799: ◆BPxI0ldYJ. 2014/08/10(日) 16:38:54.32 ID:cIz7hY1f0



モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


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  響子ちゃん誕生日、投下します

800: 2014/08/10(日) 16:41:11.62 ID:cIz7hY1f0
 私は二重人格者だ。

 五十嵐響子は自らをこう評する。


 一つの人格は、逞しく冷徹な戦士の人格。

 驚異を目の前にしても臆することなく立ち向かい、甘え無く引き金を引いて任務を遂行する人格。

 その人格は、サイボーグとして目覚め、自分の名前を知らせれるよりも先に拳銃を握らされたときに、人為的に埋め込まれた兵器としての人格だ。

 もう一つの人格は、優しく軟弱な少女の人格。

 献身的なまでに甲斐甲斐しく、人のために生きているように健気な人格。

 この人格が目覚めたのは果たして何時のことであったか。もしかすればこの人格は、永い眠りの内に押し込められていた、彼女という人間の本質なのかも知れなかった。

 相反する二つの心。
 矛盾とでも呼ぶべき二つの。


 ───正直、怖かった。

 この二つが、自分に内包されているという事実が。
 銃を握れば人間性が消え失せて、任務が終われば強さが消える。都合のいいスイッチのような心は、彼女の意志とは関係なく彼女を翻弄し続けた。

 どちらがどちらなのか、或いはどちらでもないのか、どちらもそうなのか。自分という存在を処理できないのがたまらなく怖くて、魂の在処に苦悩する。

 自分が知りたかった。何が何とわからないあやふやな自分が。

 だから───
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



801: 2014/08/10(日) 16:43:06.34 ID:cIz7hY1f0



「───私って、何才なんですか?」

 ────不意にそんな事を聞いたのは、自分という存在を見定める為だったのかも知れない。

「え?」

 夜。
 冷たい風に当たりながら、隣で同じようにしていた参謀にそう投げかけると、不意を付かれたような顔をこちらに向けた。

 普段大抵は仏頂面をしている彼女のそんな顔は珍しく、酷く素っ頓狂なものに見えて、思わず失笑してしまう。

「笑ったわね?」

「はい」

「…なんでそんな事……誕生日だから?」

 五十嵐響子は───おそらく美羽と柑奈も───自らの年齢という物を知らない。
 記憶のはじめには、もう既に成長した肉体が構成されていて、そこに至るまでの過程を知らない。

 今まで気にする事の無かったそれだが、何故今更聞いたのかと聞かれたら──

「…はい」

 ───自分を知るためなのだが、そんな気取ったようなことを言うのは少し恥ずかしかった。

 少し間を置いた返事を受け取ると、「ふうん」と含めたように呟きながら、夜景へと顔を逸らす。

 二人が言葉を止めて静寂が訪れると、壁の向こう側のどんちゃん騒ぎが存在感を増した。
 主役を欠いた誕生日パーティ。
 響子が場を外してなお冷めやらぬそれの中から一際豪快な笑い声が響くと、二人同時に背後を見やり、そして肩を竦めた。

「…お酒、まだ飲んでるんでしょうか」

「…大人って、いつでも酒を飲む理由を探してるものよ」

 アンニュイな笑みを浮かべてそう語った彼女の右手にも、月光を受けて淡く光るビール缶があった。

 彼女も他ならぬ、酒を飲みたい大人の一人なのだろうと、ぼんやりと理解する。

802: 2014/08/10(日) 16:44:05.46 ID:cIz7hY1f0
「少し、心配です」

「悪酔いは、しないと思うの…だけれど…」

「…歯切れ悪いですね」

「…彼らも大人よ?」

「だから心配なんですっ」

 小さく頬を膨らませてそう言うと、負けた、とでも言うように肩を竦めて、缶ビールの口にそっと口付けをした。

「…正直なんですね」
「貴女もそのうち、ね」

 ふっと嗤いながら、見せつけるようにビール缶を揺らす様を横目に伺った響子は、酒に縁の無いように生きようと淡く誓う。

 缶の中身を少しだけ口に含んだ参謀は、響子の態度がなんだか懐かしいように思えて、私にもあんな頃があったかと思いつくと、時間の流れを残酷に思いながら何とも言えない感傷に浸った。

