出来ない。


母「まあ、吸血鬼と戦うという事は別として」

母「ご先祖様から直接ご指導頂けるというのは非常に栄誉なことなのです」

母「くれぐれも、粗相の無いように!」

祖母「それではご先祖様、孫をよろしく頼みます」

先祖「はい、任されました」

仁美「……なんか締めに入ってるのは気のせい?」

仁美に吸血鬼と戦う約束を取り付けた母と祖母は、言いたいことだけ伝えるとそのまま立ち去ろうとする。


仁美「ちょっと! 色々と投げっぱなしじゃない!?」

祖母「大丈夫、仁美ならきっとうまくやれるよ」

母「私達は、離れて見ていますからね」

仁美「ええー……」

仁美の困惑をよそに、二人の姿はそのまま立ち消える。
そして、先祖の少女と二人きりとなってしまった。

先祖「マンツーマン指導というやつですね」

仁美「うーん……まあ、なるようになる……」

仁美「というより、なるようにしかならない……か」

583: 2014/07/02(水) 07:02:34.21 ID:pThR+vU4o

先祖「さて……それでは、とりあえずこれを」スッ

少女は仁美の眼前に腕を突き出す。
その手には仁美も見慣れた斧槍が握られていた。

仁美「あ……そういえば、その槍……」

仁美「ごめんなさい……壊しちゃったんだ……」

少女の手にある斧槍を認めた仁美は、かつてない程にしおらしい態度を取る。

こちらの世界に来る前──つまり、現世において狼型のカースと戦った際に、
一族の伝える斧槍をへし折ってしまったことを思い出したのだ。

先祖「ええ、承知しています」

仁美の申し訳なさそうな声色を聞いて、少女は諭すように、あやすように言葉を続ける。

先祖「形あるものは、いずれ朽ちて無くなります……それは、万物に課せられた宿命……」

先祖「けれど、人の想い……心は、それを伝えようとする意志がある限り、絶えることなく」

先祖「永遠に、受け継いでいくことが出来るのです……」

仁美「想い……?」

先祖「我が一族が真に伝えるべきものは、この斧槍の様な物質的な"物"ではありません……」

先祖「仁美……あなたに、一族の技と共に、私の想いを託します」

先祖「受け取って、貰えますか?」

仁美「……」


退魔士として代々称えられてきた仁美の祖先である少女が言うには、
仁美が真に受け継ぐべきは退魔士としての心構えや志といった、精神的なものであるという。

仁美「(ご先祖様の想いを託されるっていうのは……)」

仁美「(それってつまり、跡を継ぐってことだよね)」

仁美の場合はその精神を伝えてくれる相手が居なかったため、今まではただ思うがままに得物を振り回すだけだった。
そうした経緯があって今回、一族の中で最も優秀であったとされる祖先の少女が出張ってくるという事態になったのだが──

仁美「(退魔士として大活躍してたっていうご先祖様の跡を、アタシなんかが継ぐことできるのか……自信無いよ……)」

逆にそれが仁美にとっては重荷となっている様子が見受けられた。


仁美「(けど……アタシだって退魔士の端くれ、丹羽家の人間なんだもんね……やるしかないよね!)」

仁美「……上手く出来るか分からない……けど……やれるだけやってみるよ!」

仁美は少女の問いに対し、声に若干不安の色を孕ませつつ、それでも最後は力強く意気込んでみせる。

先祖「それでこそ、私の後裔です……ありがとう」

仁美の決意を受けて、少女はその顔を綻ばせた。

584: 2014/07/02(水) 07:03:20.33 ID:pThR+vU4o

仁美「それじゃあお師様、よろしくお願いします!」

仁美は改まって、これから世話になる少女に頭を下げる。

先祖「お師様?」

仁美「その、アタシ殆ど我流でやって来たから、体系立てて武術を学んだことって無いんだ」

幼くして母を亡くした仁美は、唯一の肉親は祖母のみであった。
その祖母もかつては退魔士として活躍していた時分はあったのだが、寄る年波には抗えず、
仁美が得物を握る事が出来る年齢に至った頃には満足に構えを取ることも出来なくなっていた。
故に、仁美は独力で戦いの術を編み出す他無かったのである。

仁美「だから、諸々の技を教えてくれるご先祖様はお師匠様ってことだよね」

先祖「そうですか……わかりました」

先祖「そういうことでしたら私も、あなたの師匠の名に恥じないようにしないといけませんね」スッ

少女は改めてその手に持った斧槍を仁美に差し出す。
仁美はそれを、決意を秘めた面持ちで受け取るのだった。



先祖「それでは修業を始めるにあたって、とりあえず場所を移しましょうか」

少女が手を一つ叩くと、何も無かった周囲の空間が一変し、だだっ広い荒野へと変わった。

仁美「エ!? ここどこ!?」

先祖「私の心象風景を具現化してみました……修業するからには、それっぽい場所の方がよいかと」

仁美「すごい! マ○リックスみたーい☆」

先祖「この空間はいわゆる物質的な概念から切り離された場所ですからね、何でもアリなのです」

先祖「とはいえ、物理法則などは現実世界に則っていますので、修業をするという点ではそれなりの効果が見込めます」

仁美「……つまり、ご都合主義的空間ってことね」

先祖「……細かいことはいいでしょう……始めますよ!」

仁美「おーっ!」

仁美は少女に応じて気合いを入れ、修業への意欲をみせる。



仁美「(こちらの世界で目覚めてからというもの、理解を超す出来事がそれも短時間の間に多く起こったけど)」

仁美「(いつまでも混乱してばかりもいられないもんね!)」

仁美「(あれこれ考えても分からないし、それなら今出来る事に専念するのが一番!)」

現状に対する折り合いが付いたのだろう。
いよいよ、仁美の修業が始まろうとしていた。

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585: 2014/07/02(水) 07:04:03.39 ID:pThR+vU4o

修業を始める準備が整ったという事で、改めて仁美と少女は向き合う。

先祖「そうですね……最初は遠隔攻撃技から教えましょうか」

仁美「遠隔攻撃技……?」

先祖「武器に闘気を込めて振るう事で力場を生み出し、遠くの標的を切り裂く技です」

仁美「何をするのかさっぱりわからないけど、言葉だけ聞いてるとやたら凄そう……」

先祖「なんてことのない、いわゆる"飛び道具"というものですよ」

先祖「長柄を扱っているとはいえ、例えば空を飛んだりする相手には手が出せませんから」

先祖「そういう存在を相手取った時の為に編み出された技です」

仁美「なるほど……」

仁美「アタシは今まで空を飛ぶのは相手にしたことなかったけど、そういうのが出てきたら確かに厄介かも」

先祖「ちなみに、我が一族に伝わる技の中で、遠隔攻撃の基本にして究竟と呼ばれるものです」

仁美「……なんか大仰すぎて鼻に付くけど、ガッカリオチだったりしないよね!?」


先祖「百聞は一見に如かずと言いますからね……とりあえず、見ていてください」

少女は自分用に用意していたのだろう、手に持った斧槍をくるりと半回転させると逆手に持ち替え背後に回し、半身を乗り出し構える。

仁美「(あの体勢は……抜刀術?)」

その構えはさながら日本刀による居合抜きの様に見えた。


先祖「いきますよ! 『ペレグリンエッジ』!!」

少女が斧槍を思い切り振りぬくと、その正面50メートル程離れた位置にあった巨岩が真っ二つに割れる。

仁美「おほっ! すっご!」

斧槍の刃は当然ながら届いていないので、少女の言う通り何か目に見えない"力"で切り裂いた……という事になるのだろう。


先祖「ふぅ……どうでしたか?」

仁美「うん、実際すごかったんだけど……」

仁美「……何を叫んだの?」

先祖「技名ですよ」

怪訝そうな顔をしている仁美の質問に、少女はしれっと答えた。


先祖「攻撃をする前に気合い声を上げるでしょう? それの変化形です」

仁美「ああ、一族の"技"ってそういう……」

先祖「掛け声は重要ですよ? あるのとないのとでは、気合いの入り方も違いますからね」

仁美「……そういえば、あやめっちも忍術を使う前に何か叫んでいたっけ」

先祖「ちなみにこの技名には、空を舞う隼の様に素早い……または、その隼を落とす程の一撃」

先祖「そんな由来があるらしいです」

仁美「へえ……よく分かんないけど……」

586: 2014/07/02(水) 07:04:49.07 ID:pThR+vU4o

先祖「それでは、あなたもやってみてください」

仁美「うん……こうやって構えて……」

仁美は見様見真似で斧槍を構える。

仁美「(えっと……闘気を込める……闘気? 闘気って何……?)」

仁美「ええい分かんない! ペレグリンエッジ!」

仁美も師匠である少女と同じように得物を振るうが、目標にした岩は表面が多少削れる程度で真っ二つとまではいかなかった。

先祖「これは……!」

先祖「初見でここまでできるとは、お見事です」

それでも少女の目から見れば十分過ぎるほどの成果だったらしく、その表情には驚きの色が浮かぶ。

仁美「(うーん……どうもしっくりこないなー)」

しかし、仁美本人からすると納得のいかない出来らしい。


仁美「ねえお師様、叫ぶ技名って、決められたものじゃないといけないの?」

先祖「え? ああ、自分の中でその技のイメージが固められるのなら、どんな言葉でも効果はあると思います」

仁美「そっか……もう一回挑戦してみても?」

先祖「どうぞどうぞ」

仁美「(うーん……ペレグリン……ペレグリンかぁ……空を舞う隼ねえ……)」

仁美「(……よし!)」



仁美「それじゃ改めて……!」

どこか吹っ切れたかのような様子で、仁美は今一度構えを取ると──

仁美「『隼空刃』!!」

叫ぶ技名を変えて、今一度斧槍を振りぬく。


仁美「(横文字は今一つピンと来ないから、漢字を充ててみたよ!)」ドヤァ

仁美の放った技の勢い自体は先ほどと変わらなかったが、その視線の先にある岩は轟音を立てて崩壊した。

先祖「っ!?」

仁美「お? おー! やっぱり掛け声で変わるものなんだね、気合いの入り方が違うってヤツ?」

今度は目標にした岩を真っ二つにすることに成功したらしい。


先祖「(まさか……教えてすぐここまでこなすとは)」

はしゃぐ仁美の様子をよそに、少女はその能力に驚愕していた。

先祖「(この子の伸びしろは……計り知れないものがある)」

先祖「(これは、鍛え甲斐のありそうな弟子ができましたね……!)」

587: 2014/07/02(水) 07:05:23.10 ID:pThR+vU4o

先祖「素晴らしいです、仁美」

満足げな笑みを浮かべながら、少女は仁美に呼びかける。

先祖「正直驚きました、あなたの能力は私の想定以上です」

仁美「そ、そう? そんな風に褒められると背中がかゆいね!」

先祖「この調子で修業を続けましょう」

先祖「あなたなら、いずれ私を越える事も出来るかもしれません」

仁美「えっと……あんまり期待されても困るというかー……精いっぱいやってみるけどね」

先祖「その意気です、弱気になってはいけませんよ」


先祖「それでは、この技をもう千回ほど練習です!」

仁美「エ? 千回!?」

先祖「一度の成功では極意を得たとは言えませんからね、極意を得るためには千回でも少ないかも知れません」

仁美「(存外スパルタだったー!)」

先祖「ほら、呆けてる暇はありませんよ!」

仁美「(これは……現世の身体より先にこっちの身体が滅びそう……)」

先行きに若干の不安を覚えつつ、仁美は先祖の少女との修業を続けるのだった。


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588: 2014/07/02(水) 07:06:28.26 ID:pThR+vU4o

──それからしばらく後──


仁美と先祖の少女の修業は(時間の流れの曖昧な空間ではあるが)かなりの長期に渡り続けられていた。


先祖「次は投擲武器の扱いを会得してもらいますよ!」

仁美「何これ? 液体の入った……ビン?」

先祖「投げてみて下さい」

仁美「うん……うわっ!? 燃えた!? 火炎ビン!?」

先祖「聖水です」

仁美「聖水!?」



先祖「お次はコレです」

仁美「何これ……手裏剣?」

先祖「十字架(クロス)です」

仁美「十字架!?」

先祖「投げてみて下さい」

仁美「うん……うわっ!? 戻ってきた!? あぶなっ!?」サッ

先祖「あーっ、避けたらダメですよ! キャッチしないと!」

仁美「無理無理! こっちが怪我するって!」



仁美が修業を始めて以来、一族の伝える珍妙な技の数々に始まり、
丹羽家の人間が今まで戦った相手の対処法や斧槍以外の武器の扱い、
あらゆる状況展開における最善手等々、戦闘に関する事柄をひたすら教え込まれることとなっていた。

今まで思うがままに得物を振り回していただけだった仁美にとっては、
若干形式ばったそれらの内容は不慣れでやり辛いものだったが、
持ち前の負けん気で修業を続けていくうちに、先祖の少女の教えを着実に物にしていった。

589: 2014/07/02(水) 07:06:58.11 ID:pThR+vU4o

先祖「ふむ……中々様になってきましたね、それくらいで良いでしょう」

離れて見ていた少女は、及第点に達したということなのだろう、仁美の練習を切り上げさせる。

仁美「はあ……やっとお許しが出た……」

先祖「さて仁美……これで、私からあなたに教えられることは最早無くなりました」

仁美「……エ?」

諸々の訓練が一段落ついたところで、少女が唐突に切り出す。
それに対し、仁美は疑問の表情を浮かべる。


先祖「あなたは、私の教え得るすべての事柄を体得してしまったので」

仁美「そうなの?」

仁美「アタシとしては、まだ全然お師様に追いつけた感じが無いんだけど」

先祖「現世と同等の環境で修業が出来るといえど、やはりこちら側で鍛えるにも限界がありまして……」

仁美「限界か……まあ言ってみれば、こっちの世界で修業するのって、睡眠学習みたいなものだもんね」

仁美「ここでいくら修業をしても、実際に自分の身体を動かすのとは訳が違うって事よね」

先祖「その通りです」

仁美が今いる空間は、重力等の物理法則、自身の身体能力や五感等の感覚も現実と全く同等に再現されている。
いわば、ものすごく高度なイメージトレーニングを行っているとも言える状況であった。

こちらの空間で得られた経験は、仁美の記憶(あるいは魂とも言える)に刻み込まれ、
現実世界においても容易に出力が可能となるのだが……。

先祖「こちらの世界で学ぶべきが無くなったあなたが、さらに力を付けんとするならば」

先祖「現世に戻り、後はひたすら実戦をこなす……という事に尽きるのです」

仁美「なるほどね……まあ幸か不幸か、向こうでも戦う相手には困らないけど」

物質的な概念から切り離されたこの空間では、鍛えることが出来るのはあくまで心技のみとなる。
先祖の少女の手により精神的に鍛え上げられ、さらに一族に伝わる妙な技の数々を体得したとはいえ、
その力を真に己が物とするには、やはり現世での実戦を経る必要がある……という事らしい。


先祖「と、いう訳で」

先祖「仁美よ……現世へと戻る時が来ました」

仁美がこちらの世界での修業を終え、現世へと戻る事になったという事実を受けて、少女は改まって仁美に語り掛ける。

仁美「そっか……いよいよ戻ることになるんだね……」

仁美「お師様……どうもありがとうございました」ペコッ

それに対し仁美は、神妙な様子で頭を下げる。

先祖「いえ、私も久しぶりに楽しかったです」

先祖「あなたなら、丹羽の人間としての務めを立派に果たしてくれると、信じていますよ」

仁美たちが居るのは現世における時間の流れから隔絶された空間ではあったが、
体感的に短くない時を過ごしていた二人の間には、師弟の絆とでも呼べるようなモノが出来上がっていた。