「…十五才」

「えっ?」

「貴女が聞いたんでしょう?…十五才よ」

「……」

803: 2014/08/10(日) 16:45:22.37 ID:cIz7hY1f0
 十五才。
 存外に若い、というのが正直なところだった。
 普通の人ならばまだ学生───それこそ、大人と呼ばれるのはまだ早いような年齢。もっと言えば、銃を握るにはあまりにも。
 ああやはり、自分はどこかおかしい存在なのだと。

 それを告げた参謀の顔は伏せられていて、その表情を読み切ることは困難だった。
 ただ、どこか憂鬱な佇まいは、何かをひどく悲しんでいるように見えて。

 ──何か言葉をかけるべき。
 そう心の奥の何かが告げている。 

 だが、肝心の言葉が見つからない。
 続く言葉を紡ごうとして紡げず、言葉を探り当てることができない。

 ただただ胸が詰まるばかりで、何も。

「……ねぇ、貴女は」

 後ろめたさの蔓延する沈黙を切ったのは、先に言葉を失った参謀。
 ひどく物憂げな相貌は、これから紡ぐ言葉の色をそのまま表しているようだった。

「…私が言ったことの意味、わかるかしら」
「貴女はまだ十五の女なのよ?…」

 そこまで言い、詰まらせたように言葉が止まる。
 重苦しい沈黙だけを残して。

 だけど何を言おうとしているのか、なんとなくわかる気がした。
 それによって参謀が苦しんでいるらしいことも、その顔を見ればそれとなく。


「……私は十五でも…」

 気づけば口が開いていた。
 あまりに自然に出たもので自分で喋った気がしなかったけれど、だからこそ続きに詰まることもなく。

804: 2014/08/10(日) 16:46:46.15 ID:cIz7hY1f0
「…普通の女の子じゃありませんから」

 なんとなく星を眺めながら、参謀に、誰よりも自分に言い聞かせるように呟く。


 普通の女の子ではないこと。
 それは、五十嵐響子が唯一、明確に理解していること。
 同時に、彼女が彼女たる所以。

 自らの二面を恐れる彼女が、それ以上に恐れることがある。

 自分を構成するどちらかが消えてしまうことだ。

 例えば強さを失ってしまえば戦うことができなくなってしまう。
 優しさを失ってしまえば笑うことができなくなってしまう。
 そのどちらもあってはならないことだ。

 だから彼女は、大きな悩みの種であるそれを否定することだけはしなかった。
 強さも優しさも、必要なものだったから。その持ちようがどれだけ歪であっても。

 苦悩を孕んで、苦しくても歪な存在であり続ける。

 普通でないことなど、自分がよくわかっていた。

「…………」

 普通でないという言葉が参謀にどう聞こえたのかはわからない

 ただ―――

「……強いわね」

 ―――と呟いた声は幾分かすっきりしているように聞こえた。

 まだ何かつっかえるものがあって、割り切れていないようにも思えたが、今はそれで十分だ。

「……………」

 次の沈黙に居心地の悪さはなかったから。

805: 2014/08/10(日) 16:48:00.45 ID:cIz7hY1f0


「…これ、貴女の誕生日祝いよ」

 そう言って不意に突き出されたのは、先ほどまで彼女が握っていた缶だった。

「十五って、言ったじゃないですか」

 視界の端に銀の輝きを視認した響子が少しだけ顔をしかめながら両腕を組み合わせて拒絶すると、参謀は何がおかしいのか失笑したようにくすりと笑った。それがなんだか小馬鹿にされているように思え、思わず「なにが可笑しいんですか」と言う声に力がこもる。