590: 2014/07/02(水) 07:08:22.48 ID:pThR+vU4o

祖母「仁美……逞しくなったね」

母「ええ……本当に……」

仁美「おばあちゃん……母さん……」

見送りに来たという事だろうか、いつのまにか母と祖母も仁美の傍へと立っていた。

祖母「現世に戻ったら、よくやるんだよ」

仁美「うん……頑張るよ」

祖母「それと、家に帰ったらうがい手洗いと、寝る前には歯を磨くのを忘れないようにね」

仁美「……うん」

祖母「あと、遅くまで時代劇見てないで、夜は早く寝るんだよ」

仁美「(おばあちゃん……心配性過ぎるよ……!)」


母「仁美……」

祖母とのやりとりが済むと、次に母が進み出て来る。

母「あなたが傷つき、倒れるところを見るのは、忍びないものがありましたが」

母「こうして、あなたに会えたという点においては、巡り合わせに感謝しています」

仁美「うん……アタシも、母さんに会えて、嬉しかったよ」


母「……あなたには、母らしい事は何もできませんでしたね……」

母「そのことについては、申し訳なく思います」

仁美「……」

"母らしいこと"と聞いて仁美は自らの記憶を探るが、その言葉の通り思い出せる事は何も無かった。
物心付いた時には祖母と二人暮らしだった仁美には、母親のその腕に抱かれた記憶すら無かったのだ。


母「けれど仁美……」ギュッ

仁美「っ……」

母は両の手で仁美を抱きしめると、慈しむように囁く。

母「母はいつでもあなたを見守っていることを、忘れないで」

仁美「母さん……うん、ありがとう」

現世では叶わなかった母親の愛情に触れ、仁美も強く抱き返すのだった。



仁美「あ、あれ……これは?」パァァ

身内との別れを済ましていると突如、仁美の身体が淡い光に包まれる。

先祖「……そろそろ、時間みたいですね」

それは、仁美が現世へと戻る時が近づいている事を意味していた。

仁美「そっか……今は、お別れってことね」

話している間にも、仁美を包む光はますます強くなっていく。

先祖「それでは仁美、武運を祈っていますよ」

仁美「はい! 行ってきます……!」

少女の言葉に強く頷き返すと仁美の視界は白一色に包まれ、そこで意識が途切れた。

591: 2014/07/02(水) 07:09:01.27 ID:pThR+vU4o

──その頃・現実世界では──

明かりの無い暗い部屋に、白衣を着た男が佇んでいる。

男の目の前には鈍く輝く手術台のような形状の机が置かれており、
その上には意識を失ったまま目を覚まさない仁美の身体が横たえられていた。

手術台の周囲には巨大なコンデンサやらラジエータやらがひしめいており、部屋のそこかしこに種々の導線が這っている。
それらの導線は最終的に男が両の手に持った妙な装置(さながら版画を摺る"ばれん"のような)に繋がっており、
その装置からは時折パチパチと静電気スパークが発生していた。

「(うまく行くかはかは分からんが……やってみるほかあるまい……)」

男が手に持った装置同士を摺り合わせると、一際大きなスパークが走る。

「さあ! 蘇るのだ! この電撃でーっ!!」ビリビリ

男は満を持して両の手の装置を仁美の身体に押し当てる。
すると、暗い部屋が眩く照らされるほどの電撃が彼女の身体を走り──

仁美「っ!?」ムクッ

その光が収まると、その身体が跳ねるように起き上った。


仁美「……ここは?」キョロキョロ

「おぉっ! なんと! 成功してしまったぞ!」

仁美「……」

仁美「何奴っ!?」ガバッ

「うわーっ!?」ドンガラガッシャーン

見知らぬ場所で目を覚ました仁美は、目の前に居た男に掴みかかる。

「わ、私は怪しい者ではない! 話を聞いてくれ!」

だが、相手の必氏の弁明を聞くに、どうやら敵意を持ってはいないらしかった。


───────────────

────────

───

592: 2014/07/02(水) 07:10:05.02 ID:pThR+vU4o

男は話をするのに落ち着けないという事で仁美を居間の様な部屋へと通すと、
自らを龍崎博士と名乗り、仁美がこの場所へと運び込まれた経緯を語り始めた。

仁美「……つまり、狼型のカースに襲われてた所をアタシに助けられて、とりあえずシェルターに避難して」

仁美「ほとぼりが冷めた頃に外に出てみたらデカい馬に背負われる血まみれのアタシを見つけたから」

仁美「この家まで運び込んで治療してくれた……と」

博士「だいたいそんな感じ」

博士「(月宮博士を目覚めさせるために開発していた装置が、まさかこんなところで役に立つとはな)」


仁美「いやー、そうとは知らずにごめんなさい」

目の前の男がどうやら善人であるらしい……という事を把握した仁美は、謝意を示す。

博士「いやいや、目覚めてすぐ目の前に怪しい男がいたら致し方ない事だよ」

博士「しかし、無事に意識が戻って良かった……」

それに対し博士は、仁美の復活について、心から安堵した様子を見せた。


仁美「けどアタシ、結構な怪我をしてたと思ったんだけど……博士が治してくれたの?」

博士「そのことなんだがな、君の乗っていたあの馬が、どうやら治癒の能力を持っていたらしくてな」

仁美「エ!? 初耳だよ!」

博士「君がカースと戦っていた現場からこちらに来るまでの間に、ほとんどの傷は癒えてしまっていたのだよ」

仁美「(そっか……松風が……)」

博士の話では、仁美が氏の淵から生還出来たのは博士の力だけでは無く、
仁美の使い魔である松風の協力があってのものだったらしい。

普段から憎まれ口ばかり叩いていた松風の様子からは想像もつかない話だったが、
ほとんど第三者である博士が言うのだから事実なのだろう。

593: 2014/07/02(水) 07:11:48.63 ID:pThR+vU4o

仁美「それで松風……アタシが乗ってた馬は、どこに?」

博士「ああ、うちの庭に居てもらっているよ」

仁美「あ……そうなの?」

仁美「(松風のことだからアタシが氏にかけてる間に何処か行っちゃいそうなもんだけど……)」

仁美「(でも、逃げないでいてくれたんだ……良かった)」ホッ



博士「ところで仁美君、君の私物に手を付けたわけではないのだが……ちらと目に留まってしまったのだがね」

仁美「?」

博士が急に畏まって切り出す。

博士「君の扱っていたと思われる武器なんだが……少し拝見させて貰ってもいいかな?」

仁美「あっ……」

仁美「(すっかり忘れてた……折っちゃったんだった……これからの得物どうしよう)」

仁美「……壊れちゃってるし、好きなだけどうぞ」

仁美は、博士が保管していたという仁美の私物の中から折れた斧槍を取り出し、博士に手渡す。


博士「これは……やはり、レイディアントシルバーではないか!」

仁美「れいでぃあんと……? 何?」

博士「神気霊銀とも呼ばれる、伝説上の金属だ」

博士「退魔の力を宿すなどという話だが、その製法は失われて久しい……とのことでな」

博士「私も、古い文献に出てくる情報しか知らなくてね、実物を見たのは初めてだ」

仁美「へぇー……何気なく振るっていたけど、すごい物だったんだ」

博士の話に、仁美は適当に相槌を打つ。
自らの得物についてどういった物なのか特に意識したことは無かったが、
博士の興奮ぶりからすると、割と大層な代物らしい。

594: 2014/07/02(水) 07:12:26.24 ID:pThR+vU4o

博士「時に仁美君、この槍……私に預けてみないかね?」

龍崎博士は怪しい笑みを浮かべながら仁美に提案する。

博士「このままでは、使い物にならんだろう」

博士「君さえよければ修繕というか、今一度使えるようにすることも出来るが」

仁美「えっと……? 直してもらえるなら、ありがたいことだけど……」

博士からの提案は願っていもないことだったが、いかんせん興奮した様子でまくし立てられているため、
仁美は思わずたじろいでしまう。

博士「悪いようにはせんよ! うむ!」

仁美「えっと……じゃあ、お願いします……?」

結局博士の勢いに押され、頷いてしまった。

博士「任せていてくれたまえ!」


仁美の許可が下りたのを確認するやいなや、博士は跳ねるように立ち上がった。
そのまま部屋から出ていこうとするが、思い出したかのように振り向き口を開く。

博士「いずれにせよ、君も目覚めたばかりで、身体もまだ思うように動かんだろう」

博士「しばらくは療養がてら、この家は好きに使ってもらって構わんのでな」

仁美「うん、ありがとう……あ! そうだ博士!」

博士「ん? どうしたね?」

仁美「アタシの槍だけど、出来たらでいいから赤くして欲しいんだ」

仁美は、立ち去ろうとする博士を呼び止めると、斧槍に関してよく分からない要求を出す。

博士「赤く? 別に構わんが、どうしてかね?」

仁美「赤備えってヤツよ! カッコいいでしょ?」ドヤァ

博士「ふむ……なるほど、承知したよ」ニヤリ

博士は不敵な笑みを浮かべ了承すると、先程仁美が目覚めた部屋(どうやら研究室らしい)へと入っていった。

595: 2014/07/02(水) 07:12:59.61 ID:pThR+vU4o


仁美「(博士……行っちゃった)」

仁美「(さて……これからどうしよう)」

一人取り残された仁美は、改めて現在の状況について思案する。

仁美「(とりあえず、ズタボロの制服は着替えとこ……荷物の中に体操着があったはず……)」

仁美「(それにしても、全身切り裂かれたはずが、傷はほとんど無い……)」

仁美「(博士の言う通りだとしたら……そうだ……松風は……)」

仁美は立ち上がり、窓にかかったレース状のカーテンを開き、庭の様子を伺う。


仁美「ねえ……松風、居るの?」

恐る恐るといった様子で、使い魔の名を呼んでみる。

松風『……なんだよ?』

すると、植え込みの陰から、見慣れた黒馬が姿を見せた。

仁美「あ……居たのね」

松風『……もう少しで、自由の身だったんだがな』

仁美「えと……その……アタシのこと、助けてくれたんでしょ?」

仁美「あの、博士から聞いたよ」

松風『……あの人間……余計な事を……』

仁美の発言を聞いて、松風は不機嫌な態度をあらわにする。


松風『確かに、事実上はお前を助けたという事になるのかも知れんが、勘違いするなよ』

松風『俺はお前に対して慈悲だとか温情だとかいった感情は一切持ち合わせていないからな』

松風『お前を助けたというのも……単なる気まぐれに過ぎん』

仁美「(松風、いつもより饒舌……)」

仁美は長年の付き合いから、松風が言葉数多く否定するのは、何かを誤魔化したい時のものであると知っていた。

仁美「それでも、助けてくれたっていう事には変わりないもんね……ありがとね!」

松風『チッ……勝手抜かしてろ』

仁美に対しつっけんどんな反応を返す松風だったが、その声色はどこか嬉しそうなものだった。

596: 2014/07/02(水) 07:13:58.26 ID:pThR+vU4o

――一方その頃――

研究室に引き籠った博士は、新しい玩具を得た子供の様な目で、仁美の斧槍を弄り回していた。

博士「(うむ、この輝き……文献で見る通りだ……素晴らしい)」

博士「(……穂先と斧刃に、柄も一体成形なのか……なるほど、見事な技術だ)」

博士「(GDFから寄越された地球外金属のサンプルはまだいくらか残っていたな……)」ガサゴソ

博士「(……折れた槍は成形し直して斧頭に利用しよう……新しい槍身と穂先にはもっと軽量の金属を用いる……)」トンテンカンテン

博士「(後は、ネオトーキョーのアングラマーケットで仕入れた諸々の機械技術を盛り込んで……)」カチャカチャ

───────────────

────────

───


ガチャッ


仁美「(あ、博士やっと出てきた……)」

研究室に引き籠って数時間後、ようやく部屋から出てきた博士の手には巨大な斧槍が握られていた。

博士「出来たぞ仁美くん! 機械式斧槍だ!」

仁美「(機械式?)」

博士「仁美君の要望通り、豪勇無双の者のみが持つことを許されるという朱槍をイメージし、赤くしてみた」

博士「名付けて……『クリムゾンブロウ』!」

仁美「何それ!?」

博士「格好良かろう?」

仁美「ま、まあ、何でもいいけど……」

博士は持ってきた斧槍を仁美の目の前の机の上に置く。
仁美の目から見ると、修復されたそれは以前の面影が殆ど無くなっていた。

仁美「(……これが……アタシの新しい得物……)」

仁美は博士から斧槍を受け取ると、それを掲げ、感慨深げに目を細め眺める。

597: 2014/07/02(水) 07:14:47.89 ID:pThR+vU4o

博士「ふむ……軽く説明しておこうかね」

博士は一呼吸置くと、改造した点(殆ど作り直しなのだが)について説明を始めた。

博士「一番目につくであろう全体の大きさだが、攻撃能力の向上を図り、以前より柄と穂先を長めに取り、斧頭も大型化してある」

博士「その大きさの割に――実験的にではあるが、斧槍を構成する大部分に特殊な金属を用いた結果」

博士「本体の重量はかなり軽量に仕上がった」

仁美「確かに見違えるようになったけど、機械式っていうのは?」

仁美「アタシ、機械とかダメなのよね……」

博士「ふむ、機械式というのも、これまた実験的にだが様々な機構を組み込んでみたのだがね……」

柄をよく見ると、銃火器のトリガーの様な部品がいくつか取り付けられていた。

博士「まずは伸縮機能の説明から──」

仁美「(ここを引くと、よく分かんないけどどうこうなるワケね……)」グイッ

博士の説明を聞くより早く、仁美は槍身に据え付けられたトリガーを引いてしまう。
すると「ガキン」と硬質な金属音と共に、元より長大な斧槍の穂先が更に伸びた。
伸びた、というより飛び出した──あるいは、撃ち出されたといった方が適切かもしれない。