「よく見て」

 缶のラベルを見せつけるように持ち直しながら言うので、渋々というようにそれを覗きこむ。

「…りんご、サイダー」

 なんと、まぁ。

「笑うわよ、これ」
「新モノかって思ったら、…これ、とんだジョークグッズあるものね」

 確かに、パッと見ればビール缶にも…というか、あからさまなパロディしているような。
 よく確認しなった方もしなかった方もだと思わないこともないが…

「だめよ、炭酸でもこれじゃ…だから、ね」

 露骨に残念そうな顔を作りながら、ずいと寄せられる缶ジュース。
 「それじゃあ」と苦笑して今度は快く受け取った。

「乾杯」

「…乾杯」

 夜風で体を冷やしながら、夜景を前にして炭酸を飲み下す。
 炭酸に果汁っぽい甘味が目立つ、なるほど確かにリンゴジュースだ。

806: 2014/08/10(日) 16:49:07.34 ID:cIz7hY1f0
 十五才の少女、五十嵐響子は自らの年を知った。
 それが彼女の中で何を生み出すのか、今はまだわからない。
 自らを規定する助けになるか、それとも。

 すぐに答えの出るものではないだろう。
 今はまだ、彼女は自分に怯え続けて、それでも立ち向かって生きていく。

 誰にも知らせない戦いはまだ始まったばかりなのだから。












 月 日

 昼ごろの話だ。
 少し遅めの昼食を片付けていたとき、GDFのほうからコンタクトがあった。
 なんでも近々大きなプロジェクトを動かすとのことで、それに協力してほしいとの話。
 詳細は追って伝えるとのことで、今日は挨拶のようなものらしい。忙しいだろうに中々律儀だ。

 それにしても、いよいよ俺の頭脳が認められてきたて感じか。
 最近おざなりになっていたこの日記にも書くことが増えることだろう。

807: 2014/08/10(日) 16:51:22.37 ID:cIz7hY1f0
9月10日

 冗談じゃない。何が協力だ、何が契約だ。
 あんなもの、脅迫じゃないか。
 軍人のくせにビジネスマンだか詐欺師だかヤクザみたいな真似しやがって、あんな横暴許されてたまるか。
 報酬が潤沢だろうと容認できるか、人体実験などと。



 月 日

 プロジェクトが始まった。
 くそったれ、誰が日記になど書いてやるものか。
 この先正気を保てる自信がない。


 月 日

 いいニュースだ。
 計画を主導していた総司令が失踪したおかげで、プロジェクトが中止になった。
 報酬周りとか面倒ごとは増えるだろうがさしたる問題ではない。
 罰があったたんだろうよ、いい気味だ。



 月 日

 くそったれ。
 司令が交代したっていうのに、なんだって計画を続けようとする。
 そこまでしてヒーローを淘汰したいのか。多少の犠牲なんてなんでもないってのか。
 このままじゃチームの誰かが狂いだすのも時間の問題だ。

808: 2014/08/10(日) 16:52:41.86 ID:cIz7hY1f0
 月 日

 俺は預言者らしい。
 なにせカースなんて物の研究を始めようなんてやつが現れたんだからな。
 おまけに反対意見がでないときた、これは本格的に末期だぜ。

 後天的に能力者に匹敵する力を手に入れた例として、カースドヒューマンの存在は視界にちらつくものがあった。それに手を出さなかったのは、その存在を恐れていたからだ。
 そこまでして何かしらの成果を上げなきゃならないところまで来たってことでもある。

 俺たちはGDFの闇を知りすぎた。


 月 日


 研究所に能力者の傭兵が配属された。
 おそらく、カースドヒューマンの研究に対する安全策としてだろう。
 正規の隊員を配属しないあたりに、上層部のこの実験に対する認識が透けて見えるような気がする。

 皮肉なことだがカースの核はある意味では信頼のあるエネルギー源だった。
 その性質が人類に敵対するものでなければ完璧だったのだが。

 しかし、カースドヒューマンを作り出してしまったところを見ると、もう戻れないという思いが込み上げてくる。
 やり遂げるしかない、という感じだ。

 そういえば、最近日付を書いていなかったな。

809: 2014/08/10(日) 16:53:53.06 ID:cIz7hY1f0
6月30日

 冗談じゃない。成果が出たからと言って調子に乗り過ぎだ。
 二つ以上の核が存在するカースドヒューマンなどと、何が起こるかわからない。
 ハイブリッドカースドヒューマン?呪いを受け入れる体質だと?ふざけるんじゃない、研究所は遊びの部屋じゃないんだぞ…