仁美「!?」

博士「」

突然の出来事に思わず硬直している仁美と博士の視線の先──斧槍の、その尖端は天井を突き破っていた。


仁美「エ……何事!?」

博士「あー……説明が遅れたな」

博士は冷や汗をかきつつ、斧槍の機能の説明を続ける。

博士「その柄の内部にはバネが仕込まれていて、今君が引いたそのトリガーによって槍身が射出されるようになっている」

博士「近接戦闘における隠し種として組み込んでみたのだがね」

仁美「そ、そうとは知らずに、ごめんなさい……」

博士「いやいや、機能を伝えられずに渡されたのなら致し方ない事だよ」

仁美と博士は本日二度目となるやり取りを交わす。

博士「だが、その他の機能については外で試して欲しい……危ないからね」

仁美「はい……」

598: 2014/07/02(水) 07:16:02.38 ID:pThR+vU4o

博士「──と、まあ、そんなこんな機能を追加しておいたのでね、有効活用してくれたまえ」

仁美「うん、後は実際に使ってみてってところね」

博士の斧槍に備わったその他の機能についての諸々の説明を聞き終えると、仁美が口を開いた。

仁美「博士……ありがとう」

仁美「助けてくれた上に、武器まで修理してもらって……」

博士から少なくない恩を受けた仁美は、心からの感謝を告げる。

博士「君は私の恩人だからな、そんなに畏まらないでくれたまえ」

博士「君はカースを倒し、人々を守ってくれているのだろう?」

博士「その手伝いが出来るというのなら、私にとっても嬉しい事だよ」

それに対し、博士は微笑んで返すのだった。


仁美「そういう事なら、博士の気持ちに応えるためにも」

仁美「新しくなったこの槍で、じゃんじゃんカースをやっつけないとね!」

博士「うむ、実に頼もしい限りだ」

心機一転し、活動を再開しようと意気込む仁美だったが──

仁美「……ん……メール?」

その元に、一通のメールが届く。

仁美「これは……あやめっちからだ……!」

それは、戦友である少女からの、カース発見の報であった。


仁美「(あ……よく見たら、着信とか安否確認のメールとか凄い来てる……)」

仁美「(そりゃそうだよね……カースの出現場所に応援に呼んでおいて音信普通になったら心配するよね)」

仁美「(考えが回らなかった……ごめんあやめっち!)」

博士「(仁美君……機械が苦手と言っていたが、まさかシニア向けケータイを使っているとは……)」


仁美「博士! 急な話でごめんなさい! アタシ行かないと……!」

博士「カースが現れたのかね」

仁美「うん、アタシの友達が戦ってるっていうから、助太刀に行ってくる!」

博士「そうか……それならば、ここで無事を祈っているよ、その友人の分もね」

仁美「ありがと! また改めて挨拶に来るから!」

そう言うと仁美は、松風の元へと急ぐ。
助けを求める戦友の元へと駆け付ける為に。

599: 2014/07/02(水) 07:18:28.93 ID:pThR+vU4o

──どこかの街中──

『正義の忍者アヤカゲ』こと浜口あやめは、街中に出現したカースの集団と対峙していた。

あやめ「(敵の数が多いですね、目測で十体以上……)」

カースの数は多く、あやめ一人での対処は少々厳しいかも知れない。

あやめ「(しかし、それはそれとして)」

だが、眼前のカースの集団に関して、その数以上に気になる点が見受けられた。

今はお互い遠巻きに出方を伺っている状態であるが──そもそも、"カースが相手の出方を伺う"という状況そのものが特異だった。
通常、カースといえば何処かしらから突然湧いて出て、好き勝手に破壊行為を行う存在であったはずだ。

あやめ「(あの妙な気配は……)」

見ると、カースの集団の中央に一体だけ、他とは異質の存在感を放つ個体が居座っていた。
その姿は不定形の泥では無く、トカゲに翼を生やしたかのような──いわゆる"ドラゴン"の様なシルエットを象っている。
ここ最近出現が相次いでいる『獣型カース』だ。


あやめ「(見慣れぬ相手故、まずは小手調べから──!)」

あやめは懐から棒手裏剣を数本取り出すと目標の有翼型カースを見据え、目にも留まらぬ速度で投擲する。
しかし、今まで動かなかった通常型の一体が素早い動作で射線上に立ち塞がり、手裏剣は全て受け止められてしまった。

よくよくカース集団のその動きを観察してみると、有翼型が周りの通常型に"指示"を出しているようにも見受けられる。

あやめ「(あのトカゲの様な、コウモリの様なカース……アレが司令塔の役割を果たしているという事ですか)」

あやめ「(これまでのカースには見られなかった性質ですね……)」

今まで相対してきたカースとは異なる存在を前に緊張が走り、刀を握る手はじんわりと汗ばんでくる。

あやめ「(ヤツの能力は未知数……おまけに周囲のカースの数も多い)」

あやめ「(なんとも分が悪いですね)」

多勢に無勢、そのうえ戦闘力の読めないイレギュラーまで居る。
まともにぶつかれば勝ちの目は薄いだろう。

あやめ「(とはいえ、わたくしがどうにかせねば!)」

それでも、あやめは戦う姿勢を崩そうとはしない。

600: 2014/07/02(水) 07:19:28.72 ID:pThR+vU4o

カース出現に際し周囲の一般人の避難は完了しており、然るべき組織へのカース発生の連絡も既に行われている筈だ。
しかし現在、カースに対抗する力を持つ者の多くは『憤怒の街』の解放に専心しているため、
アイドルヒーロー同盟にせよGDFにせよ、街の外での散発的なカース発生に割ける戦力は多くないのだった。

実際、カース集団が現れてかれこれ十分以上が経過しているが、未だにヒーローやGDF隊員のやってくる気配は無い。
これほどまでにカース対策組織の初動が遅れることなど、かつてない事態だ。
まさしく、余剰戦力が不足しているという事の証左だった。


あやめ「(僅かばかりの時間稼ぎも、果たして意味を成すかどうかわかりませんね……)」

援軍が見込めないのであれば、一人で何とかするしかない。
例え勝機が見えなくとも、遁走することなどあやめのニンジャヒーローとしての矜持が許さない。

あやめ「(かくなる上は、殲滅する気構えで臨むまでです!)」

あやめは刀を構え直すと、カースの集団へと飛び込んでいくのだった。

601: 2014/07/02(水) 07:20:40.00 ID:pThR+vU4o


「ギャース!(単騎で手向かうか……ふむ、手並みを見せて貰おうか)」

真正面から猛スピードで迫るあやめを認めた有翼型が雄叫びを上げると、数体の通常型カースが迎撃に動く。
標的を射程圏内に捉えたカースは腕状部位を振り上げ、あやめを叩き潰さんと振り下ろす。

あやめ「(遅いっ!)」

だが、次の瞬間には攻撃目標とした場所にあやめの姿はなく、その腕は地面を穿つばかりだった。
当のあやめはと言うと、大通りの両側にそびえ立つビルの壁面目掛け跳躍していた。
壁面まで辿りつくと、それを足場としさらに反対方向へと跳躍する。

「ギャース!(小娘が、猪口才な!)」

背の高いビルが林立する街中は、あやめのテリトリーであった。

地形の高低差を利用した高速の三次元的機動によって相対する敵を翻弄しつつ、僅かな隙を見つけて致命打を見舞う──
高機動戦闘を是とする忍者一族の戦闘理論に基づいた、あやめの基本戦術である。
以前より、基本的に動作の緩慢なカースという存在に対しては必勝の戦法だった。

御多分に漏れず、このカースの集団も縦横無尽に飛び回るあやめのその姿を追うのが精一杯の様子だ。


あやめ「もらったっ! 疾風弾導破!!」

自分を追いきれていないのを好機と見たあやめは、有翼型へと攻撃を加える──が。

「ギャース!(効かぬわ!)」

あやめ「くっ!?」

狙いすました必殺の一撃だったが、しかし周りのカースがすぐさま立ちはだかり泥の壁となり有効打には至らなかった。
あやめの素早さに無理に付いていこうとするのは得策ではないと判断したのだろう、
有翼型は配下のカースに防御態勢を取るよう指示していたらしい。

あやめは一旦仕切りなおすべくカースの集団から距離を取る。

あやめ「(向こうの攻撃はこちらには届かない……けれど、こちらの攻撃も効かない……)」

あやめ「(このまま続けたとて千日手……まずは取り巻きから倒すべきやも知れませんね)」

あやめは今一度カース集団へと攻撃を仕掛けるべく、再度突撃する。

602: 2014/07/02(水) 07:21:23.51 ID:pThR+vU4o


「ギャース!(見えたぞ!)」

あやめ「っ!?」

あやめ様子を探っていた有翼型は、待ち構えていたのだろう彼女の跳躍と同時に地上を離れ宙を舞う。
翼を備えているという事は──それが飾りでなかった場合、飛行能力を有しているという事になるのだ。

有翼型は戦闘が始まってからというもの、ずっと動く気配を見せなかった。
そのため、あやめの頭からは「敵は翼を備えているため飛ぶかもしれない」といった可能性は排されていた。


「ギャース!(堕ちろ!)」ゲボー

あやめ「ぐうっ!!」

敵の予想だにしない動きを前に対処が遅れたあやめは、有翼型の放ったカース弾の直撃を受けてしまった。
咄嗟に防御の姿勢を取ったものの、大きく吹き飛ばされ地面へと叩きつけられる。


あやめ「油断……しましたね……」

あやめはなんとか立ち上がると、カース弾を受けた個所を庇いながら、面頬の奥で苦々しげに眉をひそめた。
致命傷とまではいかないが、攻撃を受ける前までの様に満足に動き回る事はもはや出来ないだろう。