7月5日

 くそったれ、だから止めろって言ったんだ。
 あんなモンはもうカースドヒューマンなんて呼んで良いものじゃない、バケモノだ、人の形をしたバケモノだ。
 カースの呪いに心と体を食いつぶされた、カースドヒューマンの成れの果てと言ってもいい。
 やっぱりあれには手を出すべきじゃなかったんだ。護衛の傭兵部隊も壊滅状態、遂に氏人まで出しちまった。

 どうなっちまうんだよ、俺達は…


7月20日

 あの野郎が失踪した。
 どんな手段を使ったのかは知らんが、バケモノと器材を持ってだ。
 研究中止を言い渡された直後にこの様だ。
 あいつにとってカースとはどれほどの意味を持っているって言うんだ…

810: 2014/08/10(日) 16:55:19.94 ID:cIz7hY1f0
8月5日

 もうだめだ、この研究所にマトモな人間は残っちゃいねぇ。
 上層部に結果を催促されたからと言って、またカースの力に手を出すってのかよ、何が『被検体四人全員を救うため』だ、何でリスクを考えない。
 そもそも、内一人は正真正銘のバケモノになったんだ、救えるわけが無いだろうに……

 どうせ逃げられないんだからもっと堅実にやってほしいもんだ。


 月 日

 やりやがった。いや、俺も協力したことだが
 書類を偽装してまでカースの研究を続けて、遂に成果を出しやがったんだ。奇跡だ、奇跡が起きたんだ。
 被検体がどうのこうの言ってたが、知ったこっちゃねぇ。こいつなら上層部を黙らせて、デカい報酬を受け取ってこの気味悪い研究所を後にできるんだ。
 A,Cジェネレータ。
 こいつの生み出すエネルギーなら。


 月 日







 月 日





───────………………
────…………

811: 2014/08/10(日) 16:58:07.88 ID:cIz7hY1f0
・A,Cジェネレータ

 シンデレラ1の戦闘力を裏付けする強力なエネルギー発生装置。
 特殊なエネルギー晶体(仮称:コア)を中心に、それを制御する様々な電子機器で構成される。
 特異な点として、これから発生されるエネルギーはカース由来のエネルギーにのみ反応してある反応を起こすことである。
 主にカースの泥にエネルギーを照射した際の発光現象や、その際のカースの泥の消失などが認められているが、詳しい観測が困難で、詳細は確認できていない。

 この装置から得られるエネルギーは強力ある反面、欠点も備えている。
 一つは、使用者の精神的コンディションにエネルギー発生率が左右されること。(もっとも、この点に於いては精神操作によりある程度クリアされている)
 二つは、コアの部分にあまりにもブラックボックスが多く、関係者や資料が失踪していることも併せて量産の目処が立っていないことである。

812: 2014/08/10(日) 17:00:34.66 ID:cIz7hY1f0
響子ちゃん誕生日おめ!

露骨に伏線を張っていくスタイル
千奈美に今まで響子→柑奈がタメ語だったのは互いの年齢を知らないからっていうどうでもいい設定

813: 2014/08/10(日) 18:32:31.56 ID:MH7NAb0VO
乙ですー
お互いの年齢も知らなかったのか…
なんともブラックとしか言いようがない

バケモノ…うん、ダレナンダロウナー

814: 2014/08/10(日) 21:33:55.53 ID:cIz7hY1f0
二重人格の件が説明不足過ぎたので追記

・シンデレラ1の好戦傾向

外部から好戦的な性格を植え付け、戦闘に対する恐怖を薄れさせる操作を施されている。
あくまで植え付けられたに過ぎないため、本人には本来の人格とは剥離した『好戦的なもう一人の自分』が存在しているように感じる

815: 2014/08/11(月) 01:42:08.13 ID:w6Hrz0+60
乙ー

響子ちゃん誕生日おめでとう!
なかなかブラックな……。サイボーグ達には幸せになってほしいな

そして、なんか毒にも薬にもなりそうなモノが…果たしてどうなるやら



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10