あやめ「(もはやこれまで……でしょうか)」

勝ちの目が本格的に潰えたことで、あやめの中に絶望感が広まっていく。

あやめ「(仁美殿さえ居てくれれば……こんな奴らに……!)」

弱った心に去来するのは、今この場には居ない戦友の姿だった。

あやめ「(……仁美殿……一体いずこへと消えてしまわれたのですか……)」

603: 2014/07/02(水) 07:22:03.13 ID:pThR+vU4o

数日前にカース発見の報せを受けて以降、あやめは仁美との連絡が取れずにいた。
あやめが当のカース出現地点にたどり着いた時には既に戦闘は終結しており、その場に仁美の姿は無かったのだ。

あやめ「(あの現場に残っていたのは、カースの残滓と、誰のものとも知れぬ血痕……)」

あやめ「(そして、仁美殿の得物の破片だった……)」

周囲の荒れ具合からみて、確かに戦闘が行われていたのであろう事は推察できたが、
あやめが見つけたのは、仁美の遺留品──血だまりに浮かぶ、折れた斧槍の片割れである柄の部分だけだった。

近場にいた人々の話では、黒馬に跨った少女が複数のカースと戦闘をしていたとのことだったが、
誰も彼もが早々にシェルターに避難してしまったため、仁美の身に起こった顛末を語る事の出来る者は居なかった。

一見すれば仁美の身に何か大変な事が起こったのであろうことは想像に難くなかったが、あやめはその無事を信じて疑わなかった。
もし仮に──最悪の想像ではあるが、仁美がカースとの戦闘で氏亡していたのだとすると、亡骸が現場に残っている筈だ。

状況証拠だけで仁美がやられてしまったと判断するのは早計だと、
何度も安否確認の連絡を入れ、仁美の居場所について心当たりを巡り歩いた。
だが、精一杯の捜索にも関わらず、仁美の足取りは全く掴めぬまま数日が過ぎてしまうのだった。

それでも、仁美の無事を気丈に信じて過ごしてきたあやめだったが──

あやめ「(仁美殿……やはり仁美殿も、カースに……やられてしまったのですか……?)」

絶望に支配された今となっては、もはやその望みも持てなくなっていた。

今回のカース集団の発生においても、今までの習慣から半ば無意識的に仁美へとカース出現の定型メールを送信していたが、
その仁美の行方の知れない現状においては、彼女からの救援などは望むべくもないものだろう。

604: 2014/07/02(水) 07:23:09.17 ID:pThR+vU4o

「(やはり『外』に出てきたのは正解であったな)」

あやめを撃ち落した有翼型は、勝ち誇っていた。

「(脅威となり得るヒーロー共は、『街の中』に気を取られており、『外』の警戒はおざなりだ)」

「(多少の反抗はあれども、ヒーロー共の主力でなければ制するのは容易い)」

「(つまり、我のやりたい放題というわけだ!)」

満足に動きの取れないあやめにトドメを刺すべく、再度カース弾の発射体勢に入るが──




「そこまでだっ!!」




突如響いた声に有翼型は動きを止め、声の正体を探し始める。

605: 2014/07/02(水) 07:24:32.68 ID:pThR+vU4o


「義に殉ずるは本望と、華と散らしたこの命」

「何の因果か冥府を追われ、氏出の旅路を舞い戻る……」


「ギャース!?(何奴!?)」

あやめ「こ、このなんとも言えない口上は……もしや!?」

周囲を見渡すと、カースの出現に際し遺棄された路線バス車両の上に声の主と思しき人影が見えた。
しかし、傾きかけた陽光が逆光となり、その姿ははっきりとしない。


「ギャース!(おのれ! 何者かは知らんが邪魔立てするか!)」ゲボー

闖入者の姿を認めた有翼型がその影目掛けてカース弾を吐き出すと、人影はそれを回避するべく跳躍する。
直後、今までお立ち台にしていたバスがカース弾の直撃を受け爆発炎上した。

芝居がかった動作で飛び上がった人影は空中で一回転すると、これまた大仰な動作で着地する。
衝撃を和らげるために両手と片膝を付いた体勢からおもむろに立ち上がると、たすき掛けに背負った長物を手に取り構えた。

あやめ「あの姿は……!」

立ち上る黒煙を背にしたことで光が遮られ、その姿がはっきりと見て取れるようになる。




仁美「人の世に、仇成す異形を狩らんため……武辺者仁美! 黄泉の国よりただいま帰参!!」ババーン




あやめ「やはり……! 仁美殿!!」

あやめ「……って、ジャージ姿ー!?」ガビーン

大仰な登場に似つかわしくないえんじ色のジャージ上下に身を包んだその人物は、
まさしくあやめの追っていた少女──大武辺者(自称)、丹羽仁美その人であった。

606: 2014/07/02(水) 07:26:06.91 ID:pThR+vU4o

仁美「あやめっt……アヤカゲ! 心配かけてゴメン!」

あやめ「仁美殿! ぶ、無事だったのですね!」

仁美「うん! アタシなら大丈夫だから、アヤカゲは下がっていて!」

仁美は手傷を負ったあやめの前に躍り出ると、後退するよう呼びかける。
再会を喜び合うより前に、まずは目の前のカースの処理を優先すべきと判断してのことだ。


「(フン、これまた一人で向かってくるか……)」

「(大した自信ではないか……よかろう)」

「ギャース!(者共かかれ! ヤツから先に始末してやるのだ!)」

有翼型の指示で、周囲のカースが仁美に向かって一斉に動き出す。
正確な数は不明だが、通りを埋め尽くす程のカースの群れがたった一人の人間に襲いかかるのだ。
並の人間では泥の波に文字通り飲み込まれ、それでお終いだろう。

あやめ「っ!? 仁美殿!!」

あやめの目にもその光景がありありと浮かんだのだろう、仁美に逃亡を促すかの様に悲痛な叫びを上げる。

仁美「(どう動けば良いかが分かる……!)」

仁美「(一対多のこの状況、お師様ゼミでやったところだ!)」

だが、当の仁美はさして動じる様子も無く構えを取るのだった。


──────────────────────────────

先祖「次に教えるのは、大地を引き裂き、穿ち、削り取る一撃──『グランスクレーパー』です」

仁美「うちの一族の技には何かしらそういう大仰な前置きが付くのね……」

先祖「地面を掠めるように武器を振るうことで、飛礫やら何やらを飛ばして相対する者の気を削ぐ技です」

先祖「有り体に言えば『すなかけ』に類する目つぶし技ですね」

仁美「名前とか前置きの割に中身は狡っ辛い!」

先祖「む……『補助技とかイラネ』などと馬鹿にしてはいけませんよ」

先祖「互いの間合いに入る前に機先を制することが出来れば、有利に戦えるというものです」

──────────────────────────────


仁美「(パッと見カースの数は十体以上……まともにやりあうのは下策)」

仁美「(まずは遠距離から連中の出鼻を挫く……!)」

仁美はカースの一団に背を向けると、鍬で畑を耕すかの様な動作で斧槍を地面に突き立てる。
そして、柄を握ったままカースの方へと向き直ると、地を掘り返す軌道を描くように斧槍を正面へと運び、
丁度地面と柄が垂直となる位置で一旦その手を止める。

穂先も含めれば全長三メートルにも達しようかという長大な斧槍の、その半分までが地中に埋もれる形となった。

仁美「(大丈夫……やれる……散々特訓してきたんだから……)」

目を閉じ深呼吸を一つ、精神を研ぎ澄ませる。
数秒の間を置いた後、斧槍を握る手に全神経を集中させる。
カッと目を見開くと、目標となるカースの一団を見据え──


仁美「逆駆け地烈衝!!」


斧槍を思い切り振り抜いた。

607: 2014/07/02(水) 07:26:54.11 ID:pThR+vU4o

地面に突き刺した斧槍を振るう際には、地面の硬さが抵抗となり相応の反発力が発生するため、普通に振り回すようにはいかない。
しかし、その反発力は運動エネルギーの蓄積に利用できる──いわゆる、デコピンの原理である。
地面との抵抗により限界まで溜め込まれたエネルギーは斧槍を抜き放つ際に反動として一気に放出され、
通常の斬撃とは比べ物にならない威力を生み出すのだ。


仁美「(うん、修業の成果は出てるね!)」

地面から抜き放たれた斧槍に付随するように発生した衝撃波と、削り取られた大小のアスファルトからなる無数の弾丸が、
暴風雨の如くカースの一団を強かに打ちつけられる。

仁美「って……アレ?」

自らの"技"の出来栄えに得心の行った仁美だったが、
攻撃時に舞い上がった砂埃が晴れた後に残っていたのは、想像だにしない惨憺たる光景だった。


ほんの数瞬前までは(カースが暴れ回っていたにしては)健全な状態を保っていた街角は、
しかし仁美の放った攻撃の影響で混沌の様相を呈していた。

舗装された路面は斧槍の軌跡に沿って地割れでも起きたかの様にぱっくりと口を開け、
地中に埋設されていた水道管は破裂し、さながら噴水の様に水を吹きあげる。
同様に断線した地中送電線がバチバチとスパークを起こし火花を散らしている。

仁美「(……牽制のつもりだったんだけど……や、やり過ぎた……?)」

通りに面したショーウインドーは衝撃波のあおりを受け粉微塵に破れ、中に飾られていたマネキンは見るも無残な姿を晒している。
辺りのビルの壁面に目をやると所々が欠けており、その下には砕けた外壁材の破片が散らばっていた。
恐らく仁美の放った飛礫の一部が命中したためだろう。

仁美「(ま、まあ、カースをやっつける為だし? 人的損害が無ければ大丈夫よね!)」

当初の目標のカースはと言えば、その尽くが核を失い消滅していた。
周囲にもたらした被害に勝る効果は、一応はあったようだ。

608: 2014/07/02(水) 07:28:06.02 ID:pThR+vU4o

「ギャース!?(ぜ、全滅……? 12体の憤怒のカースが、全滅!? 三分も経たずにか!?)」

「ギャース!(ば、化け物か……!)」

カースの集団から離れ、遠巻きに様子を見ていた有翼型は、その光景を目の当たりにし狼狽していた。

「(だがしかし、こちらには翼がある! 空へと逃れれば手を出せまい!)」

「(奴には飛行能力は無いようだ、飛び道具の類も一見すると持っていない、上空は安地だ!)」

敵の様子を観察していた有翼型は空を安全地帯だと考え、羽ばたき上昇していく。
しかし、それをみすみす見逃す仁美では無かった。

仁美「空飛ぶ相手は散々対策してきたからね……」

仁美「賢しらに飛び回ったところで、アタシからは逃げられないよ!」

仁美は口角を釣り上げると、手に持った斧槍を弄ぶように二回三回と回転させる。
そして、新たな"技"を放つべく構えを取った。


「(一体何の真似を──?)」

仁美「切り裂け! 隼空刃!!」

仁美の振るう斧槍から放たれた不可視の刃が、飛び回る有翼型の片翼をもぎ取った。

「ギャース!?(な、何だと!?)」

バランスを崩した有翼型はそのまま地上へと真っ逆さまに落下していく。


仁美「(あれ、少し狙いがずれた? ……仕留め損なったか)」

その様子を眺め、しかし仁美は眉毛を八の字に曲げる。

仁美「(うーん、やっぱり新しくなったせいか、重心の取り方がどうもね)」

思いの外技が上手く決まらず、手元の新調された斧槍に視線を落としぼやくのだった。

609: 2014/07/02(水) 07:29:14.87 ID:pThR+vU4o

仁美「まあそれはそれとして……トドメと行くよ!」ダッ

有翼型の落下予測地点を見据え助走を付けると、棒高跳びの要領で地面に斧槍を突き立て跳躍する。

仁美「(ここで、槍身を撃ち出す!)」

仁美はタイミングを見計らい、博士が斧槍に追加した槍身射出機能のトリガーを引く。
すると、地面との反発力により飛び出した斧槍の柄が、仁美の身体を空中へと強く押し出した。
その軌道の先には、片翼をもがれ回避ままならない有翼型カース。


──────────────────────────────

先祖「次に教えるのは、対空攻撃技──『シャッターシェードデミルーン』です」

先祖「『虚空に閃く一筋の白刃は、さながら無明の暗夜に一時、雲間から覗く半月の如し』……とかなんとか」

仁美「相変わらずよく分からないけどなんかカッコいい!」

──────────────────────────────

仁美「(弧を描くように……身体の捻りを効かせて……スッパリと切り裂く!)」

仁美は落下中の有翼型目掛け、下方から上方へ半円を描くように、自身の身体ごと斧槍を縦に一回転させる。
その動作は、見る者に某国空軍少佐の格闘術──サマーソルトキックを想起させるものだった。

対空攻撃技で有翼型を切り裂いた仁美は高所からも難なく着地すると、残心の構えを取る。
だが、目標の有翼型は核を砕かれ、地上に落ちる前に既に消滅してしまっていた。


仁美「どこか憎めぬ敵でござった……」


この場に居た敵を殲滅した仁美は誰ともなく呟くと、傷を負い退避しているあやめの元へと駆け出すのだった。

610: 2014/07/02(水) 07:31:37.03 ID:pThR+vU4o

補足的なおまけその1


──狼型カースとの戦闘後──


松風『おい、仁美……やったのか?』

"外の空間"のカースの気配が静まったのをみて、松風は仁美に呼びかける。

だが、仁美からの反応は無い。

松風『だんまりか、何があったってんだ』

再度問いかけるも、やはり反応が無い。


松風『(どうなってやがる)』

松風『(そうだな……久しぶりに、出られるか試すか……)』

松風は丹羽の一族との契約によって、普段は一族の斧槍へと封印されている。
現世へと実体を現すためには、仁美の呼びかけに応えて出てくるほか無いのだが、
その仁美からの応答が無いため、駄目元ではあるが自力で封印を破る事を試みるのだった。

松風『(丹羽の人間に捕らえられてからしばらくは、よく出られないか試したものだったが……今となっては懐かしい話だ)』

松風はこれまでも、自らに科せられた封印を自力で解こうと幾度となく試みてきた。

魔族の中でもそれなりに勤勉だった松風は、魔術の理論にもある程度通じていた。
故に、魔法的な封印の解き方──封印のキャパシティを超える魔力を一気に解放することでそれを破る事が出来るということを知っていた。

斧槍に囚われている状態ではほんの僅かずつではあるが、外部からその身へと魔力を取り込み、
そして、ある程度の魔力が溜まった段階でそれを解放するという方法である。
しかし、何度試してもそれが成功することはただの一度も無かった。
ある時、数百年分溜め込んだ魔力を満を持して解放した時ですら失敗したのを機に、松風は自力で外へ出る事は諦めたのだったが──

松風『ハアアアァァァ!!!』

松風は斧槍の封印を解くべく、今一度自身の魔力を解放する。

松風『アアァァ…………ア、アレ?』

すると、いとも簡単に斧槍の外へとることができた。
あるいは、封印自体が機能していないとも受け取れる。


松風『(おいおい……どういうこった……なんで外に出られた?)』キョロキョロ

松風は状況を確認するべく、周囲を見渡す。
すると、そう遠くない場所で自らの主である少女が倒れ伏しているのが目に入った。
よく見ると、その身体はあちこちが切り裂かれ、地面には血の池を作っている。


松風『……仁美……お前、やられっちまったのか』

倒れている仁美を認めた松風の脳裏に、"自由"の二文字が過る。

かつて丹羽の人間に敗れ、主従の契約を結ぶ羽目になって以来、
数百年以上も望み焦がれていたその時が、ついに訪れようとしているのだ。

自らの意思で封印を解き、斧槍の外へと出られたという事は、契約者である丹羽家最後の一人が氏に絶えたか、
あるいは遠からずそうなる状態にあるということだった。


松風『(あとは簡単だ……仁美を放置してこの場を離れてしまえばいい……)』

松風『(そうすれば俺は……自由だ)』

611: 2014/07/02(水) 07:34:41.91 ID:pThR+vU4o
>>610訂正
×すると、いとも簡単に斧槍の外へとることができた。
○すると、いとも簡単に斧槍の外へと出ることができた。


松風は今一度、血だまりに倒れ伏し動かない少女を見やる。

松風『仁美……本当にくたばっちまったのか?』

語り掛けるも、変わらず少女からの返答は無い。


松風『(……丹羽の人間は、クソ忌々しい俺の宿敵だ……)』

松風の脳裏に、かつて自分を使役していた丹羽家の人間達が浮かんでは消えていく。

松風『(それが、あんな訳の分からない犬っころにやられて……それで、俺が自由になれて……)』

松風『(そんな決着で、いいのか……?)』

松風は、自らに問いかける。

松風『(いいわけねえ……納得できるわけ、ねえよなあ……!)』

その答えは簡単に出た。
魔族としての矜持を悉く打ち砕いてくれた一族が、こんなにも簡単に滅びてしまうことなど到底容認できないことだった。

望むらくは、自らの力で封印を破り、今一度魔族としての恐ろしさを丹羽の人間に知らしめてやろう──と、
そのように夢想し、囚われの屈辱を堪え忍んできたというのに。


松風『(そういや仁美のヤツ、さっき妙な事を口走ってやがった……)』

ふと松風は、狼型カースとの戦いの中での仁美の発言を思い出す。


仁美『もし"自由"になれても、もう人間界で暴れるのは止してね』


松風『(……ッ!)』

松風『(クソったれが! 最初から……そのつもりだったってか!)』

先程の仁美の発言の意図を理解した松風は、倒れたままの仁美の元へと駆け寄る。

松風『おい仁美! 俺はな!』

仁美の首根っこを咥えると、振り上げた勢いで自らの背中に持たせ掛ける。

松風『てめえ如き小娘に……憐れみをかけられるほど……』

松風『落ちぶれちゃあいねえんだよ!!』

松風が叫ぶと、その感情に呼応するかのように身体を眩い光が包み込んだ。


松風『(今一度、この姿を晒すことになろうとはな…)』

光が収まると、そこには漆黒の魔馬の姿は無かった。
松風の姿は、青白い体毛に純白のたてがみをたたえた──一見すると神々しさすら感じられるものに変わっていた。

松風『仁美! 簡単には氏なせねぇからな! 覚えとけよ!』

言うと松風は駆け出す。
仁美を助け得る存在を求めて。

612: 2014/07/02(水) 07:36:49.98 ID:pThR+vU4o

補足的なおまけその2


──有翼型を倒した後──


松風『ところで仁美よ、一体どこでその技を……?』

仁美「エ? ご先祖様に教わったんだけど」

松風『何ィ!? 何を意味不明な事言ってやがる!』

仁美「いや、あの世でちょっとね……いろいろあってね」

松風『……なんてこった……悪魔の技が受け継がれちまったというのか……』

仁美「いや、悪魔はあなたでしょうよ」

松風『そいつはな、多くの魔族にトラウマを植え付けた禁忌なんだよ!』

仁美「トラウマって……馬だけに?」ンフッ

松風『……』イラッ


松風『お前には分からんだろうな……気がついたら半身を真っ二つにされているという恐怖が』

仁美「何それ、大げさでしょ……」

松風『それでその、先祖ってのはどんなヤツだった?』

仁美「んー、外見はアタシと瓜二つだったね」

松風『お前に瓜二つ……? 知らんな』

仁美「じゃあ、松風が契約するより前の時代の人だったのかもね」


仁美「ちなみに、吸血鬼の祖? とかいうのをやっつけた人らしいよ」

松風『なんだと!?』

松風『(吸血鬼の祖って……アンセスターの事か?)』

松風『(その実力は魔王の肩書を持つ者にも匹敵するとかしないとか言われているが……まさかな)』


松風『お前、それ担がれたんだよ……人間如きがどうこうできる相手じゃねえぞ』

仁美「そうなの? 封印したヤツがそろそろ復活するからまた倒して来いって言われてるんだけど」

松風『ハァ!? 何言って……俺は知らねえぞ! やるなら一人でやんな!』

仁美「エ? ……まあ、言われなくても勝手にやるけど」

松風『……』


松風『(アンセスターを倒したってのが事実だとすると……丹羽の一族ってのは結構ヤバい相手だったのか……?)』

613: 2014/07/02(水) 07:39:54.15 ID:pThR+vU4o

※吸血鬼の祖(アンセスター)

始祖だとか真祖だとか呼ばれることもある最高位の吸血鬼。
かつて仁美の祖先が戦ったのは『夜明けを遠ざける者』とかいう二つ名で呼ばれていたこれらのうちの一体。
世界を闇で覆い、陽光を奪い去る程の魔力を持っていたという(二つ名の由来でもある)。
辛うじて封じたけれどもそろそろ復活する(あるいはもう既に復活してる)らしい。


※退魔士の技

退魔士一族である丹羽の人間が強大な力を持つ魔族に対抗するべく編み出した戦闘技術。
原理がよく分からないモノや、ただ武器を振るうだけのモノも多いが、深く気にしてはいけない。
仁美は繰り出す際に日本語に(独自の解釈で)訳した技名を叫ぶ。

先祖「なんで日本語にするんですか?」

仁美「そっちの方がカッコいいでしょ?」


※朱槍『クリムゾンブロウ』

カースとの戦いで損壊した仁美の斧槍を、龍崎博士が修復(ついでに魔改造)したもの。
出所不明の怪しい素材で大部分が構成され、同じく怪しい技術が多数搭載されている。

内部には複雑な構造や特殊な機構を多く備えているが、
ネオトーキョーの由来の高度な機械工学に基づいた設計により、相当に頑強な作りとなっている。
また斧刃は"魔"の者に特攻の神気霊銀製で、ソッチ系の相手にも強い。


※アムフィフテーレ型カース

カナヘビに羽根が生えたような形状の獣型カース。
パッと見ドラゴンぽいんだけど、よく見るとドラゴンと呼ぶにはちょっとショボい……というような印象。
アイドルヒーローやGDFの防衛線を上手い事潜り抜けて憤怒の街から出てきた。
今回あやめと仁美が対峙した個体は、コマンドカースとしての性質も併せ持っていたらしい。


※シャドウメア変異体

瀕氏の仁美を救わんとする松風が現した「もう一つの姿」。
青白く輝く体毛と純白のたてがみが眩く、人間界の伝承においては「ペイルホース」などと呼ばれていたとかいないとか……。
氏を司るだとか、氏を運ぶ魔馬だとか人々から恐れられている(いた)が、その能力は見方を変えれば氏を"遠ざける"ことも出来るということになる。
松風的には、余程のことがなければこの姿を現すことは無いらしい。


仁美の先祖が氏神に連れていかれないのは、多くの魔を狩ってきた影響で魂がかなり高位に位置しているため
母と祖母は多分もうすぐお呼ばれする

614: 2014/07/02(水) 07:42:58.89 ID:pThR+vU4o
終わりです
詰め込み過ぎでわけわからんけどキニシナイ

・仁美の「ヴァンパイアハンターの末裔」設定を落とし込みたかった
・ロマ○ガシリーズに出てくるようなケレン味溢れるダサカッコイイ技を考えてみたかった
 それと、必殺技を覚えさせれば強化された感が分かりやすいと思った

みたいな話でした

あと、あやめっち噛ませ役させちゃってゴメンね
あやめっちも強化したいね

615: 2014/07/02(水) 08:48:41.23 ID:bySkjHkSO
乙です
そしてお久しぶりです

パワーアップ回は見ててテンションが上がる
先祖がカタカナで当代が漢字という混沌ぶりに吹かざるを得なかった
吸血鬼の祖かー、もう登場しているのかそれとも今後出てくるのか…
どちらにしろ楽しみですね



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10